チュンチュン・・・・・・
・・・・・・カシャン・・・
窓の外から小鳥の鳴き声がかすかに聞こえ、新聞配達に来た自転車の音が遠ざかって行った時、はゆっくりと目を開けた。
「ん・・・」
途端にぐわぁーんとする頭に思わず顔をしかめ、思い切り息を吐き出す。
そして再び目を閉じると左手を額に乗せ、軽く息を吸い込む。
「あぁ・・・飲みすぎた・・・」
夕べはワインを沢山飲んだような気がする。
デライラも来てくれて、スタンリーも来てくれて凄く楽しかった。
だから、ついテンションが上がってデライラに勧められるまま思い切り飲んでしまったのだ。
デライラは色々な話をしてくれて、仕事の事とかでも相談に乗ってくれた。
そして恋愛についても彼女から色々とアドバイスを貰った。
名前こそ出さなかったがスタンリーの話になった時、反対側にはレオがいたので少しヒヤヒヤしたが、
映画の効果音と周りが騒がしかった為に話の内容までは聞こえなかったらしい。
時々、「女同士で何、話してんだ?」なんて聞いてきたけどデライラが上手く誤魔化してくれた。
「女同士の話は聞くものじゃないわよ?」
そんな風に言うとレオも深くは聞いてこなかった。
ただ・・・少しデライラの事を避けてるようにも見えたのだが・・・(気のせいだろうか)
デライラは真剣にの話を聞き、スタンリーに気持ちを言うべきだ、と言ってくれた。
そしてもその時は、このまま今の勢いで告白しちゃおうかな!なんて思うくらい酔っていたのだ。
あれ・・・?それで・・・私、あれからどうしたんだっけ・・・
デライラが、「そろそろ帰るわ。明日早いし」と立ち上がったところは何となく覚えてるんだけど・・・
デライラを見送ったのかどうかすら記憶が怪しい。
「はぁ・・・」
はそこで溜息をつくと、いつものようにベッドサイドにあるはずの時計に手を伸ばした。
だが伸ばした指先は空を切り、は、「ん?」と眉間に皺を寄せてから目をパチっと開いてみる。
「ぁれ・・・ここって・・・」
さっき一瞬だけ目を開けた時は気づかなかったが、天井が自分の部屋のものと違う事には首を傾げた。
そしてチラっと壁や布団を見ても自分のものとは違う。だがこの部屋には見覚えがあった。
「何で私・・・ゲストルームで寝てるの・・・?」
そう呟いてから、ゆっくり上半身を起こし考えてみる。
が、その前に視界の端に何かが映った。
そう・・・隣のベッドで誰かが寝ている気配・・・
そこでが隣に顔を向けてみると、そこには――
「ス・・・!」
思わず大きな声を出しそうになり、手で慌てて口を抑える。
そしてもう一度目を丸くしながらもマジマジと隣のベッドを確認してみた。
ス、スタンリー?!と・・・キース・・・!な、何で二人が一緒のベッドで寝てるわけ?!
しかも私まで何でこの部屋で寝てるの?!
朝からあまりの衝撃には頭がクラクラした。
いや、それは二日酔いだからなのだが・・・
「と、とにかく・・・部屋に戻らなくちゃ・・・」
何故だか焦ってベッドを降りる。
そして自分の格好を見てみれば夕べの服装のままだった。
やだ・・・私、このまま寝ちゃったんだ・・・
って事は・・・うわ、メイクもしたままだし髪だってグチャグチャ・・・
ああ、もうー早く部屋に戻ろう・・・っ
脳内パニックに陥り、は静かにそのゲストルームを出た。
ドアを閉める際に中を覗けば、二人はよほど疲れているのか、まだグッスリと眠っている様子。
スタンリーの無防備な寝顔にはちょっとだけ笑顔になった。
「はぁ・・・でも・・・何で私、あの部屋で・・・?」
自分の部屋に誰にも見つからずに――何せ朝7時なのだ――戻ってホっとした瞬間、その疑問が残る。
でもキースも一緒だったという事は別にスタンリーと何かあったわけでもなさそうだ。(ベッドも別々だったし)
それにはホっと息をついた。
酔っ払った勢いで変に告白しなくて良かった・・・
まあキースもいたんだし、いくら私だって酔ってはいたとしても人前では告白しないだろう。
まさか自分が"告白に近い"事を言ってしまったとは思わず、はちょっとだけ苦笑した。
きっと酔ってたけど前のようにゲストルームに二人を案内しただけなんだ。
