Chapter.8....I
wish you forever.... I WISH YOU...
「え?オーリーが?!」
僕は目が飛び出るかと思う勢いで驚いた(!)
目の前のリヴは何だか俯いて溜息をついている。
「ええ…すっごく落ち込んじゃって…今は部屋で閉じこもったまま出てこないの…明日の最後の撮影…大丈夫かしら?」
僕はリヴに何か答えようとするも言葉が出なかった。
だって言える訳がない。
"そりゃ残念だったね"とか、"可愛そうだね…"なんて…
だって今の僕は少しホっとしてるのと同時に凄く不安が込み上げてきてたから―
"オーリーがに振られた"
僕は今まさに、リヴから、その事を聞かされて物凄く動揺していた。
王の帰還の撮影も残す所、一日となった今日、いきなりそんな事を聞かされて僕は頭が真っ白になってしまったんだ。
オーリーは昨日の夜、を呼び出して、どうやら自分の気持ちを伝えたらしい。
だけどの答えは…
"NO" だった。
きっとオーリーも僕と同じように、この撮影が終る頃に…と思って昨日の告白になったんだろう。
僕だって明日には告白しなくちゃ…と思ってたんだから…。
確かに僕は少しホっとしたのもあったけど、自分も同じように振られる可能性もあると言う事は分かっている。
だから今、激しく動揺しているんだと思う。
それに…
僕は休みがあると最近ではと一緒に映画を観に行く事が多くなっていた。
前に約束してから何度となく一緒に映画を観に行く。
別にデートっていうほど甘くもないけど、僕には幸せな時間だった。
今、告白をして、その"友達"という関係を壊したくはなくなっているのも事実…。
「リジー?」
リヴが僕の顔を見た。
「え…?」
「リジーは…に告白しないの?」
「………」
「リジーも…好きなんでしょ?明日で…撮影は終るし…前に話してたじゃない?その時に…って」
僕は何とか深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「うん…。そのつもりだったんだけどさ…。最近…二人で出かけるようになって、その関係を壊したくないって思ったりもしてて…」
「そんな…ずっと、そのままでいいわけ?友達のままで?」
「友達って言うのかな?だっては…僕の事を俳優として見てて…
自分はスタッフだからって間にラインを引いてるわけで…何だか…よく分からない関係なんだよね?」
「ああ…そうねぇ…。だからオーリーの事も断ったのかしら…?」
「あ…」
僕は一瞬、ほんとに怖くなってしまった。
オーリーが振られた理由…
もしそれが、ほんとに俳優とスタッフという関係だからとラインを引いてるからだったとしたら…
当然、僕だって振られるに決まってる。
「ちょ、ちょっと僕、オーリーの部屋に行って来るよ…」
「え?ちょ…リジー?!」
僕は自分の部屋を飛び出して、すぐにオーリーの部屋のチャイムを押した。
暫くするとドアの向こうで、「……誰?」 と暗いオーリーの声が聞こえてきた。
思い切り息を吸い込むと、「僕…リジーだけど…」 と言えば静かにドアが開いた。
目の前にはオーリーが普段の姿からは想像できないほどの暗い表情で立っている。
「あ、あの…」
「…入れば?」
「あ、うん…」
僕はオーリーに、そう言われて部屋の中へ入り後ろ手にドアを閉めた。
オーリーは重い足取りでソファーの方へ歩いて行くと、ゴロンと横になって溜息をついている。
僕は何となく気まずくて向かいのソファーに、ちょこんと座ると何て声をかけていいものやら考えあぐねていた。
「…聞いたの?」
その時、ふいにオーリーの方から口を開いた。
「え?」
「僕が振られたって…」
「あ…リヴ…から…」
「そう…」
「うん…」
また、そこで沈黙。
(あ~…やっぱり来なきゃ良かったかな…)
何て励ましていいか分からないし、オーリーを見てると未来の自分を見ているようで胸が痛くなる…。
それに、オーリーだって僕には励ましてなんて欲しくないだろうし…
「あ、あの…僕、やっぱ戻る…」
「リジーはさ、の事が好きだろ?」
「…え?!」
いきなり切り出されて僕は立ち上がろうとした体勢のまま固まってしまった。
「好きだろ?」
オーリーはもう一度、そう言うと寝転がったまま僕をジっと見ている。
僕はまたソファーに腰を下ろすと、ちょっと息をついて、
「うん…好きだよ」
と答えた。
オーリーは何だかホっと息を吐き出すと、「…やっぱりね」 と呟く。
「オーリィ…の事、好きだったんでしょ?」
「ああ…。そうだね…毎日メイクしてもらってるうちに…だんだんに会うのが楽しみになってる事に気づいて…
ほら、彼女ってさ?凄く恥ずかしがるだろ?俺が皆にするように抱きついたりするとさ」
「ああ…」
「それが何だか可愛くなっちゃってさ…。気付けば好きになってたよ」
「…そっか…。ま、僕も似たようなものだけどね?一生懸命に仕事を頑張る姿が健気で…気付いたらってやつ?」
僕はそう言うと少し笑って肩をすくめた。
オーリーは僕を見てちょっと微笑むと、また上を向いて、静かに話し出した。
「さ…好きな奴がいたんだ」
「…え…?」
「昨日、ハッキリ、そう言われた。 "好きな人がいる"って…」
僕はその言葉に目の前が真っ暗になってしまった。
「そ、その好きな奴って…?」
「さあ…そこまでは聞いてない。俺も頭の中、真っ白になっちゃったし…。 ――でもきっとさ…ヴィゴだろ?」
