―――英雄、色を好む
後ろから真っ赤なスポーツカーが派手なエンジン音と共に走って来た。
ブォォォンッ
何気なく顔を向ければ、その車から降りてくる180センチ以上は有にあるスラっとした男。
スーツをビシっと着こなし、その甘いマスクは一見、刑事には全く見えない。
男は運転していたブロンドの美女に優しい笑顔を見せ、
「送ってくれてありがとう、ジェシカ」
「私の名前はキャサリンよ?KC」
「Oh....... sorry」
"また"やってる。
あいつは、どうして関係を持った女の名前すら間違えるんだ?
そして、そんな男が何故、モテる?!
おっと、これは俺の僻みとかじゃないぞ?
普通の神経なら、あんなケロっと"sorry"なんて言えないっつーの。
あ~あ。あんな署の前で堂々とキスなんぞしやがって。
朝から一人身の俺には目の毒だ。
―――ん?そして朝から少しモメそうな気配がしてきたぞ?
後ろからやってきたのは甘いマスクの男――KC・コールデンの相棒でベテラン刑事、ジョー・ギャヴィランだ。
「KC!」 (いつもの事で苦虫を潰したような顔)
「やあ、ジョー。おはよう」 (かたや爽やかスマイル全開)
「おはようじゃない!女に送ってもらうとは、いいご身分だな?しかも署の前で堂々とキスか?ん?」
(そうだ!いいぞ、もっと言え、ジョー!)
俺が思っていた事を彼が代弁してくれてる気分がして、俺は小さくガッツポーズをした。
え?ところで、お前は誰だって?
そうそう。名乗るのが遅れたが、俺は二人と同じ、ロス市警の殺人課にいるレオンだ。
まあ、俺もKCと同時期に入ったから新人刑事って奴だな。
それと実は、今、この署には俺の妹も見習い刑事として働いてるんだ。
これがまたポヤンとした奴で俺にとっちゃ可愛くて仕方のない妹なんだが、少し男に対して警戒心がないのが心配の種。
それに殺人課と言えば、危険な事が山ほどある。
こんな中で、あいつがちゃんと刑事としてやれるかどうか・・・・・・
まあ、まずは殺人犯よりも先にここの署の男どもから、あいつを守らないと―――
「自分だって前に遅刻しそうになって彼女に送ってもらってたじゃないですか」
「あ、あれはだな!自分の車のキーが見つからなかったから…っと言うか、いちいち口答えするな!お前は前から―――」
「あ、!おはよう」
「ああ、おはよう御座います。ミスターコールデン、ミスターギャヴィラン」
あ!まずい!
が!!
あの二人の言い合いにばかり、気をとられていて、気づけば俺の最愛の妹、が二人の前を横切った。
それを見て俺は、KCの魔の手からを救うべく一気に走り出した。
遠くから見ても分かるほど、KCは顔が嬉しそうに綻んでいて、の方に近づいて行く。
「やだなぁ、。KCでいいよ」
「でも先輩ですし・・・」
KCはすっかりジョーを無視して俺の妹に馴れ馴れしく話し掛けている。
もちろん、ここで俺は猛ダッシュした!
「おい、KC!またに、ちょっかいかけたら、うるさい兄貴が――――」
「こらー!KC!から離れろ!今すぐ離れろ!!」
「ほら来た・・・」
ジョーはそう言って肩を竦めると署の中へと入っていく。
俺は二人の前まで走って行くと、すぐにを後ろに隠した。
「離れろと言っただろ、KC!!」
「やあ、レオン。おはよう」
「おはよう、レオン。どうしたの?そんなに慌てて・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
俺の慌てようとは裏腹に何だか冷静な二人。(ちょっとムカツク)
「それより。さっきの事だけど、先輩なんて関係ないよ。君にはKCって呼んで欲しいんだ」
KCは俺の事まで軽く無視をして(このヤロウ)、に優しい笑顔を向けている。
くそぅ!俺の前で堂々と口説きやがって!!
だいたい、何での事だけは名前を間違えないんだ?!
そこからして、かなーーり!危険な匂いがする!
「ねえ、。今夜、一緒に食事でもどう?」
「え・・・・?食事・・・ですか?」
(じょ、冗談じゃない!!)
「おい、K―――」
「コールデン!早く来い!」
そこへ俺にとっての助け舟が声をかけてきた。
ジョーが怒りも露わに額にスジを立てつつ、KCを呼んでいる。
それにはKCも仕方ないといったように肩を竦め、の頭にポンっと手を置いた(馴れ馴れしいにもほどがある!)
「鬼刑事がお呼びだ。じゃあ、また後でね?じゃな、レオン」
「早く行け、バカ!」
俺がを抱きしめながら、そう言えばKCも苦笑いを浮かべつつ、廊下で擦れ違った婦人警官に声をかけている。
「やあ、ジュリア」
「私はマリーよ?KC」
「Oh......sorry...」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
(ま、全く、何なんだ?あいつは!!)
