僕に天使が舞い降りた......Love is to for you...









くんくんくん・・・・・・・・・





いつもと変わらぬ朝。






なのに僕のお腹の虫を起こすようないい匂いが鼻をつき、意識が次第に戻って来た。














全部、教えて






「ぁれ・・・夢・・・?」

僕は半分くっついたままの目を擦りつつ、寝返りを打った。

(今、凄いご馳走を食べる夢を見てたのになぁ・・・はぁ〜・・・)

「ん・・・?」

夢の中でご馳走を食べ損ねた事にスネつつも鼻が、またしてもいい匂いをキャッチする。

何で僕の家で、こんな、いい匂いしてるんだ?
もしかして・・・夢の中の匂いかと思ってたけどほんとに匂いがしてたのかな・・・

ボヤっとした頭でそんな事を思いつつ体を起こし、「ふぁぁぁ・・・」と欠伸をした。
ゴシゴシと目を擦りつつ、ヨタヨタとベッドから抜け出ると、そのまま普段どおりリビングへと行き、真っ直ぐバスルームへと向う。






「あ、おはよう御座います。オーリー」





「――――――ぅお!」






ボーっとしつつリビングを横切った時に聞こえた声にその場で飛び上がる。
そして声のした方をバっと見れば、そこには黒髪の美少女がニコニコしながら立っていた。

「ぁ・・・っと・・・お、おはよう!」

(そ、そうだ!昨日、この子を泊めたんだった!)

一気に目が覚めた僕は、そこで慌てて笑顔を見せた。
するとはクスクス笑いながら、キッチンに向き直る。
それを見て、あのいい匂いは自分ちのキッチンからしてたんだと気付いた。

「あ、あの・・・・・・?何して・・・・」
「あ・・・勝手にキッチン使って、ごめんなさい・・・」

僕が声をかけるとは慌てたように振り向いた。

「ああ、そんな事はいいんだけど・・・」

と、彼女の隣に立ち何をしてるのかと覗いてみれば、そこには美味しそうなオムレツがジュゥジュゥと音を立てている。

「わ、オムレツ?作ってくれてるの?」
「はい。あの・・・昨日オーリー、一人だと朝食食べないって言ってたから泊めてもらったお礼に朝食作ってみようかなって・・・」
「わぉ、ほんと?!うっれしぃなぁー!俺、一人暮らししてから人の手作りって食べてないんだ」

ほんとに嬉しくての頭を撫でながら

「ありがとう」

と微笑めば、彼女も嬉しそうな、恥ずかしそうな笑顔を見せてくれる。
それだけで今日は僕にとって気持ちのいい朝となった。

「じゃあ急いでシャワー入ってくるよ!」
「はい。それまでには出来てます」
「うん、じゃ、ぱぱっと入って来るね!」

僕はそう声をかけての頭をクシャっと撫でると、そのままバスルームへと飛び込んだ。

はぁ〜何だか朝起きていい匂いがするのとか食事が出来てるのとかって実家にいた頃以来だし嬉しいな。
今までの彼女って皆、食事なんて作ってくれた事なかったし!
ほんと、あの子、いい子だよなぁ・・・

顔からシャワーを浴びつつ、昨日の事を思い返してみての素直さや純粋さを思い出し、改めてそう感じた。

ほーんと、あんな愚姉なんかいらないから、みたいな妹が欲しかったよ!
そしたらめちゃんこのベッタベタに可愛がって、いつも連れて歩いてたなぁ、きっと。

鼻歌なんぞ歌いつつ、早くの作った食事が食べたいと気が急き、適当に頭と体を洗った。
そして入った時と同じくパっと飛び出すと体だけ拭いてバスローブを羽織る。
髪なんて拭くのすら煩わしくて、バスタオルを頭から被りそのままリビングに出れば、
ちょうどがお皿をテーブルに並べている所だった。

