イライジャ
「う〜ん…」
僕は思い切り伸びをしてベッドから起き上がった。
(今…何時だ…?)
はぁ〜起きる予定の10分前…3時50分。
僕はのっそりベッドから出ると思い切り両腕を伸ばした。
固まってた体がほぐれてくる。
夕べは何だか盛り上がりすぎて一度寝たとは言え、レオに起され、そのあと更に騒いでしまった。
結局、ワイン二本をあける事になって…
寝たのは朝の6時…
うちの家族は毎夜、飲み会だよなぁ…。
僕は苦笑しながら煙草を持つと、ベランダへと出て日の光に体を当てた。――ほぼ夕日に近くなってるけど――
「ああ〜気持ちいい!」
やっぱり太陽に当たると目が覚める。
僕はベランダに置いてある椅子へと腰をかけて、煙草に火をつけた。
今夜の出発までは、だいぶ時間があるなぁ…。
確か…夜9時の便だっけ…とレオはその後の最終便だと言ってた。
同じ飛行機に空きがなかった為だけど…どうせなら同じ便が良かったな。
泊まるとこも同じなんだし日本についてから一緒にホテルまで行けたのに…日本についた瞬間の、の喜ぶ顔が見たかったよ…。
「さて、と。オーリーでも起すかなぁ」
僕は煙草を灰皿に押しつぶし、立ち上がると、そのままオーランドの部屋へ行くのに廊下に出た。
廊下もシーンとしてて、皆が起きてる様子もない。
まあ、夕べの騒ぎようじゃ、まだ寝てるだろうな…。
すると下で、テレビの音がかすかに聞こえた。
あれ…?誰か起きてるのかな…
僕は気になり、階段を下りて、そっとリビングのドアを開けた。
「ジョシュ…?」
「あ、おはよう、リジー。もう起きたのか?」
「うん…。ジョシュこそ…あんなにワイン飲んでたのに、よく起きれたね?」
僕はテレビの前のクッションに座っているジョシュの方まで歩いて行くと隣へと腰をかけた。
「ああ、何だか目が覚めちゃってさ。今、下りてきたとこ」
「そっか、僕も目覚ましなる前に目が覚めちゃったよ」
「紅茶淹れるけど…リジーも飲む?」
「あ、うん。マサラミルクティーが飲みたいな!ジョシュお得意の!」
「ああ、分かったよ…」
ジョシュは苦笑しながらキッチンへと歩いて行った。
うちの兄貴達は、紅茶好きなの為に、色々と紅茶の作り方を勉強したせいで、何でも上手に作れる。
ジョシュが得意なのが今、僕が好きだと言ったマサラミルクティーと、あとはロシアンティー。
レオが得意なのが、が一番好きなシナモンティーと自分が好きで作るブランディーティー。
オーリーが得意なのが、ローヤルミルクティーとアイスティー(どっとも簡単なんだけど味が絶妙で上手い)
そして僕が得意なのがよくが寝る前に飲みたいと言うハーブティー。
(ミント、レモングラス、ジャスミン、ドライアップル、カーモミール等)。
何だか大の男たちが妹の為に、こんな事まで上達するのは笑えるだろ?
も自分で色々と作れるのに、何故か僕らが作った紅茶を飲みたがる。
は人に淹れてあげるのは好きみたいだけど自分が飲むのは僕らが淹れた紅茶がいいみたいだ。
そういうのって解る気がするけど。
僕はジョシュを手伝おうとキッチンへ向った。
キッチンでは、エマが食事の用意をしていて、その横でジョシュが沸騰してきた湯の中に少し多めの茶葉を入れて煮ていた。
「おはよう、リジー」
「おはよ、エマ!」
「二人は、本当に早起きね?」
エマがお手製のクロワッサンを盛り付けながら、クスクスと笑った。
「そうかい?こんな夕方近くに起きてきて早起きもないけどね」
僕はちょっと笑って肩をすくめる。
「そうね?まあ、寝た時間を考えたらって事よ?」
「あ、御免ね?うるさかった?」
「いいえ!気づかないで爆睡してたもの。今、ジョシュに聞いたのよ?寝たのは朝だって」
僕は笑いながら、棚からカップを出して、キッチンのカウンターバーへと置いた。
ジョシュは、その間も黙々と手を動かしている。
沸騰した鍋にスパイス(カルダモン、シナモン、クローブ、こしょう、しょうが等)を入れてそのまま煮込んで
砂糖も少し入れると、今度は牛乳を分量を合わせて軽く沸騰させる。
それを茶漉しで漉すと、マサラミルクティーの出来上がりだ。
これを寝起きに飲むと、スパイスのせいか、頭がスッキリする。
ジョシュがそれをカップに注いで、僕に渡してくれた。
「Thank you!」
僕はそれを受け取って、またジョシュとリビングへと戻ろうとした時、エマに呼び止められた。
「あ、二人とも…。卵は何がいい?スクランブル?オムレツ?サニサイドアップ(目玉焼き)?」
「あ、僕、サニサイドアップ!」
「俺は…オムレツがいいな」
「了解!」
エマが笑いながらフライパンを火にかけた。
僕らは、そのままリビングへと向うと暖炉の前に座って、ゆっくり紅茶を味わう。
「はぁ〜やっぱジョシュのが一番上手いね、これ」
「そうか?」
「この前、ジョシュがいない時に、どうしても、これが飲みたくてさ。そしたらオーリーが、"俺が作ってやる"って作ってくれたんだけど…味が微妙に濃すぎて咽ちゃったよ?スパイス効き過ぎなんだよね」
「アハハ、オーリー濃いのが好きだから入れ過ぎたんだろ?これは多いと咽ちゃうよ」
ジョシュも苦笑しながら紅茶を飲んでいる。
「あ、オーリーで思い出した!僕、起してこようと思ってたんだっけ」
「オーリー、ほっとくと、いつまでも寝てるぞ?」
「ほんとだよね!マネージャーが迎えにくるのって7時半くらいだろ?まだ時間あるけど少し早めに起こしておかないと…どうせ、オーリー用意に時間かかるしさ」
「ああ、長風呂入ったり忘れ物があった〜って騒いだりな?」
ジョシュは笑いながら煙草へ火をつけ煙を吐き出した。
「ちょっと僕、起してくるね?」
「ああ、頼むよ」
ジョシュはテレビのチャンネルを変えながら軽く手をあげた。
僕は紅茶を一口飲むとカップをテーブルへと置き、足早に二階へと上がって行った。
そしてオーリーの部屋のドアをノックする事もなく、そのまま入ると、すぐ寝室へ向った。
寝室のドアを開けるとベッド上に蓑虫みたいな円い物体が寝転がっている。
オーリーはいつも布団に潜って寝ているが、何故か朝になると、こうして丸くなって寝ている。
僕は少し苦笑すると、つかつかとベッドの方まで歩いて行って思い切り布団を引っ張った。
オーリーもしっかり布団を掴んでいるので、なかなかはがれず僕は渾身の力をこめて、ギューっと引っ張る。
すると布団に絡まっていたのであろう、オーリーが、そのまま布団と一緒にベッドの下へと落下した。
ドサッ!