俺は朝から一気に疲れ果て思い切り溜息をついた。
するとがキョトンとした顔で見上げてくる。
「大丈夫?レオン・・・。夕べは遅くまで警備の仕事の方行ってたし疲れてるんじゃない?」
「・・・」
くぅぅ・・・可愛いなぁ・・・
心配そうな顔しちゃって・・・
へにゃっと眉を下げたまま見上げてくるの額に軽くキスをすると、俺はニッコリ微笑んだ。
「俺なら大丈夫だ。心配なのはお前だぞ?」
「どうして?」
「何度も言ってるが、コールデンにだけは近づくな。あいつは紳士の皮をかぶった狼そのものだ。分かったな?」
「でも・・・凄く優しいよ?」
「あいつが優しいのは下心が大いにあるからだ。知ってるだろ?あいつは好みの女と見れば、すぐに声をかけるんだから」
「・・・・・・」
――そして、その半分以上はヤっちゃってるんだ!(こんな事はには言えない、弱い俺)
しかも刑事のクセに実は副業でヨガのインストラクターなんてやっていつも女に囲まれてるし、何と夢は俳優ときてる!
そんな、うさん臭い男に俺の可愛い可愛いが餌食になるなんて考えただけで、あいつを射殺してやりたくなる!!(想像殺人)
はと言えば少しだけ悲しそうな顔で俯いて、チラっとジョーと話し込んでいるKCを見ている。
な、何だ?その顔は!
ま、まさか、そんな、お前まであいつに気があるとかだけはやめてくれよ?!
「お、おい、・・・・・・」
「じゃあ私、捜査に出るから・・・・・・またね?」
「あ、ああ・・・・・・」
はそう言うと先輩刑事の方にトコトコ歩いて行ってしまった。
「はぁ・・・・・・」
(何だか、すんげぇ疲れた・・・もう今から帰って眠りたい気分だよ・・・)
俺はグッタリしつつ、課の方に歩いて行くと、俺のパートナーのケヴィンが眠そうな顔でやってきた。
「おう、レオン」
「ああ、ケヴィン・・・・・」
「何だ?疲れた顔して・・・。またちゃんの心配か?」
ケヴィンは苦笑いを浮かべ、チラっとの方を見た。
「ああ・・・・・・まあ、ちょっとね」
「今回はKCも本気かもしれないぞ?少しは大きな気持ちで見守ってやれ」
「まさか!あの男が本気?!そんなこと、このロスに雪が降るくらいありえない!」
俺は大げさに両手を広げて叫べば、署の連中はクスクス笑って見てやがる。
どうせ、"またレオンの妹バカ"が出てるくらいに思ってるんだろう。
だいたいKCが女に本気なんて考えられない。
あいつは俺が会った中で一番の女好きだ。
の割りに女の名前には執着がないのか、自分が寝た女の名前さえ平気で間違えるツワモノなんだ。
だが、そんな男がが見習いで、ここへ来た時、の名前だけはすぐに覚えやがった。
俺は紹介したくはなかったが、KCの奴は紹介する前に速攻でに声をかけたらしい。
「君――名前は?」
男に慣れていないは、それだけで驚いたと後で言っていた(しかも、顔がほんのり嬉しそうだったのが気に入らない)
だから毎日のように"KCにだけは近づくな"と、しつこいくらいに言っている。
も、その言いつけを守ってるようだが、KCが話し掛けてきた時にはさっきのように楽しそうに話しているんだから俺としては心配なんだ。
しかも俺がKCに、には手を出すなと言えば、あいつはヌケヌケと、
「こんな気持ちは初めてなんだ」
と言いやがった!
なら、さっきの女は何なんだと言いたい!
が好きだと言うなら、何故、お前は他の女とデートしてるんだ?!
一度だけ、そう言って怒鳴ったことがある。
すると奴は困ったような顔をしながら―――
「に対する純粋な思いと性欲は全く別なんだ。に求めてるのは"心"なんだよ、レオン」
ときたもんだ!
ふ ざ け る なーー!!!
それを聞いた時は本気で撃っちゃおうかなぁ~?と銃の安全装置を外してしまったぞ!(!)ケヴィンに止められたが。
まあ、確かに?KCの行動を見てみれば、には真面目に接してるようには見えるが、他の女とのデートは一切減らない。
そんな、いい加減な男の言う事なんて、あてになるかっての。
俺は絶対に、を守りきろうと、今日も改めて心に誓っていた。
その誓いが夜には早くも打ち砕かれる事になろうとは、この時の俺は考えてもみなかったのだ・・・・・・
この日も散々、走り回り、疲れ果てた俺はケヴィンと別れると署には戻らず真っ直ぐに帰宅した。
から、まだ電話がないという事は帰って来ていないのかもしれない。
(あーまた夕飯、一人で食うのかよ・・・・)
寂しいなぁと思いつつ、車から降りて家まで歩いて行く。
すると家のエントランス前に人影が見え、俺は思わず笑顔になった。
(だ・・・・・・何だ、今帰ってきたのか・・・・)
そう思って足早に家に近づいた、その時―――!
