Desire of dead end. And, it falls in love the dead end...V








イライジャ






「け、警察だけは勘弁して下さいぃ!」

家に忍び込み、レオにバレたドムは必死で"ザ・ジャパニーズ土下座"なるものを披露してくれている。
うーん、日本人って本気で謝る時、こんな風に地べたに這い蹲るのかな?なんて呑気な事を思いつつ、
僕はその様子をビールのつまみにしながら見てたけど、が帰宅後、自体は一変した。

「あら、ドム…何してるの?」
「何だ、お前、床に這いつくばって…バカじゃねーの」
「あぁぁ!…ッと…悪魔の手先…(小声)」」

リビングに顔を出したとジョシュにドムは真っ赤な顔で慌てて立ち上がった。
そして引きつった笑顔を見せながら、「ひ、久しぶり!」と何とも間抜けな挨拶をしている。
で特に何も思わなかったのか、「ホント、久しぶりね。元気だった?」なんて聞いてるけど、ドムにしたら眉毛の事が気になって、マトモにの顔を見れないみたい。――帽子かぶっとけばいいのに。
まあ普段でも本人を前にすると見れてないけどさ。(その割りに陰からガン見してるんだから怖いよ…)
ドムは不自然なほど顔を背けて、「まままあ、げ、元気だったよ?あはは♪」なんて応えてる。
そのあまりの不自然さにもおかしいと気付いたのか、首を傾げながらドムの顔を見ようとしてるけど、その分ドムも顔を反らすから何だか変な絵図らになってるし。

…ドムなんかに構わなくていいから部屋で着替えておいで。疲れただろ?」

レオもの前じゃドムを怒りにくいのか、それとも家に忍び込んだ事はあえて内緒にしたいのか、さっきとは違う、普段の優しい兄を演じて微笑んでいる。
も首を傾げつつ、「そうね、じゃあ…」と歩いていきかけた。
が、すぐにリビングに戻ってくると、

「あのね、今日、スタンリーを夕飯に誘ったの。いいでしょ?」

と、はにかんだ顔で、レオに"お伺い"を立ててきた。
それにいち早く反応したのは言うまでもなくドム…。
目を飛び出さんばかりに驚き、「うぇえぇ?!」と奇声を発して、レオに軽く足を踏まれ、「ふぎゃっ」と悲鳴を上げてる。
ホント、うるさいったらないよね。
レオはレオでには、ひたすら笑顔を向けたまま、

「ああ…それは構わないけど…」
「ホント?あのね、スタンリー今日からやっと私のマネージャーに戻ってきたの。だからそのお祝いって事で呼んだの。久しぶりだし」
「そうなんだ!良かったな!」

その話を聞いてレオはホっとしたような顔をした。
まあ確かにあのジョージって代理は家族全員一致で「嫌」という結論が出ている。(酷っ)
スタンリーくんが戻ってきてくれれば、それに越した事はないのだ。

「で、彼は?」
「今、外でテリーと電話中。すぐ来るわ」
「OK。じゃあ…今夜は何かデリバリーでも頼むか?」

珍しく、そんな事を言い出したレオには小さく「あっ」と声をあげ、手で口を抑えた。――可愛いなぁ、もう。(妹バカ)

「それが…今日は私が作るって言っちゃったの。だからその…」

何だかはモジモジしていて、またそれも可愛い。
ジョシュは先に聞いてたのか、煙草を咥えながら苦笑しているし、レオも言いたいことが分かったのか、嬉しそうな笑みを浮かべた。

