「えぇ?ない?!」

私は事務所の女の子の言葉に唖然とした。

「はい。預かってるものはないです」
「嘘…だって…。スタンリーに頼んだのに…」
「そうなんですか?彼、一昨日、ちょっと仕事が入ってテリーさんに呼び出されたみたいで。その日は事務所に来るって言ってたけど結局来なかったんです」
「そ、そうなの…?嘘ぉ……」

私は全身の力が抜けてソファーに腰を下ろした。

「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわ…?教会からタクシー飛ばして来たのよ…。どうしよう…。スタンリーったら、どこに持って行ったんだろ…」
「電話で聞いてみますか?彼、昨日からオフだけど……」

その女の子の言葉に私はガバっと顔を上げた。

「お願い!電話してみてくれる?私、携帯、家に置いてきちゃって……」
「分かりました」

その女の子は笑顔で頷くと事務所の電話をとってスタンリーの携帯の番号を押している。
それを見ながらホっと息をつくも、すぐに、「あ……電源切ってます…」という言葉に再び私は項垂れた。

「嘘でしょう〜?どうしよう…スタンリー出かけてるのかなぁ……」
「オフの時の行き先までは私にはちょっと……」

女の子も困ったように俯いてしまい、私は仕方なく顔を上げた。

「そうよね…。ごめんね?手間を取らせて…」
「い、いいえ!さんと、こうして話せるのだけで嬉しいですからっ」
「え?」

その言葉に驚いて彼女を見ると、その子はニッコリ微笑み、「私…さんの大ファンなんで……」と照れくさそうに言ってくれた。

「あ…ありがとう。嬉しいわ」
「い、いえ…。今日のドレス姿も凄く奇麗です」
「ありがとう…。これレオのプレゼントなの」
「え?レオの?いいなぁ…彼に、そんな素敵なプレゼントもらえるなんて…凄く素敵です!彼、センスもいいんですねぇ…」

その子は頬を赤らめつつ溜息をついていて私はちょっと苦笑した。

「でも…困ったなぁ。スタンリーに皆のプレゼントを預けてたの…。このままじゃクリスマスなのにプレゼント渡せないわ……」
「えぇ?そうなんですか?!全くスタンリーったら!さんに頼まれた大事な物、どこに持って行っ…あ…もしかして…家かも!」
「え?」
「預かったまま家に持って帰って行っちゃったんじゃないですか?きっと忘れてるんだわ」
「そ、そうかな…?でも…家も知らないしいるか、どうかも…」

そこまで言いかけて、ふと思い出した。

そうだ…スタンリーにクリスマスはどうしてるの?って聞いた時、彼は、

"仲間と騒ぐくらいかな?"

と言っていた。
それに前もスタンリーの家で飲み会なんてやってたみたいだし…もしかしたら今日もスタンリーの家で集まってるのかもしれない。

「あ、ねぇ。スタンリーの家の住所って分かる?」
「え?ああ、はい、もちろん。社員の住所はちゃんと登録されてありますから」
「じゃ、ちょっと教えてくれない?私、家まで行ってみるわ?」
「えぇ?さんが取りに行くんですか?!」
「ええ。だって、そうしないと間に合わないし…。いないかもしれないけど…その時は諦めて明日、持って来てもらうわ?」
「そんな…。せっかくのクリスマスなのに…。もう!今度会ったら怒ってやらなくちゃ!」

何故か、その子がプリプリと怒り出して私はちょっと笑ってしまった。

「いいのよ。彼に頼んだ私がいけないんだもの。家に持って帰ると見付かるからって預けちゃったんだし…」
「でもさんに、ここまで来させて忘れるなんて許せません」

その子は怒り浸透といった感じでパソコンにスタンリーの家の住所を出してメモに書いてくれた。

「あの、ここです。さんの家から遠くないですね」
「そう…。良かった。これ…マンションじゃないみたいだけど…」
「あ、彼は自宅を持ってます。前に両親と一緒に住んでた家みたいですよ?今は一人で住んでますけど」
「え?じゃあ…今、ご両親はどこに?父親が単身赴任でもしてるの?」
「あ…それ…が…」

その子は、あ…っと手で口を抑え何だか言いづらそうに目を伏せてしまい、私は首を傾げた。

「何?言いづらい事?あ、離婚…したとか…?」
「い、いえ…そうじゃなくて…」
「じゃあ…何なの…?」

私は少し気になり、もう一度聞いてみた。
すると、その子は軽く息をついて、


「あの…ご両親、事故で……亡くなられたみたいです…」


と呟いた。


「嘘……」


そんな事だとは思わなくて私は、その場に立ち尽くした。

「私もテリーさんと彼が話してるのをチラっと聞いただけで…彼がここで働く事になった時、私も残業で残った時があって、その時に…」
「…じゃあ…スタンリーは一人になってしまったって…こと…?」
「い、いえ…彼には妹さんがいるみたいです」
「え?妹……」
「はい。ご両親は車の接触事故で亡くなられたんですけど…その車に妹さんも同乗してたんですけど…でも助かったって」
「そうなの?でも…じゃあ何故、今スタンリーは一人暮らしなんて…」

私は驚いてそう尋ねると、その女の子は、また顔を伏せて首を振った。

「それが…妹さん……助かったんですけど…重傷を負われて…まだ入院してるみたいです…」
「え?入院って……」
「……妹さん……植物状態だって……事でした…」
「……………っ」

私はその話を聞いて思わず息を呑んだ。まさか…そんな事だとは思わなくて――


「あ、あの…この事は知らないフリをしててください…っ」


呆然としている私に、その子は慌てて、そう言ってきた。

「知らない事って……どうして?」
「この事は社長とテリーさんしか知らないみたいで…。それは彼がその事を知って周りに同情の目で見られるのも嫌だからって話してたんです…」
「そう…なの…。だからテリーも私には何も…」

私はテリーに初めてスタンリーを紹介してもらった日の事を思い出していた。
その時は元モデル…と聞いただけで、一切、余計な話はせず、すぐに一緒に仕事をしだしたのだ。
普段ならテリーも私の担当になった人の事は全てとまではいかないけど、少しは話してくれていた。
でもスタンリーの事は何も話してはくれなくて疑問に思った事もあったが、私も、その頃はライアンと一緒に仕事をする事になり、
そっちの方が気になって、直ぐに、そんな小さな疑問は消えてしまったのだ。

(そんな事があったなんて……じゃあ…もしかして彼がモデルを辞めた原因って……)


さん……?」
「え…?!」
「あの…この事は…」
「あ、うん…。言わない…。知らないフリしてるわ…?」
「すみません…。私も立ち聞きしちゃったんで…。あ、でも他の人には言ってないですよ?さんにだけです」
「そう…。でも…教えてくれて良かった…。彼とは一緒に仕事をしてるんだし…何も知らないよりは知ってた方がいいから…」

私がそう言うと、その子もホっとしたように微笑んだ。

「あ…じゃ、ありがとう。お仕事、頑張ってね?」
「はい!あ、さん!」

出て行こうとした時、呼び止められて振り向くと、その子は笑顔で、


「メリー…クリスマス」


と言ってくれた。
私も笑顔で、「メリークリスマス!」と言うと急いでエレベーターへと向かう。
今の話で、鼓動が早く打ち、息苦しさを感じながら、私はスタンリーの住所が書かれたメモを握りしめた。

(何よ…いつも素っ気無い態度で弱いとこなんて見せないクセに…ほんとは辛い思いしてるんじゃない……)

不意に、涙が溢れてくる。


(何で、こんなに胸が痛いんだろう…)


私はギュっと唇を噛み締め、急いでビルを飛び出した。
待たせておいたタクシーに再び乗り込み、スタンリーの住所を告げる。
静かに車が走り出すと、私は息をついてシートへ凭れた。

窓の外を見れば、薄っすらと暗くなった空に、奇麗な星が光り始めていた。












キーラ






(はぁ…き、来ちゃった…)

