末っ子、妹の心情〜私が彼―ライアンに惹かれ始めたのは、いつからだったか…。 デビュー作の話がきて顔合わせの時に初めて会った。 彼の事は知っていたけど、どことなく話し掛けづらくて…。 それでも人見知りする私に凄く気さくに話し掛けてくれたのを覚えている。 初めての映画で毎日、緊張していた私を、彼はよく笑わせてくれたっけ。 ある時、私が大事なシーンでセリフが飛んでしまった事があった。 頭の中が真っ白になって次に言うはずのセリフが全く思い出せなくって… それはライアンとのシーンだった。 とりあえず唯一覚えてた最初のセリフを言おうとした時、ライアンはいきなり自分のセリフを私のセリフにかぶせてきた。 そして慌ててスタッフに、 「あ、すみません!俺、かぶっちゃった!もう一度いいですか?」 と苦笑しながら言ったのだった。 私は、ライアンがNGなんて珍しいな…と思って彼を見た。 するとライアンはニッコリ微笑んで、私の耳元で、「いまのうちに台本見るといいよ」 と言ってきて、私は驚いた。 そして今のNGは、わざとだったんだ…と気づいたのだ。 ――私をかばってくれるために… それから私は必死にセリフを覚えて現場に入った。 ライアンに迷惑をかけたくないと思ったから。 その、おかげで私は緊張する暇もなくなり、スムーズに自分の役を演じる事が出来た。 そしてやっとクランクアップをした後、打ち上げのパーティーで、ライアンが 「よく頑張ったな!お疲れ様」 と頭を撫でてくれた時、私は凄く嬉しくて涙が出そうになった。 胸がギューっとなったのを覚えてる。 その時…私はライアンの事が好きなんだと初めて気づいた…。 思い返せば…あんなに頑張れたのもライアンが側にいてくれたから…彼に迷惑をかけたくなくて毎日そんな事を考えてたんだった。 それも全て彼の事が好きだったからなんだ…。今更ながらに気づいて私は動揺してしまった。 そのパーティーの帰り、ライアンが私の家と方向が一緒だった事から自分の車で送ってくれた。 もうこれで毎日彼に会う事がなくなるんだ…って思うと、せっかく二人でいると言うのに何も話せなくなってしまって… 連絡先くらい聞こうか…と思ってると、すぐに家についてしまった。 私はやっぱり何も言えなくなってしまって、「…送ってくれて…ありがとう」 というのが精一杯。 そして車を降りようとしたその時―― ライアンが私の腕を掴んで、ちょっと照れくさそうに微笑んだ。 「あの…さ。 また会えないかな…?」 その一言が嬉しくて、でも恥ずかしくて顔が真っ赤になったけど黙ったままコクンと頷ずいた。 ライアンは嬉しそうに微笑み私の手を握ると「…好きなんだ。 のこと…」 と言ってくれた。 「最初は緊張してるが何だか、ほっとけなくて…俺がフォローしてあげたいなって思ってた。 でも、は一生懸命に頑張ってただろ?そりゃもう必死にさ。 そんなを目で追ううちに気づいたら凄く好きになってたんだ…。 撮影も終って、このまま会えなくなるのは嫌だって思ったから…今日はちゃんと自分の気持ちを言おうと思ってた」 そのライアンの告白に私は嬉しくて涙が零れそうになった。 彼は私の瞳を見つめて、「は…俺のこと、どう思ってるの?」 と不安げな顔で聞いて来た。 私は何もかもが初めての事で、何て答えていいのか分からなかった。 それでも何とか深呼吸をすると、 「…私も…ライアンの事が…ずっと好きだったの…」 と生まれて初めて告白というものをした。 私は顔が一気に熱くなって顔を上げることすら出来ずにいた。 でもライアンは、私の告白に、「…ほんとに?!」 と心底驚いた顔で私の顔を覗き込んできたっけ…。 私がもう一度頷くと、「…俺…絶対に断られるって思ってたよ…」 と呟いた。 今度は私が驚いて、「…え?ど、どうして?」 