僕らの天使







ジョシュ




僕は急いで車に乗り込むとマネージャーが勢いよくドアを閉めて前に乗り込んだ。
リドリー監督に至っては、僕の隣で汗を拭いている。

「いやぁ〜凄い出迎えだったな?ジョシュ…」 

リドリーは苦笑しながら僕を見た。

「何だか…前回よりも人数が多かったですよ。な?ジョシュ」 

僕のマネージャーのアランが口を挟む。
僕らは、さっき東京国際空港(通称成田)へと到着した。
いきなり到着ロビーを出た瞬間、人の波が見えてフラッシュの嵐…
僕は、あまりの眩しさに目を細め、周りを見渡して驚いてしまった。
何だか僕ら兄弟が同じ日に日本でプロモーションをするのを前日からニュースで報道されてたようだ。
有名なハリソン兄弟を一目見ようと成田には凄い人数の出迎えが来ていた。
オーリーとリジーも、一瞬、固まっていたっけ。
二人とはホテルまでは別行動だった。
向こうは向こうで、共演者のリヴとドム、ビリー達とホテルへ向った。

「これだとプロモーションも上手くいきそうですね?」 

アランが振り向いて、リドリーに話し掛けている。

「ああ、そう行くといいけどね?何せ、ロード・オブ・ザ・リングとスケジュールがぶつかってしまったから心配していたんだよ」

リドリーは、そう言って笑うと窓を開けて、まだ追いかけてくるファンの子達に手を振っている。
僕はシートに深く座ると、そっと目を閉じた。

は…今頃、空の上だろうな…)

は飛行機が大好きだから喜んでいる顔が目に浮かぶ。
それを横で見て苦笑しているレオの顔も…。
そんな事を思いつつ一人苦笑すると、僕も窓を開けて空気を吸い込む。
日本は、まだ冬真っ盛りと言った感じで、ロスよりも肌寒かった。

が来たら風邪ひかない様にしてやらないと…は喉が弱いから…)

僕は、少し窓を閉めると、再び目を瞑る。
車はスピードを上げて、成田を後にした。













オーランド




「うわぁ〜寒い!日本って、こんなに寒いのぉ〜?」

僕は首をすぼめて、すぐに車へと乗り込んだ。
後ろでは、まだキャーキャーと黄色い声が聞こえている。

「すっごい人だったねーー」 

と、リジーが興奮した様子で僕の隣に乗り込んだ。
僕らは人数が多いので何だかワゴン車のような車だった。
だから僕は一番後ろへと座ったんだけど…

「ひゃ〜寒いな!」 

と、ドムまで後ろに乗ろうとしているのを見て僕は溜息をついた。

「ドム…前行けよ〜空いてるだろ?」
「何で、そんな事を言うんだよ〜お兄様!」

僕はその一言にガックリ頭を垂れた。

「だから、その"お兄様!ってのやめろって!お前を弟にする予定はない!!それに俺よりドムのが一つ年上だろ?!」
「そんな〜!何とか言ってくれよ、リジー兄ちゃん!」

ドムは、今度は隣に座ってコミックを読み始めたリジーの腕を掴んで言った。
前は"弟よ〜"なんて言ってたクセに、今度はリジーを兄ちゃん呼ばわりしている。

「うっさいなぁ〜!これ、読みたいんだよ…。ってか、だからドムは僕より随分と年上だろ?何で僕まで兄ちゃんなんだよ?」
「まぁまぁ、そんな細かい事は言いっこなしでさ!な?」 

ドムは、リジーの肩をバンバン叩いて笑っている。
リジーはウンザリした顔でコミックを閉じると、それを仕方なさそうにバッグへと閉まった。――どうやら読むのを諦めたらしい――
そして僕の方をチラッと見てくる。

(この様子じゃ、も日本に来ると分かった時、大変だよね…)

そう言ってる目だった。
僕らは、何とかバレない方法を考えたが、結局ムリだという結論に達した。
だから僕らでを守るしかない。

「それにしても凄い出迎えだったわねぇ?これも"ハリソン兄弟"効果かしら?」 

共演者のリヴが後ろを振り返って笑った。

「ほんと!あのフラッシュで、まだ目がシパシパするよ…」 

同じく共演者で僕らの兄貴分のビリーが苦笑している。

「僕も驚いたよ。日本は初めてだったしさ。日本の人って大人しくて控えめなイメージがあったけどさっきは凄かったね。いきなり、"オーリー!握手してー!"って腕引っ張られた時は転びそうになったもんな…」
「そうそう!皆、興奮してたよなぁ…サイン書いてたら、僕も、"イライジャ!"って名前呼ばれて、そっち見たら、いきなりバシャっと写真撮られて慌てて顔をそむけたよ…」 

