I'll be the one I'll be the light
Where you can run To make it alright
I'll be the one I'll be the light...
Where you can run...
― なってあげるよ
君の希望の光に 君の逃げ場所に…
あてにしてていいよ…
僕は慌てて部屋のドアを開けた。
「…?」
部屋へ入ると、ドライヤーの音が聞こえる。
僕は、そのままバスルームを覗いた。
が一生懸命に、髪を乾かしている。
僕は少しホっとして、中へと入って行った。
「…」
「キャ!」
はいきなり入っていった僕に驚いて声をあげた。
「ごめん!驚かしちゃったね…」
僕は苦笑いしながら、の頭を後ろから撫でた。
「ジョシュ…!もうーいきなり鏡に人影が映ったから驚いた!」
は本当に怖そうな表情をして、少し顔を後ろに向けると僕を見上げる。
そんなが可愛くて、そのまま後ろから優しく抱きしめた。
「ジョシュ…遅かったね…今、戻ったの?」
「…ああ…ごめん…。つい話し込んじゃって…」
僕は少し胸が痛んで、抱きしめる腕に力を入れる。
そして、そっとの頬へキスをした。
「ジョシュ…苦しいよ?」
「…ごめん…。もう少し、このままで…」
僕は、自分の腕に伝わる、の体温が心地よくて、暫く彼女を抱きしめていた。
お風呂上りだからか、ふわりと石鹸の匂いがする。
「ジョシュ…?どうしたの?何だか変だよ…?」
「ん…。そう?…」
「何だか…悲しそう・…」
僕はにそう言われ、ドキっとしたが、いつもの声で、「そんな事ないよ!」と言うと、そっとを解放した。
そして、「俺が乾かしてあげるよ」とドライヤーを受け取る。
「ほんと?ありがとう。長いから後ろが、なかなか乾かなくて…」とも嬉しそうに微笑む。
僕は手馴れた手つきで、の髪を乾かしていった。
奇麗な長い黒髪…。
僕が安心できる感触…。
その時、僕はエレンに言われた事を思い出していた。
"そんなに妹が大事?一生、お守をしてくわけ?ジョシュの人生はどうするの?"
"…他の人にいくら髪を撫でてもらっても…心が埋められない…"
僕は胸の痛みを打ち消すかのように、目をつぶった。
誰に分かってもらおうとか思わない。
守ってるつもりで――
の側にいたいのは僕の方なんだ…いつだったかそう気づいた時、自分の人生より大事なものがあると思ってしまった。
いや…と一緒にいられればそれでいいんだ。それで僕は自分の人生に幸せを感じる。
彼女の笑顔が見られるだけで…。
エレンには悪いけど…。
(は…エレンの事を知ったら、どう思うだろう?僕の事を軽蔑するだろうか…)
僕はエレンの"諦めないから…"という言葉を思い出し、ロイにも間に入ってもらおう…と考えていた。
当人同士だけじゃ冷静に話せない。
さっきみたく口論になるだけだ。
僕はその事を考えると頭が痛くなってきたが、には気づかれないように、
「さ、乾いたよ?」と笑顔で言ってドライヤーを消した。
「ありがとう、ジョシュ!やっぱりジョシュに乾かして貰うと早いなー」
はそう言いながら部屋の方へと歩いて行く。
僕はそのまま口の中のアルコールを消したくて歯を磨いた。
そして部屋へと戻って時計を見るとすでに夜中の1時。
明日は午後の便とは言え、ゆっくり寝ている訳にはいかない。
「さ、もう寝よう」と、テレビを見ているへ声をかけた。
するとも、「うん」と笑顔で返事をするとテレビを消し、そのまま大きなオレンジ色のベッドへの方へと歩いて行き潜りこんでいる。
僕も素早く着替えるとライトを消し、そっとベッドへと入った。
すでには寝息を立て始めている。
(――慣れない土地とパーティーで疲れたんだな…)
僕は優しくの額と頬にいつものようにキスを落とし、「お休み、…」と呟いた。
そして軽くを抱き寄せると、さっき少し飲んだカクテルが今頃効いてきたのか、疲れもあったのだろう、すぐに夢の中へと意識が消えて行った。
See I was so desolate
Before you came to me...
Looking back I guess it shnws that we were
Destined to shine...
After the rain, to appreciate
The gift of what we have
And I' d go through it all over again
To be able to free this way...
