Chapter.5...A
hug is given to tonight.... I WISH YOU...
「ずっと…のことが好きだったんだ…」
僕は彼女を真剣に見つめて、そう言った。
は少し驚いたような顔で僕の顔を見ると…
「私も…リジーのこと…好きだったの…」
と言って恥ずかしそうに俯いた。
「……ほんと?」
その言葉が信じられなくて、の顔を覗き込むと彼女は顔を真っ赤にして頷く。
僕は嬉しくて、そのまま、そっと彼女を抱き締める。
は少し体を硬くするも僕の腕の中へと体を預けてきて、それが嬉しくて少し抱き締める力を強くする。
そして、そっとの額へとキスをした。
するとは顔を赤くして僕の顔を見上げてくる…。
「……。大好きだよ…」
僕はそう言うと…彼女の唇へ、そっと顔を近づけていった。
(ああ…やっととキスが出来る…この日を、どんなに待ったことか…!)
――もう誰にも渡すもんか!オーリーにだって…
僕はドキドキしながら、ゆっくり顔を近づけていったのだが…
(ん…?何だか……さっきより…の体がふっくらとしたような……)
の体を抱き締めている腕の感触が、だんだん変わってくるのを感じて、僕は変に思ったが、
こんな大事な時に、そんな事など気にしている場合じゃない。
そのまま目を瞑っての唇へと優しくキスをした――
の柔らかい唇の感触で心臓が爆発するんじゃないかと思いながら、そのまま、そっと彼女の長い髪を撫でる…
(あれ?…、髪、こんなに短かったっけ…?)
僕はの長いサラリとした髪の感触がじゃなく、かなりベリーショートのザラザラとした感触に驚き、ふと目を開けた…。
――いや…
目を覚ました――
「……うわっ!!!!!」
何故か目の前には、ではなく、ふっくらとしたアスティンの寝顔があった……!
(な、な、な、何だ?何だ?!何で僕の隣にアスティンが寝てるんだ?!)
僕は焦って体を起こすと寝起きで、まだ働いてない頭のまま、はどこかと探してハっと気づく……
(あれ…?僕…今、夢を見たのかな…)
ゆっくりと周りを見回すと、そこは確かに自分のホテルの部屋の寝室…
「何だ…夢か…」
僕はやっと今、自分が置かれている状況を把握して少し落ち込んだ。
あーあ…すっごい幸せな夢だったのに…
も僕のことを好きだなんて…しかも…キスまでしちゃう夢…
ああ!目が覚めなきゃ良かったのに…!もう一度寝たら続きが見れるかな…
僕はそう思いつつ、ふとイヤな感じがして冷静になる。
待てよ…。今のは夢だったけど…さっき確かに本当にキスをしたような感触があったような…
そうだ…それで少し現実かと思って混乱したんだ。
僕は自分の唇を手で触れつつ、そう思った瞬間――
――え…?
僕はおぞましいことに気づき、恐る恐る僕の隣で幸せそうな顔で眠っているアスティンへと視線を向けた…。
心臓の鼓動が早くなってくる。
(ま、ま、ま、ま、まさかーーーーーーーー!!!!)
僕は唇と同じように今も確かに腕に残っている、さっきまで誰かを抱き締めていたような感覚に気づいて眩暈を感じた…。
(さ、さ、さっきの…ふっくらとした感触…そして…ザラザラとした短い髪…)
僕はアスティンの気持ち良さそうな寝顔を見ながら、一つの答えにたどり着いた――!
(ぼ、ぼ、僕は…アスティンにーーーーキ…キ…キスをーーーーー???!!!)
目が飛び出そうになりつつそう思った瞬間――
ベッドを飛び出し、足がもつれつつも、隣の部屋へと走ると一気に膝落ちした。
両手を床の上につき、考えたくもない事実に気づいた時…思いきり…
「おぅぇぇぇぇぇええええっ…!!!!!」
目の前のソファーでは、ドムとビリーが気持ち良さそうな顔で寝ながらイビキをかいていた――
「おはよう、リジー!夕べは飲みすぎたな!」
朝の出来事など知りもしないでアスティンは爽やかな顔で僕に言った。今はちょうどお昼過ぎ。
僕は精神的ダメージを受けたまま虚ろな目で、
「……ああ…。ほんとにね…」
「何だ?二日酔いか?顔色悪いな。そんなんじゃ今夜のパーティーで騒げないぞ?」
と呑気に笑うアスティン。
今夜は旅の仲間に出演した人達と二つの塔へ出演する人達が集まり、撮影が終了したのと再開するのにあたって、
ちょっとしたパーティが予定されていた。
旅の仲間に出演した人達には、"お疲れ様"、二つの塔に出演する人達には"これから頑張りましょう"と労うようなものだった。
呑気なアスティンを少し恨めしそうに見ると、つい彼の唇へと目がいってしまい、またも、
「おぇ…っ」
と呟いてしまう…。
だが、それを二日酔いのせいだと勘違いしたアスティンは心配そうに、
「おい…大丈夫か?二日酔いの薬、貰ってこようか?」
と僕の顔を覗き込む。
「うわ!!そ、そんなに顔を近づけるなよ…!」
と僕は急に目の前に、アスティンの顔がドアップで見えて驚いた。
「何だよ…。人が心配してるのに…」
アスティンは少々ふてくされたように、イライジャを睨む。
僕は、朝のショックから、まだ立ち直れないでいた。
この精神的ダメージは相当、僕の心を蝕んでいる…
ああ…!!一生の汚点だ!と言うより僕の人生は終わりだ!アルマゲドンだ!
―いや、僕にはディープインパクトか…(!)― まさにディープインパクトだったよ…!
お、お、男を抱き締めて…し、しかも…キ、キスしちゃうなんて…その事実はまさに隕石落下に等しい…!
しかも最悪な事に、その唇の感触を覚えているからタチが悪い…!!
まあ…アスティンが気づかなかったのは不幸中の幸いだったけど…
そう…確か夕べはニューヨークから帰って来て久々に皆と会ったもんだから皆で僕の部屋で飲んでいたんだっけ。
途中、オーリーは疲れが溜まっていたのもあり、眠い…と言って自分の部屋へと戻った。
僕とアスティン、ドム、ビリーの4人はそのまま飲みつづけて…そこから記憶がない…。
疲れていたから多分、知らない間に寝てしまったんだろう…。
僕は記憶がないままだけど、ちゃんとベッドへと入り寝たようだ。
だけど…何でアスティンが僕の隣で、寄り添うようにして寝ていたんだ?!
