悩み多き年頃@













私は頭の痛さと胸のムカつきに苦しんでいた。

(はぁ…あんなに飲まなきゃ良かった…テキーラは、さすがにきつかったかな…)

こめかみを押えつつ溜息をつくと隣でバクバク朝食を食べているオーリーが私の顔をひょいと覗き込んだ。

。大丈夫?頭痛いの?」

見ればオーリーは口をもぐもぐしながら目をクリクリさせて私を見ている。
口元にはパンくずがシッカリとついていて、私は思わず吹き出してしまった。

「やだ、オーリー。パンくずついてるよ?」

そう言って指で取ってあげると、オーリーはニコニコしながら私の頬にチュっとキスをした。

「ん〜ありがと!My Little Girl!」
「どういたしまして。オーリーは、いつも元気ね?」
「そうかな?そりゃ〜毎朝、可愛いの顔が見れるからねっ」

オーリーは嬉しそうに微笑みながら、そう言うと、今度はサラダを頬張っている。

「よく食うな…」

食欲旺盛なオーリーを見て向かい側で静かに食事をしていたジョシュが呆れ顔で呟く。

「何だよ。ジョシュは相変わらず低血圧だなっ」

オーリーは口を動かしながら、そう言ったため口の中から、ペペいっと物を飛ばしている。

「汚いな!物食いながら話すなよっ。あんたは子供かっ」
「何だよ〜。俺は子供じゃないぞ?成人した大人の男だっ!色々な機能を兼ね備えてるんだぞ!」
「…朝からアホ全開発言するなよ…」

突然、後ろで声がしたと思えば、リジーが寝ぼけ眼でキッチンに入ってきた。

「あ、リジー。おはよ」
「おはよ。

リジーは私の頬にチュっとキスをすると、オーリーとは反対側の椅子に座った。

「はぁ〜何だか寝不足だ…。久々の仕事だしだるいよ…」
「大丈夫?夕べ、眠れなかった?」

私が心配そうに聞けば、リジーも笑顔を見せてくれる。

「そんな、たいした事ないからさ?ちょっと考えごとしてたら目が冴えちゃっただけだし」
「そう?」
「うん。それより…の方が重症っぽいよ?二日酔い?」
「うん…。昨日、呑みすぎちゃった…」

私が、そう言って舌をペロっと出せば、ジョシュが苦笑している。

「だろ?俺が、もうやめとけって言ったのに、あんな飲むから…」
「ほんと…素直にやめとけば良かったわ…。今日は食欲出ない…」

そう言って残りの紅茶を飲み干すと、丁度チャイムが鳴った。

「あ…迎えかな…」

私がそう呟いて椅子から立つと、オーリーも一緒に立ち上がった。
そのまま紅茶をグビグビ〜っと飲み干してカップをおくと、「オババじゃないよね?」と訊いてくる。
私はちょっと笑いながら、

「違うわ?きっとスタンリーよ。ほら、この前、迎えに来てくれた人」

と言って玄関ホールへ出る。
それにオーリーがバタバタ走りながらついてきた。

「ああ、彼ね!彼は、なかなか感じが良かったよ、うん」

この前、スタンリーにレゴラスの事を誉められたからか、オーリーは、そんな事を言っている。
私は笑いを堪えつつ、ドアの方を見ると、すでにエマが出てくれていた。
やはりスタンリーで、彼は笑顔で、「おはようございます」と挨拶をしてくる。

「おはよう。あ、ちょっと待ってて、すぐ来るから」

そう声をかけてからキッチンへ戻ると、「じゃ、行って来るね?」と言ってジョシュとリジーの頬にキスをした。

「頑張って」
「あまり無理するなよ?」

リジーとジョシュは、それぞれ私にキスのお返しをしながらギュっと抱きしめてくれる。

「うん。大丈夫よ?あ、リジーは今日から仕事よね?頑張ってね?」
「うん、まあボケた頭で頑張るよ。もランチはちゃんと食べろよ?」
「解かってる。じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
「気をつけてな?」

リジーとジョシュは笑顔で手を振った。私も軽く手を上げると急いで玄関へと戻る。
チラっと二階の方を見たが、レオは、まだ起きてくる様子もない。

(夕べ、疲れてたし今日は昼まで寝るみたいね…)

そのままスタンリーの方に歩いて行くと、彼はオーリーに掴まって話の相手をさせられていた。

「だからな?お前の上司のオババだけには、くれぐれも気を付けろよ?油断すると、あの眼力で睨まれて石ころにされちまうぞ?」
「はあ…石…ですか…」
「そうだ。いるだろう?ギリシャ神話の中に出て来る蛇女ゴーゴン!あれ、ソックリだろ?」

張り切って、そう説明しているオーリーに私は苦笑しながら、「ちょっとオーリー。変なこと吹き込まないで」と言った。

「あ、。だってさぁ。あのオババ、ほんと目つき悪くて怖いからねっ」
「そんな…。いいところもあるのよ?ただ仕事熱心で怖いだけで…」

私が苦笑しながら、そう言えばオーリーは、プルプルと首を振っている。

「いやいや。あの目は心底イジワルな目だよっ。昔はイジメっ子だったに違いない、うんっ」
「もうオーリーったら…。とにかく行って来るね?」

私が苦笑しながらスタンリーと出て行こうとすると腕を引っ張られ、ギュっと抱きしめられた。

「撮影中、嫌な事があれば、すぐ電話するんだよ?」
「…オーリー携帯、持ってないじゃない…」
「!!…ま、まあ、そうなんだけどさ!いつものスタジオで撮影だし!」
「…じゃあ、ジョニーに電話しちゃおうかなぁ…」
「!!ダ、ダメ!ダメ!そんなジョニーに電話なんてしたら襲われるよ?!」(んなバカな)
「…電話で、どうやって襲われるの?」

私はオーリーの言葉に苦笑しながら、体を離すと、

「じゃ…行って来ます」

と言ってオーリーの頬にチュっとキスをした。
途端にニコニコな顔になるオーリーにスタンリーも笑いを堪えてる様子だ。
そこへジョシュとリジーが出てきた。

「おい、オーリー!を引き止めんなよ?」
「何だよ、ジョシュ〜〜!!だって心配だろぉ?」

オーリーが、そう言ってジョシュを見るとジョシュは少し顔を顰めて肘でオーリーをつついている。
オーリーも何だか、あ…って顔をしてるし…何だろう?

