悩み多き年頃B












私は、いつもの様に簡単なメイクを終えると軽く息をついて時計を見た。
朝の9時。

テリーが迎えに来るのは10時…
その前に…彼を起こさなくちゃ…
もし泊っていったのがバレればテリーに何か言われるかもしれない。

「はぁ…。何だか最近、色々と考える事が多すぎて疲れる…」

私は、そう呟くと髪をブラッシングしてから立ち上がった。
そしてバッグを持って出かける用意をしてから部屋を出てゲストルームへと向かう。
長い廊下を歩いて私達、家族の部屋とは反対側の廊下へ抜けると、そこは全てゲストルームとなっている。
スタンリーが寝ている部屋は一番、手前の部屋だった。

(起きてるかな…でも夕べ遅かったし…かなり飲まされてたから寝てるか…)

ちょっと深呼吸をして、ノックをしてみる。
が、中からは何の応答もなくシーンとしていた。

「はぁ…やっぱり寝てるかな…」

私は仕方なく、そっとドアを開けてみた。
すると厚いカーテンが全開で部屋は朝日が入りこみ、かなり明るい。

「あれ…もしかして…もう起きて下に行ったのかな…」

私は部屋の中に静かに入ると後ろ手にドアを閉めた。
そして奥にあるベッドの方まで歩いて行って足を止める。

「何だ…。やっぱり寝てる…」

そこには肩まで布団をかぶったスタンリーが体を横に向けて静かに眠っている。
私は、ちょっと息をついてベッドの傍まで歩いて行った。
そして彼を起こそうとした時、伸ばしかけた手が止まる。
スタンリーの奇麗な金髪の髪が太陽の光でキラキラ光っていて、長い睫毛と同じく、とても奇麗だ。

(さすが…元モデルだけある…か…。何でやめちゃったんだろう…)

私は、ふと、そんな事を思いながら暫く、スタンリーの寝顔を見ていた。
だがスタンリーが少し動いたのを見てドキっとする。

「…ん…」
「ス、スタンリー?起きた…?」

そう言って手を再び、彼の方へ伸ばした時、不意に手首を掴まれ引っ張られた。

「キャ…」

予期していなかった為、体のバランスを崩し、ベッドの方に倒れこんだ…と言うよりはスタンリーの上に…と言うべきか。
気付けば私はスタンリーの胸に顔を押し付けている状態だった。

「ちょ…ちょっと…危ないじゃない…っ」

慌てて顔を上げるとスタンリーの青い瞳と目が合いドキっとする。

「……何だ…か…」
「な…何よ…っ。私だったら何なの?」
「別に…。ふぁぁ〜今、いい夢見てたんだけどなぁ…」

スタンリーは、そう言って欠伸をすると涙が浮かんだ目を手で擦っている。
だが私は彼が裸で寝ている事に気付き、顔が赤くなった。

「ちょ、ちょっと離してよ…っ」
「え?ああ……」

スタンリーは私の手を掴んだまま笑っていたが、それを見ていた私の視界が突然、一回転した。

「俺としては、こっちの方がいいかな?」
「………………っ」

スタンリーは、そう言うとニヤっと笑った。
気付けば今まで下にあったスタンリーの顔が、今は上にあり私を見下ろしている。
手を掴まれて、彼に組み敷かれてる…と気付いた私は一気に顔が真っ赤になった。

「な…何するのよ…!」
「何って…押し倒してる」
「は…離してよ…っ!」

私は足をバタつかせて、そう怒鳴るとスタンリーはクスクス笑っている。
そして掴んでいた手を離すと体を起こした。

「そう怒るなって。冗談だよ。言ったろ?担当の女優に手を出すほど女には困ってないってさ」

そう言ってベッドから下りたスタンリーは上半身は何も着ていなかったが下は穿いていて私はホっとしたと同時に腹が立ってきた。
ガバっと起き上がって彼に思い切り枕をぶつける。

「…ぃてっ…!何だよ…って、わ…っ」

枕の他にクッションも次々に投げつけると、さすがにスタンリーも驚いて慌てて避けている。

「お、おい、やめろって…!…っ」
「何よ!どういうつもり?!いつも、いつも人のことバカにして!!」
「そ、そんな怒るなって…わ…ぶ…っ」

最後の一つが見事にスタンリーの顔面に直撃して私は思わず、手で口を抑えた。
まさか顔面にぶつかるとは思ってなかったのだ。
どうやら、ど真ん中に当たったらしく、スタンリーは痛そうに鼻を抑えていたが、ジロっと、こっちを見たので、
私はベッドの端まで逃げようとした、その時…

「…やったな?!」
「キャ…っ」

スタンリーが足元に落ちていたクッションを掴んで、私の方に飛び掛ってきた。
クッションで殴られるかとギュっと目を瞑っていたが、突然、体が倒され驚いて目を開けると、上にスタンリーが覆い被さってくる。

「な、何して…」

私が驚いて彼を見上げるとスタンリーは得意げな顔で片方の眉を上げた。

「女、殴っても仕方ないし、やっぱり、今の借りはこっちで返してもらうよ」
「え…こっち…って…?」

そう言いかけた時、スタンリーがニヤっと笑って顔を近づけてきた。


「………………っっ」


(キスされる…っ)


そう思ってギュっと目を瞑ると、柔らかい感触のものが顔に押し付けられた。

「んぅ…っ?!」

私は驚いて目を開けると視界が真っ暗で顔にクッションが押し付けられてると気付いた。

「ちょ、ちょっと…!」

私は手でクッションを押しのけると、スタンリーがベッドから飛び下りて楽しそうに笑っている。

「アハハハ…っ。また引っかかってるし!」
「……………っ」

彼の言葉に私は耳まで赤くなった。

「ちょ…スタンリー!わざとやったわね…っ」

私が怒ってベッドから下りると、スタンリーは笑うのをやめて目の前まで歩いて来ると顔を近づけてきた。

「キスされるとか思った?」
「…………………っっ」

彼の言葉に私は恥ずかしいのと腹が立つのとで口をぱくぱくさせていると、

「………何?キスして欲しかったとか?」

と、またもスタンリーは余裕の顔で笑っている。
それには私も完全に腹が立って思わず、彼の頬に平手をくらわしていた。
バシン…っと大きな音と共に、

「いい加減にして!大嫌いよ…っ!さっさと帰って!」

と怒鳴り、私は部屋を飛び出した。

(悔しい…っ!!)

