過去からの足音














ああ…朝が来てしまった。

私は、ゆっくり体を起こすとベッドから出てソファーに、ポスンと座った。
今日は、この前決まった映画の出演者との初顔合わせ…そこにライアンも来る…

そう思うと私の体が少し強ばるのが分かる。
私は…ちゃんと、この映画を撮り終える事ができるのか不安だった。

「ふぅ…そろそろ用意しよう…」

私は立ち上がるとバスルームへと行って熱い湯を出した。
服を脱いで、ふと横にある鏡で自分の体を見てみる。

「はぁ…何だかまた痩せちゃった…」

私は少し小さくなった胸を見て悲しくなる。
別れた人に、前より奇麗じゃなくなった…と思われるのが嫌だって言う友達が結構いたけど…今なら、その気持ち少しは分かるなぁ…

そんな事を思いながら、素早くシャワーを浴びると、バスローブを羽織って部屋へと戻った。
何を着て行こうかとクローゼットを開けた時、ノックの音が聞こえて私は顔をあげると、「どうぞ?」 と大きな声で答える。
すぐドアの開く音が聞こえ、「?」 と呼ぶ声。

(…ジョシュ?)

私はジョシュの低い声に気づき、すぐ寝室から顔を出した。

「おはよう、ジョシュ」
「あ、。おはよ」

ジョシュは私の顔を見ると、ホっとしたように微笑み、優しく抱きしめてくれた。
私はジョシュの腕に安心して頬を寄せると、「どうしたの?こんな朝早くに。ジョシュ、今日から暫くオフでしょう?」 と聞いた。

「ああ、オフだから、もったいなくて起きてみた。を見送ろうかと思ってさ?」
「私を?」
「ああ、それと一緒に朝食でも…ってさ」
「変なジョシュ…。いつもオフに入ると昼まで寝てるのに」
「そうだっけ?」

ジョシュは、ちょっと苦笑すると体を離して私の額にキスをしてくれた。
私が見上げて、ちょっと微笑むと、ジョシュは少し照れたように顔を背けて、「あ…早く着替えたら?」 とボソっと呟く。

「え?あ…バスローブのままだった…」 

と気付いてペロっと舌を出すと、ジョシュは少し視線を泳がせて、

「あ…じゃ俺、下に行ってるね?」 

と言って慌てて部屋を出ていく。
私は首を傾げて、「変なジョシュ…」 と呟いた。

でも、そのまま自分の胸元を見てみると、そこで気付いた。
胸元が肌蹴ていて胸の谷間が少しだけ見えている。

(うわ…っやだ…抱きしめられた時に緩んだんだ…だからジョシュが照れたのね…)

私は苦笑しながら寝室に戻った。

「あ〜これも全部、胸が縮んだせいだわ…っ」

ちょっと悲しくなって、そう叫ぶと、クローゼットの中の服を探し、適当に選んで着替える。
鏡台の前に座り、いつものメイクを済ませると長い髪にブラシを通した。
ずっと揃える程度でしか切ってないからか今では腰まで伸びている。


"俺…の長い髪、好きなんだ…"


ふとライアンに言われた言葉を思い出し、ドキっとする。
私は軽く頭を振ると、ブラシを置いた。

会いたくない…出来れば…会いたくない…
でも今回は仕事なんだ。
お互いに、この仕事をしている限り仕方がない。

「はぁ…でも恋人同士って…」

私は思い切り溜息をつくと他の用意も済ませ、下へと下りて行った。








「あ、。おはよう」
「レオ? ――おはよ!」

私がリビングに入って行くと、ソファーにジョシュとレオが座っていて何か話していた。
レオは歩いて行った私の腰を抱き寄せて隣に座らせると頬にキスをしてくれる。

「よく眠れた?」
「うん」

私は笑顔で頷くと、レオは優しく微笑んで、また頬にキスをすると、そこにエマが顔を出した。

「あ、朝食の用意出来たわ?」
「は〜い」

私は返事をしてソファーから立ち上がると、すぐダイニングへと歩いて行く。
後からレオとジョシュも歩いて来て椅子へと座った。

「はぁ〜お腹ペコペコ。頂きま〜す」

私がそう言いながら紅茶を飲むと、何だか二人が私の方を見ている。

「何…?二人して私の顔、ジィ〜っと見ちゃって…」
「え?あ、いや…」
「別に…今日も元気だなぁって…」

ジョシュとレオは、そう言うと、わざとらしいくらいの笑顔になって黙って紅茶を飲みだした。
私は首を傾げつつもサラダを取り分けて、二人へ渡した。

「あ、ありがとう」
「サンキュ」

私も自分の分を取り分け、黙々と食べ始めた。

(何だか…変な空気が流れてるのは気のせいかしら…?)

私はレオとジョシュを、チラっと見ながら、パンにも手を出しつつ、あまり喉を通らないので一つでやめておいた。
その時、


「Good morning〜〜!〜〜!」 と後ろからガバっと抱きつかれ、私は手にしていたフォークを落としてしまった。



ガシャン…ッ



「オーリー!」
「何してんだ、お前は!」

レオとジョシュが椅子から立ち上がって、そう怒鳴ると、

「何って朝の挨拶だよ?愛しのに!」 

とオーランドはにこにこしながら、未だ私に抱きついたまま。

「ん〜おはよ〜今日も可愛いよ、ハニー」

オーランドは、そう言うと私の頬にチュ〜っとキスをしてから自分の頬をぐりぐりと摺り寄せてくる。

「もう…っオーリー食事が出来ないわ?」

私が口を尖らせながらオーランドの方へ振り向くと、いきなり鼻をかぷっと噛まれて驚いた。

「キャ…ッ」

鼻を抑えて、オーランドを見ると、すっ飛んできたレオとジョシュに鉄拳(!)をくらっているところ。

「んもぅ〜痛いよ!二人してさぁ…!ちょっと親愛の情を見せただけだろぉ?」

オーランドは、そう言うとぷぅっと頬を脹らませて私の隣へ座った。
どしたんだろ…オーリーのスキンシップは、いつもの事だけど怒られたら素直に私から離れるのに今日は少し様子が違う。
オーリーは何だか、ニコニコしたまま頬杖をついて私を見てるから…

