「じゃあ、ここに寝かせて?」
「OK...よいしょ・・・って、ほんと重いな、こいつ・・・」
スタンリーはブツブツ言いながらも抱えてたキースをベッドの上に放り投げるようにして寝かせた。
ゴロンと寝転がったキースはヘラヘラ笑いながらベッドに顔を埋め、
「ん〜もう飲めない・・・」
なんて言っている。
スタンリーはベッドの端に腰をかけ、軽く息を吐き出すとゴロゴロしてるキースの頭をペシっと殴った。
「ったく・・・飲みすぎだよ・・・ッ」
「ごめんね?オーリーが飲ませちゃったみたいで・・・」
「いいんだ。こいつが調子に乗って飲みまくっただけだし・・・はぁ〜でも俺も飲み過ぎたかも・・・・・・・・・」
スタンリーもそう言ってドサっとベッドに寝転がった。
結局、あれから散々飲んだオーリー達はすっかり酔いつぶれてしまいルームシアターの中で寝てしまった。
先にドムが潰れて、(モデル歩きなるもので歩きすぎて酔いがまわったようだ)次にオーリー。
そしてキースもフラフラだったので今日はうちに泊めることにして今、何とか歩けるスタンリーと一緒にゲストルームへと連れて来たのだ。
レオはデライラを見送った、と言って戻って来たけど何だか疲れたのか、「先に寝るよ」と言って部屋に戻ってしまった。
リジィは映画も見終わり、オーリー達が寝たのに気づくと、「途中で起きて来て絡まれちゃたまんない」と部屋に戻ったから、
今、ルームシアターにいるのはオーリーとドムだけ。
二人とも絡まりあいながら(!)グォーグォーと凄いイビキをかいて寝ている。
そして私はと言うと・・・酔ってはいたけど今はちょっと緊張してる。
だって久し振りにスタンリーが家に泊まることになったから。
今日はキースと、そしてオーリーに感謝しなくちゃ。
だってオーリーがキースに飲ませて酔いつぶれなきゃ、きっと帰ってしまってただろうから。
ベッドに寝転がっているスタンリーを見ながら、そっと立ち上がるとゲストルームにあるミニ冷蔵庫からミネラルウォーターを出した。
それをコップに注いでベッドの方に持って行くとスタンリーがふと目を開ける。
「はい、お水・・・」
「あ、サンキュ・・・」
上半身を起こしコップを受け取るとスタンリーは一気にそれを飲み干した。
「はぁ・・・おいし・・・」
「あ、まだあるよ?」
そう言ってペットボトルを差し出すとスタンリーもちょっと笑ってそれを受け取った。
そしてグラスに注ぐと立ち上がってテラスの方に歩いて行く。
「はあー外の空気が気持ちいい」
「今日は少し涼しいね」
私も一緒にテラスへ出るとスタンリーは椅子に腰をかけ夜空を見上げていた。
珍しく酔ってるようでグッタリと椅子に寄りかかりながら何となく楽しそうに鼻歌なんて歌ってる。
そんな彼の隣に座って私も夜空を見上げた。
「スタンリーが酔うなんて珍しいね」
「そっか?あーでもキースと一緒だと、つい気が緩むっていうか・・・それにオーランドも飲ませ上手だしな」
「あはは、そっか。でもキースとやっぱり気が合ってたね」
「ああ。もうすっかり舞い上がってるよ、キースの奴。あいつも子供の頃から皆のファンだったしさ」
「そうなの・・・?」
「ああ・・・ま、そう言う俺もだけど」
スタンリーはそう言って笑うとミネラルウォーターを一口飲んで大きく息を吐き出した。
「キースとは・・・モデル時代から仲間でもあるけど・・・ほんとはガキの頃からの友達って言うかさ・・・」
「え・・・?じゃあ・・・ずーっと仲がいいの?」
「まあ・・・仲がいいってのも気持ち悪いけどな。唯一、付き合いの長い友達かな」
