オーランド&イライジャ
その時すでに僕は我慢できなくなっていた。
記者会見、その後のインタビューが終った後、映画会社の人達から、
「レストランを予約してありますので」
と言われて嫌だとも言えず渋々ついていった。
食事だけで、リジーと抜け出そうって話してたのに何故かドムとリヴが、「カラオケに行こう!」 な〜んて言い出すもんだから、
映画会社の人までノリノリになっちゃって、結局僕らまで引っ張られてきた。
ドムがいるから公にも帰りたい理由を言えず、どう抜け出そうか…と二人で考えてるんだけど…
さっきから止まらないドムの歌に僕は耳が熔けて落ちるかと思うくらいに苦痛を感じていて抜け出す相談どころじゃなくなったよ!
「ねぇ…オーリィ…。いつ帰れるの?僕たち…」
半分目が虚ろになっているイライジャを見て僕も多分、目が半目になっているんだろうなぁって思った。
「…もう強行突破するしかないかなぁ?」
そう言うと僕はドアの方をちらりと見た。
「でもさぁ…絶対、ドムの奴、怪しむって…」
「じゃあ、どうするぅ〜?リジィ…」
僕はすでに氷も溶けてしまったカクテルのグラスを持つと、一口飲んで顔をしかめた。
「うぇ…薄くなっててまず…」
「ジョシュ、ずるいよねぇ…。先に戻るなんてさ…。僕らを迎えに来てくれればいいのにさ…」
イライジャは口を尖らせて文句を言っている。
――そう…さっきリジーの携帯にジョシュから電話があって、
「監督に事情を」話したら飲みに行くのは付き合わなくていいって言ってくれたし俺は先にホテル戻るよ」
と言ってきた。
僕とリジーは、「ずるぅ〜!じゃ、こっちに迎えに来てよ…!」 と頼んだら明らかに聞こえるように大きな溜息なんてついて一言。
「…やだ。ドムに掴まったら絶対、またと結婚させてくれとか哀願されるし…」
と、きたもんだ。
はぁ…僕だって、そんなの聞きたくないよ…
ジョシュの言った通り、ドムったらアルコールのせいもあって、どんどんテンション上がっちゃうんだから…
"はお前等には渡さないぞ!最後には愛が勝つんだ!"
なんてワケの分らない事をほざいて、さっきから、"へ捧げるラブソング"(!)を10曲以上も歌ってるんだよ?!
耳が熔けそうになるのも分るってもんだろ?
つか、はもともと僕らの妹だし…ドムに渡さないとか言われる事じたいがおかしいんだけどさ…。
愛は勝つって、絶対に僕らの方が愛情で言うと勝ってると思うんだけどなぁ…
「はぁ…もう、嫌だ…僕はトイレに行くフリをして抜け出すよ…」
そう言うとイライジャは腰を浮かしかけた。
それを僕はガシッと掴むと、「俺を置いてく気ぃ?」 と睨む。
そうすると、リジーも悲しげに僕を見て、またポスンとソファへ座り、はぁ…と溜息をつく。
(冗談じゃない…!逃げる時は一緒だ!可愛い、弟よ…!)
なんて言ってる間にドムは次の曲を入れやがったらしく…気持ち良さげにマイクを持って、声高らかに叫んでいる。
「愛しのに捧げるぜ〜!イエーイ!!」
(……アホか!)
「〜OH〜MY〜LO〜VE〜…♪」
しかも"ゴースト"の主題歌なんぞ熱唱しているし…!
カンベンして下さい…(涙)byオーランド…って感じだね? くぅ〜辛い…。
向かいの席ではリヴと映画会社の僕らの担当者…確かミスター・ミキ…とか言ったっけ?がドムを盛り上げちゃってるし…やめてくれよ…。
何だか自分で、「三木です。呼びづらかったら、ミッキーって呼んで下さい」 とか何とか言ってたなぁ…
ミッキ―なんて、そんな可愛い顔じゃないだろ?(推定40歳)
そんな事を考えつつ、リヴと、ミスター・ミキの盛り上げっぷりを恨めしそうに見た。
「はぁ…どんどん具合が悪くなるよ…のスマイル一つ欲しいね…。それでパワーが戻る…」
僕はボソっと呟くと、リジーも隣で、うんうんと頷いている。
「よし・…決めた!次、ドムが歌い出したら突破するぞ?」
「え?オーリィ…マジで?」
「うん、俺は苦痛を味わうのは何より嫌いなんだよ! 快楽を愛する男さ!」
と僕はグっと握りこぶしで叫んだ。
どうせ、ドムのうるさい歌声で聞こえやしないんだ。
「…オーリィ…。その発言、危ない…」
リジーは目を細めると、僕の方を見て呟いた。
「そ、そか…」
「で?どうやって突破するわけ?」
「…次にドムがマイクを持って歌い出した瞬間、トイレ行くフリして廊下に出る…そして思い切り走るのさ!どう?いい考えだろ?!」
僕は張り切ってそう言うとリジーにニカっと笑いかけた。
なのに…リジーの奴、思い切り呆れた顔で溜息なんてついちゃってる。
「…そのままじゃん…。それに一人ならそれも可能だけどさ…。二人でトイレに立ったら、かなり怪しまれると思うよ?」
「大丈夫だって!ドムがついてこなければいいんだからさ?な?そうしよう?」
僕はニコニコしながら、イライジャに親指を、グッと立てた。
「まあ…やってみるか…」
イライジャがボソっと呟いた――
(あ…ドムがリモコン持ったぞ…?そろそろ次の曲入れる気だな?)
僕はチラっと横目でドムを見る。
リヴも何だかカラオケの本なんて開いて曲を探してるようだ。
ミスター・ミキは、さっき携帯が鳴って廊下に出て誰かと話している。
隣のオーリーは…僕と同じようにドムの様子を伺ってるようだ。
「おい、リジー。そろそろだからね?」
「うん、分ってるよ…」
僕ら二人は、ドムが曲の番号を入力して曲が流れ出したとこを狙っていた。
ピピピピピ…
(入った!よし…曲が流れたら…まずオーリーがトイレ…って言って…その後に僕も…って続けばいい)
ドムはきっと歌い出したばかりなら気にせず歌いつづけるだろう。
リヴは気付きそうだけど…ま、リヴならの事を話せば分ってくれるはずだ。
曲のイントロが流れ出した。
(よし…行け、オーリー!)
僕はオーリーの方を見て目で合図を送った。
オーリーが頷いて席を立つ。
「…ちょっと俺、トイ――」
そこへ――
「すいません!私、今からちょっと本社へ戻らないと行けなくなりまして…!!」
ミスター・ミキが慌てて部屋に戻って来た。
オーリーが腰を浮かしたまま固まっている。
ドムはと言うと…それでも気持ち良さげに歌っていた(!)
「…All that I need is you........All that I ever need〜
And all that Iwant to do..... Is hold you forever.......♪Ever and ever.........〜♪」
(何が"必要なものは君だけ…"だ!!に必要なのは僕ら家族で充分だ!)