「オーリィ…」
「ん?何だい?My Little Girl」
「食べづらいわ?そんなに、ジィっと見られてたら…。オーリーも食べたら…?」
「気にしないで?僕は、こうしてが食べてるのを見届けてから、またベッドに戻るから」
「はい?」

私は意味が分からず、オーリーの方を見ると、まだニコニコと私を見ている。

「おい、オーリー!が食べづらいって言ってるんだから離れろよ、朝から暑苦しいっ」

レオが怖い顔で、オーランドに文句を言った。

「分かった、分かった、分かりました!さぁて、じゃあ僕も朝ご飯食べようかなぁっと」
「何だよ、結局食うんじゃん…」

ジョシュが苦笑しながらオーランドを見る。

「やっぱ人が食べてるの見てたらお腹空くんだよねっ。 ――エマァ〜僕のもある〜?」

オーランドは、やっと私から離れてキッチンの方へ歩いて行った。

「はぁ〜もうオーリー、昨日から少し変!」

私はちょっと肩をすくめて苦笑したが、その時、レオとジョシュがチラっと視線を合わせてたことには気付かなかった。
私は時計見て、慌てて紅茶を飲んだ。

「いけない…そろそろテリ―が迎えに来るわ…っ」
「え?あのオバ…じゃなくて、マネージャー迎えに来るの?」
「ええ。今日は夜、今度の映画の共演者と顔合わせだから最初から一緒なの」
「そうなんだ…」

ジョシュは何か言いたげに私を見たが、そのまま口を閉じた。
私はちょっと首をかしげるも、そのまま紅茶を飲み干して椅子から立ち上がる。

「あ、
「何?レオ」
「今夜…遅くなるの?」
「…う〜ん…。まだ分からないけど…。どうして?」
「あ、いや…何でもないよ」
「変なレオ。オーリーのが移っちゃった?」

私はちょっと笑うとリビングへ戻って行った。
そこへリジーが起きてきて私は後ろから抱きついて頬にキスをする。

「うぁっ」
「おはよ、リジー」
?…ああ〜ビックリしたぁ〜。またオーリーかと思って殴りそうになったよ?」

イライジャは、そう言いながら苦笑している。
私は腕を離して笑うと、「今日はリジーまで早起きなのね?まだオフでしょ?」 と聞きながらソファーに座った。

「うん、そうなんだけど…さ…。ちょっとを見送ろうかなっと思って」

リジーは私の隣に座って肩を抱き寄せると頬にチュっとキスをした。

「何でリジーまで?」
「え?」
「何だか…皆、起きてるの…。変よね?いつも仕事ない時は遅くまで寝てるのに」

私は笑いながら、そう言った時、家のチャイムが鳴った。

「あ、テリーかな…」
「え?オババ…じゃなくて…」

私はちょっと噴出すと、

「何だか皆で、そんな風に呼んでるらしいわね?」 

と横目でリジーを見ると、リジーは笑いながら頭をかいている。
私も笑いながら玄関の方へ出ていくと、キッチンからオーランドが飛び出してきた。

「むぅ…あのオババめっ。僕が成敗してくれる…!」
「え?ちょ…オーリー?!どうして怒ってるの?」

私は驚いてオーランドの腕を掴んだ。
オーランドは、くるりんと振り向くと、

は今回の映画、あまり乗り気じゃなかったろ?なのに勝手に、オババが決めたって言うじゃないか!文句の一つも言わないと気がすまないよ!しかもラブストーリーなんて!もっての他だ!」

オーリーは、そう叫ぶと、ずんずんと玄関の方へ歩いて行く。
それには私も慌ててオーリーの腕を掴んだ。

「オーリー!そ、そんなのいいから!私なら大丈夫だし…っ」
「ダメだよ、、そんな物分りがいいから、オババにつけ込まれるんだよ?」



「誰が、オババですって?」


「………っ?!」


「あ…っ」



私はすでに玄関に入って来ているテリーを見て固まった。
何だか怖い顔で立っていて、ちょと怖い。
それでもオーランドは臆することなく、テリーの前まで、ずんずん歩いて行くと、

「あのさっ。に色々と仕事を持ってくるのはいいけど、承諾もしてないのに勝手に相手にOK出す事はないだろ?少しはの意見も聞いてやれよっ」

オーリーは鼻息を荒く、ふん…っと鳴らすとテリ―を見下ろしている。
テリーはちょっと片方の眉を上げると、

「あら、プロなんだもの。オファーが来ていいと思ったものはやるべきなんじゃない?選り好みするなんてプロとしては失格よ?」

と冷静な顔で言い放った。
オーランドは、それでも引く気配すらなく、

「それはそれだ!俺が言ってるのは勝手に、OKす・る・な!って事だよ!」
「いちいち意見なんて聞いてられないわ?グダグダ悩まれて遅くなれば相手だって他の人を探すかもしれないんだから」
「むぅ…っ」

お互い一歩も譲らずと言った感じで睨みあっている間で、私は、ただオロオロとしていると、
オーランドの大きな声が聞こえたのか、何事だという顔でレオとジョシュがダイニングから、リジーがリビングから顔を出した。

「おい、オーリィ…何をそんな騒いで…って、あ…」

レオもテリ―を見て一瞬、怖い顔をした。
ジョシュは、その状況を見て分かったのか無言のまま、テリーとオーランドの睨みあいを眺めて軽く息を吐いている。
リジーはと言うと、ちょっと苦笑しつつ、肩をすくめて私を見た。

「とにかく!の気持ちを無視したら許さないからな?!」

オーリーが指で、ビシっとテリーをさし、そう言った。
テリーは目の前に出されたオーリーの指を、また眉を今度は大きく上げて見つめるも、いつもの冷静な顔で、

。用意は出来てるの?なら行くわよ。時間がもったいないから」 

と言って、さっさと外に出ていってしまった。
私は慌てて、オーリーの腕を掴むと、「も、もう…オーリーったら…」 と困った顔で見上げる。
オーランドは、テリーの後姿に、べーっと舌を出していたが、には笑顔で、「ごめん。だって許せなかったからさ…」 と言って頬にキスをした。
私は、その気持ちは嬉しくて、ちょっと微笑むと、「ありがと」とオーリーの腕を引っ張り、少し背伸びをして、頬にチュっとキスをする。


