僕に天使が舞い降りた......Love is to for you...










僕の人生が一瞬で薔薇色になった、あの日。
あの日を僕は一生、忘れない。


僕は生涯でたった一人、自分だけの、お姫様を17歳という歳で早くも見つけたのだから・・・














指先に送られたキス





「え?母さんの友達の娘?」
『そうなの。その子が、あんたと同じナショナルユースシアターにね、入りたいらしいのよ。
それで受ける前に色々と見学したいんですって』

"ナショナルユースシアター"というのは青少年が演劇を学ぶ劇団の事だ。
この劇団に入る為、僕は16歳になった時、実家のあるカンタベリーを出てここロンドンへとやって来た。

「へぇ。そうなんだ」

僕は久し振りの母さんからの電話に大した興味もないので、ソファに寝転がって空返事をした。

「その子も将来は業界関係の仕事につきたいわけ?」
『ええ、あなたと同じよ?』
「じゃあ女優ってこと?」
『そうね』
「その子、可愛い?」
『もちろん!もうお人形さんみたいよ?』
「へぇー何?何?じゃあブロンドのフランス人形みたいって事?」
『違うわよ。その子は純粋に日本人。さっき言ったでしょ?』
「そうだっけ?」
『全く、あんたって子は・・・』

母、ソニアは呆れたように溜息をついていて、僕はと言えば母さんが何の為に電話をしてきたのかすら分からない。

「でも、なぁーんだ。日本の子って確かブロンドじゃないよね。ほんとに可愛いの?」
『凄く可愛いわ?と言うより・・・オーランド・・・。あんたの可愛いって基準はブロンドの子にしかないわけ?』
「YES!Of course!!だって僕にないものだし憧れるだろ?キラキラのブロンドに青い瞳はさ!」
『あら、そう。悪かったわね?ブロンドで青い瞳の美少年に生んであげられなくて』
「そ、そんなこと言ってないじゃないか・・・やだなぁ、母さんってば!今でも充分に美少年だろ?僕はさ!あははっ」

母さんがスネだしたので僕は慌てて笑って誤魔化した。
そこでさっさと電話を終わらせようと、母さんの本来の用事を聞いてみる。

「で・・・。その人形のように可愛い子がどうしたわけ?」

と、寝転んだまま、くりくりの癖毛を指に巻きつけながら尋ねると母さんは思い出したように声を上げた。

『そうそう!えっとね、だからちゃん・・・あ、その子ちゃんって言うんだけどオーランドに劇団を案内してあげて欲しいのよ』
「・・・・・・はぃ?」
『いいでしょ?案内するくらい』
「ちょ、ちょっと待ってよ、母さん!何で俺が?!」

僕は母さんの突然の申し出に驚き、思わずソファからガバっと起き上がった。

『いいじゃないの。案内して話を聞かせてあげるくらい。ちゃんイギリスに来てからロンドンには親としか行った事がないのよ』
「い、いいじゃないって、そんなこと言われても・・・」
『つべこべ言わない!教えなかった?人には親切に、女の子には優しく紳士にって!』
「・・・・・・教えて頂きました」
『なら女の子一人くらい案内してあげなさい!』
「・・・・はい、案内させて頂きます・・・・」

母さんの迫力についつい僕は頷いてしまった。
だが、その後の言葉にさらに驚く事になる。

『よろしい。じゃ、ちゃん明日、そっちに行くからあんた迎えに行ってあげてちょうだいね?』
「は?明日?!」
『そうよ?明日は休みでしょ?あんた。ちゃん明後日にはオーディションなの。
でも彼女の両親は仕事でどうしても一緒に行ってあげられないって言うから。
だったら"うちのバカ息子もそこへ入団してるし案内させるわ"って言っちゃったの』
「い、言っちゃったのって・・・・俺明日は・・・デート・・・」

母さんのあっけらかーんとした物言いに僕は当然、約束がある事を主張した。(かなり弱めにだけど)
だがすぐさま"脅し"が入る。

『女の子には?』
「ぅ・・・・。や、優しく紳士に・・・・」
『そう。その精神で頑張って。デートなんていつでも出来るでしょ?それよりちゃんと駅に迎えに行くのよ?
ちゃんに冷たい態度取ったり、泣かしたりしたら仕送り止めて今借りてるフラットにいられなくしてやるからね?!』
「そ、そんな・・・!」

(そ、そりゃ、ないよ、母ちゃん!!)

『それが嫌ならちゃんをちゃんと面倒みて。あ、あと色々と観光にも連れて行ってあげて。ロンドン行くの凄く楽しみにしてたから』
「はあ?いったい何日、こっちに滞在するんだよ?」
『3泊4日よ?何か文句ある?』
「・・・い、いえ・・・何もありません・・・」
『そう?物分りのいい息子を持つと、ほんと助かるわ?じゃ、宜しくね?ちゃんと夜、確認の電話入れるから』
「え?ちょ・・・」


ブツ!ツーツーツー・・・



空しい音が聞こえて来て僕は唖然としつつも受話器を置いた。
そして一気に髪を掻き毟る。

「うがぁぁ〜!!何で俺がそんな女の子の面倒みなくちゃいけないんだよ!こっちはデートで忙しいってのにっ」
そう、僕は明日お目当ての女の子とのデートだった。
何度か口説いてやっとデートまでこぎつけたってのにどうしてこうなるんだ!

