It goes to you to meet on the birthday...           I WISH YOU...Extra Story...




二人仲良くニュージーランドから帰国して5年――――

僕と彼女は未だに仲良く付き合っている……はずだった。



「え?まだ帰れないの?!」
『ごめんなさい…。ちょっとスケジュールの変更があって少し伸びちゃったの……』
「そっかぁ…。じゃあ仕方ないよね…」
「ごめんなさい…!リジーの誕生日までには帰れるように頑張るから…!」
『うん…分かった。じゃあ風邪引かないようにして仕事頑張ってね?』
「うん、ありがとう。リジーもね?」

そこで電話が切れて、僕は特大の溜息をついた。

「はぁぁぁぁ……」
「何だ、リジー彼女に振られたのか?」
「うるさいよ!」


マネージャーアレクの心無い一言が僕の繊細なハートにグサっと刺さり、ムっとした。

「振られたわけじゃない!は仕事で帰るのが伸びただけだよ」
「ああ、いつもの事か?大変だなぁ、お前も」

アレクは人事だと思って呑気に、そんな事を言っている。
僕は不貞腐れてソファーに寝転がった。 ―今は取材のため、ロス市内になるホテルの一室で待機中だ―

とニュージーランドから仲良く帰国した後、僕らは互いの仕事があり、またすぐに会えなくなった。
だけど僕もニューヨークに引越すのはやめてロスの家に戻ったので、忙しくても、それなりに会えると思っていたんだ。
なのに蓋を開けてみれば、だってメイクアップアーティストという忙しい仕事をしていて、更に特殊メイクも勉強した彼女は、それまで以上に仕事が増えた様だった。
だからか、僕がオフの時はが仕事。
がオフの時は僕が海外にロケ…という事が多々あって二人でノンビリ過ごす時間なんて皆無に等しい日々が続いた。
それでも連絡だけは、ちゃんと取り合って難しいながらも時間を作って会ったりはしていたんだ。

僕としてはと一緒に住みたいなと思ったけど、彼女は今の仕事が楽しくて仕方がないみたいだ。
だから、そんな彼女を見てると、そう言う話を切り出せないまま今日に至る。
こんなに長い間、付き合っていても、ゆっくりとした時間を二人で過ごしたのが数えるくらいって凄いだろう……?

まあ…互いに特殊な仕事をしているから仕方がないんだけどさ……


そんな事を思いつつ、僕は体を起こし、煙草に火をつけた。

「あ~あ~。クリスマスだって電話だけで会えなかったんだよなぁ…。年越しだって一緒にしたかったのに…」
「仕方ないだろう?彼女は仕事でニューヨークに行ってるんだから…。まあ、お前が向こうに住んでたら会えてたかもなぁ?」
「それだったら普段、会えないだろ?の家はロスなんだからさっ」

僕はムっとしたまま煙草の煙を吐き出し、アレクを睨んだ。

「そりゃ、そうだが…の割には、あまり会えてないじゃないか?お前たち」
「まぁね…!だから今年の僕の誕生日くらいは二人で過ごしたいと思ったのに……」
「だからオフにしてやっただろう?」
「でもは間に合うか分からないよ…。彼女、責任感強いし、頼まれて"残って"って言われたらOKしちゃうに決まってる…」
「ああ、そうだなぁ…。あの子は、そう言う子だ。何だ?今は何の映画に参加してるんだ?」
「……パイレーツ・オブ・カリビアンⅡ……」
「はっ?それって……ジョニーやオーランドの?!」
「うん…。そろそろ撮影が始まるんだけど…今はその前にスタッフが集まってメイクや衣装の打ち合わせとかリハーサルとかやらされてるみたい」

僕は、そう言いながら溜息をついた。

「でも…オーランドと言えば、お前の元ライバルじゃないか…。よく、その仕事するのOKしたな?」
「そんな、だって僕が彼女の仕事の事に口を出すわけにはいかないだろ?その仕事断ってなんて言えないよっ」
「しかし…心配じゃないのか?またオーランドが、ちょっかい出すって」
「心配に決まってるだろ?まあ……オーリーも今は恋人が出来てるから少しは安心だけど……」
「ああ、あの噂になってる彼女か。まあ、なら大丈夫だろ?」

アレクは呑気に、そう言いながら紅茶を飲んでスケジュール帳を眺めている。
僕は、そんな彼を横目に軽く息をついてテラスの方に歩いて行った。

はぁ…オーリーかぁ…
まあ、今は撮影前なんだし、そんなスタッフが打ち合わせしてる場所まで行かないだろう。
どうせ二人が会うのは撮影が行なわれる、このロスが最初になる。
それでも、その後にあるロケの事を考えると少しは憂鬱になってくるんだけど……
長いロケ先でとオーリーが一緒だと思うと、ほんと胸が痛くなるよ…。
どうして僕の映画には参加しないんだろう。
何度も僕から誘ったりしてるし、映画のスタッフにも彼女を推薦すると言ってるのに、当の本人が首を縦に振らない。
何でなんだろう?僕と仕事したくないのかな…

僕は、もう一度、と一緒に仕事がしたいのに……。

そんな事を思いながらカレンダーを見た。

僕の誕生日まで10日……

は…無事に帰って来てくれるだろうか…。


それだけが不安となって僕の心に積もっていく様だった。


そして、その不安が現実のものとなる。











僕の誕生日が、あと4日後と迫った日の午後、彼女の口から絶望的な言葉を聞かされた。


『ごめんなさい、リジー…。もう少し伸びそうなの…』
「えぇ?じゃあ…帰って来れないってこと……?」
『うん……それが…帰るのは月末になっちゃいそうで…』
「そんな……そんなに忙しいの…?」

僕は本気で落ち込んで、つい、そんな言葉が出ていた。
それにはも申し訳なさそうな声で答える。

『と言うより……ちょっと若手の子が覚えられないみたいで指導してるから…
一日一日は、そんな遅くないんだけど、今すぐ帰るって事になると、ちょっと…。それに他の人には頼めなくて…』

