予報通りさ 結局
フラれる予感はしていたよ
F r a g i l
e B e a u t y
「レオのことなんて好きにならないわ?」
彼女の、その一言で俺の心に火がついた。
その日は朝から風が強かった。
ビョォォォォォ―――
耳元で風の吹く音が響くのが分かるくらい。
撮影もそれで中止になり、俺は親友のトビーに電話して会う約束をこぎつけた。
と言っても別に奴に会いたいからとかではなく・・・・・・
奴の家に同居している"彼女"が目的なんだけど―――
愛車を走らせ、すぐにトビーの家に到着した。
車から降りれば強風に煽られ、髪は凄い勢いで乱れていく。
顔を顰めながら家の中に入ろうと門の中へ入った。
すると庭の方で彼女の声が聞こえた気がして足を止める。
ゆっくりと庭の方へ足を向ければ、確かに彼女の明るい笑い声が聞こえてきた。
彼女―――は最近、俺が一番気になっている子だ。
「やーだ、ダメよ。虎之助! ジャイアン! お座り!」
虎之助・・・? ジャイアン・・・?
ああ・・・あの飼い主と同じくマヌケた顔したマグワイア家の"駄犬"だ。
最初に会った時、俺の顔をベロベロ舐めだし、おかげで顔中が臭くなったっけ。
確か種類は虎之助が、"グレート・ピレニーズ"で、こいつは有名なフランスの犬だ。
体は大きいが毛が真っ白なため、それほど圧迫感はない。
ジャイアンは、その名の通り、"ジャイアント・シュナウザー"と言って確かドイツ生まれの犬だとか。
名前のように大きく、力強く、スリムというよりは、がっしりしている。
こいつは毛が真っ黒で顎鬚のように毛が顎に下がってるので子供の時でも何となくジィさんっぽかったっけ。
まあ確かに可愛いんだけど・・・俺も犬は大好きだし自分でも二匹飼っている。
だが、この家の犬の、その変な名前・・・誰のセンスなんだ?とトビーに聞いた事があった。
がつけたと聞いて慌てて口を閉じたんだけど。
虎之助とは、F1好きな彼女が日本のレーサーの名前からとったんだとかで、ジャイアンは・・・・・・
まあ、犬の名称そのままだろう・・・(深くは追求しない)
確か、これも日本の方の・・・そうコミックか何かで出て来るキャラの名前だとかも言ってた気がするけど。
は日本が大好きのようで日本に詳しいし、よく向こうの小物や服を買って来ている。
あのレトロな感じが凄く好きなんだそうだ。
だから今度の彼女の誕生日には日本のものでもあげようと思っていた。
「ワゥ! ワゥ!」
「うぉっ!」
ボーっとしていたら、いつの間にか目の前に真っ黒なジィさん顔した犬が走って来た。
しかも尻尾をぶんぶん振りつつ、前足を俺の胸に乗せてくる。
「ジャイアン?! 」
そこへ彼女の声がして、俺はジャイアンの頭を撫でながら顔を上げた。
「やあ、。久し振り」
「レオ・・・?」
庭から走って来たは俺を見て驚いた顔。
「どうしたの?」
「撮影が中止になったからトビーと一緒に飲む約束したんだ」
「そう。トビーなら、まだ帰ってないけど」
「じゃあ・・・・・・待たせてもらっても?」
「・・・・・・どうぞ」
は素っ気無く、そう言うとジャイアンを連れて庭に戻って行く。
俺はそのまま彼女の後からついて行った。
すると今度は真っ白な巨大犬がこっちに向って突進してくる。
「ワゥー!!」
「うぁ!」
「と、虎之助! ダメよ!」
が声をかけたが少し遅かった。
気づけば俺は、その場に倒れ、上には虎之助の重い体が乗っかっていたのだった・・・。
「大丈夫?」
「あーうん。何とかね」
庭にある椅子に座りつつ、さっき打ちつけた背中の痛みに顔を顰める。
だが犬たちは悪びれもせず、庭を走り回っていて、それを見てると苦笑するしかない。
「はい、ビール」
「あ、サンキュ」
のくれたビールを受け取り、一口飲むと軽く息をつく。
彼女も同じくビールを飲みながら犬たちが走り回っているのを楽しげに見ていた。
「、今日は休み?」
「ええ。一昨日、イタリアから帰ってきたばかりなの」
「そうなんだ。撮影はどうだった?」
「まあ・・・順調だったかな」
はそう言って椅子に凭れかかると気持ち良さそうに目を瞑った。
さっきまでの強風が今はかなり収まっている。
その風が彼女の奇麗な髪を攫っていって奇麗だなと思った。
は俺の親友、トビーの妹だ。
仕事もやはり俺達と似たような業界、そうモデルという仕事をしている。
トビーの撮影を見学しに行った時にスカウトされたようで、確かにエキゾチックなムードがある彼女は人目を引くタイプだろう。
に最初に会ったのは確か10年くらい前だったろうか。
トビーと俺は共演したキッカケで仲良くなり、その少し後にを紹介された。
だが当時、彼女は十代で、その頃から確かに可愛かったが今みたいに意識をしたりするような事はなかったのだ。
いつからだだろう?
