キスして・・・?
もういちど 考え直して 何が本当に僕のためか...
君はわかってる....
今日も雨…冷たい空気で僕は少し身震いした。
「…ランド…オーランド…!」
「え?」
不意に呼ばれてハっとした。
「何、ボーっとしてるんだ?次の取材陣が到着したぞ?」
「ああ…ごめん…」
ちょっと息をついて謝ると、マネージャーのマイクが渋い顔で僕を見た。
「どうした?最近、変だぞ?何かあったのか?オフは楽しんだんだろう?」
「別に何もないよ?オフは…どこにも行かなかったしさ…」
「何?どこにも…って…お前にしちゃ珍しいな?!ほんと、どうしたんだ?」
「何でもないよ…。もう記者の人来るんだろ?」
僕はそう言ってソファーから立ち上がった。
「あ、ああ。でも…大丈夫か?答えるの辛いなら…明日にでも回してもらうけど」
「いいよ。もう、こうして、ここに来てるんだし。また明日出て来るの面倒だからさ」
「そ、そうか?じゃ…行こうか」
「うん」
マイクは少し心配そうな顔をしながらも僕の前を歩いて取材を受けるのに取った隣の部屋へと歩いて行く。
僕もそれに続きながら何だか体が重たいと感じて、ちょっと軽く深呼吸をする。
今日から久し振りに仕事再会だった。
朝から怠けた体を動かすのは少し辛かったが仕方がない。
それに…何かしていた方が気が紛れていいと思った。
あの夜の…とオーエンが頭の奥にこびりついて離れない。
あれから僕はに会いに行くのをやめてしまった。
何だか顔を見れば彼女を責めてしまいそうな気がしたから…
恋人でもないのに、彼女を束縛する事は出来ない。
でも…きっと言わずにはいられないと思うから…
は普通に仕事をしているんだろう。
夜も遅いのか部屋は夜中じゃないと明かりがつかない。
それでも相変わらず、オーエンとの事を騒がれてるようで、家の前には毎日一人か二人はパパラッチらしき男達がいる。
今では雑誌でもはオーエンの恋人として書かれていた。
この前もバーで二人きりで飲んでいるところを写真に撮られたのが雑誌に載っていたらしい。
と言うのも僕は、そんな記事は読んでいない。
サマンサが教えてくれただけだ。
「この二人…やっぱり付き合いだしたんだね…。あんたは、それでいいの…?」
サマンサは、その時、こう言った。
だけど…僕は何も答えられなかった。
これ以上…僕は何をすればいい?
何年もだけを見て、彼女だけを想って追いかけてきたのに…
その想いが伝わらないんだ…
そんな僕が、何をしたって無駄じゃないか。
僕は、あの雨の夜…大事な恋を失ったんだ…
僕が出来るのは…これ以上、に迷惑をかけないって事だけ…
僕は…今日、こっちでの仕事を終えたら…ロスに向かう。
には会わない…。
そう決めたから。
「、これ明日までじゃなかった?」
同僚のルーシーが驚いたように顔を上げた。
「ええ、そうなんだけど…。もう出来ちゃったから」
私はパソコンの画面から目を離さず、それだけ答えた。
「へぇーやるわねぇ?どうしたの?最近仕事もバリバリ頑張っちゃって!あ、素敵な恋人が出来たからでしょ?」
ルーシーの言葉に私はちょっと笑うと、
「そんなんじゃないわよ」
と言ったと同時に、Enterキーを押した。
「これで、よし…っと」
「え?!そっちも、もう出来たの?!」
ルーシーがキャスター付きの椅子に座ったまま、私のデスクの方まで滑ってきた。
「これ、今日取材してきた奴でしょ?まだ戻って打ち出してから2時間半しか経ってないわよ?!」
「乗ってると、このくらい書けるわよ。今日のは特にテーマがハッキリしてたから」
「へぇ〜…凄い!やっぱは凄いわ…。ま、恋の力も凄いけど」
ルーシーは、そんな事を言って私の事を肘でつついてくる。
「はいはい。解かったから、自分の方は出来たの?」
私が笑いながら彼女を見ると、大げさに頭を垂れて息をついている。
「ダメ〜〜…。上手く文章にならないんだもの…。私もインタビューの方がいいなぁ。コラムとかって難しい…」
「何言ってるの。インタビューだって大変よ?選手だって素直に何でも話してくれる人ばかりじゃないんだから」
私が苦笑しながら紅茶を飲むと、ルーシーがガバっと顔を上げた。
「あ〜でもオーエンはにだけは素直に何でも話してくれてるものねぇ?」
「な、何がよ?」
「この前のスペシャルインタビュー好評だったわよ?」
ルーシーは、そう言いながらニヤリと笑った。
「あ…あれ…」
「そ!バーで二人だけの熱〜いインタビューしたんでしょ?ま、そこをパパラッチに撮られて、またしても雑誌を賑わせてたけど!