私はドキドキした胸を抑えつつ、ハリソン家のエントランスまで歩いて来た。
家を出る前、に電話をしたのだけど全く繋がらず、少し迷ったが今日は招待されているのだし…と、こうして来てしまったのだ。

(レオ…久し振りに会うけど……覚えててくれてるかなぁ…)

そんな事を思いつつ、チャイムに手を伸ばした。その時、先にドアが開いてギョっとして顔を上げる。

「あ…っ」
「あれ…?君…」

目の前に出てきたのは、私が会いたくて堪らなかったレオナルド本人だった。

「あ、あの…こ、今晩わ……」
「キーラだよね?オーリーと共演してる。どうぞ、入って?」
「あ、はい…。あ、あの今、どこか行こうとしてたんじゃ…」

彼が私を覚えててくれた事に胸がいっぱいになったが、先に出てきたのを思いだし中へと案内してくれているレオに声をかけた。
するとレオは優しく微笑むと、

「いや、それが…が遅いから迎えに行こうかと思ったんだ」

と肩を竦める。

「え?…いないんですか?」
「ああ、ちょっと事務所に行ってて…ま、でも、そろそろ戻ってくるだろ?気にしないで入って?中にオーリーもいるしさ」
「は、はい…」

私は促されるままにリビングに向かうと、中は凄い事になっていた。

「ちょっとオーリー!これも運んでってよ!」
「分かってるよ、リジー!だけど俺は三つも四つも腕はないんだからさぁ〜!!」
「減らず口叩いてる暇があるなら、まず動け、オーリー!」
「何だよ、ジョシュまで〜〜!あ、父さん、邪魔邪魔!」
「あ、ああ…悪い…」

皆がキッチンとリビングや庭を行ったり来たりしながら大きな料理のお皿を運んでいて、部屋の隅には居心地の悪そうなハリソンが悲しげに立っている。

「凄いだろ?一気に料理とか運んでるから、ちょっとうるさいんだけど…」

レオは、そう言って苦笑しながら振り向いた。

「い、いえ…。あの私も何か手伝います」
「え?いいよ。キーラはゲストだろ?座ってて…って言っても、これじゃあなぁ……」

レオはリビングを見渡して、「でかい図体の男が動き回ってたらうっとおしいか…」なんて言って笑っている。
それには私もちょっとだけ笑ってしまった。

「やっぱり私も手伝います」
「そ、そう?…あ、そうだ。の友達のサラがキッチンにいるんだ。彼女を手伝ってやってくれるかな?」
「はい。あ、キッチンは…こっちですよね?」
「うん。頼むね?」
「はい」

レオの優しい笑顔にドキドキしながら私は笑顔で頷くと、キッチンへと歩いて行った。

「あ、キーラ〜〜!メリークリスマース!」
「あ、オーリー、お邪魔してます。凄いわね?」
「だろぉ?もうそろそろ皆が来るし急いで運んでるんだ〜!もう終わるけどさ」
「あ、私も手伝うわ?何をどこに運べばいい?」
「ほんと?助かるよ!じゃあ……このスパークリングワインとグラスを庭のテーブルに運んでくれる?」
「OK!」

私はキッチン前の廊下に出されているスパークリングワイン5本をまずは庭先へと運んでいく。
一気に持つと重いので2本づつ運んでから大量のグラスをトレンチに乗せた。

「大丈夫?半分持つわ」

その声に振り向けば私でも知っている女優が笑顔で立っていた。

「あ…ありがとう」
「いいの。私、サラ。宜しく」
「あ…キーラです。宜しく…」

サラは優しい雰囲気の女性で私は思ってたイメージと少し違うんだ…なんて思いながら彼女と一緒にグラスを運んだ。

「凄いわよねぇ。見た?外のイルミネーション」
「あ、はい。今、来る時に…」
「私、毎年見てるんだけど、今年のライトは全て白と淡い蒼だから凄く奇麗で見惚れちゃったわ?」
「はい、私も…テレビのニュースで見てたんで、生で見れて感激しちゃいました」
「庭のツリーも凄いわよ?レオが毎年、選んでくるの」
「え?レオが…?」

思わず彼の名が出てドキっとした。そして二人で庭に出て思わず溜息が洩れる。

「わあ……奇麗……」
「でしょ?ツリーも真っ白って感じで…。これのライトにあわせたみたいよ?イルミネーション」
「そうなんですか。でも本当に奇麗……」

暫し見惚れていると、後ろから、

「そんな見惚れてもらったら飾り付け頑張った甲斐があるよ」

と声がして慌てて振り返った。

「あ…レオ……」
「これ皆で飾り付けしたんだ。ライトもツリーを選んだ時に俺が買ってきた。どう?白いライトもいいよね?」
「ええ、凄く素敵……写真に撮りたいわ?」

私がそう言うとレオはちょっと笑って、「後で皆で撮ろうか?」と言ってくれた。
私はそれだけで、また彼を好きになる。

「キーラ?グラス、ここにおきましょ?」
「あ、は、はい…」

ボーっとしていたらサラが先にグラスを並べ出して私も慌てて走って行った。
そこには見慣れた男の子も一緒になって手伝っている。

「あ…っ。ハリー…」
「え?あ…今晩わ」

その奇麗な瞳をした男の子は私の一言にクスっと笑うと、

「オーリーと一緒に共演してるんだってね?大変だろ?」

なんて言ってきた。

「あ、あの…まあ……それなりに…(!)」
「あははは!"それなり"かぁ〜!やっぱりねぇ〜。僕、ダニエル。宜しくね、キーラ」
「え?あ、私の名前……」
「知ってるよ?前にから聞いたことあるし一緒に撮った写真も見せてもらったから」
「そ、そう…宜しくダニエル。あの…ハリーポッターに出てる…」
「うん、そうだよ?皆とは従兄弟なんだ」
「あ…そう言えば…従兄弟も俳優やってるってに聞いたわ?」
「そう。それが僕」
「嘘…ま、まさかハリーの子だなんて思わなかった…」
「あははは。そこまで聞いてなかった?」
「え、ええ…。ちょっと話しただけで……でも…ほんとに俳優一家って感じね?」

私はちょっと驚いて溜息をついた。
そこに、チャイムが鳴り響き、また誰か来たようだ。

私は慌てて他のグラスも運ぶべく、またサラとキッチンへと急いだのだった。












ヴィゴ





「な、何?はいないのか?!」
「うっそだろぉう?!」

私が驚くと何故か、そこで偶然一緒になってしまったドムまでが大げさに頭を抱えている。
それにはオーランドも肩を竦めた。

「それがさぁ〜事務所に行ったっきり戻って来ないんだよ〜。携帯も置いていってるし連絡取れなくて…。
でもほらクリスマスで道が混んでるだけかもしれないから、そろそろ戻ってくると思うよ?ま、入ってよ」

能天気なオーランドの言葉に私は小さく溜息をついた。

(仕方ない…帰って来ると言うのだから待つ事にしよう)

そう思っていると隣のドムがオーランドに飛び掛っている。

「うぉーオーランドォ〜!」
「うわ!な、何だよ、ドム!離れろよ!」
「本当に事務所に行ったんだろうなあ?!あぁん?!」
「な、何だよ、嘘言って、どうなるってのさ!!」
「ま、まさか男とク、クリスマスデートなんて事は…っっ!!」
「はあ?ぶぁーっかじゃないのぉ?そんなの俺達が許すはずないだろ?!とにかく離せ、こらぁ!!」

