妹の恋人










オーランド





「どうした?オーランド…ソワソワと時計なんて気にして…」
「――え?あ、ジョニー」

僕は顔を上げて目の前に憧れのジョニーが立っているのに気付き、慌てて椅子から立ち上がった。
今は今度の映画の撮影中だ。
午前の撮りは終り休憩をしてたんだけど、僕は今日から撮影に入るが心配で時計ばかり気にしていた。
この前アニスに会った時、"ライアンが前からを狙ってるから心配なんだ"と嘘の説明をして、とライアンを見張るように頼んでおいた。
何かあれば僕のマネージャーの携帯に電話が来るはずだ。

「さっきの撮り、一発OKで良かったな?」
「うん。ほんと剣を握る手が汗ばんで滑って飛ばしたらどうしようかと思ったよ」

僕はそうやって笑いながらジョニーに促されて、もう一度椅子へと座った。

「そんな風には見えなかったぞ?堂々としたもんだったじゃないか」

ジョニーは煙草に火をつけながら僕に微笑んでくれて僕は嬉しくなってしまった。

「そ、そうかな?NG出さないように気を張ってたし…」
「NGなんて気にするな。もし出したって、DVDの特典映像になるんだから製作側が喜ぶ」

ジョニーはそう言いながら煙を吐き出し苦笑している。
僕はジョニーの言葉に、少し感心してしまった。

(そうかぁ…そう思えば結構気にしないでリラックスできるかも…)

「そうだね?じゃ、NG出して特典映像を提供するよ」
「アハハ。そうそう。そのつもりで演じれば自然と上手く行ったりするよ」
「さすがだね?ジョニーは!気持ちの持ちようで頑張れそうだよ?」
「ま、そういう事だな?」

僕の言葉にジョニーはニヤリと笑って美味しそうに煙草の煙を燻らした。
その時、僕のマネージャーが歩いて来た。

「おい、オーランド!電話だ」
「え?!アニスから?!」
「ああ…。 ――お前なぁ…恋人からの電話を俺の携帯にかけさせるなよ…」
「違うよ!理由があるって言ったろ?!早く貸して!」

僕はマネージャーの手から携帯を奪うと、すぐに電話に出た。

「Hello?アニス?!」
『あ、オーリー?』
「うん。何かあったの?!」
『う〜ん…何だか…ちゃん元気なくて…。ランチの時も皆でって言ったんだけど一人でいいって言って、今出てっちゃったの』
「え?そ、それで?!ライアンは?!」
『それがライアンも見当たらなくて…。それで心配になったから電話したの』
「え?見当たらないって…!まさかのとこに行ったわけじゃないよな?!」
『それが探したんだけど…スタジオ内にはいなかったわ?』
「えぇ?じゃ、じゃあ…」
『もしかしたら…ちゃんのこと追いかけて行ったのかも…』
「うわ!まずい!アニス、二人を探してよ!」
『ええ?だ、だって私だってランチに行かないといけないのよ?そこまでは無理よ!』
「そんな…っ。に何かあったらどうするんだよ!」
『ちょっとオーリィ…。ライアンだって、そんな無茶はしないでしょ?大丈夫よ。それに彼、オーリーが言うほど酷い人には見えないわ?』
「そんなのアニスは知らないだけだよ!」
『何を?ライアンは凄く優しいわよ?皆にだって気を使うし、現場を盛り上げてくれるし…』
「そ、そんな見た目で騙されるなってっ」
『何よ、オーリーは別にライアンじゃなくても他の男の人でもちゃんの事になれば、そうやって心配するんでしょう?』
「…うっ。そ、そりゃ…。と、とにかくランチのついででいいから探して合流して!出来るだけ一人にしないでねっ」
『わ、分かったわよ…。探してみる…』
「頼むよ。じゃ…またね!」

そこで電話を切り、僕は思い切り溜息をついた。
すると後ろで会話を聞いていたジョニーが苦笑している。

「オーランドは噂通り、妹を溺愛してるんだな?」
「え?あ、ああ…。あの…まあね?」

僕はちょっと頭をかきつつ、携帯をマネージャーに返した。

「おい…。ちゃんのこと、見張ってるのか?」

マネージャーは変な顔で僕を見ている。

「い、いいだろ?事情があるんだ…。あ、また電話来たら宜しくね!」
「ああ、それは分ったけど…。ったく妹にしたら、いい迷惑だろ?これじゃボイーフレンドの一人も出来やしない…」

マネージャーは苦笑しながら歩いて行ってしまった。

にボーイフレンド…?冗談じゃないよ…」

マネージャの言葉に僕はつい独り言を呟いてしまった。
それを聞いてジョニーも驚いた顔で僕を見る。

「おい…ボーイフレンドを作るのもダメなのか?」
「え?あ…。いや…うん…。僕は…嫌かなぁ?って…アハハ!」
「アハハってお前…。彼女だって、もう22歳になるくらいだろう?ボーイフレンドの一人や二人はいても、おかしくはないぞ?」
「ひ、一人や、まして二人なんてダメだよ!そ、それに僕だけじゃなくて、うちの家族は皆で反対するね!」