と顔を上げると、ライアンは苦笑しながら、 「いや前にさ、と俺とで一緒にインタビュー受けてる時に理想の男性は"兄のレオとジョシュを足して、二で割ったような人"って答えてたろ? 俺、それを横で聞いてて、そりゃ無理だよって思ったんだ…。だってあの二人に勝てるわけがないからさ」 ライアンは苦笑しながら言っていた。 その言葉に私は思わず、「でも…ライアンは二人と似てるわ?凄く優しい所も一緒にいると安心する所も…」 と言って微笑んだ。 ライアンはそれを聞いて凄く嬉しそうな顔をすると私を抱き寄せた。 「そんな風に言って貰えて…俺、今凄く幸せだよ…」 初めて兄意外の男の人に抱き寄せられて、ビクっとなった私の頬に優しくキスをしてくれた。 顔が真っ赤になった私を見てライアンは、 「これから…二人で、ゆっくり付き合っていこう?焦らず…。俺はを大事にしたいんだ」 と、言ってくれた。 私はその言葉が嬉しくて思わず涙が零れてしまったのを覚えている。 ライアンが驚いて、あたふたしてるのを見て、すぐに吹き出してしまったのだけど。 それからは家族の皆に内緒で、こっそりデートを重ねてきた。 家族の皆にバレると凄く心配すると思うし、きっとライアンに迷惑をかけると思って言えなかったのだ。 「俺は何を言われてもいい。真剣なんだしお兄さんたちもちゃんと話せば分かってくれるんじゃないかな」 と、彼は言ってくれたけど私はどうしても家族には話せなかった。 いつかはバレてしまうかもしれないけど…今はまだ私もデビューしたばかりで色々と忙しくもなった事で、 兄たちを説得するまでの心の余裕もなかったのだ。 レオやジョシュは様子がおかしい事に気づいて色々と心配をしてくれてたけど私は「仕事が忙しい」 と言って誤魔化していた。 やっぱり付き合い始めた当初はずっと一緒にいたくて彼の家に泊まったりもしていたから。 泊まっていたと言っても体の関係はなかった。 それはライアンが、まだ18歳の私を気遣い、「がハタチになったらね!」 なんて冗談めかしてだけど本心から言ってくれたからだ。 私はライアンの、その気持ちが凄く嬉しくて、ますます彼の事が好きになっていった。 そしてお互い忙しい中でも、順調に付き合っていって、二年後の私のハタチの誕生日に初めて彼に抱かれた…。 その時にライアンは、「もう少し、俺が俳優として成長したら、俺と結婚して欲しい」 とプロポーズまでしてくれて…。 私は嬉しくて幸せで、蕩けてしまいそうなくらいの愛を感じていた。 そして丁度、その頃にまた私とライアンの共演する話が飛び込んで来たのだ。 二人で「何だか照れるね」 と、お互いに言いながらも毎日会えるのはやっぱり嬉しかった。 だけど…それまでも些細なケンカの原因になっていた兄たちにライアンを紹介するという話で、この作品のクランクアップの日に大ゲンカになってしまった。 ライアンにしてみたらプロポーズもして結婚を前提として付き合ってるのにどうして、まだお兄さんに話してくれないんだ?と思っていたようだ。 私が、「もう少し待って…」 と言っても、「また、それかい?いつまで待てばいいの?」 と怒ってしまった。 そして、初めて私を置いて一人先に、打ち上げパーティーの会場へと行ってしまった。 私は行きづらかったが他の共演者に最後の挨拶もしたいしと一人で遅れてパーティー会場へ向った。 だけど会場にはライアンの姿はなく、先に帰ってしまったという。 私はデビュー作と同様、この作品でも共演して、普段も色々と相談に乗って貰っていたサラと二人でその日は大人しく帰ってきた。 そして次の日、ライアンに電話を入れてみたけど、繋がらず、その後も連絡が取れない日が続いた。 そのまま一ヶ月も連絡が取れなくて不安になった私は、やっとオフをとってライアンの家まで行ってみた。 