(はぁ…もう帰りたい……)
すでに、そんな事を考えていた。
わざわざ隣に座ってベタベタしてくるウォーレンに私は心底、疲れていた。
何で、この人が今、人気があるのか、ちっとも分からない。
「、飲んでるかい?」
「ええ…」
「どうしたの?もっと楽しそうな顔しないと撮り直しだよ?」
「…………」
そうだ…カメラが回ってるんだった。
ウォーレンに耳元で、そう言われて私はハっとして無理やり笑顔を作った。
今回の趣旨は楽しそうな恋人同士の設定。
これをテレビ番組企画で流すのだ。
それに映画のDVD特典映像にも多少は入れるとか。
これを彼のファンが見て喜ぶのかな……。
"ウォーレンと、こんなデートがしたい"って。
彼がさっきから見せるエスコートは、まさに完壁で、きっと他の女性なら喜ぶんだろうなと思う。
それに言う事も全て女性なら嬉しいと感じるようなものばかりだ。
でも私には全然、心に響いてこなかった。
そんな言葉よりも、さっきスタンリーが彼に言っていた言葉がグルグル私の頭で回っている。
何とか演技をしながらも、そんな事を考えていると、さっきから、かなりワインを飲んでいるウォーレンが更にピッタリくっついてきた。
「この後、上のバーで飲みなおそう」
「え?え、ええ…そうね…」
笑顔で頷きながら、カメラの方を見る。
今はカメラを持ってたスタッフも食事中で、カメラだけがテーブルに置かれている。
見ればスタッフは料理に夢中で、こっちの事は見ていなかった。
それに気付いたのか、ウォーレンが私の耳元で、
「今度、仕事抜きで君と会いたいな…」
と囁いてきて少しゾワっとした。
「そ、そんな事、今話すことじゃないでしょ…」
「大丈夫だよ。今は音声も入ってないから」
彼は、こういう事に慣れているのか、そんな事を言ってニヤリと笑った。
それには曖昧に返事をしつつ、隣の座敷の方を見る。
きっと隣ではスタンリーが食事をしてるんだろうなぁと思いながら、全く様子を見に来ない事にイライラしていた。
スタッフが一人いるから安心してるのかもしれないけど、あの人全然アテにならないし、
少しくらい心配して、こっちを覗いてくれてもいいのに…
そう思いながらグイっとワインを飲み干した。
さっきからウォーレンに飲めば注がれる・・・ということのくり返しで、相当ワインを飲んでいた。
少し頭がフワフワしてくる。その時、スタッフが時計を確認して、
「そろそろ移動しますから」
と一旦、カメラを切った。
それを見て私は、すぐにウォーレンから離れるも、酔っているからか体がフラつく。
「ああ、急に動いちゃダメだよ。さあ、バーに移動しよう?」
「え、ええ…」
ウォーレンに腕を取られ支えられながら、私も立ち上がると、スタッフが先に出て隣の二人にも声をかけている。
靴を履くのに廊下に出ると、隣からスタンリーが顔を出した。
そして私の顔を見て、
「おい、大丈夫か?少し酔ってるようだけど…」
と心配そうな顔をした。
だけど、その言葉も、どうせ付き人だからでしょ…と思うと素直になれない。
「大丈夫よ…っ。行きましょ?ウォーレン」
そう言って自分からウォーレンの腕を組むと、彼はニヤっと笑った。
「ああ、じゃ俺がエスコートするよ」
ウォーレンは私に、そう言うと歩いて行こうとした。
その時、スタンリーが彼の腕を掴む。
「おい、あまり飲ませすぎるなよ?これは、あくまで仕事の一環なんだ」
「何だよ、スタンリィ…。分かってるから、そんなシラケたこと言うなよ」
ウォーレンはスタンリーの腕を振り解くと、私を連れて店を出た。
そのままハイランドホテルへ戻り、バーへと上がっていく。
スタンリーは黙ってついて来ているが私は彼の方を見ないようにしていた。
何で、こんなにムキになってるのか自分でも分からない。
でも何だか無性にイライラしていた。
「さ、どこに座る?奥のボックスにしようか?」
バーへ入ると、ウォーレンが、そう言って私の顔を覗き込んできた。
「どこでもいいわ?」
素っ気無く答えると、彼は苦笑しながら、奥へと歩いて行く。
カメラはすでに回されていてスタッフの人もついてきたが、席は別で後ろの席での撮影になっていた。
スタンリー達はカウンターの方で、カクテルを注文している。
「さあ、ここのカクテルは上手いんだ。何がいいかな?」
「何でもいい」
「そう?じゃあ俺に任せてくれよ。ここのバーテンとは仲がいいんだ」
ウォーレンはそう言ってウエイターに何やらカクテルを注文している。
その後にカメラに向かって映画用に、ここに来たら、まずはこれを飲んでみてとか何とかファン用のコメントなんかを話していた。
このバーでも映画の撮影が行なわれるので、その宣伝もかねている。
(はぁ…この人と長い間、一緒に撮影するなんて気が重いなぁ…)
そんな事を思いながら、ふと今入って来た客二人に目がいった。
あれ…今の人達…ジョシュとオーリーに凄く似てた気がしたけど…
まさかね……だったら私に気がついたはずだもん。今の二人はすぐに違う席に行っちゃったし…
そんな事を考えていると、ウエイターがカクテルを運んで来た。