僕はそう言って、そっぽを向いた。

「はあ?どういう家族だよ…。ちゃんも可愛そうになぁ…」
「何で?」
「何でって…。恋くらいしたいだろ?誰だって、そのくらいになれば…。なのに兄貴達が邪魔するから恋人も出来ないなんて…」
「そうかもしれないけど…」
「それに自分には恋人がいるじゃないか。今かけてきた子がそうだろ?狡くないか?妹は恋人作っちゃダメとか言って自分だけ作るのは」
「う…。そ、それは…」

僕は痛いとこをつかれて言葉に詰まった。
するとジョニーがニヤリと笑って、

「何なら俺がちゃんのボーイフレンドに立候補しようかな?」

と言って僕の肩を抱いた。

「えっ?!ジョニーが?!」
「何だ?俺じゃ不満か?」
「不満って…。だってジョニー奥さんが…」
「別に恋人になるとは言ってない。あくまでボーイフレンドだよ。一緒に食事したり、飲みに行ったりな?」
「そ、それだけ…?」

僕が少し不安になりつつ聞いてみると、ジョニーはニヤニヤしながら、

「まあ、ちゃんが望めば…ベッドの中までお相手してもいいけどな?」
「んなっ!な、な、な…」
「ん?どうした?真っ赤な顔して…」
「何言ってんだよ!!ダ、ダメだよ!ベッドの中って!!何する気だ、僕のに!」

僕は頭に血が上って憧れてたACTORというのも忘れジョニーに飛び掛った。
でもジョニーは苦笑いを浮かべてホールドアップしている。

「おいおい…。別に俺はまだ何もしてないぞ?それに何するって聞かれても、こんな昼間から言えないよ」
「うがぁーーっ。も、もうジョニーにはは会わせないよ!」

僕はジョニーを離して、スタジオの方へと歩いて行った。
するとジョニーも後ろからついてくる。

「会わせないって…だってちゃんは俺のファンなんだろう?それに、ここに連れてくるって約束したんじゃなかったっけ?」
「…ぐっ。そ、それはそうだけど…」
「可愛いちゃんとの約束を破れるのか?嫌われるぞぉ〜?"約束破るオーリーなんて大嫌い!"とか言われてな?」
「そ、そんなぁ…」

僕は、まだ別に、そう言われたわけでもないのに、に、"大嫌い"と言われた事を想像して、かなりのダメージを受けた(!)

「アハハ!お前、分かりやすいな?顔が真っ青だぞ?」

ジョニーはケラケラ笑っていたが、僕はそれに反論する気力も無く、その場にへたり込んだ。

「僕はに嫌われたら生きていけない…」
「お、おい…オーランド?」
「…に嫌われた僕なんて死んだも同然なんだ…っ」
「へ?おぃ…オーランド…大丈夫か?」

僕はだんだん悲しくなってきて半分、意識が飛んでいた(!)

「お、おい。誰か来てくれ!オーランドが変なんだ!」

ジョニーはハニワのような僕を見て慌ててスタッフを呼びに走ったそうな…。

―――これは後から聞いたんだけどね?




















「はぁ…疲れた…」

私はスタジオ近くのレストランに入り、ランチを頼んだ。アニスは皆でって言ってくれたけど…私はどうしても一人になりたかったのだ。
ライアンは悲しそうな顔で見てたが気付かないフリをして出てきてしまった。
ライアンとは朝、挨拶を交わした程度で台詞以外では口を聞いていない。
普通にしようと思えば思うほどに何だか意識してしまうのだ。

(あ〜あ…こんなんで、いい映画が作れるのかなぁ…)

そんな事を考えていると、目の前の椅子に誰かが座って驚いて顔を上げた。

「探したよ?」
「ライアン…っ?」

目の前の席にはライアンが笑顔で座っていた。

「な、何しに…」
「何って…ランチ食べにね? ――あ、僕にも、この子と同じものを」

水を持って来たウエイターに注文すると、私の方を見た。

「どうして…あからさまに俺を避けるの?」
「そ、それは…」

私はライアンの顔が見れず目を伏せてしまった。

「皆でランチ行くくらいはいいだろ?こんな一人でいなくなるなよ…。心配するだろ?」
「し、心配なんてしないでいいもの…っ」

私はそっぽを向いて、そう呟くとライアンがクスクス笑い出した。

「な、何がおかしいの?」

私は頭に来てライアンの方を見ると、ライアンと目が合ってドキっとする。
するとライアンがニコっと微笑んだ。

、そのクセ変わってないからさ?」
「え?」
「怒った時とかスネた時、必ずぷいって横向いちゃうだろ?前も小さいケンカした時とか、それやられたもんな?」
「…そ、そんな昔の話はいいわよ…っ」
「そんな昔じゃないよ…」
「………っ」