「はぁ・・・怒るだろうなぁ、セシーのやつ・・・」

そう呟き、溜息交じりでもう一度受話器を取る。

でも、ここで母さんの言う事を聞かなければほんとに仕送り止められるだろうし・・・
そうなればここの家賃だって払えなくて友達の家を転々とするハメになる!
そんなかっこ悪いことだけは嫌だ。

「はぁぁ・・・やっぱ断るしかないか・・・」


僕は泣きそうになりつつも、セシーの家に電話をかけたのだった――











「えっと・・・3番ホームつってたな・・・」

僕はメモを見ながらパディントン駅のホームを歩いていた。
今朝は母さんからの電話で起こされ(夜かけるって言ってたくせに)昨日言い忘れてたというその女の子の特徴と、乗ってくる電車の車両を教えてきた。
その子もカンタベリー・・・というか、僕の実家のすぐ傍に住んでるらしく、そこからロンドンまで出てくるようだ。


「ふぁぁぁ・・・」

特大の欠伸をしつつ、お目当てのホームまで来て、彼女が乗ってくるという車両が止まる辺りへとやってきた。
そして鉄柱に寄りかかり、帽子をぐいっと下ろし日よけにする。

全く・・・昨日は参ったよ・・・
セシーはめちゃくちゃ怒るし、もう二度と誘ってもOKしてもらえないだろうな・・・。

僕はロンドンで演劇の勉強もしていたが、やはり16歳で一人暮らしなんて始めると
思春期真っ盛りだった少年だし色々な遊びにも手を出していた。
女遊びなんて数知れず。
友達の開くパーティに参加してはそこで知り合った子とデートをしたりしていた。
互いに意気投合すれば、もちろん深い関係にだってなってしまう事もしばしば。
そんな事を一年は続けていて今では劇団仲間からも"女好き"呼ばわりされている。
人の事をそんな代名詞で呼ぶなって感じなんだけどね、僕としては。
だいたい男なんだから女の子大好きで、どこが悪いんだ?
皆だって好きなくせに、ほんと、よく言うよ!

それにしても・・・その子、可愛いって言っても日本人だろ?
興味ないんだよなぁ・・・
これがブロンドの可愛い子だって言うんなら、もっと張り切るんだけどさ。
それに歳だって16歳になったばかりだって言うし・・・・・・
まあ、僕も、この前17歳になったばかりなんだけど。
今まで付き合ってきた子達はたいがい年上ばかりで、いくら女の子大好きって公言してる僕でもそんなガキんちょには興味ないって感じだ。

「はぁ・・・そう言えば去年くらいに母さんが言ってたっけ・・・」

近所に引越してきた日本人夫婦と家族ぐるみの付き合いしてるって。
奥さんがまたいい人ですっかり仲良くなったようだった。
今日来るのはその人の一人娘って事か・・・
ま、適当に劇団内を案内して観光させればいいっか・・・
なるべく友達に会わないようにしないと・・・
そんな子供連れて歩いていたら何を言われるか分からない。

その時、電車の近づいてくる音が聞こえて来て、僕は帽子を少しだけ上げて顔を向けた。
すると、時間どおりに、その女の子を乗せてると思われる電車がゴォォォォっという唸りをあげホームに滑り込んでくる。

「来たか・・・」

寄りかかっていた鉄柱から体を起こすと、僕は女の子が下りてくるであろう車両のドアが止まりそうな場所まで進んだ。
暫くして電車が完全に止まり、プシュ〜っという音と共にドアが開くと大勢の人がドっとホームに流れ出てくる。
この中で人探しをするのは大変だ。

えっと・・・黒いストレートの髪の女の子・・・だっけ。
確か、胸元よりも少し長めだとか言ってたな・・・
身長は、かなり小さめ・・・・小さいって言っても、まさか120センチとかじゃないだろうな?!
日本人は小柄だって聞くし・・・

下りてくる人の群れの中にその条件に合う子を探してみる。
最初はサラリーマン風の男性陣ばかりだったが、その後には高校生やらOLっぽい女性が下りてくる。
僕は必死に黒っぽい髪の子を目で追うも、どれもブルネットだったりして日本人ではない。

「おかしいな・・・」

それっぽい子が見当たらなくて僕は首を傾げた。

確かにこの電車なんだけど―――

そう思った時、ぽんほんと背中・・・というか腰に近い辺りを叩かれ、ドキっとして振り向いた。

「あ・・・れ?」


振り向けば、そこには小さな少女が大きな黒い瞳で僕の事を真っ直ぐに見上げている。
可愛らしいニットの帽子を被り、そこから垂れている長い髪は確かに日本人特有の黒髪だった。

「君・・・」
「あなた・・・オーランド・・・さん?」

おずおずと聞いてくる、その声は緊張からか少し上ずっている。
僕はそこで、この子が探してた子だと核心を得て、すぐに笑顔を見せた。(この辺り俳優してるだけあって切り換えも早い)

「うん、そうだけど・・・。君がちゃん?」
「あ、は、はい・・・」

僕が笑顔を見せるとその子はホっとしたように笑顔を見せて頷いた。
だが僕は、一体この子はどこにいたのだろう?と疑問に思い、なるべく優しい口調で、

「えっと・・・ちゃん、どこに乗ってたの?ここの車両って聞いてたんだけど・・・」
「あ、あの・・・私、間違えちゃって一つ前の車両に・・・」

僕の問いに突然わたわたとしながら慌てているその少女に僕も焦ってしまった。

「あ、い、いいんだ。急に後ろから来たから驚いただけで・・・って、あれ?でも・・・よく俺がオーランドだって分かったね?」

そこに気付き彼女を見れば、その少女はニコっと笑顔を見せて肩から下げているバッグからゴソゴソと一枚の写真を取り出した。

「これ・・・ソニアおばさんが持っていっていいって・・・・」
「え?これ・・・俺の写真・・・?」
「はい」

その子が差し出した一枚の写真。
それは僕がロンドンに出て来る時、駅で撮られたものだった。
電車の窓から笑顔で手を振ってるもので今と、そう変わらない。

(そうか・・・これを見て分かったんだ。でも帽子を深く被ってたのに・・・)