― あなたが現れる前までの私は…
ひどく惨めだった
いま思うとあれは あなたと輝く為の布石だったのね…
雨があがって 私に届けられた
願ってもない贈りもの…
こんな気分を味わえるなら
また あの苦しみをなめることもいとわない…
朝…私は珍しくジョシュよりも早く目が覚めた―
そして少し体を起こし、暫くジョシュの寝顔を見ていた。
愛しい寝顔…
私はそっと手で、その頬に触れた。
ほんとは私、気づいてた。
昨日の事も、そしてロスに住んでた頃、ジョシュには恋人がいた事も―――
ジョシュがロスに住んでる頃、何度か電話で話している時、後ろで、かすかに女性の声がした事があった。
"…まだ?…" "また妹…?"
その囁くような声。
それに気づいた時、さらに眠れなくなった。
何故か眠ろうとすると胸が酷く痛んで息苦しくなるのだ。
夜がくるたび、思い出す。 ちょっとハスキーな大人の女性の声…
今頃ジョシュは私の知らないその人と一緒にいる…
そう思うとますます息苦しさに襲われた。
でも…ジョシュの前では知らないフリをした。
ジョシュの口から聞きたくなかった。
ジョシュがミネアポリスへと戻って来た時でさえ、その知らない女性の影に私は怯えていたのだ。
私からジョシュを奪っていく存在のような気がして――
だから余計にジョシュにベッタリになった。
それでもジョシュは私を優しく受け入れてくれた。
そして、いつからかその女性の影に怯える事もなくなった。
私の記憶から、いつの間にか消えていたのだ。
なのに…昨夜――ジョシュはその女性に会いに行ったんじゃないか…何故だか、そう思った。
バスに入る少し前に、私は泡風呂にするべく、準備をしていた。すると聞こえてきた携帯の着信音。
そしてジョシュの少し動揺してる声。
私はドアをそっと開けて聞いてしまった。
"…分かったよ…。今、降りる…"
そう答えているジョシュの言葉が耳に残っている。
そこまで聞くと私は怖くて、すぐにお風呂のお湯を出し、その音で全ての音をかき消した。
何も聞きたくなかった。
だから気づいてないフリをした―――
私は、ジョシュの頬へそっと唇をつけた。
そしてまた布団へと潜り、ジョシュの腕の中へ入る。
その体温を感じていると私は安心して眠れるのだ。
このまま…ずっとこうして一緒に眠りたい…そう思った。
「ジョシュ…。大好きよ…?」
そう呟くとジョシュが少しだけ、顔を動かし、私の方へ寝返りをうつ。
私は、またそっと今度はジョシュの唇へと、自分の唇を触れる。
そして夕べの女性の影を振り払おうと、ギュっと目を瞑った。
「うわぁ…凄い…!ここへ泊るの?」
はそのホテルのロビーに入った瞬間、目を丸くして呟いた。
「ああ、そうだよ。しかし…凄いな。ピアノの生演奏まであるよ?」
僕も少し驚きつつ答える。
僕達はペンシルバニアのピッツバーグ・ダウンタウンの中心部にあるホテルへと到着した。
ここ、ピッツバーグではスタジオでの撮影、外でのロケはオハイオで撮影を開始する。
「わお。ピアノの生演奏だ。さすがダウンタウン、ランドマークの"顔"だね」
イライジャもロビーへと入ると驚きの声をあげた。
スタッフがフロントで、皆の部屋の鍵を受け取っている。
監督は一足先にオハイオへと向かい、撮影する場所の確認に行ったようだ。
僕ら出演者達は今日は何も予定はなく、まずは少し休める事になっていた。
「ちょっと休んだら観光に出るか?」
「うん!行きたい!ここって何が有名?」
「えーと、そうだな…。アンディー・ウォーホル美術館とか、他にも彫刻彫像の美術館もあるし、スポーツもアメフトやアイスホッケーが盛んだよ?それにリバークルーズも楽しめるし…あと鳥園もあるって聞いたな…」
「うわぁ。アンディー・ウォーホル美術館も行きたい!彼の作品をこの目で見たいわ!それにアイスホッケーもクルーズも…」
が瞳をキラキラさせて夢中で話してるのを聞いて笑いながら、
「…そんなに、いっぺんに見れないよ。暫くは滞在するんだから、一つ一つ、ゆっくり見て、まわればいいさ」と頭を撫でる。
「それもそうね?」
も恥ずかしそうに微笑んだ。
「とりあえず…今日は、どうしようか…」
そこへスタッフが部屋の鍵を持って皆に配り始めた。
