ハリソン家の二男が47回目の家出。
そして、たった21時間という、それでも今までの中で最も長い時間の家出から、
速攻で帰宅(それもドムによる強制連行)して早、半月。
今日もハリソン家で一番、害のあるのは、この"家出の達人"だった。
「ただいまぁー」
「ただいまー」
ドタドタドタドタドタ・・・ッ
「おっ帰りぃ!My Little Girl〜〜!」
「うわ、オーリィ…!」
例の如く愛すべき妹に抱き付きスキンシップの嵐を繰り返すハリソン家の二男ことオーランド。
それを呆れるように半目で見つめるのが、このオーランドよりも大人な男、三男のジョシュだ。
「おい、オーリー。は疲れてるんだからさぁ。もう少し静かに出迎えてやれないのか…?」
「何だよ、ジョシュ!ちょぉーっと一緒に帰ってきたからって!それにだなあ!ジョシュは一日の殆どがと一緒じゃないか!少しくらい兄ちゃんにもを貸してくれたって別にバチは当たらないと――」
「おいで、。疲れただろ? 紅茶淹れてやるよ」
「うん、ありがとう、ジョシュ」
「うぉーーい!!俺を無視するな!放置するな!それとも何か? ジョシュ!お前は放置好きかっ?」
「、あとで今日のシーンの台詞合わせ付き合ってくれる?」
「うん、いいよ。 私もちょっと明日の本番で危ないかなって思ってたの」
「そっか、じゃあ食事の後に頼むよ」
「分かった」
「うぉーーーーーーいっ!!!」
「うるさいよ!」
ゴンっ
「ぃで…!! ――あ、レオォ〜〜〜!!」
愛すると憎むべきライバル(?)のジョシュに放置され、エントランスで一人大声を張り上げていると、いきなり後ろからゲンコツが飛んで来た。
「何だよ、レオー!帰って早々に殴るなんてさっ」
「ドア開ける前からうるさいんだよ、お前は!」
「だってだってだってジョシュが俺をわざと放置するんだよ?! 酷くない?!」
「…あーはいはい、酷いよなー」
レオはオーランドの話を流しながら、そのまま家へと入っていく。
オーランドはその後ろからヒョコヒョコとついていきながら、まだ愚痴が止まらないようだ。
「家でも仕事場でもを独り占めしちゃってさぁー!ほーんとずるいよっ」
「…………はいはい……(早くも限界)」
「昨日だって仕事の帰りにと二人だけで食事して帰ってきたんだよ? 俺はずっと家で待ってたのにさ!」
「……………へぇ…(額に血管ピキピキ)」
「だから今日こそは一緒に夕飯を食べようと思って出迎えたのに――」
「………おい、オーランド…(怒MAX)」
「何?」
急に立ち止まったレオにオーランドは首を傾げながらひょいっと顔を覗き込む。
すると、そこにはゴルゴもビックリするほどの殺意のこもった奇麗なブルーグリーンの瞳。(若干、血走ってる)
「………………エマに口チャックでもつけてもらえ」
「はぃぃ……(震)」
今日も何となく仲良しな(?)ハリソン家の子供たちだった。
イライジャ
「へぇー。オーリーってば、まーたレオに怒られたんだ。学習しないねー、あの人も」
「あら、そこがオーリーのいいとこなんじゃない」
はそう言って笑いながら目当てのCDを探している。
今日は皆、仕事が早く終わり家に戻って来たので、僕は久々にを誘って近所のCDショップへ買い物にやってきたところ。
最近は忙しくて欲しかったCDとか買えずじまいだったし、ちょうどいい。
「撮影はどう? 順調?」
「うん。今のとこはね。でも、まだ新しく他のキャストとか加わるみたいだし合わせるの大変そうだけど」
「そっか。まあ、でもジョシュもいるし大丈夫だろ? 僕も何かと安心だよ」
「うん、ジョシュがいると心強いわ」
はそう言って笑顔を見せると数枚のCDを手に、今度はDVDのコーナーへと歩いて行く。
僕もCDを10枚一気に選び、あとはと同じく何かDVDを買おうと後からついて行った。
はぁ…今日は平和だ……
何せ、あのドムからの"魔の電話"がなかったからな…こうしてとノンビリ買い物も出来るし久方ぶりに安息の時間を持てたよ…
でも…ドムの奴、どうしたんだろうな…毎回、午後には一度、かけてきてたのに。
こなきゃこないで不気味だから手におえない…(何気にドム病かも)
"ジョシュとは今日はどんなシーンを撮ったんだーっ"
訊いて来るのはいつもそれ。
ジョシュとのラブシーンがあると分かって以来、気になって仕方がないらしい。
そんなの、こんな仕事をしてるんだから仕方ないってのにね。
まあ…他の俳優とかなら思う存分、嫌がらせも出来るんだろうけど、今回は相手役がジョシュだ。
したくても何も出来ないだろうし、この前のオーリーの家出事件からドムはますます慎重になった。
よっぽど自分の裏の顔(!)がにバレるのが怖いんだろう。
まあに嫌がらせがバレてオーリーみたいに怒られるだけなら、まだしも他人のドムなら嫌われてしまう可能性が多いからな。
その気持ちも分かる気がする。しっかし………そろそろ諦めたらいいのに。
まだ分からないのかな。
と付き合う事、増してや結婚するのなんて無理ってこと。(酷)
どのくらい無理かと言うと猫が犬になりたいって願うくらい? (オイ)
そう、ドムとの結婚なんて不可能。
つかありえない。
どのくらい、ありえないかって言うとタコがサメに勝っちゃうくらいありえない。(どんな例えだい)
なのにドムは、
"俺は不可能を可能に変えられる男だ!"