「じゃあ・・・・・・また明日・・・」
「はい・・・。今日はご馳走様でした。凄く美味しかったです」
「あんなので良ければまた、いつでもご馳走するよ」
(・・・ぬぉ?!)
・・・・・・コ、コールデン~~~~~~~~っっっ!(怒髪天)
二人のその会話にプルプルしながら俺は怒りを抑えようとしていた。
だが、その瞬間、KCはの額に、な、な、何とキ、キ、キスをしやがった―――!!!!
ブチッ(何かが切れた音)
「こらぁ!!!!何してんだ、KC!!!!!」
「?!」
「レ、レオン・・・!」
二人は俺の声に驚き、目を見開いた。
だが俺は一気に走って行くとKCの胸倉を掴み、特大のパンチをその甘いマスクにお見舞いしようと拳を振り上げた―――
「やめて、レオン!!!」
「・・・!放せ!!お前に手を出す男は許さんっっ!!」
が俺に必死に抱きついてきたが、俺はそう怒鳴り今度こそ殴ろうとした。
だが、は俺の腕を引っ張りながら、
「やめて!!彼とはちゃんとお付き合いする事になったの・・・!!」
と泣き顔で叫んできて、俺はピタっと止まり・・・いや固まってしまった。
「今――な、何て言った・・・?」
ゆっくりとKCを放し、の方に視線を向けると、は泣きそうな顔のまま俺を見上げた。
「か、彼と・・・KCと・・・・・・付き合う事になったの・・・・・・いいでしょ?レオン・・・」
「う、嘘だろ?・・・・・・」
「ほんとよ・・・?」
「お、おいKC!お前、俺の妹に何て言って騙したんだ?!」
俺がもう一度、KCの方に向き直ると奴は両手を上げてホールドアップしてみせた。
「ちゃんと・・・好きだって・・・伝えたよ・・・?そしたら彼女も・・・私も好きだったって言ってくれて・・・」
「嘘だ・・・・・・」
「お、おい、レオン・・・?」
俺はフラっと歩きつつ家の中へと入った。
疲れた体(精神も)をドサっとソファに埋め、俺は両手で顔を覆った。
とKCも中に入ってきたが、奴は、
「じゃ、じゃあ俺は帰るよ・・・」
と言って、には、
「また明日。署でね?」
と優しく言って頭を撫でている。
その様子を横目で見ていた。
KCは今まで見せた事もないような笑顔で、を見つめている。
それを見れば本当に本気なんだろうか・・・という気持ちもしてくるが、まさかまでがKCに惚れてたなんて大ショックだった・・・
(そこかよ)
死んだお袋とオヤジに何て言えばいいんだ?
大事な娘の恋人が世界一の女たらしだなんて知ったら、きっと心配してあの世から舞い戻ってきそうだ!
あ~でもの気持ちも尊重しなくちゃいけないのか・・・?
いや、でも何でよりによって、あいつなんだ!!
ま、まさか、もうすでにヤラレちゃったなんて言わないよな・・・・・・・(もう死にそうなくらい青ざめているあたり)
「お、おい、!」
KCを見送り、戻って来たを呼べば気まずそうな顔のまま俺の方に歩いて来る。
「何?レオン・・・私反対されても――」
「そ、それより、お前・・・・・・まさかKCと今夜、何をした・・・?」
「え?何って・・・。一緒に食事しただけよ?」
「しょ、食事の後に・・・・・・・・・ナニをしたのか・・・?」
「え?何って何?」
「だから、"ナニ"をされたのか?って聞いてるんだ・・・」
「??」
青ざめた顔のまま、じぃっとを見ながらそう尋ねるも、は意味が分からないのか首を傾げている。
だが暫くするとその意味を理解したようで一気に顔が真っ赤になり、なおかつ鬼のように目が釣りあがった(この辺お袋にそっくり)
「さ、さ、最低!レオンのバカ!エッチ!!!大嫌い!KCは、そんな人じゃないもん!!」
「ちょ、おい、―――!!!」
バン!と大きな音をさせ、は自分の部屋に入ってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
そ、そんな男だろう―?あいつは・・・・・・・・・・・・・・・
俺の悪夢は、この日から始まった・・・・・・・・・・・。
※ブラウザの"戻る"でバックして下さいませ。
うはー凄く変なテンションで始まり終わったハリ的夢(笑)
架空の人物レオン語りでした~^^;
何だか、ふとハリ的のが思い浮かんだもので・・・。
あ、連載とかじゃないですよー。気が向けば、また書くかもですね。
|