リジーも苦笑しながら後ろの窓から、外を見ている。
車は静かに走り出していた。
僕は窓を少し開けると青い空を見た。
何だかロスの空より濁って見える。

は、今頃、あの空の上かな…今は寝てるかもしれない…。
どうせ、レオと機内でワインとか飲んだに決まってるしなぁ。
それより…この後の便なんだ…。とレオが到着した時も、もしかして出迎えの人達が残ってる可能性がある…。
大丈夫かな?もし見付かったら…あの二人は個人で来てるから、ファンに囲まれても守ってくれるスタッフもいないし…
もちろん通訳もいない。
日本語も分からないでホテルにたどり着けるんだろうか・…

そんな事を考えていると心配になってきた。

「ねぇ、リジィ…」
「ん?」
「あの二人、もしファンに見付かったらヤバイんじゃない?誰も守ってくれる人いないしさ…通訳もいないで、ちゃんとホテルに来れるかな?」

僕はドムに聞こえないように、小声で言った。
そう言うとリジーも、あ…ッと言う顔をする。

「そ、そっか・…。そうだよね?そんなこと考えてなかったよ…」
「な?タクシーで来るにしたって…言葉が分からないと大変じゃない?」
「あ、でもレオ、少しは分かるって言ってたけど…。ホテルの名前と場所さえ言えれば大丈夫じゃない?」
「そうかなぁ?場所ってどこ?」
「ロッポンギ…だったかな?」
「そう言えば、日本の人は分かるのかな?」
「多分ね。僕が前に来た時も、マネージャーが、そう言っただけで伝わったよ?」

リジーは僕より先に子役からACTORをやり始めたのでデビューも早く、昔から、世界各国へと出かけていた。

「そっかぁ…じゃ、大丈夫かな?」
「うん…。レオもジョシュと同じでシッカリしてるし…ちゃんとを守ってホテルまで来れるよ、きっと」
「そうか…そうだよね!僕らと違うしね?」 

と、僕は少し安心して、ホっと息をつく。

「…ちょっと…。"僕等"って何だよ?それってオーリーと僕って意味?」 

いきなりリジーに睨まれ、僕はグっと言葉がつまる。

「…いえ…。僕だけです…」

仕方なく、そう言いなおすと、リジーも満足したのか、「その通り!」 と澄ました顔で言った。

(チェッ…僕の方が兄貴なのに、何で、いつもこうなるんだよ…)

僕は何だか情けなくなり、溜息をついた。
窓の外を見ると少しづつ街並みが見えてきて、都心へ近付いたんだと分かる。
僕は日本の家並みを見てロスと大違いなのにまず驚いた。
あんな形で、中はどうなってるのかなぁ…

僕はそんな変な心配をしながら、が(レオもだけど)無事にホテルに到着できる事を心の中で祈っていた。










レオナルド




、こっちだよ?」

俺は入国審査を終えたを見つけると、手を振った。
は不安げな顔で出てきたが、俺を見つけると、ホっとした顔ですぐに走って来る。

「大丈夫だったか?」

俺はを軽く抱きしめると安心させるのに優しく頭を撫でた。

「うん。英語で話してくれたし…大丈夫よ?」 

と、もやっと本来の笑顔を見せる。

「そっか。じゃ、荷物受けとってタクシーに乗ろう」

二人で、そのまま荷物を受け取ると、到着ロビーの出口へと向って歩き出した。
すると、その辺りに、やけに固まった人の塊が見えてくる。

「ちょっと待って、

俺は足を止めると、その様子を伺った。
何だか若い女の子が、やたら大勢いて、グループごとに話し込んでいるようだ。
しかも手にはカメラやサイン色紙みたいなものを持っている。

、多分あの子達はオーリーやジョシュ達の出迎えで来たファンの子だから見付からないように、戻って向こうの出口から出よう」

俺がそう言うと、は驚いた顔をして俺を見あげて来る。

「え?そうなの?レオよく分かったわね?」
「ああ、日本には何度も来てるし出迎えされた事もあるから分るよ。確か俺の時も、あんな感じの子達が沢山ここで待ってて写真やらサインやら強請られた」
「へえ〜そうなんだ!凄いわ?レオ!日本でも有名なのね!」

は無邪気に笑いながら、そう言うと、そのファンの子らしい女の子達をジっと見ている。
俺は思わず苦笑した。

(全く…は可愛いよ、ほんと)

「ねぇ、レオ。じゃあ、オーリーやジョシュやリジーも、皆、あの子達にサインとかしてあげたのかしら?」
「ああ、そうだろうな。あの子達はその余韻で、まだ残ってるんだろ?だいたい、うちの家族はが思っているより有名なんだ。どこの国でも取り上げられてるからさ。
ノンビリしてると俺らまで見付かるから早くホテルへ行こうか?」