「え?!」
僕はオーリーの言葉に、心のどこかにあった不安が一気に押し寄せてくるのを感じた。
「ヴィゴ…?」
「ああ、ほら前にそうじゃないかなって、リジーだって思った時があったろ?」
「う、うん…。確かに…で、でもはそういう好きとは違うと思ってた…憧れてるとは言ってたけどさ。それに…」
そう、あの時は、"父親みたい"だからと言っていた。
だから僕も一瞬は安心したんだけど…
その後に、もしかしたら…と疑ってたのも事実だ。
は自分がスタッフだからと気にして、ヴィゴが好きなのを隠したんじゃないかって…そう思ったりした。
「あ~あ~…。ヴィゴじゃ敵わないよなあ…」
オーリーが、ボソっと呟いた。
僕も心の中で、同じ事を思ってた。
年下の僕には…きっと無理だって。
「オーリィ…明日の撮影…大丈夫?と顔合わせるだろ?」
「ああ…つらいけどさ、俺がつらいって顔してたらだって気にしちゃうから。今まで通り普通に接するよ?」
「そっか…。オーリーも大人だね?」
「何だよ、それ…。俺の方がリジーより上なんだぞ~?」
オーリーが苦笑しながら僕を見た。
僕もちょっと笑うと、「ほんと、そうだね…」 と答えた。
何だか、この日の僕とオーリーには、不思議な絆が生まれた気がしていた。
「おはよう、リジー」
「おはよう、」
僕はの変わらぬ笑顔に少しホっとした。
きっとオーリーの事は気にしているけど…それを顔には出さない。そういう子だった。
僕はいつものようににメイクをしてもらいながら、これも今日で最後なんだと思うと胸が締め付けられた。
この僅かな時間さえ、もう今日で終る。
明日は一日、こっちで休んで、次の日にはすぐに帰国が決まっていた。
ロスに戻ってからも仕事が待っている。
僕はニューヨークに引っ越す準備もあった。
だけど…その決心が今…揺らぎそうだ。
告白するなら、今日の夜か明日しかない。
もし、それも勇気が出なくて・…このまま帰国と言う事になったら…
僕がロスにいれば、何とかを誘って会おうと思えば会えるのかもしれない。
そう考えると僕は引越しするかどうか迷ってしまっていた。
「…ジー?リジー?」
「え…え?!」
急に僕の目の前に、の顔が来て驚いた。
「どうしたの?ボーっとしちゃって…。はい、メイク終ったわよ?」
はクスクスと笑いながら、隣で待っていたショーンに、「お待たせ」 と声をかけている。
僕はそっと息を吐き出し、ドキドキする胸を抑えた。
はぁ…ほんと…何だか緊張しちゃって息苦しい…。
告白するべきか…このまましないで帰国するべきか…
どうしたらいいんだろう…?
ショーンのメイクも終わり、はメイク道具を片付け始めた。
今日はオーリーも顔を出さない。
コンテナの中は妙に静かだった。
僕は何だか気まずくて、煙草に火をつけた。
「あ~今日で終わりなんて…何だか信じられないよ」
ショーンが読み終わったコミックから顔を上げると、そう呟いた。
「ほんとね?何だか…明日もまた同じように、ここに来る感じがしちゃうわ」
も笑顔でそう言いながら片付けも終ったのか、紅茶を飲んでいる。
僕は思い切ってに声をかけてみた。
「あの・…はさ…。ロスに戻ったら、また何か映画の仕事…するの?」
「え?あ、そうね…。まだ何に参加するのかは分からないけど…」
「そ、そう…」
「リジーは?」
「え?僕?僕は…何本か映画が決まってて…」
「そう。忙しいんだね?」
はそう言うとニッコリ微笑んで、「頑張ってね?」 と言ってくれた。
いつもの僕なら、それで幸せな気分になってるだろけど…今日ばかりは何だか胸が痛かった。
その"頑張ってね"…の言葉が…"さよなら"って言われたような気がして…
「カーット!!!はい、今のでイライジャ、ショーンのシーンは全て終了だ!」
僕はその声が聞こえて来て思い切り、その場に座り込んで息を吐き出した。
(やっと…やっと終ったんだ…長い長い撮影が…)
僕は達成感と少しの寂しさを感じていた。
「よう!お疲れ!リジー」
「あ…お疲れ、ショーン!」
ショーンも達成感を感じているのか、清清しい笑顔で僕の肩を叩いた。
「やっと…終ったなぁ…指輪を捨てる旅も…」
「うん…ほんとだね。長かったなぁ…」
「ああ」
そこへスタッフが走って来て大きな花束を渡してくれた。
「お疲れさん!!ほんと、よく頑張った、二人とも!」
「あ、ありがとう御座います!」
「ありがとう御座います!」
「明日の打ち上げでも挨拶してもらうけど、今もちょっと軽く挨拶してもらおうか?」
「え?」
「じゃ、まずはリジー!」
スタッフの人がそう言うと周りのスタッフも一斉に拍手をし始める。
僕は何だか胸がいっぱいで大きく息をついた。
「あ、あの…この作品は僕にとっても大きな挑戦でした。
それを乗り越えられたのも素敵な共演者とスタッフの皆さんのおかげだと心から思っています。
本当に皆さん、ありがとう御座いました!そしてお疲れ様でした!」
僕がそう言うと大きな拍手が起きた。
次にショーンが挨拶して、最後に皆とハグしあうと、その場は解散となった。
僕らはそのままホテルへと戻ってメイクを落とすべくコンテナの方へと行き、扉を開けると中が真っ暗で驚いた。
「あれ…まだ誰も来てないのかな…?連絡きてるはずなんだけど…」
僕がそう呟いた瞬間、明かりがパっとついてクラッカーが鳴った。 ―パンパーン!!!