僕は鍵を受けとると、番号を確認して、「、部屋へ行こう」との手を取り、エレベーターへと向う。
「Hey、ジョシュ、部屋、何号室?」
その時、後ろからイライジャが声をかけてきた。
「えっと、1533号室だよ?リジーは?」
「あ、僕、隣だ!1532号室だよ。他の皆もだいたい横並びみたい」
「ふーん、何だか、あのメンバーだとうるさそうだな…」
僕は苦笑いして後ろの方で騒いでいる、ショーンや、クレア、ジョーダナ、ロ-ラ…共演者たちの方を振り返った。
それを見て、イライジャも、「ほんと、部屋に奇襲にくるかもね」と笑う。
「それは…勘弁だな…」 僕はエレベーターのボタンを押し、そう呟いた。
「ねえ、ジョシュ…。私、彼のこと、どこかで見た気がするんだけど…」
は後ろを振り返りながら、首をかしげている。
僕はその視線の先へと目をやると騒いでる皆の方を笑いながら見ているロバートの姿があった。
「ああ、彼はほら、一緒に観に行ったTRー2で、ジョンを殺そうと未来から来た、あのターミネ―ターをやった人だよ?」
「え…!!!あ、あの誰にでも姿が変えられる…。 ――ほんとだ!言われてみたら、そうだわ!」
はマジマジと、そのロバート・パトリックの顔を見て感激している様子。
「うわー凄い!イライジャもいるし、彼もいるし…!ほんとに映画の仕事で来てるって感じだ」
「おいおい…。今まで何しに来てるつもりだったんだ?」
僕は笑いながら到着したエレベーターへとを促し乗り込んだ。
「その感激の中に僕も入ってるなんて嬉しいけどね」
一緒に笑いながらイライジャも乗り込むとへ声をかけた。
「だってイライジャの映画、見てたもの!お仕事って言うのは分かってるけど…普段、スクリーンで見てる人と一緒にいるなんて、ちょっと感動でしょ?」
は恥ずかしそうに笑った――
15階へとつくと、部屋へと入るべく、鍵をさしこんだ。
すると隣の部屋のイライジャが、「ねえ?あとで一緒に観光行かない?」と声をかけてくる。
「ああ、いいよ。もいいだろ?」
「うん!一緒に行きましょ!他の皆は?」
「後で僕が聞いておくよ」
イライジャはそう言うと、「まずは少し休んでからね」とウインクして部屋へと入って行った。
僕とも部屋へと入るとがまたも目を丸くして感動している。
「すごーい!!何だかゴージャス…!」
部屋はかなり広く、家具類は全てマホーガニーで統一されいて、シックな雰囲気にまとめられていた。
「うわぁ。何だかヨーロッパのお城に来たみたいね!」
はそう言って笑った。
「ほんと。圧倒されるな」
僕はそう言うと大きなソファーへと腰をかけた。
は嬉しそうに部屋を探索中。
(はヨーロッパ贔屓だからな…こういう雰囲気は堪らないのかも)
僕はそんなを微笑みながら見ていた。
ほんと…連れて来て良かった――
あんな楽しそうな顔を見るのは久し振りだ。
ここ暫くは元気もなかったし…まあ…僕が原因でもあるんだけど…。
そんな事を考えつつ、煙草に火をつけて、ベランダの方へ出ると、外の景色を眺めた。
もう太陽は傾き、奇麗な淡いオレンジ色の光を放とうとしている。
僕は今夜は、どこへを連れて行こうか、と考えていた。
皆で行くなら、大勢で楽しめる所がいいだろう。
すると隣のベランダへ、イライジャが出てきた。
「ジョシュも景色、見に来たの?」
「ああ、凄い奇麗だなぁ…ミネソタと似てるかな」
「そうなんだ。今度招待してよ、ジョシュの故郷にさ」
「ああ、でも別に何もないぞ?遊ぶ所とかは」
「いいんだ。ロスに住んでると、遊ぶ所はいくらでもあるし、たまには静かなところでノンビリしたいよ」
「ああ、それならミネソタはピッタリだな…」
僕は笑うと煙を吐き出し、部屋の方へと視線を向けた。
「は?」
「ん?ああ、部屋の中を探索中。凄い喜んでるよ」
「そうか、良かったね」 イライジャも嬉しそうに笑って答えた。
「そうだ、リジー、今夜どうする?皆で行くならクルーズとか行ってみようか?」
「そうだね!クルーズ楽しそうじゃん!確かディナーも出来るんだよね?」
「ああ、そうだったかな。あとで皆にも連絡しておかなくちゃな」
「あ、僕さっきショーンには言っておいたよ。他の皆も誘ってみるってさ」