僕が溜息をつくと、ミスター・ミキは、「すみません!」 と頭を下げてきた。 ――僕の溜息を勘違いしたんだろう――
「え?あ、い、いえ!違うんです…。 ――あの…実は僕ら、帰りたくて…」
最後は小声で言った。
「へ?」
何とも間抜けた声でミスター・ミキ(推定40歳)が顔を上げる。
「帰り…たいですか?」
「はぁ…あの…ミスター・ミキから、もうお開きだって、あの一人舞台してる奴に言って貰えませんか?」
僕のお願いに、ソファに座りなおしたオーリーも、うんうんと真剣に頷いている。
ミスター・ミキは最初キョトンとしていたが…
「…はぁ…。分りました。いや、皆さんの方が帰りたくないのかと…。そういう事でしたら…!
私も行かなくてはならないので、皆さんだけ、ここに残すと言うのも何ですし…お開きにしましょう!」
そのミッキー(!)の言葉に僕とオーリーは、「ひゃほぅ!」 と手を上げてハイタッチした。
リヴが何事かと顔を上げる。
「ど、どうしたの?」
「あ、リヴ。もうお開きにしようってさ!もう10時になるし…明日もインタビューとか多いだろ?帰って休もうよ」
「ええ…もう帰るのぉ?せっかくの日本だって言うのに…」
(げ…リヴが不満そうだ…)
僕とオーリは顔を見合わせると、うん、と頷き、リヴを手招きした。 ――この間もドムは目を瞑って熱唱中――
「何?」
リヴが僕らの方へ歩いて来てオーリーの隣に腰をかけた。
「…実はさ…。ドムには言わないで欲しいんだけど…」
「…うん…?」
「今、が来てるんだ…。レオと」
僕がそう言うと、リヴは驚いた顔で口に手を当てた。
「だからさ…もう帰りたいんだよ…歌っていたいなら残っていいし…僕とオーリーは帰ってもいいだろ?」
僕は必死に訴えると、リヴは驚いた顔から一変、ニッコリ微笑むと、「それなら仕方ないわ…」 と肩をすくめた。
僕とオーリーは、パァっと笑顔になって、「リヴ、ありがと!!」 と抱きついて頬にキスをした。
「が来てるなら…そうよね?どこか案内してあげたりしたいんでしょ?」
リヴも苦笑しながら僕らを見る。
「…まあね!でも…今夜は到底、無理そうだな…この時間じゃ…」
オーリーは、そう言うと思い切り溜息をついた。
「じゃ、早くホテルへ戻ったら?ここから近いんだし道、分るでしょ?」
「うん。リヴは?」
「私は、まだ歌い足りないもの。ドムにばっかり歌われてるし!もう少しここにいるわ?」
「そっか…じゃ、僕ら行くけど、ドムには…」
「分ってるって!上手く誤魔化しておくわよ!ま、でも明日くらいには来てることバレそうだけどね?」
リヴの言葉に、僕とオーリーは凄く嫌な顔をした。
「そうなんだけど…なるべくバレるのを遅らせたいと言うか…」
「OK!じゃ、に宜しく!私も滞在中には一度くらい一緒に食事でもしたいって伝えてくれる?」
「ラジャ!リヴなら大歓迎さ!」
と、オーリーも笑顔で頷く。
「…あのぉ…」
その時、すっかり存在を忘れていたミッキーが恐る恐る声をかけてきた。
「あ、すみません!じゃ、僕ら帰りますんで…」
「あ、はぁ…じゃあ、私も外まで、ご一緒します」
ミスター・ミキは、ちょっと丸くなった体を、よっこらせと動かすと、リヴにも挨拶をしている。
僕らはドムの方を見て、まだ目を瞑って歌ってるのを確認すると、そぉ〜っとドアを開けて廊下に出た。
ドアを閉める前に、リヴに手を振る。
リヴは本を捲りながらも笑顔で手を振り返して、"早く行きなさい"っと口パクで言ってくれた。
僕とオーリーはドアのガラスの間から、両手を合わせてリヴに感謝した。
「はぁ…やっと地獄から抜け出せた…」
僕は溜息をついて首を振った。
オーリーも何だか少しゲッソリしたように見える。 ――いや、こんな短時間でやつれたら怖いんだけどさ――
「…じゃあ、行きましょうか?」
グッタリしている僕らにミスター・ミキが爽やかな笑顔で言ってきた。
ジョシュ
僕は早々にホテルへと帰って来て、すぐにの部屋へと行った。
が…チャイムを鳴らしても一行にドアは開く様子もなく…
もしかして…と思い、レオの部屋まで行ってみた。
すると寝ぼけた顔で起きてきたレオの後ろから、これまた寝起きの顔(それでも可愛いんだけどな)のが目をこすりながら、ヒョコヒョコと歩いて来て僕はちょっと驚いた。
(…レオの奴…と一緒に寝てたな?)
まあ、そんなのは顔には出さず、とりあえず部屋に入れてもらうと、レオが眠そうな顔で、「早かったな…」 と呟いた。
まあ、監督はスタッフと一緒に飲み行っちゃって僕だけ帰って来たんだし、予想よりも早かっただろう。
僕が勝手にビールを出して飲んでる間、レオはシャワーに入り、も自分の部屋でシャワーに入って着替えて戻ってきた。
完全に目が覚めたは僕の隣に、ちょこんと座って腕を絡めてくる。
「ねぇ、どこ行く?私、お腹空いちゃった!」
「そうだなぁ…。今は…10時になるとこだし…この時間からだと…近所になっちゃうか。この辺、何があるんだっけ」
「ジョシュは?何食べたいの?やっぱり好物のスシ?」
は、ニコニコと僕を見上げてくる。
僕は顔が緩みそうになって、コホンと咳払いをすると、「は?」 と聞いた。
「う〜ん…そうねぇ…。やっぱりスシかな…でも他にも美味しいものがあるってリジーが言ってたし。――リジーとオーリーは?まだ終らないのかな…?」
「ああ…あいつら、何だか引っ張り回されてるらしくてさ…。もう少しかかりそうだったよ?」
僕は澄ました顔で答えた。
あいつら二人には悪いけど…僕は死んでも迎えに行きたくなかった(!)
