僕はいつのようにベッドの上で丸くなって寝ていた。
皆が"蓑虫オーリー"などと、ふざけたニックネームをつけるが、僕から言わせると、こんなプリティーな蓑虫がいるか!ってなもんだ。
この日の朝は寝やすい気温で僕はスヤスヤと安眠していた。
が…気付けば、うるさい音が頭の中に響き、少しづつ意識が戻ってくる。
プルルルル…プルルルル…
「んぁ…」
はっきりと電話の鳴ってる音が聞こえて僕は顔だけバっと上げて一瞬クラっとした。
「ふぁぁあ…ったくぅ…うるさいよぉ…」
僕は頭に響く、その音に顔を顰めつつ、サイドボードの時計を見た。
朝6時…
「げ…っ。まだ寝たばっかじゃん…。誰だい、誰だい!こんな朝っぱらから!!」
僕は一向に鳴り止まない電話に苛立ち体もガバっと起こした。
「まさか仕事入ったとか言わないよなぁ…。今日は完全オフにしてもらったのに…くそぅ…」
嫌な予感がして僕は顔を顰めつつ、出ないわけにはいかないので渋々コードレスフォンを手に取りボタンを押した。
「Hello....どちらさん?」
『…あ…オーリー?』
(――ん?誰だ?この声…男だ…しかも若い…)
「そうだけど…誰ぇ…?」
半分寝ぼけつつ、そう口に出ていた。
『僕だ…よ…僕。…からない?』
「えぇ〜?よく聞こえないんだけどぉ〜?」
何だかだるくて、つい、そんな口調までが出ていた。
すると急に大きな声が聞こえてくる。
『…僕だよ、…ダニ…エル!!』
「はあ?ダニエル…?」
僕は、その名前を聞いても一瞬解らなかった。
だが頭の奥でパチンと何かがハジケて一気に覚醒した。
「うぉ…っ!!お、お、お前…ダ、ダンか?!」
『そうだ…よ…!寝ぼけてんの?』
だんだんハッキリ聞こえて来て、相変わらずの人を小ばかにしたような口調が本当にダニエルだと気付かされる。
「な、な、何だよ、こんな朝っぱらから!し、しかも何で俺の部屋の直通でかけてくるんだ?!」
『だぁってさ。こんな朝から皆を起こすのは悪いだろ?』
「はあぁ?!お、俺ならいいのかよ!」
『まあ、オーリーなら支障はないかな?』
「…………っっ!!」
うむむ…っ。こ、このガキャァ〜!!
相変わらずムカつく事をサラリと言うな…っ!―――まあ、待て。オーランド…ここで、いちいちガキの相手をして怒ってたら大人気ない…
軽く聞き流せ…。大人になるんだ、オーランド!
僕はそう誓いを立てると「で…何の用?」と聞いてみた。
するとダニエルは楽しげに、
『あのさ。時間出来たし今日の昼頃、そっちに行くからって皆に言っておいてよ。今日はおじさんもいるって言ってたし』
と言って僕は驚いた。
「はあ?!きょ、今日?!来んの?お前…っ」
『…お前って言うなよ…』
「あのなぁ…。俺はダニエルより10歳も年上なの!お前って呼んで何が悪いんだよ?それに何しに来るわけ?」
『相変わらずだね、オーリーってさ』
(――む…っ。何だか上からものを言われた感じだ。ほんとムカつく…)
「まさか…に会いに来た…とか言わないよな?」
僕は徐に嫌そうな声を出した。
するとダニエルはケラケラ笑い出し、
『もちろんだよ?に会わなきゃ、こっちでの仕事もパワー出ないからさ?』
とヌケヌケと言ってくれやがった。
「何を〜?ってか、し、仕事って…ダニエル、ロスで仕事すんの?」
『今度の映画のプロモーションとかあるんだ。夕べ遅くについたばかり』
「あっそ…」
『今日はオフなんだ。だから後で行くからとかハリソンおじさんにも伝えておいて?おじさんには僕の父さんから連絡がいってるし』
「へいへい…。解ったよ…」
『じゃ、後でね』
そこで電話は唐突に切れた。
僕はコードレスフォンをポイっと投げ捨て思い切り溜息をつく。
「はぁ…。何だよ…。暫く平和だったのに今度はダンか…っ」
僕は、もう一度寝ようとベッドに寝転がった。
ダニエルは父さんの少し歳の離れた弟の子供で、まあ言ってみれば僕らの従兄弟になる。
もちろん血の繋がらない従兄弟だ。
父さんの弟…僕らの叔父さんも昔はACTORで今は芸能事務所の社長なんかしてる人。
そんな中、ダンもうちの家族を見て憧れたのか、ACTORを目指した。
叔父さんも、きっとノリノリで子供を売り込んだんだろう。
おかげでダンまでが見事にACTORになり、今では人気シリーズ、"ハリーポッター"の主役まで射止めてしまった。