ライアンの、その一言にドキっとした。
何だか凄く悲しげだったから…

「わ、私には遠い過去のことだもん…」
「そう思おうとしてるだけだろ?」
「何が言いたいの?」

私はイライラしてライアンを睨んだ。
でもライアンは、ちょっと息を吐くと、

「俺は…の事を、"過去のこと"って…、まだ割り切れてないんだ…」

と呟いた。
私は胸が痛くなって思わず俯いてしまった。
そこにランチが運ばれてくる。

「食べようか…。午後にも撮影あるしさ…」
「う、うん…」

ライアンはちょっと笑顔を見せると、ランチを食べ始めた。
私は、目の前でポテトサラダを食べているライアンを見て不思議な気分だった。

二度と…こんな風に一緒に食事なんて出来ないと思ってた…例えば、どこかで会ったとしても…話す事もないと思ってた人…
なのに今、目の前で、あの頃と変わらないように食事をしている。こうして二人で食事をしていると別れた事の方が嘘のように感じてしまう…
あれは全て悪夢で…これが現実なんだと…錯覚してしまう。

?食べないの?」

ふとライアンが顔を上げて私は、ハっとした。

「あ、う、うん…。食べる…」
「ちゃんと食べないと…また痩せちゃうよ?」
「わ、分かってる…」

私は顔が赤くなって仕方なくパンを口に運んだ。

(ほんとは…食欲もないんだけどな…食べておかないと今後の撮影で体力なくなっちゃうし)

私は何とか無理やり食事を食べ終えると、食後の紅茶が運ばれて来た。
ライアンがそれを見て笑顔になる。

「それも変わらないね?」
「え?」
の紅茶好き。前も紅茶ばっかり飲んでた。俺はコーヒー派だったけどの影響で紅茶が好きになって、今じゃ葉っぱから落としてるよ?今でも…お兄さん達に作ってもらってるの?」
「あ…うん。たまに…」
「そう…」

ライアンはちょっと微笑むと美味しそうに紅茶を飲んでいる。
私は胸が痛くなって視線を反らした。

(そう…あの頃も私は食事の後や朝には必ず紅茶を飲んでた…そんな事も覚えててくれてるんだ…)

そんな事を考えてると涙が出そうになって慌てて顔を上げた。
その時、ライアンの優しい瞳と目が合ってドキっとする。

…」
「…え?」
「今夜…二人で会いたいんだ…」
「…今…夜…?」
「うん。撮影…終るの早いだろ?今日…。だから、その後にでも一緒に…食事に行かないか?」
「ど、どうして?」
「どうしてって…。とこうして会いたいから…」
「だ、だって…リリーは…」
「彼女…今、実家に戻ってる」
「え?」
「ここ半年くらい…会ってないんだ」

ライアンは、そう言って少し顔を窓の外に向けた。
私は思いがけない言葉に動揺して胸がドキドキしてくる。

「な、何で・…?」
「え?」
「何で…半年も会ってないの…?」
「ああ…。実は……上手くいってなかったんだ。表面だけ繕ってた感じで…責任とるとか言っておいて彼女の事を守ってやる事もできなかった…。彼女も悩んでたみたいでさ…。俺とが別れたこと」
「リリーが…?」
「ああ…彼女なりに…苦しんでた…」

それを聞いて私は驚いた。
私からライアンを奪っていった人…そんな風にしか見てなかったから…

私は少し胸が苦しくなり軽く息を吐き出すと、ライアンが顔を上げた。

「あいつ…分ってたから…」
「え…分ってたって…?」
「俺が…結婚しても、ずっとの事を忘れてないって…」
「………っ」

ライアンの、その言葉に私は顔が少し熱くなった。

「気持ちだけは…どう頑張ったって変えられるものじゃないだろ?リリーもよくそう言って俺を責めるようになった」
「責めるって…」
「俺に、のとこに戻れって…そんな事ばかり言うようになって…今度の映画が決まって相手役にの名が上がってるのを知った時、リリーは家を出てったんだ…」
「そんな…どうして…」
「きっと…自分がいなくなれば、俺がのとこに戻れるって…そう思ったんだろうな…」

その話に私はショックを受けた。

(そこまで…リリーはライアンを愛してるんだ…自分に気持ちのない人と一緒に暮らす事は…彼女にとって絶えられなかったのかもしれない)

「彼女を迎えに行かなかったの…?」

つい、そんな事が口から出ていた。
ライアンは、ちょっと溜息をつくと真剣な顔で私を見つめた。

「行ったよ?何度も…。でも帰らないの一点張りでさ…。最近じゃ電話にも出てくれないんだ」

そう言ってライアンは私から視線を反らして時計を見た。

「そろそろ時間だ…。戻ろうか」
「え?あ…そうだね…」

私は慌ててバッグを手にすると席から立ち上がった。
ライアンは先に会計を済ませて外に出て行ってしまう。

「ま、待って…。自分の分は払う…」
「え?ああ、いいよ。そんなの」

そう言ってライアンはスタスタと歩いて行ってしまった。私は財布をバッグにしまうと急いでライアンの後を追いかける。
ライアンは大きな交差点の前で信号が赤になり立ち止まった。