と、そこまで考えて、ふと気付いた。

(あ、そうか・・・この子、凄く小さいし下から見れば顔なんて丸見えだ・・・だから分かったのか・・・)

そう思ったら何だかおかしくなってきた。

「あ、あの・・・オーランドさん・・・?」
「え?ああ、ごめん。それと、別に"さん"はいらないから、俺のことはオーランドって呼んで?」
「で、でも・・・」
「いいから気にしないで。俺も君のことって呼んでいい?」

僕が笑顔で聞くと以外にも彼女は嬉しそうな笑顔を見せてコクンと頷いてくれた。
その笑顔は僕が今まで見たどの笑顔よりも奇麗だった。

(は・・・!い、いけね・・・。つい見惚れちゃったよ・・・)

ちょっと不意打ちをくらったような感覚になり目の前の彼女を見た。
帽子を被ってるので顔全体のイメージは分からないが、それでも母さんが言ってた通り"凄く可愛い"というのは分かった。
くりっとした大きな瞳はブラックオパールを思い出させる。
凄く澄んだ奇麗な瞳で、きっと汚い事なんて何も知らないんだろうな・・・って思うような、
まさに"純粋"という言葉がピッタリな感じだ。
僕の周りには全くいないタイプという事だけは間違いない。


「あっと・・・見学したいんだったよね?」
「あ、はい。あの・・・すみません、こんなこと頼んじゃって・・・」
「いいよ。僕もどうせ今日は休みで暇だったし」

ほんとはデートだったが、ついそんな事を言って優しく微笑む。
すると彼女、もまた嬉しそうに微笑んでくれた。

「じゃ、早速、行こうか?」
「はいっ」

("はい"だって・・・かっわいいの・・・)

僕は普段、聞きなれない可愛らしい返事に、つい笑顔になった。
そして彼女が持っている重そうなバッグを変わりに持ってあげようと、「貸して。持ってあげる」と言って手を伸ばした。
だが、その時、は慌てたように首を振ってガッシリとバッグの取っ手を握り締めてしまう。

「い、いいです・・・」
「え?でも・・・重いだろ?」
「だ、大丈夫です・・・」
「いいよ。貸して?」
「わ、悪いです」
「悪くないよ。君みたいな華奢な子にこんな重そうなバッグ持たしてたら俺が冷たい男だって思われちゃうしさ」

なるべく気が軽くなるように、と、そう言った・・・つもりだった。
だがは余計に慌てて、

「そ、それは困ります・・・っ」

と、今度はパっとバッグを手から離してしまい、予想もしていなかった僕はそれを取り損ねた。
なのでバッグはボフっと音を立て地面に落ちてしまい、彼女は、「あ・・・」っと声を上げている。

「あらら・・・」
「ご、ごめんなさい・・・私・・・っ」
「ああ、いいよ。気にしないで?」

オタオタする彼女に笑顔でそう言うと僕はバッグを持ってあげた。

「これは俺が持つからさ」
「ご、ごめんなさい・・・」
「?何で謝るの?」
「だって・・・持ってもらうの悪いから・・・」
「どうして?だって俺から持つって言ったんだよ?」
「・・・・・・・・・」

(あれ・・・黙っちゃったよ・・・僕、何か悪い事言ったっけ・・・?)

そう思ってマズイ・・・と思っていると不意にが顔を上げて、「あの・・・ありがとう・・・」と小さい声ながらも、お礼を言ってくれた。
その言葉に僕も自然に笑顔になる。

「いいってば、こんな事くらい。それより行こう?」
「はい」

は、また可愛らしい返事をして笑顔で頷いた。
僕もニコっとしながら駅の外に出るべく歩いて行く。
だが、後ろを振り返るとが必死にトコトコ小走り状態でついてくるのに気付き、足を止めた。

「あ、ごめん・・・。俺、歩くの速いね?」
「あ、違います。私が遅いだけで・・・」
「いいよ。に合わせよう?疲れちゃうだろ?」
「でも・・・」

ほんと小さな事で気にする子だ。
僕が今まで接した事のないタイプで少し調子が狂うが、何となく顔が自然に綻んでくるのは何でなんだろう?
その時、他のホームにも電車が到着したのか、駅の構内には人が溢れてきた。

「っと・・・こんな混雑してたら迷子になっちゃうから・・・。はい、手、繋ごう?」
「えっ?」

僕の何気ない一言には凄い驚いた顔をした。

「ほら、はぐれたら困るから。はい、手」

そう言っての手をそっと繋いだ。
そして、その小ささに、かなり驚く。

うわぁーこの子、手が小さいよっ!
僕の手にスッポリ納まっちゃうし・・・まるで子供と手を繋いでるみたいだ。
でも、何だか、凄く可愛いんだけど。

そんな事を思いつつ、ふとを見れば彼女はずっと俯いたまま。

、どうしたの?」
「い、いえ・・・こんな風に男の人と手を繋ぐの初めてで・・・ちょっと恥ずかしい・・・です」
「え?嘘だろ?手も繋いだ事ないの?!」
「う・・・あ・・・あの・・・変ですか・・・?」
「え?い、いや変じゃないよ?ごめんね?余計なこと言って・・・。と、とにかく行こう?」
「はい・・・」

何だか泣きそうな顔になってしまい、僕は慌てて笑顔で彼女の頭を撫でた。
そのまま二人で手を繋ぎ、駅の前まで出ると、そこからタクシーに乗り込む。
その間、は下を向いて黙ったままで僕はやっちゃったかな・・・?と心配になった。

それにしても・・・16歳にもなって男と手をつないだ事すらないなんてどんな学校生活送ってきたんだろう?
僕が15、6歳の頃なんてとっくに初体験も済まして(!)手を繋ぐなんて当たり前っていうか序の口だったんだけどな・・・
それに女の子だってマセてて男の子と付き合うのがステータスって感じの子が多かったし・・・
この子って、じゃあ今までに誰とも付き合った事がないって事なのか?