それがなければ、あんな事には…
僕はまた朝のアスティンのドアップを思い出し具合が悪くなった…。そこへ、
「おはよぉー…」
と言いながらドムとビリーが寝ぼけた顔で起きてきた。
「ああ…おはよ…」
「おう、おはよう!」
力なく答える僕とは裏腹に何とも元気なショーン・A。
「ふぁーー…。よく寝たなー」
二人は呑気に伸びをしている。
「まだ、お昼なの?…俺、自分の部屋で寝なおしてくるかな…どうせパーティーまで暇だし…」
「ああ…俺も…」
そう言うと二人は、「じゃ、夜のパーティーでね」と声をかけ、部屋を出て行った。
アスティンも、
「俺も自分の部屋に一度戻るよ。シャワーでも入ってスッキリしたいし」
と言うと、「じゃ、リジー、夜な!」 と笑顔で振り向く。
「ああ…」
僕はまだ青ざめた顔で頷いた。
「…リジィ…。お前、ほんと薬飲んだ方がいいよ?顔色悪いし…」
アスティンは心配そうに言うと部屋を出て行った。
(薬?この気分の悪さを直す薬があるなら誰でもいいから調合してくれ…!)
そう心の中で叫ぶとグッタリとソファーへ座る。
(ああ…きっと、その薬は、本当ののキスなんだろうけどなぁ…)
僕は今日、ニュージーランドへと戻ってくる予定のに早く会いたくなった…。
僕はシャワーを浴びてスッキリすると冷蔵庫からミネラルウォーターを出して一気に飲んだ。
すでに夕方の4時になるところ。
あまりにソファーで現実逃避をしていたら、すっかり時間が経っていて、慌てて用意するべくシャワーへと入ったのだった。
(パーティーは6時からだっけ…あと2時間ほどなら今から用意しておいた方がいいな…)
今日は旅の仲間に出演する人達と、二つの塔に出演する人達、
そしてスタッフ全員が出席のパーティーだし、かなりの人数になりそうだ。
は…いつ帰って来るんだろう…。
確か…夕方の便で着くはずだと話してたような…
もう帰って来てるのかな…。
僕は、少し考えていたが、すぐに立ち上がり部屋の電話の受話器をとった。
そして、すぐにの部屋番号のボタンを押す。
(もし…出たら何を話そう…)
少しドキドキしながらも電話の発信音を聞いていたが暫く鳴らすも一向に出る気配がない。
「まだ…帰ってないのかな…」
そう呟くと静かに受話器を戻し、溜息をついた。
携帯にもかけたかったが、多分、戻ってないのなら、まだ飛行機の中という可能性が高い…。
それだと電源は切っているはずだ。
こんなに会わなかった事はなかったから凄く寂しい…。
早く、あのの笑顔を見たいよ…。
ニューヨークでのデートも、オーリーの乱入で散々だったし…
今はもう…彼女の顔を一日一度、見れるだけでもいい。
僕は今すぐに、に告白しない事に決めていた。
今は撮影に集中して、その合い間にとの距離を縮めていく方が先だと思ったからだ。
いきなり焦って告白して、もしダメだった場合、この長い撮影中に、彼女にメイクして貰うのは辛い。
それに、きっとだって困ってしまうだろう…。
に…悲しい顔も、困った顔もさせたくはなかった。
すべて撮影が終了したら…告白をする。 ――そう決めた。
その頃には今よりもっと仲良くなれてるだろうし、それまでにに僕のことを少しづつ分かって貰えるよう頑張ればいい。
そう決めたら少し心が軽くなった。
僕はソファーから立ち上がると、パーティーの用意をするべく、まずは着ていくスーツを選び始めた…
僕は会場内をキョロキョロと見回し、を探していた。
さっき部屋を出る前にも、の部屋へと電話をかけてみたが、やはり出なかった。
あまりに遅いので心配になり、一人で少し早めに泊まっているホテル内にあるパーティー会場の広間へ来ていた。
おかしいなぁ…。今日戻ってくるって言ってたのに…
まさか…予定が変わって明日になっちゃったのかな?
撮影は明後日からだから、戻るのが明日に変わったとしても、おかしくなはいけどさ…
僕はの姿がない事に少し不安になりつつ、中を歩いて行った。
今は時間前なので会場内にはホテルの従業員が、忙しく駆け回り料理や飲み物の用意をしている。
たまに僕に気づき、"あ、イライジャウッドだ…"と小声で言っているのが聞こえてきたりするが、
その辺、僕も慣れているので聞こえないフリ。
オーエンに聞いてみようか…
どうせ彼は僕の気持ちに気づいているようだし…。
そんな事を考えていると、いきなり後ろから肩を叩かれて驚いた。
「わ…!」
「早いじゃん、リジー」
振り向くと、そこにはアルマーニのブラックスーツに身を包んだオーランドが立っていた。
「あ…オーリィ…。そっちこそ早いね」
「そ、そぉ?部屋にいても暇だしさ…」
何となく顔を見合わせる二人。
僕はオーリーも、きっとが遅いので会場へ見に来たんだろうと思った。
「まだ、皆来てないんだ…」
「ああ、そうみたいだね。そろそろ来るんじゃない?」
「えっと…もう…5時44分?」
そんな事を話していると、入り口からアスティン、ドム、ビリーの三人が入って来た。
「あれ?二人とも、もう来てたの?さっき部屋に迎えに行ったのにいないからさー」
とアスティンは笑顔で歩いて来た。
彼らも黒っぽいスーツを着ていたが今日は身内同士のパーティーなので、ラフにノーネクタイ。
「ああ、ごめん。暇だったからさ、先に来てたんだ」
僕は、そう答えると「まだ他の人達は来てないけど」 と言った。
「あ、来たよ?」
ビリーの声に皆も入り口を見ると、ショーン・ビーン、そしてジョンが入ってくる。
その後ろから、イアン・マッケラン、クリストファー・リー、ヒューゴと続く。
「ああ、揃ってきたね」 オーランドも振り返って見て、
「で…僕たちの席って、どこ?」
と席を見渡す。
「あ、あそこじゃない?名前のプレートあるし」
そう言うとアスティンが、真ん中の席へ歩いて行く。
そのテーブルには、ちょうど今、一緒に揃っている皆の名前が書いてあった。
皆は各自それぞれの名前があるところへと座る。
隣のテーブルにはショーン達が座って、「おう、お前たち、早いな」 と言いながら笑って声をかけたきた。
「お腹すいちゃってさー」 とドムが情けない顔。
そこへリヴが見知らぬ男性と一緒に会場へと入って来た。
「あ、リヴだ。今日、戻って来たのかな?」
オーランドが目ざとく見つけて呟いた。
「あ、ディヴィッドウェンハムだ。今度二つの塔で登場するボロミアの弟役のファラミアをやる人だよ」
アスティンがリブとディヴィッドの方へ顔を向ける。
「ああ、彼がファラミアやるんだ!」
「そう言えば、どことなくショーンに似てない?鼻の大きいとことか」
ビリーとドムがディヴィッドを見ながらちょっと失礼な事を言った。