ドムの言葉に今度はオーランドまでがキレて私が編み出した頭突き攻撃なるものをドムに繰り出している。

「ぃっだぁ!!このやろ、やったな〜っ?!」
「おぅ!やったが、どうした!このティファニー坊やめ!」
「んな…っっ!!何で、それを…っ!お前俺の後をつけたのかぁん?!」
「ほーんと、ぶぁーっかじゃないの?!誰がドムなんてつけるか!そんな時間合ったらトイレに篭ってた方がまだマシさ!(?)」
「な、何だとう!あーーっそ!じゃあトイレで踏ん張ってこいよ!さあさあ!」
「あいにく今はしたくありまっせーん!」
「なにぃ〜〜?!」


「やめないか!二人とも!!!」


「「……………っっっ」」



私は二人の何ともくだらん言い合いに体がプルプルしてきて思わず怒鳴ってしまった。
二人はと言うとビクっとした顔のまま固まっている。

「コ、コホン…!ったく…今日は聖なる夜だと言うのに、トイレだの踏ん張るだのと…いい加減にしろ!」
「「すみませぇん………」」

私の言葉に二人はシュンとして項垂れると、すごすごとリビングに入っていく。
私はどっと疲れて来て思いきり溜息をついた。

「さっすがヴィゴ!よく言ったね〜」
「…イライジャ…お前、聞いてたんなら援護しろ……」

ウンザリしながらそう言うとイライジャは思い切り顔を顰めて身震いして見せた。

「嫌だよ…そんなの…。あの二人に関ればろくな事が起きないからね…」
「………よく…分かってるじゃないか…」

そう言ってニヤリと笑えばイライジャも、ふふん…っと不適な笑みを浮かべてくる。

「メリークリスマス、ヴィゴ」
「ああ、メリークリスマス…」

この言葉を最初に言いたかったがいなくて、少し落ち込みつつも笑顔で答える。


「あ〜あ〜それにしても…もうすぐ6時なのに、どうしたんだろう……」


ふと心配そうな顔で呟くイライジャに、私も何だか嫌な予感がした――










ハリソン





「ちょっとオーリー、この皿、そっち!あ、ちょっと父さん、どけて!」
 「あ、ああ悪い……」
「もうーそれ誰が動かしたのぉ〜?さっき持っていったのにさぁ〜。あ、父さん邪魔!」
 「お、おう…すまん…」
「おい、リジー!ヴィゴにグラス!あ、父さん、邪魔だからバーで飲んでて」
 「あ、ああ、そうだな…悪い……」
「あぁ〜〜〜っっお父様〜〜!!お久しぶりです〜!」
 「あ、ああ…ってお前かぁぁ!!小僧!!!」


散々邪魔者扱いされてイライラしつつも、それが、だんだん悲しくなってきていた私に突然、疫病神と言ってもいい小僧が抱きついてきた。
そして私はというと……今までのイライラと悲しみの全てを、その疫病神へとぶつけてやった…!




ガコーーンっっ!!!




「ぁぃだぁ!!!」


「私は、お前の"お父さん"じゃなぁぁぁぁぁぁあいいい!!!」




シーン………




私の大絶叫で今まで大騒ぎだったリビングが一気に静まり返り、ハっとした。
ハァハァと肩で息をしている私を、長男も二男も三男も四男も、そして素敵なレィディ〜たちも(!)目を丸くして見つめている。(いや照れるな)(ォイ)



「と、父さん…?お、落ち着いて……」 とはジョシュ。


「…おい、ドム…お前は庭に出てろ……」とはイライジャ。


「わ、分かったよ…」とは小僧。



そして…


「と、父さん……?ま、まずは深呼吸して〜?はい、吸ってぇ〜吐いて〜ヒーヒーフーヒーヒーフ〜…」(!)


我が家でも一番、飛んでる頭の二男が、そんな事を言いながら私に近付いて来た。
我を失っていた私も、つい一緒になって、


「…ヒーヒーフ〜…ヒーヒー……ってアホかぁ!!!そりゃラマーズ法だろうが〜〜〜っ!!」




ガンっ!




「ふぎゃ!」


思わず息子にまで鉄拳をお見舞いしてしまった。
オーランドは頭を抑えて足元に這いつくばっている。
そこに今まで関ろうとしなかった長男が、そっとオーランドの顔を覗き込んでいる。

「お、おいオーランド…生きてるか……?」
「うぅぅ〜〜〜っ!生きてないよ!!今、一瞬、死んだ、おばあちゃんが手を振ってたよ?!」
「お、おいおい…俺達に、おばあちゃんはいないだろ…?それは幻覚だ、オーリィ……」
「あ、そっか……。じゃあ、きっと隣の家のおばあちゃんだ……」

オーランドは、そんな事を言いながら何とかフラフラ〜っと立ち上がると、目に涙をいっぱい溜めながらレオに抱きついた(!)

「うわぁーん!!傷心の俺に、この仕打ちは酷くない?!いくら血が繋がっていないっていっても親子なのにぃ〜っ!!」
「わ、分かったから…そんな泣くなって…それに今のは少なくともお前も悪いぞ…な?まず庭に出てツリーでも見てろ。癒されるから…」
「うぅ〜…痛いよ〜…〜〜…俺の天使はどこに消えたんだぁ……」

レオは大泣きするオーランドの肩を抱いてドム同様、庭へと連れ出していった。
そこで少しづつ冷静になってきた私は思いきり伸びをすると、


「あぁ〜すっきりしたな!さあ、飲むか!」


と言って皆の方に振り返った。


その時、怯えた顔のジョシュとイライジャと目が合い、その後はサーと潮が引くように皆が、リビングからいなくなってしまったのは言うまでもない…。















「あ、ここだと思います…」

私は運転手に声をかけて車を止めて貰った。

「ここで下りるの…?」
「え?あの……」

預けたものを取りに行くだけなのだから、もちろん待っててもらいたい。家を見れば明かりがついていてスタンリーがいるのは分かる。
だけど…運転手は少し迷惑そうな顔をしている。もしかしたら上がる時間なのかもしれない。
今日はクリスマスだ。予定があるに違いない。

(どうしよう…私、財布も忘れてきちゃってるのに…)

「あ、あの…すぐ済むので待ってて欲しいんですけど…」

おずおずと、そう言ってみると、その運転手は思い切り顔を顰めた。

「俺、約束があるんだ。本当は、もう終わりの時間なんだよね…」
「あ…す、すみません…」

客はこっちなのだから謝る必要もないのだが、何となく罪悪感を感じてしまう。

「で、でも私…お財布持ってなくて…」
「はあ?あんた、お金も持ってないのに色々引きずりまわしたのか?!」
「い、いえ…そうじゃなくて…家に忘れただけですっ。だから待ってて下さるなら家に着いてから、お払いします」

私は運転手のムっとした顔が怖くて慌てて説明するも、何だか信用できないという顔で見ている。

「ここ、あんたの友達の家?」
「え?あ…友達というか…知り合いの…」
「じゃあ、そいつに払ってくれるよう頼んできなよ。もう、これ以上付き合う気はないからさ」
「え?で、でも…」
「いいから早くしてくれ。こうしてる間にも時間が過ぎちまう」
「…すみません…」

私はもう一度謝るとタクシーから下りた。

「逃げるなよ?ここで見てるから」
「に、逃げませんっ」

窓を開けて、そんな事を言ってくる運転手に、さすがの私もムっとして言い返した。
そして、そのままスタンリーの家に向かって歩いて行く。

どうしよう…いきなり家まで来て、タクシー代払ってなんて言えないわよ……
もう…家に来てくれれば払えるのに…その時間すら惜しいみたいだ。

私は途方に暮れながらも、すっかり暗くなった空を見上げて溜息をついた。

(皆、きっと心配してるよね…もうサラとかキーラだって来てるに違いない…)

「はぁ…」

自分が事務所に取りにいくのを忘れていたのが悪いのだ。仕方ない…。

そう思いながらドアの前に立つと、軽く深呼吸をした。
スタンリーの家は、かなり大きく横に長い平屋造りだった。
家の前にパームツリーが3本立っている。

(突然、私が尋ねたらスタンリーは驚くだろうか…)

