Big brothers who panic at scandal.#1きっと恋のせい・・・【








「たらり〜んららららぁ〜ん♪」

何だか能天気な鼻歌が聞こえてきて皆は顔を見合わせた。

「オーリィの奴、あのメリッサとかいう子と初デートは決まったらしいよ?」 と含み笑いしているのは四男のイライジャ。
「へぇ、結局、そうなんってんのか」 と呆れ顔なのは長男のレオナルド。

そんな二人の言葉に苦笑いを浮かべつつも黙って紅茶を飲んでいたジョシュはチラッと時計に目をやり椅子から立ち上がった。

「そろそろ迎えが来るから行くよ」
「あれ、は?」

レオが顔を上げ尋ねると、ジョシュは軽く肩を竦めて、

は撮影前に今度決まったCMの打ち合わせで先に出たよ」
「ああ、そっか。オババが必死にCMの仕事取ろうとしてたもんな」
「無事に決まったそうだからさ」
「わ〜楽しみだね〜!がCMに出るなんてさ!」

イライジャも嬉しそうに、そう言いながらクロワッサンにかぶりついた。
と、そこへ―――



「HeyHey!ブラザーズ!Good morning〜♪」

「「「……………………」」」

一際賑やかな声がダイニングに響き渡り、三人は一気に目が細くなる。
だが、そのシラケムードに気づいていないのかオーランドはニコニコしながら自分の椅子へと腰をかけ、皆の顔を見渡した。

「あれれぇー?俺の可愛い可愛いがいないじゃないかっ」
「…他の仕事で先に出たよ…」
「えぇー?なぁーんだ…。朝からの顔見ないと元気出ないんだよなぁ〜。は俺の栄養ドリンクだね、うん!」

「「「…………………(うざ…)」」」

一人ホクホクとしつつ、そんな事を言っているオーランドに三人の目はどんどん細くなっていく。
だが一向に気づかないオーランドは一人、用意されていた食事(野菜中心)をモリモリ食べ始めた。

「うん!今日も野菜が美味しいね!健康だね!俺♪」

そう言いながらコップにミルクを継ぐと、次に蜂蜜をドボドボ入れてマドラーでグリグリとかき回し、満遍なくなく混ざると、それを一気に飲み干した。
見ているだけで甘そうだ…と皆が思う中、オーランドは空になったコップをドンっと置き、

「ぷはっ!ん〜〜んまい!やっぱ朝はハニーミルクだね!俺のハニーはいないけど♪なんちゃって!」

と寒いギャグ(?)を爽やかな笑顔で言いのけた。
だが、その様子を見ていたイライジャは思いっきり溜息をつき―――


「オーリィ……。口もと………白いヒゲが出来てるよ…」(半目以下)


今朝も絶好調の二男であった。










「では、この絵コンテのままで撮影しますのでいいですか?」
「はい。宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」

そう言って頭を下げるとCM企画担当のコアは、にこやかな笑顔で部屋を出て行った。

「ふぅ…これで後は撮るだけね」

テリーは張り切って、そう言うと手帳を閉じて今頃、出されたコーヒーを飲んでいる。
それを見てスタンリーも軽く息をつくと時計に目をやった。

「そろそろスタジオに行かないと」
「ああ、そうね。じゃあ宜しく頼むわ」
「はい。 ――、行くぞ」
「あ、うん」

スタンリーに促されソファから立ち上がると、テリーは座ったまま、私達を見上げた。

「私は他に仕事があるから、このままタクシーで行くわ」
「分かりました。じゃあ行って来ます」
「ええ。あ、、撮影頑張って」
「はい」

テリーを置いて私とスタンリーはそのまま部屋を出てエレベーターへと向った。
途中、その会社の社員にサインを強請られつつ、何とか数人で済ませると二人でエレベーターへと乗り込む。
私は壁に凭れ、軽く息をつくと、スタンリーが不意に頭に手を乗せてきた。

「どうした?疲れたか?」
「あ…うん、少しだるくて…。でも大丈夫」
「そう?でもまあ…車の中で少し寝てけよ」

スタンリーはそう言ってポンポンと頭を叩くと、ちょうど一階ロビーにつき、エレベーターを下りていく。
私もその後に続いて駐車場へと歩いて行った。

今日はテリーが取りたがっていたCMの仕事の打ち合わせという事で、朝から彼女も一緒についてきた。
久し振りに会っても彼女も相変わらずで、一発目からお説教らしきものが入り、そこですでに疲れていたのだ。

