Chapter.6....You and the "CMOON"                      I WISH YOU...




ゴロリ…


僕は寝返りをうって窓の方を見た。
カーテンを閉めずにベッドに入ったままなので窓の向こうには、うっすらと三日月がぼやけて見える。

僕は、なかなか眠れなかった。

パーティーも終わり、先ほど部屋へと帰って来て一人になった時、の言った言葉を思い出しながら
落ち着いて考えてみると、あれは本当の気持ちだったのかな?と少しづつ疑問に思えてきたのだ。
ヴィゴのことを父親のように感じてたというのも…もしかしたら咄嗟に、そう言ってしまったんじゃないかと僕は思った。

あの時はがヴィゴのことを好きだったら、どうしようと思ってたし一瞬素直に信じて喜んでしまったけど…
実際のとこは、どうなんだろう?
やっぱり泣くのは男性としても好きだということなんじゃないのかな…。
それに…知らなかったけど、は子供の頃に父親と別れ別れになったと言っていた…。

「はぁ…」

僕は溜息をついて、また寝返りをうった。

僕って、の、そういうとこ…何も知らなかったんだよな…。
何だか眠れないよ…
明日から撮影も再開するってのに。

今度の撮影は…皆、バラバラでの撮影になる。
特殊メイクを担当するは、その日の予定で、あちこちへと出向く事になるだろう…。
そうなると毎日会えるということもなくなってしまう…

その事でも憂鬱だった。

ヴィゴや、オーリー達の方へと参加した日は・… 一日中、落ちつかなさそうだな…俺。
ま、でもヘンリーと、ヴィゴの恋人も暫くは滞在していくらしいし…。
オーリーのことはヘンリーに任せておいて大丈夫だろう(!)
あんなに敵視していたし…って子供に頼ってる僕ってどうなんだ…?

ちょっと溜息をついた。

情けないかな…。
でも本当にヘンリーは、僕の気持ちを代弁してくれてるような気がするし…(!)

僕はオーリーがヘンリーにアルマーニのスーツを引っ張られて、パーティーの最後、

「ああ…やっぱ伸びちゃった…」

と悲しげに呟いてたのを思い出し、プッ…と吹き出してしまった。

(ほんと…犬猿の仲になりそうだな、あの二人…)

あんなに年齢が離れてるのに、よく、まともにケンカになるものだ…と僕はおかしくなった。

(僕も…ヘンリーに睨まれないように気をつけよう…)

そう思ったら悪寒がして僕は布団の中へと潜りギュっと目を瞑る。
だけどさっき抱きしめたの温もりを思い出して胸がドキドキしてきた。

うわぁ…そう言えば、どさくさに紛れて抱きしめちゃったんだよなぁ…ダメだ…鼓動が激しくて苦しくなってきた…!


そして、ある意味、また眠れる状態ではなくなったのだった…。









「おはよう、リジー。…あら?寝不足?目が少し赤いんじゃ…」
「あ、…!おはよう…これは夕べのお酒かな?大丈夫だよ…それより今日はスタジオ担当なんだね!」
僕は朝から思いがけず、に会えて思い切り笑顔になった。

「ええ、今日はオーエンとグラントがロケ隊の担当なの。何だかローハンへ向うシーンの撮影で、
カンタベリーサンデー山やポッツ山へと行くから女の子だとちょっとキツイって言われて…今日はカンタベリーの方らしいわ」
「そうなんだ…。そっか…山でのロケって本当に大変だからね…!」

僕はに椅子を向けられ座りながら笑顔で答える。
だが、は浮かない顔をして、

「でも…女の子だからって言われて少しショックだったな…。私は仕事ならどこへ行っても頑張りたいと思ってるのに…」

はそう言うと少し悲しげな表情で俯いたので僕は慌てて、

「で、でも本当に凄いんだよ?山でのロケは…ショーンも根を上げてたし…
ま、彼はヘリコプターに乗りたくなかっただけみたいだけどさ!」
「え…?ヘリコプター?…あのショーンが?そうなの?」

と、は以外という顔で僕を鏡越しに見てくる。
僕は鏡越しで目が合い、少しドキリとしたが何とか笑顔で、

「う、うん…。前に雪山でのロケの時…ヘリに乗っての移動だったんだけど、
風で凄い揺れたことがあってさ!それにショーンは参っちゃって…
いきなり次の別の山でのロケの時にヘリコターは二度と乗らないとか言って何とロケ現場まで歩いて登ったんだ!
片道、二時間はかかるのにだよ?」
「ええ?!嘘!あのショーンが…想像できないわ!」

と、も心底、驚いている様子。
僕は笑いながら、言葉を続けた。

「それでさ、僕らがヘリコプターで飛んで上がっている時に下にショーンが山を登っているのが見えたんだ!
その時、PJが、"Hey!みんな見てみろよ!ショーンが、はいつくばってるぞ!"って笑い出してさ!
皆で一斉に下を見て大笑いだったんだ。 
――だってショーンは"ボロミア"の衣装のままで必死に山を登ってたんだから!」

そう言って僕が笑うとも、「ええー!ボロミアのまま?私も見たかったかも…!」 と言いながら笑いだした。
そののいつもの笑顔に少し安心すると、「ショーン、今頃クシャミしてるかな?」 と言って笑った。
は暫く笑い転げた後に、

「…ああ…お腹痛い…!ショーンったら可愛いわ!帰っちゃって凄く寂しいな…」

と、呟いている。

「そうだね…でも追加撮影があるかもしれないし、その時は、またPJが無茶言って戻って来いとか言うんじゃない?」
「そうかも!監督ったら、突然、思い立つから…」 

も微笑んだ。
そこにドアが開き、アスティンが眠そうな顔で入って来た。

「おはよう~…」
「アスティン、おはよう!何だか眠そうね?」 

と、は笑いながら声をかける。

「うん…昨日は飲みすぎちゃったかなぁ…」 
「だってアスティンってば、シャンパンとワインと何本飲んだ?凄い飲んでたよ?」

と、僕は笑った。

「う~…そうだっけ?後半、覚えてないかも…」 

と、アスティンは、グッタリと椅子へと座る。

「…大丈夫?お水、飲む?」

が優しく声をかけるとアスティンは甘えたような顔で(!)「うん…飲みたいかも…」 と呟いている。
それを聞いては微笑むと、トレーラーの中にある小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、

「はい」 

とアスティンへと渡した。

「ありがとう」 

とアスティンは、それを受け取って美味しそうに飲んでいる。
僕は、それを見つつ、

(全く…!甘えた顔しちゃって!奥さんにチクるぞ…?!)