私は怒りに任せて、そのまま下へ下りていくと、廊下でジョシュとぶつかった。

「あっと…?」
「…あ…ジョシュ…おはよ…」

ジョシュの腕に抱きとめられ、私は慌てて笑顔を作った。
だがジョシュは変な顔で私を見ている。

…どうした?顔真っ赤だぞ…?」
「な…何でもない…」
「そう?なら…いいけど」

ジョシュは、そう言って優しく微笑むと、いつもの様に頬にチュっとキスをしてくれた。

「おはよ、。今日は仕事だろ?」
「う、うん…。もう迎えが来るわ?」
「そっか。ああ…彼は?」
「え?」
「スタンリー。起こした方がいいだろ?」

ジョシュに、その名を出され私は視線を反らした。

「べ…別にいいわよ。勝手に帰るでしょ?」
?何怒ってるんだ?」
「怒ってなんかいないわ?あ…朝食食べないと…間に合わない」

私は、ちょっと微笑むとキッチンの方に歩いて行った。
すると心配そうな顔でジョシュもついてくる。

…少し変だぞ?何かあったのか…?」
「何もないわよ。あ、エマ…紅茶ある?」

私はキッチンに顔を出すと、エマが笑顔で振り向いた。

「あら、おはよう、。紅茶なら、そのポットの中よ?」
「ありがと。あ、ジョシュも飲む?」
「あ、ああ…」

ジョシュは私の様子伺うようにしながらも笑顔で頷いた。
私は冷静になろうと、軽く息をつくとカップに紅茶を注いで、ジョシュに渡し、自分の分も淹れた。

「はぁ…」

暖かい紅茶を飲んで、ちょっと落ち着くと、そこにスタンリーが入って来てドキっとする。

「おはよう御座います」
「ああ、スタンリー。夕べはちゃんと眠れたか?」
「はい。グッスリ」
「そっか。なら良かったよ。酔っ払いの相手させちゃって悪かったな?」

ジョシュが、そう言ってスタンリーの肩にポンっと手を置いた。

「いいえ。楽しかったですよ」

スタンリーは相変わらず、私の家族には愛想よく答えている。
そんな彼を横目で見つつ、私はリビングに行こうとした。
するとエマが卵をかき回しながら振り向いて、

「あ、スタンリーくん。今、朝食作るから食べて行って?」

と言い出し、私はギョッとして足を止めた。

(そんな…。一緒に朝食なんて冗談じゃない…っ)

そう思って振向いた時、スタンリーが、「いえ、そろそろテリーが来るし僕はいない方がいいと思うので、もう失礼しますよ」と言った。

「あら、そう?じゃあ…仕方ないわねぇ」
「すみません」
「いえ、そんな…。あら…?ちょっと頬が赤いけど…どうしたの?」

エマはスタンリーの頬を見て首を傾げた。
殴った張本人の私はドキっとして彼を見たが、スタンリーは、ちょっと笑うと、

「ああ、これ寝ぼけてぶつけちゃって…」

なんて言って誤魔化してくれている。
まあ、私に、キスするフリをして殴られたとは言えないだろうけど。

チラっと見ると確かに頬が赤くなっている。
私は少し罪悪感を感じていると、不意にスタンリーと目が合い、彼がニヤっと笑ったのを見て慌てて視線を反らした。

(な、何よ、あの余裕の笑みは…っやっぱり謝るもんですか…!)

そう思いながら私は、そのままリビングへと向かった。











ジョシュ





(どうしたんだろう…の様子が少しおかしい気がする)

僕はスタンリーを見送った後、リビングに向かった。

、彼、帰ったよ?」
「そ、そう…」

は、そう言っただけで後は台本を片手に黙ったままだ。
仕方なく僕はの隣に座って肩を抱き寄せた。

、ほんと大丈夫か?ちょっと、おかしいぞ?」
「だ、大丈夫だってば…心配しないでよ」
「そう?何かあれば相談しろよ?」
「うん」

が笑顔で頷くのを見て、僕はちょっとホっとすると彼女の頬にチュっと軽くキスをした。
その時チャイムの音が聞こえてが立ち上がる。テリーが迎えに来たのだろう。

「じゃあ…行ってくるね?」
「ああ、頑張って」

僕も、そう言って一緒に立ち上がると、もう一度、今度はの額にキスをして送り出す。

「行ってらっしゃい」
「行って来ます」

は笑顔で手を振るとテリーと一緒に家を出て行った。

「はぁ…今日もライアンの元に行かせるのか…」

そんな事を呟きながら、今、二人はどうなってるんだろう…と心配になる。
そこへレオが欠伸をしながら階段を下りてきた。

「レオ、おはよう」
「ああ、ジョシュ…おはよ。今、行ったのはか?」
「ああ、オババと仕事行った」
「そっか…起きるの遅すぎたかな」

レオは残念そうに、そう呟くとリビングに入って行く。
僕も中へ戻ると、レオが煙草に火をつけながらソファーに凭れかかっていた。

「夕べは何だか疲れたよ…。あんな大勢いるとグッタリするな…」
「ああ、俺も…。また後で寝なおそう…」

そう言ってレオの隣に座ると、僕も煙草に火をつけ煙を吐き出した。

「はぁ〜いいよなぁ?長いオフを取った人は」
「レオも取れば?今のが終ったらさ」
「それが次の作品、すでにOK出してあるから無理なんだ。だから、その後にするよ」

レオは、そう言うと肩を竦めて笑っている。

「そっか、まあ…人気者は大変だな?」
「よく言うよ。ジョシュも同じ立場だろ?」
「さあ、レオには負けるよ。女性の数にしてもね?」

僕が笑いながら、そう言うとレオは呆れた顔で息をついた。

「それはジョシュが近寄らないからだろ?モテてるのにさ」
「そうか…?俺、振られてばっかだけど?」
「はいはい…。それもジョシュが、その子の事をちゃんと見てなかったからだろ?普通に振られるのとじゃ意味が違うよ」

レオは、そう言いながら煙草を消して僕の肩をポンっと叩く。

「それは…レオも同じだろ?」
「まぁね。俺は自分で、よく解かってるよ」
「今は…誰と付き合ってるんだ?」
「あ〜…年上のACTRESS…かな?付き合ってるわけじゃないけど…」
「へぇ、そうなんだ。あ、例の何度か言い寄ってきたって彼女?」
「ああ、そうかな?一度だけかと思ったのに何度か電話来てさ…。ちょっと困ってるんだ」

レオは苦笑して、思い切り息をついた。

「今夜も会わないといけなくてさ…。気が重いよ…」
「ちゃんと断ればいいのに…」
「ああ、まあ今夜、言うよ。今は女を抱く気分じゃないしホテルに入る前、食事の時でもね?」
「うわ〜余裕の発言だな?嫌んなるよ」

僕はちょっと笑うと紅茶を飲んで横目でレオを見た。

の事が心配だからな…。他の女と遊ぶ気分じゃない」

レオは急に真面目な顔になると、そう言って目を伏せた。
それには僕も気が重くなる。

「ああ…ライアンの事か…?」
「まあ…ね。どうなってるんだろうな」
「さあ…オーリーの彼女が見た感じでは別に二人きりで会ってる様子もないって事だけど…」
「まだスパイの真似事させてんのか?オーリーの奴」

