私はこの日、久し振りに事務所へと来ていた。
映画とドラマを同時に撮っていて、その後は暫くオフだったからだ。
今日は次の映画の話を聞くのに来たのだが、マネージャー、テリー(42歳・ベテラン)の話だと次回はラブストーリーをやらせたいらしい。
「はぁ…何だか休みボケかなぁ…。眠くなって来ちゃった…」
私は事務所の奥にある応接室のソファーで雑誌を見てると何となく睡魔が襲って来て思い切り欠伸をした。
さっき買ってきたビックサイズのコーラを一口飲んで息をつく。
(夕べはレオと飲みに行っちゃって、あまり寝れなかったしな…)
他の皆は、またプロモーションの旅へと出かけてしまって今は父とエマ、レオの3人しか家にいない。
まあ、皆もあと10日もすれば帰って来るだろうけど。
私はペラペラとファッション雑誌をめくり、気に入った服を見つけると頁に折り目をつけておいた。
あ…このモデルのネイルも可愛いなぁ…今日の帰り、久し振りにネイルサロンに寄ろう…
このところサボってたし……って、それにしても…テリー遅いなぁ。
脚本を見せるとか言って出て行ったきり20分近く戻らない…
今日は他に出演する予定の人が分るとかで張り切ってたんだけど。
私は雑誌を閉じると顔を上げた。
するとドアの外が騒がしくなって、いきなりドアが開く。
「!久し振りだね」
「社長…」
私は久し振りに社長のボブの顔を見て笑顔になり、ソファーから立ち上がった。
社長は私の方へと歩いて来て思い切りハグをすると、「どうだ?ゆっくり休めたのか?」 と訊いてきた。
「はい。もう、た〜っぷり!ほんと、あんなに休みもらえたのも社長のおかげだわ?テリーに言っても、まだ仕事入れようとしてたんだもの」
「アハハ。テリーはにいい仕事をさせたいんだよ。いい仕事があれば、すぐ取って来るからな?」
「その通りよ?」
いきなり声がして振り向くと、ドアの所に、テリーが立っている。
「それなのに、社長ったら少しは休ませてやれなんて言って、この前のCMの仕事、ダメになったんですからね!
あれは有名なジュエリーブランドで大きな仕事だったのに…他のACTRESSに取られてしまったわ?」
テリーはムスっとしたまま入って来て書類をテーブルの上に置いた。
「まあ、そう言うな…。だって同時にドラマと映画の撮影で疲れてたんだから…倒れられたら困るだろ?」
ボブはテリーの肩に腕を回して、宥めている。私は、そう言う優しい社長が大好きだった。
テリーはと言うと、まさに仕事人間で私にも周りにも、そして自分にも厳しい。
よくオーランドが、「のマネージャー怖くてやだよ〜」 とボヤいている。影では、"オババ"なんて言ってるらしい…
「社長?それは分ってますが私だって健康管理くらい、きちんとさせてますよ?」
「分ってるさ!君がの事を一番に考えてるって事は…。でも少しくらいは…」
「社長と、今、その話を議論するつもりはありません。今日はの次回作の話を進める為に来て貰ったんですから」
テリーは社長のボブにも臆することなく、ピシャリと言い切った。
ボブは、ひょこっと肩をすくめると私の方を見て、お手上げっと苦笑している。
私も笑いを堪えて、ソファーに座りなおし、テリーの置いた書類を手に取った。
「テリーこれが次回作の脚本?」
テリーは私の隣へと腰をかけると、「ええ、そうよ?前に話したラブストーリーの映画。やるでしょ?」 と私を見た。
私は言葉に詰まってしまう。
いつも、そう…
私の返事を聞く前に、テリーは自分が持って来た仕事は全て引き受けると思っている。
前に、この話を聞いた時、"考えておく"と言っただけなのに…
「あの…まず脚本を読んでみないと…それに共演者も、まだ知らないし…」
「でも早く返事しないと他のACTRESSに取られてしまうわ?これ主演の話なのよ?ああ、それと出演が決まってるのは、この人達ね…」
テリーは、そう言うと書類の中から一枚の紙を取り出し私に渡した。
私は、その紙を受け取り、もし自分が出演する事になった時に相手役になるだろうACTORの名前を確認するべく目を通し、そして目を疑った。
「え…?」
私が驚いた顔をすると、紅茶を飲んで社長と何か仕事の話をしていたテリーが私の方を見た。
「ああ、また彼との共演になるみたいね?」
私は、そのテリーの言葉さえ、すでに耳に入らなかった。
手に持っている出演者リストの書類を知らず、ギュっと握る。
私が主演で出るかもしれない、この映画………相手役のとこに書かれていた名前は…ライアンだった――
「い、いや…です…」
「え?」
「出たく…ありません…」
「…?」
テリーと社長は驚いた顔で私を見ている。
私は書類を持つ手が震えて、思わずテーブルへと戻した。
「あの…この映画には…出たくないんです…っ」
私はそう言いきると応接室を飛び出した。
「ちょっと、?!」
テリーの怒ったような声が背後から聞こえたが私は、そのまま廊下に出るとエレベーターに飛び乗った。
急いで、Rボタンを押す。心臓がドクドクと鳴り息苦しい。
私は屋上につくと一番奥のドアから見えにくい場所に行って、しゃがみこんだ。
「はぁ…」
思い切り息を吸い込んで吐いて、気持ちを落ち着かせようと、その場に座り込んで真っ青な空を見上げる。
(ライアン…彼…相手役だなんて…)
心臓がギュっと掴まれたかのような息苦しさに胸を抑える。
(無理よ…ライアンとまた映画に出るなんて…私には出来ない…しかも恋人役?そんな…出来る訳がないじゃないの…っ)
私は両手で顔を覆うと、過去の痛みを思い出して涙が浮かんできた。その時――
「やっぱり、ここにいたのね?」
その声に驚き、私は顔を上げた。
「…テリー」
目の前に怖い顔でテリーが歩いて来た。
「さっきのは、どういう事なの?出来ない…なんて。まだ脚本も読んでないのに」
「それは…」
「相手役が昔の恋人のライアンだから?」
いきなり、そう言われて私は驚いて立ち上がった。
するとテリ―は軽く溜息をついて私を見ると、優しく私を抱き寄せてくる。
「知ってたわ?あなたとライアンのことは…」
「…え?どう…して…」
「私が気付かないとでも思ったの?私はずっと、貴方と一緒に行動してるのよ?あの時だって毎日、貴方とライアンを見てたんだもの。気付くわよ…」
テリーはそう言うと私をそっと放した。
「は上手く隠してたけど…彼の事を好きなんだって思ったし、彼もまたの事を好きなんだって思ったわ?