「…ん〜…○×△…よぉ〜…」
何を言っているのかサッパリ分からないが、どうやら起きたようだ。
僕はちょっと笑うと、
「オーリー!起きろよ!もう夕方だよ?!4時半になるよ?!」
「…んぁ〜…ってぇ…」
その円い物体がモソモソ動いて起き上がったと思ったら、ヒョコっと布団の隙間からオーリーの頭らしきボサボサの髪が出てきた。
ほんと、あんたは蓑虫か!…と僕は心の中で、苦笑すると、
「オーリー!起きたの?」
とその布団にくるまっているオーリーの肩の辺り(?)を叩く。
すると、オーリーは力を入れてなかったのか、フラ〜っと横に傾いたと思った瞬間。
そのまま床に倒れこんでしまった。
ドサ!…ゴチン!
「ぃで…っ!」
――どうやら頭を打ったらしい――
「アハハハ!オーリー大丈夫?!」
僕は笑いながらオーリーの前にしゃがみ込んだ。
すると、急にその物体(まだ布団にくるまったまま)が、ガバっと起き上がると、
「痛いよ!何するのさ!」
と、やっと顔を出したオーリーが寝ぼけまなこで叫んだ。
「何もしてないって!自分で勝手に倒れたんだろ?寝ぼけてたんじゃない?」
僕は済ました顔で、そう言うと、
「とにかく起したからね?食事できるし早く下りて来いよ?」
僕がそう言うとオーリーも少しづつ目が覚めてきたようで軽く手を上げると――僕には布団がもそっと動いたようにしか見えなかった――
「…ラジャ…」
と、目を瞑ったまま呟いた。
僕は軽く溜息をつくと、廊下に出て、チラっと奥のの部屋のドアを見た。
――うちの二階はかなり広くて端から端までだと短距離競争が2回くらいほど出来るだろう――
…まだ寝てるかな?あと一時間くらいしたら起してやろう…
レオも夕べはブランデーを飲みすぎて起きて来ないだろうし…。
僕は、そんな事を考えつつ、階段を下りて行った。
オーランド
僕はリジーが出て行った後も暫く床の上でボーっとしていたがお尻が冷たくなってきて布団にくるまったままノッソリと立ち上がった。
「ふぁぁぁあ…」
大きな欠伸が出てきて涙目になったのを、ゴシゴシこすりながら、またベッドの上に行くと、布団を落とす。
「うう〜〜ん!」
大きな伸びをして、「おりゃっ」とベッドの下へジャンプすると、そのまま洗面所まで行き、顔を洗って少しスッキリする。
(はぁ〜何だか体中がギシギシするよ…。後で軽く家の庭先を走ってこようかな…)
うちの庭は、かなり広く家の周りを一周して作ってある。
門から玄関までの間が、殆ど庭で庭園状態だ。
その庭でランニングするのが、我が家の定番になっている。
「さて、と!朝食でも食べますか…!」
僕はすぐに下へと下りてダイニングに向った。
「おはよ、ジョシュ、リジー」
「おっそいよ?オーリー!二度寝したかと思ったよ」
リジーはクロワッサンを頬張りながら僕の方をジロっと睨む。
「ちゃんと起きてたよ!あ〜お腹すいた!あれ?僕の分は?」
僕はテーブルの上に、ジョシュとリジーの分しかないのを見て二人に聞いた。
「ああ、キッチンに行ってエマに頼めよ」
ジョシュがサラダを頬張りながら言った。
「あ、そっか」
僕は急いでキッチンへ行くと、エマがコーヒーを飲みながらカウンターに座り、キッチン用の小さなテレビを見ていた。
「エマ、おはよう!」
「あら、オーリー、おはよう。オーリーも早いのね」
エマは笑いながら椅子から立ち上がると、「食事にする?」 と聞いてきた。
「うん、お腹すいたよ」
「寝起きにお腹が空くのは健康な証拠ね?」
エマは、そう言ってクスっと笑うと、
「オーリーは?いつものスクランブルエッグ?」
「うん。頼むよ。少し多めにね!」
「はい、はい。じゃ、すぐ作るから、それまで紅茶でも飲んでて?さっきジョシュが作ったのがポットに入ってるから」
「OK!」
僕はカップを出して、ポットから紅茶を注ぐと、香りをかいだ。
あ、これマサラミルクティーだ。
寝起きに、いいんだよねぇ、このスパイスが。
僕は一口飲むと、「うーん、美味しいなぁ〜」 と呟いた。
「オーリー、夜には日本に出発でしょ?」
エマがフライパンを熱しながら、聞いてきた。
「うん。その後は各国めぐりのロードに出るよ?まさに、ロード・オブ・ザリングの旅だね!」
と僕は自分でも何を言ってるのか分らない事を言いのけて、カウンターバーの椅子へと腰をかけた。
エマはクスクス笑いながら、熱したフライパンにオイルを淹れると、溶いた卵を一気に入れた。
ジューっと美味しそうな音と匂いがして、僕の鼻がひくひくする。 ――何だか犬みたいだけど――
「エマは?お留守番?」
「私?そうね。ハリソンの世話をしないとね?まあ、帰って来るかどうかも分からないけど…」
と手際よく手を動かしながらエマが笑った。
「今回、レオもも出ちゃうから寂しくない?」
僕はちょっと気になって聞いてみた。
「フフフ…そうねぇ。ちょっと寂しいけど…大丈夫よ?その分ノンビリもさせてもらうから。独身気分ってとこ?もともとそうだけど」