何度かインターホンを鳴らしても出てこないので留守かと諦めて帰ろうと振り向いた時… ライアンが女の人と二人で歩いて来て、私は愕然とした。 その女性は、つい先日クランクアップした映画の共演者の女性リリーだった―― 私が泣きながら問い詰めると、ライアンは、リリーを帰し、私を部屋の中へと入れて重い口を開いて説明してくれた。 あのケンカをした日…ライアンはパーティー会場へ行ったが楽しめず、一人帰ろうとしていた所へ、リリーが声をかけてきたという。 「前から、あなたのファンだったの。共演できて嬉しかったわ?」 と―― ライアンは私とケンカをしてイライラしていた事もあり、リリーを誘って二人で飲みに行ったようだ。 そして彼女に誘われるまま関係を持ってしまった。 その後にも何度か会ったと言うが彼女は私とライアンの関係を知っていたようで、「また会ってくれないと、に全て話すわ」 と言われたらしい。 それでこの日も彼女と会っていた。 「どうしてもに連絡できなかった…。バカな事をしてしまって…それでもを失いたくなかったから――許して欲しい…」 とライアンは言った。 でも私はどうしても、この場で彼を許す事ができず、そのまま部屋を飛び出した。 その後、彼から何度も電話がきたが私は無視し続けた。 初めて裏切られて、どうしていいのかさえ分からなかったから…。 私は仕事以外には外出さえしなくなって家にこもりっきりになった。 それでもライアンは、留守電にメッセージを入れ続けてくれてた。 "…君を愛している。許して欲しい…" "君を失いたくない…。頼むから声を聞かせてくれないか…?" それを聞いて何度も電話をかけようと思ったが、まだ彼の顔を見る勇気がなかった。 でも半年も過ぎた頃、気持ちも、だいぶ落ち着いてきた。 そんな時、またライアンから連絡が入った。 その時、私は会わなくなって以来、初めて電話に出て久々に彼の声を聞いた。 「…?やっと出てくれたね…」 その声を聞いた瞬間、涙が溢れてきて、やっぱり私は彼を愛していると最確認した。 「…ライアン…もう、いいから・…今すぐ会いたい…」 この時、素直にそう言えた。 だがライアンから返ってきた言葉は… 「…ごめん。もう…会えないんだ…」 「え…?」 私はその意味を考えて一瞬言葉を失った。 するとライアンは溜息をついて言葉を続けた。 「…彼女…妊娠してたんだ…。でも昨日流産して僕の所に病院から連絡がきた…。携帯で最後にかけた番号が俺だったらしくて…」 「どういう…こと…?」 私はライアンの最初の説明だけで頭の中が真っ白になっているのに、そんな言葉がつい出ていた。 「俺も昨日知ったんだけど…彼女…俺に内緒で産もうとしてたらしい…迷惑かけたくないからって。それでもストレスや疲労で倒れた時に…お腹の子も…」 ライアンはそこで言葉を切ると思い切り息を吐き出しこう言った。 「俺…責任とって…彼女と結婚…するよ」 「ライアン……?」 ――何を言ってるの?!そう叫びたいのに声が出ない… 「ごめん…こんなにを愛しているのに…約束…守れなくて…」 ライアンは電話の向こうで泣いているようだった。 私は、その場に一人、取り残されたような絶望感を感じていた―― それからは私は食べる事もままならなくて、相変わらず仕事以外ではあまり出かけなくなって行った。 レオとジョシュは何かを感じたのか、今まで以上に心配して、私を元気付けてくれようとした。 でも私は…どうしても胸の痛みから逃げ出せないでいた。 サラだけには全てを話していたので、よく心配をして家まで遊びに来てくれたりした。 「いつか…時間が解決してくれるわ?」 サラはそう言って私の頭を優しく撫でてくれた。 私は本当にこの胸の痛みが、いつか消えてくれるんだろうか?と思っていた。 でも…サラの言った通り、時が経つに連れて少しづつ痛みは薄れていったように思う。 