「おぉう♪今日も可愛い子がいっぱい来てるぞぉ〜?」


マットはそう言いながら周りをぐるりと見渡している。
その姿は、まるで獲物を探すハイエナだ。
俺は近くにあったシャンパングラスを持ち一人ブラブラと歩いて行こうとしたが、すぐにマットが追いかけて来た。

「お、おいオーランド!どこ行くんだよ?」
「んー?まあ、まずはその辺で飲んでるよ」
「はあ?お前、ここまで来てそのテンションの低さは何だ?!もっと前みたくノリノリになれ!」

マットはそう言って俺の肩をゆさゆさと揺さぶった。
おかげで俺は一気に酔いが回ってくる。

「おい、やめろよ・・・酔っちゃうだろ?」
「何だよ。酔えばいいじゃないか!前のように酔いまくっていい女を口説きまくれ!」

何だか人聞き悪いなと思いつつ、周りを指さし高々と上げて叫んでいるマットを横目で見ながら俺は苦笑した。

「明日は休みだしと出かける約束してるんだ。だから酒は控えないとね。二日酔いじゃどこにも行けないし」
「・・・んな!!何言ってんの?何言っちゃってんの、お前わ!!」
「な、何だよ・・・ぐぇ・・・放せ・・・っ」

いきなり胸倉を掴まれ俺は一瞬、息が止まりかけた(!)

「何すんだよ!とりあえずパーティは来てやっただろ?後はどうしようが俺の勝手だ!」
「そういう問題じゃないぞ?17歳の青少年が恋人の一人もいなければ一ヶ月以上、エッチもしてないなんて体に悪いっ!」
「う・・・そ、それは・・・」

何だか痛いところを突かれて俺は言葉に詰まった。(つか、そんなことデカイ声で言うなっ恥ずかしい!)
そう、確かに前と違って今はデートもしてなければエッチもしてないという俺にしては超珍しい健全な日々を送っている。
でも、それはと一緒にいると全くもってそんな気が起きないからだ。
今日だって本当はパーティに来る予定じゃなかったんだ。
だけど例によってサマンサがを独り占めし、

"今夜はに私の友達を紹介するから二人で出かけるわ?あんた適当に夕飯食べて"

などと冷たい言葉を浴びせ、出かけてしまった。(俺は泣く泣くを見送ったんだ・・・)

そして久し振りに家で一人になった。
今まで気づかなかったけど、すでにがいて当たり前の生活になっていたボク。
この一人ポツン・・・という、このポツン・・・という状況がっっ!(分かったから) かなぁーり耐えられなかった。
そこで仕方なく(ここ大事)マットに電話し、暇なら飯でも食いに行こうなんて言ったところ・・・


「バーカ!お前の相手してられっか!俺はこれから楽しい楽しいパーティなんだよ!」


との冷たい返事。
だが、チェ・・・っと思って切ろうとした時、マットが憎たらしい口調でこう言った。


「一人が寂しいならお前もパーティ来れば?ま、ちゃんバカの今のお前なら来ても以前のようにモテないだろうけどな」



この一言で俺の"モテ男魂"(何だそりゃ)に火がついた!
















僕に天使が舞い降りた...07





マットと勝負をして早一年。
今まで98戦中、90勝8引き分けとマットに圧倒的な差をつけ勝ち続けてきているこの俺にマットが戦いを挑んできたのだ。
マットごときに挑まれては"シアターきってのモテ男"の名が廃る!(ほんとは"シアターきっての女好き"とも)

「そんなに俺に負けたいなら行ってやろうじゃないか!」

変に闘志を燃やした俺はついそんな事を口走っていた。

で・・・結果、この華やかな場にいるというわけ。
でも前のように楽しもうなんて気には何故かなれず・・・
マットとの戦いもすでにドゥーでもよくなり・・・(オイ)

俺はひたすら人間ウォッチャーと化していた。
そんな俺をマットは罵倒して少しはスッキリしたのか、

「ま、お前がいいなら別に無理強いしないけど?さぁって俺は美人お姉さまでも見つけて送り狼にでもなってくるかなぁ♪」

などとスケベ心モリモリにして人ごみの中へと消えて行ったのだった。

「はぁ・・・アホな友達持つと苦労するよ・・・」

シャンパンを口に運びつつそう呟いた。
目の前では男が目をつけた女を口説くという光景が繰り広げられている。
俺もちょっと前までなら、あの中に入っていたんだ。
でもこうして客観的に見てるととても健全とは言えず、それに皆の下心までが手に取るように分かる。

