悩み多き年頃A








ハリソン




「はぁ…」

私は思い切り溜息をついて我が家を見上げた。

何だか久し振りだな…帰って来るのも。ここのとこ、ずっとホテル暮らしをしていたからな。
皆は元気にしているのだろうか。

私は、そんな事を考えながら重い足取りで玄関の前に立った。

今夜は…オーランドなんていないだろうな…?いや…まだ夕方だし…帰っていないか。
こんな傷心の時に、あいつの能天気な顔は見たくない…(!)

「…よし…っ入るか…」

私は、ジャケットをピシっと直すとドアを開けて中へと入った。

「ただい…」
「あ、父さん?!お帰りっ!」
「………………ォっっっ?!」
「すっごい久し振りだねえーーっ」
「オ…オ…オーランド…っ。な、何だ、その格好はっ!」

いないと思っていた我が家でも一番、害虫(!)に近いオーランドが可愛いエプロンをつけて駆け寄ってくる。

「あ、これ?のだよ?可愛いだろ?ま、プレゼントしたのはレオだけどね?」
「そ、そ、そん…そんなのは解かってる!わ、私はそれを…な、何でお前がつけてると聞いてるんだ…っっ」

私は軽い眩暈を起こしつつも、何とか、そう怒鳴った。

「むぅ。何だよ、父さん。帰った早々そんな目くじら立てちゃってさぁ。今、が、エマとお酒のつまみ作ってくれてるから、それのお手伝いしてるんだよ」
「は…はぁ?な、何だ、もいるのか?」
「うん!今日は皆、仕事が早く終ったし家に揃ったから、じゃあ、飲もう〜ってなってさ?ゲストも増えちゃったしは大忙しなんだ。だから俺が…」
「ああ、ちょっと待て!」
「………?」
「…今…ゲストって言ったか…?」

私は眉間を寄せてオーランドの目を見つめた。
するとオーランドはアッサリと、「うん。言った」と首を縦に振る。

「そ、そ…それは、だ…」
「おい、オーリー、マイハニーが呼んで…。あ、お父様!!!お帰りなさい!」
「………………ド…っっっっ?!」

私はリビングから顔を覗かせた小僧の顔を見て本気で眩暈を起こしよろめいた(!)

「な、な…なん…」
「おい、ドム!今、のこと、マイハニーって言っただろ!お前のじゃないって何度言えば解かるんだよっ!」
「ぬっ!いいだろ?近い将来、そうなるんだから!」
「なるかよ!は渡さないぞ!!」
「何ぃ〜?!」

ドムとオーランドが言い合いを始めて、ハリソンの事は軽く無視をしている。
だがハリソンは何も言えず、フラフラっとリビングに向かって歩いて行った。

「あ、お父様、お疲れでしょう?ささっ、どうぞ中へっ」

ドムが気を使ったのか、リビングのドアを開けている。
私はジロリと小僧を睨むと、それでも中へと入って行って、そして唖然とした。

「あれぇ?父さん!!」 とイライジャが目を見開いている。
「何だよ、帰って来たのか?珍しい」 とジョシュが苦笑して肩を竦めた。そして…

「あ、お邪魔してます、ミスターハリソン」

とジョニーデップが派手なハットをとって胸元に持って行くと笑顔でソファーから立ち上がった。

「君は…」
「今、オーランドと共演させてもらってます。ジョニーデップです」
「ああ…前にも一度会ってるね」
「はい。アカデミーで…」

ジョニーはそう言ってニッコリ微笑んだ。

「今日は撮影も早めに終ったので、オーランドに家に来ないかと誘われたんです。あ、彼女も共演していて…」

ジョニーはそう言うと隣に座っていた奇麗な女の子を見た。

「初めまして。キーラ・ナイトレイです」
「ああ、どうも。オーランドから話は聞いているよ」

私はなるべく笑顔を見せて挨拶した。
女性には、いつでも紳士な自分でいられるのだ。
だが、その笑顔もすぐにひび割れのように崩れていく。

「あ、お父様!お疲れでしょう?何か飲み物でもお持ちしましょうか?」
「私はお前の"お父さん"じゃない…っ。だいたい何故、ここにいるんだ?」
「あ〜ドムはロケから戻って来て、すぐ俺に電話してきたんだ。だから一緒に飲もうよって誘ったんだよ」

私の問いにオーランドが呑気に答えて、ますます額にピキっと血管が浮き出た。

(いちいち誘うな!しかも、こんな日に…っっ)

私は、そう怒鳴りたかったが一応はジョニーもいるし、初対面の女性もいる。
そこはググっと我慢した。

「しっかし父さん、今までずっとホテルで寝泊りしてたのに、どうしたの?突然、帰宅なんて」

イライジャが苦笑しながらワインを飲んでいる。

「お前こそ…今日は仕事は?」
「今日は朝からラジオとMTVの収録だけ」
「…そうか…。ん?レオはどうした?仕事か?」

私は、レオの姿が見えないことに気付き、そう聞いてみると、ジョシュが

「ああ、レオなら、もうすぐ帰ってくるって、さっき電話あったよ?昨日からロケでニューヨークだったから」

と言って彼もまたワインを飲んでいる。

「何?そうか。しかし…こんな時間から皆で飲んでるのか?」
「ああ、こんなに揃うことも珍しいからね。まさか父さんまでが帰って来ると思わなかったけどさ」
「別に帰ってきたかったわけじゃない」
「え?どういう事?」

