Vol.2...Don't leave alone...





When I first met you...


My life turned a page...






― 君を 初めて見た瞬間…


  僕の人生に新しいページが開かれた…











「で…?いつまで行ってるんだ?」


父さんがチキンにナイフを入れながら訊いてきた。
僕は顔を上げて、チラっとを見ながら口を開いた。


「多分…半年…ほどかな…」
「そうか。大変だな…。まあ…頑張れよ」


父さんは微笑みながら、僕の方を見て言った。


「ああ。ありがとう。頑張るよ」


僕は、今は久し振りに実家へと戻って来ている。
が冬休みに入ってから僕の家に、暫く泊っていたのだが、クリスマスには一緒に帰って来た。
母さんが張り切っちゃって、毎日、腕によりをかけてディナーの用意をしてくれた。
今日も、それぞれの好物ばかりがテーブルへと並んでいる。
僕は日本食が好きで、その中でも好物なのがスシ。そしてピザのチーズとマルガリータ。
は比較的、何でも好きなようだが、今日はサーモンのラズベリーソースがけを美味しそうに食べている。
その横には、これまたの大好きなモッツァレラチーズとハムがたっぷりのパニーニ。
料理の組み合わせが変な気がしたが、母さんは気を使ったのか僕らの好きなものばかり用意したらしい。


「さあ、沢山食べてね。こうして5人揃って毎日夕食食べるのも久々なんだし」


母さんが嬉しそうに言った。
5人揃った…とは言っても、弟のジョーは、まだ3歳半。子供用のベッドで、すでに就寝中だ。


「ジョシュ。ワイン飲むか?」
「ああ…少し貰うよ。それ好きなんだ」


そう言うと嬉しそうに、父さんがワイングラスに、赤ワインを注いでくれる。


「私も飲みたい…」


が、それを見て目を輝かせた。


「お前は、まだ未成年だろう?」


父さんが困ったように僕を見た。


…。お酒はまだ早いよ…」


僕もに優しく言った。


「いいじゃない…クリスマスでも少し飲んだんだから。一杯だけ…父さん、ダメ?」


と、いつもの様に可愛く微笑む。
その笑顔に弱い父さんは…


「ま、まあ、そうだな…少しなら…ワインだしいいんじゃないか?」


父さんが僕の方へと、了解を得ようと視線を向ける。
僕は溜息をつき、「まあ…じゃ、ほんとに一杯だけだぞ?クリスマスは特別だったんだから」と、諦め顔で言った。


「やった!はい!注いで、注いで」


は嬉しそうに、グラスを父さんの方へと向ける。
父さんは苦笑いしながら、それでも嬉しそうに、のワイングラスへ、ワインを注ぐ。
「ありがとう」と、は笑顔で言うと、美味しそうにワインを飲んだ。


「あー美味しい!やっぱりワインって好きだわ」


は結構、いける口だ。


(クリスマスの時も、かなり飲んでたっけ…)


ま、飲めるのと強いのとでは意味が違う。
あの時はは酔っ払ってリビングで寝てしまったはずだ。
僕は心配になり、そっとへ視線を向けた――










…眠いの?部屋行く?」


僕は台本から目をはなし、心配そうに声をかけると――


「ううん…眠くなーい。気持ちいいよ。フワフワしてて」と微笑む。
アルコールのせいで頬が少し赤いが、それが、また可愛い。
すでにディナーを終え、父さんは早々に寝てしまった。
母さんとは後片付けをした後、リビングで寛いでいたのだが、今、は出窓のところへとあがり、膝を抱えて座りながら黙って外を見ている。
アルコールで体が熱いのか、窓を少し開けて夜風にあたっているようだ。
今頃のミネアポリスは最高気温でも、マイナス2・8度しかない。最低だとマイナス12・8度まで下がるほど寒いところだ。
が風邪をひかないかと心配になる。そこへ――


「ジョシュ、。母さん、もう寝るわ。二人とも、まだ起きてるの?」


母さんがソファーから立ち上がり言った。
「ああ。そうだね、もう少し起きてるかも。これ、覚えておかないと…」と僕は今度、撮影する映画の台本を少し持ち上げる。


「そう。あまりムリしないでね。じゃ、お休み」
「ああ、お休み」
「お休み!お母さん」


も笑顔で声をかける。
母さんは微笑むと、寝室へと歩いて行った。
父さんと母さんの寝室は一階廊下の一番、奥にある。
僕はうるさくないようにと、テレビを消し、ソファーから立ち上がり、へ声をかけた。