なーんてアフォ丸出しな事を言っている。
ってか、よくもまあ、それだけ自分の事を過大評価できるよ。
どっから、その根拠のない自信が溢れてくるんだ?
あのヴィゴでさえ、のことは諦めかけてるってのにドムは、その辺分かっていないようだ。
僕らの妹は簡単に落とせないって事をさ。
だいたい、あんな犯罪に半分以上、手を染めている男に大事な妹を渡すわけがない。
最初なんて、ほんと酷かった。
ニュージーランドから戻って来てすぐ、家の警報機が鳴り出し警察まで来て大騒動になったのもドムが勝手に庭に忍び込んだせいだし、(この時ドムは手にカメラを抱えていたっけ…何撮る気だったんだ!)
が共演してる男と撮影後に食事に行っただけで後をコソコソ付回して、あげく、その男の家でピンポンダッシュ数十回………
そう、ほら例えば今、コソコソとこっちを伺ってるような…
かなりストーカーが入ってるようなファン以上に怖い………ぁれ…?
僕は眺めていたDVDのパッケージを棚に戻すと、視界に入った怪しい男をマジマジと見てみた。
今、気づいたのだがその男はDVDを探しているを自分も商品を見ているフリをしつつジっと見ているのだ。
僕は一瞬、ファンかと思ったが、どうも、その挙動不審さが知り合いに似てる気がした。
そう、その知り合いって――
「ドム…っ?」
「―――っ!」
その怪しい男の後ろに近づき、そう声をかけると、男はドキっとしたように直立不動になった。
(変な帽子に変なサングラスという格好は、いかにも"僕ストーカーです"と言わんばかりだ)
そして、そぅっと僕の方に振り返る。
「だ、誰かとお間違えじゃないんですか? 僕はそんな名前では…」
「おい、ドム。何、変な声出してんだ? そもそも、サングラスしてたって、そのデカイ鼻はドムしかいないじゃん」
「………ぬゎんだとぅ?! リジィ!誰がデカイ鼻だぁーー!!あ…………」
「あははは!やーっぱドムだ!」
僕にバレてドムは真っ赤な顔で何かを言いかけたが、奴のデカイ声のせいで周りにいた店員や客、そして、そう…までが、こっちに気づき歩いて来たのが見えて、ドムは突然慌てだした。
「お、おい!俺とは偶然に会ったって言うんだぞ? 分かったなっ?」
「はいはい。に、ドムがストーカーしてたなんて言ったりしないよ」
「ぐ…っ!ス、ストーカーじゃない!俺は純粋にが心配で――」
「ドム? わぁ、ドムなの? 凄い偶然ー!」
「あ、あ、…!や、やあ!ほんと偶然だね!」
こっちに歩いて来たに微笑まれ、ドムは真っ赤になりながらも引きつった笑顔を見せている。
「どうしたの? ドムも買い物?」
「う、うん!そーなんだー!あははあー」(棒読み)
「そう!あ、もう終ったの?」
「え?! あ、そそそれが…目当てのが売り切れてて…っ」
「あら、そう。何を買おうとしてたの?」
「……え…っと…っ」
ぷ!ドムの奴、しどろもどろじゃないか。あーあー"助けろ"って顔でこっち睨んでるよ……
仕方ない……助けてやるか……
僕は必死に笑いを堪えながら、ふと店内に貼ってあるDVDのポスターに目を向けた。
「ああ、ほら。あれだよ、。ドムは"アメパイ"の新しく出たシリーズを買いに来たんだよ。な? ドム」
「えっ? "アメパイ"って……」
「バ!バカ、リジィ、おおお俺様は別に、そんな…!」
僕の意地悪にドムは大慌て。
はちょっと困った顔をしながら僕の方を見ている。
「それ…確かレオがオーリーと前に見てたわ。 えっと…ちょっとエッチで下品だけど面白いんでしょ?」
「えっ?! あ、いや俺はそんなものは――」
「そうそう!面白いんだよなー? ドム」
「ぐぐ…っ」
僕がニヤリと笑うとドムは何も言えなくなったのか、真っ赤な顔のまま小さく頷いている。
まあ、これくらいの意地悪は許してもらわないとね。あの毎日の悪魔の電話を受けつづけた被害者なんだし。