あのブルネットの子はあのひょろっとした男を気に入ってるんだな・・・
あーあの目は明らかに誘ってるし、あの子なら今夜中にでも落とせるだろうな。

今まで自分が参加していた時には"この子、今夜はOKかな?"なんて結構、相手の気持ちが分からなかったりした。
でも、こうして見てると何て分かりやすいんだとさえ思う。

そんな事を思いながら俺はひたすら皆を観察していた。
それでも俺が一人でいると女の方が放っておいてくれない。(オイ)
俺の事を知っているらしい子が何人か誘いに来たがそこはやんわりと断っておいた。
中には今までの俺なら絶対に口説いてたってくらい可愛い子もいた。(もちろんブロンド)
なのに今の俺にはそれすら響かない。

一体、どうしたんだ?俺・・・
それよりも目が行くのはのような黒い髪の子ばかり。
まあほど奇麗な髪を持つ子はいないけど、目の前を通るとつい目で追ってしまっていた。

、どうしてるかなぁ・・・
サマンサに振り回されて困ってるんじゃないだろうか・・・
姉さんは自分のペースのままつっぱしるからなぁ〜・・・(人のこと言えない)

さっきから、そんな事ばかり考える。
そうなると、もう帰りたくて仕方なくなるんだけど今帰ったって二人が帰ってるわけじゃない。

「はぁ・・・」

俺は飲んでたシャンパンにも飽きて今度はワインでも飲もうと近くのテーブルに歩いて行った。
だがワインのボトルを取ろうとしたその時、横から手が伸びてきて、ふと顔を上げてみれば―


「あら、ごめんなさい?これ飲もうとしてた?」
「あ、ああ・・・うん」
「じゃあ、はい、どうぞ」


目の前のブロンド美女(しかも超がつくほど可愛い!)はニッコリ微笑むと俺の持ってるグラスにワインを注いでくれた。
可愛い子を前にした時の条件反射なのか、俺も「ありがとう。じゃあ君も」と言って彼女のグラスにワインを注いであげる。

「ありがとう。このワイン美味しいのよね?」
「あーうん、そうだね。俺も結構好きだよ」

何となくその子と会話をし、互いのグラスをチンっと当てた。
その子は奇麗なブロンドの髪を手で抑えると小さな口にグラスを運んでいる。
その姿はこの場にいる女の子の中でもピカ一で、かなり目立つ存在だった。

この子、今までどこにいたんだろう?
こんなに可愛い子なら目立つし、すぐ目につくはずなんだけどな。

そう思いながらワインを飲んでると、その子はチラっと俺を見て微笑んだ。


「私、ラナよ?あなたはもしかして・・・オーランド?」
「え・・・?」


彼女の名前を聞いて驚いた。


ラナ・・・ラナだって?あのK高の?!
マットと前に騒いでたモデルもしてるという、この辺では有名な子だ!
しかも、その子が俺の名前を知っていた・・・

「俺のこと・・・知ってるの?」
「ええ。名前と噂だけは」
「噂?どうせろくな噂じゃないんだろうな」

俺がそう言って苦笑するとラナもクスクス笑っている。

「ここ最近パーティに参加してなかったでしょ?だから"本命の恋人が出来たんじゃないか"って今はその噂で持ちきり」
「へぇ。そんな事でも噂になっちゃうんだ。怖いね」
「まあ、この辺でいい男って限られてるもの」

ラナは意味深な笑みを浮かべて俺の前に立つとその青い瞳でジっと見つめてくる。
これには、さすがにドキっとした。
確かに噂通り、かなり可愛いしスタイルもいい。
これならモデルにスカウトされるのも分かるってもんだ。
だけど俺だって伊達に遊んできたわけじゃない(!)
そんなこと思っても態度には出さず、逆に必殺オーランドスマイル(何だそりゃ2)でニッコリ微笑んだ。

