「――レオ!ジョシュ!」
イタリアで滞在するホテルに到着した途端、ロビーでハリソンが待ち構えていた。
久しぶりの息子達との再会に、ハリソンは両腕を広げ、二人と順番にハグをする。
「久しぶり、元気そうじゃん」
「少しは帰って来いよな」
レオとジョシュにそう言われ、嬉しそうな顔をしながら、「まあまあ。父、元気に留守がいいと言うだろ」と呑気に応える。
それには二人も「んな話、聞いたことねーよ」と呆れ顔で溜息をついた。
「部屋に行く前にそこのサロンでお茶でもどうだ」
ハリソンにそう促され、3人はロビーにあるティーサロンへと向かった。
そこでブランデー入り紅茶を頼んで一息つく。
「時差ボケだし、こんなの飲んだら寝ちゃいそうだな」
ジョシュはそう言いながら欠伸を噛み殺している。
「まあ撮影は明日からだし部屋に行ったら寝ればいい。ところで…たちは元気か?」
ハリソンは紅茶の香りを楽しみつつ、ふと顔を緩ませた。
その問いにレオは苦笑いをこぼし、肩を竦める。
「心配なら家に帰って来いよ」
「うむ。そうしたいのは山々なんだが、マリィ…ああ、いや今の恋人が帰してくれないんだ。あっはっは!」
「あーっそ。まあ皆、元気だよ。特にオーリーが」
「まあアイツはいつも元気だ。と言うより、それしか取り得がないからな、子供の頃から」(!)
これでも父親か、と言うような事を言いつつ、ハリソンは笑っている。
だが当然の如く、レオもジョシュも、そこは激しく同意した。
「何だか毎日、毎日よくアレだけのテンションでいられるよって未だ不思議」
「だよな。レオがいくら殴っても(!)懲りないしな」
「…それがオーランドだ」
二人の言葉にハリソンは真面目な顔でそんな事を言っている。
「で、イライジャはどうだ?恋人の一人くらい…出来てたらゴシップ記事に書かれてるか…」
「その通り。リジーも相変わらず淡々としてるよ。今じゃ一番、我が家で飄々としてて冷静かもな」
「言えてる」
オーランドに向ける、あの冷たい視線を思い出し、二人は苦笑した。
「ところで…はどうだ?今はジョシュと共演の映画を撮ってるんだろう?」
「ああ。元気だよ?撮影も順調だし。相変わらずドムの気持ちに気付いてないしな」
ジョシュが笑いながら煙草に火をつける。
が、ハリソンの目が鋭く光ったのを見逃さなかった。
「ドム…?あの小僧、まーだをストーキングしてるのかっ」
「してる、なんてもんじゃない」
そこでレオが顔を顰める。
「イタリア来る前も怪しい動きをしてたようだし心配でさ」
「ぬぬ…アイツ!そろそろ訴えるか!散々、不法侵入、覗きとかましてくれてるしなっ」
「そうだな…。どんなに警備会社を変えても突破して忍び込んでくるし、そろそろ訴えてもいいかもな」
レオが真顔でそう言うと、ハリソンはギョっとしたように身を乗り出した。
「あの小僧…そこまで"プロ"なのか…」
「ああ、あの諦めの悪さもそうだけど、犯罪ごとに対しての腕前(?)はある意味、尊敬する」
ジョシュの言葉にレオも渋い顔で頷いて、ふと時計を見た。
「オーリーの奴、大丈夫かな…」
「ああ…張り切ってはいたけど、我が家で使えない男ナンバーワンだからな…」
「あ、後で電話してみろ」
ドムの恐ろしさを再確認した上に、オーリーの"使えなさ"を思い出した3人は真剣に顔を見合わせたのだった。
オーランド
その頃、まさかイタリアという遠い異国で、父さんや兄貴達にボロカス言われてることも知らず、僕は、スタンリーくんが到着するまでの間、リビングの掃除をから任されていた。
はスタンリーくんが我が家に滞在すると知るや否や「ゲストルームの準備をしなくちゃ」と慌てて二階へ向かい、
今は掃除をしたり、使うタオルや布団を運んだりと大忙しみたいだ。
時々バタバタ走る音がかすかに聞こえてくるしね☆
エマが連休を取り、友人達と旅行に行ってしまったので、そういった仕事は僕らが全てやらなくちゃいけない。
「これでよし、と!あ、後はビールでも冷やしておこうかなー♪」
リビングの窓を開け放し、空気を入れ替えてから、キッチンに向かう。
確かエマが買いだめしておいてくれたはずだ。
「あったー☆」
大きな箱からビール瓶を数本取り出し、冷蔵庫へ入れておく。
そして何本かはシアタールームのミニ冷蔵庫へも入れておいた。
「今日はホラー映画大会でもやっちゃおうかな〜♪怖い兄&弟はいないし〜♪ルルララ〜♪」
――プルルルル…プルルルルル…
「ん?」
自分の仕事を終えて軽くスキップしながらリビングに戻ると、いきなり家の電話が鳴り出した。
僕は何も考えず、「ハロハロー♪」といつも通りのテンションで電話に出てみる。
どうせ、この時間はセールスくらいしか、かかってこないんだ☆
「もーしもーし!セールスならお断りだよー」
『……………』
「…あれ?ハロォー??聞こえてますかー?」
何も聞こえず、もう一度声をかけてみたけど、やっぱり何も聞こえない。
またファンからの無言電話かな?と思って切ろうとした、その瞬間…
『……ふふふ…』
「―――う!」
いつもなら夜中にかかってくる、あの恐怖の"呪います電話"の声が、いきなり聞こえてきた――!