「あ…じゃあ私、これ買ってくるね」
「うん、僕、もう少し見てるよ」
「分かった。じゃあドム、またね」
「う、うん!また…!」
は笑顔で手を振るとレジの方に歩いて行った。
それを見送りながら、彼女の姿が遠くなると、ドムは怖い顔で僕の胸倉を掴む。
「リリリジィ、お前ぇ〜〜〜〜っっ!」
「おぉっと!そんな怒るなって!仕方ないだろ? 咄嗟のことで、あのポスターが目に入ったんだよ」
「だだだからって、アメパイはないだろう?!よりによって、あんな下品でエッチィものを俺が見てるとに思われたじゃないかっ!」
「いいじゃん。あれ、うちでも皆、見てたしさ。まあ…そのたびにには嫌な顔されて、レオもオーリーも見なくなったけど」
「ほぅら見ろ!!は嫌いなんじゃないか!俺のこと、きっとエッチな奴って思ったぞおう?!」
「だって、そうだろ?」
「ぅぐ…っ!そそそそれは否定しないが…だがしかし…っ」
「はいはい。悪かったよ。でも別に、そんな事でが嫌うはずないんだし気にするなって!」
僕はそう言ってドムを宥めると、やっと納得したのか、すんなり手を離してくれた。
「それで?ここで何してたわけ?の後をつけまわすなんて…僕だったから良かったけど、これがジョシュとかレオだったらきっと速攻で秒殺されてたよ」
呆れたように、そう言うとドムはジロっと僕を睨み思い切り溜息をついた。
「毎日、リジーから報告聞いてたら…どうしてもの顔が見たくなったんだよっ」
「へぇーそっか。ドムも可愛いとこあるんだねー」
「うるさい!だいたい家に遊びに行けば、いっつもあのマフィアみたいな兄貴と意地悪兄貴がに近づけまいとするからだろうっ?」
「あー。まぁ、それは仕方ないよ」
「何が仕方ないんだ!おかげでとは全く話せず、散々酒を飲まされ次の日にはお父様には毎回殺されかけ…(!)俺がどんなに苦労してると思ってるんだ!今だって、ものすっごい久し振りにと話せたんだぞ?!」
ドムは熱くそう叫ぶと握りこぶしをぷるぷるさせている。
それには少し同情もしたが、僕にはどうする事も出来ないしね。(冷)
「分かったから、落ち着けよ…。あぁ〜泣くなって…鼻水出てるよ…?」
「う、うるさい…っ!ズピー…ッ」
ドムは怒ってるうちに感極まったのか、目に涙を溜めて鼻を啜っている。
それを見て僕も少し可哀相かな?くらいには思ってしまった。
「じゃあ…まだ時間も早いし…ここ出たら近くのカフェで一緒にお茶でも飲んでく?」
「な、何?」
「もちろんも一緒。まあ…夕飯は家で食べるって言っちゃったしジョシュもレオも待ってるから無理だけど」
「い、いいよ!それで!お茶だけで十分さ!!」
僕の提案に見事に生還(?)したドムは涙も鼻水も一気に引っ込んだ様子だ。
まあ…バレたら僕までがレオやジョシュに怒られるんだけど…少しの時間ならいいだろう。
バン・・・!
「ぃたっ!」
「俺は優しい親友を持てて幸せ者だよ、エルウッドくん!あっはっは!」
「………………」
思い切り背中を叩かれ、一瞬、このまま帰ってやろうかと思ってしまった………
そのままに事情を話し、三人で近くのカフェへと向った。
まあもドムの気持ちには気づいてないので、僕やオーリーの友人ということもあり、愛想よくしてくれる。
それだけでドムは一ヶ月はしのげるだろう……(多分)
「へぇ。じゃあ今度はアフリカの方にロケに行くの?」
「そ、そうなんだ。だから暫くは家に行けないけど…」
「そっかぁ。じゃあ寂しくなるね、リジィ」
「え…? いや別に…ぅ…そ、そう…だね、あはははっ」
ギロっとドムに睨まれ、僕は慌てて笑顔を見せた。だけどがドムを見ると、奴はすぐさま怖い顔を笑顔(デレ顔?)に切り替える。
その素早さは怪人百面相並みだ。(今度から悪さをする時、そう名乗ればいいんじゃないか?)