「ま、待ってよ…」
「…別々に戻ろう?」

ふいに、そう言ってライアンが私の方へ振り返る。

「え?」
、皆とのランチ断ったのに俺と一緒に戻ったら変に思われるだろ?それにのファンが二人いる事だしさ?」

ライアンは、そう言うとイタズラっ子のように微笑んで私の頭を撫でた。
私はその感触にドキっとして俯いたが、その気使いが嬉しいと素直に思った。

「分った…。じゃ、別々に戻ろう?」
「うん。先に行っていいよ?」
「そう?じゃ…後で…」

私はそう言って信号が青になったのを見てスタジオの方に戻りかけた。
その時、突然腕を掴まれた。

「な、何?」
「さっき言ったろ?今夜…会えないかな…?」
「あ…うん…」

何故か、この時、素直に頷いてしまって、そんな自分に驚いた。
ライアンも、これには少し驚いた顔をしている。

「ほんと…?」
「え?」
「ほんとに会ってくれるの?」
「………ぅん」

今度は小声になってしまって少し俯いた。胸がドキドキして顔が赤くなったのが分る。
初めてライアンに告白された時と同じように……

「じゃ、じゃあ…終るまでに場所とか決めておくね?」
「う、うん…分った…。控室に戻ったら携帯に電話して?」
「うん」

ライアンは嬉しそうに微笑んで、私の頭に手をポンっと置いた。

「じゃ、早く戻って…。午後のシーンは俺との出会いのシーンだよ?」

その言葉にドキっとしたが、それを気付かれないように、ちょっと微笑むと私は交差点をスタジオ方向に歩き出した。

今夜、ライアンと二人で会う…思わずOKと言ってしまったが、それで良かったんだろうか…

今の私には…分からなかった――












ジョシュ






「あ、オーリー?どうだって?うん…。あ、別々に戻って来たって?そっか、ああ、ちょっと安心したけど…うん、また電話して?ああ、じゃ」

僕はそこで携帯を切った。
すると隣で待ってたリジーが顔を覗き込んでくる。

「オーリー何だって?」
「ああ・・・とライアンは別々に戻って来たってアニスって子から連絡きたって…」
「ほんと?そっかぁ…。良かった!」

リジーは、ホっとしたように伸びをするとソファーに寝転がる。
僕もちょっと息を吐き出すとソファーに座りシートに凭れかかった。

「でもさぁ、まさかオーリーの彼女が共演するとはねぇ〜。驚いたよ」

リジーが僕の方に顔を向けながら言った。

「ああ、ほんとだな?つか、まだ続いてたって方が驚きだけどさ?」

僕が笑いながらそう言うと、リジーも噴出している。

「アハハ、言えてる!オーリー忙しさとにかまけて、彼女のこと、ほったらかしだっただろ?よく振られないよなぁ?
何か彼女にとってオーリーじゃなくちゃダメな要素とかあんのかな?どこだ?それ…僕には分らないよ」

リジーは可愛い顔して結構キツイことを言っている。
僕は苦笑しながら肩を竦めた。

「そりゃ〜彼女にしか分らない、オーリーのいいとことか…あるんじゃないのか?」
「あぁ〜例えばベッドの中で……とか?」
ぶはっ
「うぁ、ジョシュ?!」

僕はリジーの過激発言に一口飲んだ紅茶を噴出してしまった。
リジーが慌ててタオルを持ってきてくれる。

「ああ、サンキュ…」
「ったくさぁ…。ジョシュも晩熟だよね?」
「な、何だよ…?何が?」

僕が濡れた顔をタオルで拭きながら顔をしかめると、リジーはニヤニヤしながら僕の肩に腕を回してきた。

「だから…!あんな話くらいで顔赤くしてさ?」
「だ、誰も別に赤くなんて…っ」
「ええ?赤いよ、ジョシュ」

リジーに、そう言われて僕はサっと手で頬を隠した。

「アハハっ。ほんとシャイなんだからさ!そんなだから彼女も出来ないんじゃないの?」
「うるさいよ!それにリジーだって彼女はいないだろ?」
「僕はいらないんだ。ま、たまにデートくらいしてるけどさ?付き合ったりするのはな〜」

僕はリジーの言葉に驚いた。

「え?お前…デートとかしてんの?」
「ん?ああ、まぁね。ほんと、たまぁにだけど?」
「それは…どういうデート…?まさか…レオみたいなんじゃないだろうな?」

僕が顔をしかめると、リジーはケラケラ笑いながら、またソファーに寝転がった。

「ま、そうなる時もあったけど?」
「ハァ?!お前…っ」
「ジョシュ、また顔赤くなったよ?」
「うるさい!」

僕は何だか顔が熱くてリジーから顔を反らした。
リジーは、ちょっと笑うと、

「ま、僕も健康な男児だし前はそういう事も無かったとは言わないけど、今はないよ?普通に食事してバイバイって感じ。誘ってくる人もいたけど面倒だし」

リジーは済ました顔で、そう言ってのける。

「僕にはがいればいいしさ。ジョシュもだろ?」
「え?!」

今度はいきなり、の話を自分にふられてドキっとした。

「な、何が?」
「だから…ジョシュも彼女作らないのって、面倒だからじゃないの?それにと一緒に出かけたりする方がいいんだろ?」
「あ、ああ…そうだな…。うん、そうだよ」

僕は何だか動揺しまくりで変な汗が出てきた。
それをリジーに気付かれなうように、そっと拭うと煙草に火をつけて心を落ち着かせる。
リジーは寝転がったまま目を瞑っているので気付いてないように、言葉を続けた。

