We are eternal
We are eternal
We are eternal
高貴なる由緒正しき、ブラック家。
"純潔よ、永遠なれ――"
ホグワーツに入学してから5年目の夏が来る――
今年の夏はうだるような暑さだった。
毎日上昇していく気温は今日で37度を超え、外を出歩く人影などないに等しい。
皆が太陽をさけ、家の中へと引きこもり、先ほど覗き見た、いつもなら賑やかな近所の公園も、誰一人遊んではいなかった。
「――はあ。遅いなあ…」
そんな事を呟きながら、窓の外を眺める。
余計な人たちは早々と来て泊り込んでいるにも関わらず、肝心の待ち人が帰って来ない。
いつもなら静かなこの家も、今は"余計な人たち"のおかげで、かなり賑やかだ。
ここは【騎士団の本部】になったシリウスの実家。
今は私の家でもあるが、勝手に歩きまわる"彼ら"のせいで、私は自分の部屋にこもりきりだった――
あの恐ろしいアズカバンから脱獄し、悪名高いシリウス・ブラックは、私の養父に当たる。
シリウスの友人だった私の両親が、あの"名前を言えないあの人"に殺され、引き取り手もいなかった事から、彼が私を養子にしてくれたらしい。
でも後に、友人の卑怯な罠によって、シリウスはいわれなき罪をかぶせられ、アズカバンに投獄されてしまった。
そのせいで私を養子に迎え入れる事にもともと大反対していたシリウスの厳格な母親、ヴァルブルガは、当然のように赤ん坊の私をまた養子に出そうとしたようだ。
そこを助けてくれたのがシリウスの親友の一人であるリーマス・ルーピン。
リーマスがヴァルブルガの手から私を守り、シリウスの代わりに育て、ここまで面倒をみてくれたのだ。
彼と一緒にあちこちを放浪する生活は大変だったけど、それでも楽しかった。
リーマスは時々、自分達がホグワーツにいた頃の話を面白おかしく話してくれた。
よく行動を共にしていた親友の恋の話、先生達へイタズラを仕掛けた時の話…
私の養父であるシリウスがどれだけ女の子にモテたかという話や、かなりの"やんちゃ"だったという話もたくさん聞かせてくれた。
赤ん坊だった私はシリウスの事を覚えていなかったけれど。
でも写真で見る彼は誰よりも凛々しく、美しい容姿で、彼の母親――小さい頃、彼女が亡くなる時に会った事がある――が言うほど、"ごくつぶし"とは思えなかった。
そう、それに小さくて当時の事など覚えていないが、私がただ記憶にあるのは、優しくて大きな手。
泣きじゃくる赤ん坊の私を、その手でいつも撫でてくれた…というかすかな記憶だけ。
今になって思えば、赤ん坊の私に当時の記憶があるわけもない。
"あの大きな手"はリーマスだったのかもしれない。でも…私にはハッキリと、あれはシリウスだった、という確信がある。
それがどうしてなのかは、分からないけれど…
そんな彼と再会したのは3年前。
シリウスがアズカバンを脱獄した時で、ディメンターが追っている危険な中、シリウスは私に会いに来てくれたのだ。
「大きくなったな」と瞳を潤ませながらも、今、何が起こっているのかを詳しく教えてくれたあと、この家を私に与えてくれた。
その後、シリウスが再び捕まったところを助けてくれたのが、ホグワーツでも有名な、あのハリー・ポッター。
ハリーの父親とシリウスは親友同士で、ハリーの名前をつけたのはシリウスだったようだ。
リーマスがよく話してくれていた"親友の恋の話"の登場人物は、ハリーの両親の事だと、この時知った。
その話を聞かされた時は本当に驚いた。
私はハリーと同じ歳で入学したのだから、彼の名前と顔くらいは知っていた。
もちろん"あの人"に家族を奪われた私と同じ境遇だという事も。
でも、だからなのか、私は何となく彼を敬遠していた。
同じ"グリフィンドール生"にも関わらず、ハリーと言葉を交わしたのは一度か二度くらいだ。
ハリーの方は私とシリウスの関係を知ってから、何となく話したそうにしてくるが、私から声をかけるということはしなかった。
彼が嫌い、というわけじゃない。
シリウスを助けてくれた件で、仲良くなったハーマイオニーからハリーのマグル界での生活環境を聞けば激しく同情するし、友達思いの優しい人だというのは知っている。彼が誰よりも勇敢な人だという事も――