「え、えっと…は今、どどう? 撮影は…」
「私?私は今、凄く楽しいわ。ジョシュも一緒だし」
「……そ、そうだよねー」
ジョシュの名前が出た途端、ドムの眉がピクっと上がった。(怖)
だけどには引きつりつつも笑顔を見せている。
「ラララブシーンがあるって……?」
「え?ああ…そうなの。ちょっと照れくさいんだけど……ドム?」
「え?ななな何だい?」
「どうしたの?急に俯いちゃって…具合でも悪い?」
「い、いや、そんなことないよ!凄く楽しいんだっ」
「そう?ならいいけど……」
はそう言ってニッコリ微笑んだ。
すると僕の目にもハッキリ分かるほどにドムはズキューーンと打ち抜かれている。
(はぁーあ…たく…へこむくらいなら、そんなこと聞かなきゃいいのにさ)
僕はカフェラッテを飲みながら内心、苦笑していた。だがドムは性懲りもなく、また余計な事を聞いている。
「あ、あの……」
「ん?なぁに?」
「あの…さ…・。ほら、いっつもを迎えに来る付き人の…」
「え?あ…スタンリーのこと……?」
「う、うん!えっと彼は……元モデルなんだってねー」
「そうみたいね。でも…どうして?」
「い、いや、別に……」
僕は本気でカフェラッテを吹きそうになってしまった。
レオとジョシュのイタズラ以来、ドムはスタンリーのことが気になって仕方ないようだ。
まあ、も気にいってるようだ、なんて聞かされちゃ黙っていられないんだろうなぁ。
「か、彼とはその……ど、どんな感じ?」
「どんな……って…?」
「だ、だからさ、ほら…えっと…仲がいいのかなーなんて…」
「ま、まさか!そんな事ないわ。彼、仕事は凄く出来るけど…普段は結構、意地悪だし…」
「そ、そうなの? に意地悪なんてするの?」
「え? あ、そ、そんな酷いことじゃなくて……」
はドムの迫力に圧されて少し後ろに下がった。それに気づいたドムはハっとしてすぐに笑顔を見せる。
「あ、いや…ほら!大事な親友の妹だからね!何かと心配で…」
「そうなの? ドムまで心配性なんだ。あ、もしかして…スタンリーと私が怪しいって記事、読んだ?」
「えっ?まままさか!そんな事は知らなかったよ!」
(嘘つけー!発売した日の朝一番で、そのゴシップ雑誌買いに走ったクセに!)
首をぶんぶん振りつつバレバレの嘘を言ってるドムを見ながら、僕は必死に笑いを噛み殺していた。
確かに先週、とスタンリーの記事が載ったけど、マネージャーをしていれば当たり前ってなことばかりが載ってて全然、真実味がなかった。
夜、二人で食事をしてたとか、バーで飲んでたとか、そんな事ばかりを勘ぐって書いてるんだから、あの手の雑誌も暇なんだろうな。
他にいいネタもなかったって感じだったし。
うちの家族で言えば、前はそれなりにゴシップ雑誌を毎週、賑わしてたけど、最近じゃめっきり減ったように思う。
まずは父さん。この人は恋多き人だから仕方ない。
次にレオ。この人もかなり遊んでたし仕方ない。
そしてオーリー。数人、彼女がいたが、すぐに振られてシスコンで振られる!なんて書かれてた。
ジョシュ。ジョシュはそんなに遊んではいなかったが、何度かオーリーと似たような理由で振られていて、これも雑誌で面白おかしく書かれてた。
そして僕……僕は前にも話したとおり、年上の彼女の事で、あること、ないこと書かれ、最後には"年上キラー"なんて変な呼び名をつけられた。
そして最後に。
はこれでも何度か共演した俳優と"熱愛中!"なんて書かれてたけど、どれもこれも嘘ばかり。
本命の恋人でゴシップ記事に書かれた事は一度もない。
まあ…僕らが知らないだけで恋人の一人や二人はいたのかもしれないけど…今はいないって確信してる。
そして目の前の男とも、そうなることはないってね。
そんな事を考えつつ、ドムが必死にに話し掛けてるのを見ながら時計を見た。
そろそろ家に戻らないとレオから電話がかかってくるかもしれない。
「おい、ドム、僕たち、そろそろ帰る――」
「えぇ?! あ…、これから仕事でも?」
「え? ううん…ないけど…」
不意にドムがそんな事を言い出し、僕は顔を顰めた。
「何言ってるんだよ。今日はもう終ったって、さっき…」
「い、いや、だってほら!彼が来たから…」
「え?」
「彼?」
ドムの言葉に僕とは顔を見合わせると、カフェの入り口に顔を向けた。
すると、そこには……
「スタンリーだわ…」
「ほんとだ。一緒にいる子、誰だろ?」
スタンリーは黒い髪の女の子と一緒に入ってくると、僕らとは逆の席へと座った。
「彼女、リンだわ…」
「え?誰?」
その言葉に僕はの顔を覗き込んだ。
「彼女…今、私が撮ってる映画の衣装さん」