「他のテーブルに行かないの?さっきっから周りの男が君のことチラチラ見てるようだけど」

そう言って後ろを軽く指差せば、ラナはチラっと視線を向けて肩をすくめた。

「興味ない。今はあなたと話してるしいいの」
「でも奴らの視線が痛いんだけど」
「気にしないでいいわ?それより・・・今日はどうしてパーティに来たの?"本命"さんに振られた?」
「別に本命の恋人なんていないよ?」
「え?フリーってこと?」
「まぁね」
「じゃあ、どうして急にパーティに参加しなくなったの?」
「それは・・・」

その質問に言葉が詰まった。
だが不意に後ろから―


「オーランドに可愛い可愛い妹が出来たからだよなぁ?」

「う・・・マ・・・マット・・・!」

「妹・・・?」


アホな声が聞こえて来て俺が振り返るとマットがニヤニヤしながら立っていた。
ラナは少しだけ首を傾げ、再び俺に視線を戻した。

「妹って・・・?」
「え?いや、あの・・・妹って言うか・・・」
「いやいやーこのオーランドの家には今、可愛い子が同居しててね!その子に夢中なんだよなー?お前はっ」
「マット!!」

ペラペラと余計な事を言い出すマットに俺は慌てた。
だがラナはますます訝しげな顔をして、

「その同居してる子が本命なんじゃないの?」
「えっ?いや・・・その子はそういうんじゃないんだ・・・えっと・・・妹みたいな子で―」
「そうそう。だから君が思ってるようなのとは違うんだ。でもこいつがパーティに参加しなくなったのはその子が原因!」
「おいマット!いちいち余計なこと言うなっ」
「何だよ、ほんとの事だろ?」

マットはケロっとした顔でそう言ってグビグビとシャンパンを飲んでいる。
呑気な様子にムっとして俺が肘で軽く小突くとゲボッってなり、その後思い切り咽出した。(ザマーミロ!)

「ゴホ・・・ッ!な、何するんだ、オーランドっ!」
「うるさいなぁ。あっち行ってナンパでもしてこいよ・・・」
「い、言われなくてもそうするよ!じゃ、じゃあラナ、こいつのこと宜しく頼むよ」

 「お、おいマット―」

「ええ、任せて」

 「へ?」

「わぉ。やっと君も興味を持てる奴に会ったようだねー。それがオーランドだなんてムカつくけど。でもま、二人はお似合いだよ」

マットはそう言いながら奥の方へと歩いて行ってしまった。

ったく!勝手な事ばかり言いやがって・・・何が"二人はお似合い"だよ!
お似合いも何も会ったばっかだっつーの!

心の中で毒づき、チラっとラナを見れば彼女は何だかニコニコして俺を見ている。
俺はすぐに笑顔を浮かべると軽く肩を竦めて見せた。

「あ、あの・・・あいつの言う事は気にしないで。ちょっと・・・いや、かなりバカなんだ(!)」
「そうなの?彼、ここんとこ他のパーティでも顔合わせてたのよ」
「あ、ああ・・・聞いてるよ」
「そう?何か言ってた?」
「え?えっと・・・噂通り・・・凄く奇麗だったって」
「それは光栄だわ?でも私も噂されてるのね?」
「そりゃあ・・・この辺で君のこと知らない男はいないんじゃない?俺も一度くらい会ってみたかったしね」

そう言ってちょっと笑うとラナは意味ありげな笑みを浮かべて俺の肩に手を乗せてきた。

「じゃあ・・・こうして会ってみてどう?ガッカリした?」

そう尋ねてくる彼女は明らかに俺に気があるように見えて、何となく条件反射で優しく微笑んでしまった。

「まさか。噂の通り、凄く奇麗だなって思ったよ?」
「ありがとう。私も・・・・・・噂のオーランドに一度会って見たかったのよ?」
「え・・・・?」


ラナはそう言うとニッコリ微笑み、俺のグラスにワインを注いだ。














最悪の目覚めだった。

目が覚めた時、俺はあまりの頭の痛さに顔を顰め、尚且つ胃腸のムカムカ具合におぇってなったんだ。

「うぅ・・・気持ち悪い・・・頭痛い・・・しかも・・・暑い・・・!」

ゴロンとベッドを転がりつつ、タオルケットを足で蹴飛ばし俺は髪の毛を掻き毟った。
ゆっくり目を開け辺りを見渡せば、かろうじて自分の部屋だと分かる。

「あぁ・・・夕べ・・・どうやって帰って来たんだっけ・・・?」

ベッドの上でボーっと考えたが一向に思い出せない。
あのラナとずっとワインを飲んでたのだけは覚えてるんだけど・・・

(良かった・・・酔った勢いで彼女と一晩って事にならないで・・・)

