私の恋人は超多忙な日々を送っている。 それは仕事が俳優という特殊な職業だから。 今日、アメリカにいたと思えば明日にはヨーロッパ・・・・・なんて事も珍しくない。 そんな彼を見ていて、私はいつも体を壊さないかと心配になる。 でも当の本人は・・・・・・ 『、声枯れてるぞ? 風邪でも引いた?』 「うーん・・・ちょっと夕べ寝れなくて・・・」 『どうした? 何かあった?』 「・・・何もないよ? ちょっと映画見てたら寝れなくなっただけ」 『もぉー映画なんて見てないで、ちゃんと寝る時間には寝ないと。体壊すぞ?』 「・・・はぁい・・・」 いっつも、こんな感じ。 ジョシュってば自分の心配よりも、私の心配ばかりしている。 ジョシュ曰く、"いつも傍にいてやれないから些細な事でも心配"なんだそうだ。 でも私にしたら、ジョシュの方がよっぽど心配なのに。 それに・・・夕べ寝れなかったのは、ジョシュの事を考えてたから。 もう一ヶ月も会っていないジョシュが恋しくて、つい彼の映画のDVDなんて見ちゃったからなのよ? そんな事を言えば、また心配するから言わないけど。 それに今週は・・・ 「ジョシュ、今週は戻れるんだよね?」 『ああ、明後日には戻れるからさ』 「じゃあ空港まで迎えに行こうか?」 『いいよ。は家で待ってて?』 「えぇ~・・・どうして?」 『だって、車で来る気だろ?』 「? そうだけど・・・」 『もしが事故に合ったら・・・って思うと落ち着いて飛行機にも乗れないからさ』 「・・・・・・安全運転で行くわよ・・・」 『ん~・・・。でもダメ。この前、信号で止まる時、ぶつかりそうになってただろ?』 「あ、あれは前の車が急停車するから・・・」 『だから!が気をつけてても他の奴が安全運転じゃなかったら巻き込まれるって事だよ』 「・・・・・・・・・・・・・・・」 ここまで言われると、もう何も言えない・・・・・・・・・・・・・・・ だって、そんなこと言ったら、私だってジョシュの乗る飛行機が墜落しちゃわないかとか色々心配しちゃうじゃないの・・・っ。 『・・・?』 「分かった・・・。家で待ってるね?」 『うん、そうしてくれると安心』 私の言葉にジョシュはホっとしたように、そう言うと、「じゃ、空港についたら電話する」と言って再び仕事へと戻った。 電話を切った後、私は軽く息をつきながら、それでも明後日にはジョシュに会えるんだと思い、嬉しくなる。 それに・・・そうね、家で待ってた方がいいかも。 だって、その日はジョシュの誕生日だから・・・ 私はカレンダーを見て21日にハートの絵を描いておいた。 「ジョシュってば絶対、誕生日だって忘れてるわね・・・」 そう呟きながら、その日はどんなプレゼントをあげようかと考えながら、まずは部屋を奇麗にしようと掃除を始めた。 当日、私は朝早くから起きて準備を始めた。 ジョシュの好きな物ばかりを作って出迎えたい。 「ん~こんなもんかな?」 テーブルに料理を並べてお花も飾り、私は最終チェックを済ませると軽く息をついた。 ふと時計を見れば、そろそろジョシュの乗る飛行機が空港につく時間。 「あ・・・いけない・・・ケーキ取りに行かないと・・・!」 昨日、予約をしておいたケーキをスッカリ忘れてた事を思い出し、私は慌ててエプロンを外すと車のキーを持った。 すぐに家を飛び出し、車に飛び乗ると駅前にあるケーキ屋へと向う。 「ああ・・・何でこんなに渋滞してるの・・・?」 表通りに出てみると、かなり車が多くて驚いた。 ちょうど帰宅ラッシュなのだろう。 おかげで10分で行く所を20分かかり、私は焦りながらもケーキを受け取りに行った。 「いけない・・・もう着いちゃったかな・・・」 ケーキを受け取り、時間を見れば、夕べ教えてもらった到着時間を10分は過ぎていた。 そろそろ家に電話をかけてくるかもしれない。 携帯もあるが、ちょっと出るだけだったので家に置いてきてしまったのだ。 「あ~早く帰らないと・・・」 私はすぐにエンジンをかけると、家に向って車を走らせた。 その時、ラジオから緊急ニュースが流れて来て、私はふとスピードを緩める。 今の飛行機事故のニュース・・・ミネソタ行き・・・とか言わなかった・・・? そこだけ耳に入って来て私はドキドキしつつもラジオのボリュームを上げてみた。 『・・・発、ミネソタ行き568便が消息を絶ってから6分後、墜落した模様です。繰り返します・・・』 「嘘・・・」 その便はジョシュが教えてくれたものと同じだった。 