Celebrity.....~Love
only of ten days~
"このまま・・・をアメリカまで攫って行きたい・・・"
レオの寂しげな声が頭に響く。
あの時、電話が鳴らなかったら・・・私はレオとキスをしてたのかな・・・
レオからのサプライズでジョイポリスで遊んでいた時・・・ロスにいる彼から電話がきた。
その前に・・・レオからキスをされそうな雰囲気になって色々な意味で動揺してた私はコリーの話をろくに聞けなかった。
ただ覚えてるのは・・・あの時電話に出た女とは何でもないと彼が言い訳してたこと。
でもレオの前では話す気になれず、言葉を濁しているとコリーが「明日、起きたら電話して。家にいるから」と言ってきた―
The ninth day.... Dream...
11月8日、日本に帰国して9日目。
こんなに眠れなかったのは初めてだった。
「はぁ・・・」
暫く携帯と睨めっこをしつつ、私は溜息をついた。
今頃ロスは夕方か・・・
コリーはちゃんと言った通り家にいるだろうか。
夕べ電話をもらった時、レオが傍にいたから何も話すことが出来なかった。
あんなサプライズは初めてで・・・ジョイポリスを貸切りなんて夢みたいな事が現実に私の身に起きたなんて・・・
驚いたけど凄く嬉しくて・・・
あのままだったら・・・間違いなくあの雰囲気に流されてレオとキスをしてたかもしれない・・・
でも―
コリーとの電話を切った後、レオは普段通りの笑顔で私に接してきた。
コリーとの事も聞かず、私と全機種のプリクラを撮ったり、乗り物に乗ったりして楽しそうに過ごしていた。
まるでさっきのは夢だったのかと思えるほど、彼はその後、私に何もしようとはしなかった。
繋いでいた手も離され、それが少しだけレオの気持ちを表してるようで辛かったのだけど・・・
あのまま朝方まで遊んでホテルに帰ってきた。
寝る前、レオは「おやすみ。また明日ね」と微笑み、そのまま自分の部屋へと戻って行った。
結局最後まで何も聞いてはこなかった。
だから・・・私も何も言えなかった・・・
私は部屋に戻ると疲れていた体をベッドに投げ出し眠ろうとしたが、やはり色々なことを考えて眠れず今にいたる。
ただ分かるのは・・・このまま流されてレオを選んじゃいけないってこと・・・
どっちにしろ・・・まずはコリーと話し合わなければ・・・
"起きたら電話して。家にいるから"
コリーはいつになく真剣な声でそう言っていた。
(まあ、まだ朝方だけど・・・どうせ眠れないしもう電話してみようか・・・)
ベッドから起き上がり私は携帯を開くとロスの家の番号を出した。
そして軽く深呼吸をしてから通話ボタンを押す。
プルル・・・という呼び出し音が鳴り、私は少しドキドキしながらギュっと携帯を握り締めた。
すると少しして、その音が途切れ相手が出る。
『Hello...?』
少し擦れたコリーの声が聞こえて私は小さく息を漏らした。
「・・・コリー?」
『・・・あ・・・・・・?』
「うん・・・あの・・・さっきはごめん・・・。ちょっと出先だったの・・・」
『・・・そっか・・・。でも・・・こんな早くかけ直してくるなんて思わなかったよ』
「・・・え?」
『時間・・・。まだそっちは朝だろ?』
「あ・・・うん・・・」
『にしちゃ珍しいじゃん。休みの日に早起きするなんて』
コリーはそう言って少し笑っているようだった。
確かに私は休みの日は午後まで寝てることが多い。
コリーは休みの日には逆に早起きで、いつも寝坊の私にブツブツ文句を言ってくる。
「えっと・・・ちょっとね・・・寝てなくて・・・」
曖昧にそう呟く。
『え・・・?寝てないのか・・・?』
「うん、まあ・・・」
私がそう言うとコリーは少し黙ってしまった。
だが小さく息を吐き出すと、
『俺の・・・せいか?』
「・・・え?」
『気にしてるんだろ・・・?あの・・・電話のこと』
「・・・あ・・・」
私の言葉にコリーは勘違いしたようだ。
確かに・・・その事を考えなかったわけじゃない。