「そう?僕、父さんに電話して、なるべく帰るように言っておくよ」
僕は紅茶を飲み干して、また新たにポットから注ぐとエマの方へ振り返った。
エマは一瞬、寂しげな顔をしたが、僕の顔を見つめると、ニッコリ微笑んで、
「そんな、ハリソンも彼女の側にいたいでしょうし、いいわよ」
と言って出来たてのスクランブルエッグをお皿に盛り付けた。
そしてエマ特製の焼きたてのパンを色々と盛り付けてくれると、トレンチへと乗せる。
「あ、ありがとう。僕、自分で持ってくよ」
と、僕はトレンチを受け取り、飲みかけの紅茶のカップも一緒に乗せた。
「そう?じゃ、お願い」
エマはそう言って微笑むと、またカウンターの椅子へと座り、テレビを見出した。
僕はチラっとエマの横顔を見ると、そっとキッチンから出る。
エマ…きっと寂しいハズなんだ…
だって…エマは本当は父さんの事が好きなんだと思うから…。
僕らが赤ちゃんの頃から世話をしてくれてて、大人になってからも母親代わりをしてくれているエマの気持ちに最初に気づいたのはレオだった。
エマがずっと独身でいるからか、父さんが気を使って昔、
「恋人が出来たり、結婚したいと思ったら、いつでも言ってくれよ?いつまでも君に甘えるワケには行かないんだから…」
と、言った事があった。
その時の悲しそうなエマの顔を見て、レオは気づいたらしい。
エマは、結婚したくないし相手もいないからと、父さんに言っていたけど…恋人の一人も作らないで僕らの世話をしてくれるのも確かに変だと思う。
エマは42歳くらいだけど、もう少し若く見えた。ブロンドヘアーを少し短めに揃えてて、スラっとした可愛いタイプの女性だ。
彼女は父さんが唯一口説いていない女性だろうな。
きっと父さんも最初からベビーシッター件家政婦として雇ったから、そういう目でも見ていなかったんだろうと思うけど…ま、父さんは結婚しない主義だし…想ってても辛いだけなのになぁ…
僕は、そんな事を考えつつダイニングへと戻った。
すると二人はすでに食べ終えて食後の紅茶を飲んで談笑している。
「向こうに着いたら、まずホテルに直行だろ?その後に記者会見…テレビのインタビュー…うわぁ…こんなにあるよ」
「ま、こんなもんだろ?俺も到着早々に記者会見だよ」
とジョシュが苦笑いしながら言った。
「ねぇねぇ、何の話?」
僕は、そう言うとリジーの隣に座って、食事をとりはじめた。
「日本についてからのスケジュール確認だよ…。見て?これ」
とリジーが僕にスケジュール表を見せた。
「うわ…!こんなびっしりあるわけ?」
僕もパンを頬張りながら驚いた。
「こんなんじゃ、夜の、この時間しか自由時間なさそうだよ?」
とリジーは溜息をつく。
「ジョシュは?どんな感じ?」
「俺も似たようなもんだけど、まだ少し早めに終りそうだよ?でも監督も一緒だからなぁ…」
「そっか…じゃ、二日目なら?テレビの収録とかあるけど、まだ時間とれるんじゃない?」
僕はスケジュール表を見ながら顔を上げる。
「ま、4日間もいるんだし、どうにか自由時間とれるだろ?じゃないと、と遊びに出れやしないよ」
とジョシュが苦笑する。
「そうだよね?あっち行っても会えなかったら笑うよ〜。それじゃレオと、二人旅行で楽しみそうじゃん?」
リジーも笑いながら紅茶を飲んでいる。
「それはやだな…」
と僕はスクランブルエッグを食べつつ顔をしかめた。
するとジョシュとリジーが席を立ち、自分達の皿を持つと、「じゃ、そろそろ用意するとするか」
と言って出て行ってしまった。
「え?ちょ、ちょっと待ってよぉ〜!」
と僕も慌てて紅茶をぐいっと飲み干し残りのパンとスクランブルエッグを、かっ込むと二人の後を追いかけていった…
ジョシュ
僕はキッチンへ皿を下げた後にリビングに戻り煙草へと火をつけた。
リジーは、シャワーに入ると自分の部屋へと戻ったし、オーリーと言えば…
僕の背中に張り付いている。
「ねぇねぇ、ジョシュ。向こう行ったら色々と美味しいとこに案内してよ〜」
「分かってるよ…うるさいなぁ〜…。うっとしいから離れろよ!」
「そんな冷たい事言うなよ、ジョシュ〜」
僕は思い切り溜息をつくと、
「そろそろを起こしに行かないと…。頼むから離れてくれないか?オーリィ…」
「え?を起こしに行くの?なら俺も行くよ!」
オーランドはニコニコしながら僕の肩に腕を回した。
僕はまた溜息をつき仕方なくオーリー付きで歩き出した。
二人で二階へと上がり、の部屋をノックする。
何の返事もない。
コンコン
「?起きろよ、もう5時になるぞ?」
「…熟睡してるんじゃない?入って起そうよ!」
「でもだって、もう21歳なんだから寝てるとこ勝手に入るのは…」
と僕が言いかけたが、オーリーはすでにドアを開けて中へと入ってしまった。
「おい!オーリー、待てって!」
僕は慌てて後を追ったが、時すでに遅し…。
「Hey!〜Good morning〜!!」
大きな声で言ったかと思うと、の寝室へと入ってしまった。
(はぁ〜…何してくれてんだ、バカ兄貴!!)