「「「ああっ!」」」


後ろで見ていた三人の驚きの声も聞こえないのか、オーランドは嬉しそうに顔を緩ませた。

「じゃ…行って来ます!」

私は唖然としてる、レオ、ジョシュ、リジーと、一人ニヤケているオーリーに手をふり、急いでテリーの後を追いかけて行った――












オーランド






「むっふっふっふ…」

「オーリー、きもい!」
「その顔、何とかならねぇの?締まりなさすぎっ」
「ったくヒヤヒヤさせやがって…俺達がライアンのこと知ってるって、には内緒なんだぞ?なのに…」

僕はに熱いチュー(!)をされた頬に手を当てながらソファーでゴロゴロしていると、そんな僕に妬きもちを妬いた、
リジー、ジョシュ、レオの三人が、ここぞとばかりに文句を言っているが、今の僕には、ちっとも堪えないのさっ

「ふ〜んだ。あのオババには一度きつく言ってやりたかったんだよ!あ〜スッキリした!」
「だからってなぁ…。何もの前で…」

レオが顔をしかめて僕を睨むけど。だって仕方ないじゃないか。
あのオババは、そんなに迎えには来ないし普段は会えないんだからさ。
たまに家に来た時を捕まえて、こてんぱんにしないとねっでも今日は言い足りなかった…。

「大丈夫だよ!ライアンのことには触れてないから」

僕は体を起こして、レオに言うと、「はぁ…ダメだ…」 と溜息交じりで肩をすくめた。

む…っ何だよ、その態度は…まるで僕をアホ扱いしてるようじゃないか! (いや、その通り)
だいたい何だよ、皆だってを心配して普段は出来ないオフの日の早起きをしたクセにさ?
皆、同じ気持ちなんだってバレバレだっつーの。はぁ…、大丈夫かなぁ。
元彼と顔を合わせて…ちゃんと仕事できるかな…はぁ…



「はぁ…」


(ん…?溜息をつく男が、もう一人…)


「は〜あ…」


(更に、もう一人…)


「はーっ」


そして更に…って、これじゃ全員じゃないかっ。
僕は皆の顔を見渡すと、それぞれが何やら考え込んでて、あっち方向を向いている。
う〜ん…こりゃ重症だねっ。ま、僕もだけどさぁ〜…
くそぅ。ライアンめ!僕の可愛い、可愛いハニーに手をつけるなんて、ケンカ上等だっ!(日本で覚えた不良の言葉)
こうなったらオフの日は必ず撮影現場に行って見張ってやるぞっ僕はやる時はやる男だ!
もし、またに何かしようもんなら、けっちょん、けっちょんにしてギャフンと言わせてやる!(これも日本で覚えた怒りの捨てゼリフ)

僕は鼻息も荒く、そう決心すると、「おぉ〜しっ!」 と気合を入れた。


「ふっふっふっふ……」


今に見とけよ〜、にっくきライアンめ!












イライジャ





「ねぇ…何だか怖いんだけど…オーリーの、あの笑い…」
「どうせ、またアホな事でも思いついたんだろ?放っておけ」

レオは横目で未だ、「ふっふっふ…」 と不気味に笑っているオーランドを見て溜息をついた。
僕はなるべく視界に入れないようにして煙草に火をつけた時、携帯が鳴り、ディスプレイを確認すると軽い眩暈に襲われる。

「何だ?リジィ…目なんて抑えて…電話出ないのか?」

ジョシュが僕の顔を不思議そうに見ている。
僕は黙って携帯のディスプレイを、ジョシュに見せた。

「う…っ。ドム…っ」

ジョシュは思い切り顔をしかめたもんだから僕も苦笑して、「Hello?」 と電話に一応(!)出てみた。

『あ、リジー?』
「うん。どうしたの?」
『あ、いや…オフだし何をしてるのかなぁ〜って?』
ならいないよ?仕事」
『え?!い、いや、俺はべ、別に、その…』

ドムは急に、しどろもどろになっている。

(ぷっ…ドムの奴…分かりやす!)

その時、家の電話が鳴り響き、近くにいたオーランドが出るのが見えた。

「Hello?どちら様〜? ――あ…っヴィゴ?久し振りぃ〜!元気?」

どうやらヴィゴかららしい。
その瞬間、レオとジョシュが顔を見合わせているのが見える。

「え?今日?俺は別に何も予定はないけど? ――え??いないよ?仕事行ったからさ〜俺、寂しいんだよねぇ〜」

オーランドは呑気に答えているが今頃、ヴィゴもガックリと頭を項垂れている事だろう。
その時、受話器の向こうから、ドムの声が聞こえた。

『あのさ〜…今日一緒に飲まない?暇なんだよね〜』
「ドムは、いっつも暇だろ?さっさと彼女くらい作れよ。今ならモテるだろ?映画効果でさ?」

わざと、そう言うと、案の定、ドムは慌てた声で、

『な、何言ってるんだ!俺には心に決めた女性がいるんだっ。他の女など目に入らないよ!』 

と叫んでいる。
僕は一瞬受話器から耳を離すと、

「へぇ〜?そ〜お?この前、ビリーと二人でストリップ見に行ったって聞いたんだけどなぁ〜?そういうのは別なわけ?」
『ぐぁ!ど、どうして、それを!!!あ!分ったぞぉ〜!裏切り者のビリーがしゃべったな?!』
「さぁ〜?風の噂に聞いたんだよ」

僕はクスクス笑いながら、そう言った。
ドムは電話の向こうで、きっとウロウロと部屋の中を歩き回っているだろう。
だって後ろでかすかに、ガシャンッとか、ゴン!とか音が聞こえてくるしね?
大方、歩き回りすぎて、あちこちにぶつかり物を落としたり、ぶつけたりしてるんだ。

『と、とにかく!今日、お前の家に行くからさ?家にいろよ?分ったな?』
「はいはい…。分ったよ…っ。でもだって、いつ帰って来るか分んないぞ?」
『そ、そんなこと聞いてないだろ?!と、とにかく…あ、後でな!』

