Chapter.1...                                    I WISH YOU...



「おはよう、リジー。昨夜はよく眠れた?」
「おはよう!。それが、あまり眠れなくて…」
「あらら…寝不足だと撮影、キツイわよー」


と言って彼女はクスクス笑っている。


―そうなんだけどもね…。まさか原因は君だなんて言えない。


「じゃ、ここに座って。メイクやっちゃうから」
「うん。今日も宜しく!」



彼女…は、今、撮影している【ロード・オブ・ザ・リング】のスタッフで特殊メイク担当だ。
ハリウッド映画では珍しい日本人スタッフで最初はメイク・アシスタントとしてクルーに参加した。

僕、イライジャ・ウッドは、この映画では一応、主役のフロド役を演じる俳優。
これでも子供の頃から、この世界に携わっている。

僕と彼女の出会いは、ここ、ニュージーランドへ到着して間もなく、撮影がクランクインするという日の数週間前。
撮影の準備をするために次々と何台もの撮影機材や、トレーラーが現地のスタジオの周辺に集まってきてた時だった。

僕は現地へ到着してからは撮影が出来る準備が整うまで何もする事がなかったので撮影前に現場の雰囲気を見に行った。
すると、その場には似つかわしくない小さな女の子が、重そうな箱を必死で運んでる姿が見えた。
思わず僕はかけより、「手伝うよ」と、その女の子へ言った。

すると振り向いて「ありがとう」と言ったのが、彼女…そうだった。
僕はてっきりスタッフの誰かの子供…そう少女が手伝わされてるんだと思っていたので彼女を正面から見て驚いた。
確かに体も小柄で、顔つきは、日本人特有の幼さが残る、可愛らしい感じなんだけど…。
胸元まである黒く長い髪と同様、黒くて大きな瞳が印象的で…奇麗な…そう少女といってもおかしくはないけど
何か凄く…奇麗なオーラを持った、そんな女性だった。

僕は暫く見惚れてしまったほど。
それでも彼女は僕を見て、驚いたようだ。
そりゃ、そうだよね。
この映画の主役が、いきなり荷物を運ぶのを手伝うって声をかけてきたんだから…。
彼女は大きな瞳を、ますます大きくして「イライジャ…だ」と呟いてたっけ…。

僕は、その声で我に返り彼女に微笑んで、やっぱり荷物を運ぶのを手伝ったんだけど。
彼女は僕の映画を何本か観ていてくれたようで感激してたみたいだ。
それから何度も撮影前にメイク用のトレーラーで顔を合わせるようになった。

てっきり年下だと思ってた彼女は驚いた事に僕よりも2つほど年上だったんだけども…。

彼女に任された仕事は特殊メイクだった。
それまで普通のヘアメイクをした事はあったものの、今回は特殊メイクのアーティストが足りなかった事もあり、
彼女は急遽、特殊メイクのスタッフとして技術をマスターしなければならなくなった。
僕と彼女が出会った日、が重そうに持っていた箱の中身は特殊メイク用の道具だったようで…
慣れない現場の中、初めての仕事を小さな体で必死に頑張る彼女をいつしか目で追うようになってたんだ。

彼女は驚くくらいの頑張りようで特殊メイクの技術をマスターしていった。
僕や他の出演者達も彼女の特殊メイクの練習に付き合ったりして…。
物凄く大変だった事は言うまでもない。でも彼女は泣き言も言わずにそれを成し遂げた。
そんな彼女を見ていたら…、いつからか彼女の事が凄く好きになってたよ。

彼女が他の出演者と仲良く話しているのを見ると無償に悲しくなるし、腹も立つ。
僕がこんな風に女性を好きになるなんて思っていなかったよ。
年上で、しかも文化も違う日本の女性にさ…。
でも、そんな事は関係ない。
今、ここにいる彼女が僕には一人の人間、イヤ、女性として一番輝いて見える。


「リジィ…?」

そう呼ぶ声に、イライジャは、ハっと我に返った。

「な、なに?」
「どうしたの?ボーっとしちゃって。次は左足ね!」―彼女は笑いながらイライジャの左足へとホビットの足をつけるべく手を伸ばした。

イライジャはそっと左足をあげて、が作業しやすいようにしてあげる。
頭、耳、ウィッグの作業を終えて、今は最後のホビットの足の作業に入っていた。

「ずっと立っていると疲れるよね?少し休む?」

は、気遣ってくれてか、いつもそう聞いてくる。
このホビットの足をつけるのに、一時間ほどかかってしまうし、その間、ずっと立っていなければならない。
座ると足首のところが、歪んでしまうからだ。
確かに一時間もの間、立っているのは凄く辛いけど…。
僕は作業が遅くなって、彼女が上の人に怒られるような事はしたくないから、「ううん!大丈夫。終ってから一気に休むよ」と言って微笑む。