…二階へ行くよ」


はニッコリして、出窓から降りると、そのまま僕のとこまで歩いてきた。少しフラついている。


「ああ…ふらついてる。危ないよ…やっぱり二杯は多かったんじゃないか?」


結局、父さんは、にせがまれ、二杯目のワインを注いでしまった。


「そんな事ないもん…これから、もっと強くなるわ。そしたらジョシュ、ディナーに連れてってくれる?」


は可愛く僕の腕に自分の腕を絡めてくる。


「ああ。いつでもエスコートするよ」


僕も微笑んで、そのまま階段へとを支えながら歩き出した。


「ほんとに?嬉しい。早く強くなるわ」
「そんなムリして今から飲まなくたっていいよ。俺はいつまでも待ってるから」


笑いながら、そう言うとも嬉しそうに僕を見上げてくる。
自分の部屋の前まで来ると、が僕の腕を引っ張った。


「ん?どうした?」
「ジョシュが起きてるなら、私も起きてる」
「いいけど、眠くない?」
「眠くないよ…それにジョシュ、明後日にはロスへ行っちゃうでしょ?」


少し寂しげには俯いた。
僕は、何て言ってあげていいものか分からず、をそっと抱き寄せる。


「また寂しい思いさせるけど…」
「私…やっぱり一緒に行きたいな…」


はそう言うと、僕の背中へと腕をまわしてくる。
は小さいから、僕の胸とお腹の間くらいに顔がくるんだけど。


「今、休み中だし…少しなら行けるでしょ…?」


が、せがむように言った。
僕は少し抱きしめる腕に力を入れて、「俺も…出きれば連れて行きたいさ」と答えた。
僕がそう言うと、は悲しげに潤んだ瞳で僕を見上げて、「じゃあ…連れてって…」と哀願する。
僕は何て答えていいのか分からず、とりあえずを、そっと放して部屋のドアを開け、彼女を中へ入れた。
は、俯いたまま、僕のベッドへ、ポスンと座る。
僕は持っていた台本を机の上に置くと、の隣へと座り、肩を抱き寄せ、さっきの返事をした。


…。父さんや,母さんが心配するよ…。そんなに家を空ける事になったら…」
「でも…学校が始まるまで、二ヵ月半もあるのよ?そんなに休みがあるのに、ジョシュがいないのはイヤ…」


僕も同じ事を考えていた。確かには休みだし、別にロスへ連れて行ってもいいんじゃないか…そう思った。
だが…父さんと、母さんは、が僕にベッタリなのを、少なからず心配している。
そんな中で…ロス行きをOKしてくれるかどうか…。




「ジョシュ…?」


僕があまりに黙ってたからか、は不安げに、僕を見上げてくる。その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
それを見て、僕は慌てて、を抱き寄せ、「明日…父さんに頼んでみるよ…」と言った。


「ほんと…?」

涙声でが訊いてくる。顔を僕の胸に押し付けているので少しくぐもっていた。


「ああ…何とか頼んでみる…」


僕はそう言うと、を、そっと放した。するとの大きな黒い瞳から、一粒涙がこぼれる。


「Don’t cry…」


僕は、そう言うとの頬にこぼれた涙を、唇ですくってあげた。
すると、またポロポロと涙がこぼれてくる。…そして一言呟いた――


「......Don't leave alone.........」




僕は胸がズキン…と痛むのを感じた。


――独りにしないで…


…僕だって、独りにしたくないよ。
でも…今の状況で、僕は何をしてあげられるだろう…。
兄と妹…世間一般では、僕とは、そういう関係――


いくら大切に思っていても、それは、"普通じゃない"と周りからは言われる。
ただ…傍にいれるだけでかまわないのに…。
どうして、こんなに愛しく思うのだろう。
心の奥から、次から次へと溢れ出してくるように…。


僕はそっと、涙で濡れたの頬へキスをした。何度も…が泣きやむまで…。




――その時、が顔をあげ、ふいに僕の唇へ、そっと自分の唇をつけてきた。




あまりに突然の事で頭が一瞬、真っ白になったが、その柔らかい感触で、ハっと我にかえり、唇を離した。


「な…なにしてるんだよ…っ」


僕は顔が真っ赤になっていくのが自分で分かった。
しかし、はキョトンとした顔で僕の方を見る。


「…なに…って…。だって昔はよく口にもしてくれたよ?」


僕は明らかに動揺していたが、「…それは小さい時だろ…?」と、それでも何とか答える。


「何で、今はダメなの?」


は悲しそうに訊いてきた。


そう…確かに家族同士とか、親しい人とは、マウストゥマウスでキスをする。
キスとは言っても軽く触れる程度のものだ――そんなに、しょっちゅうではないけれど――前は、よくにもしていたのは確かだ。
だけど…ここ暫くは…が16歳くらいになってからは、両親も心配するようになったし…とするのをやめていた。
悲しそうにしているに何と言おうか…と、今のキスで動揺している頭を働かせた。


