なつやすみ・外伝2





現在2003年。

今から12年前の1991年・・・・・・・


父、ハリソン、40歳。
長男レオナルド、15歳。
二男オーランド、13歳。
三男ジョシュ、12歳。
四男イライジャ、9歳。
末っ子の長女、9歳


ある夏の出来事・・・・・・・・・・・・・・・







――夏休み初日、早速オーランドが骨折した。


「ったく・・・お前、これで何度目だよ・・・」
「んーと・・・」
「・・・数えなくていい!」

指を折って骨折の数を数え始めたオーランドにレオは怒鳴りつけた。
オーランドは、「ひゃっ」と短く叫び、布団の中に顔を半分だけ隠す。

――ここは病院。

ハリソンのプレミア前に行ったショップで何故かオーランドは鼻を骨折。
そして当然プレミアどころの話ではなく、オーランドは病院に直行。
そのまま長男のレオが病院に付き添って来たのだ。
だがオーランドの骨折など、毎度の事で驚かなくなってた他の皆はサッサとプレミア会場に行ってしまった。
だけは「心配だから一緒に行く!」ときかなかったのだが、ジョシュが宥め、会場に連れて行ってくれた。
レオがいない時は三男のジョシュにを任せる。
二男のオーランドよりも、よっぽど頼りになる奴なのだ。
イライジャはすでにあの追いかけっこでグッタリしていたので大人しくジョシュに着いていった。

そして病院に来てみれば何とオーランドは鼻だけではなく頭蓋骨にまでヒビが入ってることが判明した。
倒れた時後頭部を思い切りぶつけたせいだろう。
(オーランドは子供の頃に二度も頭蓋骨を骨折してる為、もろくなってるのかもしれない、とレオは思った)
おかげで今は頭に包帯ぐるぐる巻き&鼻にも変なギプスをつけられている。

(こいつがアホで幼稚なのは、過去の頭蓋骨骨折からきてるんじゃ・・・。一度脳をスキャンして見てもらわないと・・・)

そんな事を真剣に考えながらレオは軽く息を吐き出した。

「はぁ・・・ったく。お前のせいで俺だけ行き損ねた・・・」
「ゴメン・・・。もういいよ?一人で平気だからさ・・・」

さすがに反省してるのかオーランドは再び顔を出すとシュンとした様子。
それを見てレオは軽く頭を振ると窓際の椅子に腰をかけ、窓を開けた。
そして徐に煙草を取り出す。

「あーレオ!ここは禁煙だよ?」
「うるさい!お前のせいで疲れて喫煙所まで行く元気もないんだよっ」
「ゴメーン・・・・・・あ、はい、火!」

この二男、注意するところも間違っているが、(禁煙の前にレオは未成年だ)
レオに一喝されすぐにレオの咥えた煙草に火をつけてる辺り、さすが長いものに巻かれる男だ。
まるでヤクザの親分に火をつけようと必死になる下っぱ、はたまた上司に媚びうる平社員のよう。(言い過ぎ)
俳優なんてせず、普通のサラリーマンになっていれば、きっと宴会部長クラスにはなってただろう。

レオは思い切り煙を吐き出すと、すでに真っ暗になった夜空を見上げた。
今頃、会場では華やかにプレミアが行なわれてる頃だろう。

(はぁ・・・結構、楽しみにしてたんだけどな・・・)

そう思いながらチラっとオーランドを見れば、彼は鼻につけられたギプスの按配が悪いのか必死にいじっている。
その姿は本当に小学生にいがちなハナタレ小僧だ。(!)

「おい・・・あまり触るな」
「だってぇーー痒いんだよー!」
「仕方ないだろ?それにギプスがズレたら鼻も元に戻らないで曲ったままになるぞ?そうなれば俳優も出来なくなる」
「―――!!!」

レオの言葉にオーランドはピシーっと固まり、慌てて鼻から手を放した。

「僕やだよ!俳優が出来なくなったら・・・!」

「・・・・・・大丈夫だ。お前には、まだ"宴会部長"という輝かしい未来が残っている・・・」

「へ?何ソレ?」

「いや別に・・・・・・」

キョトンとするオーランドにレオは軽く首を振った。

(はぁ・・・。一人でオーランドの相手をするのは疲れる・・・)