はぁ…CMもいいけど…ほんとは映画の撮影してる時は他の仕事、なるべくしたくないのよね…気が散るし。

そう思いつつ、車に乗り込もうとした、その時―――



さん!」

「―――っ?」

ドキッとして振り向けば、スタンリーがすぐに私を自分の後ろに隠してくれる。

「何ですか」
「まあ、そんな怖い顔しないで下さいよ」

目の前に歩いて来た男を見てスタンリーも少し警戒しているようだった。
男は40代くらいで肩から大きなカメラを下げていて、すぐにパパラッチ系の人だと分かる。
案の定、男はポケットから名刺を出して、スタンリーに見せた。

「私はこういうもんです」
「"M出版"芸能部チーフ担当ジョン・スコット…?」
「そうです。実は明日発売のうちの芸能誌に…二人のことが載るんですが何かコメントを頂きたいと思いましてね」
「何だって?! あんたら、また嘘の記事を―――」
「おぉっと!嘘の記事なんて書いてませんよ?あとは読者の判断ですからね」

ジョンという男はニヤっとしてそう言うと私の方に視線を向けた。

「お二人は…付き合ってるんでしょ?ああ、あと兄さん達の中の誰かと……という噂もあるんですが」
「な…!違います!」
「いいから何も答えるな」
「でも―――」
「いいから。―――とにかく、こんな記事に何もコメントする気はないですから。帰って下さい」

スタンリーはキッパリと、そう言って車のドアを開けると先に私を乗せてくれた。
だがジョンは別に慌てる風でもなくニヤリとすると、

「また来ますよ。まあ明日の記事、楽しみにしててください。ハリソンファミリーの事も書かせて頂いてますから」

と言って歩いて行ってしまった。
それを見てからスタンリーは運転席に乗り込むと軽く息をつく。

「気にするな。どうせ前と一緒だよ」
「う、うん。でも…またテリーに怒られるんじゃ…。それに皆の事も書いてるって…」
「ああ…。まあテリーさんには俺から話すけど。それより…は後でお兄さん達に先に話しておいた方がいい」
「うん…分かった。後でジョシュに話しておく」

そう言うとスタンリーはちょっと溜息をついてエンジンをかけた。
ゆっくりと車が動く中、ふと人影が見えて、そっちに顔を向けると、ジョンという男はニヤニヤしながら私に手を振っているのが見える。
私が顔を反らし、無視すると、それに気づいたスタンリーは思い切りアクセルを踏んで彼を振り切るかのように駐車場を飛び出した。








「何だって?また?」
「そうなの…どうしよう……」

合流して無事に2シーンは撮った後、ジョシュにさっきの雑誌記者の話をした。
少し不安でギュっと抱きつくと、ジョシュは背中を軽くポンポンとしながら、

「どうせ、またデマだろ?気にするな」
「でも…皆の事も何か書いてるって感じに言ってたし…」
「大丈夫だよ。今までも何回も書かれて来ただろ?また無視してれば、すぐに納まるって」
「そうかなぁ…」
「そうだよ。それに俺達は最近、書かれても困るようなことしてないしさ。まあ…オーリィは分かんないけど…」
「そんなこと…」
「いーや。は知らないだけで結構、やってるんだって。不審者扱いで捕まってないけどな」
「えぇ?何したの?」

その話に驚いて顔を上げればジョシュは苦笑いを浮かべた。

「ま、そんな大した事はしてないよ。行動が怪しくて不審者と間違われただけだしさ」
「そ、そう…なの…?」

その言葉に首を傾げつつ、"オーリィは一体、何をしたんだろう…"と気になったが、あまり深く追求はしないでおいた(!)

「それより…少し疲れてるみたいだし控室で休んでたら?俺は別のシーンが最後に残ってるしさ」
「あ、うん。そうしようかな」
「ああ、そうしろ」

ジョシュは優しく微笑んで私の額にチュっとキスをすると、再び監督の方に歩いて行った。

「はぁ…"気にするな"か…」

ふと、そんな独り言が口から漏れる。
確かに、あんなゴシップ雑誌に載るのなんて慣れてるけど……でも相手がスタンリーだと少し気になってしまう。
彼は気にしないとか言うけど、でも私は……