「ジョシュは…私が迷惑…?」


いきなりが訊いて来る。僕は、その言葉で、また驚いた。


「な、何言ってるんだよ!迷惑って何でそう思うんだ?」


驚いたあまり、思わず大きな声を出してしまった。
そしてを、また抱き寄せると、も、しがみついてくる。


「だって…いつも我がままばかり言っちゃうし…。毎日会いに行っちゃうし…ジョシュの時間もなくなるでしょ?…」


が、そんな事を気にしていたのかと、また胸が痛くなった。


「……。そんなのは俺も、そうしたいからしてるし、の事を我がままだなんて思った事は一度もない。
それに迷惑なんて思うわけないだろ?俺だってと一緒にいたいんだから…」


精一杯、そう言うとの顔を両手にはさんで、「だから、もう二度、そんな事言うな」と言った。
は涙で濡れた瞳で少し微笑むと、小さくうなづき、また僕の胸へ顔を埋める。
ホっとして、彼女の頭を軽く撫でると、「さ、もう寝よう…。明日は父さんにロス行きを頼んでみるから…」と言った。
は嬉しそうに、顔をあげてニッコリ微笑んだ。その瞳には、もう涙はない。


「今日は…一緒に寝るか?」


―実家に戻って来てからは、両親の目もあるので、お互い別々に寝ていた。
そう言うとは嬉しそうに、「いいの?」と訊いて来る。


「ああ。別に前だって一緒にここで寝てたんだしな…ま、一応が、朝、自分の部屋へ戻れるって言うなら」


そう笑いながら言うと、も笑顔で、「うん、朝、ちゃんと早く起きて戻るから、一緒に寝ていいでしょ?」と、いつもの可愛い笑顔。
僕は、その笑顔に弱い。


「ああ、いいよ」そう言ってニッコリ微笑むと、は、パっと立ち上がり、「じゃあ、歯を磨いてくる!」と部屋を出て行く。


僕も慌てて、それに続いた。














Lost is how i'm feeling lying in your arms...


When the world outside's too much to take...


That all ends when I'm wih you...







― あなたの腕に抱かれて寝ると自分を見失ってしまう…


 世間の荒波に飲み込まれそうになっても


あなたと一緒にいれば安心できるの…









私は歯を磨きながら、少しドキドキしていた。チラっと隣で歯を磨いているジョシュを見る。


(さっきは思わず、ジョシュにキスをしちゃった…)


ジョシュが、もうすぐロスへ行ってしまうと思うと、あまりに悲しくて胸が痛くて。
いつも我慢しようと思うのに、つい我がままを言ってしまう。
さっき、ジョシュがロス行きを、お父さんに頼んでくれると聞いて凄く凄く嬉しかった。
優しく頬へキスをしてくれるジョシュに、お礼のつもりで、つい昔のように唇をつけてしまった。


(ジョシュが、あんなに驚くとは思っていなくて…)


拒否されたように思えて、また胸が痛んだ。
でも…怒ってくれたジョシュに心底、安心した。
確かに家族同士でも、マウストゥマウスでのキスの挨拶は、しょっちゅうはしない。
でも私とジョシュは、昔は毎日のようにしてた。
「おはよう」のキス、「行って来ます」「ただいま」のキス…そして「お休み」のキス…。


それをしなくなったのは、いつからだったろう――?


私は寂しいとさえ、思ったけど、やっぱり高校生になると、お母さんも、あまりいい顔はしなくなった。
兄と妹…世間一般では、私とジョシュは、そういう関係――


いくら大切に思っていても、それは、"普通じゃない"と周りからは言われる。
ただ…傍にいれるだけでかまわないのに…。
どうして、こんなに愛しく思うのだろう。
心の奥から、次から次へと溢れ出してくるように…。







?終った?」


ふいに声をかけられ驚く。


「ふ…ん」


歯磨き粉の泡で、モゴモゴとした返事をすると、すぐ口をすすいで、タオルで拭く。


「さ、寝るか」


ジョシュはそう言うと、私の手をとり、部屋へと戻る。


「ね?ジョシュ、台本読まなくていいの?」


ふと思い出して訊いてみる。


「ん?ああ、あと最後のページだけだから、明日でも大丈夫だよ。もう大体は頭に入ってるから」といつもの様に優しく微笑んでくれる。
それを聞いて私は安心してベッドへともぐりこんだ。
ジョシュも部屋のライトを消してベッドへと入ると、私の体を抱き寄せた。
いつものように、私の額と頬へ、お休みのキスをしてくれる。
私は、それで安心して眠れるのだ。


「Goodnight.... ジョシュ…」
「Goodnight....




私は、ジョシュの愛しい温もりを感じながら、目をつぶり、"明日…お父さんがロス行きを許してくれますように"と祈りつつ、暫くすると深い眠りに落ちて行った―















 

 

Postscript

ギャー、何だこれ?(笑)どんどん妖しい兄妹になってゆく…^^;
実は私も子供の頃から、カッコイイお兄さんが欲しくて欲しくてたまらなかったのでした。

本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...

【C-MOON...管理人:HANAZO】