その映画の大ヒットでダンまでが一躍有名になり、人気者になった。
収入だって子役部門では毎年トップだ。(生意気な)
叔父さんも内心ホクホクだろう。
で…何で僕はダンを嫌ってるかと言うと、もっと小さい頃からの話に遡る。
小さい頃からダンは僕らの家に、よく遊びに来ていた。
あれはダンが10歳くらいの頃だろうか。
高校生になったに、突然プロポーズなんてしやがった。
レオやジョシュ、リジーなんかは子供のジョークと思ったのか笑っていたけど僕には解る。
ダンはかなり本気モードだった。
当の言われただって、
「ダンが大人になったらね」
なんて軽く流してたけど……ダンはちゃっかり指きりまでして、
「絶対だからね?」
なんて真剣な顔で言っていた。
はダンを弟のように可愛がっていたから、そのまま頷いてたんだけどさ。
まあ、も末っ子だし自分の下に弟か妹を欲しいと言ってたから、ダンの事は本当に、良く面倒をみていたし、
かなり優しくしてたから、ダンが勘違いして惚れてしまうのも無理はない…(でも小学生でプロポーズするか?普通…)
そのうち大人になれば忘れるだろうなんて高をくくっていたけど…そうでもなかった。
ダンは毎年、何度かロスに来て、その度にを独り占めするんだ。
が自分を可愛がってるというのもダンは解ってるし、面倒見もいいのだって計算済み。
レオ達は、まあ久々に会ってるんだから…と言って、何も心配してない様子だけど…僕は何だか嫌なんだ。
何が嫌ってを独り占めされるのが一番嫌なんだけど…
ダンは子供と言う立場を利用して、事もあろうにと一緒に寝たり、一緒にお風呂にまで入ってたんだ(!)
それを許せるはずがないだろう?!
僕だってが小学生の頃…しかも低学年の時に一緒に入って以来だってのにさ!
その時に僕は一気にダンにライバル心がムクムクと湧いてきたんだ。
それに気付いたのかダンも心なしか僕に冷たくなった。
いちいち、さっきのように癇に障る事を言ってくるんだから…っ。
(――ああ……また今年もダンがやってくる…)
僕は寝起きから憂鬱な気分になっていった。
「あら、オーリー。どうしたの?そんな寝不足みたいな顔して」
僕がリビングに行くとエマが掃除をしていた。
「あ〜エマ〜おはよ…」
「珍しいわね?オーリーが朝からテンション低いなんて」
「ちょっと目覚めが最悪でさ…。あ、父さんは?」
「ハリソンなら、まだ寝てるわ?夕べも遅かったみたいなの」
「そっかぁ…」
僕は溜息をつきながらソファーへと寝転がった。
「オーリー?まだ眠いなら部屋で…」
「んぁ…。それが眠いのに寝れなくてさ…」
「そうなの?ほんと珍しいわね?あ、紅茶でも飲む?」
「うん。ハーブティーがいいなぁ…」
「あら…それならリジーが得意でしょ?ほら、起きてきたからリジーに頼めば?」
「ふぇ…?」
何だか気の抜けた返事をしながら僕がリビングの入り口を見るとリジーが入って来た。
「おはよ〜」
「凄い…。何で解ったの?エマ!」
僕は体を起こし、エマを見た。
リジーだけはキョトンとしている。
「何が?」
「あ、いや…。今、リジーの姿が見える前にエマがリジーが起きてきたって言うからさ!」
「そうなの?」
リジーも不思議そうにエマの方を見ると、彼女はクスクス笑っている。
「私は子供の頃から、あなたたちを見てるのよ?今はもう足音で誰のか解る時もあるの」
「えぇぇ?!嘘?足音?」
「へぇーーどうやって聞き分けるのさ?」
僕とリジーは驚いて聞いてみた。
「そうねえ…リズムよく下りてくるのがレオで…ドタドタ大きいのがオーリー。静かに下りてくるのがジョシュで、今みたく一段一段、跳ねるように下りてくるのがリジーかな?」
「へぇ…っ。階段を下りてくる音で聞き分けてたんだ!凄いよ、エマ!」
僕はちょっと感動(!)してパチパチパチ〜っと拍手をした。
リジーも、「そうなんだ。自分じゃ気付かなかったっ」と目を丸くしている。
「え?あ、じゃあ父さんとは?どんな感じなの?」
僕は気になって聞いてみた。
するとエマが少し考えて、
「ハリソンはだるそうに降りてくるわねぇ。ゆっくりって感じで。はジョシュと同じで静かなんだけど彼女の方が音は軽いの。体も小さいしね?」
と笑顔で答える。――僕は更に感動した!