僕は頭をガックリ垂れた、その時――
「…キャァ!」
との叫び声が聞こえて、僕は急いで寝室へと飛び込んだ。
「どうした?…オーリーに何され――」
と、そこで言葉を切った。
そして思い切り息を吐き出すと、
「…オーリィ…。あんた、何してるんだよ?」
僕は呆れてオーリーを見下ろした。
「へへへ…。ちょっと添い寝してあげようかと…」
オーリーはニコニコしながら、ベッドの中に入り、しっかりの隣に寝ていた(!)
は驚いた顔で、ボーっと起き上がったまま。
「と、とにかくベッドから出ろ!!」
僕はそう怒鳴ってオーリーを布団から引きずり出した。
「ぃたた…、わ、分かったよぉ〜。何もそんな怒らなくても…」
と、オーランドも口を尖らしている。
「?大丈夫か?」
僕は素早くの隣へ腰をかけると頭を撫でた。
「う、うん。大丈夫よ?ただ驚いただけで…目が覚めたら目の前にオーリーがいたから」
とちょっと苦笑しながらが僕を見た。
「そっか…全く…どんな起こし方だっつーの!」
と、僕はオーリーを睨んだ。
「何だよ?いいだろ?たまには楽しくてさ!」
「どこが楽しいんだよ?心臓に悪いだけだろ?」
「そっかな〜。なら今度、僕を起こす時、同じ事してくれてもいいよ?サプライズモーニング!」
とオーリーは悪びれもしないでアホな事を言って、僕は、またまたガックリと頭を垂れた。
「いちいち、あんたに添い寝したくなんかないって…」
「なぁ〜んでさ〜。昔は良くやったろ?いきなり部屋に乱入してきてさ〜。こっそり布団の中に入ってハグかチューで起こすの」
「それはガキの頃の話だろ?今、一体いくつだよ?あんたは!」
「25?」
普通に答えられて僕はオデコにピキっと怒りマークが出た(気がする)。
「いいからオーリーは、とっととシャワー入って出かける用意しろ!あと一時間で迎えが来るぞ?」
「え?あ、ほんとだ!やべ…じゃ僕はシャワー入ってくるからね!ジョシュに寝起きの紅茶入れてもらいなね?…チュパ!」
と笑顔でに投げキッスをすると、バタバタと慌ただしく部屋を出て行った。
は、それをニコニコと笑いながら見送っている。
「はぁ…。ごめんな?オーリーまで連れてきちゃって…。目覚め悪かっただろ?(!)」
僕はの頭を撫でながら、溜息をつくと、
「ううん。驚いたけど、久々のサプライズモーニングだし、昔を思い出して楽しいわ?」
とはクスクス笑っている。
僕はその言葉に苦笑すると、「そっか?あ、、紅茶でも飲む?」 と聞いての頬にキスをした。
「うん。あ、でもジョシュも用意しなくちゃダメじゃない?」
「まだ5時になったばかりだろ?俺は全部、用意してあるし、後はシャワー入って着替えるだけだから大丈夫だよ?」
「そう?そうね、ジョシュは、そういうのちゃんとしてるもんね、オーリーと違って」
僕はの言葉に微笑むと、「そういうこと!」 と言って、ベッドから立ち上がった。
「、紅茶は何がいい?」
「んーとね…。…ロシアンティー!」
「OK!じゃ、下へ行こうか」
と、の手をとった。
それに、も笑顔でついてくる。
真っ白のワンピースっぽいパジャマ姿、とても可愛かった。
これは誕生日に、オーリーがプレゼントしたものだ。(こういうに似合うものを選ぶのはオーリーも見る目がある)
二人でリビングへ入ると、エマがの分の食事を用意してくれていた。
「おはよう、エマ」
「おはよ、。何だか上が騒がしかったわね?」
クスクス笑いながらエマはの頬にキスをしている。
「そうなの!オーリーがね、昔、よくやってたサプライズモーニングをやるから驚いちゃって」
と、も笑いながら、ソファーへと座る。
大体、は一人で食事をする時は寂しいのか、リビングで食べることの方が多い。
エマも、その辺を分かっているので、を起こしに行った時点で、リビングに用意をしてくれていたのである。
「じゃ、俺、ロシアンティー作ってくるよ」
「うん、ありがとう!」
僕は、そのままキッチンへ行くと手早く、ロシアンティーを作って、ポットへと入れた。
そこにエマが戻ってくる。
「ほんと、ジョシュって起用よね?他の皆も起用だけど…。レオは出来るのに、あまりしないし…ジョシュはマメね?」
クスクス笑うエマに、僕は苦笑すると、「にだけはね?」 と軽くウインクした。
「そうね?そこだけは他の皆も同じだわ?」
とエマもウインクしてきた。
僕は笑いながら、カップとポットをリビングまで運ぶと、が美味しそうにフルーツサラダを食べている。
「はい、。ご注文のロシアンティー」
「ありがとう、ジョシュ」
僕がポットからカップに紅茶を注ぐと、は嬉しそうに、それをフ〜っと吹いて、ゆっくり飲んでいる。
僕もの隣に腰をかけると、自分のカップにも紅茶を注いだ。
「…朝食、これだけで足りるか?」