それで、つい話しこんで寝ちゃっただけよ・・・うん、きっとそうだ。
自分に都合のいい解釈をしつつ、はバスルームへと入って行った。
そこで鏡を見てちょっと驚く。
「ぁれ・・・どうして私、こんなに目が赤いの・・・?」
酒に酔って寝たわけだから確かに髪も多少乱れ、メイクも若干落ちている。
だがこの目の赤さと瞼の腫れ具合を見ると、二日酔いだから、というより何だか泣いた次の日みたいな顔だ。
「はぁ・・・映画観て泣いちゃったのかな・・・」
首を傾げつつ、は何とか夕べの事を思い出そうとする。
だが、とにかくメイクも落としたくて、まずはシャワーに入る事にした。
手早く服を脱いで熱いシャワーを出す。
すぐに湯気で中が暖かくなり、はクレンジングで簡単にメイクを落とすと顔からシャワーを思い切り浴びた。
「ん〜気持ちいい・・・」
少し冷えた体が温まっていくのが心地よい。
はそのまま長い髪も奇麗に洗った。
「はぁ、すっきり!」
体も洗い終え、シャワーを止めたはバスタオルで髪を拭きながら軽く息を吐き出した。
これで少しはアルコールの匂いも取れた気がする。
バスローブを羽織るだけにして洗面所へと向かい、そこでしっかりと歯を磨く。
口内もすっきりしたところでは部屋に戻ると大きな欠伸をした。
「まだ8時少し前か・・・。今日の撮影は午後からよね・・・」
それを思い出し、は再び欠伸をすると真っ直ぐにベッドルームへと歩いて行く。
まだきっと皆もグッスリ眠ってるはず。
私ももう少しだけ寝ていよう。
いつもの自分のベッドに潜り込むと何となくホっとしてはすぐに目を瞑った。
まだアルコールが残っているので途端に夢の中へと落ちていく。
(後で起きたら・・・スタンリーに夕べのこと聞いてみなくちゃ・・・何か失敗してないといいけど・・・)
目が赤かった事が少しだけ気になり、眠る前にそんな事を考える。
だが数秒後に、またしても深い眠りについたのだった。
レオはかすかな音で目を覚ましていた。
そして少し気になり、廊下を覗いてみるとが自分の部屋へと入って行ったところだった。
何でこんな時間に・・・?
それにの格好は夕べと同じだった。
心なしか寝起きといった印象も受けた。
・・・今までどこにいたんだ?
オーリィやジョシュの部屋で寝てたとか・・・いやでも・・・子供の頃ならあり得るが今はないか・・・。
・・・まさか・・・ゲストルーム・・・?
レオはふと夕べのデライラの言葉を思い出した。
そして軽く息をつくと、そっとドアを閉めて再びベッドへと潜り込む。
ゆべはかなり神経を張っていたし、デライラがちゃんと帰ったのを見届けた後にドっと疲れが襲ってきた。
それで他の皆にを頼み、自分は早々に部屋へ戻ってベッドに潜り込んだのだ。
だがあんなにアルコールを飲んだのに、ちっとも眠くならず暫くはゴロゴロとしつつ考え事をしていた。
"、恋をしてるかもね"
デライラがちゃんと帰るのを見届ける為に一緒に外に出た時、彼女が含み笑いを浮かべてそう言った。
"まさか"と言ったレオに彼女は軽く笑うと、
"ほんとに気づかないの?"
と意味深な言葉を口にしたのだ。
あの様子じゃ嘘か本当か、レオにも分からなかった。
そして彼女が意図する事も・・・
"あんなに大切にしているお姫様が、もし恋をしていて、その男と上手く行ったら・・・あなたはどんな顔をするのかしら"
デライラは最後にそう言うと呼んでおいたタクシーに乗り込んで帰って行った。
その言葉の意味がレオには分からず、暫くの間その場から動けなかった。
が恋をしている?誰に?
もし恋人が出来たら・・・?そんなの決まってる・・・
ライアンの時みたいにを傷つけるような男なら黙って見ちゃいない。
レオはその時、半信半疑だった。
は今のところ外泊だってしていないし、ライアンの時のように何かに悩んでる様子もない。
だからが恋をしている、などと考えた事がなかった。
だがデライラの言葉は、に恋人が出来た、というものではなく、今まさに恋をしている、といったものだ。
ということは・・・は誰かに片想いをしているということだろうか。
それなら・・・誰に?