ふと心配になったが、預けたプレゼントを取りに来たのだから、そう言えばいい。
そう思い直し、チャイムを押そうと手を伸ばした。その時、突然ドアが開き、


「じゃ、またな?スタンリー」
「まったねぇ〜」


と手を振りながら知らない男女が出てきて私は思わず後ずさった。

「あれ…?君、誰?」
「あ、あの……」
「ちょっとスタンリー!!女の子が来てるわよ?」

一緒にいた女性も家の中に向かって叫んでいる。そして私の事をジロジロ見て来て少しだけ顔を反らした。

「何だよ、誰が来たって…?」

その時、声が聞こえて家の中からスタンリーが顔を出した。

「あ…スタンリー」
「な…っ何してんの?!」

だるそうに顔を出したスタンリーは私の事を見て思いのほか驚いた顔をした。

「あ、この子、あれだ!ハリソンファミリーの末っ子の…ちゃん!」
「…………っ」
「お、おい、カール!いいから早く帰れ!時間ないんだろ?!」
「え?おい、スタンリィ…っ」

知らない男性に、そう言われて私はドキっとしたが、スタンリーも慌てて、その男性の背中を押している。
すると一緒にいた女性も、

「ああ!あの子ね!ほら、スタンリーが大ファンだって言ってたハリソンファミリーの…今、一緒に仕事して――」
「シェリー!いいから帰れって!ほら!」
「あぁん、ちょっと何よ〜〜!!それに、いつの間に手つけたわけぇ?この前と言ってる事、違うじゃないの〜っっ」
「うるさいな!そんなんじゃないって!いいから帰れよ!ほら!」
「分かったわよ〜!じゃあ、またね!行こ?カール」
「ああ、じゃ、メリークリスマース!仲良く過ごせよな?!」
「うるっさい!!!」

二人はひらひら手を振りつつ歩いて行ってしまい、私はチラっとスタンリーを見た。
少し顔が怖くて怒ってるようだ。スタンリーは思い切り息をつくと、私を見てきてドキっとする。

「何しに来たの……?」

ウンザリするような言い方をされて、それには私もついムっとしてしまう。

「き、来たくて来たわけじゃないわよ…!預けておいたプレゼント、事務所に取りに行ったらないって言われて、それで…」
「あっっ!!ヤベ…」
「え?あ、あの…」

突然スタンリーは大きな声を出して家の中に走って行ったが、すぐに鍵を手に戻ってくると表に止めてある事務所の車のドアを開けている。

「ああ…悪い!俺、車に入れたまんまだった…っ」

スタンリーは荷物を取って振り向くと申し訳なさそうな顔で、そう言った。

「あ…そう…いいわ…あるなら…」

私は何だか、そんなスタンリーを見た事がなくて戸惑いながら、少し気が抜けて、そう呟いた。
だがスタンリーは私の前まで来ると、

「ほんと、ごめん!あの後、テリーに呼び出されて遅くなっちゃって…すっかり忘れてた…っ。ごめんな?」

スタンリーは、そう言うと私の頭をクシャっと撫でてきて胸がドキンっと音を立てた。
こんな風に優しい態度で接して貰った事が、あまりないからだ。それには少し照れくさくて視線を反らした。

「い、いいったら…。そんな謝らないで…?」
「でもさ…間に合うか?もう6時半だけど…」
「大丈夫。ここから10分くらいだし…」

そう言って顔を上げた時、待たせていたタクシーの運転手が大声で怒鳴ってきた。

「おい!いつまでかかってるんだ!さっさと金払えよ!こっちは時間ないんだっ!」
「あ…いけない…」
「何だ、あいつ…。随分な態度だな…」

運転手の物言いにスタンリーも顔を顰めている。
だが私は仕方なく、

「あ、あのスタンリィ…悪いんだけど…タクシー代貸して欲しいの…。お財布置いてきちゃって…」

と頼んでみた。
するとスタンリーはキョトンとした顔で私を見たが、ちょっと微笑むと黙ってタクシーの方に歩いて行く。

「あ、あのスタンリー?」

慌てて振り向くとスタンリーは運転手の前に立ち、「いくら?」と聞いている。

「45ドル」

運転手がムっとした顔を隠さないまま、そう答えると、スタンリーは黙ってお金を差し出した。

「どうも」

一応、支払いをしてくれたからか、運転手はそれだけ言うと、

「今度からガールフレンドには財布持つように言っとけよ?」

と言い放ち窓を閉めた。

「ガールフレンドじゃねーよ!」

スタンリーが走り去っていくタクシーに向かって、そう叫ぶと軽く息をついて戻って来た。

「何だ?あの運転手…態度悪いな…」
「あ、あの…ごめんなさい…ちゃんと返すから」
「え?ああ、いいよ、そんなの。それより…どうやって家まで帰るんだ?」
「あ…そっか…」

そこで思い出し私は困って俯いた。
するとポンっと頭に手が乗せられ、「俺が家まで送るよ…」とスタンリーが苦笑している。

「でも…」
「いいから。忘れてたお詫び。ほら来いよ」

スタンリーは車の方まで歩いて行くと、ドアを開けてくれた。
私はタクシー代まで払ってもらったあげく送ってもらうのには躊躇ったが、時間も時間だし…と甘える事にした。

「凄い格好だな…。ドアに挟めないようにしろよ?」
「ぅん……」

私はドレスの裾を持ち上げると車の中に入れてドアを閉めた。

「じゃ、出すぞ?」
「うん…」

スタンリーはエンジンをかけると勢いよく車を出して私の家へと向かった。
チラっと見れば彼は少し、いつもと違う感じがする。さっきもだけど私が突然来た事で、かなり動揺しているように見える。
それに…さっきの友達が言ってたこと…確かにスタンリーは、うちの家族の大ファンだと言っていた。
でも…それにしては、さっきの彼は少し慌てすぎだったような気がする…。

黙って前方を見つめて運転しているスタンリーの横顔を見ながら、私は、ふと、さっきの事務所の女の子の話を思い出していた。

ご両親が事故で亡くなり…妹さんは植物状態……まさか彼が、そんな悲しい目にあってたなんて思わなかった…。
って、こんな風に思われるのが嫌で隠してたのよね…あまり…詮索しない方がいいかな…

窓の外に視線を向け、そんな事を考えていると我が家のイルミネーションが見えて来た。

「凄いな…」
「え…?」
「あれ…。の家だろ?」
「あ……うん…そう」
「毎年やってるのは知ってたけど……今年のは今までで一番奇麗だな…」
「え…?」
「あ、ああ…ほらニュースで毎年見てたからさ…」
「ああ…そうね…」

私はちょっと微笑んでスタンリーを見ると不意に目が合ってドキっとした。

「どうした?少し…元気ないけど…」
「え?そ、そんなことは…」
「そうか?せっかくのクリスマス…しかも、これから家でパーティなんだろ?もっと元気出せよ」
「げ、元気よ?私は……」
「そう?なら……いいけどさ…」

スタンリーは、そう呟くとハンドルを切って正門の方へと曲った。
そこには記者達がいて一斉にフラッシュをたかれ目を細める。

「何だよ…クリスマスまで張り込んでんのか?暇な奴等だな…」

スタンリーは、そう言って苦笑すると、門の前で一度止まり門を開けるリモコンを取り出した。
私を迎えに来る際に使えるよう、テリーに預けたものだ。門が開くと車を中に入れて、また、それを閉める。
そのまま車を走らせてエントランス前で停車した。

「ほら、ついたよ」
「う、うん。ありがとう……」
「ああ、いいよ。俺が悪かったしさ…」

スタンリーは、そう言って前髪をかきあげると少しだけ息をついている。
私は、そんな彼を見ながら、なかなか下りられず、黙っていると、「どうした?行かないの?」と顔を上げた。

「あ、あの…スタンリーは…これから、どうするの?さっき…友達は帰ったみたいだけど…」
「ああ、あいつらは夕べ酔っ払って、うちに泊ってったんだ。俺は…今日は…静かにキリストにでもお祈りしてるかな…」

スタンリーは、そう言って、ちょっと笑っている。
その笑顔が凄く悲しそうに見えて私は胸が苦しくなった。


「あの…スタンリーも一緒に…」




ドンドン…!




