ハリソン一家のある日の風景 〜旅行前夜〜






ハリソン






私は困っていた。今、この状況に…。
目の前には涙で瞳をウルウルさせている愛娘…
その後ろにはマリア様に祈るように両手を組んで必死の顔で私を見つめている四男…
そのまた後ろで手を合わせて私を拝んでいる二男…
そのまたまた後ろで苦笑している長男と三男…。

いったい私のどうしろと?
いや、答えは分かっているんだ。
私が一言、"YES"とさえ言えばいい話なんだという事を。
ただ…もうすぐ我が子達が各国へとプロモーションの旅に出るので、その前に一目でも皆の顔を見たいと思い帰宅したのに…。
帰った早々、リビングに引きずり込まれたかと思ったら、子供たちに囲まれて、愛娘に抱きつかれ、

「お父さん!一生のお願い!あの壁をぶち抜いてシアタールームを作っていいでしょう?!」 

と言われてみろ。
…驚くぞぉ〜?
何て言ったって壁をぶち抜くと来たもんだ。
いくら私がハリウッドスターだからと言って、大事な我が家の壁をぶち抜く?!
そりゃ切ないぜってなものだ…。
しかし…可愛い娘に潤んだ瞳で、「お金は自分達で出すから!お願い、お父さん!」 とすがりつかれたら…
断る理由はないのだ。あ、いや別にお金をケチっているわけじゃない。
ただ…なかなか会えない家族が唯一、一緒に過ごせる空間が、ここリビングなのだ。
その大切なリビングの壁をぶち抜く…はぁ…。

シアタールームは確かに欲しい。
だが、もし皆が家に揃った時に、誰かがシアタールームにこもってたら? …寂しいじゃないか!
私は極度の寂しがり屋なんだ。
家族の誰か一人でも同じ家にいるのに、シアタールームに閉じこもられた日には…悲しくなってしまう。
あ、いや、しかし…そこは私も一緒に映画を見ればいいと言う事か?
そうしたら皆で一緒にいれるじゃないか…!そうか、そうなんだよ!いやいやいや…でもなぁ…。全員で同じ映画を見るかどうか…。
まあ、その辺はが言えば息子達は、決して"NO"とは言わないだろう…。そう、私と同じように…ついつい…YESと言ってしまうんだ。
どんな無茶な注文でも…。 

(まぁ、幸いは良い子に育ってくれて無茶な事は頼んでこない…今日の壁ぶち抜きの件を除いては)

ん?って事は何だ?私は今、この涙目で哀願している娘に、やっぱり、YES…と言わなくちゃならんのか?!
そうか…まあ、それも運命(?)だ。そうだ、きっと、そうなんだ…。
それにこんなに皆が必死に頼んでいるのに冷たく、"NO!"なんて言って「お父さんなんて大嫌い!」 なんて言われてみろ!
一生、立ち直れないぞ?私は…。 ああ…!嫌だ…。可愛い我が子達にプイっとそっぽを向かれるなんて…!
私は一人、心の中で嘆き、やっと答えを決めた。
チラっとを見ると、まだ潤んだ瞳で必死に、私にすがり付いている。
ああ…可愛いなぁ…。お父さんは、そんなに冷たくないぞ?よし、ここは太っ腹な父親というものを見せてやろう。


…分かったから…。放しなさい」 


と私は優しく微笑んで、の頭を撫でてあげた。

「え…?分かったって…?」
「うむ…。まあ…そのシアタールームの件だが…。好きにしなさい。お前たちで、どんな部屋にするのかとかも決めていいよ」
「ほんとう?!」

は嬉しそうな顔で私を見あげて来る。
後ろで哀願しつづけているリジーとオーリーも同じように瞳をキラキラさせていた。
私はそんな我が子達が愛しくなり、つい…

「お金も…お前たちが払わなくていい。父さんが全て持つからな」 

と言ってしまった(!)