そして、彼女もまた微笑みを返し、また作業を黙々と続けていく。
そんな些細な事ですら、僕にとっては至福の時。
彼女にメイクをして貰ってる時が、一番僕に活力を与えてくれていた。
これで二人きりだったら…―


「おい、リジー何か音楽聞かない?」

隣でイライジャの作業を待ってる、サム役のショーン・アスティンが、暇そうにコミック雑誌を読みながら声をかけてきた。

「ああ…そうだね。今日は何をかけようか?」

僕は心の中で、、暇なら外へでも散歩へ行ってくれればいいのに…なんて不謹慎な事を思いつつ、そう訊いた。

「うーん…何か元気が出るやつ?こうも早起きすると眠くなっちゃってさ」
「じゃあ、いつものでいいね」

イライジャは、そう言って上半身だけを動かし、後ろにあるテーブルの上のCDプレーヤーの再生を押した。
そこにはお気に入りのCDが三枚ほど入っている。
音楽が大好きなイライジャは、その日の気分でCDを変えられるように大量に持ってきていた。

音楽がかかり、トレーラーの中は少し賑やかな音に包まれる。
するとイライジャの足元で作業をしていたが、顔をあげてイライジャを見た。
イライジャは下から見あげてくる、の大きな瞳にドキっとしながら顔が赤くならないように、何?と言う風に首をかしげた。


「この曲、好きなの」


―そう一言言うとは優しく微笑んで、また下を向いて作業を始めた。

イライジャはドキドキするのを何とか押さえ

「ほんと?僕も、これ好きなんだ!」

と、なるべく軽く答えた。
はそれには答えず、ニコっと笑っただけでその好きだと言った曲をハミングしながら作業を進めていく。

(そうか…は、こういうのが好きなんだ…)

イライジャはの好みのジャンルをインプットしていた。

「はい!出来た!リジー、お疲れ様!座ってもいいわよ」

笑顔で、そう言うとは、そこから、すくっと立ち上がろうとした。
が、暫くしゃがんでいたので足がしびれたらしく、少しよろけてしまった。

「わ…っ」
「危ない…っ」

咄嗟にの腕を引っ張り、抱きよせる形でイライジャは彼女を支え、「だ、大丈夫?」と聞いた。
は真っ赤になり、パっとイライジャから離れて「ごめんなさい」と謝っている。

「ちょっと足がしびれちゃって…」
「僕は…全然いいよ。そうだよね、ずっと、しゃがんで作業してるんだから足もしびれるさ」

と、ドキドキしているのを見抜かれないように軽く答えた。

―あービックリした…。あんな風に彼女を抱き寄せた事なんてないから―
当たり前だが―焦っちゃったよ…。
オレ…顔、赤くなってないよな…?アスティンにバレたら何を言われるか…。

イライジャは、チラっとアスティンの方を見たが、彼はコミック雑誌に熱中している様子。
その時、甘い香りがかすかに匂ってくるのを感じた。

…香水って何を使ってるの?」
「え?香水?ああ、匂いがした?これね。イブサン・ローランの"BABY DOLL"って言うの。
柔らかい感じの匂いが好きで今一番気にいってるのよ」
「そうなんだ!いっつもの近くにくると、いい匂いがするから何かなーって思ってたんだ」

―そうか…サンローランの"BABY DOLL"か…。覚えとこう…。
それにしても、"BABY DOLL"って…何て彼女にピッタリなんだろ。

イライジャはニヤけてくるのを我慢しながら、立ちっ放しで疲れはてた足を休めるべく椅子へと腰を掛けると、
紅茶を飲みながらメイク道具を片付けているを、そっと見ていた。