と冥王サウロンばりの燃えた瞳でアスティンを睨んでいた…。(ただ寝不足で充血していただけとも言う)











「終ったぁ~…」

僕はグッタリとしてスタジオの廊下を歩いていた。
今日一日、スタジオにこもってアスティンと、ゴラム役のアンディの3人で同じシーンを延々と撮っていたのだ。
最初はアスティンとずっと二人きりだったので、だんだんと会話も少なくなってくる。
でも途中からアンディも加わると、その場が明るくなり何とか後半は気を取り直して撮影出来た。
ただスタジオ内が照明だらけだったので、その暑さはハンパじゃなかった。
真夏のような暑さで僕とアスティンもだが、それ以上に全身白タイツ(!)のアンディにはかなりキツイ撮影になったのだ。

(はぁ…明日もまたスタジオかぁ…あの暑さだけは勘弁だよなぁ…)

「はぁ~」 
「なぁ~に溜息ついてんだ?リジー」

僕が驚いて振り向くと、そこにはアンディとアスティンが笑いながら立っていた。

「ああ、打ち合わせ終わったの?」 

アスティンは、フロドを襲ってきたゴラムを止めるシーンで、アンディと監督3人で打ち合わせ中だったのだ。(僕は先に終っていた)

「うん、何とかさっきのでOKだってさ!」
「そっか。明日も長くなりそうだね…暑いの何とかして欲しいよなぁ…」
「ほんとだ!俺はあの白タイツで汗疹が出来そうだよ!」 

とアンディが嘆く。
アンディは、もともとゴラムの声を担当する為に撮影に参加したのだが結局ゴラムのCGと合わせて動きまで演技する事になった。
それで合成の為、アンディの撮影時の衣装(?)は全身白タイツとなり、それでゴラムばりに動かなければならなくなった。

「あれはきつそうだよね!ゴラムの歩き方だと、かなり負担もかかりそうだしさ!」 

僕が苦笑するとアンディは、「まあ、でも初めての経験で楽しいっちゃ楽しいんだけどな」 と笑った。

「もう戻るんだろ?…」 

アスティンが僕に聞くので、「ああ…早くメイクも取りたいし…」 と溜息混じりで呟く。

「じゃ、早く戻ろうか!お腹もすいたしさ」 

とアスティンは本当に腹ペコだったのか、そう言った瞬間に、お腹がぐぅ~っとなり、僕とアンディは吹き出してしまった。

「その音聞いて、僕までお腹すいてきたよ…」 

と、僕も笑いながらお腹を押さえ、「早く戻ろう!」と叫び、3人で駐車場へと向った。










色々なコンテナが固まっているスタジオの駐車場まで来ると、オーエンとヴィゴが歩いていた。

「おう!お疲れさん!」
「ああ、ヴィゴ、お疲れ様!」 

僕とアスティンは二人に軽く手をあげて言った。
アンディは白タイツだけだったので、スタジオで着替えており、そのままホテルへと戻り、
アスティンはヴィゴと一緒にオーエン達と別のコンテナへと歩いて行く。

今回から大きなコンテナを何個も入れて、メイク用、休憩用とで使えるようにスタッフが上手に部屋のようにしてくれたのだ。
僕は早くに会いたくて勢いよく、彼女のいるコンテナのドアを開けると、途端に中から騒がしい声が聞こえてきた。


「こら!エロフ!さっき、に触ったろ!」
「うるさい!チビスケ!ちょっと頭を撫でただけだろ?だいたい何でヴィゴのとこに行かないんだよ?ヴィゴは隣のコンテナだろ?」
「エロフがに、ちょっかい出さないか見張ってるんだよ!ダディもそうしろって言ったんだ!」
「何を~?ヴィゴのやつ、余計なことを…! つーか、エロフって言うな!」


僕は中の光景を見て溜息をついた。
ロケ隊の方もメイクを落とすのには、戻って来てからやって貰う者もいる。
案の定、オーランドはにやって貰いに来たのだろうが、いつもの如く、に、ちょっかいを出して、
それをヘンリーが鬼のように顔を赤くして怒っていたのだ。
は、そんな二人の間で困ったような顔をしていた。
僕は巻き込まれたくはなかったものの、、「お疲れさま」と声をかけて入って行った。

「あ、リジー、お疲れ様!」 

と、はいつもの笑顔で迎えてくれる。そこに、

「あ、リジー!このチビスケ、何とかしてよ~」

と、オーランドが情けない声を出しながら、

「ほら、どけよ、チビスケ!そこは俺の椅子だぞ!」 

と、ヘンリーに文句を言っている。
何とヘンリーは優雅に椅子へと座り、何故かオーリーが立っていたのだ。
僕は苦笑しつつ、「またケンカしてるの?」 とへ声をかけた。
も苦笑いしながら、

「そうなの…さっき戻ってきてからず~っと!撮影現場でも、相当やってたみたいでヴィゴも苦笑いしてたわ」
「そうなんだ!じゃ、うるさかっただろうね?ロケ現場は…」
「もう…どうして、こんなに仲が悪いのかしら…昨日会ったばかりなのに…」

