現在2003年。
今から12年前の1991年・・・・・・・
父、ハリソン、40歳。
長男レオナルド、15歳。
二男オーランド、13歳。
三男ジョシュ、12歳。
四男イライジャ、9歳。
末っ子の長女、9歳
ある夏の出来事・・・・・・・・・・・・・・・
朝、いつものように長男レオナルド(当時15歳)は目覚ましの音で目が覚めた。
寝起きのいい彼はすぐに目覚ましの音を止めると思い切り欠伸をしてから両腕を伸ばした。
「ん〜・・・今日から夏休みだ・・・」
勢いよくベッドから抜けだし、隣の部屋に移動するとソファに座った。
そして、おもむろに煙草を口に咥えると高級そうなライターで火をつける。
その満足そうな笑みは15歳とは思えないほど大人びていた。
奇麗なブロンドとブルーグリーンの瞳が端整な顔立ちを、より一層、引き立てている。
「さて、と。我が家の天使は、もう起きたかな・・・」
そう呟いて煙草を灰皿に押しつぶすと、レオはソファから立ち上がった。
そして、そのまま廊下に出ると迷うことなく、可愛い妹の部屋へと向う。
ノックは敢えてせず、静かにドアを開けて滑り込むように中へと入った。
(やっぱり寝てるな・・・)
まだカーテンの引かれた部屋に、レオは苦笑を洩らすと、ゆっくりと寝室のドアを開けた。
「ひゃーーーーっっ!!!!」
「「――っ?!」」
穏やかな朝に奇声が聞こえ、リビングでテレビを見ていた三男のジョシュ(当時12歳)と
四男のイライジャ(当時9歳)はギョっとして顔を見合わせた。
「な、何だよ、今の悲鳴・・・」
「どうせオーランドだろ・・・。また何かやったんだよ、きっと」
目を細め、呆れたように溜息をついたジョシュは柔らかそうな淡いブラウンの髪を軽くかきあげた。
彼も12歳にしては少々大人びて見える。
(というのも、この歳で身長がすでに175センチもあり、学校でも目立つ存在だった。)
「あ〜あ。じゃあ、また怖い夢でも見たからってのベッドに潜りこんだのかも。女の敵だよ!」
少しだけ口を尖らせ、文句を言う四男のイライジャは逆に9歳らしい。
その落っこちそうなほど大きな瞳は奇麗な青で、まるで女の子のようだ。(本人はこれを言うとかなり嫌がる)
少しクセッ毛の髪が、また子供らしさをかもし出しているが、その顔からは想像出来ないほど、また彼も時々マセた事を言う。
「今度の部屋に鍵つけた方がいいと思わない?」
「そうだなぁ。父さんに言ってみようか。あの人は家族なんだから鍵なんて他人行儀なこと嫌がるかもしれないけど」
「だけどが可愛そうだよ。もし、ずっと、あのままだったら困るしさー」
「はぁ・・・ったくアホで怖がりな兄貴を持つと苦労するよ・・・」
ジョシュはそう言って肩を竦めるとソファから立ち上がった。
と、その時、リビングにレオが入って来た。
彼の腕の中には、まだ寝起きなのか目をしきりに擦っている、この家の天使が納まっている。
抱っこされるのに慣れているのか、寝ぼけながらも、ちゃんとレオの首にギュっとしがみついていた。
「おはよーレオ。何事?」
「分かるだろ? オーランドだよ・・・」
「やっぱりな・・・」
レオは思い切り顔を顰め、を抱っこしたままソファに座った。
するとジョシュ、イライジャが次々に彼女の頬にキスをして、「おはよう」と朝の挨拶をする。
その声ではやっと目を開けて眠そうながらもニッコリと微笑んだ。
「ジョシュ、リジィ、おはよぅ」
その笑顔は兄達の顔が一瞬で緩むほどに愛くるしいもので、現にレオ、ジョシュ、イライジャの三人も満面の笑顔になっている。
末っ子の(当時9歳)は奇麗な黒髪を胸元まで伸ばしている。
頭の上には天使の輪が出来るほどに奇麗に手入れされた髪は本人も、そして兄達にとっても自慢だった。
「ぁれ、オーリィは?」