「へえ、そうなんだ。でも何でスタンリーと…」
「スタンリーがモデルやってた頃からの知り合いみたい。今回の仕事で久々に再会したんだって」
「ふーん、そっか。じゃあを送った後に彼女と約束してたんだね」
「……そうみたいね」
はスタンリーから顔を反らすと急にバッグを持った。
「リジィ……そろそろ…帰ろ?レオ達も待ってると思うし…」
「え?あ、そうだね。じゃあ帰ろうっか」
「えぇ?もう?」
ドムだけが悲痛な声を上げたが、は素早く席を立つとレジの方に歩いて行ってしまう。
僕は慌ててドムの肩をポンっと叩くと、「じゃ、またね、ドム!」と声をかけてすぐにの後を追い掛けた。
ドムが何か言ってたのは聞こえたが、まあ今日はとの時間を取り持ってやったんだから放っておいてもいいだろう。
僕が急いで走って行くとは駐車場の車の前で待っていた。だけど、さっきまでの元気がなく少し俯いて車に凭れている。
「!どうした?」
「あ、リジィ…。ドムは…?」
「ああ、ドムなら置いてきた。支払いもジミにドム持ち」
「え…? もうリジィったら…ドムに悪いわよ」
「ぜぇーんぜん!もっと高い物にしとけば良かったって思ってるくらいなんだから」
僕がおどけて言った言葉にはクスクス笑い出し、ちょっとだけホっとした。
「でも、どうして急に店を出たの?ドムも驚いてたよ」
車のエンジンをかけながら、そう訊けばは軽く目を伏せた。
「あ…ごめんなさい…。お腹…空いちゃって」
「そっか。じゃあ急いで帰るとするか。ちょっと遅くなっちゃったしレオに怒られるかなー」
それ以上、何も訊かず、僕は笑いながら車を出した。
レオナルド
カラン…と氷の解ける音で俺は顔を上げた。
灰皿には吸いかけの煙草が煙を揺らしながら、すでに半分まで燃えている。
それを押しつぶし、ウイスキーを一口飲んだ。読みかけの台本をテーブルに置くと軽く手で目を抑える。
その時、リビングのドアが静かに開き、俺の可愛い妹が顔を出した。
「、どうした?眠れないのか?」
「うん。レオこそ…もう夜中の2時だよ?」
「俺は明日、午後からの撮影なんだ。ちょっと台詞いれてた」
隣に座ったの頬に軽くキスをして肩を抱き寄せると、台本を取って見せた。
「もう半ばまで撮ったの?」
「ああ、もう少し頑張れば終るな」
「そっか。レオ、最近疲れてるみたいだったから…終ったらオフとれば?」
「ああ、そうするよ。と言いたいけど…次の仕事も決まってるしな」
苦笑しながらそう言えばはへニャっと眉を下げてしまった。
心配してくれてるのか、それとも甘えたいのか、はそのまま俺の腕に自分の腕を絡めて肩に頭を置く。
「どうした?何かあった?」
「…ううん」
「そう?元気ないけど…」
「レオこそ。最近、元気なかったよ?何かあったんじゃない?」
は少しだけ顔を上げて俺の事を見つめてきた。
その真っ直ぐな視線にドキっとしながらも笑顔で首を振る。
「なーんにもないよ。最近はデートもしてないし健全だからさ」
「ふーん、そっか。そう言えば真っ直ぐ帰ってきてるもんね」
「だろ?」
「デートするような人が現れない?」
はクスクス笑いながら俺の頬にチュっとキスをした。
「んー。そういう事にしておこうかな。デートは当分いいよ」
「えー?何よ、それ」
は驚いたように、それでも笑いながらソファから立ち上がった。
「私も少しだけ飲もうかな」
「そう?じゃあワインでも開けようか」
「ううん、自分で開けるわ」
はそう言ってワインセラーのある地下へと行った。
それを見送ると、俺もキッチンへ行ってグラスに新しい氷を入れる。
久し振りにホっとするような時間だった。
デライラにストーカーまがいな事や、撮影現場での嫌がらせをされていた時は、どこかでイライラしていた。
も忙しくなったから一緒にゆっくりと話す時間がなかった事もある。
まあ…デライラがいなくなってからは撮影も順調だし、現場も雰囲気が良くなってやりやすくなった。
無言電話も、あれ以来かかってこない。
となると……やっぱり、あの電話は彼女だったんだろう。元々、思い込みの激しい女だったのかもしれない。
たった一度、寝ただけで俺と付き合ってるだの、クリスマスを過ごすだのと言ってもいない事を言いふらすあたり、相当おかしい。
「ったく……女は怖いよ…」
「それって誰のこと?」
「……っ」
その声にドキっとして振り向けば、が手にワインを持ってキッチンに入って来た。
俺は苦笑しながらグラスを置くとを抱き寄せ額にキスをする。
「"以外の女"はってことだよ」
「そうなの?レオ、何かされた?」
「いや…大丈夫。心配しないで」
「なら…いいけど」