と、も少し困ったような顔で溜息をつく。
僕は心の中で、それはが二人から好かれてるからだよ…と呟き、そっと微笑んだ。

「じゃ、リジー座って?オーリーは何だかおとり込み中だし、先にリジーのメイク落としちゃうから」

と、が微笑んで僕に椅子を向けてくれた。

「え…いいの?」

僕は驚いて問い掛けたが、もオーリーとヘンリーにチラっと視線を向けると、「あれじゃあ・…ほっといた方がいいでしょ?」 と笑っている。

「だいたい、さっきの弓の撃ち方はダメだよ!レゴラスはもっと優雅なんだ!」
「じゃあ、チビスケが撃ってみろよ!ま、あれは相当に力が必要だから弓すら引けないと思うけどさ!」
「何だとぉ~?力で子供を負かす気なの?大人気ない、エロフだな!」
「だからエロって言うな!だいたいチビスケのどこが子供なんだよ?子供はもっと素直で可愛いんだよ!」


…それを見ながら、

「…待ってると長く掛かりそうだし…じゃあ、やってもらおうかな?」 

と苦笑しながら椅子へと座った…。










「はい、終わり!お疲れ様!」
「ありがとう」

僕は全てメイクを落として貰うと、ホっとして軽く息を吐き出した。
隣ではグッタリとしたオーリーが項垂れて座っている。

「終ったぁ?じゃあ、僕のも早く取ってぇ~…」 

相当、ヘンリーとのバトルで憔悴しきっているようだ。
は笑いながら、

「お待たせ!オーリーも疲れたでしょ?」 

と今度はオーリーのメイクを落としにかかった。
ヘンリーは、「に変なことしたらダメだからね!」 とまだ元気な様子で隣の椅子に座り、先ほどに貰ったジュースを飲んでいる。
僕は笑いながら、「じゃ、僕、衣装も脱いでくるよ…」 と声をかけると、コンテナを出た。
はヘンリーがいるから大丈夫だろう(!)と安心したからだ。
外へ出るとそこにメイクを落として着替えの終ったヴィゴが歩いて来た。

「おぉ、リジー!今から着替えるのか?」
「うん、もう疲れちゃった…」

僕が苦笑して答えると、ヴィゴも少し笑いながら、

「俺も疲れたよ…山でのロケもそうだが、ヘンリーを連れて行ってしまって、オーランドと、何かあるたびにケンカになってしまってな」
「アハハハ。今も中で相当やってたよ?さすがのオーリーもグッタリしてる」
「やっぱり?はぁ…全く…オーリーも子供の言う事と聞き流せばいいのに・…あいつもムキになるからな…」
とヴィゴは苦笑した。

「ヘンリー、よっぽどが気に入ってるんだね」

僕は笑いながらも、そう言うと、

「ああ…。そうだな…子供は人を見抜く力は凄いからな。彼女の優しい雰囲気に母親の面影でも重ねてるのかもしれない」

それを聞いて僕は少しドキリとした。

「え…でもヴィゴの恋人のジーンは…?彼女にはなついてないの?」

僕がそう言うとヴィゴは少し表情を曇らせ、

「それがな…ヘンリーのやつ、ジーンのことを認めてくれないんだよ」

と肩をすくめた。
それを聞いて僕は少し驚いた。

「え…何で?彼女も優しそうだったけど?」 
「それが、一度だけ、ジーンが、ヘンリーの部屋を勝手に掃除したのが気に入らないらしくてね…」
「え?それだけで?」 
「ああ…ヘンリーは、ああ見えて結構、ナイーヴなんだ…神経質っぽいとこもあるしな。
他人に勝手に部屋へ入られて物をいじられたのが嫌だったのかもしれないし」
「そうなんだ…で、ジーンは?どうしたの?謝ったんでしょ?」
「それがね…ヘンリーに、"何で僕の部屋に勝手に入ったんだよ"と怒鳴られて彼女は、
"もうすぐ一緒に住むんだから掃除くらいいいでしょ?"と言ってしまったようでね。
まだ一緒に住むとヘンリーに話す前だったから、彼もショックを受けたんだな。
何で僕に内緒で、勝手にそんな事を決めるんだって…。僕はダディと二人で暮らしていたいんだって泣いてしまってね…」
「え…ヴィゴ、彼女と結婚する気なの?」
「いや…そこまで話は進んではいないんだが…一緒に住むのは、ジーンが私が仕事でいない時に
ヘンリーの事を見てるわと、言ってくれたと言うのも少なからずあってね…。
だが、ヘンリーは、"だったらがいい!だったら、きっと僕の部屋だって勝手に入ったりしないし
物に触ったりしないよ"って言い出して…
"は絶対、僕に一言聞いてから、そうしてくれる。僕の気持ちを尊重してくれるから"ってね。
――全く、どこでそんな言葉を覚えたんだか…」

とヴィゴはまたも苦笑い。
僕も笑いながら、

「そう?ヴィゴの子供らしいよ?きっとヴィゴの書いた本とかも読んでるんでしょ?」 

と言うとヴィゴは優しく微笑んだ。
僕は、あの生意気だと思っていたヘンリーが少し可愛そうになってきた。

そうだったんだ…
だから昨日、ジーンが来た時に、少し元気がなくなったのか…。
それに…に、あんなになついてるのが少し分かった気がした。
確かに…だったら、相手がいくら子供だと言え、勝手に部屋へと入り物に触ったりはしないだろう。
ヘンリーは人を見抜く力が強いな…
これもヴィゴの影響なのかもしれないけど…。

「さて…じゃあ、私はオーリーの救出へと行くよ…ヘンリーも、お腹を空かせているだろうし」

とヴィゴは笑って、

「じゃ、リジーもお疲れさん!明日も頑張れよ?」 

と僕の肩をポンと叩くと、ヘンリーのいるコンテナへと歩いて行った。

「お疲れ、ヴィゴ」

僕も一言、呟くと、ハっと我に返り…

(ヤバ!ヘンリーがいなくなったら、とオーリーが二人きりになっちゃうじゃないか!)