ボーっとそんな事を考えながら控室へと歩いて行く。
すると前からデライラが歩いて来る。

「あら、、おはよう」
「あ、デライラ、今から?」
「ええ。は? 休憩?」
「そうなの」
「そう。それより…この前は変なこと言っちゃってごめんなさいね」
「え…?」
「ほら、スタンリーとの事…」
「あ…あれは別に―――」
「"彼ものこと気にしてるんじゃない?"なんて無責任なこと言っちゃったけど……」
「………何のこと?」

デライラの言葉に、ふと違和感を感じてそう聞けば彼女は気まずそうな顔で微笑んだ。

「今、見ちゃったの。彼、ほら、あの衣装担当の子と二人でいて…」
「……リンと?」
「ええ…何だか…彼女、泣いてるみたいでスタンリーが優しく慰めてたから……」
「え…?」

思わぬことで動揺が顔に出てしまった。
デライラは小さく、「あ…」と手で口を抑えると、

「これも…余計な事だったわね…。ごめんなさい。じゃあ撮影に行って来るわね」

と足早に歩いて行ってしまった。
私も何とか彼女に笑顔を見せたが、今の話が気になってそのまま控室に向って歩いて行く。
するとドアが少しだけ開いていて、ドキっとした。
ゆっくりと近づいて行くと中から、かすかに声が聞こえて来て、それは確かにリンの声とスタンリーの声だった。

「ごめん……もう大丈夫だから…」
「いいよ。気にすんな」

デライラが言ってた通り、リンは泣いてるようで、私は気になって中をそっと覗いてみる。
すると視界に飛び込んで来たのは、リンを抱きしめているスタンリーの姿。
それには鼓動が一気に早くなった。
その時、また声が聞こえてハっとしてドアから離れる。

「……もう行かなくちゃ…ありがと、スタンリー」
「あ、おい、リン――!」

(いけない…出てくる…!)

慌ててドアから一歩、後退した時、リンが廊下に出てきた。
そして私がいるのを見て驚いたように目を見開くと、まだ泣き顔ながらも笑顔を見せて歩いて行ってしまう。
そこへスタンリーも顔を出し、ドキっとしたような顔で私を見た。

「あ……終ったのか?」
「…う、うん…。ついさっき」
「そっか。お疲れ…」

スタンリーはそう言って中へ戻って行き、私もすぐ中へと入る。
そのままソファに座ると、スタンリーが冷たいジュースを持って来てくれた。

「ありがと」
「いや…。それより…さっきのこと話した?」
「え…?あ…うん、ジョシュに話したわ…」
「そっか。何て言ってた?」

スタンリーはそう言って隣に座り、少し心配そうな顔で私を見てくる。
そんな彼から少し視線を外した。

「気にするなって言ってた…」
「そう…。ああ、俺も一応、テリーさんに電話したんだけどさ。通じなくて…」

スタンリーは軽く息をつくとソファに凭れ、煙草に火をつけた。
私はそんな彼を見ながら、さっきの光景を思い出す。

(どうしてリンが泣いてたんだろう…。それにそれをスタンリーが慰めてた…)

別れても友達だし、リンに何かあったのであれば別に普通のことかもしれないが、やっぱり気になってしまう。

「…ねぇ…スタンリー」
「ん?」
「今…リン、泣いてたようだったけど…何かあったの…?」
「え?ああ……」

私の問いにスタンリーは一瞬、気まずそうな顔をしたが、軽く煙を吐き出し、

「明日、使う衣装をアイロンで焦がしちゃったらしくてさ。その事をチーフに凄い怒られたらしいんだけど…泣いたのは怒られた事じゃなくてさ…。あいつ、人一倍、責任感強いから、そんなヘマした自分に悔しかったんだろうな…」

そう言ってスタンリーは溜息をついた。
そんな彼を見て、また少し胸が痛くなってくる。

「よく分かってるのね…」
「え?」
「彼女のこと…」
「そりゃ…まあ昔から知ってるしさ」
「そう…」
「ああ、でも衣装は、どうにか間に合うと思うし…は心配しなくていいよ」
「…うん」

スタンリーにそう言われ、私は小さく頷くと、ソファからゆっくり立ち上がった。

「ちょっと…寝てもいい?」
「え?ああ…疲れた?」
「うん、少しね…。今朝、早かったし」
「じゃあ時間まで寝てろよ」

スタンリーはそう言って煙草を消すと自分もソファから立ち上がり、控室に備え付けのベッドを使えるようにしてくれた。

「ありがと…」

私はそう言って衣装のジャケットを脱ぐと、そのままベッドに上に上がった。
すると不意にスタンリーが私の額に手を当ててきてドキっとする。

「…少し…熱いな。風邪でも引いた?」
「…分かんない。でも…ちょっとだるいけど…」
「そっか。今朝もだるそうだったもんな…。じゃあ少し寝て、それでも具合悪かったら、最後のシーンは明日にしてもらうよ」
「でも…それは――」
「大丈夫だって。それに今のシーンも押してるみたいだし…このまま暗くなっちゃったら撮れないシーンだろ?」