どうせ僕が行ったところでドムに見付るのがオチだ。ドムだって一緒に来るとか言いかねないからな…
「そうかぁ…」
は悲しそうな顔で俯いてしまった。
(ああ…そんな悲しそうな顔されるとちょっとつらい…)
僕はの頭を撫でながら、「仕事だしさ…仕方ないだろ?」 と優しく言った。
は、コクンと頷くと、「そうね…。遊びで来たわけじゃないもんね?」 と笑顔を見せてくれる。
僕はホっとして、の頬にキスをした。
そこにレオがバスローブを着て頭を拭きながら出てきた。
「お腹空いたよ…ジョシュ、どっか食いに行こうか」
「ああ、今、何にするって話してたんだ」
「俺、シャブシャブ食べたいんだけどさぁ〜。ダメ?」
レオはイタズラッ子のように僕を見て言った。
「シャブシャブ…?!私もシャブシャブ食べたい!」
が目を輝かせた。
「あ、でもジョシュは牛肉食べないもんね?」
と、が僕の顔を覗き込んだ。
「ああ、そうか…。じゃ、シャブシャブやめるか…」
「いや、レオが食べたいなら別にいいよ?も食べたいだろ?」
と、僕はに微笑んだ。
「でも…ジョシュが食べられないんじゃ他のでもいいよ?」
(はぁ…はほんと可愛いよなぁ…そんな風に言ってもらえただけでいいよ…)
「いや、大丈夫だよ?他の食べるしさ。牛肉だけしかないってわけじゃないし」
「そう?」
「ああ、豚肉とかもあったと思うよ?前に行った時…それ食べた気がしたな…」
「ああ、あるよ、豚と、あとラムとか」
レオも思い出したように手を叩いた。
「そう!じゃ、大丈夫?」
は嬉しそうに微笑むと、「じゃ、早く行こ?」 と僕の腕を引っ張った。
「おい、まだ俺、用意してないから待っててよ」
レオが苦笑しながら寝室へと入って行った。
はペロっと舌を出して、またソファへと座ると、「でも…こっちのお店って日本語分からなくても大丈夫なの?」 と首を傾げた。
「どうする?言葉分んないんじゃ、どこにも食べにいけないぞ?」
僕は言葉の問題があったのを着替え終ったレオに話した。
「ああ…前はこっちのスタッフが連れて行ってくれたしなぁ…」
「あ、そっか!マネージャーに頼めばいいんだよ!」
それを聞いて僕はポンと手のひらを叩いた。
「え?ジョシュの?」
「うん。アランは日本語、少しなら話せるからさ。俺、ちょっとアランに電話してみる」
「ああ、頼むよ」
レオは呑気に煙草なんて吸いながら手を上げている。は大人しく紅茶を飲んでテレビを見ていた。
言葉が分らなくても、外国のテレビ番組が珍しくて面白いらしい。
僕は携帯を手にすると、すぐにマネージャーのアランの番号を出して通話ボタンを押した。
多分、アランは部屋で仕事をするって言ってたからいると思う。
事務所と何かと連絡を取ってスケジュール管理とかしているらしい。呼び出し音が鳴り、すぐにアランが出る。
『Hello!』
「あ、アラン?俺」
『あ、ジョシュ。どうした?妹と出かけたんじゃないのか?』
「ああ、それがさ、今、食事に出ようと思ったんだけど…俺ら日本語分からないだろ?それで困っちゃって…」
僕がそう言うと、アランは笑いながら、「そうだったな?」 と言った。
「だからさ、アランも一緒に来てくれない?」
『ああ…行きたいのは山々なんだけど…ちょっと忙しくてさ…。 ――何食べに行くんだ?』
「ああっと、シャブシャブ?」
『シャブシャブ… あ、ならここのすぐ近くに"こう楽"って店がある。そこはロスにも支店があるからスタッフも英語が話せる人が多いんだ。そこへ行け』
「ほんと?なら助かった!フロントで場所聞いて、そこ行くよ」
『ああ、そうしろよ。じゃ気を付けろよ?』
「ああ、分った。サンキュ!アラン」
僕はそう言って電話を切ると、
「レオ、この近くに、"こう楽"があるってさ。本店かな?」
「ああ!ダウンタウンにある、あの"こう楽"か?前に皆で行った…」
「そう、それ。何だかスタッフも英語話せる人が多いみたいだし、俺らで行っても大丈夫だって」
「そっか!じゃ、そこ行こうか? ――、英語通じる店があったし行こう」
レオが声をかけると、はテレビを消して、「うん」 とソファから立ち上がる。
「、外寒かったし、マフラーして」
コートを着たの首にクルクルと自分のマフラーを巻いてあげた。
「Thanks、ジョシュ」
は嬉しそうに微笑むとマフラーに巻き込まれた長い髪を表に出して整えた。
「じゃ、行くか?」
レオもコートを着て歩いて来た。
「レオ…そのアルマーニのコートで行くわけ…?」
僕は全身、アルマーニな兄を見て、ちょっと息をついた。
「…?…ダメか?」
レオは首を傾げて自分の姿を上から見下ろしている。
「いや…別にダメってわけじゃ…。かなり目立つとは思うけどね」
「ああ、でも夜だし大丈夫だろ?昼間はヤバかったけどな。これ一番暖かいんだよ」
レオはいつものように、ニヤリとするも、に、「カッコイイわ?レオ」 と言われて途端に表情が緩んでいる。
僕は心の中で苦笑した。
(レオも、相手だと案外、顔に出やすいよな? ――ま、人の事は言えないけどさ…)
「じゃ、行きますか」
僕もブラックコート(それでもドルチェ&ガッパーナだったりする)を羽織ると、それを見てレオが笑った。
「ジョシュだって充分に派手だって…」
「そ、そうか?仕事の後、そのまま来ちゃったからさ…」
と僕も苦笑した。
普段は、こんな格好なんてしないんだけど…僕は頭をかきながら二人の後をついて行った。
フロントで場所を聞くのに、僕は中で座っている男性(推定34歳)に、「Hello?」 と声をかけた。
その男性は英語が分るようで、すぐに笑顔で、「Yes?」 と歩いて来てくれた。
「あの…ここの近くで、"こう楽"ってあると思うんですけど…場所教えて貰えますか?」
「畏まりました」
その男性は、すぐに地図を開くと、場所を説明してくれた。
丁寧なので分りやすい。
「Thank you very much!」
僕は笑顔で、御礼を言うとフロントの男性も嬉しそうに笑顔を見せて、
「You are welcome!....Have a good time!」
と言ってくれた。
とレオは、その後ろで待っていた。
「レオ、場所分かったよ。凄い近い」
「そっか。じゃ早く行こう…飢えて歩けなくなりそうだ…」
レオが大げさに言いながら、外へと出て行った。
僕はの手を繋ぐと、彼女はニッコリ微笑えんでくれる。僕も微笑み返すと、
そのままレオの後ろを追うように外へと出た…瞬間――
「…Oh my god!!」
と、レオの悲痛な叫び声が聞こえた。
「どうした?レオ…」
僕とが驚いてレオの方まで駆け寄ると、レオが嫌な顔で通りの方を指さしている。
僕はその方向へと視線を向けた…。
「あーーー!!!」
そう叫んだのは、僕らを見て、「あちゃ…!」 って顔をしたリジーでも、頭を抱えたオーリーでもなかった。
その二人にまとわり着くようにして歩いて来た…ドミニク・モナハン…――奴が上げた声だった…!
「げっ!!」
僕は普段、出さないような変な声を出してしまって思わず手で口を押さえた。
ドムは僕の方へ凄い速さで走って来ると、
「じゃないか…!!君も来てたんだね!知らなかったよぉ〜〜」
と、嬉しそうに、の手を取った(!)
