それは暮れも押し迫ったある夜のこと。 愛しい彼女から電話が来た。 「ごめんね・・・熱が出ちゃって・・・明日無理みたいなの・・・」 この言葉を聞いて僕はずっと前から約束してたデートがダメになった事よりも苦しげな声を出す彼女の方が心配になった。 「今すぐ行く!」 そう言って彼女が何かを言ってるのも聞かず、そのまま電話を切った。 取材も終わり、ちょうど帰る途中だった僕はすぐにハンドルを切った。 本当なら今日は早めに帰って明日のデートのためにグッスリ寝ようと思ってた。 ここ数日、かなりハードで寝不足が続いていたし、せっかくのデートで元気がないとにも心配かけると思ったんだ。 でも当のが熱を出したと聞けば眠ってる場合じゃない。 僕は急いでのフラットに向けて車を吹っ飛ばした。 ら い ば る Ⅱ 「・・・!」 彼女のフラットに到着するとすぐに部屋へ飛び込んだ。 だがリビングは真っ暗で彼女の気配はない。 いったんリビングの電気をつけてから奥にあるベッドルームへと歩いて行った。 コンコン・・・ 一応ノックをしてからドアを開ける。 するとが驚いたようにう少しだけ体を起こした。 「オーリィ・・・ほんとに来たの・・・?」 「・・・!大丈夫?」 僕はの方に歩いて行くとギュっと彼女を抱きしめた。 何だか以前よりも細くなった気がして心配になる。 「・・・体凄く熱いよ・・・?熱ってどのくらいあるの?」 「・・・38度・・・くらい?」 「そ、そんなにあるの?病院は?って・・・行けないか・・・」 「うん・・・動けなくて・・・薬は前にもらったのがあるから・・・」 話すのも辛そうなを見て僕は胸が締め付けられた。 だがその時、後ろで「フーッ」という、いつもの声が聞こえて・・・ 「うげ、平次・・・」 僕をいつも敵視するの愛猫がノソノソと起き上がった。 どうやらこいつはの傍で寝ていたらしい。 「平次も心配してくれてるのか普段より離れなくて・・・」 「そ、そっか・・・。でも・・・いつから寝込んでたの?ちょっと痩せてるよ?」 「・・・えっと・・・一昨日の夜から熱が出て・・・」 「お、一昨日?じゃ何でもっと早く電話しなかったんだよ・・・!」 「だって・・・オーリー忙しいって言ってたし・・・それにすぐ下がるかと思ってたの・・・」 はそう言って弱々しい笑顔を見せる。 そんな彼女を僕は思い切り抱きしめた。 「そんなこと気にするなよ・・・!心配するだろ?」 「・・・ごめんね・・・?」 は苦しげに息をしながらそう呟いた。 僕の首筋に熱い息がかかり、まだ熱が高い事が伺える。 「じゃ・・・ちゃんと寝てて?あ・・・ご飯は?ちゃんと食べてる?」 「・・・ううん・・・動けないから・・・簡単なスープくらいは・・・食欲もないの・・・」 「ダメだよ、そんなんじゃ・・・。食欲なくても何か食べないと・・・あ、今から俺が何か作ってあげるから待ってて」 そう言ってベッドから立ち上がるとが慌てて僕の腕を掴んだ。 「だ、だってオーリー料理できないじゃない・・・」 「オートミールくらいなら出来るよ。それに・・・何か食べないと薬もちゃんと飲めないだろ?」 そう言っての額にチュっとキスをする。 すると彼女は少しだけ微笑んでそっと掴んでいた腕を放した。 「じゃあちょっと待ってて?」 「うん・・・。あ・・・オーリィ・・・」 「ん?」 「平次の・・・ご飯もお願いしていいかな・・・」 「え?」 その言葉に足を止め振り返る。 「私、ずっと寝てたからきっと・・・ご飯なくなってると思うの・・・お腹空かせてると思うし・・・」 「あ、そっか・・・。うん、分かったよ」 「・・・ありがとう」 「いいよ、そんなの。じゃあ大人しく寝ててね?」 優しくそう言って微笑むともホっとしたように笑顔を見せた。 すると今まで大人しくしてた平次がノッソリと僕の方に歩いてきてリビングの方へ向かった。 僕はちょっと怖かったがベッドルームを出てリビングに歩いて行くと平次が立ち止まりこっちへ振り返る。 「ぶにゃぁぁ・・・」 「う・・・な、何だよ・・・」 こいつはいつも僕の事を敵視しているから何となく苦手なのだ。 でも今日はさすがに大人しい気がした。 「ああ、もしかして・・・腹減ってんのか・・・?」 「・・・ぶにゃぁぁ」 「あーだから俺がを独り占めしても文句言えないのか」 そう言ってニヤリと笑うと平次はプイっと顔を逸らしてキッチンの方へ歩いて行った。 本当にお腹が空いてるらしい。 