ふと思い出したのか、イライジャがドアの方を見るが、二男のオーランド(当時13歳)は一向に下りてくる様子がない。
それにはレオも肩を竦め、苦笑をもらした。
「またのベッドに潜り込んでたし思い切りゲンコツ落としたら泣きながら自分の部屋に走ってったよ」
「へぇ。じゃあ一人で泣いてるか、また家出か、どっちかだね」
「そのうち寂しくなったら出て来るさ。それより皆、早起きだな・・・。夏休みなのに」
レオはそう言ってジョシュとイライジャを交互に見た。
その言葉には二人とも、ちょっと笑いながら、
「何だか休みの日に遅くまで寝てるのもったいなくてさー」
「そうそう。それにクセで目覚ましかけてたんだ。レオは?」
「ああ、俺も。普通に目覚ましで起きたよ」
「何だ、皆、同じじゃん」
「いや・・・"例外"がいるけどな、一人・・・」
ジョシュが苦笑しながら、そう言うと、その"例外"が二階からドタドタ降りてくる足音が聞こえた。
どうやら寝起き早々の兄の"目覚まし代わりの一撃"から立ち直ったらしい。
鼻歌なんか歌いながら、かなり機嫌が良さそうだ。
「らららーん♪らららん♪ ヘイ、グッモーニン♪諸君!」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」
無駄に元気なオーランドにレオ、ジョシュ、イライジャは軽い溜息をついた。
その様子にオーランドは口を突き出し、すぐに不貞腐れる。
クリクリとしたブラウンの捲き毛が彼の"ヤンチャ度"をアップさせているのは間違いない。
だが13歳にして彼もまた165センチ近い、ひょろりとした体型で、顔はその表情とは裏腹に、かなりの美形だ。
兄弟曰く、"オーランドは黙っていれば、かなりイケてるのに"ということらしい。
まあ今は先ほどレオに殴られたオデコが赤く腫れているのだが・・・・・・当の本人は立ち直っているようだ。
「何だよ、何だよ!暗いなぁ!こんなに爽やかな朝なのにさっ」
そう言いながらリビングに入って来た二男はレオの隣にチョコンと座っている妹を見つけ、途端に笑顔になる。
「My Little Girl〜♪さっきはビックリさせてごめんよぉ〜う☆」
「ひゃ!」
「コラ、オーランド!いきなり抱きつくなよっ!」
「何だよ、レオ〜!を独り占めなんてズルイぞぉーーー!」
いつものようにスキンシップをしようとしたが、レオに止められ、オーランドはまたしてもブーたれている。
その様子にジョシュもイライジャもウンザリした様子だ。
「もーうるさいな、オーリィは!だいたい、またのベッドに潜りこむなんて、どういう神経してんのさ!」
「ぬ!何だよ、リジィ!お兄さまに向って!」
「何がお兄さまだよ!こんなバカ兄貴、いらないよーだ」
「何をーーーっっ」
9歳の弟にバカにされ、ギャーギャーと騒ぐ、全く威厳のないオーランドに、ジョシュは溜息をついた。
レオは、いつの間にかとテレビの前に移動して楽しそうに朝の番組を見ている。
それを見てジョシュもすぐに移動した。(というか逃げただけ)
「・・・そんな生意気言うなら宿題見てやらないからな!」
「いいもん!オーリィなんて、どうせ分からないだろ? レオかジョシュに教えて貰うよっ」
「分からないとは何だよ!小学生の宿題くらい軽いねっ」
「どーだかね!今回の成績表だってオール2だったクセにさ!」
「ぬ!違うぞ!体育は5だ!」
「体育だけだろー!あんなの成績良くたって何の役にも立たないよっ」
「そんなことないぞ?! もしかしたらオリンピック選手になるかもしれないだろっ」
9歳の弟に向ってムキに言い返すオーランド。
だが、彼は気づかなかった。
いつの間にかノッソリと起きてきていたハリソンが自分の真後ろでゲンコツを振り上げている事を――!
ゴチンッ!