「でもさ…。に、もし今後、新しい恋人が出来たらどうする?」
「え?恋人…?」
「うん。ライアンとの事も心配だけど…彼は結婚してるんだし、だって、もし今も彼を好きだったとしても、結婚してる男とはヨリを戻さないだろうし…となると他に好きな男でも見つけるかもしれないし?」
「他の…男…?」

僕はそんな事を考えると少し胸が苦しくなってくる。

に恋人…そんな男、連れて来たら僕は…どうするんだろう?
素直に喜んでやれるんだろうか。その前に父さんだって、レオだって黙っちゃいないだろうけど…

「ジョシュ?どうしたの?」
「え?ああ、何でもない…」

リジーは黙ったままの僕を見て訝しげな顔をしたが、「やっぱジョシュも嫌だろ?が恋人連れて来たらさ」と言って笑った。

「ああ…。YESか、NOで言えば…YESだな…。嫌だと思うよ?」
「やっぱりねぇ〜。ま、でも目先の心配事はライアンか…。レオは?レオも今朝凄い心配しながら仕事に行っただろ?」
「あ、そうだ!連絡入れてやらないと…!」

レオに、オーリーから連絡来たら電話くれと言われてたのを思い出し、慌てて携帯でレオの番号を出した。
僕はレオに電話をかけながら、ほんと俺達兄弟って、の事になると探偵も真っ青だな…なんて変な事を考えて自分で呆れていた――












イライジャ





僕はジョシュがレオに連絡入れてる間、キッチンに行ってエマの作っておいてくれたパンケーキを食べようと、お皿を出していた。
エマはいなくて、どうやら買い物へ出かけたらしい。

「ジョシュも食べるかな…」

そんな独り言を呟いた瞬間、僕のズボンのポケットの中でブルブルっと携帯のバイブが動き出した。

「うぁ…っと、驚いた…」

僕はドキっとしたが、すぐに携帯を取り出すと、ディスプレイを確認した。

「う…」

そこに名前が出ていたのは僕に付き合ってと言って来ているモデルのジェシカからだった。
"私の事を知らないままで振らないで"と言うので、最近は食事に行ったりはしていたんだけど・・・
何だか、この頃、それすらも面倒になってきていた。

「…Hello?」
『Hi!リジー元気?』
「うん、まぁね」
『まだオフでしょ?今夜会えない?』
「え?今夜?!」
『ええ、何か予定でも?』
「う〜ん…今夜は…」

まさかが心配だから家から離れたくないとは言えず、僕は言葉に詰まった。

『じゃあ明日は?』
「明日…?明日は…約束があるんだ」
『えぇ?誰と?』

そんな事まで何で君に答えなくちゃならないんだ…と思いつつ、「オーリーとちょっと…」と答えた。
するとジェシカは嬉しそうな声を上げた。

『え?オーランド?じゃあ、私の友達と4人でデートしない?友達でオーランドのファンの子がいるの。その子もモデルよ?』
「え?ああ…でもオーリーには恋人がいるし…明日はオーリーの今撮ってる映画の撮影見に行くんだ。だからレオもいるしジョシュも…も皆で行くんだよ」
『えぇ?そうなの?つまんない…。何も家族で出かけなくたって…』

ジェシカはスネた口調で呟いた。
僕はちょっと息を吐き出すと、「悪いね?僕の家族は皆が仲がいいからさ」と嫌味っぽく言ってしまった。

『リジィ…?怒ったの?』
「別に…。怒る事なんて何もないだろ?」
『じゃあ…また会ってくれる…?』

少しだけ猫なで声で聞いてくるジェシカに、僕も困ってしまった。
だが…今度こそ会って、ちゃんと断ろうと思った。

「うん、いいよ」
『ほんと?じゃ…明後日は?』
「明後日…は…ああ〜ごめん。その日はとコンサート行くんだ」
『えぇ〜…何で妹と行くのよ…私を誘ってほしかったわ…』
「ごめん、それの友達からチケットもらったしさ」
『ふぅん…。で、誰のコンサートなの?』
「Ricky Martinだよ?」
『えぇっ。それ行きたかったわぁ…。彼、いい男だもの』

ジェシカの、その言葉に僕も思わず苦笑した。

と同じこと言ってるよ…女の子って、ああいうセクシー系に弱いのかな…?)

『じゃあ…いつならいいの?』
「う〜ん…その次の日から僕も次の映画の仕事があるから・…」
『え〜じゃあ、時間ないじゃないの…』
「あ、じゃあ…そのコンサートが終った後でもいい?あまり時間はないんだけど…」
『いいけど…時間ないの?どのくらい?』

ど、どのくらいって言われても…断る話をするだけだし…

「さ、30分くらい?」
『ええ?!何で、そんな短いのよ!どこにも行けないじゃないのっ』

いきなり凄い剣幕で怒鳴りだし、僕はビックリした。

「ちょ、ちょっとジェシカ…?」
『30分って、お茶飲んで帰るつもり?!』
「それは…だって仕方ないだろ?次の日、仕事なんだしさ…。嫌ならいいよ?」

僕は疲れて来て、そう言ってしまった。
するとジェシカも慌てた様子で、『わ、分かったわよ…。じゃあ…明後日…何時?』と聞いてくる。
僕は内心、このまま怒っててくれても構わないのに…と思いつつ。