そっと体を離すと、は少し心配そうな視線を向ける。俺はちょっと微笑んで、のワイングラスを出してあげた。
それを持ってリビングに戻り、二人で乾杯をする。夜中にこうしてと飲むのも、本当に久し振りだった。
「今日は静かだな…」
「オーリーが寝ちゃったから」
「ああ、だな。あいつがいると5〜6人分くらいは普通にうるさいし」
「もうレオってば、またそんなこと言って…」
はちょっと困ったように笑いながらワインを美味しそうに飲んでいる。
俺はの笑顔を見ながらホっとするのを感じていた。
「撮影は順調だって?」
「うん。何とかジョシュ相手に演じるのも慣れて来たの。でもジョシュはシーンによっては照れちゃうみたいだけど…」
「ああ、ジョシュはなぁ…。ま、でも相手がジョシュで良かったよ。もしオーリーなら、きっとメチャクチャやってたぞ?」
「そ、そうかな…」
「絶対、そうだよ。だってジョシュと共演、ラブシーンがあるってだけで、アレだし」
「あ………そうね」
オーランドのジョシュへのちっちゃい(!)嫌がらせを思い出したのか、
はクスクス笑いながら俺の肩に凭れかかって来た。
まあ、この間、に怒られ家出をしてからは、目立った嫌がらせはしなくなったが、
その代わりに毎日、ジョシュにブツブツ文句を言っている。
ジョシュの方が大人なので相手にもせず、(時々しつこいと殴ってるようだが)
軽く無視をしてるようだが、ほんとオーランドには困ったもんだ。
どうせ自分が相手役だったら監督に言われなくてもラブシーンをしようと企んだに違いない。
そして俺達に自慢とかするんだ。絶対そうだ。ほんとオーランドは分かりやすいよ…。
「この前はヴィゴのお宅にお邪魔してたんでしょ?」
「そうみたいだな。ったく……バレないと思ったのかな。まあドムは探すの早かったけど」
「ほんとね!ビックリしちゃった。ドムがオーリーを引きずって帰って来た時は(!)」
「あはは…オーリーもドムには敵わないだろ…。ってか似た者同志だよ、あの二人」
二人が聞いてたら、どっちからも苦情を言われそうな事を言いつつ俺はグラスを口に運んだ。
ま、俺からしたら、あの二人はタイプは違うが"アフォ"なとこは似てるんだよな。(酷)
「ドムって言えば…今日、リジーといったCDショップで偶然、会ったのよ?」
「何だって?」
「で、その後にちょっと三人でお茶飲んで帰ってきたの」
「な、何も聞いてないぞ」
「どうしたの? 怖い顔して…」
「あ、いや…。で?何もされなかった?」
「な、何もされないわよ。何で?」
「いや…なら、いいんだ……」
ちょっと動揺しながらも笑顔を見せるとは首を傾げながらも苦笑している。
リジーの奴…隠してたな…?だから少し帰って来るの遅かったのか…
全く…あんな犯罪者に片足突っ込んでる奴にを近づけなくてもいいのに。
今日のだって絶対に偶然じゃないはずだ。(するどい)
まあ…悪い奴じゃないし、単純だけどに対する気持ちは本物だと思うから変な心配はしないでいいだろうけどな……万が一って事もある。
「…心配はつきないよ、ほんと…」
「…え?」
「我が家の大事なお姫様だからさ…」
俺はそう言っての頬にチュっとキスをして抱きしめた。
ジョシュ
「、眠いのか?」
午後のシーンを撮り終えた後、休憩してるとがウトウトしだして声をかけた。
するとハっとしたように顔を上げる。
「ううん、大丈夫…」
「そう?もし眠いなら控室で寝てていいよ。 俺のシーンも後1シーンで終わりだから」
「うん。ジョシュは今から第三スタジオ?」
「ああ。そろそろ行って来るよ」
「うん、頑張って」
「ああ」
笑顔で頷き、俺は椅子から立ち上がった。
そこへ俺の相棒役のケイトが歩いて来た。
「あら、ジョシュも今からスタジオ行くとこ?」
「ああ」
「ちゃんのシーンは終ったのね。控室に連れて行かなくていいの?」
「え?」
「一人にしておいたら心配なんじゃない?」
ケイトはちょっとからかうような視線を向けながらニッコリ微笑んだ。
俺は苦笑しながらも、そう言われるとちょっと心配になり、ふと足を止めを見る。
は控室に戻るといいながら、また、その場でウトウトしてしまったらしい。
スタッフが行き交う中、椅子に凭れて眠りかけているようだ。
それを見て俺は軽く息をつくと、ちょっと微笑んだ。
「悪い、ケイト。先に行っててくれるかな」
「ええ、いいわ。彼女をちゃんと控室に連れて行ってあげて」
ケイトはちょっと微笑むと手を振りながら隣のスタジオに歩いて行った。
俺はすぐに戻ると、すでに眠りかけてるを抱き上げる。
それを見ていたスタッフ達から冷やかしの声が飛ぶが軽く交わしての控室に歩いて行った。