「そう・・・」
スタンリーがそんな話をしてくれるなんて初めてで、私は少し嬉しくなった。
いつも必要な事しか言わないか、からかうような事しか言わない彼が、酔ってるとはいえ、こんな風に子供の頃の事や、
友達の事を話してくれるのは凄く嬉しい・・・少しでも・・・心を開いてくれた気がして・・・。
「一つ・・・聞いてもいい?」
「ん?何?」
「子供の頃って・・・どうしてうちの家族のファンになったの?」
「ああ・・・そうだなぁ・・・」
私の質問にスタンリーは空を見上げてちょっとだけ微笑んだ。
その笑顔一つも今は凄く優しく見える。
「ほら・・・ハリソン家って子供の頃から皆、舞台やったり映画やドラマに出たりしてたろ?」
「うん・・・皆はね」
「で・・・家の事情ってのも隠さず、どうどうとマスコミに発表してたりしてさ・・・」
「・・・うん」
「しかも皆が俳優やってたから当時から結構、テレビとか雑誌に出てたんだよな」
「そうね。私も、その頃はまだ何もしてなかったのに、よく一緒に雑誌とかに載ってたわ」
「ああ、そうそう。パパラッチが隠し撮りしたやつとかな」
「え・・・見た事あるんだ」
「もちろん。だから知ってるんだよ」
スタンリーはそう言って笑うと優しい瞳で私を見た。
(そんな風に見られるとドキドキしてきちゃう・・・)
ちょっと顔が熱くなった私はすぐに視線を反らし誤魔化すのにミネラルウォーターを飲んだ。
肩が触れるくらいの距離にいるから、かすかに彼の香水の匂いがして、またドキっとする。
少し動いたら触れられるくらいの距離・・・
この前までなら、それも当たり前だったのに今はこんな事くらいで、こんなにもドキドキする。
「・・・俺の妹がさ・・・」
「――え?」
黙って俯いてると再びスタンリーが口を開いた。
"妹"と聞いて顔を上げるとスタンリーは少し寂しげな顔で夜空を見上げたまま言葉を続ける。
「妹が・・・皆のファンだったんだ。特に・・・のね」
「え・・・私・・・?でも私はその頃は・・・」
「うん。まだ何もしてない頃だよ?でも・・・妹にとったらはきっとお姫様に見えたんだろうな・・・」
「・・・お姫様・・・って」
「歳が近いからさ。やっぱり女の子って憧れるんじゃない?優しい父親と兄貴に囲まれて妹から見たら凄く華やかに見えたんだろうけど」
「そう・・・なの?」
「ああ、だからテレビや雑誌に出るたびに妹が俺に見せるんだ。"とお友達になりたいなー"なんて言ってさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
スタンリーは懐かしそうに微笑んでいて、彼がどれだけ妹を可愛がっていたかが分かった気がした。
その優しい笑顔も、きっと妹の事を思い出してるから・・・・・・・・・
「で、まあ・・・妹に付き合って見てるうちに・・・俺もファンになったってわけ。ほら皆の出てる映画も観てたし・・・」
「そう・・・」
「憧れだったんだ、きっと。血が繋がってなくても・・・あんな風に仲良く暮らせて皆がやりたいことやって活き活きしてた」
「・・・・・・・」
「うちの家族も仲が良かったけどさ。それに・・・両親も達のファンだったんだ」
最後にスタンリーはそう付け加えて少しだけ目を伏せた。
きっと両親がいた頃の事を思い出しているのかもしれない。
まだ・・・幸せだった頃の・・・
――だからなの?うちに来て皆と騒いでる時、凄く楽しそうなのは。
両親や妹がいて幸せだった頃の事を思い出すから・・・?