噂の彼女がオーエンを書いた記事だし、そりゃ皆、読むわよ。編集長もホクホクしてたわ?その号の売上が普段の倍だった〜ってね」
そう言われて私はちょっと困ってしまった。
「そんな理由で売れても…記事をちゃんと読んで欲しいのに…」
「あら、そんなこと言ったって、やっぱり読者だって、その辺も少しは気にしちゃうわよ」
「そんなもの…?」
「そうよ。ゴシップ雑誌じゃないんだからって言っても…そこはね?あれだけ騒がれちゃったらさ…。がどこの出版社の記者かってバレバレだし」
そういうもの…か。
私はちょっと息をついて時計を見た。
「あ…いけない。もう行かなくちゃ…」
「え?何?用事?」
「う、うん…ちょっと…」
「あらら〜?何か怪しいな〜」
「な、何が?」
「ひょっとして…デート?」
「そ、そんなんじゃ…っ」
私はちょっと顔を反らしてバッグを掴んだ。
「だって何だか仕事も早かったし…それに今日は、どことなく、お洒落してきてない?」
ルーシーは私の服装をチラっと見てニヤニヤしている。
「べ、別に普通じゃないの…っ。もう、そんな事より仕事しなさいよっ」
「お〜怖い。ま、楽しんで来て?今日はあいにく雨だけど恋する二人には雨もまたロマンティックでしょ?」
ルーシーは、そう言うと自分のデスクの方に戻って行った。
私は言い返そうと口を開きかけたが、言っても無駄だと思ってやめておいた。
そのままパソコンの電源をオフにすると、自分の傘を掴んで、
「じゃ、お先に」
と声をかける。
ルーシーは笑顔で手を上げると、
「デート、頑張って!」
なんて言って笑った。
私はベーっと舌を出して、急いで廊下に出るとエレベーターに飛び乗った。
全く…ルーシーってば声が大きいんだから!
他にも残ってる人がいたのに。
私はちょっと息をついて壁に寄りかかった。
エレベーター内は私一人で、ちょっとホっとする。
バッグに入れたメイクポーチの中からコンパクトと出すと一応メイクのチェックをしておく。
ルーシーが言ったように今夜はオーエンとデートの約束をしているのだ。
「間に合うかな…」
私は腕時計を見ながら、そう呟いた。
まだ30分以上はあるけど…この雨だ。
タクシーで行っても道が混んでいればギリギリになってしまうだろう。
その時、エレベーターが一階に到着して、私は急いでロビーに出ると会社の前に止まっていたタクシーに乗り込んだ。
「ロンドン交通博物館前まで…」
私がそう告げるとタクシーはゆっくりと走り出した。
別に博物館を見に行くわけじゃない。
オーエンと待ち合わせているイタリアンレストランが、そこの前にあるのだ。
ちょっと濡れた髪をハンカチで拭きながら窓の外を眺めてみる。
今朝方から降り出した雨は今では霧雨へと変わり、気温もグっと下がった。
そろそろ秋になるんだ…
早いなぁ…夏なんて、アっと言う間に終っちゃた…。
そう思いながら今年の夏は何だか騒がしいまま過ぎ去った気がして、ちょっと笑顔になる。
そうだ…オーリーが久々にロケから帰って来た時、私は疲れて眠っていたんだったっけ。
あれから…いつもとは違った夏が始まった…
なのに…もう、その夏も終ろうとしている。
そう思うと…少し寂しい気持ちになって自然と軽い溜息が洩れた。
オーリー…何してるんだろう…
あの夜以来、顔すら合わせていない。
やっぱり…オーリーも呆れちゃったのかも…
人を好きになるのが怖いって言いながら…オーエンと…って思ったのかも。
オーリーを…深く傷つけたんだろうか。
オーリーは…私が何を言っても、いつも笑顔で…時々スネたりして…それでも、また、あの明るい笑顔で会いに来てくれる。
オーリーは変わらないと……どこかで安心していたのかもしれないな…
私がロンドンに来てから…いつも励ましてくれてたのに…
そんな彼を…酷く傷つけてしまった…
あんなに想っていてくれてたオーリーではなく…他の人を選ぼうとしている。
オーエンには、まだ返事はしていない。
でも…もう一度、恋をするなら…彼みたいな人がいいのかもしれないと少しだけ思ったのだ。
何も知らない人と始めた方が…上手く行く…そう思った。