「ええ?!いいの?!父さん!」

リジーが大きな瞳を、ますます見開いて落ちてしまうんじゃないかと思うほどの顔で私を見ている。

「ああ、いいさ。来月はバレンタインデーだし、お前たちへのプレゼントだと思えば安いものだ」
「うわぁーー!ありがとう!お父さん!!大好きよ?!」

がこぼれ落ちそうな笑顔で私に抱きついてきた。
顔がニヤケながらもの額へキスをすると、「分かったから…。父さんはちょっと疲れてるんだ、シャワーに入ってくるよ」 と言った。

「あ、じゃあ、私が泡風呂にしてあげるわ?お湯に使った方が疲れもとれるのよ?」
「そうか?じゃ、お願いしようかな?」

私はの好意に甘える事にした。
「じゃ、早く父さんの部屋行きましょ!」 とは私の腕を引っ張って行く。
「ハハハ…。待ってくれよ、」 と言いながら私は必死にについてリビングを出た。
は、すぐに部屋へと行くと、泡風呂を用意してくれる。

「はい、これでOKよ?」
「ああ、ありがとう」
「じゃ、出てきたら、父さん何飲む?ウイスキーのロック?ブランデーをクラッシャーにする?」
「そんなサービスまであるのか?」 と私は苦笑しながら、「じゃあ、ブランデーをクラッシャーでお願いしようかな?」 と言った。
は、ニッコリ微笑むと、「OK!じゃ、ゆっくり入って来て?」 と言って部屋から出て行った。

私はまだ顔がニヤケながらも、ああ…可愛い子達に育ってくれて、本当に良かった。
うちは血なんか繋がっていなくたって立派な家族だ。
どこの家族よりも負けない自慢の息子達と娘だよ…。
私は、お風呂につかりながら、目頭が熱くなり、そっと指で押さえた。

はぁ〜…気持ちいい…疲れが本当に取れる気がする。
今日、帰ると言って彼女には、嫌な顔をされたが…帰って来て良かった。
風呂を出れば愛娘が私のためにブランデーを用意してくれている…。

(ああ…私は世界一の幸せ者だ…!)

この時…私は感動に酔いしれていたのだった…。












レオナルド





全く…父さんと来たら…ほんっと期待を裏切らないよなぁ…
俺は苦笑しつつも、隣で喜んでいるオーリーとリジーを見ていた。
は、さっき二階から下りてくるなり、「お父さんのブランデー用意するわ!」 と張り切ってキッチンへ行ってしまった。
それをジョシュも手伝いに行った。
俺も手伝おうかと思ったが、何だか大の男が二人で父親の酒の用意をするのも何だしとやめておいた。
結局、金は父さんが出す事になったな。
まあ、これも俺の予想通り。
どうせ俺達が出すと言ったって、父さんは甘いからな…。
皆に哀願されて、冷たく断ったら皆から嫌い嫌い光線を出されるのが嫌だったんだろう…。
そうなると暫くは口を聞いてもらえないからな…。

前にが犬を飼いたいと言ったのに忙しくて誰も世話なんて出来ないだろう?と、父さんはの頼みを断った事があった。
それから一週間以上もに口を聞いて貰えなかった父は、かなりへこんでいた。
そして悲しみも限界となった頃、渋々、「…好きな犬を飼いなさい」 と言った。
だが、その頃にはも冷静になっていたので、

「ううん…やっぱり父さんのいう通り、忙しいと皆が世話できないから犬も可哀相だし、やっぱりやめるわ」 

と言ったのだ。
父さんは心底、ホっとしていたのを覚えている。
あれは…がまだ13歳くらいの頃だったか…。
ま、とりあえずはシアタールームを好きな様に作っていいということだった。
皆で相談して部屋の間取りとかを決めようか…。