クランクアップした後に付き合いだした事も気づいてた。その後…もう一度共演した後に…何があって別れたのかもね?」
私は呆然と、テリーの話を聞いていた。
「ど…して?別れた原因まで…」
「そんなの…あの映画の後にライアンがリリーと結婚したんだもの。分るでしょ?」
そこまで言われて私は俯いてしまった。
するとテリ―が私の肩を掴んで顔を覗き込んでくる。
「…辛いのは分る。でも貴女はプロのACTRESSなのよ?仕事を続けている限り、過去の恋人と共演なんて、ありえる事だわ?」
「でも…」
「それが嫌なら…ACTRESSをやめるか、恋人をACTOR以外で作る事ね」
そう言われて私は顔を上げた。
目の前にはテリ―が厳しい顔で私を見ている。
私は、ちょっと息を吐き出すと、小さく頷いた。
「分った…。とりあえず…脚本は読むわ…?でも…」
「断る事は出来ないわよ?」
「え…?」
「もう、OKって返事してしまったもの」
「そんな…」
私は驚いてテリーを見つめた。
「貴女はまだラブストーリーをやった事がないから今回の話はチャンスなの。それにまだ仕事を選べるほど、この仕事をやってないでしょう?」
そう言われて私は何も言えなかった。
確かに…そうだ…。テリーの言ってる事は正しい。
私は、まだまだACTRESSとしては、これからなんだ…。
私は軽く息をついてテリーを見ると、「分りました…。やります…」 と言った。
テリーは、その言葉に優しく微笑むと、
「じゃ…下に戻って打ち合わせしましょう?近々、共演者の人達や監督たちと顔合わせもあるし」
「…はい」
私はテリ―に肩を抱かれて、重い足取りのまま歩き出した。
顔合わせ…そこでライアンと会う…。どんな顔で会えばいいんだろう…
私には分らなかった――
レオナルド
新しくクランクインした映画のその日の撮影が終ると、共演者の女から誘われて飲みに行った。
そして案の定、帰り際に、「私の家で…もう一度乾杯しない?」 と言われて、まあ、いいかと俺は軽くOKした。
だが家につくなり乾杯どころか、そのACTRESSは、いきなり俺に抱きついてキスをして来て驚くも、
そのままベッドルームへ行く間もなく、ソファーに倒れこんで、お互いの服を脱がしていると、俺の携帯が鳴り出した。
「…ちょ…レオ…?」
俺が電話に出ようとすると、そのACTRESSは思い切り嫌な顔をして俺の腕を掴む。
「ごめん…出なくちゃ…」
俺は優しく微笑んで彼女にキスをすると、急いで電話をポケットから出して通話ボタンを押した。
「.....Hello?」
『………』
(何も聞こえない…。?…イタズラか?ディスプレイ確認してから出れば良かったかな…)
俺はそう思いながら、もう一度、「Hello?誰?」 と言ってみた。すると――
『……レオ…?』
小さく俺の名を呼ぶ声が聞こえて、ドキっとする。
「…か?」
『…うん…ごめんね…仕事中だった…?』
「あ…い、いや…!大丈夫だよ?」
突然、こんな状況でのからの電話に思い切り動揺してしまった。
「ど、どうした?何かあった?」
『………』
「…? ―どうした??」
少し様子がおかしい事に気付いて俺は心配になった。
『…何でもない…。ちょっとレオの声が聞きたくなっちゃって…ごめんね?誰かと一緒なんでしょ?もう切るね…』
「え?お、おい!」
は、そう言うと電話を切ってしまった。
後ろで、"レオ…早く…"と言いながら俺の腕を引っ張っている女の声が、かすかに聞こえてしまったのかもしれない…。
俺は慌てて起き上がると途中まで脱いだ服を着なおした。それを見て驚いた顔で、そのACTRESSも起き上がる。
「ちょ、ちょっと、どうしたの?!」
「ごめん、俺、帰るよ」
「は?!どういう事?!」
そのACTRESSは、ムっとした顔で俺の腕を掴んだ。
「ちょっとね…?続きは、また今度って事で」
「ふ、ふざけないでよ!今の電話…って言ってけど…それって妹じゃないの?」
「ああ…。そうだけど…」
「どうして妹からの電話で帰るわけ?!」
そのACTRESSは、そう言うと掴んでた俺の腕を思い切り引っ張って、また抱きついてきた。
そして激しくキスをしながら、また服を脱がそうとして俺は慌てて彼女の腕を掴んだ。
「おい…やめろよ。もう、そんな気分じゃないんだ」
「な…何よ、それ?!」
俺の言葉に顔を真っ赤にして怒り出した。
「そう怒鳴るなよ…。この埋め合わせはするからさ…。ほんと、ごめんね?」
俺はそう言うと彼女の頬に軽くキスをして、急いで部屋を飛び出した。
後ろから、「待ちなさいよ!」 と怒鳴る声が聞こえたが、俺はもう構わなかった。
の事が心配だった。
どうしたんだろう?あんな暗い声なんて久し振りに聞いた…
あの…恋人と別れた時期以来だ。
そう思うと何だか胸騒ぎがして、俺は車を拾うべく通りの方まで走って行った――
「?」
俺は家に着くなりリビングへと駆け込んだ。
「お?レオ?どうした…慌てて…」
リビングのソファーに座って台本を読んでいたらしい父さんが驚いた顔で俺を見た。
「ああ、父さん、いたんだ。あの…は?さっき電話もらって様子が少しおかしかったからさ…っ」
俺がそう言うと父さんは少し眉を寄せて溜息をついた。
「そうか。なら仕事から帰って来てから自分の部屋にこもったきり出てこないんだよ…確かにちょっと様子が…っておい?レオ?」
俺は父さんの話を最後まで聞くことなく二階へと駆け上がっての部屋をノックした。
「?いるんだろ?」
俺がそう声かけるも中からは何の応答もない。心配になって俺はすぐにドアを開けると部屋の中を見渡した。
(いない…寝室かな?)
俺はそう思って歩きかけた時、足元に一冊の脚本と台本やら書類が散らばってるのに気付き、それを拾い上げた。
(これ…今度の新作か?)
俺は脚本をパラパラめくると、内容がラブストーリーだという事に気づき顔をしかめる。
(…今度はラブストーリーなのか…それに台本までが、ここにあるって事は引き受けたって事か?)
