俺の名前はジョニーデップ。
歳は今年で40歳になったとこだっけか。いちいち年齢なんて数えてないし忘れそうだ。
仕事はまあ・・・一応、俳優なんてものをやっている。若い頃は世界を放浪したりしてた俺が俳優なんて未だ笑っちまうけどな。
元々ビジュアルには自信があった。
旅先でも、それを利用して女性に世話して貰ったりしたしな。
そして、その場所が飽きれば、またブラリと旅に出る。
同じ場所には長居しない。
束縛されるのも大嫌いだし、好きな時に好き場所へ行きたいんだ。
そう、俺はそんな生活が好きだった。
だけど俺が何故、このアメリカ、それもLAなんてセレブ感溢れる街に舞い戻ったかというと・・・
なんと俺の両親が事故で逝っちまったからだ。
そして帰って来て驚いたが、何とオヤジとお袋は俺が知らない間に子供を産んでいた。
そう、それも可愛らしい女の子を・・・
その子は当然、俺の・・・・・・妹になるってわけだ。
20ほども歳の違う妹といきなりのご対面で、かなりビビったのを覚えている。
二人を亡くして悲しみに暮れるって事より、"よくやるな・・・"と呆れたことも。
当時、俺は・・・確かそう・・・20歳になったばかりの時だった。
20歳の男の俺がいきなり生まれたての赤ん坊と二人にされ、どれだけ戸惑ったか分かるか?
これはもう兄貴というよりは、そう全く持って父親代わりみたいなもんだった。
そして案の定、親戚連中は黙っていなかった。
"お前みたいなロクデナシに赤ん坊を育てられるわけがない。うちの養子として迎える"
なんて言い出す始末さ。
だが俺はそれを頑なに拒んだ。
別に俺だって20歳の若さで好き好んで父親代わりなんてしたくなかった。
その子に実際に会うまでは、どうせオヤジの妹あたりが引き取るって言うだろう・・・なんて呑気に思ってた。
だけど・・・久々に家に帰って来て、その子と初対面した俺は、そんな気持ちが一気に失せるほどに感激したんだ。
真っ白なベビー服に包まれたその子は俺とソックリの瞳の色を輝かせて必死に手を伸ばしてくるんだ。
触れたら壊れちゃいそうな小さな手でこれまたビックリしたけどな。
そして俺が恐る恐る赤ん坊を抱っこしてみれば、彼女はニッコリ微笑んでくれたんだ。
その後は他の誰が抱っこしても泣き出しちまって親戚連中も困り果ててたっけ。
そこで俺は決心した。
「この子は俺がこの家で育てる」
なんて柄にもないけど、そんな台詞を親戚連中の前で宣言しちまったんだ。
案の定、皆、猛反対したけど俺は引き下がらなかった。
腕の中で安心したように眠る妹を見て、俺は思ったんだ。
"この子は俺が一生かけて守る"
・・・なんてな。
親戚の奴らは驚いてたが、それでも最後は様子を見る、という条件付で渋々だがOKしてきた。
俺がすぐに怠けたり育児を放棄したら、速攻で赤ん坊から引き離すという条件で。
とりあえず、それまでしてたヒッピーみたいな暮らしも出来ない。
何て言っても赤ん坊を食わしていかなくちゃならないからな。
そこで俺は両親の残してくれた家で、まだ赤ん坊の妹と暮らし始めた。
親の残してくれた財産なんて、この家と少しばかりの貯金。
そんなものは一年もすればなくなると考えた俺は昼夜、構わず働いた。
すぐに挫折するか飽きて、俺が泣きつくと思っていた親戚の奴らも、これには驚いてたようだ。
ナマケモノで飽きっぽい事でも有名だった(あまり嬉しくはないが)この俺が赤ん坊一人のためにこれだけ働いたなんて、
オヤジとお袋も天国でおったまげすぎて、もう一回逝っちまったんじゃねぇか?ってくらいな。