〜上がったよ〜」
「あ、オーリー早いですね!」

僕の声に驚いたようにが振り向く。
そして傍まで歩いて行った僕を見上げて目をまん丸にした。

「オ、オーリー雫が垂れてますよ?ちゃんと拭かないと風邪引いてしまいます」
「え?ああ、これ?別に気にしないで・・・って、ぅゎ・・・っ」

何を思ったのかは突然、僕の頭からボクサーのように被せてあったバスタオルをパっと取り、
必死に背伸びをしつつ手を伸ばしてくる。

「えーと・・・?」

何をしたいんだろう?と首を傾げれば、は悲しげな顔で俯き、「と、届きません・・・」と呟いた。

「へ?」

一瞬、何のことか分からず変な声を出した僕を、更には悲しげな瞳で見上げてきた。

「オーリーの髪、拭いてあげようと思ったのに・・・」
「え?あ・・・!」

そこで今、が何をしたかったのかが分かり、慌てて彼女の目線まで屈んだ。

「今、俺の髪を拭いてくれようとしたの・・・?」

確めるように尋ねるとはコクンと小さく頷く。
それには朝から僕の胸にズキュンと何かがクリーンヒットした(!)


「オーリィ・・・?何で笑ってるんですか・・・?」

気付けば、顔が緩み、にへらぁ〜っとニヤケていたようだ。
ニコニコ(ニヤニヤ)してる僕を見ては首を傾げている。

「な、何でもないよ?あの、ありがとう。じゃあ・・・お言葉に甘えて拭いて貰おうかな?」

そう言って更に屈んで頭を出せば、も嬉しそうに「はいっ」と言ってバスタオルでゴシゴシと一生懸命拭いてくれている。
その姿をチラっと見てみればほんとに口をキュっと紡いで必死な顔だ。

「はい、もう大丈夫ですよ?」
「ありがとう」
「どういたしまして」

は拭き終わると満足そうにニコっと微笑んでテーブルの方に戻って行った。
そんな後姿を見ている僕の顔はゆるゆるだった事だろう。

くぅ〜〜っ。ほんと可愛いんだけど!
拭いて貰ってる時、つい抱きしめたくて手がウズウズしちゃったよ・・・!
(つかプルプルして、うちのじぃちゃんみたいだったけど)(ぅぉい!)
いつもの僕なら二人きりでいる女の子の事を"可愛い"なんて思った時は
速攻で抱きしめてキスしてベッドへ直行なんだけどなぁ・・・(コラ)
にだけは手を出しちゃいけないという僕の中のとても小さな(!)"理性"というものが歯止めをかけてるようだ。
その前にの事はそんな風に見るよりも、ほんと妹〜って感じで可愛いんだけどさ。

「オーリーご飯食べましょ?」
「アイアイサー♪」

の可愛い声に呼ばれ、僕はスキップする勢いでテーブルへと行き椅子に座った。

「はい、オーリーの紅茶です」
「あ、ありがと!は?あ、ホットミルクだ」(ちょっと顔がニヤケる)
「はい。ミルクと蜂蜜を貰いました」
「いいよいいよ、どんどん飲んで大きくなってね?」(また蜂蜜入りだ!かゎぅぃ〜v)(バカ)

そう言っての頭をナデナデすれば彼女の頬がぷぅっと膨らんだ気がした。

「もう子供じゃないです・・・」
「え?あ、そ、そんな意味じゃなくて・・・。えっと・・・は小さい方が可愛いね?ごめん!」
「え?あ、あの・・・オーリーが謝ることないです・・・」

僕が素直に謝ればもすぐに首を振る。
だけどちょっと元気がなくなったように目を伏せてホットミルクを飲んでいるに、僕の胸がズキズキと痛んだ。

身長が小さいの気にしてたのかなぁ・・・
まあ女優志望だし、そら気にするか・・・僕、無神経だったかも・・・(ちょっと反省)
でも・・・他の女の子がスネたり落ち込んだ時は何でも"おべっか"言って場を誤魔化せる自信はあるけど、この子には無理だ。
にはそんなもの通用しない。
何だかよく分からないけど、そんな気がした。