僕がその手を反射的に叩いてしまったのは言うまでもない…。
「ドム…!久し振りね?」
は無邪気に、ドムに笑顔なんて見せている。
僕の隣ではレオの目つきがマフィアのドン(!)みたいになってて、凄く怖い顔で立っていた。
(あ、いやマフィアなんて知らないけどな?だってレオったら全身黒づくめなんだよ…今度の役作りか?レオ…)
ドムは僕に手を叩かれても、どこ吹く風で、「いつ来たの?」 とニコニコしながら聞いている。
(Shit!…ニコニコしやがってぇ…ったく何てタイミングなんだ…!あいつら…)
僕はドムの後ろで、すまなそう〜な顔をしているリジーとオーリーを思い切り睨んだ。
オーリーなんかは両手を合わせて僕とレオに謝るジェスチャーをしているが僕らの額にはピキピキと怒りマークが出ていたことだろう。
さらに、その二人の後ろには、困ったわ…という顔のリヴまで歩いて来た。
は、それに気づき、「あ〜リヴ!」 と言って笑顔で彼女の元へ走って行く。
「!久し振り!」
リヴは抱きついてきたを軽くハグすると、「元気だった?」 と言った。
「ええ、リヴも元気そうね?こんな日本で会えるのも新鮮!」
「ふふ、そうね?」
ドムは、そのやり取りを見て羨ましげにしている。
僕は小さくなってるオーリーとリジーを、ちょいちょいと指で呼ぶと、二人とも重い足取りで歩いて来た。
「…どういうこと?」
僕の低い声で言うと二人とも、目を泳がせている。
そこに、レオも来て、「何やってんだ?」 と冷たく言い放つ。
「ご、ごめんよぉ〜〜〜う!兄ちゃんが悪かった…!!ちゃんと、まいたつもりだったんだよぉ〜〜!!」
オーリーが僕のコートにしがみついてくるのを、ええい、うっとおしい!と突き放し、「何したら、こんなに早くバレるんだよ!」 とオデコへデコピンした。
「ぃた…っ。…そ、それがさ…ドムが歌いまくってる隙にカラオケボックスから抜け出したのは良かったんだけど…。
僕らが出て行った後にすぐドムが歌い終わったようで、僕らがいないのに気付いてリヴを振り切って追いかけて来たんだよ…
相当、歌って酔いが絶好調だったらしくて。すぐ、そこの交差点まで歩いて来たら後ろから"お前らぁ〜!どこ行くんだぁ〜!"ってすっごい形相で追いかけてくるから…その顔見たら僕らも怖くなって必死に逃げたんだけど…な?リジー?!」
「う、うん、そうなんだ…!どうにかまこうかと思ってたんだけどドム、足早いんだよ…オリンピック選手かと思った…アハアハハ…」
二人は必死に説明してくれて事情は分かったが…
「アハハハじゃない!!」
と思わず怒鳴ってしまった。
二人は、ビクっと肩をすくめると、「ほんと、ごめんてぇ…」 と泣きそうな顔になった。
僕とレオは顔を見合わせて、溜息をつくと、
「ま…もうバレちゃったものは仕方ないし…これからはドムから守るしかないよな…」
「ああ…」
「何を話してるの?皆で」
いきなり後ろから、の声がして、僕達は驚いて、「うわっ」「うぉ!」「わぁ…!」「にゃ!(?)」 とそれぞれ変な声を上げた。(多分最後のはオーランドだろう)(!)
「アハハハ!どうしたの?皆…そんな驚いちゃって」
は笑いながら言うと、「あ、リジー、オーリー!」 と二人に抱きついた。
「あ〜やっと会えたね!My Little Girl!」
オーランドがそう言っての頬にキスをすれば、「ほんと会いたかったぁ…」 とイライジャもを抱きしめて頬にキスをして顔を緩ませている。
僕とレオはそれを見て苦笑した。
「あいつら、よっぽど辛かったんだな?」
「ああ、そうみたいだ」
ま、僕もさっき二人を見放しちゃったんだし悪いことしたけどさ。
それにしても…ドムをどうしよう…?これから食事だってのに…絶対ついてくるぞ?あいつ…。
ドムはの周りをウロウロして一生懸命に話し掛けようとしているが、それを名誉挽回の為かオーリーとリジーが上手くかわして、を守っている。
「どうする?レオ…。食事…お腹空いたんだろ?」
「ああ・・・・早く行きたいんだけど…」
レオが僕に、何とかしろって目で見るし、溜息が出た…
はぁ…仕方ない…僕もお腹すいたし…だって何も食べてないんだから、お腹空いてるだろうからな。
「…」
僕はオーリーに羽交い絞めにされて僕のマフラーの上から更にオーリーのマフラーまで巻かれ、モコモコになってるを呼んだ。
オーリーは僕の視線が怖いのか、パっとを放すと、は僕の方へ走って来た。
「なあに?ジョシュ」
「お腹空いたろ?早く食べに行こう」
「そうね?じゃ、皆で一緒に行こ?」
――う…っ。ほら、きた…。はドムの気持ちなんて全然、気付いてないからか、面白い人って言ってなついてたりする。
これも、また僕らの心配が増えるタネなんだけど…そうだよなぁ…。この状況なら、そうなるか…。
僕はちょっと息をつくと、「ああ、そうだな」 と、の頭を撫でた。
後ろでドムが、「おしっ!」 とガッツポーズをしていたのを見逃さなかったけどな。(何が、おし!だ。バカドムめ…)
「あ、私、もういっぱい食べてきたし、ホテル戻って休むわ?」
リヴはホテルの方へと歩きながら僕らを見た。
「ええ?リヴ…行かないの?」
「ごめんね?…。ちょっと飲みすぎちゃったし・・・日本にいる間に必ずご一緒するから」
リヴに微笑まれて、も渋々だが納得した様子だ。
「うん…。じゃ、次は絶対ね?」
「ええ。じゃ行ってらっしゃい」
リヴはの頬に軽くキスをして、手を振るとロビーへと入って行った。
「じゃ、行くか…」
レオは、サッサと歩き出し、僕もの手を取って、その後に続いた。
オーリーも、リジーも少しは笑顔が戻り、僕の後ろをついてくる。 ただし…ドムも連れて。
「ねぇねぇ。どこに行くの?何食べるの?」
「うるさい、オーリィ…。お前ら食べてきたんだろ?」
レオがちょっと振り返って冷ややかな目で睨んでいる。
「だぁ〜ってさぁ〜…知らない人、しかも凄い年配の人もいたから気を使って、そんなに食べてないんだよ〜」
「はあ?オーリー、人に気を使えたっけ?」
「何?!うるさいんだよ!部外者め!」
オーリーはドムに、ツっこまれ激怒している。
そりゃ、そうだろう…。もし僕がドムに、何か言われたら有無を言わさず鉄拳をお見舞いする所だ。いや踵落としでもいい(!)