でも・・・半分はレオとのこと・・・今後のことを考えていたから。
私は何て言っていいのか分からず黙っているとコリーが小さく呟いた。
『・・・ごめん。彼女とは・・・ほんと何でもないんだ・・・』
そうだ・・・その事も話さなければいけない。
私はコリーの言葉に軽く息をつくとベッドに寝転がった。
「何でもないなら・・・どうして電話に出るの?それにあの人、コリーは出かけてるって言ってた・・・」
『彼女から聞いたよ・・・。でもあの日は大学の仲間が家に飲みにきただけなんだよ・・・』
「大学の・・・?誰?私が知ってる人・・・?」
『ああ。デイヴとレイフだよ・・・知ってるだろ?』
「・・・・・・」
その名前は確かに知ってる名前だった。
大学も一緒でコリーの友達だ。
でも・・・・・
「じゃあ・・・あの女の人は・・・?」
『・・・レイフの彼女で・・・ジェンって子』
「嘘・・・レイフは彼女と別れたって―」
『だから・・・その彼女とヨリを戻したんだ・・・。だからあの日は久々に皆で飲もうって事になってうちに来た』
「じゃ、じゃあ・・・どうしてコリーが電話に出なかったの?彼女、コリーはいないって・・・」
『そん時、酒が切れて俺はデイヴと買出しに行ってたんだよ・・・。で・・・ジェンが酔っ払って電話に出ちゃったみたいでさ・・・』
「・・・嘘・・・」
その話を聞いて私は体を起こした。
だがコリーは真剣な声で、
『ほんとだよ・・・ただジェンもレイフもベロベロで電話があった事を後で思い出したらしくてさ。俺も一昨日に聞いたんだ』
「・・・え」
『で・・・多分だろうと思ってすぐ電話したけど繋がらないからさ。誤解して怒ってるのかと思って・・・』
そうだ・・・確かに一昨日の夜、コリーからの着信があった。
「じゃ・・・じゃあ何で何回もかけてこないの?私だってかけ直したらいつもいないか話中だった・・・」
『ごめん・・・誘われて結構飲みに連れてかれたりしたんだ・・・。休み中だし断りづらくって』
コリーは本当に申し訳なさそうな声でそう言った。
浮気じゃなかった・・・という事実に少しホっとしたけど、でもじゃあ・・・私はどうしたら―
『なあ・・・・・・』
「・・・なぁに?」
小さく息をつくと再びベッドに寝転がる。
『ちゃんと・・・戻って来るだろ・・・?』
「・・・え?」
こんなに優しい声のコリーなんて久しぶりだ。
「な、何よ、いきなり・・・」
少し戸惑って私は携帯を右から左に持ち返る。
行く前にはあんな態度だったくせに急にどうしたの?と思いながら彼の言葉を待っているとコリーは小さく笑った。
『いや・・・何となく・・・不安になってさ』
「何が・・・?」
『だから・・・俺はさ・・・今回、お前が日本に帰るって言った時・・・ただ長い休みに入ったから帰省するだけかと思ったんだ』
「・・・そ、そうよ・・・?」
『でも一人になって考えてみたら・・・。一緒に住み始めてお前が日本に帰るって言い出したのって今回初めてだしさ・・・』
「・・・・・・」
(やっと・・・気づいてくれた?)
『ほら、お前いつも休みが入ったって日本に帰りたくないって言ってただろ?』
「・・・ぅん」
『なのに今回はすんなり帰ったしさ・・・・もしかしたらここには帰ってくる気がないのかなって・・・』
コリーはそう言って小さく息をついた。
その様子が今の言葉が本心からのものだと言ってるようで胸がかすかに痛む。
『ごめん・・・俺さ、凄く安心しきって・・・のこと大切にしてなかったよな・・・』
「コリー・・・」
『この前・・・レイフとかにも言われたんだ。"お前最近ちゃんをほったらかしてばかりだな"って』
「・・・・・・」
『そう言われた時・・・ハっとしてさ。確かに俺は・・・が傍にいるのが当たり前になり過ぎてて・・・甘えてたんだよな』
コリーはそう言うと再び、『ごめんな・・・?』と呟いた。
その一言で私の中にあった燻った気持ちが綺麗に浄化されていく。
彼の口からこの言葉が聞きたかったのだ。