1年目に"賢者の石"を守り、2年目には"秘密の部屋"の主を倒し、3年目には大切な私の家族でもあるシリウスを助けてくれた。
本当に勇敢で凄い人だと思うし尊敬もする。でも…何故か素直に彼と向き合えない。
同じ境遇のはずなのに、今の私とハリーとでは、あまりにかけ離れすぎてて……
私はと言えば、5年目のクセに大した術も覚えられず、覚えるのは興味のある呪文だけ。
それも実戦でしか使わないような危ないものばかりで、周りからは"お転婆すぎる"と笑われている始末。
昔からシリウスを知っているダンブルドアや、マクゴナガルは、「血が繋がっているわけじゃないのにソックリだ」と苦笑いで済ましてくれたりするんだけど。
それもこれも、もう一人の育ての親でもあるリーマスが、「自分の身は自分で守れ」と、私が子供の頃からそういう呪文しか教えてくれなかったせいもあるだろう。
幼い頃から放浪の生活をしてきたのだから、校則とやらに縛られる日常も向いてないのかもしれない。
そんなお転婆だけがとりえの私から見れば、ハリーは英雄に見えるのだ。
先学期も"世界の三大魔法学校対抗試合"で見事に優勝し、グリフィンドールの仲間たちは一斉に彼を称えた。
それまで彼を色々という人たちもいたけど、そんなものを吹き飛ばすかのような活躍を、ハリーは見せたのだから当然だろう。
でも、だからか。前よりも更にハリーが遠い存在に思えて、つい避けてしまう自分がいた。
"ハリーと仲良くしてやってくれ"と、時々届くシリウスからの手紙にも書いてあったけど、未だにそれが出来ない。
まあ今はその理由も少しは分かってきたんだけど……
「はあ…今学期も何か起きるのかな…」
先学期、生徒が一人亡くなった事で、今は何かと重苦しい空気に包まれている。
シリウスの話では、それも"闇の帝王"が関わっていたという事で、この間から"騎士団"を復活させて何かと動いているようだ。
(まあおかげで、一ヶ月前からシリウスもこの家に住める事になったのだから、私としては嬉しいのだけど…)
――今は珍しく出かけていていないが、シリウスやリーマスとは今現在、この屋敷で一緒に暮らしている――
(もう…リーマスはともかく、ダンブルドアから屋敷にいろと言われてるのに、シリウスってばどこに行っちゃったのよ)
小さく溜息をつき、下から聞こえてくる賑やかな声に項垂れた。
今、この広い屋敷――と言ってもかなり古い――には、私だけじゃなく、ウィーズリー家の皆が揃っている。
ロンの両親であるアーサーとモリーや長男のビルは騎士団なのだから、まだ分かるけど、何故あの双子とロン、妹のジニー。そしてハーマイオニーまでが来てるのか。
ハーマイオニーやロンは友達になったからいいとして、あのイタズラ好きな双子の兄達はどっちかというと苦手だった。
(夕べも"姿現し"の術で何度も驚かされたし…おちおち着替えも出来やしない…。こっちは連日の大掃除で疲れてるっていうのに)
この家は相当古く、普段使っていない部屋はかなり荒れていた。
なのでウィーズリーおばさんやハーマイオニー達と一緒に、色んなところを掃除する日々が続いたのだ。
厨房や寝室、客間…と全て綺麗に掃除するのは、かなりの労働だった。
(出来なかったところは今度帰ってきた時かな…。あと数日でホグワーツに戻らないといけないし…)
そんな事を考えていると、不意に背後で何かの気配がした。
慌てて振り返ると、開け放したままの入り口のところに、黒い犬が一匹、ちょこんと座っている。
「あ……スナッフルズ」
その暗号名を呟いたのと同時だった。
黒い犬はみるみるうちに人の姿へと変貌し、最初は見下ろしていたはずが、今は目の前の人物を見上げる格好になっていた。
「――、ただいま」
「シリウス!」
優しい笑みを見せて両手を広げる彼に思い切り抱きつくと、力強く抱きしめてくれる。
この腕の中だけが、今の私が安心出来る、唯一の場所だった。
「遅いわよ。待ちくたびれちゃった」
「おいおい大げさだな。わたしが出かけてからまだ二時間も経ってない」
昔のように大きな手で私の頭を撫でながら、シリウスは目を細めた。