僕はの言葉を半ば放心状態で聞いていた。
だってってば自分の仕事は終ったのに、新人のメイクの子の指導で帰れないなんて言うから…

「そう……分かった…。もういいよ…」
『リジィ……』
「どうせが自分から指導するって言っちゃったんだろ……?」

僕はつい素っ気無い態度になってしまって一瞬、も黙ってしまった。
だが小さく息をついて、

『………うん、ごめんなさい…。皆、自分の事で精一杯みたいで私しか……』

と言葉を切る。

ああ……分かってる…
君がそう言う子だって……
忙しい先輩に新人の指導を任せて自分だけ恋人の下へ行くなんて出来ない子だって言うのは僕だって痛いくらいに分かってるんだ…

だけど……


「……最近ずっと会ってなくて…誕生日には会えると思ってたのに…」

と僕は今の素直な気持ちを口にしてしまった。
だが、は小さな声で、"ごめん…"としか言ってくれない。
それには僕も軽く息をついた。

「……いいよ…。僕もごめん。じゃあ…月末に帰って来たら会おう?」
『リジー……いいの……?』

は今にも泣き出しそうな、か細い声で聞いてくる。
そんな声を聞いちゃったら……僕は頷くしかないじゃないか。

だって君を泣かしたくはないんだから――――


「いいよ?でも……帰って来たら撮影が始まるまでは、ずっと一緒にいてよね?」

ちょっと、おどけた口調で、そう言ってみる。
それにはもホっとしたように、

「うん、ずっといるわ?」

と言ってくれた。
本当は、"嫌だ"って…"今すぐ帰って来いよ"って言いたかった。
でも僕より年上の彼女に呆れられたくなくて、少しだけ大人ぶってみた。
物分りのいい男を演じるのって、結構、大変なんだと思った。

僕の言葉に、は嬉しそうに頷いて最後まで謝りながら静かに電話を切った。


「はぁ……もう~…何で、こうなるかな……」

溜息と共に、やっぱり、そんな言葉が口から出る。

明日からオフを取ってあるって言うのに……

一人で過ごすには長すぎるオフだと思った。
そこにノックをする音が聞こえて来て僕はソファーから立ち上がると、

「どうぞ?」

と声をかける。
すると元気よくドアが開いて今年の年越しを一緒に過ごしてくれたビリーが入って来た。

「やほ~リジー!」
「ビリー今、ついたの?」
「ああ、ちょっと道が混んでてさあ~」

ビリーは、そう言うと向かいのソファーにドサっと座り、軽く息をついている。

「何だか外は凄い事になってるぞ?」
「ああ、そうだね。久々じゃない?指輪関連の仕事もさ」

僕はそう言って笑うと、紅茶を淹れてビリーに出した。

「サンキュ!でも何だか嬉しいな?あの仕事が、何年経っても、こうして続くってのは」
「ああ、僕も卒業するって言った割には、こうして皆と会えたりすると嬉しいしね」

今日は、"ワンリング・セレブレーション"という、「指輪物語」トールキンのファンの為のイベントでロスのパサディナに来ている。
僕やビリー、そしてショーン・アスティンなどが集まり、サイン会などをやる事になっていた。

「ああ、リジーは明日からオフだろ?やっとと会えるんじゃない?」

ビリーは煙草に火をつけながら、ふと思い出したように顔を上げた。
その言葉には僕の顔から笑顔が消える。

「それがさぁ…。ダメになったんだ…」
「え?何で?誕生日までには帰ってくるって……」
「自分の仕事は終ったみたいなんだ。でも新人もいるから、それの指導をしなくちゃならなくなったみたいでさ…」
「えぇ~?そんなの他の人でもいいんじゃない?」
「僕もそう思うけど…は、そう言うの放っておけない子だろ?だから…」
「ああ、そうだよなぁ……。でもリジーの誕生日くらい仕事を忘れてくれてもいいんじゃないの?」
「………うん…」

ビリーの何気ない一言が胸に刺さった。

そう…僕だって心の中では、そう思ってるんだ…
は仕事熱心な子なんだって分かってはいても、やっぱり、そういう時くらいは僕の事を優先して欲しいって…

「はぁ……」
「………大丈夫か?リジー…。ここんとこ会えてなかったんだろ?クリスマスだってキャンセルになってたじゃん」
「うん……。月末には帰ってくるって言ってたけど……」
「そっか。まあ、そのまま撮影に入ってしまうって事はないと思うし、残り一週間、我慢するしかないんじゃないか?」
「まぁね……」
「それか…………」
「え?」

ビリーは僕を見ながらニヤっと笑った。

「リジーが彼女のいるニューヨークに飛ぶか…だな?」
「……僕が?」
「ああ、早く会いたいんだったらな?どうせ明日からオフなんだろ?」

ビリーは、そう言いながら煙草の煙を美味しそうに燻らした。

そうか…別にが帰って来るまで待ってなくたって、僕がニューヨークに行けばいいんだ…。
どうせ一日中仕事をしてるわけじゃないって言ってたし、夜にはずっと一緒にいれる。
が仕事をしてる間は僕もニューヨークの友達と会っていてもいいし……
そうだ、そうしよう!

「僕、明日ニューヨークに行くよっ」

突然、そう言って立ち上がった僕をビリーは少し驚いたように見上げたが、すぐに笑顔を見せる。

「そのくらいしないと、リジーとは、いつまで経っても二人きりの時間を作れないよ」
「ほんとだよね?そうだよ。僕がオフの時はの傍に行けばいいんだ。彼女がオフの時は僕の仕事先に呼んだっていいし…
何で、今まで、こんな簡単なこと思いつかなかったんだろ…!」
「二人とも相手のこと考えすぎて気を使ってたりしてたんだろ?それも愛だろうけど行き過ぎると擦れ違いが重なって、ケンカ別れで終わっちゃうぞ?」