「そっか。じゃあ、時間は?今は…3時半になるとこか…」
「予約しなくちゃね。クルーズ。とれるかなぁ、いきなりで」
「今は観光シーズンでもないし大丈夫だろ?こんな寒い日にクルーズするバカは、あんまりいないよ」
「アハハ、ほんとだね!じゃ、僕、行く人数確めて予約はしておくよ。4時頃までに連絡するね」
「ああ、悪いな。じゃ、それまで、ノンビリ寛いでるよ」
「OK!任せておいて!じゃ、後で」
「ああ、後でな」
イライジャはそう言うと部屋の中へと戻って行った。
僕も煙草をベランダのテーブルにあった灰皿で消すと部屋の中へと入った。
そこへが寝室から出て来る。
「あ、ジョシュ、お風呂も寝室も凄いよ、ここ!」
とまだ興奮した様子で説明している。
僕は笑いながらソファーへと座ると、膝をポンポンと叩いてを呼んだ。
は嬉しそうに微笑むと、すぐに僕の膝へと腰をかけて抱きついてくる。
「ジョシュ…ありがとう…。私、一緒にいれるだけで嬉しいし、こんな部屋にも泊れて凄く楽しいわ?」
が顔を僕の胸に埋めて呟いた。
僕はの頭を撫でながら微笑むと、軽く頬にキスをして抱きしめる。
「、今夜の観光先、クルーズに決まったよ?皆も誘って大勢で船の上でディナーなんてどう?」
そう言うと、は嬉しそうに顔をパっとあげて、「ほんとに?!」と聞いてくる。
「ああ、4時頃までにイライジャから連絡来るから、それから出かけよう」
「嬉しい!クルーズなんて久し振りね!」
「ああ、家族旅行以来か?」
前に何度か家族で、海外旅行をした時に二度ほどクルージングをした事があった。
「あ、後で家に電話しないとね!」
「そうだな、それもを連れて行っていいっていう条件に入ってるんだから」
僕は笑いながらそう言うと、「ちょっと軽くシャワー入ってくるよ」と言った。
は僕の膝からそっと降りると、「私、ベランダで休んでる」とニッコリして部屋を出て行った。
僕はその後姿を見送ると、バスルームに行ってタオルとバスローブを出していた。
そこへ携帯が鳴る。
胸ポケットから携帯を出すと、ディスプレイを確認してから通話ボタンを押した。
「Hello.ロイ?」
『ジョシュ?あのさ、今夜はどうする?どこか出かけるのかい?』
「ああ、皆でクルーズでも行こうかってリジーと話してる」
『そうか、じゃ、俺は自由にしてていいんだな?』
ロイが笑いながら言った。
「ああ、ナンパでも何でも好きな事してていいよ」
僕も笑いつつ、そう言った。
『ナンパはしないが、他の俳優のマネージャー達から飲みに誘われてるんだ』
「へぇー、どうせ俺たちのグチでも言い合うんだろ?我がままで大変だよ…とかさ」
苦笑いして、そう言うと、ロイも、大げさに、『全くだよ!今夜はおおいにグチらせてもらうさ!』と笑って答える。
「はいはい、好きに言ってくれていいよ!」
『ハハハ。じゃ、そういう事で明日は昼過ぎには撮影が始まるからなあまり飲みすぎるなよ。じゃ…』
「あ!待って!ロイ!」
僕は思い出して慌ててロイを呼び止めた。
『ん?何?どうした?』
「…あの…さ…」
僕はエレンの事を、どう言おうか迷った・…が、思い切って口を開く。
「実は…エレンの事で相談があるんだ…」
『え?エレン?…』
ロイも少し驚いている。
「夕べさ…ロスのホテルに会いに来たんだよ…。いきなり電話してきてさ、降りてこないと部屋へ来るって言うから、仕方なくラウンジのレストランバーで少し話したんだけど…。ちょっとモメてね…」
僕はそう言うと溜息をついた。
『・…そうだったのか。 ああ…ごめん!俺も教えちゃったからな…。で、彼女なんだって?』
「…俺とやり直したいってさ…。断ったんだけど。彼女、諦めないとか言って…ちょっと口論にもなったし」
ロイは暫く何か考えているようだったが一言、僕に聞いてきた。
『…ジョシュ。ほんとに、彼女とやり直せないのか?』
「え…?ああ…無理だよ。それに元々そんな深い付き合いじゃなかったのは知ってるだろ?そりゃお互い家に泊ったりはしてたけどさ…会える時に会って一緒に過ごしてただけだよ…」
『まあなぁ…。エレンだって他の男とも遊んでたしな。』
「それでさ.…。また二人で会って話しても、口論になるのは目に見えてるし…ロイにも間に入ってもらおうかと思ってね…」
