彼と初めて言葉を交わしたのは馴染みのカフェでも、あの小さな公園でもなかった―





















Two months ago..........





















いつもの散歩道、突然、愛犬のハリーが走り出した。






「ちょ・・・・・・ハリー?! どこ行くのよっ!こら!」





ハリーは大型犬で引っ張る力が凄い。
私はリードを持ったまま走るハメになってしまった。






「ちょ、ちょっとハリー!止まってよ~~!」





私は被っていた帽子が飛ばないように手で抑えながら必死にハリーについていく。
名前の通り、こいつは走るのだけは凄く速いのだ。









「ワゥ!」






ある程度、走って行くと、ハリーが何に反応したのかが分かった。
前方に大きな黒い犬がいるのだ。





「ちょ・・・っとハリーダメ!」







ケンカになると思い、私は思い切りリードを引っ張るも、力では全然敵わない。
あえなく私はハリーに引っ張られ、その犬の方に走らされてしまった。






「ワゥ!ワゥ!」


「ワゥ~!」








ハリーに気づいた、その黒い犬もこっちに向って走ってくる。
私は襲われるのかと一瞬、思った。
が、何故か二匹はケンカをするのではなく互いのお尻の匂いを嗅ぎあいながらジャレ始めた。







「コ、コラ!ハリー!ダメだったら!行くわよっ?」






それでも必死にリードを引っ張ったがハリーは何だか嬉しそうに、その犬とジャレあっている。


(もう!この犬の飼い主はどこ?! 首輪してるんだから飼い犬でしょ?)


そう思いながら辺りを見渡していると―







「シディ!おい、シディ~!」




「ワゥワゥ!」










何だか目深に帽子を被った男の人が走ってきた途端、黒い犬はピクっと反応して吠え出した。








「あ、すみません!それ俺の犬で・・・・・!」








そう言いながら焦った様子で走って来た男性に私は安堵の息を洩らした。
かけていたサングラスを直すと、私はリードもつけずに散歩させてた事を怒ってやろうかと思って身構える。
だが彼は走ってくると、その犬の前にしゃがみ頭を撫でながら笑顔で顔を上げて、






「ごめんね? 大丈夫だった?」




「・・・・・・っ」










その笑顔は今まで見た事もないほど素適なもので一瞬、鼓動が早くなるのが分かった。
男の人に"奇麗"なんて言っていいのか分からないが、それでも、その男性は確かに奇麗な顔立ちをしている。
だが私が返事をしないからか、彼は慌てたように立ち上がった。






「も、もしかして怪我とかしちゃった?」
「え? い、いえ・・・・大丈夫です・・・・」
「そっかー!良かった!ほんと、ごめんね?」
「いえ・・・・・」






彼はそう言ってニッコリ微笑むと、自分の犬にリードをつけて、「ほら、シディ行くぞ?」と歩いて行ってしまった。
私はまだついて行こうとするハリーを抑えながら彼の後姿を黙って見送る。





「はぁ・・・・世の中にはいい男って何気にいるのねー。ね? ハリー」


「ワゥ・・・・?」







私の言葉にハリーは首を傾げていたが、私は何となく創作意欲が沸いてきて踵を翻した。






「さ、ハリー帰るわよ? 何だか書けそうな気がしてきちゃった!」


「ワゥワゥ!」







また・・・・・・どこかで会えるかな・・・・・・
明日も、この道で同じ時間に・・・・・・会えるといいけど。








家に向って歩きながら、ふと、そんな事を考えていた。




























「・・・・ぇ・・・!?」
「え・・・え?」
「どうしたの? ボーっとして」
「あ・・・ごめんね? ちょっと考えごとしてて・・・。えっと何?」
「あ、そうだ。あのさ今度、俺もシディ連れて来るから一緒に散歩させない?」
「え? 」
「ランチの時はいっつも仕事場に留守番させてるから可哀相だしさ。どう?」
「あ、えっと・・・いいわよ?」
「ほんと? やった。じゃあ明日にでも連れて来るよ」






オーランドはそう言って嬉しそうにアイスティを飲んでいる。
私はそんな彼を眺めながら、軽く息をついた。



ここはいつもの馴染みのカフェ。
彼とここで、こうして会うのは5回ほど。
先日、彼が何故だか追いかけて来て話したことがキッカケだった。
あれから毎日のように、お昼時になるとオーランドはここへやって来て私といっしょにランチを食べるようになった。
だけど私の心境はと言えば少々複雑で・・・彼はいつになったら気づいてくれるんだろう? なんて思っている。
そもそも彼とここで再会した時も凄く驚いた。