内心グッタリしていると不意にノックの音が聞こえ、レオは慌てて吸いかけの煙草を窓の外に放り投げた。(コラ)

「もう面会時間は終わりです」
「あ、はい」

ドアが開き顔を出したのはオーランド担当の看護婦さん。
前にもオーランドが右足首を捻挫した時にお世話になった人で凄く奇麗な人だ。
(だいたい病院の常連って事態がおかしな男だ)

「じゃあ俺、帰るよ。お前は大人しく寝てろ」
「えぇー?!レオ、帰っちゃうの?!寂しいよー!」
「仕方ないだろ?明日、着替えとか持って来てやるから。どうせも来るって言うと思うし」
「ほんと?絶対連れて来てよ?冷たい弟達はいらないから!」
「はいはい・・・どうせ二人も来たがらないよ・・・こう何度も骨折られちゃ心配もする気が失せる・・・」
「ぬ・・・」

俺の言葉にオーランドは口を尖らせたが今日のところは部が悪いと思ってるらしく何も言い返してこない。

「じゃーな、オーランド。前みたく病室抜け出して"探検ごっこ"なんてすんなよ?」
「・・・分かってるよ・・・」

(オーランドは前に二度ほど病室を抜け出し小児病等の子達と遊んでいた事がある)

「あ、そうだ、ねね、レオ!明日、テレビゲームも持って来てよ!個室じゃ退屈なんだよー」
「覚えてたらな・・・」
「えー絶対だよ?!ね?!」
「・・・・・・」

あまりの元気さに、このまま一緒に連れて帰ってもいいんじゃないか、とすら思ってしまう。
だが一応、明日は頭の検査をするようなので仕方がない。

(まあ頭は後で後遺症が残るって言うし・・・いやもう出てるかも)(!)

「じゃあ・・・うるさい奴ですけど宜しくお願いします」
「ええ、任せておいて?オーランドの扱いは心得てるから」
「はあ・・・扱い・・・・ですか」
「ええ。前にエマにも教えてもらったし」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

看護婦さんはそう言ってニッコリと微笑む。

女って奇麗でも中身はほんと怖い、とこの時、レオ少年は思ったのだった。









――皆、目が点だった。


いや・・・・・・点と言うよりは半目というところか。
レオに至っては紙袋を持つ手がぷるぷると震えている。

今は再び、病院に来ている。
エマが着替えを持って行くと言うと案の定、は私もお見舞いに行くと言い出した。
そして当然のようにレオも一緒に行くと言うことになったのだが、そこで珍しくジョシュやイライジャまでもが、

「今日は友達と約束もないし暇だから行くよ」

と言い出した。
ハリソンは映画のプロモーションのため、海外へと出発。

"オーランドの骨折などいつもの事だろう?"

と父親らしかぬ事を言って大笑いしながら旅立って行った。
それで結局、エマ、レオ、、そしてジョシュとイライジャの5人で病院へとやってきたのだ。

だが・・・病室のドアを開けて驚いた。
そこにいたのは包帯でぐるぐる巻きのオーランドだけではなく――



「きゃーお兄さんと弟君たちだわ!」
「キャァ♪私、ファンなのー!」

何故か若い女の子が数人、オーランドのベッドを囲んでいて当の本人はデレデレと鼻の下を伸ばしていた。

「あ、皆、来たの?やほー♪」
「ぐ・・・やほー♪じゃない!」

オーランドのアホなノリにレオは切れそうになるのをグっと堪え、ベッドの方に歩いて行った。

「何してんだよ?!この子達は誰だ?」
「あ、俺のクラスメートの子だよー。あ、知らない子もいるけどさ☆夕べ電話したらお見舞いに来てくれたんだ〜♪」
「わぁーオーリィ、モテるのねー!」 (どうやらは兄がモテているのを見ると喜ぶ傾向にあるらしい・・・)
「わぉ、ー♪今日もスペシャルプリティだねー!」

がベッドのところに来るとオーランドは少しだけ体を起こし、頬にチュっとキスをしている。
それを見ながらエマ、レオ、ジョシュ、イライジャの4人はゲンナリしたように顔を見合わせ――