「わぉ、久々にの手料理が食えるって事だ。じゃあ楽しみにしてる」
「うん!じゃあ急いで着替えてくるね。あ、ドムも一緒に食べて行って!」

「「「――え!!」」」  「え♡」

その場にいた4人が同時に同じ言葉を発する、というのも結構珍しいもんだ。
でも明らかに僕とレオ、ジョシュ、そしてドムの「え」は違う響きであったのは間違いない。

「お、おい、…っ」

レオが慌てて廊下に飛び出したが、はすでに階段を上がって行ってしまったようだ。

「マジかよ…」

落胆したように呟き、戻ってきたレオは一人、顔を紅潮させながらウキウキしているドムを先ほど以上の冷淡な顔で睨みつけた。

「おい、ドム…」
「はいー♪何ですか、お兄様ん♪」(場の空気が読めない男)
「……ッ(ピキ)」

ヘラヘラ笑いながら振り向いたドムに、レオの額がピクピクしてる。
そろそろ本気モードかもしれないし僕は非難しようかな。

「――お前…帰れ」
「…へ?」

ひゃーレオ、怒りすぎて声が震えてるよ…っ!
しかもドムってば何を言われたのか「ワタシ、分〜かりませ〜ん┐(゜_゜)┌」みたいな顔してるし!ホントおバカさんだ!

「帰れって言ってんだよ…」
「な!」

ドムはやっと意味を理解したのか、この世の終わりみたいな顔で後ろにのけぞった。
そりゃそうだろう。
愛しいに誘われたばかりか、手料理が食えるって言うんだから。
しかもドム曰く「ライバル」のスタンリーまで一緒なんだし、大人しく帰るはずもないね、こりゃ。

「なななな、何でですか!俺は直にさんに誘われて――」
「うるさい!いいから今すぐ帰れ!今日のとこは警察に突き出さないでおいてやるから!」
「そんな!」

レオの剣幕にガックリと膝落ちしたドムを見て、僕とジョシュは顔を見合わせ肩を竦めた。
まあ警察に突き出されて恥をかくより、の手料理を諦めて大人しく帰った方がドムの為だと思うんだけどね。

さて、余興は終わった、と僕はビールを飲み干し、新しいビールを出そうとその場を後にする。

いくら親友でも、不法侵入は大目に見れないからね。
だからレオにドムも一緒に、なんてお願いもしてやれないのさ。
分かってくれ、親友よ。いや(極)悪友よ…。


「お願いします〜〜!お兄様〜〜!!!」

「うるさーい!帰るか、警察に行くか、どっちか好きな方を選べ!このストーカー!!」


僕がキッチンに行くと、リビングからレオの発狂した声が響いてきて、エマと僕は顔を見合わせ、軽く噴出したのだった。












オーランド





怖い思いをしてやっとの思いで家に帰ったら何故か、エントランス前にスタンリーくんがいてビックリした。

「あれれ!スタンリーくんじゃないか!久しぶり〜♪」

のマネージャーに戻ったなんて知らない僕は久々に彼に抱きついた。
うーん、スラっとした細身に見えて、なかなか締まった身体だなぁ。何気に胸筋もあるし♡ (男にセクハラ中)
やっぱり"いい男"ってのはスタイルも良けりゃ、(…くんくん)香りもいいね♪グッ♪(うぉい)

「…ど、どうも、お久しぶりです」

僕があちこち触ったり、匂いを嗅いだからなのか、スタンリーくんは顔を引きつらせながら、さりげなく離れていった。(寂しい)

「ホントだよー☆え、どうしたの?今日は――」
「ああ、俺、今日からまたさんの担当に戻れたんですよ。だから今、送ってきたところで」
「ええーー!!そ、そうなんだ!やったね!俺、あのイタリアン、嫌だったんだよね〜!」(食べ物じゃないぞ)
「イ、イタリアン…ですか?」

思い切り顔を顰めると、スタンリーは軽く噴出して笑っている。
そんな彼の腕を掴んで、

「ささ、入ってよ!今夜はお祝いしよう!」
「あ、それがさんも同じことを言い出して今日は手料理でもどうかって誘われてるんですよ」
「え♪そうなの!やた!の手料理が食べられる♪これもスタンリーくんのおかげだ!ささ、ドゥーぞ、ドゥーぞ♪」
「お、お邪魔します」

グイグイと腕を引っ張れば、スタンリーくんも苦笑しながらついてきた。
その時…


「――いいからが降りてくる前に帰れ!!!」


リビングからレオの怒鳴り声が聞こえてきて、僕とスタンリーくんはギョっとして顔を見合わせた。

「レオ、何怒ってるんだろ」
「さあ…機嫌悪そうですね」

スタンリーくんとそんな会話を交わし、コソっと中を覗いて見れば…
ドムがレオの足にすがり付いていた…!