すると、は何を思ったのか、フフ…っと笑いながらイライジャに

「もしかして…彼女にプレゼントでも…って考えてた?」と、思い切り勘違いな事を言い出した。
これにはイライジャも驚き、

「ち、違うよ!そんなんじゃなくて…。ただいい匂いだな…って思ってただけで…それに彼女は今、いないし…」

と、さりげなくフリーである事をアピールする。

それでもは笑いながら、

「そうなの?でも、そうか、俳優さんって出会いに困らないと思ってたけど、
こんなに忙しいから出会いがあっても大変よね。暫く会えなくなるなんて、ザラでしょう?」

と、は聞いてきた。

「…そう…かな?一度、映画がクランクインしちゃうと家にも戻れないし…それでダメになるって事もあったよ」

イライジャは、なるべく軽く答え、の反応を伺った。
でもは、少し考えこむような感じで

「そうかぁ…。一種の遠距離恋愛みたいなものね…。」

と呟くだけだった。

―うー…彼女が今、何を思ってるのか気になる…。
は!そうだ、この機会にに恋人がいるかどうか聞くチャンスだ!

イライジャは、そう気づくと思い切って、に聞くことにした。
なるべく、さりげなく言えるように、紅茶を飲みながら、視線は雑誌を見つつ、

「ね、ねぇ。そういうは、どうなの?こんな風に撮影に参加しちゃったら、だって恋人がいても会えないんじゃない?」

と言ってみる。

するとは、少し動揺したようにイライジャの方を見て顔を赤くした。

「え!わ、私?私は…いないもの。恋人なんて…。この仕事につく為にずっと勉強ばかりしてたし…
恋愛する時間なんてなかったから…」

と、そのまま、メイク道具の入った大きなボックスを持ち上げて、
「じゃ、お疲れ様!撮影、頑張ってね!」と言ってトレーラーを出て行ってしまった。

「ちょ……?!」

振り向いてを呼んだが、彼女には届かなかったようで、ドアは静かに閉じてしまった。
イライジャは、そのの態度に少し不安を覚えた。

なんだ?恋人がいないって言いながら、何で顔を赤くしたんだろう…。
単に、こういう話をするのが苦手なのかな…。
それとも好きな奴でもいるとか…?!
それも…今の話の流れからすると…もしかして…同業者?!

イライジャは今までの会話を思い出し、何となくそんな気がしてきた。

イヤ…でも彼女は映画での仕事は、これが初めてだって言ってたし、他の俳優なんかと知り合う機会もなかったはず…。
ひょっとして…この映画の出演者の中に…?!

ありえる…!!おおいに、ありえる…!!
だって今回の出演者は、若いのから渋いのまで、結構揃ってるし…!

うー誰なんだ…?!
は…どんな男が好みなんだろうか…

若くて美形?オーランドか?!…それならオレだって負けてないはず…!いや、自分で言うのも何だけどさ…。
それとも、ひょうきんなノリで周りを盛り上げる、ビリーやドム?!……は、ないか…。(!)
やっぱり年上好みで渋めのオヤジ?!ヴィゴか?!ショーン?!…う…勝てそうにない…。
まさか…オレ…なんて事はないか…ガク…。

イライジャは一人、トレーラーの中でいらぬ妄想にかき立てられていた。
イライジャのあげた、の好みの男性リスト(?)の中に、今イライジャの隣にいるアスティンが入っていなかった事すら気づかない。

その隣でコミックに熱中していたアスティンも、イライジャが一人、目をつぶり、ブツブツ言っているのに気づいて
横目で訝しげに観察していたがイライジャはそれに気づかず、いきなり髪の毛をかきむしりだし、
せっかく付けて貰ったウィッグがズレたのを見てアスティンは大笑いした。

「ブハハ!おい、リジー!何、一人で百面相してるんだ?カツラがズレたぞ」

と、そのズレたウィッグを直してあげる。

「え?ああ。ごめん、ありがとう…あ、アスティン!…なわけないな…」

と、つい妄想の続きで口に出してしまった。

「へ?何が、オレはないって?」

アスティンには、その言葉の意味は分からない。

「え?!イ、イヤ…何でもないよ、何でも!アハハ…!」

イライジャは、そう笑いながらも、また瞑想の如く目をつぶった。

明らかに、いつもよりおかしなイライジャにアスティンは首をかしげたが、まだ寝ぼけてるのか?と
あまり気にせず、コミックに視線を戻す。

その時、トレーラーのドアが開いてスタッフが「もうすぐ始まりますのでスタンバイお願いします!」と声をかける。

アスティンは、コミックを置いて立ち上がり、イライジャへ、「さ!今日も指輪を捨てる旅に出かけますか!」と言ったが、
当の指輪の持ち主は、まだ一人でブツブツ、呟いている。
そんなイライジャに、さらにアスティンは首をかしげ…

―夕べ、何か悪いもんでも食ったか?