そんな事を思うと胸が苦しくなって不意に涙が浮かんだ。
彼の横顔が寂しそうで、出来るなら私がずっと傍にいてあげたいって・・・そう思ったから。
でも・・・泣いちゃいけない・・・
私は・・・スタンリーの両親が亡くなった事も妹が入院してる事も知らない事になってるんだから。
だけど・・・アルコールのせいで溢れてくる涙を止められなかった。
只でさえ普段から泣き虫なのに・・・こんなに酔ってたら止められるわけないじゃない・・・
「・・・ちょ・・・?何で泣いて――」
「ご、ごめ・・・」
案の定、スタンリーは驚いたように私を見た。
でも溢れて零れ落ちる涙は止められなくて私は慌てて手で濡れた頬を拭った。
「何でもない・・・から・・・」
「何でもないって・・・泣いてるだろ?どうしたんだよ・・・俺、何か変な事でも――」
「違う・・・違うの、そうじゃなくて・・・・・・ちょっと・・・飲みすぎちゃったかな・・・」
「・・・・・・?」
精一杯、笑顔を作って顔を上げた。
だけどスタンリーの心配そうな顔を見て、また胸が締め付けられる。
いつもみたいに笑ってくれればいいのに・・・
"何、泣いてんだよ"って、いつもみたいにからかってくれればいいのに。
こんな時に限って、そんな優しい目で私を見ないで―――
「あ、あの・・・私、部屋に戻るね・・・」
「ちょ・・・待てよ・・・」
限界だ、と思って私は急いで立ち上がった。
酔って泣いた顔なんて見られたくない。
このまま部屋に戻って顔を洗って寝なくちゃ・・・明日も午後から撮影なんだから―――
そう思ったのに・・・・・・
―――どうして私は彼に抱きしめられてるの?
「ス・・・スタンリー?」
突然、彼の匂いに包まれて、私はただ呆然としていた。
何だかふわふわして現実じゃないみたいだ。
立ち上がった瞬間、腕を掴まれて、気づけば強く抱きしめられてる。
――こんな映画のワンシーンみたいなこと、起きるはずないじゃない。
夢の中にいるようで、私は呑気にそんな事を考えていた。
でも確かにスタンリーの体温を感じている。
背中に回った腕の強さも、彼の匂いがする胸に顔を埋めている事も頭のどこかで理解してるのに心がついてこない。
時々吹いて来る少し冷たい風が涙で濡れた頬にかかり、ひやりとした。
その感覚だけが、これは現実なんだと教えてくれる。
私の髪が風で揺れて吹かれている事も分かっているのに。
ただ胸が一杯だった。
一瞬、驚いて止まっていた涙が再び瞳に浮かぶ。
そっと彼の背中にまわした手でギュっと服を掴んだ。
このまま、ずっと・・・スタンリーの体温を感じていたかったから。
でも、そう思った瞬間、耳元で彼の擦れた声が聞こえた。
「泣くなよ・・・。に泣かれたら・・・どうしていいか分からない・・・」
「・・・ごめ・・・ん・・・」
何とか、そう呟くと、突然彼が私から離れた。
驚いて顔を上げるとスタンリーは頭をかきつつ顔を反らしている。
「俺も・・・悪い・・・。ちょっと悪酔いしたかな・・・」
「え・・・?」
「中に入ろう?風邪引くぞ・・・?」
「あ、あの・・・」
スタンリーはそう言うとサッサと部屋の中に入ってしまい、私も慌てて後を追った。
ベッドの上では未だ大の字になって寝ているキースに苦笑しつつ、スタンリーは毛布をかけてあげている。
そして自分ももう一つのベッドに腰をかけると、気まずそうな顔で私を見た。
「ほんと・・・さっきはごめん。俺、女に泣かれるの弱いんだよな・・・」
「な・・・何よ、それ・・・」
(・・・女なら誰でも困るわけ・・・?!そして、あんな風に抱きしめるっていうの――?)