という大事なことに気づいて早く着替える為に、衣裳部屋のあるコンテナへと走り出したのだった…








「はぁ…疲れた…しかも眠い…」

僕は撮影の合い間にセットの岩場で居眠りをしてしまって、今、スタッフに起こされた所。
変なとこで眠ってしまったせいか、体中のあちこちが痛い。

「大丈夫か?リジー」

アンディが心配そうに声をかけてきた。

「ああ、うん…夕べも、あまり眠れなくてさ…」 

と僕は目をこすりながら呟いた。

「何でだ?何か悩み事でもあるなら何でも言ってみろよ」

アンディに、そう言われ僕は、グっと言葉に詰まった。

(まさか…のことだとは言えない…)

「い、いや…悩みとかじゃないんだ…ただ疲れすぎて逆に目が冴えちゃうっていうか…」 

と何とか適当に言い訳をしてみる。

「そうか?ならいいけどな…まあ演技のことで相談は乗ってやれないが、他の事では相談に乗るから、いつでも言ってくれよ」

とアンディは僕の頭に、ポンと手を置いて優しく微笑んだ。

「ありがとう…でもアンディ…。 ―その全身白タイツで、そう言われても緊張感ないよね…」 

と僕が苦笑すると、アンディも、「アハハハ!確かにな!こんな格好で真剣に悩みも聞けないな」 と豪快に笑った。
それでも僕はアンディの気持ちが嬉しくて、「でも、ありがとう」 と言って微笑んだ。
アンディは少し照れくさそうに笑いながらも、「じゃ、次のシーンも頑張るか」 と言って監督の方へと歩いて行く。

僕は一人になると、セットの岩場へと腰を降ろし、軽く溜息をついた。
昨夜、ヴィゴから聞いた話を思い出すと少し不安がこみあげて来る。

ヘンリーが、そんなに反対しているなら…もしかしたらヴィゴは、いつかジーンと別れてしまうこともあるかもしれないな…
そしてヘンリーが、あんなに""と言ってるうちに、ヴィゴも、もしかして彼女を意識するようになるかも・…

そう思うと、僕は憂鬱になってしまうのだった。
だって少なからず、ヴィゴのことを思っているようだし…(まだ分からないけど)
それにヘンリーのことも可愛がっている。
そう・…ヴィゴさえ、その気になれば…もしかしたらだって…。
ヴィゴだって大事な息子がなついている女性がいいに決まってる。
は、あんなにいい子だし…。可愛いし…(恋は盲目とはよく言ったものだ)

ああ…!僕が告白する前に、そんな事になっちゃったら、どうしよう…!
撮影が終るまでと思ってるのに…

そう…今の段階じゃ、僕が告白したってダメなのは分かっている。
ヴィゴに憧れると言う事は、やっぱり年下の僕は不利だし…
もう…どうして、僕の親はあとせめて5年後くらいに僕を生んでくれなかったんだ?父さんと母さんのせっかち!(!)

と、何故だか僕は親まで責めたくなってきた。

まあ、そんな事を今更言ったって仕方ないけどさ・…

そんな事を考えていると、「じゃ、スタンバイして!」 との声が聞こえた。

僕は慌てて立ち上がると、ゴラムとのシーンを取るのに剣を取り、すでに集まっていたアンディとアスティンの方へと歩き出した…











「リジー?」

重い足を引きずりながらホテルへと向っていた僕は、その声に振り向いた。

「あ、リヴ…お疲れぇ…」

リヴがメイクを落とした状態で歩いてくる。

「大丈夫?何だか顔が疲れてるけど?」

リヴは少し笑いながらも心配そうにしている。

「うん…まあ…何とか…」 と僕は精一杯、無理をして微笑んだ。

「もしかして…今日のメイクはが担当じゃなかったとか?」

意味深な微笑で、そう言われて僕は心の底からドキっとした。

「え?!な、何が?!」
「あら…隠さなくてもいいわ?私、知ってるんだもの」

リヴが少しニヤリとして僕を見る。
僕は心臓の鼓動が早くなり、視線が泳いでしまった。

「な、何を知ってるって?」 
「だから、リジーがを好きだってことよ」

そうハッキリ言われてしまうと、僕はもう赤面するしかなかった――!

「ほら、赤くなった!やっぱりね!女の勘は凄いのよ?こういう事にかけては」

と、リヴがクスクス笑い出すと、

「今、はヒューゴやクレイグのメイクを落として、忙しそうだったし…リジー気を使ったんでしょう?分かってるわよ?」
「そ、そんなに分かりやすいかな…僕…」

僕は顔が熱くなって俯いてしまった。

「そうねぇ…オーリーと同じくらいね!」

リヴが笑いながら言った、その一言に、僕は思い切り嫌な顔をして、「それだけは言わないで欲しかったよ…」 と呟いた。
そして二人一緒にホテルへと歩き出しながら、

「あれ?そう言えばオーリーは…」 

と僕が問い掛けると、

「ああ、まだ撮影から戻ってないんじゃないかしら?ロケ隊は深夜までかかるかもって、オーエンが話してたみたいよ」
「そうなんだ…それも大変だよなぁ…。今夜は山も冷えるだろうし…
ビリーとドムも、今日はウルク・ハイに運ばれるシーンの撮りで山へ行ってるしさ」
「ほんとにね。スタジオ組の私達もキツイけど…ロケの方がキツイわよねぇ…」
「でも、そろそろ外で撮影がしたくなってきたよ…」 

僕は苦笑いしながら言った。

「あ、分かるわ、スタジオにずーっとこもってると外の空気が恋しくなるわよね?」

リヴも笑いながら肩をすくめる。

「それに皆がバラバラで撮影だと少し寂しいよね。旅の仲間の時は一緒過ぎるくらい一緒にいたしさ」
「ああ、そうね、確かにリジー達はそうかもね。私は撮影終るとすぐに帰ったけど」
「あ、そうか。今回も、皆一緒のシーンは少ないんだっけ…」
「ええ、そうね。でも終った後に会えるし、まだいいわよ…。 それより…リジーはに気持ちは伝えないの?」

いきなり核心に迫ることをズバリ言われて、僕は動揺した。

「え?!」
「だから…好きだって告白しないの?」
「こ、告白ったって…まだ会ってから半年ちょっとくらいだしさ…だって僕のこと、仕事の仲間としてしか見てないよ、きっと…」
「そう?でも今まで全くアピールしてないってわけじゃないでしょ?」
「ま、まあ…そりゃ…。でも…は気づいてないし…オーリーにも、しょちゅう邪魔されるし…」