「キャ…っ」
「わっ」


突然、窓を叩かれ私とスタンリーは驚いて飛び上がった。

!」
「あ…レオ…」

見ればレオが怖い顔で立っていて私は慌てて車を降りた。

「どこ行ってたんだ?心配したぞ?」

レオはそう言って私をギュっと抱きしめてくる。

「ご、ごめんなさい…。ちょっと…事務所に行った帰りに車がつかまらなくてスタンリーに送ってもらったの…」
「そうなら電話すれば迎えに行ったのに…」

レオは、そう言って少し体を離すと私の額にキスをした。
そして車から降りてきたスタンリーの方を見ると、「やあ、を送ってくれて、ありがとう」と御礼を言っている。

「いえ…。じゃあ…俺はこれで…」
「え?帰るのか?君も一緒にどう?」
「え?」

レオが、そんな事を言い出しスタンリーも、私も驚いた。

「いや、もし予定がないなら、だけど」
「でも…」

スタンリーが、そう言いかけた時、中から騒がしい足音がしてオーランドが飛び出してきた。

〜〜〜〜〜〜っ!!どこ行ってたんだよ〜〜!凄い心配したんだよ〜〜う?!」
「あ…オーリィ…!ただいま」

凄い勢いで抱きついて来たオーランドに笑顔を見せると、頬にキスをされた。

「ん〜〜っ会いたかったよ〜〜My Little Girl!」
「もう…そんな少しの時間じゃない…」
「そんな事ないよ!俺には何十時間という長〜い時間だったんだからね!って、あれ?スタンリーくんじゃないか!」

オーランドは、そこでスタンリーに気づいて、やっと私を離した。

「どうも、こんばんは」
「どうしたの?ああ、もしかしてを送ってくれたとか?」
「あ、はい。事務所で会って……」

そう言ってスタンリーは私の話に合わせてくれた。

「そうか、そうか!それは、ありがとう!あ、スタンリーくんも入って入って!」
「え?いや、あの…」

私とレオが唖然としている間に、オーランドはスタンリーの腕を掴んでグイグイと引っ張って行く。

「やだ。オーリーったら強引なんだから」
「だな?ま、いいだろ?それより、もう皆集まってるぞ?」

レオは、そう言って微笑むと私の頬にチュっとキスをして肩を抱いて家の中に入っていく。
すると中から賑やかな声が聞こえてきた。

「うわーードム〜〜!それ、まだ飲むなよ!のなんだぞ?!」
「うるさいなぁー、オーリーは!!それに何だ、そいつは〜!」
「何ってスタンリーくんだ!ドムも前に会った事があるだろう?!」

すっかり出来上がっている様子のドムにオーランドも言い返している。
レオを見れば思い切り顔を顰めながら、「さっきっから、うるさいんだよ、ほんと…」と言ってリビングに入って行った。
それに私も続くと、


「あ、!!待ってたよ〜〜!!凄い奇麗だ―――ふぐっ…」


駆け寄ってこようとしたドムにレオの一撃が入り、彼はソファーに倒れこんだ。
その時、目の前にひょこっとダンの笑顔が見える。

「お帰り、!」
「ダン!久し振り!元気だった?!」

私はダンをギュっと抱きしめると、ダンも笑顔で、「こそ元気だった?」と言ってくる。

「ええ。もちろん」
「そっか。でも、また奇麗になったんじゃない?」
「うわ、ありがとう。大好きよ?ダン」


私がそう言ってダンの頬にチュっとキスをすると突然後ろからガバっと抱きつかれた。

〜〜!何してるんだよ〜〜!」
「オ、オーリー?!」
「ずるいよ、ダンにだけ!俺にもチュってして、チュっって…」




ドカッ!




「ってぃ!」


オーランドの行動&発言にレオが蹴ったらしくオーランドは腰を抑えて、その場に崩れ落ちた。

「オーリー?大丈夫?!」
「い、痛いよ!レオの鬼!!」
「うるさい。お前がアホだからだろ?それと…ドム。お前もだ。それ以上、スパークリングワインは飲むなっ」
「は、はいぃ…」

レオの言葉に、ドムは怯えたように頷いている。そこにサラとキーラが歩いて来た。

「あ、!帰って来たのね!」
「あ、サラ、ごめんね?遅くなっちゃって……。あ、キーラ!」
「お帰り、
「ただいま!二人とも飲んでる?」
「ええ。さっきから頂いちゃって…。あ、庭の方でハリソンとヴィゴが一緒に飲んでるわよ?」
「ああ、二人は飲み仲間みたい」

私はちょっと笑いながら、そう言うとサラが小声で、

「ね、彼?今、の付き人してる元モデルの子って」
「え?あ…う、うん…」
「へぇ〜。かっこいいじゃない!さすがモデルやってただけあるわね?」
「そ、そう?今は皆がいるからニコニコしてるけど…普段は凄く怖いのよ?」
「そうなの?見えないけど…でも…二人で戻ってくるなんて怪しいな〜?」
「ちょ…サラ…?!」
「ほーんと!もしかして…付き合ってるの?」
「キ、キーラまで何言って…!そんなわけないでしょ?!」

私は二人から攻められ顔が赤くなった。

(も、もう…二人とも、少し酔ってるんだ…)

私はちょっと息をついて庭へと出て行った。

「パパ。ただいま!」
「お、おう!!遅かったな?」
「やあ、
「今晩わ、ヴィゴ」

二人は庭先の椅子に座りながら楽しそうにワインを飲んでいる。ヴィゴは椅子から立ち上がって私の方に歩いて来ると、

「今日も凄く奇麗だ…。そのドレスも、よく似合ってるよ」

と言って優しく微笑む。

「あ、ありがとう…。ヴィゴも素敵よ?」
「君に誉められるなんて、光栄だな」

私の言葉にヴィゴは嬉しそうに微笑むと少しだけ頬を赤くしている。そこにジョシュが歩いて来た。

!遅かったな!」
「あ、ジョシュ…」

ジョシュはキッチンから新しいワインを取ってきたようで、それを父さんに渡すとギュっと私を抱きしめた。

「全く…心配かけるな……」
「ごめんなさい…」

私が素直にそう言うと、ジョシュが少し体を離し優しく微笑んだ。

のプレゼント…父さんのと一緒に部屋に置いてあるから後で見ておいで?」
「え?ほんと?!」
「ああ。その前に…少し何か食べろ。何も食べてないだろ?」
「あ、そうだった…っ」

ジョシュから、そう言われた途端、お腹がぐぅ〜っと鳴り、私とジョシュは顔を見合わせて噴出した。

「ほら、みろ。中で食べるか?うるさいのが二匹いるけど」
「うん。あ、ジョシュも今日は私だけじゃなく女性陣のお客を接待してね?」
「え?あ、ああ…分かってる」

私の言葉にジョシュもちょっと笑うと、一緒に中へと入った。

「あ、、お帰り。遅かったね」
「リジー!ごめんね?準備も皆に任せちゃって…」
「そんなのいいよ。それよりケーキもあるし食べなよ」
「うん。お腹空いちゃった」

そう言って空いてるソファーに腰をかけると、隣にレオとジョシュが座ってきた。

「ちょ…二人とも…サラとキーラを接待してあげてよ。父さんとヴィゴに任せっきりよ?」
「ん〜が食べ終わったらね?」
「そうそう。ここには危ない虫が一匹いるしな?」

ジョシュとレオは、そんな事を言いながらクスクス笑っている。
すると向かいに座っていたドムが隣のダンに抱きつき、ダンが思い切り顔を顰めているのが見えた。
それを見て、ちょっと笑いながらカウンターバーを見れば、そこでスタンリーとオーリーが何やらカクテルを飲みながら談笑している。
それを見る限りではスタンリーも楽しそうで、さっき少しだけ見せた悲しそうな表情はどこにも見えなかった。

(良かった…)

何となく、そう思いながら、まずは空腹すぎるお腹を落ち着けるためにモッツァレラチーズのサラダへと手を伸ばした。










ドミニク





くそぅ……何なんだ、この集まりは!!
只でさえライバルが多いと言うのに今日はよりによって、あのモデル気取りの男までが乱入するなんて!!OH MY GOD!!
し、しかもと一緒に戻ってくるとは何て事だ!いや、付き人だというのは仕方がない。まあ許してやろう(偉そう)
だが、しかぁ〜し!それは仕事をしている日に限ってだ!!今日みたいなスペッシャルディ〜〜にどうしてと二人きりでいやがったんだ?!
やっぱりレオやジョシュが、この前言ってたように、も、あのキザ男を好きだとでも言うのかぁぁん?!あぁん?!