あの出会いから二ヶ月ほど経った頃、私がいつものように、この店でランチをとった後、暫く読書をしていた。
すると彼が偶然にも一人で、この店に入って来たのだ。
私もすぐには彼が、あの時の人だとは気づかなかった。(だって、あの時は彼、帽子を被っていたし)
だけど、ある時、マスターと彼が言葉を交わし、彼がその時、見せた笑顔でハっとしたのだ。
その笑顔ですぐに彼だと気づいた。
だけどだいぶ前に少しだけ言葉を交わしたくらいの私には彼に「覚えてる?」とは声をかけられなかった。
もともと、かなりの人見知りで今の仕事だって何かを書いたりするのが好きだから始めたのだが、
人とそれほど会わなくてもいいからってのもある。
それくらい私は人と接する事が苦手だった。
この街に引越してきた頃、恋人もそれなりにいたが、何となく自然消滅で終ってしまう。
執着心が欠けてる私はにはどうする事も出来なかった。
だからこそ・・・あの日、オーランドが追いかけて来てると分かった時、あんな風に話が出来た事に自分でも驚いたのだ。
あんな無防備に人と会話出来たのは初めてで彼とは自然に笑いあえた。
最初は・・・彼が私を思い出して追いかけて来てくれたのだと思ったからってのもある。
でも、どうやらそうじゃなかったみたいだ。


それから・・・彼と会う度に、いつか話そう・・・とか、いや思い出してくれるまで・・・なんて考えて未だ同じ状態のまま。
だけど・・・互いの犬を連れて散歩・・・と聞いて少しだけ期待した。
もし犬を連れて会えば・・・あの時の事を思い出してくれるかも・・・と思ったのだ。


(まあ、あの時は互いに帽子かぶってたりサングラスをしてたりしたし・・・)








そんな事を考えていると、彼は仕事だから、と帰って行った。



























「ねぇ・・・ハリー・・・彼、何で私と会ってくれるんだと思う?」


「ワゥ・・・?」






再会(私的には)を果たしたあの公園でオーランドを待ちながら、私は一人、そう呟いた。
ハリーはキョトンとしつつ、それでも早く散歩に行きたいのか、ソワソワと歩き回っている。
そんなハリーを見ながら軽く溜息をついていると、不意にハリーの耳と鼻がピクっと動き、ドキっとする。







「ワゥワゥ!」


「な、何? 来たの?」







慌ててベンチから立ち上がり、公園の入り口に目を向けると、オーランドが笑顔で手を振っているのが見えた。
そして次に、あの日の黒い犬も――






「ごめん、待った?」
「ううん。そうでもないわ? その子が噂のシディ? (何て知ってるけど)」
「そうだよ? ほらシディ。とハリーだよ?」


「ワゥワゥ!」
「ワゥン!」






オーランドが(今日はリードをつけてるようだ)シディにそう言うと、犬たちは「知ってるもーん」と言わんばかりに、
あの日と同じように互いの匂いを嗅ぎあってジャレ始めた。
私はそれで気づくかとチラっと彼を見たが、オーランドはそれを見て首を傾げている。







「あれ・・・何だか、初対面なのに仲がいいな・・・」
「・・・そうみたいね」



(はぁ・・・やっぱダメか・・・)







全く思い出す気配もない彼に私はガックリきて軽く息をついた。










、どうしたの?」
「え? あ、ううん。何でもないわ。じゃあ・・・散歩いく?」
「うん、でも二匹ともジャレあってるしリード外して、この公園で遊ばせようよ。誰もいないしさ」







オーランドはそう言うとシディのリードを外し、次にハリーのリードも外してしまった。
すると二匹は仲良さそうに走り回って遊んでいる。







「ほら。犬同士の方が楽しそうだ」
「そ、そうね・・・」
「じゃ、俺とも仲良くおしゃべりしよっか」
「え・・・?」
「ほら、おいでよ」







オーランドはそう言ってベンチをハンカチで軽く拭いてくれると、私の方に手を差し伸べた。
その手と笑顔に鼓動が早くなってしまう。






「はぁ~今日も暑いね。後でマスターのとこ行って冷たい物でも飲もうか」
「そう・・・ね」






彼の言葉に頷きながら隣に座ると、オーランドが急に顔を覗き込んできてギョっとした。







「どうしたの? 、何だか元気ないけど・・・」
「え? そ、そう? そんなことないよ?」
「ほんと? 体調悪いとかなら、ちゃんと言ってね?」
「うん、大丈夫だから・・・」
「なら良かった」





オーランドはそう言ってホっとしたように可愛い笑顔をくれる。
私は彼のその笑顔が素直に好きだなと思う。


ただ・・・思い出したわけでもないなら、彼はどうして私とこんな風に会ってるんだろう?
仕事で来てると言ってたし友達が欲しかったとか・・・?
私は何だか毎日、オーランドの事を考えてしまう。
これって私は彼のことが好きってことなのかな・・・?
でも5歳も年上の女なんて、きっとオーランドだって、そんな風に見てくれないかも・・・




あれこれ考えていると、二匹の犬たちを見てオーランドが楽しそうに笑っている。






「あいつら、ほんと仲良くなったなぁー。男同士なのにね?」
「え? あ・・・そうだね・・・。相性が合うんじゃない?」
「あーなるほど。俺とみたいだ」
「えっ!」
「あー何だよ、そんな驚かなくたってさ」
「ご、ごめ・・・」