「ん〜…じゃあ、コンサート終ったら電話する。夜9頃にはハイランド近辺にいてくれる?」
『分ったわ?じゃあ…終ったら電話してね?』
「OK…じゃ。バイ…」

僕は、そこで電話を切って、思い切り息を吐き出した。

「はぁ…ヒステリーの気があるな…ジェシカ…」

僕は女の子のキャンキャン怒鳴る声が凄く苦手だ。
この時点でジェシカは僕の付き合うという守備範囲から消え去ったも同然だ。
まあ、元々付き合う気もなかったんだけど…

「あ〜あ…ほんと面倒くさいよなぁ…」

僕はそう呟くと、さっき食べようと思っていたパンケーキをお皿に乗せてレンジの中に放り込んだ――














レオナルド




俺は仕事から速攻で家に帰って来た。
ジョシュからの電話だと、は今夜、少し遅くなると電話してきたという。
俺は何だか嫌な予感がして、着いた早々リビングに向かった。

「あ、レオ、お帰り!」
「ああ、リジィ…ただいま。ジョシュは?」
「ジョシュなら自分の部屋だよ?何だか心配しすぎて青い顔してたけど」

リジーは苦笑しながら肩を竦めて、またテレビに視線を戻した。

「それで…オーリーから連絡は?」
「あ、そろそろ帰って来る…」

とリジーが言いかけた瞬間、玄関の方で大きな音がした。



バン…っ!ドタドタドタ…!




「大変だ!!」
「うわっ」
「ひゃあっ」

入って来たと思った瞬間、大きな声で怒鳴るもんだから、俺とリジーは驚いた。
だがオーリーは一向に気にすることなく目の前までやってくると、彼もまた青い顔をしている。

「何が大変なんだよ?」
「さ、さっきが遅くなるって電話してきたってジョシュから聞いたからアニスに電話してみて今日は撮影延びたのかって聞いたら、"通常通り終わるわよ"って言ってたんだ!」
「え?それって、どういう…」

リジーがそう言いかけた瞬間、皆が固まった。

「まさか…」
「嘘だろ…?」
「ヤバイくない?」

3人でそれぞれ呟き、お互いに顔を見合わせた。

「ライアン…か?」

俺がそう言うと、オーリーもリジーも小さく頷いた。

「きっと、そうだよ!二人でどこか行く気じゃ…」
「ぬぅーーっ。俺のを、どこに攫う気だ!ライアンめぇーーっ」

オーリーも顔を真っ赤にして怒り出した。

「おい、オーリー。が撮影してるスタジオってどこだ?まだ撮影やってるのか?」
「えっ?ああ、えっと…ハリウッドの近くだよ?あ、でも…もう8時だろ?アニスが8時頃には終るって言ってたから、もう終ってるかも…」
「嘘だろ?おい、彼女に電話して、を引き止めとくように言えよ!」
「あ、そっか。分った!」

俺がそう言うと、オーリーも慌てて家の電話の方に走って行った。

「Hello?あ、アニス?俺!あのさ、まだ撮影やってる…え?!もう出たの?!」

オーリーの声を聞いて俺とリジーは顔を見合わせた。

「じゃ、じゃあ…は?知らない?え?帰った…。じゃ、じゃあライアンは?!え?知らない?!何で見張っててくれなかったんだよぉぉっ!!」

オーリーの絶叫に近い声がリビングに響き渡った。

「え?あ、ああ…ごめん…。うん、この埋め合わせはするから!明日は撮影ないんだろ?ん、お疲れさん!」

オーリーは、そう言って電話を切ると、俺達の方に、その青い顔を向けて、

、もう、とっくに帰ったってぇ〜…。ライアンもいつの間にかいなくて、分らないらしい…どうしよう?!」

と慌てふためいている。
俺はちょっと息を吐き出すとソファーに、ドサッと座った。

「どうしようって言っても仕方ないだろ?どこに行ったのかも分らないし…とにかく帰って来るの待とう…」
「そ、そんなレオ、呑気な…。あ、そうだ…の携帯に電話してみるよ…っ」

オーリーはまた電話の子機を取ると暗記してるの携帯の番号を素早く押している。
俺はそれを見つつ、肩をすくめた。「どうせ電源切ってるよ…」
リジーに向かって、そう言った途端。

「留守番伝言サービスに繋がっちゃったよぉ〜〜〜っ」

とオーリーの嘆き声がリビングに響き、俺とリジーは顔を見合わせ、溜息をついた。

「ヤバイ…!ヤバイよ、これは…くそぅ…オババが余計な仕事を持ってくるから、こんな事に!今度、オババの家行ってピンポンダッシュしてやるぞ…っ」
「おい、オーリィ…アホなこと言ってウロウロ歩き回るなよ…うっとぉしい…」

俺は呆れて、そう言うとオーリーが怖い顔で俺の隣へ凄い勢いで座って、一瞬俺は後ずさってしまった。

「何だよ、レオ!が心配じゃないのか?!あ、あのライアンに手篭めに…」





ビタン!