リヴはクスクス笑うと、

「そうね、は結構、おっとりしてるって言うか…敏感な方ではないわね。それにオーリーも、わざとではないんだろうけど…」
「まあね、でもあのタイミングはビックリするよ?!何で、このタイミングに?!ってとこに、
あのテンションで"王子様が来たよ~"って来るしさ!」

僕は心底、困った顔でリヴへと訴えた。

「アハハ!分かる、分かる!そんな感じよね?あれじゃない?
オーリーは打算的な事は出来ないけど本能的に危険(?)を察知する力があるというか…
野生児だから、きっと本能でのとこへ来てるんじゃない?地震とか予知する動物みたいな感じ!」

と、リヴはすっかりオーランドを野生動物扱いしている。
これには僕も吹き出してしまった。

「プっ!アハハ!リヴ、結構言うよね!それ確かにあるかも!アハハ!本能か~~!ほんとそんな感じだよ!」
「ウフフフ…そう?オーリーって何事も深く考えてないものね?」

暫く僕とリヴは、オーリーをネタに笑いが止まらなかった。


「で…?リジーは何で、告白しないの?会って間もないからってだけ?」

笑いが収まると、リヴが訊いて来た。
僕は少しドキっとして、

「え、そ、それは…今…言ってもさ、きっとダメだと思うから…」
「そう思うの?」

リヴは僕の顔を伺っている。

「うん…。やっぱり…僕のことを分かってくれるまで…それで告白したいしさ。
今言ってダメなのは何となく分かるし、もし告白して気まずくなって、彼女が仕事をしずらくなるようなことはしたくないんだ…。
僕は男だから何とか耐えていけるけど…は…優しいから、凄く困ると思うんだ。そんなは…見たくないし…」

僕がそう言うと、リヴは優しく微笑んで、

「…リジーは…優しいのね。自分のことより…、ちゃんとの気持ちや立場も考えてあげてるなんて…。男らしいわよ!」

と僕の背中をパンと軽く叩いた。
僕は照れくさくて、「そ、そうかな…。だって好きな子の困った顔や悲しい顔は誰だって見たくないだろ?」と呟いた。
リヴは微笑みながら、

「…も…リジーのそういうところを見ていてくれてるわよ、きっと。…頑張ってね!」

僕は素直にリヴの、その言葉が嬉しくて、「…ありがとう」と、言って微笑んだ…。


その後、部屋へと戻り、寛いでいると、アスティンから食事に行こうとの誘いの電話が入ったものの…
出かける元気もなく、ルームサービスで食べると言って断った。
そして部屋で夕食を取った後、何だか、また寝付けなさそうなので、外へと散歩に出かけることにした。

夜の2時…
夜空には奇麗な星と昨日より少し細くなった三日月が、今夜は鮮やかに光って夜の闇を照らしている。
僕は一人、静かな夜道を歩いて近くのコンテナが置いてある駐車場へと向った。

コンテナの辺りもすっかり静かになり、僕はヴィゴやビリー達、ロケ隊もすでに帰って来て誰もいないんだろうと思っていた。
すると…かすかに何か声が聞こえてきた。
僕は驚いて辺りを見回すが、誰もいる様子もない。

(…誰だろう…?)

僕は気になり少し歩いて奥まで行くと、それは何かを口ずさんでいる声で少し上の方から聞こえてくるのが分かった。

(上…?上って…ここら辺は上れるとこなんて…)

僕は慌てて上…と言っても辺りはコンテナが何個も並んでいて、その上を見るしかないのだが、声の主を探した。

(もしかして…この声は…)

そう思って僕が一番奥のコンテナの方まで歩いて見上げてみた。
すると――

コンテナの上に、らしき女の子が、座って何かを口ずさんでいる。
僕は驚いて、思わず、「…?!」 と声をかけてしまった。

「キャ!」

急に声をかけたからか、は驚いてビクっとなっている。
僕は慌てて、「ゴ、ゴメン!僕だよ、リジー」 ともう一度、でも今度は少し小さな声で声をかける。

「え…?リジー?」

も少し驚いた様子。

「うん……そこ、どうやって登ったの?」 

僕は見上げたまま苦笑いしながら聞いてみた。
暗いので月明かりだけだと、の座っているシルエットしか見えない。

「あ、あの裏側に小さなハシゴかあるから…そこから…」

も照れくさいのか、少しはにかんだような小声で答えた。
僕は言われた通り、コンテナの裏へと回ってみると、そこには申しわけ程度の小さなハシゴがついている。

(ああ、これか…きっと業者の人しか使わないようなハシゴだよな…)

僕は少し苦笑いしながらも、「…僕も上っていいかな?」 と訊いてみた。
すると小さな声で、「…うん」 との声が聞こえる。
僕は何とか、その小さなハシゴへとつかまると足をかけて登って行った。

「こんばんわ…」

上まで行くと、僕は笑いながら、そう言った。
もちょっと笑いつつ、「…こんばんわ…」 と答える。

「変なとこ見られちゃった…」

と言うと可愛く舌を出した。
僕も笑って、

「こっちも驚いたよ?何だか歌声が聞こえるなぁ…と思って上を見たら、がいるんだもん」
「ここ、この前見つけて、ちょっと上がってみたら、何だか気に入っちゃって…
疲れたら、仕事の後に、ここへ来てボーっとしてるのよ」

は少し恥ずかしそうに微笑んだ。

「そっか…今日も忙しかったもんね。 ――それにしても…こんな高いとこ…怖くないの?」
「うん、私、高い所が好きなのよ。 日本では"猫とバカは高い場所が好きだ"って言われてるんだけど…まさしく、それかな?」