「私も・・・ごめんなさい・・・。連絡もしないで・・・」
『いや・・・行く前、はかなり怒ってたしさ・・・。まあ・・・怒らせたのは俺なんだけど』
「それも・・・そうね」
そう言って笑うとコリーも苦笑しているようだった。
『なあ・・・いつ戻ってくる・・・?』
「え・・・?」
『ほら・・・俺、そういう予定とかも聞かないままだったしさ』
そう言えば・・・と思い出す。
確かに前日あんなケンカをしたし、私も次の日は何も言わず、予定すら言わずに家を出てきてしまっていた。
「えっと・・・予定では・・・あと一週間くらいなんだけど・・・」
とりあえず最初の予定を言った。
コリーは軽く溜息をつくと、『そっか・・・じゃあ来週15日以降・・・ってこと?』と少し寂しげに呟く。
私は、「うん・・・」と返事をしながら、ふとレオの事を思い出した。
"俺と一緒にロスに帰ろう"
レオは私なんかにそう言ってくれた。
でもこうしてコリーと話していると、まるであの事が夢のように思えてくる。
彼は・・・やっぱり別の世界の人なのかな、と少し寂しく感じた。
『・・・?』
「・・・え?」
黙っていると不意に名前を呼ばれ、ハっとした。
『待ってるからさ・・・。早く戻って来いよ』
「・・・コリー・・・」
『会って・・・もう一度ちゃんと話そう?』
「・・・ぅん・・・」
彼の言葉に思わず頷いてしまった。
そう・・・もう一度コリーと会って・・・今までの気持ちとかを伝えないといけない。
このまま・・・うやむやにしたまま答えを出しちゃいけない気がする。
少なくとも・・・ロスに行ってからずっと傍にいてくれたのはコリーだけだから・・・
「じゃあ・・・帰る時にまた電話するね」
『ああ。待ってる・・・。久々に親に甘えて来いよ』
「やだ・・・この年で親になんて甘えないわ?」
私が苦笑しながらそう言うとコリーはちょっと笑っていた。
「じゃあちゃんと寝れよ?」
コリーの言葉に私も素直に頷いて、そこで電話を切った。
そのまま私は溜息をついてベッドに腰をかける。
「浮気じゃ・・・なかったんだ・・・」
そんな言葉がつい零れた。
しかもコリーは私が帰って来ないんじゃないかと心配して電話をくれた。
最近の彼からしたら考えられない。
二人であんな風に穏やかに話したのは久しぶりだ。
「はぁ・・・」
再び溜息が零れて私は携帯をベッド脇のミニテーブルに置いた。
どうしよう・・・
私は・・・どうしたらいいの?
今の私にはハッキリ言ってどうしたらいいのか分からなかった。
コリーへの気持ち・・・レオへの気持ち・・・それが重なって重く私に圧し掛かってくる。
もし・・・本当にコリーが浮気をしていたなら・・・きっと別れる決心がついたのかもしれない。
でもそれが誤解だったと分かった今・・・もう一度コリーと会ってきちんと話した方がいいと思った。
それでも・・・やっぱりレオのことも気になるのだけど・・・
不意に欠伸が出て私はベッドに横になった。
コリーとちゃんと話す事が出来て安心したのか、急に睡魔が襲ってくる。
時計を見ると朝7時になるところ。
少し眠らないと・・・と思ってゆっくり目を閉じる。
レオと一緒にいられるのは今日一日と明日の夜まで・・・・
その間に・・・答えは出るんだろうか・・・
私には分からなかった。
「はぁ・・・」
ゴロリと寝返りを打って俺は溜息をついた。
先ほど帰ってきてからどうしても眠れないまま朝を迎えたのだ。
俺は小さく欠伸をしつつ時計を見た。
すでに朝の7時。
本当ならもう起きてどこかへ出かけたい気分だった。
だが体が動かないのは不安でいっぱいだから。
(は・・・恋人と話をしたんだろうか・・・?)
そんな事ばかりが頭に浮かぶ。
さっきの電話ではそんな感じだった。
後で・・・と言っていたのをみると、きっとは部屋に戻ってから恋人に電話をしてるだろう。
そこで何を話したのか・・・
(その男も・・・今頃電話してきて・・・に言い訳でもしようっていうのか・・・?)