――い、いや待て!落ち着け、俺!まさかが、あーーーーーーーんなキザ男を好きなはずがない!そうだろう?!俺!
はきっと俺みたいなワイルドメェーーーンの方が好みに決まってるんだ!そうだ、そうに違いない!いや、そうなんだ!
あんなアルメェ〜ニだかベラサァ〜チだか知らないけど、ブランド物が似合うようなチャラ男なんて嫌いに決まってるさ!(凄い偏見)

ふふん、見てろよぉ〜?キザ男!ステンレス!!!ん?何か違ったか?あいつ名前、何だっけ…?
あれ…?ス…ス…ス…ステレオ…?いやスタッキー?ストップミィ〜?!(ヲイ)

ま、まあいい!名前なんてドゥーーーーでもいい!
あいつにはは渡さない!いぃ〜や渡してなるものか!
どうせのプリティーさにクラクラきて付き人になんて職変えしたんだろうが、この俺様が傍にいる限り奴の恋路を実らしてなるものかっ!
彼女は近い将来、俺様のものさぁーーーーっ!




(ふっふっふ…)(危険)




あーーーはっははっはっ!」






ガン!!





はぐ…ッ




突然の後頭部への衝撃で俺様は思い切り舌を噛んでしまった!!


(…くっ!こ、これは痛い…痛すぎる…っ誰だ、このやろう!!)


「はひぇだ、こにょはろぅ!!」

「何?何言ってんの?こいつ」
「さあ?飲みすぎて"ろれつ"がまわってないだけだろ?」
「ぐ……っ」

見ればレオとジョシュが腹黒い顔をしながら俺を見て笑ってやがった。
は、と言えば、さっきまで目の前で子リスのようにサラダを食べていた筈なのに今は俺の隣にいたダンと楽しげに話している!!OH!NO!

「あはははっ。ドムの奴、涙目になってるぞ?」
「ほんとだ。何か悲しい事でもあったのかなぁ〜?」

(ふぐぐっ…この兄弟だけは悪魔だ!疫病神だ!!最悪のウイルス菌だぁーーっっ!!ドクターヘルプミィ〜っ!)

未だ舌が痛くて叫べない俺様を見て、ウイルス菌の二人は大爆笑しながらソファーを転げまわっている!

俺は本気でヒットマンを雇おうかと思ったくらいだ。

(ああ、聖なる夜に、こんな事を考えたらバチが当たってしまうか…)

許したまえ、イエスキリスト様!アーメン!!

俺は心の中で、そう祈りを捧げながら、舌が痛くて長い間、口をあけていたせいか、ヨダレがたら〜りとたれてしまい、またもや悪魔のような兄弟に、


「うわ、汚い!」


「こっち来るなよ?!ばい菌ドムくん?」



などと愚弄されるハメになってしまった……










サラ




(ああ、楽しそうだなぁ…ジョシュ…)

私はレオと二人で楽しそうに笑いあっているジョシュを見て、小さく息をついた。

二人で…話したいんだけど…ジョシュってば一人にならないんだもん…レオといるか、それ以外はにベッタリで何となく話し掛けづらい…

私は今日、ジョシュにあげようと思っていたクリスマスプレゼントを手に、どうしたものかと考えていた。

「サラ?どうしたの?」
「え?」

後ろから声が聞こえてきてドキっとした。

「あ、リジィ……」
「中に入らないの?」
「あ…うん…そう…ね?」

私はリジーに笑顔を見せると、そのままリビングに入って行った。
リジーは首を傾げつつ中へ入ると、ダンと楽しそうに話しているの元へ言って話し掛けている。
そしてテレビ前に置いてあった大きな包みを開けて見せている様子だ。

(ああ…きっとプレゼントね…ってば嬉しそう…リジーに抱きついて大喜びしてる)

の笑顔を見ながら私も自然に笑顔になった。
するとダンまでがに何か包みを渡していて、はダンにも抱きついて頬にキスなんてしてる。

(へぇ…15歳の男の子にまでモテモテなんだなぁ…ってばやるじゃない)

そんな事を思いながら私はソファーの方に視線を向けた。
するとジョシュが立ち上がってキッチンの方へ歩いて行く。
そこにエマがやってきて彼女と何か話すと、またキッチンの方に歩いて行った。
エマはと言えば、こっちに歩いて来る。

「あら、サラ飲んでる?」
「あ、エマ…はい、結構…飲んでます。エマは?」
「私はやっと片付け終わったから、これからハリソンたち、大人チームと飲むわ?」
「そうですか。お疲れ様です」
「楽しんでね?」
「ばい」

エマは笑顔でそう言うと庭先でヴィゴと飲んでるハリソンの方に歩いて行った。
ヴィゴはそれを見てやっと椅子から立ち上がって何か話している。きっとのところへ行きたかったのだろう。

(はぁ…モテる女は辛いってね。それも超、鈍感なんだから困りものだけど)

そんな事を思いながら、ふとキッチンの方を見てみた。ジョシュは、まだ戻って来ない。
もしかしたら…今なら二人で話せるかもしれない…

私は、そう思いついて急いでキッチンの方に歩いて行った。


そっとキッチン前の廊下に出るとキッチンの方から、ジョシュの声が聞こえてくる。

「あれぇ?どこいったんだろ……っかしいなぁ…」

何やらガタガタと音をさせて探し物をしている感じだ。
私はそっと中を覗いてみた。

「ジョシュ…?」
「あ、サラ。どうしたの?」

戸棚を覗いていたジョシュが笑顔で振り向いた。

「あ、あの…ちょっと、お水が欲しくて……」
「あ、水なら冷蔵庫にミネラルウォーターが入ってるよ?」
「あ、ありがと…」

私はそう言って微笑むと、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを出した。するとジョシュがグラスを取って渡してくれる。

「はい」
「あ…ありがと…」

優しく差し出されたグラスを受け取り、ジョシュを見れば、彼はまた棚の中を覗いている。

「あの…何を…探してるの?」
「ああ、バカラのグラスセットなんだ。がワイン飲みたいって言うから、そのデキャンタに移そうと思ったんだけど…見当たらなくて」
「バカラ……のセット…?」
「ああ」
「あ…」
「え?」