と映画の中のサムと同じように、主人(?)を心配するのだった…。







「カー――――ット!!お疲れさん!今日はこれで終わりだ!」

PJの声が響くと、皆、一斉に「やったーお疲れ!」と声をあげる。

今日の撮影はエルロンドの会議のシーンで旅の仲間が集結していた。

「あー、疲れた!」
「何回、撮ったっけ?」
「数え切れない…」

と各自、その日のNGを数えていたりする。

イライジャは、その中を一人抜けてトレーラーまで急いで戻ろうと歩き出した。
すると後ろから「おい、リジー!何、急いでるの?」と、ドムが声をかけてくる。

「え?イヤ…早くメイク落としたいなと思って…」

と、仕方なく答えた。

特殊メイクの係りは何人かいるので、急いで戻らないと他の人に当たる可能性もある。
は出演者から、可愛がられてるので人気があり、遅くに戻ると、すでに他の人を担当しているという可能性の方が大きく、
また、それを終るまで待って、それからやって貰うという事はの仕事を増やしてしまう事になるのだ。
それは避けたかった。

―やっぱり一日の終わりはの顔を見たいしね。

「別に急いで行く必要ないじゃん。最近リジーはすぐ戻るよなー?何か用事でもあるわけ?」

ドムが不思議そうに訊いて来る。

「べ、別に何もないよ…。ただ早くリラックスしたいだけだよ…」

とイライジャは早く戻りたいのを我慢して、なるべく普通に答えた。

「ふーん。でも、ま、今行ってもエルフ達が最初だから、オレ達は少し待つかもよ?」

その言葉を聞いてリジーは驚き、回りを見渡した。
すると―
今までいたエルフ役の人達が、誰もいなくなっていた。

「あれ?!何?もうエルフは皆、戻ったの?!」
「ああ、何だか飲みに行くからって、オーリーを筆頭に大勢ですぐ行っちゃったよ…。
だから、メイクさん達も、ほぼ、うまってるんじゃないかなー?」と呑気に答えるドム。

な、なにーーー?!

リジーは目に見えて、ガックリと首をたれて溜息をついた。

「どうしたの?リジー。何だか変だよ?」ドムがそう言うと、
「ああ。今日は朝から変だ」とアスティンが近寄ってきて言った。
「そうなの?」そこへビリーも入ってくる。
「ああ、何だか一人で瞑想してブツブツ言ってるんだよ…。 ―ストレスか?」
と、アスティンはビリーとドムに言ったあと、リジーに訊いてきた。

瞑想?!一人でブツブツ?!そ、そんな事してたか?!―本人は気づいてさえいない。―

と少々ショックを受けた。

「まあ、今夜はゆっくり寝れよ、な?メイク落としたいなら、早くトレーラー戻ろう。誰か空いている人がいるかもしれない」

とアスティンは優しく言ってリジーの肩を叩いた。
アスティンは役作りのため、撮影以外の時も、イライジャの面倒を見るようにしていた。
サムは主人のフロドを守る役なので、その気持ちを少しでも理解しようとする役者魂だ。

「うん…そうだね…。」イライジャは少し重い足取りで歩き出した。
その悲しげな後姿に、アスティン、ドム、ビリーは、顔を見合わせ、本気でリジーの体を心配していたのであった…。




やっとの思いでメイク用のトレーラーの前まで来ると…

「おぉ!リジー、お疲れさん!」

と明るく声をかけてきたのは、裂け谷のエルフの長、エルロンド役のヒューゴだった。
すっかりメイクを落として人間に戻っている。

「ああ…ヒューゴ…お疲れさま。もうメイク落としたんだ。メイクは誰?」

リジーは気になっていた事を聞いてみた。

「オレはオーエンのグループだったよ」

それを聞いてリジーは瞳を輝かせる。

―オーエン?!の上司だ!じゃあ、もう終ったのかな…?!