「ぃだっ!」


「アホか!何が"手篭め"だ…っ」


俺はオーリーのデコを平手で思い切り引っぱたくと、そう怒鳴って立ち上がった。

「な、何も叩かなくても…っ。ってレオ、どこ行くんだよ?!」
「自分の部屋…!オーリー、うるさいからね」
「な、うるさいって、だって心配だろ?」
「分ってるよ!俺だってすっごい心配してるんだっ。でもの意志でライアンと、どこかに行ったんならどうしようもないだろ?!」

俺は我慢してたイライラが一気に出そうになった。
オーリーも俺の顔を見て少し口を尖らせると、ソファーから立ち上がる。

「自分の意志じゃないかもしれないじゃないか!無理やり連れて行かれたのかも…」
「そんなわけないだろ?子供じゃないんだし…っ。嫌なら断れる子だよ、は」

俺はそれだけ言うとリビングから出て行った。
オーリーは、まだ不満げな顔をしてたけど今だと本気でケンカになりそうだったから俺がいなくなるのが一番いい。

(リジーも困った顔してたしな…)

は自分の意志で今、ライアンと二人でいるんだ。きっと…まだ彼の事が好きなのかもしれない…
だけど…あいつは結婚してるのに…また辛い思いするだけじゃないのか?

俺は自分の部屋に入り、鍵をかけると、思い切り窓を開けてテラスへと出た。
暗い夜空にぽっかりと細い三日月が光ってて少しだけ寂しげな印象だ。
俺はちょっと溜息をつくと煙草に火をつけて気持ちを落ちつかせた。

また…胸が痛い。このモヤモヤした気持ちは前にも感じたことがある。

ふとジョシュの部屋の方を見てみた。
明かりが洩れているのが、かすかに見える。

(あいつも…の事を心配してるんだろうな…)

「あ〜あ…こんな時に限って父さんはロケだもんな…」

そう呟いて煙を吐き出した。

も明日はオーリーの撮影を見に行くと楽しみにしてたはずだ。
だから泊って来ることはありえない…いや、そう思いたいだけなんだけど。

「とにかく…今夜はが帰って来るまで…起きて待ってるとするか…」

俺は煙草を吸いながら、暫く、その場で三日月を見ていた――
















「うわぁ、美味しそう」

私は目の前に運ばれて来たスパイシーグリルサーモンなる料理を見て思わず、そう呟いた。

、こういう辛い料理好きだったろ?ここの店、思い出してさ」

ライアンは笑いながら、それを切り分けてくれた。

「はい」
「あ、ありがとう…」

私は前と同じように接してくれるライアンにドキっとしつつ、お皿を受け取った。
この店は家から、それほど遠くないアジア料理のレストランだ。
皆に嘘をつくのは、ライアンと付き合ってた時以来で少しだけ罪悪感を感じていたが、こうして二人で会うと昔の自分に戻ったような気分になってくる。

「ん、美味しいっ。これ丁度いい辛さだわ?」
「ほんと。これなら俺でも食べられるよ」

笑いながら、そう言うライアンに私も思わず笑顔になった。

「ライアンってば私に付き合って、辛い料理の店とか連れて行ってくれたけど、ほんとは辛いの苦手だったのよね?」
「あ〜そうそう。、すっごい激辛料理も、"辛いっ"とか言いつつ、しっかり食べるし、俺、どうしようかと思った事が何度もあったっけ」
「その時、食べられないって言ってくれれば良かったのに…」

ちょっと笑ってライアンを見ると、彼も照れくさそうに笑っている。

「言えるわけないだろ?俺が連れて行ったレストランで"ここの料理美味しいんだ"とか言っちゃってるのに、ほんとは食べられないんだって言えないよ」
「アハハ・・・そっか。最初の頃は、そうやって嘘ついてたんだもんね?」
「うわ…嘘とか言うなよ…。だって最初の方はデートするだけで緊張してたんだからさ…それに見栄くらいはるだろ?」

ライアンは少しスネた口調で私を見る。
それには私も笑ってしまって、ふと昔の事を思い出した。

「そうね…。でも、いつだったか、一緒にタイ料理食べに行った時、"ごめん、俺、ほんとは辛いの苦手なんだよね"って泣きそうな顔で言った時は私も驚いたもの!え〜?今まで、何度も辛い料理のレストランに連れて行ってくれたのに?って」

私が笑いながらライアンを見ると、ライアンも思い出したのか苦笑している。

「ああ、あった、あった!だって、その時の料理が、それまで食べた中でも一番辛くてさ?これは無理だって思って…で、ついカミングアウトしちゃったんだよな〜。でも、、よく食べれたな?あのチキン辛すぎだったよ?」
「ああ、あれはチキンが辛いんじゃなくて、あの付けたタレが辛かったのよ?」
「ああ、あの一瞬、甘いと思わせて後からボっとくるやつね?あれ詐欺だよ、ほんと…」