それくらい俺はそれまで生きてきた中で一番頑張ったと言っていいだろう。
働いてる時は俺の山ほどいるガールフレンドに日替わりで預けたりしていた。
その子らは俺がまだロスにいた頃、手をつけていた子達だった。
まあ、俺は放浪の旅に出ちまったから、その後のことは知らないし、
また会うなんて思ってなかったけど、この際仕方ないと助けを求めたんだ。
最初はいきなりロスから消えて戻って来たと思えば赤ん坊なんて抱えてるから、
どこの女に産ませたの?なんて殴られたけど、
涙を浮かべながら(嘘泣き)事情を説明したら一気に株が上がった。
おかげで俺が仕事をしている間は妹の面倒を見てくれるって事になったのさ。
嘘泣きが上手かった俺はこの頃から俳優への才能を発揮してたのかもな。
それから数年、俺は死ぬ気で働いた。
そして妹が5歳になった頃。
俺の働くバーで知り合った男に二コラス・ケイジなんて男がいて、そいつに何かの映画のオーディションをすすめられたのだ。
最初は笑って聞いてたが、元々好奇心の強い俺は話を聞いているうちに、だんだん興味が湧いてきた。
そして遊び半分でオーディションを受けるという事になり・・・・・・見事、合格したってわけだ。
そこから俺の人生が、またしても180度変わることになった。
もとより、このルックスで生きてた俺が今度は演技という武器まで身につけ、ハリウッド界に殴り込みをかけたのさ。
当然、最初から上手くいくわけもなかったが、周りの奴らに恵まれてた俺は何作目かでヒット作と出会った。
それで一気にブレイク。
ハリウッド界にジェームスディーン再来か?!なんて騒がれたんだぜ?(嘘じゃないぞ)
おかげで、このダメ男な俺の唯一の宝物(妹)を路頭に迷わす事もなく今日まで大切に育てる事が出来たってわけだ。
あの衝撃の対面から20年。
俺の天使は出逢った時の俺と同じ、20歳になった――
ジョニーへの伝言
「ジョニー!ねえ、ジョニー!」
下から可愛い声が俺の名前を呼ぶ。
おいおいおい・・・まだ昼過ぎだぞ?もう少し寝かせてくれよ・・・夕べの長ーーい撮影で疲れてるんだ・・・
共演してる能天気なお坊ちゃんのおかげで俺まで剣の稽古をつき合わされてフラフラなんだからな・・・
そう思ってはいても体が勝手に起き上がる。
あいつに呼ばれては起きないわけにはいかない。
「ふぁぁ・・・」
俺は特大の欠伸をしつつ頭をガシガシかきながらベッドから足を下ろした。
と、そこへ痺れを切らしたのか階段を上がってくる足音がして、すぐに部屋のドアが開いた。
「ジョニー!って・・・何だ、起きてたの?」
「・・・・・・・・・"ジョニー"じゃないだろ?"お兄ちゃん"だ。何度も言ってるだろが・・・」
「いいじゃない。皆もジョニーって呼んでるし」
「皆は他人だ。お前は俺の妹だろ?」
「はいはい!分かったわよ、お兄ちゃん!それより!今日は私のボーイフレンドが来るって言ったでしょ?早く起きてよ」
「・・・・・・・・・・・俺は会うなんて言ってない・・・」
「もうー!またそんなこと言って!ダーメ!ちゃんと会ってよね?」
はそう言って頬をプクーっと膨らませた。
その顔につい顔が緩む俺はかなり"妹バカ"だなぁと思う。
でも・・・その可愛い妹にボーイフレンドなるものが出来たらしい・・・
前から話を聞いていて紹介したいと言われたが、俺はずっと拒みつづけてきた。
仕事で忙しいと言い訳し、今日まで誤魔化してきたのに・・・何で今日に限ってオフなんだ!