僕はあまりに珍しいタイプのに、少々驚きつつ、じゃあ扱い方も気をつけないと・・・なんて思っていた。
いつもの調子でやっちゃえば泣いてしまいそうだ。
そんな事を考えているとタクシーが劇団前に到着した。
今日は休みなので人も少ない。

「さ、ここだよ?」
「わぁ・・・・」

支払いを済ませを連れて下りると、はやっと顔を上げて嬉しそうな笑顔を見せた。

「凄いです・・・。ここで皆、演劇の勉強するんですねっ」
「そうだよ?俺も毎日、ここで勉強してるんだ」

そう言いながら中を歩いていくと、またしても歩くのが早かったのかが小走りになってる事に気づき足を止めた。

「大丈夫?」
「え?あ、はい」

そうは言うものの少し息が上がってるのは気のせいじゃないだろう。
ちょっと歩いただけで息切れしてる彼女に自然に笑顔になった。

「ごめんね。ゆっくり歩くよ」
「い、いえ大丈―?」

歩く波長を合わせるのに再び手を繋げばまたしても固まる
だが、このくらいは慣れてもらおうとそのまま歩き出す。

「こうしてた方が一緒に歩けるからね?」

僕がウインクしながらそう言うとは頬を赤くしながらコクンと頷いてくれてホっとした。

ほんとに照れてるんだ。
頬なんて赤くしちゃってほんと可愛い。
母さんの言ってた意味が何となく分かるかも。
お人形さんみたいってのは僕が言ったようなものではなくてイメージが、ということなんだ。

そんな事を思い納得をしつつも、僕はを色々な場所に案内してあげた。
皆でリハーサルをする講堂や、それぞれの教室。
そして劇をするステージ。
はその度に満面の笑みになり、「わぁ・・・凄い・・・素適です」と目をキラキラさせる。
そんな彼女を見てると僕もだんだん楽しくなってきて、ちょっと驚いた。
暫く歩き回った頃、ふと時間を見ればお昼に近かった。

、疲れたろ?少し休まない?」
「え?」
「もうランチの時間だし、どこかで食事しようよ」
「で、でも・・・」
「?もう結構見て周ったし説明もしたから大丈夫だろ?」
「は、はい。それは・・・・」
「じゃあ、行こう?俺、お腹ペコペコでさ?朝から何も食べてないんだ」
「そ、そうなんですか?すみません、それなのにこうして案内してもらって・・・」

僕の言葉に勘違いしたのか、また慌てだす彼女に僕もまた慌てて首を振った。

「い、いいんだって。そんなの。俺、一人暮らしだから朝食とか作ってまで食べない事も多いんだ」
「そう・・・なんですか?」
「うん。だから気にしないで。さ、行こう?もお腹空いたろ?」
「はい・・・」

彼女は少しだけ微笑んでやっと頷いてくれた。
そこで二人で劇団から程近い、いつも仲間とランチを取りに来るカフェへと向う。



「ここのシーフード美味しいんだ。、シーフードは好き?」

いつもの店のいつもの席(窓際)にを案内してから尋ねた。

「はい、好きです。オーランドさんは?」
「俺は大好き。って、"さん"はなしって言ったろ?」
「あ、す、すみません・・・っ」

苦笑気味に言った僕の言葉に、はペコっと頭を下げて謝ってきて、ちょっと驚いた。

(日本人って、ほんとに、すぐ頭を下げるんだ・・・)

なんて変な事を思い出しつつ、それでも笑顔を見せる。

「そんな謝らないで。それよりオーランドが呼びにくいならオーリーでもいいからさ」
「・・・オーリィ・・・?」
「そう。仲間は大抵そう呼ぶし。ニックネームだよ」
「そう呼んでもいいんですか・・・?」
「もちろん。ね、呼んでみて?」
「え?」
「オーリーって呼ぶ練習」
「・・・・・・・・・」

僕が笑顔でそう言うとはパっと視線をそらし、何だかモジモジしている。
だがジっと待ってると、やがてゆっくり顔を上げて目は伏せたまま、

「オ、オーリィ・・・?」

と言ってくれた。

「うん、そうそう。いい感じ!」

おずおずと名を呼ぶ彼女が可愛いなと素直に思いクシャっと頭を撫でると、も嬉しそうに微笑んでくれた。
だが撫でた事で被っていたニット帽が少しだけズレてしまい、はあたふたして帽子を抑える。

「あ、、店内では帽子、取った方がいいよ?俺も取るからさ」

そう言って先に帽子を脱ぐと、も、「あ、そか・・・」と呟いてニット帽をパっと取った。
その時、初めて目の辺りまで隠れていた彼女の顔が全て見えることになる。


「・・・・・・・・・っ」
「・・・?」


言葉が出てこなかった。
帽子を取る事で額も眉も露わになったの顔を見て僕は本気で見惚れていた。
奇麗なラインの額にかかる黒髪と、その髪に隠れるように見える形のいい眉に、あの大きな瞳に揺れる長い睫毛。
ほんと吸い込まれそうな・・・・という表現はこういう時に使うものじゃないのか?と変な事を考えていた。
東洋人にしてはスっと伸びた鼻に小さな唇。
全体的に凄くバランスの取れてる顔で、東洋人というよりはオリエンタルなイメージ。
ブロンド以外の子を可愛いと思ったのは、本当に初めてだった。