「ねぇねぇ。レオ!どうする?業者に頼んでデザインしてもらう?それとも自分達で、こんな感じって間取り出す?」 

リジーとオーランドは、すでにシアタールームの事で頭がいっぱいのようだった。
俺は苦笑しながら、

「ああ、そうだな…。簡単な間取りは自分達でやろう。それを業者に説明して、設計してもらえばいいんじゃないか?」
「そっか、そうだね!あ〜でも嬉しいよ!早く作りてぇ〜」 

リジーはウキウキした顔で喜んでいる。
俺はふと思い出し、

「なあ、喜んでるとこを水を刺すようで悪いんだけどさ…どうせ業者に頼むのもプロモーションが終ってからだろ?
まだ、だいぶあるし全ては帰って来てから皆で決めないか?」
「あ…そっか…。それがあったんだ…。ああ・…ますます面倒くさくなったよ…」

イライジャは溜息交じりでソファーへと腰を降ろした。

「ほんとだねぇ…。一ヶ月は、あちこち回らないと…。それまで、シアタールームの設計はおあずけって事かなぁ」

オーランドも、ガックリと項垂れて向かいのソファーへ寝転がった。
俺はちょっと笑うと、「ま、俺は日本で、大いに遊んで撮影に入るとするよ」 と言って、ソファーから立ち上がった。

(俺も何か飲もう…)

ヒョコっとキッチンを覗くと、とジョシュが仲良さそうに話している。
はジョシュが氷を使ってクラッシャーにしているのを見ているようだ。

(ああ、あれは、かなり力がいるからな…)

ジョシュが手伝うって、この事だったのか。

「うわぁ、やっぱりジョシュがやる方が早いね?私なんて押さえてる手が震えちゃって、なかなか回らないんだもの」
「そりゃ仕方ないよ。これ電動を買えば早いじゃない?何で、こんな古いの使ってるのかな」
「私も使う度に、いつも電動の買おうと思うんだけど、これって普段使うものじゃないから、つい忘れちゃって…」
「さ、出来た!」
「わぁ、ありがとう、ジョシュ!」

は笑顔でジョシュに抱きついている。
俺は、ジョシュの嬉しそうな顔に、ちょっと笑ってしまった。

「あれ?レオ?」

声が聞こえたのか、が俺の方を見た。

「ああ、俺も何か飲もうかと思ってさ」

そう言いながら、キッチンへと入っていくと、が笑顔で、


「ブランデー飲む?ジョシュが、こ〜んなにクラッシュ作ってくれたの」
「ああ、じゃ貰おうかな。ジョシュは?」
「俺はブランデーはいいよ。頭痛くなるんだ。俺は…ちょっと部屋でプロモーションの用意してくるよ。まだ終ってなくてさ」
「そっか!俺も後でやらないとな…。明日の夜だもんな、日本行きは」
「そうよ?レオ、まだなの?手伝おうか?」

が俺を見上げてくる。

「そう?じゃ、お願いしようかな?」
「OK!じゃ、今やっちゃおうよ」 

と俺の腕を引っ張る。
俺は苦笑しながらもクラッシャーアイスで一杯のブランデーグラスにブランデーを注ぐと「分かったよ…。じゃ、飲みながらね」 と言っての頭を撫でた。
ジョシュも笑いながら先に二階へと行く。
は一度リビングへ戻ると、オーリーとリジーに、

「ちょっとレオの荷造り手伝ってくるね?お父さんがお風呂から上がったら冷凍庫にクラッシュ入ってるからブランデー入れてあげて?」 
「ラジャ〜!」 

とオーリーがおどけて答えた。
それに安心したのか、は笑顔で俺のとこに戻ってくると「さ、行こ?」 と階段を上がっていく。
俺も、それに続いて自分の部屋へと向かった。