リヴは、そのディヴィッドと別れ、こっちの席へと歩いてくる。
僕達と同じテーブルだからだ。
「Hi!皆、お久しぶり!元気そうね」
リヴは笑顔で席へとついた。
彼女はダナ・キャランの肩を大胆に開けた黒のドレスを着ていて、とても奇麗だった。
彼女は出番が少なかったため、自分のシーンを撮り終えると、すぐにロスへと戻っていた。
今回は二つの塔での撮影の為に、再びニュージーランドへと来た所だ。
「やあ、リヴ!久し振り!今日も格別に奇麗だね!」
オーランドが、相変わらずのフェミニスト振りを発揮している。
「あら、ありがとう。オーリーも紳士っぽくて素敵よ?」
リヴがクスクス笑いながら答えた。
「一言余計だよ、リヴー。紳士っぽいじゃなくて紳士なんだってば!」
とオーランドは少しスネたようにリヴを見る。
その顔を見てリヴは笑いながら、
「それは、ごめんなさいね?いつものスキンシップ魔ぶりを見ているから、つい本音が」
と澄ました顔。
皆もそれには笑いながら、「リヴの勝ちだね!」 と一斉に言ったので、オーランドはますますスネてしまった。
「何だよ、皆でさ!あーーあ!こんな時、だったら、可愛く誉めてくれるのにな」
と呟くと、リヴは、スタッフ用の席を見ながら、
「そう言えば…は?まだなの?久し振りに会いたいわ」
「ああ…それが…彼女、特殊メイクの勉強のためにニューヨークで特別講座に参加しててさ。
今日戻ってくるはずなんだけど…まだ来てないんだ」
僕がリヴへと説明した。
「そうなの?ニューヨークへ?偉いわねぇ…彼女、ほんとに頑張り屋さんだわ」
と言うと、ちょっと妖しく微笑みながら、
「…リジー、それにしても凄く詳しいわねぇ…。何だかのマネージャーみたいよ?」
と言った。
そう言われて顔が一気に赤くなり、「そ、そんな事ないよ!だって、そう言ってたから…」 と顔を伏せる。
するとオーランドもやはり気になっていたのか、「それにしても…遅いよね?」 とボソっと呟きスタッフのテーブルを見た。
僕もそのオーランドの呟きが聞こえ、少し顔を上げると、同じくスタッフ用のテーブルへと視線を向ける。
ああ…ほんと遅いなぁ…。一緒にパーティーに出られると思って楽しみにしてたのに…
朝から不吉な事(!)が起きたし…もしかしたら今夜は戻らないのかも…
そんな事を考えつつ、リヴの方をチラっと見た。
さっきはビックリした…。まさか…リヴまで僕の気持ちに気づいてるなんて事は…
そうだったら、他の皆にもバレバレって事じゃないか…?
そう思うと、ますます顔が赤くなってくる。
その時、入り口にオーエンとグラントの二人が現れ、僕は思わず腰を上げかけた。
が、リヴと目が合い慌てて座りなおす。
あ、危ない…危ない…!皆、座ってるのに今オーエン達のところへ聞きに言ったら、それこそほんとにバレバレだよ…。
どうせ監督の挨拶が終ったら、皆、席を立って歩き回るんだし、その時にでも、コッソリ聞いてみよう…
そう思いながらそっと息を吐き出した……
「――旅の仲間の出演者の皆さん、本当にお疲れ様でした!
いい作品に仕上がって私は大満足です!この後の公開を心待ちにしていて下さい。
そしてこれから撮影に入る皆さん!撮影はかなりハードなものになるでしょうが、皆で力を合わせて最高の作品にしましょう!
今夜は大いに楽しんで、皆とも親交を深め明後日からの撮影に臨んで下さい!では――乾杯!!」
「カンパーイ!!」
ピーター・ジャクソン監督の挨拶が終わり乾杯の音頭を取ると、会場の全員が席を立ちながらグラスを上に上げて、乾杯した。
そして一斉に座ると、各自、テーブルに並べられた豪華な料理を食べ始める。
僕がシャンパンを一気に飲み干すと、またウエイターが注いでくれる。
「あ、ありがとう…」
そう言いながらも視線は、どうしてもオーエン達、スタッフのいるテーブルへといってしまう。
(…まだ来ないな…。どうしたんだろう…何かトラブルじゃなきゃいいけど…)
そんな心配をしつつ、またシャンパンを飲むと、今度はオーランドの方を見る。
彼もまた笑顔で隣のリヴや、ドムと話していながらも、たまに視線は僕と同じオーエン達のテーブルへと流れるのが分かった。
僕は少し溜息をつきながら、食事をする気にもなれず、シャンパンを飲みつづけていると、
隣のアスティンが心配そうに声をかけてきた。
「おい、リジー。二日酔い大丈夫だったの?」
「え?!…ああ…。さっき薬飲んだら楽になってさ…」
僕は顔が引きつりながらも、やっと笑顔を作って答えた。
(さっきのは二日酔いじゃないんだけど…)
そう思いつつ、またアスティンの唇の感触を思い出しそうになって慌てて残りのシャンパンを飲み干した。
そしてウエイターに、また注いでもらうと、もう一本持ってきてもらいそれをテーブルに置いてもらった。
「どうしたの?リジー。ヤケクソで飲んでるみたいだよ?」
ビリーが不思議そうに聞いてきた。
「え?そ、そんな事ないよ?このシャンパンおいしくてさ!ハッハハハ…」
僕は動揺がバレないかとヒヤヒヤしたが笑って誤魔化していると、
オーランドが、グラスを僕に向けて、「俺にも注いでよー」 と言ってくる。
僕は、彼もきっと僕と同じ気持ちなんだろうなと思いつつ、シャンパンを注いであげた。
そのうち食事も、半ばまでくると、それぞれ席を立ち、仲の良い共演者同士で輪になり立ち話が始まった。
僕は、この時を待っていた。
僕は席を立つと、そっと監督と楽しげに談笑しているオーエンの方へと歩いて行き、声をかけようとした、その時――
会場の入り口が少し開き、小柄な女の子が入ってくるのが見えた。
僕は慌てて、その姿を確認しようと、人を掻き分け、入り口の方へと歩きかける。
すると、いつの間か僕の隣にオーランドが立っている。
「あ、リジー。今さ、に似た女の子が入って来なかった?!」
オーランドも少し慌てた様子で聞いてくる。
僕は、やっぱり目ざとい…と思いつつ、
「あ、ああ…。確かにね、僕もそう思ったよ」
と答えた。
そして二人で、入り口の方へと目をやるが、今日の参加人数が凄くて、人込みの中その女の子を見失ってしまった。
僕とオーランドは暫く必死に、その人込みの中、の影を求めて見渡してみる。
僕は視力が悪いので、あちこち見回すのが、かなり大変だ。
すると突然、オーランドが、「あ!だよ、リジー」 と声をあげた。
僕は急いで、オーランドが指を指す方向へと視線を走らせる。
すると確かに、遠くの方で、らしき女の子が見えた。
何となく二人でその方向へと歩き出しながら、僕は少しづつハッキリしてくるの影に胸がドキドキするのを感じた。
良かった!やっぱり今日帰って来たんだ!…やっと、やっと会える!
