イライジャ
「聞いてよ、リジィ〜!また例の電話が来たんだよー!!グス…ッ」
「へぇ〜…」(耳ホジホジ)
あーうるさい。ここ毎朝、こんな調子だから疲れるよ、ホント。
だいたい、こんなへタレオーリーを脅しても脅し応えなんてないのに。
脅せば脅すほどヘナチョコになって、泣くしビビるし、塩をかけられたナメクジの如く小ちゃーくなってくだけじゃん。(酷)
どうせ脅すならレオとかジョシュとか僕を脅せばいいのにさ。
そうしたら、きっと思いもよらない反撃に出て、きっとストーカーだってスリリングな気分を楽しめるはずだ(何する気だ)
「ちょっと聞いてるう?」
「聞いてない」
キッパリ、スッパリ言ってやると、オーリーは更にブ〜ブ〜言い始めて僕はウンザリしてきた。
出来れば、その"イタ電ストーカー"さんに、オーリーを監禁してもらいたいくらいだよ。
そしたら平穏な朝を迎えられるのに。
「ヒドイよ、ヒドイよ、リジィ〜〜!お兄ちゃんがストーカーに呪い殺されてもいいってのかい?!」
いつものオーバーリアクションで両手を広げるオーリー。
僕は耳をほじりながら(オイ)チラっと視線をやり…
「僕は構わないけど?」
「――――ッΣΣ( ̄◇ ̄;)!ハウッ?!」
ガッツリとへコんだオーリーは、そのままスゴスゴと仕事へ向かったとさ。(僕は今日までオフ)
ドム
「…それで…例の件は順調か?」
『ええ。もちろんよ』
「そうか…。アイツには眠れぬ夜を過ごさせてやるぜ…」
『とっくになってるみたいよ?』
受話器の向こうで女が笑った。
そこで静かに電話を切り、俺はサングラスをかけて目の前の豪邸を見上げると、そのまま仕事へと向かう。
「おっと、いけねぇ」
そこでかぶり忘れていたキャップを目深にかぶり、軽く舌打ちをした。
アイツのせいで、こんな物をずっとかぶっていなきゃ外に出られないなんて最悪だ。
仕事中はメイクで誤魔化せるから何とかなったものの…このまま一生、生えて来なければ、あのヘナチョコ…覚えてろ…!
思い出しても腸が煮えくりかえる思いで俺は拳を握り締める。
この前のハリソン家への訪問(不法侵入)の時も、俺さまをコケにしやがって!
あのブラザーどもはホントに頭にくる!俺様の彼女への想いを悉く潰してくれやがって…
そう、それにあのモデル気取り野郎までが復活して、俺のを独り占めにしていた。
これが何より一番、許せない行為だ。
は純粋だから騙してモノにして捨てようって魂胆だな?アイツ!
そうはさせじと宮本武蔵よ!(どこで覚えた)
俺様もそろそろ本領発揮と行くからな…見てろよ、モデル気取り野郎!エーンド、悪魔とその手下ども!
――ぽんぽん
「―――ぅおッ!!!」
「なーにしてんの、ドムくん♪」
いきなり肩を叩かれ、振り向けば―――
「オ、オ、オーラン↓ドゥー!!」
「む…。俺の名前はオーランドゥーじゃなくて、オー↑ラン↓ドォー↑だよー!」
「…発音の訂正なんてしなくていい、このクセっ毛ボーヤがぁ!!」
突然、ヌっと現れたハリソン家のヘナチョコボーイに、繊細(?)なマイハートがドックン、バックン鳴っている。
俺を心臓麻痺でこの世から葬る気だな?!(落ち着け)
「ムカー!クセっ毛のどこが悪いんだ!それに俺はボーヤじゃないぞー!」
「そういう唇ビーンと尖らせる辺りがボーヤだ、このヤロー!」
「何をー?!だいたいドム、こんな朝っぱらから人の家の裏門で何してるのさ!また不法侵入しに来たのか?!」
「ひ、人聞きの悪いことを言うな、バカモノ!どこであの悪魔が聞いているか――」
そう言い返しながら恐る恐る後ろを振り向く。
だが、この前のような事は怒らず、ホっと息をついた。
「ふふーん。レオならいないよー?俺より先に出かけちゃったしね」
「何?そ、そうか…。ビビって損した…」
あの鬼で悪魔な長男がいないと聞き、俺は安堵の息を漏らした。
そこで、ふと、"コイツ…いつから後ろにいたんだろう?"という疑問が沸いてくる。
まさか、さっきの電話を聞かれてたんじゃ…
「おい、オーランド」
「何だよ」
「お前…いつからいた?」
そう尋ねて目の前のアホ面をジっと見つめると、オーランドはニカっと笑いながら、
「仕事行こうと愛車に乗ったけどマネージャーが迎えに来るの思い出して裏門に来たらドムの後頭部が見えたんだ♪」
「…………(答えになってないよね、オーランドくん)」
(コイツ…どっかに脳みそ、もらして来たか…?)