「ああ〜レオったら凄く途中じゃない?」 

と俺の旅行用の鞄を見て笑っている。

「まあね…何を持っていこうか悩んでたら手が止まっちゃってさ」

俺はベッドに腰をかけてブランデーを飲んだ。

「そっかぁ〜。あのね、今時期は日本は凄く寒いんだって。だからコートとか持っていった方がいいってリジーが言ってたよ?」
「ああ、そうだな。日本の二月は一番寒いだろうし…ま、足りなかったら向こうで買うよ」
「それでもいいけど…日本って何でも揃ってるってほんと?」
「ああ、ほんと何でもあるよ。俺たちが行く東京は日本の首都だし、都会だからね」
「トーキョーなら聞いた事があるわ!でも、ほんとに今でもサムライがいるの?あ、あとニンジャ!!着物とか着てるのかな?」

俺はそれには吹き出してしまった。

「誰から聞いた?そんな事はないよ?今は皆が普通に洋服着てるし、サムライみたいな髪型の人なんていないしさ。着物着てる人もいる事にいるらしいけど…パーティーの時に何人か見たくらいかな?」
「何だ、そうなの?オーリーったら大げさに言うんだから!日本映画の見すぎよねぇ?」 

は頬を脹らませて怒っている。

「ああ、オーリーが言ってたの?あいつ、バカだねえ〜、相変わらず!」 
「オーリーも今回、日本初めてだしさ、誰か友だちに騙されたんじゃないの?」
「あ、そうなのかな…?でも着物って前にテレビで見た事があるけど、あれ奇麗よね?私も買ってこようかな?」
「そうだな!なら似合うよ。だって日系人なんだしさ。の奇麗な黒髪にも似合うだろ?」
「そう思う?」

は、おずおずと聞いてきて俺は、そんなが可愛くて、ベッドを立つとの隣へと座った。
そっと頬にキスをすると、「そりゃは何でも似あうよ!この前の誕生日に着てた黒のドレスも似合ってたしさ?」 と微笑んだ。

「…そう?」
「そうだよ?だって皆、見惚れてたろ?オーリーもジョシュも、リジーも。ついでにドムやヴィゴもだけどな」 

そう言って苦笑すると、「でも…何も言われなかったし…ちゃんと誉めてくれたのはレオとオーリーだけよ?」と少し悲しげに呟く。

「それは皆、照れてたんだろ?ジョシュもリジーも顔が赤くて、しどろもどろだったしな〜。ドムとヴィゴは口開けてたから誉めるの忘れてたんだろ?」

ブランデーを飲みながら、の頭を撫でると、はキョトンとした顔で「でも…何で、あの二人が照れるの?」 と首をかしげている。
俺は思わず吹き出すと、「さあね!女性のドレス姿を見慣れてなかっただけだろ?」 とジョークで言ったのだが、
は、「そうなんだ〜」 と別に深く考えてないようだ。

(全く…が鈍感で助かるよ…)

俺は心の中で苦笑しながら、そう思っていた。
ドムやヴィゴがあんなに熱い視線を送っているのに、ちっとも分かっていなかった。

まあ…ドムは分かるとして…ヴィゴが何で20も歳の離れたに…!
父さんじゃないけど、気をつけなくちゃな…。
まあ、ヴィゴも年齢差を気にしてるって言うし、まさかドムみたいに、いきなり告白するとかは言わないだろうけど…
今のまま、言えなくて態度に出してるくらいなら、は気づかないし安心なんだけど。

は真っ直ぐな子だ。
だから遠まわしな言葉や態度では相手の気持ちは気づかないらしい。
ちゃんと口に出さないと、にとっては何もない事と同じなんだ。
例えば、友だちから、彼、あなたに気があるみたいよ?と言われたって、本人から言われない限り、は信じないんだ。
に変な小細工は通用しない。
ストレートに言ってあげるのが一番なんだ。
俺は一生懸命、俺の荷物を鞄に入れているを見て、そっと微笑んだ…。
ずっと…この家にいて欲しい…。そう思いながら――