昨日・・・あの電話がかかった時、俺は一気に不安になった。
一瞬、が俺を見てくれた気がしたのに・・・恋人からの電話で現実に引き戻されたのだ。
あの後、俺は彼女に触れることすら出来なくなって・・・動揺を見抜かれないよう明るく振舞うだけで精一杯だった。
も何となく気まずそうな顔をしていたが何も言っては来なかった。
俺も・・・何も聞けなかった・・・
・・・俺が日本にいられるタイムリミットは明日の夜まで。
今日は予定に前から入れていた空手の道場へ見学に行く事になっている。
それもを誘っていこうと思っていた。
彼女は・・・どんな答えを出すんだろう・・・
もし・・・恋人を取るなら・・・俺はに二度と会えない。
明日・・・この東京でさよならを言うしかないんだ。
それが怖いとすら思った。
あんな子は初めてで・・・今の俺にとっては凄く新鮮だった。
一緒に過ごしたのは確かに普通よりも短い時間だったかもしれない。
でも素直な彼女はその短い時間に俺に色々な素顔を見せてくれた。
本当の自分をさらけ出してくれて、だから俺の中にすんなりと彼女が入ってきたんだ。
もし・・・ここで彼女を失ったら・・・この先あんな子にはもう会えないかもしれない・・・とさえ思う。
だから・・・怖いんだ・・・
に・・・二度と会えなくなると思うと―
「はぁ・・・」
溜息しか出ない。
再び寝返りを打って布団をかぶる。
少しは眠らないと後で辛い。
俺は不安な気持ちに押しつぶされそうになるのを堪えながらギュっと目を瞑った。
「・・・え、海・・・?」
「うん。今から行かない?」
レオはそう言ってニッコリ微笑んだ。
やはり疲れていたから、あのままグッスリと眠り込んでしまった。
午後に目が覚めると見計らったかのようにレオから電話が入り、今はジェームズ達と少し遅めのランチをとっているところだ。
「でも・・・空手の道場に見学に行くんじゃ―」
「だからその前にね。まだ時間あるし車借りて行こうよ。急に海が見たくなってさ」
レオはそう言いながら食後のコーヒーを飲んでいる。
私は軽く息をつくと、「分かった・・・。じゃあ・・・この前行った海でいい?」と尋ねた。
「もちろん!じゃ、車借りてくるよ」
「え・・・ちょっとレオ・・・」
レオはコーヒーを飲み干したかと思うとパっと席を立ってレストランを出て行ってしまった。
その後を慌ててボディガードのザンが追いかけて行く。
私は少しだけ浮かした腰をもう一度下ろすと軽く息をついた。
「もう・・・ほんと早いんだから」
そう呟くと今まで静かに紅茶を飲んでいたジェームズが優しい笑みを見せる。
「レオは・・・少しでも君との時間を大切にしたいんだよ」
「・・・え?」
「いや・・・彼の気持ちは・・・知ってるんだ。ロスに一緒に帰りたいという事も聞いた」
「・・・・・・」
ジェームズはそう言うとニッコリ微笑んだ。
その言葉に少し頬が赤くなって俯くとジェームズは静かにカップを置いた。
「・・・」
「・・・はい」
「は・・・迷ってるのかな」
「・・・・・・」
私が黙ったまま俯くとジェームズは軽く息を吐き出しテーブルに肘をついた。
「・・・レオは・・・本気だよ」
「・・・え?」
「前にも言ったと思うが・・・私が知っている中でもと一緒にいる時のレオが一番楽しそうだ」
「・・・ジェームズ・・・」
彼の言葉に顔を上げるとジェームズは優しい瞳で私を見ていた。
「この仕事は華やかに見える分、裏では色々なしがらみもついてくる。レオの年齢ではキツイ事だ。
だからこそ・・・素顔を見せられる人が傍に必要になる。それも・・・本当の自分を見てくれる人がね」
ジェームズはそう言って椅子に凭れかかった。
「レオにはが必要なんだと思う。だから・・・迷うかもしれないが・・・きちんと考えて答えを出してやってほしい」
「・・・はい・・・」
ジェームズの優しい言葉に私は小さく頷いた。
彼の優しさが胸を痛くさせる。
そこへレオが戻ってきた。
「借りてきたよ、」
「あ・・・うん」
慌てて立ち上がると私はジェームズの方へ振り向いた。
「あ、あの・・・じゃあ・・・行って来ます・・・」
「ああ。楽しんでおいで」
相変わらず優しい笑みを浮かべて、ジェームズは私とレオに軽く手を上げた。
レオも「じゃあ後でね」と言ってジェームズに微笑むと、私を促しレストランを出る。