「ぅぅわ!!」
「おわっ!」
僕とショーンはビックリして外に後ずさった弾みで後ろへ転んでしまった。
「「ぃたたた…っ」」
「だ、大丈夫?!」
その声に僕が顔を上げると、そこには心配そうに手を出しているがいた。
「あ……。 今のは…?」
「ごめんなさい、私とオーエンでリジー達が戻って来たら脅かそうかって…あの…撮影最後のお祝いのつもりだったんだけど…」
「ああ、何だ。じゃあ、充分驚かせて頂きました!」
と僕がおどけて笑うと、も吹きだした。
そして僕の手を引っ張って立たせてくれる。
「長い間…お疲れ様でした!」
「ありがとう…」
僕はちょっと手を繋いだままだったのとの優しい笑顔で顔が赤くなりそうだった。
「ぅっん!っん!」
後ろで咳払いが聞こえて僕とがそっちを見るとショーンが目を細くして、
「そこ!俺を無視して見つめあうな!」
僕はショーンの、その言葉に一瞬で顔が熱くなるのが分かって、
「バ…!バカじゃないの!見つめあってなんていないよ!」
と慌てての手を離した。
「何言ってるんだぃ。微笑みあってたクセに…!」
ショーンは何だか今度はニヤニヤしながら僕を見た。
そのせいで顔が赤くなってしまったが、それはも同じで、
「ショーンったら…変なこと言わないで…っ」
と言ってコンテナの中に入ってしまった。
僕も慌てて後を追う。
するとオーエンが笑いながら、
「おう!驚かせて悪かったな!お疲れ様、リジー!」
と言って僕の肩をパンと叩いてきた。
「あ、オーエン…ありがとう!今までお世話になりました!」
「アハハ!まだ終わりじゃないぞ?最後の仕事が待ってるからな!
ほれ、早くにとってもらえよ。俺はショーンのやるから」
オーエンは僕の気持ちを知ってるからか気を利かせたようだ。
「はい、リジー。座って?」
が笑顔で僕に椅子を向けてくれる。
こうして貰うのも、これで最後なんだなぁ…と思うと本当に寂しくなった。
僕が椅子に座ると鏡越しに、と目が合った。
彼女が、いつもの様に優しく微笑む。
僕は何だか上手く笑う事が出来なかった。
そうだ…には…好きな人がいるんだ。
今日と明日…僕には、二日の猶予しかない。
(告白するべきか…しないで、このままの関係を続けるべきか…)
僕はに最後のメイクをとってもらいながら、その事ばかりが頭の中をめぐっていた――
「何を迷ってるのさ!もう時間がないよ?」
オーリーが、ぷりぷりのクレイフィッシュを頬張りながら僕を見て言った。
「そうよ?何を迷う必要があるの?」
リヴもワイン片手に僕を見ている。
ビりーもドムも、ヴィゴもヘンリーも…
今は皆で夕飯を食べに、オークランド・ダウンタウンから車で5分ほどのシーフードレストラン"ミカノ"に来ていた。
急にオーリーがホテルの僕の部屋に来て、
「今から皆で食事に行くんだ!リジーも行こう!」
と無理やり連れてこられた。
撮影が終ったからか、あるグループごとに分かれてスタッフや出演者達は、それぞれ打ち上げもかねた食事に出かけているようだ。
オーリーも、それでなのか何なのか皆を誘いまくって今に至る。
オーリーは元気良く料理を平らげている。
僕にはヤケ食いにしか見えないんだけど…
「なあ、リジー。何を迷ってるんだ?」
ヴィゴが僕を見ながらワインを飲み干した。
僕はボトルを持ってヴィゴのグラスへワインを注ぐとちょっと息を吐き出し彼を見る。
「…迷うよ…。だって断られるって思うとさ…。今のままでいたいと言うか…」
「どうして断られるなんて思うんだ?」
「それは…」
僕はヴィゴの言葉に"はヴィゴの事が好きだから"と言いそうになった。
オーリーも何だか僕の方をチラっと見ている。
「には…好きな人がいるんだってさ…っ。だから振られるのは目に見えてるんだよ」
「好きな人…?」
「え?、好きな人がいるの?」
ヴィゴとリヴは驚いて顔を見合わせている。
そこに、その場に相応しくない声が響いた。
「あ、それきっと僕の事だね?」
ヘンリーが嬉しそうに、ヴィゴに話し掛けて僕はずっこけそうになった(!)
―因みにオーリーはずっこけてたけど―
「あのなぁ。チビスケ!が好きなのは、もっと大人の男なんだよぉ~?」
よせばいいのに、オーランドが、からかうようにヘンリーの頭を、わしゃわしゃと撫でながら、そう言った。
その言葉にヘンリーの怒りのスイッチが、カチっと入った音が聞こえた…ような気がした。
「うっさいよ!この"振られ虫"!だから僕が言っただろ?エロフには、は似合わないってさ!」
「ぐあっ!このチビスケ!人の傷を抉るような、こざかしい真似を・…!!!」
いや、自分で墓穴掘ったんだろ…?(!)と僕は心の中で思った。
きっと他の皆も同じ事を思ったんだろう。
かすかに首を振っている。
「僕とダディのに手を出そうとするからだ!」
「なにぉう?!手なんか出してないぞ?!愛を告白しただけだ!!」
「へぇー。愛ねぇ?でもには軽~く、お断りされたんだろ?気の毒にね!へん!振~ら~れ~虫~!!」
「きぃーーー!ムカつくガキンチョめぇーーーえ!!」
「あ、あのさ…。今日くらいは皆で仲良く食事しようよ…ね?」
ビりーが恐る恐る口を挟む。
ドムもヴィゴをつついて、何とかしろよと言っているようだ。
ヴィゴとリヴは肩をすくめて溜息…
ああ、因みに、ヴィゴの恋人のジーンは仕事があるとかで二三日前に帰国したから今は居ないよ。
僕は今夜ばかりは静かに食事をしたかった。
色々と考えたかったんだ。
の事を。
「リジー!」
いきなり自分の名前を呼ばれて驚いた。
「な、何だい?ヘンリー」
僕を呼んだヘンリーは、ホッペをオーリーに引っ張られているし、ヘンリーも負けずにオーリーのホッペを引っ張りながら、
僕を見て、
「ひゃやくに、こきゅはきゅしろひょ!エロフュにゃんかにまへるにゃ!」
「…………」
ホッペをぐいぐい引っ張られてるからか、何を言ってるか聞き取りにくかったけど、
言ってる事が分かった時、僕は驚いた。
「え…?ヘンリー、僕がに告白しても…いいの?」
するとヘンリーがオーリーの手をひきはがし、僕を見た。
「痛いな!離せよ、振られ虫! ――リジーならいいよ?僕はリジーは紳士だし好きだもん」
と言ってニッコリと微笑んだ。
それには周りの皆も驚いた顔。
でも一番、驚いた顔をして、すぐに真っ赤になって怒り出したのはヘンリーの永遠のライバル(?)オーリーだった。
「な…何でリジーは良くて俺はダメなんだよ、このチビ!!」
「エロフは紳士じゃないだろぉう?!すーぐの嫌がる事ばっかしてさ!」
「嫌がってなんか…!! ――やっぱり…嫌がってたのかなぁ…」
あ…マズイ…と僕は思った。
ただでさえ傷心なのに、今の言葉で完璧にノックアウトをくらったようだ。
「あ、あの…さ。オーリーも、そんな子供の言う事に、いちいち耳なんか貸さなくても…ね?」
ドムもオーリーの肩を抱きながら慰め出した。
「はぁ…。俺、振られたことないし…こんな胸が痛いなんて…どうやったら治るんだろ…」
(…ぐ…自慢かよ!)