ただ…まだ、どこかで迷っている気持ちがあるのは隠しようがなかった。
ふとした瞬間…こうして思い出すのはオーリーの事だから…
あんなに解からなかった自分の気持ちが…少しづつ形になってきた気がして戸惑っていた。
考えれば考える程、それは曖昧なものに変化していくのだけど…
考えたくないから、つい仕事に集中してしまう自分がいるのも解かっていた。
私はちょっと頭を振るとシートにも垂れたまま目を瞑る。
その時、浮かんだのはオーリーの明るい笑顔だった。
「俺、明日、仕事でロスに行くんだ」
僕は家に帰るなり、そう言った。
母もサマンサも驚いた顔をしていたが、
「そう…。また…暫く会えないのね…」
「静かでいいじゃない?」
と言うだけだった。
そのまま、直ぐ部屋に戻り、荷造りを始めた。
「これで全部かな…」
一通りトランクにつめて僕はちょっと息をついた。
そして、ごく自然に窓の方を見てしまう。
が帰って来てないか、無意識のうちに確認しているのだ。
「重症だな…」
自分で自分が情けなくなり、ちょっと笑った。
窓を開けて、テラスへ出ると小さな霧雨が顔に降りかかってくる。
少し肌寒いが今の僕には、ちょうどいい。
こんなに気持ちが沈んでいると、雨の音が耳に心地いいのだ。
「まだ…仕事してる…?それとも…彼と一緒…?」
真っ暗なままのの部屋を見ながら、そっと呟いた。
会いたい…
心の奥から、そう強く思った。
それは僕にとっては、ここ数年、自然な事だった。
の事が好き
愛してる
その気持ちは僕にとって、すでに、当たり前のことになっていた。
「好きだよ……」
何度…そう言った事だろう?
そう言えば、はいつも困った顔で笑うだけ。
それでも良かった。
きっと僕の想いは伝わっている…という気持ちと、だから、いつかも僕の事を好きになってくれる…という自信があったのかもしれない。
でも、もう…そんな事はないんだ…ということ。
僕じゃダメなんだということ。
それさえ解かれば充分だ。
ならば、が困らないように僕は潔く諦めるしかない…
彼女は優しいから…きっと僕の事を心配するから…
傍にいたら、きっと僕はに会いに行ってしまう。
そして、懲りもせず、また愛の告白をするんだ。
でも…は僕の気持ちに答えられない…と苦しむだろう。
そんな彼女を見るくらいなら、いっそ傍からいなくなればいいんだ。
それが最近、僕の出した答えだった。
次に…ここに戻る頃には…を忘れていなくちゃならない。
また前のように…友達として…幼なじみとして…接しなくちゃならないんだ。
そう思うと自然と涙が浮かんできた。
その時、コンコンっというノックの音に、慌てて手で目を擦った。
「はい…?誰…?」
「私…入るわよ?」
そう聞こえてサマンサが入って来た。
「何…?」
僕は赤くなったであろう目を見られないようにテラスに立ちながら問い掛けた。
サマンサは気を使ったのか、別に僕の隣に来るでもなく、ベッドに座ったようだ。
「明日…何時の飛行機…?」
「昼ちょうど」
「そう…じゃあ…朝にでもちゃんに会いに行けるのね?」
「……行くつもりはないよ?」
僕はちょっと息をついて、そう言った。
「な、何でよ?あんた、まさか…ちゃんに会わないで行くつもり?!」
サマンサは驚いたようにベッドから立ち上がる。
僕はチラっと視線を向けると、小さく頷いた。
「な…何で?また暫く会えないんだし最後くらい…」
「今、の顔見ちゃうと…。同じ事の繰り返しになるからさ…」
「でも…」
「いいんだ。には僕が、いつの間にか、いなくなってたって感じで知って貰った方が」
「本気…なのね?あんた、本気でちゃんを諦めるつもりなのね?」
「そうだよ?もう…いい加減、諦めてあげないと…が可愛そうだしさ?」
僕はちょっと笑って髪をクシャっとかきあげた。
泣きそうな顔をサマンサに見られたくなくて…
だがサマンサは溜息をつくと、静かに部屋を出て行った。
きっと…僕が一人になりたいって解かってくれたんだと思う。
一人になった瞬間、僕はその場にずるずると、しゃがみ込んでしまった。
「……ぅ…っ」
嗚咽が出てきて喉の奥が熱くなった。
泣いたのなんて何年ぶりだろう…?