レオは、ちょっと笑いながら呆れたように呟いた。

「そうみたいだな?そのうち振られるよ、きっと」
「そうなったら、また一人で大騒ぎするぞ?あいつ…。あ〜やだ、やだ…。うるさいからなぁ…」

レオはウンザリしたように息をついたので、つい僕も吹き出してしまった。

「ま、どうせに泣きついて慰めてもらったら立ち直るだろ?」

僕は、そう言って肩を竦めると、レオもちょっと笑って、「それは俺達で阻止しよう」と言うとソファーから立ち上がった。

「じゃ、仕事の用意してくるよ」
「ああ。ま、今夜のデート頑張って」

僕は、ちょっと笑いながら親指を立てて見せると、レオは思い切り嫌な顔をした。








オーランド




「へクシュ…!う〜…誰か俺の噂をしてるな?!」

僕は鼻を啜りながら、ブツブツと言っているとメイクさんが吹き出している。

「オーランド…動かないで」
「あ、ごめん、ごめ……ふぁぁぁあ…」
「ああ…欠伸したら涙でるじゃない…。ティッシュで抑えて?」
「はぁ〜い…」

僕は言われたとおりティッシュで涙が浮かんだ目元を抑えると、少し大人しくしていた。
今日は僕が一番の早起きで、家を出たのも僕が一番先だ。
今日は朝からの撮影があるからだ。

「夕べのドンちゃん騒ぎで早起きはキツイよなぁ…。ジョニーとか大丈夫かな…」
「ジョニーなら、さっき来たわよ?」
「え?ほんと?」

僕が顔を上げるとメイク途中のペニーが顔を顰めた。

「ほら、もう動かないの。ジョニーなら、さっき大欠伸しながら特殊メイクのほうに向かったわ?」
「何だ、そっか。ちゃんと来たなんて偉い、偉い」

僕が、そう言って笑ってると後ろで、「何が、偉い、偉いだ!偉そうにっ」と声がして振り返った。

「あ、ジョニー、おはよ」

そこにはすっかり、ジャック船長になったジョニーがムスっとした顔で立っている。

「お前は相変わらず元気だな…」
「機嫌悪いなぁ…。二日酔い?」
「まぁな…。だから今日は、お前の戯言を聞いている余裕はないぞ?」
「ぬ…戯言って何だよ…」

僕が口を尖らせ、ジョニーを見るも、彼は顔を背けて座っている。

(チェ…無視かよ…寂しいな…)

僕はちょっとスネスネモードに入りつつ、メイクをしてもらっていると、メイクルームに僕のマネージャーが入って来た。

「おい、オーランド。彼女から電話だ」
「あ、アニス?サンキュ!」

僕は笑顔で携帯を受け取ると元気よく声をかけた。

「Hello、Hello〜?アニス?」
『あ、オーリー?今…大丈夫?』
「うん。メイク中だから」
『そう…』
「何?どうしたの?もしかして…ライアンがに何かしたとか?!」
『あ、ううん。その事じゃないの。あの…ちょっと今夜、会えるかなぁって…。最近、会ってなかったでしょ?』
「あ〜そうだね。今日は早めに終るから、じゃあ家に行こうか?」
『ほんと?来れそう?』
「うん。大丈夫だと思うよ?終わったら電話するから」
『解かったわ?じゃあ、待ってる。撮影、頑張って』
「うん。じゃ、後でね」

僕は、そこで電話を切ってマネージャーに電話を返した。
すると隣で聞いていたジョニーがニヤニヤしている。

「何笑ってんの?」
「いやぁ、別に。デートか?」
「うん。最近、全然、時間が合わなくて会えなかったからさ」
「ああ、それにスパイの真似事させてたしな?」
「そ、それは…さ…。が心配なんだよ」

僕はちょっと横目でジョニーを見ると、彼は目を細めて見返してくる。

「別にいいだろ?ちゃんが誰と恋をしようがさ。そこは兄貴の出る幕じゃない」
「な、何言ってるんだよ!ダメダメ!」
「何でだ?誰が相手でもか?」
「そ、それは…解からないけどさ…。でもが他の男とラブラブしてる姿なんて見たくないねっ」

僕は、そう言ってグリンっと顔を背けると後頭部に一撃くらった(!)

「こら、動くな、オーランド!」
「ぅう…っ何も殴らなくたって…」

僕は痛みと涙を堪えつつ、ジっとしていると隣でジョニーが笑っている。ちょっとムカつくって感じ。
するとジョニーはニヤニヤしながら僕を見て、

「ほんと過保護な兄貴だな…。ちゃんも可愛そうに。ま、恋人も作れないなら今度、俺が夜だけでも相手をして慰めてあげようかな?」

なんて事を言い出し、僕は目んたまがリジーほど飛び出した(!)いやトムとジェリーかも。

「ぬお…!!ジョ…!ジョニ〜っっ!!!な、な、何を言って…っ。このエロオヤジ!に手出しはさせないぞ!俺が、この場で…」
「オーランド…っっ!!!」



ガコン…っ!!



「……ぅっ」



ジョニーのセクハラ発言に僕が思い切り立ち上がると、メイクさんに二度目の鉄拳を頂いた……










イライジャ





「久し振りだね、ビリー」

僕は懐かしい顔を見ながら彼のグラスに自分のグラスをカチンと当てた。

「ほんとだな?俺もずっとロケで帰ってこれなくてさ。皆は元気?」
「うん、オーリーも相変わらずだし、ヴィゴも元気だよ?でもドムが、だんだん酷くなってくるよ」
「ハハハハ…まだちゃん命なのか」
「ウンザリするほどね…」

僕が肩を竦めて、そう言うとビリーは楽しそうに笑った。

「あいつも早く無理だってことに気付けって言うのにな?」
「だろ?ドムの奴、根拠のない自信持ってるから手におえないんだよ。あのヴィゴでさえ、歳の事を気にして悩んでるって言うのにさ」

二人で、そんな酷い事を言い合っていると、あのニュージーランドでのロケを思い出して懐かしくなった。
あの長いロケのおかげで、こうして家族のように付き合える大事な友達が出来たのだ。

「まあ、でも兄貴としちゃ心配だろう?ちゃんは若手の中でもダントツ一位の人気だしな?」
「ああ、まあ…。にはさ…いつも笑顔でいて欲しいだけなんだけどね、僕は」
「ふーん。ああ、じゃちゃんを幸せにしてくれる男なら付き合いを認めると、そういう事か?」
「まあ…ね…。嫌だけどさ。そればっかりは…」
「でも、もし、そうなったらリジーの兄貴達が黙っていないだろう?レオも相当、過保護だし可愛がってるからなぁ…」
「だね。レオは怖そうだ…。相手の男に何をするか…。それにジョシュとも結構、極悪コンビだしさ」

僕は苦笑しながら煙草に火をつけた。

「オーリーは泣き叫びそうだな?」
「ああ…あの人なら…きっと、そうかも。あと家出するかもね?」
「アハハハっ。前にも一度家出したんだっけ?ちゃんとケンカして」
「そうなんだよ。ほんと、あの時は大変でさぁ…。結局、皆で大騒ぎして探した割には家の裏庭の倉庫にいたんだけど」
「ああ、"の傍から離れたくなかったんだ〜っ"て泣いたって話だろ?」
「そうそう!あの人、きっとが、お嫁に行っちゃったら生きていけないね、きっと」