ウォーレンが、それを取って、私に渡してくる。
「専用の特別カクテルだよ?」
「あ…ありがとう…」
それは奇麗なピンク色のカクテルで凄く可愛いグラスに入っていた。
ウォーレンは普通にジンライムを頼んでいる。
「ではでは…今宵のバレンタインデートに…乾杯」
「乾杯…」
グラスをカチンと当てて、そのカクテルを一口飲んでみる。
すると甘い香りと甘酢っぱい味がして、凄く飲み口がいい。
「美味しい…」
「だろ?」
「これ何ていうカクテル?」
「"At night like pink"って言って俺のオリジナルだよ?薔薇の成分が少しだけ入ってるんだ」
「へぇ…奇麗な名前ね?」
そう言ってカクテルを飲むと、さっきよりもフワ〜っとした感覚になってくる。
「これ、アルコール強い?」
「そんな事ないよ?女の子用だしね」
ウォーレンはそう言ってニッコリ微笑んだ。
それを聞いて私は少し安心すると、他にフードを少し注文して、ウォーレンの話に耳を傾ける。
これを終えれば最後だ。やっと偽者の恋人から解放される。
そう思いながらカウンターにいるスタンリーの方を見た。
すると彼もこっちを見ていて一瞬、目が合ってドキっとしたが慌てて反らし、わざとウォーレンの方に体を向ける。
その事に勘違いしたのか、ウォーレンは私の肩を抱いて自分の方に引き寄せた。
「ちょ…ちょっと…」
「何?恋人同士の設定なんだし、これくらい普通だろ?」
「そうだけど…」
抱き寄せられた拍子に、彼の香水の匂いがしてくる。
かいだ事もない匂いに一瞬、むせ返りそうになりながら、何とか笑顔を保った。
そうしながらもウォーレンは今まで行ったロケ先での話を面白おかしく話していたが、
私は黙って相づちを打ちながらカクテルを飲んで、顔に今の気持ちが出ないようにしていた。
「…でさ、そいつが出したNGが、また傑作なんだよ…って?どうした?酔っちゃった?」
「ん…ちょっと…ボワーっとするだけよ…」
どのくらい飲んだのか、私はウォーレンの話を聞きながら半分眠りそうになってパっと体を起こした。
するとウォーレンは優しく体を支え、私の顔を覗き込んでくる。
「大丈夫?」
「ええ…ちょっと…化粧室に行ってくるわ…」
「ああ、ついて行こうか?」
「ううん、一人で平気…」
私はそう言って立ち上がるとフラフラと化粧室の方に歩いて行った。
何だか視界が狭くなってボーっとする。
(やだ…そんなに飲んだっけ…?まだ、ここへ来て一時間しか経ってないのに…でもそろそろ撮影も終わりよね…)
そんな事を考えながら化粧室へ入ると、誰もいなくてホっとする。
鏡を見れば顔はそれほど赤くはないものの、酔ってるのが分かるほどには頬が染まっている。
「はぁ…あのカクテル美味しいから3杯も飲んじゃったしなぁ…」
アルコールは強くないと聞いたから安心したのもあるし、いざ酔ってもスタンリーがいるから送ってもらえると思って飲みすぎてしまった。
こんなとこレオやジョシュに見られたら凄い怒られそうだな…
ふと思い出し、家に帰るまでに酔いを覚まさないと・・・と思った。
そして席へ戻ろうと歩き出した時、フラっとよろめいてドアに凭れかかる。
その瞬間、ぐわんと頭が回り、暫く立ち上がれなかった。
(どうしよう…動けない…)
その場にしゃがみこみグッタリとしていると、不意にドアが開けられ、私は前のめりに倒れそうになった。
だが、その体を誰かの腕に支えられる。
「大丈夫?」
「……ウォーレン…?」
ボヤっとする視界に映ったのはウォーレンだった。
彼は笑顔で私を支えると何とか立たせてくれる。
「今、スタッフに話して、もう撮影終らせるように言ったから」
「……え?」
「が、こんなんじゃ撮影は無理だろ?」
「そう…ね…。ごめんなさい、酔っちゃったみたいで…」
「いいよ。それより休めるように部屋を用意してもらったから、そこで少し休んで帰るといい」
「ええ…そうする…。ちょっと動けないし…」
「俺が案内するから。ほら掴まって」
「ありがと…」
ウォーレンが優しく支えて私を連れ出すと、正面入り口ではなく、反対側の出口から出た。
「あ、あの…ウォーレン?」
「ん?ああ、こっちからのエレベーターの方が近いんだ」
「そう…。あ、それと……スタンリーを呼んで欲しいんだけど…」
「ああ、彼なら、すぐ部屋の方に来ることになってるから安心して」
「そう…分かった…」
それを聞いてホっとすると、彼に掴まりながら何とかエレベーターに乗り込んだ。
そのまま客室がある階まで向かう。
「こっちだよ?歩ける?」
「ええ…」
ウォーレンは私の体を支えながら、廊下を歩いて行くと、ある部屋の前で立ち止まり鍵を開けて中へ入った。
その部屋に入って、ちょっとビックリする。
「え…?ただ休むだけなのにスィートを取ってくれたの……?」
「ああ。そりゃ、もちろん……君の為にね…」
「え……?」
ウォーレンの言葉に違和感を感じ顔を上げた瞬間、体を抱きかかえられて驚いた。
「キャ……な、何?」
「今夜はデートなんだ。最後は、ベッドの中で終わるのは基本だろう?」
「……な、何言って…るの…。下ろして……?」