『ああ、それはいいけどさ。…エレンはなぁ…。簡単には引き下がらないと思うよ?』
僕は少し溜息をつくと、「それは…分かってる・…」と言った。
「でもさ、に心配かけるよりはいいし何とか説得するよ。一緒の時に電話されたり、会いに来られても困るんだ。エレン、に好意を持ってなさそうだったし…。何かするかも…と思うと心配だよ」
『そうだな。じゃ、その事は今度、ゆっくり話そう。ここまでは会いに来ないだろうし』
ロイはそう言って呑気に笑っている。
「笑い事じゃないって…。彼女なら来そうで怖いよ…」
『ま、そんな考え込むなって!今夜はクルーズ楽しんで気晴らししてこい!』
「ああ…そうだな。じゃ、ロイも楽しんで来て」
『おおいに楽しませてもらうさ!じゃ、また明日の朝、モーニングコールするよ』
「ああ、じゃあな」
そう言って電話を切ると、僕はバスルームへと入り、簡単にシャワーを浴びた。
エレンのことは…ロイに話したら少し気持ちが楽になった。
(とりあえず、今夜をおおいに楽しんで、明日からの撮影に集中しよう…)
僕は、そう決めると心配事を吹き飛ばすように、思い切りシャワーを顔から浴びた―
『Hello?ジョシュ?クルーズ、予約取れたよ?』
リジーからそう連絡が入ったのは、ほんとに4時少し前だった。
僕とはすでに用意を終えていたので、そのままロビーへ皆と合流するべく降りて行った。
「ジョシュ!!こっちだよ!」
イライジャとショーンが大きく手を振っている。
僕も軽く手を上げると、と二人のところへと歩いて行った。
するとそこにはクレア、ジョーダナがロビーのソファーで寛いで談笑している。
「Hi!ジョシュ、。私達もご一緒させてもらうわ」
ジョーダナが笑顔でソファーから立ち上がる。
「ああ、あれ?ローラは?」
僕は映画内での主役級の仲間の中に一人、姿の見えない彼女を探した。
「それが少し疲れたから今夜は遠慮するって…。部屋で休んでるわ、明日に備えるんですって」
クレアもソファーから立ち上がって答えた。
「そっか…。寒いから風邪でも引いたのかな…?じゃ、今夜、行くのは、この6人かい?」
「うん、そうだよ。クルーズも6人で予約したからさ」
イライジャが笑顔で言った。
「じゃ、早速行くとしますか!」
ショーンが張り切って歩き出す。
皆もそれに続いてホテルの入り口へと歩き出した。
クルーズ船乗り場はマノンガヘイラ川の向こう側にあった。
目の前にはステーション・スクエアがあり、夜になると、かなり賑わってくるところだ。
ここは、もともと駅舎だった建物の内部を改装したもので現在はアンティークな建物の中に、
50店以上のショップや20軒近いレストランがシェラトンとかの有名なホテルと一緒に入っていた。
僕らはクルーズが出発する、ステーション・スクエアの北西側へと歩いて行き、予約のチェックを受け乗船した。
ちょうど予約が取れたのは最終運行の午後5時出発の船。
僕らは乗船してから少し船の中を探索してまわった。
徐々に夕日へと変わっていく太陽の光が、周りの景色を照らしていき、奇麗な風景が広がっている。
少しすると、ゆっくりと船が動き出した。
僕らはディナーの時間がくるまで、甲板で、ゆっくりと流れていく景色を眺める。
「わあーーどの家もヨーロッパ調で奇麗!ね?ジョシュ」
は興奮したようにはしゃいでいる。
「ああ、ほんと圧倒されるな。何だか絵を見ているようだよ。緑の中の家並みが…」
僕はしばし、その風景に見惚れていた。
このクルーズはゆっくり二時間かけて三つの川を下りながら新旧様々な橋をくぐり、川岸の大工場やピッツバーグの街並みを招介してくれる。
ディナーの時間が来て僕らは中へと入り、席へついた。
ディナーも、なかなか豪華な料理ばかり。
主にイタリアン風だったので、はすっかり満足している様子だ。
女性陣とも楽しそうに話す、の横顔を僕は微笑みながら見ていた。
「ジョシュ?このペンネ、美味しいよ?」
そう言って僕の皿へと盛り付けてくれる。
「ありがとう」と言って、それを受け取ると、も嬉しそうに、「食べてみて!」とせかしてくる。
僕は笑いながら、そのペンネを口にした。
が―ちょっと辛かった…!