オーリーが一緒なのは…ちょっとイヤだけど…ま、今はいいや!の顔が見れるだけで。
そんな事を思いつつ、歩いて行くと、今度はハッキリとの姿を確認した。
(ああ…本物だ…。今日も特別可愛いな…)
は何やらオーエン達と笑顔で話している様子。
監督にも軽くハグをされて少し赤くなりながらも、ハグをし返している。
はディオールの淡いイエローのワンピースドレスを着ていて、それが凄く似合って可愛かった。
もちろん肩も見せているので僕はドキっとした。
(すっごく可愛い!今日はほんとにお姫様みたいだなぁ…)
僕は少しの間、に見惚れていたが、思い出してオーランドの方へと視線を向けると彼もまた僕と同じ思いだったんだろう、
少し頬を赤くして、に見惚れている様子。
そして僕の視線を感じたのか、パっと僕を見ると、コホン…と軽く咳払いをしている。
照れ隠しなんだろうか、彼にしては珍しい…。
心の中で少し苦笑いしながら、またの方へと視線を戻した。
すると誰かがへ声をかけたらしい。
は声のした方へと視線を向けると凄く嬉しそうな顔で微笑んだ――
僕は、そんな顔を見た事がなかった。
に声をかけて近付いていく男性の姿が見え、僕は(多分オーランドも)誰だろう?と必死に姿を追う。
すると、その男性は、の頭へと手をおき撫でている様子。
は少し顔を赤らめ、恥ずかしそうに…でも嬉しそうな笑顔で、その男性を見上げている。
何だか僕は胸が痛くなったのを感じた。
その時、その男性が顔を僕達の方へと向けた。
「ヴィゴ?!」
オーランドも驚いた声で、その人物の名を呼ぶ。
さっきまで確か姿が見えなかったが…遅れて来たらしいヴィゴとが嬉しそうに話している。
ヴィゴも楽しそうに笑顔でと何やら笑いあっていた。
すると突然、オーランドが二人の方へと歩き出し、僕も慌てて後を追った。
「!」
オーランドは笑顔でに声をかけると、は僕らに気づき満面の微笑で手を振ってきた。
近くで見たは、ほんとに可愛かった。
「オーリー!リジー!ただいま」
「お帰り!もうー凄く会いたかったよ!」
そう言うとオーランドは、いきなりへと抱きついた。
「キャ!ちょっと、オーリー?!…」
は当然の如く驚いて顔を赤くしている。
これには僕も驚いて、
「お、おい!オーリー!こんな時にまで何してんだよ!」
とオーランドの服を引っ張ったが凄い力でを抱き締めているのでビクともしない。
「ちょ…く、苦しいわ…オーリ…」
は苦しそうに、もがいている。
それを目の前で見ていたヴィゴも、
「こら、オーリー!が苦しがってるだろう?離してやれ!」
と呆れながら、声をかけるも、
だがオーランドは、
「やだ!会えなかった時間を埋めるんだ!」
とワケの分からない事を叫び、まだを抱き締めたまま…その時――
ドカッ!
「…いて!」
何かの音と共にオーランドが叫んだ。
その音のした方へと顔をやると…
オーランドの足元に、小さな男の子が立っていて、怖い顔でオーランドを見上げて睨んでいた。
オーランドも、首を後ろにやり、自分の足元に立っている男の子を確認して目を丸くしている。
すると――
「を離せ!この変態エルフ!」
いきなり、そう叫ぶとその男の子は、またもオーランドの足を蹴った。
「いて!何だよ、このチビスケ!」
オーランドも、いきなりの蹴り攻撃に子供が相手と言えど、少しムっとして、その男の子を見下ろした。 ・…その腕には、まだ、しっかりとを抱いたままなのだが――
「ヘンリー!」
ヴィゴが慌てて、その男の子の方へ駆け寄った。
「ダメだろ?蹴ったりしちゃ…」
「だってダディ!が変態エルフに、"セクハラ"されてるよ?!」
「「ダディ?!」」
僕とオーランドは驚いて同時に声をあげた。
するとヴィゴは苦笑いをしながら、
「ああ…。この子が俺の息子のヘンリーだ。 ―ああ、オーリー悪かったね、息子が…」
と謝ってきた。
「なに?どうしたの?ちょと…オーリ…離して…」
はオーランドの腕にスッポリ入ったままなので、今の状況が聞こえてはいるのだが全く見えていなかった。
僕は思い出しオーランドの腕を離そうとした時、またもそのヴィゴの息子、ヘンリーが怒鳴った。
「が嫌がってるだろ?!早く離してやれよ!変態!セクハラ王子!」
そう言われ、オーランドは顔を真っ赤にしながらも、
「僕は変態じゃないんだよ?これは親愛のしるしなんだから…
―それに…そんな言葉を使っちゃいい大人になれないぞ~?」
と優しく声をかけた。
「うるさい!はダディと僕のなんだから!早く離せ!」
と言って、今度はオーランドの服を引っ張る。
それにはオーランドも根負けしたのか、渋々を解放した。
すると、やっとまともに空気を吸えたので、は、「はぁーー」 と息を吐き出している。
「、大丈夫かい?」
僕は心配になり声をかけた。
「え、ええ…もう少しで危なかったけど…」
と僕の顔を見て少し微笑んだ。
久々に見たの笑顔に胸がドキドキする。
するとが、いきなり、しゃがみこんで、
「ヘンリー、人を蹴っちゃダメでしょ?」
と、そのヴィゴの息子の頭を撫でたので僕は驚いた。
それには、あの生意気な(!)ヘンリーも、
「ごめんなさい…でも…が襲われてたから助けようと思って…」
と何とも素直に答える。
「ありがとう。その気持ちは嬉しいわ。でも…どんな理由でも人を足蹴にしちゃダメよ?自分がされたら嫌でしょう?」
「…うん、そうだね。僕が悪かったよ…。 ――おい、変態エルフ、蹴っちゃってごめんね!」
と謝っているのか、バカにしているのか分からない言葉でオーランドへ声をかけた。
だがオーランドも、変態エルフ…とまで言われて嫌な顔をしつつも、ここで怒ったら大人気ないと思ったのか、
ヘンリーの目線までしゃがむと、
「いいんだ。でも僕は変態じゃないからね?」
としっかり釘はさしていた――!
「でも…、ヴィゴの子供と知り合いだったの?」
僕は疑問に思ったことを聞いてみた。
「え?ええ…。ヴィゴが撮影に参加してすぐの時、撮影を見に来た事があって…。
リジー達は他の場所で別のシーンの撮影をしてた時だから会ってないでしょ?