「あれ?皆、揃って…どうしたの?」
「ああ、オーリー!!お前からも頼んでくれよ〜〜!!」
「うわ!」

ドムは僕の顔を見た途端、レオの足から僕の足に移動して、ガバっとすがり付いてきた。

「な、何を頼むんだよ?ってかドム、何してんの?久しぶりだね」
「何を呑気な!俺さまが今夜、の手料理を食べられるかどうかって、この瀬戸際に!」
「はあ?」

一体何の事だとレオやジョシュを見れば。
二人は呆れてるのか、それとも疲れきっているのか、軽く頭を振ってソファに座ると、僕の後ろに立っているスタンリーくんに目を向けた。

「やあ、悪いね、うるさいお邪魔虫がいて」
「い、いえ…」
「いいから座ってくれ。ももうすぐ降りてくると思うし」
「あ、はい」

スタンリーくんはそう言うと僕の足にしがみ付きながら自分を睨んでいるドムを避けるように(!)ジョシュの隣へと座った。
そこでリジーがビールを飲みながら戻ってきた。

「あれ、オーリーお帰り〜」
「あ、リジィ…。ドム、また何かやったわけ?」

レオの機嫌の悪さにピンときてそう聞けば。
リジーはケラケラ笑いながら両手を広げた。

「我が家に不法侵入してたのを僕が発見、レオが連行したんだ」
「えぇ?!まーた忍び込んだの?!」
「うううるさい!た、たまたま入れたんだよ!」(?!)
「嘘つけ!うちはセキュリティ凄いんだぞ?!ドムはいっつも軽く破って入ってくるけど…つか、どうやってるんだよ!」
「な、なななな何もしてない!ただ裏門を押したら開いただけさ!そこに入り口があれば誰だって入るだろうがぁ!」

ドムは何とも意味不明なことを叫ぶと、サっと立ち上がって抱きついてきた。

「そ、それより!俺が帰らなくていいようにレオに頼んでくれ!友達だろ?」
「……はぁ〜?家に忍び込むような友達なんて僕にはいないけど〜」
「ぬ!オオオーリィ…お前!!」

顔を反らし口笛を吹いている僕に対し、ドムは顔を真っ赤にして怒っている。
だって仕方ないだろ?ここでドムの味方したって僕には何のメリットもないし逆にデメリット(レオからの制裁)の方がデカイんだからさ☆
それに今夜は楽しい飲み会になる予定なんだから、うるさいドムにはいてもらっちゃ困るんだ。
どーせスタンリーくんに暴言とか吐くし…

なんて思っていると――不意にスタンリーくんが立ち上がった。

「いいじゃないですか。皆で飲もうと思ってワイン持ってきたんです」

そう言って手に持っていた袋から高級そうなワインを取り出した。
それにはレオも驚いて、「いやでもコイツは…」とドムを睨む。

に昔からストーキングしてる迷惑な奴なんだよ…」
「そんな!お兄様!」
「うるさい!俺はお前の兄貴じゃ――」

「何、騒いでるの?」

「「「「「「――――ッ」」」」」


そこへが顔を出し、首をかしげている。
レオは「あちゃー」って顔してるし、きっとが来る前にドムを追い返したかったんだろうなぁ…
でもの前じゃ無理だろうし。

「あ、オーリーも帰ってたの?お帰り!」
〜♪ただいま〜♪」

の笑顔を見た途端、僕は脳みそを切り替え、いつものテンションでガバちょと抱きつき可愛いほっぺにチューをした。

「きゃ、ちょっとオーリー苦しいわよ」
「だってこうしないと我が家に帰ってきた気がしないんだよね〜!今朝は会えなかったしさ☆」

そう言ってを放すと、呆れ顔のジョシュやリジーと目が合った。
何だよ、そんな目を細めちゃってさ!
僕が夕べ怖い思いをしたってのに今朝はと会えなかったんだぞう?
それがどれだけ癒し効果を半減させたか分かってるのかい?君たち!