内心、何をどう聞いたら今の俺様の問いに対し今の答えが言葉として出てくるんだろう?と首を捻る。
だいたい、この場合、"後頭部が見えた"じゃなく、"背中が見えた"とか普通、言うだろう?!
絶対、コイツの脳みそは渦を巻いてるに違いない!
一方方向へとしか血液が回らないから、こんなアホな返事が返ってくるんだ…そうだ、そうに違いない!
この渦巻きアーモンドめ!ってそりゃ今アメリカでも人気のME●JIのチョコ菓子だったっけ…?
俺が言いたかったのは渦巻きオーランドゥーなんだが…。ま、まあいいさ、響きは同じだ。(オイ)
そんな細かいことは関係ナッシン!
どうせコイツは渦巻きみたいに髪の毛までもが、ぐーるぐるなんだから!!(酷すぎ)
「おい、オーランドゥ〜」
「オーランドォー」
「…くっ!」
またもアホ面で発音を指摘され、俺様の脳の血管が弾けそうになった。そりゃもうパーンっと花火のように!
(ハ、危ない、危ない!弾けたら死ぬだろっ)
俺はグっと怒りを堪え、なるべく穏便に優しく問いかけようと無理やり笑顔を作ってやった。
「アホかぁ!発音はドゥーでもいい!それより、い・つ・か・ら、そこにいた、と聞いてんだよ、ボケァ!」(満面の笑み)
無理やり笑顔は作ったものの、心は怒りに勝てず、つい本音が飛び出してしまったようだ。
こんなもの外国人には通用しても、同じ英語圏の人間には通用しない。
その証拠に、今目の前にいるオーランドは、笑顔で怒鳴られた事に対し、明らかに不思議そうな顔をして…
「ねぇ、ドム。何で笑顔で怒ってんの?ちょっとキモイしウザいよ」
と、アホ全開でバカ語をしゃべっている。
だいたいウザイのはお前だ、こらぁ!
まあ、あまり深く考えないのが、この天然男、オーランド・ブルームなんだろう。
「な、何でもない。とにかく、いつから――」
「そりゃドムが電話してた時からだよ?」
「…ぬ…ぬぁにぃ?!」
それを聞いてビックリしたが、俺の声にオーランドは更にビックリしていた。
二人でビックリしてたら世話ない。
「な、何だよ!ビックリするだろ?!」
「そ、それは俺様も同じだアホッ」
「アホって言うなっ」
ムっとしながら目を細めるオーランドを見て、俺様は内心ビクビクしていた。
(コイツ…どこまで会話を聞いていた…?)