と皆は一斉に心の中で突っ込んだような顔をしてオーリーを見た。
「ばっかじゃないの?振られて人は大人になるんだよ?まだまだ甘ちゃんだったんだね?
それじゃあ振られるよ!これでエロフも大人の仲間入りだね?」
ヘンリーがケラケラと笑いながら、オーリーの傷口に荒塩を塗り込んだ…。
この時のオーリーの顔ったら…日本で見たハニワとかいう置物みたいになって、
あげく塩をかけられたナメクジ(!)の如く、見る見るうちに溶けていくように、シュンと小さくなってしまった。
この時ばかりは、オーリーに同情した。
皆でホテルへと戻る途中、僕はリヴと並んで歩きながらの事を考えていた。
もう…明日しかないんだ。
「ねぇ、リジー」
「ん?」
「明日の打ち上げの後にでも…に気持ちを伝えれば?」
「……」
僕も同じ事を今、考えてた所だ。
「…うん。そう…しようかと悩んでるとこ・…」
するとリヴが足をとめて僕を見た。
「怖いのは分るけど…ここで言わないと後悔するんじゃないの?」
「リヴ…」
「も…きっと考える所はあるんだろうけど…もう撮影は終ったんだし…
スタッフと俳優という関係じゃなくなるわ?」
リヴに、そう言われて僕は、ハっとした。
そうか…。
もう…俳優とスタッフという関係も…終るんだ。
「そうだ…ね…」
「だから…気にしないで伝えるだけ伝えてみたら?」
僕は何も答えなかった。
リヴも、それ以上何も言わなかった。
この時の僕は、振られるのが怖いってだけの、ただの臆病者になっていたんだ…。
とうとうニュージーランド最後の日だ。
僕はこの日、早くから目が覚めて、ぷらぷらとオークランドの街を散歩してきた。
何度も行ったレストランや、ショッピングセンター、そしてと一緒に映画を観に来た映画館…
どこも思い出がいっぱいで、僕はそれらを見て歩いては胸が痛くなった。
こんな長い間、一つの国にロケで滞在した事はなかったから、知らない間に思い出が沢山出来ていて、
明日、本当にロスに帰るなんて信じられない気がしていた。
ホテルの近くまで来ると、後ろから肩をポンと叩かれ振り向いた。
「…?!」
「リジー、どこに行ってたの?」
そこには、いつもと変わらぬ笑顔のが立っていた。
僕は顔が引きつりながらも何とか笑顔を作る。
「あ…あの…ちょっと最後だし、と思って近所を散歩してきたんだ…」
「そうなの?私もよ?何だか明日帰るのが信じられなくて…」
も少し寂しげに微笑む。
僕は、ああ…も同じ気持ちなんだ…と思うと少し嬉しくなった。
何となく二人で歩き出した。
「今夜の打ち上げは…ほんとに皆と集まる最後のパーティね?」
「え?ああ…そう…だね?」
「寂しいなぁ…」
は、ちょっと溜息をついている。
ほんと…寂しそうだな…ってば。
ヴィゴと会えなくなるからかな…?
そう言えば…はヴィゴに気持ちを伝えないんだろうか?