「あ、じゃあ今から急いで用意するし、皆で先に飲んでて。――あ、ドムもそんなとこに座ってないでソファにどうぞ?」
「え♪あ、うん!」

「「「「あ…」」」」

にソファをすすめられたドムは僕ら兄貴が睨むのを無視して勝手にリジーの隣に座った。
ホントに何で場の空気が読めないかな。

「あ、。材料運ぶよ」
「あ、ありがとう」

そこでスタンリーくんが立ち上がり、が持ってきた荷物を持つ。(一瞬ドムの目に殺意が浮かんだ気がした…)
多分、帰ってくる途中で買いこんできたんだろう。
スタンリーくんはの手からそれを受け取り、さっきのワインを手に、二人でキッチンへと向かった。
何だかその光景を見てると、二人はまるで恋人同士のよう………って、ハ!!!
ダメダメ!いくらスタンリーくんでも可愛いはあげられないよ!

そんな事を思いながら指を咥えてると、後ろからドカっという音がして、「んぎゃっ」と猫が踏んづけられたような雄たけびが聞こえてきた。

「なーに悠長に座ってるんだ?ドム…」
「だ、だってが――」
が言ったからって普通、帰るだろ?何考えてんだ…」
「ぬ、ジョシュ…」

レオとジョシュの二人から責められ、ドムは唇を尖らせた。
でも、もう追い返す事は出来ず、レオもジョシュも深い溜息と共に頭を項垂れている。

「いいか?に少しでも話し掛けたら…即効で警察呼ぶからな…」
「え?!」
「え、じゃない。今、追い返したらが怪しむから我慢してやってるんだ。それくらい当然だろ」
「そ、そんな…っ」

レオの凄みのある脅しにドムは泣きそうな顔で僕やリジーを見てくる。
でもリジーも「自業自得だよ」と言ってテレビのチャンネルを変えながら無視してるし、僕もサっと視線を反らして、
着替えるために、自分の部屋へと戻った。

何だか可哀想な気もしたけど、ドムは僕ら家族に多大なる迷惑をかけてきてるんだし、ホント「自業自得」だよね。


















「あ、これワイングラス…」
「サンキュ」

キッチンへ行き、皆のグラスを出してトレーに乗せる。
スタンリーは慣れた手つきでオープナーを使い、コルクを簡単に引き抜いた。

「これ、なかなか美味いんだ」
「そう、楽しみ」

帰宅途中、スタンリーに無理を言って夕飯に誘ったら、困った顔をしながらもOKしてくれた。
だってまだ一緒にいたかったし、せっかく戻ってきてくれた日なんだから何となく一緒に飲みたくなったのだ。
ジョシュも賛成してくれて、帰り道にあるマーケットで買い物をしてきた。
その際にスタンリーがワインを選んでくれたのだ。

「あら、いい匂い。美味しそうね」

エマはそう言ってスタンリーがグラスに注いだワインの香りを楽しむと、皆の分をトレーに乗せて、「これ皆に出してくるわ」とキッチンを出て行ってしまった。
そうなると必然的に私とスタンリーが二人きりになり、突然の事だから会話も出てこない。
とりあえず気分を落ち着かせるために、買ってきた食材をカウンターテーブルに並べていった。

「何、作ってくれるわけ?」
「…え?」

無言のまま野菜を出していると、不意にスタンリーが隣に立って、私の持っていたジャガイモを手に取った。
しかも先ほど注いだワインを飲みながら、カウンターに片手をついて私の顔を覗き込んでくる。
その行動にドキっとしつつ、袋から最後のジャガイモを取り出した。

「えっと…今日は暑いから軽めのもの…」
「へぇ、楽しみだな」

スタンリーはそう言うとカウンターのスタッキングスツールに腰をかけ、煙草に火をつけた。
そのままカウンターに肘をつき、私の作業を、ただ黙って見ている。

(そんなに見られると緊張するんですけど…)

野菜を袋から取り出し水洗いをしながら何となく手元が緊張した。

「み、皆のとこ行かないの…?」

二人きりで嬉しいけど、やっぱり緊張の方が勝ってしまう。
だからつい、そんな言葉を口にしていた。
だいたい時々は会ってたけど、こんな風に二人になるのって久しぶりで何を話していいのか分からない。

(前はどんな会話をしてたっけ…)