「オ、オーリィ・・・?ど、どうかしましたか・・・?」
「え?あ、い、いや・・・」

急に黙り込んだ僕に気付き、は心配そうな顔を見せる。
そんな彼女に僕はハっと我に返り、すぐに笑顔を見せた。
そして、またしても感じたままを口にする。

・・・帽子取ってた方がいいんじゃない・・・?」
「え?」
「凄く・・・可愛いんだからさ」
「・・・・・・っ」

つい素直な感想を言ってしまった。
だがは真っ赤になって首をふるふると振り、また俯いてしまう。
そこへ店員が注文を取りに来て僕は現実に引き戻されたような気分になり、さっさと料理を頼んだ。

「料理は、これで・・・・。えっとは飲み物は?」
「あ、あの・・・・私、ホットミルク・・・・」
「え?ホットミルクでいいの?」
「はい・・・あ、蜂蜜入りがいいです」
「!! ぷ・・・っ」
「・・・??」
「・・・え、えっとじゃあ・・・僕は紅茶・・・。で、ホットミルクに・・・蜂蜜入れて・・・下さい・・・。(声が何気に震えている)」
「はい、畏まりました」

店員も何だか笑顔で頷くと、すぐにメニューを下げ歩いて行った。
僕は何だか笑いが込み上げて来て必死に我慢するのに下を向き手で口を抑える。

可愛い・・・!めちゃくちゃ可愛いよ、この子・・・!
今時、ホットミルクに蜂蜜入れて、なんて可愛すぎる・・・!

何故だか僕のどこかのツボにクリーンヒットしたらしく、胸の奥からドンドン熱いものが込みあげて来る。
それと同時にニヤケる顔を僕は必死に隠していた。
だが肩が震えていたのに気付いたのか、が不思議そうな顔で首を傾げる。(この仕草が、また可愛い!)

「あ、あの・・・オーリィ・・・?どうかしましたか・・・?」
「あ、い、いや・・・何でもないんだ・・・。ご、ごめんね?」

必死にニヤケ顔を直し、何とか顔を上げ微笑むとは安心したようにニッコリと微笑んだ。

あ〜その笑顔も可愛いな・・・
今時、こんな純情少女がいることじたい驚いたけど、でも何だろう?
胸がキューンとなっちゃったよ・・・っ

何だかそれだけで楽しくなり、面倒だと思っていた事が凄く楽しくなってきた。

「あ、あのオーリィ・・・」
「ん?何?」

"オーリー"と呼ぶ声すら可愛く感じてニコニコ(デレデレ?)しながらも彼女を見れば大きな黒い瞳が僕を見ていた。

「あのオーリーは今のユースシアターで勉強してますけど大変ですか?」
「ああ、そっか。も明日にはオーディション受けるんだよね?」
「はい・・・ちょっと怖いです」
「大丈夫だよ。演じる事が好きなんだってアピールさえすればね?」
「はい、それだけは誰にも負けません」

初めてハッキリした口調でそう言ったは本当に演じる事が好きなんだと思わせるほど瞳に力があった。

「だったら大丈夫!頑張って?明日は俺もついて行ってあげるから」
「え?オーリーが・・・?」
「うん。一人じゃ心細いだろ?」
「はい、でも・・・オーリーも勉強が・・・」
「いいんだ。明日は今度の公演のリハだけだし。それ終わらせたらオーディション会場まで行くよ」
「・・・・・・」
「ん?俺が行くの嫌?」

少し俯いてしまったの顔を覗き込んでそう言えば急に顔を上げてふるふると首を振る。

「そんな事ないです・・・!凄く・・・嬉しいです・・・」
「そう?なら行くね?」
「はい」

あぁ〜可愛い。
つい、そんなつもりじゃなかったのに明日も行くなんて言っちゃったよ。
だって・・・、ちょっと世間知らずなとこがあって心配だからね。
それにの演技してるとこも見てみたいし。

そんな事を思いながら、彼女と楽しくランチを取った。
そして食後の紅茶、はホットミルク(蜂蜜入り)を飲んでる時、ふと、思い出した事があり聞いてみる。


「そう言えばさ、今夜、どこのホテルに泊まるの?」
「え?ホテル・・・ですか?」
「うん。その辺、母さん何も言ってなかったんだけど・・・予約してあるんだろ?」

僕がそう尋ねるとは困ったように俯いてしまった。

?どうした?」
「あ、あの・・・聞いてないんですか?」
「へ?何を?」
「・・・・私・・・オーリーのフラットに泊めてもらいなさいって言われて来たんですけど・・・」
「な、何だって?!」

あまりに驚いたため、ガタガタ・・・っと音を立て椅子から腰を浮かせてしまった。
その音にもビクっとしたように顔を上げ不安げな瞳で僕を見上げている。

「あ、あの迷惑なら私・・・・」
「え?い、いや、そうじゃなくて!」

泣きそうなに僕は急いで椅子に座りなおすと、

「ほ、ほんとに俺のとこにって・・・言ったの?母さんが?」
「は、はい・・・。あの・・・。一人でホテルは危ないからオーランドのとこに泊めてもらいなさいって・・・」
「・・・・・・っっ」