とりあえず食事をしようと、「い、いただきます」と言って僕はナイフでオムレツを切って一口、口に放り込んだ。
するとフワフワ感が口に広がり、凄く美味しい。

「ん・・・美味しぃ!」
「え?」
、これ凄く美味しいよ。俺の好みの味!」
「ほんとですか?なら良かった・・・」

僕の言葉にはホっとしたように呟いてやっと笑顔を見せてくれた。
それには僕まで笑顔になる。

、料理ってするの?」
「はい。お母さんに教えて貰いながら時々は・・・」
「そうなんだ。サマンサなんて言われないとやらないからなぁ・・・・。あれじゃ嫁の貰い手ないっての」

僕がケラケラ笑いながらそう言うと、は驚いたように顔を上げた。

「で、でもサマンサお姉ちゃん凄いモテてましたよ?色々な男の人が誘いに来てたし・・・」
「ああ〜そりゃ本性知らないからだよ、きっと」
「本性?」
「そ!サマンサなんて俺とケンカする時は必殺技くりだして来るからね?マジで怖いよ?」
「ひ、必殺技ですか・・・・・・」
「そう。の前じゃ優しいお姉さんぶってるかもしれないけど一皮向けば中身はタイソンだよ、タイソン!」
「タ、タイソン・・・って・・・ボクサーの・・・?」
「そうだよ?サマンサの右ストレートは強烈だからね・・・?」

僕が怯えたようにそう言えばも怯えたような顔をして、

「じゃ、じゃあ・・・怒らせないようにします・・・」

と呟いた。
それには僕も一瞬キョトンとしたけど、思い切り噴出してしまう。

「ぷ・・・あははは・・・っ。まさかサマンサはには怒らないよ」
「・・・・?そぅですか?」

僕が一人で笑っているとはキョトンとしたまま首を傾げている。
そんな彼女の頭を撫でながら、僕は優しく微笑んだ。

「こんな可愛いを怒るわけないだろ?サマンサだってそこまで鬼じゃないと思うよ?」
「はい。サマンサお姉ちゃんは凄く優しいです。演技の事も色々と教えてくれました」
「あ〜そっか!そういう事ね。じゃあ今日のオーディションはバッチリかな?」
「はい、頑張ります」

は笑顔でそう言うと自分のオムレツを切ってパクっと食べている。
その姿はほんと小動物みたいで可愛いったらない。

僕も食事をしながら、今日はサッサとリハを終わらせ、のオーディションを見に行かなければ!と思っていた。















「よぉ!子守くん!」
「って・・・・!」

バシっと背中を殴られ、勢いよく振り返れば、そこにはマットのニヤニヤした顔。
どぅにも朝から見たくない顔だ。

「何だよ・・・。誰が子守くんだって・・・?」
「お前だろ?今日は一人か?あの子はどうした?」
「言っただろ?今日は彼女オーディションなんだよ・・・。だから今、オーディション会場になるホールまで送って来た」
「あ〜そっかそっか!今日のオーディションでまた新入団員が入ってくるんだったな!第3ホールだっけ?」

マットは呑気にそんな事を言いながらリハをするため、第1ホールへと入って行く。
僕もその後に続きながら中へ入れば一緒に舞台をやる女の子達が笑顔で歩いて来た。

「おはよう、オーランド」
「やあ。おはよう」
「ちょっと聞いたんだけど、オーランドってば子供を預かってるんですって?」
「・・・・・・っ?」

その言葉にすでにホールにいたジョンを睨めば、彼はササっと目を反らしている。

(く・・・っジョンの奴ぅ〜〜〜!!)