ビリーは呆れたように、そう言うと肩を竦めて苦笑した。
だけど僕は彼の言葉に顔を顰めてソファに腰を落とすと、

「そんなの嫌だよ…。せっかく両思いになって一緒に帰って来たのに…」

と口を尖らせた。
そんな僕を見てビリーは楽しげに笑っている。

「まぁねぇ~。ほんと長い片想いだったしな?」
「オーリーって邪魔者もいたしね」

僕がそう言って肩を竦めると、ビリーは更に楽しげに声を上げて笑った。


そう…あのニュージーランドで彼女と過ごした日々が今の僕さえも勇気付けてくれる。


せっかく実らせた大事な恋を上手く行ってから壊したくはない。

会えないなら、傍に行けばいい。


僕は明日の便でニューヨークへ行く事を決心していた。












「う……寒…っ」

搭乗口を抜け、外に出た僕は久々のニューヨークの寒さに首をすぼめた。
最近ではロスの気候に慣れてしまっているからか、この粉雪の舞う大都会は、とんでもなく寒いと感じる。
首から下げていただけのマフラーを、シッカリと巻きつけ、帽子も深く被り、度入りのサングラスをかけると、真っ直ぐタクシーの方に歩いて行く。
引きずってたスーツケースと一緒に後部座席に乗り込むと、運転手に、

「アッパーウエストサイドまで」

と告げてから携帯を取り出した。
ニューヨークに行くと決めて、すぐに経ってしまったので、まだは僕がニューヨークに来たという事を知らない。
それを告げるべく、今、彼女の携帯に電話をした。

「あれ……繋がらない…」

電話をかけると、"只今、電波の届かない場所に…"となってしまう。
彼女は留守電機能ではなく伝言メッセージを使用しているので、電波の届かないところにいると伝言を入れられないのだ。

「どうしよう…」

一瞬、困ったが、仕方なく携帯をポケットにしまうと軽く息をついて窓の外を眺めた。

今は午後3時…はスタジオで仕事中かなぁ…

どんよりとしたニューヨークの空を見上げながら、早くに会いたいと心ばかりが急く。
でも確かに今、彼女と同じ空の下にいるんだ…と思うと嬉しくなってきた。

そうだ…。このまま黙って会いに行って驚かせよう…
彼女の仕事が終る頃、スタジオに行けば、きっともビックリするに違いない。

僕は、そう決めて少しシートに凭れると、流れるニューヨークの街並みを懐かしいとさえ思いながら眺めていた。










「505号室で御座います」
「ありがとう」

僕は部屋のキーを受け取ると一人でエレベーターへと乗り込んだ。
普段、僕が泊ってるホテルと違い、ここはアパートメントホテルだ。
部屋にはキッチンがついていて、コインランドリーまである。
ここはも滞在しているホテルで、スタッフの中でも長期滞在の子は皆、ここへ泊ってると言っていた。
同じホテルを取れば会うのにも困らないと思って、僕も5日間だけ、ここを予約したのだ。

部屋につくと帽子を取ってサングラスを外した。

「はぁ…」

まずはソファーに座り、少しだけ休む。
煙草に火をつけながら携帯を取り出すと、一応、メールと留守電をチェックしてみた。
だけど、やっぱりからのメッセージはない。
ここ二日ほどとは連絡していなかった。

そんなに忙しいのかなぁ…
何だか僕って未だに彼女に片想いしてる気分だよ…

そんな事を思いながらユラユラと天井に上がっていく煙を見ていた。
付き合い出しても何だか僕の方がを好きな気持ちが大きいような気がする。
まあ、彼女はシャイな子だから、自分の感情を口では、あまり言ってくれないから、そう思うのかもしれないけど…
でも今回の件にしても、僕の誕生日なのに仕事をとってしまう彼女に、小さな不安を抱いた。

は…そんなに僕のこと好きじゃないのかなぁ…

そう思うたびに胸がズキズキと痛み出して、憂鬱な気分になってくる。
仕事をしてる時は、まだいい。
こんな事を考える暇もないほど忙しいから。
でも、ふと空いた時間や、一人になった時間には、何度となく、そんな不安を感じてきた。

「は~やめやめ!」

そう口に出して、軽く首を振ると、煙草を灰皿に押しつぶし、ソファに横になった。

今日、の顔を見れば、こんな不安なんて飛んでしまうはずだ。
彼女の驚いた顔と…あの可愛い笑顔を見られれば……

そんな事を思いながら、僕は早く時間が経たないかと時計を見た。
あと2時間……


そう思うと今度は胸がドキドキしてくるのを感じて、僕はそっと深呼吸をした。













「ちょっと遅くなっちゃったかな……」

僕はの仕事しているスタジオに向かいながら腕時計を見た。
先ほど、うたた寝をして目が覚めたらの仕事が終る時間が迫っていて慌てて飛び起きたのだ。
それで簡単に用意をしてホテルから、すぐ近くののいるスタジオに向かっている所。

もう、すっかり暗くなって、さっきよりも数倍寒い。
吐く息は真っ白なほどだった。
それでも彼女に、もうすぐ会えると思えば自然に体も熱くなる。

「あ…あれだ…」

目的地が見えてきて、僕は更に足を速めた。

まだスタジオにいるだろう。
もし終わっていたとしても、ホテルまでの道のりで彼女に会えるはずだ。
は、だいたい、寄り道をしないでホテルに一度は戻るって言ってたし…

僕は辺りを見渡し、向かいに見えるスタジオに行く為、道を渡ろうとした。
するとスタジオ入り口に人影が見えて、僕はその影をだと気付き、ドキっとして足を止めた。
は寒そうに空を見上げてマフラーを首に巻きつけている。
僕は久々に見たの姿に思わず笑顔になった。
そして彼女の名前を呼ぼうとした、まさに、その時。




「うっわぁ~寒いねぇ~」








「そりゃ冬のニューヨークだもん。オーリー、薄着で来るからよ」









「………………っっっ?!」







一瞬、目を疑った。

後ろから走ってきて彼女の隣に、寄り添うように立っているのは、紛れもなく旅の仲間であり、昔のライバルでもあったオーランド・ブルームだった。


~早く行こう?俺、お腹ペコペコだよ~」
「私もよ?今日ランチ取り損ねちゃったし…」
「じゃあ早く行こう!レストラン、予約してあるんだ」
「わーほんと?」



僕は悪夢でも見てるように、その場に立ち尽くしていた。
仲良く二人で歩いて行ってしまう。
追いかけなければ…と思った。
彼女は今回、オーリーの映画に参加するんだから、こうしてオーリーと一緒にいても不思議じゃない。
でも…そう思うのに足が動かない。
だって今は、まだ出演する俳優がスタッフのいるスタジオに来るには早い。
なのに何故オーリーが、ここにいて、しかもの肩を抱いて歩いてるんだ?
それに…レストランを予約したと言っていた。
と言うことは、これから二人でディナーに行くということだ。