私は、さっきの出来事を思い出し、思わず手で口を抑えてしまった。それをジョシュは訝しげに見ている。

「サラ…?どうしたの?」
「え?あ…ううん…何でもないの」

そう言って首を振るとジョシュは、ちょっと微笑んで、「ああ、レオにカクテルでも作ってもらえば?」と言ってくる。

「え?あ…そうね…」
「うん。レオ、カクテル作るの上手いしさ?」

ジョシュはそう言って、まだ探しながら、

「おかしいなぁ…。ここに仕舞ってあったんだけど…」

とブツブツ呟いている。
それを見ながら、まさかハリソンが全部割ったのよ…とは言えず、俯いていると、「サラ?どうした?酔っちゃった?」と、こっちを見た。

「あ…ちょ、ちょっと酔っちゃったかな?」

何とか笑顔でそう言うとジョシュは棚の扉を閉めて私の方に歩いて来た。

「大丈夫?辛いなら二階のゲストルームで休んでていいよ?ちゃんとベッドメイクされてるしさ」
「あ、う、うん…。あの、そんな酷くないから…」
「そう?辛いなら、すぐ言ってね?」
「うん、ありがとう…」

ジョシュの変わらぬ優しい言葉に私は胸が熱くなった。
だがジョシュが出て行ってしまいそうになって、「あ、あの…」と、つい呼び止めてから後悔した。

「ん?どうした?」
「あ…な、何でもない。ごめんね?」
「何だよ。変なサラ」

ジョシュはそう言って笑うとリビングに戻って行ってしまった。

「はぁ……私のバカ…」

一人になってから溜息が出た。

(せっかくプレゼントを渡すチャンスだったのに…)

私は勇気のない自分に少しだけ腹が立った。












ヴィゴ




「じゃあ…ちょっとカクテルでも貰ってくるよ」
「ああ、分かった」

ハリソンに、そう告げて私は彼をエマに任せると、急いでリビングに向かった。
中では何だかレオやジョシュ、イライジャが楽しそうにを囲んで飲んでいた。それに従兄弟という男の子も…

はぁ…やっと解放されたというのに彼女の周りにはボディガードがベッタリとは……
ドムも何だか泣きそうな顔で見ているが、どうもレオ達に威嚇されて近づけないようだ。それに…
あのカウンターで飲んでいる青年の事をチラチラと気にしているな…あれはハリソンが話していたの付き人という青年だろう。
確かにモデルをしていただけあって、なかなか今時のいい顔をしている。ああ、ドムは、それで心配でもしてるのかな?

私はそんな事を思いながらブラブラとソファーの方に歩いて行った。
そこへオーランドが擦り寄って来る。

「ヴィゴ〜〜やっと父さんから解放されたのかい?」
「まぁな…。それより…オーランド…その顔は何だ?ふざけてるのか…?」

私は目の前のオーランドの顔をマジマジと見つめながら、そう聞いてみた。
すると、その場にいたレオ、ジョシュ、イライジャ、そして従兄弟のダン、までが大笑いしだして驚いた。

「あははっ。ヴィゴ、それ罰ゲームだよ!」
「罰ゲーム…?」
「ああ、そう。オーリーの奴、ダンとカードの勝負で負けてさ。ダンのリクエストで、その顔さ」

レオは笑いながら、そう言ってダンの手にあるマジックペンを指差した。
それを見て私も事情を飲み込み、

「ああ、それで、あの眉毛……」

と呟いた。


「そうなんだよ〜!人の顔に悪戯書きするなんて酷いだろ?!」


オーランドは頬を膨らませながらダンの事を睨んでいる。
だが一本に繋がった眉毛で睨まれても怖くもないのだろう。
いや逆に面白いらしく、ダンという子はお腹を抱えてて笑い転げている。

「ぁあっはっはっは…っ腹痛いっ!オーリー最高だよ、その顔!僕がパパラッチしてあげようか?!」
「うっさいぞ!くそう…何で、こんな子供に負けるんだ…。おぉーし!もう一勝負だ!」
「OK!何度でもやってやるよ」
「ほほぉ〜う?言ったなぁ?見てろよ〜!今度は、ダンの、その立派な眉毛を一本に繋げてやる!」
「出来るもんならね?それより、今度オーリーが負けたら、鼻の頭を真っ黒にしてもらうよ?」
「ああ、負けたら何でもやってやるよ!ほらこい!」

オーランドはいい気分で酔っているのか、張り切ってカードを切っているダンに胸を張っている。
それを笑いながら見ているに、私も、つい笑顔になった。

(やっぱり彼女は笑顔が可愛い…)

なんて思っていると、不意にイライジャと目が合った。
奴は私の顔を見てニヤリと笑うもんだから思わず視線を反らしてしまった。

(ったく……性格の悪いホビッツだよ…)

心の中で苦笑しつつ、チラっともう一人のホビットを見ると、彼は熱いまなざしでを見つめていて
私は彼女の顔に穴があくんじゃないかと心配になった(!)

「ヴィゴ?立ってないで座ったら?」
「え?」

突然、に声をかけられ私はドキっとした。

「ヴィゴ座ったらぁ〜?」
「う、うるさい、リジー」
「はいはい」

からかってくるイライジャをジロリと睨むと彼は苦笑しながら肩を竦めている。
私は軽く咳払いをしながらソファーに腰をかけると、が笑顔でグラスを渡してくれた。

「はい、ヴィゴ。ワインよ?」
「あ、ありがとう…」
「パパの相手、ご苦労さまです」
「い、いや、そんな…」

はクスクス笑いながら、そう言ってきて私は少しだけ苦笑するとワインを飲んだ。
その時、携帯が鳴り、慌ててディスプレイを見てみると、そこには息子の名前でメールが入っていた。

(あぁ…タイムリミットが、こんなに早いなんてな…)

軽く息をつくと私はワイングラスをテーブルに置いてソファーから立ち上がる。

「ヴィゴ?どうしたの?」

が驚いたように私を見上げてきた。
その顔すら可愛くて私は離れがたかったが、仕方なく、「息子からメールでね。もう帰らないと…」と言った。

「え?ヴィゴ、帰っちゃうの?!」

ダンと熱戦をくり返していたオーランドも一旦、手を止めて顔を上げる。
だが一本眉毛の彼の顔をまともに見れず私は顔を反らし笑いを堪えながら、「ああ。息子が友達の家から帰って来るんだ。戻らないと」と説明する。

「そっかぁ〜…ヘンリーをクリスマスの夜に一人にするわけには行かないもんねぇ〜」
「ああ」

残念そうに立ち上がったイライジャに、頷けばも立ち上がって、「じゃあ…外まで見送るわ?」と言ってくれた。
それには思わず笑顔になる。

「いや…寒いし、ここでいいよ?」
「いや、見送ってきてくれる」
「うん」
「…レオ?」

私は彼の言葉に驚き、思わず名前を呼んでしまった。するとレオはちょっと手を上げて笑っている。

ああ…気を利かせてくれたんだろうか…珍しい事もあるもんだが、今夜はクリスマスだしな…
彼なりの私へのプレゼントだと思っておこう。

「じゃ、ヴィゴ、送るわ?」
「ああ……ありがとう…。じゃ、皆は楽しんで」
「ウン、ヴィゴ、まったね〜?」

オーランドも一本眉毛のままニカ〜っと笑いながら手を振ってきて私はまた噴出しそうになった。
見ればドムだけは恨めしそうに私を見ていたが、レオに睨まれ渋々、その場にいるという感じだ。

「またね〜ヴィゴ」
「ああ、ドムも元気出せ」

私は笑いを堪えつつも、そう声をかけると、と一緒にエントランスへと出た。

「ほんとにごめんなさいね?ずっと父さんの相手をしてもらって…」
「いや…ハリソンとは気が合うんでね。楽しかったよ」
「そう?なら良かったけど…。父さんったら酔うと、ちょっと壊れちゃうから。あ、自分でも何でも壊しちゃうんだけど」

そう言いながらクスクス笑っているは、本当に可愛らしかった。
そっとドアを開けて外へ出ると、は夜空を見上げて笑顔になる。

「見て?ヴィゴ…星が凄いわ?」
「え?ああ…ほんとに……奇麗だ」

が隣にいれば、どんなものでも奇麗に見える。
そんな事を思いながら軽く息をつくと、彼女を見た。

「ここでいい。風邪を引かせるわけには行かないからね?」
「え?でも…」
「いいんだ。あ、それと……」

私は、そう言ってコートのポケットから今日買ってきた彼女へのプレゼントを取り出した。

「これ…にクリスマスプレゼントなんだ。受け取ってくれるかい?」
「え…?これ……私に……?」
「ああ。まあ……大したものじゃないんだが…君に似合うと思ってね」
「ヴィゴ…」