俺は少し嫌な気分になって、その相手役は誰だ?と気になり脚本に挟まっていた数枚の書類に目を通した。
(ライアン・フィリップ?って…前にと二度ほど共演したACTORだな…また共演するのか…)
俺は彼には会った事がないが、前にチラっと聞いたの話じゃ凄く優しいという事だった。
(でも何で台本とかが、こんなとこに投げ出されてるんだ?、いつも、こういう物は大事に扱っているのに…)
俺はそう思いながら台本をテーブルの上に置くと、を探しに寝室へと入って行った。
「…?」
真っ暗な部屋の中、ベッドの上で横になり丸くなっているが見える。
俺はホっとしたものの急いでベッドの上に上がり傍まで這って行くとの肩を揺さぶった。
「…?どうした?寝てるの…?」
俺が声をかけると、は、ゆっくり俺の方へと振り返った。
「…レオ…?」
「ああ…ただいま」
俺はそう言うと、かがんでの頬にチュっとキスをした。
「どう…したの?」
「え?」
「だって…誰かとデートしてたんじゃないの?」
の言葉に俺は何て答えていいのか分らず視線が泳いでしまった。
「あ…ごめんなさい…。私…電話かけちゃったから…邪魔しちゃったよね…?」
が申しわけなさそうに俺を見る。
「い、いや…そんな事は…邪魔なんて思うはずないだろ?」
「だって…」
「は、そんな事を気にしなくてもいいの!いつでも電話していいんだよ?」
俺はそう言うとの腕を引っ張って起こすと自分の腕の中に抱き寄せた。
の頭に頬を寄せて軽くキスをすると、「どうしたの?何かあったの?」 と訊いてみる。
は何も答えず、ただ首を横に振った。
「ほんとに?」
「…うん」
俺は気にはなったが、にも言いたくないことはあるのかもしれないと、もう何も聞かない事にした。
「そっか、ならいいけどな」
俺はそう言うとを腕に抱いたまま壁にもたれかかった。
「…次の作品、決まったんだね?」
「あ…台本…見た…?」
「ああ…。何だかラブストーリーのようだけど?」
俺はの髪をすくって口付けながら、なるべく軽い感じで言ってみたが、はまた俯いてしまった。
「どうした?初挑戦だから緊張してるの?」
そう言っての頭を撫でながら笑うと、は、「そんなんじゃ…」 と言って言葉を切る。
「知ってる奴が相手だし大丈夫だろ?」
「…え…っ?!」
何気ない俺の、その一言に、は目に見えてドキっとしたように感じた。
「いや…ほら、ライアンって…前にが、よくして貰ってるって話してたしさ?」
「あ…うん…。そう…そうだね?」
は、それだけ言うと俺の胸に顔を埋めて、「レオ…」 と呼んだ。
「ん?」
「…帰って来てくれて…ありがとう…」
俺はちょっと微笑んでの頭を撫でた。
「そんなの当たり前だろ?」
俺がそう言うとは静かに目を閉じたようだった。
そのまま暫く彼女の頭を撫でながら、、俺は、いつもと少し違うの様子が気になっていた…。
それから数日間、少し元気がないように見えたが、それでも心配をかけると思ったのか明るく振舞っていたように思う。
特に今日はプロモーションに出ていた、オーランドとイライジャが帰って来て、久し振りに二人に会えたからか、さっきから子供のようにはしゃいでいる。
「それでね、レオったらデートの途中に帰って来てくれたのよ?」
「うっそ〜?それ最悪だね?女性からしたら凄い失礼な男じゃない?」
オーランドがケラケラ笑いながら、の話を聞いている。
さっきからリビングでワインなんぞ飲みつつ皆で最近あった事を話して盛り上がっていたら急にが
「レオは最近また別の女性とデートをしてるみたい」
なんていい出すもんだからオーリーの奴が喜んで聞きたがって、俺は大笑いしているオーランドの首に腕を回して思い切り絞めてやった。
「誰が失礼だって?!」
「く…っ苦しいぃぃ…!は、放して…っ」
そんな俺とオーランドを笑いながら見つつも、は言葉を続けた。
「それで電話した時に後ろから聞こえたの!"レオ〜早く"って!だから私凄い慌てて切っちゃった!そんな最中だったなんて思わなかったし」
は笑いながら話してるが、俺は思わず顔が赤くなって慌ててオーランドを放り投げると(!)の隣へと座った。
「い、いや…、違うんだ…っ あれは、まだ…」
「え〜?違うって?だってベッドの中だったんじゃないの?」
「え?! ――いや、ベッドじゃなくてソファーで…って、そんなのはどうでもいい!」
「ええ〜レオったら待ちきれなくてソファーでいたしてたの?!」
「してないよ…!お前は黙ってろ…!」
またもや、オーランドが大笑いしながら割り込んできて、俺は思い切りグーで頭を殴ってやった。
「ぃた…!いちいち殴るなよ〜っ」
「うるさい! ――そ、それより、、どうした?何だか今日は変だぞ?」
「え?何が?」
はキョトンとした顔で俺を見る。
「あ、いや…だから…。前は、こんな話とか…進んでしなかったろ?」
「こんな話って…レオの女性関係のこと?」
そう言われて俺は言葉に詰まった。
イライジャも途中までは、オーランドと一緒になって笑っていたが、今は少し驚いた顔でを見ている。
「ごめん…話しちゃダメだった…?」
「え?そ、そんな事じゃなくて…さ…」
「それよりレオ、その人にちゃんと謝った?妹が心配だって言って、最中に帰ってきちゃったら振られるわよ〜?オーリーみたいに!」
が笑顔でそう言うと、オーランドが悲しそうな顔でに抱きついた。
「〜〜〜〜!!そ、そんなこと言うなよ〜〜っ兄ちゃん悲しいよぉ〜…」
「はい、はい!また振られたら慰めてあげるわ?」
「そんな縁起でもないじゃないかぁ〜〜〜っ」
「オーリー、うるさい!」
「うひゃ…っ」
そこでイライジャがに張り付いてるオーランドを、むんぎゅと掴んで、これまた放り投げるとの肩を掴んだ。
「ど、どうした?…何だか久々に会ったら…こう…妙に明るいよ?」