あれこれ考えながら野菜の皮を剥いていく。
そんな私の様子を見てスタンリーは煙を吐きだしながらも笑っている。

「何だよ、俺がいたら邪魔?」
「そ、そういうんじゃないけど…ここにいても暇でしょ…?皆とワイン飲んできたらいいのに」
「別に暇じゃないしワインならもう飲んでる」

そう言ってワイングラスを持ち上げたスタンリーは、それを私の方に差し出した。

「飲んでみる?多分の好きな濃さだと思うんだけど」

その言葉にドキっとしながらも、「…じゃあ一口だけ」と言ってグラスを受け取る。
彼の飲んだグラスをそのまま飲んでいいのかな、なんて変に意識しつつも、ゆっくりグラスを口元へ運んだ。
香りを軽くかぎながら一口流し込むと、濃厚で重たい味が口の中に広がる。

「ん、美味しい、これっ」
「だろ?」

私の反応にちょっと笑いながらスタンリーは煙草を咥えて立ち上がった。
そして私の隣に来ると、手からグラスをとり、自分も一口飲んでいる。

「これって今日の料理に合いそう?」

軽く自分の唇を舐めながら尋ねてくる彼に、曖昧に微笑んだ。
同じグラスを共有してワインを飲んでいると何となく恥ずかしい、なんて言ったら笑われるかな。
たった一口しか飲んでいないのに、勝手に頬が熱くなってくる。

「ああ、危ないって」
「え、あ…」

ボーっとしながら野菜を切っていると、スタンリーに止められた。

「貸して、俺が切るから」
「え?でも…スタンリー、料理出来るの…?」
「これでも一人暮らしなんです、俺」

少しおどけたようにそう言うと、スタンリーは煙草を消して、慣れた手つきでアボガドを切っていく。
その様子を感心したように見ていると、スタンリーがふと顔を上げた。

「こーら、サボるなよ」
「あ、ご、ごめん」

そう言われて急いで他の料理の用意をする。
冷蔵庫を開けながら、チラっと振り返ると、スタンリーは鼻歌なんて歌いながら他の野菜も切ってくれていた。

(一つのグラスでワインを飲みながら一緒に料理なんてしてると…何だか新婚さんみたい…)

まるで少女みたいな事を思いながら、少しだけ顔が赤くなった。

でも…そのささやかで優しい時間も、痺れを切らしたオーリーが走りこんできたおかげで、すぐに終わってしまった。









ジョシュ







「はいはい、スタンリーくんはここに座って♪」

そう言われて苦笑しながらスタンリーは向かいのソファに座り、オーランドにワインを注がれている。
その様子を見ながら俺も彼が選んだワインを口に運んだ。

「ホント美味しいよ、これ。さすがの好みの味を把握してるな」
「まあ、一緒に食事する事も多いから自然に」

スタンリーはそう言って苦笑した。
すると横にベッタリとくっついているオーランドがすでにワイン二杯で顔を赤くして話し出す。

「ねね、聞いてよ!スタンリーくん、料理も出来るみたいなんだ♪今迎えに行ったらの手伝いしててくれたんだよ」
「へぇ、料理出来るのか?」
「一人暮らし長いと何でも出来るようになりますよ」

俺の問いにスタンリーも笑いながら応える。
その表情を見ながら、前から気になってた事が頭を過ぎった。

"が見てるのはお兄さんじゃないようだけど"

デライラの言葉を思い返せば、は身近な男に恋をしてる、ともとれる。
そしてもしかしたら、その相手はスタンリーなんじゃないかと思った。

ふとスタンリーに視線を向ければ特に普段と変わらず、うるさいオーランドの相手をしながらも、レオやリジーの問いかけにも謙虚に応えている。
早いうちから一筋縄ではいかない大人たちと仕事をしてきたからだろうか。
俺達より若いのにシッカリしてるな、と感心してしまう。(まあ俺達も似たようなもんだけど)
前にからチラっと聞いたところによれば、両親を事故で亡くし、今も入院している妹の面倒を一人で見てるとか。
華やかな世界から裏方と言ってもいい今の仕事に変えたのも、そのためだという。
そんな話を聞くと、やっぱり尊敬してしまうし、好感を持ちこそすれ、嫌いにはなれない。
万が一、が彼と付き合ってるというなら…100%とは言えないまでも反対する事は出来ないかもしれない、と思った。