そんな事を思いながら何とか体を起こし、「ふわぁぁ・・・」っと欠伸をしながらカーテンを開けに行った。

「うわーいい天気・・・どおりで暑いはずだよ・・・」

外はロンドンにしては珍しくカンカン照りの陽気。
窓を少しだけ開けて風通しを良くすると、僕はシャワーを浴びようとリビングに行った。

はもう起きてるかな?)

そんな事を思いながら中へ入ると、まず目に入ったのはサマンサの冷たい視線。
サマンサはソファに足を組んで座りながら何か雑誌を読んでるようだった。
だが俺が入って行くとジト〜っとした目でこっちをジィっと見ている。
その視線に何だか嫌なものを感じたけど二日酔いで死んでる僕にはサマンサと一線交えるだけの元気もない。
ここはグっと堪え、朝の挨拶をすることにした。

「おはよう、サマンサ」
「おはよう。随分と早起きね?」
「・・・ちょっと・・・気持ち悪くてね・・・」
「そりゃそうでしょうね。朝方まで飲んでたんなら」
「へ・・・?何で知ってるの?」

バスルームのドアを開けようとしたがサマンサの言葉で思わず振り返る。
するとさっき以上に冷たい視線のサマンサと目が合う。

「あんなドタバタして入って来たら誰だって気づくわよ・・・!」
「う・・・嘘だろ?俺、そんなうるさかった・・・?」
「うるさい?うるさいなんてもんなじゃなかったわ!ヘタな歌は歌うわ、テーブルや椅子にガンゴン当たるわ!おかげで目が覚めた!」
「ご、ごめ・・・ってか、もしかしても・・・」
「当たり前でしょ?だって起きちゃったわよ!でもはあんたに水をあげるって聞かなくて・・・」
「じゃ、じゃあは―」
「あんたの介抱に疲れてまだ寝てるわよっ」

サマンサはそう言うとスクっと立ち上がり、俺の方に歩いて来た。
それには僕も殴られる!なんて思って身構えたけどサマンサは俺を殴ったりはしなかった。
ただ思い切り呆れたように溜息をつき、黙って自分の腕時計を俺の目の前まで持ってくる。

「今何時だと思ってんの?」
「え・・・えと・・・午後・・・12時47分・・・」
「そうね、もうランチの時間もとっくに過ぎてる。でも・・・あんた、今日はと一緒に出かける約束してなかったっけ?」
「え・・・?あ―!」

その一言で俺は後頭部をガツンと殴られたような衝撃を受けた。(もともと痛かったが)

(そ、そうだ!今日はと遊びに行く約束を―!!)



「ちょっとオーランド!どこ行くの?!」

サマンサは踵を翻した俺の腕をグっと捕まえながら思い切り溜息をついた。

「だ、だからに謝りに―!」
「バカね!寝てるって言ってるでしょ?それにも一度、約束の時間には目を覚ましたのよ?」
「じゃあ、その時どうして起こしてくれなかったんだよ・・・!」
「起こしたわよ!でも、あんた"う〜"とか"あ〜"とか言って全く起きなかったじゃないっ」
「ぅ・・・」

サマンサの言葉に俺は何も返す言葉がない。
どう考えたって俺が悪い。
夕べ、あんなに飲まないようにしようって気をつけてたクセに、ついついラナの進めるままにワインなんて飲んで・・・

「ごめん・・・」
「私に謝られてもね?」
「うん・・・後でが起きたら・・・謝るよ・・・」

俺はそう言ってトボトボとバスルームへ歩いて行った。
とりあえずこの酒臭さを取らないとに会えない。
俺は頭の先から足の先まで丁寧に荒い、歯磨きも普段以上に長く磨き、最後には嗽薬で酒臭かった口内をスッキリさせた。