イライジャが心配そうに言うと、は口を尖らせた。
「何よ…。私が明るいと変なわけ?ひどいなぁ…っ」
「い、いや…そう言う事じゃなくて…。今日はさ…何だか…こう…過激発言が多いというか…」
イライジャのその言葉に俺も大きく頷いた。
当のはキョトンとした顔で、「え?そう?私だって21歳なんだし男女の事くらい話すわよ?」 とケロっとしている。
「あ、いや…それ…は…そうかもしれないけど…」
とイライジャは頭をかいた。
するとが、いきなりソファーから立ち上がる。
「…じゃ、私、明日も早いの。もう寝るわ?」
「え?そ、そう…?」
「うん。レオも明日は仕事じゃないの?」
「ああ…俺は…午後からだから…」
「そうなんだ〜。いいなぁ…」
は、そう言いながら微笑むと、「じゃ、皆、おやすみ!」 と言ってリビングを出て行った。
「ええ〜…〜寝ちゃうの〜?!寂しいじゃないか!」
オーリーは俺とリジーに放り投げられ無下に扱われたからか、クッションを抱いてイジケていたが、が出て行くと顔を上げて叫んだ。
そんなオーリーを無視して、俺とリジーは複雑な表情で、お互いに顔を見合わせる。
「レオ…僕らがいない間…に何かあった?」
「いや…特になかったと思うけど…」
「でもさ…今日の、少し変だったよね?前なんて、レオの女性関係の事とかも、僕らの前で、そんな詳しく話したりしなかったし…」
「ああ…。俺もビックリしたよ…。あんなハッキリ言われると、ちょっと心臓に悪いな…」
「だったら少しは真面目に女性と付き合えばいいのに…。そんな遊びばっかじゃなくてさぁ…」
イライジャが俺の隣に座りながら言った。
その時、がいなくなった事で寂しいのか向かいのソファーでクッションを抱いたまま、ゴロゴロしていたオーランドが、いきなり笑い出した。
「あ〜無理、無理!レオが真面目に恋人とか作ると思う?例えもし作っても、すぐ浮気とかして振られるに決まってるって〜」
「あ?!何だって?もう一度言ってみろ」
俺が思い切り睨むと、オーリーは肩をすぼめて、「ごめんなさい…っ」 と素直に謝る。
俺は、ふんっと言いつつ、リジーの言った事を考えてみた。
恋人ねぇ…。一人の女と俺が?オーリーじゃないけど無理だろ…
って言うか、そんな気が起きないんだから仕方がない。
どんな、いい女に会って奇麗だとか思ったって恋愛対象として見れないからな…
恋人同士といったら、一緒に映画見たり、ショッピングしたり、旅行に行ったり…
そういう事をしなくちゃならないだろ?そんなの面倒臭いんだ。
別に興味を持ったらベッドに直行の方が分りやすくていいじゃないか。
まあ、食事程度なら出来るけど…
それに…一緒に出掛けたりするのは、と行くのがいい。
他の女に、そういう事を求めようとか思った事がなかった。
(俺って、おかしいのかな…?)
ちょっと溜息をつくと、二階のほうへ視線をやる。
…次の作品の事で何か心配事でもあるのか?最近で変わった事といえば、その事しかない。もしかして…
俺は、その時、ある事を思い出した。
あのの様子…恋人と別れた頃のと、どこか似ていた。
そして過去に二度ほど共演した事のある奴と今回も共演が決まった…
そして…あいつ…確かライアンは、と二度目の共演の後くらいに、いきなり結婚をしたはずだ。
前にサラに聞いた、の恋人も…浮気相手を妊娠させて流産した事から責任を取って、その女と結婚したと言っていた…。
まさか…そのの恋人だったのは…ライアンじゃないよな…?
でも、もしそうならの様子がおかしいのが納得できる気がした。
そんな形で別れた恋人と、ラブストーリー物で共演…
それはにとったら傷に塩を塗りこむようなものだろう。
誰だって別れた恋人と、恋人同士という設定で再会したくはないに決まってる。
(今度…サラに会った時に、聞いてみよう…)
俺はワインを飲みながら、そう考えていた――
サラ
「え?!嘘でしょう?!」
私はの言葉に驚いてしまった。
それでも、の暗い表情を見て本当なんだと分る。
「私…どんな顔して会えばいいのか分らないの…」
の辛そうに言う言葉に、私も胸が痛くなった。
今は仕事の終ったと二人でネイルサロンに言った帰り、私の車で移動中だった。
から日本でのお土産を渡したいのと電話をもらい待ち合わせをして会った。
最初から少し様子が変で気になっていたのだが、サロンから彼女の家まで送る途中、がいきなり切り出した。
「私…今度の映画で…ライアンと共演する事になっちゃったの…」 と――
しかも設定が恋人同士…
これはにとって凄く辛い事だと思った。
「…大丈夫?その仕事…断れないの?」
私は運転に集中しながらも、の方をチラっと見て言った。
するとは黙って首を振り、
「無理…テリーも私とライアンの事を知ってたけど…出演OK出しちゃったくらいだし…」
「そう…。そりゃプロのACTRESSなんだし、そういうのも我慢してやらなきゃならないかもしれないけど…恋人同士って設定はねぇ…」
「はぁ…ほんと…ライアンも驚いてるだろうな…。明日、顔合わせがあるのよ…ほんと今から憂鬱だわ…?」
「普通にしてなさい?が何も気にすることないわよ…。悪いのはライアンなんだから…」
私の言葉に、は少し微笑むと思い出したような顔で私を見た。
「あ、そうだ。サラ、久々にうちに寄って行かない?」
「え?でも…」
「明日は仕事も遅いって言ってたじゃない?一緒に夕飯食べましょうよ今日は、やっとジョシュも帰って来るし皆が揃うの」
「え?ジョシュが…?」
「うん、プロモーションに行っててね?」
「…そう…なんだ」
ジョシュ…と聞いて思わず胸がドキッとしてしまった。
ここ最近は私も仕事が忙しくて、の家にも遊びに行けなかったし、彼とも会えなかったから…