「凄いや。エマ!足音占いとか出来そうだね!」(何だ、そりゃ!)
「バカじゃないの、オーリー…。そんなの出来る訳ないだろ…?」
「む…っ。朝から感じ悪いな…。まあ、でも許してやるからハーブティー淹れて〜」
僕も最後は猫撫で声で頼んでみる。
リジーは苦笑しながら肩を竦めた。
「OK。僕も飲もうかと思ってたし…淹れてやるよ」
「わーい。サンキュ!」
僕はスキップしながらリジーの後についてキッチンへと向かった。
「ほら、オーリー」
「Thanks!う〜ん、いい匂い…。これで眠れそう…」
僕はソファーに座りながらハーブティーを一口飲むと、リジーが顔を上げた。
「何、オーリィ…。まだ寝る気?いくらオフだからって…」
「ああ、違うよ。ちょっと睡眠を邪魔されて、あんまり寝てないんだ」
「邪魔されたって…誰に…?」
リジーにそう聞かれて、僕は思い切り顔を顰めた。
「ダンだよ…」
「えっ?ダンって…。ダニエル?」
「そう!あいつ朝の6時に電話してきてさ!」
「へぇ、何でオーリーに?そんな仲良しじゃないだろ?」
リジーは煙草に火をつけながら僕を見た。
「それがさぁ〜!聞いてよ!僕なら朝早くでも起していいと思ってって言うんだよ?!信じられないだろぉう?!」
「へえ、よく解ってんじゃん。ダンの奴」
「………なっっ?!何だよ、リジー!!リジーまでダンの味方なの?!」
僕は、あまりにショックでリジーの隣に移動して抱きついた。
するとリジーは思いきり僕を突き飛ばすんだから…何て冷たい弟なんだ!!
「もう、うっとぉしいなぁ…。あのね、味方とか、そんなものないだろ?ダンは唯一の従兄弟だしさ。そろそろ仲良くしろよ」
「ぬ…っ。ダンと仲良くなんて絶対に出来ないね!だってにプ、プロポーズしたんだよ?!」
僕がバンっとテーブルを叩くとリジーは驚いた顔をした。
「な…オーリー、あんな子供の言うこと信じてるわけ?」
「そ、それだけじゃないよ!ダンはと一緒に寝たり、お風呂に入ったりしてただろう?!」
「それも皆、子供の頃の話だろ?僕らだって一緒に入ってたじゃないか」
「そ、それは小学校低学年までだよっ。ダンなんて5年生になってもと入ってたんだから!」
僕が顔を真っ赤にしながら怒ると、リジーは呆れた顔で溜息をついている。
「あのねぇ…。でも最近はお風呂にも入ってないだろ?」
「で、でも…たまに一緒に寝ようとしてるっ」
「いいじゃん…。たま〜にしか来ない従兄弟なんだから。も可愛がってるし…」
「じゃ、じゃあリジーはがダンに襲われてもいいっていうのか?あいつだって、もう15歳だよ?!立派に男としての機能を―――」
バチンっ!
「ったぁ…っっ!」
「朝からバカなこと言うなよ!」
リジーは僕の額に平手をかまし怒り出した。
だが僕も、そこは負けていない。
「バ、バカな事って言うけどさ!ほんとにに、もしもの事があったら遅いんだからな?!」
「はいはい…。じゃあに忠告してやれよ…。ま、今みたいに変なこと言って怒られるのはオーリーだと思うけどさ」
リジーは、そう言って立ち上がると、
「じゃ、僕はシャワー入ってくるからさ。オーリーは戦闘準備でもしててよ」
と手を振りながらリビングから出て行ってしまった。
「うぅ…っ。ほんと軽視してるな?!知らないからなーーっ」
僕は、そう叫んでソファーに寝転がった。
(ったく…。リジーは危機感なさすぎだよ!)
僕は一人ブツブツ言いながら、どうやってダンを迎え撃とうかと暫く考え込んでいた。
「…いっ!おい!」
ドカっ!!