「おい、ジョシュー飲んでるか〜い♪俺とスタンリーくんはもう3杯めだぞうー♪」
「ああ、まだ数本買ってきてあるんで後で開けてきますね」
「わぉ♪やったね〜い♪」
「…ってかお前は何でそう能天気なんだ…」

愛する妹が恋をしてるかもしれない相手にベッタリ――無理やり腕を絡ませ何気にセクハラ中――くっついているオーランドを見て、本気で溜息が出た。
まあオーランドはきっと本能的に彼の人柄を見抜いて好意を持ったんだろう。
(普段はドン臭いオーランドも、そういう、人の性格を見抜くのは才能有るからな…まさに野性的で単純)

「どうした?ジョシュ」

煙草を吸いながらオーランドに懐かれている――セクハラされてる?――スタンリーに同情していると、隣にレオが座った。

「スタンリーがどうかした?」
「…いや…」

さすがに我が家の長男はスルドイ――


そう思いながらレオとグラスを合わせる。
もしかしたらレオも、俺と同じように考えているのかもしれないな、と今思った。

「なあレオ」
「ん?」
「もし…もの話だけどさ…」
「何だよ?」

そこで言葉を切った俺はゆっくりと立ち上がった。

「ちょっと暑いな。庭に出ない?」
「…ああ、そうだな。ここじゃオーリーやドムがうるせぇし」

レオはそう言って苦笑するとグラスを持ったまま庭に歩いていく。
その後からついて外に出れば、涼しい風が顔に当たった。
チラリと振り返れば、オーランドやイライジャのドムイジメが始まっていて、誰もこっちを見てはいないようだ。

俺はそのまま後ろ手に窓を閉めるとレオの隣に歩いていった。
二人で庭先のベンチに座り、暫し夜空に浮かんだ月を眺める。
こんな風に二人で空を見上げたのはいつ以来だろう。

「気持ちいいな…」
「ああ。さすがに夜になるとカリフォルニアも涼しい」

レオはそう言ってワインを口に運んだ。
その横顔を見てると、いつもより元気がないように見える。

「何か、あった?」

何となく口から出た言葉。
だけどレオは困ったように笑みを浮かべて、「そうかもな」とだけ呟く。
ここのとこ、レオは疲れてるようだったし少し心配になった。

「レオ…最近おかしいな」
「え、そう?」
「ああ。疲れてるっぽいし…何より女との浮いた噂一つない」

俺が少しおどけてそう言えば、レオは楽しげに笑った。

「何だよ、それ。俺が女と噂の一つもないのがおかしいって?」
「前を考えれば、ね。毎週のように違う女とのゴシップ記事が書かれて常連だっただろ」
「あ〜そう言えばそうだったっけ。何だか今思うとどうやって口説いてたのかすら覚えてないよ」

煙草に火をつけ、レオは苦笑交じりで煙を吐き出した。
そしてベンチに寄りかかると、不意に俺の方を見る。

「ジョシュこそ…浮かない顔して…何かあったのか?」
「…そうか?俺は別に…」
「ああ、もしかして…スタンリーのこと?」
「え…?」

ドキっとした。
やっぱりレオは気付いてるんだろうか。

「図星みたいだな。スタンリーがの担当に戻るのが嫌なのか?」
「まさか…そんなんじゃない。を任せられるのは彼しかいないし、レオもそう思うだろ?」
「ああ、今までホント助けられたしな」
「そうだよな」

そう言って笑い合うと、レオは軽く息をついた。

は…彼の事、どう思ってるんだろうな…」
「…………」

何気に呟かれた言葉だったけど、きっとレオも俺と同じ気持ちなんだろう、と思った。
大切な妹を奪っていく存在など認めたくないと思いながらも…
スタンリーならライアンと違って、もしかしたら…心の底からを大切にしてくれるんじゃないか。

「なあ、レオ…」
「ん?」

同じように空を見上げながら、過去の間違いを思い返す。

「ライアンの時は、さ。まだ俺達もガキで…心配ばかりしてを知らないうちに縛り付けてたよな…」
「…ああ。そうだったな…」
「後でサラが教えてくれたけど…その事が原因でダメになったのもあった。そうだろ?」
「そう…みたいだな…」
「でも、さ…もしがまた本気で好きになれる男が出来たら…」
「…出来たら?」