「お、お前!」
『…ふふふ…』
「い、一体誰なんだよ!何でこんなことするんだっ」
そこは昼間だった事もあり、いつもより少し強気な声で怒鳴る。
でも相手は笑うだけで、今日は何も言わない。
そこでもう一度怒鳴ろうとした時、一方的に電話は切られてしまった。
「クソー!誰なんだよー!」
電話を放り投げ文句を言ってみたところで、相手が誰なのかも分からずイライラしてくる。
それに、いつもは僕専用の直通電話にかかってくるのに、今は家の電話にかかってきた。
という事は…
僕がオフで家にいる事。
そして今は部屋ではなくリビングにいる事を、このイタ電女は知ってるという事だろうか。
「…まさか…盗聴…?それとも盗撮…?」
言い知れぬ不気味さを感じて、僕は軽く身震いした。
その時――
――キンコーン!
「ひゃぁ!」
いきなりのチャイムに、僕はその場に飛び上がってしまった。
「――いらっしゃい、スタンリー」
僕がリビングで暫し固まっていると、いつの間に着替えたのか、可愛い格好をしたがスタンリーくんを出迎えていた。
「お邪魔します」
スタンリーくんはそう言いながらリビングに入ってきて、僕は彼の顔を見た瞬間に思い切り抱きついてしまった。
「お、遅かったじゃないかー!」
「わ…っ」
「もうオーリー!ビックリするじゃない」
ガバっと彼に抱きついた僕を見て、は苦笑いをこぼすと「お茶淹れて来るね」とキッチンに走っていった。
それを見送りつつ、スタンリーくんは僕から離れ、肩を竦めてみせた。
「すみません。一応、宿泊用に着替えとか取りに行ってて…」
「あ、そっか…そうだよね」
エヘへと笑って誤魔化し、ソファをすすめると、スタンリーくんはチラっとキッチンの方を伺いつつ、声を潜めた。
「…何かあったんですか?」
「え?あ、いや…実は…」
僕は簡単に、ここ最近かかってくるイタズラ電話の事を説明すると、スタンリーくんは軽く眉を寄せた。
「ああ、その話はジョシュからチラっと聞きました。心当たりは…」
「全然、ないんだ!」
キッパリ言うと、スタンリーくんは難しい顔で考え込んでいる。
「でも今の電話の様子を聞くと…確かに随分と調べてるみたいだ」
「そーだろぅ〜?だから怖いんだよー!盗聴か盗撮でもされてるんじゃ――」
「もしそうなら…犯人は限られますけどね」
「へ?」
「だって、それほど親しくない人間は忍び込むだけでも大変だし…」
「あ…そか」
スタンリーくんの言葉に思わず納得した。
そう、そうだよ!だいたい僕のプライベート電話を知ってて、かつ、スケジュールまで知っている人間…
そして例えば盗聴や盗撮器具をこの家に設置できる人間なんて限られてるじゃないか!
ってか…身近にそんな事が出来る人間なんて、僕は一人しか知らないよ…!
「…やっぱアイツしか思い浮かばないかも…」
「…でも電話の相手は女の声だって」
「そうだけど…」
ドムの事はスタンリーくんに、さっきの電話で簡単に説明してある。
今日から数日、家には僕とリジーとしかいなくなること。
そして以前からにストーキングをしてるドムが何か企んでいるらしいこと。
リジーが仕事でいない今、心細いからスタンリーくんに泊り込みで遊びに来て欲しいと、お願いしたのだ(情けなし)
でもこの唐突な僕のお願いを、快く引き受けてくれたスタンリーくんは、やっぱり優しい男だ!(僕が女なら、とっくに惚れてちゃってるね♡)
僕はゆっくり立ち上がると、スタンリーくんにゼスチャーで伝え、二人でシアタールームへと移動した。
もし盗聴でもされてたら会話を聞かれてしまう恐れがあるしね!僕ってあったまいいー♪
「ここなら多分、盗聴器も盗撮カメラもないと思うから」
ここ数日は誰も使ってないし鍵を閉めたっきりだったはずだ。
それに先日、レオとリジーがドムを捕まえた時も、リビングには入れたけど、ここには入れてない。
そこまで警戒する僕を見て、スタンリーくんはちょっと苦笑しながら、「でも、そこまでしますか?」と言って煙草に火をつけた。
「する!ドムはやる奴だよ!アイツのストーキングっぷりは凄まじいんだ!」
僕が熱くなって叫ぶと、スタンリーくんもちょっと驚いている。
「そう、そうだよ…最初は声も女だし、今回だけはドムも関わってないんだって思ってたけど…このセキュリティが厳しい我が家に、簡単に忍び込めるのも、俺の部屋の電話を知ってるのも、スケジュールを調べるのも…全てドムなら簡単に出来る事だし知ってることだよ!あー何で気付かなかったんだー!」
そう言って頭を抱えると、スタンリーくんは、「でも…そんな事する理由は?」と訊いて来た。
そこで、ふと先日アイツが言っていた事を思い出す。
"眠れぬ夜を過ごさせてやる"
あれは実は僕の事なんじゃないか、と今気付いた。
そして今、アイツが僕に対し、あんな下らない復讐をしようと思うなら、理由は一つだ!