「お、おい」
「何だよ…っ」
「もしかして…聞いてたのか?」
恐々、確認すれば。
オーランドは再び目を丸くして暫し考えた後、「うん、聞いてた」とアッサリ認めた。
それには俺も冷や汗が出てくる。
「なななな何っ?何を聞いたっ?」
「え?あーだからぁー。ドムの後頭部が見えたから声をかけようとしたら――」
「………(コイツの中ではあくまで後頭部なんだな…)」
「"例の件は順調か?"とか"アイツに眠れぬ夜を過ごさせてやるぜ"とか言ってた気がするけど?」
「――――ッ!(ひぃー!どんぴしゃストライクのど真ん中じゃないか、オーランドゥ〜!)」
一番マズイ相手にマズイ会話を聞かれたと知った俺は内心パニック状態だった。
が、待てよ?と思い直す。コイツはアホだけがとりえだ。(オイ)
いや何。俺の企みがバレているはずなどないのだ。
「ねーねー。例の件って何?アイツって誰?眠れぬ夜を誰と過ごすの?俺も最近、夜眠れないんだけど」
「……ふふふ、やはりアフォだな、お前」
「はー?俺はアフォじゃない!!!」
「いやいやいや…。近年まれに見るほどの…"アッフォ〜"だ、お前は」
「ムカー!!そんなにアフォを強調すんな!だいたい何してたんだよ、朝から俺の家の裏門で!!」
「な、何も?――ピュ〜♪ピュ〜♪(゜ε ゜;)」(目が泳ぐ俺)
「嘘つけ!を一目見ようとストーキングしてたんだろ?!あいにくなら今日はオフだから出てこないよーだ」
「ふん、そんな事くらい俺の"、愛のスケジュール"に書いてあ――ぁ、ゃば…」
オーランドの口車に乗せられ(そうか?)俺は大切な秘密をポロリと口にしてしまった。
案の定、いくらアフォ真っ盛りのオーランドも気付いたようで、今は究極の半目で俺を見てやがる!
しかも口まで半開きで、まるでアフォの申し子のようだ!(更に酷っ)
「ドム…その変なネーミング…何なのそれ…。まさかとは思うけど…もしかしてのスケジュール――」
「お先!」
「あ!待てよ!」
俺はそこでダッシュを決め込み、オーランドからスタコラと逃げ出した。
途中までエルフばりの足の速さで追いかけてきたが、何のそれしき。
いつも(嫌がらせの)標的から逃げてる俺にしたら、何の事はない。
ぶっちぎりで引き離し、俺はまんまとオーランドから逃げおおせた。
「はぁはぁはぁ…こ、ここまで来れば大丈夫だろう…」
一気にハードロックカフェの前まで来ると、足を止め、思い切り深呼吸をする。
この暑い中、猛ダッシュを決め込んだ俺さまの顔には汗がポタポタ滴り落ちている。
それを見て周りを歩く奴らが(特に女)
「気持ち悪ぅい。臭そうー」
「ダメよ、目を合わせちゃ…声かけられるわよー?」
「でもさー別に太ってないのに凄くない?あの汗ー」
「きっとお腹くだってんのよ…クーラーに当たりすぎじゃない?」
などとコソコソ言いながら俺を変質者扱いだ。
このブ〜ちゃんめ…!誰がお前らに声なんぞかけるか!!それに俺様はお腹などくだしてないぞ!
あまりバカにするとお前らの家を探し出してピンポンダッシュ決め込んでやるぜ?あぁん?
そう怒鳴りたいのに息がひーひーはーはー苦しくて、血走った目でにらみ返すのがやっとだった…
「うわーん、ママー!あのオジちゃん、目が怖いよー!」
「コラ!レオナルド!指差しちゃダメ!!さらわれるわよっ」
「………………(誰がオジちゃんだガキィ!ってか嫌な名前のガキだぜっ!泣かすぞ、コラァ!…ってもう泣かしてんのか…)」
ブ〜ちゃん&クソガキに侮辱された俺は、本当に尾行してやろうか、と思ったが、俺にも俳優人生というものがあるので今日は(!)やめておいた。
ジョシュ
「おい、ジョシュ。CMの話、聞いたか?」
そう言いながらレオが部屋に入って来た。
ちょうど起き上がったばかりの俺は煙草に火をつけながらソファに腰かけ、軽く煙を吐き出す。
「ああ…今その電話で起こされたばかり」
「そっか。今回の話は俺のエージェントもかなり張り切ってるみたいだ」
レオはそう言いながら向かいに座り、肩を竦めた。
「でも何で俺とレオと父さんなんだ?」
「商品のイメージがピッタリって言ってたけどな」
「へぇ…」
「オーリーとリジーじゃ、まだアルマーニは早いだろ」
「…俺も早いと思うけど。だいたい俺、オーリーより年下だし」
「フケてるからじゃねーの?」
「……」
レオの苦笑交じりの言葉に思わず半目になった。
「嘘だよ。ほら、ジョシュはアルマーニ好きで、よく公の場で着てるだろ」