まあ確かに恋人がいるんだし言いづらいだろうけど…
そんな話をしていたらホテルへとついてしまった。
僕とはエレベーターに乗り込むと何となく無言になって気まずい。
それでも僕は何とか明るく、
「あ、今夜は…大いに楽しもうね?」 と言ってみた。
「あ、うん。そうね?最後なんだし…」
も少し微笑むと、ちょうどの部屋の階について扉が開く。
「じゃ…後で…」
「うん。後でね!」
僕は笑顔でに手を振ると、扉が静かに閉まった。
「はぁああ…」
胸がいたい。
ズキズキズキズキ…
の、"最後"という言葉までが胸にグサグサっと刺さるよ…
僕は自分の部屋へ戻ると明日の出発の為の荷造りを済ませた。
知らず荷物も来た時より増えている。
そして…何冊かの映画のパンフレット…
これはと一緒に行った映画のものだ。
10冊以上もある。
僕はこんなにと二人の時間があったと言うのに何も出来なかった。
いや…この時は一緒にいられるだけでいいと思ってた。
でも…こうして帰る日が近付くと、何をやってたんだという気持ちになる。
もう…今夜しかない。
僕の頭の中に、その言葉が浮かんでは消えた…。
「Hey!リジー!」
「ああ、オーリー」
元気よく僕の肩を叩いてオーリーが隣を歩いて来た。
すでに打ち上げ会場となるホテルの広間の前。
「挨拶の言葉、何か考えた?」
「え?ああ…まあ…何とか」
「そっかぁ~。俺も考えたんだけどさ、その場で思いついた事を話そうと思って何も決めてないんだ」
そう言うとオーリーは、いつもの様に笑っている。
僕は、会場の中に入ると、そんなオーリーを見て首をかしげた。
「オーリィ…元気だね?」
「そう?いつも通りだろ?」
「あ、いや…それはそうなんだけどさ…」
「何?もっと暗い顔しろって?」
オーリーはニヤリと笑って僕を見た。
「そ、そんなんじゃないよ」
「俺が暗い顔してたら、が気にするだろぅ?普段どおりの俺で最後は別れたいんだよ」
オーリーの言葉に、僕はちょっと感動してしまった。
「オーリィ…ほんとは大人だよね?凄く…」
「え?そうかなぁ?好きな子に嫌な思いなんて、誰もさせたくないだろ?」
「うん、ほんとだ」
僕がそう答えると、オーリーは僕の頭を軽く撫でた。
今夜のパーティーは立食形式のようだ。
何だかテーブルの上に料理やら飲み物が大量に用意されている。
すでに出演者やスタッフが集まって来ていた。
「おい、二人とも!」
「あ、ビリー、ドム」
二人が僕らのほうに歩いて来た。
「あれ?ショーンは?」
僕は姿の見えないショーンを探した。
「ああ、ショーンは奥さんと一緒だと思うよ?」
「あ、そっか。一昨日から来てるんだったな」
その時、がオーエンと会場に入ってくるのが見えた。
それを見て素早く動いたのは何とオーリーだった。
「~~!お疲れ様~~!」
「オ、オーリー?」
オーリーは、そう言うと、前と同じようにに思い切り抱きついた(!)
「ちょ、ちょっと、オーリィ…皆が見てるってば…っ」
「いいんだって!放っておけば!」
いつもの調子で答えるオーリーに、皆もしばし唖然としつつ、僕も前の様に、
「おい、オーリー!離せよ!、困ってるだろ?」
と声をかけた。
普段どおりのオーリーに、同じように注意してやりたかった。
すると、そこに聞きなれた(?)音が聞こえてきた。
ドカッ!!
「ぃだっ!!」
「を離せ!バカエロフ!!」
オーリーの足を蹴っ飛ばしたのは…やっぱりヘンリーだった。
「うわ、チビスケ、またお前か!」
「まだ諦めてないのか!しつこい男は嫌われるんだぞ?!」
「うるさい!最後のお別れをしてるんだろ?黙ってろよ、チビスケ!!」
「最後くらい紳士になれないのかよ!」
ヴィゴは呆れ顔で見つつ、止めようとしない。
「まあ…うるさいのも…今夜限りだ」
ヴィゴはそう言って僕にウインクをした。
そこに照明が落とされ会場が薄暗くなる。
監督と助監督が一番前のマイクの前に立つのが見えた。
「あ、あーあー…。え~っと…ゴホン!どうやら、皆が集まったようなので、まずは私から挨拶をさせてもらおう…」
PJも少し緊張しているのか、汗を拭きながら話し始めた。
僕は、その話を聞きながらも、少し後ろで、それを聞いているの方を見てみた。
の真剣な顔に、僕は少し胸が苦しくなる。
(ほんとに…今夜が最後なんだ…それでいいのか?俺…)
ボーっとそんな事を考えていたからか、自分の名前を呼ばれていることに気付かなかった。
いきなりオーリーに肩を叩かれ、ハっとする。
「な、何?」
「リジーの挨拶だって!ほら、前に出て!」
「え?え?挨拶?」
僕は慌てて周りを見ると皆が一斉に僕の方を見てニコニコとしている。
「おい、リジー!主役のお前さんの挨拶だぞ?」
PJが笑いながら手招きしていて、僕は急いで監督のところへ走って行った。
「す、すみません…。 ――え~…コホン…
えっと…あの…フロド役の…イライジャです…」
僕がそう言うと会場のあちこちから、「知ってるぞぉ~!」 と声がかかる。
僕もちょっと笑いながら、言葉を続けた。
「この映画は僕にとって生涯忘れられない作品となりました。こんなに長い間、ロケに出ていたのも初めてで、
最初は戸惑う事もありました。でも何とか頑張ってこれたのは一緒に頑張ってくれる仲間がいたからです。
スタッフや共演者の皆には、何と言えば、この今の気持ちが伝わるのか…上手くいえないですけど。
僕は、この映画に参加する事が出来て…本当に幸せです…
素晴らしい家族が増えた気分で…撮影は終ったけど…これからも、どこかで、またいつか一緒に仕事がしたいと思っています。
本当に皆に会えて…良かっ…た…」
僕はそこまで言うと涙で視界が曇った。
隣で聞いていたPJが優しく僕の肩を抱いてくれる。
僕は涙をそっと拭いて顔を上げた。
その時、が泣いてるのが見えて僕は一瞬、言葉を失った。
いや、だけじゃなく、傍にいたリヴもミランダも泣いていたんだけど。
だけは、涙を拭いて、こっそりと会場を出て行ったのが見えたから。
僕は慌てて、「本当に…皆さん、お疲れさまでした!」 と言葉を締めくくって、元いた場所に戻った。
一斉に拍手が起こり、そして、それが納まると次に、サム役のショーンがマイクの前に行くのが見えた。
僕は皆がショーンの方に気をとられている隙にそーっと出口の方へ行って会場を抜け出した。
廊下に出ると周りを見渡すも、の姿がない。
(どこに行ったんだろう?)