「アラビアータよ?少し辛いけど美味しいでしょ?」
笑顔でそう言うに僕も笑いながら、「ああ、美味しいね。は辛い物好きだもんなぁー」と言いつつも水を飲む。
するとジョーダナが僕らを見て、「ほんとに仲がいいわね」と声をかけてくる。
「私なんて兄さんいるけど、凄く仲が悪いわ!いっつもイジワルしてくるし…
ボーイフレンドを連れて行くと、私の事で嘘ばっかり言って彼に誤解されるし、もう兄貴にはウンザリ…」
彼女は両手をあげて肩をすくめながらグチった。
それを聞いては驚いたのか、
「ええ!そんなイジワルなの?ジョシュなら、絶対そんな事しないもの…」と目を丸くしている。
「そうねぇ。ジョシュは見たとこ、いい兄貴してるようだし!でも分からないわよ?
がボーイフレンドなんて連れて行ったものならジョシュもイジワルの一つや二つしたくなるんじゃない?」
と、ジョーダナはワインを飲みつつ笑った。
「そう…かな?そうなの?ジョシュ?」
おずおずと聞いてくるに、僕は、
「ああ、そんな男なんて連れてきたら、最高級のイジワルするかもな!」と言っての頭を撫でた。
は笑いながら、「私は、男の子なんて連れてこないもん!」と言って、またペンネをパクついている。
「それを聞いて安心したよ!今夜はゆっくり眠れそうだな」と軽く言うと、
イライジャが、「そんなんじゃ、は恋人も作れないね?」と言って笑った。
僕は冗談を言いながらも、心の中では、一瞬、ドキっとしていた。
がボーイフレンドを連れてくるなんて考えた事もなかった。
が僕以外の男を怖がるのも理由の一つだが…。
もしそれがなくなり、本当に家に恋人なんて連れてきた日には…僕はどうするんだろう?
想像もできない。
僕はショーン達へチキンを切り分けてあげているの横顔を見つめて、少し胸が痛くなった。
(も…いつか好きな人が出来たら、僕から離れて行くのかもしれない…)
そうなった時…僕はどうしたらいいんだろう。
ずっと一生、側にいれるわけじゃない…。家族とは、いつか離れて行くものだ。
そんな事を考えていたら、が僕の方へ向き、笑いながら、「はい、これはジョシュの分」と僕へはピザを取って置いてくれる。
僕は多少ベジタリアンでもあるからだ。 肉は極力食べない事にしている。
「ああ、ありがとう」 そう言って僕は微笑むと、気を取り直し、の取ってくれたピザを食べ始めた。
「ねぇねぇ。ディナー終ったら、ダンスタイムがあるみたいよ?」
クレアがそう言うと、「ほんと?わー甲板で踊るのかしら?」とジョーダナも喜ぶ。
「やった!って、これって男同士で踊るわけじゃないよな?」
ショーンが心配そうに呟いている。
「何言ってるのよ、気色悪いじゃないの、そんなの!」
ジョーダナも笑いながら、ショーンを、こづいている。
「じゃ、男女で踊れるんだね?良かった!ジョーダナ、僕と踊ってもらえますか?」
ショーンが澄ました顔で、そう言うと、ジョーダナも笑顔で、「私で良かったら」と返す。
「じゃ、僕は、クレアとペアだね?」
イライジャが笑いながら、そう言うと、クレアは、「あら?私じゃご不満かしら?」と冗談で睨んだ。
「うへ!怖い、怖い!ご不満だなんて、とんでもない!何て僕はハッピーなんだろ!ああ、神様、感謝します!」
と、大げさに両手を組んで神様に祈る真似をした。
それを見て、皆も笑い出す。
も楽しそうに笑いながら、皆の方を見ていた。
「じゃ、はもちろん俺とだね?」
「うん、でも私、踊れないよ?」
「大丈夫!お兄様がリードしてあげるよ」
僕は笑いながら言った。
するとは少し目を伏せたが、すぐに、「じゃ、私、足を踏まないように気をつけるわ」と微笑んだ。
クルーズでのダンスタイムは、"ムーンライトダンス"というもので、名前の通り月明かりの下、甲板で踊るいうもの。
ゆっくりとしたムードのある曲が流れて、何人もの人達がそこで踊り出した。
僕は手を差し出し、「どうぞ?僕のお姫様」と普段なら絶対言えないようなセリフを言った。
するとは顔を赤くして、でも嬉しそうに、そっと僕の手をとる。
他の皆も、それぞれ、さっき話していたペア同士で踊り出した。
僕は優しくをリードして、ゆっくり踊り出す。
「そうそう、上手だよ」