そう言って、の額に優しくキスをすると、もニッコリ微笑んで、「うん」 と俺の手を繋いでくる。
俺は顔がニヤケそうになり、慌ててサングラスを直すと、ファンの子達とは反対の方にある出口へと向った。
外に出ると、まだ何十人か、女の子の団体が固まっているのが見える。
俺は帽子も目深にかぶり、の帽子も少し深くかぶらせた。

は目立つからな…絶対に帽子とサングラスは外すなよ?」
「うん。 ――でも…レオの方が目立つわよ?」 

と、はクスクス笑いながら言った。

「そうか?これでもジミにしてきたんだけど…」 

と苦笑した。

「ええ〜だって、いくら普段着と言ったって明らかに周りより派手だもの。どう見ても周りからしたらどこかのスターが来たって感じにしか見えないわ?」
「そ、そうかな…?」 

と俺は自分の格好を見た。
確かに…カジュアルにはしてるけどアルマーニのウエアにジャケット、そして二人してヴィトンのでかいバッグを持っていたら目立つかも知れない…。
…日本だと相当、派手に見えるか?

だいたい、今は周りには日本人しかいなかった。
こっちの人達は外人が珍しいのか、すれ違っていく、おばさんもチラチラ、俺たちの方を見ていく。

(確かに帽子にサングラスは目立つか…いっそ外した方がいいかな…)

俺は帽子だけとると髪を軽くかきあげて整えた。

「レオ?帽子とっちゃうの?」
「うん。何だか自分が凄く派手に思えてきて返って目立つかと思ってさ」 

と笑うと、も苦笑して、「そうね?じゃ、私も帽子はとろうっと」 と言って可愛いキャスケットを取ってバッグへとしまっている。
は今日は大好きな"ジャルー"というアメリカのデザイナーズ・ブランドの服を着ていた。
サイケなニットに同じブランドのコートを羽織り、ローライズのジーンズをはいて、どこか60年代を思わせる格好で、またそれが似合っていた。
は長い髪を軽く直すと、「ねぇ。タクシーに乗るには、どこに行けばいいのかな?あの白い車がそう?」 とキョロキョロしている。

「ああ、あれが日本のタクシーだよ?行き先言うくらいなら日本語で言えるし、サッサと乗るか」
「うん、早く皆に追いつかなきゃ」

はそう言うとバッグを持った。

「それ重いだろ?大丈夫か?」
「うん、平気よ?これくらい。いつもマネージャーに持ってもらってるわけじゃないし」 
「そうなの?俺、いっつも運んで貰ってるけどな…」 

と苦笑しながら俺もタクシーの方へと歩きかけた。
そこに、いきなり目の前に女の子4人が立ちふさがり何か叫んでいる。

(やべ…見付かった…!)

日本語で話し掛けられてサッパリ分からなかったが手を出しているので握手してくれと言ってるんだろう。
ここで握手なんてしてたら、すぐロビーにいたファンの塊にも気づかれる。
俺は驚いているの手を引くと、目の前の子達にを見ないようにタクシーの前まで歩いて行った。
女の子達は、その後をくっついて来てはいたが、俺が何も言わず歩き出した事で話し掛けてくるのをやめてくれたようだ。
タクシーのドアが開き、運転手がニッコリと微笑んでくる。

「Hello!」

いきなり英語で挨拶されて驚いた。

「ああ、英語分かるんですか?」 

と俺は車の中を覗き込みながら言うと、その40歳くらいの運転手は笑顔で、

「はい、分かります。成田は長いので少しなら…」 

と答えた。
俺は、ホっとして、「あの荷物があるんですけど後ろに入れても?」 と聞いた。

「あ、はい!どうぞ」 

とすぐにトランクを開けてくれる。
そして外に出て来ると、俺のバッグとのバッグを中にしまってドアをしめてくれた。
は笑顔で、「Thank you!」 と言って、その運転手の手を握っている。
運転手は少し顔を赤くしながらも、照れ笑いをしている様子。
俺は苦笑すると、そのまま先にを車へと乗せた。
チラっと横を見ると、まだ話し掛けてきた女の子達が、こっちを興奮したように見ている。
俺は彼女達に軽く手を振ると、「キャァ〜〜〜!」 と黄色い声が上がった。
ちょっと微笑んで、すぐにタクシーへと乗り込む。
すると彼女達は窓のとこまで走って来て俺とに笑顔で手を振っている。
仕方なく、俺は窓を開けると、さっき出来なかった握手をするのに手を差し出した。
女の子達は、それだけで、キャーキャー言いながらも次々に手を出してくる。
何かを言っているのは分かるんだけど、聞き取れるのは、「Thank you!」 とくり返される言葉と、「LEONARDO〜!」 という俺の名前のみ。
俺は笑顔で皆と握手をすると、「See you !」 と言って窓を閉めた。
隣ではも笑顔で手を振っている。
俺は運転手に、「あのハイアットに行って下さい」 と声をかけた。