ドムはそう言うと電話を切ってしまった。
僕は笑いを堪えて携帯を放り出すと、レオとジョシュが僕を見てくる。

「お前…何で断らないんだ?」
「ほんとだよ…。ただでさえ頭痛いことが起きてるのに、更に頭痛の種を増やすなんて…」

「まぁ、まぁ。お二人さん。そんな過敏にならないでさ?ドムなんてイジメればいいだろ?僕、最近ストレス堪ってるから、
いい発散相手が見付かったし、思う存分にイジメるからさ。それにだって早く帰ってくるとは限らないし」
「そうだけどさぁ…。ドムがいるだけで、うるさいんだよなぁ…オーリーといい勝負だな、ありゃ…」

レオは苦笑しながら肩をすくめる。
僕はちょっと笑いながら、そのオーランドを見ると、楽しくヴィゴと話してる様子。
何だか、さっきのにキスされた事を思い切り得意げに話している。
今頃、ヴィゴは嫉妬の嵐に襲われてる事だろう。
でも彼は、それを表には出さない。
きっとオーランドに妬く自分が許せないんだろうな〜(!)

(まさか…ヴィゴまで今日、来るとか言わないよね…?そうなったら…レオとジョシュ、発狂しかねないぞ?)

僕は、そう思いつつオーランドが楽しそうに、の事を話してるのを聞いていた。











ジョシュ




全く…よりによって今日、ドムなんか呼ばなくても…って、別にこっちが呼んだわけじゃないだろうけど…
しかもヴィゴまでが電話してきたし…まさか彼も来るなんて事は…
いや…LOTR組は今はオフになってるから、こういう状況は有り得そうだ。勘弁して欲しいよ、全くさ…
こっちはがライアンと再会するのが心配で眠れないって言うのに…今朝だって、すぐ目が覚めて心配になって、の顔を見に行ってしまった。
オフの日は、いつも昼まで寝てる僕に、は変な顔をしてたっけ。ほんとは…ちょっと今日の場所とか聞きたかったりもしたかったんだけど…
の胸元が見えてしまった時、頭が真っ白になりかけて慌ててしまった…。
別に女性に免疫がないわけでもないのに…ああいう時って、やっぱり妹と言うよりは、女性として見てしまう自分がいる。
なるべく意識をしないようにしてるんだけどさ…

それにしても…さっきは僕だって、オババ…もとい。
テリーに文句の一つも言ってやりたかった。
でも先にオーリーが言ってしまったから言うタイミングを失ってしまった。
まぁ、どうせ僕が言ったところで、あのマスクのような剛鉄なテリーの表情を変えさせる事は出来なかったと思うけど。
オーリーみたく、軽くあしらわれるかもしれないな。
レオなら・…もしかしたら表情くらい変えさせる事が出来たかもしれないけど(!)
何て言っても、レオは頭の回転が早い。
相手の心を読むのも上手かったりする。だからこそ、色々な噂があるにも関わらず、女性にモテるんだろうな。
でも…だからなのか無駄な争いは、進んではしない方だ。
とにかく冷静…クール…この言葉が似合うのは、うちの兄弟の中ではダントツだ。
ただ、こんなレオでも動揺を見せる事がある。それは全て、に関する事だけなんだけど…ま、そこは僕も同じか…

僕は、ちょっと息をつくと、煙草に火をつけた。
今日から長いオフ…
今度、父さんが帰って来たら、その事を話さないといけないかなぁ…なんて思ってる。
どこか一人でぶらっと旅に出たい気もするけど…今はが心配だ。
どうせオフだし…いっその事、の撮影現場に行って、ライアンを見張ってやろうかとすら思ってしまう。(まさかオーランドと同じ事を考えてるとは思っていない)

僕は煙を吐き出しながら、本当に、そうしようか…と考えていた。
するとオーランドが、「じゃ〜待ってるね〜」 と言って電話を切るのが見えて、僕は嫌な予感がした。

「おい…オーリィ…待ってるって…まさかヴィゴも来る…とか?」

僕の問いにオーランドは笑顔で歩いてくると、

「うん。来るよ?久々に一緒に飲もうってさ」
「ええ?う、うちでか?」
「え?うん。だってほら。も今日は遅いかもしれないし?もし帰って来ても、ヴィゴなら大丈夫だよ。そんなドムみたいに節操なしじゃないし紳士だから」

あっけらかーんと、そう言うオーランドに、僕とレオは顔を見合わせ、思いきり溜息をついた…。










レオナルド




はぁ…頭痛い…!よりによって何で今晩、ドムとヴィゴがうちに?!勘弁しろよ…
あの二人…とくにドムを止めるのは、ある意味、疲れるんだよなぁ…
神経張り詰めて見張らないといけないから。
ヴィゴは…まあ、オーリーが言うように確かに無理な事はしない。それは分ってる。
ただ大人なだけに、誘い方が上手そうだ…
とにかく見張っておかないと…って何だか俺、最近、の保護者みたいだよな…と自分で思う。
彼女も21歳で、大人なんだし…と思うんだけど…心配なんだ。
また前の様に傷つくんじゃ…と思えば思うほど過保護になってしまう…。
いや、そんな事より…今夜の事が本当に心配だ。
は…ライアンと再会して…ちゃんと仕事をこなせるのか…ライアンの方は、どう思ってるのか…・色々と気になりだすと止まらない。

そんな事を考えていると、ふいに背中に重たいモノが乗っかってきた。

「おい、オーリィ…離れろ」
「ええ〜?なぁんでさ!何だか難しい顔してるから慰めにきたのにっ」
「お前の慰めなんて受けたくもないっ」

俺はそう言うと思いきりオーランドを引っぺがし、ソファーから立ち上がった。

「あれれ〜どこ行くの?」
「ドライブ!」
「え?じゃ、俺も俺も〜!連れてってよ!レオのフェラーリ乗りたい!」
「嫌だね…隣でうるさく騒がれたら気が散るだろ?」
「大人しくしてるから!」
「お前は無理…」