「――う…っ」
怒鳴り声と何かの衝撃を体に感じ、僕は目を覚ました。
「ふぁぁぁあ…」
思い切り欠伸をして目を擦ると、目の前に怖い顔をしたジョシュが僕を見下ろしている。
「ん…?あれぇ…?ジョシュ…おはよぉ…」
「おはようじゃない。邪魔なんだよ!寝るなら自分の部屋で寝ろ」
ジョシュに、そう言われて僕は体を起こした。
さっきの体勢のまま、どうやら眠ってしまったらしい。
「ごめん…。ちょっと寝不足だったから…リジーのハーブティーで眠気が襲ってきた…」
「ったく何でオーリーが、こんな早くに起きてんだよ。珍しいな」
ジョシュは、そう言いながらソファーに座り紅茶を飲んでいる。
僕は仕方なく、さっきのダンからの電話をジョシュにも伝えた。
「へぇ〜ダン来るんだ。久し振りだな」
「って呑気だな、ジョシュも!またにくっついて離れないよ?きっと!!」
「仕方ないだろ?たまにしか会えないんだからさ…。そんな目くじら立てる事かよ」
「もぉー。そんなこと言ってさ!心配じゃないの?を愛してないの?」
「はあ?何で、そこまで話が飛躍するんだよ。だいたいダンなんて、まだガキだろ?何の心配だよ」
そう言ってジョシュまでが僕を呆れた顔で見てくる。
「ぬぅ…。ガキって言ったって解らないよ!だって凄く可愛がってるしさっ」
「だからって中学生だろ?大丈夫だよ」
そう言ってジョシュは笑っている。
(はぁ…そりゃ、そうだけどさ…何だかダンは侮れない気がするんだよなぁ…)
「そう言えば…そのは?まだ寝てるのか…?」
「うん。多分…昨日は夜中まで仕事してたしさ。今日はオフだって」
「何だ、皆オフなの?父さんだって珍しく家に戻って来たらしいし」
「いっその事、仕事だったら良かったんだ…」
僕は溜息混じりで、そう呟いた。
――はぁ〜あ〜。休日の日に台風が来るなんてさ。
僕は憂鬱度がアップしてきて、またソファーに寝転がろうとして、ふと時計に目をやった。
(――ん?午後…11時…?確かダンは昼頃に来るって言ってたよな?)
「Shit!」
僕はガバっと起き上がった。
「うあっ。何だよ、オーリー!急に起き上がるなって!」
「そろそろ奴が来るんだよ!戦闘準備しないと!」
「はあ?何の戦闘準備だよ…」
「ま、まずはシャワー入って着替えなくちゃ!」
「ああ、お前のそのボッサボサな寝癖、何とかしろよ」
「え?寝癖?」
僕は慌てて手で触ってみる…
ところどころパックリ、パックリ(!)と分かれていて何だか凄い事になっていた(!)
(――ワォ!!これじゃリジーに借りて読んだ日本のコミックの主人公、スーパーサイヤ人だよ!!)
「やべ…っ」
僕は慌ててリビングを飛び出し、バスルームへと駆け込んだのだった。
キンコーン…
チャイムの音が聞こえて僕の耳がピクっと動いた。
(来たな…ライバルめっ!)
僕はドライヤーのスイッチを消して、鏡を見た。
「ん!今日も男前だなぁ〜僕ってば!アッハッハっ!」(バカ丸出し)
スッキリ爽やか、おヒゲも剃ってホッペまでツルツルだ。
髪だってバッチリとセットして少し長くなったから後ろで一本に縛り、ターバン風なトップも開いてる帽子のようなもの?を被った。
(因みにからのプレゼント♪)
「お?いいんじゃなぁぁぁあい?」
自画自賛しつつも、そう言ってドアの方へ歩いて行った。
少しだけ開けて、そっと聞き耳を立てているとエマが出迎えたのか、声が聞こえる。
「いらっしゃい!ダン!大きくなったのねーーっ」
「お久しぶりです」
ふんっ。大きくなったって言っても所詮は中学生…
別に僕がムキになる事はないかな?(今までムキになってたのは忘れる)
「さ、入って。ハリソンもさっき起きてきて、お待ちかねよ!」
「はい。お邪魔します」
そんな声が聞こえて来て僕はそぉっと足音を忍ばせ、廊下へと出た。
そして階段の方から下を見てみるとチラっとダンの頭が見える。
(エマがリビングに通したんだな…)
僕は、このまま下りる前に、まずはの部屋に行ってみようと思った。
は、まだ寝てると言ってたし。――あ、でも挨拶くらいはいかないとダメかな…
何となく、そう思って僕は踵を翻し、下へと下りて行った。
リビングを覗くと、父さんがダンを抱きしめている。
「いやぁ〜話には聞いてたが、大きくなったなぁ。ダン!すっかり大人っぽくなって!」
「叔父さんは相変わらず若いですね」
「お?嬉しいこと言ってくれるな!まあ、恋愛してれば誰でも若さを保てるさ」
父さんは何だかすっかりダンのペースに引き込まれている。
僕はちょっと深呼吸をしてドアを思い切り開けた。
「やあ、ダニエル。久し振り!」
「あ、オーリー!今朝はどうも」
「おぅ…っ?」
僕がリビングに入ると、目の前にいたダンがこっちに笑顔を向けた。
だが一瞬、僕の目が点になる。
な、な、何だ?!何だか身長伸びてないか…?!つか、その前に顔が違う!顔が!