私の言葉にジョシュは首を傾げた。
だが、その問いに答えたくもなくて私は顔を背けた。

「そ、そんな事より…はキッチンか?」

そう聞いた瞬間、

「お父さん?!」

と可愛い声が聞こえて私の傷ついたハートが少し暖かくなった。

!久し振りだな?」

私は嬉しそうに抱きついて来た愛娘を抱きしめながら頬にキスをした。

「ほんとよ!全然、帰って来ないんだものっ」
「ああ、すまない。は撮影の方はどうなんだ?順調か?」
「ええ、もうすぐ終盤よ?」
「何?もう、そんな撮ったのか?」

私が驚いて聞き返すと、が呆れたように笑った。

「それだけ、お父さんが帰って来なかったのよ?」
「そ、そうだったか?」

私はの言葉に苦笑しながら頭をかいた。

「あ、お父さんも一緒に飲まない?」
「え?」
「せっかく、こうして集まってるんだし。夕飯と言うよりはつまめるものばかりにしたの。皆で飲むからって」
「そ、そうか…」

私は何とか笑顔を見せると、そこへ、いつの間にやらいなくなっていたオーランドがお皿を運んで来た。

「My Little Girl〜!チキンはOKだよ〜っ」
「あ、オーリー、ありがとう。あ、ドム、お皿並べてもらってもいい?」

が後ろでデレデレと鼻の下を伸ばしながら立っている小僧へ声をかけると、奴はすぐさま満面の微笑みになる。

「ま、任せてよ!おい、オーランド、その皿よこせっ」
「何だよ、ドム!こぼすなよ?」
「こぼすかっ。お前じゃないんだから!」
「なにぉう?」

またしても言い合いを始めつつも仲良く(?)テーブルに皿を並べている二人を見て私は溜息をついた。

(どうして、たまに帰った日くらい静かに過ごせないんだろう…)

「…お父さん?どうしたの?溜息なんてついちゃって」

が心配そうに見上げて来て、私は慌てて笑顔を見せた。

「ああ、いや…ちょっと最近、撮影が大変だったんだ…。でも大丈夫だよ?」
「そう?あ、彼女は元気?」
「えっ?!」

突然、に恋人の事を聞かれ、私はドキっとした。

「あ、ああ…げ、元気なんじゃないかな…?」
「会ってないの?だって…ずっと一緒にいたんでしょ?」
「…ぅ…っ」

そう言われて私は動揺してしまった。

そう…何故、私が急に家に帰って来たかというと…最近、結構続いていた彼女と別れてしまったからだった。
長い間、一緒に居ると相手は、すでに結婚している気分になるのか、私に対して妻のような口を聞くようになった。
それが耐えられなくなり、その事を注意したら大ゲンカになってしまった。
だが私は誤るとか、そんな事はしなかった。
私は恋人を求めているのであって、妻を求めているワケじゃない。
だから、ずっと一緒にいたとしても錯覚して欲しくはないのだ。

そんな事もあって、私は恋人と別れてしまった。
そうなると一人でホテル暮らしをするのも空しくなり、こうして久々に我が家へ帰って来たというわけだ。
家で久し振りに可愛い子供たちと、ゆっくり、のんびり過ごしたくなった。
なのに…何なんだ、この団体はっ!
小僧はいるし、オーランドは相変わらずだし、これじゃ静かに過ごせる筈もない。
それに私から別れを切り出したとは言え、やはり、ここ暫く一緒にいた恋人と別れたのだ。
辛いし悲しい気持ちに変わりはない。
そんな気分なのに、どうしてイライラしなければならないんだ…っ

私は、そんな事を考えつつ、目の前で微笑むの顔を見て、ちょっと笑顔を見せると、

「少し喉が渇いたからキッチンでビールでも飲んでくるよ」

と言ってリビングを出た。

「はぁぁ…最悪な日に戻って来てしまった…」

私が、そう呟きつつキッチンへ入って行くと、中ではエマが忙しく動き回っている。

「やあ、エマ」
「まあ!ハリソン?!」

エマも案の定、驚いた顔で振り返る。

「久し振りだね。元気そうで安心したよ」

私がそう言うと、エマが苦笑しながら、

「それは私の台詞よ?なぁに?突然…。 あ、もしかして…また別れたんだ?」
「アハハ…。さすが、するどいね?」
「そりゃ、まあ…。何年、一緒に住んでると思ってるの?」
「そうだな…。まだ皆が、子供の時から来てくれてたんだからな」
「その通りです!あ、ビール?」
「ん?ああ…」

私が頷くと、エマは冷蔵庫からビールを取り出し、栓をあけると私に渡してくれた。
こう言う時…何も言わなくても私の気持ちを、こんな風に察してくれるのは、きっとエマだけだろうな…と、ふと思った。

私はビールをグイっと飲むと、ちょっと息を吐いた。
そんな私を見て、エマはちょっと微笑んだ。

「今回は…長く続いた方じゃありません?」
「ん?まあ…そうだな…」
「今度も…ハリソンから?」
「え?ああ…まあね。いつもと似たよう理由かな…?」

私は苦笑しながら肩を竦めると、エマは呆れたように微笑んだ。

「やっぱりね…。でも今度の彼女は、そんな感じじゃないって言ってなかった?」
「ああ…最初はそうだったんだよ?"私、結婚願望がないの"と言って…。でも、最近は酒を飲みすぎだの、貯金した方がいいだの、そんな事ばかり言ってくるようになって、終いにはカード預かるとまで言い出してね。そこで我慢出来なくて怒ったら逆ギレするし…散々だったよ…」

私は思い出して、どっと疲れを感じ息を吐き出した。

「まあ…女性はいつでも現実的なものよ?」

エマは、そんな事を言って、また料理の準備を始めた。
私はちょっと笑いながらビールを飲み干すと、「君も、そうなのかい?」と聞いた。
エマは少し驚いた顔で私を見たが、ちょっと笑うと、

「さあ…?私は…その日、その時が楽しければ、それでいいって時もあるし…」

と言ってフライパンを火にかけている。
そして、私の方をチラっと見ると、

「でも…大切な人の事が心配なら口うるさくなるかもしれないわ?」

と付け加えた。

「ふぅん…。まあ、その気持ちなら理解出来るけどね」

私はちょっと微笑んで、そう言うと、エマはクスっと笑って、

「シャワーでも浴びてスッキリしてきたら?疲れた顔してるわ」
と言った。
その言葉に苦笑すると、「そうだな…」と答えて、私はキッチンを後にした。

その時、ジュ〜っと言う音と共に、キッチンからはいい匂いが漂ってきて私のお腹が、ぐぅ〜っと鳴った。











レオナルド




「あ〜疲れた…」

俺はちょっと息をつくと玄関の方に歩いて行った。
昨日までニューヨークで、さっきロスに帰って来たばかりだ。

何だか今日は大勢、家に来てるなんて、オーランドが言ってたけど…うるさそうだな…
ドムも来てるって言うし…ほんと疲れた体もだけど精神的にキツイ…(!)