僕は思い切りジョンを睨みつけるとその女の子達には笑顔を見せた。

「まあ、預かってるけど子供じゃないよ?その子は16歳だしね」
「そうなの?なのにオーランドのフラットに泊めてるの?」
「え?あ・・・ぅん、まあ・・・・」

そう頷きつつ、またしてもジョンを睨んだ。

そうだ。
昨日、二人に会った時は僕の家のフラットの近くだった。
僕があのままをフラットに連れて行くところをもしかしたら後をつけて見たのかもしれない。
ったく、ほんと困った奴らだ。

僕が怒りを抑えているとその女の子達は顔を見合わせ、

「じゃあ、もう手は出しちゃったとか?」
「そーよねー?オーランドが女の子を家に泊めて何もしないわけないわよねぇ?」

などと好き勝手言ってくる。
それには今朝から気分の良かった僕もカチンときた。

「まさか!母さんの知り合いだよ?それに彼女は16歳だけど凄く純情な子なんだ」
「えぇ〜?純情っていうよりは子供なだけじゃないの?」
「ま、まあ・・・そうかもしれないけど・・・」

僕はそう呟きつつ、その話題から逃れたくて皆の方に歩いて行くとリハの流れを確認しながら打ち合わせを始めた。
時計を見ればちょうどオーディションが始まる時間で、僕まで緊張してくる。

(早く終らせてのとこに行かなくちゃ・・・)

それだけ気にして、リハの準備をすすめて行った。















「ちょっと、どこ行くのよ、オーランド!」
「第3ホール!すぐ戻ってくるよ!」

リハが一段落した時、僕はホールを飛び出していた。
僕は完壁だったのだが、他の奴が何度かミスってやり直しが続き、リハが思った以上に長引いている。
その間も時間は刻一刻と過ぎて行き、そろそろのオーディションの時間だと焦っていたその時、指揮官から、

「ちょっと休憩!」

という声が響き渡り、僕はホっとしたのだ。

(早くしないとのが始まっちゃうよ・・・!)

第3ホールは第1ホールと全く反対側にあるので、僕は長く広い廊下を思い切り走って行った。
その間も顔見知りの団員と擦れ違い、

「よぉ、オーランド」

なんて声をかけられつつも手だけで挨拶して走って行く。
皆、首をかしげていたように思えた。

やっとの思いで第3ホールに辿り付いた僕は息を整え、そぉっとホールの中を覗いてみた。
するとステージには若い男の子が立っていて予め出されているオーディション用の台本の台詞を言いながら演技を見せているところだった。

(はぁ・・・間に合ったかな・・・?)

腕時計を見れば、が受ける時間まで残り10分ないくらいだ。
僕はそのまま静かにオーディションを受ける子達が集まっているホールの裏にある控室へと足を向けた。
そこをヒョイっと覗けば色々な子達が台本を手にブツブツ台詞を暗記しているようで、
それを見て自分がここにいた時の事を思い出した。

(一年前は僕もここで皆と同じように緊張して、その時を待ってたんだっけ…懐かしいな・・・)

ふと思い出し、笑顔になる。
そして次に出番のが待機してるであろうステージへと続く廊下に向えば、彼女はちゃんとそこにいた。
他にも2人ほどの後に出番なのか、女の子と男の子がいる。
僕は緊張した面持ちのを見て静かに近づいて行った。

・・・」
「・・・ぁ・・・オーリィ・・・っ」

今まで強ばっていたの顔も、僕を見た途端に笑顔になりそれには何だか胸が熱くなる。

「来てくれたんですか?」
「うん。約束したろ?大丈夫?」
「き、緊張しちゃって・・・」

が僕を見上げながら手を胸に当てた。
確かに見れば少し顔色が悪く、元々色白の肌がもっと白く見える。
かすかに手も震えているようだ。
そんな彼女を見て、僕は優しく微笑んだ。

「大丈夫。はきっと上手く出来るよ?」
「は、はい・・・頑張ります・・・」

ぎゅうっと手に持ってた台本を握りしめ目を瞑りながら何とか自分の演じる場面を想像しているようだ。
その姿を見ていると何かしてあげたくなった。

・・・おまじないしてあげよっか」
「・・・ぇ?おまじない?」
「そ。またオーランド式なんだけど・・・いいかな?」

僕がウインクしながらそう言えば、はキョトンとした顔で見上げてきたが、すぐにコクンと頷いてくれる。
それを見て僕はまずの手を取り両手で包んだ。

が上手く演じられますように・・・・」

そう呟き、の手のひらを自分の口元に持っていき、そこへ優しく口付けた。

「ひゃ・・・」

「「――――っ?」」

僕の行為では驚いたような声を上げ、後ろで同じく待ってた二人の子も少し驚いてる様子で息を呑んでいる。
だが僕は後ろの二人の事は気にせずそのまま唇を離すと、今度は驚いたように見上げているの額にそっと口付けた。