僕はフルーツサラダと、ベーグル一つだけしか取っていない皿を見て心配になった。
「うん。機内で食べるし大丈夫よ?」
「そう?あ、もしかして夕べのワインで二日酔いとか?」
と僕がちょっと笑うと、も苦笑して、「…そうかも…」 と言った。
「そっかぁ、結構飲んだもんな…。じゃ、出る前にシャワーより、軽く風呂に入って汗を出せばいいよ。スッキリするから」
「うん、そうね!そうするわ。 ――ジョシュ達は、8時には出るの?」
「ああ、多分、余裕を見て7時半頃には迎えが来るかな?とレオは次の10時の便だろ?少し遅れて到着だな」
「そうねぇ。向こうには昼頃着く予定なのかなぁ?」
「ああ、そうだな…。10時に出ると…ちょうど日本には昼過ぎにつくかな?」
「そっかぁ!じゃ、向こうで動けるように機内では寝ておこうかしら」
「そうするといいよ。時差ぼけは、かなりのもんだからな」
僕は煙草に火をつけると、の頭を軽く撫でた。
「ねぇ、ジョシュ」 が紅茶を飲みながら僕を見る。
「ん?」
「向こうで一緒に遊べる時間はある?」
はちょっと首を傾けて聞いてきた。
僕はちょっと微笑むと、の額にキスをして、
「ああ、時間は作るつもりでいるよ?せっかく一緒に日本へ行くのに、向こうで遊びに出かけられないんじゃ寂しいだろ?」
僕がそう言うと、もホっとした顔で微笑んだ。
一緒に出かける時間かぁ…
大丈夫だよな…?リドリー監督にも、それとなくとレオが来る事を言っておけば…僕の事も飲みに誘わないだろう…。
隣で美味しそうにサラダに入っているグレープフルーツを頬張るを見て、僕はちょっと微笑んだ…。
レオナルド
俺は揺さぶられる感覚で次第に目が覚めてきた。
(何だ…誰だ…?うるさいな…)
「…オ…レオ…レオ…!」
「ん〜〜ああ…?」
「そろそろ起きた方がいいよ?夕方の6時だよ?」
「…んああ…分かっ…た…」
俺はそう答えると、軽く寝返りをうった。
「レオ?大丈夫?」
(ああ…リジーの声だ…)
俺は、声を聞き分けるくらいに頭がハッキリしてくると、ゆっくりと目を開けた。
そして少し頭を上げると確かにベッドの脇に腰をかけているイライジャが見える。
「レオ…いい男が台無しだよ?」
イライジャはクスクス笑いながら、俺の髪をクシャっと触る。
俺は苦笑すると、そっと体を起し、壁に寄りかかるようにして、その場に座った。
「はぁ…寝すぎたな…。今、何時?」
「えっと…6時になったとこ。僕ら、あと一時間半で出ると思うけど…レオとは、9時くらいには出るんだろ?」
「ああ…そうだな…。俺の車で行くから…すぐだろ?」
「え?レオ、フェラーリで空港に行くの?空港のパーキングに置いておくわけ?」
「ああ、ビップの方に預かっててもらうさ…」
「あ、そっか。じゃ、盗難の心配もないね」
「あ、リジー、そこの煙草とってくれる?」
「あ、うん。 ――はい」
「サンキュ」
俺は煙草を受け取ると、火をつけて思い切り煙を吐き出した。
少し頭がクラクラするが寝起きの一服をしないと目が覚めない。
「何だよ、珍しいな。リジーが起こしにくるなんて…。いつもはか、オーリーが大きな声で叫んで、俺に乗っかってくるのにさ」
「今、を起こしに来たら、もう起きたみたいで部屋にいないんだ。僕がシャワー入ってる間に起きたみたいでさ。だから、その隣のレオを起こしに来たんだ」
それを聞いて苦笑すると、「何だよ、俺はの代わりか?」 と言って煙草の煙をイライジャの顔へ、わざとふかす。
「うわ!何だよ、それ…。失せろって?」
イライジャも苦笑いしながら煙をパタパタと扇いでいる。
「どうせなら可愛いに起されたかったよ…」
「へいへい…。それは僕も同じですよ!僕なんてオーリーも起して大変だったんだからさ〜。あの人は、ほんと蓑虫みたいに冬眠してるよね?」
「ああ…今時期は特にな?夏なんて逆にタオルケット蹴飛ばして腹なんて出してるだろ?アレ見ると起こす気なくなるんだよな…」
「あ、分かる分かる!」
と二人で顔を見合わせて笑った。
「さて、と…シャワーでも入るかな…」
そう言って俺は煙草を消しにベッドを下りてサイドボードの上にある灰皿へと押しつぶした。
「僕も、すぐ出られる準備しようっと…。あ、その前に…オーリー、ちゃんと準備してるのかな…」
「リジー、オーリーの彼女みたいだな?いちいち心配して」
と俺は笑いながら言うと、イライジャも凄く嫌な顔をして、「ええ?僕やだよ?あんな彼氏…」 と情けない顔で言った。
俺も、それには吹き出してしまった。
「アハハ!そりゃそうだ!」
俺はそのままバスルームへ行くと、思い切り熱くして頭からシャワーをかぶった。
はぁ〜気持ちいい…。昨日のブランデーは残ってないようだけど体のダルさは残ってるな…。
機内で寝ないといけないし、ちょうどいいかな…?