私は、その時、ヴィゴの担当で一緒に行動してたの。だから――」
「ああ…そう言えば一度、そんな時があったね!」
そう言われて思い出した。
「オーリーは、まだレゴラスのシーンがない時だから、毎日、剣の練習してたんじゃないかしら?」
はオーランドの方を見て言った。
「あ、そっか。だから会ってなかったんだ!」
「その時、僕が剣の練習と同時に撮影にも参加してたから、その間一人になってしまうヘンリーをが相手してくれてね。
それで、すっかりなついてしまったんだ」
ヴィゴは苦笑いしながら僕らに説明した。
「そうなんだ…。 初めまして、ヘンリー。僕はイライジャウッド、宜しく」
僕はヘンリーの前へしゃがむと手を出した。
「コチラこそ、よろしく!僕、指輪物語が大好きなんだ!フロド役、頑張ってね!」
と言いながらヘンリーも手を出し握手をしながら笑顔で言った。
それを見てオーランドもヘンリーの前へとしゃがむ。
「僕は、オーランド・ブルームだよ、さっきはごめんね。宜しく」
とオーランドも手を出すと、ヘンリーは、「もうに抱きつかないって約束するなら握手してあげるよ?」 と澄ました顔。
するとオーランドのオデコに怒りマークが、ピクっと浮きでたものの、そのまま引きつった笑顔を浮かべて、
「そ、それは出来ない約束だな…。あれは僕なりのコミニュケーションの取り方なんだ」
とヌケヌケと言った。
ヘンリーは、それを聞くと、
「コミニュケーションでもダメ!は照れ屋なんだ!かわいそうだろ?」
と子供にしてはマトモなことを言う。
僕は心の中でヘンリーを応援したくなってきた―!
(いいぞ!ヘンリー!そうだ、もっと言ってやれ!それくらいじゃオーリーはへこたれないぞ?!)
「ヘンリー、やめなさい。オーランドは、悪気があるわけじゃないんだから」
とヴィゴは優しくヘンリーの頭を撫でると、そう言った。
「でもダディ!はダディと結婚する人なんだから、他の人に抱き締められたら、僕イヤだよ!」
………んな?!
な、な、なにーーー?!ダ、ダ、ダディとけ、け、結婚だぁーー?!
僕は、そのヘンリーの叫びに唖然となった!
ヘンリーのダディと言ったらヴィゴ!とヴィゴが、け、け…結婚?!
とヴィゴは…付き合ってるのか?!!
オーランドも鯉のように口を開けて驚いている。
「ヘンリー…!誤解されるようなことを言うんじゃない。―悪いね?…すっかり君のことを気に入ってしまったようで…
もう最近、こんなことばっかり言ってるんだ…気にしないでくれ」
ヴィゴが苦笑いしながらへ、そう声をかけるとは真っ赤な顔をしながら、
「い…いえ…そんな…でも、あの嬉しいです…そんなに気に入ってもらえて…」
と嬉しそうに微笑んでいる。
僕はヘンリーが言った言葉が、ただの彼の希望だと聞いて安心するも、そのの嬉しそうな顔を見て少なからずショックを受けた。
…もしかして…ヴィゴのことが好きなのかな…
さっきだって…ヴィゴが声をかけた時、すっごく嬉しそうな顔で微笑んでいたし…。
僕はオーランドの方をチラっと見た。
オーランドは別に気にする様子もなく、「何だよ…子供の戯言か…」と安心した顔で呟いている。
そして、「それより、、遅かったね?今、来たの?」と聞いた。
「それが…ニューヨークの方が強風で少し飛行機、飛ぶのが遅れて…。欠航になったらどうしようかと思っちゃった…」
と苦笑いしている。
僕も、「そうだったんだ…。大変だったね」 と彼女に声をかけると、は、
「でもパーティー間に合って良かったわ。急いで着替えて来たの」
「…そのドレス、凄く似合ってるよ」
僕がそう言うと、すかさずオーランドも、
「ほんとに!、お姫様みたいだよ!すっごく奇麗だ!」
と大げさに両手を広げている。
は恥ずかしそうに、「お、お姫様って…!そんなお世辞はいいわよ…」と苦笑いしながら言った。
「お世辞じゃないよ!ほんとに奇麗だよ?それに、王子様の僕が言うんだから間違いないよ!な?リジー」
僕はオーランドの相変わらずのセリフに苦笑いしつつも、を見て、「うん!ほんとに奇麗だよ!お姫様だ」 と微笑んだ。
は顔を赤くして、
「…ありがとう。 ――二人も凄く素敵よ?とっても紳士だわ」
「ほんとに?やったね! ―ほら、やっぱりは、ちゃんと誉めてくれる!」
とオーランドは嬉しそうに喜んでいる。
「え?私がちゃんとって…?」
「いや、さっきさ!リヴが僕のこと・…」
オーランドがさっきリヴに言われたイジワルをに説明し始めた。
僕はその話を笑いながら聞いている、の笑顔にちょっと悲しくなる。
あーあ…どんどん贅沢になっていってしまう。
の笑顔が他の人へ向けられると…凄く胸が痛いよ…。
―その時、
「僕は皆に挨拶してくるよ。さ、行くぞ?ヘンリー」
とヴィゴはヘンリーの手を掴かみ、僕達へ声をかけてきた。
だがヘンリーはヴィゴが歩き出そうとすると、グっと足に力を入れるようにして踏みとどまった。
「ヘンリー?どうした?」
ヴィゴは驚いて振り向く。その問いかけにヘンリーは、
「僕、と一緒にいる…一人だと危ないから」
と僕とオーランドの方を見て言った。
う…敵対視されてる?…子供は何気に敏感だからな…僕とオーランドの気持ちを一瞬にして見抜いたかな…
ヴィゴは溜息をつくと、
「ヘンリー、我がまま言ったらダメだよ。だってパーティーを皆と楽しみたいんだから」
と諭すように話す。が―
「あの…いいですよ?私、ヘンリーと一緒にいますから」
とが微笑みながら言った。
(ええ!そ、そんな…ヘンリーが一緒だと、と楽しく話せないじゃないか…!)
僕はヴィゴが断るのを心の中で必死に祈っていた。 ――オーランドは、そのまま両手を組んで、実際に祈ってた―!
「いや…でも、それは悪いよ。今日は楽しむ為のパーティーなんだし子供がいたら大変だろう?」
「そんな事ないです!ヘンリーくんと一緒の方が楽しいもの」
とはヘンリーへ微笑みながら言うと、ヘンリーも得意げな(!)な顔でを見上げて微笑んでいる。
僕はヴィゴとの会話を聞きながらも、そりゃあ必死に祈りつづけた。
――オーランドは目まで瞑って組んでいる両手に力をいれ、何やらブツブツ呟いてさえいる―!
が…僕らの願いも空しく…ヴィゴが口を開いた。
「…そうかい?じゃあ…お願いしようか…」
「ええ!喜んで!」
は笑顔でヘンリーの手を掴むと、
「ヴィゴは他の人達と楽しんで来てください」
とヴィゴへ可愛く微笑んで言った…
ヴィゴも嬉しそうに、
「ありがとう。じゃあ…ヘンリー、の言う事をよく聞いて我がまま言ったらダメだぞ?困らせるなよ?」
と念を押す。
「分かってるよ!僕がを困らせるはずないだろ?ちゃんとエスコートするよ」
とませた事を言っている。
僕とオーランドは、それを聞きながら思い切り溜息をついた…。
「!お久しぶり!」
リブがに駆け寄り、彼女を思い切り抱き締めた。
「リヴ…!お久しぶりです!」
も嬉しそうにリヴを抱き締めて、
「今日も凄く奇麗です」
「ありがとう!でもも凄く奇麗よ!」
リヴは嬉しそうな顔での頬へとキスなんてしている。
僕は何故だかリヴにまで嫉妬してしまった(!)