「じゃあ、、早く行けよ。遅刻するぞ?」
「うん。あ、ジョシュ、リジー。彼が最近、私の担当になった付き人のスタンリーよ?」

二人にスタンリーを紹介すると、ジョシュとリジーも軽く会釈をした。

「どうも…」
を宜しく」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします」

スタンリーは嬉しそう挨拶をしている。

「じゃ、行って来まーす」

私は皆に手を振って外へと出ると車に乗り込んだ。
皆は玄関口で手を振ってくれている。
スタンリーが運転席へ乗るとエンジンをかけて、私の方を見た。

「じゃ、出すよ?」
「ええ。お願い」

私はそう言ってシートに凭れると、もう一度皆に手を振って、そのまま目を瞑った。
またライアンに言われた事を考えながら、何となく今日、顔を合わせるのが憂鬱だなと思いつつ、スタジオにつくまでの間、今日のシーンの事を考える。

(今日はライアンとキスシーンがあるんだった…どうしよう…ちゃんと演じれるのかな…)

そんな事を考えていると、知らず溜息が出てしまう。
それに気付いたスタンリーが運転しながらバックミラー越しに私をチラっと見た。

「だいぶ疲れてるようだけど…大丈夫?」
「え?あ、大丈夫よ…?ちょっと二日酔いで…」
「二日酔い…?撮影の前の日に二日酔いになるほど飲んじゃダメだろ」
「…ごめんなさい…」

私は怖い顔のスタンリーと目が合って、ちょっと俯いた。

ほんと…テリーに似て怖いんだから…だいたい皆の前では、このスタンリーは愛想もいいけど実は怖かったりする。
年齢が私の一つ上で近いし、何でもポンポン言って来るんだから…
最初、テリーに招介された時はブロンドで少し悪そう…って言うかクールでカッコいいな…と思ったんだけどな。
前にモデルをやってたって言うだけあって身長だってオーリーとかレオくらいあって大きいし…。
まあ、二人より細身でヒョロ〜っとはしてるんだけど。

そんな事を考えていると車はすぐにスタジオについた。
スタンリーが荷物を持って車から降りると、スタスタ歩いて行ってしまう。

「もう〜歩くの速いんだから…。 ちょっと待ってよ…っ。スタンリーっ」
「早くしろよ?ギリギリなんだからな?」

スタンリーは振り向きもせず、そう言って廊下を歩いて行く。
私は何とか彼の速度に合わせて小走りでついて行った。

(もう〜二重人格男めっ)

私は二日酔いのキツイ体にムチ打って必死にスタンリーの後を追った。

「おはよう御座います!」
「おはよう!」

スタンリーはそう言って撮影スタッフに挨拶をして行く。
そして控室の方まで行くと、隣の控室を使っている共演者のアニスが前方から歩いて来た。

「あ、。おはよう!」
「おはよう、アニス」
「オフは休めた?」
「ん〜。結構遊びまわってたかな?」

私がちょっと笑って、そう言うと、「どこか出かけたの?」とアニスが聞いて来た。

「ええ。オーリーの撮影現場まで見学に行ったり…コンサート行ったり?」
「そ、そう。オーリーの撮影現場に…。お兄さん…元気?」
「え?ああ、オーリーは今朝も元気だったわ?」
「そう。良かった」
「え?」
「あ、ううん。何でも。じゃ、今日も頑張りましょ?」
「ええ。じゃ、後で」
「後でね?」

そう言ってお互いに自分の控室に入って行く。
私は控室に入ると、すぐにソファーに座って息をついた。
スタンリーは私の荷物を置くと携帯でテリーに報告を入れている。
一応スタジオに入ったら連絡するように言われているのだ。
テリーは私のマネージャーだが他の新人マネージャーの面倒も見ている。
なので、私が一つの映画にかかりきりになると、こうして他の新人をつけられたりする事があった。

「はい…。はい。ええ、解かりました。じゃ…」

簡単に電話を終えると、スタンリーは、すぐに紅茶を淹れてくれた。

「はい。これ飲んで。朝食、その分じゃ食べられなかったんだろ?」
「ありがとう…。うん、ちょっと…」
「ったく…食べられなくなるまで飲むなんて…」

スタンリーは呆れたように私を見ながら、煙草に火をつけ、向かいのソファーに座りスケジュール帳を開く。

(何よ…私の家族には愛想がいいのに…何で、普段は、こうなんだろ)

私は口を尖らせつつ紅茶を飲んでいると、ふとスタンリーが顔をあげた。

「それ飲んだら、すぐメイクルームな?」
「はいはい…」
「返事は一つでいい」
「……はいっ」

(…偉そうに!)

「…何か文句でも?」
「別に!ただ私の兄達には随分、愛想がいいのに私だけになると、そうやって無愛想になるなーと思ってっ」

嫌味たっぷりに、そう言うと彼はスケジュール帳から顔を上げた。

「何?愛想、よくして欲しいの?」

(また、そんな言い方して…)

「…いいえ!」
「あっそ。ま、俺はハリソンファミリーのファンだけどさ。こうして担当になったんだし、テリーさんからはを甘えさせるなって言われてるんだ」
「ふーん」
「それに…」
「それに?」
「俺が優しくしなくても彼らがベタベタに甘やかしてるみたいだからな?甘ったれた女優にならないようにってテリーさんも言ってたぞ?」
「………っ」

サラリと、そんな事を言われてカチンときた。
確かに…皆には甘やかされてるけど…っ
そんな風に面と向かって言われたのなんて初めてだ。

「私が甘ったれてるって言いたいの?」
「違うの?」
「そ、そりゃ確かに家では、そうかもしれないけどっ!仕事場では、そうじゃないつもりよ?」
「へぇ。じゃあ、二日酔いでも今日の撮影は頑張れるんだな?」
「も、もちろんよ!」
「だったら酒の匂い消しておいた方がいいぞ?今日、ライアンとキスシーンだろ?」

バカにしたように言われて私は、ますます腹がたった。

「解かってるわよ!」
「歯磨きセットは鞄の中。あと嗽薬もね」
「それはそれは、どうも!」

私はカップを置くと鞄の中から歯磨きセットと嗽薬を出して洗面台へと向かった。
スタンリーはクックック…と笑いながら何やらスケジュール帳に書き込んでいる。

(…感じ悪いっ)