俺は冷たく、そう言うとスタスタとリビングを出ていった。
後ろで、「ケチィ〜!」 とオーランドが叫ぶ声が聞こえるも軽く無視だ。
一度自分の部屋に行き、車のキーを取ると、すぐに車庫へと向かった。
車に乗り込みエンジンをかけると思い切りふかす。そのまま扉をリモコンで開けると、車を発車させた。

別に、どこに行くとか決めてたわけじゃない。ちょっと一人になりたかった――














私は、その店の前まで来ると、本当に足が竦んでしまった。
心臓が締め付けられる感覚で苦しくなる。

「大丈夫?」

テリーが私の肩を抱きながら聞いてきた。
どうせ…私がここで大丈夫じゃない。家に帰らせてと言った所で帰してくれるわけでもないのに。

「大丈夫です」

私はそう言うと、テリーは小さく息を吐き出し、

「そう?今日はメインの出演者しか来ないから。 ――じゃ、行きましょうか」 

と行って先を歩き出した。
私は重い足取りで、その後をついていく。
他の共演者達は、すでに入ってるとのこと。
彼…ライアンも…もう来てるのだろうか…

そこはダウンタウンにある、アメリカ料理を扱う"パーム・レストラン"という店だった。
かなり広く二階席まである。テリーは、店内を案内されて二階へと上がっていく。
私も、その後ろからついて行くも、どんどん心臓音が大きくなってくのが分った。
案内してくれていたウエイターが、ある席で立ち止まり、「こちらで御座います」 と手で促した。
テリーは真っ直ぐ、その席へ行くと、「お待たせしました」 と挨拶をしている。
私は、ゆっくり近づいて行き、そっと顔を上げる。そこには男2人女一人が座っているのが見えた。
だがライアンがいない。私は少しだけ、ホっとしていた。

「あの…です。宜しくお願いします」
「やあ、僕はデビッド。最後、君に振られる男の役だよ?宜しくね」

そう言って20代後半の男性が立ち上がって手を出してきた。

「あ…宜しくお願いします」

も笑顔で握手をして、そう言うと、もう一人の男性が立ち上がり、

「僕はデニス。君の兄貴役なんだ。宜しく」
「あ…宜しくお願いします」

デニスとも笑顔で握手をすると、最後に女性が立ち上がる。

「私はアニス。あなたのライバルの役よ。宜しくね?」

その女性は何だか優しくニッコリと微笑んで両手で私の手を握ってきた。

「宜しくお願いします…」

この人…どこかで見た事があるんだけど…思い出せない。
とりあえず私は椅子に座り、時計を見てみた。午後6時50分…あと10分で約束の時間だ。
ライアンは…本当に来るんだろうか…

テリーは他のマネージャー達と同じ席につくと、すぐに仕事の話で盛り上がっている様子。
こっちはと言うと、皆が初めての人達だからか、どこかぎこいちない空気が流れるかと思えば、
デビッドとデニスは陽気な人らしく、もう二人で映画の話で盛り上がっていた。
私は、あまり初対面の人とは馴染めない方だから困ってしまう。

その時、アニスが笑顔で話し掛けてきた。

「どうしたの?何だか顔色が良くないけど…大丈夫?」
「あ…はい、大丈夫です」
「そう?なら、いいけど」
「はい。すみません」
「そんな謝らなくても…。それにしても…もう一人の主役は遅いわね?」

そう言われて思わず、ドキっとしてしまう。
だが、その言葉に他の二人も頷いた。

「ああ、何だか道が渋滞してるらしくてギリギリになるって」

デニスが時計を見ながら、そう言った。

「あら、そうなの。そう言えば…は彼と共演した事があるのよね?私、、見たもの。あなたのデビュー作」
「え?あ…そう…ですか…」

アニスの言葉に、ドキっとして言葉がぎこちなくなる。
それでもアニスは気にしない風に、「と言うよりは…あのオーディション受けて落ちたの」 と笑いながら肩をすくめた。

「え?」

驚いて顔をあげると、アニスが苦笑しながら、「のやった役…。私も、あのオーディション受けたのよ」 と言って私を見る。
私は何て答えていいのか分らずに、「そ、そうですか…」 としか言えなかった。
するとデビッドが笑いながら、「実は俺も、あの映画のオーディション受けたんだ。ま、落ちたけど」 と言って話に入って来た。

「え〜そうなの?じゃあ私と同じじゃない」

アニスは笑いながらデビッドと何故か握手をしている。
デビッドは笑いながら、

「いや最後まで残ったんだけどさ。結局はライアンに奪われて悔しかったなぁ。もし俺が受かってたら、と最初に共演してたのは俺だったかもしれないのに」
「え?」

いきなり話をふられて私は驚いて顔を上げた。

「俺さ、君のファンなんだ、実は」
「え……っ?!」

少し照れたように話すデビッドに、私まで照れくさくなった。
するとデニスも驚いたように顔を上げて、

「嘘っ。俺もファンなんだよ!だから今回、恋人役じゃなく兄貴の役だったけど受かって嬉しかったんだ」 と微笑んでいる。
「あら、あら。モテモテね?

アニスにそう言われて私は顔が赤くなってしまった。

「噂通りシャイなんだね?やっぱ、いいよなぁ〜」
「ほんと。俺、の作品、全部観に行ったし、DVD持ってるんだ。今度サイン書いてくれるかな?」

デビッドと、デニスに、そう言われて私は、「は、はぁ…」と、恥ずかしくて視線が泳いでしまう。

(そんなこと言われて何て答えたらいいのか分らないわ…っ)

するとアニスがクスクス笑いながら、

「あら、彼女には怖〜い、お兄さん達がいるんだから、手は出さない方がいいわよ?」 

と二人を交互に見た。

「あ、そうだった!それを忘れてたよ〜。一度、レオとは彼の作品で共演した事があるんだけど、あ、ちょい役でね?
その時、彼に"僕、妹さんの大ファンなんです"って言ったら怖い顔で、"どうも…"ってだけ言われたよ。ほんと怖かったね?」

笑いながら、そう言うデビッドに私は更に顔が赤くなった。

「すすみません…。レオが…」
「ああ、いやいや!何だか仲が良くて羨ましいって思ったんだ」
「はぁ…」

私はちょっと苦笑してデビッドを見た。
するとデビッドが階段の方へ視線をやり、「ああ、俺のライバルが登場だ」 と言って笑った。
私はドキ…っとして顔を伏せてしまった。かすかに足音が近づいてきて、すぐ横で止まる。