「眉毛だよ、スタンリーくん!」
「…はぃ?」
「ほら、この前見ただろう?アイツの変な眉毛を!」
「ああ…そう言えば…半分だけ薄かったような…」
「あれは俺がやったんだ」
「えっ?」
ちょっと胸を張ってそう言えば、スタンリーくんは目を丸くした。
「前にうちでシアタールームが完成したお祝いと称して映画観賞会やったろ?」
「ああ…。そういやキースと来たっけ」
「そうそう、それ!あの日、スタンリーくんたちは先に帰っちゃったから見てないと思うけど、あの日ドムのせいで俺がリジーにちょっと怒られたんだ。で、その復讐としてアイツの立派な眉毛を半分、剃り落としてやったんだよ♪笑うだろ?」
僕がそう言うと、スタンリーくんは一瞬呆気に取られた顔をしたけど、すぐに噴出した。
「そっか…それで…。じゃあ彼にも動機はあるんだ」
「そうなんだよ。でも女の声だったし今回はドムだと思わなかったんだよねー。でもここまで来たら、もうアイツしか考えられないよっ」
そう言ってプリプリ怒っていると、いきなりシアタールームのドアが開き、が顔を出した。
「あーこんなとこにいた!」
「あ、っ」
「もおーお茶淹れてきたのにいないからビックリしたじゃない」
はそう言いながら可愛く唇を尖らせている。
「二人して何してたの?こんなとこで」
「え、えっと…今夜、何か映画でも見ようかって話してて…」
苦しい言い訳だったが笑って誤魔化せば、スタンリーくんも「そうそう」と話をあわせてくれる。
も訝しげな顔をしてたけど、すぐに機嫌が直ったのか、「あっちでお茶飲もう?パイもあるの」と言って微笑んだ。
「わぉ♪パイ食べるー」
いつものノリでそう言うと、僕とスタンリーくんは一瞬だけ目で合図をしてリビングに戻っていった。
に言えば心配するし、ここは一つ内緒にしておかなくちゃね。とりあえずリジーが帰ってきたら、早速、ドム会議といこう。
「はい、どうぞ」
「わーい、サンキュー♪」
紅茶とパイを出してくれたの頬にちゅーっとキスをして、ソファに座る。
スタンリーくんも普通通りに「サンキュ」と笑顔を見せて僕の隣に座った。
(さて…ドムに聞かれてると思いながら会話をしなくちゃね。ったく、ホント困った友人を持ったもんだよ、僕は…)
そう思いながら、僕は今更ながらに、あのNZロケにを呼んだ事を後悔したのだった…
ドム
その頃の俺様は、まさかあのアフォに計画が見抜かれてるとも知らず、一生懸命、との結婚資金を溜めるため働いていた(オイ)
あの大作出演以来、何かとイベント企画や小さな映画へのオファーが殺到し、ちょこちょこと忙しく働いてはいたが、
最近、ドラマ出演の依頼が舞い込み、繊細を聞きに、エージェントと一緒に製作側の事務所に来ているのだ。
「じゃあ、ちょっと待ってて下さい」
スタッフからそう声がかかり、俺は軽く伸びをして時計を確認した。
そろそろアイツがアフォに恐怖電話をしてる事だろう。
昼間っから俺のと仲良く遊んでるアフォには、いい刺激となってるに違いない。
そんな事を思いながら煙草に火をつけ一服する。
今回の計画はなかなかのアイデアだと自分で思う。
そう、俺はアイツ等兄貴ズに目をつけられてるからな…
自分で復讐してやっても良かったが、すぐにバレて殴られるのがオチだ。
でも人を雇ってしまえば、すぐには俺が犯人だとは気付くまい。
しかも女なんだしバレるはずもないのだ。
どうせアフォの事だし、過去には色々な女に手をつけてきたはずだ。
アイツを恨んでる女の一人や二人いてもおかしくはないしな…ふっふっふ、俺ってあったまい〜♪
その間、俺は、こうして真面目に働いて結婚資金を溜める、という何とも素晴らしい計画さ!
以前のように嫌がらせをして時間をとられることもないしな!
複雑な復讐なら俺様が出張らないと、すぐに足がつくが、イタ電というシンプルなものなら俺じゃなくても大丈夫だろう。
それに、あんなアフォにはイタ電くらいで十分にビビらせる事が出来る!
怖がってる顔が直接見られないのは残念だが、アイツの言う様子だと失神寸前、
いや現に電話中、失神してたかもしれない、という報告が来ている。
それだけで十分スッキリしたぜ!