は少し笑いながら答えた。

「…そうなの?でもは、どっちかと言うと猫科っぽいけどね?」

僕も笑いながら言うと、「そ、そうかな…」 と、クスクス笑っている。
そんなの横顔を見つめながら「最近…仕事の方はどう?」 と聞いた。

「あ、それがね、最近はオークのメイクを任せてもらえるようになったのよ?
前はチーフやグラントだけだったんだけど…ニューヨークで受けた特別講座が良かったのかな?」

は嬉しそうに話している。
そんなを見ると、僕までが嬉しくなって、「そう!良かったね!」 と笑顔になった。

「ありがとう…やっと一歩進んだかなぁ…最近、特殊メイクが楽しくて、
つい他の映画のDVD見ても、そっちの方ばかり目がいっちゃうの」
「あ、分かる、分かる!そういうのあるよね。僕も他の映画観てても気になるとこに、
つい目がいっちゃって途中で内容が分からなくなったりするよ」

僕が笑いながら、そう言うとも笑っている。

「そうよね!私も!この前は"猿の惑星"見てて、あの凄いメイクばかり、ジーっと見てたら
いつの間にか映画がクライマックスになってて、あれ?何でこうなってるの?って慌ててチャプターで戻したわ」

その様子が頭に浮かび、あまりに可愛くて僕も吹き出してしまった。

「ああ、あの映画は、ほんと見所が多いよね?そういう事を気にしてたら。
でもビデオの頃は面倒だけど今はボタン一つで好きなシーンが選べるし、ほんと楽だよなぁ」
「やだ…リジー、まだ若いのに、そんな歳よりみたいな言い方して…」

と、は、また吹き出して僕を見る。
僕は少し顔が赤くなって、

「そ、そぉ?…だって…楽だろ?DVDはさ!」 

と恥ずかしいのを誤魔化しながら笑った。
そして、まだ笑っているの横顔を見ながら、
今度…一緒に何か映画でも見に行きたいなぁ…と思っていた。



「ねえ…は、どんな映画が好きなの?」

ふと思いついて、そんな事を訊いてみる。

「え?映画…?…そうねぇ…」

も少し考えながら、

「やっぱり冒険物かなぁ?【ロード・オブ・ザリング】もそうだけど…友情物も好きだわ」
「アドベンチャーかぁ…。じゃ、やっぱ【インディージョーンズ】は外せない?」
「あ、そうそう!外せない!」 

は笑顔で言った。

「もちろん、アスティンのデビュー作、【グーニーズ】も見たし…
あと最近では【ハムナプトラ】も好きだな。見てると一緒に冒険してるみたいな感覚で…
私も、あんな冒険したいと思っちゃうもの。…あ、でもちゃんと生きて帰ってこれるなら、だけど」

と言ってはまたも可愛く微笑む。
僕もそれには、「それなら、僕だって行きたいよ!」 と笑った。

「その他には?何が好き?」 
「うーんと…サスペンスもの?【羊たちの沈黙】とか…
あ、あとは身近にある危険シリーズで【揺りかごを揺らす手】とか【ルームメイト】!
これは本当に怖かったわ!ストーカーでしょ?ほんとに、ありそうだもの…」
「ああ、それ僕も見たよ。あれはねぇ…ほんと心臓に悪かったね!ドキドキしてさ…
あれ?ってハラハラドキドキ系が好きなんじゃない?」

僕は気づいて聞いてみた。
すると、は、

「そうそう!そうなの!何だか、ダラダラ進んでいる映画よりは、そっちの方がいいかなぁ?」 

と笑っている。

「じゃ、ラブストーリー系は見ないんだ?」
「ん~あんまり見ないかな?それだけってのは見ないかも…ラブコメとか…他にも何かテーマがあるのは見るんだけど。
あ、でも唯一、観たラブストーリーは【ゴースト】かな?これは…もう泣いちゃって大変だったわ…」

が苦笑しながら空を見上げた。

「ああ、あそこのシーンでしょ?コインを指で…」
「そう!持ち上げるとこ!」 

が僕の方を見ながら嬉しそうに叫んだ。

「あそこは誰でも、うるってくるよね。と言うか、僕は大泣きしちゃったけどさ」
「そうよねぇ…あれは泣くわよ…。デミ・ムーアが可愛くって…涙をポロポロ零すとこで、また泣いちゃうの」

は思い出すようにして目を閉じた。

僕はそんな彼女を見ながら、こういう時間って凄くいいもんだなぁっと思っていた。
二人で他愛もない話をしながら、笑いあえることが凄く幸せに感じる。

(僕は…と一緒にいると、何だかホっとする…)

そんな事を考えていると、ふとが僕を見た。
僕はドキっとして、それでも彼女の大きな瞳を見つめる。
すると、

「リジーと話してると…何だか、ホっとするわ…」 

が言った。

「え…?!」

僕は驚きすぎて、コンテナから落ちるんじゃないかと思った(!)―今、二人は足を投げ出すようにしてコンテナへと腰を降ろしているからだ―

「話してても…歳の差を感じないもの。私の方が年上なのに子供っぽいのかな…
リジーも子供の頃から大人に混じって、しかもこの業界で仕事をしてきたんだから…考えとかも大人なのは当たり前なんだろうけど」

と、はクスクス笑っている。
僕は、の言葉があまりに嬉しくて、顔が真っ赤になるわ、変な汗(!)が出て来るわで少し動揺していた。

「そう、そうかな?…そう言ってもらえると…凄く嬉しいよ…」

と、何とか答えると、そっと汗を拭いた。
するとはまた僕の顔をジっと見つめてきて顔から火が出るんじゃないか(!)と思いつつ、「な、何?」 と聞いた。
はその問いかけに、まだ僕の瞳をジっと見ながら、

「あのね…リジーの青い目に私がハッキリ映ってるの。リジーの青い瞳って凄く羨ましいくらい奇麗よね?」

と笑顔で言うので、僕は本当に心臓がキュっと縮まるくらいにドキドキしてくる。

「そ、そう?僕はの黒くて大きな瞳が奇麗だと思うけど…」 

と視線をそらしつつ答えた。

「そうかなぁ…黒い瞳なんて、私は好きじゃないけど…」 

と少し口を尖らして言うが可愛い。、

「何で?凄く神秘的だよ?奇麗な黒髪と、よく似合ってる」 
「そうかな…ありがとう」 

と言ってちょっと目を伏せている。
僕も少しだけ照れくさくて空を見上げると三日月が目に入った。

「今日は…C-MOONなんだね…」 と呟くと、は、「え?」と僕の方を見た。

「ほら…今夜の三日月はさ、いつもの形と逆でアルファベットの"C"の形だろ?
こういうのを、C-MOONって言うんだよね?」
「そう…なの?」 

も夜空を見上げている。

「いつもは見られなかったりするから、これを見た人は幸せになるって言われてるんだって…何かの本に書いてあったんだ」
「そうなの?…じゃあ、私とリジーは幸せになれるのかな?」