レオは軽く目を伏せた。
俺は少しだけ身を乗り出すと、ワインを一気に飲み干した。

「…今度は同じ間違いを繰り返したくない、って思うんだ」

そう言って振り向くと、レオは真っ直ぐな瞳で俺を見ていた。
そして、ふっと笑みを浮かべるとレオもワインを飲み干した。

「ああ…右に同じく」

そう言った時のレオはどこか寂しそうで、その心の奥は、やっぱり俺と同じなんだろう、とこの時、ハッキリと気付いた――











レオ






今日は久しぶりに賑やかな夕食だった。
の手料理と、美味しい酒で皆も楽しく酔っていて、俺も気付けばドムの不法侵入の事なんかどうでもよくなっていた。
と言って、別にドムイジメがなくなるはずもなく、いつも以上にイジメぬいたけど、それも何だか楽しくて。
いつになく笑っていたように思う。
そして気付けばいなくなってた酔っ払いオーランドが「近所で花火を買ってきたから庭でやろう♪」、なんて言い出し、
更に5本目のワインを抜いた後、俺達は庭へと出て数年ぶりかの花火を楽しんだ。

「ひゃードムのアホ!こっちに向けるなよ!」
「何だよ、リジー!花火合戦やろうぜ〜!」
「わーい♪俺も入れて〜!」

"旅の仲間"たちは大騒ぎして、「ニュージーランド以来じゃない?」なんて言いながら子供みたいにはしゃいでいる。
俺とジョシュは大きな打ち上げ花火を何本も上げて、門前に今日もいるであろうマスコミを驚かせてやった。

「これ明日の"ハリソン一家"で流されるかな」
「さあな?ただ毎朝あれを見てる父さんが、"俺だけ仲間はずれにするなんて酷い"ってスネそうけど」
「あーありえる!明日の朝、一番に電話してくるね、間違いない」

ジョシュはそう言って楽しそうに笑った。
その笑顔を見ながら、先ほど二人で話した事を思い返し、ふとの方に視線を向ける。
は花火を持ってスタンリーに火をつけてもらっている。
その時の笑顔がやけに眩しくて綺麗だった。

「わ、この花火、火の勢いが凄いよ…っ?」
「何だよ、怖いの?」
「な、怖くないもん」
「じゃあ俺に持たせるなよ…」
「で、でもホント火が大きい…ひゃ!こ、こっち向けないでよ〜!」
「あはは!やっぱ怖いんじゃん。子供だな、は」

スタンリーはそう言いながらの頭をクシャっと撫でている。
で頬を膨らませながらも、やっぱりどこか嬉しそうで。
その笑顔は俺の胸を痛くさせた。


"…今度は同じ間違いを繰り返したくない、って思うんだ"


――そうだな、ジョシュ。俺もそう思うよ。

があんな風に笑っていてくれるなら、それだけでいい、なんて、そんな奇麗事は言いたくなかったし思った事もなかったけど。
また感情に流されて、心の奥にずっと隠して、隠して、気付かないフリをしてきた想いを、解き放つべきじゃない事くらい分かってるさ。
頭ごなしに心配して、縛り付けたところで、前みたいな結果に終わって、が傷つくんじゃ意味がない。
もう、あんな風に一人で泣いて欲しくない。
には、いつでも幸せであって欲しい。
それが俺達、家族以外の、俺以外の、他の男が齎したものであっても。


いくら大切に思っていても。


どれほど愛しく感じていても。


俺達は家族だから――









Desire of dead end. And,






it falls in love the dead end......











この想いは行き止まりのまま、過去も現在も、彷徨い続けたまま――



 








ニャー☆久々に家族夢、更新っす(;^_^A
最近ひどいスランプで、更新もままならず、ホントすみません(汗)
今回の話でちょっとタイトルを変更。
以前のものはスタンリーとの話のためのものだったんですけど、
そこまで話が進まなかったもので今回は却下。
次回あたりに再び使おうかな、と。