「何だよ、部外者って!俺は、もうすぐ…」
とドムが言いかけたのをリジーが思い切り口を塞いだので、その後の言葉は、「ふんごんが…!」 と何を言ってるのか分らなくなった。
まあ、意外、皆は何を言うつもりだったのか分ったんだけどね…。
僕の手を繋いでいるは、そんな事は知らず、二人が、ふざけているもんだと思って振り返って笑っている。
呑気だよなぁ…、ほんと鈍感だしな。
まあ、でも今、ドムが言おうとした事を聞かれてたら…まずかったかも。
ナイスだ、リジー。
出来れば、そのままドムの口をずーっと塞いでいて欲しい…
だが僕の願いも空しく、すぐに、「く、苦しいだろ?!俺を殺す気か!」 とアホな叫び声が聞こえて、
僕は頭が痛くなったんだけど…。 ――ほんと、そのままあの世の果てまで行ってくれ!ま、いいか。今はの手を繋いでるのは僕なんだから…
僕は意味もなく、の額にキスをすると、不思議そうに見あげて来るにニッコリと微笑んだ。
レオナルド
俺は思ったほど食べられなくて、今は軽くワインを飲んでいた。
何で食欲が失せたかと言うと…
「ちょっと!ドム、それ僕の肉だろ?!」
「リジー、お前は食いすぎだから、もっと野菜を食え、野菜を!!」
「何だよ、それ!僕の肉、全部のお皿に入れちゃってるし!」
「リジー、これ食べる?」
「あ、はいいんだよ?食べて、食べて? お兄ちゃんは、このイカレポンチに怒ってるんだからね?――こら、ドム!またとってる!」
「はい、!もっと食べて、僕との丈夫な赤ちゃ――」
ガンッ!!!!
のお皿にお肉を入れようと身を乗り出したドムに、ジョシュの無言の鉄拳が落ち、その場は静まり返った。
俺だけは思わず吹き出してしまって、笑いが止まらず後ろを振り向いた。
「アハハハハ…!腹いたい…アハハ、ガンだって!」
「ぃったぁ…!!」
ドムは思い切り後頭部をグーで殴られたから頭を抱えて、うんうん唸っている。
「だ、大丈夫…?ドム…あの…ごめんね?ジョシュが…」
だけは事情が読めず、オロオロとドムなんかに謝ってて、ジョシュも渋い顔だ。
「ジョシュ…何で殴るの?ドムが何かしたの?」
は頬をふくらませてジョシュの腕を掴んだ。
「そう!したんだよ」
ジョシュは一言、ボソっと呟くと、黙々とサラダを食べている。
「何をしたの?」
はワケが分らないって顔でジョシュの顔を覗き込んでいる。
笑いが収まった俺はジョシュが可愛そうになって助け舟を出してやった。
「、俺も今のジョシュの行動は正しいと思うよ?には分らなかったかもしれないけどな」
「ええ〜?何?さっぱり分らない…」
は不満そうに口を尖らすと、オーランドも見かねて、のとこまで移動すると思い切り抱きついて、
「〜そんな怒らない、怒らない!ドムだって反省してるよ! ――な?ドム」
そこは怖い顔で睨む。
――うまいな、オーリーのやつ。
さりげなく今のはドムが悪かったという言い方をしてる。
ドムはちょっと引きつった顔で微笑むと、「う、うん…。ごめんね?」 と謝って、「エヘへ…」と笑っている。
は何でドムが自分に謝ったのか分らなくて首を傾げていたが深くは考えなかったようで機嫌が直って、また食事を再開した。
俺もちょっとホっとすると、仏頂面のジョシュを、チラっと見て肩をポンっと叩いた。ジョシュはちょっと俺を見て息を吐くとワインを飲む。
(まあ、俺はお前の気持ちが分るよ…ジョシュ)
俺は心の中で苦笑しながら、ジョシュのワイングラスにワインを注いでやった。
今は"こう楽"の奥の座敷いるから、少々騒いでも大丈夫なようだ。
ホリゴタツという席で足を下ろせるから楽だった。今、俺の隣にはジョシュ、その隣に、向かいにオーリー、リジーとドムがいる。
の席から放してドムを座らせたのに、何かとちょっかいを出すから悪いんだよ…
しかも、さっきはジョシュの、不意打ちで思わず笑ってはしまったけど、ドムの言いかけた言葉は聞き捨てならない。
何が、"僕との丈夫な赤ちゃんを生んでね"だ…!! (多分、こう言おうとしたんだろう)誰が生ませるかって。その前に結婚だってさせねぇよ…。
俺はさっきの鉄拳で少々静かになったドムを密かに睨みつけると、ドムは視線を泳がせている。
(全く…こんなに妨害されてるんだから、さっさと諦めてくれよ…)
俺はちょっと息をつくと、が、「ねぇ、明日は?皆は何の仕事があるの?」 と言い出した。
「ああ、明日は…テレビの収録と…インタビューだっけ?」
リジーがオーリーに聞いている。
「うん、確か…朝の10時には出るんじゃないかなぁ?」
「ジョシュは?」
さっきまでムスっとしてたジョシュも、ちょっと笑顔になると、
「俺も同じようなもんだけど…午後に舞台挨拶して俺のは夕方で終りそうだよ?」
と言って、の頭を撫でている。
(顔のしまりがなくなってるぞ?ジョシュ…ほんと分りやすいよなぁ、ジョシュってば)
も、ジョシュは悪くなかったんだと気付いたのか、「ほんと?」 と嬉しそうにジョシュの腕を掴んで喜んだ。
「ああ、明日は、どこか出かけられるんじゃないかな?」
「やった!じゃ、どこ行こうか?レオはどこ行きたい?」
いきなり、ふられて俺は、ちょっと驚きつつ、「どこでもいいよ?が行きたいとこでさ」 と微笑んだ。
「う〜ん…どこだろ…日本の海も見てみたいし…ディズニーランドにも行きたいし…」
「ディズニーランドはロスでも行けるだろ?同じアトラクションじゃないのか?」
「レオ、日本のを行ってみたいのよ…。何だか雰囲気も違うだろうし」
「ああ、そっか。じゃ、ディズニーランド行ってみる?」
「でも買い物も行きたいしなぁ…」
は一人、う〜んと悩んでいる様子だ。
そんなを、兄全員、ニコニコと見ていたんだけど、そこに一人部外者までもが、ニコニコ…いや、こいつはニヤニヤと頬を染めながら、
愛しそう〜に、を熱い視線で見ていた(!)