「はぁ・・・バカだなぁ、俺・・・」

頭からシャワーを浴びつつ、そんな独り言が零れる。
せっかく久し振りにを独り占め出来るチャンスだったのにムードに流されて飲みすぎちゃうなんて。
しかも最悪の事に後半の記憶が殆どない。

(まさか俺、ラナを口説いたりしなかったよな・・・?まあ、あのお高そうな彼女が落ちるとも思わないけどさ)

キュっとコルクを閉め、頭からバスタオルを被り髪を拭く。
体も丁寧に拭き、パンツだけ穿いてから出ようとして、ふと足を止める。

いけね・・・ボーっとしてて、いつもの様に出るとこだった。

俺はさっきまで穿いてたスウェットのズボンを洗濯機に入れると、すぐに新しいのを出してそれを穿いた。
上半身は別に何も着なくていいだろうと首からバスタオルを引っ掛けそのままバスルームを出る。




「あ、オーリィ、おはよう御座います」


「・・・っ!」




水を飲もうとキッチンに行くとそこにはが笑顔で立っていた。

・・・」
「オーリィもう大丈夫ですか?」
「う、うん!あ、あのさ!今日は寝坊してゴメン!俺、ちょっと飲みすぎちゃって・・・夕べもが介抱してくれたんだってね」
「いいんです。それに私も寝ちゃってたし・・・」
「それは俺が夕べ騒いだから・・・」
「そんな事ないですよ?オーリィの歌が聴けて楽しかったです」
「あ、いや、それは・・・」

(さっきサマンサも言ってたけど・・・俺、一体何を歌ったんだ?)

全く記憶のない事を言われると恐ろしくなるのは気のせいだろうか・・・
そんな事を考えるもすぐに笑顔を作りの目線に合わせて屈む。

「あのさ・・・まだ時間も早いし・・・これから出かけない?行ける場所は少なくなっちゃったけど・・・」
「いいんですか?」
「もちろん!」

俺が笑顔で頷くとの顔にいつもの可愛い笑顔が戻った。

「じゃ、じゃあ急いで出かける用意します・・・!」
「いいよ。ゆっくりしておいで―って、危なぃ・・・!」



ゴン!



「ひゃ・・・っ」



見事な音がキッチンに響いた。
は急いだおかげで振り向きざまに何故か壁にぶつかってしまったのだ。
俺は思わず手で目を覆ったがそぉっと見てみるとが泣きそうになりながらぶつけた鼻を擦っている。
その姿に慌てて駆け寄った。

、大丈夫っ?」
「ぃ、痛いです・・・」
「あー慌てるからだよ・・・。ほら、見せて?」
「ぅ・・・」

ちょっと苦笑を洩らし鼻を抑えてる小さな手を避ける。
すると、これまたの小さな鼻がトナカイさんのように赤くなっていた。

「あらら・・・、少し赤くなってるよ・・・痛いだろ・・・?」
「す、少し・・・」
「でも擦り剥けてないから、すぐ戻ると思うよ?」
「ほんとですか・・・?」
「うん」

瞳に薄っすらと溜まってる涙を指で拭いながら頷けばもホッとしたように笑顔を見せる。
その様子が可愛くて、俺はその赤くなった鼻先にチュっと口付けた。

「わ・・・オ、オーリィ・・・?!」
「早く治るおまじないだよ」
「おまじない・・・」
「そ。だから、すーぐ治っちゃうよ?」

顔が緩みそうになるのを堪えながら俺がそう言うとは照れくさそうに微笑んだ。
だがすぐに悪魔の囁きが真後ろで聞こえてくる。

「なーにが、おまじないよ!あんたのはただ単ににキスしたかっただけじゃない」

「ぬ!サマンサ、うるさいぞっ。(余計なこと言うな!当たってるケド・・・)(アンタって)

「うるさい?あんたがよく、そんなこと言えるわね!夕べのあんたの方がもっとうるさかったわ!」

「何だよ、しつこいな!終った事グチグチ言うなっ」

「はあ?開き直る気?との約束忘れて、どっかの尻軽女と楽しく飲んでたくせに!」

「バ、バカなこと言うな!(それもの前で!)それにとは今から出かけることにしたんだよ!ねー?