あんな子供子供してた顔が…暫く見ないうちに・…大人っぽくなっている…!!しかも何気にカッコよくない?!
「どうしたの?オーリー」
ダンが僕の目の前に歩いて来てニッコリ微笑んだ。
「え?あ、い、いや…ダン…何だか…身長伸びてない…?」
「え?ああ。だって成長期だし少しはね。でも、まだ小さい方だよ。どうせならオーリーくらい身長が欲しいかな」
「へ、へぇ…。そう?」
「うん、羨ましいよ。ここの皆は身長が高い人ばっかりだしね」
「でもリジーは小さいぞ…?」
つい、そんな事を言いつつ、ソファーに座ると、ダンも隣に座ってきた。
父さんが何だか嬉しそうに向かいに座ると、「仕事、忙しそうだな?」と声をかけている。
「はい、まあ…。一つ終ると、また次の…って感じで、ずっと同じ役をやってるから変な感じかな?」
「そうだろうなぁ。今回はプロモーションか?」
「そうです。各国を少し周って…最後にロンドンで一段落すると少ないオフがあるんですけどね」
「そうか。ま、こっちにいる間は、ここに泊ってもいいし、ゆっくりしていきなさい」
「はい」
ダンは嬉しそうに返事をしてエマに出されたコーラを飲んでいる。
(はぁ…やっぱ泊るんだ…)
僕はガックリしながら溜息をついた。
するとダンがソワソワした様子で父さんに話し掛けた。
「あの…は…?今日は仕事ですか…?」
(――ほら来た…!)
僕は何故か息を殺しつつ、ダニエルを見つめた。
父さんは、そんな僕の気持ちなど、お構いなしで、
「いや、今日はもオフなんだよ。だから寝てるかもしれないな。起こしてきてもいいぞ」
とニッコリ微笑んだ。
それを聞いてダニエルは嬉しそうな顔してるし、僕は僕で一瞬のうちに顔面蒼白になった!
な、な、何てこと言うんだ、父ちゃん!!OH!MY!GOD!ってな、こう言うことじゃないのかい?!ダディ!
い、いくら従兄弟で相手が15歳でも年頃の男を大事な娘の部屋に入れるなんて、まして起こして来いなんて…Unbelievable!
…あ、いや…僕だって起しちゃいるけどさ…。しかもベッドに潜り込んだりして…エヘへ(オイ)
いや!でも兄貴と従兄弟じゃ雲泥の差だ!(?)立場が違うってんだよっ
皆は頼りにならないし、ここは僕がを守ってあげなければ!My Little Girlが危ない!
「じゃあ、ちょっと起こしてきます」
「ああ、頼むよ、ダン」
「ちょぉーーーっと待ったぁぁぁあっ!」
先に立ち上がったダニエルを止めようと僕もすくっと立ち上がり手を翳したら何だか日本で見た歌舞伎役者の立ち振る舞いみたくなってしまったが、とりあえずダニエルも驚いて一瞬、体が固まったまま僕を見ている。ついでに父さんまで…
「な、何だ、オーランド…驚くだろう?!」
父さんが目を丸くして僕を見ているが、まず父さんは無視だ、この際。
「ダン、を起こすのは僕の役目なんだ。僕が起こすよ」
「え?そうなの?」
「ああ、そうさ!僕が毎朝、熱い抱擁で愛しいを起こしてるんだっ」
僕がググっと胸を張って、そう言うと父さんが呆れた顔で溜息をついている。
「おい、オーランド…。いいから二人で起こしてきなさい…」
(な、何だよ、父さん…!そんな目頭押えなくたっていいじゃないかっ)
僕がむぅっとしてると、気付けば隣にいたハズのダニエルがいない。
「うがっ!あんのガキャ!先に行きやがったなあぁぁあっ」
僕は冷たい父さんを無視して勢いよくリビングを飛び出し、階段を駆け上がった。
一段飛ばしで駆け上がったからか、足を踏み外し、弁慶の泣き所をゴンっっと打ったけど、この際構ってられな…
「い、痛い…っ」
と、そこは涙を堪え擦りつつ、再び階段を上がって行った。
「ぬ…っ。敵(!)はすでに部屋の中…っ」
の部屋のドアが開いてるのが見え、僕は慌てて飛び込んだ。
「待て待てぇい!」
「キャァ…!」
「…?!」
飛び込んだ瞬間、の悲鳴が聞こえ、僕に助けを求める声が聞こえた!(嘘つけ)
「!」
慌てて寝室に転がり込んで僕が見たものは……
「ダン!!久し振りじゃない!大きくなったねぇーっ」
「だって大きくなったね?色々と」
「うわ、一丁前のこと言うようになったじゃない!」
「あ、あの…?」
僕は目の前でがダンに抱きつき、嬉しそうに抱きしめてる姿に唖然とした。
(な、な、何だ何だ?!この光景は…っ!僕の天使が…ベッドの上で他の男と抱き合っているなんて…っ!)(!)