「オ、オーリィ・・・?」

はアタフタしたように僕から離れ、一歩後ろへ下がると、だんだん赤くなってきた頬を手で抑えている。
そんな彼女を見て僕はニッコリ微笑んだ。

「ほら、だいぶ顔色も良くなったよ?」
「え?」
「緊張もほぐれたようだし、早速、おまじないが効いたかな?」

ぬけぬけとそう言った僕を、はクリクリとした瞳で見ていたが、突然何かに気付いたように声を上げた。

「ぇ・・・そ、そう言えば・・・緊張なくなりました・・・!凄いです、オーリーのおまじないっ」
「・・・・・・・」

は本当に緊張がほぐれたのか、今度は頬を紅潮させて嬉しそうな笑顔を見せる。
だが僕から言わせてもらえばは今、僕がした行為で一気に照れたから意識が他のとこに移動しただけなんだ。
その事に気づく事もなく素直に喜んでるを見て僕もついつい顔が綻んだ。
その時、の名を呼ぶ声が聞こえて来てドキっとした。

「あ・・・呼ばれました・・・」
「うん。頑張って」
「はいっ」

笑顔で返事をしたの顔には先ほどの緊張の色はなく、むしろ度胸が据わったのか堂々と僕を見上げてくる。

「じゃ、行って来ます」
「うん。僕は、ここにいるから。安心して演じておいで?」
「はい」

またしても笑顔で変事をすると、は軽く深呼吸をしてステージの方に歩いて行く。
その後姿を見ながら僕は何だか羽ばたく雛鳥を見ている親鳥の心境だった(!)

「あのぉ・・・・・・」
「ぇ?」

ちょっとドキドキしながら立っていると、突然後ろから声をかけられ驚いた。
見れば先ほどから並んでいた男の子と女の子が僕をおずおずと見ている。


「今の子の・・・恋人さん・・・ですか?それとも・・・お兄さんですか・・・?」
「えっ?! ―あ・・・いや・・・ど、どっちでもないって言うか・・・何と言うか・・・」
「は?」
「あ、いや・・・どっちかと言えば・・・・・・兄貴・・・に近いかな・・・?」
「そ、そうですか。あの・・・僕、ここを受けに来たショート・ラウンドと言います!」
「へ?」

いきなり知らない男の子に自己紹介され、僕は驚いた。
だが名乗られたら名乗らないわけにも行かず、つい、

「あ、オーランド・ブルームと言います・・・。ここには1シーズン在籍してます」

と口から出ていた。
すると、そのショートくんはいきなり僕の手をガシっと掴んで来てギョっとした。

「ぅおっ」
「あ、あのミスターブルーム!」
「は、はぃ?」
「い、今のおまじない、ぼ、僕にもしてもらえないでしょうか!!」
「―――はあ?]

彼のその突拍子もない言葉に呆気に取られた。
だが彼は至って真剣な顔で言葉を続ける。

「あ、あのぼ、僕、極度の緊張症で・・・!だ、だから、お願いします!おまじない、して下さい!」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・あれはさ・・・っ」
「お願いします!」
「ぅ・・・っ」

切羽詰まった顔で哀願され、手をぎゅぅっと握り締めてくるその少年に僕は本気で困ってしまった(!)
その時、ステージの方での声が聞こえてきた。
それには、さすがの僕も慌ててしまう。

(あー早く行かないとの演技を見損ねちゃうよ・・・!で、でも、こいつ手を離す気ないみたいだし・・・!)