(そ、そりゃ誰だって驚くわよ!サラリとそんなこと言わないで・・・っ)



一人、顔が熱くて手でパタパタ仰いでいると、オーランドはちょっと空を見上げて微笑んだ。






「俺さ、こうしてといると凄い落ち着くんだ」
「え・・・?」
「何て言うのか・・・こう・・・心が休まるって言うのかな」
「な、何言って・・・」
「ほんとの事だよ? と話してると自然のままでいれるし変に身構えないで話せるって言うか・・・」
「・・・普段は・・・そんなに身構えてるの・・・?」
「・・・まあ・・・仕事してるとね。やっぱり、どこかで本当の自分を隠しちゃうんだ」
「そう・・・大変だね・・・」








オーランドの表情が一瞬曇り、私はそんなに大変な仕事なのか、と少し心配になった。
だが彼はすぐ笑顔を見せると、私に微笑んでくれる。








「でも今はとこうして一緒の時間が持ててるしさ。は?」
「え?」
は仕事、大変?」
「まあ・・・それなりに。でも好きだから頑張れるわ?」
「そっか。俺も。好きじゃなかったら絶対、出来ない仕事だよ」
「そう・・・」
「でもも何か悩んでたりしたら何でも俺に相談していいからね?」
「そ、相談って・・・」
「あー何? 俺が年下だから頼りないとか思ってるわけ?」
「ち、違うわ? そんなこと・・・」







少しだけスネた顔をしたオーランドに私は慌てて首を振った。
すると彼はぷっと吹き出して私の頭にポンっと手を乗せる。






「嘘だよ。ジョーダン!、すぐ本気にして慌てるからなぁ~」
「な、何よ、もう!」
「すぐムキになるしさ。ぜーんぜん年上っぽくない」
「わ・・・悪かったわねっ」
「ほら!またムキになった!」
「・・・むっ」






オーランドは私が膨れると楽しそうに笑った。
私もそんな彼の笑顔を見ていたら自然と笑顔になってくる。


彼にはいつも、こんな風に元気をもらってる・・・





そう思って、ふと彼を見ると、彼もまた私を見た。
しばし見つめ合う形になって、一気に鼓動が早くなる。
オーランドはいつもと少し違う真面目な顔で、その優しい瞳に顔が熱くなった。






「な、何?」






恥ずかしくなり、私は視線を反らし、雰囲気を戻そうとした。
だが、その時オーランドの手が私の頬に添えられ、驚いて顔を向けると、そっと互いの唇が重ねあった。
それは凄く自然なキスで、私がゆっくり目を閉じると、オーランドは頬に添えた手を首の後ろに回し、私を抱き寄せる。
そして、静かに唇が離れていった。














「・・・・俺・・・のことが好きなんだ・・・」



「・・・・・・・・・・・っ」












彼の素直な瞳、素直な言葉に私は涙が出そうになった。
会ったばかりなのに、彼とこうなる事は決められてたような感じさえしてくる。



オーランドは私をギュっと抱きしめ、私の肩に顔を埋めた。














は・・・・・?」
「え・・・・・・」
「聞かせてくれないの? 返事・・・・・・」







耳元で聞こえてくる囁くような彼の声にドキドキと心臓がうるさいくらい早くなる。
だけど、こんな時くらい素直にならなきゃ・・・と思い切って口を開いた。






















「私は・・・"最初"に会った時から気になってたのよ?」






















そう呟いた時、その言葉のニュアンスで何かを感じたのか、オーランドが急に離れ、私の顔を覗き込んできた。
その瞳は驚きと戸惑いの色が見える。






「え・・・? あの・・・店で・・・ってこと?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」







彼の問いに首を振ると、ますます彼の眉間に皺が寄っていく。
それには私もぷっと噴出してしまった。







「もー何で笑うんだよー。どういう事か教えてくれないの?」


「だから・・・あれ」


「え?」







私は笑いを堪えて未だジャレあっている犬たちを指さした。
オーランドは最初、本気で悩んでるように首を傾げつつ、犬二匹を眺めていたが、数分後―
あ!っとした顔で私の顔を見た。
そして、また犬を見る。














「も、もしかして・・・・・・あの時の―!」























その時の彼の顔といったら。





今までで一番、可愛かったわ。































Did you recall it even a little....?




                                         


                                       そう言うと彼は照れくさそうに微笑んだ













































※ブラウザバックでお戻りください。


「次の約束」の続きでごぜぇます(笑)
今回はヒロインサイドから。
実は会ってたんですねー二人・・・まあ最初は考えてなかった、こんな展開ですが、
お題でいいのがあったので、それを使って考えました(ちょー安易ですみません;)
まあ、どこかのロケ先でってイメージで・・・
しかしヒロイン、オーリィの仕事は未だ知らず(笑)テレビとか見ない人なんですね、きっと(ぉうい)


皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…

【C-MOON...管理人:HANAZO】