「ほらジョニー!ちゃんとシャワー入ってシャキっとしてきてよ!」
「・・・分かった。じゃあ朝の挨拶をしてくれたら速攻で用意する」
「・・・もうー」
その言葉には苦笑を洩らすと、ベッドに座っている俺の方に歩いて来て体を少しだけ屈めた。
そしてチュっと頬にキスをして軽くハグをすると、すぐに俺の腕を引っ張る。
「はい!これでいいでしょ?早くシャワー入って!」
「OK!やっと目が覚めた」
俺もちょっと笑いながら立ち上がると、今度はこっちからの頬にチュっとキスをした。
そしてグイっと無理やり抱きしめると、言っておきたい事を口にする。
「いいか?その男には会う。だけど、しょーもない男だったらすぐに追い返すからな?」
「ちょ・・・ジョニー?彼は凄くいい人よ?」
「そんなもんは男の俺から見ないと分からない。お前の前で猫かぶってるだけかもしれないしな」
「まさか!そんな事ないわよ」
「お前は男ってもんを知らないだろう?男なんて女をものにしようとしたら、どんな嘘でもつく生き物だ」
「・・・自分がそうだからって全ての男がそうだとは限らないんだから!さあ、早く用意して!」
グイっと体を引き離しは俺の背中を押した。
それにはちょっと寂しい気もしたが、とりあえず今は言う事を聞いておこう。
「あと30分くらいで来るから、それまでに着替えておいてね?」
はそう言うと俺の部屋を出て行った。
「はぁ・・・ボーイフレンドか・・・」
俺はかなり憂鬱になりながら仕方なくバスルームへと入った。
素早く体を洗うと、きちんと口ひげや顎ひげをカットし奇麗にそろえる。
そしてバスローブを羽織ってから奥のクローセット代わりの部屋へと向かった。
(俺は衣装もちだから部屋を丸々改造してクローゼットにしたのだ)
「う〜ん・・・どれを着ようか・・・」
沢山の服の前に立ち、俺は顎に手を置いた。
ひげを撫でながら暫し考える。
普段ならシャツにジーンズでもいいとこだが今日は特別だ。
大事な妹のボーイフレンドに会うんだからな。
ナメられないようにビシっとした格好の方がいいだろう。
そう思った俺はバスローブを脱ぐと、手にした服に着替え始めた。
そして最後にお気に入りの帽子を頭に乗せる。
出かけるわけじゃないが、こうすると気分が落ち着くのだ。
「よし・・・こんなもんか」
そう呟いてクローゼットを出ると自室のソファに腰掛け煙草を咥えた。
その時、車のエンジン音が聞こえた気がして、煙草に火をつけつつ窓を開けて外を見る。
すると一台の車がエントランス前に止まったのがかすかに見えた。
「来たな・・・」
軽く舌打ちしつつ、すぐに部屋を出るとが出て行く前に出てやろうと思って急いで階段を下りて行った。
そしてドアの前に立った瞬間、チャイムが鳴り、そこで俺は軽く深呼吸をしてからドアノブへ手をかける。
(チャラチャラしてる奴だったらぶん殴ってやる!)
昔の自分の事を棚に上げ、俺はそう決心しながら一気にドアを開け放った――!
「グッモーニーン〜♪って、ぁれ、ジョニー相変わらず変な格好だねー☆」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ひゅうぅぅ〜っと風が吹き、咥えていた煙草の灰がぽとりと下へ落ちる。
目の前でヘラヘラしながら、そう言ったのは今、俺が"共演してる能天気なお坊ちゃん"だった・・・・・・。
「ぁれれ?ジョニー?どうしたの?目が点になっちゃってるよ?」
「・・・・・オ、オーランド・・・!お前、何しに来たんだ?!今日はオフだろ?!」
頭の整理がつかない。何でこいつがココにいるんだ?
のボーイフレンドが来たかと思ったのに共演者が突然現れちゃ、そりゃ目も点になるぞ?!