私はそう思いながらガシガシと歯を磨いては嗽をした。












ジョシュ




僕はを見送った後にリビングで寝転がって本を読んでいた。
天気がいいので出かけようとも思うのだが、どうもが心配で出かける気にならない。

「はぁ…。あいつ、大丈夫か?」

そう呟いて俺は起き上がると煙草に火をつけた。
そこへ仕事の用意をしたリジーとオーリーが、ギャーギャー言いながらリビングに入ってくる。

「彼はイイ奴だ!うちの家族の大ファンだと言ってたんだぞ?」
「そうかもしれないけどさぁ〜」

リジーは呆れたようにオーリーを見ながら、ソファーに座った。
僕は首を傾げて二人を見た。

「おい…。何の話だ?」
「あージョシュ聞いてくれ!リジーの奴、スタンリーくん(!)の事を何だか侮れないって言うんだ!失礼だろう?」

オーリーがドンっとテーブルを叩いて怒っている。
リジーは軽く溜息をつくと、「僕には、そう見えたんだよ」と肩を竦めた。
僕は煙を吐き出しながら、「何で?」と訊いてみる。

「いや…何でって聞かれると…。ただ…あの愛想のいい顔の裏には…違う顔も持ってそうだな〜ってさ」
「ああ、確かにな?実は結構クールなんじゃないかな」
「あ、ジョシュも、そう思った?」
「ああ。目を見れば何となく」
「そうだろ?」

僕の言葉にリジーも身を乗り出してきた。

「何だよー!二人してスタンリーくんを悪く言うなんて!」
「別に悪く言ってる訳じゃ…。ただ見た感じの印象と普段の彼は違うんじゃないかって言ってるだけだろ?」

僕は苦笑しながら煙草を消した。

「そんな事はないっ。彼はいい人だ。きっと仕事も出来る!」
「はいはい。オーリーは、ほんと単純だな〜?」
「ぬっ。リジー、単純とは何だ、単純とはっ」

オーリーは口を尖らせ、リジーを睨んでいる。

(そのヒゲづらで口を尖らせられてもな…)

僕はそのアンバランスな感じがおかしくて笑いを噛み殺した。
するとリジーが、とんでもなく心配するような事を言い出した。

「でもさ…。僕ら家族のファンだって事は…のファンでもあるんじゃないの?」
「え?あ、ああ…。まあ…そうだろうけどな」
「何だか心配だな…。今じゃ一番に近い存在だし…」

リジーは眉を寄せて、そんな事を呟いている。
だがオーリーはケラケラと笑い出した。

「あ〜それは大丈夫だっ。前に俺がには手を出すなと忠告したら、スタンリーくんは"そんな恐れ多い"と言ってたし」
「そんなの何とでも言えるだろ?」
「ぬっ。信用してないのか?」
「だから侮れないって言ったじゃないか。何、聞いてるのさ、オーリーは!」

僕とリジーに責められ、オーリーは、ますます口を尖らせ、今では頬もフグのように膨らんでいる。(ったく子供か!)

「じゃあ何か?ジョシュとリジーはスタンリーくんが俺の(!)に手を出すって言いたいのか?ん?君たち!」
「おい…。俺の…ってのは聞き捨てならないな…。"俺達"の間違いだろ?」
「ジョシュの言う通り!はオーリーのじゃないよ?」
「まま!そんな細かい事はいいってば!それより心配なのはスタンリーくんじゃなくライアンだろう?君たち、敵を間違えちゃいかんよ」

オーリーは偉そうに、人差し指を立ててチッチッチとやって僕らを見た。

「まあ…なあ…。ライアンも…心配だけど…」

僕がそう言って頭をガシガシかくとリジーが肩をすくめて首を振った。

「僕はライアンとは終ってるっていうか…はもう好きじゃないと思うけど?」
「そ、そうか?」
「ジョシュは、そう思わない?」
「ん〜。こればっかりはなあ…。どうかな…」
「僕としては…あのスタンリーの方がクセモノのような気がするんだ。かっこいいしさ?女の子だってコロリといきそうだろ?」
「My Little Girlは、コロリと行くワケがないだろう?!コロリと行くのはゴキブリだけで充分だ!」

「「うるさいぞ、オーリー!!」」

「むっ!」

僕とリジーに怒鳴られ、オーリーは更に頬がプ〜っと脹れていく。(これ以上脹らませたら破裂しそうだ…)

「いいよ!二人して!俺はアニスに電話して、また報告してもらうからさ!」

オーリーは、そう叫ぶと電話の方にズンズン歩いて行った。
そこにドアが開いてレオが眠そうな顔で入ってくる。

「レオ、起きたの」
「ああ、何だかまだ眠いけどさ…」
「今日はオフ?」
「まあね。明日、また早朝ロケなんだけど…」

レオは、そう言って欠伸をするとソファーに腰をかけた。
僕は苦笑しながらキッチンに行って、エマにレオの紅茶を淹れて貰うとリビングに戻った。

「ほら。紅茶」
「サンキュ〜。あ、はもう出かけたの?」
「ああ。さっきね」
「そっか。あ、大丈夫そうだった?夕べ、かなり酔ってただろう?」
「二日酔いみたいだったよ?」