レオは再び体を起こすと煙草に火をつけた。
さっきはどこかの部屋から戻って来た感じだった。
もしそれがゲストルームなら・・・まさか・・・・・・
いや・・・ゲストルームには彼だけじゃない。
彼の友人だっていたはずだ。
そんなはずはない。
きっと夕べ、が部屋に案内した時に酔って、そこで寝てしまっただけだ。
だいたい、それだけだとしても無防備すぎるけどな・・・。
後でちょっと注意しとかないといけないか。
女の身で男二人が寝ている部屋に泊まるなんて、いくら自宅で、そして彼を信用しているからといって軽率としか言えない。
「はぁ・・・全く・・・いつも心配させてくれるよ、は・・・」
煙草を灰皿に押しつぶし、レオは溜息交じりで呟いた。
「―――うわあぁぁぁ!」
午前11時半、ハリソン家にイライジャの絶叫が響き渡った。
硬く握られた拳は更にぎゅぅっと握りしめられ、少し赤くなっているのは気のせいではないだろう。
そしてチャームポイントである彼の大きな瞳も更に丸く、そして大きく見開かれていて心底、驚いているといった感じだ。
で、その視線の先に何があったのかというと―――
「ご、ごめん!リジィ・・・!!何とか掃除したんだけどさ・・・!!」
「〜×〜〜■〜〜※〜〜●〜〜っっっ!!」 (怒りで声も出ないイライジャ・ジョーダン・ウッドくん(現)21歳)
「あ、あの・・・リジィ・・・」
そのイライジャの後ろで"ジャパニーズ、土下座〜"の如く床に頭を摩り付けながら泣きそうになっているのは、
この家の二男で"歩く騒音"ことオーランド・ブルームくん(現)25歳。
毎度の事ながら家族、そして周りの人達に多大なる迷惑をかける、この男。
さて・・・本日は一体、どんな"おいた"をしてしまったのでしょう?というナレーション付きで番組でも作れそうなほど、
彼に関する"迷惑"かつ"アフォ"エピソードは多い。
まあ、でも彼がいるからこそ、笑いの耐えないハリソン家、とも言えるのかどうかは・・・
他の家族に聞いてみない事には分からないのだが。(いや、かなりのブーイングがきそうなのでやめておこう)
「どういう事さ、オーリィ・・・」
大きく息を吸い込んだと思えば、やっと口を聞いたイライジャ。
だがその声はかすかに震えていて、さすがにオーランドもビクっとなった。
「あ、あの・・・だからさ・・・。さっき目を覚ましたら・・・すっごい気持ち悪いものが視界に入って――」
「気持ち悪いのは夕べアンタが飲みすぎたからだろ!だから、こんな酷い状態になったんじゃないかっ!」
「ぬ・・・!お兄さまに向かって、"アンタ"とは何だ、リジィ!」
イライジャの生意気な口の聞き方に、いつも怒られて泣いてばかりいる(!)オーランドもカチンときた。
いや、自分が悪いのだから確かに罪悪感もある。
だが凄く反省して誤っているのに、それすら聞いてもらえず、更に追い討ちをかけて"アンタ"呼ばわりされれば、
いくら、"美形な顔してババンバーン♪"で温和なオーランドでも、そりゃ怒るってなものだ。
だがオーランドが逆切れしたことによって更にイライジャの怒りに火がついた。
「兄貴だなんて思ってないよ!何だよ、兄貴らしいことした事もないクセに!!」
「ぬぁんだとぅ?!子供の頃、俺のラジコンあげただろう?!」
「一体いつの頃の話をしてるのさ!それにあれだって使い古しで半分、壊れた奴じゃないか!おかげで友達のラジコンと競争した時、僕のだけ途中でバラバラになったんだからな?!」
「うっ!そ、それは・・・だからまた新しいのあげただろう?!古い事を持ち出すな!」
「最初に持ち出したのはオーリィだろ?!」
「ぁっ!(そ、その通り!)」 (おいアンタ・・・)
「とにかく!カーペットは弁償してもらうからね!あと、この匂いもどうにかしてよね!これじゃ臭くて映画も見れないよ!」
「え?べ、弁償って、ちょ・・・おいリジィ〜〜っ!!」
言いたい事を言うとイライジャはプンスカ怒りながらリビングに戻って行ってしまった。
その場に取り残されたオーランドは半分、泣きそうになりながらシアタールームの方に振り返る。
そこにはドムが未だ大口を開け、大の字のままイビキをかいて眠っている。
そして、その近くのカーペットには先ほどオーランドが、"おいた"をしてしまった証拠とも言える染みが広がっていた。
「く、くそぅ・・・俺だって好きでゲロンパしたわけじゃ・・・ズズ・・・ッ(鼻を啜る音)」
可愛い弟(?)になじられ怒られ、あげく"弁償"などと言われたオーランドの胸はズキズキと痛みを増していった。
そして、その悲しみは次第に怒りへと変わり、その矛先にドムが選ばれた。
「ぬぅ・・・スヤスヤと気持ち良さそうに寝やがってぇ・・・もとはと言えばドムの寝顔があまりに汚いからだぞっ?!」
スクっと立ち上がったオーランドは目に浮かんだ涙をゴシゴシと拭くとドムの前にフラリと立った。
そして今まで見せたこともないような怖い顔で彼を見下ろす。
「ん〜・・・・・・むにゃ・・・愛してるよぉ・・・・・・デへへ・・・」 (!)