「かしこまりました」 

と気持ちのいい返事が帰って来て、すぐに車を発進させてくれた。
俺とは窓の外の女の子達に最後に軽く手を振ると、お互いに顔を見合わせる。

「はぁ〜驚いた!いきなりバレちゃうんだもの…」 
「俺も驚いたよ…。でも、まだ中の人達にバレなくて良かったけどな…」 

と俺は苦笑しながらの頭を撫でた。

「やっぱりレオが帽子とるからじゃない?」 

と、がクスクス笑いながら俺を見る。

「でもオーリー達が来てて、うちの家族のイメージが残ってる矢先に、その場にいたらそりゃバレるよなぁ…それがなかったら、こんなお忍びで来てるんだから、似てるかも…で終わったかもよ?」

と俺は笑いながら煙草に火をつけた。

「あ〜あ。これで兄弟と妹全員で来てるってバレるのも時間の問題だな…」 
「そうねぇ…。それだと遊びに出にくくなるかなぁ…」

は少し心配そうに窓の外を眺めている。
俺はの頭を抱き寄せて肩に乗せると、「大丈夫だって!街中に行けば、そう簡単にはバレないから」 と言って額にキスをした。
は嬉しそうに微笑むと、「そうね?私達は仕事じゃないし…のんびり観光したいな…」 と呟いた。

「ああ、そうだな…。どこ行くか決めないと」 

俺は、そう言うと窓の外を眺めた。
どんどん成田から遠ざかって少しづつ家並みが見えてくる。

(ああ、この風景…久し振りだなぁ…)

これを見ると日本に来たと実感が湧く。俺は暫く、その景色を黙って見ていた。














ジョシュ




キンコーン、キンコーン…ドンドンドンドン…



「ジョシュ〜!開けてぇ〜〜?」

僕は、その声を聞いて、ガックリ頭を垂れた…。つーか全身の力が抜けるのを感じた。
そして力なく部屋のドアを開ける。

「ジョシュ〜会いたかったよ〜〜!二時間ぶりだね〜」

そう言いながら僕の一つ上のバカ兄貴…オーランドがガバっと抱きついてくる。

「はぁ…いちいち部屋にまで来なくていいよ…。てっきりかと思っただろ?」 

とウンザリした顔で言った。


「そんな冷たい事、言うなよ!日本で、こうして会いたいんだよ!可愛い弟に!」

オーランドは、そう言いながら、ずかずかと部屋の中まで入って来た。
その後ろから――

「どうも〜!お兄さん!」 
「うわ!ドム…!オーリー!連れてくるなよ…(!) ――ってか、何で俺が、ドムの兄貴なんだ?ドムの方が年上だろ?」
「まぁまぁ…俺がと結婚したら、そうなるんだし…」 

とドムはヌケヌケと言いのけて僕は目を剥いた。

「はあ?!誰がドムと結婚するって?!ドムとを結婚なんかさせるかよ!」 

僕は思わず本気で怒鳴っていた。

「そんなあぁぁぁ…こんなに好きなのに!」 

と、ドムは切なげな顔で僕を見る。

「知らないよ…悪いが、の事は諦めてくれ」 

俺はドムの肩をガシっと掴むと真剣な顔で言った。

「何でだよ?俺のどこがいけないんだ?!」 

と、ドムも必死の形相。
俺は目を細めると、「全部?」 と、アッサリと教えてやった(!)
その言葉に、ドムは、「Oh!God!酷すぎるよ…!」 と頭を抱えて嘆いている。
僕は溜息をついて、ソファーへと座ると、さっきまで見ていたスケジュール表に目を通した。
後ろでは、ドムが、まだ、への熱い想いを切々と訴えている。

「…俺は、あのニュージーランドにやってきた天使のようなを一目見て、この子と俺は結ばれる運命だ!って感じたんだ…」

(いや…それは気のせいだろ…?)

は俺のとこに、来てニッコリ微笑むと、"初めまして。です"って言ってくれたんだ!あの俺を見つめる瞳は俺と同じ想いの目だった!」

(いや、それはないから…安心しろ…)

「その後もは俺に優しくしてくれて、俺は、そんな彼女を見る度に、こう体が震えるような感動が押し寄せてきて…」

(そりゃ、多分、風邪だな?悪寒だと思うよ…)

「あの日から俺はとの結婚を夢見るようになったんだ…!」

(!!…頼むから捨ててくれ!そんな不吉な夢…!!)