「嘘だろ……?」


僕はの楽しそうな笑顔を見ながら、そう呟いた。
見ればは普段とは違い、少しだけドレスアップをしている。
それは……今日、オーリーと会う約束をして一緒に出かける事になっていたという事実を裏付けるには充分だった。

気付けば僕は踵を翻して元来た道を戻っていた。
鼓動が早く打ち、少し息苦しい。
冬の冷たい空気を吸う事で更に息が上がる。
それでも頭だけは妙に熱くて僕は被っていた帽子を脱いだ。

「どうして…」

そう呟いて足を止めた。
気付けばホテルの前で沢山の人が道の真ん中に立っている僕を怪訝そうな顔で見ていく。
それさえ気にしないで空を見上げると小さな白い雪がフワフワと落ちてきて僕の頬で溶けて消えた。
白い息が上がり、僕は溜息をつくと後ろを振り返る。
もう二人の姿は見えないのに、僕の頭の中ではの楽しそうな笑顔が浮かんだ。

何でオーリーがに会いに…?
彼には恋人が出来たはずなのに…。
それとも、やっぱりの事が忘れられなかったとか…
でも…はどうして……
いつから二人で会ってるんだろう。
今までも、ああして二人で会ってたんだろうか…

そんな事ばかりが頭を過ぎる。


そうじゃなく二人は友人として会ってたんだ…と思い直しても、またすぐ嫌な考えが浮かんでは消えた。










『えぇ?オーリーと?!』

ビリーは驚いたように大きな声を出した。

『そ、それで…に確めた?』
「いや…。昨日は……電話出来なかった…」
『え?じゃあ…まだに会ってないの?』
「うん…電話するのも…部屋に行くのも、ちょっと怖くてさ…」

僕はそう言って椅子に凭れて息をついた。

『おいおいおい~!そんなこと言ってる場合じゃないだろ?ちゃんと確めもしないでさ…!
オーリーだって、たまたま他の仕事でニューヨーク来ただけかもしれないじゃん。それでスタジオにも顔出したんじゃないの?』
「そう…かもしれないけど…。でも二人、何だか約束してたっぽいし…」
『だから、それを確めて来いよ~!明日なんだぞ?誕生日はっ』
「………そうだけど…。どんな顔で会えばいいのか分からないよ」
『普通に会いに行けよ!そして昨日のこと、ちゃんと聞いてさ』
「うん…」
『そろそろ、仕事終わる時間なんじゃないの?』
「え?あ、ああ…。うん…そうだね…。あと20分ほど…かな?」

僕は時計を見て軽く息をついた。

『じゃあ、この電話切って、用意して、すぐ迎えに行けよ。話は、そこからだ』
「…………分かった…」
『ああ、じゃあ、後でまた電話しろよ?それと、はっきりしないうちから彼女を責めたりしないように。
疑われたってだけでも、傷つくぞ?分かった?』
「うん、分かった。サンキュ、ビリー」
『ああ、じゃぁな?』

そこで電話が切れて僕は思い切り息をついて立ちあがった。
ほんとは、すぐ出れるように用意はしてある。
行く前に誰かに背中を押して貰いたかっただけだ。

僕はコートを着てマフラーを巻くと、いつものように帽子を被り、眼鏡をかけた。
夕べは一睡も出来なくてコンタクトも入らないからだ。

"リジィの眼鏡かけてるとこ、好きだなぁ"

ふと前にに言われた言葉を思い出し、胸がツキンと痛んだ。
彼女は、そう言って僕に優しく微笑んでくれた。
そして時々、僕の眼鏡を取り上げては自分でかけて、度がきついからフラフラするって言って笑ってたっけ…

なんて思い出しては切なくなってる自分に苦笑した。

まだ、ハッキリしてもいないのに…すでに振られる気分になってるなんて…

でも、このまま本当に振られてしまったら、眼鏡をかける度にの言葉を思い出してつらくなりそうだ。

そんな事を考えながら、部屋を出た。
そして少し緊張しながら、のいるスタジオへと向かう。

もし…またオーリーがいたら…と不安になるも、何も聞かないまま一人で悩んでるのもきつすぎる。
結局、答えなんて出ないまま、一人で悪い方に考えてしまい、最悪の気分になるから。

ホテルの外に出ると、昨日から降っている雪のせいで一面、真っ白だった。

「わ…結構、積もってる…」

そう言えば…今日一日、一歩もホテルの部屋から出てなかったんだっけ。
一睡も出来ず、少し眠ろうと、ずっとベッドでゴロゴロしてたけど眠れなくて、気付けば時間が過ぎていた。
の仕事が終る時間が近づくにつれ、だんだん緊張してきて、だから、ついビリーに電話をかけてしまった。
誰かに話せば少しは気楽になる。
それで、やっとに会いに行く勇気が出たんだ。