胸が痛くて…痛くて…息も出来ないほど痛くて…
と出逢った頃から、今日までの…彼女の笑顔や僕を呼ぶ声が頭の中で、ぐるぐる回っている。
今日が雨で良かった…
僕の声を…消してくれるから…
情けない思いを…流してくれるから…
こんなにも愛しい想いを…僕は手放さなければならない―
「夕べはどうだったの?」
いきなり顔を合わせた途端、聞かれて私は苦笑して振り向いた。
「ルーシー…出来たの?原稿」
「もち!残業して終らせたわ?ね、それより!夕べのデート!どうだった?」
ルーシーはパソコンに向かう私の肩を抱きながら顔をくっつけてきた。
「どうって…別に食事して…少し飲んで帰ったわ?」
「えぇ〜?それだけ?!泊らなかったの?!」
「と、泊る訳ないでしょ?!私とマイケルは、まだ…っ」
「あれれぇ?前は"オーエン"だったのに!もう"マイケル"って呼んでるの?」
ルーシーにニヤリと笑われ、私はちょっと赤くなった。
「そ、そんなんじゃ…。彼がオーエンって呼ぶの嫌がるから…」
「あ〜"彼"だって!もう〜付き合ってるのと同じじゃない?キスくらいしたの?」
「バ…っバカなこと言わないでよっ。し、してないわよ…」
「ほんとにぃ?何だか語尾が小さかったわよ?」
ルーシーに、そう言われてドキっとする。
確かに…今、私とオーエンは付き合ってるような雰囲気にはなっていた。
でも私が返事をしていないのだから、付き合ってるとは言えないだろう。
それに…夕べもオーエンは紳士的に、きちんと時間がきたら家まで送ってくれた。
まあ…頬に軽くキスをされたんだけど…
そんなのは、おやすみのキスであって、別にルーシーが期待してるようなキスではない。
「と、とにかく!してないったら、してないのっ。さっさと次の仕事しなさいよっ」
「何よ〜。自分だって今、ネットして遊んでたじゃない」
「わ、私は昨日で自分の仕事終っちゃったから、する事がないのよっ。明日の取材までね」
「ふぅーん。ずるぅー。じゃあ、暇なら私の仕事、手伝わない?」
「えぇ?嫌よ!ちゃんと自分でしなさいよ」
「わー冷たいんだから、は!こんな冷血ちゃんの、どこが、そんなに好きなんだろう?オーエンったら」
ルーシーは、そう言って私の頬を指で突付いてきた。
「ちょ…やめてよ…。それに、そんなこと大きな声で言わないでっ。皆、聞き耳立ててるんだから…」
私はちょっと息をついてルーシーを見ると、彼女は肩を竦めて、
「はいはい、悪ぅ御座いました!さ、仕事しよっかなぁ〜」
と言って自分のデスクへと座った。
それを見ながら私は苦笑すると、また画面に視線を戻し、ブックマークしてある映画関連の情報サイトを見た。
オーリィ…次の映画の撮影で、またモロッコに行くんだぁ…
いつ行くんだろ…
一回ロンドンには帰るんだろうけど…
そろそろ帰っちゃうのかな。
私はオーリーの作品の情報を見ながら、そんな事を考えていた。
そして、ふと今夜、私の方から会いに行ってみようかと思った。
もうすぐソニアおばさんの誕生日だし…
また一緒にプレゼントを買いに行ってもいい。
去年は二人で、おばさんにカシミヤのショールをあげたのだ。
今年は何がいいかなぁ…
オーリーったら、いつも黄色いのしか選ばないんだから困っちゃうのよね…
ちょっと思い出しておかしくなった。
おばさんに黄色は変だよって言うのに、オーリーが、
「ねね、こんなの、どう?」
なんて言って持ってくるのは黄色いものばかり。
自分の好みでプレゼントを選んでくるオーリーに、私がいつもダメ出しをしてた。