「すみません。遅くなりまして……」


その声は―――懐かしい響きがした。





私は目の前に座ったライアンの顔を、まるで幻を見るかのように見ていた。
皆と挨拶を交わすしぐさ、声、笑顔…

(ちっとも変わってない…)

知らず、ボーっとしていたらしい。
ライアンが一通り、皆と挨拶を交わした後、私の方を見て、ドキっとした。

…?久し振り…」

そう言って出された手に眩暈すら感じる。
それでも自然に手が出ていて、ライアンとそっと握手をした。
懐かしい温もり…あの頃は私を抱きしめてくれた温もりだ。
私は、そんな事を思いながら手を離そうとした。
その瞬間、ギュっと強く握られて驚いて顔をあげると、ライアンと目が合い、ドキっとした。
ライアンは、ちょっと微笑むと、私の手を解放して椅子に座った。
私も慌てて椅子に座ると、テリーがウエイターを呼んで、料理を運ぶように伝えている。
ライアンが来るのを待っていたのだろう。
皆それぞれ好きなお酒を頼んで、揃ったところで乾杯をした。

「えっと今日は顔合わせという名目だけど、このメンバーでの撮りが多くなるからと言う事で親睦会みたいなものだと思って下さい。
他のスタッフやキャストとの顔合わせは来週、スタジオでありますので。では、今日は好きに飲んで食べて楽しんで下さいね」

テリーはそこまで言うと、自分の席の方へと歩いて行った。
私は顔が上げられず、目の前のワインを見つめていた。
すると、「はい。、ワイン好きだったろ?」 と言って目の前のライアンが瓶を持って私のグラスに注いでくれた。
私は心臓が縮まるような気がしたが、何とか、「ありがとう…」 と言ってグラスを持った。

「へぇ、は赤ワインが好きなのか。俺も覚えておこう。やっぱり二度も共演すると、そういう事とか分るもんなんだな?」

デビッドもワインを、ぐいっと飲み干しながら、そう言ったので、私はドキっとした。
ライアンは、ちょっと笑いながらアニスにもワインを注いであげている。

「さっきから、この調子なの。はモテモテで困ってる様子よ?」

アニスが笑いながらライアンに話し掛けている。
ライアンは、ちょっと私の方へ視線を向けてきて、思わずパっと目をそらしてしまった。

は、前に共演してた時も、モテてたよ?主役の奴も気に入ってたしね」

ライアンの言葉に、私は顔が赤くなった。

そう…それは付き合った後に教えて貰った事があった。

"あいつものこと狙ってたんだよ?だから俺、取られないように思い切って告白したんだ" と――


「へぇ〜そうなんだ。やっぱりモテるのね?ね、
「え…?あ、そんな…事は…」
「あらら…、顔が真っ赤よ?大丈夫?」
「え?あ、大丈夫です…」

アニスは心配そうに私を見ていたが、デビッドに向かって、

「もう、はシャイなんだから、あまり好き好き光線送らない方がいいわよ?可愛そうじゃない」
「あ、そ、そうだね…。ごめんね?…」
「い、いえ…そんな…」
「じゃあ、俺も気をつけようっと。って、俺、さっきから照れくさくて、まともにのこと見れてないんだけどさ?」

デニスが笑いながら言う言葉にも、私は困ってしまって聞こえないフリをした。

「ほら、そういう事を言わないのっ。全く男って嫌ね〜?可愛い子を見ると、すぐデレデレしちゃって!」
「おいおい…俺達、そんなデレデレしてるか?」
「してるじゃないの。鼻の下伸びてるわ?」

アニスが笑いながらデビッドとデニスを交互に見ている。
二人は慌てて、手で口元を抑えたからか、それをライアンは笑いながら見ていた。

「ところで…ライアンは?」
「え?何だい?」

アニスに突然、ふられてライアンはドキっとした顔。
アニスはちょっとニヤニヤすると、

「だから、ライアンも共演した頃、のこと、気に入ってたわけ?」
「え…っ?!」

アニスの質問に、ライアンは動揺したのか、手を伸ばした先にあったフィンガーボールを倒してしまった。




カシャン…ッ




「あ…ご、ごめん。…かからなかった?!」

ライアンが慌てて立ち上がり、私の方へナプキンを渡そうとした。
私は首を振って、「だ、大丈夫」 と何とか答えると、すぐに自分のナプキンでテーブルの上を拭いた。
そこにウエイターが来て新しいフィンガーボールと取り替えてくれる。

「すみません」 

恥ずかしそうに苦笑しながら、謝っている姿に、私は、ちっとも変わってない…と思った。

「おいおい〜怪しいな〜。ライアンも、もしかしてのこと、好きだったとか?」
「え?な、何が…」

デビッドに突っ込まれてライアンは顔を赤くしている。

「だから、さっきの質問で妙に慌てたし…。もしかして振られたとか?」
「バ、バカなこと言うなよ…。別に、そんなんじゃないって」

ちょっと慌てるも、ライアンは、そう言いながらワインを飲み干した。

「ふ〜ん。なぁ〜んか怪しいけど…いっか」

デビッドは笑いながらライアンにワインを注いでいる。それを見ながら、私は息苦しさと胸の痛みを何とか必死に耐えていた――











ドミニク




さっきから俺は、ガックリと項垂れヤケ酒を飲んでいた。
せっかくオフで、に会いに来たというのに、いるのは、小姑兄貴どもだけ。
しかも何故だかライバルのヴィゴまで来てて、男同士、こんな集まってむさ苦しいったら、ありゃしない。
それに…それに…!!!

今、が参加しようとしてる映画が何と…!なぁーんと!ラ、ラブストーリーだって言うじゃないかっっ!!
俺の(!)が、そんな、いくら演技とは言え、他の男と、あんな事やこんな事までするなんて俺には耐えられないっっ!!

なのに…このバカ兄貴どもは、それを阻止できなかっただとぉぉう?!
ありえない…っありえなぁーい!