「――ぅぎゃっ!!」
鈍い音がリビングに響き、猫が尻尾を踏まれた時のような声が聞こえた。
テレビを見ていたレオやジョシュ、がその悲鳴に驚き、振り返ると、そこにはこの家の主が苦虫を潰したような顔で立っている。
「父さん!」
「起きたんだ、早いね」
「起こされたんだ、このバカ息子の声になっ」
朝に弱いハリソンはそう言うとドサっとソファに腰を降ろした。
そして特大の欠伸をしながら目頭を指で抑えている。
その横では膝をつき、オーランドが頭を抑えて、うんうん唸っていた。
どうやら、今度は父親から鉄拳を食らったらしい。
だが皆はいつもの光景と言わんばかりに軽く無視をし、末っ子のはと言うと、嬉しそうに立ち上がりハリソンの方に走って行った。
「おはよぅ、お父さん!」
「おお、。おはよう。今日も一段と可愛いな」
末っ子の娘にはベタベタに甘いハリソンは今まで釣りあがっていた目尻をへニャっと下げ、
抱きついて来た愛娘をひょいっと抱き上げた。
「今日から夏休みなのよ?」
「ああ、そうだったな!ああ、そうか・・・今日は私のプレミアに連れて行く約束だったっけ」
「そうよ? だから今日はお父さんと一緒に行っていい?」
「ああ、それが夕方まで他の仕事があるんだ・・・ごめんな? お兄ちゃん達と一緒に来なさい」
「・・・はーい・・・」
は少ししょんぼりとするも、すぐに笑顔で頷いた。
するとハリソンも満面の笑みを浮かべ、の小さな額にチュっとキスをする。
「さて、と・・・じゃあ用意でもするかな・・・。ったく・・・あと10分は寝られたと言うのに・・・」
ハリソンはを膝から降ろすと、ブツブツ言いながら未だ半べそのオーランドをジロリと睨む。
オーリィはビクっとなり、ササっとソファの後ろに隠れた。
が、そんな息子に溜息をつきつつ、ハリソンは仕事の用意をするべく、自分の部屋へと戻って行った。
はハリソンがいなくなると、ふとソファの陰でグスグス言ってるオーランドの方に駆けて行く。
「大丈夫? オーリィ・・・」
「ああっ。〜〜!!痛いよ〜〜!」
「ぅひゃ」
自分よりも、かなり小さなに、オーランドはそう言いながらガバっと抱きついた。
すると、レオが慌ててテレビの前から走ってくる。
「おい、オーランド!妹に泣きつくな、みっともないっ」
「だ、だっで・・・!ほんどに痛いんだよっ」
「自業自得だろ? それよりを放せ!苦しがってるっ」
レオはそう言うとオーランドの腕からを救出した。
はむぎゅぅっと抱きしめられてたので苦しかったのか顔が少し赤くなっている。そんな妹をレオはすぐに抱っこした。
「大丈夫か? ・・・」
「うん!平気よ? レオ。それよりお腹空いたね?」
は特に気にした様子もなく、小さな手でお腹を抑えながらレオに微笑む。
そんな彼女にレオは苦笑を洩らしながらも額にチュっとキスをすると下に降ろした。
「ああ、そうだな。そろそろ朝食の用意も出来たと思うし、食べよっか」
「うん。じゃあリジィもオーリィも一緒に食べよ?」
はニッコリ微笑み、そう言うとレオの手を繋いで、テレビの前にいるイライジャ、ジョシュを手招きした。
それには二人もすぐに立ち上がり、一緒にキッチンへと向う。
オーランドも未だ鼻をグスグス言わせつつ、お腹は空いているのか、皆と一緒にキッチンへ歩いて行った。
「あー、これ、まだ熱いからふーふーしないとダメだよ?」
「はーい」
は素直に返事をすると大好きなベーコンをフォークで刺して、口元に運んだ際にふーふーっと吹いている。
それを隣で心配そうに見ているのはレオで、毎朝、こうしての世話を焼いてるのだ。
それに反対側の隣にいるイライジャも向いに座っているジョシュとオーランドも皆、食事を取りながらもの様子を見ていた。
当の本人は知ってか知らずか、食事に夢中で子供ならではの食欲を発揮している。その時、ハリソンが着替えてダイニングに顔を出した。
「じゃあ、私は行って来るからな」
「あれ、父さん、何も食べていかないの?」