「ああ、そっか…。オーリーはフェレ御用達だもんな」
「そういう事」
レオはそう言って笑うと、「じゃあ俺はこれから取材だし行って来る」とソファから立ち上がった。
「ああ、明日、朝10時には迎えに来るそうだし休みだからってハメ外すなよ?」
「はいはい…。はぁ、せっかく撮影がオフかと思えば、速攻で仕事かよ…」
俺のボヤキにレオは笑いながら部屋を出て行った。
この降って沸いたような仕事は、まあ悪い話じゃないし、撮影がオフになった、この一週間でロケに行くと言う事だから映画に支障はきたさないだろう。
イタリアロケに行く事になるのがちょっと面倒だけど…
父さんやレオと仕事をするのは久々だし、やはり楽しみではある。
「あ…その間、オーリーとリジーしかいなくなるのか…。、大丈夫かな…」
ふと、の事が心配になり、後でリジーにシッカリ頼んでおこうと思っていた。
レオナルド
取材の仕事を終え、早々と帰宅した俺は明日の準備のために荷物を詰めていた。
そこへノックの音がして、「どうぞ」と声をかけると、が顔を出す。
「用意終わった?」
「ああ、もう終わるよ」
そう言って最後の一枚を入れるとバッグのファスナーを閉め、立ち上がった。
「いいなぁ、イタリア」
「は好きだもんな。何なら一緒に来るか?はオフなんだし」
そう言ってを抱きしめ、頬にキスをする。
だがは苦笑しながら俺を見上げた。
「それが…久々のオフだしサラと遊ぶ約束しちゃったの。見たかったミュージカルとか観に行こうって」
「そっか。まあ最近は互いに忙しくてサラとも会えなかったんだもんな。じゃあ友達を優先しろよ」
「うん。あ、お土産ヨロシクね」
「OK。の好きなもの全て買い占めてくる」
の額にキスをして軽くウインクをすれば、も楽しそうに笑った。
それから一緒に部屋を出てリビングに行ってみれば、何だか中から騒がしい声が聞こえてくる。
「――それでさー!猛ダッシュで逃げやがったんだよー!ホント逃げ足だけは速いよな、バカドムは!」
きっと今、帰ってきたんだろう。
オーランドが何やらエキサイトしているようだ。
俺はと顔を見合わせ、中へと入っていった。
「どうした?オーランド…何騒いで――」
「あ、レオー!聞いてよっ」
俺が入っていくと、オーランドはすぐに走り寄ってきた。
が、その際、もいる事に気付き、慌てて俺の腕を引っ張り、シアタールームへと駆け込む。
は訝しげな顔で、それまでオーランドの話を聞かされてたであろう、リジーやジョシュに「何の話?」と尋ねているようだ。
「何だよ、一体…」
シアタールームに連れ込まれた俺はウンザリしつつ溜息をつく。
するとオーランドは今朝あった話をプリプリしながら話し出した。
「――でさ、愛車から降りて裏口に向かったんだ!そしたら見た事ある絶壁が見えるなーと思ってコソーっと近づいたら――」
「ドムだったのか」
「そうなんだよー!しかもコソコソ電話してやがるから、また何か企んでるな?と思って、そのまま聞いてたんだ。そしたら…」
「そしたら…?」
「何だか"例の件は順調か?"とか"眠れぬ夜を過ごす"だか"過ごさせる"だかって話してて…いったい何の事だと思う?」
「俺が知るわけないだろ?あんなバカの考えてることなんて」
そう言いつつ、少しだけ気になった。
ドムのストーカー野郎め…今度は何を企んでやがるんだ…?
明日から俺とジョシュは家を空けなきゃいけないって時に変な動きしやがって。
この間の制裁&イジメじゃ足りなかったようだな…(悪魔)
「レオ…?どうしたの…?」
「…??何が」
ふと顔を上げれば目の前にいたオーランドの顔が若干、怯えている。
「だって…レオの顔、すんげぇー恐ろしい顔になってるし…人殺しみたいだよ…?」(!)
何だか今にも逃げ出しそうな様子のオーランドを見て、俺は今、どんな顔をしてたんだろう?と内心、首をかしげた。
(と言うか、人殺しみたいな顔っていったい、どんな顔だ?)
「とにかく…ドムがまた何か企んでることは間違いなさそうだな」
「うん、それは言えてる!どうする?今、呼び出してボコボコにするっ?」
「………(お前それでも本当にアイツの友達か?旅の仲間なのか…?)」
キラキラと目を輝かせているオーランドを見て、少しだけ分からなくなる。
が、この際、友情に裏切られようが、あんな男に同情は無用だ。
「そうしたいのは山々だが…ロケ前日に無駄な体力は使いたくない」(!)