こんな時でも、あの映画で得た友の存在は大きいと気付かされる。

だからこそ…オーリーとが何もなければいいと……そう思う自分もいた。

あの映画を嫌な思い出として残したくない。
僕にとっては凄く大切な仲間と…恋人を得た、大切な思い出だから。

そう思いながら、歩いていけば、すぐにスタジオが見えてくる。

時計を見れば、すでに終わる時間。
そろそろが出て来るはずだ。

僕はスタジオの前まで歩いて行って、中をちょっと覗いてみた。
すると受付の女の子と目が合い、慌てて顔を引っ込める。

「び、びっくりしたぁ……」

ちょっと胸を抑えて息をつくと入り口から少し離れ、壁に寄りかかった。
昨日よりも少し大きめの雪が目の前をフワフワしながら落ちていく。

「ほんと寒い…」

冷えた手を口元に持って行ってハァ~っと息を吹きかける。
はまだかな…と思い、入り口の方に顔を向けた、その時、ポンっと肩を叩かれ、ドキっとした。

「リジィじゃん!」
「え…?あ……!!」

振り向けば、そこにはオーリーの爽やかな笑顔があって、僕は驚いた。

「オ、オーリィ…な、何してんの?!」
「何って俺の台詞だよー!リジィ、ロスにいるんじゃないの?、そう言ってたけど…」

オーリーの口から、""と聞いて胸がズキっとした。

夕べ、そんな話もしたんだろうか…

そんな事を思いながら僕が黙っていると、オーリーは怪訝そうな顔で顔を覗き込んできた。

「どうしたの?リジィ…顔、怖いけど…。に会いに来たんだろ?」
「そうだよ…。オーリーもなんだろ?」
「え?」

そう言って少しオーリーを睨むと、彼はドキっとしたように視線を反らした。
その反応だけで一気に不安が込みあげて来る。

「オーリィ……。に会ってただろ…」
「な、何で……?」
「僕、見たんだ…。夕べ……」

「リ、リジィ………?!」

「「……………っっ?!」」

その声に心臓がドクン…っと音を立てた。

……」

ゆっくり振り向くと、そこには驚いた表情のが立っている。

「な…何で、ここにいるの……?え?オーリーまで………」

僕とオーリーの顔を交互に見ながら、は更に目を丸くした。

「昨日……こっちに来たんだ…」
「えぇ?昨日…?嘘……。だって、この間の電話では、そんなこと一言も……」
「急に決めたからさ…。オフ取ってたし…」

僕はまともにの顔を見れなくて少し視線を反らしながら、軽く息をついた。

「じゃあ…電話くれれば良かったのに……」
「もちろんしたよ?こっちに着いた時…。でも繋がらなくて…」
「あ…電源、切ってたんだった…。打ち合わせ中で…」
「だから驚かそうと思って、昨日ここへ来たんだ。この時間に……」
「え?でも……」

はそこで言葉を切って、思い出したようにオーリーの方を見た。
オーリーは、すでにマズイ…といった顔で頭をかきつつ俯いている。
その態度で僕の不安が当たっていたんだ…と思った。
そう思った瞬間、僕は踵を翻し、その場から走りだしていた。

「リジー?!」

後ろからの僕を呼ぶ声が聞こえたけど、それを振り切るように足を速めた。
何も聞きたくなかった。

オーリーの言葉も。
の言葉も。


最悪だ…。


「はぁ……」


一気に走ったからか、少し苦しくなり足を緩めて、そのまま歩き出した。
少し強くなってきた風と一緒に雪が僕の顔に吹き付けてくる。
気付けばセントラルパークまで来ていて、そのまま公園を歩き出した。
普段なら沢山の人で賑わっている公園内も今日は雪風が強いからか、それほど人は歩いていない。
その中を僕はゆっくり歩いて、さっきの事を思い返していた。

二人にハッキリ聞けなかった。
どうして二人で会っていたのか…
あのオーリーの表情を見た時、不安が確信に変わり、とオーリーは時々、ああして二人で会っていたんじゃないかと思わせた。
それだけで僕は二人の顔を見れなかった。

胸が痛い…
こんなに痛いなんて…
は…僕より、オーリーがよくなったの…?
やっぱり年下の僕じゃダメなんだろうか…
そう言えば…は一度だって僕に我がままを言ってくれたことがない。
いつも"大丈夫"なんて言って笑ってる。
それって僕にすると結構、寂しかったりしたんだ。
少しくらい我がまま言って甘えて欲しかった。
僕が仕事で約束を守れなかった時も、彼女は笑って許してくれた。

"仕事じゃ仕方ないよね"

そんな事を言って怒りもしないで…
僕の方はに会えなくなって凄く悲しかったのに、そんな風に言われると、自分の気持ちさえ隠してしまっていた。

いつでも好きなのは僕の方で…追いかけるのも僕だった。
は、ただ笑って傍にいてくれるだけで、一度でも、"会いたい"とか、"好き"だとか言ってくれた事はない。
いつも僕の方から言ってた。

"早く会いたい"

"私も"

"好きだよ"

"私も"

いつも、そんな感じだったっけ。

僕は…の口から、そう言って欲しかったのに……

それを言う事でさえ、子供っぽい気がして言えなかった。
に年下と見られたくなくて無理に大人ぶってた。

やっぱり…僕じゃダメだったんだ…


ふと足を止めて空を見上げた。
昨日と同じ、どんよりとしたニューヨークの空は今の僕には辛すぎた。
ロスのカラっと晴れた青空だったら少しは前向きに考えられたかもしれないのに…

「……帰ろう…」


そうだ…。
もう、"ここ"にいる必要はなくなった。
明日…ロスに帰ろう…

僕は、そう思いながら、また歩き出した。
どこに行くアテもなく…
ただ雪の積もった道を一人で……













ピピピピピ……ピピピピピ…


電源をいれて少しすると、突然電話が鳴り出した。
ドキっとしてディスプレイを見れば、それはではなくビリーからだった。
僕は軽く息をつくと飲んでいたビールを置いて通話ボタンを押した。

「Hello....?」
『あ、リジー?!いったい、どこにいるんだ?ずっとかけてたのにっ』
「ごめん……。電源切ったままだった…」

深い息をつくと、受話器の向こうでも軽く息をつくのが聞こえた。

『……飲んでるの?』
「少しね…。こっちは寒すぎるからさ…」

そう言って、ちょっと笑うと、ビリーは困惑したように聞いてきた。

『リジー…と、ちゃんと話してないんだろう?』
「……………」
『やっぱり……。さっき彼女から電話が来たよ』
「………え?から…?」
『正確にはオーリーからだけどな』
「……………何て…?」

オーリー…と聞いて胸がズキンと痛んだ。
やっぱり二人は、あのまま一緒にいるんだ…。

『リジーの泊ってるホテルは知らないかって聞いてきたよ…』
「…それで……教えたの……?」
『ああ、仕方ないだろう?何だか焦ってる感じだったしさ。でも…その様子だと帰ってないみたいだな?』
「……まぁ…でも、そろそろ帰ろうと思ってたんだ。明日…ロスにも戻るしさ…」