必死に食事をしているの頬にキスをして出て行こうとする父にレオが問い掛けると、ハリソンはニヤっと笑ってウインクをした。
「ちょっと人と約束してるんでね。そこで食べるよ」
「ふーん。朝からデート? ま、頑張って」
父の女性関係を早くも把握しているレオは苦笑しながら軽く手を上げた。
ジョシュとイライジャは、まだその辺のことを思い浮かべるまでにはいかないのか互いに首を傾げている。
オーランドは動揺、食べるのに夢中で父の方なんか見もしない。
そんな子供たちにハリソンもちょっと笑うと、
「じゃあプレミアは午後6時からだから、5時半には家を出て来いよ? 事務所の奴を迎えによこすから」
「OK」
「レオ、お前が皆の面倒を見てやれ。特にからは目を離すなよ? もし誘拐でもされたら――」
「分かってるよ。から目を離すわけないだろ?」
「・・・・・・だな・・・。オーランドじゃあるまいし」
「む!酷いよ、父さんっ」
オーランドは父親の言葉にムっとして文句を言ったがハリソンはそれを軽く無視して(!)キッチンの方に歩いて行った。
大方、エマに"子供たちを宜しく"とでも頼みに言ったんだろう。
そんな父を見送るとレオは軽く笑みを零し、美味しそうにスープを飲んでいるの頭を撫でた。
「ねーねー今日さ、プレミア前にどっか遊びに行こうよ」
ハリソンの背中にべーっと舌を出していたオーランドが不意に皆を見て、そう言った。
それにいち早く反応したのは同じく、今度は目玉焼きと格闘していただ。
「ほんと? どこに行くの?」
「んーはどこに行きたい? せっかくの夏休み初日だし、どこでも連れて行ってあげるよ?」
「やったー!じゃあナッツ・テーマ・パーク!」
「OK!じゃあ、そこに行こう!」
「お、おい、オーランド!」
勝手に話を進めるオーランドに長男らしくレオが一喝した。
「勝手に約束するなよ。それにナッツ・テーマ・パークなんて今日は凄い混んでるだろ?」
「何でさー!だって暇だろー。夕方まで家にいたって。それにだって行きたいよなぁ? ナッツ・テーマ・パーク!」
「うん!あのね、私、スヌーピーに会いたいのっ」
頬を紅潮させ、身を乗り出す妹に、オーランドも首を傾け、「ねー♪」と微笑んだ。
だがレオは困った顔での頭を撫でる。
「、今日はあそこまで行って戻ってくる時間はないんだよ? 父さんのプレミアに遅れても嫌だろ?」
「・・・・・・う・・・やだ・・・」
「じゃあ今日は家で大人しく用意でもしよう? ナッツ・テーマ・パークには俺が明日、連れて行ってあげるから」
「ほんと?!」
「ああ、約束!」
レオはそう言ってニッコリ微笑むとの小さな小指に自分の指を絡めた。
嬉しそうな顔で指をブンブン振り回すを見ながらオーランドは口を尖らせている。
「チェーッ!僕が連れて行ってあげようと思ったのにさー!」
「ダメ。どうせ迷子になって大騒ぎになるんだから。行くなら皆で行かないと」
「・・・・・・何だよ、何だよ・・・。僕は迷子になんか・・・」
「なっただろ?」
「う・・・」
レオのヒンヤリとした目にオーランドはグっと言葉を詰まらせ、サっと目を反らすと口笛を噴出し誤魔化した。
そんな弟にレオは溜息をつくと、再びに微笑む。
「じゃあ今日はプレミア前に買い物でも行こうか」
「ほんと?」
「ああ。何でも欲しいの買ってあげるよ?」
「じゃあ私、テディべ―」
「はーい、はーい♪僕、ジープのラジコンカー!!」
より一層、大きな声で主張したオーランド。
そのオーランドの言葉に、レオの額がピクっと動いた。
その場の空気が冷え冷えとしたのを察し、ジョシュとイライジャは逃げる体勢だ。
「オーランド・・・」
「なになにぃ〜?」
レオの殺気(!)に気づかないオーランドはレオに指でちょいちょいと呼ばれ首を傾げたが、
オモチャを買ってもらえると思っているのでニコニコしながら、トットコと兄の方に走って行く。
そして、目の前にシュタっ!と立った途端・・・
ゴンッ!