「ったく……男がうじゃうじゃいる中で寝るなよな」
そう呟いての額にチュっとキスをした。
そのまま控室のドアを開けて中へ入ると、スタンリーが驚いたように立ち上がる。
「ちょ…どうしたんですか?」
「がスタジオで眠り込んじゃって運んで来た」
「何だ…そうですか。そう言えば今朝から少し疲れた顔してたっけ…。あ、ここへどうぞ」
そう言ってスタンリーは控室にあるソファを空けてくれた。俺はそこにそっとを降ろすと軽く頬にキスをした。
「これから1シーン撮ってくるんだけど…終るまで見ててくれないか?」
「もちろん。それが仕事でもありますから」
「そっか、そうだよな」
笑いながら、そう言うスタンリーに俺も苦笑した。
「じゃあ、ちょっと頼むよ」
「はい、撮影、頑張って下さい」
「サンキュ」
俺はスタンリーに軽く手を上げると、控室を出て急いでスタジオへと向った。
「悪い、遅くなって」
すでに集まってるスタッフに声をかけると皆にニヤニヤしながら手を上げている。
どうせ、また妹バカが出たと思ってるんだろう。そこへケイトが歩いて来た。
「ちゃんはどう?」
「うん、結局、グッスリ寝ちゃってたよ」
「そう。じゃ、あのままだと危なかったわね」
「ああ、そうだな。サンキュ、ケイト」
「いいえ。ただ、ちょっとジェイクがちゃんのこと狙ってるみたいだったから」
「え? ああ…彼か…」
ケイトの言葉にチラっと視線を向ければ、スタジオの隅で犯人役のジェイクがスタッフと談笑しているのが見える。
そう、確かにあいつはの周りをウロチョロしてて気に入らなかった。
俺が一緒の時は来ないクセに、俺が別のシーンの撮りをしている時にはに話し掛けているのは知っている。
スタンリーも気にしてくれて、なるべくを一人にしないようにしてくれてはいるが
四六時中くっついているわけにもいかない。そう言うときに限って、あの男がに近づいているようだった。
「ジェイクってば、よくお兄さんが共演してるのに口説けるわね。ハリソン家のお兄さん達は妹にメロメロだって知らないのかしら」
「おい…メロメロってさ…」
「あら、実際にそうでしょ?」
ケイトはクスクス笑いながら俺のわき腹を肘で突付いてくる。
それには俺も苦笑しながら肩を竦めた。
「まあ…否定はしないけどね」
「ほーら。まあ…妹さんが大事なのも分かるけど…。一度くらい私とデートしてもらいたいわね」
「……え?」
彼女の言葉にドキっとして顔を向ければ、ケイトはクスっと笑って監督の方に歩いて行った。
「おい、ジョシュ、そろそろ始めるぞ!」
「はい」
俺もすぐ監督に呼ばれて皆の方に歩いて行く。
するとケイトが意味深な笑顔で俺の事を見て来る。
それにはちょっと頭をかきつつ、俺も微笑み返し、さっきの言葉は本気なのかどうか撮影が終るまで悩むハメになった。
何か暖かいものが体を包み、私はそこで目を覚ました。
「ん…?」
ゆっくり目を開けると、そこは自分の控室でゴシゴシと目を擦ってみる。
すると向いのソファに座っていたスタンリーが私を見た。
「ああ、目が覚めた?」
「スタンリィ…?あれ…私、どうして…スタジオにいたのに」
「寝ちゃったからジョシュがここまで運んで来たんだ」
「え…ジョシュが…?」
私は体を起こし部屋の中を見渡した。
「ああ、彼なら今、撮影中。そろそろ終わるんじゃないかな」
「そ、そう…」
「どうでもいいけど…あまり無防備にどこでも寝るなよ?」
「わ、分かってるわよ…」
呆れたように溜息をつくスタンリーにムっとして私は顔を背けた。
するとスタンリーは手帳を閉じて煙草に火をつけている。
「何だよ、今朝から機嫌悪いな…。寝不足なのは自分が悪いんだろ?」
「そ、そんなの分かってるわよ。それに別に機嫌が悪いわけじゃ…」
「嘘つけ。今朝から、いちいち突っかかってくるくせに」
「…………」
スタンリーは別に怒るでもなく苦笑交じりで私を見ると煙草の煙を吐き出した。
私は床に足を下ろすとソファに凭れて、目の前のスタンリーを見る。
昨日……私を送った後にリンと会っていた。
何だかそれが引っかかって今日は素直に彼の言う事を聞けない。
何してたの?って聞きたいけど…それも聞けずじまいだ。
「何?」
「…え?」
「人の顔、じっと見て」
「べ、別に…っ」
「何だよ。何か言いたい事あるなら聞くけど?」
「……………」
スタンリーは体を前に出し、そう言ってくれた。
私は一瞬、迷ったが、別に構えず普通に見かけたと言えばいい、と思い、昨日の事を聞いてみる事にした。
「昨日…家に帰った後にリジーと買い物に行ったの」
「うん、それが?」
「それで…帰りに"セブンズカフェ"に行ったの…」
「………え?」