いったい今、自分に何が起きてるのか、サッパリ分からない。
これも企画のうちで、実はドッキリなのかな・・・なんて呑気な考えが一瞬、頭を過ぎる。
だがウォーレンは私を抱いたままベッドルームへ入って、電気も付けないまま、私をベッドへ寝かせた。
その瞬間、体を起こそうとしたが、またしても頭がぐわんと回る感じでベッドに倒れてしまう。
「そんな急に動いたらアルコールが回っちゃうよ?」
ウォーレンがベッドの端に座ってニヤリと笑った。
「あの…皆は……」
クラクラしながらも何とか、顔をあげて、そう聞くとウォーレンは楽しげに笑った。
「ああ、きっと今頃、下のバーで呑気に飲んでるんじゃない?もちろん君の付き人くんもね」
「…え?どういう…こと…?嘘ついたの…?」
「いや。ちゃんと後で呼んであげるよ?君を抱いたら」
「………っっ?!」
そこでハッキリと気付いた。
この人はスタッフの目を盗んで、私を、この部屋に連れこんだんだってことに………
まさか、そこまでするとは思っていなかったから油断した。
もしかしたら、さっき飲んだカクテルだって相当、アルコール度数が強いお酒だったのかもしれないと今さらながらに気付く。
「どうしたの?怯えた顔して……。こういう事するのは初めてじゃないんだろ?」
ウォーレンはそう言いながら私の頬をゆっくり撫でまわすように触れてくる。
そこで恐怖を感じた。
「い………や……帰る…わ…」
何とか体を起こしてベッドから降りようとしたが、フラっとしてしまう。
その時、ウォーレンに押し倒された。
「キャ…っ。やだ…っ」
「何だよ…。さっきまで自分から俺に寄り添って来てただろう?遠まわしにアピールしてきたのは君なんだから文句は言わせないよ」
「何言って…あ、あれは演技でしょ…っ?誰があんたなんて…」
「演技?カメラの回ってないとこでも俺にくっついてきたクセに、よく言うよ」
ウォーレンは、そう言いながら顔を近づけてくる。
「ぃやぁ…!離して…っ」
私は必死に、手を振り回し、抵抗した。
だが手首を掴まれ固定されてしまった。
「暴れても無駄だよ?」
涙で曇った視界に、ウォーレンの薄ら笑いが滲んで見えた。
その数分前。
バーではスタンリーが時間を見ながら、ウォーレンのマネージャーのベンと飲んでいた。
「そろそろ終わりですよね?」
「まあまあ、そんな事より、スタンリーも飲んで、ほら」
ベンはスタンリーのグラスにバーボンを注いで彼の肩をバンっと叩いた。
それにはスタンリーも仕方なくグラスを口に運びつつ、チラっとの方に視線を向ける。
すると、ちょうど席を立って化粧室に行くのが見えた。
(大丈夫かな…少し酔ってるように見えるけど…)
そんな事を思いながらウォーレンを見ると、奴はカメラマンに何かを言って席を立った。
そして化粧室の方に歩いて行く。
(何だ…?様子を見に行ったのか?)
少し気になって、暫く見ているが二人とも一向に戻ってくる気配がない。
(おかしいな…)
そう思って様子を見に行こうと立ち上がろうとした時、ベンに腕を掴まれた。
「おいおい、どこに行くんだ?」
「ちょっと…彼女が酔ってるかもしれないので様子を見に…」
「えぇ〜?そんな子供じゃないんだし大丈夫だろ?それにウォーレンだってついてるんだ」
(それが一番危ないんだよ…)
と心の中で思いつつ、スタンリーはベンの腕を、やんわりと離した。
「でも心配なので、ちょっと見て来ます」
「いいから待ってろよ。そのうち戻ってくるって」
ベンはそう言いながら、またしてもスタンリーの腕を掴む。
その様子にスタンリーは違和感を覚えた。
(何だ…?俺に行って欲しくないって感じだ…)
何か嫌な予感がしてスタンリーはベンの腕を振り払うと、カメラマンの方に歩いて行った。
それをベンも慌てて追いかけて来る。
「おい、スタンリィ…っ」
その声を無視してカメラマンに声をかける。
「あの…は…?」
「え?ああ、何だか化粧室に行ったらしいんだけど、ウォーレンが、彼女酔ってるから、ちょっと休ませてくるって言って…」
「はぁ?どこで!」
「え…えっと、そこまで聞いてないよ…。すぐ戻るって言うから待ってたんだ…」
「何で、俺に言いに来ないんだよっ!!」
「い、いや、だって、まだデート中だし…」
怖い顔で怒鳴られ、カメラマンもビビっている様子だ。
それを聞いてスタンリーは急いで化粧室を見に行った。
だが、そこには誰もいる気配はなく、すぐに二人のところへ戻る。
「おい!あんた、奴がどこに行ったのか知ってるんだろ?今すぐ、そこへ案内しろっ!」
「は、はあ?知る訳ないだろ…?俺はあんたと一緒にいたんだから…」
「嘘言うな!あんたはウォーレンが、を連れ出す事を知ってたはずだっ。言えよ、どこだ?!」
スタンリーはベンの胸倉を掴んで、そう怒鳴ると周りの客もザワザワしはじめた。
それにはベンも慌ててホールドアップをしつつ、
「こ、ここで騒ぐのは、お互いマズイだろう?店を出よう…」
と言って、すぐに皆で店を出る。
「ウォーレンはどこだ」
出た瞬間、もう一度、スタンリーが聞く。