「は、はい・・・。あ、私、用意してきます・・・!」

は俺とサマンサのいつものやり取りをハラハラしてたように見ていたが、ハっと思い出したように急いで部屋へと戻って行った。
それを見送りサマンサは特大の溜息をついて僕を見る。

「ったく・・・。がいい子で良かったわね?他の子なら、あんたとっくに振られてるわ?」
「何だよ・・・俺は振られたことなんて一度もないぞ?」
「はいはい。どうせ本気で人を好きになった事がないあんたには"失恋"の切ない感情すらも感じない程度の恋なんでしょ」

サマンサは呆れたように、そう言いながら手をヒラヒラ振ってリビングに行ってしまった。
俺はムっとしつつも今、サマンサに言われた事を考えてみる。

失恋?失恋なんて俺は本当にした事がないぞ?
いつも女の子とデートしたりしてるけどエッチしちゃうとどうしても続かない。
ってか会うのが面倒になって他の子に目移りしちゃうし・・・(オイコラ)
そう言えば・・・昔・・・子供の頃に感じていた胸がキュンとなる感覚とか・・・最近じゃなかった気がする。
好きな子に会えるだけで毎日が幸せだったはずなのに今は好きな子すらいないなんて。

いや・・・でもと会って、その懐かしい感覚を思い出したんだけどな・・・
それって、でも"恋"とかじゃないよな・・・?


「オーリィ・・・?」
「あ・・・!・・・」

あれこれ一人で考えていると用意を終えたがひょこっと顔を出した。
一瞬ドキっとしたが慌てて笑顔を作り、のところへ歩いて行く。

「あ、も、もう用意出来た?」
「はい」
「じゃあ・・・もう行く?」
「はぃ・・・でも・・・」
「え?」

が何だか言いにくそうに目を伏せ、またまたドキっとする。

何だろう?女の子がこんな顔する時は大抵、良くない話のような気が―

顔はニコニコしたまま内心、バクバクしているとが思い切ったように顔を上げた。


「オーリィ、そのまま出かけるんですか・・・?」

「へ・・・?」


のその言葉に改めて自分の格好を見てみると―




上半身裸のあげく首からバスタオル、そしてスウェットパンツという、明らかにこれから寝るような格好だった・・・・・・














「さあ、どこ行こっか!」

俺は外に出ると、う〜んと伸びをしての手を握った。
今度こそちゃんと着替え、今はTシャツにブラックジーンズといったラフな格好。
今日は暑いしこんな感じでいいだろう。
隣にいるは可愛らしい大きなチューリップハットを被り、アジアンティストな生地のワンピース。
いや、その下に七部丈のジーンズを穿いているからトップス代わりに着ているんだろう。

(とにかく!今日も俺の(ここ大事)はかわゆいったらないぞ、うん)

俺はと手を繋ぎながら天気のいい空を見上げ、ゆっくりと歩き出した。

「さ!どこに行きたい?まだ2時だしどこでも行けるよ?朝の公園で一緒にボートってのはダメになっちゃったけど」

そう今日の約束は確か、朝、公園が開いたと同時に一緒にボートに乗る約束だったんだ。
休みの日でも朝はまだ人が少ないからボートでノンビリ出来るし、
が公園でボートを乗ってる人を見て"乗ってみたいなぁ"と言ったのがキッカケだった。
だけどこの時間じゃきっとボート乗り場は凄く混んでると思うし軽く一時間は待つハメになる。

(ああ・・・・と仲良くボートに乗りたかったよなぁ・・・・・・)

そんな事を思いつつの返事を待ってると、彼女は一生懸命、考えてるのか口元が少し尖っていてめちゃくちゃ可愛い☆
それには俺もニヤニヤしつつ思わず繋ぐ手に力が入るってもんだ。(オッサン化)