だいたい俺はこいつが苦手なんだ!
無駄にハイテンションでスキンシッパーな、この男は処構わず俺に抱きついてくるんだから!
それに家なんて教えた覚えもない!遊びに来られるほど仲良くだってないんだぞ?!
一瞬の間であれこれ考えてると、オーランドは、いつもの如くヘラヘラ笑いながら(俺にはこう見える)
「やだなぁー☆俺が来る事知ってるくせに!」
「――は?」
今度は咥えた煙草が口からポトっと落ちた。
と、その時――
「オーリィ!いらっしゃい!」
「あ、〜!おはよう!」
「―――っ???!!!!!!」
リビングから顔を出したは嬉しそうな笑顔で歩いて来ると、俺の横を通り過ぎ、何と!!!
このオーランドに抱き付き、頬にキ、キ、キスなんぞしやがった――!!!
「な!ーーーーッ!!お…●に×□★が△○・・・!!!!!」
「・・・?ジョニー何言ってんの?さっぱり分かんないよ。、分かる?」
「さあ?」
俺の怒りは頂点に達しているのに、とオーランドは呑気に首を傾げている。
そして俺を置いてサッサと家の中に入ってしまった。
「どうぞ?今、お茶を淹れたとこなの。ジョニーなんて、さっき起きたのよ?」
「そうなの?お寝坊さんだなぁ、ジョニーは♪」
「・・・〜っ・・・〜っ!!!」
馴れ馴れしくの肩を抱き、能天気な事を言っているオーランドに俺の堪忍袋もブチっとキレた――!
「オ、オ、オ、オーランドォォォォウ!!!お、お前は俺の妹に手を出したのか、コラァ!!!!!」
「・・・ぅげ!」
「キャ!ちょっとジョニー何するの?!」
俺はあまりの怒りでの静止を振り切り、むんずとオーランドの首根っこを掴んだ。
そして奴を外へと放ってドアをバン!!と閉めてやったのだった・・・・。
「もう!信じられない、ジョニーってば!」
「まあまあまあ☆僕は気にしてないからさ♪」
「当たり前だ!お前が俺を怒らせたんだぞっ」
「え?そうなの?」
「・・・〜っ・・・っ・・・〜っ!!」
「ちょ、ちょっとジョニー落ち着いて、座って!!」
あまりに能天気過ぎなオーランドにムカつき、俺は一発殴ろうかとソファから立ち上がったがに怒られ、渋々腰を下ろす。
だいたい追い出したのに何故こいつがココにいるんだ?
もだ!
何て男の見る目がないんだ!
「とにかく・・・話を聞いてよ、ジョニー」
「・・・"お兄ちゃん"だ」
「そうそう♪話を聞いてよ、お兄ちゃん!」
「お前が"兄ちゃん"言うな、オーランド!!!」
またしても、ふざけた事を言うオーランドをジロっと睨むと、さすがにも溜息をついている。
「オーリィ・・・あまりジョニーを刺激しないでくれる?」
「僕は刺激してるつもりないんだけどね☆」
「ぐ・・・っ」
(お前のそういうとこが俺の怒りのツボを刺激してくるんだっっ!!!)