どこを探せばいいものやら困りつつも廊下を歩いて行った。
すると飲み物を運んで来たウエイターが見えて、僕はその人に声をかけてみた。
「あの…すみません」
「はい。何でございましょう?」
「…日本人の女の子…見かけませんでしたか?」
「日本人……。ああ、たった今、ロビーでお見かけしましたが…」
「え?!ロビー?!一階のですか?」
「はい。多分…外に出て行かれたかと…」
僕はそれを聞いて、「ありがとうございます!」 と叫びながら走り出していた。
外…外に出て行ったって…?
どこに行ったんだ?
僕は不安になって、急いで一階に下りるためエレベーターへ飛び込んだ。
一般客も乗っていて、僕の勢いに驚いた顔をしているが、そんなものは気にならなかった。
エレベーターの鈍さにイライラしつつもロビーへつくと僕は、また勢いよく飛び出した。
そしてホテル入り口の方まで走り抜けると、外に出て辺りを見渡してみる。
外はすでに薄暗く、人通りも多かった。
今、いるホテルの目の前はワイテマタ湾があり、すぐ傍に港がある。
僕は、もしかして…と思い、キースストリートを渡ると、フェリー乗り場の方まで走って行った。
凄い勢いで走っているからか、すれ違う人が皆、驚いた顔で僕を見ていく。
確かにスーツ姿で走っているんだから目立つんだろう。
それに今の僕はサングラスもしてなければ帽子もかぶっていなかった。
僕の顔を見て驚いてる人は、きっと僕が、"イライジャウッド"だって気づいた人達だろう。
それでも、そんな事はどうでも良かった。
今はが、どうして一人、外に出て行ったのかが気になったし心配だった。
僕はフェリー乗り場をくまなく探してみたが、の姿はなく仕方なしに、
もと来た道を戻って、ホテルを挟んで、今度は反対側の港の方へと走って行く。
すると前に、にバレンタインデーのプレゼントを買いに来た、クイーンエリザベスⅡ世スクエアが見えてきた。
ああ…あそこ…懐かしいな…
あの頃は…に告白しようと毎日頑張っていたっけ…。
いっつもオーリーに邪魔されてたんだけどさ…
今では、いい思い出だなぁ…
僕はそんな事を思い出しつつ、港へとやってきた。
遠くにフェリーが海の上を走って行くのが見える。
きっと、さっき止まっていたフェリーだろう。
僕は、だだっ広い港を、ゆっくりと歩いて行った。
思い切り走ったから息が苦しくて一度思い切り深呼吸をした。
「はぁあ…くるし…」
僕は膝に両手をついて一度頭を下げると、ゆっくりと顔を上げた。
そして倉庫らしい建物を曲り海の見える場所まで来て足を止めた。
「…!!」
僕は港の端へ腰をかけてるの姿が見えた途端に、また走り出していた。
息が苦しいとか、そんな事はどうでも良かった。
「リジー?!」
は僕の声に驚いた顔で振り向く。
僕はのところまで走って行くと思い切り彼女を抱きしめた。
「…どこに行ったかと思った…!」
「え…あの…リジー?」
僕は腕の中にのぬくもりを感じて心の底から、ホっとした。
そして慌ててを放した。
「あ、ご、ごめん…!つい…心配で…」
は、まだ驚いたような顔で僕を見ている。
「あ…あの…ごめんなさい…。ちょっと色んな事を思い出したら、あの場にいれなくなっちゃって…
息苦しくなったから外の空気を吸おうと一旦、外に出たら海の香りがしたから…つい足がここに向いちゃったの…」
も何だか、しどろもどろになりながらも必死に僕に説明してくれた。
「何だ…そっか…。泣いてたからさ…そのまま出て行ったし、急に心配になっちゃって…」
僕はちょっと恥ずかしくなって頭をかいた。
はそれでも嬉しそうに微笑んで、
「…ありがとう。リジーは、いっつも心配してくれるのね?」
と言ってくれた。
「あ、当たり前だろ?友達なんだから…さ…」
「リジィ…」
って僕は何を言ってるんだ…!