スタンリーはそう言うと私をベッドに寝かせてからタオルケットをかけてくれた。
そしてベッドの端に腰をかけ、私の頭を軽く撫でながら、

「もし寒くなったら言えよ。もう一枚、貰ってくるからさ」

と心配そうな顔で言ってくれる。
そんな優しい言葉に、何故か涙が溢れそうで、それを必死に堪えた。

「ん…大丈夫…ごめんね…」
「謝らなくていいよ。でも…体調管理しとかないと…」
「うん…」
「じゃ、何か欲しいものがあったら言って。俺、そこにいるからさ」

そう言ってスタンリーは静かに立ち上がった。
私は頷くだけで精一杯で、カーテンが引かれたと同時に寝返りをうつ。
薄っすらと瞳に浮かんだ涙の意味は自分でも、この時、はっきりと分かっていた。


やっぱり……私はスタンリーのことが好きなんだ…。
リンを抱きしめてるとこを見て胸が痛くなったのも…優しくされて、こんなにドキドキするのも……これはきっとスタンリーが好きだから……

今まで何度もそう思っては否定して来たけど……。でも本当は分かってたのかもしれない。
ただ…臆病になってただけだ。
前のように…傷つきたくないって…。人を好きになる事に臆病になってた。
スタンリーは、いつも私の傍にいてくれるけど……きっと彼にとって私は仕事のパートナーでしかないって分かってるから。
いつか傷つくんじゃないかって………怖かった。


「バカだな……私…」


小さな声でそう呟いて涙を拭った。

カーテンの向こうにいるスタンリーに気づかれないように………













スタンリーはを寝かせると、再びソファに座り、煙草に火をつけた。
そして軽く息をつくと何かを考え込むように髪を無造作にかきあげる。
暫く考え込んでいたが、ふと開いたままの手帳を手に取り、軽くスケジュールをチェックしはじめた。
そのまま暫く仕事に没頭していたが、30分ほどすると携帯電話を手にソファから立ち上がり、静かにベッドの方に歩いて行って、カーテンを捲ってみる。
はすでに眠っているのか小さな寝息が聞こえてきた。
そんな彼女を見て、スタンリーはちょっと微笑むと、中へ入り、ずれたタオルケットをかけ直してあげる。

「ったく…無邪気な顔で寝ちゃってるよ…」

スタンリーはそう呟いての額にかかった髪を指ではらうと、暫く寝顔を見つめていた。
そして、ふと時計に目をやると、またカーテンをしめ、静かに控室を出て行く。

その頃、外では撮影が終る監督の「カット!」の声が響き渡っていた―――













「え…オフ…?」

私は車の後部座席に寝ていたが、スタンリーの言葉に驚いて少しだけ体を起こした。
すると膝枕をしていてくれたジョシュが苦笑しながら、また私を自分の膝に寝かせる。

「ダメだよ、横になってないと」
「で、でも――」
「スタンリーは心配してテリーに電話してくれたんだからさ。素直に休めよ」
「だけど撮影もあるし、CMだって…」
「CMの仕事は来月だし、まだ大丈夫だよ」
「え?」

スタンリーは運転しながらも、そう言ってきて私は少しだけ顔を上げた。

「テリーさんも疲れた顔でCM撮影出来ないからって、オフ取ってもいいって言ってくれたんだ」
「そ、そうなの…?」
「ああ、それに少し熱っぽいだろ?それで今、無理しちゃ、そのうち倒れるかも…って言ったらテリーさんも慌てて休んでいいってさ」
「ちょ…それって大げさよ…」

笑いながら、そんな事を言っているスタンリーに軽く息をつけば、ジョシュもちょっと苦笑いを浮かべ、

「大げさなもんか。、凄い体熱いぞ? ほんと風邪引いたんじゃないか?」
「そ、そう…?確かに…顔だけ熱くて少し寒気もするけど…」
「ほら見ろ。だから今は休んで治した方がいいって。な?」