カメラマンは、ただオロオロと、二人を見ているだけで何とも頼りない。
ベンはベンで困ったように頭をかきながら、
「スィートルームだよ…」
と呟いた。
「何だって?!部屋に連れ込んだのか!」
それにはスタンリーも怒りの表情になる。
ベンはビビりながら後ずさっていった。
「し、仕方ないだろ?ウォーレンは目をつけた女に手を出さないと気がすまない性質なんだ…だから…」
「そんなことより、部屋は何号室だ?どうせ、あんたが用意したんだろ!」
「わ、分かったよ。教えるよ…えっと…15階の45号室……」
「キーは?!スペアキー持ってるんじゃ…」
「あ、あるよ…こ、これ…」
ベンはビビリながらもジャケットのポケットからキーを出す。
それを奪うように取って、スタンリーはエレベーターの方に走って行った。
レオナルド
「レオ、こっち!」
バーに入っていくと、オーランドが呑気な笑顔で手を振っているのが見えて、俺はすぐに席へと歩いて行った。
「どうだ?」
ずっとオーランドと行動を共にして疲れたのか、ウンザリした様子のジョシュに、そう聞くと、彼は黙って奥の席を指差した。
「さっきから、あんな感じでベッタリだよ…。そろそろ殴りに行きたいね…」
ジョシュはムカついたように呟いた。
その言葉通り、俺も、あの男がの肩に腕を回して抱き寄せてるのを見た時、殴りに行こうかと思った。
「何だ?あいつ…いくらデートって設定でも、あれは・・・。酔ってる感じか?」
「ああ、ちょっとね。でも、そろそろ終わる時間だし…」
ジョシュが時計を見て、そう言った時、が立ち上がるのが見えた。
どうやら化粧室へ行ったようだ。
「ちょっとフラついてるな…。大丈夫か…?」
「あの男、を酔わせて本気で口説いてんのかもな…」
「大丈夫だよぉ〜!は、あんなエロ男に口説かれたって靡くはずはないしさっ」
「分かってるよ、そんな事は…っ。ただ、の意志と関係なく、あの男が何かするかもしれないだろ?!」
どこまでも呑気なオーランドにムカっと来て、俺はつい怒鳴ってしまった。
するとオーランドもシュンとなる。
「そんな怒らなくてもさ……酷いよ、酷いよ…。ここまで頑張って見張ってたって言うのにさ…」
イジイジと、ソファを指でグリグリしながらオーランドはスネてしまったようだ。
それを見てジョシュは肩を竦めた。
「オーリーの奴、結構飲んでるんだ・・・。ダメだって言ってんのに、ここに来てからもカクテル3杯も」
「はぁ…全く…遊びに来てるわけじゃないんだぞ…?」
呆れてオーランドに、そう言いながら、視線をウォーレンの席へと移す。
「あれ…あいつ…どこ行った…?」
「え?」
「何?何?」
俺の言葉にジョシュもオーランドも驚いたように顔を向けた。
「あれ…カメラマンしかいないよ?」
オーランドが、そう呟いたと同時に俺は立ち上がった。
カウンターを見ればスタンリーが立ち上がってカメラマンの方に歩いて行くのが見えて、一瞬終わったのかと思った。
だが何だかスタンリーと、あのウォーレンとか言う奴のマネージャーがモメているのが分かり鼓動が早くなる。
「何かあったんだ…」
「「えっ?!」」
「行くぞ…」
俺がそう言うと二人とも慌てて立ち上がって後からついてきた。
バーは結構、広いので、スタンリー達のいた場所まで来た頃には、すでに皆いなくなっている。
どこへ行ったのかと裏の出口へ向かってみると、何だか大きな声が聞こえてきた。
「スタンリーだ…。何か怒ってるぞ?」
「急ごうっ」
嫌な予感がしてジョシュと二人で走り出した。
それにはオーランドも驚いてついてくる。
だがウエイターに掴まって、「お会計が済んでません」 と言われているのが聞こえた。
「オーリー払っとけ!」
「えぇ〜?ちょ、ちょっと待ってよ〜〜っ」
俺がそう言って先に走って行くと、オーランドの悲痛な声が聞こえてきた。
それを無視して、廊下に出ると、そこには、あのマネージャーとカメラマンが青い顔をして立っている。
「おい、スタンリーは?!」
「え?あ………レ、レオナルド?!」
後ろから突然、声をかけられ驚いて振り返ったマネージャーは今度は俺の顔を見て驚いている。
だが、すぐに青ざめた。
「あ、あの…すみません…!あいつに頼まれて……」
「はぁ?何の話だよ?スタンリーは?」
いきなり謝られて、ますますの身に何かあったのかと心配になる。
俺が詰め寄ると、マネージャーは、アッサリと部屋番号を言った。
ウォーレンがにしようとしてる事が分かり、俺はカっとなってマネージャーの胸倉を掴んだ。
「お前、に何かあってみろ!あの男とお前が二度と業界で働けなくしてやるからなっ!!」
「は、はいぃ…!すみません…っっ」
マネージャーは真っ青な顔で膝をつくと泣きそうな顔で謝っている。
その時、ジョシュが俺の腕を掴んだ。
「そんな奴より、早く行こう!が危ない…!」
「あ、ああ…」
一気に体が冷え、血が引いていくのが分かる。急いでエレベーターに飛び乗って聞き出した部屋の階を押した。
見ればジョシュも青い顔をして押し黙っている。きっと俺と同じ感覚を味わっているんだと分かった。
(早く…早く…!)