う、嘘だろぉう?!
母さん何を考えてんだよ!
僕には何も言わないでそんなこと勝手に決めて、こんな女の子に男の部屋に泊めてもらえなんて!
僕だってもう子供じゃないんだよ?
い、いやは・・・子供みたいだけど・・・・・

「あ、あのオーリィ・・・?やっぱり私、今からホテル探します・・・」
「え?ど、どうして?」
「だって・・・オーリー迷惑でしょ・・・?」
「め、迷惑とかじゃないんだ・・・。その・・・何も聞いてなかったから驚いただけ!うん!だから気にしないで。ね?」
「でも・・・」
「いいんだ。きっと母さん俺に言い忘れてたんだよ。俺なら構わないからさっ」

何だか焦りつつも彼女を泊める事を承諾してしまった。

だって・・・確かに彼女一人、知らない街の知らないホテルに泊めるのは心配だ。
大丈夫!僕にだって理性くらい持ち合わせてる!
まさか僕だって母さんの友達の娘に手は出さないよ、うん!(人事か?)
大丈夫だろう?オーランド!そこまで鬼畜じゃないはずだ!

何だか自分自身と相談しつつ、よし大丈夫!という結論に達した(!)

「じゃ、じゃあ・・・俺のとこに泊まって?部屋は二つあって使ってない部屋があるしさ?」
「いいんですか・・・?」
「う、うん。いいよ?」

ってか、それは僕が聞きたいよ・・・
この子、会ったばかりの男の部屋に泊まるって自覚があるのかな?
いくら親同士が友達とは言え、不安じゃないんだろうか。

だが僕の考えを打ち消すようには微笑んだ。

「じゃあ・・・お世話になります」

そう言ってペコっと頭を下げたが、とっても可愛くて早くも僕の中にかすかに残ってる理性の"り"の字が崩れかかる。

ハ!いけない、いけない!この子はまだ子供なんだ・・・
そう・・・男女の事なんて全く知らない純粋無垢な子供!

そう思い直し、僕は彼女を部屋に連れて行くべく、そのカフェを出た。

「俺のフラット、ここから近いんだ」
「そうなんですか。いいとこですね?」

はニコニコしながら僕の手に引かれてついてくる。
そんな彼女に僕もニコニコしながら歩いていると、その笑顔が一瞬で消え去るほどの衝撃が襲った。


「おぉ!オーランドじゃん!!」
「あれぇ?オーリー!」


(げげ!!マ、マットにジョン!!な、な、何で、ここに・・・!!)


僕は前から手を振りつつ走ってくる劇団の仲間二人に血の気がサァ〜っと引いていくのを感じた。

「オーリーのお友達ですか?」
「え?あ、う、うん・・・まあ・・・」

引きつった笑顔で頷いた時、悪友二人は目の前まで来ていて、僕が連れてるに驚いた顔を見せた。

「っと・・・この子誰?」
「い、いや・・・」
「オーリー今日はセシーとデートだったはずだろ?てっきりそうかと思えば・・・何?別の子?」
「ちょ、ジョン・・・!」

二人の無神経な言葉に僕一人焦って、慌てての手を離すと二人の肩を抱いて彼女から離れた。

「ちょっと母さんから頼まれて知り合いの子を案内してんだ。うちの劇団のオーディション受けるって言うんで」
「へぇーそうなんだ?でも、あの子何歳?12〜3歳に見えるぞ?」
「お前いつからロリコンになったんだ?いたいけな少女を騙してるんじゃないよなぁ?」
「バ、バカなこと言うなよ!」

思わず大きな声を出してしまい、慌てて手で口を押えると後ろで待っているには笑顔を見せた。
するともニコっと微笑んでくれる。

「あ、あの子は、ほんとそんなんじゃないんだよ!頼まれて仕方なく・・・それに、あの子16歳だよ」
「嘘?!見えないぞ?」

今はもニット帽を被って先ほどのように顔がよく分かりづらく幼く見えてるようだ。

「見えなくてもそうなの!だからロリコンとか言うな!それと!他の奴にも余計なことベラベラしゃべるなよ?OK?」
「へいへい!分かったよ。でも紹介くらいしろよな?」
「そうそう。俺達の後輩になるかもしれないんだからさ」
「うぅ・・・分かったよ・・・」

僕はあまり気乗りしなかったが、二人に、さっさと行って欲しくて仕方なくに手招きして呼んだ。

「はい、何ですか?オーリー」
「あ、あの、こいつら―」

「かっわいいぃ〜!!」
「ほーんと!!"はい。何ですか"だってさ〜!!」

「ちょ・・・おい・・・!」

二人は僕と同じくみたいな子とは全く縁がないので彼女の返事が新鮮だったのか、いきなり大騒ぎし始めた。
だがその声に驚いたのは僕だけじゃなく、も同じでビクっとしたかと思うと僕の後ろにサっと隠れてジャケットにギュっとしがみ付いてくる。
その仕草に僕の胸がまたしてもキューンっと鳴った気がした(!)

「うひゃー可愛い!隠れちゃったよ〜!」
「オーランドに隠れるなんて、分かってないね〜?一番、危ないのはこいつだってのにさぁ〜!」
「お、おい、いいから黙れよ!もういいだろ?行けよっ」

僕はこいつらにを紹介する気すら失せて二人の背中をグイっと押した。

「何だよ〜。分かったよ、邪魔しないって!」
「ま、お守、せいぜい頑張れよ?オーランド!また明日な?」

二人は呆れたように笑うと好き勝手な事を言いながら歩いて行ってしまった。
僕は思い切り溜息をつくとハっと思い出し後ろに隠れているを見る。

「ご、ごめんね?あいつら同じ劇団の仲間でさ・・・デリカシーないから・・・」
「い、いえ・・・私もごめんなさい・・・。変な態度しちゃって・・・驚いちゃって・・・」
「い、いいんだよ。は何も悪くないよ」

僕は未だしがみついてるの手をそっと外すとその手を両手で包んだ。
それだけで頬を赤くして見上げてくるに僕の胸のキュンキュン度が更にアップしていく(!)