「嘘でしょ・・・いや・・・っ!」 一瞬で頭が真っ白になり、私は車を出そうとした。 だがすぐにブレーキを踏むと方向を変えた。 空港に行ってみよう・・・ そしたら何か分かるかもしれない。 そう・・・これは何かの間違いよ・・・ 何度も頭でそう繰り返しながら、私は空港へと車を走らせた。 急いで空港に向うと駐車場に車を止め、すぐに到着ロビーへと走る。 だが事故のせいなのか凄い人で、どこに行けばいいのか分からず、周りを見渡した。 すると事故の説明が出ているボードが目に付き、そこまで走って行くと、泣きながら係員に詰め寄ってる家族らしき人の姿がある。 その様子を見て私は体の力が抜けそうになるのを感じた。 やだ・・・ジョシュは絶対に無事よ・・・ こんなこと夢だわ・・・っ 「すみません!乗ってる人のリストは出ないんですか?!」 「待って下さい!詳しい事は今はまだわかりません!」 近くに来た係り人に聞いても、その人も慌てた様子で、そう言い放ち走って行ってしまった。 私は気ばかり焦ってどうしたらいいのか分からず、その場に立ち尽くしていると、違う係員が何か紙を持って走って来た。 それをボードの上に貼り付て行く。 「乗客名簿です!皆さん、ご家族の確認をして下さい!」 その声に、その場にいた人達が一斉にボードの前に駆け寄った。 私もドキドキしながらも急いで他の人に続く。 沢山の人の名前が載っていて私は気が遠くなりそうになりながらも、その名簿に目を通していった― そして、その中に愛しい恋人の名前を見つけた。 ――――――――――――――――――――――――――――― JOSH HARTNETT ――――――――――――――――――――――――――――― 「嘘・・・」 その名を見た時、私はその場に崩れ落ちた。 「・・・!・・・?」 「ん・・・ジョ・・・シュ・・・」 悲しくて苦しくて何度も彼の名を呼んだ。 胸が痛くて痛くて潰れてしまうんじゃないかと思うくらい・・・ その時、明るい光りが見えてジョシュが私の名前を呼ぶのが聞こえた。 これはきっと夢なんだ・・・と思いながらも必死に手を伸ばす。 すると、その手は暖かい温もりに包まれ、私はゆっくりと目を開けた。 「? 起きた?」 「―――っっ?!!」 今度こそ、はっきり聞こえたその声に私は夢の続きかと思ってゴシゴシと目を擦った。 声と、今、目に映ってるものが幻なんじゃないかと思ったのだ。 「大丈夫か?」 「ジョシュ・・・?」 そこには心配そうな顔のジョシュがいて、私の手をギュっと握ってくれている。 もう二度と会えないと、この温もりを感じる事は出来ないと思ったのに・・・ 「ど・・・して・・・?」 「どうしてって・・・帰ってきたんだよ。 寝ぼけてる?」 「え・・・?」 ジョシュは苦笑混じりに、そう言うと私の額にチュっとキスを落とした。 私は一瞬、何が何なのか分からず、ガバっと起き上がると部屋の中を見渡した。 「おい、? どうしたんだよ。そんな脅かせちゃったか?」 キョロキョロとしている私にジョシュは困ったように微笑んだ。 だけど私は今、自分が寝ているのが、いつもの部屋、いつものベッドだという事に驚いていた。 「私・・・空港で倒れたんじゃ・・・」 「えぇ? いつ?!」 その言葉にジョシュはギョっとしたように私の顔を覗き込んできた。 「どうしたんだ? 体の具合でも悪いのか?!」 「ち、違う・・・だって・・・事故は・・・?」 「は? 事故・・・?」 「飛行機・・・ジョシュの乗った飛行機が墜落したって・・・・・・ぁれ・・・?」 「・・・お前・・・寝ぼけてんだろ・・・」 ジョシュは目を細めながら、私の額をツンっと指で突付いた。 その感触もはっきりと感じて私は呆然としながら彼の顔を見つめ・・・そして思い切り抱きついた。 「ぅあ!ちょ・・・どうしたんだよ?」 「本物のジョシュだ・・・!」 「え?」 「良かった・・・無事で・・・」 「だ、だから何の話・・・?」 私の言葉にジョシュは何が何だか分からないといった感じだ。 でも私にしたら彼がここにいるという現実が凄く幸せだった。 あんな思いはもう二度としたくなかった。 「・・・で・・・俺の乗ってる飛行機が墜落したと・・・」 「ぅん・・・」 「・・・空港で確めたって?」 「・・・ぅ・・・ぅん・・・」 ジョシュは目を細めながら私を見ていて、私はと言うと、だんだん声が小さくなっていった。 「はぁ・・・ったく・・・何て夢見るんだよ・・・。