ずっと…気になっていた。初めてに招介されてから…。
もちろんの家族は有名だし、と共演した時から、兄達の存在は知っていた。
だけど実際に初めて会った時、凄く優しい笑顔で、
「毎週、と君の"バフィーシリーズ"見てるんだ。俺、ファンなんだよね、バフィーの」
と少し照れくさそうに頭をかきながら言ってくれた。
そして私はジョシュの柔らかい雰囲気と優しさに少しづつ惹かれていったのだった。
妹の心配をしているジョシュを見て、こんな男性に愛されたら幸せだろうなって思った。
「…ラ…サラ?どうしたの?」
知らず、ボーっとしてたのかもしれない。
が私の腕に手を置いて私は、ハっとした。
「あ、ああ…ごめん…。何だったっけ?」
「もぉ〜だから、家に寄って行くでしょ?って聞いたの」
が可愛い顔で睨んでいる。私は思わず笑顔になった。
ほんと…は可愛い…素直と言うか末っ子だからか、自然に人にも甘えられるのだろう。
その仕草が守ってあげたいな…と思わせる。
女の私でそうなんだから…あの兄達がベタベタに可愛がるのも無理はない気がした。
私はニッコリ微笑んで、「ええ、寄らせてもらうわ?」 と言うと、は嬉しそうな顔で微笑む。
「やった!じゃ、夕飯、何にしようか?エマに作ってもらう?それとも…何かデリバリーしちゃう?それとも皆で食べに行く?」
「もう、、そんな一度に聞かれても答えられないわ?」
私がクスクス笑うとも、ペロっと舌を出して、「ごめん」 と首をすぼめた。
その時、の家が見えてきて、が大きな門をリモコンで開けてくれて私は中へと入って行った。
「サラ、早く…!皆、帰って来てるかも」
「うん」
私はに手を引っ張られドキドキしながら家の中へと入った。
「ただいま〜!」
が、そう言うとリビングから二番目のお兄さん、オーランドが飛び出してきた。
「〜〜お帰り!寂しかったよぉ〜〜!」
そう言うと、いきなりに抱きついて、顔中にキスをしまくっている。
「ちょ、ちょと…オーリィ…!今日はサラも一緒なのよ?」
「え?」
そこで初めて私の方を見て、オーランドはを放した。
「やあ、サラ!久し振り!」
「お久しぶりです」
私が、そう言った瞬間、オーランドは私を軽くハグしてきた。
「元気そうだね?仕事忙しいんだろ?ドラマも映画も撮ってるって聞いたけど」
「ええ。今は少し楽になったけど…この前まではハードだったわ」
そう言いながら三人でリビングに入ると四番目のお兄さん、イライジャが、これまた笑顔で、「、お帰り!」 と言って抱きついている。
そして優しく頬にキスしているのを見ながら、ほんと仲がいいわね…と苦笑してしまった。
「あ、サラ、久し振り!」
「久し振りね?リジー」
私はそう言いながらソファーに座った。
「あ、今お茶淹れてくるわね?あ…それともアルコールにする?」
「え?でも私…車だから」
「いいわよ。帰る頃には冷めてるかもしれないし、ダメそうなら誰かに送ってもらえばいいわ?うちには王子様が4人もいるんだし!」
の言葉に思わず笑ってしまった。
「そうだよ〜サラ!何なら俺が送ってあげるけど?」
オーランドが私にウインクしながら、そう言ってくれた。
「あら、ダメよ、オーリーは。自分が飲みすぎちゃって運転なんて出来なくなるに決まってるんだから」
「ええ?!そんなぁ〜っ」
オーランドは目に見えてショックを受けた顔で、に抱きついた。
それを見てイライジャが、ちょっと苦笑している私に、"相変わらずでしょ?"とでも言う風に肩をすくめて見せる。
「もぉ〜オーリー、邪魔!」
「邪魔なんて言うなよ〜!こんなに愛してるのに!」
キッチンへと向かうに、へばりつきながら叫ぶオーランドの悲痛な声が聞こえてきた。
「ごめんね、久々に来たのにうるさくてさ」
イライジャが苦笑しながら、向かいのソファーに座って言った。
「いえ…楽しいわ?私は家に戻っても一人だし、こういう賑やかな空気が凄く楽しいの」
「そうなの?ま、僕も一人は嫌だけどさ…。毎日、ああだから大変だよ…」
イライジャはキッチンの方へと視線をやって溜息をついている。私はちょっと吹きだしてしまった。
その時、玄関の方で声が聞こえた。
「ただいま〜」
イライジャが、「あ…ジョシュだ」 と呟くのが聞こえて私は胸がドキンと鳴るのを感じ深呼吸をする。
(ど、どうしよ…まだ心の準備が…)
私はソファーに座りなおし髪を何となく整えると、さっきメイクも直したし…大丈夫よね?なんて考えていた。
その時、リビングに、ひょこっと長男のレオナルドが顔を出した。
「あれ?サラ?」
「あ…お邪魔してます」
私が一瞬、驚いて挨拶すると、レオの後ろか、「おい、レオ、何突っ立ってんの?」 と低い声が聞こえてジョシュがリビングに入って来た。
「ジョシュ〜お帰り!何?レオと一緒?」
「おう、リジー、ただいま!今そこで会ってさ…ってあれ?サラ?」
「あ、あの…お久しぶり…」
「やあ、元気?」
ジョシュが、あの優しい笑顔で私の方へと歩いて来て、私は慌てて立ち上がった。
「何?と出かけてたの?」
「え、ええ。あの…ネイルサロンに…」
「ああ、、ほんと好きだからな〜。で?今日はどんなネイル?」
「え?あ、あの…これ…と二人で同じデザインにしてもらったんだけど…」
私はそう言うと自分のネイルを少しジョシュへと見せた。
「へぇ〜可愛いね?これラインストーンと…ピアスだっけ?」
ジョシュは、そう言って私の手を持ち上げて、マジマジとネイルを見ている。
私は持たれた手の温もりだけで顔が熱くなってきた。
「でも、これしてて撮影は大丈夫なの?」
「あ、明日は撮影じゃなくてアテレコだけなの」
「そうなんだ。じゃ大丈夫か」
ジョシュは、そう言いながら私の手を放すと、「あれ?は?」 と聞いた。
「あ、なら…」 と言いかけた時、