「ぃだっ!」
兄のパンチがデコにヒットした。
「ぐ・・・な、何で殴るんだよぉう〜〜〜っっ!」
「誰がお前に買ってやると言った? そんなの自分で買え!父さんから昨日、休み中の小遣い貰っただろ?!」
「だ、だっでレオはカード作ってもらってるじゃないかぁ〜〜!僕の小遣いなんて、たかが知れてるのにさぁ〜っ!」
「あのなぁ・・・。俺は15歳になったから作ってもらったんだ。お前もそれまでは小遣いで頑張れよ」
「むぅ〜〜!」
(15歳でカードを持たせる・・・というのは少々、いやかなり変わった家だ)
そのレオの言葉にオーランドは口を最大に尖らせ、スゴスゴと自分の椅子に戻って行った。
我が弟ながら、これでほんとに13歳か?とレオは溜息をつく。
だがそれを見ては何故かシュンとして持っていたフォークを置いた。
「ん? どうした? 」
「私もお小遣いで買う」
「え?」
「テディベア・・・」
「何で? いいよ。俺が―」
「だって、お父さんにお小遣い貰ったし・・・」
オーランドの事を気にしてか、はそんな事を言い出し、レオ、それにジョシュ、イライジャも顔を見合わせた。
当のオーランドだけはキョトンとして口に入れたばかりのレタスをパリパリと食べている。(さすが立ち直りが早い)
それにはレオも軽く息をついての頭を撫でながら微笑む。
「は気にしないでいいんだよ? 俺が買ってあげたいんだから。オーランドみたいに人の金をアテにしてるのと違うだろ?」
「ちょっとレオー!人聞きの悪い――」
「でも・・・私だけ買ってもらったら悪いもん・・・」
「ま、待って、!そんな事はない――」
「ほら、オーランドもああ言ってる事だし気にするなって。俺は可愛い妹の喜ぶ顔が見たいんだけどな〜?」
レオがそう言っての額にチュっとキスをすると、はやっと笑顔を見せた。
その笑顔にレオもホっとし、ジョシュとイライジャも苦笑を洩らす。
残る一人の口元は・・・・・・やっぱり尖っていた・・・。
こうして騒々しい朝食は終った。
「ったく!オーリィがアイスなんか買ってるから遅くなっただろーっ」
「だって見たら食べたくなっちゃったんだよ〜〜っ!」
イライジャはプリプリしながらズンズン歩いて行く。
その後をアイスを舐めつつ、ぴょんぴょん飛び跳ねるようにしてオーランドもついていった。(これで、ほんとに13歳なのか・・・?)
ここはハリウッドハイランドの敷地にあるショップ。プレミア前に皆で買い物にやってきたのだ。
レオ、ジョシュ、そしての三人はサッサと目当てのコーナーに行ってしまったようで、はぐれてしまったイライジャは慌てて皆を探し始めた。
と言うのもショップ入り口にあるアイス屋で"アイスを買うー"と騒いだオーランドのせいで少し遅くなり、気づけば3人ともいなかったのだ。
「もぉ〜〜見失っちゃっただろぉーーっ」
「大丈夫だって!どうせの欲しがってたテディベアを買いに行ったんだから、そこに行けば皆いるよっ」
オーランドは呑気にそう言うとバタバタとエスカレーターの方に走って行く。
だが乗る前にピタっと足を止めると、その横にあるオモチャ売り場へフラフラと歩いて行った。
「オーリィ!何してるのさ!早く、レオ達を追いかけようよ!」
「わー見て見て、リジィ!最新型のラジコンがあるよ?」
「もぉーそんなのいいから早く行こうよっ」
イライジャは少し怒ったようにオーランドを呼んだ。
やはりマセていても、まだ9歳。
兄達とはぐれたのが少し心細いのだ。
まあオーランドも兄なのだが、やはりこの二男、少々頼りない。(!)