「―――っっ」
呑気に夢を見ているのか、ドムはニヤつきながら寝返りを打った。
それにはオーランドの額にもピキッっとレオ並みの怒りマークが浮き出る。
「ドム・・・今日だけは・・・許さないぞ・・・」
そう呟くとオーランドは一旦、シアタールームを出て行った。
そして、すぐ手に何かを持ち、戻ってくる。
「ふふふ・・・俺の復讐、受けてみろっ!てぃや!」
「ふぁ・・・?」
そしてオーランドは全ての怒りをパワーに変えて、ドムに"復讐"を施したのだった。
「おはよう御座います!皆さん!」
「「「―――っ」」」
リビングに一際、明るい声が響き、レオ、ジョシュ、イライジャはギョっとして顔を上げた。
するとドアのところにキースが爽やかな笑顔で立っている。
「やあ、おはよう。二日酔いは大丈夫?」
「はい、レオ兄貴!グッスリ寝たんで全然、大丈夫ですよ!」
「おい・・・その兄貴ってのやめてくれよ・・・マフィアじゃないんだからさ・・・」
「え?お気に召しません?!じゃ、じゃあレオさん?"さん"じゃ失礼か・・・あ、レオ様?ってこれじゃミーハーファンみたいだし・・・」
キースは一人ブツブツ言いながら顎に手を当て真剣に考えている様子。
それを見ていたレオは苦笑を洩らし、
「別にレオでいいよ。皆もそう呼んでるし」
と肩を竦めた。
だがそれを聞いたキースは一直線にレオの隣に座り、首をぶんぶん振っている。(若干アルコールが残っていてクラっとはしたのだが)
「ダ、ダメですよ!そんな呼び捨てなんてとても!」
「だ、だから気にしないでいいって・・・」
「いえいえいえ!子供の頃から憧れてた人を呼び捨てになんて出来ないっすよ!」
「・・・・・・そりゃ、どうも・・・」
こいつには何を言っても無駄だ、と判断したのか、レオは引きつった笑顔を見せつつ紅茶のカップを口に運んだ。
目の前で見ていたジョシュとイライジャもちょっと苦笑しながら再びテレビや雑誌へと目を向ける。
そこへスタンリーが入って来た。
「遅いぞ、スタンリー!」
「はいはい・・・1人サッサと用意して部屋を飛び出して行ったのは誰だっけね」
「俺はただ皆さんは朝、何をしてるのかなーっと気になってだな!それと夕べのお礼を――」
「ああ、夕べは泊めて頂きました。すみません、騒いじゃって・・・特にこいつが」 (!)
「お、おいスタンリー俺は別に・・・ぬぉっ」
スタンリーはレオや皆にそう言ってキースの頭を下げさせている。
それを見てレオは、”さすが親友。扱い方を知ってるんだな・・・"(!)と思っていた。
「いや、全然だよ。うちはオーランドもいるしね。普段から騒がしいからさ」
「そうそう。ね?レオ」
ジョシュとイライジャは二人でそんな事を言って笑っている。
レオもその言葉に大きく頷いてスタンリーを見た。
「そういう事だから気にしないでまた遊びに来てくれよ。も喜ぶしさ」
レオがそう言うとスタンリーは何も答えず、ちょっとだけ微笑んで見せた。
その様子を伺いながらレオは内心、"ほんとつかめない男だな"と思う。
何気なくの名前を出したが何の反応も見せなかった。
やっぱり付き合ってるとかじゃなく・・・が彼を好きだと言うことか?