「あ、ジョシュ!!」
嬉しそうな声とともにがキッチンから戻って来た。
持っていた紅茶の乗ったトレンチをテーブルへと置くと、ジョシュに抱きついている。
「お帰りなさい!」
「ただいま、!」
ジョシュはを抱きとめて思い切り抱きしめると、額と頬にキスをして最後に鼻にも、チュっとキスをしている。
私は、それを見ていてちょっと恥ずかしくなって顔を伏せた。
(いいなぁ…あんな風にキスしてもらって…って私がされたら卒倒しちゃうわね…)
は、その後、レオにも頬にキスのプレゼントを受けて、やっと私の隣へと座った。
「はい、紅茶」
「ありがとう」
私はの隣に座ったジョシュの方を気にしながら、紅茶を一口飲んで気持ちを落ち着かせた。
「あ、今夜、サラも一緒に夕飯食べて行くの。だから何にしようかと思ってエマに聞いたら材料が足りないからデリバリーにしなさいって」
「そうなの?俺は何でもいいけど」 とレオが微笑んだ。
「え〜俺、ピザがいい!ピザ!」 と、いつの間にかキッチンから戻って来ていたオーランドが手を上げた。
「ええ〜?俺は"すし六"のスシがいいな〜」 とイライジャがオーランドに言った。
「もう…皆まとまりがないわねぇ…」
が苦笑しながら隣に座っているジョシュに、「ジョシュは何がいい?」 と聞いた。
「え?俺…?俺は…ほんと何でも…」
「ええ〜レオと同じじゃない…。もう…どうしようか、サラ?」
「え?わ、私?」
いきなりふられて驚いた。
「は何が食べたいの?」
「私はピザとスシ、どっちも」
そう言うと、ちょっとイタズラっ子のように笑った。
「じゃ、そうしよう!どっちも頼もうっと!」
の言葉に張り切ってオーランドが立ち上がり、電話をかけ始めた。
「Hello?ピザ、頼みたいんですけど〜」
それを見ながら、レオとジョシュは顔を見合わせて笑っている。
その時、イライジャは、の淹れた紅茶を飲みながら、思い出したように私を見た。
「あ、そうだ、サラ。Ricky Martinのライヴチケット、ありがとね!」
「え?ああ…いえ私も助かったわ?無駄にするのも何だし…」
「あれって、いつだっけ?」
「えっと来週末ね」
「楽しみよね〜〜〜!」
いきなりが私の腕に自分の腕を絡めてきて言った。
「ええ、ほんと!彼のライブは凄く盛り上がるし楽しいわよ?リジーは曲知らないならのCD借りて少し聞いておくといいわ」
「そうだね、そうするよ」
「え?何の話?」
そこにオーランドが注文を終えて向かいのソファーに座った。
「あのね、来週末、リジーとサラと3人で、リッキーのライブに行くの」
「ああ、そうだったね!いいなぁー俺も行きたかったよ〜」
「あら、オーリーなんて音楽聴かないじゃないの」
「そうだけどさ〜。とライブ行ってみたいだろぉ?」
オーランドは、そう言うとテーブルをジャンプして、の膝元へ抱きついた。
それを見て、ジョシュが、いきなりグーでオーランドの頭を殴っている。
「オーリー、行儀悪いぞ?サラの前で」
「ぃったいよ〜ジョシュ〜!久々会っても手が早いのは変わらないなぁ!」
オーランドは頭をさすりながら無理やり私との間に座った。
「お前、狭いから、あっちに行けよ…!」
「ええ〜?やだ!あんな男ばっか…!俺はこう両手に花でね?」
と言うと私の肩との肩に腕を回して喜んでいる。
「バカ!サラにセクハラすんな。可愛そうだろ?」
ジョシュは、そう言うと立ち上がってオーランドの腕を私との肩からどけた。
「ちぇっ…たまにはいいじゃん」
オーランドは口を尖らせてソファーから立つとテレビの前のクッションに腰をかけてテレビをつけた。
「ごめんね?サラ…」
ジョシュが申しわけなさそうに私に言ったので、ちょっとドキドキしながら何とか笑顔を作った。
「ううん…いいのよ」
私がそう言うとジョシュはニッコリして、またの隣へと座ると、プロモーションで行った場所のお土産を渡している。
私は少し胸を抑えて息を吐き出した。
(ああやって庇ってくれるのって嬉しいな…ジョシュは私に迷惑だと思って言ってくれただけだろうけど…)
私は嬉しそうに、と話しているジョシュを見ながら、私も、この家の家族として養子に来たかったわ…なんて思っていた――
ジョシュ
「え?引き受けたの?」
「ああ…と言うよりは、あのマネージャーが、だけどな?」
「あ、オババの仕業か!あんのオババめぇ〜〜!」
「でもさ…の様子がおかしいのと、今度の作品と何か関係あるわけ?」
夕飯も終え、今は皆で楽しくお酒を飲んでいたのだが、レオが僕に、「の様子がおかしいんだ」 と言った事から
それにオーリーとリジーも加わって、4人でコソコソとダイニングに集まって話していた。
とサラは、父さんが帰って来たので、父さんが相手をしている。
レオはビールを飲みながら溜息をついた。
「何だかさ…その共演者に問題がある気がしてさ」
「え?共演者って…ライアンか?」
「ああ。前にも二度ほど共演してたろ?」
「そうだ!あいつがに手を出したんじゃ…!」
「バカ、オーリー声でかいって!」
僕は、オーランドの口を抑えて小声で怒鳴った。
(ったく…普段はヘラヘラしてるクセに、こういう勘だけは働くんだな…)
僕は苦笑しながら、手を放した。
「ご、ごめん…。で、でもさ…そうだったらヤバイだろ?だってきっと嫌なんだよ」
「僕もそう思うなぁ…。って言うか…まさか付き合ってたとか…言わないよね?」
リジーも、なかなか、するどい事を言った。
「リジーもそう思う?」
レオがちょっと僕に視線を向けつつ訊いている。
僕は前にサラから聞いたの恋人の話を思い出していた。
もし…あの恋人がライアンだったら…それは共演するのは嫌だろう…・
自分を裏切って他の女と結婚してしまった男と共演だけでも嫌なのに、まして恋人同士?!冗談じゃない…!