僕は大笑いしながら、そう言うとビリーも一緒に爆笑している。
このラウンジは一応、ビップルームなので、どんなに大騒ぎしても大丈夫なのだ。
このラウンジは、あるホテル内に入っていて、一般の席と、こうしてビップ用の個室がある。
ビップルームのドアはガラス張りだが、まず中を覗く人はいないので気楽なのだ。

「はぁ〜また皆で集まりたいな?」
「そうだよ。時々集まってたんだけどさ。ビリーは、なかなか捕まらないから…」
「ああ、でも暫くはロスにいるからさ。また今度は皆で飲もう?」
「そうだね。オーリーも喜ぶよ、きっと」

僕はそう言ってカクテルを一口飲むと、ふと今、ドアの外を歩いて行った男が目に止まった。

(今の…ライアンに似てたけど…まさか…)

「ん?どうした?リジー」
「え?ああ、いや…。ちょっと…トイレに行ってくるよ」
「ああ、はいはい」

僕がソファーから立ち上がると、ビリーは手をひらひら振りつつ、ウイスキーを飲んでいる。
そのまま僕は廊下に出て、今の男が歩いて行った方向に向かった。
ビップルームの一角は店の奥にあり、細い通路を通っていくようになっている。
僕はトイレに行くフリをしながら一つ一つビップルームを覗いていった。
その中には数人、知ってるハリウッドスターがいたりしてドキっとする。

(おかしいなぁ…見まちがえかな?のこと心配するあまり幻覚が見えたとか…)

そう思いながら戻ろうか…と体の向きを変えた時、その目の前のビップルームの中にライアンの顔が見えて慌てて横の通路に隠れた。
そして、そっと顔だけ出して中を覗いて見ると、そこにはライアンが一人でワインを飲んでいるのが見える。
だが時折、腕時計を気にしているところを見ると誰かと待ち合わせしてるようだ。

(誰と会うんだろう…)

そう思った瞬間、誰かが歩いて来る足音が聞こえて僕は顔を引っ込めた。
すると店員の声が聞こえてくる。

「待ち合わせの方は、こちらになります」
「あ、ありがとう…」

「―――ッ」

その声を聞いて僕は声を上げそうになった。
店員にお礼を言ってライアンがいるビップルームに入って行ったのは、なんと、僕らの大事な妹のだったからだ。

「ごめんね、遅くなって…」
「いや、そんな待ってないよ?」

ドアが閉まる瞬間、そんな会話が聞こえて来て僕は動揺していた。

「嘘だろ…?…」

そう呟いて暫く呆然としていたが、他の客が来て変な顔で見られたので慌てて自分達の部屋へと戻る。

何で、がライアンと二人きりで、こんなとこに…もしかして…ヨリを戻したのか…?
ライアンが離婚するって言ったから…でも、だからって、そんな…

僕は混乱した頭のまま、通路を歩いて行くと突然、肩を叩かれ、ドキっとして顔を上げた。

「リジーじゃないか。こんなとこで何してんだ?」
「レ、レオ?!」

振り向いたところにはレオが、いつもの笑顔で立っていた。

「あ……レオこそ…何して…」
「ああ…ちょっと…使用って言うか…」

レオは僕の質問に苦笑しながら肩を竦めた。
僕はレオの歯切れの悪い言葉に、

「ああ…また誰かとデート?」

と聞いた。

「まあ…デートってほどでもないけどさ。それより…リジーは?」
「あ、ああ。僕は久々にビリーと飲みに来て…。そこの部屋なんだ」
「ああ、そうなの?俺はここ」

レオはそう言って僕の部屋の隣の部屋を指差した。

「あ…そうだったんだ。気付かなかったよ」
「いや、俺は今来たとこなんだ。それより…顔色悪いけど…具合でも悪いのか?」
「え?あ…いや…」

僕は今見た事をレオに言うか言わないか迷った。
もし言えば…きっとレオも動揺してデートどころじゃなくなるだろう。
だけど…黙っていた事がバレたら、それこそ後で半殺しにされそうだ(!)

「あ、あのさ、レオ…」
「ん?何だ?」
「実は今…奥の部屋にがいるんだ…」

そう言った瞬間、レオの顔から笑顔が消えた。

「―――誰と?」

ここは一人で来る場所じゃないのは、レオも、よく知ってるからか、怖い顔で、そう聞いてくる。
僕はちょっと息をつくと、「……ライアン…」と言った。
レオはすでに解かっていたのか、一瞬、眉間を寄せたが、小さく溜息をつくと髪をかきあげた。

「…そっか…」
「あ、あの…どうする?見張るって言っても…。通路でウロウロしてたら目立つし…」
「ああ…だけどもし帰るなら、ここを通るから解かるだろ?とにかく今は互いの部屋に入ろう。俺、何とか相手を誤魔化して、リジーのとこに行くよ」
「う、うん。解かった。じゃ…僕は戻ってるね?」
「ああ、後で」

レオは、そう言うと隣のビップルームへと入っていった。
さっき僕が見たところ、隣の部屋には、大物ACTRESSがいたはずだ。

「はぁ…モテすぎってのも困るね、レオ…」

僕は、つい、そんな事を呟いてビリーの待つ部屋へと戻って行った。












レオナルド





「遅かったのね?」

俺が中へ入って行くと、彼女…シャロンは少しイライラした口調で顔を顰めた。

「ごめん。ちょっと、そこで弟に会って立ち話してたんだ」

俺は優しく微笑むと、彼女の隣に座って肩を抱いた。
それにはシャロンも笑顔になり、俺の肩に頭を乗せてくる。

「弟さんって…どの?」
「ああ、イライジャだよ」
「イライジャって…4男の?」
「ああ、そう。隣で友達と飲んでるみたいでさ」
「そうなの。後で紹介してよ」

彼女は、そんな事を言いながらグラスにワインを注いで俺に渡した。

「ありがとう」
「じゃ、久々の夜に…」

シャロンは、そう言って自分のグラスをカチンと当ててワインを飲んでいる。
俺もワインを口に運びながら、どう誤魔化して早く帰ろうかと考えていた。
が今この瞬間、ライアンと二人で飲んでいる…と思うと心配でソワソワしてくる。

何で、ライアンと…まさかヨリを戻すって事じゃないだろうな…
そんなのは絶対に認められない。

「レオ?どうしたの?」
「え?」

あれこれ考えていると、シャロンが訝しげな顔で俺を見ていた。

「ああ、ごめん。何?」
「レオってば、上の空ね?私といてもつまらない?」

そう言ってシャロンは少し怒ったように視線を反らしたので、俺は仕方なく彼女を抱き寄せ唇を塞いだ。
少し深く口付ければ、彼女もすぐに体の力を抜いて俺の首に腕をまわしてくる。
そうなれば彼女の方が積極的に口付けてきて、俺の上に覆い被さるように舌を絡めてきて、俺は思わず眉を寄せた。