「ね、ねえ。ヒューゴ、あの今、誰かやってる?」
「ん?ああ、今はオーランドと…リヴと…。ああ、リヴは終ったようだよ?」

そう言ってトレーラーの方へと目をやる。
そこへ人間に戻ったリヴが、すっきりした顔で近付いて来た。

「Hi!リジー。お疲れ様!今、戻ったの?他のホビット達は?」
「お疲れ。皆は少し時間潰してから…って。それにしても…エルフ族は戻るの早いよ~」
「フフフ…男性陣は、早く飲みに出たいみたいでね。ね?ヒューゴ」
「ああ、その通り!これからは大人の時間だからな。リジーは明日はボートの練習だろう?
早く寝て明日の為に力をためて置けよ、じゃ」

と、ヒューゴは自分専用のトレーラーへと歩いて行った。
それを見送りながら、リジーはリヴに、

「リヴは誰にメイク落として貰ったの?もう空いてる?」

と訊いてみる。

「私?私はグラントよ。多分…何人か残ってたし、また誰かのやってるかも・…どうして?」
「イヤ…じゃあ、あの……は?」
「え??」

とリヴは少し驚いた顔。

「うん。空いてた?メイク落としたくて…」

イライジャはさりげなく答える。

「うーん…今、はオーランドの相手してるから大変なんじゃないかしら?」
「え?!オーリー?ああ、今、オーリーのメイク落としてるのかあ…」
「もう、オーランドは、最近以外には、やってもらわないから、彼女も大変よ」

と、リヴが苦笑する。

「え!オーリーが?何で?」

リジーは普通にビックリしてしまった。

「さあ?他のメイクさんが、"やりましょうか?"って言っても、"僕はにやってもらうから大丈夫だよ"とか言っちゃって
が他の人のメイク終るのを横で健気に待ってるのよ。男性にしてもらうより、女の子にしてもらいたいんじゃない?
まあ最近では彼女が忙しい時はさすがに遠慮してるようだけど…それでも急いで戻れる時は、一番に彼女のとこに行ってるわ。
も相手するの大変よねぇ。あんなスキンシップ魔!は慣れてないからいつも真っ赤になって凄く困ってるんだもの…」

と言いながら苦笑いしている。

な、何だってぇーーー?!
オ、オーリーも、のこと…?!
イヤ…まさか、そんなはずは……!!(その根拠は?)

「リジー?どうしたの?顔色が悪いけど…」

とリヴがリジーの顔を覗き込んだ。

「え?!イヤ、何でもないよ…とにかく…行って来るよ。じゃね、リヴ。また!」

そう言うとリジーはリヴの「またね」という言葉も聞かず、慌ててのいるトレーラーへと走って行った。
その後姿をリヴは唖然と見ていたが、そっと微笑んで、「フフフ、そうかぁ、そういう事ね」と
意味深な言葉を呟き、自分のトレーラーへと歩き出した。



…オーリーのスキンシップの餌食(!)になってるってぇ?!
そんな…それだけはやめてくれ!オーリー!

イライジャは急いで、メイク用トレーラーのドアを勢いよく開けた。

「アハハ。そうなの?!おかしい!」
「もう、ほんと、まいったよー。ヴィゴが変な遊び流行らせるから!」


そこに聞こえてきたのは楽しそうなの笑い声…と憎らしい(?!)オーリーの笑い声。

「あれ?リジー、お疲れ!どうしたの?そんな急いで」

オーランドがイライジャに気づいて声をかける。
トレーラーの中では、オーランドとギムリ役のジョンがメイクを落としてもらっていた。
もちろん、オーランドには、リヴが言ったとおり、がついている。
ジョンはオーエンに落としてもらっていた。

は、今エルフのとがった耳を外しているところ。

「リジー、お疲れ様!ちょっと待っててね。こっち終ったら、リジーのもやるから」

はいつもの通り、優しく声をかけてきた。

イライジャは何とか落ち着こうと近くの空いている椅子へと座り、「うん…」と一言答える。

「えー!も一緒に行こうよ!リジーはオーエンに任せてさ!」

とオーランドは何ともひどい事を言っている。
イライジャは少しムっとしてオーランドを睨みつつ、「どこ行くのさ?」と訊いた。
それにオーランドは悪びれもせず、

「ああ、エルフの結束のために飲みに行くからさ、たまにはスタッフも一緒に…って話になって、
さっきヒューゴと一緒にを誘ってたんだ」

と嬉しそうに説明している。

「ふぅーーん。じゃあ、オレも行こうかなーーー」とリジーは少しスネたように言ってみた。

するとオーランドは満面の笑顔で「そりゃいいや!ホビット皆も誘って行こうか?!皆でパーっと!」

なんて嬉しそうに賛成している。

(はぁ…オーリーったら…素直なんだから可愛いよ…。悪いやつじゃないんだよなぁ…)