その度にオーリーは、シューンとしちゃって、
「じゃあ…戻してくるね…」
と、トボトボ歩いて行く。
私は、いつも、そんなオーリーの後姿を苦笑いしながら見てるのだ。
私とオーリーって、いつも、そんな感じだった。
だから素直にオーリーに甘えたり出来ないのかな…
同じ歳なのに、オーリーと一緒にいると、つい私がお姉さんのようになってしまう。
それもあるからこそ、強がってしまう自分がいた。
「はぁ…ダメな私…一生、かわいくない女かも…」
そんな事を呟き、紅茶を一口飲んでいると、携帯が鳴った。
急いでディスプレイを見ると、サマンサの携帯番号が出ている。
どうしたんだろう…珍しいな…
そう思いながら電話に出た。
「Hello?サマンサ?」
『あ、?!今、どこ?』
「え…?あの…会社にいるけど…」
『そう!良かった!取材先だったら、どうしようって思ってたの!』
「あ、あの…でも…どうして?何かあったの…?」
私はサマンサが何の用でかけてきたのか解からず、そう聞いてみた。
するとサマンサは何か慌てた様子で、
『今から空港に行って!』
と言ってきてビックリしてしまった。
「く、空港って…え?どうして…?」
『オーランドが今日、仕事でロス行っちゃうのよっ。お願い!せめて見送りだけでもしてやって?!』
「え…?!ロスって…」
それを聞いて更に驚いた。
まさか今日、発つなんて…
何も聞いてないわよ…?!
「あ、あの…どうして急に?何か仕事が入ったとか…」
私がそう聞くとサマンサは一瞬黙ったが、
『…それもあるけど…』
と呟いた。
『オーランドの奴…ちゃんの事を諦めるって言って…だから傍からいなくなるんだって…』
「え?!」
『ちゃん…オーエンと付き合ってるんでしょ?なのに、こんなこと頼んじゃって申し訳ないんだけど、あまりにオーランドがかわいそうで…』
「ちょ、ちょっと待って?!私、オーエンとは付き合ってないわ?」
私はサマンサの言葉に驚いて慌てて説明した。
『えぇ?!付き合ってない?!ほんとに?!』
「ええ…。確かに…雑誌で色々と書かれてますけど…付き合ってるわけじゃ…」
『何よ、あいつ…。じゃあ勘違いじゃないの…っ』
「え?」
『あ、何でもないわ?じゃあ…尚更、空港に行ってあげて?!オーランド、ガラにもなく今回は本気でショック受けてるのっ』
「ショ、ショックって…私とオーエンのことで、ですか…?」
『ええ、多分…いえ…他にもあるのかもしれないけど…でもちゃんの事で悩んでたのは間違いないわ?
ね、お願い!顔だけでも見せてあげて?』
サマンサに哀願されて私は急いで時計を確認した。
午後11時になるところだった。
「あ、あの…何時の飛行機なんですか?」
『あ、ああ…えっと…お昼丁度って言ってたわ?』
「じゃあ…急げば間に合いますね…。今から行って来ます」
『ほんと?ありがとう!』
「いえ…私も、こんな形で行かれたら…心配ですから…」
そう言うと、サマンサはホっとしたように息をついた。
『じゃ、お願いね!』
「はい。それじゃ…」
そこで電話を切って、私はバッグを掴むと、隣で仕事をしているルーシーに、
「ちょっと出て来る!何かあれば携帯に電話ちょうだい?」
と言って素早く編集部を飛び出した。
後ろでルーシーが、
「またデート〜〜?!」
なんて叫んでいたが今は、とにかく急がないと…とエレベーターに飛び乗った。
どうして…何で、こんな急に発つの?オーリィ…!
私、何も聞いてないよ…!
