THE BOURNE SUPREMACY
彼女は優しい光を持っていた。
俺にはない光・・・
それがただ・・・・・・眩しかった。
恋人を亡くした時、もうダメだと思った。
自分が何故、追われ、そしていつまでこんな事が続くのかと・・・絶望が俺を襲ってきた。
この世に一人残され、戦うしか術はなくて・・・・・・
彼女を殺した人間を消してしまえば・・・・・・少しは救われるのかと思った。
でも、それは何の意味も持たず、まして彼女の悲しむ事は出来なくて。
結局・・・・・・殺さずに俺は相手の前から消えた。
後で、そいつは自殺したと風の噂で聞いたのだったか。
もう忘れてしまった。
今となれば、もうどうでもいいんだ。
また一人に戻ったという現実だけは・・・・・・心が空っぽになった俺でも分かっていた。
これから、どこに行こう。
どこへ行けば・・・・・・
例えば世界の果てまで行ったとしても、もう二度と彼女の笑顔には会えないだろう。
ひたすら歩いて・・・・・・どこに行くでもなく、ただ歩いた。
気づけば体はすっかり冷え切っていて、つい車のライトが見えて手を上げてしまったのだ。
運転していたのは若い女だった。
警戒したように訝しげな顔で俺を見た彼女は、それでも車を止めてくれた。
車の中はとても暖かくて、俺は久し振りに"生きてる"と実感した。
"君の行く先で下ろしてくれればいい"
俺はそれだけ言って後は黙っていた。
彼女もそれ以上、何も言わず、運転しながら時折、カーラジオから流れる歌を口ずさんでいる。
手馴れた手つきで煙草を吸いながら、その細い指先は鮮やかなマニキュアで彩られていた。
だが、少し幼く見えるその横顔は可愛らしく、奇麗な長い髪が印象的だった。
何故、こんな子が一人で旅を?
ふと、そんな事が頭を過ぎる。
だが俺には関係ない事だ、と黙っていた。
彼女は目的もなく、ただ車を走らせてるようだった。
それには気づいていたが、俺も行くアテなどない。
どこについたとしても何も言わずに下りただろう。
暫くすると退屈になったのか、彼女は少しづつ自分の事を話し始めた。
彼女は名前をと言った。
殆どが自分の身の上話だったが俺も黙って聞いていた。
それだけでは嬉しそうな顔をするからだ。
きっと誰かに話を聞いてもらいたかったんだろう、と思う。
そのうち、俺もの話を聞いているのが楽しくなって、もっと聞きたいとすら思ってしまった。
暫くの間、一緒に行動を共にしていたからか、それとも寂しさからか・・・・・・
俺はといると安らぐのを感じていた。
だが、そう思うとマリーの笑顔が頭を過ぎる。
俺のせいで死んだ・・・・・・
そう思えば思うほど眠れなくなり、ある夜・・・・・・俺はを残し部屋を出た。
このままいなくなろうと思ったのだ。
だが酔って眠ってしまったの寝顔を見て少しだけ胸が痛んだ。
こんなに安心しきって眠っている少女を・・・・・・一人置いて行くのが躊躇われた。
俺は手に持ったバッグを置き、一度外に出た。
見上げれば奇麗な月。
マリーと一緒に見上げた夜空にあった月。
懐かしさが込み上げ、車のボンネットに座り、ポケットに入れたままの彼女との写真を取り出す。
あの時、燃やせなかった最後の一枚・・・・・・
幸せそうな二人がそこに写っていた。
「―――っ」
不意に涙が零れた。
胸が壊れてしまいそうなほどに痛くて・・・・・・ただ苦しくて。
空になったはずの心に悲しさだけが広がってゆく。
俺と一緒にいなければ・・・・・・彼女は殺される事もなかった。
そう思った時、俺はある決心をした。
今も安全とは言えない。
またいつ襲われるか分からない。
それなのにと一緒に行動していては彼女まで危険にさらしてしまう。
やはり俺は彼女の車を下りることにした。
だが次の日・・・・・・以外にもは、下ろしてくれと言った俺の言葉で突然、泣き出した。
「まだ・・・一緒にいて欲しい」
彼女は奇麗な涙をポロポロ零しながら、小さな声でそう呟いた。
その言葉も・・・涙も・・・自然に俺の胸に響いた。
もしかしたら俺も・・・・・・誰かに必要とされたかったのかもしれない。
そう思っていた俺に彼女はそっとキスをした。
その温もりは俺がずっと捜し求めていたものだった―
あれから半年、俺と彼女は今、一緒に暮らしている。
ユラユラと水の中に沈んでいく彼女が見える。
俺は必死に手を伸ばしているのに掴まえられなくて、マリーは水の底へと沈んでいく。
必死で叫んでいるのに、心の中で叫んでいるのに体が動かない。
「・・・マリー・・・!!」
ガバっと起きて辺りを見渡す。
汗で濡れた額に手を置き、荒々しい息を整えながら息苦しさを感じ深呼吸を繰り返した。
夢か・・・
すでに日は昇り、カーテンの隙間から太陽の光が入っている。
いつもの寝室に俺は大きく息を吐き出した。
そして無意識に隣にいるはずの彼女を探す。
だが腕の中にいた温もりはすでになく、ヒンヤリとした感触だけが手に残る。
先ほど、あんなに激しく愛し合った余韻だけが俺の体に残っていた。
「はぁ・・・」
体を起こし、素肌にバスローブを羽織るとベッドサイドにある煙草に手を伸ばした。
火をつけゆっくりと吸い込みながらベッドに腰掛ける。
"傍にいる・・・・・・私は・・・死なないわ・・・?"