が気になるようになったのは・・・・・・
がモデルになったとトビーから聞かされた時は驚いた。
その頃はこうして家に来る事もなく、外で遊んでいたからには暫く会ってはいなかったし、
どんな女性に成長してるかとかも知らなかった。
だが突然、再会する機会は来るもので・・・。
俺が口説いた子とデートしてたレストランに、これまた男性連れで奇麗な女性が入って来た。
俺は一瞬、分からなかったが、の方が俺に気づいた。
「レオ、久し振り」
そう声をかけられ、本当にドキっとした。
こんな奇麗な子と会った事があったっけ?と首を傾げたくらいだ。
「やだ、分からない? よ」
そう言われた時は本気で唖然とした。
あの少女が、ここまで奇麗に成長するもんなんだと。
久し振りに会った彼女はセンスもよく、スラリとしたスタイルでブランドのドレスを着こなしていた。
そこでモデルになったんだっけ・・・と、トビーの言葉を思い出し、納得したくらいだ。
だが後でトビーに聞けば、はモデルになってからは無断で外泊する事も多くなったと言う。
まあ、モデルなんて仕事をしていれば色々な誘いも来る。
それには奇麗でモテるから、それこそ毎日デートの相手が違うということも多かったようだ。
「、今日はデートじゃないのか?」
ふと思い出し、そう尋ねると、はゆっくりと目を開けて俺を見た。
アーモンド形の大きな瞳に吸い込まれそうになる。
は少し口元を緩めながら、顔にかかる髪を指で避けた。
「今日は疲れてるからいいの。会いたい人もいないし」
「へぇ。ボーイフレンドが聞いたら軽くへこみそうな言葉だな」
苦笑しながら肩を竦めビールを飲み干すと、が椅子から体を起こしクスクス笑い出した。
「そんなのレオだって同じじゃない? ガールフレンド、沢山泣かせてるって噂だけど?」
「俺が? いやいや。には負けるよ」
ちょっと、おどけて、そう言えばは楽しげに笑っている。
だが俺は肩が出るデザインのトップスから伸びている彼女の細い手が、
風で靡く髪を押さえる、その仕草に少し見惚れていた。
ベージュのマニキュアが塗られた奇麗に伸びた爪さえ"女"を感じる。
「何?」
「え?」
「何、じぃっと見てるの?」
彼女はどこか意味深な笑みを浮かべて、そう言った。
こんな瞳で見られれば、その辺の男ならコロっといくだろう。
俺は微笑み返すと彼女から視線を外し、目の前で揺れている木の枝を見上げた。
「、変わったなぁと思ってさ」
「変わった?」
「ああ、だいぶ」
「そうかな。大人になっただけでしょ?」
「そうかもな」
「そうよ。レオと会った時、私はまだ12歳よ? 10年も経てば女は変わるの」
はそう言うと煙草を咥えて火をつけた。
その仕草ですら、さまになっているから嫌になる。
本当に女ってのは怖いよ・・・・・・
「レオは?」
「え、俺?」
「そう。10年前と比べて変わった?」
「さあ・・・どうかな。まあ考え方とかは変わっただろうけど。20歳と30歳じゃな」
「ふーん。まあ・・・10年前はレオって女遊びが激しかったけどね? 今は少しは落ち着いた?」
「まぁ・・・女の怖さも分かって来た事だしね」
「そうそう。女は怖いのよ?」
はそう言いながらクスクス笑っている。
まあ、俺が言いたいのは・・・あの少女が、ここまで変わったって事を言いたかったんだけどさ。
「ワゥワゥ!」
「どうしたの? お腹空いた?」
走って来た犬に笑顔で頬を擦り付けて笑う彼女は、あの頃と何も変わっていないように見えた。
無邪気に笑っていた、あの頃の少女と・・・・・・
「レオ? どうしたの?」
「いや・・・・・・」
俺が黙ってを見てると、彼女は不思議そうに首を傾げている。
「そうしてるとさ。昔の頃の君とダブって見えた」
「昔の私?」
「そう。無邪気に微笑みかけてくれた頃の君だよ」
俺がそう言って肩を竦めると、は少しだけ瞬きをした。
そして犬を離すと俺の方に体を寄せて微笑む。
「でも、もうあの頃みたいな子供じゃないわ?」
「え?」
意味深な彼女の言葉にドキっとした。
だがは更に俺の方に体を寄せると、ゆっくりと手を重ねてくる。
そして指で俺の手をそっとなぞり、その感触にゾクっとした。
「もうレオとだって対等に付き合えるわよ? もちろんベッドの中まで」
「な・・・何言ってんだ?」
余裕の笑みで大胆な事をサラリと言ってのけるに鼓動が早くなっていく。
だが彼女は俺の手をゆっくりと自分の唇に近づけ、かすかに口付けた。
「おい、―――」
「もう子供じゃないもの。昔とは違うのよ、レオ」
「――――?」
どういう意味だ?