にへらっと笑っているオーランドを見て俺はますます血管が浮き出てきた気がした・・・。
いや・・・とりあえず・・・頭ごなしに怒っていても仕方がない。
ここは一つ落ち着いて話を聞いてみよう。(だいたい、二人はいつから付き合ってるんだっ)
俺は落ち着こうと煙草に火をつけ、思い切り煙を吐き出した。
するとがチラっと俺を見た。
「あ、あのジョニィ・・・」
「"お兄ちゃん"だ」
「・・・・・・お兄ちゃん・・・オーリィとは・・・前に撮影を見学に行った時に知り合って――」
「んな!!あの時か!いつ?!いつそんな機会があったんだ!俺はなるべく二人を会わせないようにしてたと言うのに――」
「な、何でそんな事するの?!」
一瞬、カッとなりソファから腰を浮かせると、が驚いたように顔を上げ俺を見た。
その瞳にグっと言葉が詰まったが現実を教えないといけないと俺は再びソファに腰をかける。
「こ、こいつは期待の新人とかで、しかもハリウッドの王子様なんてモテはやされてる男だぞ?女にだって手が早いに決まってる!」
「な、ひどいよ、ジョニィ〜〜〜っ!!!」
「うるさい、お前は黙ってろ!」
「ちょっとジョニー怒鳴らないでよっ!それにオーリィは女性にだらしなくないわ?それはジョニーの方じゃない!」
「お、俺はそんなに―」
「嘘ばっかり!いっつも違う女性と噂になって雑誌にだって載ってるじゃない!」
「あ、あれは皆、友達だ!」
「ふーん。じゃあ毎日、電話がかかってくる甘〜い声の女性は?!」
「あ、あれも・・・昔からの友人だ!それより話を変えるな!」
「それはジョニーでしょ?ちゃんと私達の話を聞いてよっ」
「ぅ・・・」
が必死にそう言うので俺は仕方なく、息を吐き出すとジロっとオーランドを睨んだ。
「お前・・・ずっと隠してたな・・・?」
「い、いや僕は・・・話そうと思ってたよ・・・。でもがまだ待ってくれって・・・」
「そうよ。だってジョニーに話せば、こうなる事くらい分かってたもの」
「だからって俺に隠れてコソコソと・・・!」
「コソコソしてたわけじゃないわ?それに前から会ってって言ってるのにジョニーが忙しいって避けてたんじゃない」
「・・・ぐ・・・っ」
た、確かに俺の方が避けてはいた。
大事な妹のボーイフレンドなんて誰が会いたいと思うか!
しかも、それがよりによってオーランドだったとは・・・!
ふつふつと沸いて来る、この嫉妬のような複雑な感情に俺は煙草を灰皿に押しつぶし、新たにもう一本口に咥えた。
「・・・・・・で・・・どうしてこうなったんだ?」
「・・・・・・」
俺がそう尋ねるとはチラっとオーランドを見てから口を開いた。
「だから・・・見学に行った時・・・スタジオ内で私が迷子になったの・・・その時、オーリィと会って・・・私がジョニーの妹だって知ったら、オーリィ、ビックリしてたけど凄く優しくしてくれたの。"僕、ジョニーに憧れてるんだ"なんて言って、色々と仕事してる時のジョニーの話を聞かせてくれたわ?
そこで凄く気があって・・・連絡先を私から聞いたの。また会いたいなって思ったから・・・」
はそう言うと顔を上げてオーランドに微笑みかけた。
オーランドもまたに優しく微笑み、手なんかをギュっと握っている。
それを向かいから見ている俺の額にはピキっと血管が浮き出たが、グっと怒りを堪えた。
「それで・・・?俺にどうしろと?」
「だから・・・何度か会う内に本気で好きになって付き合いだしたんだけど、やっぱりジョニーに話さないとダメだってオーリィが・・・」
「ジョニーに認めて欲しいんだ・・・。僕らが付き合う事・・・」
「ふん・・・認めるも何も、お前らはもう付き合ってるんだろうが」
「でも手は出してないよ?!」
「ゲホッ!」
オーランドの発言に思い切り煙で咽た。
「ゴホ・・・ッ。バ、バカか、お前は!そんなこと誰が信じるんだ!」
あまりにバカバカしい。
好きあって付き合ってるのに手は出してないだと?!
そんな小学生みたいな付き合い、今時、誰がするって言うんだ!