ジョシュ




「はぁ…荷物詰めるのが一番、面倒だな…」

俺はボソっとつぶやくと一旦、手を止めた。
そして煙草へと火をつけると、ベッドへと寝転がり、思い切り煙を出す。

はぁ…明日は…監督と一緒か…と言うか、オーリーとリジーも同じ飛行機なんだっけ。
レオとは…その後の便だと言っていた。
どうせなら一緒でいいのにさ。
ま、何時間かで、また合流だろうし…飛行機では寝ていこう…。時差ボケで日本でダウンしたくないしな…

僕は、そんな事を考えつつ、体を起すと煙草を灰皿に押しつぶした。

「さて、と!サッサとやるかな…」

そう呟いた時、ノックの音が聞こえた。

「はい?誰?」

僕がそう言うとドアがちょっと開き、が笑顔で顔を出した。

「終った?ジョシュ」
。いや…まだ、かな?」 

と僕は苦笑すると、はクスクス笑いながら部屋へと入って来た。

「そんな事だろうと思って手伝いに来たよ?」
「あれ?レオは?終ったの?」
「うん!バッチリよ。今は下で父さんと久々に一緒にブランデー飲んでるわ」
「そっか。オーリーとリジーは?」
「何だかシアタールームの間取りを紙に書きながら盛り上がってる。気が早いわよね?」

は、そう言って笑うと僕の服をたたみながら楽しそうに鞄へと詰めてくれている。

「あ、ありがとう…」 

俺はついボーっと見ていて自分の手が止まっていた。

「ううん。あ、ジョシュ、帽子は?これにする?」 
「あ、うん。もう一つ…これも持ってくよ」

はちょっと笑うと、

「ジョシュは前にも日本に行ってるし、皆知ってるのよね?ジョシュは身長が高いから前回の時も、帽子かぶってサングラスしてても、すぐバレたって言ってたね?」
「ああ、ロドリゲス監督も身長高いからさ…でかいのが二人歩いてると目立ってたみたいでさ?だって日本人は、結構男も身長が、そんなに高くないんだよ」
「そうなんだ。ま、私も小さい方だし、これもアジアの血かしら?」 

は笑った。
の、その言葉に俺はの母親の事を思い出していた。

父さんが言ってた…"いつか…迎えに来るから…"と言って姿を消したと…。
今更…戻ってなんて来ないよな…?あれから20年以上経ってるんだ…。

俺はが女優になると言い出した時、少し不安だった。
がテレビや映画に出て顔や名前が売れ出したら、どこかにいるの母親が迎えに来るんじゃないか…
そんな心配が、いつも付きまとっていた。
もちろん…今でも同じだ。
がこの家からいなくなるなんて考えたくもない。

「ね?ジョシュ。スーツは、どれ持ってく?お好きなアルマーニ?それともヴェルサーチ?」 は笑顔で聞いてくる。
俺は立ち上がって、そっとを抱きしめると、「ああ、アルマーニの…それでいいよ…」 と言ってすぐにを放して額にキスをした。
は少し首を傾げて微笑んだが、クローゼットから、俺のスーツを選んで、
「じゃ、これは?私、このスーツ着てるジョシュ好きなの」 と黒のアルマーニのスーツを手にしている。
「ああ、それでいいよ。あともう一着選んでくれる?」 と僕は微笑むと、も笑顔で、「OK」 と言ってスーツ探しを始めた。

「ね?ジョシュ。日本で美味しい食べ物ってなあに?」

がスーツを探しながら聞いてきた。

「ああ…食べる物か…やっぱ寿司とか…何だかリジーがヤキトリっていう食べ物が美味しいって言ってたな」
「ヤキトリ?何だろ…」
「何だかチキンを一口サイズにして、細い木に刺して焼くらしいんだけどさ」
「へぇ、チキンなんだ!それ食べたいなぁ〜」
「じゃ、あっち行ったらリジーの行った店、教えて貰えばいいさ」
「うん、そうしよう」

そう言うとは鼻歌を歌いながら、クローゼットの中を捜している。
僕は自分の荷物を詰め終わると、ベランダに出て煙草へと火をつけた。
真っ暗闇の中、遠くに見える門の向こうに数人の影が見えた。