「あ、オーリー!おはよ!起こされたから、てっきりオーリーかと思ったらダンなんだもの!驚いちゃったっ」
「あ、ああ…」
僕はニコニコしながら少し顔が引きつった。(僕だったら叫ぶのかい?!ハニー!)(違)
「、お寝坊さんだね?もう昼は過ぎたよ」
「夕べ、遅かったの。でも、もう起きるわ」
は、そう言ってベッドから出ると、ダンも立ち上がった。
「わ、身長も伸びた?」
「まぁね。でも少しだけだよ?」
「そう?何だか、すぐ追い越されそうだなぁ…」
「今だって小さいじゃないか」
「わ、嫌な感じ!いいわよ、私だってスーパーモデル並みに伸びてやるんだからっ」
「アハハ。もう無理じゃない?それには小さくて可愛いからさ?」
「あら、ありがとっ」
(ぬぬ…っ。何だか楽しげじゃないか?この二人…っ!)
僕は仲良さげに話してる二人を見て、ますます不愉快になった。
「じゃ、シャワー入って着替えちゃうから…下で待ってて?今日は一緒に出かけようよ」
「OK。あ、着替え手伝おうか?」
「はいはい!一人で大丈夫よ!」
はダニエルの言葉をジョークに受け止め笑っている。
そのままバスルームに入ってくのを確認して、僕はニコにコしながらを見ていたダンの腕をぐいっと引っ張った。
「な、何?オーリィ…っ」
「いいから出るぞっ」
「何怒ってんの?」
ダニエルは少し不貞腐れたような顔で僕を見上げた。
廊下に出て、そのまま下へ下りていくと僕はダニエルの腕を離した。
「あのな!俺の…ってか我が家の大切なに変なセクハラはやめろよ!」
「セクハラ?僕はそんなつもりないよ」
ダニエルは澄ました顔で肩を竦めている。
「な、じゃあ、さっきの会話は何だ?!"色々大きくなった"だとか、"着替え手伝おうか"とか!立派なセクハラだろぉ?」
「ああ、あれは単なるジョークだろ?何をそんな怒ってんのさ?オーリーだって、いつも言ってるだろ?」
「ぐ…(確かに)。お、俺は兄貴なんだからいいんだよっ」
「僕だって従兄弟だよ」
「従兄弟と兄貴は違うんだよっ」
僕はムキになって、そう怒鳴ると、後ろから突然ゴンっと殴られた。
「って…っ」
「うるさいよ。お前ら…」
「あ、ジョシュ!」
「よぉ。ダン。久し振り!何だか大人っぽくなったなあ」
僕が頭を擦りながら振り向くと、そこにはジョシュが立っていた。
ダニエルは嬉しそうに、「ジョシュ、相変わらず大きいね!」と笑っている。
「ああ。ところで何を二人でケンカしてんだ?」
「別に。ケンカなんてしてないよ。ね?オーリー」
「え?あ、ああ…」
ダニエルがニヤリと笑って僕を見るもんだから、僕も仕方なく頷いた。
(…くそぉ…。狡賢い…つか世渡り上手?!)
「それより…は?」
「ああ、今起こしてきたよ」
「そっか。喜んでただろ?ダンが来てて」
「うん。僕が起こしたら目、まん丸にしてて可愛かったよ」
「アハハ、そっか」
二人は何だか楽しそうに話しながらリビングに入って行った。
(何だい、何だい!僕だけ味噌っかすかい!)
僕は不貞腐れながらも、その後からリビングに入って行った。
でも何だか父さんとジョシュとダンで仲良く話してるから、僕だけ取り残されて、仕方がないからキッチンに向かった。
「あら、オーリー。お腹空いたの?」
「エマ…」
「何よ。そんな顔して…元気ないわねえ」
「はぁ…。何だか疲れちゃったんだ」
「え?」
「何でもない…」
僕はそれだけ呟くと冷蔵庫から牛乳を出してグラスに注いだ。
それを一気飲みして一息つくと、「ご馳走様…」と呟き、キッチンを後にした。
「オ、オーリー?」
エマが首を傾げていたが、僕はそのままリビングに戻ると、が着替えて下りてきていた。
(ん?何で、あんな可愛い格好してるんだ?アジアン風なAラインのブラウスにジーンズ…真っ赤なミュールまで履いちゃって…)
「…どこかに行くの?」
「あ、オーリー。うん。ダンとちょっとデートでもしてこようかなって」
「ええぇ?!デ、デート?!」
「うん。久し振りだし。ね?」
「うん」
ダニエルは解りやすいくらいにニコニコしている。
「ま、遅くならないうちに帰って来いよ?」
ジョシュまでが呑気に、そんな事を言っての頬にキスをしてるのを見て、僕は眩暈がした。
(少しは心配しろよっ!ジョシュのバカ!)