レオの問いにリジーが笑いながら答えた。

「そうだろうな…。大丈夫かな…」

レオが、そう呟いた時、突然オーリーの雄たけびが聞こえてきて皆でビクっとした。

「えぇえぇ〜〜〜〜っっ!!So what?!もう一回言ってくれる?!」

一斉にオーリーの方を見ると、オーリーは受話器を持ってアタフタとしている。

「OH!NO〜〜〜〜!!そ、そりゃ本当?!OH!MY!GOD!!」

オーリーは相変わらずのオーバーリアクションで膝をつくとマラドーナのように天を仰いでいる。

「オーリーの奴、どうしたんだ?何かのシーンの練習か?」

レオが呆れたように呟き、僕の方を見た。
僕も苦笑して肩を竦めると、「さあ?アニスに電話してるのは間違いないけど…」というとレオの顔が驚きの表情に変わった。

「え?って事は…に何かあったって事か?オーリーが、あんな嘆いてるんだから…」
「あ…っそうか」
「ヤバイ…」

3人で顔を見合わせると、ちょうどオーリーがグッタリとして戻って来た。
手には、まだコードレスフォンを握っている。

「お、おい…オーリィ…。どうした?に何か…」

レオが、そう言いかけた時、オーリーが突然、レオにガバっと抱きついた。

「うわぁーーん!!レオ〜〜〜!!」
「うげっ。な、何だよ!離せよ!」
があ〜〜〜っっ」
が…な、何だ?何があった?!」

僕も身を乗り出して、オーリーを問い詰める。
するとオーリーは泣きそうな顔で僕を見て、

「今日…今日…が…ライアンと…あの憎きライアンと…キ…キスシーンあるって…っ!!」

「「「え…っ!!!」」」

オーリーの言葉に、僕ら3人は顔を見合わせた。

「あぁあ!My Little Girl!あんな男にあのチェリーのような唇を奪われるのかい?そんなの俺には絶えられないぃぃ!拷問だっ!!」

オーリーは本当に大げさに膝を突いて天を仰いでいる。
僕はちょっと息をつくと煙草に火をつけた。

「うるさいぞ?オーリィ…。仕方ないだろ?は女優なんだ。キスシーンくらいあるさ」
「まあ…なあ…。前にもあったしさ」

僕が冷静になろうと、言った事にリジーも小さく頷いた。
レオは少し顔を顰めつつも、「そうだな…」と呟く。
するとオーリーが怖い顔でキっと僕らを睨みつけた。

「何だい!何だい!皆して!!可愛いが他の男とキスするってのに、何で、そんな冷静なんだ!」
「…何で、あんたは毎回、そんな大騒ぎするんだ…?」

僕は耳を塞ぎつつ、溜息をついた。

そう、オーリーは前にもにキスシーンがあった時、こんな風に大騒ぎをしたんだ。
キスシーンの撮りの前日、に頼むからキスシーンはしないでと哀願していたっけ。
が、「そんなことできるわけないでしょ?」と言えば、アホなオーリーは、とんでもない事を言い出した。

「じゃあ、他の男に奪われる前に俺が…!」

にキスをしようとした(!)(ほんと死んでくれっ)

まあ、は冷静でホクホクしながら唇を突き出してきたオーリーに近くにあったミニーマウスのヌイグルミをくっつけて難を逃れたんだけど。
そう言えば、あの時のオーリー、ミニーとキスしちゃったあぁぁ…っと嘆いていたな…。
ほんと我が兄ながらアホだな、全く…。情けない。あ〜あ…今もさめざめと泣いてるし…
暫くうるさそうだ。そりゃ僕だって内心、穏やかじゃないけど…こんな仕事をしてれば、キスシーンくらいあるし仕方がない。
ま、相手がライアンってのが心配なんだけど…

「おい、オーリー!そろそろ行かないと遅刻するぞ?ジョニーに怒られるんじゃないのか?」

レオが呆れたように、そう言えばオーリーもガバっと顔を上げた。

「ごんな気持ちで演技なんて出来ないよ…っ!グス…」

(鼻水まで垂れる勢いで泣くなよ、ほんと…)(!)

僕はオーリーの顔を見ながら本気で溜息をついた…。










オーランド





「…グス…。くそぅ…鼻水が止まらない…」

僕はスタジオの駐車場に車を止めてから思いきり、ズビーっと鼻を噛んだ。

「はあ…今日の撮影、気が重いな…」

そう呟き車を降りてスタジオに向かって歩いて行く。
数人のスタッフと擦れ違うが僕の顔を見て皆、ギョっとした顔だ。

何だよ…。だいたいレオもジョシュもリジーも皆、冷たすぎるよ!
が他の男とキスシーン…しかも、あのライアンと…!これが泣かずにして何とする!!
それがキッカケで、またの気持ちが燃え上がってしまったら…ど、どうしよう…っっっ!

僕が一人青くなっていると後ろから頭をこづかれた。

「なぁーに暗い顔してんだ?」
「あ、ジョニー!」

振り向けばジョニーがニヤニヤしながら立っている。

「ん…?お前…その鼻どうした?真っ赤だぞ?しかも何気に鼻水で光ってるし…」
「…聞かないでくれ…」

僕はそう呟くと、ズビビーっと鼻を啜りながら、トボトボと控室の方まで歩いて行く。
そんな僕を見てジョニーは呆気に取られつつも後を追いかけてきた。

「お、おい。オーランド!どうしたんだ?また妹に怒られたのか?」
「む…またとは何だよ。またとは!」

僕は不貞腐れて控室のドアをバーンと開け放ち、ソファーにボスンと座り、クッションを抱えた。
ジョニーは苦笑しながら僕の隣に座り、肩に腕を回してくる。

「だって、お前が、そんなヘコんでるのは大抵、妹さんがらみだろう?」
「そんなこと…!!…あるけどさ…(!)」
「ほうら、みろ!で?どうしたんだ?妹の風呂を覗いて殴られたのか?」
「バ!バカなこと言うなよ!そんなジョニーみたいな事しないねっ!!」
「ム…。お前、ほんと失礼な男だな…」
「それが俺のいいとこさ!」(?)

僕は胸を張って、ジョニーを見れば、彼も呆れたように笑っている。

「自分で自分を誉めるなよ…。しかも変なことで…。で?何があったんだ?」

ジョニーは僕の肩をポンポンと叩くと、ニッコリ微笑んだ。
僕は軽く息をつくと、の身に今日何があるのかを話そうと口を開いた。

「…今日、の…キスシーンがあるんだ…
「ん?!何だって?よく聞こえないぞ?!」

ジョニーは、ぐぐぃっと僕の顔に自分の顔を近づけてくる。
おかげでジョニーが被っているハットの鍔がガスガスと僕の額に当たるんだ。

「ぃ、ぃたいよ、ジョニー!そのハット脱いでくれる?俺の額を攻撃して来るんだよっ」
「何だとぉ?これは俺のポリシーだ」
「あっそ…。じゃ、もっと離れてよ…」
「はいはい、で…?何だって?もっと大きな声で話せ。普段は余計なほどに声が大きいクセに!」
「わ、解かったよ…。だからさ…。今日、が…キ…キ…」
「キ…?何だ?」
「だからキ…キス…キススィーンが…っ」

僕は自分の口から言うのが本当に苦しかったからか、つい噛んでしまった。

「はあ?キスシーン?!」
「うわあっ。言わないでくれ!」

僕は両耳をバっと塞いで叫んだ。

「言わないでくれって…今、お前が自分で、そう言ったんだろう?」
「不本意だ!」
「何だ、そりゃ?で?ちゃんが今日、キスシーンを撮るんだな?」
「う…うん…」
「ほぉ〜で、その羨ましいACTORは誰なんだ?今度、会ったらイジメてやろう(!)」

ジョニーの、その一言に僕の瞳はキラリーンと光った。

「ほんと?!」
「うぁ、な、何だよ…。ビックリするなぁ…。顔近づけるな…」
「ねっ、ほんと?!」
「え?何が」
「だからイジメてやるって」
「ん?ああ、そのキスシーンの相手な?当たり前だ。本当なら俺がだな…彼女と熱いキッスシーンを撮りた――」
「ダメに決まってるだろ!!」