「あ、じゃあ・・・行こうか」
「・・・はい」

またしても可愛い返事をするに笑顔を見せて、そのまま手を繋いで僕のフラットまで歩き出す。


今夜は何だか彼女と色々な事を語り合いたいと思った。



















「母さん、何考えてるんだよ・・・っ」
『あーら何が?』
「何がって!!」

僕は約束通り夜、電話をかけてきた母さんに思わずそう怒鳴っていた。
今ははバスルームにいる。
一緒の夕飯を食べ終え、寝る前にシャワーに入っておいでと言ったのだ。
僕はバスルームの方に視線を向けコホンっと咳払いをした。

「と、とにかく彼女に、僕のとこに泊まれって言うなんて・・・っ」
『いいじゃないの。だって心配でしょ?殆どカンタベリーから出たことない子だし、ちゃんの両親も是非、そうしてくれって言うし・・・』
「はあ?何考えてんだ、の両親はっ」
『私の息子って事で信頼してくれてるんじゃない。それとも何?あんたちゃんに何かしようとでも思ってるわけ?』
「バ・・・バカ言うなよ!僕だってそこまで落ちちゃいないよ!」

とんでもない事を言う母さんに僕は顔が赤くなってしまった。
(いや確かに、さっき理性の"り"の字が崩れかかったんだけど)
だが母さんは呑気に笑っているようだ。

『じゃあ、いいじゃない?私もオーランドを信じているわ?だからちゃんの事、ちゃんとお願いね?』
「え?ちょ・・・母さん・・・?!」


ブツ・・・ツーツーツー・・・・


「またかよ!先に切るな、先に!」

僕はバンっと受話器を叩きつけ、そう怒鳴った。
その時、カタン・・・と音がしてハっとする。

「オーリィ・・・?どうしたんですか?」
「あ、・・・」

その声にドキっとして振り向けばそこにはホコホコと湯気に包まれたが可愛らしいパジャマを着て立っていた。
湯上りだからか頬がピンク色に染まり何とも可愛らしく、それでも濡れた髪が垂れていてドキっとするくらい女の子を感じさせる。
ちょっとやましい気分になりかけ直視できず、怪しく視線が泳いでしまった。

「オーリィ・・・?」
「え?あ・・・いや・・・えっと・・・スッキリした?」
「はい。ありがとう御座います」
「い、いいんだ、そんなの。あ・・・何か飲む?」
「いえ・・・あ、じゃあミネラルウォーターを・・・」
「OK」

僕は急いで冷蔵庫を開けるとミネラルウォーターを出してコップに注いだ。

「はい」
「あ、ありがとう御座います」

は笑顔でコップを受け取ると喉が渇いてたのかコクコクと一気に飲んでいる。
その姿は昔飼ってたハムスターを思い出させて顔が綻びつつ、ソファに腰をかけた。

「ね、。明日のオーディション頑張ってね?」
「はい。でも・・・ちょっとドキドキしてます」

はそう言ってコップをキッチンに持って行くと、ちゃんと洗ってくれている。
そして洗い終わると、トコトコと僕の方まで歩いて来たので自然に腕を掴んで隣に座らせた。
はちょっと驚いた顔で僕を見上げている。
その顔にニッコリ微笑んで頭を撫でてあげた。

が受かれば後輩になるだろ?そしたらいつか一緒に舞台にあがれるかもしれないしさ」
「そ、そうなれば嬉しいです・・・」
「だから、なるように明日頑張らないとね?」
「は、はい。頑張ります」

は嬉しそうに笑顔で頷いた。
それが可愛く、僕はある提案をした。

「じゃあ・・・もし受かったら・・・お祝いに何か買ってあげるよ」
「え?」
「ん〜そうだなぁ。劇団に通うのに必要な物とかがいいかな?」
「い、いいです・・・。そんな事・・・」
「えぇ〜何でぇ?」

サクっと断られて僕は口を尖らせた。
そんな僕を見ては、ますます慌てたように、「悪いですから・・・」と首を振る。
そうされると何だか寂しいなんて思ってしまうのは何故なんだ?

「悪くないよ。お祝いなんだからさ。それとも、何か欲しい物ある?何でもいいから悪いと思わないで言ってよ」
「でも・・・」
「でも、はなし!さ、お兄さんに言ってごらん?」
「お、お兄さん・・・?」
「そう。俺、そう言えばみたいに可愛い妹が欲しかったんだよねぇ?さっき、それをふと思い出してさ」
「妹・・・欲しいんですか?」
「うん。でも最悪な事にうちには愚姉しかいなくてさ」
「あ、サマンサお姉ちゃん・・・」
「あ、会った事あるんだ?」
「はい。凄く奇麗で憧れです」
「えぇ〜?あんなのに(!)憧れなくてもいいよ」
「そ、そんなこと・・・」
「ま、そういうわけで見てると妹がいればこんな感じかなぁって思ったら何かしてあげたくなって。だから遠慮せず言ってごらん?」