そんな事を思っていると、そこへが入って来た。
「あ・・・皆、もう起きてたの?」
「ああ、、おはよう」
リビングにいる面々を見て少し驚いた様子のにレオは笑顔で声をかけた。
そして傍に来たの頬に、いつものように朝の挨拶をする。
するとキースが突然、着ていたジャケットをビシっと直し、の方に歩いて来た。
「おはよう、ちゃん♪」
「あ、おはよう・・・キース。夕べはその・・・よく眠れた?」
「まあね!今朝起きたら隣にスタンリーが寄り添ってるからギョっとしたけどさ」
「おい、うるさいぞ・・・」
キースの言葉にスタンリーは顔を顰め、ジロリと睨む。そして腕時計を見てからの方に、
「じゃあ・・・俺達、そろそろ行くよ」
「え・・・?もう?」
「もうって・・・昼過ぎだぞ?それにもこれから撮影だろ?」
「うん、そうだけど・・・」
いつもと変わらないスタンリーには少しホっとしながら、もう帰ってしまうのかと寂しくなった。
だが彼の言う通り、あと一時間ほどで出かけないといけない。
それに、こんな皆がいる中で我がままを言えるはずもなく――
「じゃあ・・・撮影頑張れよ」
「あ、外まで送るわ」
「わぉ♪ちゃんのお見送り付きなんて最高だね♪」
「おい、キース・・・」
スタンリーが呆れたように口を開いたが、キースは最後に何故かレオの方に歩いて行くと何やら耳打ちをしている。
それにはレオも何だか慌てたような感じだ。
だがキースはすぐにスタンリーとの方に戻ってくると、
「さ、じゃあ帰ろうか。どうもお邪魔しました!」
とジョシュやイライジャにも挨拶をし、ウキウキしながらエントランスの方に出て行ってしまった。
それにはスタンリーも苦笑を浮かべつつ、
「じゃあ、帰ります。どうも」
「またな、スタンリー」
「早くあのジョージと代わって戻って来てよ!」
最後のイライジャの言葉にスタンリーは軽く微笑むと、そのままリビングを後にした。
「あ、じゃあ・・・見送ってくるね」
「ああ」
がすぐに彼の後を追っていくのを見ながらレオは小さく息を吐き出し髪をかきあげる。
そして、さっきキースに耳打ちされた言葉を思い出し、苦笑をこぼした。
「ねぇ、レオ」
「ン?何だ、リジィ」
「さっき・・・キースに何を言われたの?何だか慌ててたけど・・・」
「ああ・・・それが・・・夕べから俺に女を紹介するってきかないんだよ・・・。で、酔って忘れてるかと思えば覚えてたみたいでさ」
「へえ・・・それで?」
「"今度、美人モデルを沢山、集めるから、その時はパーティに来て下さいね♪"だってさ・・・」
「あははは!なるほどねぇ〜。で、さっきはが近くにいたから焦ってたってわけだ」
「はそんな恋人探しするようなパーティは嫌いだしな」
レオはそう言って肩を竦めると、ふと気づいたようにリビングを見渡した。
「そう言えば・・・オーランドとドムはどうした?」
「ああ。まだ寝てるんじゃない?」
「何だよ・・・リジィ、何で怒ってるんだ?」
オーランドの名前を聞いて口を尖らせたイライジャにレオとジョシュは首を傾げた。
するとイライジャも二人を見ながら身を乗り出し、
「それがさーーオーリィの奴、最悪なんだよ!」
と今朝の怒りを再び再燃させ、何があったかを話し出したのだった。
「じゃあ・・・頑張れよ?」
と、スタンリーはキースの車の助手席に乗るとを見てそう言った。
その言葉にも頷くと、ドアを閉めようとしたスタンリーの手を止める。
「何だよ?」
「あ、あのね・・・?夕べの・・・事なんだけど・・・」
「え・・・?」
の言葉にスタンリーは少しだけ首を傾げた。
すると運転席に乗ったキースが再び車を下りて、
「ボクはちょっと煙草が吸いたいから、あっちにいるね♪」
と言って歩いて行ってしまう。
それにはスタンリーも、「おい、キース!」と声をかけたが、キースは庭の方に行ってしまったようだ。
「ったく・・・。で・・・夕べがどうかした?」