僕はバーの中で大騒ぎしている客をボーっと見ながら椅子に凭れて息をついた。

『明日?明日、ロスに戻ってくるのか?』
「うん…。もう、ここにはいたくないし……」
『おい、リジー…ちゃんと話した方がいいって。さっきリジーのホテル教えたら、すぐ電話切られて何も聞けなかったけど…あの様子じゃお前の誤解ってことも…』
「そんな事ないよ…。きっと僕に言い訳したいだけじゃない?」
『リジー…』
「もう、いいんだ…。には僕じゃダメだったんだって、よく分かったからさ」
『おい、リジー…。そんな事は……』
「いいんだ。今までの擦れ違いで、よく分かったしさ。もう諦める…」
『ちょ…早まるなって…』
「ごめん、ビリー…。ロスに戻ったら、また電話するよ…」
『え?おい、リジー…』

そこで僕は電話を切った。
誰かと話したい気分じゃない。

フラっと席を立ち、バーから出ると、外は真っ暗で、まだ雪が降り続いている。
その中をホテルに向かって歩き出した。
アルコールのせいで体は温かい。
でも心の中は冷えたままだ。

ビリーの言う通りなのかもしれない…
一度も彼女と話す事なく、このまま別れてしまえば、きっと後悔する。
なのに今は、どうしても会いに行く勇気もない。

そのまま歩いてホテルまで戻ると、フロントには誰もいなかった。
もう夜の11時を回っている。

ああ、もうすぐで僕の誕生日だ…

エレベーターに乗り込んで時計を見て、ふと思い出した。

こんな気持ちのまま、誕生日を迎える事になるなんて思いもしなかったな…

そんな事を考えながらチンという音と共にエレベーターが5階に到着してドアが開いた。

「ふぅ……」

何も食べずにアルコールをとったおかげで、かなり体がだるい。
廊下を歩きながら、自分の部屋へと向かいつつ、キーを取り出し、顔を上げた。





「……………っっ?!」


「リジィ……」



そこには…部屋の前にはが立っていて、僕を見てホっとしたように微笑んでくれた。



……何して……わ…っ」

そう言った瞬間、が僕に抱きついて来た。

「バカ…!どこに行ってたの?!」
「え……え?」
「凄く心配したんだから………っ」
「…………」


僕は何が何だか分からなくて僕の胸に顔を押し付けて肩を震わせている彼女の肩をそっと掴んだ。

……何で泣いてるの……」

少しだけ体を離すと、は手で涙を拭っている。
そして怖い顔で僕の事を見上げた。

「リジーが心配かけるからでしょ……?どうして、さっき走って行っちゃったの?私、追いかけたのに…」
「え?」
「呼んでも振り返ってくれないから…必死に追いかけたら転んじゃうし……最悪……」

は、そう呟くと息を吐き出して俯いてしまった。
見れば、確かにの膝には転んだ跡があり、ストッキングの上からでも血が滲んでいるのが分かる。

「ちょ…何で治療しなかったの?おいで」
「え?あ…」

僕は慌ててキーでドアを開けると、を部屋の中へと入れて、すぐに救急セットを探した。
すると小さな携帯用の箱に消毒薬とカットバンが入っている。

、それ脱いで」
「え……っ?!」
「消毒するから」

僕が慌てて、そう言うとは少し恥ずかしそうな顔で、

「あ、あっち向いてて…」

と言ってきて、僕も顔が赤くなり急いで後ろを向いた。

な、何だ、この展開…
どうして彼女がここに……
それにオーリーはどうしたんだろう…?

一瞬、そんな事が過ぎったが、すぐに、

「いいよ…?」

と声が聞こえて僕はの方に振り返った。
は脱いだストッキングをバッグに入れて、恥ずかしそうにソファーに座っている。
聞きたいことは色々とあったけど、今はとりあえず消毒をしなくちゃ…と彼女の傷を軽く拭いてあげた。

「い…っ」
「い、痛かった?ごめん…」
「う、ううん…大丈夫……染みただけだから…」

はそう言ってニコっと微笑んでくれて、その笑顔にはドキっとさせられる。
そのままカットバンを貼ってあげると、

「ありがとう……」

と言って僕を見つめた。
その瞳を見ていられなくて僕は少し反らしてから首を振った。
そして消毒薬とカットバンを救急箱にしまって立ち上がった時、不意に腕を掴まれドキっとした。

「リジィ……ちゃんと話そう?」
「…………何を?とオーリーのこと…?」
「そうよ?」
「…………っ」


その一言で一気に胸が苦しくなった。
ゆっくりの方を見れば、彼女の顔は真剣で僕の鼓動は一気に早くなってくる。

「分かった……」

そう言っての隣に、そっと腰をかけると、はホっとしたように掴んでいた腕を離す。

「リジィ……昨日、私とオーリーが一緒のとこを見たの…?」
「……うん」
「どうして声かけてくれなかったの…?私に会いに来てくれたんでしょう?」
「………………」
「もしかして………勘違いした……?」
「勘違い……?何が?昨日、オーリーと食事に行ったんだろ?さっきオーリーだってヤバイって顔してた」

僕がそう言ってを見ると、彼女は少し驚いた顔をしていたが、小さく噴出した。

「な…何で笑ってるの…?」
「だ、だって……リジー、私とオーリーが…って…。そう思ったの?」
「そ、そう思いたくなかったけど……。さっきオーリーの態度見てたら……」

僕は少し慌てて、そう言えばは首を振って微笑んだ。

「私とオーリーに何かある訳ないじゃない…。昨日はオーリーから電話が来て食事に誘われただけ」
「え?」
「他の仕事でニューヨーク行くから会わない?って言われて…」
「それだけ……?」
「そうよ?」
「だ、だったらオーリーは何で僕に見られてたって知った時、あんな困った顔してたの?」