そのまま駐車場へ行くと、前に借りたのと同じ車が止まっていた。
「またこれにしたんだ。運転しやすいだろ?」
「う、うん・・・」
何だか急に二人きりになると意識してしまって私は急いで車に乗り込んだ。
レオはそのまま助手席に乗り込む。
私はどんな顔でレオと向き合えばいいのか分からず、すぐにエンジンをかけた。
するとレオが不意に私の方を見て、
「あの・・・さ」
「・・・え?」
ドキっとしてアクセルを踏みそうになった足を避ける。
チラっとレオの方を見ると彼は何となく気まずそうな顔のまま微笑んだ。
「急にごめん。また・・・と海が見たくなってさ」
「あ・・・うん・・・」
「もう・・・今日と明日だけだし・・・」
「うん・・・」
その言葉にキュっと胸が痛む。
そして何か言おうと口を開きかけた。
だがレオは持ってきたCDをかけて、「じゃ行こうか」とちょっと笑った。
私もそれに頷いてアクセルをふみ、車を駐車場から出す。
外は青い空が広がっていて気持ちのいい天気だ。
少しだけ窓を開けると冷たい風が車内に吹き込んできた。
カーステレオからはセリーヌディオンのアルバムが静かに流れてくる。
私は混雑している道路をゆっくり走らせながら、さっきジェームズに言われた言葉を思い出していた。
"素顔を見せられる人が傍に必要になる。それも・・・本当の自分を見てくれる人がね"
レオは・・・ずっと虚勢を張って生きてきた。
自分の周りの変化に驚きながら・・・それでも必死に流されないように・・・
だからこそ自分を保つために素顔の自分を殺してきた。
それでも・・・私の前じゃ本当の自分を見せてくれてたレオ・・・
本当は明るくて優しくて、でもちょっとだけ意地悪な彼・・・
最初は何て失礼な奴とか思ってたはずなのに・・・いつの間にかレオと一緒にいると楽しいと思ってる自分に気づいた。
俳優としてのレオじゃなく・・・普段の彼に惹かれてる自分が確かにいる。
その気持ちが・・・彼への答えなんだろうか。
でも・・・たった10日間一緒にいただけで彼の全てを理解出来るのかな・・・
ふと横を見るとレオは窓から顔を出して気持ちよさそうに風を受け止めている。
流れてくる曲を小さくハミングしながら、それでも少し寂しそうな横顔・・・
その時、私の視線に気づいたレオがふと顔を向けた。
「ん?どうした?」
「え?あ・・・ううん・・・。寒くない?」
「いや・・・あ、寒かった?」
「私は平気。いいよ、窓開けておいて」
視線を逸らしながらそう言うとレオはちょっと微笑んで再び窓から顔を出した。
そして目を瞑ると、「このまま寝ちゃいそう・・・」と呟く。
「いいよ。寝てて・・・ついたら起こすから」
「ん~大丈夫。寝ないよ」
「・・・でも―」
「と一緒にいるのに寝るなんてもったいないだろ?」
レオはそう言って笑うと煙草に火をつけて煙を外に吹いている。
彼の言葉にドキっとしつつ、そのまま黙って運転に集中した。
切ないくらいにレオの想いが伝わってくる。
それが少し胸を痛くさせた。
「うわ・・・綺麗な夕日・・・」
海について二人で砂浜へ向かうと水平線の向こうにオレンジ色の太陽が沈んでいく。
それを見てレオは眩しそうに目を細めた。
この前同様、この時期に人はまばらで、少し外れの砂浜には人気がない。
静かな中、波の打ち寄せる音だけが聞こえて、潮の香りが心を癒してくれた。
「う~ん・・・。やっぱ海はいいな・・・」
「レオ、ほんと海が好きなのね」
「まぁね。ロスでも時間が出来たらマリブの方までよくドライヴするよ」
「へぇ、そうなんだ。私も時々マリブに行ってたわ?」
「ほんと?じゃあ今度一緒に行く?」
不意に立ち止まり、レオが私の顔を覗き込んできた。
急に彼の綺麗な瞳が視界に飛び込んできてドキっとする。
「あ、でも・・・ロスなんて誰かに見られたらそれこそ騒ぎになるじゃない・・・」
「大丈夫だよ。夜中に行くからさ。俺、夜の海が大好きなんだよな」
レオはそう言って両腕を伸ばすと空を見上げている。
私はレオの言葉に、"ロスでも会いたい"というニュアンスがある気がして胸が苦しくなってきた。
少し俯いて彼の後をゆっくり歩いて行くと、不意にレオが振り返った。
「なぁ、」
「・・・え?」
ドキっとして顔を上げるとレオの優しい瞳と目が合う。
彼は私の方に歩いて来ると、そっと頭に手を乗せた。
