...























"僕は空を飛びたかった"




あなたはそう言った。


その横顔がとても寂しそうで、あの日・・・・・・私の胸は何かに貫かれた―――
















「いいか!敵はミスを犯さない!慎重なプレーをしてる。次の15秒は猛攻だ。試合に決着をつけろ!」





バスケチームの監督―――彼の父親が熱く叫んでいる。




「ボールはオーディンとマイクに!ヒューゴはスクリーンをかけろ。トッドはマイクに・・・・ ――ヒューゴ?ヒューゴ!」


「――!」


「お前は右側に張り付け!ヒューゴとトッドはオトリだ。オトリはボールを回すな!13秒でオーディンはフリーだ」



その言葉に選手が一斉に手を重ねる。



「絶対に勝つぞ! よし、集中だ!!」




皆で声を出し、コートの中へ散らばっていった。
それを客席で見ながらも、私は彼を目で追っていた。
周りは凄い歓声と熱気で溢れている。
うちの高校のスタープレイヤーオーディンの恋人、デジーも友達のエミリーと一緒に声援を送っていた。






――――わぁぁぁぁぁ!




ものすごい歓声が沸き起こったと思った時、その試合に決着がついていた。



まただ。
またオーディンが決めた。



客席から人が溢れてコートに流れていく。
真ん中には監督とオーディンが抱き合う姿が見える。
マイクがオーディンを肩車して周りに人が集まる。
ヒューゴは、その輪に入らず、少し離れた場所で、その群集を見ていた。



「あら、、行かないの?」
「ええ、私、寮に戻るわ」



声をかけてきたクラスメートに、そう言うと、私は、その場を後にした―――






















その夜、パーティが行なわれた。
皆、勝利に酔いしれ、お酒を飲みながらダンスを楽しんでいる。
その中に私はヒューゴを見つけた。
彼はマイクと抱き合いながら言葉を交わし、次にデジーと踊っているオーディンにも声をかけている。
その笑顔が嘘だと言う事はすぐに分かった。
そこに学校でもイジメられッ子でヒューゴのルームメイトのロジャーが姿を見せた。
彼に気づいたヒューゴは、ゆっくりロジャーに近づき何か耳打ちしている。
私は二人が歩いて行った方に足を向けた。








「デジーがオーディンと一緒にいるぜ?何故だ?」
「・・・・・・もう別れる」
「だってイチャついてるぜ?密着してる」
「仲を裂くのさ」
「・・・・・・っ?」




ヒューゴの言葉にロジャーが驚いている。



「お前、友達だろ?ツルんでるくせに」
「友達ヅラは作戦を成功させる為だ。―――何でも屋さ・・・・・・」
「・・・・・・え?」
「俺は何でも屋だ。リバウンド、シュート、フォワード・・・・・・何でもこなす選手さ」
「何を言ってる・・・・・・?」
「俺が本当のMVPだよ。4年も陰に回ってサポートしてきたのに――奴はマイクを・・・・・・!」



ヒューゴが声を荒げた。
そしてオーディンとデジーの方に視線を向ける。
二人は会場を抜け出し、外に出て行くところだった。
それを見たヒューゴとロジャーも、その後に続く。
私も静かに後をつけた。


外は真っ暗で、二人は学校の庭に歩いて行く。
すると茂みの向こうでヒューゴの声が聞こえてきた。











「・・・・・・ロジャー、電話しろよ」
「退学になる・・・・・・」
「お前はデジーが欲しくないのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


そう言われてロジャーは軽く息をつくと電話を取りだした。
その様子で彼が何を命令したのかが私には容易に想像できる。
ロジャーはデジーが好きなのだ。
だからロジャーはデジーがオーディンのものになるのは許せない。
ヒューゴが彼に命令したこと。


デジーは、この学校の校長の大事な一人娘だ。
その娘が夜遅く、男と消えた。


きっと、その事を告げ口するんだろう。









電話を終え、ロジャーが去った後、私は一人佇むヒューゴのところへ静かに歩いて行った。















「いいの?」
「・・・・・・」
「MVPはオーディンでも・・・・・・分かち合うのはマイクじゃないわ?あなたよ、ヒューゴ・・・・・・」



そう言うとヒューゴは初めて私を見た。


「そう思うか?」
「ええ。思うわ?さっきだって、あなたも言ってた」
「・・・・・・・・・聞いてたんだ」



ヒューゴは煙草に火をつけ、小さく笑った。
その横顔は諦めに満ちていて凄く冷たいものだ。



「お前は何でも俺の事が分かるんだな・・・・・・何故?」



何故・・・・・・?
そんな簡単なことも分からないの?