私はちょっとムっとして彼の隣にドサっと座った。
「おい・・・部屋に戻んないの・・・?かなり酔ってるだろ」
「戻らない」
「は?だって・・・もう夜中の2時だぞ・・・明日、撮影だろ?」
「午後からだもん。それにスタンリーは休みなんでしょ?」
「・・・・・・何で知ってんだよ」
「さっきキースから聞いたの。だから今日は二人で飲む約束してたって」
「チッ・・・おしゃべりめ・・・」
スタンリーは軽く舌打ちすると隣のベッドで眠るキースを睨んだ。
だけど私はさっきの余韻が残っていて今なら何でも言える気がした。
さっきのスタンリーは、きっと本当の彼の優しさだって思ったから。
そう思って彼の服をグイっと引っ張った。
「な、何だよ・・・」
「スタンリー、いつになったら戻ってくるの?」
「・・・え?」
「もう、あれから、かなり経ったんだし、そろそろ戻って来てもいいんじゃない?」
私が真剣な顔でそう言うとスタンリーはハっとした顔をした。
「それは・・・俺が決めることじゃないだろ・・・?」
「じゃあ・・・テリーに言えばいいの?」
「・・・・・・・・・」
私の言葉にスタンリーは困ったように息をついた。
そんな顔をされると、また泣いちゃいそうだ。
スタンリーを困らせたくないけど・・・私はただ・・・戻って来て欲しいだけなの・・・
でもスタンリーは私のそんな気持ちを壊すかのような言葉を口にした。
「ジョージでも大丈夫だろ?彼は仕事も出来るし・・・実際、にかなり仕事を取ってきてるって聞いたぞ」
「な・・・どうして、そんなこと言うの?彼は代理でしょ?」
「そうだけど・・・仕事を取ってるならいいだろ?それに俺がどうしてもを担当しなくちゃいけないって事もないんだから――」
「何よ・・・!何で、そんなこと言うの?もう私の担当はしたくないってこと?!」
「ちょ・・・声が大きいよ・・・。皆に聞こえるだろ?」
スタンリーの言葉がショックでつい大声を出してしまった。
スタンリーは隣のキースの様子を伺いつつ、困った顔で私を見る。
それだけで、また涙が零れた。
(そんな言い方しなくてもいいじゃない・・・それじゃまるで私のマネージャーに戻りたくないって聞こえる・・・)
「お、おい、だから泣くなって――」
「誰が泣かせてるのよ・・・っ」
「お、俺かよ?」
「他にいないわよ・・・っ」
「って言うか酔ってるんだろ?ほんと泣き上戸なんだから・・・。ほら、もう部屋に戻って寝ろ・・・ぅわ・・・っ」
急に素っ気無いことを言うスタンリーに私は思い切り抱きついた。
何だか寂しくて、少しでもいいから分かって欲しくて・・・・・
ただ勢いがつきすぎて抱きついたと同時に二人一緒にベッドに倒れこんでしまった。
それにはスタンリーも見た事がないくらい慌てている。
前、この部屋で私にキスしようとした人と同じ人とは思えないくらいだ。
「ちょ・・・おい!何だよ、どうした?」
「スタンリーなんて大嫌い・・・っ!」
「はあ?」
「いっつも意地悪で・・・私のこと苛めてばかりじゃないっ」
「だったら別に戻らなくていいだろ?ジョージの方が数倍、に優しくしてくれる―――」
「でも!それでも私はスタンリーがいいの・・・っ!」
「―――っ?」
「意地悪でも何でもいいから・・・ずっと私の傍にいてよ・・・っ!」
「・・・・・・・・・?」
頭の中がグチャグチャだった。
酔ってるからなのか、怒って興奮してるからなのか、ただ熱い想いだけが溢れて来て止まらなくなった。
それでもスタンリーの胸を叩きながら泣いてる自分が今までで一番、素直に思えた。
「ぅ・・・ひ・・・っく・・・」
「はあ・・・」
「・・・・・・た・・・溜息・・・つかな・・・いでよ・・・」
スタンリーの胸に顔を押し付けながら、もう一度ドンっと胸を叩く。
瞬間、また溜息が聞こえてムっとしたけど、私の背中にスタンリーの腕が回されドキっとした。
その手は子供をあやすようにポンポンっと一定のリズムで背中を叩いている。
「どっかの甘えん坊さんが聞き分けないからさ」
「む・・・あ・・・甘えんぼ・・・じゃない・・・っ」
「嘘つけ・・・泣き虫で甘えん坊だろ?は」
「・・・・・・・・・・・・」
(憎たらしい・・・・・・・・・・・・・・・)
そう思うのに、どうして、こんなに彼のことが好きなんだろう?
