PARASITE














冷えた手を




あなたに差し伸べるから――


















「ジーク?」





私は家のチャイムを鳴らして彼を呼んだ。
だが中からは何も音が聞こえてこない。
仕方なくドアを開けて中へ入る。


家は閑散としてて、とても静かだ。
彼の両親は仕事で、ずっと欧州の方へ行っている。
なので、この家にはジーク一人で住んでいた。






「やっぱりいない」




彼の部屋を覗いてもベッドは蛻の殻だった。
夕べから気温が下がり、寒かったせいか部屋の中も、どこか寒々としていて暫く誰も入っていないことが分かる。


「もう・・・どこ行ったんだろ・・・」


そう呟いて彼のベッドに寝転がる。
ほんとに寒くて冷えた手に息を吐きながらジークの布団に顔を埋めた。
瞬間、彼の吸ってる煙草の匂いがしてホっとするのを感じた。




「ジークのバカ・・・・・・傍にいてよ・・・」




なんて。
私は別に彼の恋人でも何でもない。
ただの"幼なじみ"で"お隣さん"ってだけの関係。


それでもいいから・・・・・・ジークの傍にいたかった。





「あ・・・もしかして・・・」





そう呟き、ベッドから起き上がるとジークの部屋を飛び出し、外に出る。
エントランスを出てすぐ左に曲れば、そこは駐車場でジークの派手な車が置いてあった。
その車の横を通り過ぎて家の裏手にある大きな倉庫の前に立つ。


そこはジークの隠れ家のようになっていて、彼はいつも、ここに篭り良からぬ事をしているのは知っていた。




「絶対、ここだ・・・。また、ここで寝ちゃったんだわ」




呆れたように息をつき、そっとドアを開けてみる。
中は冷たい空気に満ちていて、かすかな明かりが見えるが物音はしない。




「ジーク・・・?」




シーンとしていて返事はないが、いることは分かっている。
ゴチャゴチャと並んだ棚、その棚の上に何だかよく分からない薬品が並んでいるのを見ながら奥へと進んだ。




「いた・・・」




部屋の真ん中に大きなテーブル。
その上には何だかフラスコやらビーカーが沢山置いてあってグチャグチャだ。
そして左奥に置いてあるソファーの上に、ジークはいた。
いや・・・・・・正確には寝ているんだけど。








「予想通り」





軽く息をついてソファの方に歩いて行く。
別に本気で呆れてるわけじゃない。
ただジークの顔を見れてホっとした。
いてくれて・・・ほんとにホっとしたのだ。




ジークは大きな体を丸めるように寝ていて右手は下へと落ちている。
その姿が子供のようで思わず笑みが零れた。




「寝顔はちっとも変わらないんだから」




いつもは私が彼のベッドに潜り込んだりしていたが、いつも先に寝てしまうし、いつもジークに起こされるので、
こうして彼の寝顔を見るのは久し振りだった。




「もう・・・風邪引いちゃうよ・・・」




ソファの前に膝を着いて、そっとジークの頬に手を触れる。


少しだけ冷たい。


ドキっとして、すぐに手をとったが、手も冷たかった。





「やだ・・・ジーク・・・?」




鼓動がドクドクと早くなる。




(まさか・・・)




嫌な予感がしてソファの回りを見てみた。
すると何だか怪しい細長いケースが数本転がっている。




「これ・・・・・・ドラッグ・・・?」




手に取って見れば細いケースの中には白い粉。


手から零れ落ち、カラン・・・と音を立てそれが床に転がったのも気づかず、私はジークの体を揺さぶった。





「ねぇ、ジーク・・・? 起きてよ、ジーク・・・!」




彼に何かあったかもしれないと思うと冷静ではいられなくなる。
だが何度か揺さぶると、かすかにジークの瞼が動いた。






「ん・・・・・・・・・・・・?」


「ジーク・・・?」





完全には覚醒していないのか、ジークは目を開けようとはしない。
私は彼の冷たい手を握り締め、もう一度名前を呼んだ。




「ねぇ、ジーク・・・起きて・・・っ」



「ん〜・・・」



「ジーク・・・キャ・・・」





ジークが少し動いたと思った瞬間、握っていた彼の手が逆に私の手を掴んで引き寄せられた。





「ジ、ジーク・・・?」


「・・・ここに・・・いて・・・・・・」


「え・・・?」





やっと返事をしたと思えば、私を抱きしめながら、そんな事を呟いた。
冷えた体がジークの体温をかすかに感じ取る。





「ちょ・・・ジーク・・・寝ぼけてるの・・・?」


「・・・・・・起きた・・・って・・・」





ドキドキしながらも声をかけると、ジークは私の胸元に顔を埋めてボソっと答える。
腰に回された彼の腕に力が入り、私は顔が赤くなった。





「ジ、ジークってば・・・起きてよ・・・」


「ん〜・・・寒ぃ・・・・・・・・・・」





さ、寒いって、こんなとこで寝てるからじゃない・・・っ
それに私は今、顔が火照って逆に熱いわよ・・・






心の中で文句を言いつつ、それでも無理にジークから離れることが出来ない。
冷えた私の手もジークの手も互いの体温で少しづつ暖かくなってくるから。







「ジーク・・・朝ご飯、作ったよ? 食べて早く学校に行こう・・・?」


「・・・もう少し・・・・・・このままで・・・いて」


「だ、だって・・・」






そんなこと言ったって私にも気持ちってものが・・・・・・
し、しかも、そんなに顔を埋められたら心臓がドキドキしてるのバレちゃうじゃないーっ




そんな私の動揺を知ってか知らずか、ジークは更に胸元に顔を埋めて気持ち良さそうにしている。
これって、ちょっとイヤラシイんじゃない?!