素早くシャワーを浴びて、ほどよくスッキリすると、俺はバスローブに着替えて部屋へと戻った。
イライジャは自分の部屋へと戻ったようだ。
(少し風に当たるかな…)
俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを出して一気に、それを飲むと、そのままベランダへと出た。
まだ少し気温は低いが、寒いと言うほどのことでもない。
少し冷たい風が今は気持ち良かった。
夕日も沈んで辺りが薄暗い。
俺は髪をバスタオルで拭きながら、椅子へと腰をかけると、持って来た煙草へ火をつけた。
「はぁ〜…。今日から日本か…明日の昼にはつくんだっけ…」
日本とは一日の時差があるし、向こうについたら一日、損した気分になるんだよな…。
そこに携帯が鳴り出して、俺は部屋の中へ戻るとテーブルの上の携帯をとりディスプレイを確認してから電話に出た。
「Hello…」
『Hello?レオ?―私!』
この前デートした女優からだった。
「ハイ。元気?」
俺は煙を吐き出しながら、そう言うと、その女優は少しスネた声で、
『元気じゃないわ?レオったら、あれ以来、連絡とれないんだもの…』
「ああ、ごめん。ちょっと慌ただしかったんだ。次の映画の準備でさ」
『そうなの?あ、次のって、あのギャングの映画でしょう?』
「ああ、そう」
『いつから撮影?』
「来週末かな…?その前に今日から日本でエンジョイしてくるけどね」
『え?!日本って…何しに?遊びに?』
「ああ、仕事じゃなくて遊びで」
『誰と行くわけ?まさか…ガールフレンドじゃないわよね?』
声に少し怒りのこもった感じで聞いてくる。
俺は苦笑すると、
「まさか。ガールフレンドとは旅行に行かない主義でね。おあいにく、妹とだよ」
『…ええ?妹?って…、あの子ね…。何で?二人で?』
「違うよ。ま、行く時は二人だけどね。弟達が映画のプロモーションで日本に行く日が重なってさ。それで俺と妹も一緒にね」
『そうなの?だからって…わざわざ日本まで?―ほんとに仲がいいのね?』
と彼女はクスクス笑っている。
「まあね…」
『じゃ、会う時間はないってわけね?いつ戻るの?』
「4泊5日かな?今週末には戻ると思うよ」
『そう。じゃ、帰って来たら電話くれる?』
「…ああ、分かった」
『絶対よ?』
彼女は色っぽい声で念を押してきた。
「ああ、分かったよ」
『じゃ、気をつけて…楽しんで来て?』
「OK。じゃ、また」
『バイ!』
そこで電話が切れた。
俺は溜息をつくと携帯をソファーの上に放り投げ、自分もソファーに、ドサっと腰を降ろした。
「はぁ…まさか電話してくるとは思わなかった…」
思わず独り言が、ポロっと出てしまう。
そう…確かに誘われて一度二人で会ったけど、あれっきりかと思っていた。
彼女も相当の遊び人で好みの男なら必ず自分のものにしないと気がすまないって性質だ。
だから手に入れてしまえば後はポイっと捨てるだけ。
再会してからも、あまりに誘ってくるから俺も、分かってて相手をしたんだけど…
こうして電話がかかってくるなんて思ってなかった。まるっきりの予想外。
あ〜…面倒くせぇな…。一応、大物女優で名が通ってるし、あまり冷たくするのもなんだしな。
俺は、今更ながら誘いを受けた事を、ちょっと後悔していた…。
軽く用意をしてリビングへと行くと、ジョシュとイライジャが旅行用のバッグを開いて最後の持ち物チェックなんぞしている。
「おお、レオ。おはよう」
「ああ、おはよう、ジョシュ…って言っても、もう夜の7時だけどな」
と俺は苦笑した。
「何?もう用意終ったの?」
イライジャが顔を上げて聞いてきた。
「ああ、一応ね。後は着替えて出るだけ。ちょっと軽く何か食べようかと思ってさ」
「キッチンに行けば何かあると思うよ?エマが用意してたし」
とジョシュが顔を上げて言った。
「そっか。 ――あれ?は?」
「あ、今、お風呂に入ってるよ?ちょっと二日酔いみたいだから汗流してスッキリしたいって」
「そうか。移動、大丈夫かな…」
「そんなに酷くはないみたいだったし、さっきは少しだけど食事もしたから大丈夫だと思うよ」
そう言うと、ジョシュは確認を終えてバッグを閉じると、それを玄関の方へと運んでいる。
俺はキッチンへと行き、エマに軽くフレンチトーストを焼いて貰った。
それを咥えながら、紅茶を淹れたカップを持つと、リビングへと戻る。
そこにも用意をして下りてきていた。
「あ、レオ!おはよう!」
「おはよう」
俺は嬉しそうに、こっちへかけてきたの額に軽くキスをすると、ソファーに座った。
も、そのまま隣に座る。
「あれ…オーリーは?まだ用意してんの?」
俺が言った瞬間、バタバタと階段を駆け下りてくる騒がしい足音が聞こえた。