「はぁ・・・。これじゃあ俺も安心して他の子、担当出来ないよ」
「な、何よ・・・どうせミシェルの方が・・・素直で・・・可愛い・・・わよ・・・」
「お、よく分かってんじゃん」
「・・・・・・大嫌い・・・」
「あはは・・・!俺、何回目だっけ、にそう言われるの。もう慣れたよ」
スタンリーはそう言って笑うと上に乗っかったままの私を一瞬だけギュっと抱きしめてくれた。
それが私には彼からのメッセージのように感じて胸が熱くなる。
"――安心して待ってろ。必ず戻るから"
なんてね・・・そうじゃないかもしれないけど・・・ただ何となく、そんな風に感じたの。
出来れば・・・口に出して言ってくれたら・・・私ももっと素直になって可愛い自分でいられるのに・・・
――ああ、そっか・・・私、スタンリーに会ってから、いっつも可愛くないひねくれたとこばかり見せてきた気がする・・・
こんなんじゃ・・・・・・呆れられて担当から外れたくもなるよね・・・。でも・・・・・・私はあなたに傍にいて欲しいの・・・
その想いを告げたくなった。
でもスタンリーが優しく背中を叩くから、何だかさっきよりもふわふわしてきて私はそっと目を瞑った。
その瞬間、凄く気持ち良くて、彼の体温が凄く安心出来て何だかとっても幸せな気分になっていく。
その時、薄れる意識の中で彼の声が聞こえて来た。
「おい・・・・・・?まさか寝てない・・・よな?」
「・・・・・・ん・・・」
「おい・・・ちょ・・・寝るなよ、こんな体勢で・・・っ」
「ん・・・寝て・・・・・・ない・・・もん・・・」
「寝てるだろ?つかマジで寝そうだよ・・・おい、・・・っ」
かすかに声は聞こえてるのに返事をするだけの力はなかった。
ただ、そのスタンリーの声すら子守唄のように聞こえてきて・・・
そこで私は意識を手放した―――
シーーーーーン
「嘘だろ・・・?」
揺さぶっても起きないにスタンリーの口から、ついそんな言葉が零れる。
しかも、この体勢、かなり危ない。
もし今、兄達の誰かが入って来たら・・・と思うとスタンリーは冷や汗が出てきた。
(どう考えても・・・こりゃマズイだろ・・・何とか体勢を変えないと・・・)
スタンリーが仰向けに倒れてる上にが覆い被さっている、といった状況。
という事はスタンリーが体を起こし、をそっとベッドに寝かせればいい。
そうするべくスタンリーは体を左に倒し、の背中を支えながら何とかベッドに寝かせた。
「はあ・・・で・・・これから、どうすんだ・・・?」
上半身だけ起こし、すっかり眠ってしまったを眺めた。
を抱き上げて部屋に運ぶか?でも・・・もし誰かに見つかったら・・・・・・=殴られるかも・・・
このまま、ここに寝かせておくか?それで俺がキースと寝れば・・・
スタンリーはそう思って隣のベッドを見た。
だがかなり大きめのセミダブルベッドなのに、キースときたら思い切り大の字になって寝ているため、スペースがない。
「チッ・・・無駄に大きいんだよな、こいつ・・・」
しかも一度寝てしまえば大木のようにピクリとも動かない。
キースを端に寄せて隣に寝るなんて到底、無理な話だとスタンリーには分かっていた。
だが一応、念のため・・・とベッドから立ち上がりキースの方に歩いて行く。
そして体を持ち上げようとしたが、案の定、一ミリたりとも動かなかった。
泥酔して寝ている189センチの成人男性を舐めたらいけない、とスタンリーはこの時、真剣に思った。
「ったく・・・何だよ〜・・・俺、どこに寝ればいいわけ・・・?」
ガシガシと頭をかきつつ、交互にキースとを見る。
二人とも、それは気持ち良さそうに眠っていて、それがまたスタンリーにはカチンとくる光景だった。
「俺もすっごい疲れてるし、かなり眠いんだけど・・・」
溜息交じりでそう呟き、仕方なくの寝ているベッドの端に腰をかける。
スタンリーは本当に疲れていた。
というのも今、担当を任されているミシェルの我がままで相当、ストレスが溜まっているのだ。
仕事へ行けば、やれこの衣装は嫌だ、とかメイクが気に入らない、とか散々文句を言って、あげくNGの連発。
そして監督や共演者に迷惑をかけて、それを謝ってまわるのはスタンリーの仕事だった。
それだけでも、かなりのストレスなのに仕事が終ると、今度は、ここのレストランに行きたい、あそこのバーで飲みたい、などと