「あ、そうだね。ドムごときにレオの大事なエネルギー使うのはもったいないよ、うん!」
「…ああ。だがアイツをこのままにしておいたら心配で、CM撮影どころの話じゃない」
「うんうん」
「だから…」
そこで言葉を切ってオーランドの両肩に手を置いた。
「オーランド」(真剣)
「なに?なに♪」(ウキウキ)
「俺は今日までお前のことを一度たりとも頼った事などない」(キッパリ)
「ふぇ…っ(; ̄□ ̄!!!!」(ショック)
「…が、今日、初めてお前を頼ろう」(まだ真剣)
「う、うん(ゴクッ)」(事の重大さを知る)
いつになく真剣な顔になったオーランド。
ぶっちゃければオーランドを頼りたくはないが、ここは仕方ない…10000歩譲ろう(100歩だったっけ?)
軽く深呼吸をした後、俺は普段以上のドスの聞いた声で、「大事なミッションだ」と告げた。
それにはオーランドもゴクリと喉を鳴らす。
「――お前とリジーでを守れ。ドムは一ミクロンたりとも近づけるな」(キランと目が光る)
「ぅ、イエッサー!!」(何故か敬礼)
オーランドは珍しいくらい真面目な顔で、俺の言葉に頷いたのだった。(…ホント単純な奴だ)
「じゃあ行ってらっしゃい、レオ、ジョシュ。お父さんに宜しくね」
「ああ、もオフ、楽しんで」
「電話する。くれぐれも気をつけろよ」
「???(いったい何に気をつけるんだろ)」
最後のレオの言葉に首を傾げつつも、笑顔で頷き手を振った(まあレオは一番心配性だし)
二人は迎えの車に乗り込んで、そのままイタリアの地へと旅立っていった。
仕事でニューヨークに行っている父ハリソンとは、現地で合流するようだ。
「あー行っちゃったねー」
「うん」
「はぁ…んじゃ、もう少し寝なおすかな。今日の夜は顔合わせあるんだ」
そう言いつつ欠伸をしながら戻っていくリジーに、オーリーが反応した。
「えぇっ!リジー、仕事なの?」
「当たり前じゃん。オフは昨日までだったし」
「そ、そんな!レオとの約束はドゥーするんだよぅ?!」
「バ、バカオーリィ…それは後で――」
「――え…レオとの約束…って何の話?」
二人の会話が聞こえてきて私が問いかけると、オーリーはマズイといった顔で首を振った。
「な、何でもないよ、うん!」
「そうそう。ああ、だからそれは今日はオーリーに任せるから。、今日は出かけないだろ?」
「え、うん、まあ。サラとの約束は明日だし」
「そっか。じゃあオーリーと遊んでてやってよ」
リジーはそう言ってニッコリ微笑むと、私の頬にキスをして、オーリーには肩をポンと叩くと、
「じゃ、そういう事だし死ぬ気でやれよ」
と言葉をかけ、(何を死ぬ気でやるんだろう?)そのまま自分の部屋へと戻っていった。
「何だよ、リジーの奴ぅ…。遊んでやってって俺は子供じゃないぞぅ…?」
オーリーはリジーの一言に自尊心(んなモノあったんか)を傷つけられたのか、唇を尖らせフテくされている。
「そんな怒らないで、オーリー。一緒に朝食でも食べましょ?」
「え♪」
「………」
オーリーの立ち直りの早さは、きっと我が家でナンバーワンかもしれない、と、この時、満面の笑みを浮かべたオーリーを見て思った。
「ねーねー〜♪」
「なぁに?オーリー」
「今日は一日、何して遊ぼっか♪」
「………」(さっきのリジーの言葉、少しも間違ってなかったんじゃ…)
なんて内心で苦笑しつつ、エマは連休をとっていないので、自分で作った朝食を今朝は珍しくオーリーと二人で取っているところ。
ジョシュとの映画も後半になるところで長いオフになった。
というのも予定してたロケ地が今、台風に覆われていて急遽、場所を変更しなくてはならない事態になったからだ。
今、スタッフが必死にイメージに合う次のロケ地を探している。
その間、スタジオで撮影をしていたが、セットでのシーンは全て取りえ終えてしまい、空いた時間がオフになったのだった。
こんなに、まとまったオフは久しぶりだったので、休みは嬉しい。