僕はウンザリする顔を隠しもせず振り向くと、

「とにかく…はドムにはやらないよ?告白もダメ!半径2メートル以内に近付くのもな?」 

と冷たく言い放った。

「そうそう!ドムがいくら好きになっても、うちのお姫様はあげないよ?!」 

と、やっとオーリーも援護をしてくれる。
その僕らの言葉にドムは明らかにへコんだ様子で、フラフラと「俺…ちょっと部屋で休んでくるよ…」 と言いながら出て行った。
僕は、ホっと息をつくと、「だいぶ重症だな?ドムのやつ…」 と苦笑した。

「そうなんだよぉ〜〜!もう、うるさくってさ〜。あれだとが到着して会っちゃったら復活しかねないよ?」 

と、オーリーも向かいのソファーに寝転がりながら口を尖らせている。

「はぁ…まったく…どうやったら諦めてくれるんだ?」
「そりゃ、の口からハッキリ断られれば、いくらドムでも…」
「諦めると思うか?」
「…思わない…」
「…だろ?」

僕とオーリーはちょっと顔を見合わせると二人同時に溜息をついた…。












イライジャ




(はぁ…遅いなぁ…まだ着いてないのかな…)

僕は自分の部屋で、電話と睨めっこしていた。
がホテルに着いたら、きっと誰かが電話してくるはずだ。
僕は煙草に火をつけてベッドへと腰をかけた。

(まあ、レオがついてるんだし大丈夫だろうけどさ…)

「はぁ…」

僕が、また溜息をついた、その時――
急に電話が鳴り出し、僕は速攻で受話器をとった。

「Hello?!」
『……リジー?』
「え?…ドム?」

僕は聞きなれた、その声にガックリと項垂れた。

「何?どうしたの…?」
『…聞いてくれよ〜リジー〜〜!!酷いんだよ、ジョシュもオーリーもぉ〜〜〜!!』

いきなり大きな声を出されて僕は思わず受話器を耳から遠ざけた。
「…っさいなぁ…!もっと小さな声で話してよ〜。 ――で?何がひどいのさ?」 と一応(!)聞いてあげた…。

『あいつらさぁ〜!俺がと結婚するのが気に入らないって言うんだよ!』
「は?!と結婚?!……誰が?」 

僕は一瞬、耳がおかしくなったのかと聞き返してみた。
『だ〜から!俺とが!』 張り切って答えたドムの言葉に僕は軽い眩暈を感じて、そっと受話器を置いた。(!)

「はぁ…危ない、危ない…。一瞬、変な空間に迷い込んだかと…コミックの読みすぎかもな…気をつけよう…」 

僕は一瞬で出てきた変な汗を拭うと、気を取り直し、冷蔵庫から缶コーヒーを出して一口飲んだ。
すると、また電話がけたたましく鳴り出して僕はそっと受話器をとってみた。

『なぁ〜んで切るんだよ!!俺が、こんなに切羽つまってるって言うのに!!』
「ああ、ごめ、ごめん!何だか怖い聞き間違えしちゃった気がしてさ…一瞬、眩暈がしたんだ…」
『は?何がだよ?』
「…いや! ――それで、どうしたの?」 

僕は気を取り直して問い掛けた。

『だからさ!俺に、の半径2メートルは近付くなって言うんだよ、あの悪魔兄貴二人が!!』
「当たり前だろ?」

そこは僕もアッサリ答えてあげる。

『な!!リジーまで、そんなこと言うのか?!』
「あのねぇ…は僕らの大事な大事な天使なんだよ…。いくらドムでもあげないよ?」
『お、お前は大事な仲間に、そんなこと言うのか…!』
「大事な仲間でもダメなものはダメ!は一生、僕らの側にいるの!」
『は?そんなバカな!!結婚はするだろ?普通!』
「さぁ?もしかしたら、うちの兄貴の中の誰かとはするかもね?あ、そこに僕も入ってるんで宜しく!」
『な!な!何てことを…!!!!お前、の兄貴だろ?!何で結婚できるんだよ!』

僕は、きっとドムは今、顔が真っ赤なんだろうなと苦笑しつつ、

「やだなぁ〜忘れたの?ドム。僕らは血は繋がってないから結婚なんて、すぅ〜ぐ出来るんだよ?」

僕は笑いを堪えて、そう言うと、

『ダ、ダメだよ、そんなの!いくら血は繋がっていなくても兄妹なんだから!――お、俺はお前ら兄貴には負けないぞぉ?!』

ドムは、そう言うとガチャンっと電話を切ってしまった。

僕はプっと吹き出して、「アハッハハ!!ド、ドムの慌てようったら…あ〜笑える…!」 とお腹を抱えて笑った。

「まったく…遊びがいがあるなぁ〜、ドムは」 

僕は受話器を置くと、ベッドに寝転がった。
ふと時計を見ると午後の2時半になろうとしている。 ――そろそろ記者会見の時間だっけ。

は間に合わないのかなぁ…)