しかも現実と区別つかないなんて・・・」 「だ、だって凄くリアルだったんだもん・・・!」 「だからってさぁ・・・。それに、どこに料理やらケーキがあるの? ないのが夢だって証拠!」 「ぅ・・・」 ジョシュはへニャっと眉を下げて私の頭にポンっと手を乗せた。 そう、私は本気でジョシュが飛行機事故にあったと思い込んで暫くジョシュに泣きついていた。 でも起きてみれば用意したはずの料理もないし、買ったはずのケーキもない。 どうやら、あれは本当に夢だったようだ。 そして何故、あんな怖くてリアルな夢を見たかというと― 夕べ、寝る前にテレビのニュースを見ていた。 すると突然、緊急ニュースが流れて、どこかの国で飛行機が墜落したとやっていたのだ。 そして空港で家族達が泣きながら家族や恋人の安否を心配している映像がやたらと流れた。 ただでさえ心配していた事だったので寝る前に凄く不安になってしまった私は、なかなか寝付けなかった。 もしジョシュの乗ってる飛行機が墜ちたらどうしようとか、そんな事ばかり頭に浮かび、そして結局、気づけばそのまま寝てしまったようだ。 だからこそ、あんな怖い夢を見たのだろう。 その事を説明するとジョシュは困ったような顔で微笑み、私の頬にチュっとキスをしてくれた。 「ほんっとは心配性だよな?」 「そ、それはジョシュじゃない・・・」 「まあ・・・それは認めるけど・・・」 「あ、そ、それより・・・どうして帰って来るのが、こんなに早いの? 夕方の便じゃ―」 「ああ、早めに終ったから、すぐ飛行機に飛び乗ったんだ。で、帰ってきてみればがうんうん魘されながら泣いてるし驚いたよ」 「・・・そ、そうだったんだ・・・。って、あ!私何も用意してない・・・」 まさか寝過ごすとも、ジョシュの帰りがこんなに早いとも思ってなかった私は何も準備していない事を思い出しがっくりとしてしまった。 そんな私にジョシュは優しく微笑んでギュっと抱きしめてくれる。 「いいよ、そんなの。に会えただけで最高のプレゼント!」 「で、でも・・・せっかくジョシュの誕生日なのに・・・」 「ん~まぁ、帰って来て早々、に泣きつかれただけでも、かなりサプライズだったしいいって」 「も、もう・・・それは言わないでよ・・・」 「何で? これでも凄い嬉しかったんだけどな?」 「え?」 少しだけ体を離し、ジョシュを見上げれば、彼はニコニコしている。 「だってが、あんな夢を見たって事はそれだけ俺のこと心配してくれてたって事だしさ」 「・・・ジョシュ・・・」 「まあ・・・俺も離れてる時は似たような夢、結構見るし」 「え? 似たようなって・・・?」 「ん~だから・・・・・・・・・俺がいない間にが他の男を好きになる夢とか・・・」 「えぇ?」 「あとは・・・が危ない目に合ってるのに助けてやれない夢とか?」 「ジョシュが・・・?」 「そう。離れてるとさ・・・。色々と不安があるんだよな・・・・・・」 ジョシュはそう言って、ちょっと照れたように笑うと、もう一度抱きしめてくれた。 「こうして傍にいる時が一番安心・・・どんなことからも守ってやれるし」 「ジョシュ・・・」 「さっきも悪夢から助けてあげれたし?」 「・・・・・・・・・・ぅん、そうだね?」 「だろ?」 そう言ってジョシュは少しだけ得意げな顔をすると、ゆっくりと顔を近づけ、優しくキスをしてくれた。 「良かった・・・・・・・・・・・・・・・」 「え?」 「ジョシュの生まれた日に・・・・・・・・・・ジョシュを失わないで・・・・・・・・・・・・・・・」 「バカ。不吉なこと言うなよ・・・・・・・」 情けない顔でコツンと額をくっつけたジョシュに私はちょっとだけ噴出した。 「じゃあ・・・・・・・・これは?」 「え?」 額を離し、私は彼を見上げて微笑んだ。 「Happy Birthday......Josh...」 プレゼントも豪華な料理も何もないけど・・・・・・・・・・この世にジョシュが生まれた事への感謝だけは、ここにあるから。 これからも、こうして私の傍にいてね。 その気持ちを伝えるように、ジョシュの唇へチュっとキスをすれば、彼は嬉しそうに微笑む。 あなたがこの世に生をうけたこと それが私にとっての最高の奇跡 ※ブラウザバックでお戻りください。
あぁぁ~・・・・・・すみません、あんなオチで・・・・・・っ;;
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