でも、そうなるとスタンリーに会えなくなるのが少し寂しかった。
そんな事を考えてると、オーリーの口から「スタンリーくんは何してるの?」という質問が飛び出しドキっとした。
「えっと…スタンリーは…事務所じゃない…かな。それか他の女優についてるか…」
「えぇー?がオフの時でも仕事してるの?!」
「う、うん…オフの時もあるみたいだけど…昨日は事務所に行くって言ってたし…」
そう言いながら昨日のスタンリーの言葉を思い出す。
「明日はテリーさんの手伝いに借り出される」
スタンリーもオフだったらいいな、と思って尋ねたところ、アッサリとそう言われ、軽く落ち込んだのだ。
と言って、スタンリーがオフだったとしても、きっと何も起こらなかったと思うけど。
「それじゃスタンリーくんは夜遅くまで仕事かな?」
「えっと…さあ?私がオフの時にスタンリーがどういうスケジュールで動いてるのかは分からないの。でも…どうして?」
「い、いやちょっと心細いから、その…スタンリーくんでも呼ぼうかと…」
「…え?何が…心細いの?」
その言葉に首を傾げると、オーリーは慌てたように首を振った。
「あ、違うんだ。えっとその…ほら!退屈だろ?二人で遊ぶのは!だからスタンリーくんも一緒に、と思っただけさー☆」
オーリーはそんな事を言いながら「あはあは」と笑っている。
その様子におかしいな、と思ったけど、スタンリーを呼ぶ、という案は悪くないかも、なんて思ってしまった。
「じゃ、じゃあ…電話…してみる?」
「え?」
「だから…スタンリーに」
何気なく、そう言うと、オーリーは「でも仕事なんだろ?」と諦めモード。
それには内心、慌ててつつ自分の携帯をさり気なく出した。
「で、でもほら!早めに終わるかもしれないし」
「あ、そっか♪じゃあ電話してみてよ、ー」
「う、うん、分かった…」
笑顔を見せながらスタンリーの番号をディスプレイに表示させた。
が、いきなり電話をして「夜、遊びに来ない?」なんて言えるのかな、と少し不安になる。
「あ、あの」
「どうしたの?早くかけて聞いてみなよ♪」
オーリーはすでにノリノリで食後のアイスチョコレートをグビグビと飲んでニコニコしている。
その期待のこもった目で見つめられ、内心バカな事を言ったかな、と少しだけ後悔した。
が、かけるだけかけてみよう、と思い切って通話ボタンを押す。
スタンリーなら仕事中、マナーモードにしてても電源は切ってないだろう。
そう思った瞬間、『もしもし…?』というスタンリーの低い声が耳に響いてきた。
その声を聞いただけで鼓動が勝手に早くなっていく。
「あ、あの…スタンリィ…?」
『ああ、どうした?。今日はオフだろ』
スタンリーは普段どおりの口調で、少しだけホっとし、息をついた。
「う、うん。あの…今、話してても大丈夫?仕事中なんでしょ?」
一応、迷惑にならないよう訊いてみると意外な言葉が返ってきた。
『ああ、それが俺も今日からオフになったんだ』
「えっ?で、でも昨日はテリーに呼ばれてるって…」
『あ〜それが手伝いはジョージが志願したらしくてさ』
「え?ジョージって…あの?」
『そう。"あの"ジョージ』
受話器の向こうからスタンリーの苦笑交じりの声が聞こえて来る。
「え、どういう事?彼、今はミシェルの担当じゃ――」
『それがあのジョージにもミシェルの担当はきつかったみたいでさ。担当を変えてくれって頼んだらしい』
「ええっ?だってジョージはベテランなのに…」
『まあ振り回されて嫌になったんだろ。で、テリーさんは仕方なくアダムをミシェルの担当にして、急に暇になったジョージがテリーさんの手伝いをすることになったんだ』
アダムとはスタンリーより少し先に入ったスタッフで、前は先輩の担当を手伝っていたはずだ。
でもスタンリーより要領が悪いので、なかなか一人での担当は決めてもらえなかった。
「そう、なんだ…。え、で、スタンリーはオフをもらったの?」