迷ったあげく僕が取った行動事は・・・・・・



ここでは内緒にしておこう・・・・・・















「ではではオーディション、合格を祝って・・・乾杯!」
「あ、ありがとう御座います・・・!」

僕の言葉にがペコンと頭を下げ、ジュースの入ったグラスを持った。
互いにチンっと当ててからそれを飲み干すと、僕はもう一度の頭をナデナデしてあげる。

「よく頑張った!凄いよ、!」
「は、はい・・・。オーリーの、おまじない利きました。緊張しないでちゃんと台詞も言えたしオーリーのおかげです!」
「そ、そっか・・・そ、それは良かったよ、うん・・・っ」


の言葉にあの変わった少年を思い出し顔が引きつったが、それでも嬉しそうな彼女を見て笑顔になる。
今はフラットに帰って来てが受かったお祝いとして一緒にケーキやら料理を買い込んで乾杯したところ。
もう何だか僕の方が浮かれちゃって、リハが終わったら速攻でを連れて帰って来たのだ。
皆からいつものパーティに誘われたがサクっと断った。
今はあんなSEXの相手を探すようなパーティに出るよりも、こうしてと二人でお祝いをしたい気分だったから。
皆は相当、驚いてたけど知ったこっちゃない。
今はとにかくと一緒にいたいって思ったし、彼女を一人ここに置いて出かけるなんて事はしたくなかったんだ。
少なからずそんな自分に一番驚いてるのは何を隠そう、僕自身なんだけどね。


「でも、ほんっと演技上手いよね?俺、驚いちゃったよ!」

ふと思い出し、さっき自分が見たの演技に興奮したようにそう言えば、彼女は恥ずかしそうに首を振る。

「そ、そんな事ないです・・・!オーリーの方が上手でした」

はオーディションが終わった後、結果が出るまで、僕らがやってたリハを見学してたのだ。
他の皆も興味津々でを構っていて、僕は何だか心配でリハどころじゃなかったんだけど・・・
でも・・・の演技を見た時、胸の奥が響いた。
普段のポワンとしたイメージではなく、凛として台詞を大きな声ではっきりいう姿は本当にその役の人物に見えて驚いたのだ。
体は凄く小さいのに一度台詞を言い出せば広いステージ上でも存在感が凄くあった。
それには審査員の先生方も驚いたようだった。
小柄なのは確かに不利な場合もあるけど、彼女はそれすら感じさせない存在感がある。
だから受かったと聞いた時も僕は当然だと思った。

、春からは同じユースシアターの団員だね?宜しく!」

僕がそう言って手を出すとも恥ずかしそうに微笑んでおずおずと手を出してきた。
その小さな手をしっかり握りしめる。
先ほど母さんから電話が来て受かった事を告げると、の母親もその場にいたらしく相当喜んでいた。
そして僕にも何故かお礼を言って来て困ったんだけど、も嬉しそうに受かった報告をしていた。
最後に電話を変わった時、の母親から、

「世間知らずで大変でしょうけど明日までを宜しく頼みます」

と優しい声でお願いされた。
それが何だか嬉しくて、僕も張り切って返事をしたんだけど母さんからは、

「この前、頼んだ時の態度と随分違うわねぇ?」

と嫌味を言われて顔が赤くなってしまった。

そうだよなぁ・・・
最初は3日間、預かるなんて面倒だって思ったのに・・・
今じゃデートも友達からの誘いも断って、この子といる方を取った。
ちょっと自分でも変だなって思う。

「オーリー?何を飲んでるんですか?」
「え?」
「それ・・・。何だか泡がぷくぷく浮いてます。サイダー?」
「あ、これは・・・・・」

今日はのお祝いって事で、ついシャンパンなんぞ買ってしまった。
僕は未成年だけどこんなものはパーティでしょっちゅう飲んでるし、と思ったんだけど・・・
は当然、アルコールなんて飲んだことがないだろうということに気付き、慌ててオレンジジュースにしてあげたのだ。
だがは僕のグラスに入ってるシャンパンをジっと見ている。