そんな事を考えながら歩いていると、ドアの前に誰かが立っていて驚いた。

「誰…?」

俺が声をかけると、その人影がこちらを向いて、「あ…こんばんわ…」と言った。

「あ…れ?君…スタンリー?」
「はい」

ドアの前にいたのは最近、のマネージャーテリー(オーリー曰く"オババ")の代わりに付き人として家に来るようになったスタンリーだった。

「どうしたんだ?、今日は仕事は終ったんだろ?」
「ああ、そうなんですけど…。さっきを送った後、事務所まで戻って車内を掃除してたら後部座席にさんの携帯が落ちてて…届けに戻って来たんです」
「そうなんだ。わざわざ悪いな?じゃあ入れば?何だか賑やからしいけど」
「いえ…あの…これ渡しておいてもらえますか?」
「え?入らないの?」
「はい。これ届けに来ただけですから…」

スタンリーはそう言っての携帯を俺に差し出してきた。
俺はちょっと苦笑すると、

「まあ…せっかく届けてくれたんだし…。ちょっと待ってて。を呼んでくるから」

と言って中へ入った。

「え?あ、あの…っ」

後ろからスタンリーの声が聞こえたが、俺は気にせず、リビングへと入って行った。

「おぉ〜レオ!お帰り!」
「あれ…父さん?!戻ってたの?」

オーランドに電話で聞いたとおり、リビングは、かなり賑やかだったが、その中に父を見つけて俺は更に驚いた。

「ああ、たまには我が家でノンビリしたくてな?」
「これの、どこがノンビリなんだよ。すっげーうるさいじゃん…」

俺が苦笑して中を見渡すと、ジョニーが笑顔で手を上げている。

「よぉ、レオ。お帰り!」
「ああ、ジョニー。キーラも、よく来たね」

俺がそう声をかけるとキーラは嬉しそうに微笑んで立ち上がった。

「お邪魔してます」
「ゆっくりして行って? ――あ、リジー、、どこにいる?」

テレビの前でゲームをしていたイライジャに、そう声をかけると、

「あ、キッチンだと思う。さっきから色々作ってるんだ。オーリーとドムも手伝ってるんだけどさ。ありゃドムと二人で邪魔してるの間違いだな?まともに手伝ってるのジョシュだけだよ」

と笑いながらゲームを続けている。
それを聞いて俺はちょっと苦笑しながらキッチンへと歩いて行った。
すると中から、うるさい声が聞こえてくる。

「おいドム!こげてるだろ?」
「オーリーが横からゴチャゴチャ言うからだ!」
「ドムがヘタだから見てられないんだよっ」
「何だとぉ?!」
「うるさいよ、お前ら!」
「だってジョシュ〜!見てよ、このパンケーキ〜〜っ。こげちゃってるんだよ?」
「これでも味は美味しいんだよ!」
「上手い訳ないだろ!苦いに決まってる!!」
「あぁん?!」
「ちょ…二人とも…っ。口より手を動かしてよ〜っ」

「「は〜い♪」」(!)

とジョシュも相当、てこずっているのか、そんな声が聞こえて来て俺はちょっと吹き出した。
そして、そのまま中へと入っていく。

、ただいま」
「え、レオ!お帰りなさい!」

は笑顔で振り向くと、すぐに抱きついてきた。
そのまま抱きしめ、頬にキスをすると、ドムが羨ましそうに口を開けて見ている。ヨダレが垂れそうな勢いだ(!)

「レオ…お帰り」

ジョシュもホっとしたように、そう言うと、「遅かったね」と言いながらオーブンの中を確認している。

「ああ、ちょっと一便遅れてね。しっかし…何だか、いっぱい作ってるな?」

俺はキッチンを見渡すと溜息をついた。
それにはもクスクス笑って、

「オーリーが甘いのが食べたいって言うから…今はデザート作ってるの。ジョシュはパイ担当でオーリーとドムがパンケーキ。人数多いから大変!」
「そっか。あれエマは?」
「あ、エマはフルーツの買出し。もう、お父さんがフルーツが食べたいって言い出して…」

は苦笑しながら俺を見上げた。
俺はの額にもキスをすると、

「あ、そうだ。今、スタンリーが玄関で待ってるから行っておいで?」

と言った。

「え?スタンリーが?何で?」
、携帯、車に落としたんだよ。それ届けてくれたんだ」
「あ…そうなんだ…。解かったわ」

はそう言うと俺から離れてキッチンを出て行った。
するとオーランドが、

「スタンリーくんも仲間に入れよう!」

と言いながら、の後を追う。
それには俺もジョシュも溜息をついた。
が、ドムだけは首を傾げて、「お兄様…スタンリーって誰ですか?」などと言っている。

「おい、ドム…。俺はお前の兄貴になった覚えはないぞ?」
「アハハハ!まあまあ。細かい事は言いっこなしでっっ。で、スタンリーって?」

ヘラヘラと笑うドムに俺とジョシュは目が半目になったが、ふと、いい事を思いつきニヤっと笑った。

「ああ、スタンリーってさ、今度担当になった新人の付き人なんだけど、元モデルで凄〜く、いい男なんだよ〜。な?ジョシュ」

俺がそう言いながら目で合図するとジョシュも気づいたようでニヤっと笑った。

「ああ、そうそう。ほんとかっこいいよな?」
「そ、そんなに…?」

ドムはすでに顔が青ざめてきている。

「ああ。も気に入ってるようだし…」
「そうだなぁ。年中、一緒にいるワケだからな?」

ジョシュもノリノリで、そんな事を言いながら、

「だから俺達も心配なんだよ」

なんて事まで言いだして、俺は噴出しそうになった。
ドムはと言うと、青くなったままプルプルと震え出し、「そ、そんな…!が、その男を気に入ってるって?!」と変な汗をかいている。