エレベーターが妙に遅く感じる。
一つ一つ、点滅していく番号を見ながら、ただが無事なことだけを祈っていた。
その頃、スタンリーはスィートルームのドアを、さっきベンから奪ったキーで開けて部屋に入ったとこだった。
見ればベッドルームのドアが開いている。
迷わず、そこへ飛び込むと、ウォーレンはを組み敷いて無理やりキスをしているのが見えた。
「おい!何してんだよ……!!」
「うわ…な、何だよ…っ」
いきなり入って来たスタンリーを見て、ウォーレンは驚いての上から避けた。
だがスタンリーが思い切りウォーレンの顔を殴りつけるとガツッという大きな音と共にベッドの向こう側に吹っ飛んでいった。
「…っ?」
ベッドの上でガタガタ震えているを見てスタンリーは慌てて彼女を抱き起こした。
涙でグチャグチャな顔は青ざめていて目が何も見てはいない。
「おい、…!しっかりしろって…っ」
スタンリーはの涙を手で拭きながら軽く頬を叩いた。
そこで、やっとスタンリーの方を見る。
「ス、スタンリィ…?」
「ああ…大丈夫か…っ?」
「わ…私…」
スタンリーの顔を見て安心したのか、の瞳からポロポロ涙が零れた。
それを見てギュっとを抱きしめる。
「ごめん…見張ってたのに…気付かなくて…。もう大丈夫だから…泣くなよ…」
「こ、こわかっ……」
「ああ…分かってる…ごめんな…遅くなって…」
スタンリーは強くを抱きしめると、そっと頭にキスをした。
そして優しく頭を撫でていると、不意にの体から力が抜ける。
「お、おい…?」
見れば意識を失ったのかグッタリと腕に寄りかかっていて、スタンリーは慌ててを抱き上げた。
その時、ベッドの向こうから唸り声が聞こえてきて、ウォーレンがのそのそと立ち上がる。
「ス、スタンリィ…こ、これは違うんだよ…。その子から誘って来たんだって…」
ビビリながらも、そんな言い訳をするウォーレンをスタンリーは冷ややかな目で見た。
「この子はそんな子じゃないって言ったはずだ…。二度とに手を出すな…。分かったな…っ!!」
「わ、分かったよ…。そ、そんな怒るなって…。まだ何もしちゃいないんだからさ…」
「黙れよ…。今度の映画も、このこと話してお前を降板させてやるからな…!」
スタンリーは、そう言うとを抱いたまま部屋を出た。
後ろで、「そんなことできるもんか!」 と怒鳴る声が聞こえたが、無視して廊下に出る。
その時、バタバタと走る音が聞こえて前方から、レオとジョシュが走ってくるのが見えた。
「あ…!スタンリー!!」
「ど、どうしたんですか…二人とも…っ」
まさか尾行していたとは知らないスタンリーは二人が来た事に驚いている。
だが二人はスタンリーの腕の中でグッタリしているを見て真っ青になった。
「…!おい、何があった?あいつは…っ」
慌てている二人を見て、スタンリーは今あった事を説明した。
すると見る見るうちに二人の顔つきが怖くなっていく。
「……Shit!」
「あいつ…!」
そう呟きながらも何とか冷静になろうとしてるのが伺えた。
「ありがとう、スタンリィ…を助けてくれて…」
「いえ…俺も傍にいたのに気付くのが遅くて…すみませんでした…」
「何言ってんだよ…。ほんと……ありがとう…感謝するよ…」
レオとジョシュは、そう言ってスタンリーの肩をポンっと叩いた。
「あ…は俺達が連れて帰るよ…」
レオが、そう言うとスタンリーは少し考えてから首を振った。
「いえ…今日は俺が送ります…」
「え?」
「こんな事があったって…きっと彼女、皆さんには知られたくないと思うんで・・・知らないフリをしてて欲しいんです」
「スタンリィ…」
「お願いします…。何もされてはいないけど…きっと彼女、家族の皆には知られたくないと思うから…」
スタンリーが、そう言うとレオとジョシュは顔を見合わせて、フっと体の力を抜いた。
「そうだな…。君の言う通りかもしれない…」
「ああ、俺達が今日、来てた事も知らないし……そうしようか…?」
「ああ」
レオとジョシュは、そう言ってスタンリーの腕の中のを見た。
そっと濡れた頬を手で触れると、
「を送ってやってくれないか?今日は疲れたと思うし…」
とレオが口を開いた。
「はい…ちゃんと送ります」
スタンリーが、頷くと、レオは、ふとドアの方に目をやる。
「因みに……あのバカは部屋?」
「え?ええ…。一発殴っておきましたけど…今頃、自慢の顔でも冷やしてるんじゃないですか」
「え?スタンリー殴ったの?」
「はい。思い切り」
普通に頷くスタンリーを見て、レオとジョシュは一瞬、顔を見合わせたが、突然笑い出した。
「あははは…っ。よくやった、スタンリー!」
「ははは…!ほんと…お礼を言うよ!」
二人は楽しげに笑うと、
「じゃ、俺達は、あのバカと大事なお話をしてくるから、スタンリーはを送ってやってくれるか?」