「オーリィはどこ行きたいですか?」
「え?俺?俺はいいよ。が行きたいところで」
「でも・・・」
「あ、そだ!、お腹空かない?ランチまだだしどこかに食べに行こう。食べながらどこに行くか決めればいいしさ」
「はい。じゃあ"キャンディ・ティールーム"のパンが食べたいです」
「OK。あ、じゃあさ!そこでテイクアウトして空の上で食べない?」
「・・・・・・空の・・・上ですか?」
「そ。の好きなゴンドラだよ」

俺がそう言うとは嬉しそうな笑顔を見せた。

「さ、行こう?」
「はい」

そうして二人仲良く歩き出そうとした。
だが前を見て俺は一瞬で固まってしまった。



「あら、オーランド」
「君・・・・・ラナ?」



前から笑顔で歩いて来るのは何と、夕べパーティで会った、あのラナだった。

「ど、どうして、ここに・・・?君の家は確かヴィクトリア駅の方じゃ・・・・」
「ええ、そうだけど・・・・。やだ、忘れちゃったの?今日、約束したじゃない」
「えっ?!」
「昨日、別れ際に"じゃあ明日も会える?"って聞いたら"いいよ。2時頃なら起きてると思うから"って家への地図まで書いて」
「ま、まさか・・・・・・」
「ほら、これよ?あなたの字でしょ?」
「――っ?」

そう言ってラナが差し出したメモに描かれた地図、そして文字は確かに俺のものだった。
だけどそんな記憶は全くない。

「え、えっとラナ・・・確かに俺の字だけどさ・・・。ゴメン、夕べ最後の方って全然覚えてないんだ・・・」
「えぇ?そうなの?」

俺の言葉にラナは本気で驚いている様子だ。
それには困り果てた。
自分を呪いたいくらいだが、今はも一緒にいる。
あまり変な話も聞かせたくない・・・

そう思っているとラナが不意に顔を上げた。


「じゃあ・・・あのキスも覚えてないって事?」

「は・・・?キス・・・?!」


突然の言葉に心底、驚き俺は慌ててを見た。
はキョトンとした顔で俺の事を見上げている。

「オーリィ・・・お友達ですか・・・?」
「え?あ、いや、うん、あの・・・」

何だか一人でしどろもどろになりつつ何て答えようか、いやその前にラナに謝った方がいいか、と頭の中は混乱していた。

(だいたいキスって何だよ!俺、そんな事したのか?!
いや・・・前は確かによく落とした子には別れ際キスなんてしてたかも・・・)(オイ)

どうしよう、どうすれば・・・!なんて焦っているとラナが大きく溜息をついた。

「もういいわ?私の勘違いだったみたいだし。その子とデートなんでしょ?じゃ、さよなら」
「え・・・ちょ・・・待てよ、ラナ!」

一方的にまくし立て歩いて行こうとする彼女に驚き、俺は思わず腕を掴んでしまった。
その際にの手を放してしまったが今はとにかく彼女と話をしなければ・・・とそう思ったのだ。

「あのさ・・・ごめん。俺、夕べほんと酔ってて・・・久々に酒飲んだしその・・・楽しかったって事は覚えてるんだけどさ・・・」
「・・・ほんと?じゃあ・・・また日を改めて会えるの?」
「え?あ、うん、いいよ・・・?今日はほんとダメだけど・・・さ・・・」