「ああ、女って、あんなタイプに弱いからなぁ…。ヤバイよな?」

俺が済ました顔で、そう言うとジョシュが、「ぷ…っ」と噴出しそうになっている。
だがドムはそれにも気付かないほどオロオロしだして、

「ちょ、ちょっと、これ頼むよっ!」

とパイ生地の乗った皿を俺に渡すとキッチンから慌てて出て行ってしまった。
それを見届けた俺とジョシュは、我慢できずに大笑いした。

「アハハハハハ…っ!ドムの顔、見たか?」
「み、見た…っ!鼻水まで垂れそうだったぞ?ハハハっ」
「あいつ、ほんっと単純ダだよなぁ?が本当に気に入ってたら、俺達が、こんな落ち着いてるわけないだろってのにさあ」
「ほんとだな?それが事実だったらに行かせる訳ないのに…っ。すっかり信じちゃって…スタンリー、とばっちり受けるぞ?」

ジョシュも、そう言って笑っている。

「まあ、スタンリーには気の毒だけど…何とかドムのアホ攻撃を交わしてくれる事を祈るよ」

俺は笑いながらパイ生地の皿をキッチンのカウンターテーブルに置くと冷蔵庫からビールを出して一口飲んだ。
そこへキーラが顔を出した。

「あ、あの…」
「あれ?どうしたの?」

俺が笑顔で声をかけるとキーラは、ちょっと驚いた顔をしたが、おずおずとアイスピッチャーを出した。

「あの…氷がなくなっちゃって…」
「ああ、ごめんね。入れるよ」

俺はそれを受け取って冷凍庫から氷を出してピッチャーへと入れていった。

「はい。皆、まだ飲んでるの?」
「ありがとう…。 えっと…ジョニーがハリソンと何だか語りだしちゃって…。あと今、オーリーがの付き人って人を連れて来て…」
「ああ、やっぱオーリーに捕まったんだ。そっか。じゃ、俺も後で乱入するかな? ―あ、先にシャワー入ってくるよ」

と最後はジョシュに声をかけた。

「ああ。早く戻れよ?俺一人で、ドムやオーリーの相手は辛いからさ」
「はいはい。解かってるよ」

ジョシュが情けない顔で、そう言うから俺はちょっと笑いながら肩を竦めた。
そして、そのままキーラと一緒にキッチンを出ると、「じゃ、後でね」と微笑んだ。
するとキーラはちょっと頬を赤くして、「はい、じゃあ…」とリビングの方に戻って行く。

俺は彼女の後姿を見ながら、小さく息をつくと自分の部屋へ向かった。
















「あ、スタンリー」
「ああ、これ…」

私が歩いて行くとスタンリーが携帯を差し出した。

「ありがと…。きっとバッグから落ちたのね」
「気を付けろよ?携帯なくしたら、いざって時に連絡つかないだろ?」
「…解かってるわよ…」

スタンリーの言葉に、私はちょっと口を尖らせた。

(相変わらず憎たらしい…っ)

スタンリーは最近はずっと私に着いて回っている。
でも彼は私にだけは変わらず、こんな態度だ。
でも…私は、この前、ライアンのことで言われた事が頭から離れなかった。
あれで少し吹っ切れて、ちゃんとライアンに自分の気持ちを話そうと様子を見ているのだが、ここのとこ撮影の方が忙しくて、
スタジオで顔を合わせても、プライベートな話をする事は出来ない状況が続き、未だに、その話はしていない。
スタンリーはあれ以来ライアンの事は口にしなかったが、時々私とライアンのシーンがある時は何か言いたそうに見ている事があった。

「じゃあ…俺、帰るよ」

不意にスタンリーが、そう言って私はハっとした。

「あ…うん…。あの…わざわざ、ありがとう…」
「それが仕事でもあるからな」
「…………」

(もう…何でそういう言い方しかできないかなっ)

私はスタンリーのクールな物言いに頭に来た。

「じゃあ、気をつけて!」
「ああ。じゃな」

スタンリーは私の言い方に、ちょっと苦笑すると、ドアを開けて出て行こうとしたその時…賑やかな足音が聞こえてきた。


「おぉーーっと待ったぁ!スタンリーくん!」
「あ…どうも…」
「オーリー?」


振り返ると、オーリーが私のエプロンをつけたまま(!)走って来た。

「スタンリーくんも一緒に飲もう!」
「え…?」
「今、皆で盛り上がってるんだ。一緒に飲もうっ」
「で、でも…」

スタンリーも、さすがに呆気に取られた様子で可愛いエプロン姿のオーリーを見ている。
(何しろレオがディオールに特注してくれたエプロンなのでドレスのようなデザインなのだ)(!)

「オーリィ…そんな無理に誘っても迷惑よ?スタンリーは車だし…」
「そんなもの泊って行けばいいさ!俺の部屋で寝てもいいし、ゲストルームだって沢山あるんだから」
「オ、オーリィ…っ。そんなこと言って…」

私は驚いてオーリーの腕を引っ張るも、オーリーはスタンリーの腕をガシっと掴んだ。

「いいから、いいから!今夜は語り合おうじゃないかっ」
「あ、あの…ちょ…。 ――おい、…」

オーリーはグイグイとスタンリーを引っ張って行ってしまって、スタンリーはと言えば困ったような情けない顔で私の方に救いの顔を向けた。
彼のそんな表情は見た事がなかったので、私は思わず噴出して、

「オーリーは言い出したら聞かないの。諦めて?」

と言ってやった。
その時のスタンリーの顔ったら。
"えぇ〜?そりゃないだろ?"って口パクで言って来て、私はちょっと笑ってしまった。

(ふーんだ。いつも偉そうなことばっかり言うんだから、今夜はオーリーの相手をして疲れればいいのよっ)(!)