そう…それにこのドラマがヒットすれば、俺はレギュラーとして毎週、アメリカ中のお茶の間に顔を曝す事になる。
そうすれば知名度ももっと上がり、愛しいにふさわしいくらいのセレブになれる!
キーファだって、最初は「映画しか受けない」なんて言ってたけど、"24"に出演したおかげで、今や世界中に名が知れ渡った。
そして各国でもヒットを飛ばし、今やあのドラマを知らない者はいないし、シーズンが何作も決まってると言う。
俺様もキーファに続き、今度はドラマで有名になってやる!
そう、今のアメリカは映画だけじゃなく、テレビドラマだからってバカには出来ないくらいなのさ!
内心、ホクホクしながら待っていると、すぐに製作側の社長と監督が部屋に入って来た。
「――やあお待たせして」
「いえいえ」
そこで握手をして自己紹介を済ませると、彼らは早速本題に入った。
「で、脚本は読んでくれたかね、ドミニクくん」
「はい、もう素晴らしい作品で!」
張り切って応えると、社長と監督は少し引き気味に苦笑いをこぼした。(ちょっと顔が怖すぎただろうか)
「いや、気に入ってもらえて嬉しいよ。で…是非、このチャーリーというロックミュージシャンの役を君にやって欲しいんだが」
「はい、もちろんですよ!もう俺…いや僕にピッタリの役です!チャーリーはまさに僕そのものですよ!」
「そ、そうかね?」
またしても二人の顔が引きつった。
思い切りアピールして応えたはいいが、後で"確かヤク中の役だったっけ?"と思い出し、笑って誤魔化しておく(オイ)
「では…受けてくれると思っていいんだね」
「もちろんですよ!もう監督にどこまでもついていきますっ」
更に張り切った俺は自分の中でスペシャルといっていいくらいの笑顔を見せた。
すると監督が笑いながら、
「じゃあ…来週の頭に早速ハワイに飛んでくれるかい?」
「はい?ハワイ…ですか?」
「ああ、そうだ。このドラマの撮影は殆どがハワイでの撮影になるからね」
「…え!(何だとぉぉう?)」
俺様はその話を聞いて、ほんの5分ほど金縛りにあってしまったのだった。
イライジャ
「はあ…そんな事で呼び出さないでよ…」
僕は溜息交じりでそう言うと、目の前で死刑を宣告されたような顔のドムを見た。
次の仕事の仲間たちと顔合わせを終え、さあ皆で親睦を深めに行こう、なんて思っていたところへ、いきなりのドムからの電話。
最初は無視してたけど、あまりにしつこくて電話に出てみれば何だかいつもより暗い死にそうな声で「話があるんだ…」と言うから、皆に次は絶対、と言って来てやったのに。
やっとを諦める決心がついたのかと思えば(オーイ)ただ仕事でハワイに行くってんだから溜息しか出ないよ、ホント。
「そんな事とは何だ!そんな事とは!」
僕の一言にムっと顔を上げたドムは拳を振り上げ、ドンとテーブルを叩いた。
ここはホテルのラウンジなんだし静かにして欲しい。
「だって仕事でハワイに行くんだろ?羨ましい限りじゃん。なのに何でこの世の終わりみたいな顔してるわけ?」
「バ、バカヤロ!ハワイなんて俺様は行きたくないっ!しかもドラマの撮影だぞ?映画じゃないんだぞ?一体戻ってくるのに何ヶ月かかると思ってるんだ!」
目を血走らせ、そう怒鳴るドムに僕は肩を竦めて見せた。
「ドラマの人気によっては何ヶ月って言うか…何年かもね」
「だろう?!映画ならロードみたいな作品じゃない限り2〜3ヶ月で済む!でもドラマとなれば何クールも取るから缶詰状態だぞ?!」
「いいじゃん、ハワイなら」
「ふ、ふざけるな!に会えなくなるだろうがっ」
「ああ、そのことね」
薄々は分かってたけど、シレっと応えれば、ドムの目が更に充血してきた。(怖)
「じゃあ断ったわけ?」
「ぬ…そ、それはだな…」
「嫌なら断ればいいじゃん。すっごいチャンスだと思うけど本人が嫌なら仕方ないしね」
「そんな簡単に――」
「だったらどうしたいわけ?」
そう言って目を細めれば、ドムは視線を泳がせて「ロスで撮影したい…」と応えた。
それには思い切り溜息が出る。
「あのね…。そのドラマは無人島に飛行機が墜落するって話だよね。ロスのどこに、そんな島があるのさ」
「そ、そんなものセットでいいだろう!」
「無理だよ!いくらかかると思ってんの?無駄だよ、無駄!」
「う、うるさい!だいたいだな…24はロスで撮影してるってのに何で俺様はハワイなんぞに行かねばならないんだっ」
「そういうドラマだからだろ?そんなにロスにいたきゃ24のオーディション受ければいいじゃん」
コーラをストローでズズーっと飲みつつそう言えば、ドムはキツツキかと言うくらい唇を尖らせた。
ったくドムがやっても可愛くないんだよね。…むしろキモイ。
「ま、お茶の間のアイドルになるか、今まで通り映画俳優としてやっていくか、好きにしたら?」
「つ、冷たいな…友達だろう?」
「あのね…友達でも何でも、僕にはどうする事も出来ないし。決めるのはドム自身だからね」
キッパリそう言うと、ドムは急に黙ってしまった。
本気で行くかどうか悩んでるんだろう。
まあ僕にしたら素直にチャンスだと思うし、ドムには頑張って欲しい。
それにドムがハワイに行けば暫くはに対する心配をしなくていいし静かで快適な暮らしが出来る。(!)