ジョシュはそう言って私の額に軽くキスをして微笑んだ。
そこまでしてくれたスタンリーと、ジョシュの言葉に、私も仕方なく頷いておく。

「よし、じゃあ帰ったら栄養あるもの食べて早く寝た方がいいな」
「うん…食欲、あまりないけど…」
「ダメだよ、ちゃんと食べなくちゃさ。エマに言って何か作ってもらうから。それと……問題はオーランドだな…」
「え?オーリー?」
「絶対"俺が看病する"ってうるさいだろ」

ジョシュはそう言って思い切り顔を顰めてる。
それにはスタンリーも苦笑していた。

「ま、でもレオも今夜は早いって言うし、なるべく近づけさせないようにするからさ」
「そんなこと…大丈夫よ私は…」
「ダメだよ。具合悪い時にオーランドのやかましい声聞いたら熱上がるかもしれないし」
「やだ、そんなこと言って…」

ジョシュの酷い言い様にちょっとだけ笑うと、車が家の門の中へ入っていくのが分かった。

「つきましたよ」

スタンリーがそう言って車を止めると、ジョシュが先に下りて、「ちょっと待って。ドア、開けてくるから」とエントランスの方に走って行く。
そんなジョシュを見て、「一人で歩けるのに…」と呟くと、スタンリーがちょっと笑いながら後ろを見た。

「具合悪い時くらい、いつも以上に甘えろよ。その方が皆、喜ぶ」
「…どうせ甘えん坊ですよ」

そう言って上半身だけ起こそうとすると、スタンリーが手を差し伸べてくれた。

「な、何?」
「何?じゃなくて。引っ張るから手貸せよ」
「あ…うん…」

そっと右手を差し出すと、スタンリーが掴んでグイっと引っ張ってくれた。
その彼の手の温もりに熱を持った顔が更に熱くなった気がする。そこへジョシュが戻って来るのが見えた。

「じゃあ、ゆっくり休んで」
「うん…。あ、スタンリー明日は来ない…よね…?」
「え?ああ、俺、明日は一度、事務所に行って、あの雑誌の事とかの対応しなくちゃいけないんだ」
「そう…」

(何だ…明日は会えないんだ…)

そう思うと少し寂しくて目を伏せた。
すると、

「ああ、でも夜には…顔出せるかも。早くに帰れたら様子見に来るよ」
「え…?」

「――ほら、。おいで」

そこにジョシュが顔を出し、腕を差し出してきた。
私はスタンリーの言葉に驚きつつも、しっかりとジョシュの腕に捕まり、抱きかかえて貰う。

「じゃあ、スタンリー。色々とありがとう」
「いえ。じゃあ、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。帰りの運転、気をつけて」
「はい。じゃあ」

ジョシュがドアを閉めると、スタンリーはアクセルを踏み、そのまま帰って行った。
車が門の外に出るのを見届けると、ジョシュは私の頬にチュっとキスをして、

「今、エマにも言っておいたから食事は部屋に持って行くよ」
「うん、ありがと…」
「いや。でも、ほんと顔が赤いし…大丈夫か?―――薬とかあったっけ……」

ジョシュはそう言いながら心配そうな顔で私を部屋まで運んでくれた。









「はぁ…顔が赤いか…」

部屋に戻り、一人になると軽く着替えた。
だが、やはり熱があるようで足元がフラつき、すぐにベッドへ横になる。

(…ここのとこ、寝不足が続いてたしなぁ…油断しちゃった)

軽く息を吐き出し、自分の手で額に触れる。
確かに熱があるようで、少し汗ばんでいた。

(まさか…恋の熱じゃないよね…)

そんな事を、ふと思い、自分で笑ってしまった。

自分の鈍感さにも呆れるが、それでもまた人をこんな風に好きになれるなんて……
ライアンのことがあってからは、どうしても恋愛に関して臆病になりすぎていた。
なのに時間と共に、その傷は癒されて、今では友達として会う事だって出来る。

時間は恋の傷を癒す薬なんだな、と今さらながらに気づかされた。

―――でも…叶いそうもない恋なんだけど。

そんな事を思うと胸の奥がギュっと痛くなる。

きっと…これも気づいたばかりの恋のせい………

















●ドム、恋の暴走特急(オマケY)