僕は、ガバっと起き上がると、また電話の前で、報告が来るのを、ボーっと待っていた。












レオナルド




タクシーがホテルの前に止まり、俺はお金を払って下りると運転手も下りてトランクからバッグを出してくれた。

「ありがとう」

は笑顔でお礼を言っている。
俺もバッグを受け取ると、「ありがとう」 と言った。 
運転手は嬉しそうに微笑むと、「ありがとう御座いました」 と頭を下げる。
俺とも軽く頭を下げると、ホテルへと入って行った。
ロビーへ入ると、何やら記者らしい人達がウロウロしている。
俺はと、そいつらに見付からないように、そっとフロントまで歩いて行った。
そして、すでに入ってるジョシュと一緒に予約してあった事から別にサインをしなくてもキーを渡された。

(部屋番号は"1652"と"1653" ――16階か…)

「どうも」 と言ってエレベーターへと急いで乗る。

「はぁ…何だか記者がウロウロしてるな?今から記者会見じゃないのか?」
「うん…そんな感じね?凄い報道陣の数…」

もやっとサングラスを外すと軽く溜息をついている。

「大丈夫か?疲れたんじゃない?」 

俺は心配になり、の頬に軽くキスをして聞いてみた。

「ううん、大丈夫よ?飛行機の中で思い切り寝たし…少し頭はぼわーっとするけど」

は苦笑した。

「ああ、時差があるからな…。いくら寝ても少しはダルイよ。部屋行ったら少し休めよ?」
「レオったら心配性は直らないわね?」 

と、はちょっと笑いながら俺を見上げる。
俺は微笑んで、の額にキスをすると、「ああ、これは一生直らないな」 と言った。
チーン…エレベーターが16階について扉が開く。
すると目の前にジョシュが立っていた。

「あ、…レオも!」
「ジョシュ?!」

は嬉しそうにジョシュに抱きついた。

「今、ついたとこなの!」 
「そっか!遅いから、どうしたかと心配してたんだ」 

と、ジョシュも嬉しそうに、の頬にキスをしている。

「道が少し混んでさ。それで・…ジョシュ、どこに行くんだ?記者会見か?」
「ああ、そろそろ用意しないとさ…。30分くらいで終るよ。その後にインタビュー」
「そうか。ま、頑張って宣伝してこいよ」 

と俺は苦笑しながら言った。

「レオは遊びだから気楽でいいよなぁ?」
「まあね!あ、夕食はどうする?終るまで待ってようか?がお腹減らなければ、だけど」 

ジョシュはちょっと笑うと、

「ああ、それでいいよ。多分…夜の9時には帰ってこれると思うんだけどさ〜。監督も一緒だし分かんないんだ」
「ええ〜ジョシュ、どっか連れて行かれるの?」 

と、が寂しそうな顔で聞いた。

「う〜ん…。 まだハッキリ聞いたわけじゃないんだけど…なるべく戻れるように努力するからさ?」 

ジョシュは、そう言うとの額へ優しくキスをして、「じゃ、ちょっと監督の部屋に行って来るよ」 と俺の方を見た。

「ああ、分かった」
「あ、それとさ…」 

ジョシュはいきなり俺の腕を掴むと廊下の端へと引っ張っていく。

「どうした?」 

と、俺は小声で聞いた。

「実は、またドムが暴走しててさぁ…」 
「ああ…ドムか…」 

と、俺もウンザリして項垂れた。

「ま、ドムも記者会見に出るから今日は顔を合わせるかどうか分からないけどさ…万が一、バレても俺らで守ればいいしな?」
「そうだな。分かったよ」
「じゃ、行って来るよ」 

とジョシュは、またエレベーターの方へ戻ると、の頭を撫でて、
「行って来ま〜す」 と微笑みエレベーターと乗り込んだ。
も笑顔で手を振っている。
扉が閉まると、は、「ねぇ…ジョシュ何だって?」 と首をかしげた。

「え?あ、ああ。別に、と二人で出かけるなよってさ!」 

と言っての頭にポンと手を置くと、「さ、部屋に行こう」 と言って手を繋いだ。
丁度、午後の3時を10分過ぎたところ。
俺は自分の部屋のドアを開けて、「、お腹すいてない?」 と振り返る。

「うん。まだ大丈夫よ?ちょっとシャワー入ってスッキリしようかな?」
「ああ、そうしなよ。俺もシャワー入って、少し横になるかな…」
「そうね?まだ3時過ぎだし…。起きたら部屋に電話してね?」
「OK!じゃ」
「後でね」

は、そう言うと部屋の中へと入って行った。
俺も部屋へと入り、すぐに荷物を置くと、大きなソファーに座り思い切り足を伸ばした。

「はぁ〜久々の日本だな…」

やっぱり少し頭が重いな…あんなに機内で寝ても、だるさは少しは残る…
ま、ちょっと眠ればとれるくらいの、だるさなんだけど。
皆も記者会見の後はインタビュー攻撃かな?夜、早く戻って来れるのか微妙なとこだな…。
もし戻れなかったら、別に夕食は、このホテルの上でもいいか。が、どこかに行きたいと言えば行けばいいんだし…

「さて、と。シャワーでも入るかな…」

俺はソファーから立ち上がると、バスルームへと歩いて行った。












オーランド





コンコン!