僕はジョニーが言い終わらないうちに言葉を遮ると、ジョニーが子供のように口を尖らせた。

「何だ、ケチ…」
「ケチじゃない!!それより今度ライアンに会ったら、ガッツンとイジメてよ?!いつもみたいに偉そうに先輩風吹かしてよね!(!)」

僕がジョニーの腕を掴んで、そう言った途端、ゴチンっとゲンコツを頂戴した。

「ぃってぇ…っ」
「お前は本当に心底、失礼な男だな!俺がいつ先輩風を吹かしたんだっ!」
「いつも俺のことイジメてるだろ?!羽交い絞めにして頭の旋毛をグーでグリグリしたり、俺がちょっとしたイタズラしただけで、今みたいに、すぐ殴るし!!」

僕がそう言って怒ると、ジョニーは目をカーっと見開いて凄い剣幕で怒鳴りだした。

「アホか!何がちょっとしたイタズラだ!人のケツに浣腸かまして"おっはよぉう”って言ったり、ゲームするとか言って俺の煙草を全部短く切ってしまったり、
俺の衣装着て"キャプテンジャックオーリー、ここにケンザーン!"と叫んで剣振り回したあげく股間を破くし、そんなものは"ちょっとしたイラズラ"で済む訳ないだろうが!」

ハァハァと息を切らして、そう叫ぶジョニーは、ほんとに怖くて僕は逃げようかと、ちょっぴり腰を浮かした。

「と、とにかく!お前のイタズラは、もういい。お前は何もするな。解かったな?」
「はい…」

そこは僕も素直に謝っておいた。

(たく!何でライアンをイジメてもらう話から、僕が説教されてるんだ?!これも全てライアンのせいだ!)(違う)

僕はシュンとしたフリ(!)をしながらジョニーを見ると、ジョニーは煙草を取り出し口に咥えた。
それを見て僕は、

「あ、新しいゲーム、覚えたんだよ。ちょっと煙草貸し…。ご、ごめんなさい…」

僕はジョニーの血走った目に睨まれて出した手を引っ込めた。

はぁ〜怖かった!まるでオークのドンみたいな顔だったよ…(!)
思わず弓背負ってたら撃つとこだった…ま、これも条件反射って奴かな?
はぁ〜それにしても…は大丈夫だろうか…アニスから何も連絡ないけど…う〜心配だぁ〜〜〜

僕はジョニーに怯えながら、愛しい妹の事が心配で心配で、この日のランチは二人前しか食べられなかった。

(こんなんじゃ僕、痩せちゃうよ…)

そんな事を思いつつ、夕飯は普段通り、3人前食べようと心に誓った。












イライジャ




「はぁ〜」

僕は溜息をつきつつ、煙草に火をつけた。
さっきまで次の映画の共演者と顔合わせとやらで何だか疲れてしまった。

まだロード〜のイメージから抜け出せてないんだな…まあ、あれは本当に今までで初めて長い長いロケだったし…
共演者とも今ではすっかり家族のように仲がいいしな。
ヴィゴもドムも時々遊びに来るし、(目当てはだけど)リヴとも電話で話す。
ただビリーがロケに出てしまって行方知れずだ。久し振りに会いたいなぁ…

そんな事を思いつつ、高層ビルの窓から外を眺めた。
外はカリフォルニアらしい青空が広がっている。

今頃…オーリーやもスタジオの中にこもって撮影してるんだろうな。
こんな天気いいのに、もったいない。ほんと俳優って不健康だ。

それより…は大丈夫だろうか。
具合もそうだけど、そんな中でライアンとのキスシーン。
最悪だろうなぁ…
まだと、その話は出来てないけど…そろそろ、ちゃんと話してみたい。
にしたら知られたくない事なのかもしれないけど…もう皆、知ってしまってるし。
あんな男にを取られるよりはマシだ。
本人と話したほうが、もしヨリを戻そうなんて考えてたとしても止められるからな…

そんな事を思いながら煙草を消して椅子から立ち上がった。

「さて、と…。次は雑誌の取材だったっけ…」

僕は事務所の廊下を歩きながら、応接室の方に向かった。
すると前から、さっき顔合わせで会った女優が歩いて来る。

「あら、イライジャ」
「どうも。今から帰るんですか?」
「ええ。この後、前の映画のプレミアなの」
「そうですか。あの映画、僕も今度観に行きますよ。妹が見たがってて…」
「まあ、そうなの?嬉しいわ?妹さんっていうと…末っ子のちゃんね?」

その女優、ジュリーが嬉しそうに微笑んだ。
彼女は、美人で頭がいいという印象だったが会ってみて、その上気さくだという事も解かった。

ちゃん、可愛らしいわよね?お兄さんとしては心配でしょう?」
「まあ…そうですね?うちの家族は皆、心配性ですし…」
「そうなの。前に、お父様とも一緒にお仕事をした事があるのよ?」
「え?父と?あ…そう言えば…」

僕は何となく思い出して、映画の中の彼女を思い浮かべた。

「思い出してくれた?」
「はあ…。すみません。僕、父の映画、全部観てるんですけど…」

僕は苦笑しながら頭をかいた。
だがジュリーは怒るでもなく、むしろ楽しげにクスクスと笑っている。

「お父様は…元気?」
「はい。って言っても最近、帰って来ないので解かりませんけど…多分元気だと思いますよ?」
「まあ、そうなの?お忙しいのね」
「そう…ですね」

僕はそう言いながら心の中で苦笑した。
忙しい…どっちが?と聞きたくなるが、まあ、父さんの事だ。
仕事より、恋人と一緒にいたいから帰って来ないということは解かっている。

「じゃ、僕はこれで…」
「ええ、ハリソン…お父様に宜しくね?」
「はい。伝えます」

僕は笑顔で、そう頷いて歩き出す。

「はぁ…。ったく。父さん、彼女にまで手を出してたのか…」

そんな事を呟きつつ、当時の事を思い出す。

そうだ…。父さんは確かにジュリーと、あるサスペンス系の映画で共演していた。
と言っても彼女は父さんの相手役ではなく、脇役として出ていたハズだ。
だから、すぐには思い出せなかった。
でも…あの様子だと、絶対に父さんと関係があったんだ。
ま、どこまでの関係かは解からないが…少なくともジュリーは父さんに気がある様子だった。