だから凄ーーーーーーく賛成してるんだけどね。もちろん友達として♪
「おい、リジー」
「ん?」
やっと口を開いたドムは、目を真っ赤にさせながらも僕を真っ直ぐに見てきた(ちょっと怖い)
「この話はチャンスだと思うか?」
「まあね。今のドラマ界は映画といい勝負してるし」
「そうか…」
「それにギャラもいい方なんじゃない?」
「そう思うか?」
「うん」
「じゃあ…ますます資金が溜まるかもしれないな…」
「…何の資金?」
つい訊いてしまった。
「との結婚資金に決まってるだろう!」
訊かなきゃ良かった…。
まあ、ここでとの結婚は一生無理だとか言えばドムの気が変わるかもしれない。
ここは一つ聞き流そう(オイ)
「という事で…僕は帰るよ?家にオーリーだけじゃ心配だしさ」
まあ心配するような事をする奴が目の前にいるんだから大丈夫だとは思うけど…
オーリーとが二人でいると思うと、やっぱり早く帰りたくなってきた。僕も明日から忙しいしね。
そう思いながら立ち上がると、ドムは僕の手をガシっと掴んだ。
「遊びに行ってい――」
「ダメ」
「―――!」
そこはハッキリお断りした。
だってレオ、ジョシュがいない間にドムを家に入れたとなったら、僕が二人から怒られるしね。
それに…知らないうちに、そうならないためにもコッソリ注文しておいたブツが今日、手に入る。
ここは一つ、ドムを突き放しておこうっと。
内心、そう思いつつ、目の前で土下座しながら、「お願いだー連れて帰ってくれー」と泣き叫ぶドムに、
(この勢いじゃ、あのアイテム、今夜にでもすぐ使えそうだな…)
と黒い笑みを浮かべたのだった。
オーランド
『え、スタンリーを呼んだ?』
「そーなんだー☆だって俺だけじゃ心配だろ?」
『…………』
夜、レオから電話が来たから、今の状況を詳しく教えてあげた。
なのにレオは黙り込んでから深々と息をつくと――
『あのな…確かにお前だけじゃ心配だ。でも頼りないお前を初めて、この俺が頼ってやったというのに…スタンリーまで巻き込んで何してんだ…?』
「だ、だってえ…リジーも仕事行っちゃうし、俺だけじゃ心細かったんだよ…」
『アホか!別に見ず知らずのストーカーを相手にしてるわけじゃないんだぞ?』
「そうだけどさぁ…。あ、でもスタンリーくんも快く来てくれたんだ♪」
『…そうだと思うけど…あまり迷惑かけるなよ?つか呼んだ時点で迷惑っぽいけど…』
レオはそう言うと、『とにかく…しっかりドムは見張っておけよ?』と言って勝手に電話を切ってしまった。
どうせの携帯にかけなおすんだろう。(は今、キッチンで夕飯の準備中)
イタズラ電話もドムの仕業だって事も話したかったのになー。
僕は子機を元に戻すと、向かいでビールを飲んでいたスタンリーくんを見た。
「やっぱ怒られた…スタンリーくんに迷惑かけるなって」
「俺は別に迷惑じゃないですよ。どうせオフでも暇だったんだし――」
「スタンリーくん…!」
ニッコリ微笑んでそう言ってくれるスタンリーくんに、彼はやっぱりイイ奴だ!とこの時、心の底から思った。
どうせならリジーやジョシュみたいな怖い弟じゃなくて、彼みたいな優しいイケメン♡ナイスガイを弟にしたかった…
そう、それにとっても頼りになるんだ☆
「盗聴されてるかどうか調べる機器とか売ってますから」
なんて言って、さっき買ってきてくれたしね!
まあ調べた結果、盗聴はされてなかったからホっとしたけど、だったら僕の行動パターンが読まれてるって事で、
部屋にいなければリビングにいるってとこまで読めるって事は、やっぱ犯人はドム以外に考えられないって事なのさ!
「はーでもホント、スタンリーくんが来てくれて助かったよー♪俺だけだったら、あの電話だけでビビってたかも」
「まあ、でも…彼も面白い人ですよね。俺は何気に好きですけど」
「えー?面白くないよー!まあドムの鼻のデカさと絶壁は面白いけどね☆」
僕がそう言うとスタンリーくんは楽しげに笑っている。
まあ直接、被害がなければきっと端から見たドムはアッフォーだし面白いんだろうなー。
すーぐ目が充血するし、怒鳴るしわめくし、土下座するし…
ってかスタンリーくんはドムに会うたび敵視されて、ガン見されてるのに、好きって言えるなんて、ある意味大きい男だよ、うん!