「リジー?記者会見に行くよ?」
「今、行くーー!」

部屋の中から声が聞こえて僕はホっとした。
今からすぐに会見場となる、このホテルの二階へと行かなくてはならない。
はぁ〜…ちょっと頭がボーっとするけど、眠くもない。

(やっぱ一日目はこんなもんかな…)

僕は溜息をつくと、ブラブラとエレベーターの方へ歩いて行った。
するとリジーが部屋から出て来る。

「お待たせ!皆は先に行ったの?」
「ああ、どうだろ?俺はマネージャーから電話来たからさ。リジーと一緒に会見場に行ってろって」
「そっか。 ――あ、とレオから連絡来た?」
「いや…どうなんだろ?分かんないなぁ…。もう着いててもいい頃なんだけどさ」
「携帯に電話すれば良かったな…」

エレベーターが到着して中へ入ると、リジーが呟いた。

「会見終って戻って来たらかけてみようよ。その頃には、とっくに着いてるだろうし」
「うん。そうだね? ――あ、今夜はインタビューの後に何もないだろ?僕、皆で食事するのパス!」
「ええ〜?俺もパスしたいよ〜。またドムにからまれそうだしさ〜」
「ビリーに任せちゃう?」 

とリジーは笑いながら言った。
「そうだな…前以上に飲ませてって言っておく?」 と僕も笑った。
エレベーターが二階へつくとスタッフが呼びに来た。

「あ、コチラです!」

僕とリジーは、人が固まってる方へと歩いて行った。
「あ、オーリー、リジー。やっと来たわね?」 とリヴが笑っている。

「そろそろ?」
「ええ。今、記者たち報道陣を中へ入れてるとこ。かなりの人数よ?」
「やっぱり注目されてるってことかな?」 

とリジーが会見場の方を覗き込みながら呟く。
そこに、「Hey!揃ってるね?諸君!」 と元気よくビリーとドムが歩いて来た。
「そろそろ始まるかい?」 とビリーが僕の肩を組んできた。

「あ、うん、あと10分くらいじゃない?」
「そっか〜。ちょっと緊張するな…」 

ビリーの言葉に僕はちょっと笑って、「俺も…」 と言うと、ドムが僕を恨めしそうに見ているのに気づいた。

(う…さっきの…まだ根に持ってるな?でも、どんなに頼まれてもだけは渡せないからね!)

僕は心の中で、そう呟くと、ドムに向って、ニカっと笑ってみた。
すると、ドムは僕に、ベーっと舌を出してきた(!)

(ぬ〜…なんて大人気ないんだ…!!)

「何やってるの?ケンカでもしたわけ?」 

リヴはちょっと笑いながら僕に聞いてきた。

「リヴ〜…。それがさぁ…ドム、と結婚するとか言い出して…さっきジョシュと大反対したら恨まれた…」
「嘘?結婚ですって?!」 

と、リヴも驚いている。

「そうだろ?驚くだろぉ?何でいきなり結婚なんだよ…」
「大変ね?可愛い妹を持つと…」 

リヴはクスクス笑うと僕の肩に手をポンと置いて微笑んだ。

「はぁ…ほんとだね…。だいたい、こんな話、レオにバレたら発狂するぞ?父さんだって鬼のように怒るだろうし…」
「結婚なんて言い出すくらいだし…ドムはにプロポーズする気かしら?」
「な!そんな事は絶対に阻止するよ…!」

と熱くなっているとスタッフが走って来て、「じゃ、そろそろスタンバイお願いします」 と言って、また走って行く。

「さ、とりあえず、記者会見に集中しましょ?」 

「ああ、そうだね…」 と頷くと、僕は着ていた白いシャツをピシっと直して、背筋を伸ばした。

(さぁ…僕も、とうとうジャパンデビューだ!)

なんてアホな事を考えつつ、営業用のスマイル(!)を作って、通訳の後ろへと皆で並んだ。













レオナルド





俺はかすかな音で目が覚めた。

(何だ…?何の音だったんだろう…)

俺はゆっくり寝返りを打って部屋の中を見渡した。 ――別に何もない。
気のせいかな…と俺は、もう一度目を瞑る。すると向こうの部屋からノックの音が聞こえた。

コンコン…と小さく叩いているようだ。俺は体を起こすと、そっとベッドを出た。
寝室を出ると、足音を忍ばせ、ドアの方へと近付く。ふと時計を見ると夕方の4時になるところだった。
俺は覗き穴から、廊下を見てみた。

(え?…か?)