「私・・・ちょっとドクターに検査結果聞いてくるわね。着替え、渡しておいて・・・」 

エマは着替えの入った紙袋をレオに渡すと静かに病室を出て行く。
それを見送りつつ、レオはその袋ともう一つ、自分が持ってきた袋を未だデレ顔のオーランドの腹の上にドサっと置いた。

「う・・・っ」
「ほら着替えと、お前が言ってたテレビゲーム!」
「あ、ありがと・・・ゴホッ・・・」
「ったく・・・退屈だと思って重たい思いをして持って来てやったのに!お前は随分と楽しそうだな!」
「だ、だってぇ・・・」

レオの怒りにオーランドはまたしてもシュンとして布団に潜る。
その間、オーランドのクラスメート達はジョシュやイライジャを囲んでキャーキャー騒いでいた。

「わぁ、身長、大きいんですね!」
「え、あの・・・」
「今度、舞台はいつですか?」
「い、いや、まだそれは――」

ジョシュは次々に飛ぶ質問にしどろもどろだった・・・そしてイライジャはと、いうと――


「すごーい!大きな瞳!奇麗ね〜?」
「な・・・何だよ・・・」
「ねね、奇麗なブルーだねー♪髪の毛も柔らかくてかーわいー☆」
「ちょ・・・触るな・・・こっち来るなよ・・・」

以外の女の子は苦手なので、かなり嫌な顔をして逃げようとしていた・・・。








「はぁ・・・疲れたー」
「僕なんて、あちこち触られたよーっ」

オーランドのクラスメートがやっと帰った後、ジョシュとイライジャはグッタリしたようにソファに凭れかかった。
そこへエマが戻ってくる。

「あら?帰ったの?あの子達・・・」
「ああ、さっきね・・・」
「そう。あらら・・・はオーランドと仲良くお昼寝?」

エマはベッドに視線をやって微笑んだ。

「うん。買ってきたランチ食べたら眠くなったみたい。オーランドなんて病院のご飯はまずいって散々文句言いながら食べてこのザマ」

レオは苦笑交じりにベッドでを包むようにして眠っているオーランドを指差した。
さっきまでの騒ぎっぷりからは想像出来ないくらいスヤスヤと気持ち良さそうに大切な妹を抱っこして寝ている。

「きっと夕べは寂しかったのねぇ。だから友達に電話しちゃったんじゃない?」
「だからって、あんな沢山、しかも女の子だけ呼ばなくても・・・」

レオは顔を顰め、そこまで言うと思い出したようにエマを見た。

「それより検査の結果は・・・?やっぱちょっと足りないって?」(オーイ)
「もう、レオ?そんなはずないでしょ?」

レオの相変わらずの毒舌にエマは苦笑を洩らしながら椅子に腰をかけた。

「大丈夫よ。正常ですって」
「えー嘘だー!絶対、オーリィは何かしら脳障害があるよっ」(!)
「ちょっとイライジャまで、そんな・・・」
「そうだぞ?リジィ。いいか?オーランドはな、元々バカなんだ。分かるか?生まれた時からこういう奴なんだ」
「ちょっとジョシュ・・・言い過ぎよ?」
「いーや・・・合ってると思うけどね、俺も。意義なしだ、ジョシュ」
「だろ?」
「もう・・・あなた達はほんとに・・・」

兄弟のやり取りにエマもさすがに苦笑いしつつ、ベッドの二人に視線を向ける。
好き勝手言われてるとも知らず、オーランドはかすかに笑顔を浮かべながら時折、ムニャムニャと口を動かしている。
そしてはそんなオーランドにしがみ付くようにして丸くなっていた。
するとレオはそんな二人を見て苦笑を浮かべつつ、オーランドの大好きなテレビゲームをテレビに接続してあげている。
ジョシュはジョシュでオーランドの着替えをベッドの下のボックスに詰めてあげているし、
イライジャはオーランドの散らかしたままのゴミを片付け始めた。

(何だかんだ言っても・・・仲がいいのよね、ここの兄弟は・・・)

エマはちょっと笑みを洩らすと、ハリソンに検査結果を報告するのに静かに病室を出て行った。








「また僕だけ病院のご飯か・・・」
「うるさい。黙って食え」
「ねね!ちょっと、そのクロワッサンちょうだ――」



――ビシ!