リジーは怒っているのがバカらしくなり溜息をついた。

「ね?そうしよう?も行くんだからね!」

とオーランドは、一人勝手に決めて盛り上がっている。

「え…でも…まだ他の人も残ってるんじゃあ…」とは少し遠慮がち。
するとオーエンが

「ああ、他のトレーラーでもやってるし、ここは、もう終るんだから大丈夫だよ。
オーランドのが終ったら皆で行っておいで。たまには息抜きしてきた方がいいぞ。は頑張りすぎるから」

と優しく言った。

「そうですか…?じゃあ一緒に連れて行ってもらおうかな…何だか俳優さんたちと飲むなんて緊張するけど…」

も嬉しそうに微笑む。

「大丈夫だよ!俳優って言ったって、お酒を飲めば、ただの酔っ払いだからさ!ね?ジョン」

隣で一番大変そうなメイクを落としているジョンにオーランドは声をかけた。

「ああ、その通りだ。だから緊張するより、警戒してた方がいいぞ?酔っ払って、くどいてくるアホな男が
出て来るかもしれないからな。俳優だって一皮向けば男なんだから気を付けろよ。ワッハッハ!」

などとオヤジ発言炸裂。

「大丈夫だよ!は僕がエスコートするんだから!誰も近づけないから、安心してね?」 

―と、ニコニコ笑いながらオーランドはの方へ振り向いて言った。
それにはイライジャもズッコケそうになった…。

(な、何だよ、それ…?僕がエスコートしたいよ…!と言うか今、一番危ないのは、あんただろう?!)

とイライジャは心の中で叫んでいた。
はその言葉に赤くなりながらも、

「だ、大丈夫ですから…。こんな子供っぽい私を誰もくどこうなんて人いるわけないし…」

と笑ってオーランドの金髪のウィッグを外す。

「そんな事ないよ!は、皆が可愛がってるし誰か狙ってる男がいるかもしれないからね!
特にヴィゴなんて危ないよ~~!詞なんか書いてるから甘い言葉を囁いてきたら要注意だからね!
この前なんてを見ながら"可愛いなぁー"って、しきりに言ってたし!父親ほどの歳だって気づいてないから、あの人!」

とオーランドは張り切ってひどい事を言っている。
それには真っ赤になりながらも― 「え…でも彼に誉められるなんて嬉しいわ」と言った。


「「ええーーーーー?!」」


それを聞いたイライジャとオーランドは何故か同時に椅子から立ち上がって叫んだ。
そしてお互いに顔を見合わせ、気まずそうに、また椅子へと座る。
は少々驚いてはいたが真意は分からなかったのかキョトンとしていた。

その光景をジョンはニヤニヤしながら観察していたのだが―。

フフフ…こいつら…そうか…そうだったのか!こりゃ面白くなってきたぞ~~!
こんな男ばかりのクルーで、退屈だと思っていたが、こりゃー楽しい…!

ジョンは一人、おもちゃを見つけた子供のように、それでも良からぬ事を考えてる風な顔でニヤリと笑った。
その顔は、まさにドワーフ族、ギムリのあの微笑だった…―。








「お待たせーー!」
「おう!オーランド!こっちだ!」

ヒューゴは、オーランドが入ってくるのを見ると、手をあげた。

「遅かったな。もう皆、先に始めてたぞ」
「ごめん、ごめん!急にドワーフと、ホビット衆も参加する事になってさ!皆のメイク取るの待ってたんだ」

―結局、あれからアスティン、ドム、ビリーも戻って来て、リジーともどもとオーエンにメイクを落としてもらったのだった―

「盛りあがってるかい?皆は!」

そう言ってオーランドがヒューゴの元へと歩いて来たのだが…。
その手にはしっかりとの手が繋がれている。
は恥ずかしそうに俯きながらオーランドの少し後ろをついてきていた。
そして、そのまた後ろにワクワクしたような顔をしたアスティン、ビリー、ドム、ジョン…
そして何故だかブスーっとした冴えない表情のイライジャがついてくる。