「ちょ・・・ジークってば・・・っ」


「んー・・・・・・」


「な、何・・・?」





ジークがしゃべると、その声の振動で胸に何だか刺激を感じるのが凄く恥ずかしい。
だが彼はそんな私の気持ちを煽るような事を平気で口にした。





「・・・ちょっとは成長したんだな・・・・・・」


「は?」


「胸・・・・・・昔に比べたら・・・・・・大きくなってる・・・」


「んな・・・!! 何言ってんのっ?」





その一言で一気に耳まで赤くなった。
するとジークは少しだけ顔を動かし、やっと目を開けると私を見上げてくる。




「他は成長した・・・?」



「ジ、ジーク・・・!!」





もう恥ずかしさもピークに達し、ジークから離れようとした。
だが腰に回された腕は更に私を抱きしめる。





「は、離してよ、ジークのエッチ!!」
「俺がエッチなのは今に始まった事じゃないって」




こ、この〜〜!!
絶対、今までのタヌキ寝入りだわっ
わざと寝ぼけてるフリしてたんだ!




やっと、そこに気づき私は腹が立った。
だが普段のジークとは違うのが少し・・・ほんの少しだけ嬉しかったんだけど・・・



いつも私には素っ気無いのに・・・こんな風に抱きしめてくれるのは初めて―――









「ジーク・・・ど、どうしたの・・・?」
「ん〜? 何が?」
「い、いつもと違うよ・・・・・・?」
「そう?」
「う、うん・・・」




いつもより・・・ちょっと・・・優しい気がするのは気のせい・・・?





ジークは私の言葉に少しだけ笑みを浮かべると、再び顔を胸に埋めた。





「ちょ――」


「この前・・・俺のベッドで寝ちゃった時のこと、覚えてないんだよな・・・・・・?」


「え・・・?」






不意に、そんな事を言われてドキっとした。



この前・・・?
ああ・・・ジークを起こしに行って私が逆に寝ちゃった時のことかな・・・
起きたらジークも隣で寝てて・・・私はそのまま慌てて起きて学校に行ったんだけど・・・。
あの時、私、何かしたっけ?







「ね、ねぇ、ジーク」


「ん〜?」


「私・・・何かした・・・・・・?」


「んー。したって言うか・・・・・・言ったって言うか・・・・・・」


「な、何それ・・・?」


「覚えてないなら・・・・・・いいよ・・・・・・・・・」



「???」






ま、ますます気になるじゃない!!






「い、言ったって何を・・・?」


「だから、いいって」


「よ、よくないわよ・・・」







そう言ってジークの背中をポンポンっと叩くと、彼は少しだけ顔を上げた。






「言ってもいいの・・・・・・?」


「え?」


「もし・・・それを言ったら、、ここから無事では帰れないと思うけど・・・」


「は? どういう・・・意味・・・?」






その意味が全く分からなくて私は首を傾げた。
するとジークはちょっとだけ微笑んで軽く首を振る。






「やっぱいい。今度で」


「はぁ?! 何よ、そこまで言っておいて! 教えてよ、私、何言ったの?」



「いいよ・・・。それより・・・もう少し、こうしてて・・・」


「ちょっとジーク・・・」


「お前・・・あったかいな・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・」







ジークはそう言って甘えるように私を抱きしめた。
私はさっきと同じようにドキドキしてばかりだけど・・・
ジークの顔が凄く安心してるように見えて、少し嬉しくなる。



そっと彼の事を抱きしめ返せば、さっきまで冷えていた彼の体が少しだけ温かくなっていた。







「・・・・・・他の人に温めてもらえば・・・?」





照れくさいからか、思ってもいない事を呟く意地っ張りな私――


だけどジークは私の胸に顔を埋めたまま・・・












「・・・・・・お前がいい・・・」



「――え?」



の体は・・・俺が温めてやるよ・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・・っっ」



「だから―――もう少し、こうして傍にいて・・・・・・・・・・」










そんな嬉しいこと・・・・・・言ってくれちゃうのね・・・・・・



ほんとに・・・・・・寂しがり屋なんだから。






























凍えて悴む手には  まだ少し







                             あなたを助ける温もりはあるかな?




























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これは「天使の寝言」の続編というか、なんちゅーか本中華・・・・・・(寒&古っ!)
んーー甘えん坊のジークーーーなんて書いて見たかったんだヌーン!!
(ミラクルさん?)(by.ココ●コミラクルタ●プ)
ヒロインの想いに気づいてるジークとバレてないと思ってるヒロインでした(笑)
あぁージークになら何度でもグリグリしてあげた――(強制終了!)
最後まで読んで下さり、ありがとー御座いましたー(逃亡っ)