僕もスタンリーくんのような、ドムごときオ●ラで飛ばせるくらい、心の広い男になりたいなー(オイ)
そう思いながらビールをグビグビ飲んでいると、リビングからリジーが顔を出した(僕らは今、お庭で飲んでるのだ)
「あれ?ここにいたんだ。って、スタンリー来てたの?」
「ああ、お帰りなさい。お邪魔してます」
「お帰り、リジー!スタンリーくんは俺が呼んだんだー♪」
庭に出てきたリジーにハグしようと走っていけば寸前で交わされ、腕がスカッとなった…やっぱ可愛くない弟だ。
「どうせオーリーが一人じゃ心細いとか言って呼びつけたんだろ。ったくー」
「ぬ…。何で分かった?」
「でも俺もオフだったしいいですよ」
「オフだったならなおさらだよ。ホントごめんね」
リジーは苦笑しながらそんな事を言っている。
ふーん…あっそう。
自分だけ大人ぶっちゃってさー!ホント可愛くない。
「あれ、は?」
「ああ、今キッチンで夕食の準備してますよ。手伝おうかって言ったら、今日は日本食だから一人で平気だって」
「そうなんだ。の日本食、美味しいからなー。俺、ちょっと行って来るよ」
リジーはそう言って中へ戻っていった。
そういやドムのこと、リジーとも話しておかないと!
「あーちょっと待ってよ、リジー!」
「何?」
追いかけてリビングに入れば、リジーはウンザリしたような顔で振り返った。
ほーんと可愛くない弟だよなー。
「あのさ、実はイタ電の犯人が分かったんだ!」
「あ、そうなの?どうせドム辺りが仕掛けたんじゃないの?」
「な!何で分かったの?リジー!」
ちょっとビックリして目が丸くなった。
「ちょっと考えれば分かるよ。どうせ誰か知り合いの子に頼んだとかじゃない?」
「あーそうかも!あの声はドムじゃ無理だし!」
「だろ?それに一番最初に疑って電話した時、ドムこう言ってたんだ。"俺は"かけてないってね」
「へ?どういう意味?」
「だから"俺"はかけてないって事は、他の奴はかけてるって意味にも取れるし…後で考えたら気になってさ」
「…え?じゃあリジー最初からドム疑ってたの?」
「まあね。だって眉毛剃られたのに暫く大人しかっただけで不気味だったんだよ?ドムなら確実にオーリーに復讐しようとするだろ?」
「ま、まあ…アイツはゴッキーのようにしつっこい性格だからな…」
「それ言うなら"蛇"だよ、オーリー」
「……!!」
普通のテンションで突っ込まれ、僕は顔が赤くなってしまった。
ぶ〜ゴッキーだって相当しつこいじゃないか、なかなか死なないあたり。
リジーはそのままリビングを出て行こうとしたけど、不意に振り返り、「ああ、そう言えば…」とニヤリと笑った。
「もしかしたらドムの奴、暫くロスからいなくなるかも」
「え?な、何で?何か犯罪がバレて指名手配されたとか?!」
「まさか!そんなんだったらニュースで流れるだろ?違うよ。仕事で」
リジーは心底呆れたような顔で僕を見た。
ちょっと頬が膨れそうになったけど、でも今はそんな小さな怒りより、ドムは消える(違)という方に興味が沸いた。
「仕事って…またロードみたいな大作からお声がかかったとかっ?」
「んー。映画じゃないけど…ドラマだよ。今度、秋から放送されるドラマにキャスティングされたみたい」
「マジで?!」
「うん。さっきへコんだ様子で電話来てさ。本人から直接聞いてきた」
「な、何でへコんでるんだ?仕事が決まったとゆうのに!」
アメリカのドラマといえば今は凄い人気が出るって言うし、ドムにとってもラッキーな話じゃないかと思いつつ尋ねれば、リジーは何とも言えない顔で苦笑いをこぼした。
「それが…撮影場所はハワイらしいんだ」
「エッ!ハワイ!いいじゃーん!最高じゃーん!」
クソー!羨ましい奴だな、あんちくしょうめ!
ハワイ&水着のギャル(死語)大好物なオーランドくんとしては、ものっそい羨ましいぞぅ〜!
そう思いながら足をジタバタする。
でもリジーはまたしても僕を、"ホント分かってないね"みたいな顔で見やがった。(チッ)
「ドラマって映画より倍はかかるんだよ?という事はハワイに缶詰状態で撮影するって事」
「へぇ…って、あ、そか!って事はドムはロスからいなくなるって、そう言うことか!」
「その通り」
やっと意味が分かり、僕はその場で小躍り(コサックダンス)してしまった!
リジーが目をかなり細めたけど、この際無視しちゃうさ!