その表情は、目の前の私ではなく、どこか懐かしい者を見るような、そんな顔だ。
シリウスは私を見るたび、いつもこんな表情をする。
「だって…」
「退屈ならハーマイオニー達がいるだろう?」
「そうだけど…彼女は良くても、傍にはあの双子もいるんだもの」
「何だ、ジョージやフレッドとは気が合わないのか?気のいい奴らじゃないか。彼らの発明するものはなかなか面白いぞ?」
「イタズラ好きだった昔の自分達を思い出す?」
からかうように言えば、シリウスは笑いながら、「かもな」と頷き、部屋の中を見渡した。
「20年ぶりに帰って思ったが…。この部屋もだいぶ傷んでるな。どうだ?住み心地の方は」
「普段は私も殆ど帰って来なかったから…でもまあ何とかね。あのクリーチャーが時々ムカつくくらい」
私が肩を竦めてそう言うと、シリウスは苦笑混じりでベッドへと腰をかけた。
「あいつは昔から嫌味な奴だからな」
クリーチャーとはブラック家に仕える"屋敷しもべ"で、シリウスが子供の頃からこの屋敷にいるらしい。
彼の母親に忠誠を誓っているからか、当時からブラック家の家風を嫌い、やんちゃばかり繰り返していたシリウスを、クリーチャーも内心では快く思ってはいないようだ。
シリウスの意向で、この家に私を住まわせている事も面白くないようで、時々顔を合わせると、何かしら聞こえるように嫌味を言ってくる。
シリウスの話では私も"純血種"らしいが、クリーチャーにしてみれば、純粋なブラック家の者でもない私がここに住むのは気に入らないのだろう。
「まあ気にするな。今は殆どが寮生活だろう?」
「うん。今年の夏休みもシリウスから連絡がなければ、向こうで過ごしてたと思うわ」
「そうか…。そう言えば皆がいて聞くのを忘れてたが…どうだ、学校は楽しいか?」
「……それほど」
何とも"父親らしい"事を訊いて来るシリウスに、私は内心苦笑しながらも僅かに首を振った。
「何でだ?もう色んな術を習う頃だろう。まあはリーマスのおかげで皆より先に覚えている呪文も色々あるだろうが」
「それはまあ…。それより…先学期の事件のせいでホグワーツ中が何となく重苦しくて」
「……そうか。まあ他の連中は真相を知らないんだ。不安なんだろう」
シリウスはそう呟くと、ふと思い出したように顔を上げた。
「そう言えば…ハリーとはその後、どうだ?」
「……え?ああ…ハリーね」
「たまにハリーから来る手紙にも、に避けられてるだとか、嫌われてるなんて書いてきて落ち込んでたぞ」
「べ、別に嫌ってなんか…。彼の事はよく知らないし…だから特に話すこともないだけ」
「まあそう言うな。わたしはハリーの後見人でもあるんだ。娘のとも仲良くしてもらいたい」
「分かってるけど…」
「全てが落ち着いたらハリーもと同じく養子に迎えるつもりだし…。お前達は義理の兄妹になるんだから」
「……うん」
そう言いながらも内心、ハリーの話をされて面白くなかった。
シリウスがハリーと本当の意味で家族になりたがっている事は知っている。
端から見ても、シリウスがハリーを溺愛しているのは一目瞭然で、確かに私の事も同じように愛してくれているとは分かっていても、どこか面白くない。
養子とはいえ、娘の自分より、親友の息子であるハリーを、これほど大切にしているところが一番、気に入らないのだ。
(分かってる…。これは嫉妬だ。シリウスの心を半分、奪っていくハリーに対する、醜い嫉妬…)
そこに気づいた時、ひどく自己嫌悪に陥ったが、どうしてもハリーの前に出ると素直に話せなくなってしまう。
シリウスが望む事なら、そうしてあげたいのに、ハリーと仲良くするという簡単な願いを叶えてあげられない自分が更に嫌になる。
そう思いながら落ち込んでいると、不意にシリウスが立ち上がった。そして私の頭に軽く手を乗せる。
「まあいいさ。そのうち自然に仲良くなるだろ」
「…シリウス」
「それに今夜、ハリーもここへ来るからな」
「……は?」
「一緒に食事でもすればすぐに打ち解ける――」
「ちょ、ちょっと待ってシリウス…」
聞き捨てならない台詞があったと、私も慌てて立ち上がった。
「こ、ここに来るって……誰が?」