「何だ、結局、皆来たのか!」

と笑いながらも不機嫌そうなイライジャの顔を見てヒューゴも気にはなったが、まずは乾杯しようと言った。
そこで各自、好きなお酒を注文して、皆が揃ったところで、

「それでは旅の仲間と、それを支えるスタッフ、そしてエルフ、ホビット、ドワーフ、人間の友情に!カンパ――イ!」

と、グラスを高く上げ、皆は一斉にそれを飲み干した。

「ぷはーーっ!撮影後のお酒は美味しいね!」

オーランドは無邪気にの方へ声をかける。

「ほんと!疲れがとれる気がする!」

と、は笑いながら答えた。
は、そんなに強くはないので、軽いカクテルを頼んでいた。
その二人を後ろから見ていたイライジャは、ますます表情が怖くなっていった。

(もう!ほんとに何でオーリーがをエスコートしてるんだよ!しかも手なんて繋いじゃって!)

イライジャは、嫉妬の波に飲み込まれそうになり、グイっとビールをあおった。
すると、そこへ―

「おい、リジー」

ジョンが隣で、そっと声をかけてくる。

「ん?何?ジョン」
「…お前さん…彼女が好きなんだろ?」

―いきなり、ふいをつかれた質問に、イライジャは焦ってしまった。

「な!何が?!誰?!彼女って…
!」
「だから…だよ、メイクの」
と、ジョンはニヤリとイライジャを見る。

「な、な、何いってるんだよ?ぼ、僕が彼女をす、す、好きってそんなバカな!アハハ…」

と明らかに動揺しているイライジャに、ジョンは笑いながらも肩を抱き、こう言った。

「まあ、そんな誤魔化さなくてもいい。オレには全てお見通しだ。それに…オーランドもお前と同じだろう?」

その一言にイライジャは頭が痛くなった。

―や、っぱり…!!オーリーまでもが…そうだとは薄々感じていたけど…
ハッキリ聞いてしまうと、ますます気分が落ち込んでくる。

「そ、そんなの本人が言ってたのかい?」

イライジャは動揺しているのを隠しながらも訊いてみた。

「イヤ…別にオーランドは何も言わないさ。でも、あいつはどうも単純すぎてなぁ。最近の行動を見てたら、すぐ分るよ。
彼女を自分の専属メイクにしてる感があるからな。それに…今日の態度でハッキリ分かったし、リジーお前の気持ちもな」

そう言うとジョンは、またもニヤリと笑う。

「え…!そ、そ、そうなの…?」

イライジャは、顔を赤くしてジョンへと視線を向けた。

「そうだとも!あれで分からないようじゃ、ただのバカタレだ。あれじゃあ、オーエンも気づいてたかもな」
「うそだ…!オレまで単純の仲間入りかい?!」 

―そんなのイヤだ!

イライジャは少々心外と言った様子で頭を抱えた。

「ワハハ!誰だって、恋をすればその態度が知らないうちに出てくるもんだ」

―などと、珍しくまともな事を言っている。
そこへアスティンとドムがやってきた。

「リジー、楽しんでる?!

「ああ…楽しいよ…」
と、どんよりと答えるイライジャに、アスティンは、

「ほら!やっぱりおかしいよ…。ジョン、今朝からリジーの奴、少し変なんだよ」

とジョンへ訴えてくる。

「…やれやれ…こんな近くに"バカタレ"がいたとはな…」

と呟く。

「え?ジョン、何だって?」

店の中のBGMが少し賑やかなのでアスティンには、このジョンの呟きは届かなかった…。
イライジャはチラっとの方を見ると、何やら楽しそうにオーランドと話をしている。
その二人のところへ、さっきオーランドが警戒していたヴィゴがやってきた。

「おう!オーランド!」

ヴィゴはそう言うとオーランドの頭を両手で掴もうとしたが、オーランドはサっと後ろに下がり、それを逃れる。
動きが、どことなくレゴラスになっていた。訓練のたま物かもしれない。
エルフの優雅な動きは相当の訓練がいるのだ。

「また頭突きだろ?!分かってるんだから!」

とオーランドは、ベーっと舌を出している。

「ハハハ。バレたか!まあ、今日はメイクさんも来ている事だし怒られても敵わんからな、勘弁してやるよ」

と言ってウイスキーのグラスをあおった。
このヴィゴが始めた頭突きの挨拶のせいで、出演者の何人かのオデコが赤く腫れてしまい、
メイク担当者のオーエンが、注意をしていた。
オーランドも、その犠牲者の一人である。