「おい、ドム…」
「なぁんだ?オーランド…っ」
「飲みすぎ…」
「誰が飲ませてるんだぁ!」
「いや…勝手に飲んでるだろ?」
「………っ!!」


ふん!これが飲まずにいられるかってんでぃ!

俺はブランデーを、ぐいっと飲み干すと、グラスを前に差し出した。



「おかわりぃ!!」 




ガンッ!!!




「ぃだぁい…っ!!」



(…ぐ…っ。だ、誰だ?俺様(!)の大事なヘッドをクラッシュしたのわっ!)


ジロっと顔を上げると、そこには冷たい風が吹き抜けていったかと思うほど怖〜い顔をしたレオが俺を見下ろしていた(!)


「ドム…お前、いったい誰の酒を飲んでると思ってんだ?」


「へ?」


「あ、レオ、お帰り〜!」


キッチンに、氷を取りに行ってたオーランドが笑顔でかけてきた。
それには、レオも怖い顔のまま、振り向くとオーランドの顎を片手で掴んだ(!)

「ふぐゅ…っ!」

顎を掴まれたと同時に力を入れられ、オーランドのホッペがギュゥっと押され、唇が尖ってしまっている。

「おい…俺のブランデー、ドムに勝手に飲ませたのは、お前か?オーランド…」

「ひゃ…しょ、しょれは…だっひぇ…のみゅたいってゆうひ…」

顎を抑えられてるので、話そうとしても何を言ってるのか全く分らない。
レオはヒットマンも震え上がるほどの冷たい視線で、俺を睨むと、オーランドの顎を、てぃっと放るように突き放し、
ふんっと言ってリビングから出ていってしまった。
オーランドは泣きそうな顔で、(いや涙浮かべてるから泣いてるのかも)その場に崩れ落ち、「こ、怖かったぁぁぁあっ」 と言って今まで存在を消し去って、今の状況を静かに見守っていたヴィゴに抱きついている。

「よし、よし…って違うだろ!兄貴に怒られたくらいで、いちいち泣くな!男のクセにっ」
「だ、だぁってさぁ〜!見た?今のレオの顔〜!俺、一瞬、今までの人生が走馬灯のように頭を走り抜けていったよ〜!!」
「ああ、何だか…彼は今日は機嫌が悪そうだ。…日本の諺に"触らぬ神に祟りなし"という言葉がある。今の彼には、それが当てはまりそうだ…」
「何?それって、"触らぬレオに、祟りなし"ってこと?」
「おぉ。オーランドにしちゃぁ、早く気付いてくれて助かるよ」
「む…っ。ヴィゴまで俺をアホだと思ってるわけ?」
「だから、口を尖らせるな、口を!お前は子供か?ヘンリーでさえ、そんな顔はしないぞ?ったく…」

俺はヴィゴに怒られてるオーランドを見ながら、ケラケラ笑っていたが、次は俺を標的にでもしようというのかヴィゴが俺を睨んだ。

「お前もヘラヘラと笑うな!」
「は〜い…」

(ちぇ…っ怒られた…。今日はもいないし、殴られるし、怒られるしで散々だ!)

そこへレオの次に怖いジョシュがやってきた。
今まで部屋で寝てたようで、何だか寝起きの顔&超機嫌が悪そうな顔…(こいつもかよ…)
俺は鉄拳が落ちないように、こそこそと隅へ這って行った。

「あれ…?リジーは?」

ボソっと低い声で聞いているジョシュに、すでに立ち直った(はやっ)オーランドが、ニコニコしながら、

「リジーは今、キッチンでエマと酒のつまみを作ってくれてるよ?あ、ジョシュも飲む?」 

と抱きついている。

「どうでもいいけど…オーリー、うっとぉしぃ…」
「ええぇ?!そんな、何で起きてきた早々、そんな冷たい事を言うんだ!」
「つか、うるさいし…耳に響くだろ? ――あ、ヴィゴ、いらっしゃい」
「あ、ああ…ジョシュ。おはよう…と言っても、もう夜だが…」

ヴィゴでさえ、ジョシュには気を使っている様子だ。
やはり、将を射んとすれば、まず馬から?って、こんな諺を聞いた事がある。それもヴィゴから…。

ジョシュは、不機嫌そうな顔で、俺をチラっと見るから、思わず、ヴィゴを見習おうと、ニッコリ微笑んでやった。
そ、そしたらジョシュのやつぁ〜プイっと…!プイっと……!!!!無視しやがった!しかも軽く。

くっ、くそぉ〜〜!同じ条件で、何でヴィゴには声をかけて、俺は無視なんだ?ええ?お馬のジョシュさんよっ
全くあんな可愛らしい妖精か、はたまた天使かと思えるほど愛くるしいの兄貴が何で、こんな極道(!)ばかりなんだっ!それが、そもそも間違いなんだよ!

俺はほんとに隅っこに追いやられて、一人寂しく、今度はハリソンのブランデー(!)を、こっそりと頂いた。

まあ、きっと彼なら未来の息子(?!)の為に、このくらいの小さなことでは目くじらはたてないだろう。
そうだよ、だってハリソンは大人だからなぁ。

俺は、数時間後に味わう恐怖…極道の親分の鉄拳を、この時は、まだ想像も出来ないでいた…

















食事の後、共演者の皆で盛り上がり、近くのホテルのバーに連れて行かれた。
私は皆が心配するからと断ろうとしたのだが、テリーに、「付き合いも仕事のうちよ」 と、あっさり却下され仕方なく一時間だけ、という約束でついてきた。
そういうテリーは他のマネージャー達と楽しくカウンターで飲んでいる。
私達、ACTOR陣は、バーの奥のラウンジ風ソファに、皆で座って飲んでいた。
私の隣には、デビッドとアニス、その向かいにライアンとデニスが座っている。
皆は、何だか役作りの話に夢中になっていて、さっきから熱く語っていた。