するとオーランドが、それを見て、「あ、俺も、俺も!」 と手をあげた。
リヴは、「え?オーリーも?仕方ないわね」 と笑いながら、オーランドの頬へキスをしようとすると、
「違うよー。僕がするの!」
と言って何故かオーランドは、リヴではなく、の方へ近付き、顔を近づけようとした。
僕はオーランドのやる事が分かって、慌てて、「お、おい!オーリィ…!」 と文句を言おうとした、
まさにその時、オーランドの動きがピタっと止まる。
僕は驚いて、オーランドの後ろを見ると、
そう、ヘンリーがオーランドのスーツの裾をグイっと引っ張って凄い力で止めていたのだ。
「ダメだよ!セクハラ王子!」
と顔を真っ赤にして怒っている。
は驚いた顔をしていたが、オーランドがやろうとしていた事に気づき、顔を赤くして、
「も、もう!オーリーったら…油断できないわ」
と頬を膨らませた。
そのを可愛いなーと思いつつ、この時ばかりは、ヘンリーを抱き締めたくなった。
その光景を見ていた、リヴは、「まったく…相変わらずね?オーリーは…」 と呆れ顔。
「コ、コラ!離せよ!」
オーランドは必死に、スーツを引っ張り、ヘンリーと格闘していた。
(あ~あ…アルマーニのスーツが伸びてくよ…)」
と苦笑いしつつ、へ、「あ、シャンパン飲む?」 と言ってウエイターが運んでいたトレンチの上からグラスを二つ取った。
「ええ、ありがとう」
は笑顔で、そのグラスを受け取ると、
「あ、リジー、ニューヨークでは、本当にありがとう。楽しかったね」
と笑顔で言ってくれた。
僕はそれだけで嬉しくて、「あ、うん!また行こうね?」 とさりげなく誘った。
も笑顔で、「うん、また遊びに連れてってね」 と言ってシャンパンを飲むと、「あーおいし!」 と嬉しそうな顔。
僕は、その笑顔を見れただけでも幸せを感じた。
そこに、リヴが、
「あ、ディヴィッド! ―、紹介するわ、彼、今度の撮影から参加するディヴィッド。ファラミア役なのよ」
と言ってデイヴィッドを手招きしている。
「やあ、イライジャ。初めまして」
爽やかな笑顔で歩いて来たデイヴィッドは、まず僕に挨拶をしてきた。
「あ、初めまして!これから宜しくお願いします!」
僕も笑顔で挨拶して、二人で握手をすると、リヴが、
「デイヴィッド、この子はメイク担当のよ。今は特殊メイクの勉強もしていて凄く頑張り屋さんなの。
私の妹みたいな子だから可愛がってあげてね?」
と言った。
「そうか、君がか。どうぞ、宜しく!」
ディヴィッドも笑顔でに手を出した。
「そんな…妹みたいだなんて、もったいないわ…。 ―どうも、初めまして。です」
とも少し恥ずかしそうにしながらディヴィッドと握手をする。
「いやあ、リヴが、あまりに君のことを誉めるんで、どんな子なんだろうと一度会ってみたかったんだ。
ほんとに可愛い子だね?リヴ」
「フフフ、そうでしょ?皆で可愛がってるの。ほんとに、よく働くのよ!」
そう言われては、ますます顔を赤くして、「い、いえ!あの…この仕事が好きなだけで…」 と俯いてしまう。
僕はそんなのことを本当に好きだ…と感じていた。
そして気になっていたことをリヴに尋ねた。
「そう言えば…リヴとディヴィッドって知り合いだったの?」
「ええ」
とリヴは満面の笑顔。
「僕はリヴの婚約者と友達でね、彼を通じて知り合ったんだけど、今回、同じ作品に出演すると知って驚いたんだ」
とディヴィッド。
「へえ!そうなんだ!え?リヴ、婚約したの?おめでとう!」
「ありがとう…!」
リヴも嬉しそうに答える。
「わぁ、リヴ、おめでとう!」
と、も嬉しそうだ。
「ありがと!」
リヴも嬉しいのか、またを抱き締めている。
一方、オーランドとヘンリーは、まだ服の引っ張り合いをしていた――!
「お前なんて、エルフの王子じゃなくて、"エロフ"の王子だ!紳士って言うのは、彼みたいな事を言うんだよ!」
とディヴィッドの方を見て言っている。
「なにぃーー?!失礼な!僕は、エロなんかじゃない!この、おませチビスケ!」
とオーランドも、すっかり大人の威厳などなく、同じレベルで戦っていた。
僕と、リヴとディヴィッドは、そんな二人を放っておいて軽くつまみながらお酒を飲みだした。
「は何を飲みたい?」
僕が聞くと、はシャンパングラスを持ち上げて、
「私、まだシャンパンでいいわ。私、シャンパン大好きなのよ」
と言った。
「そうなんだ!シャンパンなら今日は沢山あるよ!何だか種類もいっぱい…ドンペリニヨンもあったけど…」
「あ、私、ヴヴクリがいいわ。ドンペリ二ヨンよりも好きなの」
「え?ヴヴク…?」
「ヴヴクリ…あ、ごめんなさい!ヴーヴークリコよ?日本だと略しちゃって、ヴヴクリって言うの」
とは笑いながら教えてくれた。
「へぇー日本で、ヴーヴークリコは、"ヴヴクリ"って言うんだ。面白いね」
「日本は最近、何でも略しちゃうのが流行ってるの。ドンペリ二ヨンは、"ドンペリ"って言ってるわ」
と、は苦笑いしている。
「ドンペリ?へー!そうなんだ!そういうの聞くと面白いな」
僕は、そう言いながら近くを通ったウエイターに、「あ、ヴーヴークリコ、下さい」 と声をかけてグラスを受け取った。
「はい、」
「ありがとう」
「あ、私達も、同じものを二つお願いします!あと苺も!」
話を聞いていたリヴも頼む。
リヴはシャンパングラスと、苺のお皿を受け取ると近くのテーブルへと置き、に、「苺入れる?」 と聞いた。
も、「ええ、是非」 と言ってリヴにグラスを渡している。
僕とディヴィッドは顔を見合わせ、「え…何?苺を入れるって…」 と問いかけた。
「ああ、あのね、に教えて貰ったんだけど…。こうやってシャンパングラスに苺を少し潰して入れると、
ほんのり苺の香りがして味も甘くなって美味しいの!」
「え?そうなの?」
「ええ、私、日本で、よく、こうして飲んでたのよ」
とは笑った。
「じゃあ、僕も入れてみようかな!」
「じゃ、僕も」
デイヴィッドまで興味が湧いたのかグラスを、テーブルへと置いた。
「フフフ…じゃ、皆、入れるのね?」
リヴは笑いながら、皆のグラスへ苺を入れて潰していく。
「はい、出来た」
それぞれのシャンパンが、苺を潰したおかげで、ほんのりとピンク色になった。
リヴは皆にそれぞれグラスを返すと、「じゃ、乾杯!」 とグラスを持ち上げる。
「カンパーイ!」
僕達は4人で乾杯すると、その苺入りのシャンパンを飲み干した。
「うわ、美味しい!何だ?これ!」