「父さんも結構モテるんだなぁ…大人の魅力ってやつかな…の前じゃ鼻の下が3センチは伸びてる、ただのオヤジなんだけど…(!)」

そんな事を呟きつつ、僕は雑誌のインタビューのため、急いで応接室へと走って行った。
















私がスタジオで自分だけのリハを終えてセットの隅まで戻ると、そこにはライアンが笑顔で立っていた。

「やあ」
「おはよう」

私は何となく顔を見れなくて視線を伏せながら挨拶すると、用意してある椅子に座った。

やり直そうと言われてから、色々な事が頭の中を駆け巡って、未だ答えは出ない。
このまま流されちゃいけないって解かってるのに…

私が俯いて座っていると、目の前に急にコーラの瓶を出されて顔を上げた。

「お疲れ。喉乾いたろ?」

そこにはスタンリーが立っていた。

「あ、ありがとう…」

丁度、何か冷たいものが飲みたいと思っていたので私は笑顔でコーラを受け取った。
リハだろうと台詞を言えば、喉が渇く。
それは普段のテンションじゃ言えない台詞だし、やっぱり、どこかで緊張もしているからだと思う。

コーラを飲んで少しだけ喉が潤ったところで今度は本番だ。
スタッフが私の事を呼んでいる。

「じゃさん、スタンバイお願いします!」
「はい!」

私は返事をして椅子から立ち上がると、持っていたコーラの瓶をスタンリーが、サっと持ってくれる。

「ありがと」
「頑張って」
「うん」

私が頷くとスタンリーの隣で立っていたライアンも、「頑張って一発OKもらえよ?」と言った。
私はちょっと笑うと、セットの中に戻って行く。

はあ…出来れば一発OKにしたいけど…これが終れば次はライアンとのキスシーンだ。
まずリハから初めて、本番まで何回キスする事になるんだろう…
それを考えると胸がキューっと痛むのを感じた。








「はい!OK!」

監督の声が聞こえて私は軽く息をついた。
一人のシーンは一発OKとは行かなかったものの、3度ほどで出来た。
そのままセットから移動して、さっきの場所まで戻ると、スタンリーが、「次のシーンまで30分、時間があるから休んで」と言ってくる。

「解かった…。じゃあ、ここの前の公園、散歩してくるかなぁ。ちょっと外の空気を吸いたいの」
「そう。解かった。あまり遠くへ行かないで。あと携帯持って行ってくれる?」
「解かったわ。じゃ…」

私は、そう言うとスタンリーに預けておいた携帯を受け取り、スタジオから出た。
さっきまでいたライアンは何やら監督と話し込んでいる。
私は顔を合わせないように、スタジオの外へと出て交差点を渡ると目の前の公園に歩いて行った。

「はぁ〜気持ちいい…」

青空を見上げて私は腕を伸ばした。ゆっくり歩きながら公園の中で、思い思いに過ごす人達を眺める。
一応、帽子とサングラスをつけて顔を隠しながら私はボーっと歩いていた。すると、ふいに肩を叩かれ、驚いて振り向いた。

「レ…レオ?!」
「よっ」

そこにはレオがニコニコしながら立っていて私は驚いた。

「な、な、何して…」
「ん?ああ、散歩だよ?こんなに天気がいいからさ?」

レオは空を指差して、そう言うと私の肩を抱いてベンチへ座った。

「も、もう…驚いた!レオ、今日はオフ…?」
「ああ。昨日、散々、時間かけて撮ったからな?」
「だ、だからって急に来るんだから…」

私は、まだ驚いてドキドキしている胸を抑えつつ、苦笑した。
レオはちょっと笑うと私の頬にチュっとキスをして、「驚かそうと思ったんだよ?」なんて言っている。

「で、でも…私が外に出てこなかったら…どうしてたの…?」
「別に普通に中へ入ってたよ?ここのスタジオは何度も使った事あるし、知ってる人が多いからね?」
「そ、そう…」

私は、そうなればレオとライアンが顔を合わすことになると思ってヒヤリとした。
そんな私の気持ちは知らず、レオは楽しげに、

「でもさ、ここの前についたらが出てきたから驚いて後をつけたんだ」

と言って微笑んだ。

「今、ちょっと時間が空いて…。外の空気が吸いたくなったの」
「そっか。いい天気だもんなぁ…」

レオはそう言って腕を伸ばすと、私の肩にコツンと頭を乗せ、寄りかかってきた。
太陽に光りでレオの奇麗なブロンドの髪がキラキラしてて、とても奇麗だ。

「レオ…こんなとこで堂々と寝てたら…見付かるよ?」
「ん〜別にいいよ。悪いことしてるわけじゃないしさ」
「そうだけど…」

私は苦笑しながらもレオの頭にキスをして後ろに凭れかかった。
目の前を子供たちがキャっキャと騒ぎながら走って行く。
凄くノンビリした時間だ。

「風が気持ちいいなぁ…。ほんと寝ちゃいそうだ…」

レオは目を瞑って呟いた。
そよそよと気持ちのいい風が吹いてきてレオと私の髪を攫って行く。

「ねえ、レオ…」
「…ん?」
「どうしたの…?急に来るなんて…。今までしたことなかったじゃない…」

私は何となく気になって聞いてみた。だがレオは黙ったまま。

「…レオ?」

私がもう一度声をかけると、レオは私の肩から、ゆっくりと頭を上げて私の顔を覗き込んだ。

「…別に。の顔が見たくなっただけだよ?」
「…そ、それだけ?」
「それ以外に理由なんてないだろ?」

レオは、そう言ってニッコリ微笑むと私の頬にキスをしてくれる。
私も何となく微笑んで、レオの額にチュっとキスをする。

(そうよね…レオがキスシーンのこと知ってるわけもないし…ライアンの事だって知らないんだから心配で来たはずないか…)

「ねぇ、
「え?」
「フラッペ食べない?」
「フラッペ?」
「うん。あそこで売ってるんだ」
「あ…」

レオの指差す方向を見ると、そこには可愛いピンクのワゴンが止まっていてフラッペやアイスクリームを売っているのが見える。

、フラッペ好きだったろ?」
「うん。食べたい」
「じゃあ、買ってくるよ。はヨーグルト味でいい?」
「うん。レオと一緒」
「そうだったな。じゃ、ちょっと待ってて」

レオはそう言うとワゴンの方に歩いて行った。

懐かしい。よく皆で公園とかに遊びに来た頃、ああしてフラッペを買って食べたんだった。
私とレオは、いつもヨーグルト味で、オーリーがソーダ味。リジーがコーラでジョシュはストロベリーって決まってたっけ。
最近では、こんな風に公園にくる事もなくなってしまった。
そんな事を考えていると、レオがフラッペを買って戻って来た。