「好きだから」
「え?」
「あなたが」
「・・・・・・それは同情?」
「どうして?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」




そこで彼は黙ってしまった。



同情・・・・・・・・・・・・・・・


そんなもので、こんなにも人を愛しく思うことがあるのかしら。
彼がそう思うのは仕方のない事だけど・・・・・・・・・・・・・・・



私と彼、ヒューゴが会ったのは学校の敷地内にある鷹の飼育所。
一人になりたくて行った、普段人が寄り付かない、その場所に彼はいた―――


その鷹はバスケチームのシンボルで試合の時には必ず、会場に連れて行く。
大きく鋭い目を持った、その鷹を、ヒューゴは黙って見つめていた。






「鷹が好きなの?」






最初に、そう声をかけたのは私。
それにヒューゴは私を見て、一言呟いた。









「空を飛びたいんだ・・・・・・・・・」











その言葉の意味が何故か、その時の私には理解できた。










「僕は・・・・・・空を飛びたかった・・・・・・」








彼はもう一度そう言うと、あの寂しげな顔を見せて微笑んだ。



あの日から私の中に何かが芽生えた気がした。




"父に愛されたい"




たった、それだけのことなんだ、と気づいた時に、私は彼を愛していたのだ。


ヒューゴの父はバスケチームの監督だ。
だが彼は本当の息子のヒューゴよりも、チームのスターであるオーディンに愛情を注いでいる。
そこから何かが崩れ始めた。


ヒューゴは破滅へと自ら足を踏み入れようとしている。
それを止める気などない。
私が、彼の世界へ行くつもりだから・・・・・・






・・・・・・」


「何?」


「止めないのか?」


「何を?」


「俺が・・・・・・これからやろうとしてること・・・・・・」


「止めないわ?」


「何故?」


「止めて欲しいなら止める」





私があなたを唯一、理解できる。
あなたがエミリーと関係を続けるのだって我慢できる。



その思いを伝えるように彼を見つめた。









・・・・・・」


「何?」


「こんな俺でも・・・・・・傍にいてくれるんだな・・・・・・」


「いるわ?だって――」




あなたを愛してるから。



そう言う前にヒューゴは私を強く抱きしめ、その場に押し倒した。
そして今にも泣きそうな瞳で私を見つめる。




「俺の・・・・・・気持ちが分かるのか・・・・・・?」


「分かるわ?だから傍にいるの」


「俺が他の女を抱いてるのに・・・・・・?」


「だってそれは愛じゃない。あなたはエミリーを利用してるだけ・・・・・・デジーのルームメイトである彼女を――違う?」




真っ直ぐに彼の瞳を見つめながら、そう言うとヒューゴは小さく笑みを洩らした。




「よく・・・・・・分かるな・・・・・・」


「言ったでしょ・・・・・・?私はヒューゴの事が、よく分かるの・・・・・・」


「俺も・・・・・・の事なら分かるよ・・・・・・」


「何を・・・・・・?」


「俺の事を愛してる・・・・・・」




ヒューゴはそう言って私の唇を優しく塞いだ。
求めるように、それでも、どこか優しく何度も触れてくる。






「一緒に・・・・・・いてくれる・・・・・・?」




かすかに唇が離れた時、擦れた声でヒューゴが呟いた。






「いるわ・・・・・・ずっと・・・・・・。例え、あなたが何をしようと・・・・・・一緒に堕ちて行く――」


「違うよ、・・・・・・・・・・・・。一緒に・・・・・・飛ぶんだ・・・・・・。この空を・・・・・・」







彼はそう言うと初めて心からの笑顔を私に見せてくれた。
これが彼の本当の素顔だ。


彼は愛されたかっただけ。
純粋に・・・・・・ただ愛されたかっただけなの。



もう心配しないで。


例え何があっても・・・・・・


あなたには私がいるから・・・・・・


火の中でも水の中でも きっと大丈夫。


あなたには私がいるから・・・・・・







だから思うままに―――

































空を飛んで―――






































ブラウザの"戻る"でバックして下さいませv

―――――――――――――――――――――――――――――――

何だか書いちゃいました、映画夢"O"!
これジョシュファンなら知ってますよねーv
このジョシュは凄く悲しくて見てると胸が痛くなります。
破滅へ向ってるのに、、それでも嫉妬の心が消えなくて・・・・・・
何度見ても胸が痛い作品です。でも凄く好きです。