「え?あ、はあ…分かりました。これ、部屋のキーです」
「サンキュ」
レオはキーを受け取ると、意識のないの頬に優しくキスをしてから部屋の方に歩いて行った。
「じゃ、宜しく頼むよ」
ジョシュも笑顔で、そう言うと、の頬に軽くキスをしてからレオについてウォーレンの部屋へ入っていく。
それを見送りながら、スタンリーは心の中で、
"ご愁傷様、ウォーレン"
と十字を切ると、そのまま駐車場へと向かった。
「ん……」
かすかに体に振動がきて、私はゆっくりと目を開けた。
「気がついた…?」
「……ぇ?」
その声に驚き、横を見ればスタンリーが車を運転している。
「スタンリィ…私…」
「大丈夫…?」
スタンリーは、心配そうに私を見た。
私は、まだボーっとした頭で何故、自分が車に乗っているのかを思い出そうとした。
そして真っ先に思い出したのは、ニヤニヤしながら自分を見下ろしていたウォーレンの顔だった。
「わ、私…部屋に連れ込まれて…」
「…」
「無理やり彼に……ぃや…っ!」
「おい、…っ」
急に取り乱した私に驚き、スタンリーは慌てて車を止めた。
「やだ…私…あんな奴に…っ」
「おい、落ち着けって…大丈夫だから…っ」
「いや…気持ち悪い…っ」
「…!大丈夫だから…!」
私が泣きじゃくっていると、スタンリーはグイっと自分の方に私を抱き寄せ、そう言った。
その言葉に涙で濡れた顔のままスタンリーを見上げる。
「スタンリィ…?大丈夫って………」
「…お前は何もされてないから……安心しろよ…」
「え…?」
「危ないとこだったけど…間に合ったからさ…大丈夫だよ…?」
「………スタンリーが…助けてくれたの……?」
消え入りそうなほどの声で、聞いた私に、スタンリーも小さく頷いた。
それで心の底から安心した。
「おい…大丈夫か?まだアルコールも抜けてないんだ…。あまり興奮するなよ…?」
「…ん…フワフワする…」
「そりゃ飲みすぎだ」
スタンリーは苦笑しながら私の背中をポンポンと叩いてくれる。
私は酔ってフワフワしながら、スタンリーの腕の中で、とても安心するのを感じた。
だが、不意に、さっきの出来事を思い出す。
私…途中までしか覚えてないけど・・・あいつにキスされた気がする……そっと口元を手で触れてみて、それだけは確信した。
あまりの悔しさにギュっと唇を噛み締める。
その事で体に力が入ったのに気付いたのか、スタンリーが少しだけ体を離した。
「どうした…?」
「口の中が…」
「え?」
「気持ち悪いの………」
「…………」
私の言葉に、スタンリーは、ハっとした顔をした。
今にも泣きそうになるのを必死に堪えながら、ふと車の外を見ると、ある物が目に入る。
「アイス…」
「え…?」
「アイスが食べたい……」
「…アイス…?」
スタンリーも、それに気付いて外を見ると、そこにはアイス売りの車が止まっている。
そろそろ店じまいなのか店員が片付けをしているようだ。
「あれが食いたいの?」
「ぅん……ダメ…?」
上目遣いでスタンリーをチラっと見れば、彼は少し唖然とした顔をしていたが、不意に眉を下げて優しく微笑んだ。
「ったく……しょーがない奴…。女って、ほんと甘いの好きだな…」
「だって…」
「はいはい。お姫様のご命令とあらば何でも買ってきますよ?」
スタンリーは、おどけたように言うと、すぐに車を降りてアイス屋の方に走って行く。
どうやら、そのアイス屋さんは家に帰って来たところだったようだ。
でも何とか交渉して最後のアイスを買って来てくれた。私は車を降りると、戻って来たスタンリーに、
「そこの公園で食べる」
と無理を言って彼を中へ引っ張って行くとベンチに並んで座った。
その公園は子供の頃に、レオ達に、よく連れて来てもらった場所だった。
「はい、アイス」
「ストロベリー?」
「ああ、好きじゃない?」
「好きだけど…今はミントチョコが食べたかった………」
「はぁ?普通、女はストロベリーが好きだろ」
「でも今はミントが食べたかったんだもん…」
「はいはい、悪かったよ。嫌なら食うな」
「……食べるわよ…」
カップを取られそうになって慌てて、そう言った。
するとスタンリーは苦笑しながら煙草に火をつけている。
その横顔を見ながら、アイスを口に入れると冷たい感触が広がっていく。
「おいし…」
「そう?なら良かった」
ちょっと笑いながら煙を吹かしているスタンリーを見て、気になってた事を聞いた。
「ねぇ…」
「ん?」
「ジムに…挨拶してないわ」
「ああ、俺、さっき電話しといた」
「そう…何て…言ったの…?」
「そのまま」
「え?」
「って言っても、あいつがを部屋に連れ込もうとしたから殴って帰って来たって事だけ」
スタンリーは、そう言って私を見た。
だが私は彼の言葉に驚いて口が開いてしまった。