スタンリーを連れまわす。
そして、さも恋人同志みたいに振舞うので、それも困っているのだ。
スタンリーは今日の出来事を思い出して思い切り溜息をついた。
またしてもスタッフや共演者に頭を下げるといった一日で疲れ果てていたのだ。
それで明日はオフということもあって、今日は家に帰ってゆっくり休もう・・・と思っていた所へキースからの呼び出しの電話。
この前の件でも話があると言われ、まあ愚痴を聞かせるのにも丁度いいとスタンリーも仕方なくOKした。
だが、すぐにからの誘いの電話が入り、ついついここに来てしまったのだった。
スタンリーは気持ち良さそうに眠るの寝顔を眺めながら、ちょっとだけ苦笑を零し、彼女の額にかかった髪を指で避ける。
「――ったく人の気も知らないで・・・俺だって戻れるなら戻りたいよ・・・バーカ」
そう呟いての頬を指で突付いた。
するとは眉を寄せて少しだけ顔を動かしムニャムニャと口が動いている。
「ぷ・・・っ。ほんと・・・子供だな・・・」
小さく噴出し、スタンリーはそっとの隣に横たわった。
あれだけの量のワインを飲んだのだ。
そろそろ限界に近い。
「ふぁぁ・・・・・・」
大きな欠伸をしてスタンリーは時計に目をやる。
そして朝、7時に目覚ましをセットした。
別にそんな早く起きなくてもいいのだが、をここに寝かせる以上、早く起きて彼女を起こさないといけない。
寝過ごして万が一、レオか誰かが起こしに来たら、それこそ朝から殴られそうだ。
「ったく何で俺が・・・」
そう愚痴が出るも、の寝顔を見ていると自然と笑みが零れる。
遠い昔に見た、幼い彼女の面影に少しだけ胸が痛くなった。
「・・・・・・いつまで・・・こうして顔を見てられるかな・・・」
そう呟くとスタンリーは体を横にしての寝顔を見た。
その無邪気な寝顔は一度決心した思いが揺らぐほどの力がある気がして、スタンリーはゆっくりと目を閉じた――
それから数時間後・・・・・・午前5時48分。
キースは突然、目が覚めた。
いつもなら一度寝ればなかなか目が覚めないのだが、今日は特別だ。
と言っても別に何があるってわけでもなく・・・ようするに夕べは飲みすぎたのだ。
イコール水分取りすぎのためトイレをもよおした・・・という単純なこと。
キースはモソモソっと起き上がり、全く開かない目を手でゴシゴシと擦りながらベッドをおりた。
酔ってはいても、ここが自分の家ではない事を肌で感じていた。
そして、かすかに「今日は泊まってけば?」とオーランドに言われた事を思い出す。
そうだ・・・ここは子供の頃から憧れてた"ハリソン家"の家の中なんだ・・・!
俺はハリソン家のお姫様に誘われ、そして兄貴達と一緒に飲んで騒いだ!
まるで夢のような一日だった!
子供の頃に、こんな事が自分の身に起きるなんて考えもしなかったのに!
フラフラと記憶にある部屋の中のトイレまで歩いて行きながら、「ふふふ・・・」と小さく笑みを洩らす。
目を殆ど瞑ったままなので、かなり不気味だが、どうせ見られてもスタンリーくらいだろうと思いながらキースはトイレを出た。
そして何となく部屋の中が薄暗いのと、まだかなーり眠いのとで再び寝ようとベッドの方に戻って行った。
だがそこで、ふと足が止まる。
(――ん・・・?今・・・何か見てはいけないものを見てしまったような気が・・・)
殆ど目は瞑っているとはいえ、半目くらいで歩いていたので薄っすらと部屋の中は見える。
そして手前のベッドにスタンリーが寝ていたのも頭の隅で分かっていた。
でもしかし・・・今、視界に入ったのは何だか凄く心臓に悪い光景だったような・・・
そう思いながらキースは恐る恐る視線をスタンリーの眠るベッドへと戻した――
「ぐ☆ぅ●あ・・・□×△っっ!!!!!!!!!!!」
――ぶっ飛んだ。
いや、その言葉通り、キースはその場からバッタか、はたまた蛙か、というくらいに飛び上がった。
朝から寝ぼけてる割には見事なジャンプを現役モデルのキース・ボウエン(22歳)見せた・・・と言っても誰も見ちゃいないのだが。
それでもキースは叫びそうになる口を両手で抑え必死に堪えながら、もう一度視線を戻してみた。
そこにはグッスリ眠りこんだ子供の頃からの親友の姿。
まあ子供の頃から見てるので、かなり見飽きてる。(!)