廊下には落ち着かない様子でが立っていた。
俺は急いでドアを開けた。

…どうした?」
「――あ…レオ…ごめんね…。寝てたよね」
「いや、いいんだ。入って…」

俺はを部屋へ入れると、「どうした?何かあった?」 と優しく頬にキスをした。

「ううん…ただ…知らないとこに来たら落ち着かなくて…。一人でいると不安になっちゃったの…」 

と、はちょっと微笑む。

「そっか…。じゃ、ここにいる?」
「うん。 レオ、一緒に寝てもいい?」
「え?!」

ふいに、そう言われて俺は焦った。

(一緒って…そんな最後に、一緒に寝たのなんて10年前くらいだぞ…?)

俺が何て答えようかと、いつにも増してうろたえていると「ダメ…?」 と、ふにゃっと悲しそうに眉毛を下げて俺を見あげてくる。

(う…そんな悲しげな顔で見ないでくれよ…。はぁ…の、この顔に弱いんだよなぁ…俺…)

俺は軽く息をつくと、ちょっと微笑んで、「ああ、いいよ」 と言った。
「ほんと?」 と途端に笑顔になるが、凄く可愛くて、軽く頬にキスをすると、

「まだまだ、あいつら戻ってこないし、ちょっと寝てよう…」 

と言って寝室へと戻った。

「うん…さっきから眠いんだけど、落ち着かなくて、すぐ目が覚めちゃうの…」 

と、が悲しそうに呟く。

「そっか…。そうだよな?初めての日本だしな…」

俺がそう呟くと、は、ニコっと笑って、ベッドに入った。
俺は何となくベッドに入りづらくて、ベッドの脇に腰をかけると煙草に火をつけた。

「レオ…そのパジャマ…このホテルの?」
「え?あ、ああ。そう…ユカタって言うんだってさ。前にも着て楽だったからさ」 

と俺は煙を吐き出しながら言った。

「そう。似合うわね?レオ」 
「そ、そう…?」
「うん。何だか自然よ?」 

と、はクスクス笑っている。
「何だよ、笑うなよ」 と、苦笑しながらの頭をクシャっと撫でた。
は、その俺の腕を掴んで、「寝ないの?レオ」 と言った。

「ああ、寝ようか…」

俺は煙草を灰皿へ押しつぶして、そっとベッドに入ると、

「レオ、腕枕して?」 

と、が昔のように俺に甘えてきて、俺は顔が赤くなったのを悟られないように、に腕枕をしてあげた。

「はぁ〜落ち着く!昔、よく、こうして一緒に寝たね?」 

無邪気に言うに、俺は、「そうだなぁ…」 と呟く。

「そうそう、オーリーが"俺とも寝ようよ〜"って駄々こねてさ、、次の日はオーリーと寝てただろ?そしたらジョシュも文句言ってさ。結局、皆と一緒に寝てあげたんだよな?どっちが上なんだか分かりゃしないよなぁ…」
「…そう…だった?」

はすでに眠くなってきたのか目を瞑って呟いている。

「ああ…。 ――、眠い…?」
「ん…ちょっと…」
「寝ていいよ…。どうせ目覚ましセットしてあるし」 

と言うと俺は少し顔を上げての額にキスをした。
は、もう半分夢の中のようだ。
俺はちょっと微笑むと、軽くの顔にかかった髪をはらってあげる。

何だか、こうして腕枕するのって、最近じゃ遊びの女だけだったな…それも渋々って感じなんだけど。

久し振りに腕枕もいいもんだなと思えた。
俺ってゲンキンな奴だな・…と心の中で苦笑する。
少しするとの寝息が聞こえてきて、それを聞いていると、また眠くなってきた。

俺は軽くの頭に唇をつけて、「おやすみ…」 と呟くと、そっと目を瞑った――












到着後のお話ですねv
やっとこドムが出てきましたね〜(笑)
ドムはヒロインと結婚できるんでしょうか^^;
ちょっと陽気な兄ちゃんとして頑張ってもらいますv
(と言うか情けない?)
今回はレオがラッキーメェーンですかね(爆;)(何だ、そりゃ)
レオ様の浴衣姿の画像があるんですが、
ほんと自然で似合っているので驚きですよ〜(笑)
前に来日した時に行った温泉でのやつですねvv
何だか、お茶をすすって寛いでます(笑)あ〜可愛い。
顔の作りから言うとジョシュも似合いそうなんだけどなぁ。
着流しなんてカッコ良さげで御座います〜vvv