「ス、スタンリィ…ウォーレンを殴ったの………?」
「え?ああ…まぁね」
ちょっと苦笑気味に、そう言った彼に、私は胸の奥が一気に熱くなるのを感じ、涙が出そうになった。
「そ、そんな事したら…大変なことになっちゃうよ…?」
「ならないよ。あいつが悪い」
「で、でも――」
「別に、あいつが訴えてきたってかまわないよ?俺は間違った事はしてない」
スタンリーはキッパリと、そう言うと、
「明日、テリーさんに、あいつを降板させるよう頼んでみるから…。だから心配すんなよ」
と私の頭にポンっと手を置いた。
その笑顔は見た事もないくらい優しくて、月明かりに見えるスタンリーの髪がキラキラしていて凄く奇麗だから思わず見惚れてしまう。
辺りは閑静な住宅街で今はシーンと静まり返っている。
その中、公園に二人きり。
だからなの?こんなにドキドキするのは………
「…どうした?」
私が黙っていたからか、不意にスタンリーが顔を覗き込んできた。
さっきまで少し見上げていた彼の顔が目の前に来て、ドキっとする。
いつもと違って凄く優しい瞳で、優しい声・・・
そんな風にされると、さっきの事を思いだし、また泣いてしまいそうになる。
「…?」
「私………」
「え?」
「キスされた……」
「…いいって…」
「あんな奴に………無理やり……キス…」
「言わなくていいって…っ」
「………っっ」
突然、スタンリーは怒ったように私を強く抱きしめた。
いきなり温かい体温に包まれた体が、それを現実だといっている。
「ス………スタンリィ……?」
「あれは演技なんだって」
「え?」
「全部、演技なんだ……。そう思って気にすんなよ………。女優だろ?は……」
そう言って少し体を離すと、スタンリーは優しい瞳で私を見つめている。
そんな優しい顔なんて見た事がないから、ドキドキするのに目が離せない……
すると、スタンリーが、ゆっくり顔を近づけてきて、ドクンっと心臓が跳ね上がった。
気づけば頬に手が添えられていて、少しだけ顔を上にあげられる。
何か言おうと思うのに言葉が出てこないまま、私はギュっと目を瞑ってしまった。
その瞬間、唇の真横のきわどい場所に唇で触れられ、思わず体に力が入った。
アルコールのせいなのか分からないくらいに顔が熱くなってクラクラする。
すると不意に温もりが離れ、今度は唇にされるのかと緊張した、その時―――
ムギュ……
「……っっ」
いきなり鼻をつままれ、私は驚いて目を開けた。
目の前には、いつもの意地悪な顔でニヤっと笑っているスタンリーが見える。
「バカ。消毒だよ」
「は……?」
「あ、もしかして唇にされるかと思った?」
「……なっ」
「も学習しないな〜?」
スタンリーは、そう言って笑いながら私の手から、ひょいっとアイスのカップを取って一口食べている。
「うぇ………甘…っ」
呑気に、そんな事を言っているスタンリーを見て私は顔が真っ赤になった。
「な……ま、また、からかったわね……っ」
「からかってないって。消毒してやったんだろ?感謝しなさい」
スタンリーは、そう言って笑いながらアイスを私に返すと、煙草に火をつけた。
その言い草に私は思わず、
「されたのは唇よっ!消毒する場所が違うでしょっ」
と言ってしまい、慌てて口を押えた。
それにはスタンリーも少し驚いた顔をしたが、その後に苦笑いを浮かべた。
「俺がにキス出来るわけないだろ?何言ってんだよ。それより帰るぞ?」
「え?」
「皆、心配してる」
スタンリーは、そう言って私の頭にポンポンっと手を乗せるとベンチから立ち上がって車の方に歩いて行く。
それを見て私も慌てて追いかけた。
「あ〜遅くなっちゃったな…。ちゃんと皆に寄り道したって言えよ?」
「え?」
「じゃないと俺が皆に怒られるだろ?"私の我がままでアイス食べたいって言いました"ってさ」
「わ、分かってるわよ…。悪かったわね、我がままでっ」
スタンリーの言葉にむぅっとしてプイっと顔を反らすと、彼はクスクス笑いながらエンジンをかけた。
チラっと視線を向ければ、もう彼は普段の彼で、さっきの優しい笑顔は奇麗に消えてしまっている。
もしかして、あんな優しいスタンリーは夢だったのかな?なんて思うほどだ。
でも・・・私の鼓動の速さが、さっきのは現実だって事を教えてくれている。
さっきのは・・・彼なりの慰め方だったのかな………私が傷ついたと思って…
ねぇ……そうなの…?私の心臓は……こんなに苦しいくらい早く打ってるのに…
外を見てるフリをして、そっと唇の横を手で触った。
さっきスタンリーの唇が触れた場所・…思い出すだけで、また鼓動が早くなる。
私………好きなのかな………
あなたのこと………好きなのかな……?だから、かすかに…胸の奥が痛むのかな……
"俺がの唇にキス出来るわけないだろ?"
ねぇ……それは……どういう意味なの…?