と僕を見ながらが言った。
僕は、その言葉に少しドキドキして、「そ、そうかな…。そうなればいいけどね…」 とぎこちなく微笑む。
は、また顔を空へと向けると、その三日月をじっと見ていた。
僕は…が今、誰を思い、何を考えているのか…と思うと少し胸が痛くなる。

やっぱり…どこか寂しそうだよなぁ…
今なら…ヴィゴのことも聞けば、ちゃんと答えてくれるだろうか…

でも…それを聞いて、どうしようってんだ、僕は?
聞いたって仕方のないことだよな…の気持ちが僕にないなら…の気持ちが、どこにあろうと同じなんだ…

僕はそう思うと、ヴィゴのことを聞くのはやめようと決めた。
そして…もう一つ気になっていた父親のことを…聞いてみようか、どうしようか迷っていた。

(家庭の問題とか…聞いてもいいのかな…思い出させるようで…可哀相かな…)

僕は暫く頭の中が、そんなことで一杯になってきて知らないうちに難しい顔になっていたようだ。

「リジー?どうしたの?」

と、が僕の顔を覗き込んできた。
僕は慌てて、

「あ、いや・…何でもないよ?」 

と笑顔で答えるも、やっぱり…聞いてみようかな…と思った瞬間――






「…さいよ!あっちに行けよ…!」
「うるさいのは、お前だろ?エロフ!」

と何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた…。
僕とは顔を見合わせると、

「もしかして…」
「オーリーと…ヘンリー?」

そう言うと、僕とは慌てて下を覗いてみた。
すると、やはり大きな声で言い合いをしているのは、オーリーとヘンリーで、
その後ろからウンザリした顔のヴィゴとジョンが歩いてくる。
その後ろには何人かスタッフがゾロゾロと歩いて来ていた。
その中にはロケ隊へと出張っていたオーエンとグラントの二人の姿もあった。

僕は驚いて、「ロケ隊の皆…今戻って来たんだ…遅くまでかかったんだね…」 と言った。

「ええ…さっき連絡が入って…私はスタジオの方の皆が終ったら、もうあがっていいって言われてたけど…
ロケ隊は本当に大変そうね…」

も苦笑しながら呟いた。
そのロケ隊の一行は、だんだん僕たちの方へと歩いて来た。

「おい!エロフ!さっきの暴言、早く取り消せよ!」
「やーだよ!あれは暴言じゃないしさ!」
「何ぃ~?がエロフなんかと結婚するわけないだろ?!はダディと結婚するんだから!」
「それは違うよ、チビスケくん!は僕がお嫁さんにするって言ったろ?ごめんね~ほんとに」

オーランドはそう言うとヘンリーの頭をわざとらしく撫でている。

「うわ!やめろよ!触るな!エロが移るだろ?!」

ヘンリーは小さいながらも必死に手を振り解いていた。

それを上から見ていた僕とは、呆れた顔で、

「またやってるよ・…オーリーも変なこと言わなきゃいいのに…」 

と溜息をついた。
も少し顔を赤くしながら、

「ほんと…お嫁さんだなんて…またヘンリーをからかってるんだわ!全くもう…」 

と苦笑している。
するとオーランドの手を振り解こうとしたヘンリーが上を見上げた時、僕らの影に気づき、驚いた、

「うわ!あそこに黒い影が…!」

いきなり大きな声で指を指したので、そこにいた皆が一斉に、僕らの方を見上げてきた。

「だ、誰だ?」

ヴィゴが声をかけてきた。

「…あ、リジーだよ…お疲れさま、ヴィゴ」 

と恐々と返事をする。

「あ、あの…です…お疲れ様です…」 

も気まずそうに声をかけた。すると――

?ほんとに?… ――ちょ、ちょっとどけよ、エロフ!ついてくるな!」 
「うるさいな!僕だって疲れて帰って来た後には、の顔を見て癒されたいんだよ!チビスケのせいで疲れ倍増だよ…」

と、まだ二人でモメている様子。
僕とも苦笑いしながら、二人でコンテナから降りて皆の元へと歩いて行った。
すると、すぐにヘンリーがへと抱きついてくる。

…!ただいま!」
「お帰りなさい、ヘンリー。 でも、どうしてこんなに遅くまで起きてるの?」
「僕、さっきまで寝てたんだ。帰る時に起こされて…だから眠くないんだよ」

に頭を撫でられてヘンリーは嬉しそうに答えた。
そこへグッタリした顔のオーランドが近寄ってきた。

~…疲れたよぉ~…このチビスケってば僕にまとわりついて離れないんだ…」
「あら…オーリーが、からかうからいけないのよ?」 

は少し顔を赤くして言った。

「へ?からかうって?」

「だ、だから…その…私をお嫁さんにするとか…そんなヘンリーをいじめるのに私を出さないでね?」
「ええ?違うよ?からかってなん…」

と、オーランドが言いかけた時、

「うるさい!に近寄るな!」 

とヘンリーが素早くの前へと立ちふさがった。

「くーっ!このチビスケ…!もう~ヴィゴーー…何とかしてくれよ~」

と、今度はヴィゴに泣きついている。
ヴィゴは苦笑しながら歩いて来て、

「すまない…ヘンリーは私が言っても、のことになると聞きやしないんだよ…」 

と言って、

「ところで…リジーとは、何であんな所に登ってたんだい?」 

と不思議そうな顔で訊いて来た。
それにはオーランドも、「そうだよ!そう言えば二人きりで・…何してたのさ?」 と言えば、
ヘンリーまでが、「そうだよ、フロド!と何をしてたのさ!」 と今度はイライジャへと食って掛かる。