スタンリーはキースの行った方向を見ながら軽く息をついて、再びを見た。
スタンリーは車の助手席にドアを開けて足を出すように座っているので目の前に立っているを少しだけ見上げる格好だ。
は何となく照れくさくて少しだけ視線を反らすと、軽く息を吸い込んで話を切り出した。
「えっと・・・私、夕べ結構酔ってた・・・でしょ?」
「え?ああ・・・そう言えば・・・かなりワイン飲んでただろ」
「うん・・・まあ。で・・・私、何でゲストルームで寝てたの・・・?」
「・・・は?覚えてないの?」
「う、うん・・・。まあ・・・」
「はぁ・・・」
の言葉にスタンリーは思い切り溜息をつくと苦笑しながら前髪をかきあげた。
「ったく・・・記憶なくすまで飲むなよな・・・。今日、仕事だろ?」
「ご、ごめん・・・」
「へぇ・・・今日は素直だな」
「・・・む」
相変わらずのスタンリーの言い方にはムっとした顔で彼を見た。
だがスタンリーはちょっと笑うと、
「だから昨日はキースもベロベロになってさ」
「あ、うん」
「で、俺とであいつを抱えてゲストルームまで運んだんだよ」
「あ・・・やっぱり・・・」
「何、それも覚えてない?」
「え、だ、だから・・・さっき二度寝して起きた時に・・・何となくそこは思い出したんだけど・・・」
「じゃあその後のこと?」
「そう・・・私・・・何か変なことでも・・・」
不安そうな顔でそう尋ねるにスタンリーは煙草を咥えつつニヤっと笑った。
「ああ・・・そう言えば・・・」
「な、何?何かした?」
「俺の上に覆い被さってきた、かな?」
「は?!う、嘘よ、そんな――」
「嘘じゃないよ。ほんとのこと。で、急に泣くし俺の胸は殴るし凄かったな」
「な・・・そんな事しないわよっ」
スタンリーの言葉には少しだけ口を尖らせた。
そして必死に夕べの記憶を辿るのだが、やはりハッキリ否定できるほど覚えちゃいないのだ。
なので、もし本当にそんな事をしたのか、と思うと顔が一気に赤くなってきた。
そんな彼女にスタンリーは更にニヤリと笑うと、煙草に火をつけ煙を吐き出した。
「な〜んだ、一緒に寄り添って寝た事も覚えてないわけ?」
「は・・・はぁ?!よ、寄り添ってなんかなかったわよ!!スタンリーはキースと一緒に寝てたじゃないっ」
今朝の事を思い出し、は反論した。
だがスタンリーはまだ余裕の笑みを浮かべて肩を竦めている。
「それは一度、あいつに起こされて文句言われたから移動しただけだよ。でもそれまでは一緒のベッドで寄り添って寝てたらしいよ?俺達」
「な・・・何よ、その"らしい"って・・・!」
「目撃したキースからの情報。それもの方から俺の体に――」
「わーーもういい!聞きたくないっ!」
「あれ・・・もういいの?」
耳まで赤くなったにスタンリーはちょっと笑うと煙草を消して立ち上がった。
そして背中を向けてしまったの頭にポンっと手を置く。
「怒るなって」
「じゃ嘘だって言って!」
「いや、それは嘘じゃないしさ・・・」
「〜〜っ!!」
「でもまあ・・・・・・夕べは楽しかったよ。サンキュ」
「―――っ?」
スタンリーの言葉にが驚いて振り返ると、優しい瞳が自分を見ていた。
「あのさ、・・・」
「え・・・?」
スタンリーは何か言いたそうに目を伏せた。
「実はちょっとお前に話が―――」
「お待たせ〜♪スタンリーくん、ちゃん!」
「「―――っっ」」
と、そこへ元気よくキースが戻って来てスタンリーはガクっと頭を項垂れた。
「あれ・・・まだ・・・終ってなかった?話・・・」
キースも"しまった"なんて顔をしている。(多分せっかち)
だがスタンリーは大きく息を吐き出すと再び助手席へと乗り込む。
「いいよ、もう。それより早く行くぞ」
「え、でも・・・」
「いいから。じゃな、。撮影頑張れよ」
「え?ちょ、ちょっとスタンリー!待ってよ、話って・・・?」