ただ――テレビや雑誌で彼の顔を見ると、傷口が開いたかのようにズキズキと痛み出すのだけど…。 だから暫くはテレビも見なかった。彼の結婚の話題も見たくなかった。 私とライアンは本当に慎重に付き合っていたから私達の事を知る人はほんの僅かだったしマスコミにもバレずに済んだのだけど…。 初恋は実らないとは…よく言ったものだ… ライアンは私にとって何もかもが初めての人だった。 本気で好きになったのも、告白したのも、告白されたのも、キスしたのも、ベッドを共にしたのも… そしてプロポーズされたのも…何もかもライアンが初めてだった― そんな人を、どうやって忘れろって言うんだろう? もう…手の届かない所へと行ってしまったのに…。 それからは私は仕事に打ち込んだ。オフをとる間もなく必死に頑張った。 そのうちちゃんと笑えるようになって、食事も出来るようになって一年を過ぎた今、やっとライアンと出会う前の私に戻れた気がする。 ――私は気づけば暫く手のひらにある奇麗に光る指輪を見ていた。 それは、かつて愛したライアンからの初めてのプレゼントだった。 東京行きの用意をしておこうと、クローゼットの棚から旅行バッグを取ろうとした時、 奥に隠してあったボックスが手にあたり落ちてきて、中身が散乱してしまった。 私は慌ててあちこちに飛んだ物を拾おうとして、ふと手が止まった。 それはライアンに関する物ばかりだったから―― 見るのが辛いのと家族の皆にバレないように、このボックスに入れて奥へと隠したものだ。 共演した時の映画のビデオやDVD,一枚だけ二人で撮った写真、そして…その中で光るものを見つけて私は手にとったのだった。 "好きな子に…指輪をあげるのが夢だったんだ…" そう言って恥ずかしそうに私の指にこの指輪をはめてくれたんだった。 この指輪を手にとった時、一年以上も前の事が鮮明に思い出された。 出会いと別れ…彼が言った言葉の一つ一つを…。 私は暫くの間、知らず知らずのうちにボーっとしていた。その時―― コンコン… 「?いるの?」 いきなりノックと声が聞こえて私は慌てて落ちたものをボックスへとしまうと、また同じ場所へと隠した。 そして、すぐに部屋のドアを開けると、そこには優しい笑顔で立っているジョシュの姿があった。 「あ、ジョシュ…お帰りなさい!」 「ただいま…。どうした?何だか暗い顔して」 「ううん…!ちょっと荷物詰めるのに、持っていくもの決まらなくて困ってただけ…」 私はジョシュが心配しないように笑顔で、そう言うと、「ジョシュこそ、どうしたの?」 と、そっとジョシュに抱きついた。 ジョシュは優しく私の頭を撫でながら、 「いや、帰って来たらが上に行ったきり下りてこないってリジーが言ってたから、ちょっと様子を見に来ただけだよ?」 私はクスクス笑うと、「そんな心配しないで?私だってもう21歳なんだから」 と言ってジョシュを見上げる。 ジョシュはちょっと笑うと私の額へキスをして、 「の好きな"マーマレード"のレモン・メレンゲタルト買って来たから一緒に食べようか」 「…え?うそ!あれ、いつも売り切れてて、なかなか買えないのよ?」 「俺が行った時、ちょうど出来たてを店頭に出してる所だったんだ。だから速攻で買って来たよ」 「うわぁ!嬉しい!ありがと、ジョシュ!」 私はジョシュの腕を掴んで、「早く下に行こう」 と引っ張って階段へと歩いて行った。 ジョシュも苦笑しながら、 「分かったから。そんな急がなくてもタルトは逃げないよ?」 「だって〜オーリーが戻って来たら食べられちゃうもの!」 オーランドもこのタルトだけは大好きで、一つなんてペロっと食べてしまう。 そして食べるのが遅いを見て、「ちょっと、ちょうだい?」 と言ってフォークを伸ばし毎回に怒られている。 リビングへ行くとイライジャが、私達の分も紅茶を入れてくれていた。 