「あ、そう言えばヨコハマってとこにも行きたいの。車がないと無理かな?」
「車ならタクシーでいいんじゃない?自分じゃ運転できないよ、日本は道が狭いし怖くない?」
オーリーが珍しくマトモな事を言っている。
「つか、その前に仕事終るのか?オーリー」
俺は苦笑しながら、自分も行く気で話してるオーリーを見た。
「ああ…それを言わないでよ…」
ガクっと頭を項垂れたオーリーは、ほんと悲しげな顔でため息をついている。
「お前は仕事できたんだから、まずは仕事しろ。You understand?」
「はいはい…I understand!」
「よろしい」
「チェ…レオ、相変わらず冷たいんだからさ・…」
「バカだなぁ…優しいだろ?」
「にだけ、はね!」
俺はオーリーの的を得た言葉に、ちょっと笑って、「That's right!」 とニッコリ微笑んだ。
は、「そう?レオは皆に優しいよ?」 と、ニコニコするもんだから、そこはジョシュもオーリーもリジーも、
そして何故か部外者(!)のドムまでが、溜息をついた。
何だよ…皆して。 そんなに俺が冷酷非道な男だと思ってるのか?――まあ、否定はしないけどね?
オーランド
「は〜あ…」
僕は思い切り溜息をついて北風の吹く中、ホテルへ帰るべく、テクテクと歩いていた。
前には楽しそうに、を真ん中に腕を組んで歩いてるレオとジョシュが見えて、ますます僕の心は寒くなる。
リジーは何だかドムにまとわりつかれて、のとこに行こうとするんだけど、それを阻止されて、困っているのが見えて僕は、ちょっと苦笑した。
もう日付も変わってしまったし…明日も仕事だし…
せっかくと日本にいるのに、ちっとも遊びになんて行けないじゃないか!
まあ…レオの言う通り遊びで来た訳じゃないんだから仕方ないっちゃ仕方ないんだけどさ…。一日くらいは…オフが欲しい。
「オーリー?どうしたの?」
僕がトボトボと一人で歩いていたからか、が振り返って微笑んでくれている。
僕は急に心が常夏になったように温かくなった。
「ううん、何でもないよ?」
そう言いながら、のとこまで駆けて行くと、が僕の頬を両手で包むように触ってきた。
「冷たい、オーリーのホッペ…」
「そう?今は暖かいんだけどねぇ〜」
僕はの手の体温を頬に感じて、へニャっと笑った。
それを見てレオもジョシュも相変わらず氷の視線だけどね! (何だか氷の微笑みたいだな…ああ、二人にピッタリだよ!)
「あ、私、オーリーのマフラーまで貸してもらってるから、オーリー寒いでしょ?」
は、そう言いながら僕のマフラーを外していく。
「あ、いいよ、いいよ!寒くないし…」
「ダーメ!私はジョシュのがあるもん。 ――はい、オーリー」
僕の首にマフラーをかけようと一生懸命に背伸びをするが可愛くて、僕は少しかがんでの手が届くようにしてあげた。
「Thanks!」
「やだ、もともとオーリーのよ?」
は、そう言いながらクスクス笑っている。
「あ、そっか…アハハ」
それでも、そうやって巻いてくれるのが嬉しいんだな!分るかなぁ〜?これ。
「ほら、行くぞ?が風邪ひいちゃうだろ?」
ジョシュが心配そうにのマフラー(ジョシュのだけど)を、きちんと直すと、僕を見た。
そこは僕も素直に歩き出す。だってが風邪ひいちゃったら悲しいし…。は喉が弱いから、風邪を引くと何も話せなくなって凄くつらそうだからね。
僕はが巻いてくれたマフラーのぬくもりに顔を埋めて、目の前をクールに歩いているレオの背中へ、とぉ!っとジャンプした。何でって?寒いからだよ!
「うわ、オーリー?!重いって!」
お約束どおり、レオは顔をしかめて僕を振り払おうとするんだけど僕はめげずにレオにピッタリくっついてあげた(!)
「寒いんだよぉ…。ホテルまで一緒に歩こうよ〜」
「やだね。俺は寒くない」
「そんなこと言わずにさ〜」
そこにイライジャが逃げてきた。
「オーリー!ちょっとドム何とかしてよ!うるさくて敵わないよ!」
「え〜?それは、ヤダ…」
ドムなんて相手にしてたら、また朝になっちゃうよ…。無視、無視!のこと狙ってる男はみぃーんな無視だ!
「…オーランド〜、お前も甘えん坊だな?」
(う…!…この声は…!)
僕は嫌な顔をして振り向いた。
「うるさいよ、ドム…」
「だけじゃなくて、兄貴にまで甘えてるなんて、彼女が知ったら幻滅されるぞ〜?」
「ぬっ…そんな事はドムに関係ないだろ?アニスはちゃんと分ってくれてるんだからさ!」
「そうかなぁ?普通は恋人が妹にベッタリなんてやだろ?彼女は物分りのいいフリをしてるだけだって!」
(クソォ…言いたいこと言いやがって…まだ結婚反対したのを根に持ってるな?)
「別にそれなら、それで俺はいいんだよ!振られるなんて慣れてるし」
僕はちょっと強がりを言うと、すでに僕から離れて、サッサと前に行ってしまったレオの後を追いかけた。
(ドムの相手なんてしてられないよ…!)
そうこうしてるうちにホテルへと到着。
僕は皆と一緒にエレベーターに乗ってドムがくる前に扉を閉めようかと思ったが、そこは大人気ないのでやめてあげた。
あれれ…?は、まだ明日どこ行くか考え込んでるのかな?
何だかレオが、優しい顔での行きたい場所リストなんてのを聞いてあげている。
さっきの冷たさとえらい違いだ…。あ〜僕も明日はと出かけたい…!午後のインタビュー早めに答えられたらいいんだけどな・…。
これがオーリーやジョシュだけだったら仕事に集中できるんだけど…もいるとなると話は別だ。
皆で遊びに行くのに、僕だけ(あ、リジーもだ…)行けないなんて悲しいよ…。
「う〜ん…やっぱり日本らしいとこの方がいいかなぁ…」
「ああ、そうだ。ホテルの人に聞いてみればいいよ。日本らしいとこって言ったら…浅草とか?下町っぽい方がいいってアランも言ってたし」
ジョシュが考え込んでるの頭を撫でて言うと、は興味が出たのか、「浅草?」 と顔を上げた。
「うん。日本っぽい感じだったよ?前に写真か何かで見たけど」
「そう…着物とかもあるかなぁ…」
「え?何?、着物がほしいの?」
ドムが張り切って口を挟んだ。
「うん。ちょっと着てみたいなって思って…」
そう言うとは照れくさそうに微笑んで、ドムはその笑顔でますますに必殺張りにやられたようだ…。
「絶対、似合うと思うよ?俺も見てみたいなぁ…。の着物姿!」
ドムがニヤニヤしてるのを、僕ら全員で睨みつけ威嚇すると、ドムはサっと視線をそらしてしまった。
(ったく…ほんと懲りない男だよ…)
僕は心の中で苦笑すると何だか眠くなってきた。 ――そりゃ、そうだよね?日本についたばかりなんだから――
エレベーターを降りるとき、に、おやすみのキスをして、すぐ部屋に戻った。
そしてシャワーに入った後、ベッドに潜って速攻で寝た。
(明日の為に体力を復活させないと…!)