私は少し気分が良くなってキッチンに戻ろうと振り返って、驚いた。

「キャ…っ。ド、ドム…っ」
…今の…」
「え…?あ…スタンリーのこと…?」

何だか顔色の悪いドムを見て首を傾げたが、「あの…彼、私の付き人やってくれてて…」と笑顔で説明した。

「元モデルとか…?」
「え?あ、ああ…。よく知ってるのね?そうみたい。凄い身長高いしね」
「そ、それに…」
「え?」
「凄い…今時の顔だったね…。イケメンって感じで…(!)」
「あ、そ、そう…?」

ドムは怖い顔で、そう呟くから私は、ちょっと心配になった。

「あの…ドム?飲み過ぎちゃった?キッチンでオーリーと一緒にシャンパン飲んだりしてたでしょ?」
「え?あ…いや!大丈夫だよ!ちゃんとパンケーキは作るからさ!アハハハ!」

途端に笑顔で、そう言うドムに少しホっとして、「そう。なら良かった。でも、あまり飲みすぎないでね?」と微笑んだ。
ドムは何だか返事はしないまま、ブンブンと首を上下に動かし凄い勢いで頷くから驚いたんだけど…
それに何気に顔が真っ赤で、実は酔ってるのかな…?とか思ったりした。

「じゃあ…スタンリーの分もお酒出さないとね」

私はそう言ってリビングに入って行った。
ドムは今度は何だかシュンとした感じで私の後ろからついてくる。

大丈夫かしら…と思いつつリビングに行くと、すでに父はいい感じで出来上がっていて赤い顔をしながらジョニーと盛り上がっている。
スタンリーは初めて会うので挨拶をしているが、父さんはスタンリーを新人のACTORだと思ったらしく、

「君は何の映画に出てたんだ?」

などと聞いていてスタンリーを困らせていた。
イライジャはキーラと、"ロード・オブ・ザ・リング"のゲームを一緒にしている。

「スタンリー」

私は父さんの天然攻撃に苦笑しつつソファーに非難したスタンリーに声をかけた。

「何、飲む?」
「ああ…えっと…じゃあバーボン…ある?」
「うん、あるわ?レオが時々飲むから…。ターキーとハーパー、どっちがいい?」
「ターキーかな。ああ、俺、自分でやるよ」

そう言って立ち上がろうとしたスタンリーを私は押し戻し、また座らせた。

「いいわよ。今は仕事してるんじゃないでしょ?スタンリーは今日はゲストなんだから私がやるわ?」

私がそう言うとスタンリーは、ちょっと驚いたような顔をしたが、「OK…。じゃ…お願いするかな」と言って微笑んだ。
その笑顔は私には見せたことのない優しい笑顔でドキっとする。

「じゃ、じゃあ…ここで待ってて?ああ、父さん達は放っておいていいから。ああなったら明日には記憶にないと思うし」
「…了解」

スタンリーは、そう言ってクスクス笑っている。
そんな彼を見つつ、私はキッチンに戻った。

(珍しい…あんな風に笑うなんて。明日は雨だったりして…)

そんな事を思いつつ、ジョシュがオーリーを怒鳴っている、うるさいキッチンへと入って行った。










オーランド





「おい、ちゃんと皿に乗せろよ?」
「だ、だってジョシュ〜〜!これ熱いんだよ〜〜っっ」
「当たり前だろ?焼いたんだから!」
「これ持ってよ、ジョシュ〜〜っ」
「うわ、それ持ったまま、こっち来るなよっ!」

ジョシュはそう言うと僕から素早く逃げて行く。

(うぅ…なんて冷たい弟なんだ!)

僕が両手の熱さとジョシュの態度に嘆いていると、そこへ天使の囀りが聞こえてきた(!)

「どうしたの?オーリー、大丈夫?」
〜〜!熱いんだよ〜〜っ」
「ああっ。そ、それ、ちゃんと手袋しないとダメよ。ここに置いて?」

僕はに言われた通りキッチンの台へと、その熱い皿を置いた。

「はい、これ使うのよ?」

はクスクス笑いながら大きな手袋を僕の前に差し出した。

「何これ…ボブサップ用の手袋かい…?」

僕は火傷した指先で耳を障りつつ、片手で涙を拭きながら(!)聞いた。

「やだ、オーリー。違うわよ」

僕の言葉でがクスクス笑っている。
ジョシュは呆れたように溜息をついてるんだけどさ。
でもが楽しそうに笑ってくれてるからいいや。

「わぁ、でも思ったより奇麗に出来たね?オーリー凄い」
「そぉぅ?そんな、よく出来てる?!」

僕はの言葉が嬉しくて、瞳を輝かせると、ジョシュが後ろで、

「"思ったより…"って言っただろ…?」

とボソっと呟くのが聞こえる。

(むっ。ジョシュの奴、僕がから誉められたからって僻んでるな?!大人気ない男だ)

「じゃあ、これ冷めたら切り分けちゃおう。あっと…ジョシュ、バーボンって、どこに置いてある?」
「ああ、ここにあったよ。どっち?」
「ターキー」
「ああ、あった。これだ。何、これ誰が飲むの?」
「スタンリーよ。ロックでいいと思う」

そう言ってはロックグラスを出すと、氷を入れてターキーの瓶を持った。

「あれ?ドムのバカはどうした?」

全て僕にやらせて一向に戻って来ないドムの存在を思い出した。

「あ、リビングにいたけど」

はそう言ってキッチンを出て行った。
きっとスタンリーくんのところへ酒を持っていったんだろう。

「くそぉ。何でリビングで一人寛いでるんだ?」

僕はむぅっと口を尖らせ、そう言うと、ジョシュがクスクス笑っている。

「ああ、きっとドムの奴、スタンリーの観察してるんだよ」
「え?スタンリーくんの?何でさ?」

僕はキョトンとして聞き返すと、ジョシュは一人楽しそうに笑い出した。

「ちょ、ちょっと、さっきレオと一緒にからかってね…」
「レオと?ああ…また二人でろくでもないこと言ったんだな?!ほんと二人は我が家の極悪ブラザーズだね!」



ゴンっっ



「ったぁ…っ!!!」


突然、後頭部に衝撃が走り、僕の頭蓋骨が…いや…脳みそが揺れた気がした…(!)