「パスポートがないんだ!!」
リビングに入るなり、いきなり、そう叫んだオーランドは泣きそうな顔。
「はあ?どこに入れたんだよ?」
と、準備も完璧に終らせて今はソファーで寛いでいたジョシュが呆れ顔で言った。
「それが…大事なものをポーチに入れておいたのに、そのポーチが見当たらないんだ!」
「お前なぁ…。それじゃ意味がないだろ?よく探したのか?バッグの中身、全部出してみろよ」
俺は溜息交じりでそう言うと、
「出して探したさ!でもないんだ!どうしよう?もうすぐ迎えが来るのに…!」
と、オーリーは完全にパニック状態。
「私も探すの手伝うわ?オーリーバッグは?」
「ありがとう!! ――バッグは一応、そこに持って来たよ」
は、それを聞いて、玄関まで出て行くと、オーリーのバッグの中を捜し始めた。
「オーリィ…荷物多すぎて、分かりにくいわ?」 との苦笑する声が聞こえる。
ジョシュとイライジャも仕方ないって顔で、探すのを手伝い始めた。
俺は軽く息を吐き出すと、玄関の方へと歩いて行って後ろから、その様子を見ていた。
(全く…やっぱり、出掛けにこうなるんだ…)
毎回、海外に出るときは、何かしら、ないないと言って大騒ぎする。
前だって出る直前に飛行機のチケットがないって大騒ぎして、結局バッグじゃなくて、その時オーリーがしてたウエストポーチの中にあったんだけど・…
と、俺は思い出しつつ、ふと何かがひっかっかった。
目の前で、オロオロしているオーランドを、マジマジと見て、ある事に気がついた。
いや、今回は別にウエストポーチはしてなかったんだけど…
今日はオーランドの首から、いつも身に付けているジャラジャラしたネックレスの他に、長い紐が下げられてて、その先に大きなポーチがぶら下がっている。
あまりに不自然だったので、さすがに俺も、"解って"ガックリと頭を下げた。
「おい…オーランド…」
「え?な、何?」
「お前の…その大事そうに首からぶら下がってる物は何だ?それが探してるポーチじゃないのか…?」
俺が、そう言った瞬間、皆も探す手を止めて一斉にオーランドを見た。
オーランドも、ギョッとした顔で、自分の首からぶら下がっているポーチを見つめた。
「…ああ!!!こ、こんな所に…」
オーランドは心底、驚いた顔をして、その後に気まずそ〜うに皆を見渡した。
「あ、あの…。ここに、ありました…エヘへ…」
と、笑って誤魔化すオーランドに一生懸命に探してたジョシュとイライジャはオデコの辺りがピキっと怒りマークが浮き出たかのような顔。
ヘラヘラっとしているオーランドを見て、腕を、わなわなさせ、
「ふ、ふざけるなーーー!!!」
と、ジョシュが先に切れてしまった。
「何だよ、それ!!自分で首から下げてるんじゃ世話ないよ?!」
とイライジャも口を尖らせている。
オーランドは青い顔をして、
「あ、いや…最初、バッグの中へと入れたんだけど、やっぱ心配だったから首に…すっかり忘れてたよ!―ごめんなさい〜!!」
オーランドは、探してくれてた3人に平謝りしている。
ただ一人は、怒るでもなく、そのオーランドの天然のボケ(?)が面白かったのか、大笑いしている。
「やだ…オーリーったら…!それってメガネを頭に上げたまま、メガネメガネって探してる、おじいちゃんみたいよ?」
「〜〜〜〜おじいちゃんって、そんなあぁっぁ…」
とオーランドは情けない顔でを見た。
「ったく!出掛けに、めちゃくちゃ疲れたよ!」
「ほんとだよね?」
ジョシュとイライジャは、プリプリしながら、ソファーへ、ドサッと座った。
俺も苦笑しながら、「それで…他には忘れてる物はないのか?」 とオーランドへ聞くと、「ん…なかったよ…」とシュンとしている。
その後、ジョシュ、オーリー、イライジャは、それぞれ荷物チェックを終らせ、すぐに出られるようにすると迎えがくるまで寛いでいた。
そこへ7時半少し過ぎた頃、キンコーンと家のチャイムが鳴った。
俺がモニターで門の前を確認すると、そこにはジョシュのマネージャーと、オーランド、イライジャのマネージャーも見える。
「おい、お前たちのマネージャーが到着だぞ?」
とゲートを開けるボタンを押しながら俺が大きな声で教えると、皆、ぞろぞろと玄関へと出てきた。
エマも、も見送りの為、皆のとこまで来る。
「じゃ、。先に日本へ行ってるね!ホテルで会おうね」
とイライジャがの頬にキスをした。
「うん!待っててね?リジー」
「、機内ではちゃんと寝るんだぞ?」
とジョシュもの頬にキスをする。
「うん!ジョシュも、ゆっくり休んでね?」
「〜〜!!先に行って待ってるからね!」
とオーリーもの頬にキスをしようとしたが、ジョシュとイライジャに阻止された(!)