すぐドアを閉めようとするスタンリーをは慌てて止めた。
キースも運転席へ乗ってエンジンをかけたが、その様子に気づき車を出すのを待っている。
だがスタンリーは軽く首を振って、
「今度でいいよ。じゃ・・・」
とドアを閉めてしまった。
「おい、行くぞ」
「あ、ああ・・・」
キースはその言葉に頷き、外にいるに笑顔で手を振った。
「じゃあちゃん、またね〜♪」
「あ、バイバイ、キース!」
も手を振り返し、最後にスタンリーを見た。
だが彼は前を見ていて、最後までの方を見ようとはしなかった。
「はぁ・・・行っちゃった・・・」
車が門を出て行くとは溜息交じりで呟き、家の方に歩き出す。
そして、さっきのスタンリーの様子に首を傾げた。
(話って・・・何?ちゃんと・・・聞きたかったな・・・)
少し鼓動が早くなり、は軽く深呼吸をした。
だが、その前に話してた事まで思い出し、再び顔が赤くなる。
「私が・・・スタンリーに覆い被さった・・・?嘘でしょ・・・?しかも何で寄り添って寝たわけ?!最悪・・・!!」
よくよく考えてみると、とんでもない事をしたような気がしては両手で顔を覆うと急いで家の中に入ったのだった。
「ふぁぁぁ・・・」
カバのように大欠伸をしたドムはムクっと起き上がるとガシガシと頭をかいて首を左右に振った。
「うぉ!オ、オーランド!お前、何して・・・っ」
振り返った瞬間、そこにはオーランドがいて、しかも無言のまま何故か手には雑巾を持ち、ゴシゴシと絨毯を拭いている。
そして起き上がったドムの方をジロっと見たのだが・・・・・・何故かすぐに、「ぷっ」っと噴出した。
「ぬ・・・何だよ、人の顔見て笑うな!!そ、それより・・・何してんだ?お前・・・っつか・・・この部屋何か臭くね?酢っぱいっつーか・・・」
「さあ?気のせいだろ?」
笑いを堪えつつオーランドは再び絨毯を擦りながらぶっきらぼうに答えた。
その様子にドムは首を傾げつつ、
「お前・・・どうした?何か変だぞ?」
「そう?ま、でも、いくら温厚な俺でも我慢の限界ってものもあるんだよね」
「は?何、言ってんだ、お前・・・」
「別に。どうせ俺は顔が男前なだけのドジな男さ・・・。こんな俺を分かってくれてるのはしかいないんだ・・・」
「・・・おい・・・お前、何か変なもんでも拾い食いしたんじゃないか?つか何、さりげなく自慢してんだよ・・・」
「俺は食べ物を拾って食べたりしないよっっ!!」
「うぉ!な、何だよ、急に・・・。ただのジョークだろ?そんな本気で怒るなよ・・・」
急にキレたオーランドに普段なら怒鳴り返すドムもちょっとだけ驚いた。
いつものオーランドなら子供のように頬をぷぅっと膨らませるだけとか、そんな軽い怒りのはずなのだ。
なのに今は何だか一人でカッカと熱くなってるようだ。
「おい。何、熱くなってるか知らないが少しクールダウンしろ。そしていつものようにヘラヘラ笑えよ。(!)その方がお前らしい」
「何それ!俺らしいって何?」
「え?そりゃお前・・・"アフォ"な素顔だろ?」
「俺はアフォなんかじゃないよ!!」
「ひゃ・・・」
雑巾を握りしめて急に立ち上がったオーランドにドムは身を竦めて顔を隠した。
一瞬、殴られる!とさえ思ったのだ。
だがオーランドは別にドムを殴るでもなく、ただ雑巾を握りしめて上から怖い顔で見下ろしてくる。
ドムはそろそろ〜っと目を開けて顔を上げてみた。
だが、その瞬間、オーランドはいつものようにニッコリ微笑むと、
「お、おい、オーランド・・・?」
雑巾を持ってた手をドムの顔の上に持って来て・・・パっと手を放した。
―――バサッ
「・・・ぶは!ってか、くさ!!何だ、この匂いっ!!」
「ドムのせいで怒られたんだからな!俺の兄貴としての威厳を返せッ!ドムのバカヤローー!!」
「ちょ、何言って、ってかお前に元々"兄の威厳"なんてない・・・って、おいオーランド―!」
(・・・とうとう二男、ご乱心か?)