イライジャとしては一番、頼りにしているレオの元へ早く行きたいのだった。
だがオーランドはラジコンに夢中で試供品のラジコンで遊んだりしている。
「もぉーオーリィってばっ!」
さっぱり来る様子のないオーランドにイライジャは痺れを切らしオモチャ屋へと歩いて行った。
するとオーランドは新しく発売になった最新型のラジコンカーを見事な操作で巧みに操っている。
(こういう事だけは兄弟の中でも一番上手かった。)
そんなオーランドの服をグイグイっと引っ張るイライジャ。
「ねぇ、オーリィ・・・!早く行こうよっ!置いてかれちゃうよ?」
「だーいじょうぶだって!置いてかれても場所分かってるしさ」
「でも・・・」
「はいはい、そんな事より、リジィもこれで遊んでみろよ!馬力凄いぞ?」
オーランドはそう言って、もう一台のラジコンカーのリモコンをイライジャに渡した。
そうなるとイライジャも少しくらい大丈夫かな?なんて思い始める。
実はイライジャも、こんな最新型のラジコンカーが欲しかったのだ。
少しだけ遊んで行っても平気かな・・・?
皆のいる場所は分かってるし、レオ達だって僕らがいないことに気づけば迎えに来てくれるかもしれないし・・・
そんな風に自分へ言い聞かせ、イライジャはラジコンのリモコンを動かした。
「わ・・・凄い・・・っ」
少し動かしただけなのにギュィンっと素早く走り出したラジコンにイライジャも笑顔になる。
こうして二人は暫しオモチャ屋で寄り道をする事となった。
一方、レオ達の方は・・・・・・
「さ、どれでも好きな子、選んでいいよ?」
「ほんと?ほんとにいいの?レオ・・・・」
「もちろん。ほら、選んでおいで」
レオは優しく微笑むとの背中をポンと押した。
それを合図には嬉しそうに店内に所狭しと飾られた色々なテディベアを見に走って行く。
レオも少しだけ距離を取りながら、ゆっくりとの後からついて行くものの、目だけは決して離さない。
父は元々有名な俳優だが、すでにレオ、ジョシュ、イライジャの三人も
CM出演やドラマ、舞台、そして映画にも何作か出るようになり有名になっている。
この頃からハリソンの息子も俳優という事で騒がれていたし、もちろん兄弟で取材を受けることも多くなっていた。
テレビにも何度も出ているので、下の弟達、そして妹のまでがアメリカ国民には顔を知られているのだ。
なので、どんな輩が近づいてくるかも分からない、とレオはいつも父ハリソンから聞かされていた。
だから、こうして子供たちだけで出かける際にはレオは必ずの傍にいるようにしてるのだ。
は沢山のテディベアを抱っこしたりしながら慎重に選んでいるようで、その姿は本当に可愛らしい。
自然とレオの顔にも笑顔が浮かんでいた。そこへ三男のジョシュが戻って来た。
「ああ、ジョシュ。二人は?」
「それが、どこにもいなくてさぁ・・・。入り口まで戻ってみたんだけど」
「どうせオモチャ屋だよ。まあ、そのうち来るだろ?」
「そうだな・・・それに会場も分かってるしな」
ジョシュはそう言って軽く息をつくと店内でテディベアを選んでいるを見た。
「、真剣だな?」
「ああ。さっきから難しい顔して選んでるよ」
二人の兄は妹の姿に笑みを零し、店の前にある休憩用のベンチに腰をかけた。
ここからなら、がどこにいても目を離すことなく見ていられる。
「時間、大丈夫そうか?」
「うん。まだ後40分ほどあるしね。レオは何か買いに行かないの?」
「今日はいいよ。のテディベアを持たなくちゃだし荷物になるだろ?」
「ああ、そっか。の事だから、きっと大きなやつ選んでくるかもな?」
ジョシュがそう言って笑うとレオも苦笑を洩らしながら、
「もしそうならジョシュも手伝えよな?」
「マジ?俺がテディベア持つの?」
「もちろん。可愛い妹のためだろ?」
「う〜・・・分かったよ・・・。あー誰にも会いませんように・・・」