「ほ、ほんと?これ、結構、大変ね…」
は戸惑いながらも必死に動きについてくる。
僕はそのの細い腰を抱きながら、さっき自分が言った、"お兄さん"という言葉を思い出していた。
――あの時、確かに僕は違和感を感じていた。
自分で口に出して、その瞬間、何故だか罪悪感にも似たようなものが溢れてきた。
僕は…いつからか、自分の事さえ、の兄として見てなかったんじゃないだろうか。
を大切に思うのに理由がないように…
そう理由なんて無意味だ。
そう思おうとして思うわけじゃない。感じるわけでもない。
あの雨の日、に会って、僕の心に新しい感情が生まれたのを覚えている。
"愛しい"と感じる心と同時に、彼女が離れていかないかと不安に思う心…。
初めて、そんな不安な気持ちになって、僕は、それが何故だか分からなかった。
それまで一人でも平気だった僕が、がいないだけで不安になった。
帰りが遅いと学校まで迎えに行ったりもした。
そして彼女を見つけると、心の底から安心して、変な力が抜けていったのを覚えている。
この感情は…僕の心の、どの部分から溢れてくるのだろう。
は僕の事をどう見ているのか…
今まで聞きたくても聞けなかった事。
そして自分の中にある、認めるのが怖かった想い。
僕は彼女を愛している。
この感情は、男としての気持ちなんだろうか。
それとも兄として妹を愛しているという事なのか…。
その辺が自分でも、よく分からなくて、今まで深く考えないようにしてきた。
それは、こんな感情は他の人に感じた事がないから…
だから、いったい何なのか、自分でも、本当に、よく分からないんだ。
僕は知らないうちに、を抱く腕に力を入れていたらしい。
「ジョシュ?どうしたの?何だか怖い顔してるよ…」
が僕を見上げて言った。
僕はハっとして、「いや…ちょっとと踊るのなんて初めてだし緊張しちゃったかな…」と軽く微笑む。
も少し微笑んで、僕に体を預けてきた。
だいぶ慣れたのか足もスムーズに動いている。
そこで静かに音楽が止まった。
踊っていた人達が演奏者たちへと拍手を送り、それぞれの席へと戻って行く。
僕らも席へと戻り、しばしカクテルを飲みながら談笑していた。
すると船の行く先に、またステーション・スクエアが見えてくる。
「もう着いちゃったね〜」
イライジャが名残り惜しそうに呟く。
「アっという間の二時間だったわ」
ジョーダナもカクテルを飲みながら呟いた。
「でも、さっきの夕日と変わって、今度は月明かりで、街並みが光ってて奇麗ね?」
は僕の方へ向いて笑顔で、そう言った。
その言葉に僕も、その月明かりの下に浮かぶ街並みを見る。
「ほんと奇麗だな・…。さっきとは、また違った景色になってる」
皆はその風景にしばし見惚れていた。
その間、船はゆっくりと船乗り場へと入って行った。
「じゃ、また明日!お休み!」
「ああ、お休み!」
「お休み!」
僕らはホテルへと戻り、早々に部屋へと帰って行った。
クルーズを終えた僕たちは少し、寄り道をしてステーション・スクエアの辺りをブラついて買い物をしたりしてきた。
ホテルへと戻ってきた時のは、夜の11時近く。
僕とも部屋へと戻り、は軽くシャワーへ入るとバスルームへと行った。
僕は明日のシーンの確認のため、台本へと目を通し、セリフを頭に入れる。
ある程度、覚えると僕は台本を閉じた。
「はぁ…。疲れたな…」
僕は独り言を言うと溜息をついて、煙草へと火をつける。
今日は少し飲みすぎた。
まあ、あんな船で食事やダンスをするのも滅多にないから、仕方がない。
皆も本当に楽しそうだった。
今回の撮影も仲良くやれそうな気がしていた。
(そう言えば…体調が悪いと言っていたローラは大丈夫だろうか…)
彼女とは明日、キスシーンがある。
いきなりクランクイン当日からキスシーンなんて撮らなくてもいいだろう…と思ったが、
監督が、"まだ知らない同士の方が新鮮さが出ていいんだ"なぁーんて言うもんだから…
僕はそれを考えると少し憂鬱になった。
この事は、まだに言っていない。
照れくさいのもあるが、何だか言いたくなかった。
明日は当然、も撮影風景を見ることになるだろう。
(僕がいきなりキスシーンをやったらはどう思うんだろう…?)