「この話は浮気した男を許せるか、どうかってとこが焦点じゃない?」

アニスが、いい感じで酔いながら、皆を見渡した。

「ああ〜そうだなぁ。女の気持ちからしたらどうなんだ?許せる?それとも一回でも許せないもの?」

デビッドが、そう聞くとアニスは少し考えて、

「う〜ん…私なら一度だけなら許すかなぁ?でも二度目とか…あと同じ人と何度もってのは許さないわね」
「そうか〜。じゃ、は?」
「え?!」

いきなり、ふられてドキっとした。

「わ、私…は…」

何とも答えにくい質問だった。
目の前のライアンも、何だか視線を泳がせている。

「わ、私は…本気で、その人の事を好きだと思えば…許せる…かも…」
「へぇ…そうなんだ…。でもと付き合えて浮気なんてしないだろ?そんな男がいたら俺がぶっ飛ばしちゃうよ」

デビッドの言葉に、デニスも、うんうんと頷いていて、更にライアンは気まずい顔でウイスキーを飲んでいる。
私は胸がズキズキ痛むのを、さっきから我慢していたが、限界が来てソファから立ち上がった。

「ちょっと…お手洗い行って来ます…」

そう言うと、私は皆の方を見ないで足早に店内の奥の通路へと歩いて行った。
かなり奥まっているので、そこは静かで少しだけ気分も落ち着く。私は、そのままトイレに入ると思い切り胸を抑えた。

「はぁぁ…もうダメ…」

(こんな…キツイとは…)

想像以上だった。
ライアンと目が合うたびにドキンっと心臓が跳ね上がり、その後にズキズキと痛んでくる。
それの繰り返しだった。

しかも…今度の映画の内容…これは脚本を読んで知ってはいたけど…私の立場から言えばキツイ内容だった。
だって実際の私とライアンの話のようだったから…

私が演じるヒロインは幼い頃、両親を無くし兄と二人で暮らしてきた。
だからか兄は妹のヒロインに対して極度の心配性で恋人が出来たと分かると、あらゆる手を使い別れさせてきた。
それでもヒロインは兄を愛していたので、それを受け入れていたが、20歳になった頃、本当に心から愛せる男性と出会う。
その男性が…ライアン演じるヒロインの恋人だ。けど恋人との仲を兄にはなかなか伝えられないヒロインは恋人とケンカばかりするようになる。
そして、それがきっかけで恋人は他の女性と浮気…――この浮気相手の女性をアニスが演じる事になる――
それを許せなかったヒロインは彼を愛しているのに別れてしまう。
その何年か後に、新しい恋人、――これがデビッド扮する現在の恋人――と出会い、結婚の約束をする。
だが、そんな時、過去に愛した昔の恋人と再会…その後、二人の間で揺れるヒロインは最後に、どっちを選ぶのか…

この脚本を読んだ時、ほんとに自分の事を書かれてるようで胸が痛くなった。
ライアンも、きっと同じだったろう。さっきも気まずい顔をしていたし…

テリーが言うには、実際にも兄がいて、大事にされてるという理由からヒロインの気持ちが少しは分かるかもというのでクライアントが私を指名してきたと話していた。

だからって…こんなリアルな役を、しかも相手がライアンで演じなければならないなんて…
傷口に荒塩塗りこまれてるような感覚だわ…
ライアンの奥さん…リリーは、どう思ったのだろう…きっと…彼女だって、この話を相手役が私で共演なんて嫌よね…

「はぁ…」

私は溜息をつきながら時計を見た。
夜中の1時…そろそろ帰らないと…きっとレオや、ジョシュは心配してる…
電話も入れてないし…

テリーに言われて携帯の電源は切ったままだった。
さっき入れようとしたが、このバーは地下にあり圏外になってしまう。

私は、もう何を言われても帰ると言おうと決めるとトイレから出た。


…?」


その時、後ろから、呼び止められてドキっとする。

「……っ」

目の前に歩いて来たのはライアンだった。

「あ、あの…」
「…ほんと…久し振りだよね…元気だった…?」

ライアンは少し寂しげな顔で、やさしく微笑んだ。
その笑顔でさえ、私の胸を痛くさせる。

「う、うん…。ライアン…は?」
「俺?俺は…まあ…何とかね…」
「そう…」

私は息苦しくてライアンの顔がまともに見れない。
すると、ふいに頬に手を添えられ、ドキンっと心音が大きく鳴った。

…少し…痩せたね…?」

心配そうに、そう言うライアンは、昔とちっとも変わらない。
私は顔を背けると、「そんな…優しいフリなんてしないで…」 と呟いた。

…」
「私は…やっとあなたを忘れたの。でも…今回の映画の出演だけは断れなくて…ほんとは断りたかった…あなたに…あなたに会いたくなかった…!」

私は、この一年以上もの間、心にあった辛い思いをぶちまけてしまいたくなった。
すると急に腕を掴まれたかと思った時には、私はライアンにきつく抱きしめられていた。

「な、何するの?!離して…っ」
…ごめん…俺…ずっと…謝りたかった…何度でも…例え許してくれなくても…君に…会いたかった…。凄く…会いたくて…」
「やめて…っ。そんなの今更、聞きたくない…っ」

私は本当に胸が痛くて涙が溢れてくるのを感じた。

「お願い…離して…っ」
「いやだ…」
「ライアン…っ」

私は涙が頬を伝うのを感じ、体を離そうともがいた。
その時、ライアンが、そっと私の両頬を手で包み、涙を唇で掬ってきてドキっとした。

「や…っ」

私は、その手を振り払うと、彼の腕から逃げ出した。

…俺は…」
「聞きたくない…。もう…こんな事、しないで?じゃないと…仕事が出来ない…これ以上、私を苦しめないで…っ」

私は、そう言うと、そのまま走ってバーを飛び出した。
後でテリーに文句を言われても構わない。
早く家に帰って、皆の顔を見て安心したかった。
これから…ちゃんと仕事が出来るのか不安だったから……。私は、この時、初めて自分の女優という仕事を呪っていた――













久々家族夢Uアップでしたv
でも今回ちょいとシリアスチック?^^;
なものでドム&オーリーに活躍してもらいました(笑)
あぁ〜ライアン、とうとう登場です〜ひぇ〜
まだ気持ちがあるのねぇ。
ヒロイン、モテモテなので兄貴ズも光らせる目を増やさないと(笑)
あ〜ハリソン、書きたい…最近書いてないなぁ、パパ。