ライアンが味を思い出したのか顔をしかめて呟いた。
その顔を見て私もちょっと噴出してしまう。

「何笑ってんの?」
「え?だ、だって…」

私はライアンの困ったような顔を見て、ちょっとドキっとして視線を反らしてしまった。

いけない…こんな風に思い出話をしてると、ほんとに、あの楽しかった頃を思い出して胸が痛くなっちゃう…
もう…あの頃には戻れないのに。

私は、そう思うと何だか切なくなった。
そんな気持ちが表情に出ていたのか、ライアンが心配そうな顔で私を見ている。

「どうした?」
「な、何でもない…。あの…ワイン飲む?」
「あ、サンキュ」

私はライアンのグラスにワインを注ぎながら、どうして今夜、断らなかったんだろうと少しだけ後悔していた――








「あ、あの…ここでいいから…」
「え?家の前まで送るよ?危ないだろ?」
「でも帰り、タクシー拾えなくなっちゃうし…」
「そんなの大丈夫だよ。俺の家も近いしさ」

ライアンは、そう言いながら私の腕を掴んだ。
食事の後、家まで送ると言われて、パパラッチが張っていない裏道から家まで帰って来た。
その角を曲ると裏門がある。
そこまで送ると言われたが、私は、やっぱり…と立ち止まった。

…?」
「やっぱり、ここでいい…。記者の人も最近多くなってるし、万が一写真でも撮られたら…」

そこまで言って言葉を切ると、ライアンは私の顔を覗き込んできた。

「お兄さん達に…怒られる?」
「え?」

私はドキっとして顔を上げた。
すると、ふいに唇に柔らかい感触を感じ、キスされたんだと気付いた時は、すでに唇から温もりは消えていた。

「あ、あの…」

私は顔が真っ赤になったのが分り、少し後ろに後ずさった。
だがライアンに腕を引き寄せられ、ギュっと抱きしめられる。

「は…離して…」
「好きだよ…
「………っ」
「ずっと…この気持ちが消えなくて辛かった…」
「…ライアン…」

私は、その言葉に胸がギューっと息苦しくなり、離れようと体を動かした。
それでもライアンは私を抱きしめて頭に頬を寄せてくる。

「や、やめて…あの…」
は?」
「え?」
は…もう俺のことは忘れた?」

ライアンの言葉にズキンと胸の奥が痛んだ。
気付けばライアンの体が、かすかに震えているのが分る。
私はちょっと息を吐き出すと少しだけ顔を上げた。

「ライアン…私…は…忘れようと努力したわ?」
…」
「今は…正直、分からない…。前のように好きなのかどうか…。それに例え好きだとしてもライアンには、リリーが…」
「でも…彼女からは離婚したいって言われてる…」
「え?」

私が驚くと、ライアンは少しだけ体を離した。

「電話が繋がらなくなる前に一度話した時…そう言われたんだ…。その後から一切出てくれなくて…」
「でも…別れるなんて…」
「彼女が言い出したんだ…。俺は何度も話し合おうって言ったんだけど…」

ライアンは、そう言って私の顔を見つめた。

「もう…俺と彼女はダメなんだ…。別れるしかないって今は思ってる。全部、俺のせいだ」
「ライアン…でも…」
「俺の気持ちが…まだに残ってるから…彼女のことも傷つけた…。もちろん…の事も…」
「私の事はもういい…。あの時はそうするしかなかったんだって今は思うから…私も悪かったのよ…結婚の約束してたのに…皆にその事すら話せなくて…ライアンの不安だった気持ちも今なら分かるわ?」

私がそう言うとライアンは悲しそうな顔をした。
それでも、もう一度、私をギュっと抱きしめると、「…俺達…やり直せない?」 と言って私の頭に口付けた。

「え…?」
「もう一度…最初から…やり直したいんだ…」
「ライアン…」

私は彼の言葉に戸惑った。

やり直す…最初から…?あの頃のように戻れるの?そんな事が本当に出来るんだろうか…

?すぐ返事をしなくてもいい…。少し考えてくれないか?」

ライアンは、そう言って体を離すと、私の顔を両手で包んだ。
私はドキっとして顔を上げるとライアンの優しい瞳と目が合う。

「分った…考えてみる…」
「ほんと?」

ライアンが嬉しそうに微笑んだ。

「うん…でも…」
「でも?」
「私、リリーが心配なの…。もう一度ちゃんと彼女と二人で話し合って?お願い…」
…でも…」
「リリーは…まだライアンの事を好きなんだと思う…。だから、ちゃんと会ってこないとダメだよ…」

私がそう言って、ちょっと微笑むと、ライアンも小さく頷いた。

「じゃ…今日は帰るね?」
「うん…」
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」

ライアンは、そう言うと私の額にそっと口付けた。
そのまま家の方に歩いて行くと、ライアンが、もう一度、「おやすみ!またスタジオでね」 と言って手を振っている。
私も振り返って手を振ると、そのまま裏門の方へ走って行った。

もう夜の12時だ。きっと皆、心配してるかもしれない…

私は家に戻ってから、皆の顔を見るのが少しだけ辛いと感じた。
ライアンと一緒だと…どうしても家族の皆に嘘をついてしまう。
この事が今の私には一番辛いと、この時思った。

前とは違うのかもしれない…もう…時間は戻せないんだ。

私はそう思って、立ち止まると後ろを振向いた。

だけど……そこには、もうライアンの姿はなかった――









 



ちょっと久々?の家族夢Uで御座います^^
皆さんの恋の行方は、まだ続く…(笑)
次回は、また一つ恋の花が咲くかもしれませんね(笑)(何じゃそりゃ)