「はい。
「わあ、ありがとう。懐かしい〜」
「ほんとだな?子供の頃は、よくこうして食べたのに」

レオは笑いながら長いスプーンでフラッペを食べた。

「うわ、冷たい…」
「でも、この味!変わってないね?」
「ああ。ほんとだな?体に悪そうな味」

レオは、そう言って笑っている。
私も何だか子供の頃に戻った気分で一気にフラッペを食べて行くと頭がキーンとしてきた。

「このキーンって感じまで懐かしいわ?」
「うん。よく父さんに、ゆっくり食べろって言われたよな。そう言えば父さんって必ずアイスクリームの方ばかり食べてたっけ…」
「そうそう!それでフラッペ食べ終ったオーリーに、いつも、ちょっと、ちょうだいって言われて半分は食べられて怒ってたわ?大人気ないよね?」

私が思い出してクスクス笑うと、レオも噴出した。

「そうだった!あの頃からオーリーの奴、食いしん坊だったんだよな?で、夜は決まって、"お腹がゴロゴロするよ〜"って泣くんだよ」
「アハハ!そうだった!それで、またお父さんに、"冷たい物ばかり食うからだ"って怒られて…」
「…あんま今と変わらないオーリーも凄いな…」

レオは呆れたように呟いて私は笑ってしまった。
そこに不意に電話の着信音が鳴り響いた。

「あ…私だ…。撮影かな…」

そう呟いて携帯を見ると、案の定スタンリーからの電話だった。

「Hello?うん…。あ、解かった。今戻るね?」

やはり、もうすぐでリハが始まるから戻ってきてとの電話だった。

「レオ、私、行かなくちゃ…」
「ああ。俺は…もう少し、ここにいる。家に帰っても退屈だしさ」
「デートじゃないの?せっかくのオフなのに」

私が笑いながら、そう言うとレオも肩を竦めた。

「こんな天気のいい日はと一緒にいたいよ」
「またまた!シスコンって言われるよ?じゃあ、ジョシュと出かければいいのに」
「ああ、ジョシュは何だか一人で出かけたよ。暫くオフだし旅行に行こうかなって言ってからパンフレットでも貰いに行ったのかもな」
「そっかあ。いいなぁ…」
「そんな事より…早く戻った方がいいんじゃないか?」
「あ、いけない!そうだった!じゃ、レオ、行ってくるね?」
「ああ。頑張って」

レオはそう言って私を優しく抱き寄せると額と頬に軽くキスをしてくれた。

「ありがとう…。NG出さないように気をつけるわ?」
「ああ、そうしろ」
「じゃ…フラッペご馳走様っ」
「ああ」

私は軽くレオの頬にキスをするとスタジオの方に歩いて行った。











レオナルド





俺はを見送った後に、もう一度ベンチへ座って息を吐き出した。

つい来てしまったけど…怪しまれなかっただろうか。
キスシーンの事を聞いて心配になり、自然にここへ来てしまった。
本当はスタジオに行って撮影を見てもいいんだろうけど…
ライアンの顔を見たら、何を言ってしまうか解からないと思った。

は…少し元気はなかったけど、前よりは大丈夫そうで安心した。
もしかしたら…の心に、もうライアンはいないのかもしれないな…それなら、それで安心だ。
いくら何でもライアンとの交際は認めたくない。例え奥さんと別れたとしても…
一度、を裏切った男に、もう一度大切な妹をやるわけにはいかない。って…他の男でも同じか…

なんて考えて苦笑した。

何だかんだと言ったって、に恋人が出来れば俺達兄弟は皆が反対するだろうし、心配だってするだろう。
結局は誰でも同じって事か…?

そんな事を考えつつ、俺はベンチから立ち上がりフラッペの容器をダストボックスに放り込んだ。

の顔を見れたせいか、さっきよりも少し心が軽くなった気がする。
そこへ携帯の音が鳴り響き、俺は顔を顰めた。

(誰だろう…)

そう思ってディスプレイを確認すると、前に一度付き合った女優からだった。

彼女からの電話は無視出来ない。俺は仕方なく通話ボタンを押した。

「Hello…?」
『Hi!久し振り。元気?』
「ああ。まあ」
『何よ、気のない返事ね?』
「そう?そんな事ないよ」

するどいな…と思いつつ、なるべく明るく答えた。

『ねえ、今夜、空いてる?』
「え?今夜…?」
『ええ。私、夜はまるまる時間とれたのよ。だから食事でも、どうかしら?』

俺はそう言われて凄く憂鬱な気分に逆戻りした。

どうしよう…出来れば家での帰りを待っていたい。

「今日は…ちょっと無理なんだ」

何とか、そう言うと明らかに彼女の声が不機嫌になる。

『えぇ?どうして?撮影?』

そう聞かれて迷った。

そうだ…と言ってしまえば上手く言い逃れられるが…でも万が一、調べられて今日はオフだとバレると厄介だな…

俺は素早く、そこまで考えて返事をした。

「いや…撮影はないんだけどさ…。ちょっと用事で先約があるんだ」
『先約?誰?また、どこかのモデル?それとも同業者?』
「ん〜まあ、いいだろ?そんなとこだよ」

俺は何で、そこまで聞かれなくちゃならないんだと思いつつ、ぶっきらぼうに答えた。
すると彼女が大きな溜息をつくのが聞こえる。

『そう。私より、そっちを選ぶのね?』
「…そういうわけじゃないけど…。約束を破るのは趣味じゃないんだ」
『解かったわ?じゃあ、また今度。絶対よ?』
「…ああ」

そこで唐突に電話が切れて俺は思いきり、その場にしゃがみ込み溜息をついた。

「あ〜っ。面倒くさっ」

ったく…。一度、寝たからって、こんな風に詮索してくる女は最悪だ…
いや…彼女は、もっと大人だと思っていた。
あんなにモテるんだし、俺との事も一度きりの遊びだと…
なのに、こうも何度も連絡されちゃ、たまったもんじゃない。

はっきり言って俺は彼女と付き合う気なんて、これっぽっちもないんだからさ。

「あ〜あ〜。いっそのこと、オーリーでも押し付けようかな…(!)」

俺は、そんなアホな事を呟き、自分の車の方へと戻って行った。















ゆっくりとライアンが唇を離して、私の瞳を見つめる。

「好きだよ…」

甘い声で囁き、もう一度優しく唇を塞がれ、私も彼の背中に手をまわし、ギュっと抱きついた。
そこでライアンは啄ばむように何度も離しては触れるキスをくり返し…

「はい、カーーーット!!OK!!」

監督の声が響いて私はパっとライアンから離れた。
頬が熱くて手で押えると、ライアンも照れくさそうにしながらセットから出て行く。
私も、その後から続き、監督の方まで行くとモニターを見て今のシーンを確認した。