ここで…どうして、"君が好きだから心配するんだ"って言えないだよ…っ
僕はに背を向けて海の波が揺れているのを見ながら溜息をついた。
「リジー?どうしたの?」
の声が背後から聞こえる。
僕は胸の鼓動がうるさくてに聞こえたらどうしようと思いつつ、ゆっくり振り向いた。
「リジーったら…どうしたの?何だか顔が怖い…」
はクスクス笑いながら僕を見た。
僕は顔が怖いと言われて、慌てて笑顔を作るも、ちょっとやっぱり引きつってしまう。
「リジー?もう戻らないと…あなたは主役なんだから…」
そう言われ、彼女が歩き出そうとした時、思わず腕を掴んでしまった。
「リジー?」
「あ、あのさ…。もう少し…ここにいない?パーティー、まだ始まったばかりだしさ…」
「でも…他の皆も心配するわよ?」
「大丈夫だよ…。子供じゃないんだし…。それに…ここ凄く眺めが奇麗で気に入っちゃったよ」
僕はそう言うと海の先に見える遠くの島のキラキラした明かりを見た。
もちょっと微笑むと僕の隣で、同じ明かりを見ながら、
「ほんと…奇麗ね?」 と呟く。
僕はそんなの横顔をチラっと見て、思いきって切り出した。
「あの…さ…?」
「え?」
「…好きな人がいるって?」
僕の質問にが息を呑んだのが分かる。
「リジィ…」
「あ、あの…オーリーに聞いたんだ…」
そう言うとは少し俯いてしまった。
(ああ…やっぱ言うべきじゃなかったかな…)
と僕は少し後悔したけど、言ってしまったものはどうしようもない。
「あ、あの…ごめん…。変なこと聞いて…」
「ううん、いいの。 いるわ?好きな人」
「え?!」
僕はの口から改めて、その事を聞いて胸が凄く痛くなった。
き、聞かなけりゃ良かった…
オーリー、よく、この痛みに耐えられたな…などと変なとこで感心した。
「そ、そうなんだ…。へぇ…告白…とか…しないの?」
僕はなるべく、さりげなく聞いたつもりだったが、きっと動揺が言葉に現れていたと思う。
は僕を見上げると、ちょっと悲しそうな顔で、「しない…かな?」 と呟いた。
「え…ど、どうして?」
聞きたくないのに、つい口から出てしまう。
「歳も気になるし……私と彼の間には…大きな壁があるもの…」
(ああ…やっぱり、そうだ…ヴィゴのことだ…)
そうは思っても、聞いてしまう。
「壁って…どんな?」
「……立場の違いと言うか…不釣合いのような気がして」
「…。そんな…そんな事はないよ?!何で、そんな事気にするのさ?」
思わず、そんな事を口走ってしまった。
も驚いた顔で、でもすぐに俯く。
「どうしてって…。だって気になるんだもの…。私は…平凡なただのメイク係りで…彼はその…」
「俳優だから?」
「え?!」
が顔を赤くして僕を見る。
「な、なんで…?」
「それは…見てれば分かるよ…」
「そ、そうなの?!やだ…」
は頬を手で抑えると赤くなった頬を隠した。
その仕草が可愛くて、でもそれが僕に向けられたものじゃなく…ヴィゴの事を想っての…そう思うと胸が痛む。
「あのさ、そんな事気にせず…気持ちだけでも伝えたら?後悔するよ?今言わないと…」
「で、でも…」
「もう会えなくなってもいいの?」
僕の言葉にも言葉を詰まらせる。
「そ、それは…」
「だったら…。勇気を出してさ?最後に気持ちを伝えてみなよ」
僕はそう言いながら何で僕はの恋を応援してるんだ?と空しくなるも、やっぱりには幸せになって欲しいと思った。
黙ったまま海を見つめているを見ながら僕は無理に笑顔を作ると言いたくはなかった言葉をに言った。
「あのさ…!僕が協力するからさ?」
それにはも驚いて僕を見上げた。
「え?!きょ、協力って…」
「だから…僕が、その相手と二人きりにしてあげるよ」
「………」
するとは急に僕に背を向けてしまった。
「?どうしても…出来ない?」
「………」
は黙ったまま。
僕はどうしたものかとの肩に手をかけて自分の方へ振り向かせた。
「、どうした……」
そこで言葉が途切れた。
だって…
が静かに涙を流していたから……
「…どうした…の?僕何か…」
「リジーに…協力なんて……無理よ…」
が涙を拭きもしないで小さく呟いた。
「え?どうして…?だってさ……」
「無理なの…っ」
は凄く悲しそうな顔で、そう言うと歩いて行こうとする。
「ちょ…待ってよ!!」
僕は慌てての後を追って彼女の腕を掴んだ。
すると急にが振り向いたかと思うと、僕に抱きついてきて僕は頭が真っ白になり思考回路もぶっ飛んだ。
「バカ…何にも…分かってないクセに…」
「え…?」
僕の耳に、そう呟いたの言葉だけが入って来て、条件反射なのか勝手に言葉が口から出たという感じだった。
暫くの間、僕はに抱きつかれたまま固まっていたけど、少しづつ冷静になってくるとの肩が細かく震えてるのに気付いた。
それが凄く愛しくて彼女の背中に、そっと腕をまわして優しく抱きしめた。
はピクっと動いたけど、そのまま僕の胸に顔を埋めてくる。
僕は何が何だか分からなかったけど今だけは、が泣きやむまで、このまま彼女を抱きしめていたかった。
すると、ゆっくりが顔を上げた。
大きな黒い瞳で僕を見つめている。
の頬が涙で濡れていて僕は腕を放すと、指で彼女の涙を拭いた。
「あの……何で…僕が協力するのが…無理なの? それに…何にも分かってないって…」
僕がそこまで言うと、は僕から急に離れた。
「あの…ごめんなさい…抱きついたりして…」
「え?あ、そんなのは…」
「でも…リジーが協力するのは無理よ、だって私の好きな人は…」
はそこまで言うと言葉を切った。
僕はその言葉の意味を理解するのに少し時間がかかる。
そして理解した時、僕の心臓がドックンと大きな音を立てて鼓動も早く打ち出した。
「あ、あの…それって…」
に声をかけるも彼女は顔が真っ赤で少しづつ後ろに下がって行ってしまう。
僕は慌てて、の腕を掴むとの顔を覗き込んだ。
「…君の好きな人って……まさか………僕…?」
思い切って聞いてみた。
もし、これで違ったら・…と一瞬、その事が頭をよぎったけど、そんなもの、笑って誤魔化せばいいくらいの勢いだった(!)
は、すでに顔が茹蛸のように赤くてずっと俯いていたけど僕の言葉に小さく、ほんとに小さくだけど頷いてくれた…!