「ほんとだ!苺の酸味がシャンパンと合うな!」
僕とディヴィッドは、ちょっと感動した。
は笑顔で、
「ほんと?良かった!男性には、どうかなと思ったけど…」
「うん、凄く美味しいよ!思ったより甘くなくて、甘いどころか、香りだけ強くて味は爽やかだね」
僕はもう一度シャンパンを注ぐと、そう言った。
「私も最初、飲んだ時は感動しちゃったの。今まで飲んだ事なかったし…あとは葡萄も美味しかったわよ?」
「ああ、葡萄も美味しそうだね!」
僕は少し酔いが廻って楽しくなってきた。
そこへ僕のささやかな楽しみを奪うように――
「リジィ…助けてよ!!このチビスケ、しつっこいんだ!」
とオーランドの悲痛な叫びが後ろから聞こえてきた…。
皆でスパークリングワインを飲んで楽しく話していると、ヴィゴが奇麗な女性を連れ立って戻って来た。
そして、まだオーランドを掴んでいたヘンリーの手を引き剥がしてくれて、
オーランドもやっとホっとして、「助かったよぉ~、ヴィゴ!」 と抱きついている。
そしてヴィゴの隣で微笑んでいる、その女性に気づき、「あれ…ヴィゴ、この女性は?」 と首をかしげた。
するとヴィゴは少し照れくさそうに、
「ああ…僕の…まあ、なんと言うか恋人かな? ジーンと言うんだ」
と皆に紹介した。
「ええええ!ヴィゴの恋人?!」
皆も驚いて一斉に、微笑みあっている二人を見た。
「どうも、初めまして。ジーンです」
そのヴィゴの恋人、ジーンが皆に挨拶をする。
「どうも…」
皆も驚きながらも、次々に挨拶をした。
だが僕は、ヘンリーがさっきと違い少し元気がなく、そっぽを向いてるのに気づいた。
そしての隣へと隠れると、彼女の手をギュっと掴んでいる。
は、まだ驚いた顔でヴィゴとジーンの方を見ていたのだが、ヘンリーが手を握るとハっとして下を向いた。
「どうしたの…?ヘンリー」
が少しかがんで話し掛けている。
でもヘンリーは何も答えず、首を振った
「ヘンリー、いつまでもに、くついてたらダメだろう?少し自由にしてやりなさい」
ヴィゴは呆れた顔でヘンリーに言うも、ヘンリーは黙ったまま。
ヴィゴは溜息をつくと、「もう遅いし寝る時間だ。部屋に戻るぞ?」 と言って、ヴィゴはヘンリーの腕を掴む。
「やだ!まだ眠くないよ!」
急に、そう怒鳴り、ヘンリーはから離れようとしなかったが、ヴィゴが少し怖い顔で
「いいかげんにしなさい」
と静かに、でも怒った口調で言うと、ヘンリーも渋々、その手を離す。
「じゃあ、僕はヘンリーを部屋へ連れて行くよ。皆は、まだ飲んでるといい」
「ええ、分かったわ。大変ね、お父さんも」
リヴは微笑みながら言った。
「ああ、まあね。じゃ、お先に」
ヴィゴは、そう言うとヘンリーの手をとり、ジーンを連れて会場から出て行った。
だがヘンリーは最後までの方へ寂しそうな顔で小さく手を振っている。
も、そっと微笑んで手を振りかえしていた。
「はぁーやっと、あのチビスケがいなくなったよ!」
オーランドは大げさに溜息をつくと、お酒をあおった。
「オーリーとヘンリーは天敵のようね」
リヴは笑いながら言うと、
「それにしても…ヴィゴの恋人なんて驚いちゃった」
「ああ、ほんと!普段、何もそういう事は話さなかったしな」
オーランドは、今度はワインを飲みながら笑った。
そしてリヴや,ディヴィッドと何やら次の撮影話で盛り上がっている。
僕は、3人の楽しそうな会話を聞きながら、ふとの方を見た。
すると彼女は、いつの間にか庭へと出られる大きなベランダから外へ出て行くのが見えた。
僕はチラっと、オーランド達の方へ視線をやったが3人は少し酔っているのか会話に夢中になっている様子。
3人に気づかれないように僕は後ろへと後ずさり、そっとの後を追って外へと出た。
外は春とは言え、少し肌寒いくらいの気温。
そのせいか庭には誰も出てきてはいない。
僕はその広い庭を歩いて行ってを探すと、彼女は庭の真ん中にある大きな噴水の前に腰をかけて空を見ていた。
その、どことなく寂しげなの顔に声をかけようか迷ってその場をウロウロしていた。
すると、―
「…リジー?」
いきなり名前を呼ばれ、驚いて顔をあげる。
が僕の方へと振り返り、
「どうしたの…?」
と不思議そうな顔をしていた。
僕はなるべく普通に笑いかけると、
「いや…ちょっと飲みすぎて顔が熱くて、風にあたりに来たんだ…」
と言いながらの方へと歩いて行った。
は少し微笑むと、「そう…。私も…人の多さに、ちょっと酔っちゃったかな…」 と呟く。
僕はの側へとあるいて行くと、「隣…座ってもいいかな…?」 と聞いてみた。
は笑顔で、「どうぞ」 と言うと少し横へずれてくれる。
僕は少し緊張しつつ、そっと隣へと腰をかけた。
後ろで噴水の水音がサーサーっと静かに聞こえてくる。
沈黙が何となく気まずくて、僕は何か話さなきゃ…と頭の中であれこれ考えていると、
「今夜は…月が丸くて明るいわね…」
と、ふいにが口を開いた。
その息が白く空へと消えていく。
僕は月明かりに光る、の細くて白い肩に目がいき、ドキっとしたが自分のスーツのジャケットを脱ぎ、
そっと彼女の肩へかけてあげた。
「リジー?」
は少し驚いて僕の方を見る。
「今日は…寒いから風邪引いちゃうよ…。また倒れちゃったら心配だしさ…」
僕は軽く笑いながら、そう言うと、は少し微笑んで、
「…ありがとう…。リジーっていっつも優しくしてくれるのね…どうして?」
と聞いてきた。
それにはドキっとしたが、なるべく普通に笑顔を見せる。
「…え?そ、そうかな…。誰でも同じことすると思うよ…」
はちょっと前を見ると、
「…そうかな…。 ―そう言えば…リジーは初めて会った時から色々と優しくしてくれたよね。
私が特殊メイクが上手く出来なくて悩んでた時も練習台になってくれたりして…"頑張って"って励ましてくれてた…」
「そ、そうだっけ…?」
僕は少し顔が赤くなりながら、そんな事まで覚えててくれたのか…と凄く嬉しくなった。
「それに…この前、私が倒れた時も心配して部屋に来てくれたし…ニューヨークでも、
一人で寂しくてどうしようもなかった時にタイミングよく電話なんてくれるし…。 リジーって私のスーパーマンみたいだわ」
はそう言うと少し笑いながら空を見上げる。
僕はそのの言葉にビックリした。
そんな…まさかが、そんな風に思ってくれてたなんて…
しかも…あんな笑顔を見せてくれてたけど…ニューヨークに一人でいたのは…本当は不安だったんだ…と言う事を、この時、初めて知った。