「ちょ…シャロン…」
「ん…何よ…?」

俺が彼女の肩を掴んで唇を離すと、不満げに口を尖らせる。

「やっぱり私といてもつまらないの?」
「そうじゃないよ?そんな焦らないで。ね?」

俺は優しく微笑むと、彼女の頬に軽くキスをした。
するとシャロンは、ちょっと微笑んで、

「ここに部屋取ってあるの。行かない?」

と俺の手を取り、指を絡めてくる。
だが、それには俺も困ってしまった。

(いきなり部屋かよ…。勘弁して欲しい…それに今、ここを離れるわけには…)

「あ、あの…ちょ…ちょっと待ってて?」
「レオ?どこ行くの?」
「あ……ちょっと…トイレ?」
「もう…早く戻って来てね?」
「ああ。すぐ戻るよ」

俺は笑顔を見せて、そう言うと、すぐに廊下に出て思い切り手の甲で唇を拭いた。

「ったく…セックスしに俺を呼び出したのか……?勘弁してくれよ…」

俺は、そう呟くと急いで隣のリジーがいる部屋に入った。

「あ、レオ。もう抜け出せたの?」
「いや…ちょっとトイレって言って抜けてきた。 あ、ビリー久し振り!」
「久し振り。相変わらずレオもモテモテだな?」
「モテてるって言うより…何だかホストの気分だよ…」

俺は苦笑して肩を竦めると、ビリーが楽しげに笑った。

「で…レオ、抜け出せそう?」

リジーが心配そうに俺を見上げた。

「いや…いきなり部屋に行こうって言われてさ?どうやって断ろうかと逃げ出してきた」

そう言ってソファーに座ると、リジーとビリーが半目で俺を見てきた。

「な、何だよ…」
「はぁ〜あ…。じゃあ、さっさと部屋行って、相手を満足させて来たら?そしたら寝ちゃうだろ…?」
「その方が早いかもな?」

リジーは溜息混じりだが、ビリーは一人ケラケラと笑っている。
それには俺も溜息をついた。

「嫌だよ…。また関係持ったら、次があるかもしれないだろ?それを無くすために今日来たのにさ…」
「じゃあ、どうやって断るのさ?ったく一度でも関係持つから…」
「仕方ないだろ?しつこいから一回デートしたら気が済むかと思ったんだよ」
「あ〜その一回でサービスしすぎてメロメロにしちゃったわけだ?やるなぁ〜レオ!この色男!」
「…ビリー、頼むから楽しむな…」

俺は、どっと疲れてビリーを睨むと、彼は笑いながらも両手を上げてホールドアップした。

「ごめん、ごめん」
「それより…どうする?」

リジーが身を乗り出して俺を見た。
俺はちょっと考えて、「今から部屋行くフリして、ここを出るからさ。リジー俺の携帯に電話してくれない?」と頼んだ。

「それはいいけど…。彼女、怒るんじゃない?何て誤魔化すの?」
「あ〜別に怒ってくれたら、それでいいんだけどさ。急な仕事の電話だって言うよ。まさか彼女も仕事に行かせないとは言わないだろ?」
「そうだね。じゃあ…どのくらいにかければいい?」
「そうだなぁ…。このホテルに部屋とってるって言ってたし…出きれば入る前にかけて欲しいから15分後かな?」
「OK!じゃ、15分後にかけるから上手くやって早く戻って来てよ?、いつライアンと出てくか解からないんだからさ」
「了解。じゃあ、電話頼むな?」

俺は、そう言って立ち上がると、すぐに隣の部屋に戻った。

「お待たせ」
「もぉー遅いじゃない…」

俺がシャロンの隣に座ると、少しスネたように擦り寄ってきた。

「ごめん、ちょっと混んでて…」

適当に言い訳すると、シャロンはニッコリ微笑んで、ルームキーを指で回しながら、「じゃ、罰として部屋で償ってもらおうかしら?」と言った。
それには俺も顔が引きつりそうになったが何とか、いつもの様に嘘の笑顔を見せる(!)

「ああ、じゃあ…行こうか?」
「ええ。ここの最上階を取ったのよ?」
「え?最上階…?」
「ええ。嫌だった?」
「そ、そんな事ないよ?嬉しいよ」

俺は、そう答えながら、最上階なら直通エレベーターがある事を思い出し、頭が痛くなった。
直通の方が普通のエレベーターで上がるより、断然、部屋に着くのが早いのだ。

(ヤバイ…出きれば部屋に入る前に逃げ出したかったんだけど…時間、6〜7分くらいにしとけば良かった…っ)

俺はそう思いながら腕を絡めてくるシャロンの肩を抱いて気付かれないように息をついた。
彼女は部屋を出ると、サインで支払いをして真っ直ぐエレベーターの方に歩いて行く。
それだけでも、まだ3分ほどしか経ってない。

「さ、行きましょ?」
「ああ」

そう頷きながら仕方なく歩いて行くと、エレベーターの前にボーイがいて、すでにエレベーターを呼んである。

(チ…っ余計な事を…っ)

俺は、そう思いながらエレベーターにシャロンと二人で乗り込んだ。
直通エレベーターは、その名の如く止まることもなく、直ぐに最上階に到着して俺は胃が痛くなってきた。

(リジィ…頼むから、そろそろ電話をかけてくれ…)

心の中で、そう願うも15分と言ったんだから、そんなものは無理と言う話だ。
シャロンは俺の心とは裏腹に楽しそうに廊下を歩いて行くと、すぐに奥の部屋へ鍵を差し込んだ。
俺は、そのドアが開けられた時、気分は牢獄に入れられる囚人の気分だった…(!)

「レオ?入って?」
「あ…ああ…」

仕方なく部屋に入るも携帯は、直ぐ出せるようにスーツのポケットに入れておく。

「あ…シャロン、飲み足りないしワインでも取らない?」

そう言って振り向いた瞬間、彼女に抱きつかれ唇を塞がれた。

「…ん…っ」

最初から激しく口付けてきて俺は息が苦しくなったが、そのまま彼女に押されてソファーにドサっと座ってしまった。
そこで慌てて彼女を無理やり離す。

「プハ…ちょ…ちょっと待てって…っ」
「ん…もう…何よ、レオ…」

彼女はそう言いながら着ていたドレスの肩紐を外していく。
俺はソファーの上をジリジリ逃げながら、(こんな経験は初めてだ)

「あ、あのさ…その前に…何か飲まない?俺、喉乾いちゃって…」

と言って下着姿で迫ってくる彼女の肩を抑えた。
するとシャロンは、ちょっと微笑んで立ち上がると冷蔵庫からシャンパンを取り出し、すぐに栓を開けた。

ポンっと小気味いい音がして俺はちょっと息をつくとグラスを出そうと立ち上がろうとした。
だがシャロンが戻って来て俺の肩を抑える。

「シャロン…?グラスは…?」
「そんなものいらないわ?私が飲ませてあげる」
「……えっ?」

俺が驚いていると、シャロンはシャンパンを口に含み、俺の顔を両手で挟むと思い切り口付けてきた。

「んん〜…っ」

口の中にシャンパンが入って来て俺は本気で咽そうになったが、何とかそれを飲み込む。

「ゴホ…っ。な…何して…って、ぅわ…っ」

俺が手で口を拭いて顔を上げると、いきなりソファーに押し倒された。

「ちょ…シャロン…?」
「凄く会いたかった…。こんな風に思ったのなんて初めてよ…?」
「……あ…いや…あのさ…俺、女性に押し倒されるのって好きじゃないんだけど…」