「な、何だよ!俺だって、行って来ますのキスしたいんだよ!」
とオーランドが、さっきのへこみようは、どこに消えたんだというくらい元気に(?)怒鳴っている。
俺は苦笑しながら、「うるさいよ…。早く行けよ。マネージャーに怒鳴られるぞ?」 と手でシッシとやった。
「うわ!レオまで、そんなこと言って…!」
オーランドは、ジョシュとイライジャに腕を引っ張られて、ずるずると外の方へと引きずられていく。
「ああ〜…〜〜…行って来るね〜!」
オーランドは涙まじりに手を振っている。
エマも笑いながら、「行ってらっしゃい!!お土産、宜しくね〜!」 と笑顔で手を振った。
も苦笑しながら手を振っていたが、急に皆の方へと駆け出した。
俺も仕方なく、歩いて行くと、彼らのマネージャー達が乗ってきた車が二台、止まっている。
ジョシュが乗り込む前に、もう一度の額にキスをして、自分の額を、コツンと当てるとに何か言っているのが見えた。
イライジャも、もう一台の方へと乗り込む前に、の頬にキスをしている。
オーリーも二度目の正直(?)で、やっとに、行って来ますのキスが出来て、満面の笑みでイライジャと同じ車に乗り込んだ。
「皆、日本でね!」
も皆に手を振りながら、見送っている。
ゆっくりと車が走り出して門の外へと消え去った。
そして、すぐにゲートが閉じられた。
――エマがカメラで確認して、すぐ閉めたのだろう。門の外には張り込み中のカメラマンがいるからだ――
俺は家の方へと戻ろうとして、の方を振り返った。
の後姿が何だか寂しそうで、俺はのとこまで歩いて行くと、そっと後ろから抱きしめた。
「レオ…?」
「どうした?寂しいの?」
「うん…私もすぐに発つのに…何だか、こうして先に見送ると寂しくなるの…。何でなんだろ?」
とが苦笑して呟いた。
俺は、の頭に、そっとキスをすると、
「さ…もう8時になるよ?俺達も出かける準備して空港に行こう」
「そうね?飛行機に乗ってしまえば、こんな寂しさなんて消えちゃうわね?」
「ああ、そうだよ。まずは家に戻って着替えよう」
「うん」
俺とは手を繋いで家の中へと戻って行った。
(さっき…俺がを後ろから抱きしめた時、かすかにシャッターを切る音が聞こえたな…)
きっと門の向こうから暗視カメラか何かで撮ったんだろう。
(また雑誌に掲載されるかな?兄と妹の熱い抱擁!とか変な見出しで…)
俺は心の中で苦笑しながら、勝手にゴシップ記事のタイトルまで考えていた。
まあ、とのゴシップなら別に俺は大歓迎だけどな。
どうせ、読む奴だって、深く考えて読むわけじゃなし。
ほんと仲がいいわねぇ〜で終るんだから。
家族同士、どれだけスキンシップしようと、そんなものは本物のゴシップになるわけじゃない。
ただ世間の奴らが楽しんで読むだけのものに変わるんだ。
だが…これが他の…それも有名女優とのゴシップだと、そんな悠長な事は言ってられないだろう…。
俺はあの女優とモメる事なく別れられる方法を考えていた…。
「うわぁ〜レオ!滑走路が凄く奇麗よ?ライトアップされてて!」
「ああ、ほんとだな…」
俺はの肩越しに見える、滑走路を照らして奇麗に光ってるライトを見た。
は夜の空港が好きで、別に飛行機に乗らなくてもドライブがてら、空港に連れてってと、よく言っている。
(もうすぐ離陸だな…)
俺は時計を見て、時間を確認した。
家を出て愛車をぶっ飛ばしたら、早めについてしまったものの、今は機内の中で離陸する所を待っている。
ポーン…と音がしてアナウンスが流れる。
『皆様、本日はユナイテッド航空をご利用いただきまして真にありがとう御座います。当機は間もなく離陸体勢に入ります。ベルトを締めて、お待ちください…』
それを聞いても座席に座りなおすとCAがやってきて、俺とのベルトを締めてくれる。
「ありがとう」
と、は笑顔でCAにお礼を言っている。
するとCAも嬉しそうにニッコリ微笑んだ。
俺はそれを見て、ほんと…は、こういう所が最高に素敵だと思った。
普通、他の客なら当たり前だと思うことでも、にとっては違うんだよな…自分は客だという事をアピールしないと言うか…。
向こうが接客としてやる事でも何でも、ああやって素直に、お礼が言えるんだ。普段と変わらず、友達に言うのと同じように…。
俺は…何だか恥ずかしくて言えないけどな。
そう思いつつ思い切り足を伸ばして、ファーストクラスの広さを満喫した。
「皆は…今頃、空の上だね?」
ふいにが俺を見て言ってきた。
「ああ、そうだなあ?先を飛んでるよ、きっと」
「ふふ…空の上の追いかけっこみたいだね?」
とは笑いながら、窓の外を見ている。
俺も、そんなの言葉に、思わず笑顔になった。
その時、ゆっくりと機体が動き出し、ライトアップされている滑走路へと向って走り出した。
「わわ、動いたわ!」
はすでに子供のように無邪気に喜んで窓の外を見ている。
「相変わらず、は飛行機が好きだよなぁ…。何回乗っても離陸する瞬間が好きだろ?」
「うん!こうやって走って行って…飛び立つ瞬間の、あのふわっとした感じが絶妙よ?こんな大きな鉄の塊が浮かぶんだもの!何度乗っても、あの瞬間だけは不思議な気分になるの」
と、は少し興奮したように、はしゃいでいる。
俺はちょっと笑うと、「確かにな…。そう考えながら飛ぶ瞬間を見ると、そう思うかも」 と言っての頭を撫でた。
「あ、もうすぐよ?飛ぶわよ?レオ!」
は窓にへばりついて、外を眺めている。
機体は、どんどんスピードを上げて行って、急に体が浮いたような感覚になった。
「飛んだわ…!滑走路のライト、やっぱり上から見ると、奇麗よね!」
窓に顔をくっつけながら、は嬉しそうに喜んでいる。
俺は、そんなを見て微笑むと、ベルトの解除が出るまで、そっと目を瞑った。
(後で少しワインでも貰って寝ておくか…)
俺はのはしゃぐ声を聞きながら、いつの間にか、ウトウトとして、ベルト解除後、に起こされるまで熟睡していた――