・・・こっち飲みたいの?」
「・・・・はぃ・・・。サイダーがいいです」
「ぷ・・・・っ」
「?」

またしても可愛い事を言っているに僕は噴出しそうになるのを慌てて手で押えた。
どぅも僕はツボに入ると噴出してしまうタチらしい。

(ま、サイダーじゃないけどこれくらいなら大丈夫だろ)

そう思ってシャンパングラスを一つ持ってくるとの為に注いであげた。

「はい」
「あ、ありがとう」

グラスを差し出せばも嬉しそうにそれを受け取る。
そしてコクコクと普通にサイダーを飲むように飲み出して、僕はギョギョっとした(!)

「ちょ・・・、それ、あまり勢いよく飲んだらマズイ――」
「ぷはぁぁ・・・ちょっと苦いサイダー・・・です・・・ね・・・。それに、お腹の辺りがポッポします・・・」

一気に半分まで飲んでしまったは不思議そうな顔でそう言っている。
それには僕も顔の筋肉なんてないくらい、ふにゃぁっとなってしまう。

(く〜可愛い・・・っもう食べちゃいたいよ・・・!)あ、いや変な意味じゃなく)

そんな事を思いつつそれでもが酔っ払っちゃわないかと心配で、すぐにミネラルウォーターを出してきた。

「ほら、、これも飲んで?」
「・・・ミネラル・・・ウオーター?」
「そう。これ飲めばお腹のポッポってなるのも和らぐから・・・」
「でも大丈夫・・・です。体が・・・暖かくなって・・・ひっく ・・・来てフワフワして・・・ひっく・・・気持ちいい・・・ですよ?」

(げ!すでに酔ってるかも・・・!)

見ればの頬も薄っすらとピンク色に染まり何とも可愛らしい。
白い肌にピンクの頬、そして肩に流れるように垂れている黒髪。
今は真っ白なワンピースを着ているし、まさに天使のようだ・・・!

な、なんて言ってる場合でも見惚れている場合でもなくて!

「あ、あのね、でも一応、水も飲んで?ね?」
「は、はい。オーリーが・・・ひっく・・・そう言うなら飲み・・・ひっく・・・ます・・・」

可愛いしゃっくりをしながらも懸命にそう言って水をコクコクと飲んでくれる姿に、何だか僕の胸はキュンキュン鳴りっ放しだ。

「じゃケーキ切ってあげるね?」
「はい」

僕は先ほど買ってきたケーキをキッチンに持って行き、包丁で食べやすい大きさに切ってあげた。
それを小皿に乗せリビングへと運ぶ。
するとがソファの上でこてんと横になっていてドキっとした。

「ちょ・・・?大丈夫・・・?」

慌てて駆け寄りソファの下にしゃがみこめば、は寝てるわけではなくて何だかニコニコしながら僕を見た。

「だ・・・だいじょう・・・ひっく・・・ぶ・・・です・・・凄くふわふわ・・・ひっく・・・してるだけで・・・ひっく・・・す・・・」
「そ、そっか・・・。ごめんね?俺がシャンパンなんて飲ませたから・・・。ほら起きれる?」

僕はソファに腰をかけるとそっとを抱き起こし、自分の胸元に寄りかからせた。
はすでにクタ〜っとしていて素直に僕の方に寄りかかりつつ、

「シャ・・・ひっく・・・パン・・・?」

と顔を上げた。
その表情はほんと可愛くて思い切り抱きしめたくなるのをググっと堪え笑顔を見せた。

「そう。さっきが飲んだのはサイダーじゃないんだ。シャンパンって言ってアルコールの入ったお酒・・・」
「お、お酒・・・ひっく・・・」
「あ〜しゃっくり止まらないね・・・」

何だか苦しそうで可愛そうになり、の背中を擦ってあげる。
はすでにトロンとしていて、気持ち良さそうに目を瞑った。

「オーリィ・・・ひっぅ・・・」
「ん?」
「あ・・・した・・・ひっく・・・やく・・・そく・・・ひっく・・・」
「ああ、明日はロンドンの街を案内してあげるよ?その時、約束の靴を買おう?」