「それで…それはもう断れないのか?」
僕はレオに一応訊いてみた。
レオは溜息をついて、
「ああ…もうOK出したんだからな…」
「うわ…最悪だな…それ…」
僕とレオの会話に、リジーとオーリーは首をかしげた。
「二人…何か知ってるの?まさか…とライアンが本当に付き合ってたとか…?」
「うそ!そんな…ほんとに?」
二人は驚いた顔で、僕とレオを見た。
レオはちょっと息をつくと、
「ああ…。一年以上前にさ…、様子がおかしい事あったろ?」
「え?一年…前…」
「そうだった?」
二人は顔を見合わせている。
「気付かなかった?あんな痩せたりしてたのに」
呆れた顔で、そう言うと二人も、「ああ…そう言えば…」 「確かにあった」 と思い出したように頷いた。
「その前にもさ、何度か外泊してたろ?きっと恋人と会ってたんだって思ってたんだけどさ…」
そう言うとレオが二人に、にあった事を話した。
「な、な、何だよ、それ!ひどい!!」
「ふざけやがって…っ」
事情を聞いた二人は顔を真っ赤にして怒り出した。
「シィ〜!聞こえるって! ――これはに言うなよ?知らないフリしておいてやれ」
レオは真剣な顔で二人に言うと、二人も、いつになく真面目な顔で、
「うん…分った…」
「言わないよ…」
と頷く。
レオも僕も、ホっと息をつくと、
「それより…そんな事があって今更共演なんて…どうする?やらせるべきか?」
「OK出したなら…仕方ないだろうなぁ…。降板するとなったって理由を訊かれるだろ?」
「だよなぁ…」
僕とレオは顔を見合わせて思い切り溜息をついた。その時、
「何を皆でコソコソとしてるの?」
「うわ!」
「ひゃ……っ!」
「わっ」
「おわ…っ」
皆、それぞれ驚いて声のした方を見た。
そこには首を傾げてが立っている。
「あ…・いや…あの…ほら、シアタールームの件でさ?いつ工事頼もうかって話してたら夢中になっちゃって…」
僕は何とか、そう誤魔化すと皆も、うんうんとう頷いている。
「そうなの?じゃあ、こんなとこじゃなくてリビングで話せばいいのに。お父さんもいるんだし…」
「そ、そうだね?!アハハ!じゃ、戻るか?」
オーランドが慌ててダイニングから出て行く。
僕も、それに続こうとした時、が僕の腕を掴んだ。
「あ、ジョシュ…お願いあるんだけど」
「ん?何?」
「ジョシュ、今日、お酒飲んでないでしょ?だからサラを家まで送ってあげて欲しいの…サラ、さっきワイン飲んじゃって運転危ないし」
「ああ、いいよ。え?今すぐ?」
「うん。もう帰るみたいだから」
「そっか。じゃ、も行く?」
「私は後片付けしないと…それに明日も早いの」
「明日…?」
「今度の映画の出演者と顔合わせ」
は少し俯いて、そう言った。
僕はドキっとしたが何も言えない。
「そっか…頑張れよ?」
「ん…。 あ、じゃサラをお願いね?」
「OK!」
僕がリビングの方へ行こうと歩きかけると中から、ちょうどサラが出てきた。
「あ、サラ、今日は俺が送るよ」
「…え?!」
「そ、そんな驚かなくても…あ、俺じゃ嫌?」
僕が冗談で言うも、サラは慌てて、
「い、嫌なんかじゃ…で、でもいいの?今日帰って来たばかりだし疲れてるんじゃ…」
「そんな気にしないで。どうせ明日から暫く休業するしさ」
「ええ?そ、そうなの?」
「ああ…ちょっと疲れてね?それより…早く行こう?俺がサラの車運転するしさ」
「あ…帰りはどうするの?」
「そんなのタクシーで帰って来るから大丈夫!」
「でも…」
まだ申しわけなさそうなサラに、僕は苦笑して、「いいから行くよ?サラに話もあるし」 と言って手を掴んだ。
「え?!あ、あの…」
サラは目に見えてドキっとした顔をした。
僕は首を傾げて、「どうしたの?」 と訊くも、「い、いえ…じゃ、行きましょうか…」 と呟くばかり。
少し変に思ったが気にしない事にして彼女の手を引いて車が置いてあるとこまで歩いて行った。
サラに鍵を貸してもらってエンジンをかける。
サラは急に大人しくなって助手席で俯いたままだ。
「じゃ、家までの道、教えてね?」
「え?あ、うん」
僕はちょっと微笑むと静かに車を発車させた。
サンタモニカ・ブールバードを走りながら、僕はサラに、ライアンの事を訊こうと考えていた。
前に聞いた時は相手の男の事までは話してくれなかったが…
今回、共演する事になったんだ。
ライアンが、そうか、そうじゃないかくらいは聞き出したかった。
僕は窓の外ばかり見ているサラに声をかけてみた。
「あのさ……」
「…え!」
サラは急に声をかけたからか、驚いた顔で僕を見た。
「そんな驚かなくても…ちょっと酔ってるの?」
「い、いえ…ごめんなさい」
「別に謝らなくてもいいよ?」
僕がクスクス笑うと、サラも恥ずかしそうな顔で笑った。
僕は運転に集中しつつ、ちょっと呼吸を整えると本題を切り出した。
「あのさ…サラに、ちょっと訊きたいんだけど…」
「え?な、何?」
「うん…前に…の恋人の事をレオと俺に話してくれたろ?」
「あ・…ええ…」
「それで…気になったんだけど…その恋人だった男って…ライアンだったりする?」
「え?!」
サラが一瞬、動揺したのが分った。
「違う?」
「そ、それは…」
「さ、今度の映画が決まった後から様子がおかしいらしいんだ。俺もさっきレオから訊いたんだけど…
で、原因と言えば、その映画の関係でとしか考えられないって言うし…の相手役が前に共演した事のあるライアンだって知って、もしかしたら…って思ったんだけど…」
サラは何も答えなかった。
それは僕の言った事が当たっているという事だろう。
「やっぱり…そうなんだね…?」
僕がチラっとサラの方を見ると、サラは俯いてしまった。
「今度…共演が決まっては動揺してるんだろ?」
「……ええ」
やっとサラが顔を上げて僕の方を見る。
僕は思い切り息を吐き出した。
「やっぱり…」
「あ、あの…」
「ああ、大丈夫。俺達は知らないフリはするからさ…。ただ…ライアンが、またに何かしたら…分らないけど…」
「…どういう…こと?」
「さあね…。ただを傷つけた代償は大きいって事かな」
僕がそう呟くとサラは驚いた顔で僕を見つめている。
僕は静かな怒りを隠したまま、サラに微笑むと、「少し…飛ばすよ?」 と言って思い切りアクセルを踏んだ――
オーランド
(うむむ…の恋人だってぇ?!そんなもん初耳だ!!くそ…レオとジョシュは知ってて隠してたな…?!)