は驚いたように目を丸くしていたが、私はちょっと微笑むと彼女の手を取り、プレゼントの箱を乗せた。

「メリークリスマス……」

それだけ言って歩き出した時、後ろからが走ってきた。

「待って、ヴィゴ!」
「え?」

その声に驚き、振り向くと、私の襟元を軽く引っ張り、背伸びをして頬にチュっとキスをしてくれた。

「メリークリスマス!お休みなさい!ヴィゴ」

はそう言うと、また家の方へと走って行ってドアの前で手を振ると中へと入ってしまった。
私はと言うと、今の出来事に呆然として暫く、その場に立ちすくんでいたが、だんだん顔が赤くなり、コホン…っと咳払いをすると、
もう一度、夜空を見上げた。


(…最後に、いいプレゼントを贈ってもらったな…)


そんな事を思いながら熱い顔を夜風で冷やしつつ、我が息子の待つ我が家へと急いだ。















「ほんとに泊っていかないの?」
「ええ。明日、早いし…も仕事でしょう?」
「そうだけど……」
「大丈夫よ?タクシーで帰るんだし」

サラは、そう言ってコートを着るとニッコリ微笑んだ。

「じゃあ…そこまで送っていくわ?」
「いいわよ…。だって酔ってるじゃない」
「でも…」

私が困っていると、そこへコートを羽織ったジョシュが出て来る。

「俺が送るよ」
「え?!」

サラが驚いたように声を上げた。

「い、いいわ?悪いし…」
「いいから。タクシー拾えるとこまで送る。俺もちょっと酔ってるし夜風に当たりたいからさ」

ジョシュは、そう言うとサラの肩を抱いた。

「じゃ、、ちょっと行ってくるよ」
「うん、ありがとう、ジョシュ。サラをお願いね?」
「ああ。はオーリーとダンの接戦を見届けてて?」
「分かった」

ちょっと笑いながら頷くとジョシュはドアを開けて外へと出て行った。

「じゃ、じゃあ……またね?」
「うん。お休み、サラ!」
「お休み!」

サラは笑顔で手を振って急いでジョシュの後を追いかけて行く。それを見送って私はリビングに戻った。

(はぁ〜ジョシュとサラって何だかお似合いだなぁ〜。ジョシュもサラには何となく優しいし…)

そんな事を思っていると、スタンリーが私の方に歩いて来た。

「あ、。俺、そろそろ帰るよ」
「え?もう?」
「もうって…12時になるぞ?クリスマスも終わりだ」

スタンリーは苦笑しながら時計を指さした。

「でも…まだ皆、飲んでるし…」
「まあ…でも、これ以上いると帰りづらくなるしさ」

スタンリーはそう言って後ろを振り返った。
ソファーのところでは未だオーリーとダンがカードでの戦いをしていて、それをイライジャとドムが楽しそうに見学している。
レオはというとカウンターバーのところでキーラにカクテルを作ってあげていた。
父さんとエマは、まだ庭で飲んでいるのだろうか…なんて思っていると中へと入って来たのが見えた。

「ぅぅ〜さむ!私は、もう寝るよ…」
「そうね。私も少し片付けてから寝るわ?」

エマと、そんな事を話しながらこっちへ来ると、

「おぅ、スタンリーどうしたんだ?飲んでるか?」

なんて笑顔で声をかけている。
それにはスタンリーも笑いながら首を振った。

「いえ…もう帰ろうかと思って…」
「何だって?帰る?」
「はい、もう遅いですし……」
「何言ってる!いいじゃないか、泊まって行けば!」
「え?」
「ちょ…パパ!」

父のとんでもない言葉に私もスタンリーも驚いた。
だが父はいい気分で酔っているのか、スタンリーの肩をバンバンと叩きながら、

「どうせ君は車を運転して帰れないだろう?この前みたく泊って行きなさい。ほら、、ゲストルームに案内してやれ」
「い、いや、あの……」
「ちょっとパパ…?明日は彼も仕事で……」

父にガシっと腕を掴まれ、スタンリーが困っているのを見て私は慌てて、そう言うと父は楽しそうに笑った。

「何言ってる。どうせお前を迎えに来るんだろう?だったら泊って行っても同じ事だ。そうしなさい。な?スタンリー!」
「は、はあ………」

父の強引な申し出にスタンリーも諦めたように苦笑した。

「よし!じゃあ私は先に寝るぞ。お休み、!ちゃんとソファー大事に使ってくれよ?」
「あ、うん、ありがとう。パパ!」

そこはお礼を言って父の頬に軽くキスをすると上機嫌で自分の部屋へと戻って行った。
それを見送ると、何となくスタンリーと顔を見合わせる。

「あの…ごめんね…?強引な人で……」
「いや…いい人だよな…。優しくてさ…。素敵なお父さんじゃないか?」
「スタンリィ…」

その彼の言葉にハっとした。

(そうだ…スタンリーのお父さんは事故で…)

?どうした?」
「あ、な、何でもないの…っ。じゃあ…もう寝る?」
「ん?ああ…そうだな…。明日は仕事だし……も、もう寝ろよ」
「う、うん…そうするわ。他の皆は、まだ飲んでそうだし……。あ、じゃ、行こう?」

私はそう言って二階へと上がり、ゲストルームまでスタンリーを案内した。
中を見れば昼間、リジーが用意をしてくれただけあって奇麗に片付いているし必要な物も揃っている。

「前に泊ったし、どこに何があるのか分るよね?」
「ああ。大丈夫。サンキュ」

スタンリーは、う〜んと伸びをしながらベッドに腰をかけた。

「じゃあ……お休み…」
「ああ、お休み」

私はスタンリーに、そう言うと部屋を出て行こうとしてドアノブに手をかけた。すると――


「あ、


と呼び止められドキっとする。


「な、何……?何か必要なものでも――」


そう言って振り返った時、何かが飛んで来て、私は無意識にそれをキャッチした。



「それ……やるよ」


「…え…?やるって、だって、これ…」



私は戸惑いながら、手の中にある可愛くラッピングされた箱を見つめた。包みには私もよく知っているブランドのロゴが入っている。
スタンリーは、ちょっと恥ずかしそうに視線を反らして、


「一応…クリスマスプレゼント…ほんとは明日にでも渡そうと思ってたんだけどさ…」


と呟いた。

「スタンリィ…」
「いらなきゃ捨ててもいいから…。じゃ、俺、シャワー借りて寝るから。お休み!」
「え?あの…っ」

スタンリーはベッドから立ち上がると、さっさとバスルームに入ってドアを閉めてしまった。
私は呆然と、その場に立っていたが、だんだん鼓動が早くなって顔が赤くなってくる。
そして、そっと包みを開けてみると、中には奇麗なカルティエの時計が入っていて目を見張った。

「これ……前に私が雑誌で見ていいなぁって言ってた……」

そう呟いて本当に胸が苦しくなった。そしてバスルームのドアの前に行くと、


「あ、あの…ありがとう!スタンリー!私、大事にするから!」


と叫んでみる。

だが中からは返事はなく、ただシャワーの音だけが聞こえてきた。
それでも私は何だか胸の辺りが暖かくなって時計をギュっと握りしめる。


「ありがとう……スタンリィ…。メリークリスマス……」



そう呟いた時、ちょうど12時を知らせる鐘の音が遠くから、かすかに聞こえてきた――――









すみません、無駄に長くなりすぎて間に合いませんでした(汗)
一応、これで終わりにさせていただきますが、
書けなかった部分の話は後日、書かせていただきます〜M(__)M