ジョシュはそう言って、おどけたように十字を切った。
そんな二人に気づき、遠巻きでヒソヒソと話している女の子二人にレオは気づいていた。
ファンの子なのか、それとも有名な兄弟を見つけたから、ただ単に喜んでいるだけか。
どっちにしろ、と一緒の時にあまり、ああいった類の子達には寄って来て欲しくはなかった。
だが、そんなレオの願いも空しく、その女の子二人はレオとジョシュの方に歩いて来てしまった。
「あのぉ〜レオナルドですよね?」
その言葉にチラっと顔を上げれば何だかワクワクしたような視線と目が合う。
ジョシュは、またか・・・みたいな顔で溜息をつき、レオは心とは裏腹にニッコリと彼女達に微笑んだ。
「そうだけど?」
「キャ、やっぱり!似てるなぁって話してたんです!それに弟さんもいるし」
女の子はそんな事を言いながらキャーキャー騒いでいる。
レオとしては一応、俳優なんてやり始めたのだから、と愛想よくしているものの、出来ればに見つかる前に行って欲しいと思っていた。
「あの握手してもらえますか?」
「ああ、そんなこと?いいよ」
レオはそう言って立ち上がると彼女たちの方に手を差し出した。
「キャーありがとう御座います〜!」
「嘘〜背高い!カッコいいーっ」
女の子はすでに倒れるんじゃないかというくらいに興奮し、大騒ぎしながらレオの手をギュっと握りしめた。
そして握手を済ませると、今度は隣で他人のフリの如く顔を反らしているジョシュの方を向く。
「あの・・・弟さんも握手してもらっていいですか?」
「・・・えっ?!」
「ジョシュですよね?舞台やってる」
「ああ・・・まあ・・・」
「今度、舞台、観に行きます!」
「・・・・・・」
女の子達は唖然としたままのジョシュの手を勝手に握り、ぶんぶんと振り回している。
その様子にレオは軽く息をつくと、少しだけ目を離してしまったの方に視線を向けた。
だが、さっきまでいたはずの場所にの姿がなく、周りを見渡してみるも混む時間帯なのか店内は少し混雑していてよく見えない。
(、どこに・・・まさか誰かに・・・?!)
そう思って慌てて店内に入ると奥の方で何やら人だかりが出来ている。
すると――
「キャ〜可愛い!」
「テレビで見るよりも小さくて可愛い〜っ」
「テディベア買いに来たの?」
「あ、あの・・・私・・・」
人だかりは女子高生達だった。
その真ん中からの声がしたのが聞こえてレオはすぐに歩いて行った。
「っ?」
「あ、レオ・・・っ」
人だかりの真ん中にが泣きそうな顔で立っていた。
腕にはしっかりテディベアを抱きしめ、レオを見るとすぐに走ってくる。
レオはを抱き上げギュっと強く抱きしめた。
「ごめんな?一人にして」
「ううん・・・」
はホっとしたように笑顔を見せるとレオの首にギュっとしがみついた。
すると女子高生が一斉に騒ぎ出した。
「キャ、レオじゃない?」
「わー!一緒だったんだ!」
「嘘、あっちにジョシュもいるよ?」
(まずいな・・・)
だんだんバレだし、レオは顔を顰めた。そして腕の中にいるに、ちょっと微笑むと、
「、このテディベアでいい?」
「うん。これがいい」
「じゃあパっと買って会場に行こうか」
「うん」
も周りが騒がしくなり、何か感じたのか素直に頷いてくれた。
レオは女子高生がジョシュに群がってる間に(!)レジへ行きテディベアを買うと、すぐに店を出た。
「おい、ジョシュ!行くぞ?」
「え?あ、おいレオ・・・!」
案の定、女の子達に囲まれ、アタフタしていたジョシュはレオがを抱っこしたまま走って行くのを見て慌てて追い掛けた。
「ちょ・・・待てよ、レオ!まだオーランドとイライジャが――!」
「こんなんじゃ探せないだろ?どうせ後で会場に来るって!」
「ま、そうだな・・・この際、放っておくか・・・」
二人で走りながら、そんな事を言ってると、いきなりブィィンっという変な音が聞こえて来た。
「な・・・何だ、これ!」