(きっと暗視カメラとかで狙ってるんだろうな…。ったく暇な奴らだよ…)

僕は煙を吐き出しながら、手すりに寄りかかった。

「ねージョシュ?もう一着のスーツ、アルマーニのブラウンのにしたよ?スリムな方」

と、の声が聞こえた。

「ああ、OK!」 

僕はちょっと笑いながら返事をすると、時計を見た。
まだ夜の7時半…今日は皆、プロモーションのため、一日オフとなっていた。
なので父さんも帰って来たことで、こんな早い時間に珍し全員、揃っている。
ワインでも軽く飲んで今夜は少し早めに寝るかな…。

僕はそう決めて煙草を消した。

、ワインでも飲まない?」
「あ、飲む飲む!今日ね、美味しいウインナーとチーズも買ってきたの!食べようよ」
「ああ。じゃ、エマに頼む?」
「うん、じゃエマ呼んでこようかな」

は笑顔でそう言うと部屋を出て下へと下りて行った。
俺も、ゆっくり、それに続く。
そうだ…この前の好きなスペインワイン買ってきたんだっけ…今夜は、あれを開けてやろうかな…

そんな事を思いつつ、階段を下りて行った。












オーリー




「ここはどうする?ちょっと皆で寛げるスペース欲しくない?」

僕は、リジーと二人で書いたシアタールームの間取りの絵を指差して言った。
リジーも、「う〜ん…そうだなぁ〜…」 と悩んでいる様子。

「ここにスピーカー置くだろ?で…この辺にソファー置いて…このままだと少し狭いね?」
「だろ?だから、ここを、こう広げてさ?」
「ああ、この絵の上から、そんな書いちゃったら、分かりづらいよ!もう一枚書こうよ」

とリジーはもう一枚紙を用意して、また一から図面を書き出した。
僕はちょっと息を吐き出し、「図面とかって難しいよねぇ…」 と呟く。
するとリジーがクスクス笑いながら、

「そんな僕らみたいな素人が、簡単にキッチリ書けたら設計士さんとか仕事なくなるだろ?」 
「まぁ、そうだけどさ〜。簡単に書くくらいなら…と思ってたんだけどな〜」

僕は苦笑しながら、バドワイザーを飲んだ。そして父さんと何だか熱く語っているレオを見る。
ブランデー、しかもクラッシュで飲んでいるからか、二人ともすっかり出来上がっているようだ。
それでもレオは平然とした顔で飲んでいる。

あ〜あ〜…あの高いブランデー、コルトンブルーだっけ? 二人で速いペースで飲んでるし、もう空きそうだよ・…
明日、大丈夫なのかねぇ?父さんってば…。まだ撮影中なのに…。僕は知らないぞ…?まあ、レオは夜の便だから大丈夫として…。

「オーリー!ちょっと見て?これでいい?」

いきなりリジーに話し掛けられ僕は慌てて、リジーの書いた部屋の図面を見た。

「あ、そうそう!こんな感じでいいんじゃない?これなら寛げそうだしさ」
「そう?じゃ、これを業者に見せて、こんなイメージでって言って作って貰う?と言うか、まず皆に見せないとな…」

と、リジーが言った瞬間、すぐにジョシュとがワインのボトルを持ってリビングに入って来た。

「あ、ジョシュ。これ、ちょっと見て?も」

リジーが、早速今書いたばかりの図面を見せた。

「こんなイメージでどうかな?」
「ああ、いいんじゃない?広いしさ。 ―でも、このカウンターも持ってくのか?」

ジョシュはリビングにあるカウンターバーを見て言った。

「あ、いや。ここはここで置いておいて、この中のは、ミニバーを別に作ろうかって話しててさ。
映画見てるのに、いちいちリビングに出て来て酒作るのも面倒だろ?」
「ああ、そういう事か…ま、いい感じだな?」