「誰が極悪だって?」
「レ、レオ…っ!」

頭を擦りつつ後ろを振り返ると、レオが怖い顔で立っている。

「い、いや…ご、極悪なんて…ご…ご…ぃ…す…凄いブラザーズだねって言ったんだよ、うん!」
「嘘つけ!」

僕の言い訳が全く通用せず(当たり前)レオは、ますます怖い顔で僕を睨んでいる。

「だいたい、そのエプロンは俺がにプレゼントしたもんだろ?何でオーリーが使ってるんだ?!」
「あ…っ。こ、これは…」
「もう、それ脱げよ?!特注でのサイズにしてあるのに、オーリーが着たら広がって伸びるだろ?!」
「はぁ〜い……」

レオに怒られ、僕は渋々エプロンを取った。

「それで…は?」
「あ、スタンリーくんにターキーを…」
「え?スタンリーまで参加したのか?」

レオが驚いてジョシュに聞いている。
するとジョシュが苦笑しながら、「ああ。何でもオーリーが是非にって引き止めたらしいよ?」と言って、こっちをチラっと見た。
それにはレオも呆れた顔で僕を見る。

「な、何だよ。二人して、そんな目で俺を見るんじゃない!」
「ったく…オーリーは単純でいいよな」
「全く、その通り」

二人はそう言って肩を竦めている。

(何だよっほんと意地悪で極悪ブラザーズだ!)

僕は口を尖らせつつ、パンケーキを皿に乗せてリビングへと運ぼうとした時、が戻って来た。

「あ〜。これ運んでいい?」
「あ、うん。もう、他に運ぶのはパイだけでしょ?後は私がやるから、皆は飲んでて?」

はそう言うとパイ用のナイフやらフォークを用意している。

「じゃ、ちょっと飲んでくるか」
「あ〜ジョシュ〜これ一つ運んでよ〜!」
「ったく…うるさいなぁ…。解かったよ」

僕が皿を一つジョシュに渡すと、渋々それを持ってキッチンから出て行った。

「あ、オーリー。これないと。ナイフとフォークも持ってってね?」
「OK!」

僕はナイフとフォークを受け取ると、それを持ってキッチンを出てリビングへと向かった。
何だか廊下まで父さんとジョニーのバカ笑いが聞こえてくる。

「あ〜あ〜。あの二人、気があってるな〜」

僕はちょっと怖くなり、今夜はジョニーにからまないようにしよう…と思った。

「はいはーい。お待たせ〜。オーランドくん特製のパンケーキだよー」

そう言って元気良くリビングに入るも、皆はチラっと視線を向けるだけで、

「わ〜美味しそう!」

とか、

「あ〜食べたい!」

という声が全く上がらなくて、僕はムっとした。

「何だよ〜。その冷たい態度はっ。せっかく作ったのに」

僕はブツブツ言いながらテーブルにトレーを置いて、近くにあった自分のグラスにブランデーを注いで、グイっと飲み干した。

「おい、ドム!お前、何寛いでるんだっ。手伝えよ」
「ん?あ、ああ」

ドムはソファーに座りながら、目の前に座っているスタンリーくんを、ガン見している(!)

「おい、ドム…。何してるんだ?」
「…別に」

(はぁ…あの極悪ブラザーズに何を言われたのか知らないけどスタンリーくんも気まずそうな顔で視線を反らしてる…かわいそうに)

僕はスタンリーくんに同情しつつ、ドムの隣に座ると、

「お前が手伝わないせいで、俺のプリティーな指が火傷しただろう?どうしてくれるんだっ」

と頭を小突いた。

「痛いなぁ…。俺には大事な使命があったんだよっ」
「何だよ、その使命って…」

僕が首を傾げるとドムが怖い顔でこっちを見た。
そして僕の耳元で、「あのスタンリーって男のこと…が気に入ってるって?」と聞いてくる。

「はあ?何でがスタ…ふぐぅっっ」

僕が答えようとした瞬間、ドムの汚い手が僕の口を抑えた。

「…でかい声を出すな…。敵に聞かれるだろ…っ?」

ドムの言葉に僕は仕方なく頷くと、やっと手をどけてくれた。

(何だ…レオとジョシュ、そんな嘘をドムに…。でも…ちょっと面白いかも…)(!)

「ああ…そう言えば…が前に、今度の付き人は凄くかっこいいのって浮かれてた事があったなぁ〜」

僕も二人の嘘に便乗して、小声でそう言うとドムの顔色がサっと青くなった。

「な、何…?!や、やっぱりは、あんな男がタイプなのか…?」
「さあ?ま、一番のタイプは俺かなぁ?」
「お前の戯言は今、聞いてる余裕はないっ!!」
「…ごめん…」

ドムの血走った目に睨まれ、僕はホラー映画を思い出し、ちょっと怖くなった…。








ジョシュ




(あ〜あ〜。ドムの奴、あんな怖い顔でスタンリーを見てるよ…)

僕は苦笑しながらワインを飲んだ。

(あんな嘘に引っかかるなんて、ほんと単純な奴…)

そこにイライジャがゲームを終えて向かい側に座った。

「あ〜疲れた!」
「ああ、この前のとこクリアできた?」
「いや〜それが難しくて…少し先までは行くんだけどさあ〜。でもキーラ、結構上手いよね?」

イライジャは隣に座ったキーラの方を見て笑っている。

「そんなことないけど…時々やってたから」

キーラはちょっと恥ずかしそうに笑いながらワインを飲んでいる。
だが視線はドアの方を見ていて、誰かを待っているという印象。

(ああ…レオが来るのを待ってるんだ)