こういう時だけ息がぴったりの二人。
僕は少し恐怖を覚えて後ずさった。

「あ、あの…私が仕事が終った後、あそこに登って休んでたら、リジーが来て…それで少し仕事の話とかしてたんです…」

と、が笑いながら皆に言った。
それにはヘンリーも、

「そうなの?なら、いいや。エロフよりましだよ。エロフは仕事の話なんて出来なさそうだしね!頭悪いから!」

などと酷いことを言っている。
それにはオーランドも、

「何を~?俺だって仕事の話くらい、いくらでも出来るさ!を抱っこしながらね!」

と最後はちょっとヘンリーを、からかうように笑いながら答えた。

「うわ!最低だ!やっぱりエロフだよ!ダディ!」

それにはヴィゴも苦笑して、

「オーランド…あまりヘンリーを刺激するな…これ以上うるさくなったら敵わんよ…」

と言って、ヘンリーの手を掴むと、

「さ…帰って寝るぞ?もう夜中なんだからな!ジーンが部屋で待ってる」 

と言った。
これにはヘンリーも渋々、

「うん…分かった…じゃ、、明日は僕、山へは行かないから一緒にいてもいい?」 

と聞いている。
それを聞いて僕は腰が抜けそうなほど驚いた。

(ええ?!ヘンリー、明日はと一緒かよ!勘弁してくれ~…オーリーと好きなだけ戦ってていいよ?!)

と必死に心の中で叫んだ。
だがはそんなヘンリーに、

「ほんと?私もヘンリーが一緒にいてくれたら嬉しいわ」 

と笑顔で答えてるのを聞いて、
僕は少し落ち込みつつ、肩を落とした。
オーリーは、それを聞いてガッツポーズしている。
やっとヘンリーから解放されて嬉しいのだろう…その気持ちはよく分かる…分かるけど…

明日は…に近付くたびに、ヘンリーに睨まれそうだよ…

スタッフの中でも何だかホっと息を吐き出してる人が何人かいる。
二人の戦いは、相当うるさかったのだろう。
ヴィゴでさえ、皆に迷惑をかけるくらいなら…と思ったのか、別に反対もしていない様子。
僕は明日は、極力、大人しくしながらメイクをしてもらわなきゃ・…と思っていた。

「じゃ、もう行くよ。おやすみ、リジー、、オーランド」
「おやすみ!ヴィゴ」
「おやすみなさい」
「おやすみ~!オネショするなよ?チビスケ!」
「うるさい!僕はオネショするほど子供じゃないよ!エロフこそ、に、ちょっかい出すなよな!」
「こら…ヘンリー…お前は全く…」

と、ヴィゴの悲しげな声が遠ざかって行く。 
――オーランドは大人気なく後ろから下を出して「べぇー」とやっていた(!)――

それに他のスタッフも続き、コンテナ前には僕と、、そして、オーランドが、その場に残った。

「お疲れ様、オーリー。山での撮影は大変だった?」

と、が聞くと、オーランドは嬉しそうな顔で、

「うん…!もうチビスケが、いちいち演技に文句言うし、そういう意味では大変だったよ」
「やだ…そうなの?ヘンリーったら、相当【指輪物語】のファンだし、詳しいから…」

と、も苦笑いしてしている、

「ああ!確かに、そんな感じ?"レゴラスは、そんな歩き方じゃない!"とか"
レゴラスは、そんなダラっと笑わないよ"とかさ~。勘弁してくれって感じなんだ」

オーランドは、ヘンリーの言い方を真似ながら、ウンザリした顔で溜息をついた。
僕も少し吹きだすと、「それは…きついね…ご苦労さん!」 と、オーランドの肩を叩くと、
オーランドは、

「まあ、でも明日はいないからさ!…の側にいれば大人しくなるだろうし」
「そうかしら?でも…少しは仲良くしたらいいのに…。オーリーも私のこと持ち出さないでね?
ヘンリーすぐ本気にしちゃうんだから…」

と、はオーランドの気持ちを知らずに苦笑している。
オーランドは、

「え?別にからかって言ってるわけじゃあ…」 

と困った顔で呟いているが、には聞こえなかったようで、

「じゃ、もう遅いし、部屋に戻って寝ましょうか…。明日も撮影、キツイわよ?」

と、僕とオーランドに微笑みかけた。
僕とオーランドは、一瞬、顔を見合わせ、

「そうだね…」 
「帰ろうか…」 

と呟くと、足取りの軽いの後をついて行く。
僕は歩きながら、ふと…

(何だか…気づけば、いつの間にか、この3人でいるよな…何でなんだ..!)

と気づき、少しへこんだが、今夜は寝る前に、に会えたので気分は良かった。

今夜もまた…の夢が見れるかな…と思った瞬間、またしてもあのおぞましい出来事を思い出し思わず、
小さく、「おぇ…」っと呟いたけど、それは二人とも、気づかずに歩いている。
オーランドにいたっては一日、と離れていたからか、ヘンリーとのバトルに疲れ果て癒しを求めてるのか、
の周りにまとわりつきながら、何やかんやと話し掛けているが、僕は、今日はそれを邪魔する気にはなれず、
(少々、ヘンリーからの攻撃を受けつづけた彼に同情さえしていた!)黙って後ろからついて行った。

それに…今夜は、に、一緒にいると安心するなんて嬉しい事も言われたし…!
まずは一歩進めた気がする…。

(はぁ…これからも頑張ろう)



僕はの後姿を見ながら、心の中で、固い決意をしていた…。








Postscript


あらま・…(近所のおばはん風)何だか意味も分からず終ってしまった~(笑)
ちょっと少しづつ、リジーと二人きりにしてあげたいなって思いまして…
ええ、ただ、それだけです、エヘv
まあ最後は結局ドリカム(古!)になってしまうんですけどね~アハハ…
「C・MOON」のお話は私が子供の頃に読んだ本に書いてあったんですよ、確か。
何だかロマンティックでひょ?(笑)(どのツラさげてロマンだ?オイ。笑)
なのでサイト名もそれから取ったのでしたv

本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


【C-MOON...管理人:HANAZO】