ジョシュはワイングラスへワインを注ぐと、に、「はい、」 と渡している。

「ありがと! ―でも、こんな広いシアタールームだったら迫力ありそうね?」 

と、もニコニコと嬉しそうだ。

「そうだろう?これは俺の提案なんだ!」 

と僕はちょっと得意げに言った。

「何を偉そうに!」 

とジョシュは苦笑して僕の頭をこづいてくる。

「何だよぉ〜。一所懸命に考えたのにさ〜」 
「はい、はい!それより、まだ早いだろ?こんな事を考えるのは…。まずはプロモーションから帰ってこないとさ」
「でもさ〜ジョシュ、いい間取りが浮かんだら書き留めておかないと忘れそうだよ?」
「それはオーリーだけだろ?」

そこにリジーが皮肉で割り込んできた。

「うわ、やだね〜リジーは!だんだんレオに似てきたぞ〜う?」

笑いながら、そう言うと、そこはレオにも聞こえてしまったようで、「あ?何か言ったか?オーランド」 と睨んでくる。

「べ、別に…?」 

僕は済ました顔でバドワイザーを飲みほすと、もう一本取りにキッチンへと行った。
そこにはエマが何やら作っている様子で、手早くお皿に盛り付けていた。

「あれ?エマ…何を作ってるの?何だかいい匂い」
「ああ、オーリー。これが買ってきたウインナーとチーズよ?ワイン飲みながら食べるんですって」
「ふーん、そっか。も、美味しそうなの見つけると、すぐ買ってきちゃうもんな」

僕は笑いながら冷蔵庫を開けた。
「さ、出来た」 とエマは、トレンチに乗せて、それをリビングへと運んで行った。
何だかキッチン内には、美味しそうな香りが漂っていて、僕もお腹が空いてきた。

(今日は早めに夕飯、とりすぎたな…海外に行くと、色々と調節しないといけないし大変だよ…)

そう思いつつリビングへと戻ると、エマが丁度出て行く所だった。
は、そのエマが持って来たチーズを美味しそうに食べながら、ジョシュやリジーにも食べさせてあげている。
僕はニカっと笑うと、「〜僕にも!ちょうだい?」 との隣へと座るとジョシュに、「オーリー邪魔だろ?」 と文句を言われた。

「何だよ、ジョシュ〜。兄ちゃんに向って」
「だって暑苦しいだろ?そんなに、くっついちゃ…が可愛そうだよ」

そう、僕は、しっかり、と腕なんて組んで座っていたのだった。

「邪魔じゃないよね〜?My Little Girl!」 

と言うと僕はの頬へとキスした。
その時、僕の後頭部にクッションがぶつかり、僕は驚いた。

「ぃた!誰だよ?」

そう言って僕が振り向くとレオが怖い顔で僕を見ている。
どうせ、から離れろ光線を送っているんだ。
もう…は皆のなのにさ…
僕はそっと腕を放すと、溜息をついた。
その時、父さんがソファーから立ち上がり、

「そろそろ私は寝るよ。明日…と言うか今日の朝方に出なきゃ行けないんだ。明け方のロケなんでね」
「ええ?そうなんだ。つらいねぇ…」 

僕は能天気に答えると、「おやすみ、父さん」 と声をかけた。
それに他の皆も続く。

「おやすみなさい、お父さん!」
「おやすみ〜」
「おやすみ!」
「ああ、おやすみ。お前たちも明日は移動なんだから少しは早めに寝ろよ?」

「は〜い」 とが可愛く返事をする。

「あ、それと…向こうに着いたら全員、私の携帯に電話入れなさい。出なかったら必ず留守電にメッセージを残す事。無事に着いたか知りたいからね?」
「OK!じゃ、父さんもムリしないで・…デートも、ほどほどにね?」 

とレオは、いつもの皮肉めいた事を言っている。
父さんは苦笑しながら軽く手を上げるとリビングを出て行った。

(はぁ〜最近、ちょっと忙しかったし、僕ももう眠くなってきたなぁ…)