「何?! が熱を?! 今すぐ行く!!!」


『え!来なくてい―――』





ガチャッ





俺は相手の言い分も聞かずに速攻で電話を切ると、すぐに家を飛び出した。

「待ってろ!マイハニーー!!今すぐ俺が見舞いに行くから!!」

そう叫びながら夜の道を愛車でぶっ飛ばした。(と言ってもチャリ)
俺の家からの家まで徒歩10分、車で4分。チャリでブッちぎれば5分でつくのだ。

そうさ!俺はいつもの傍にいたくて最近ビバヒルこと天下のビバリーヒルズへ引越してきたのさ!
これで俺もセレブの仲間だ!(微妙)

そもそも何故、俺がこんな夜にチャリを飛ばしているのかというと遡る事、数分前―――








「何ぃ? デートだぁ?!」
『そうなんだよ♪来週、お互いにオフだから初☆デートすることになったんだ。いいだろぉう!』
「うううるさい!自慢しに、いちいち電話をかけてくるな!俺はこれから"ビバリーヒルズ白書"のDVDを見るんだっ!!」
『あははー!古いドラマ見るんだなぁ〜!別にビバヒルに引越してきたからってかぶれなくてもいいんじゃない?』
「だーー!!うるっさい!お前の相手してる暇など俺にはなあい!!じゃあな!切るぞ!」

俺は頭に来て本気で電話を切ろうとした、その瞬間、受話器の向こうから―――

『あ、、どうしたの?! ジョシュに抱っこされて!!』

「!!!!」

(ぬゎんだとぅーーーーー?! ジョ、ジョシュにだだだだだ抱っこだぁああっ?!)

俺は受話器の向こうから聞こえたオーランドのすっとんきょうな声に思い切り固まり、電話を耳に戻した。

「おおおおい!!オーランド!……がどうしたってぇ?!」
『うるさい、ドム!が熱出したらしいんだ!ドムの相手してる暇ないから切るよ?!』

「何?! が熱を?! 今すぐ行く!!!」

『え!来なくてい―――』






ガチャッ





と、まあ、こんな感じだったのだ。
かくして俺はこんな時間に愛車(チャリだけど)をぶっ飛ばす事となった。

だって心配だろう?!
愛しいが熱を出したなどと、そそそそして、あの憎むべきジョシュにだだだ抱っこされてるんて―――!!(結局そこかよ)



おぉぉぉっぉおおおおおーーーーーーーっっ!!!!」



俺は思い切り叫びながら足をチャリチャリチャリチャリとこいで行った。
そして競輪選手並みの切れの良さで体を倒し、ギュィィーーーンっ!と角を曲った―!!(この角を曲ればの家だ!)

そこで見たものは―――!!!!

いつもの通り、凄い数の報道陣だった!!(忘れてた!)

ものすっごいスピードを出していた俺は、まさか突然目の前に固まっているパパラッチどもを避けれるはずもなく……




「うあぁぁぁ!!どけろぉぉぉおーーーーう!!」




―――――――――ッッ?!







ドォ
ォォン!!!ガラガラガシャーーーーーーーーーーーン!!!!








思い切り奴らに激突し、あげく弾き飛ばされ落ちた場所は……………………の家の前にあったゴミ集積所だった。


「うぅ……………くさっ!!!」


ゴミの中に埋れ、何とか必死にもがきながら、顔を出した俺の目の前に丸いものが差し出され、ふと顔を上げるとそこには大勢のマスコミの皆さんの笑顔がありました――!


「あの!あなた、ドミニク・モナハンさんですよね? ロード・オブ・ザ・リングの!!こんなとこで何してるんですか?!」
「今、凄い勢いで自転車をこいでましたけど、どこに行かれるつもりだったんです?!」
「ご友人のイライジャやオーランドに会いに来たとか!」
「それとも夜の散歩ですか?!」
「お怪我ありませんか?!」
「………ちょっと臭いですね…」


「う・・・・・・うるさぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーい!!」


一斉に話し掛けられ、俺は思考回路がショートした。

誰がイライジャやオーランドのアフォに会いに来なければいけないんだ!!

おお俺は愛しいの元へ飛んで来たんだ!!(文字通りちょっと飛んだしな!)(!)


そう怒鳴ろうとした、その時―――


「あ、レオが帰ってきたわ!!!」
「お!レオナルドだ!急げ!!」


「お、おい、俺の……………俺の話を聞けぇーー!!!!!







ブォォォン!!!!







俺がゴミにまみれ必死の脱出を試みている、すぐ横を…………真っ赤なフェラーリが駆け抜けて行った………













ちょっと、いつもと志向を変えてみましたv
他の方々は続きで登場していくはず・・・・・(笑)


皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…

【C-MOON...管理人:HANAZO】