(あ…ちょっと顔色変わった…)
少しだけ驚いたような顔をしたスタンリーに私はドキっとした。
だが私の言いたい事が分かったのかスタンリーの方から話し出した。
「じゃあ俺を見たんだ」
「…うん。リンと一緒だったね」
「ああ…、まあな」
「デート…?」
「は?バカ、違うよ」
私の言葉にスタンリーは苦笑しながら否定した。
それでも納得出来なくて私も体を前に出す。
「ほんと?でも約束してたんでしょ?」
「ああ…まあ。久々に食事にでも行こうって、あいつが言うから…」
「"あいつ"…ね。ずいぶん親しいみたい…」
「そうか?まあ…前に少し付き合ってたしな」
「…えっ?」
「な、何だよ。そんな驚くようなことか?」
「べ、別にそういうわけじゃ……」
彼の言葉に、かなり驚いて私は動揺したのがバレないように少しだけ笑顔を見せる。
スタンリーはそんな私を見て苦笑すると煙草を灰皿に押しつぶした。
「ま、付き合ってたって言っても…少しだし。俺がモデルをやめた時に別れたんだ」
「そ、そう…。でも…何で別れたの……?」
「さあ…な。あいつの方から"別れよう"って言ってきたから」
「え?彼女から…?」
「ああ。まあ…モデルやめた男には興味なかったんじゃない?」
「嘘…そんな子じゃないわよ…っ」
「………何でがムキになるんだよ」
「べ、別にムキになってないけど……」
「まあ、元々仲がいい友達だったしさ。別れても、それは変わらないからな」
スタンリーはそう言うとソファから立ち上がって、いつものように紅茶を淹れてくれた。
「あ、もう終るな。帰る用意しとけよ?」
「う、うん、分かってる…」
紅茶を飲みながら、そう返事をした。
だけど私は胸の奥が苦しくて、それから家に帰るまでスタンリーを見ることが出来なかった。
オーランド
「オーリー。何してんの?」
僕がキッチンで作業をしてると、そこにリジーが顔を出した。
きっと、このいい匂いに誘われやってきたのだろう。
僕はいつもの如く、の可愛いエプロンを身に付け笑顔で振り向いた。
「のために今、オーランド特製パンケーキを焼いてるところだよ♪」
「………また?」
「ム!またって何だよ、またって!」
「だって今朝もそれだったろ?」
「今朝は朝食!これは夕食の後のデザートだよっ。分かってないなぁ、リジーは!」
チッチっと指を立てて、そう言えばリジーは大きな目を半分にして僕を見つめてきた。
そして特大の溜息と共にキッチンを去って行く。
「な…何だよ、その溜息はぁーー!人が必死にの疲れを癒そうと頑張ってるというのに!」
その場で地団駄しつつ怒鳴るもリビングからは何も返答がない。
また僕は放置されたというわけだ。
「くそぉ…うちの家族は皆、あれか!放置プレイがお好みか!ははんだ!」
ブツブツ文句を言いながら奇麗に焼きあがったパンケーキをお皿に盛り付ける。
「よぉーし♪奇麗にでーきたっと!もう、ここまで来ればプロの域だな☆」――毎日、毎日焼いていれば、そりゃ誰でも上手くなるってもんだ――
の分はフルーツをトッピングしてクリームをつける。そして残りのパンケーキは適当にお皿に盛った。
そこで、ふと思いつき、一枚のパンケーキを手にとる。
「そうだ…♪このジョシュのパンケーキに細工をしてやれー♪」(懲りない奴)
(このくらいの意地悪はジョークで済むだろうし、こんな事ではきっと怒らないはずだ!)
僕はそう思いつくと早速クリームを別のお皿に少しだけ分ける。
そして冷蔵庫から黄色い液状のものを出し、クリームの中にぶにゅぶにゅと入れていった。
それを思い切りかき回し出来上がり。
その出来を見るのに、僕は人差し指で少しだけ掬い、その薄っすらとベージュ色に染まったクリームを舐めてみた。
「ふぐっ!!!」
指を口に入れた瞬間………ビリビリと僕の舌がシビレだし変な汗が額に浮き出てきた。
「はにゃりひゃらい………っ」 (※かなり辛い、と言っている)
もう、まともに話すことさえ不可能なほどの出来栄え!だって、ちょっと涙と鼻汁まで出てきたし!(汚っ)
「うぷぷぷぷーー♪ひょれをひょしゅにあたひぇれびゃ…!」(何を言ってるのか理解不能)
僕はシビレと戦いながら、弟の驚く顔が見たくて、その場で小躍りしてしまった。
だけど僕は気づかなかった。まさかリジーがこっそり全てを目撃していた事を――
それが僕のたった一つの誤算であり、失敗だった。
この夜、帰ってきたジョシュにニコニコしつつパンケーキを出した僕に、彼は毒味を命じた……。
そして、あの"スペシャルパンケーキ"を全てたいらげるはめになった僕の次の日のウ●ピは――
悲惨な色だった…………(若干、痛み有)(知るかっ)