僕はソファーへと寝転んで目を閉じた。
とジョシュはテレビの前に移動して毎週見ているドラマを見始めた。
そこへレオも入り、仲良く三人でドラマの内容について語っていた。
リジーはというと…眉間にシワなんて寄せて真剣に、図面を見ている。
は〜ほんとに…うちの家族は皆がマイペーズだよなぁ…。
その中でもが天然入ってて一番可愛いんだけどさ…
僕は、そんな事を思いつつバドワイザーを一口飲んで息を吐き出した。
明日は…飛行機の中で寝よう…と心に誓いながら…。













イライジャ〜




僕は、結構気に入った図面が書けて文句なしだったが、こういうのを書き出すとほんとすぐにシアタールームを作りたくなる。

(はぁ…プロモーション…早く終る事を祈ろう…)

これなら皆、気に入ってくれたし…素晴らしいシアタールームが出来そうだ。
僕は、その図面を折りたたんで、ポケットの中へと入れた。

(そうだ…時間ある時、パソコンでもっと具体的に図を書いてみようっと…)

「リジー、ワイン飲む?」

そこにが笑顔で聞いてきた。

「ああ、ちょっと貰おうかな?」

はすぐにワイングラスをカウンターから持ってきて、僕にワインを注いでくれる。

「はい、リジー」
「サンキュ!」
「そう言えば…リジーとオーリーは荷造り済んだの?」
「うん、夕べのうちにね」

僕はに微笑むとワインを一口飲んだ。
「俺も済んだよ?」 とオーリーも手を上げた。

「はぁ〜、これ濃厚で美味しいね!スペイン?イタリア?」

その問いに、またテレビの前に座った、が振り向いた。

「スペイン産よ?ジョシュが、この前買って来てくれたやつなの」
「あ、そうなんだ!これ、美味しいよ、ジョシュ」
「そっか?なら良かった。は濃厚なの大好きだからな?」
「うん。薄いのはダメ・・・飲めないわ?ボジョレーヌーボーもダメだし…」
「あ、でも今年の葡萄は出来がいいかな?それで決まるよな〜?」 

と僕はちょっと苦笑しながら言った。

「そうねえ…きっと暑かったりしたら、美味しい葡萄がいっぱい取れるから、ボジョレーでも美味しいのがあるのよね」
「でもさ、父さん、やっぱり許してくれたな?」

レオが苦笑しながら呟いた。

「ほんとだね?の涙にホロリときたかな?」 

と、僕は笑いながらワインを飲んだ。

「俺とレオは、もう少しで吹き出しそうだったよ?」 

とジョシュも苦笑いしている。

「でも良かったね!これで帰って来たときの楽しみが増えるもの」
「そうだね?帰って来たら少しオフになるし…その時に、また色々と考えようっと」
「ほんと、リジー楽しそうだよね?」
「オーリーもだろ?さっきノリノリだったじゃん」 
「まあね!まあ、父さんも優しいとこあるよなぁ〜」
「僕は帰って来たときに、やっぱりダメって言われるのが一番怖いよ…」

と僕はちょっと笑いながら言うと、レオは、「それはないだろ?父さんは一度言った事はちゃんと守ってくれてるしさ」 と笑った。

「ま、そうだよね。じゃ、明日からプロモーションに集中しますか!」

僕は思い切り伸びをした後、ソファーへとひっくり返った。

はぁ〜明日は飛行機の中で寝ないとなぁ…時差ぼけ、きついからな…日本も。
体調を整えておかないと、を案内してやれないし…買い物にも行けない。
そんな事を考えつつ、ちょっとウトウトとしてしまった。

その後、レオに叩き起こされるまで、僕はその場に爆睡していた…。











 


ちょっと旅行前夜のお話でしたv
なので短めです。
何だか、4時間くらいで、書いちゃいました(笑)
ちょっと間に、「24」を見てたんだけど^^;
何だか甘やかし家族バンザイです(笑)