ドムはシアタールームを飛び出して行ったオーランドに唖然としつつ、その場にへたり込んだ。
だが、オーランドは戻る様子もなく、まだ何か叫び倒している。
「ドムなんて嫌いだぁー!!寝顔がすっごい気持ち悪いんだよーーー!!!」
「ぬぁ!!!ぬぁんだとぅ〜〜!!おい、こら待てオーランド!!!」
最後の一言にはドムも怒り出し、すぐにシアタールームを飛び出した。
そして短い廊下を抜けると、そこはすぐリビングに当たる。
ドムが勢いよく走って行った時、リビングにいた全員が彼の方を見た。
「ぶはははは!!!お、お前ドムか?!何だ、それ!あははははっ!!」
(一瞬で爆笑し腹を抱えて笑う長男)
「あはははは!!ってか何だよ、その顔!はやってんの?!」
(レオ同様、驚きがすぐ笑いに変わった三男)
「ぶあはははは!!ドム、どうしちゃったの、それ!!あはは!マジ、ヤバイよ、それは〜!!」
(文字通り笑い転げる四男)
「む!!な、何だ、皆して!!!俺様のどこがおかしいと言うんだ?!!あぁん?!」
(一斉に笑われ、その場に立ち尽くすドム)
さすがにドムもムカっときてそう怒鳴れば・・・
三人は笑いながら彼を見て同時にドムの顔のある場所を指差した。
「「「何って・・・・・・その"眉毛"?」」」
「・・・・・・は?眉・・・・・・?」
三人に眉を指さされ、ドムは慌てて自分の眉へと手を伸ばした。
だが・・・・・・そこにあるはずの、あの立派な眉毛が・・・・・・途中からストンと消えていた。
「〜〜〜〜な・・・な・・・っ!!!」
「どうしたんだ?それ。日本の歴史上に出て来る麻呂みたいだぞ?麻呂でおじゃる〜って言ってみな」
「あはは!麻呂ね!っつか、きっと罰ゲームか何かだろ?オーランドと賭け事でもしたんだよ」
「ああ、そうかもねー。夕べも凄い飲んだくれてたし!きっとオーランドごときにボロ負けでもしたんだよ、ドム」
「ぬ、ぬ・・・」
ドムはショックのあまり言葉も出ない様子だった。
何度も確めるように眉を触りまくっているが、何度触ろうがないものはない。
ドムの眉毛は途中でストンと奇麗さっぱり剃られていたのだから・・・
「ぢ、ぢきしょ〜〜!!オーランドォォ!俺の眉毛を返せ〜〜!」
「あ、オーリィならさっき外に逃げて行ったよ?それと・・・ドムの持ってる、その雑巾ね。オーリィのゲロッピ付きだから☆」
「ぬぁ!ぬぁんだとぉぉ・・・!うわ、きたな!」
雑巾の正体が分かり、ドムは慌ててそれを放り投げた。
そして、すぐに手を洗おうと洗面所に向かって廊下に出た時―――
「あれ?ドム、起きたの?おはよう」
「ぐぁ!・・・っっ」
後ろから愛しい彼女の声が聞こえ、ドムは慌てて手で(※ゲロッピ付き)両眉を抑えた。
(OH!NO〜!!マ、マイフェイスにオーランドのゲ、ゲロッピがっっ!)(心の叫び)
「?どうしたの?頭でも痛い?」
「あ、い、いや・・・あの・・・」
「分かった!二日酔いなんでしょ。待っててね?今、薬持って来てあげるから」
はそう言うとリビングの中へと入って行った。
その優しい言葉にホロリときながら、ドムはハっと我に返り、現実を見る。
(マズイ・・・ここでもう一度に会えば・・・眉のない顔を見られ、さっきのあいつらのように笑われるだけだ・・・っ)
そう判断したドムは洗面所へ行くのを断念し、外に飛び出した。
そして涙ながらに振り返ると、
「ごめんよ、・・・。こんな(眉なしで麻呂っぽい)俺を許してくれ・・・」
と呟き、泣きながら自宅へと全力疾走したのだった。
(帰る途中、誰にも見られたくなかったらしい)
そして眉毛が奇麗に生え揃ったら・・・その時こその優しい好意を受けよう・・・と心に誓ったのだった。
そしてもうひとつ誓ったのは・・・
「くそぅ・・・あのバカ二男め・・・覚えてろぅ・・・俺様を怒らせたら、どんなに怖いか思い知らせてやるからな・・・っ」
とうとう犯罪者ドムの怒りを買ってしまったオーランド。
二人の、このくだらない戦争(?)はどちらが勝利するのか――?
その頃のオーランドは・・・
「あはは、よくやったなー!オーランド!」
「ほんとだな!オーリィにしちゃ、いい仕事した!グッジョブだ、オーリィ!」
「僕、笑いすぎてお腹痛いよー!あ、さっきはひどい事言ってごめんね!こんなに笑わせてくれたし、もういいよ!」
「み、皆ぁ〜〜〜っっ!!!」
よく分からないまま、皆に誉められ(誉められるのは数年ぶり)一人嬉し泣きをしていたのだった・・・
そこへが顔を出した。
「あれ?ドムは?」
「「「ああ、もうとっくに帰った」」」
「え?」
兄、全員にそう言われ、だけは何が起こったのか分からず、キョトンとしていたそうな・・・
これはあの騒がしい夜から一夜明けた昼下がりの、ほんのオマケのお話―――