「あ、、戻ってこないから、てっきり寝ちゃったかと思ったよ」 イライジャは笑いながら言ってきた。 「まさか!ちょっと持っていくものに悩んでただけよ?」 私はそう言うと、キッチンへお皿を取りに行き、ジョシュが買って来てくれたレモンタルトをお皿に乗せていった。 そしてフォークを探しているとジョシュがひょこっと顔を出す。 「、手伝おうか?」 「あ、ジョシュ…フォークが見付からないの。エマは今日は友だちと出かけちゃったし前に置いてあった場所になくて…電話して聞こうかな?」 「ああ、エマが、この前掃除してたからちょっと別の場所にしまったんだろ。そういや…昨日オーリーが使ってたな…」 と言った瞬間、玄関の方から、「た〜だいま〜!」 と元気な声が聞こえてくる。 「あ…帰ってきた! ――おい、オーリー!!」 ジョシュが大きな声で呼ぶと、オーリーもキッチンへと入って来た。 「あ、、ただいま〜!」 「お帰りなさい!オーリー」 そう言うとオーリーは私を抱きしめ頬にキスをしてくれる。 すると後ろで、「コホン!」 とジョシュが咳払いをした。 「あれ?ジョシュ、いたの?」 と、オーリーは驚いた顔。 ジョシュはオデコが、ピクっとして、「俺が今、呼んだんだろう?!」 とオーランドにデコピンをしている。 「ぃだっ!んもぅ…!帰って来た早々デコピンするなよ…。で?何?」 「オーリー、昨日フォーク使ってただろ?あれ、どこにあった?前の場所にないんだよ」 「ああ、フォーク?俺もエマに聞いたんだ。えっとね、そこの右にある小さな引出しに移動したんだってさ」 「あ、前にストローとか入れてた場所か」 ジョシュはそう言ってオーリーの言った引出しをあける。 「あ、あった、あった」 ジョシュは4個フォークをとると、お皿に置いた。 オーリーは、「わぁ、"マーマレード"のレモンタルトだ!」 と目ざとく見つけた。 手を伸ばそうとしたのをジョシュが、ピシャっと叩き、「お前は一つだけだからな?」 と釘を刺した。 「ええ?そんなぁ…一つじゃ足りないよ…」 とオーランドは途端に悲しげな顔。 はクスクス笑いながら、「早く食べようよ。出来たてらしいから」 と言って、トレンチにお皿を乗せてリビングへと運んでいく。 リビングへと戻るとイライジャはビーズクションに座り寛ぎながらアニメの映画を大音量で見ていた。 「リジー!音、下げろよ?うるさいから」 「ええ?そりゃないよ、ジョシュ〜…。音小さいとミニシアターの意味がないよ?!」 この家のテレビは壁一面というほど画面もハンパじゃなく大きいがそれに高音質のステレオが4つ取り付けられており、ちょっとしたミニシアターとなっている。 これも俳優一家という感じだろう。 「だって大きな声出さないと会話が出来ないんだよ…」 ジョシュに、そう言われてイライジャも渋々、音量を下げる。 「全く…だから別にシアタールーム作ろうって言ったんだ。それを父さんがそんなもの作ったら、そこに皆が代わる代わる居座って リビングでの家族の団欒がなくなってしまうとか言っちゃってさ。つか、自分が家に戻って来るのが少ないクセによく言うよなぁ〜…」 イライジャはブツブツ文句を言いながらソファーの方へと歩いて来て、ボスンと座った。 私はクスクス笑いながら、「そんなに怒らないで?はい、タルト」 とリジーの前に紅茶とタルトのお皿を置いてあげる。 「ありがと!」 リジーは私の頬に軽くキスをすると、「じゃ、ジョシュ、頂きま〜す!」 と言って美味しそうにタルトを食べ始めた。 私もジョシュの隣へと腰をかけて、「いただきます」 と言ってから大好きなタルトを一口、食べた。 「ん〜!美味しい!久し振りに食べたな!」 「俺もだよ?出来たてだと、やっぱ美味しいな」 ジョシュは普段はそんなに甘いものは食べれないがこのタルトだけは、に教えて貰ってハマったのだった。 