目の前で下着も外している彼女を見ながら俺は視線を反らしつつ、そう言うと、不意に頬を両手で包まれギョっとした。

「今日は帰さないわ…?」
「え?あの…んぅ…っ」

シャロンは、そう言うと激しくキスをしてきて俺の上に覆い被さってくる。
これは本気で犯される(!)と思ったのも仕方がない事だ。

「ちょ…シャ…シャロン…」

時折出来る隙間から、何とか彼女を呼ぶもシャロンは俺のジャケットを脱がしながら、どんどんシャツのボタンも外していく。
これには本気で怖くなった(!)

(リジィ…!早く電話してくれ…!)

心の底から、そう叫ぶも、多分、やっと10分を過ぎたくらいだろう。
これは電話が来るまで自力で何とか逃げるしかないと、俺は覆い被さっている彼女の体を無理やり押し戻した。

「ん…レオ…どうしたの…?」
「ちょ…ちょっと…ここじゃ…狭いだろ…?ベッドに行かない…?」

そう言って何とか体を起こそうとした。
すると、その時、やっと携帯が鳴り出し、俺は天の助けと言わんばかりに脱がされたジャケットを取ろうと手を伸ばす。
だが、それをシャロンがサっと取り上げ向かいのソファーに放ってしまった。

「ちょ…何するんだよ?」
「ダメよ、出ないで?どうせ他の女からでしょ?今夜はレオは私だけのものなんだから」
「ち、違うよ…女からじゃ…仕事の電話かもしれないからさ」

俺はそう言ってソファーから立ち上がると、グイっと腕を引っ張られた。

「ダメったらダメ!早くベッドに行きましょう?」
「え?ちょ…ちょっと出るだけだから。ね?すぐ切るし」
「ちょっと、レオ…?!」

ムっとする彼女に俺は何とかそう言ってチュっとキスをすると、急いでジャケットを掴み携帯を取り出した。
ディスプレイには、"イライジャ"の点滅があり、俺はリジーが救世主に思えたほど嬉しくなる。

「Hello?」
『あ、レオ?操は無事かい?』
「おま…ふざけてる場合か…っ。遅いよ…っ」
『だって15分って言っただろ?もう襲われたわけ?』
「何とか、まだ無事だよ…っ。とにかく今から、どうにかして、そっち行くから…。は、まだいるんだろ?」
『ああ、まだ出てきてない。じゃ、無事に戻ってくる事を祈ってるよ。頑張って脱出してきて?』

リジーは人事だと思って楽しそうに、そう言うと電話を切った。
俺は思い切り溜息をつき、終了ボタンを押すと、

「ねえ、誰から?」

とシャロンがソファーで煙草を吸いながら聞いてくる。
すでに裸になっていたので上には軽くナイトガウンを羽織っていた。

「いや…それが…マネージャーからで…今から、ちょっと行かないといけないんだ」

俺は困ったような顔を見せて、そう言えばシャロンの顔が険しくなってくる。

「どういう事?今日の夜は仕事はないって言ってたじゃない?」
「そうだったんだけど…次回作の件で、ちょっと呼ばれてさ?今から行かなくちゃ…」

俺は、そう言いながらジャケットを羽織るとシャロンの方に歩いて言って、「ごめん…」と軽く頬にキスをした。
だがシャロンはスクっと立ち上がると、「ほんとに仕事?」と聞いてきてドキっとする。

「あ、ああ…。ほんとだよ?他の女じゃないって」
「なら仕事が終った後に、ここに戻って来て」
「え?!」

それには俺も驚いた。
だが彼女は真剣な顔で俺を見ている。

「そんな時間かからないでしょ?私、待ってるから」
「あ、いや…でも遅くなると思うよ…?」
「いいから戻って来て?次…なんて言ったら、また、いつ会えるか解からないじゃない。ね?そうして」

シャロンは、そう言って俺の胸に手を置いて、ゆっくり滑らせると顔を寄せてから見上げてきた。

「…あなたが好きなの…。解かるでしょ…?」
「ああ…。そりゃ…嬉しいけど…。ごめん、今夜は多分戻れないんだ…」
「え? ―――ちょっとレオ…っ」
「ごめん!じゃ…っ」

俺は彼女の気持ちを聞いて、思わせぶりな事を言うのはやめ、そのまま部屋を飛び出した。

"また電話する"とか、"今度、時間作る"とか言えば、また彼女を期待させてしまう。
だが俺は彼女の事は愛してないし、遊びだと思っていた。
だけど彼女が本気なら話は別だ。

(もう、こんな風に会うのはやめないと…)

俺は廊下を走りながらシャツのボタンを止めると、急いでエレベーターのボタンを押した。
すると、直ぐに扉が開き、そのまま飛び乗る。
そしてラウンジのある階のボタンを押して思い切り溜息をついた。

「あぁぁ…疲れた…っ」

ガックリ項垂れ壁に寄りかかると、ふと思い出し、唇を手の甲で拭った。
すると、手に彼女の口紅がついている。

(こんな格好で戻れば絶対、リジー達にからかわれる…)

俺は乱れたシャツを直しジャケットを着なおすと、ホっと息をついた。

「そろそろ遊びも控えよう…」

そう呟いた途端、エレベーターが止まりドアが開いた。
すぐにラウンジに入ってリジーの部屋へ向かうと、入った途端、拍手で迎えられる。

「イエーイ、色男、無事に生還〜〜!!」
「お帰り〜!何ともない?操は守ったかな?」
「お、お前等、ふざけんなっっっ!!」

俺は頭に来て、そう怒鳴るも二人は苦笑しながら肩を竦めた。

「だって、さっきの電話の声、相当、追い込まれてたようだったしさ?これでも心配してたんだよ?」
「嘘つけ、楽しんでるの間違いだろ?」

俺はリジーを軽く睨むとソファーに座って大きく息をついた。

「あれれ?何だか疲れてるって顔だけど…もしかして、イタしてきちゃった?」
「ビリィ…うるさいぞ…。するわけないだろ…?」
「なーんだ、もったいない。あんな美人から迫られてるのに、レオって時々解かんないよ、俺」
「遊びではいいけど…二回も三回もご免だよ…。特に相手が本気になるのもね…」

俺は髪をかきあげソファーに凭れると、何だか冷たい視線が二人から向けられた。

「何だよ、その目は…」
「レオって、ほんと冷たいよなぁ?割り切ってるって言うかさ?」
「ほんとだな?本気で女と付き合った事ないんじゃない?」
「いいんだよ、これで…。それに俺は上辺だけの俺を見て寄って来る女には興味ないっ。だから本気になる必要もないよ」