「という事は我が家に平和が戻ってくるんだな?!ドムのいない生活が!」
「…まあ。そういう事になるだろうね。だからドムは悩んでたみたいだけど」
「ふふふ…そうか…。アイツ、に会えなくなるからってリジーに相談したんだな?」
「うん。まあ僕からもオススメはしておいたけど。ホントに行くかどうかは知らないよ?」
「な、ダメだよ、絶対に行かせないと!これで俺の安眠も戻ってくるかも――」
「でもそれはドムが直接かけてるわけじゃないだろ?命令してる限り、それはなくならないと思うけど」
「ぐっ。そ、そうだけど…」
「まあ今夜のことに関したら、僕ちょっと思いついちゃったし、手は打っておいたから」
「へ?手を打っておいたって…何を?」
「ま、後で分かるよ。あ、それよりオーリーも今夜は裏口の方に行かないでよね」
「はぁ?裏口ぃ??」
リジーは意味不明な事を言うと、「あの特注品の効力、楽しみだなぁー」とだけ言ってキッチンに行ってしまった。
一体何のことだろう?と首を傾げたが、リジーは時々、ワケわかめな事を言うので気にしないことにする。
それより今はドムの栄転(?)の件だ!
僕は今のリジーの話を頭の中で繰り返した。
そうか…ドムの奴、ハワイに!
まあ僕へのイタ電は続いたとしても、それは僕が番号を変えてドムに教えなければいい話だ!
それより…あのチャバネゴッキーより(あれ、蛇だっけ?)しつこいドムが暫くいなくなるって方が重大さ☆
「ふふふ…そうだ!それに共演者の中に可愛い子がいて、ドムとくっついてくれれば、なおGOODだね!」
指をパチンと鳴らしニヤリと笑う。
やっぱり遠くの片思いより、近くの両思いの方がいいに決まってるし、ほどの子はいなくとも、ドラマに出るならそこそこの子だっているだろうし…
まあ…その子がドムを好きになるかどうかは……分からないけど(酷っ)
「スタンリーくん!今夜は前祝いだー!飲むぞ〜♪」
ちょっとドムのためのお祝いなんて不本意だけど、この際その辺は目を瞑ってあげよーかな☆
そう思いつつ、大量のビールを庭に持ち出して、僕とスタンリーくんとで、大いに乾杯したのだった。
「ヘイ、」
「あ、リジー。お帰りなさい」
キッチンで料理をお皿に盛り付けてると、リジーがひょっこり顔を出した。
軽くハグをして頬にキスをすると、リジーは料理へと視線を向け、
「今日は日本食なんだって?」
「うん。オーリーが"タマゴプリン"と"ジャガイモスープ"が食べたいって言うから」
「…ああ…"茶碗蒸し"に"肉じゃが"ね」
「うん」
目を細めて訂正するリジーにちょっと笑いながら、出来たばかりの竜田揚げをお皿に移した。
「オーリーの好物ばかりになりそうだし、これはリジーの好きなもの作ってみたの」
「わぉ、これ美味いんだよね、ありがと、」
リジーはそう言って、もう一度頬にキスをすると、竜田揚げを一つ口に放り込んだ。
「熱…っ」
「大丈夫?揚げたばかりだから…」
「大丈夫…ってか、やっぱ美味いよ、これ」
「そう?良かった」
「…あれ、これは?」
「ああ、それもオーリーのリクエストでチャーハン」
「…って、これ中華じゃん」
「そうなんだけど、オーリーが"味付きライス"がいいって言うし…」
そう言って苦笑すると、リジーも呆れたように溜息をついた。
「ホント、子供だよな、オーリーは」
「そこがいいとこじゃない。あ、もう少しで全部、用意出来るし、シャワーでも浴びてきたら?」
「うん、そうする。ああ、そう言えばオーリーがスタンリーを呼んだみたいだね?」
出て行きかけたリジーにそう言われ、ドキっとした。
「う、うん。何だか二人だけじゃ退屈だって言うし…」
「よく言うよ。心細かっただけだろ…」
「え?」
「ああ、何でもない。じゃあちょっとシャワー入ってくる」
「うん」
部屋へ戻るリジーに手を振って、再び料理を綺麗に盛り付けていく。
日本食を作るのは久しぶりだから、味が心配だったけど、とりあえず竜田揚げはリジーが誉めてくれたし大丈夫そうだ。
「後は…と」
ぐるりと見渡し、冷蔵庫からサラダを出してトレーに乗せる。
グラスも数個、用意しながら飲み物はシャンパンがいいかしら、と考えているところへ、スタンリーが顔を出した。
「、ちょっといい?」
「あ…ビール?」
「うん。オーリーがちょっと酔ってきちゃってさ」
スタンリーは苦笑しながら空になった瓶を持ち上げる。
夕方から飲み始めたのだからオーリーが酔ってしまうのも分かる気がした。
「ごめんね?相手してもらっちゃって」
「いや。オーリーと話してると楽しいよ」
スタンリーはそう言いながらお皿に並んだ料理を見て、「へぇ、美味そう」と言ってくれた。
オーリーの相手をしながらスタンリーも飲んでたから少し酔ってるのか、機嫌が良さそうだ。
「運ぶの手伝おうか?」
「え、い、いいよ。オーリーと飲んでて?すぐ終わるし…」
「でも一人じゃ大変だろ?」
「大丈夫だってば。あ、それより、これ持ってってくれる?」
そう言って冷やしておいたシャンパンを出した。
「もうビールより、こっちがいいでしょ?」
「そうだな。じゃあグラスはこれ持ってくよ」
「あ、ありがと」
「いいよ、これくらい」
スタンリーは皆の分を乗せたトレーを持つと、「料理、楽しみにしてるよ」とだけ言ってキッチンを出て行った。
その一言で、単純だけど、一人で作った苦労が報われた気がして顔がニヤケてしまいそうになる。
「あ、いけない…早くしないと冷めちゃう…」
そこで我に返り、気を取り直すと、急いで他の料理をトレーに乗せて行った。
ドム
「はぁ…は今頃、何してるかな…」
そう呟きながら、そっと裏門に上り、家の方を見上げる。
さっきリジーに冷たく突き放されたが、どうも家に帰る気分じゃなく、ついつい足がハリソン家に向いてしまったのだ。
くそう、リジーめ。遊びに来たっていいじゃないかっ。
あの悪魔な兄貴とその手下がいない時くらい!それが友達ってもんだろうぅ?