さっき、そう言いきった彼女に俺はどこかで救われていた。
危険な目に合わせたくないと思う反面、と離れたくない、とそう思ってしまった。
なのにマリーの事を思い出すと途端に不安になるのだ。
もう二度と・・・愛する人を失いたくない・・・
軽く手で顔を覆い、押し寄せてくる不安の波を消そうと目を瞑る。
灰皿に置いたままの煙草が半分まで燃え尽き灰になり、ポトリと床に落ちた。
すぐに拾って灰皿に押しつぶすと、どこからかいい匂いがしてきて俺はベッドルームを出て廊下を歩いて行く。
歩くたびにミシっと床が軋む音がするこの家はかなり古い。
二人でブラっと来たニュージャージー州のパターソン。
静かなところで観光化もされておらず落ち着いた雰囲気の街だ。
そこで家を借りて暫く住む事にした。
二人して、それほど持ち物もない。
必要なものはその都度買い足してるから困ることもない。
いつでもここを出て行けるようにしておきたかった。
腰を落ち着けては危険だ。
静かに歩いているつもりが床の軋む音で気づいたのだろう。
キッチンの方からの声がした。
「ジェイソン?起きたの?」
「ああ」
そう言ってキッチンを覗けばコーヒーを淹れていたが笑顔で振り向いた。
その笑顔は眩しくて心の中まで照らしてくれるようだ。
日系人なのだろうか。
黒い髪に黒い瞳、そして華奢な体。
少しあどけなさの残る、その顔は年齢よりもずっと若く見える。
あまり、いい環境で育っていないと言っていた彼女はミルクを冷蔵庫にしまうと、扉を足で軽く閉めて俺にちょっとだけ舌を見せた。
「ゴメン、ついクセで」
「いや。俺もよくやるよ」
まるで子供のような仕草をするに俺はちょっとだけ笑みが洩れる。
ゆっくりと彼女の方に歩いて行って、その細い腰を抱き寄せ額に口付けると、が笑顔で顔を上げた。
「後で買い物に行かなくちゃ。何もないの」
「じゃあ俺が行って来ようか?」
「え?でも・・・いい・・・二人で行こう?」
は少し不安げに首を振り、俺にしがみついてくる。
きっと、さっきの事を心配しているんだろう。
初めて彼女にマリーの事を話した。
そして俺が何に恐れているかも・・・
はそれでも構わないと言ってくれた。
それでも傍にいたい、と・・・
俺は・・・"YES"とも"NO"とも答えられなかった。
彼女を愛してるから。
それを彼女は分かってるのか。
いや・・・彼女に面と向かって、そう言ったことはない。
もしかしたら・・・さっき話した時が初めてだったかもしれない。
それでも・・・彼女は俺がいなくなると心配しているんだろうか・・・
不意に愛しさが込み上げ、彼女の体を強く抱きしめた。
折れてしまいそうなほど細く小さな体は俺の腕の中にスッポリと納まってしまうほどに頼りなげだ。
「ジェイソン・・・?苦しいよ・・・どうしたの・・・?」
「いや・・・」
「・・・?」
まだ心配そうに見上げてくるに俺はちょっと微笑むと軽く唇を重ね、再びギュっと抱きしめる。
そして耳元で今の気持ちを素直に口にした。
「愛してる・・・」
そう囁いた時、彼女の体が震えた。
ゆっくりと体を離し、もう一度、今度は深く口付ける。
何度も角度を変えて優しく・・・深く。
あどけない君に長い口付けを・・・
この想いが伝わるように―

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Postscript
ジェイソンサイドで第二弾、昨日の話のすぐ後のお話。
あ、それと書き忘れましたがこれは「ボーン・スプレマシー」の結末後の話です。(見てない方はすびばせぬ;;)
何となく、この気分なので今日は「ボーン・アイディンティティ」のDVD買って来ようかなぁなんて( ̄∀ ̄*)
少し忘れてる部分があるので、もう一度見てからスプレマシーを見直そうという(笑)
今日(05'8/25)は台風来てますね!ひゃー朝から凄い大雨でしたよ!
外出の際には皆様、お気をつけて・・・m(__)m
皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…
【C-MOON...管理人:HANAZO】