俺なんて小学校3年でキスはしてたぞ?!(オイオイ)
そう思いながら立ち上がり二人を睨む。
するとオーランドも珍しく真剣な顔で立ち上がった。
(こいつと知り合ってから、こんな真面目な顔、初めて見たぞ)
「ジョニー!本当に何もしてないよ!ジョニーに話して認めてもらうまではと思ってキスもしてない!」
「ア、アホか!そんな男、どこにいる?!20代の男にそんな我慢ができるか!俺なら絶対無理だ!」
「誰もジョニーの事なんて聞いてないわよっ」
そこでが真っ赤になりつつ怒鳴り、俺もコホンっと咳払いをすると再びソファに座る。
「ジョニー、オーリィの言ってる事は本当なの・・・私達、何もないわ。それだけ真剣に付き合ってるの」
「分かるもんか。男なんて皆、同じだ」
「・・・ジョニー」
「俺は・・・お前を男手一つで育ててきた。俺が守ると決めたんだ。大切な妹をどこぞの新人俳優になんてやれないね」
そう言って立ち上がるとが怖い顔で一緒に立ち上がった。
「ジョニーのわからずや!大嫌いよ!」
「嫌いで結構だ。オーランドも早く帰れ」
「・・・嫌だ」
「何?」
「帰らない。今日はジョニーに認めてもらうまで帰らないって決めて来たんだ」
「そ、そんなもん勝手に決めるな!」
「いーや!帰らない。僕だってジョニーに負けないくらいを愛してるんだ」
「な、何だとう?!俺に勝てるって言うのか?!お前に何が分かる!俺がどれだけ苦労してを育てたと思ってるんだ!」
「分からないよ!!」
「はあ?!」
「分からないけど・・・でも僕の愛するを男手一つで育てて来たっていうジョニーの気持ちは分かるし尊敬してるっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
呆気に取られるとはこのことだ。
俺の苦労は分からないけど愛する気持ちは俺に負けないかもしれなくて、しかも尊敬してるときたもんだ。
どうやら、こいつは思ってた以上にアホなようだ。
「ジョニーがを大切にしてるって十分分かってる。だから僕だって同じように大切にするし幸せにしたいと思ってる」
その上、バカみたいに真っ直ぐだ。
「だから・・・ジョニーが認めてくれるまで・・・僕もには会わない。そのくらいの覚悟は出来てるよ」
(ああ、もう・・・こんな奴と共演なんてしなきゃ良かった。そうすりゃ大切な妹を取られる事もなかったんだ・・・)
「もちろん・・・俳優としてキャリアもつんでジョニーみたいな俳優になって・・・僕もを守るよ。恋人として・・・」
――くそ!あのバカ監督め!
"いい新人がいるから一緒にやってみないか?"なんて調子のいい事を言いやがって。
今度は絶対、"期待の新人"なんて話があれば前もって面接してやる!!
「・・・ジョニー」
二人に背を向け黙っていると、の小さな手が肩に乗せられた。
その手をそっと握り、の方に振り返る。
――あの遠い昔。
こんな風にこいつのこの小さな手を握った事があった。
あれで俺は決心したんだ。
"一生・・・この子を守っていく"と――
まさか、その役目が一人増えるとは思わなかったけどな・・・
そう思いながら軽く息を吐き出し、オーランドを見た。
「分かったよ・・・」
「え・・・?」
「俺が認めるまでには会うな」
「えぇ?!」
「・・・と言いたい所だが・・・そうなると俺が毎日、に無視され食事すら作ってくれなくなりそうだしな・・・」
「ジョニー・・・?」
不安げに俺を見上げてくるの頬に軽くキスをし、ギュっと抱きしめた。
「認めてやるよ、二人のこと・・・」
「・・・え?」
「俺一人じゃお前を守る事は出来ても・・・幸せにする事は難しそうだ」
そう言ってゆっくり体を離すと、は涙を溜めた瞳で俺を見てからガバっと抱きついて来た。
「・・・ありがとう・・・!"お兄ちゃん"・・・」
「――っ」
はそう呟くと、そっと俺から離れて涙を拭いた。
その涙につられ、俺まで泣きそうになり少しだけ横を向く。
「ジョニーありがとう!」
「うるさい!お前のためじゃない!」
そう怒鳴ってバっと振り向いた。
そして・・・・・・またしても俺は目が点になってしまった―!!!