それだけでも胸がドキドキ鳴り出して、何を言われるのかとキュっと手を握り締める。
するとレオは私の頭をクシャっと撫でて、
「さ。格闘技とか好き?」
「・・・は?」
思ってもみない言葉に私は目が点になった。
するとレオはちょっと笑いながら、
「実はさ・・・明日はK-1の試合を見に行く予定だったんだ」
「・・・け・・・K-1?」
「そ。俺、K-1大好きで・・・日本で試合があるっていうし前もって予定に入れてあるんだけど・・・」
「だ、だって明日には帰るんじゃ―」
「だから帰る前だよ。最終便で帰るしね。で・・・も嫌いじゃないなら一緒にどうかなって思ってさ」
レオはそう言って煙草を咥えると私の顔を伺ってくる。
私はと言えば、何だか身構えた自分が恥ずかしくてプイっと顔を逸らした。
「別に・・・嫌いじゃないけど」
「そう?じゃあ一緒に行こう」
素っ気無い私の言葉にもレオは嬉しそうな声を出す。
だからか私もつい頷いてしまっていた。
レオは再び歩き出し、私もそれについていく。
前を歩くレオの背中を見ていると、これは現実なのか、とふと思った。
ハリウッドスターの彼とこうして日本で出逢って告白までされた。
何の取り柄もない一般人の私にしたら凄いことだ。
でも今は日本だから・・・そんな非現実的な事でも受け入れられてる気がする。
ここは彼の生きてる場所じゃないから・・・その凄さがよく分からない。
でもきっと・・・ロスに帰れば・・・私はレオとの世界の違いをまざまざと見せ付けられるだろう。
日本でもあんなに人気があるのだ。
アメリカだとそれ以上だろう。
そんな彼の傍に・・・いられるんだろうか・・・
最初は良くても・・・だんだんそれが辛くなってくるんじゃないかな・・・
何故だか、ふとそう思った。
コリーといれば・・・前の生活が戻ってくる。
退屈だけど・・・それでも安定した日々・・・
ケンカして・・・仲直りして・・・それを繰り返しながら互いの道を一緒に歩んでいく。
このまま行けば・・・いつか結婚だってするかもしれない。
前の私は・・・それを望んでいたはずだ。
腹が立つこともあるけど・・・大事な時にはちゃんと私のことを考えてくれる・・・
今日の電話でそれが良く分かった。
それは・・・寂しかった心を埋めてくれたのだ。
なのに・・・未だ迷っているのは・・・どうして―?
「」
「・・・っ?」
ボーっとしているとレオが突然、私の名前を呼んだ。
ハっと顔を上げるとレオは笑顔で手招きしている。
「何、ボーっとしてんだよ。こっち来て。可愛い野良猫がいる」
「え・・・どこに?」
そう言われてレオの方に走っていくと駐車場代わりになっているスペースに小さな子猫が3匹戯れているのが見えた。
「うわ、可愛い」
「だろ?まだ生まれたばかりって感じだな」
レオはその場にしゃがむと目を細めてその子猫たちを眺めている。
あまり近づくと子猫が逃げてしまうかもしれないと、私も彼の隣にしゃがんだ。
「あー親子じゃない?後ろに親猫が二匹いる」
「あ、ほんとだ。すげー。五匹家族だな」
「ぷ・・・何よ、それ」
レオの言葉に噴出すと彼もクスクス笑っている。
「俺さ、動物大好きだからロスでも犬飼ってるんだ」
「嘘。私も大好きよ?実家はあんな仕事だしペットは飼えなかったけど・・・結婚したら犬と猫を飼いたいなぁ」
何となくそう呟くとレオが私の顔を覗き込んできた。
「じゃあ・・・。一緒に飼う?」
「・・・え?」
「俺と結婚したら・・・犬も猫もいーっぱい飼ってあげるよ。動物王国でも作ろうか」
「な・・・何言ってんの・・・?そんなこと―」
レオの言葉にドキっとして私は慌てて立ち上がった。
それに驚いたのか子猫たちは一斉に車の下に隠れてしまう。
「あー行っちゃった・・・」
レオはそれを見て苦笑するとゆっくり立ち上がる。
そして苦笑気味に私の方を見た。
「何でそんな驚くんだよ」
「だ、だってレオが変なこと言うから―」
「変な事じゃないよ。俺の本心」
「・・・は?何言ってるの・・・?」
「何って・・・。俺はとずっと一緒にいたい。そう言ったろ?」
「だ、だからって結婚なんて・・・」
私がそう言いかけるとレオは小さく溜息をついた。
「いいかげんな気持ちで一緒にロスに帰ろうって言ってるわけじゃないからさ。その辺の事は考えてるつもり」