俺は、そう言って煙草に火をつけると思い切り煙を吐き出した。

「そんな怒らなくても…。あ…がライアンといるから機嫌悪いの?」
「当たり前だろ?リジーは心配じゃないのか?」
「そりゃ心配だけどさ…。でも…どうする気?ここで見張ってるわけ?それとも二人のとこに行く?」

リジーの問いに、俺は少し息をついて顔を上げた。

「いや…もし…がライアンと、どこかに行くようなら…そうするけど、そうじゃないなら行かないよ」
「そっか。だね…。は〜…デートじゃなければいいけどな…」

リジーが、そう呟いたのを聞いて、俺も同じ気持ちだった。
















「だから…もう前のようには戻れないの…。ごめんなさい…」

私は、そう言ってちょっと目を伏せた。
目の前のライアンは悲しげに私を見つめている。

今日は撮影が早くに終り、帰る時、私からライアンを誘った。
それは彼に"やり直そう"と言われたのを断る為だ。
ライアンは喜んで、時間を空けてくれて、このラウンジで待ち合わせをした。
スタジオを一緒に出ると周りから何を言われるか解からないからだ。
だけど、いざ二人きりになると何と言って切り出せば良いのか解からず、思ったよりも時間がかかってしまった。
でもスタンリーに言われた言葉を思い出し、思い切って今の自分の気持ちを伝えた。

正直、ライアンの事は嫌いじゃない。私が初めて本気で愛した人だ。
嫌いになりたくもないし、やはり簡単には、その想いを消せない。
だから最初は迷っていた。もし…リリーと別れるなら…また前のように戻れるのかもしれないと…そんな事も考えた。
だけど…そうなれば今度は私がリリーを傷つけてしまう。
いくら彼女から別れようと言ったところで、それは彼女の本心じゃない。
ライアンの気持ちを思ってのことだ。あんな辛い思いを、リリーにまでして欲しくはなかった。
確かに、あの時、恨んだりもしたけど…時が経てば仕方のないことのように思えてきたのだ。
原因は私もあった。やっと、そう思えるようになったから…もう過去は振り返りたくない。

…本気…?本気で…」
「ライアン…私…今だけを見ていきたいの。今と、そして未来があれば過去は必要ないわ?私はライアンのこと吹っ切れたの…」
「もう…俺の事は愛してないってこと…?」
「大切な人だというのは今も変わりないわ?でも、それは過去と同じ愛じゃない…。色々な事を忘れて残った思い出の感情なの…解かるでしょ?」
「ああ…」
「だから…やり直す事は出来ない…」

私が、そう言うとライアンは小さく息をついてソファーに凭れかかった。
そして、ちょっと微笑んで私を見る。

「解かった…。ごめん、勝手なこと言って…」
「…そうね?でも…ライアンの本心が解かって嬉しかった。ありがとう…」
「いや…あの時…言うべきだったんだ…。今じゃもう遅かった」

ライアンは、そう言って苦笑すると、

は…また新しい恋をして今度こそ幸せになって欲しい…」

と言ってくれた。

「ありがとう…」
「でも…そのくらい好きな人が出来たら…今度こそ、早めに家族に紹介しろよ?じゃないと…俺と同じようになるかもしれない」
「ライアン……」
「男ってさ…。そんな小さな事でも不安になるんだよな…。本気であればあるほど…相手の些細な行動が不安になる…」
「ごめんなさい…。私…ライアンを不安にさせてたね…。愛してたのに…」
「いや、俺もを不安にさせて…傷つけた。おあいこだろ?」

ライアンは、そう言って優しく微笑むと、

「今度、誰かを好きになったら…素直に何でも話したほうがいい。は意地っ張りなとこあるからさ?」

とおどけて肩を竦めた。
それには私もつい笑ってしまう。

「何よ…。自分だって…」
「まあ、それは自分でも認める」

ライアンは澄ました顔で、そう言って笑っている。
そして、不意にソファーから立ち上がった。

「じゃ、帰ろう?送ってくよ」
「あ、いいわ…?一人で大丈夫」
「でも…」
「いいの。ここで別れましょう?それで明日からは、また共演者として頑張ろうよ」

私がそう言うとライアンは、ちょっと苦笑して息をついた。

「OK…解かった。じゃ…外まで一緒に行こう。それなら、いいだろ?をタクシーに乗せて俺も帰るから」
「うん。解かった」

私もソファーから立ち上がると、ライアンと一緒に廊下に出た。
そのままライアンが支払いを済ませ、一緒にエレべーターに乗り込む。
その時、まさかレオやリジーが見てたなんて思いもしなかった。






「じゃ…あそこからタクシーに乗るわ?」

私がホテルのロビーでライアンに、そう言うと、彼は、ちょっと肩を竦めた。

「見送るのもダメなのか?」
「見送られたら切ないでしょ?ここでいいわ?」

そう言って微笑むと、ライアンも軽く息をついて私を見た。

「解かった。じゃあ…ここで…。また…明日な?」
「うん。じゃあ…明日」

私が手を振るとライアンも片手を上げてホテルの駐車場に向かうのにエレベーターの方に歩いて行った。
私は入り口から出てタクシーに乗ろうとして、ふと足を止める。
そして携帯を出すと、ある番号を出して、軽く深呼吸をした後に通話ボタンを押す。
呼び出し音が鳴って、少しすると相手が出た。

『Hello?』
「あ…あの…私…だけど…」
『ああ。名前出るんだし、それくらい解かるよ。どうしたの?』

相変わらず、素っ気無い彼の言葉に、ちょっと溜息が洩れる。

『Hello??』
「き、聞こえてるわ…?」
『何だよ。急に黙るな。で、どうした?何か用事でも?』
「あ、うん…。あの…今…ライアンと別れたとこなの…」
『え?………どういうこと?』
「だから…今日…彼に断ったの…。それだけ言いたくて…。あなたには…色々と心配かけたし…」

私は何とか、そう言うと相手の言葉を待った。
すると彼は、ちょっと息をついて、

『別に…心配なんてしてないよ…。まあ、自分で、そう決めたんならいいんじゃない?明日からは、また仕事も頑張れるだろ?』

と、いつもの、ぶっきらぼうな声が聞こえて私は少し胸が痛んだ。

『で…それだけ?』
「え?ええ…ごめん…。忙しかった?」
『別に…』
「そう…。あ、あの…今朝は…ごめんね…?」
『今朝…?ああ……まだヒリヒリするよ』

スタンリーは、ちょっと笑って、そう言ってきた。

「ご、ごめん…。でも…そっちだって悪いんだから…人のことからかって…」
『ああ……。  別に、からかったわけじゃないさ…』
「………え?」

彼の言葉にドキっとした――


『ほんとは……キスしたかったんだ…』

「―――ッ?!」


その言葉に私は一瞬で顔が赤くなった。
心臓がドキンと跳ね上がる感覚で、苦しいくらいに鼓動が早くなる。

『―――って…言ったらどうする?』

スタンリーは、いつもの余裕な声じゃなく、少し小さな声で囁くように聞いてくる。
それには私も何て答えようか困ってしまった。

「な…何言ってるの…?また…からかってるんでしょ…?」
『……どうして?』
「どうしてって…。いつも…そうじゃない。今朝だって、そうよ…?」
『ああ…そう言ってたっけ…。じゃあ…そう思ってくれてていいよ…』
「え…?どういう…」