は少し寂しげに空を見上げているから僕は彼女を抱き締めてあげたくなったけど、
そこはグっと我慢して、そっとの頭を撫でた。
「どうしたの?・…。今も何だか…寂しげだよ?」
僕がそう言うと、は少しだけ驚いたように僕を見る。
その時…の瞳から大きな涙が一粒零れて、僕は驚いた――
「ど、どうしたの?!」
僕は慌てて立ち上がってしまった。
それでもの涙は止まらずポロポロと零れてきて、は慌てたように何度も手で拭っている。
「ご、ごめんなさい…!やだ…私ったら何で涙なんか…」
と必死に笑顔を作ろうとしている彼女を見て、僕はの頬へと軽く触れて涙を拭いてあげた。
するとは少しビクっとして顔を上げると、一言、
「…やめて… ――こんな時は優しくしないで…」
と呟いた。
僕は何だか悲しくなり、「…は…ヴィゴが…好きなんだね…」と、思わず口に出してしまった。
「…え?」
は驚いて声をあげる。
「だって…さっきジーンを紹介された時から…少し様子が変だったし…」
「あれは…そ、そんなんじゃないの…」
「どういうこと・…?」
「彼の事を好きと言うか…会った時から…憧れてて…それだけよ?」
「嘘だ。だったら何で今、泣いてるの? ―ヴィゴの事が…好きだからでしょ?」
「それは…自分でも、よく分からない…。確かに胸が痛くなって…ショックだったけど…」
「胸が痛いのは…その人が好きな証拠だよ…。僕には分かるんだ…」
―だって…僕も今、凄く胸が痛いから――
は涙で濡れた顔で、僕の顔をジっと見つめてくる。
僕は我慢していた理性を取り払って優しくを抱き締めた。
「リ、リジー…?」
が少し驚いたのか体をビクっとさせた。
「泣かないで…。 僕は…の笑顔が好きなんだ…」
頑張って(!)そう言うと顔が赤くなるのが分かった。
(今は…ここまで言うので限界だ…! これ以上何か言うと、僕の気持ちがバレちゃうし…)
すると暫くは黙ったままだったが、少し顔をあげると、
「…ありがとう、リジィ…。そう言ってくれて…凄く嬉しいわ…」
と微笑んでくれた。それは確かに僕の好きになったの笑顔だった――
だが、その時、の大きな瞳を間近で見て、今朝の、あの夢を思い出してしまった(!)
(うわ…ヤバイ…!そっちの理性は取り払っちゃったらダメだよ、俺!!)
僕はもちろんアスティンの顔ではなく、夢の中で、少し顔を赤くして僕を見上げてきたの顔を思い出し、
心の中で必死に理性と本能をバトルさせていた。
本能が囁いてくる―
(…ほら、今朝のおぞましい出来事の特効薬が今、僕の腕の中に…)
理性が叫ぶ―
(…だめだよ!そんな事したら取り返しがつかない…オーリーと同じ(!)になちゃうよ…!)
僕はそんな事が頭の中をぐるぐると巡り、軽い眩暈を覚えて、慌てて、
「は…ヴィゴのどこに憧れたの?」
と聞きたくなかった事、つい口に出してしまった。
「え…?どこって…。 あの…優しくて大人で…息子さんを愛してて…どこか…うちのパパと似てたの…」
は少し恥ずかしそうに言うと、僕の胸へ顔を伏せたのだが…。
僕は一瞬、耳を疑った。
今…は何て言った?!……確か…"パパ"って…言わなかったか?!
パパ…!パパ?!
そ、そうか!にとってヴィゴは…男性とかの憧れじゃなく…パパなんだ…!!!
僕は今の今まで僕の心を包んでいた霧が一瞬ではれていくのが分かって、
を抱き締めてる腕に少し力が入ってしまった。
「ちょ…リジー?どうしたの…?」
がちょっと驚いたように聞いてくる、が僕は嬉しくて思わず噴出してしまった。
「プ…っ パパって…!、ヴィゴが聞いたらショックを受けるよ?アハハハ…!」
つい笑ってしまった。
だが、は、それを聞いて、
「もう!リジー?!…何で笑うの?!」
も少々心外といった感じで言ってくる。
「ごめ…ごめん…!だって…憧れって言うもんだから、僕はてっきり男性としてって事かと思ったよーー」
まだ笑ってる僕に、は、
「もう!だって…パパとは小さい頃別れ別れになってしまったから…ヴィゴが彼女を連れて来た時に、
また遠くへ行っちゃうようで、その時と同じように寂しく感じたんだもの!」
と、スネている様子。
(もう!は何て可愛いんだろう!)
僕は、そんな彼女が凄く可愛くて、どさくさにまぎれて、ずっと抱き締めたまま。
"離して"って言われるまで、離してあげないんだから…!
そう思った瞬間…いきなり大きな叫び声が聞こえた。
「ーーー!!どこぉーーー?!」
(げ!オーリーだ!!)
僕は慌ててを腕から解放した。
ちょうど会場のベランダ入り口からは大きな噴水が目隠しになって僕とは上手い具合に見えない位置だった。
「あ!ここにいたの?!もうー気づいたら二人がいないから慌てて探したよ!こんなとこで二人きりで何してたのさ!」
オーランドは凄い剣幕で怒っている。
は笑いながら、
「もう…酔っ払ったの?別に、ここでアルコール冷ましてただけよ?」
とも苦笑いで答えている。
オーランドは少し赤い顔で、
「ほんとに?!じゃあ、何でリジーのジャケットなんて羽織ってるのさ!」
と、疑いの目で今度は僕を見た。
「それは・…が肩の開いたドレスだから寒いと思って貸しただけだよ…」
「ふぅーーん?」
オーランドは、まだ納得いかない様子だったが、
の手をとると、
「じゃ、早く中へ行こう?そろそろパーティー終るしさ!」
とぐいぐいと引っ張ってあるいて行く。
も、「え?ちょっと待って!オーリー!」 と言いながら歩いて行ったが途中、僕の方をチラっと振り返ると、何かを呟くように口を動かした。
声には出さず…でも僕には、ハッキリと、その言葉が届いた。
"あ り が と う…"
は、そう言った。
それだけで胸がドキドキとして、凄く幸せな気分になる。
僕は暫く、その場に残りながら空を見上げてた。
さっき…を抱き締めた温もりが、僕の腕の中でまだ残っているのを感じながら――
Postscript
キャースランプです(汗)全然すすまなかったです・…ゴーン。しかも夢オチからスタートだし(苦笑)
申しわけ~・…(土下座)今回、諦めて、このままアップしちゃいました(苦笑)
集中力がないもので、一度ドツボにハマると、もう立ち直れませんの…オホ…
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】
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