そうだ…あんな顔するから、僕はてっきりとオーリーが…って思ったんだ。

そう思いながらを見ると、彼女はクスクス笑い出した。

「違うの。実はオーリーね、今付き合ってる彼女とケンカしちゃって、それで落ち込んで私に電話してきたのよ」
「え?何で?」
「ちょっと相談って言うか…話を聞いて欲しかったみたい。それで昨日はずっとオーリーの恋の相談に乗ってたの」
「そ、相談………」
「そう。でもオーリー、この事はリジーに内緒にしてくれって」
「な、何で?」
「俺がに会いに行って一緒に食事したなんて言うと、すぐ怒るからって言ってたわ?だから、さっきもバレたと思って怒られると思ったみたい」
「…………嘘だろ……ほんとに、それだけ?」
「ええ、でも突然リジーが走って行っちゃったから、オーリーも驚いちゃって、もしかして変な誤解したかも…って慌ててビリーに電話してた」
「……………」

開いた口が塞がらないとは、この事だと思った。


(まさか…そんな事で……ってかオーリーのバカちん!アホ!紛らわしいんだよ…っっっ!!!)


僕は真相を知って、だんだん顔が赤くなってきた。

「……リジィ…私とオーリーが…って誤解したの……?」
「え……っ?!」

見れば、は少し口を尖らせて僕を横目で見ている。
それには僕もしどろもどろになってしまった。

「あ~い、いや……だから、その~……」

どうしよう……。怒ってるかも…
そう言えばビリーに最初から疑うなとか言われたような……
で、でも、あんな状況じゃ仕方ないよ…っ
それまでの色んな不安だって重なって、僕だって、いっぱい、いっぱいだったんだから…!

「ご、ごめん!僕、ちょっと……誤解してたかも……」

だんだん語尾が小さくなり僕は俯いて頭をかいた。

「やっぱり…それって私のこと信じてないって事よね…?」
「ち…違うよ…っ。そうじゃなくて……」
「嘘。信じてたら、そんな私がオーリーと…なんて思わないわ?それってオーリーの事も信じてないって事じゃない」

は少し怖い顔で僕を責めてくる。
それには僕も困ってしまった。

「そ、そうだよね…。ごめん……でも……信じてなかったって言うよりはさ……」
「何?」
「………」

僕は、そこで軽く深呼吸をしてから彼女を見た。

「僕が……自分に自信がなかっただけなんだ……」
「………え?どういう……こと…?」

は少し驚いたように僕を見つめた。
そんな彼女にちょっと微笑むと、軽く息をついて今まで不安に感じてた事を全て話した。

「僕の方が年下だから頼りないと思われてるのかもってさ…。ずっと不安だったんだ。
いつも会いたいって言うのは僕の方で…は、それに相づちをうつだけだろ?」
「そ、それは……」
「好きって聞かないと言ってくれないし…は我がまま一つ言ってくれない…。だから僕の事そんなに好きじゃないのかなって思ったりしてた」
「リジィ……」
「最近は、ずっと会えなかったし…。余計に不安になっててさ。それで…そんな時にオーリーと一緒のとこ見て…一瞬でも疑った。バカだよね…」

僕はそう話しながら本当に自分が情けなくなってきて思い切り溜息をついた。
その時、不意にの手が僕の手を、そっと包んでくれてドキっとする。

「ごめんね…リジィ……」
「え……?」
「あなたを不安にさせて……」
……」

彼女の瞳は、かすかに揺れていて今にも泣き出してしまいそうだ。

「そんな…いいんだ…。僕が…子供なだけだしさ…」

そう言って苦笑すると、は首を振って微笑んだ。

「そんな事ない。でも私はリジーに心配かけたくなかったの。我がままも言いたくなかった…」
「どうして…?」
「重荷に思われたくなかったから…」
「え……?」
「リジーの方が忙しいの分かってるし…だから会えない時も寂しかったけど我がままなんて言えなかった…」
「どうして?僕は言って欲しかったよ…?」

そう言って彼女の顔を覗き込むと、は思い切り首を振った。

「言えないよ…」
「何で?」
「………嫌われたくないから…」
「え……?」

彼女の、その言葉にドキっとした。
は恥ずかしそうに俯いて、

「私だって…歳のこと気にしてたのよ…?リジーには、もっと同じ歳くらいの可愛い子が合うんじゃないかって思った事もあった」

と呟く。

「そ、そんな事ない。僕はがいいんだ……っ。それに嫌うはずないだろ?こんなにが好きなのに……」
「リジィ…」

僕がそう言っての手を握り返すと、彼女の頬が赤くなった。

「だから…もっと我がまま言ってよ…。そんな事で重荷になんて思わない…思うわけないだろ?」

僕がそう言うとは、まだ首を振って俯いてしまう。

「どうして……?」
「きっと……小さな我がままが少しづつ積み重なって…いつかリジィに負担になってくると思うから…。
只でさえ忙しい仕事をしてるリジィに、そんな私の我がままなんて言えない…」
「………………」

の言葉に胸が熱くなった。
こんな風に彼女が僕の事を思っててくれたなんて……知らなかった…。

「だから…我慢できるとこは我慢す…キャ…っ」

そこで彼女を強く抱きしめた。

「リ…リジィ……?」
「好きだよ……大好きだよ、……」
「…………っ」
「ごめんね…。が、そんな風に思っててくれたなんて知らなくて…変に疑ったりして…。ほんと、ごめん……」
「リジィ……」

今のありったけの想いをに伝えた。
さっきまでの重苦しい気持ちは消え、凄く心が軽い。

その時、腕の中の彼女が、かすかに動いて、僕はゆっくり体を離した。

「私も……ごめんね?リジィ…」

そう言って僕を見上げる彼女の目には涙が浮かんでいて、今にも零れ落ちそうだ。
だから僕はそっと彼女の目の横に口付けた。
そのまま頬、そして最後に触れるだけのキスを唇に。