その言葉の真意を聞こうとした時、受話器の向こうで女の子の声が聞こえた。

『――スタンリー、誰と話してるの?早く、こっち来てよ ――ああ、解かってる…! …ああ、じゃ…用事はそれだけ?』
「え…?」
『俺、今、ちょっと人と会ってるからさ』
「あ…ご、ごめん…。じゃあ、切るね…?」
『ああ。 ――あ、?』
「…な、何?」

名前を呼ばれただけでドキっとする。
だがスタンリーは、いつもの口調で、

『明日、いつも通り俺が迎えに行くから。ちゃんと台詞入れておけよ?あと午後から取材入ってて数枚写真取るし夜更かしはするなよ?』
「……解かった…」
『ああ、じゃあな?』
「あ…あの…」

慌てて声をかけたが、すでに電話は切れていて私は思い切り息をついた。

「何よ…。言いたいことだけ言っちゃって…」

私は、そう呟いて携帯をしまった。

また…からかわれたんだ…だって、あいつが、そんなマトモな事をいうはずないもの。
それに…女の子と一緒だった。そりゃオフなんだから誰と会おうと彼の勝手だけど…

「…彼女…かな…」

そう呟いてタクシーの方に歩き出した。

そう言えば…私になんか手を出さなくたって女には不自由してないって言ってたっけ…
じゃあ、さっきの子も、そんなガールフレンドのうちの一人かもしれない。

「モデルって遊びが派手だって聞いた事があるけど、ほんとね…っ。感じ悪い…」

そう呟いてちょっと息をつく。
……なんて私だって女優なんて仕事をしてるんだから地味な方ではないけど…
でも、よく考えたら結婚を約束した人に裏切られ、その後、恋愛恐怖症みたいになって、未だ新しい恋すら出来てない…
実は地味なのよね、私ってば…

「はぁ…何で、あいつになんか電話しちゃったんだろ…」

そう呟いて空を見上げた。
真っ暗な空に星がいくつも輝いていて、ちょっと切なくなる。

「…何だか一人ぽっちな気分だな…」

そんな事を思ったら、無償に寂しくなってきた。

(早く家に帰ろう…皆の顔が見たい…)

そう思ってタクシーの前まで歩いて行くと、急に肩を叩かれドキとした。


「お嬢さん、寂しそうですね?俺とデートでもしませんか?」

(む…こ、これはナンパ…!!こんな高級ホテルの前でナンパするとは、どんな男よ…っ)


そう思いつつ怖い顔で、「結構です!!」と振り向くと、そこにはレオが優しい笑顔で立っていた。

「…レ、レオ……?何で…」
「僕もいるよ?」
「…あ…リジィ…とビリー?!」

レオの後ろから、ひょこっと顔を出した二人に私は本気で驚いた。

「な、何してるの…?皆で…」
「今、3人で飲んでてさ?帰ろうとしたらが一人でタクシーに乗ろうとするのが見えたから」
「さ、3人で…飲んでたの…?」
「ああ、ここの上のラウンジでね?」
「え…?」

ラウンジ…と言われてドキっとしたが、レオの様子じゃライアンと一緒のところは見られてないようだ。

「そ、そう…。私も…お友達と、ここのレストランで食事してて…」
「そっか。じゃ、一緒に帰ろう?」
「う、うん」

私が頷くとレオは優しく微笑んで、頬にチュっとキスをしてくれた。
それだけで、さっきの寂しさも少しだけ消えてくれる。

「ああ、じゃ僕は、まだビリーと飲んでくるよ。一緒に行くとこがあるんだ」
「ああ、解かった。じゃあ、は俺が送ってく」
「うん、任せたよ。じゃ、、行ってくるね?」
「あ、うん…あまり飲みすぎないでね?」
「OK!」

リジーは笑顔で手を振るとビリーとタクシーに乗り込んで、どこかに行ってしまった。
それを見届けると、レオが私の肩を抱き寄せ、「さ、帰ろう?」とタクシーのドアが開くと、私を先に乗せてくれる。

「ビバリーヒルズまで…」

レオが運転手に行き先を告げると、すぐに車は走り出した。
窓から流れる景色を見ていると、少し甘えたくなって、レオの肩に寄り添う。

「…どうした?今日は甘えん坊だな…?」

レオは、そう言いながらも私の肩を抱き寄せて両腕で私を包むようにしてくれる。
だがレオの胸に顔を押し付けると、かすかに香水の香りがして、私はちょっと顔を顰めた。

「……レオ…誰かとデートだったんでしょ…?」
「え…っ?な、何で…?」
「レオの体から…レディースものの香水の香りがする…。これ…シャネルよね…。レオの嫌いな」

レオが慌ててるのを感じながら私は少し意地悪がしたくなり最後のとこだけ強調してしまった。
するとレオは困ったように私の顔を覗き込んでくる。

「あ、あのさ、…。別にデートだったわけじゃなくて…これは、さっきアクシデントで…ちょっと…」
「ほんと…?」
「う、うん、ほんと。それにデートだったらリジー達と一緒にいるわけないだろ?」

そう言われてみればそうだな…と思いつつ、レオを見上げた。

「レオ…恋人いらないの……?」
「え?ど、どうした?急に…」
「だって…レオってばモテるのに私のことばかり構って…他の皆も同じだけど…もったいないよ?」
…そんなの皆はそうしたいからしてるだけだ。それに俺は恋人なんていらないよ…」
「どうして…?寂しくない…?」
は…寂しいの…?俺達がいても…?」
「そういうわけじゃないけど…」

でも…やっぱり…こんな寂しい気持ちの時に…ギュっと抱きしめてくれる人が欲しい…と思った。
それはレオもオーリーもジョシュもリジーも…こうして望めば抱きしめてくれるけど……
でも、それは家族愛であって私の求めてるものじゃない。

今の私が欲しいのは…家族の愛じゃなくて………私だけを愛してくれる、唯一無二の愛情だ…


…?どうした?」
「ううん…。何でもない…」


私はレオの胸に顔を埋めながら、小さく首を振った。

するとレオは私の頬を優しく撫でて、顔を上に向けると、そっと額にキスを落とし、最後に頬にもキスしてくれる。

いつもなら、それで安心するのに…今日は…何故か逆にそれが寂しく感じた―――













久々家族夢Uで御座います。
少しづつ動いてきてかなあ?
でも今回の一番の被害者は間違いなくレオ様でしょうね(笑)
ちょっとラブコメ路線風味で…(笑)
モテモテも罪&辛いわね^^;