「あ〜美味しかった!」 いきなり、そんな声が聞こえて、私とジョシュ、そしてリジーの3人は恐る恐るオーリーの方を見てみた。 すると、いつの間に食べたのか、お皿の上のタルトが奇麗さっぱりなくなっている。 「おま…っ。もう食べたの?はぇ〜よ!」 ジョシュが呆れ顔でオーランドの頭をこづいた。 「だって美味しいものは一気に食べちゃうだろ?」 「だからって…あ、俺のはあげないよ?」 「ええ〜…ちょっと…一口だけ…?」 「やだよ!」 私は、そんな二人のやりとりに苦笑しながら、「ねぇ、リジー。シアタールーム、私達で作ろうか?」 と声をかけた。 黙々とタルトを食べていたリジーは驚いて顔をあげる、 「え?作るって…だって父さんが反対しただろ?映画見るならここで見ろって」 「うん…。でもやっぱり大きな音で見たいじゃない?それにはリビングだと限界あるし…。だからこの奥に作りたいって、もう一度父さんに頼んでみようかなと思って」 「そりゃぁ、僕は作りたいけどさ…大丈夫かなぁ?」 リジーは、まだ不安げな表情だ。 「私、必死に頼んでみるわ?それに皆でお金出しあって作るのはどう?そしたら言いやすいし…」 「ああ、そっか!いいね!皆でお金出しあって作ればいいんだ!」 「でしょ?それでも反対されたら…団欒って言ってもお父さんは、いつもいないじゃない…って言っちゃうし」 私はちょっと笑いながら、紅茶を飲んだ。 「アハハ!それ、いいね!それに父さんはには甘いしOK出すかもな。前は僕とオーリーで頼んだからさ」 「私もちゃんとした個室でノンビリ見たいし…今度、父さんが帰って来たら早速頼んでみるわ」 「やった!心強い味方が出来たよ」 そう言うとリジーは最後の一口を頬張った。そこへ―― 「何?何の話?」 とジョシュがタルトをオーリーにあげないまま(!)食べ終わり、私とリジーの方へ聞いてきた。 「あのね、皆でお金出しあってシアタールームを作ろうかって話してたの」 「え?シアタールーム?でも、それ父さんが反対してただろ?」 「いいの、いいの!何とか私が説得してみるから」 「そっか!が涙目で頼み込めば、きっと父さんも渋々OK出すよ!」 と、オーランドは笑いながら私の頬へとキスをして言った。 「泣く演技だけは任せて」 と私も笑う。 「でもさ、僕ら来週からプロモーションだろ?父さん、それまでに帰って来るかな?」 イライジャが少し心配そうに呟く。 「大丈夫よ。今回は皆が出ちゃうし、お父さんきっと一度帰って来くるわ?寂しがり屋だし」 私がそう言うと、玄関の方でドアの開く音が聞こえた。 「あ、誰か帰って来た!父さんかな?」 イライジャは身を乗り出してドアの方を見ている。 するとリビングに入って来たのは、レオだった。 「ただいま…って何で皆でこっち見てるの?」 「あ、お帰り!レオ!」 私は笑顔でレオの方まで行くと、レオは笑顔で、「ただいま、」 と私の額にキスをしてくれる。 「なぁんだぁ〜。レオか…」 「あ?何だよ、リジー。俺だとダメなのか?」 「違うよ…もし父さんだったら話があったんだよ。ね?」 レオは不思議そうな顔をして私を見ると、「何?何の話?」 と聞いてきた。 「あのね、皆でお金を出し合ってシアタールームを作ろうかって話してたの」 「え?シアタールーム?」 レオはちょっと驚いた顔をした。 「そう。ここだと皆が一緒にいれるけど映画を見る時に他に見てない人がいたら音量とか気を使うでしょ? だからやっぱり映画鑑賞用の部屋が欲しいねって話してて…」 「ああ、そっか。でも父さんがなぁ…。――もしかしてが説得するのか?」 「ご名答!」 オーリーが笑いながらレオに言うと、レオも苦笑して、「やっぱりな…」 と呟いた。 レオは、そのままテレビの前まで来てクッションに座ると、「そこの壁、ぶち抜いて部屋作って貰うのもいいかもな」 と壁を指出す。 