「ほ…ほん…とに…?」
僕は信じられない思いで、これは夢なんじゃないか?とか、スタッフ達のドッキリ(!)なんじゃないか?と、
まだ頭のどこかで疑っていた。
それでもはゆっくり顔を上げると、「リジィ…ほんとに鈍感…」 と呟いて涙の堪った顔で微笑んだ。
「え?……え?!だ、だって…え?!……ヴィゴは?!」
僕は何だか体がふわふわしてくるような感覚で、の言葉を聞いていた。
は僕の顔を見上げると、「やっぱり…勘違いしてたね…?」 と言った。
「え?勘違いって…だって…」
「確かに…ヴィゴに憧れてた時期もあったわ?それに…男性として意識した事も…
でも、恋人がいるのを知って諦めたの。その時、思ったよりも悲しくなくて…そっちの方に驚いた」
「え?どういう…事?」
「その時には…もうリジーが私の心の中で凄く大きな存在になってた…
あの一緒に、"C-MOON"を見た夜…はっきり、そう気付いたの…
リジーは…いつも私が辛い時に傍にいてくれて…励ましてくれたでしょう…?それが凄く…暖かくて…嬉しかった」
僕はあの夜の事が鮮明に思い出されて、顔が赤くなってしまった。
「でも…私はスタッフだし…歳もリジーより上だから…気持ちを言うのも躊躇った…ほんとは言うつもりなんてなかったのに…」
は、そう言うと僕から急に離れた。
「だから…忘れて?今、言った事…」
「…え?!な、何で?」
僕は幸せな気持ちから一気に地獄へと叩き落された気分だった。
「どうせ明日で、もう会えなくなるし…ちょっと最後にリジーに優しいこと言われて…ホロっときて言っちゃっただけだから…
それに、リジー勘違いしてるようだったし…だから、あの…気にしないで…?」
そ、そんな…!僕だって…僕も…って、あ、そうか!
は僕の気持ち、まだ知らないんだった!!
てっきりは僕の気持ちを知ってるものだと思い込んで話を聞いていた…!(ありえない)
ダメダメだぞ?僕!
だって素直に気持ちを伝えてくれたのに…僕も…伝えないと…今の本当の気持ち…。
僕は深呼吸をすると、もう一度の腕を引っ張り、今度は思い切って強く抱きしめた。
僕にしては凄く頑張った方だ。
「…?!…リ、リジー?」
は驚いた声を上げて僕から離れようとしたけど、僕はもう絶対に離すもんか!というくらい力強く抱きしめてしまった。
「…僕も君に言いたい事があったんだ…ほんとは…言うか言わないか正直迷ってたんだけど…」
「…え?」
僕は思い切り息を吸うと、少し力を緩めての顔を覗き込んだ。
「僕も…ずっと…の事が好きだったんだ…。きっと…が僕を好きになってくれたよりも…ずっとその前からね?」
僕の突然の告白に、はキョトンとした顔で僕を見上げた。
「え…リジーが…私を?」
「うん。全然、気付かなかった?」
僕はちょっと笑いながら、を見た。
はまだ大きな瞳をくりくりさせている。
「全然…気付か…なかった…わ……?」
「も…ほんと鈍感だよね?」
僕がそう言ってクスクス笑うと、彼女の顔が一気に赤くなって俯いてしまった。
「そ…そんな…そんなの分かる分けないでしょ?!リジーの周りにはいくらでも奇麗な女性がいるって思ってたし…!
なのに、まさか、いちスタッフの私の事なんて見てくれるなんて思わなかったもの…!」
「でも僕、かなりアピールしてたよ?バレンタインデーに香水プレゼントしたり、
ニューヨークでも食事に誘ったり…映画に誘うのだって、最初は凄く勇気がいったんだから…」
僕は少しスネたような口調で、にイジワルな事を言ってしまった。
でも、これくらい言いたかったんだ。
だって…ったら、ほんとに鈍感だからさ?
は僕の言葉に、ますます顔を赤くして、それでも、あれは、そういう意味だったんだと言うような顔で僕を見上げた。
そんなが可愛くて可愛くて、今までずっと我慢してた想いが一気に溢れてしまった。
だからの唇に、思わずキスをしてしまった。
チュって軽くだけどね?
は真っ赤な顔のままポロって涙を零したもんだから僕も慌てて、「ご、ごめん!」 と謝ったんだけど…。
は首を振って、「リジーの…気持ちを知れて嬉しい…」 と言ってくれた。
僕はホっとして、の額と濡れた頬にキスをして、また唇に今度は優しく口付けた。
そしてゆっくり唇を離すとを抱きしめる。
愛しさが込み上げてきて彼女の頭に頬を摺り寄せた時、が小さな声で呟いた。
「リジィ…今夜も…C-MOONだよ…?」
「え?」
僕はの言葉に夜空を見上げた。
すると、そこには本当に、あの日の夜と同じ、C形の三日月がぽっかりと浮かんでいる。
「僕さ…あの夜に願ったことが…今夜、叶ったよ?」
「え?どんな…願いなの?」
僕はまたを抱きしめると、「I
wish you..........」 と呟いた。
「リジィ…」
僕はの顔を覗き込んで、「今夜も願い事、しなくちゃ…」 と言った。
「え・…?」
「今夜の願い事は……。 ―...I wish you
forever.......」
僕はそう言うと、の唇に、そっとキスをした。
その頃、皆が僕らを探し回ってるなんて・…知りもしなかったんだけどね?
僕は幸せすぎて、皆の事も忘れて、を抱きしめていた。
遠くでフェリーの、ボォォっという汽笛だけが響いて僕はその音に紛れての耳元で、「大好きだよ…」 と呟いた。
僕の望む事は…がずっと僕の恋人でいてくれること…ただ、それだけ――
Postscript
久々のリジー夢で、いきなり終るってどうよ?みたいなね(笑)
あ、でもあと一話くらいあると思います。
これも、そんな長くやろうと思ってた連載じゃなかったんですけど
以外にも・…ちょっと続きましたね^^;
やっとこリジーの気持ちが伝わりましたねぇ…
リジーの思いやり勝利って感じです(笑)
このお話はリジー側からの視点でしか書いていないので、
その辺難しかったです(苦笑)
ヒロインの気持ちも微妙に伝わりにくかった事と思います(汗)
あと一回ほど残っておりますが、最後まで、お付き合い頂けると嬉しいですv
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】
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