僕は思い出して内心、苦笑した。

前にオーランドの撮影現場に行った時、彼女はレオに一目惚れしたらしいからな。
ったく…レオもフェミニストだからなぁ…

そんな事を思っていると、がレオと戻って来た。

「はい、パイ焼けました。あ、あとエマが、お父さんのフルーツ買って来たよ。これ」

そう言って父さんの前に、メロンやオレンジ、パイナップル等を切り分けたフルーツの盛り合わせが乗った皿を置いた。

「おぉ〜!待ってたんだ。おい、ジョニーも食べなさい」
「ああ、いただきます」

二人はそう言いながらフォークでフルーツを摘んでいる。
父さん曰く、酒を飲んでいると口休めにフルーツが一番いいそうで口の中がサッパリするらしい。

「んまいっ!甘いなあ、これは」
「ほんと。このオレンジ美味しいよ」

二人は、嬉しそうにフルーツを食べている。
はちょっと笑いながら僕の隣に座ると自分のグラスにワインを注いだ。
レオもの隣に座り、父さんのブランデーを飲み始めた。
向かい側に座っているキーラはと言うと落ち着かないようにチラチラっとレオを見ている。
それでもレオは、その熱い視線に一向に気付かない様子だ。
それも、そのはずでレオは隣のの方ばかり見て、何やら楽しそうに話している。
僕はちょっと苦笑して、隣のを見た。(彼女は僕とレオの間に座っている)

「あれ…?、それ、さっきしてた?」

僕が視線を向けた時、の首元にアクセサリーが見えて首を傾げた。
するとは嬉しそうに、それを持つと、

「あのね、これレオのニューヨークのお土産なの。ブルガリの新作ネックレス!どう?可愛い?」
「ああ、凄い似合ってるよ?レオ、そういうの選ばせたら、ちゃんと似合うの買ってくるよな〜」

僕は笑いながら、そう言うとレオも笑っている。

の好みは、色々とインプットしてるからね?」
「ああ、いつも貢いでるからな?」
「おい、ジョシュ…。その言葉が嫌だな…」

僕の言葉にレオが顔を顰めた。

「何だよ。ほんとの事だろ?」

僕が笑いながら、そう言うと向かいで飲んでいたオーランドがパンケーキを頬張りながら、

「そうそう!レオの貢ぎグセは変わらないよ〜っ!」

と言って、ガハハハと笑っている。
僕は、ああ…その一言を言わなければ生き延びられるのに…(!)なんて思った矢先、レオが何かをオーランドに投げつけた。




ベチャ…!




「ぅ…っっ!」




嫌な音とオーランドの変な声が響き、見てみると、オーランドの顔面に何やらオレンジ色の物体がくっついていたが、ズルズル…っと落ちていった。

「ひ、酷いよ、レオ〜〜っ。何もオレンジぶつけることないだろぉぉう?うひゃっし、汁が目に染みるぅ〜!」

オーランドは、そう言いながら慌ててリビングを出て行ってしまった。
大方、顔でも洗いに行くんだろう。
レオはそれを見て大笑いしていた。(時々、俺もレオが極悪に見えるときがある…)

「こら、レオ!私のフルーツを投げるな、もったいない!」
「はいはい!もうしないよ」

レオは笑いを堪えつつ、そこは素直に謝っている。
はキーラと楽しそうに話していて、「いっつも、こんな感じなの。うるさいでしょ?」なんて話していた。

「ううん、凄く楽しい。いいなぁ、は…」

の言葉にキーラはそう言って溜息をついた。

「そう?じゃ、キーラもうちの養女になる?」

レオがそう言ってニッコリ微笑んだ。
僕は…ああ…レオも、その一言を言わなければ自分で自分の首をしめることがなくなるのに…なんて思っていたが、時すでに遅しで、
キーラの頬が見る見るうちに赤くなり、それでも嬉しそうに微笑んでいる。

「ほんとに、なっちゃおうかな…」
「父さんに頼んでみなよ。な??」
「そうね〜私もキーラみたいな妹が欲しいわ」

今度はまでが一緒になって、そんな事を言っている。
すると、その会話が聞こえたのか、いい感じで酔っている父さんが、

「ああ、こんな可愛らしいお嬢さんなら、いつでも歓迎だよ」

などと口を挟んだ。
僕は、ああ〜余計な事を…と思って溜息をついていると、そこへ突然ドムが立ち上がり、

「はいはーい!お父様!!僕も養子に来たいですっっっ!!」

と叫んで手を上げた。


「お前はいらんっ!!」


「……………っっ?!」


冷たく言い放たれ、そこでドムは撃沈したようだ。
シューンとなってソファーに座ると、チビチビとワインを飲みだした。
それを見ながら、スタンリーも笑いを堪えている様子だ。

「お父さん、そんな言い方したら可愛そうじゃないの…」

はそう言いながら父さんを睨んでいるが、父さんには聞こえてないようで、ジョニーの肩なんて組み出し、

「そうか!じゃあ今度、必ず共演しよう!」

なんて言って盛り上がっている。
ジョニーもジョニーで、「ええ、是非」なんて言ってグビグビとブランデーを煽っている。
僕はちょっと息をつくと隣のを見た。

「無駄だよ。きっと明日には覚えてないって」
「そうね…。もう…すぐ酔っちゃうんだから…ね?ジョシュ」

はそう言って口を尖らせながら僕を見上げてくる。
僕はちょっと微笑むと、チュっと額にキスをして、「ま、久々に家で飲んだから酔いも早いんだよ。今日だけは多めにみよう」と言った。
はちょっと微笑むと僕の腕に自分の腕を絡ませ寄り添ってきた。
僕はそっとの頭に口付けて微笑んだが、