僕はリビングで父さんとウイスキーのロックなんぞ飲みながら話し込んでるレオの顔を睨んでいた。
そしてリジーと二人でテレビを見ているを、チラっと見る。
(…可愛そうに…辛い恋をしてたんだな…なのに僕はちっとも気付いてあげられなくて…)
僕は自分が情けなくて、すくっとソファーを立つと、二人の方へ歩いて行って後ろから思い切りを抱きしめた。
「キャ…!オ、オーリー?!ビックリするじゃない!」
「〜〜〜!!愛してるよ!大事なMy Little Girl!」
「な、何?どうしたの?」
僕がギュウギュウと強く抱きしめると、はじたばたするも僕の力には敵わず静かになる。
するといきなり、レオの怒りの蹴りが背中に、リジーの鉄拳が僕の頭を襲った。
「ぃたぁ…っ!!!」
「お前は何をしてるんだ!が苦しがってるだろ?」
「そうだよ!全く、二人で楽しくテレビ見てたのに…邪魔するなって!」
「な、何だよ、レオもリジーも〜〜!!すぐ暴力に訴えるとこ、直したほうがいいよ?!」
僕は背中と頭をさすりながら怒りをぶつけた。
は、その場にコロンと横になって笑っている。
「オーリーこそ、その極度のスキンシップ直せよな?」
リジーが僕を睨んで、そう言った。
(ぬう…生意気な!弟のクセに兄に物申すなんて!でもが起き上がって殴られたとこを撫でてくれると、僕はもうそれだけで、ご機嫌なのさ!)
「ありがと〜!」
そう言って僕の天使にキスの嵐をプレゼントする。
「ちょっとオーリィ…そんなにホッペに吸い付いたら赤くなるでしょ?」
がそう言いながら僕の胸をぐーっと押すんだけど、僕は離れたくないからの腰を抱き寄せた。
そのままが後ろへひっくり返ったもんだから僕がの上に覆い被さる格好になってしまって思わず顔がニヤケてしまう(!)
僕はの額に、チュっとキスをすると、また後頭部に激痛が走った(!)
「離れろって、バカオーリー!!!」
「何してんだ、あんたわ!!」
「コラ、オーランド!」
一斉に僕を非難する、レオ、リジー、ついでに父さんの怒鳴り声が聞こえるも僕は後頭部の激痛でダウンだよ!
「もぉーーっ痛いな!!何で、すぐ殴るんだ!兄貴が妹にスキンシップして何が悪いんだよ!」
「うるさい!お前のはスキンシップというよりはセクハラ行為に近いんだよ、このスケベ!」
「う〜わ、レオにだけは言われたくないな!」
「何だとぅ?」
「ちょ、ちょっと二人ともケンカしないでよ!私は何とも思ってないんだから!」
が慌てて僕とレオの間に入って、そう怒鳴った。
「でも、…」
「もう、レオも殴っちゃダメよ?」
レオがそう言われて、グっと言葉を詰まらせる。
僕は、心の中で、"ざま〜みろ〜"と思っていたが、が
「だいたい、オーリーに押し倒されたって何とも思わないんだからセクハラにもならないでしょ?」
と言ったのを訊いて、僕は雷が落ちたかのようにショックを受けた(!)
「そ、そんな…俺だって男だよぉぉう?少しは、ドキっとか、キャ!とか感じないの〜?!」
そう言って思い切りの足に抱きつくと、は苦笑しながら、「何言ってるのよ、お兄ちゃん!」 と言って僕の頭を撫でた。
それを見てレオは大笑いしている。(む…っ何だかバカにされた気分だ…)
そ、そりゃ僕はの兄貴だよ?そうだけどさ…
少しくらい男として見てくれたっていいじゃないか!どうせ血は繋がっていないんだし!
って、そんな問題じゃないか?
でも僕はに男として見なされてないのかと思うと少し落ち込んだ…
僕って…男として魅力がないのだろうか…(そういう問題じゃない)
今夜も…ちょっぴり悲しい夜だった――
イライジャ
あ〜あ〜へこんでるよ、オーリーのやつ。全く我が兄貴ながら何で、こうもバカなんだろうねぇ…
に男として意識してもらえないからってさ。ま、気持ちも分るけど。
僕ら兄弟の中では昔から一種のライバル心があるように思う。
それは兄として、に頼りにされたいとか、そういう気持ちから生まれてくるものだ。
それとは別に、男としても頼られたいとか、そういう気持ちも少なからずあるんだ。
変なもんだけどね。
何だか特殊な環境で育ったからか、兄貴と言う気持ちと男としての気持ちが同時にあって、片方だけじゃ物足りないと言うか…
きっとオーリーも、その辺の事を言ってるんだろうな。それを…きっと父さんも分ってるんだ。
だって、さっきから僕らを見て、何やら嬉しそうな顔をしている。 ――思えば変な父親だ――
父さんには…僕ら兄弟のに対する溺愛ぶりを、どう思ってるのか訊いた事もないけど…
あの様子じゃ、さして心配してるとも思えない。
逆に楽しんでると言うか、喜んでいるようにさえ見えるから困ったもんだ。
ま、父さんの事だ。僕らの中の誰かとが例え結婚するとか言い出しても驚いたりしないだろうな。
喜ぶ事はあっても… ――なかなか、するどい――
はぁ〜あ…僕は…どうなんだろうなぁ…この頃、まともに恋愛もしてない。
彼女を作れとか言われるけど…面倒なんだよなぁ…
レオも前に同じ事を言っていた。
オーリーは…彼女がいるけど…最近は会ってるのかさえ分らない。
ジョシュはというと・…相変わらず誰とも付き合う気がないようだ。
派手な仕事をしてるわりに…何て地味な生活なんだ?と笑ってしまう。
もっと派手に女遊びをしてるACTORなんてゴロゴロいるってのにな…(まあ、レオは遊んでるけど)
そう、ジョシュと言えば…さっき遊びに来ていたサラ…
彼女は、ジョシュが好きなんじゃないかと思った。
何だかジョシュに対する彼女の態度が、どことなく僕や他の兄達とは違って見える。
ジョシュの奴…結構、モテんだよなぁ…でも、あの様子じゃ、ちっとも気付いてないな…
ジョシュ、しっかりしてるように見えて鈍感だし。きっとサラの気持ちはレオだって気付いただろう。
レオは、その辺の人の心理を見抜くのが得意だからな…。
僕は、そんな事を考えながら、父さんに肩を揉まされているオーリーのグッタリした顔を見つつ苦笑した。
レオはと言えば、ちゃっかりと僕の間に座って、一緒にテレビを見ている。
僕はテレビを見ているフリをしながら、ゴロゴロとクッションの上に寝転がってるんだけど…
何だか、さっき飲んだワインが利いてきたのか睡魔が襲ってきた。
ヤバイなぁ…ここで寝ちゃったら、またレオに叩き起こされるんだよね。
なんて事を考えているうちに、僕は、その場で寝てしまったらしい。
夜中にいきなりレオに起こされ、オーリーに添い寝されてるのに驚き、凄く目覚めの悪い夜だった――