は真っ赤になったまま固まっている。
だが、ふと俯き、あ…っと小さく声を洩らし、再び顔を上げた。


「リジィ…28日になったよ……?」

「………え?」



「Happy Birthday............Lij.........」





が、そう呟いて、僕の頬にそっとキスをしてくれた。




「………………っっ」





の方からキスをしてくれたのは、これが初めてで僕は一瞬で真っ赤になってしまったが、の頬も今まで異常に赤く染まっている。





「リジィ……ニューヨークまで会いに来てくれて…ありがとう……」

「え……?」

「来てくれなかったら……リジィと、こうして誕生日を祝えなかったから…凄く嬉しい…」


はそう言って可愛く微笑むと、恥ずかしそうに目を伏せた。


そんなを見て僕の胸は愛しさで一杯になった。

もう一度、彼女を強く抱きしめて、優しく唇を塞ぐ。



「ん…リジィ……」

「……何?」

少しだけ唇を離して互いの鼻先をくっつけながら微笑むと、は真っ赤な顔で僕から視線を反らした。


「リジィの誕生日プレゼント……部屋に置きっ放し……取りに行きたいんだけど……」


「いいよ……。今はこうして傍にいて……?」

「で、でも…」

「いいんだ…。代わりに……をもらうから……」

「え…っ?!ん……っ」



僕の言葉に驚いたように目を開いた彼女の唇を、今度は少し強引に塞いでソファーに押し倒した。




時計の針は、ちょうど12時を5分過ぎていて、この瞬間から僕は24歳になった。


少しの期間だけ、との距離が、ちょっと縮まったことになる。



それだけでも、僕は嬉しかった。




この日、僕とは朝まで抱き合い、彼女は仕事があるから、と少しだけ眠った後、出かけていった。



それから月末まで二人で過ごし、もやっと仕事が終ったので一緒にロスへと帰るのに飛行機に乗ったんだけど……







「なぁ~んで、あんたが乗ってるのさ……っ」





「リジィ~~~~!そんな怒るなよぉぉ~!俺が悪かったってば~っ」






そう言って通路を挟んで隣の席から、一瞬、絶交してやるとまで思ったオーランド・ブルームが僕の腕を引っ張ってきた。
何故かオーリーまで同じ日に同じ飛行機でロスに向かう予定のようで、しかも席は隣…最悪だ。

「だいたいオーリーが、あんな紛らわしい顔するから誤解したんじゃないかっ。それに勝手にに連絡して、それを僕に隠そうとしたなんて…っ」
「だ、だから悪かったよぉ~……。ちょっと彼女とケンカして落ち込んでたから、に話を聞いてもらいたかっただけなんだって~」
「やましい気持ちがないなら隠そうとしなくたっていいだろ?おかげで、こっちは真冬のニューヨークを歩き回るはめになったんだからねっ」
「だって言えばリジィ、怒るだろ~?何でに相談するんだーとか言ってさぁ~」
「当たり前だろ?でも隠される方が、もっと腹が立つよっ」

僕はそう言ってオーリーを睨むとシュンと俯いてしまった。

「リ、リジィ…そんな怒らないで…?ね?」

そこでが宥めるように僕の腕を掴む。
そんなを見ると、僕もオーリーへの怒りなんて吹っ飛んでしまうんだから自分でもゲンキンだなぁ…なんて思う。

「ロスに戻ったら…暫くはオフだろ?」
「うん。リジィは仕事でしょ?」
「うん、だから……。、オフの間、僕の家に来てくれない?」
「え………?」

は驚いたように僕を見た。
そんな彼女に僕は優しく微笑むと、

「ちょっと考えたんだけどさ…。どっちががオフで、どっちかが仕事の時は…オフの方が傍に行けばいいんだって思って」
「あ……そっか……」
「ね?ずっと一緒にいれるわけじゃないけど傍にいないよりは会えるだろ?」
「でも……いいの?リジーの仕事は特殊じゃない…。人がいて気が散らない?台詞とか覚えないといけないんだろうし…」
「気が散るわけないだろ?それにが傍にいた方が落ち着いて仕事が出来そうだしさ」

僕がそう言うとは照れくさそうに微笑んでくれた。
その笑顔が可愛くて彼女の頬に軽くキスをすると、突然隣から奇声が聞こえてくる。

「くらぁぁっ!そこぉ!俺の前じゃイチャイチャ禁止だと前にも言っただろぅ!」

「何だよ、オーリィ……。それは5年前のことだろ~?まだダメなわけ?」

僕がジロリとオーリーを睨むと、彼は口を尖らせ、

「当たり前だ!はいつまでも僕の心のマドンナなんだからなっ」

と何だか偉そうだ。

それを軽く無視してを見れば何だかクスクス笑っている。

「何だか懐かしい…」

そんな彼女を見て、僕は、そっと手を握った。
の体温を感じて心の底から安心して、ずっとこうしていたい…と思う。


そう思った時……今まで言い出せなかった言葉を口にした。



「ねぇ、



「ん?」











「いっその事…………結婚でもする…………?」







「………………ぇ…っ?」








僕の言葉に、は驚いたように目を丸くしていたが、少しづつ頬が赤くなり、瞳には涙が浮かんでくる。


そんな彼女の頬に、僕は軽くキスをした。




そう遠くない日………のウエディングドレス姿が見れるかもしれない……



なんて思っていると、そこに、またしてもオーリーの叫び声が響き渡った。







らぁぁぁぁぁぁ!お、俺の前でに、プ、プ、プロポーズとは、いい度胸してるなぁ、リジィ~っ!!結婚、反対~!!










静かにして下さいっっ!!!!








「……………ひゃっっ?!」






あまりにオーリーが騒いでるので、CAの堪忍袋の緒が切れたようだった。(そう言えば、さっきから睨んでいたっけ)









そんなオーリーを見ながら、僕は、"いい加減、を諦めて欲しい……"と心の底から思ったのだった…。














Postscript


はい、リジィ誕生日企画夢でした~v
これは「I WISH YOU」のラストから5年後の話です(笑)
あまり甘々じゃなくてすみません。
オーリーも相変わらず、お邪魔虫として参加…(笑)
この関係は結婚後も続くんでしょうねぇ~(苦笑)

とにも、かくにも……Lij、Happy Birthday!!祝・24歳♪♪
彼にとってさらに飛躍できる一年でありますように…vv


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


【C-MOON...管理人:HANAZO】