「ん?ああ…だからハリーさ。今夜も騎士団のメンバーが集まるのは今朝言っただろう?」
「そ、それは知ってるけどでも……そこに何でハリーが?!」
騎士団のメンバーには何度か会った事がある。
ロンの両親やお兄さん、ニンファドーラにキングズリー。
ムーディにスネイプ先生……あとは今、一緒に住んでいるリーマス――。
まだまだ他にも団員はいるが、でも現在の騎士団にハリーポッターの名前はなかったはずだ。(というより未成年は入れない)
少し困惑していると、シリウスが困ったように微笑んで、私にもう一度座るよう促した。
仕方なくベッドに腰を下ろすと、シリウスも隣に座り、「お前に話がある」と真剣な顔をする。
こういう顔をする時は大抵よくない話だ。
「…何?ハリーの事?」
「そうだ」
小さく息を吐くと、シリウスは僅かに顔を上げた。
「実は…今日の夕方…ハリーがディメンターに襲われた」
「―――え?」
「それを聞いて心配になって会いに行こうとしたんだが途中でムーディに見つかって戻ってきた…。襲われたのはハリーの家の近くで――」
「嘘!ディメンターがマグルの居住地に行くなんて…」
「前に手紙に書いただろう?あいつが復活したと」
「………っ」
「だから我々が集められた。あいつはもう動き出してるんだ」
「そんな早すぎる…。それで?ハリーは無事なのっ?」
シリウスは優しく微笑んで、もう一度私の頭を撫でた。
「ああ、無事だ。あいつは"守護霊の呪文"を使ってディメンターを追い払った」
「そう…良かった…って、え、でもマグルの居住地で呪文を使ったら――」
「ああ…。"機密保持法"に引っかかる。すでに魔法省も動いてるようだな」
「じゃあ…ハリーは最悪、ホグワーツを退学に…?」
「それはダンブルドアが何とかするだろう。それに今はそんな内輪モメをしている場合じゃない」
シリウスはそう言って立ち上がると、深い息を吐いた。
「今頃、他の騎士団の連中はハリーを護衛しながら、ここへ向かってるだろう。ハリーにとっちゃ向こうでの生活も安全とは言えなくなった」
「…そっか。だからここに…」
「夏休みが終わるまでだ。まあその前にハリーは魔法省に呼び出されるだろうが…」
そう言ってシリウスは軽く溜息をつくと、私の前に立った。
「わたしは騎士団での大事な会議に出なくちゃならない。は…ハリーが来たら傍にいてやってくれ。色々と不安だろうから」
「な…何で私が…。ハーマイオニー達がいるじゃない」
「まあそう言うな。それにも多少はハリーの事が心配なんだろう?」
「え?」
意味深な笑みを浮かべたシリウスに、訝しげに眉を寄せる。
「さっきハリーが襲われたって言った時、は慌ててたじゃないか」
「あ、あれはディメンターが現れたって聞いて――」
「無事だと知ってホっとしてただろ?」
「……それは…」
何も言い返せず言葉に詰まると、シリウスは優しい笑みを浮かべながら私の頭を撫でてくれた。
「お前は意地っ張りだが本当は心の優しい子だ。――きっと……ハリーの良き理解者になれる」
シリウスはそれだけ言うと、静かに部屋を出て行った――
書いてしまいました>ハリー・ポッター夢
とりあえず年頃もいいし"不死鳥の騎士団"のお話ですね。お相手はやっぱりハリー(ダン)という事で、無理やりシリウスの義理の娘に(笑)
一応、映画の方で書いてたんですが、そうなると原作も読みたくなって、つい買ってきてしまいました(笑)
なので内容が原作にあるものだったりも時々すると思います。(原作読んで気づきましたが映画だとかなりカットされてるんですね;;)
今まで見た中で、私は"アズカバンの囚人"が一番のお気に入り作品だったんですが(炎のゴブレットが微妙だったし)
"不死鳥の騎士団"から、やっと面白くなってきたので、今凄く"謎のプリンス"見てーなオイ!って感じです(笑)
でも映画観嫌いな私は、二時間以上、あの場にいるのがキツイので悩んでおります…
(長作映画って映画観で見るものじゃないね…。体中が痛くなるし)
でも"謎のプリンス"観たいです。ハリー・ポッターの結末は知っちゃってるんですけどね(涙)
地味〜にこのプチ連載?かどうかは分かりませんが頑張りまっす。(今、せっせと書きだめ中)