レオはそう言うと一人でスタスタと車の方に歩いて行ってしまった。
私は怒らせたのかと思って慌てて彼を追いかける。
「ちょ・・・待ってよ、レオ・・・!」
砂に足をとられながらも必死に追いかけ、レオの服を掴む。
そこでレオはやっと足を止めてくれた。
ホっと息をつくとレオはゆっくりと私の方に振り返り、ちょっとだけ笑みを浮かべる。
「ごめん、怒ってないよ?」
「・・・でも・・・」
「ただ・・・ちょっと・・・悲しくなっただけ」
「レオ・・・」
「まあ・・・結婚って飛躍しすぎだよな。ごめん、忘れて」
レオはそう言うと服を掴んでいた私の手を離し、再び車に向かって歩き出した。
今度は追いかける事も出来ず、私もゆっくり後をついていく。
離された腕が妙に寂しくて・・・何だか胸が痛くて・・・でも彼に何も言う事が出来ず、私は泣きたくなった。
レオも私の事をちゃんと考えてくれてる・・・
それが痛いほど伝わる。
でも・・・色々な不安が私を飲み込んでいくから素直になれない。
自分の気持ちも曖昧で・・・だからこそ不安になる。
レオを選んでもいいのか、と―
「ヤバ・・・間に合わないかな・・・」
俺は腕時計を見てそう呟いた。
するとが心配そうに俺の方を見る。
「電話してみたら・・・?この分じゃ・・・帰るまでに後一時間はかかるかも・・・」
「・・・そんな感じだな・・・。じゃあ・・・ジェームズに電話してみるよ」
俺は軽く息をつくとポケットから携帯を取り出した。
海からの帰り道、俺たちは渋滞に巻き込まれて動けなくなった。
この後に予定していた空手道場の見学の時間に間に合いそうにない。
俺はジェームズに電話をして事情を話し、その道場へお詫びの電話を頼んだ。
『それはかまわんが・・・大丈夫か?』
「うん。ただ車が動かないってだけ。ああ、それとさ・・・俺、後で色紙にサイン書くし道場に送ってもらいたいんだけど」
『そうだな、それがいい。じゃあ住所とか聞いておくよ。とにかく気をつけて。にも伝えておいてくれ』
「OK。あ、それとさ。俺たちは遅くなるしジェームズたちは先に食事に行ってよ。俺たちは別に行くからさ」
『ああ、分かったよ。じゃあ後でな?』
「ああ。バイ」
そこで電話を切ると軽く息をついた。
さっきより少し動いたものの、目の前にはズラリと色々な車が並んでいる。
「まさか渋滞とはね・・・」
「ごめんね・・・。この時間帯、混むって知らなくて・・・調べておけば良かったね」
「何でが誤るんだよ。俺が海に行こうって言ったんだし気にするなって」
そう言って軽く彼女の頭を撫でると、もやっと笑顔を見せてくれる。
その笑顔は今では俺をホっとさせるに十分だった。
でも・・・何となくが俺から距離を置いてる気がして寂しかった。
さっきだって"ありえない"と言わんばかりに結婚を否定され、少しショックだったのだ。
別に本気であの時プロポーズをしたわけじゃない。
ただとならこうしてずっと一緒にいたいと自然にそう思ったから、あんな言葉が口から出ただけだ。
でもは困ったような顔をした。
俺との結婚はありえない・・・そんな風に言っているように見えた。
・・・なら一緒に帰ってくれる可能性もないのかもな・・・
チラっとの方を見ながらそんな事を考えた。
恋人と・・・どんな話をしたんだろう。
さっきからそればかりが気になる。
そんなことを考えながら前の車のテールランプを見つめていた。
少しづつ車が進んでいくものの、すぐにまた止まるの繰り返しでも溜息をついている。
その横顔が少し疲れてるようで俺は心配になり声をかけた。
「大丈夫・・・?疲れたんじゃない?」
「・・・ううん、平気。・・・居眠りはしないから安心してて」
「そんな事は心配してないけど・・・キツイなら運転変わろうか?」
「だ、大丈夫だったら。それにレオ、こっちの免許ないでしょ?ダメよ」
はクスクス笑いながら首を振っている。
まあ確かに危ないけど・・・こんな渋滞なら俺が運転したってバレなさそうだ。
なんて思っていると、がふと俺を見た。
「でも・・・何か話してもらってもいい?」
「え・・・?」
「今日ちょっと寝不足で・・・静かだと寝ちゃいそうだし」
小さく舌を出して笑う彼女に俺も思わず笑顔になった。
「いいよ?じゃあ・・・何話そうか」
「何でもいいよ?あ、でもエッチな事はダメ」