「お、俺も一緒に行くよ!」
「えぇ?オーリーも?」
ダンが思い切り嫌な顔をしたが僕は構わず、の腕を掴んだ。
「そう。俺もオフだしさ!暇だから」
「でもオーリィ…。せっかくオフなんだし…ガールフレンドとデートしたら?」
にそう言われ、僕はぐっと言葉に詰まった。
「、今日は二人でって約束だろ?早く行こう!」
「あ、うん。じゃ行って来ます!オーリーは今度一緒に行こうね」
「え?あ……っ」
二人は仲良くリビングを出て行ってしまって、僕は置いていかれた。
「もうっ。何でジョシュ、止めないんだよっ」
「また、その話か?大丈夫だって。もダンの事は弟くらいにしか思ってないからさ」
「そうかもしれないけどさ…。ダンだって成長してたし…大人っぽくなっただろ?」
「ああ、驚いたなぁ。一年前は、まだ少年っぽさが残ってたけど…今はスッカリ男前になっちゃって。ま、あれならモテてるって話も分かる」
「ダンは前からモテてたよ…っ。しかも同年代の子から特にね!なのに何で年上のに…」
「まあまあ…。あのくらいの歳の男って年上に憧れるんだって。オーリーもそうだったろ?」
「え?」
僕はジョシュに、そう言われて首を傾げた。
(僕が15歳くらいの時…確かに憧れてたのは、7歳くらい年上のお姉さんだったけど…)
「で、でもさ…ダンはにプロポーズしたわけだから…っ。やっぱ心配!俺、ちょっと行って来るねっ」
「え?あ…オーリー!」
僕はジョシュが呼ぶのも聞かず、そのままリビングを飛び出した。
丁度、リジーが階段から下りてきたけど、僕は気にせず外に出ると二人は、どっちに行ったかと通りに出てみる。
すると左方向に二人が歩いてるのが見える。
(よぉし…こうなれば尾行してやるぞっ。)
僕は丁度持ってたサングラスをかけて二人の後をつけていった。
二人は仲良く話しながらビバリーヒルズにあるスポーツシャレーに入っていく。
「何だ…。デートって二人でスポーツクラブに来ただけか…」
僕は少しホっとして、そのまま中へ入って行った。
自分の会員証を見せて、更に中へ入ると、二人はスカッシュのある方へ歩いて行く。
そしてスカッシュルーム内のロッカーに二人で分かれて入った。
僕は飲み物を買って休憩用の椅子に座り、二人が出て来るのを待った。
すると数分で二人はスカッシュ用ウエアに着替えて出て来る。
何だ、ほんとに二人でスカッシュやりに来ただけかよ。心配して損したっ
でも…僕だってと一緒に久々にスカッシュやりたかったなぁ…
ちょっとだけ口を尖らせつつ、二人が楽しそうにボールを打ってるのを眺めていた。
(へぇ…ダンの奴、結構、上手いもんだな…どこで習うんだ?)