本気で言ってるんだろうか?
それとも、からかってるのか・・・・・・
一瞬の沈黙の中、俺は目の前のを探るように見つめた。
だが彼女の本心は見えない。
なら、こっちにも考えがある―――
仕方なく俺は息をついて彼女の手を逆に握り締め、少しだけ自分の方に寄せた。
「じゃあ―――このままベッドに攫ってもいいってわけ?」
そう彼女の耳元で囁けば、少しだけ瞳が開かれた。
そんな彼女を見つめながら俺は構わず言葉を続ける。
「俺はのこと好きだからそうしたいけど・・・・・・はどうなんだよ?」
その言葉には少しだけ体を離した。
駆け引きなんてない。
俺は本心を言った。
そう、俺はあの再会した夜から彼女の事が気になっていた。
他の女に目が行かないくらいに――――
こんなに真剣に告白したのは、いつ以来だろう?
俺は彼女の手を握ったまま、黙って返事を待っていた。
だがは突然、俺の手を振り解き椅子に凭れかかった。
「嫌ね。冗談よ」
「冗談?」
「私は―――」
はそこで言葉を切ると、俺の方に顔を向けた。
「レオのことなんて好きにならないわ?」
そう言って少しだけ笑顔を見せた。
でもこの時、強気な言葉、強気な笑顔と裏腹に何か違和感を感じた。
俺には、その表情が今までに見た事もないくらいに儚げに見えたんだ。
「」
「何?」
「必ず、俺のこと好きにしてみせるよ」
「―――っ?」
そう言って微笑むと、は一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに楽しそうに笑い出した。
その笑顔は最高に奇麗で、だけど壊れそうなほど脆くて、一瞬だけ・・・そう、ほんの少し彼女を抱きしめたくなった。
だがはすぐに普段の顔に戻ってしまった。
「親友の妹にまで手を出すの?」
「今まで我慢してたんだけどね。が誘惑するからさ」
「誘惑したわけじゃ―――」
「それでも? 俺らしく口説くから楽しみにしてて」
そう言って彼女の頬に軽くキスを落とすと、一瞬だけの頬に赤みがさした気がした。
だが、すっかり日が落ちてオレンジ色に染まりつつある景色と重なり、よく見えない。
「レオってば全然、変わってない」
「そう?」
澄ました顔で肩を竦めれば、は呆れたように息をつき、それでもまたクスクス笑い出した。
そして吸いかけの煙草に手を伸ばしている。
そんな彼女を見ながら俺は親友が帰って来るまで、もう一本ビールを飲むことにした。
まあ・・・・・・笑っていられるのも今のうちってね。
まずは・・・親友が戻ったら、この事を報告でもしてみるか。
※ブラウザバックでお戻りください。
うわーん(何)アンケート処にあったものを書こうとしたら違う方向に~っ
「レオが親友の妹に恋をする」&「レオよりプレーガール」というのを
足したのを書こうとしたんですけどねーガクーッ..._| ̄|○
何気にプレーガールって難しいですよ^^;
しかもトビー出番なし!(ゴーン)
でも頑張って、これでもう一作だけ書いてみます・・・グスン。
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