「え~何だよ、それ。のスリーサイズ聞こうと思ったのに」
「・・・そ、そんなの聞かれても答えないものっ」
俺がからかうとは案の定、口を尖らせている。
それを見て噴出しそうになるのを堪えた。
寝不足か・・・もしかしたら・・・も色々と考えてくれてたのかな・・・
それとも・・・すでに答えは出てるんだろうか・・・
そう思うとツキンと胸が痛み、俺は顔を顰めた。
「・・・レオ・・・?」
急に黙った俺には首を傾げている。
それを見て俺は軽く息をつくと、やっぱり気になっていた事を聞こうと口を開いた。
「あのさ・・・このままじゃ・・・気になって今日も眠れないと困るし・・・聞いていいかな」
「・・・え?何・・・?」
「いや・・・さ・・・。昨日・・・彼に電話した・・・?」
「・・・・・・っ」
思い切って聞くとはハっとした顔で俺を見た。
「ごめん・・・ほんとは・・・聞かないでおこうって思ってたんだけど・・・気になってさ」
「・・・レオ・・・」
「彼・・・あの電話の件でかけてきたんじゃないの?」
の顔を覗き込むようにそう尋ねると、彼女は小さく頷いた。
「あ、で、でもね・・・浮気じゃなかったの・・・」
「・・・え?」
「友達を家に呼んで一緒に飲んでたみたいで・・・電話に出た人はその友達の彼女だった」
「・・・ほんとに?」
「ええ・・・彼も普段と違って真剣に説明してくれたから・・・嘘じゃないと思う・・・」
「・・・そっか・・・」
俺はそう呟くと小さく息をついてシートに凭れかかった。
やはり想像してた通りの話で、これで彼女に迷いはなくなったかもしれないと思った。
「じゃあ・・・彼のところへ帰るってこと・・・?」
「・・・それは・・・」
「彼が浮気してたんじゃないなら・・・もう気にすることもないだろ?」
「レオ・・・」
つい強い口調でそう言ってしまった。
は少し眉を下げると悲しそうな顔で俯いてしまう。
そんな彼女を見て胸が痛んだが俺は軽く息をつくとジャケットの内ポケットから一枚の封筒を取り出しへと渡す。
「これ・・・明日のロス行きのチケット・・・」
「―――ッ?!」
は驚いた顔で俺を見てから、その封筒を見つめゆっくりと受け取った。
その手をそっと握ると俺は軽く息を吸い込んでから、もう一度を見つめる。
「明日は・・・夜の最終便で日本を経つんだ。それはそのチケット」
「レオ・・・」
「こっちに戻って・・・すぐに手配してもらったんだ」
「・・・・・・」
「ほんとは・・・に返事を聞いてから渡そうと思ってたんだけど・・・。今、渡しておく」
そこで言葉を切るとがゆっくりと顔を上げた。
「俺の気持ちは変わらない。あの日、言った事が全てだよ・・・」
真剣な顔でそう言うとの瞳がかすかに揺れた。
そして僅かに目を伏せるとキュっと唇を噛み締める。
「・・・明日・・・K-1の試合を見た後・・・すぐに空港に向かう。その時・・・返事を聞かせて欲しい」
「レオ・・・」
「もしダメなら・・・そのチケットは・・・がロスに帰る時に使って。ファーストクラスだし快適に帰れるから」
そう言ってちょっと笑うとはへニャっと眉を下げて微笑んだ。
その顔が可愛くて俺は苦笑すると彼女の頭をクシャっと撫でる。
「ほら、前の車が少し進んだよ」
「あ・・・」
前を指差すとは慌てて車を少しだけ前に進める。
だがやはりそれ以上は進まず、二人で顔を見合わせた。
「この分じゃ・・・帰るのは夜になっちゃうな・・・」
「・・・お腹空いたね」
「ほんと・・・。こんな事になるなら何か買っておけば良かった」
俺がそう言うとも笑顔で頷き、その横顔にふと笑顔になる。
・・・俺にとって・・・渋滞でも何でも・・・と一緒にいれる時間が今は幸せだった―
Please wait a little.
久々に更新しました(;´▽`A``
再開してからの第一弾はレオ夢ですた。
何だか気づけば残りの日数が~って感じですが(苦笑)
この日、レオはほんとに空手の道場へ見学に行く予定だったのに
急に「海が見たい」と言って友達と海へ行った帰り、実際に渋滞に巻き込まれてしまったそうな。
で、道場の方へはお詫びとしてサイン色紙を送ったそうです(* ̄▽ ̄*)
日ごろの感謝を込めて…
C-MOON管理人HANAZO
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