僕はベッドに入ると、役2分でころりと眠りについたらしい。
この日の夢は…可愛いの・…夢なんかじゃなく…
ドムがヘタクソなラブソングを延々と歌いつづけてるのを僕が聴いている悪夢だった…(!)
イライジャ
「うはぁ…疲れたぁ…!!」
僕はベッドに倒れこむとピクリとも体が動かせなくなった。
(まだ耳の奥にドムの歌声が残ってるよ…!!)
僕は寝転がったまま耳を塞ぐ。
全く悪夢だったな、今夜のあれは…。ドムのバカが暴走しちゃうし…ジョシュはキレるしで…はぁ〜もう、僕はだるだるなのさ…
しっかし、さっきのジョシュは怖かったよなぁ…。ドムにバレてついてきちゃったから仕方ないんだけど…まで見付かったからか、目が怖いよ、目が…
レオもだけどさぁ…あの二人何気に似てない?のことになると、あの人達は熱くなるからね…
僕も同じだけど、いつも先にレオか、ジョシュが爆発しちゃうから、僕はフォローに回る羽目になるんだ。
今日の功労者はオーリーだったけどさ。あれはジョシュも助かっただろうなぁ。
に怒られたら、きっとジョシュは一年間へこむかもしれないしね…って言うか、そもそもの諸悪の根源は…ドム!あいつだ…!
うちの家族を破壊しかねない…。全くさぁ…ニュージーランドに、を呼ぶんじゃなかったよ。
「う〜…何だか喉が渇くなぁ…」
僕は仕方なく、のそっと起き上がると冷蔵庫からミネラルウォーターを出して一気飲みして少し息をつく。
(何だかんだでアルコール結構とったからな…明日は朝からテレビ収録だし…もう寝よう…)
「っと、その前に…シャワーでスッキリしなくちゃ…」
僕は疲れた体に鞭打って、やっとこさっとこシャワーを浴び終えると、すぐにパジャマに着替えた。(ちなみにからのプレゼント!)
そのまま、またベッドへ潜り込んで布団を顔までかぶる。布団の中はヒンヤリしていて少しだけ寒かった。
はぁ…こんな夜は人肌恋しいなぁ……なんてね。
だからと言って彼女はいらないんだけど…何かと面倒だから。
に、一緒に寝ようって言えば良かったな。、知らない国とかに行くと眠れないって言ってたし…大丈夫だろうか?
電話しようかなぁ…なんて考えたけど、今度こそ体は動かず。あ〜瞼が重い…
どうか明日は早めに終りますように…とお願いした瞬間、僕の記憶は朝目覚めるまでぷっつりと途絶えた。
ドミニク
「ったく、もう!」
俺はドアをバタンと閉めると、ソファにドサっと腰を下ろした。
何だよ、あのバカ兄貴どもは!!!シスコンもいいとこだな!俺がと上手くいくのが気に入らなくて、あの手この手で俺との仲を裂こうとしてるんだ…
なんて性質の悪い兄貴どもなんだ…(いや、お前がな、なんてツッコまれそうだけど)
今日はだって俺の事をかばってくれたのに…!
あの手の早いジョシュのせいで痛い思いをいたけど、その後にが俺に「大丈夫?」 って、あの天使のような瞳で「大丈夫?」 (しつこい)って言ってくれたのに…!
オーランドの奴が変なフォローをいれるから台無しだ!ジョシュだってに怒られれば良かったのに!
「はぁ…」
溜息しか出ない…つか、カラオケ歌い過ぎたし喉も痛くて、声ガラガラなんだけどさ。
明日のインタビュー大丈夫かな…ま、どうせインタビューが多いのはリジーとオーリーなんだ。俺には関係ないねっ
ああ…そうだよ、俺はインタビューなんて少ないんだし、それが終ったら、ずっとと一緒に観光でもしたい気分だよ!
インタビューはオーリーとリジー、リヴに任せてさ…ああ…でもダメだ…。
と一緒にいるのは、あの兄貴達の中でも一番手強い、レオナルド…!!
俺、レオだけは(?)苦手だよ…。あのきれぇ〜なお顔と冷た〜い目で睨まれると、蛇に睨まれた蛙だね?俺ってば。
オーリーも美形だけど、オーリーはヘタレだからね?俺が強気で睨めば、スゴスゴと引き下がるし、まだ大丈夫。でも…レオだきゃ〜怖い…
ジョシュの本気モードも確かに怖いんだけど…レオは何だか年季が入ってるからさ…
若い頃は、(今も、まあ若いけど)実はブイブイ(死語だって?ほっとけ!)言わせてたんだろうなぁって思わせる…。
ジョン・マーシャル高校でも、かなり有名だったらしいしな…おぉ〜怖。
はぁ…愛しい…君はもう寝たのかな?こんなに近くにいるなんて、ロスでもない事だから、俺は今夜は眠れないよ…!
何てたって一つ屋根の下にいるんだから!部屋はどこなんだろう…さっき、コッソリ聞こうと思ったら、リジーにお尻を蹴られて聞き損ねた…
ったく…大事な仲間を何だと思ってるんだ?あれじゃあ、だって恋の一つも出来ないに決まってる…。
あ!…そうか…!だから俺に助けを求めてるのかも…(!)
あの瞳は、助けてって言ってるのかもしれない…っ!籠の中から私を助けてって言ってるのかも…。そうだよ、きっとそうに違いない!(凄い思い込み)
俺は寝室に入ってベッドに寝転がった。
(待ってろよ?…。いつか君を僕の腕に抱きしめるからーッ!)