僕もキッチンへ行くと平次は自分の皿の前にチョコンと座っていた。 確かに中はすっからかんで水もなくなっている。 「あー見事に空だな・・・。お前、何日くらい食ってなかったの?」 さすがに可愛そうになり、僕は平次の前にしゃがんで頭を撫でようとした。 すると平次は尻尾をぶわっと膨らまし、「フーッ」と唸り声を上げる。 「何だよ・・・まだ俺のことライバルだと思ってるわけ・・・?今日の俺は救世主だぞ~?」 そう言って立ち上がると平次の餌がある棚を開けた。 そしてドライフードと缶詰を出すと途端に平次が僕の足にまとわりついてくる。 「にゃぁぁーー!にゃあぁぁぁー!」 「わ、分かったよ・・・今やるから待ってろって」 早くくれと言わんばかりに鳴きだす平次に僕は急いで缶詰を開けると皿に移してやった。 その他にもドライフードを入れて、水も置いてやる。 すると平次は凄まじい勢いでムシャムシャとそれを食べ始めた。 相当、腹が減ってたらしい。 「お、おい・・・少し落ち着いて食えよ・・・喉に詰まるぞ?」 苦笑しながら声をかけるが聞こえてないのか平次は必死にご飯を食べている。 僕はちょっと息をつくと、次にの食事を作ろうと冷蔵庫を開けた。 「ん~結構何でもあるなぁ・・・」 中には色々な材料が入っていて、これなら買いに出る必要もなさそうだと思った。 そこで僕は唯一できるオートミールを作り始めた。 殆ど食べてないにはこれくらい軽めの方がいいだろう。 その他に野菜があったので野菜スープも作ってみる。 苦手な料理だったが愛するの為だと思うと全然苦にならなかった。 「よし・・・出来たー」 何とか最後のスープも出来上がり、僕はホっと息をついた。 恐る恐る味見をしてみたが、普段やらない割にはなかなか美味しく出来たようだ。 「お♪いける!何だよ、俺、結構料理得意かも」 ホっとしつつお皿を出して盛り付けていく。 それをトレーに乗せて僕はベッドルームへ戻った。 「?出来たよ?」 静かにベッドルームへ入っていくとの方に歩いて行った。 「あ・・・オーリィ・・・ありがと・・・」 「いいから寝てて。今、用意するし」 トレーをベッド横のミニテーブルに乗せ、端に腰をかけるとの背中にクッションを入れて座らせてあげた。 するといつの間に来ていたのか平次が布団の中からモソモソと顔を出す。 「何だ、こいつ。食べたら即効でのとこに来てたんだ」 僕が苦笑しながらそう言うともちょっと笑って平次を撫でた。 「心配してくれてるのよ・・・」 「まあ・・・その気持ちは分かるけど・・・」 「え・・・?」 「俺も・・・凄い心配してるんだけどな」 そう言って微笑むと素早くの唇にキスをした。 彼女はかすかに頬を赤くして、「うつっちゃうよ・・・?」と呟いたが僕は気にせず彼女を抱きしめる。 「いいよ・・・うつしたらが治るだろ?俺は明日から暫くオフだしさ」 「でも・・・」 「いいから気にしないで」 そう言ってもう一度キスをしようと唇を近づける。 が、その時― 「ぶにゃぁぁっ」 「「―――ッ」」 やっぱり平次に邪魔をされた・・・・・・ 「はぁ・・・」 「ご、ごめんね・・・オーリィ・・・」 「いや、いいよ。あ、それより・・・これ食べて」 僕は内心ガッカリしつつも、に食事させようと作っていたオートミールを持った。 そしてスプーンで彼女の口に運んでいく。 「はい、あーん」 「え・・・い。いいよ・・・」 「いいから。病人は言う事を聞くもんだろ?」 そう言ってもう一度「あーん」と言うとは恥ずかしそうに口を開けてパクっと食べてくれた。 「どう?大丈夫?」 「・・・うん、美味しい・・・オーリー上手ね」 「そ、そんな事ないよ。これだけは万が一の時の為に母さんが教えてくれたんだ」 そう言いながらもう一口に食べさせた。 そして初挑戦した野菜スープも飲ませてあげると、は「美味しい」と言って全部飲んでくれた。 「やっぱお腹空いてたんだ」 「・・・そうみたい」 食べ終わった後ベッドに寝かせるとが恥ずかしそうに笑った。 「はい、じゃあ薬も飲んだしは寝て」 「・・・オーリーは・・・?」 「俺?俺はもちろんずっとについてるよ?」 「でも・・・疲れてるんじゃない・・・?」 は心配そうに僕を見上げている。 そんな彼女に微笑むとチュっと額にキスをした。 「大丈夫。が寝たら俺も一緒に寝るしさ」 「・・・そう?でも・・・ごめんね?せっかく明日一緒にカウントダウンのパレードに行こうって言ってたのに・・・」 「いいよ。