「そうでしょ?この奥はスペースあるから広い部屋が作れそうよね!」 私はそう言うと、ソファーに戻って残りのタルトを食べてしまい、皆の分のお皿を片付けた。 「あ、俺も手伝うよ」 とジョシュが半分、お皿を持ってくれる。 「ありがとう」 (ほんと、優しいなぁ、ジョシュは…) 私は心の中でそう思いながらチラっとジョシュを見上げた。 ジョシュは レオの方に振り向き、「レオもタルト食べる?」 と聞いている。 「いや…俺はいいよ。ちょっとお腹いっぱいでさ」 「そうか?じゃ冷蔵庫に入れとくよ」 「サンキュ!」 ――そのやりとりを聞きながら、私はそっと微笑んだ。 (ちゃんとレオのことも気遣って…こういうとこ凄く尊敬しちゃうな…) ジョシュは24歳ながら本当にシッカリしてるし頼りになる。 どうして恋人を作らないんだろう?って、いっつも不思議に思う。 前の彼女と別れてから…ジョシュは忙しいからと言って恋人を作ろうともしていない。 この前も聞いたけど上手くはぐらかされたような気がするし… あんなにモテるのに…ちょっとドジなとこやテレ屋なとこも、また魅力の一つだし。 私から見てそういう面は長男のレオと少し似ていると思った。 レオもまた凄く優しくて私をいつも守ってくれる。 何があろうと、私との約束を優先してくれるし、まるで恋人のように側にいてくれて… クールな面とテレ屋な面がミスマッチで、またそれが魅力を感じるとこだ。 今は特定の恋人はいないみたいだけど…きっと本気で好きになれる人を探してるのかな?なんて思ったりする。 私はいつも…つい、この二人に甘えてしまう。 二男のオーリーも本当に優しい。 ちょっとテンションが高くて、皆に邪魔者扱いされているけど、それもまた愛情の裏返しなんだ。 たまに振られたぁ〜って泣きついてきて二人で飲み明かしたりもして…そうすると次の日、オーリーはケロっと起きてきて、いつも通りの元気な笑顔を見せてくれるのだ。 オーリーは我が家のマスコットみたいな感じで、その場を明るくしてくれる。 私はオーリーから、いつも元気をもらっている気がするんだ。 リジーは同じ歳というのもあって一緒にいて凄く居心地がいい。 お互いの考えている事が手にとるように分かる時があるし、趣味も合うので話していると時間を忘れてしまう… リジーも年上の彼女と別れた後はずっとフリーのまま。 何だか色々なお姉さま連中からアタックされているらしいのに、何で恋人を作らないのかが不思議だ。 リジーは凄く大人っぽくなったし、やっぱり恋人は年上の方がいい気がするんだけど。 うちの兄さん達はモテるのになぁ…まともに恋人がいるのはオーリだけか。 ま、でもレオたちは、オーリーがいつ振られるかって賭けなんてしていたっけ… そうなったら、また優しく慰めてあげよう…(!) 父親のハリソンは、いつも恋をしていて逆に少し間を空ければいいのに…と思うのだが。 父もまた凄く優しくて暖かい人だ。 映画での役とは想像もつかないくらいに寂しがり屋で、ちょっとドジなとこもあるんだけどね。 ほんと…父さんに娘として育ててもらって…皆の家族になれて良かった。 父さんに話してもらった母さんのことも気にはなるのだけど・・・ 一度くらいは会ってみたいと…密かに思っている。 でも…私はずっと、この家族の中にいたかった。 突然、母さんが戻って来て…一緒に暮らしましょうって言われる事が怖かった。 実の親よりも…今の家族の方が、例え血は繋がっていなくても私には大切だから―― 私はキッチンで洗い物をしながら、隣で、お皿を拭いているジョシュを、そっと見て、ずっと皆の妹でいたいな…と心の底から思っていた…。
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