「ぃだ!」

オーランドがレオのパンに手を伸ばした時、その手をレオが叩いた。
まあ頭蓋骨にヒビが入っている以上、いつものように(!)頭は殴れない。

「ダメって言ったろ?お前はそれ食べろよ・・・」
「だってマズイんだよ〜!」
「うるさいなぁ・・・せっかく夕飯に付き合ってあげてるのにさ!」
「む!何だよ、リジィ!」
「何だよー!一人でご飯も食べられないくせに!」
「そんな事ないね!別に一人でも平気だよっ」
「嘘つきーっ」
「嘘じゃない!」
「おい、二人とも・・・静かにしろよ・・・」

オーランドとイライジャの言い合いに今まで黙って食事をしていたジョシュがウンザリした顔で言った。
すると二人はぶーたれながらも言い合いを止め、大人しく食べ始める。
そろそろ外も暗くなり始め、病院では夕飯の時間になった。
それを見て皆が帰ると言ったのだがオーランドが、「一人で食べるのは嫌だー!」と駄々をこねたので
仕方なく皆は病院の売店で軽い物を買って、オーランドに付き合っているのだ。

「さ、食べ終わったし・・・そろそろ帰ろうか、
「うん」
「帰ったら、ちゃんとした夕飯が待ってるからな?」

エマは先に帰って夕食の準備をしてくれている。
なので今も皆は本当にパンくらいしか口にはしてなかった。
だがレオの言葉にまたオーランドの口が尖る。

「何だよ何だよ・・・皆で美味しいもの食べるなんてずるいぞ・・・っ」
「だから・・・仕方ないだろ?だいたい骨折ったのだってオーランドの注意不足のせいだ」
「だって、まさかドアがあるなんて思わないくらい透明で向こうが透けて見えたんだよー!」
「まあ、あそこのショップはいつもピカピカだしな」

レオはそう言って笑うとを抱き上げた。
それを合図にジョシュとイライジャも立ち上がる。

「ちょちょ・・・ちょっと!もう帰っちゃうの?!まだ面会時間は終わってないよ?!」
「いいだろ?早い時間から来てたんだから。それに面会時間が終るまで待ってたらがお腹空いちゃうしな」
「そんなぁ〜〜!お願い、まだいてよ!ね?あと一時間!」
「やだね」
「じゃあ30分!」
「い・や・だ!」

必死に哀願するオーランドにレオはツンと顔を背けて拒否している。
ジョシュとイライジャはもう帰る気満々なのか荷物を持って廊下へ出ようとドアを開けていた。

「じゃーな。持って来てやったんだし暇で寂しいならゲームでもしてろ!」
「わーー待って待って!にお別れのキスさせてー!!」
「バ、バカ!急に起き上がるな・・・!」
「ぅあ・・・!」




ドサッ!





―――ゴキッ





「――ぅ!」


「オーランド?!」


「オーリィ、大丈夫?!」

を抱えて出て行こうとしたレオに向かってオーランドは慌てて上半身を起こし手を伸ばした。
だが身を乗り出しすぎて、オーランドはそのまま床へと"落下"。
そして最悪なことに落ちるのを手で止めようと右手だけを床についた時・・・あの嫌な音が聞こえた・・・・・・。


「おい、オーランド、大丈夫か?!」

「うぅ・・・・・・痛いよ、レオォ〜〜・・・・・・」


を一旦、下ろし慌ててオーランドに駆け寄れば泣きながら顔を上げるオーランド。


「ど、どこが痛いんだ?頭か?」

「み、右手がぁ〜〜・・・・・・」

「右手?!・・・・・・」


そして右手を見たレオは思わず、顔を顰めた。
オーランドの右手はちょっと普通の状態ではなく(!)医者が診るまでもなく、多分・・・・いや絶対に折れていたからだ。


「お前・・・病院で傷増やすなよ!」

「わぁーーん、レオ〜〜!!ドクター呼んでーー!」


この騒ぎにはキョトンとし、ジョシュとイライジャは思い切り肩を落とした。
この二男の"骨折伝説"は一体、いつまで続くんだろうか。

こうしてオーランドは、またしても骨を、しかも病室で折るという病院側からしたら物凄く迷惑な伝説まで作ってしまったのだった。












外伝2ですv
またしても二男が騒動の中心・・・大人しくしてくれませんね(笑)


皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…

【C-MOON...管理人:HANAZO】