窓に映っているスタンリーの横顔を見ていると、喉の奥が痛くなった。
レオナルド
「お帰り、」
「ただいま、レオ………遅くなって、ごめんなさい…」
「いいよ。ああ、ありがとう、スタンリー」
俺が、そう言って彼を見ると、スタンリーは、ちょっとだけ微笑んで、
「じゃあ、俺はこれで。また明日迎えに来ます」
と言った。
そしてに、
「明日は朝、事務所に行くから10時に来るよ」
と言っている。
は何となくスタンリーから目を反らして小さく頷いた。
「じゃ、失礼します」
「ああ……。本当にありがとう」
俺が最後に、もう一度、深い意味を込めて、お礼を言うと、スタンリーは軽く頷いて、そのまま帰って行った。
「レオ……」
「どうした?酔っちゃった?」
急に抱きついて来たを抱きしめて、そう聞けば腕の中で、かすかに頷く。
その仕草は子供の頃、眠たいと言って、ぐずりながら抱きついて来たと、ちっとも変わらない。
「じゃあ、すぐ寝る?」
「……ぅん…」
「OK。あ、その前に…皆からバレンタインのプレゼントがあるんだけどな?」
「え?」
そう言えばは驚いたように顔を上げた。
そのまま彼女の額にキスをすると、リビングに連れて行く。
「わぁ……凄い……」
「お帰り、!ハッピーバレンタイン!」
そう言ってリジーが大きな花束をに差し出す。
「リジィ…ありがとう…」
「今年もいっぱい愛をプレゼント!」
リジーは、そう言ってをギュっと抱きしめ、頬にチュっとキスをした。
すると今度はジョシュが、これまた大きな花束を抱えて入ってくる。
「あ、お帰り、!ハッピーバレンタイン!」
「ジョシュ…!わぁ…ありがとう…」
「今年も変わらない愛をに…」
ジョシュはそう言っての額と頬にキスをしている。
は嬉しそうに花束を受け取り、それでも重いのかヨロヨロしている。
それを見てジョシュもリジーも花束をもってあげる。
「これはエマに言って明日部屋に飾ってもらおう?」
「うん。ありがとう、ジョシュ、リジー」
「あと…これはお土産」
「え?」
ジョシュは、そう言っての手のひらに小さな袋を乗せた。
「なぁに?これ…」
「開けてみて?」
ジョシュが笑顔で、そう言うとは中を開いて中のものを取り出した。
「わ…ダイヤ……?」
「そう。ブラックダイヤだよ?の瞳と同じ色だろ?」
「ほんとだ…。でも奇麗…。ありがとう、ジョシュ!」
は笑顔でジョシュに抱きついて少し背伸びをすると頬にチュっとキスをしている。
そこで俺とリジーで、もう一つのプレゼントを渡す。
「はい、これは俺から」
「これは僕ね」
二人での右手と左手にプレゼントを乗せる。
が中を出すと、またまたビックリした顔を見せる。
「これ…」
「そう。ジョシュのそれと合うように買ったんだ」
「そうそう。つけてね?」
「うわぁ…凄く嬉しい…!ありがとう、レオ、リジーっ」
は、そう言って俺とリジーに抱き付き、頬にキスをしてくれた。
俺とリジーが買ったのもブラックダイヤのアクセサリーだった。
ジョシュから、お土産にそれを買ったと教えて貰って、じゃあ皆で、それぞれブラックダイヤで違うアクセサリーをプレゼントしようと言うことになったのだ。
俺がピアス。リジーはネックレス。そしてオーリーが………
「あれ?そう言えばオーリーは?」
「え?あれ?」
「そう言えば静かだと思ったんだ」
俺の問いにジョシュも、リジーも首を傾げている。
も驚いた顔で、「オーリーってば、まだ仕事?」と皆の顔を見渡した。
「いや、あいつは夕方戻って来て………なぁ?」
ジョシュが、そう言って俺を見た。
「あ、ああ…。さっきまで……」
そこまで言ってハっとした。
「ヤベ…………置いてきた…」(!)
「え?どこに?」
俺の言葉に、はキョトンとしていたが、事情を知っているジョシュとリジーは、あっ!っと声をあげた。
そう…最後にオーリーを見たのは、あのホテルのバーだった………
俺とジョシュは、急いで、バカ男の部屋にの救出に向かった。
スタンリーのおかげで彼女は何とか無事に救出。
その後、俺とジョシュでウォーレンの部屋に行き…………まあ、奴に何をしたかという事は、ここでは内緒にしておこう。
俳優はイメージが大切だからな。
でも、まあ、あのバカがと共演する事はないという事だけはハッキリしている。
それで…その後、スッキリした俺とジョシュは仲良くタクシーで家に戻って来たんだ…という事は……
「あいつ…まだ探してるのかも……」
「え?誰を?」
俺達の今日の行動をは知らない。なので敢えて、その質問には答えなかった。
ただ事情を知っている、ジョシュとリジー(リジーには帰宅後に全てを話した)だけは青い顔をしていた。
「どうする?レオ…」
「お、俺、知らないぞ…。ジョシュ、迎えに行けよ…」
「えぇ?俺?嫌だよ…今日一日で、どんだけ疲れたか…。リジー行ってこいよ…今日、参加してないんだから」
「え〜?僕ぅ?嫌だよ〜。僕だって仕事してきて疲れてるんだからさ〜」
「だ、誰か電話しろ、電話…」
「「だからオーリー、携帯、持ってないって」」
俺の一言に、ジョシュとリジーが奇麗にハモって突っ込んできた。
それには俺も納得し、結果、出た結論は…………
「ま、そのうち帰って来るだろ」
「だな……」
「だよね」
「ねー何の話?オーリー、どこに置いてきたの?」
「「「何でもないよ」」」
の質問に、皆でニッコリ微笑むと、それぞれ彼女に、お休みのキスをした。
その頃、置いていかれたオーランドと言えば………
「うぇーん……皆、どこぉ〜?!〜〜〜!!今、助けに行くよぉ〜〜う!」
ホテルの廊下で、そう叫びながら、皆を探し回り、朝方、「うるさい奴がいる」との泊まり客の苦情によって、不審者として通報されたのは言うまでもない(!)