『そういう事。まあ小さな仕事はあるけど一日中ってわけじゃないし、殆どオフみたいなもん』
「そう…」
『で、は何の用だった?何かあった?』
「あ…」
その話を聞いてしまえば、もう遠慮することもないかな…
そう思いながら話を切り出した。
オーリーもじれてるように身を前に乗り出して返事を待ってるようだ。
「あ、あのね…実は…今日から家に私とオーリーとリジーだけになっちゃって…」
簡単にレオたちがロケに行ったことを伝え、オーリーが是非、スタンリーを呼ぼうって言ってる事を伝えた。
「だから…もし用事とかないなら来ないかなって思ったの」
するとスタンリーは苦笑交じりに「でもなあ…」と渋っている。
やっぱり断られるかなと思った、その時。
我慢の限界だったのか、オーランドが身を乗り出して携帯をパっと奪った。
「あ…」
「ヘロヘロー♪スタンリーくん?俺俺、オーランドー♪うんあのね、暇なら家に来れないかなーちょっと頼みがあって――」
オーリーはコソコソ話しながらダイニングを出て行ってしまった。
それを見て一瞬、呆気にとられたが、ハっと我に返り慌てて追いかけると、オーリーはリビングのソファの上で飛び跳ねつつ、
「ホント?やった!助かるよ〜♪アイツ、何しかけてくるか分からないし心細かったんだよねー☆」
「…???(アイツ?仕掛ける?何のこと?)」
サッパリ意味の分からない事を言いながらも、オーリーはソファの上でピョンピョン飛び跳ね喜んでいる。
その様子を不安げに見ていると、オーリーが私の方に「OK」サインを出してきた。
という事はここへ来ることをスタンリーが了承してくれたという事だろう。
それを見て私は内心ドキドキしながら、オーリーが電話を返してくれるのを待っていた。
が…
「うんうん♪じゃーそういう事だから後で待ってるねーい♪」
「え、あ…オーリィ…っ」
"代わって"と言おうとした瞬間、電話は切られた状態で私の手に戻ってきた。
「も、もーオーリー!何で切っちゃうの?」
「え?だってもう話、終わったから」
ケロっと答えるオーリーを若干、恨めしい目で見つめる。
が、内容が気になり、「で、スタンリー何だって?」と訊いてみた。
「うん、後で来るって♪」
「そ、そう」
それをハッキリ聞いてホっとした。
だが、その後にオーリーがとんでもない事を口にする。
「あ、それとレオたちが帰ってくるまで、スタンリーくんは我が家に泊まることになったから♪」
「え―――ッ!」
急いで部屋で着替えようと歩きかけた時、いきなりそんな事を言われて驚いた。
「な…何で…?」
「んー?俺がお願いしたんだー☆ほら、いつも大勢いる家に3人だけって寂しいしさ!」
「そ、そうだけど…よくスタンリーがOKしたね…?」
驚いたまま何気なく口にしたその言葉に、オーリーは何故かドキっとした顔をしつつ笑って誤魔化している。
そこで、ふと先ほどオーリーが話してた事を思い出した。
「そう言えば…さっきスタンリーに"アイツ"とか"仕掛けてくる"とか言ってたけど…何の話?」
「えっ?あ、あれ?いやだからその…ほ、ほら!最近、俺にかかってくるイタ電の事、相談しようと思って――」
「ああ…そう、なんだ…。でも、あまりスタンリーに変なこと頼まないでね?」
苦笑しながら、そう言うとオーリーも笑顔で「ラジャ!」と敬礼している(マイブームらしい)
私も笑いながら、「ちょっと…着替えてくるね?」とだけ言って部屋へ戻る。
スタンリーが来るなら着替えて、ちゃんとメイクもしておきたい。
「今夜の夕飯…何作ろうかな…」
部屋へ戻り、シャワーを浴びようとバスルームへ行く。
その間、そんな事ばかりが頭を過ぎった。
思いもよらないスタンリーの宿泊に、少しばかり動揺しているけど、やっぱり嬉しくて仕方がないのだ。
「オーリーってば…なかなかやるじゃない」
なんて呟きながらも、つい顔が綻ぶ。
このオフが私にとって、ある意味、素敵なプレゼントになった――