だがそう思いながらもキースはそのスタンリーの端整な顔立ちをジィーーーっと穴が開きそうなほどに見つめた。
そして一ミリほどチラっと目を動かし、スタンリーの隣を見る。
「ふ●×げ△ッ!!!!!!!!」
そしてまたしても言葉にならない叫びが出そうになり慌てて口を手で抑える。
その前に飛び出そうになった目を抑えた方がいいかもしれない。
キースが見たもの。
それはスタンリーの体に寄り添うようにして眠っているお姫様の姿。
そう、キースが実は子供の頃から憧れて止まない、この"ハリソン家"の天使なお姫様、の姿だった。
ゴシゴシと目を擦った。
そりゃもう何度も、ヒリヒリしてくるくらい、キースは手の甲で寝ぼけた目を擦りつづけた。
おかげで目の周りがトンボの眼鏡のように・・・いや酔っ払いのように赤くなったが気にしちゃいられない。
この悪夢・・・幻のような悪夢から起きなくてはいけない!と真剣に思ったのだ。
だが現実にはいくら目を擦っても"スタンリーの隣に寄り添う"という幻は消えるはずもなく――(幻じゃねぇからな)
現実として目の前にある・・・という事実にキースは気づいた。
「こ、こ、こ、こ、こいつぅ・・・・・・とうとう姫を押し倒しやがったなぁぁぁぁぁあああっっ?!!!」
恐ろしいほどの勘違いを発揮し、キースはそのままスタンリーの上に飛び乗った。
――そう。文字通り、飛び乗った。
瞬間、スタンリーの腹部にはかなりの体重が乗せられ、「ぐぁ・・・!!」っと叫び声を上げたのは言うまでもない。
「ゲホ・・・ッ!!な・・・何すんだよっっ!!!!!!」
飛んだ起こされ方に、(ほんとだよ)、スタンリーも一気に目が覚め飛び起きた。
そして目の前で凄い形相をしている親友の姿にギョっとする。
「ゴホ・・・ッ!キ、キース・・・てめぇ・・・っ」
「お前を見損なったぞ、スタンリー!!」
「は・・・はあ?」
腹を擦りながらスタンリーが顔を上げると拳を振り上げたキースが迫ってきた。
それにも驚き、スタンリーはサっと避けるとベッドから下りて身構える。
「何、怒ってんだよ?!わけわかんねぇぞ?!」
「ふざけるなー!お前、彼女を・・・っっ」
「は?彼女・・・?」
「すっとぼけんなーー!そこに寝てるだろ?!」
「あ・・・・・・・・・・・・・・・」
キースの指差す方向へ目をやり、スタンリーはやっと理解した。
「ち、違うって勘違いだよ、お前の!」
「どーこーがー勘違いだ、コノヤロウ!!ちゃんは・・・彼女はお前に寄り添って、ね、寝てたんだぞ、コラァ!」
「だ、だから・・・夕べ、が勝手に寝ちゃって・・・」
「・・・・・・どうしたの・・・?」
「「―――っっ?!!!」」
そこで突然、の声がした。
二人の声がうるさかったのか、しきりに目を擦りながら上半身を起こしている。
彼女もまた寝ぼけているのか、この状況には気付いていないようだ。
「ちゃん・・・(ね、寝起きも可愛い♪)」 (←果てしなくバカ)
「お、おい、・・・お前からもキースに説明しろ・・・っ」
「・・・???」 (ハッキリ言ってかなり寝ぼけている)
「おーい!スタンリー!お前、ちゃんを、"お前"って何だ!ちょーっとマネージャーやってたからって偉そうに!」
「うるさい!とにかく誤解だ!俺は手なんか出してないって!!」
「嘘つけ!!お前、ちゃんが酔ってるのをいいことに、よ、よりによって俺の隣のベッドに押し倒したな、コラァ!!」
「バ!バカ言うな!!俺がそんなことするはずないだろ?!」
「いーや!するね!!!俺よりモテるからって調子に乗るなよぉう?!」
ビシ!とスタンリーを指差し、そう言ったキースにスタンリーの口が思わず開く。