そう決心しながら俺はどうやって、あのうるさい兄貴達からを助けようかと必死に考えをめぐらせていた…。
私はこっそり部屋を抜け出すと、足音を忍ばせて廊下を歩いて行った。
コンコン…
なるべく小さくノックをする。
(まだ起きてるかなぁ…)
「……誰?」
かすかに声が聞こえて、私も小さな声で、「私…。」 と言った。
すると凄い勢いでドアが開いて、ちょっと驚いた。
「…?!――どうした?」
驚いた顔をしていたけど、いつもの優しい声で私はちょっとホっとした。
「あ、あの…」
「いいから、まず入って…」
ジョシュは優しく微笑むと、私を部屋へ入れてくれた。
「ほら、これ、かけて…」
ジョシュは、ソファに座った私の膝にブランケットをかけてくれた。
「ありがとう…」
「紅茶飲む?今、さっきとったんだ」
「うん」
私が、そう言うとジョシュはポットからカップに紅茶を注ぐと、「はい」 と私の手にカップを持たせてくれた。
「――で、どうした?…何かあった?眠れないとか…?」
ジョシュは私の隣に座ると肩を抱いてくれた。
「ううん…。あの私、さっきのこと、誤りに…」
そこまで言うと言葉が詰まった。
「さっき…?さっきって…。 ――ああ、ドムのこと?」
ジョシュは、ちょっと笑うと私の顔を覗き込んだ。
「うん…。 さっきは謝りそびれたし…。何だか勘違いしちゃってごめんね?」
「いや、別に気にしてないよ?」
ジョシュは、そう言うと私の頬にキスをしてくれた。
「、あんなこと、気にしてたの?」
くしゃっと私の頭を撫でるとジョシュは煙草に火をつけて、フゥ〜ッと煙を吐いている。
「だって…ドムが何したとかは分らなかったけど…ジョシュを責めちゃったし…」
そう…理由も知らないのに、ジョシュを責めるような言い方をしたのが凄く気になって眠れなかった。
「そんな事ないよ?それに…理由はには聞かせたくないから言わない!」
そう言うとジョシュは、ニコっと笑った。
私もそれには、思わず笑顔が零れて、クスクス笑ってしまった。
「――理由は…いいわ、聞かない」
「そう、その方がいい。には、いつも、そうやって笑っていて欲しいからさ」
ジョシュは私の額にキスをしながら、ギュっと抱きしめてくれて、凄く安心した。
「ジョシュの匂いだ…」
「え?」
「煙草の匂い…ジョシュが抱きしめてくれると、いつもするの」
「あ…ごめん」
ジョシュが、パっと離れて、私は慌てて腕を掴んだ。
「違う、別に嫌だって言ってるんじゃなくて…安心するの」
ジョシュは呆気に取られた顔をして私を見ていたけど、ちょっとだけ笑って、また私の頭を抱き寄せてくれた。
「変なの…煙草の匂いで安心するなんてさ」
「そうかな?・…煙草の匂いがするとジョシュを思い出すわ?」
「レオも吸ってるだろ?リジーもさ」
「レオはね、煙草の匂いと一緒に香水の匂いもするの」
「ああ…確かにね。ブルガリやら、エゴイストやら、その日の気分で変えてるもんな?」
ジョシュは笑いながら頭を撫でてくれている。
「そう。 ――それでリジーが吸ってる煙草は甘い香りでクセがあるでしょ?」
「ああ、あれね…。俺が映画の中で吸ってたやつ…」
「そう…。だから…皆、それぞれ匂いが違うのよ?」
「へぇ…。 ――あ、じゃあ、オーリーは?」
「オーリーはねぇ。ほんと香水の匂いだけ!」
私は笑いながらジョシュを見上げた。
「…確かに。 オーリーもくっさいのつけてるよなぁ…」
…ジョシュったら顔しかめてる…。 ――私はちょっと笑ってしまった。
「ジョシュ?臭いのじゃなくて…あれはエルメスの香水よ?」
「そうなの?俺、ああいう濃い匂いダメなんだよ…鼻が曲りそうになる…!」
ジョシュはそう言うと自分の鼻をつまんで顔をしかめるもんだから、私は、また吹きだしてしまった。
「ジョシュは、いつも煙草の匂いと…お風呂上りはボディシャンプーの匂いだけだもんね?」
「俺には香水、似合わないだろ?」
「そんなこと…。香水が嫌いなんじゃない?」
「いや…。そんなことないよ?のつけてる香水は大好きだし」
ジョシュはそう言うと私の首筋に顔を近づけて、「これ、この匂い」 と言って微笑んでいる。
「ああ…これ…ドルチェ&ガッパーナのライトブルー…?」
「そうなの?名前は知らないけどさ…。何だか爽やかでに似合ってるなぁって思ってた」
ジョシュが優しい顔でそんな事を言うから妙に照れくさくなった。
「前はさ…もっと甘い匂いつけてたろ?あれも良かったけどね。変えたの?」
「え…?」
「ほら、ココナッツみたいに甘い匂いの…黒い瓶でさ」
「あ…ブルガリの…ブラック…?」
「あ、そうそう。ブルガリって言ってたな、確か、レオがさ」
ジョシュがちょっと笑って頭をかいている。
それは照れた時とか夢中で話す時のジョシュのクセだった。 ――今はちょっと照れくさかったんだろう――
私はブルガリの香りを思い出して少し胸がきしんだ。
あれは―――ライアンからもらった香水だった。
「?どうした?」
ジョシュが私の顔を覗き込んできてハっとした。
「あ、何でもないわ?」
「そう?眠いんじゃない?もう…遅いし…」
「あ、うん。そろそろ寝ようかな?」
そう言うとソファから立ち上がった。
「一人で寝れるか?」
ジョシュも私が初めての土地だと眠れないのを知っているからか心配そうな顔で聞いてきた。
「うん…多分…大丈夫だと思う」
笑顔でそう言うとジョシュは、ちょっと寂しそうな顔をする。
「もしかして…ジョシュが寝れないんじゃないの?」
おどけてそう言うと、ジョシュは笑って、「あ、分っちゃった?」 と言った。
「じゃあジョシュが寝不足になって明日の舞台挨拶でファンの皆に寝ぼけた顔を見せないように今夜は一緒に寝てあげる!」
ちょっと澄ました顔でそう言うとジョシュの顔が、ふっと緩んでギュっと抱きしめられた。
「じゃ、お願いしようかな?」
「了解!」
私もそう言って笑うと、ジョシュは寝室に言ってパジャマに着替えている。
私はすでにパジャマだったのでバスルームへ行くと歯は磨いてたので軽く口を漱いだ。
そのまま寝室へ行くと、ジョシュが、すでにベッドへ入って目覚ましをセットしていた。
「あ、。俺、明日9時頃には起きるけど…起こしちゃうぞ?」
「大丈夫よ?気にしないで」
「そう?俺が行っても、そのまま寝てていいからな?」
「うん」
「じゃ、はい。早く布団に入らないと風邪引くよ」
ジョシュが布団をめくってくれたので素早く潜り込んだ。
「あったかい…」
私はジョシュの脇の下まで潜って丸くなった。
「そんな丸くなったら、オーリーみたいに蓑虫になるぞ?」
ジョシュは笑いながら私に布団をかけてくれた。
「やだ…あんなに虫っぽくないわ?」
私もちょっと吹きだすと、そのまま目を瞑る。
「おやすみ、ジョシュ…」
「おやすみ、」
ジョシュは、そう言って私の額に軽くキスをするとベッドサイドのライトを消した。
真っ暗になってすぐ、私は時差ぼけが残ってたのか、すぐに眠ってしまったようだ。
朝、ジョシュがセットした目覚ましで一度起きるまで、私はグッスリと寝ていた。日本のベッドはちょっと狭くて、何度か寝返りを打った時にジョシュの胸に、ぶつかったらしいが私は全く気づかなくて、次の日の朝、「、寝返り打って俺の胸に頭、何度かぶつけただろ?」 と苦笑いしていたっけ。
やっぱり知らないとこだと普段うたない寝返りもうってしまうようだわ…
私がごめんね、とジョシュの頬にキスをしたら、さすがにジョシュも真っ赤になってたんだけど…
ジョシュは顔が赤いまま、出かけちゃって、インタビューとか舞台挨拶は大丈夫かなと心配になった。
私は、そんなシャイなジョシュが大好きなんだけど…
そんな心配をしつつも私が昼までジョシュのベッドで寝てたのは言うまでもない…。