そう言っての頭をナデナデすると彼女はモジモジしていたが、不意に顔を上げた。

「く、くつ・・・」
「え?」
「靴が・・・欲しいです・・・」
「靴?」
「はい・・・。サマンサお姉ちゃんが履いてたんです。凄く可愛い靴・・・」
「サマンサが?どんな靴?」
「えっと・・・白い可愛いミュール・・・」
「ああ、ミュール。それが欲しいの?」

僕が尋ねるとは恥ずかしそうにコクンと頷いた。
こういうとこは、やっぱり女の子なんだなぁと、僕も嬉しくなってくる。

「そういう事なら俺に任せて!女の子の靴を選ぶのだけは誰にも負けないんだ」
「え?」

ちょっと、おどけたようにそう言えばは驚いた顔で僕を見た。
そしてクスクス笑い出し、僕もつられて笑顔になる。

「オーリーって面白いですね」
「そう?」
「はい、面白いです。ソニアおばさんが言ってたのと、だいぶ違う・・・」
「え?何?母さん、俺のこと何て言ってたの?」

僕は嫌な予感がしてそう聞くと、は顔を少し伏せてからチラっと見上げてきた。


「あの・・・落ち着きがなくて・・・いるだけで騒音みたいだって・・・・・・」
「な・・・っ」


(何て事を言いやがるんだ、あの愚母わっ!!)

僕はそんな事を言われてたのかと一瞬、顔が引きつってしまった。
それに気付いたのか、元から言いづらそうにしていたはますます顔を伏せて、何故か、

「ごめんなさい・・・」

と謝ってくる。
それには僕も慌てて笑顔を作り、

「そ、そんなが謝らなくていいってば!ほ、ほら俺、確かにうるさいからさ、普段は!」

と何故か自分で自分の事をけなしてみる。
だがはふるふると頭を振って、

「そんな事ないです。オーリーは優しくて大人だし、うるさくないですよ?」

と必死に言ってくれた。
その温かい言葉にジーンときてしまい、思わずをギュっと抱きしめる。
だが、それに驚いたのかが飛び上がってしまった。

「ひゃ・・・っ」
「うぁ、ご、ごめん!ごめんね?つい、いつもの調子で・・・あわわ・・・い、いや何でもないない!とにかく、ごめん!」

しどろもどろになりつつパっと腕を離すと、の顔は真っ赤になってしまっている。

(うあ・・・抱きしめただけでこんな真っ赤になる子、初めて見たよ・・・)

なんて変なとこで感動してしまう自分にハっとした。

「え、えっと・・・何の話だっけ…。あっと、そうだ。だから・・・オーディションに受かったら・・・
俺がに真っ白なミュールを買ってあげるね?」

最初の話題に戻すべくそう言って微笑むと、はおずおずと顔を上げた。
その頬はまだ薄っすらと赤いままだ。

「ほんとに・・・いいんですか?」
「うん。いいよ?だから頑張ってね?」
「はいっ」

やっと笑顔を見せてくれたに僕までふにゃっと笑顔になってしまう。
何だかといるといつもの僕とは考えられないほど優しい気持ちになる気がする。
そんな事を実感していると、不意に目の前に出された小指。
見ればが笑顔で僕を見ている。

「ん?何?」
「約束・・・」
「え?」
「約束する時、日本では小指と小指を絡めてげんまんするんです」
「げんまん?」
「約束の印みたいなものですけど・・・知りませんか?」
「ぅん、ごめん・・・知らなかった。でも、どうやるの?」

僕がそう聞くとは嬉しそうに自分の小指と僕の小指をしっかり絡めて、

「こうして、指きりして約束破らないように」

と言って手をぶんぶん振っている。
日本では変わった約束の仕方があるんだなぁ・・・なんて思いつつ・・・
僕はそれよりも自分の小指に繋がれている、の小さすぎる小指に目が釘付けだった。
細くて少しでも力を入れれば折れてしまうんじゃないかと思うほど頼りなげだ。

「オーリー、分かりました?」
「え?あ、う、うん・・・分かったよ?約束ね?」
「はい」

は笑顔で頷いてその小指を離そうとした。
だが僕は慌ててつなぎ直すとはキョトンとした顔で見上げてくる。
その顔を見て僕もニッコリ微笑んだ。

「じゃあ・・・今度はイギリス式の約束、教えてあげるよ」
「イギリス式の・・・約束・・・ですか?」
「うん、そう」
「どうやるんですか?」

わくわくしたように瞳をキラキラさせるに僕は優しく微笑むと、
そっと繋いだ小指を持ち上げ、の指を自分の方に向けた。
そして、その小さな小指にチュっと口付ける。


「ぁ・・・っ」

「これがイギリス式の約束・・・・にしようかな?って思ってるんだけど、どう?」


小指から顔を上げてそう言った僕には驚いたように口をパクパクさせている。

「う・・・あ・・・じゃ、じゃあ・・・今の・・・・う、嘘ですか?!」
「ん〜嘘じゃないよ?これがオーランド式の約束だからさ?」

澄ました顔で、そう言うとてっきり怒るかと思ったが、何故か、

「あ、オーリー式の約束ですか・・・はぁ、ビックリした・・・」

と何故か納得してしまう
それには僕も参ってしまった。

「あはは・・・・・・ほんと・・・って可愛い・・・っ」
「え?!」


僕の言った言葉に、すぐ真っ赤になって俯いてしまう今日会ったばかりの女の子。





僕はこの出会いが凄く大切になりそうな、そんな予感がしていた――























うひゃーオーリー来日決定記念でちょっとした短編を書こうと
思ったのに長くなってしまいました(滝汗)
なのでちょっと分けます〜〜ガクーッ..._| ̄|○


日ごろの感謝を込めて…


C-MOON管理人HANAZO