「ほんと、ダメですよー。オデコ赤くなっちゃってメイクでも隠れない時もあるんですからね!
オーリーは色白だから、特に目立つし」

が可愛く注意をすると、ヴィゴはの方を向き、

…オーランドには気をつけろよ?こいつは、すぐ抱きついてくるからな。危なくなったら、オレのとこへ逃げておいで」

の頭を軽く撫でた。

「ちょーっとー!ヴィゴ、何言ってるんだよ!危ないのはヴィゴだろー?に触るな!」

を自分の後ろへと隠した。

「何?はお前のものじゃないだろう?自分はすぐ抱きつくクセに。お前にだけは言われたくないぞ。ちょっと頭を撫でたくらいで」

と、大人の余裕のヴィゴ。

「オレのハグは親愛のしるしだよ!ヴィゴのは、どう考えてもスケベな事考えてそうだしね!」

とオーランドも言い返す。

「何言ってるんだ。男は皆、スケベだろうが。お前だって、そうなはずだぞ?」

とニヤニヤしている。
そこに、とうとう我慢できなくなったイライジャが割り込んだ。

「ちょっと!二人とも!が困ってるだろ?いいかげん、解放してやれよ!」

確かには二人の間で、おろおろして困ったような顔をしていた。
二人が冗談を言い合ってるのか、本気なのかどうかも分からないので何と口を挟んでいいのかも分からない様子。

「あ、ごめんね、!冗談だからさ!気にしないでね!」

オーランドが慌ててに謝った。

…すまんな。こんなの撮影現場じゃ、いつものやりとりなんだよ。気にしないでくれよ」

ヴィゴもに微笑みながら言う。

「え…そうなんですか?…なら良かった!私、まだアメリカン・ジョークとか…ユーモアが分からなくて…」

と頬を赤くしながら答える。
その言葉に一斉に皆が笑った。

「アメリカン・ジョークって…!そ、そっか!ノリが違うし分からないよね!アハハハ」
「なるほど!国によってはノリが違うんだな…クックック…」

などと笑いつつも何故か感心している。
イライジャもそのの言葉が可愛くて思わずの頭を撫でて「こんな事で気にしなくていいからね」と微笑んだ。
だがはますます真っ赤になりながら、「皆さん、笑いすぎですよー…!!」と笑っている男連中に抗議をした。

イライジャは、そんな彼女や周りの皆を見て、は皆のマスコットみたいなものなんだな、と思っていた。
何だかに近付く全員に焼きもちをやいていた自分に少々呆れながらも、

でも、オーリーだけは絶対に、ライバルだ!

オーリーは素直すぎて、すぐ行動にうつす分だけ、タチが悪い…!

と心の中で、勝手にライバル宣言をし、を、どうやってオーリーのハグ地獄から助けるかと、
頭を悩ませていた…そこへ―





「Hey!Hey!リジー、飲んでるかい?!」


―リジーの胸中を知らないドム、ビリーのホビットコンビが元気に声をかけてリジーの思考を遮断する…。





こうしてリジーの切ない(?)片思いの夜は、賑やかに過ぎていった…。












Postscript


ありゃー…リジー夢のはずが、もう何が何だか分からないまま進んで行ってしまいました(汗)
一応リジーの片思いネタなんですけどねぇー(苦笑)
連載というより…シリーズで少しづつ書いていけたらいいかなぁーと思っています^^;
もしネタなくなったら消えていくかも…あうぅ…。

しかし書いてくと登場人物が増えてきちゃって何が何だか分からなくなりますね(笑)
あ、少しづつ本当のコネタを入れてあるんですけど気づきましたか?
ヴィゴの頭突きネタ、これマジですよ(笑)
何とも痛い挨拶を流行らせたものです(笑)
ほんとにオーリーはオデコが赤くなって、メイクさんが困ったそうです(笑)
全くヴィゴって大人の男の顔と子供みたいな顔の両方を持ってるお人ですわv

因みにオーリーに頭突きをした人はヴィゴじゃありません。
ヴィゴに命令されてやってしまったボディーダブル(俳優さんの代わりに体だけ映る人)の男の人ですv
その体の大きい彼に頭突きをされて、オーリーは「目の前に星が飛んで頭がクラクラしたよ」と
頭突きをされた時の顔を真似つつ、コメントしてました(笑)
可愛いですねーv

本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


【C-MOON...管理人:HANAZO】