「コ、コラァ!俺の前でキスをするなーっ!!離れろ!コラ!離れろぉ〜!!」
やっぱり、こんな奴と出会った事が俺の最大の失敗だったと、この時、真剣にキャストの変更を監督に依頼しようと思った――。
『・・・・・・って夢を見たんだよ〜♪どう思う?ジョニー!俺とが恋人同士なんてとこが最高だろぅ?
あ、ジョニーも相変わらずだったけど元気してる?今度、たまには遊ぼうよ〜♪その時、この夢の話もっと詳しく教え――』
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
「く・・・っ!!」
「・・・ジョニー?メッセージ・・・もう終ったのかしら・・・」
俺が怒りに震えていると、ヴァネッサがジャックを抱っこしながら歩いて来た。
そこで何とか笑顔を作ると、俺は彼女の頬にキスをして、
「ああ、やっと!終ったよ・・・後は俺が処理しておくから君は向こうで休んでなさい」
「そう?じゃあジャックを寝かせてくるわね?」
「ああ、そうしてくれ」
そう言ってもう一度彼女の頬にキスをする。
ヴァネッサはちょっと微笑むと、そのままリビングを出ていった。
残った俺は思い切り息を吐き出すと、もう一度電話へと視線を向ける。
そこには赤いボタンが未だチカチカ点滅している。
ようするに・・・まだメッセージが残っているという事だ。
だが・・・どうせくだらん事なのだ。
俺はかぶっていたハットを取ると棚の上に起き、おもむろに消去ボタンをボチッと押した。
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
『メッセージは全て消去されました』
機械的な声が聞こえてきて俺は心底、ホっとしソファに凭れかかる。
今の今まで聞かされていたアホのメッセージで思い切り疲れたのだ。
そう・・・小一時間ほど前、久々にロケ先から妻,子供たちとフランスの自宅に帰って来た。
そして、いつものように留守電のメッセージを聞こうとボタンを押してみると――
『メッセージは49件です』
「―――っ?!!」
今まで長い間,留守にしていても、こんなに入っていたことはない。
何事かとすぐにメッセージを聞いてみると―――
先ほどのオーランドの長〜〜〜〜〜いメッセージが延々と入っていたのだ。
一回のメッセージを録音できるのは多分、3分〜5分ほどだろう。
それに入りきらないから切れてはかけなおし、またメッセージを入れる・・・といった所業をオーランドはやり遂げたようだ。
そしてそれを最後の方まで聞いていた俺は・・・・・・
本気で今からロスに飛び、ハリソン家に殴りこもうかとさえ思ってしまったほどだ。
どうして疲れて帰って来てるのに、あのアホの夢の話を延々、一時間も聞かなくちゃいけないんだ?
いや・・・途中でやめようと思ったが何となく続きが気になり、ついつい聞いてしまったのだ。
これもオーランドマジックか?
だいたい俺がちゃんの兄貴で男手一つで育てて来たって?
どんな脳みそしてたら、そんな夢が見られるんだ?
しかも自分はちゃっかりちゃんの恋人として出演してるという何とも幸せな夢じゃないか!
それに随分とカッコいい事を言ってたぞ?
それに比べ、俺は妹バカでわからずやで、しかも女たらしだと?!(それは過去の話だ!!)
何て自分に都合のいい夢を見る奴なんだ、オーランド・ブルームという男は!
「はぁ・・・相変わらず、アホ真っ盛りのようだな、あの家の二男は・・・」
ハリソンも苦労するよ・・・。あ、あと長男のレオもな。
俺はグッタリ項垂れると暫く、その場から動けないでいたのだった。
(今夜は俺があいつの夢でも見そうだ・・・)(ゲンナリ)