「いや、それ今、関係ないだろ・・・・・・・?」 (ちょっと半目、しかも眠い)
「――ぬ!!」
一瞬、"確かに!"と自分でも突っ込んだが、引くに引けず、つい口を尖らせる。
だが、その時、再びが呟いた。
「ぅるさぃ・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「は!・・・・・・・・・・・・・・・ご、ごめんね、ちゃん!」
の一言にガバっとベッドの下にひれ伏したキース。
だがは半分、寝ぼけているのか目を擦ると、再びコテンとベッドに寝転がり、少しするとスースーという小さな寝息が聞こえて来た。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
そこでスタンリーも頭をかきつつ大きな欠伸をした。
キースもまだアルコールが抜けていないからか頭がクラクラしてきてフラっと立ち上がると自分のベッドの方に戻って行く。
それを横目で見ていたスタンリーはそっとベッドに腰をかけつつ、ゆっくりと口を開いた。
「おい、キース・・・・・・」
「何だ・・・」
「もう一回寝ろ」
「・・・・・・分かった」
何となく自分の誤解ということに気づいたのか、それとも酔って訳が分かってないのか、キースはスタンリーの言葉に頷くと、
モゾモゾと布団に潜り込んだ。
それを見てスタンリーもキースの方に歩いて行くと布団に潜り込む。
というのもキースが無言のままベッドの端のスペースを空けてくれたからだ。
が、その時。キースがスタンリーに背中を向けたまま――
「――おい、スタンリー」
「何だよ・・・」
「・・・・・・今度は僕を襲う気?」
「〜〜〜〜っ!!!!!」
ドカッ!!!
「・・・ふげっ」
スタンリーの怒りの蹴りがキースの尻にヒットした。
「くだらねぇこと言うな」
「わ、わがっだ・・・・・・」 (そうとう痛いらしい)
「ったく・・・朝から疲れさせやがって・・・」
そう呟き、スタンリーが目を瞑った。
その時、再びキースが口を開く。
「おい・・・」
「・・・何だよっ!!」
またバカな事を言ったら蹴るつもりでスタンリーが目を開ける。
だがキースの声は先ほどと違い真剣なものだった。
「お前・・・・・・ほんと辞める気か・・・?」
「―――っ?」
「もう少し・・・考えてみろよ・・・」
「・・・キース・・・」
その言葉にスタンリーは少しだけ体を起こし、キースを見た。
だが、キースはギュっと目を瞑ると、
「・・・・おやすみ」
と呟き、布団に潜ってしまった。
スタンリーは軽く息をついて、また横になろうとしたがチラっとの方に視線を向ける。
何事もなかったかのようにスヤスヤと眠るにスタンリーもちょっと笑顔を浮かべ軽く息をついた。
オーランド
「う・・・」
ぐゎんぐゎんとするほどの痛みに俺は顔を顰めた。
そして意識が戻った瞬間に襲ってくる吐き気に、呻き声がもれる。
「うぅ・・・ぎ、ぎもぢわるい・・・・・・」
何だか胃の辺りにも圧迫感を感じ、おぅぅえぇえ・・・ってなる。(オイ)
(あぁ・・・また飲みすぎちゃった・・・)
そう思いながらゆっくりと目を開ける。
・・・・・・・・・・そして目の前にあったもの。
「ぐぉ・・・ッ!!!!」
それは朝から見てはいけない・・・そう、凄く汚いドムの寝顔のドアップだった―!!!
「おぅぅぇぇぇぇええっっっ!」
あまりに衝撃的な目覚めだった為、元々気持ち悪かった僕はトイレにも行けないまま、その場で"おいた"をしてしまったのでした。
もちろん・・・起きてきたリジィに、かなり怒られ、絨毯のクリーニング代は全て僕もちになってしまった・・・(鼻水キラリ☆)