僕はそんな事を思って見てると突然、ぐぅっという音が聞こえて慌ててお腹を押えた。
(お、お腹空いたかも…。そう言えば朝から何も食べてなかった…)
僕は仕方なく売店まで行って大好きなデニッシュブレッドを買ってきた。
それをモグモグ食べながら、二人を監視すること、一時間。
そろそろ眠くなってきたなぁと思った頃、二人はスカッシュをやめて汗を拭きながら椅子へと座っている。
「やっと休憩か…」
僕は静かに立ち上がり、スカッシュルームの手前の角から中を覗いた。(多分、凄く挙動不審者だったろう)
「、飲み物、何がいい?」
「あ、私は…スポーツドリンクでいいわ」
「OK。じゃ、買ってくるよ」
「ありがと、ダン」
は嬉しそうに微笑んで手を振っている。
ダニエルも笑顔のまま、売店の方に歩いて行った。
(さっきの場所にいたら完璧見付かってたな…。危ない、危ない…)
そんな事を考えていると、すぐにダニエルが飲み物を手に戻って来た。
「はい。」
「あ、ありがとう。はぁ、喉乾いたぁ…」
はそう言って美味しそうにスポーツドリンクを飲んでいる。
「こんなノンビリするの凄い久し振りだよ。ほんとホっとするな」
「そう。ダンも忙しそうだったもんね。たまにメールで色々書いてきてくれるでしょ?ロケとか大変そうよねえ」
「うん。でも、まあ…楽しんでやってるよ?スタッフも共演者も皆が良い人ばっかりだしさ」
「そう。あ、あの女の子とはどうなの?」
「え?」
「ほら、ハーマイオニー役の子?仲がいいって雑誌に書かれてたじゃない」
「ああ、エマ?まあ仲はいいけど…妹みたいな感じでって事だよ」
「何ぁんだ。そうなんだ」
はクスクス笑いながらタオルで汗を拭いている。
「ダンも年頃なんだし、ガールフレンドの一人くらいいるんじゃない?」
「え?いないよ!」
「えぇ〜?だって凄いモテてるのに?前のプレミアの時なんて凄かったじゃない?熱狂的なファンが失神してたし」
「ああ…。あれは…ファンだし…さ…。それに…僕はずっと一筋だよ」
「また、そんなこと言って。ダンのファンに殺されちゃうわ」
は笑いながら立ち上がろうとした。
その時、ダンがの手をぐいっと引っ張り、は、また椅子へと座る羽目になる。
「な、何?」
「、本気にしてないだろ」
「え?」
「僕の言ってること。いつも、そうやって弟扱いするしさ…」
「ダン?」
は驚いた顔でダニエルを見つめている。
(こ、こりゃマズイ…!ダンの奴、まさかマジ告白する気でわ…っ!)
僕は臨戦体勢に入った。(!)
「…僕さ…」
「ん?」
ダニエルは、そう言って言葉を切ると、いきなりの頬にチュっとキスをした(!)
そこで僕まで驚きのあまり一瞬固まったが、すぐに飛び出した。
「ダン…ど、どうしたの?」
「別に。キスしたかっただけ――」
「こぉらぁーーーーっ!!待て待てい!!」
「「オーリー?!」」
僕が飛び出していくと、案の定、二人は驚いて目を丸くしている。
「な、何して…。あ…後つけてきたのかよ?!」
ダニエルが顔を赤くして怒っている。
「何のことだい?僕は暇のあまり、スプォーツをしに来ただけさ!スプォーツをねっ!」
「う、嘘つくなよっ。い、今の見てたんだろ?」
「当たり前だ!俺の天使に何してたんだ!」
僕がダニエルをビシっと指さして、そう言えば、が慌てて、
「ちょ…オーリー?別に何もされてないったら!何で、そんな怒ってるの?ダンもケンカしないで」
「「だ、だって…」」
二人で何故かハモってしまって顔を見合わせる。
「い、今、頬にチューされてただろ?!」
「あれは…オーリーだって、いっつもするじゃないの」
「お、俺は…っ」
「とにかく!ケンカはしないで!仲良くしてよ」
そうに怒られて僕は、「…解った」と呟いた。
ダニエルも何だか僕を睨みつつ、素直に頷いている。
それを見ては笑顔になると、
「じゃ、3人でスカッシュやろ?私、最近スポーツサボってて体がなまってるの」
と言ってラケットを持った。
僕とダニエルは顔を見合わせつつ、渋々頷く。
きっとダンは、せっかくと二人きりだったのに…と内心では腹が立っているだろう。
だが、そんな簡単に我が家の姫をとられるわけには行かないっ。
今までだって…ドムやヴィゴの魔の手からを守ってきてると言う実績があるんだっ。(?!)
15歳の少年に取られるわけには行かないのだっっ!
僕が心の中でメラメラと闘志を燃やしていると、が僕を呼んだ。
「オーリー?やらないの?」
「はいはーい!!!やるやる!と一緒にスカッシュやるのって何年ぶりかなぁ〜?」
僕はスキップしながらの元へ行くと、すぐ傍にいたダニエルが舌打ちするのが聞こえた。
ふふふ…。まだまだを手に入れるには若すぎるぞ、ダニエル!青い、青い!ケツが青いよ、君ぃ!
ここは大人の威厳で、まずは僕がカッコよくスカッシュを見せてやらない―ガンッッ…!!
「ぶ…っっっ!!」
「キャァ、オーリー?!」
僕の顔面をの打ったボールが直撃し、思考回路がぶっ飛んだのは言うまでもない。
。゜。★。゜。☆。゜。゜ ←こんなのが目の前に奇麗に散らばったのが見える。
大人の威厳なんて…僕にはなかった事を思い出した瞬間だった…。