「うぁ・・・っ」
音の方に顔を向けてみれば、いきなり二人の足元に大きなラジコンカーが走りこんできた。
レオとジョシュは唖然としたが、抱っこされてるだけは思い切り笑顔になった。
「わぁ、車が走ってるー!」
「レオ・・・な、何だよ、これ?」
「俺が知るか!」
レオはそう言いながらピッタリとくっついてくるラジコンを無視して店の出口へ向おうとした。
その時――
「やほーレオージョシュー!何で走ってんのぉ〜う?」
「「―――っ?!」」
「あ、オーリィだ!」
呑気な声にレオとジョシュが振り返り、は嬉しそうな声を上げた。
見ればオーランドは手にリモコンを持ったまま、レオ達を追いかけて来る。
そして、その後ろにはウンザリした顔で追いかけて来るイライジャの姿。
「おい、オーランド!何だ、そのラジコン!」
レオは一旦、足を止め振り返ると、オーランドがやっと追いついた。
「さっき買ったんだ〜♪おかげでお小遣いすっからかんだよ〜!」
「はあ?お前、こんな時に・・・っ」
「ねね、何で走ってんの?しかもを抱っこしたまま」
「だから女子高生に見つか――」
「おい、レオ!来たぞ?」
「――っ!」
ジョシュの声にレオが後ろを見れば、さっきより大人数になって女の子達が追いかけて来るのが見えた。
「キャア〜♪兄弟、全員揃ってるわよ!」
「嘘〜!私、オーランドのファンなのーー!」
「レオ、待ってー!」
「――げ!おい、皆、逃げるぞ?」
何だか黄色い声が聞こえて来てレオは慌ててを抱えなおし、皆に声をかけた。
「ぅわー女の子がいっぱい!レオ、モテモテね?」
「・・・あれは、そういうんじゃ・・・」
何故かははしゃぎながら、そんな事を言い出し、レオは返事に困ってしまった。
だが、とりあえず今は逃げないとまずいと、すぐに走り出す。
「ちょ・・・待ってよ〜!僕を置いてかないでよー!」
「リジィ!早く来い!」
「行けー!オーランド号!」(小学生か)
ジョシュはすぐにレオの後を追い、オーランドは再びリモコンでラジコンを動かしながら追いかけて来た。
そして、やっとこ追いついたリジィは疲れたのか、その場にへたり込んでいたが、皆が再び走り出したのを見てフラフラと立ち上がる。
「リジィ、走れ!捕まったら何されるか分からないぞ?」
「う…やだよ、そんなの!僕、以外の女の子、苦手なんだよーーっ!」
レオの言葉に必死に走るイライジャ。(この頃のイライジャは以外の女の子が苦手だった)
そして、もうすぐ出口というところで、やっと前を走るジョシュに追いついた。
ジョシュも走りっ放しなので疲れたのか、かなりへバっている様子だ。
レオはレオでを抱っこしたまま走ってるので、すでに疲れていた。
だが超元気な男が一人、レオを追い抜いていく。
「すっげーこれ走るの速いよ〜!」
昔から何故か、駆けっこが得意だったオーランドはラジコンを操作しながらへバった様子もなく一気に出口に向かって走って行く。
だが皆が一瞬、足を止めたのを見てチラっと後ろを振り向いたのがいけなかった。
「あ・・・!」
「オーランド、前!!」
「――へ?」
ジョシュとレオの声にオーランドは一気に振り向いた。
が、思い切り走っている足だけは止められず・・・・・・・・・
ゴォォン!!!
「ぶっ!!」
ガシャーーーーーンッ!!!!
「オーリィ・・・!!」
オーランドはガラス扉に思い切り激突。
扉にヒビが入った。
オーランドは衝撃のあまり、その場にひっくり返り、その勢いで後頭部を強打。
ついでに操作していたラジコンも仲良くガラス扉に追突事故を起こし廃車同然となった・・・
ヒビの入った店の扉は弁償する事になり、後にオーランドはハリソンから、こっぴどく怒られるハメになる。
だが、その前に自分も鼻を骨折。
夏休みは病院で過ごす事になったそうな・・・・・・・・・
オーランドの骨折伝説に新たな歴史を刻んだ、今年の夏休みは、まだ始まったばかり――