そう言うとは嬉しそうに口元をほころばせた。
そして薄っすらと目を開けると、「はぃ・・・」と、それでも返事をしてくれる。
僕はの背中を擦りながら顔が緩んでしょうがない。

「あ、でも僕、午前中はまたリハがあるからはお留守番しててくれる?すぐ帰って来るから」
「・・・・・・・・」
「?」

(ぁれ・・・返事がない・・・)

そう思ってそぉっとの顔を覗き込めばスーっという静かな寝息が聞こえて来て思わず笑顔になった。

「何だ・・・寝ちゃったのか・・・。そうだよなぁ・・・今日は緊張して疲れてたんだ・・・」

(シャンパンも少しだけど飲んじゃったし寝ちゃうのも仕方ないか・・・)

僕はゆっくり体を動かし、の体を腕で支えるとそのまま静かに抱き上げた。
そして、その軽さに驚いた。

「うぁ・・・軽い・・・。体重、あるの?」

クターっと眠ってるの寝顔を見ながら、そう呟いてみる。
かすかに口が開いていてドキっとするけどいつもの様に、やましい気持ちというより、
ほんとに可愛いなぁ・・・なんて思って見惚れてしまう。

「ほんと無防備にもほどがあるけどね・・・?」

そう言ってをベッドまで運んだ。
そのままそぉっと壊れ物を扱うようにを寝かせて布団をかけてあげるとベッドの端へと腰をかけた。
額にかかった前髪を手で優しく払いながら暫く可愛い寝顔を見ていると、
ずっとこうしてを手元に置いておきたいなんて感情すら湧いてくる。

「でも・・・こうして一緒にいれるのは・・・明日一日なんだよな・・・・・・?」

明後日には一度、はカンタベリーの家に帰ってしまう。
春には同じ場所へ通うことになるけど、その時はだって自分のフラットを借りるだろうし、
こんな風に無防備に寝顔を見せてくれる事もなくなるだろう。
そう思うと妙に寂しくなる。

(まだ・・・会って二日なのに・・・すっかりにやられちゃったよなぁ・・・・)

「・・・・・・んぅ・・・」
「?」

かすかにの顔が動き可愛い声を出したのを聞いて、つい笑顔になる。

「ほーんと可愛い・・・」

こうしてを見てると心が癒される感覚だ。

「ほんとに・・・俺の妹だったら良かったのに・・・」

そしたら離れる事もなく、一緒にいれるのにな。

ふっと、そんな事を考えて苦笑した。

僕の中にも、こんな優しい感情ってあったんだな・・・
今まで女の子といえば、恋愛の対象・・・と言うよりは性の対象として見てたのに。
普通の17歳の健康な男の子道をまっしぐらだった、ついこの前の自分と今の自分は明らかに違う。
この短い時間で知らなかった自分の姿を垣間見れた気がして僕は胸が温かくなった。

「自分で自分の事を知る瞬間って・・・こんな感じなんだなぁ・・・」

案外知ってるようで知らないのが自分の事。
がそれを教えてくれた気がする。

は?
は本当は、どんな子なんだろう?
普段、友達といる時のや、親と一緒の時の・・・
もっと色々な彼女を知りたいし見せて欲しいと思う。

「春になれば、そういうのも少しづつ分かるかな・・・?」

とりあえず明日のとのデートを楽しみに、僕も寝るとしよう。


「お休み、・・・・・・」


そう呟いて可愛い寝顔の額と頬にキスを一つづつ。


そして、そぉっと立ち上がる。



「・・・ん・・・オー・・・リィ・・・」



部屋を出る瞬間、の小さな声が僕の名を呼ぶのがかすかに聞こえた―






















うぉ。やはり二回で終わらなんだ・・・(汗)
なので結局三つに分けてしまいます・・・ぅぁー・・・
でも、この二人書くの楽しいので連載が何作か終われば、また書きたいなぁ(笑)


日ごろの感謝を込めて…


C-MOON管理人HANAZO