とりあえず失礼な事をしたし、今度時間を作った方がいい。
そう思って仕方なくOKを出すとラナはニッコリ微笑んだ。


「なら、いいわ?今度で」
「え?」
「ちゃんとデートの時間、作ってね?」
「あ・・・うん・・・」
「じゃあ・・・また」
「うん、また・・・」

何だかアッサリと納得してくれたラナに呆気に取られつつ手を振った。
だがラナはそのまま歩いて行こうとして、ふと足を止めるともう一度振り返り―

「もしかして・・・その子が同居してるっていう妹さん?」
「え?あ、うん。でもほんとの妹じゃなくて・・・」
「そう。可愛い子ね」

ラナはそう言ってにも笑顔を見せると今度こそ歩いて行ってしまった。
途端に一気に体の力が抜け、その場にしゃがみ込む。

「オーリィ・・・?大丈夫ですか?」
「あ、うん・・・・・・何とか・・・・・・」

が心配そうに俺の顔を覗き込んできたのでちょっと笑顔を見せてすぐに立ち上がる。
するとも立ち上がり、少しだけ目を伏せた。

「あの・・・今の人・・・」
「え?あっと・・・まあ・・・友達・・・だよ?マットの(!)」
「え?」

咄嗟に出た嘘だった。(許せ、マット。こんな時くらい役に立て)
その言葉には驚いたような顔をしたがすぐに笑顔を見せる。

「そうなんですか。凄く奇麗な人・・・」
「そう?の方が可愛いよ?」
「そ、そんな事ないです・・・っ」

俺の言葉にはわたわたと手を振り、顔を赤くしている姿がほんとに可愛くて、内心"ほんとのことなのに"と思った。
だがは照れくさそうにしながらそれでも笑顔で俺を見上げ、

「でもあの人、オーリーのこと好きなんですね?」
「・・・・・・えっ?」
「好きな人には会いたくなるってサマンサお姉ちゃんが言ってました」
「そ、そう・・・なの?(くそーサマンサの奴、余計な事を!)」

ほっペがヒクヒクしながらも何とか笑顔で返すと、はまたまた可愛い笑顔を見せ俺の心を乱す事をサラリと言った。



「だから今の人も私と一緒です」

「・・・・・・へ?(い、い、一緒って何が?)」



俺がビシっと固まると、は更に愛くるしい笑顔で俺を見上げ―



「私もオーリー大好きだから、毎日会えるのは嬉しいんです」

「・・・・・・・・・(ウルウル)」



俺はの言葉に涙腺は緩むわ、心臓はバクバクいうわで少しおかしな気分になってくる。
だって今、思わずを抱きしめてキスなんてしたくなっちゃったんだから・・・!
し、しかも唇に・・・(他の場所なんて考えは毛頭ない)


コラコラコラー!!な、何考えてんだ、オーランド!!
こ、こんな純粋な子に何て不埒な真似を――!!(い、いや、まだしてないけど)
でも、こんな胸がキューーーーンっとなって嬉しくて踊り出したい気分は久し振りなんだよ!姉ちゃん!!

(でもやっぱり、まだ抱きしめたくて手がピクピクしてるし、ちょっとアル中みたいだ・・・)(変態か、アンタ)






「オーリィ・・・?どうしたんですか?目がウサギさんみたいに赤いです」

「う・・・い、いや何でも・・・ちょっと・・・嬉しくて・・・」

「?」

「あ、いや・・・が俺のこと好きだって言ってくれたから・・・さ・・・」

「それは当たり前です。でも・・・」

「え?」

「さっきの人もオーリィと一緒にいたかったんじゃ・・・」

「あ、そ、それはいいんだ、うん!今度、ちゃんと会うし・・・(って何、こんなことまで説明してるんだ!このいい時に!)」



だが俺の心とは裏腹にはニッコリ微笑むと―



「じゃあ良かったです。大好きなオーリィと一緒にいれないのは可愛そうですもんね」

・・・」



何だろう・・・今ちょっと胸が痛くなった。
この痛みは何なんだ・・・?





ぅぅ・・・





「・・・・・・っ」


「・・・・・・」





俺が一人ブルーな気分になりかけた、その時。

のお腹から可愛い音が聞こえ、一気に心があったかくなった。

つい噴出してしまい、は真っ赤になって俯いてしまったけど繋いだ手をギュっと握り締める。



「ほら、お腹の虫さんも騒ぎ出したことだし、早くパン買いに行こう」
「は、はい・・・・・・」



は恥ずかしそうに頷いて、俺はといえば相変わらず顔の筋肉なんてあんのか?ってなくらい緩んでる。



でも、この時、こんなささやかな時間が今の俺には凄く大事に思えたんだ。














Is it strange to think in this way?








この気持ちは何なんだろう。





















久し振りに書きました(;゚д゚)
まあ、これは最初からノンビリ更新でと決めてるので許して下さい・・・・
今回は姉イジメがなくて一安心な展開で・・・・・・(笑)
ささ、今日はまだ時間も早いので次の連載でも書いてきます(゜∀゜)!!ぇらいぞ、俺・・・!(コッソリ)


日ごろの感謝を込めて…


C-MOON管理人HANAZO