「今夜は飲むぞ、こら〜っっ」
「おぉーう!一気しろ、ドムーー!」


という声が聞こえて来て向かい側でベロベロになりつつある、愚兄と、そのアホ友達を見て、ちょっと溜息をついた。













「はい、バスタオル」
「ああ、サンキュ…」

スタンリーはそう言うとゲストルームにあるテラスへと出た。
結局、皆で飲んだ結果、遅くなってしまって、しかも車で来たスタンリーは運転できないという事もあり、泊って行くことになったのだ。

「大丈夫…?かなり飲んだでしょ?」
「ん〜。まあ…。でも大丈夫だよ。明日はオフだから」
「え?そうなの?」

その言葉に驚いて私もテラスへと出た。
スタンリーは、ちょっと腕を伸ばし空を見上げると、軽く息を吐き出している。

「俺はね。久々のオフなんだ」
「そう…。じゃあ…明日はテリーが来るのかな…?」
「うん。そう言ってたよ。だから寝坊すんなよ?」

スタンリーは、そう言うと私の額をツンと指でつついた。

「し、しないわよ…。まだ1時じゃない…。明日は午後からだもん」

私が口を尖らせて、スタンリーを睨むと、彼はクスクス笑っている。

「もう台詞、入ったの?」
「あ…うん。何とか…。でも寝る前に少し読み直すけど…」
「そっか。明日は…再会のシーンだったっけ?」
「…うん…」

私はちょっと俯いて頷くと、不意に頭を撫でられた。
ドキっとして顔を上げると、スタンリーが心配そうな顔で私を見ている。

「まだライアンのこと気にしてるのか?」
「…え?」
「よく…知らないけどさ…。彼に…誘われてるんだろ?」
「さ、誘われてるって言うか…」
「サッサと断れよ」
「…………っ」

スタンリーの言葉に驚いて彼を見上げると、「自分が辛くなるだけだろ…?」と呟いて空を見上げている。
その横顔が少し大人びててドキっとした。

「…ぅん…。そうだね…」

彼の言葉に、私は素直に、そう頷いた。

スタンリーは私とライアンの事は知らないけど…彼の言ってる意味は解かる。
きっと…そうなんだ…もう…昔には戻れないし…早く気持ちにけりをつけなくちゃ前に進めない…

「おい…そろそろ部屋もどれよ」
「え?」

突然、そう言われて私が顔を上げるとスタンリーは部屋の中へと入って行った。

「皆が心配するだろ?いくら付き人だからって男の泊る部屋に長くいたらさ」
「あ…う、うん…」
の兄貴達は怖そうだからな」

スタンリーは、そう言って笑っている。
その言葉に私もちょっと笑うと、

「そうね?凄く怖いかも。それに、どうせ私は、お嬢様で皆に甘やかされてますからねっ」

と言った。
するとスタンリーは私の方を見て、すぐに視線を外すと、

「ああ…この前の…あれ…取り消すよ」

と言ってベッドに座った。

「え?」

私は、その言葉に驚いてスタンリーの前に行くと、彼は顔を上げて私を見つめた。

「この前の…お嬢様って言った事とか甘えてるって言った事…取り消す」
「ど、どうしたの…?」

突然の言葉に、私は首を傾げると、スタンリーはちょっと笑った。

「いや…今日…家での、見ててさ。まあ確かに甘やかされてはいるけど…そんな思ってたほど何も出来ない、お嬢様じゃないんだなって思ったから…」
「え…?」
が率先して皆の食事の用意とか…お酒の用意してただろ?」
「あ…だって…」
「あれ見てて、結構しっかりしてるんだなって思ったからさ。この前、言った事、取り消すって言ったの」
「…スタンリー」

私は、そう言われて、ちょっとドキドキしてきた。

(そんな急に優しいこと言わないでよ…。どんな顔していいのか解からない…)

私が黙って俯いてると、スタンリーが不意に立ち上がった。

「な、何?」

私はちょっと驚いて後ずさると、スタンリーが苦笑した。

「寝るから、その前にシャワー借りるんだよ。何、驚いてんの?」
「べ、別に驚いてなんか…」

そう言われて私は顔が赤くなってしまった。
そんな私を見てスタンリーはクスクス笑って近づいてくる。

「ああ…何かされるとでも思った?」
「………お…っ思う訳ないでしょ!」
「あっそ。じゃあ早く自分の部屋に戻って台本でも読めよ。俺は寝るし。あ、それとも一緒に寝る?」
「…………っ?!」
「ジョークだってば…。怖い顔するなよ」

私が目を丸くすると、スタンリーは苦笑しながら肩を竦めた。

「担当の女優に手を出すほど、女に困ってないからさ?」
「な……っっ」

そう言われて私は真っ赤な顔のまま、

「最低!バカ!」

と怒鳴って部屋を飛び出し、ドアをバン!!っと思い切り閉めた。
そして、そのまま自分の部屋へと戻る。

な、何よ、何よ!人の事からかって!最低!
何が、"女に困ってない"よ!軽薄男めっ!

私は怒りながらドスドスと廊下を歩いて行くと自分の部屋に入った。

「もぉーーっムカつく!」

そう怒鳴ってソファーの上のクッションを掴むと思い切り、壁に投げつけた。
バフっっと音を立てて落ちたクッションを放置したまま、私はバスルームに入って勢いよくお湯を出しつつ息を吐き出す。

「やっぱり元モデルなんて、ろくなもんじゃないわっ。きっと色々な女と遊んでるのよ…っ」

そう呟きながら、その場にずるずると座り込んだ。

何で、こんなに腹が立つんだろ。
もう疲れるわよ…
明日、テリーに言って担当変えてもらおうかな…

私はそう思いながら暫くカッカきていて、今夜、すぐには眠れそうになかった。












何だかうるさそうな、ある夜のハリソン家でした(笑)
久々にハリソンパパ書いたわ〜(笑)
あ、あとドムも^^;
何気にオーリーとドムっていいコンビかも…(笑)