俺はパレード行けなくてもとこうして一緒にいるだけで嬉しいしさ」 「オーリィ・・・」 「明日、一緒に新年迎えよう?」 の細い手を握り締めてそう言うとは嬉しそうに微笑んでくれた。 そして僕が頭を撫でていると眠くなってきたのか気づけば静かに寝息を立てていた。 「お休み、・・・」 そう呟いてそっと彼女の額に口付けると僕は後片付けをしようとキッチンに戻った。 そして使った鍋や皿を洗っていると大きな欠伸が襲ってくる。 「ふあぁぁ・・・俺もそろそろ限界かな・・・」 ホっとしたからか一気に睡魔が襲ってきて僕は洗い終わると軽く息をついた。 すると― 「ぶにゃぁぁ・・・」 「・・・っ。あ・・・平次・・・どうした?」 振り返ると平次がキッチンに入ってきた。 またご飯でも食べに来たのかな?と思いながら見ていると平次は何故か僕の前に来てチョコンと座る。 普段はこんな風に僕のところになんて近づいてこないから珍しいなと首を傾げつつしゃがんでみた。 「どうした?まだ食べたりないのか?」 「・・・・・・・・・」 話し掛けると平次は返事をせず、ジっと僕のことを見ている。 心なしかその目はいつもより優しい気がした。 「水ならそこにあるし・・・ご飯も少し残ってるだろ?それ食べて―?」 ビックリした。 立ち上がろうとした時、不意に平次がお尻を上げて近づいてきたかと思うと、いきなり僕の手を― ジョリジョリ・・・ 「―――ぅッ」 あのザラザラする舌で僕の手を――舐めてくれたから。 「な・・・お前・・・どうした・・・?」 「・・・にゃぁぁ」 と付き合いだしてから約一年。 こいつには毎回邪魔をされてきた。 一向になつく気配のないこいつに僕は嫌われてると思ってた。 僕が来ても絶対に近づかないし、まして頭を撫でさせてくれた事もない。 なので自分からこんな風に僕の手を舐めるなんて・・・・ありえない事だ。 なのに・・・今、平次はペロペロ(ジョリジョリ?)と僕の手を舐めてくれている。 そこで僕はふと思いついた。 「もしかして・・・お礼のつもりか?」 「にゃぁぁぁ」 僕が話し掛けると平次は舐めるのをやめてキュっと目を瞑った。 その様子が、「YES」と言ってるようで思わず笑顔になる。 「そっか!ご飯のお礼か。あーそれともの看病したからかなぁ・・・どっちにしろお前もようやく俺を認めたって事だな!」 何だか嬉しくなって平次の頭を軽く撫でた。 いつもなら「フーッ」と言われるのに、この時は大人しく目を瞑っている。 初めてゆっくりと平次に触った感触はふわふわしてて気持ち良かった。(まあかなりのデブ猫だしな) 「じゃあ今度からは俺との邪魔をしないって事だな?良かった~」 そう言って立ち上がると平次は目を開けて「ぶにゃぁぁ」と鳴いた。 「そうかそうか。あー良かった!これで今夜は一緒にと寝れるな~♪」 どうせ平次が邪魔をすると思ったから今夜はリビングのソファで寝ようかと思っていたのだ。 でも平次がなついたなら何も遠慮する事はない。 僕はそのままベッドルームに戻り、ジャケットを脱ぐと眠っているの隣に潜り込んだ。 「ん~あったかい・・・」 華奢なをそっと抱きしめて僕はゆっくりと目を閉じた。 今日までの疲れが一気に出てすぐに朦朧としてくる。 だがその時・・・お腹の辺りに重たいものが乗った感触があり、僕はふと目を開けた。 するとそこには・・・ 「げ・・・平次・・・!」 僕のお腹には平次が仁王立ち(?)して、あの半目状態でこっちをジィーっと睨んでいるではないか! 「な、何だよ・・・重たいだろ~?」 一向にどけてくれない平次にそう声をかける。 すると奴はノシノシと僕のお腹から胸まで歩いてきて・・・ 「ぶにゃぁーーーっ!!」 「うぁ・・・っ」 いきなり僕の胸で、その見事な爪を研ぎ始めたのだった・・・・・・(痛) その数分後―― 「チェッ・・・やっぱこうなるんだよなぁ・・・ックシュ!」 僕はリビングのソファに毛布一枚かけて横になっていた。 この分じゃ次は僕が新年早々、熱を出して寝込みそうだ。 当分"ライバル"という立場は変わらないらしい・・・ いつになったら平次は僕をの"恋人"と認めてくれるんだろう。 ※ブラウザバックでお戻りください。
またまたくだらなくて、すんまそん・・・;;
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