そうさ!友達なんだから遊びに来たっていいはずだ!そうだ、そうだ!
そんな事を思いながら体は勝手に動いてしまう。
「…どうせ3人で楽しく夕飯でも食べてる――」
そこで言葉が切れた。
すでに俺様はいつもの技(!)で警報機をかいくぐり、エントランスの方まで歩いてきている。
が、あまりに信じがたいものが視界に入り、足まで止まってしまった。
「あ…あの車は…っっ」
何度となく見たことがある車が、ハリソン家のガレージ前に止めてある。
俺は噴出してくる汗を拭いもせず、唖然としたまま、その車を眺めていた。
「…あんのモデル気取りめが〜!レオとジョシュがいないのをいい事に俺のを騙しに来たなぁ?!」
まさにプッツィーーーン!と来た瞬間、俺様はダッシュを決め込んでいた。
「…のゎっ?!」
が、ホントに一二歩ほど走ったところで何かに足を取られ、その勢いのままバチコーンとその場に倒れてしまった。
「ってぇ…な、何だ?俺はいったい何に…」
いきなり転んだ事でビックリしつつ、手をついて起き上がろうとした。
が、何だかネバネバしたものが手に付き、動きが取れない。
「な、何だ?気色悪い…」
そう言いながら自分の手を思い切り引っ張って後ろを振り返ってみた。
すると…
「んな?!何で俺の靴が…」
何とか動く上半身だけを動かし、足元を見れば。
数歩、向こうに俺の靴だけがポツンと置いてある。というか脱げている。
しかも吹っ飛んだというよりは、そのままそこで脱げました、というような形で。
靴だけ見れば、歩いてる最中に脱げました、というような形で。
「な、何で脱げたんだ?しかも綺麗に左右とも…それに、このねちょっとしたのは何だ…」
まるで松脂みたいな感触で、恐々自分の手を見てみる。
周りが暗いのでハッキリとは見えないが、明らかに俺の手には何かが付着していた。
「クソウ…誰だ?こんなトコに…」
そう言って立ち上がろうと足を動かした。
が、今度はビクともしない。
「ん?な…なんで…」
足が、と言うよりはスーツのズボンが地べたに張り付いているような感触。
俺はもう一度、今度はよーく自分の足元を見てみた。
すると靴下までもが半分脱げかかっているではないか!
これまた靴下も地べたに張り付いたように伸びていて、踵が半分見えてしまっている。
俺は目を細めて、靴下が張り付いている辺りをジィ〜〜〜っとガン見してみた。
そして、あるものに気付き――
「んな…何じゃこりゃぁぁぁぁっ!!!!」
俺様の悲痛な雄たけびが、ハリソン家の敷地内に響き渡った…。
その頃、屋敷内では―――
「あれ?今、なんらか悲鳴がきこえなかった?」
「ちょっとオーリー!食べながら話すなよー」
「む…リジーはホントに生意気らな…」
兄を兄とも思わぬ態度に、オーランドはぷぅっと頬を膨らませた。
まあ悲しいかな、イライジャは本当にオーランドを兄とは思ってないのだが。(!)
「でもホントに何か聞こえたような…ね?スタンリー聞いた?今の」
「んー。何だか蛙が轢かれたみたいな声だったような…」
「あははっ蛙!」
そのスタンリーの言葉にイライジャが笑い出した。
そしてニヤリと笑うと、
「ま、気にしないでいいんじゃない?どうせ罠にかかったゴッキーが叫んだんだよ、きっと」
「へ?ゴッキーは叫べるの?」
リジーの言葉に素直に首をかしげたのは、やっぱり天性の天然男、オーランドだった。
いつもなら、ここで皮肉るイライジャも、今夜は何だか楽しそうに笑っている。
「今夜のゴッキーは大物かもね」
「何の事?リジィ…」
イライジャの言葉にも首を傾げる。
「いや別に。ただハイテクがダメならアナログ方式でって思っただけだよ?」
「「「????」」」
イライジャはそう言うと、キョトンとしている皆をよそに、何故か黒い笑みを浮かべたのだった…