僕は吸っていた煙草を消し、また溜息をつく。
そこへ―
「ジョシュ?どうしたの?」
がバスルームから出てきた。
バスローブ姿のまま、ほんのり頬をピンク色に染めて頭にはタオルをまいている。
僕は、ドキっとしたが、「いや…ちょっと疲れただけだよ」と軽く答えた。
「じゃあ、早く寝ないとね。明日は11時にはホテル出ないと行けないんでしょ?」
「うん、、起きれる?」
僕は笑いながら言うと、「起きれるわよー…多分…」と少し上目遣いで僕を見る。
「ま、起きれなくても僕が起こすんだから大丈夫だよ」
僕はそう言うと、に手招きをして、目の前に歩いて来た彼女を抱きしめた。
シャワーに入ったばかりなので体が少し熱い。
「ほら、、ここに座って」
僕はを自分の足の間に座らせると、頭に巻いてるタオルをとり彼女の髪を拭いてあげた。
「早く乾かさないと風邪ひいちゃうな…おいで、」
そう言っての手をひき、バスルームまで行くとまたドライヤーでの髪を乾かしてあげる。
「あー気持ちいい〜。このまま寝れちゃう…」 は立ったまま目をつぶっている。
それを鏡越しで見てた僕は、ちょっと笑いながら、
「立ったまま寝たら倒れるよ?」と言った。
「そうしたら、ジョシュが抱きかかえてくれるでしょ?」
が目を開けると、鏡越しで目が合った。
僕は妙に照れくさくなり、視線を外すと、ドライヤーのスイッチを切り、「はい!終わり!」との頭にポンと手を乗せた。
「ありがとージョシュ」
は笑顔で振り向くと、そう言って僕に抱きついてくる。
「眠いの?」
「うん…少し…」
ジョシュはちょっと微笑むと、を素早く抱きあげた。
「わっ…ジョシュ?」
「このまま寝ていいよ、ベッドまで運んであげるから」
「う、うん…」
は少し顔を赤くしてうなづいた。
僕はをベッドまで運んで寝かせてあげると、そっと額にキスをした。
するとが僕の顔を見つめて一言、言った
「ジョシュ…。私…ボーイフレンドなんて連れてこないよ?」
僕はそれを聞いて驚いたが、ちょっと笑うと、「ああ、その方が俺も安心だよ」と言った。
でもは目を伏せて、「じゃあ…ジョシュは…?」と聞いてきた。
僕は一瞬、ドキっとした。
「俺?…俺は…彼女なんていないし、作る暇もないよ」
なるべく普通に答えて、の頭を撫でる。
「でも…。こうやって映画を撮る時に、共演者の女の人を好きになったりするかもしれないよ?」
僕は言葉がつまってしまった。
何て言えば、分かってくれるんだろう。
僕は恋人なんて欲しくない、というよりは好きな人さえ出来ないんだよ。
「…俺は同じ業界の人は嫌なんだ。だから、それはないよ」
なるべく分かりやすく言って、の反応を伺った。
は少し驚いた顔で僕を見ていたが、ふと微笑むと、「ジョシュが彼女を連れて来たら、私もイジワルしちゃうかもよ?」と言った。
「アハハ…そりゃ怖いな…。じゃ、僕は一生、一人でいるよ。 ――と言うより、ずっとの側にいる」
僕は最後の言葉を真剣な顔でを見つめながら言ってみた。
するとは少し瞳を潤ませて僕の手をギュっと掴んできた。
「私も…。ずっとジョシュの側にいていい…?」
「ああ…当たり前だろ?どこにも行かせないよ…」
僕は胸が苦しくなりベッドの横へと座り、の頬へキスをした。
は僕の首へと腕をまわし、そのまま僕にしがみつく。
「私…ジョシュだけいればいい…。他に何もいらない…」
そう呟いたの声は少しだけ震えている気がした。
僕は明日もと笑いあえたら、それでいい…とさえ思っていた。
そしての頬へ、もう一度軽く口付けをした。
Postscript
ちょっと思うように書けませんでしたぁぅう…(汗)
今回、ペンシルバニアを舞台にしてみました。
オハイオはネタが少なくてな…
話に登場するホテルは、ほんとビクトリア調のロビーが奇麗vv
内容は…うーむむ…ちょっと仲むつまじい二人の間に影を落としてみようかと…
ジョシュのあの声は悶えますねーv>そんな私は声フェチ(笑)。
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】