「よし!これで行こう!このシーンは終わりだ。お疲れさんっ」

監督に、そう言われて私はホっと息を吐き出した。

そんなにNGを出す事もなく、リハ一回、本番二回ほどでOKが出た。
演技とは言え、これ以上、何度もキスをするのは、私にとっても限界だ。

ちっとも…変わってないから…ライアンの唇の感触も、キスの仕方も…
あれは演技ではなく、普段のライアンのキスのようで私は胸が痛くなった。

「お疲れ様です…」

私は監督とスタッフに声をかけると、控室に戻るのに歩き出した。
今日の撮りは今ので全て終了だ。

「はぁ…疲れた…」

ゆっくりと廊下を歩きながら、つい、そんな言葉が洩れる。
その時、後ろから声をかけられた。

…っ。待って」
「ライアン…?」

後ろから追いかけてきたのはライアンだった。

「そんな避けるようにして帰るなよ…」

ライアンが私の前まで歩いてくると悲しげに微笑んだ。

「そんな…避けてなんか…」
「い〜や。撮影以外は俺のこと、見ようとしてなかったろ?」
「………」

ドキっとした。
確かに…ライアンの事を見れなかったから…

「やりづらかった…?」
「え?」
「今日の…キスシーン」
「あ…そ、そりゃ…少しは…。でも…仕事だから…」
「…でも俺は演技じゃなく…本当ににキスしてるつもりでしたよ?」
「…………っっ」

ライアンの言葉に私は驚いて顔を上げた。
するとライアンはニッコリ微笑んで、

「この前の事も…本気だからさ…。ちゃんと考えておいて欲しい」
「ライアン…」
「じゃ、お疲れ。また明日な?明日はロケだし遅れんなよ?」

ライアンは、そう言って手をあげると戻って行った。

「はぁ…」

ちょっと息を吐いて私は控室へ戻ろうと角を曲って驚き足を止めた。

「…スタンリー」
「お疲れ様」
「う、うん…。どうしたの…?」
「今、戻って来ないから呼びに行こうと思ってた」
「そ、そう。ちょっと…立ち話してたから…」

私はそう言って控室に入っていった。
スタンリーも私の後ろからついてきて、「そうみたいだね」と、ぶっきらぼうに答える。

(まさか…会話を聞かれたのかな…)

私は、そのままヘアメイクも落とさないで衣装だけ着替えてしまった。
そしてフィッティングルームを出ると、「もう準備できた?帰れる?」とスタンリーが訊いてくる。

「うん。大丈夫よ?」

私は何とか笑顔を見せると、スタンリーはサッサと控室を出て行ってしまった。

「はぁ…危ない…」

何だか気まずいながらも何も言ってこない彼に少しホっとして、私は駐車場に向かった。
今朝と同じように車の後部座席に乗り込み、シートに埋もれて目を瞑ると、さすがに緊張していたからか頭の奥が朦朧としてくる。
エンジンのかける音をかすかに聞きながら、私は、気付けばウトウトとしていた。






「…い。おいっ。ついたよ?」
「…んぅ?」

体を揺さぶられて私は目を擦りながら、顔を上げた。
すると目の前には呆れた顔のスタンリーが見える。

「あれ…?」
「家についたよ?」
「あ…ありがとう…」

私は何とか体を起こすと、スタンリーが腕を引っ張って下ろしてくれた。

「ごめんね…。ありがとう…」
「別にいいよ。忘れ物は?」
「ん。ない」
「そう。じゃ、お疲れ様」
「お疲れ様…」

私は玄関前で下ろされたので、ふらふらと玄関の方に歩いて行った。
すると急に肩をぐいっと抱かれ驚いて顔をあげる。

「ったく…。危ないぞ?」
「あ…だ、大丈夫よ…?」

見ればスタンリーが私の肩を抱いて体を支えるように玄関まで歩いてくれている。

「大丈夫なもんか。ふらふらしてるぞ?」
「ちょっと…疲れちゃって…」

私は何とか笑顔を見せながら、そう答えると、スタンリーは玄関前で立ち止まり、私の顔を見つめた。

「な、何…?」
…。ライアンに…近づくな」
「え…?」

スタンリーに、そんな事を言われて私は驚いた。

「な、何言って…」
「彼と訳ありなんだろ?見てれば解かる」
「そ、そんなんじゃ…」
「いいから。ライアンには奥さんがいるだろ?そんな男と親密になってどうするんだよ?」
「し、親密になんてなってないわっ」

私はムっとしてスタンリーから離れようともがいた。
だがスタンリーは私の腕を強く掴んでいて離してくれない。

「危ないって!転ぶぞ?」
「こ、転ばないわよ…っ。何なの?離してよっ」
「ったく…。これだから、お嬢様は…」
「な…何よ、それっ」
「皆がチヤホヤしてくれるからって甘えるな。ライアンとの事だってハッキリ断れるはずだ。もし何かあれば共演者に迷惑かける事になるんだぞ?仕事場で、ゴチャゴチャもめるなよ?」

スタンリーは、それだけ言うとチャイムを鳴らした。
私は頭にきすぎて唖然としたまま彼を見上げる。
そこにドアが開き、レオが顔を出した。

、お帰り!」
「あ…レオ…」
「どうした?疲れたの?」
「う、ううん…平気…」

私は怒った顔を見せまいと何とか笑顔を作った。
だが、その怒らせた張本人は、ツラっとした顔で、「じゃあ、俺はこれで。お休みなさい」とレオに挨拶している。

「ああ、お疲れさま」

レオが、そう言うとスタンリーは軽く頭を下げて最後に私の顔をチラっと見ると、

「明日…昼からロケだから朝の10時には迎えに来るから」

とだけ言って車に乗り込んでしまった。
私は返事もせず、小さく頷くとレオにしがみつく。

…?どうした?」
「…何でもない…」

私はふと顔をあげると走り去って行く車を睨みながら小さく舌を出した。

(何よ、何よ!一つしか違わないのに偉そうに!私だって色々と考えてるんだから!甘えてなんていないわよっ)

心の中で怒りながら、それでもライアンへの返事が、すでに出ていることに気付いた。

"ライアンの事だってハッキリ断れるはずだ"

スタンリーに、そう言われて私も、そう思っていたのだという事に…

(何よ、あいつ…。私の心の中が読めるわけ?ほんとムカつく!)

私はカッカカッカしながら家の中に入り、シャワーに入ってスッキリしようと二階へと上がって行く。

私は、あまりに腹を立てていたからか、この時、レオが心配そうな顔で私を見ていたことなど全く気付かなかった。









ちょいと久々の更新?
相変わらずの兄貴ズですね(苦笑)
今回は付き人くんが急接〜近。