私は鼓動が早くなるのを感じながら唇を噛み締めた。
こんな…こんな事なら…会いに行けば良かった…
顔を見せなくなった時点で…
まさか…一人で悩んでたの…?
ねえ…オーリィ…
別に一生、会えなくなるわけじゃない…
仕事が終れば、またイギリスへ戻ってくる。
そう…解かってるのに…なのに何故…こんなに苦しいの…?
私は初めて感じる、胸の奥から這い上がってくる不安感で、いっぱいになった―
「そろそろかな…」
僕は時計を見上げながら、椅子から立ち上がった。
トランクは、サッサと預けてあったので身軽だ。
サングラスを少しだけ、ずらしてロス行きのゲートを確める。
「オーランド、そろそろだぞ?」
マイクがチケットを出しながら立ち上がった。
「うん。もう中に入る?」
「そうだな…。混んでも嫌だし…」
マイクはそう言って先を歩いて行く。
僕も後ろをついて行きながら、ちょっとだけ振り返った。
今日も、イギリスは雨模様だ。
昨日とは違い、今日は本降りに近い。
ザァァ…っと音が、かすかに聞こえてくる。
こんな天気ばかりだから気が沈むんだ。
きっと…ロスの明るい空を見れば元気も出る。
そう思いながら、僕は歩き出そうとして前を見た。
その時…
「待って…っ!オーリィ…!」
「……っっ?!」
この場所に居るはずのない、彼女の僕を呼ぶ声が聞こえて立ち止まった。
まさか…いるはずない。
は今日も仕事のはずだ。
こんな場所にいるはずがない。
それに…僕が今日、発つって、は知らないんだから…
そう思いながらも、何故か視線はを探してしまう。
沢山の人が行き交う出発ロビー内に、彼女の姿を…
いない…
空耳か…?
……ほんと重症だ…
「おい、オーランド!どうした?」
僕が立ち止まってキョロキョロしてたからか、マイクが変な顔で振り返っている。
僕はちょと息をつくと首を振って、
「いや…何でもない…」
と言って、また歩き出した。
その時、着ていたコートを誰かにグイっと引っ張られ、ツンっと後ろへ一歩下がってしまった。
「ま…待ってって…言った…じゃない……っ」
「……っ?! ……?!」
僕は、その声と共に振り向いて驚いた。
そこには僕のコートをギュっと握ったまま、ハァハァと息を荒くしたがいたからだ。
「な、何して…何で、ここにがいるの…?!」
「そ、それは…私の…台詞…っ」
「な、何が?!」
「何で…何も言わないまま…行っちゃうの…?冷たいじゃない…っ」
はそう言って怖い顔をしている。
僕は言葉に詰まりながらも、あんなに会いたいと思っていたの顔を見れて胸が熱くなるのを感じていた。
そこへマイクが歩いて来る。
「おい、オーランド。どうした?その子…確か幼なじみの…」
「あ、ああ。あのさ…ちょっと先に行ってて…?」
「え?しかし…」
「すぐ追うから…。頼むよ…」
僕が真剣な顔で、そう言うとマイクはちょっと息をついて頷いた。
「解かった…。もう20分もないからな?早くしろよ?」
「うん。解かってる…」
僕が頷くと、マイクは仕方ないと言った顔でゲートの方に歩いて行った。
僕はそれを見届けると、もう一度の方を見る。
「どうして…ここに…?」
僕は、まだ少し息苦しそうなの頬に、そっと手を添えて聞いた。
「さっき…サマンサから電話が来て…オーリーが今日ロスに行っちゃうからって…」
「…サマンサが…?ったく…。余計なことして…」
ちょっと息をついて、そう呟くとは、キっと僕の事を睨んでくる。
「な、何が余計なことなの?!もし教えてくれなかったら私、オーリーがいなくなったの知らないままだったのよ?」
「それは…どうせ構わないだろ…?は…俺がいなくたって…」
「何言ってるの?よくないわ?」
は怖い顔で、でも少し困ったような表情をした。
僕はの言葉が嬉しかったが、軽く首を振った。
「もう…いいよ…。そんなに僕に気を使わないで…」
「え…?」
「もう…を困らせるようなことはしないからさ…」
「オーリィ…。何言って…。もしかして…オーエンのこと誤解してるの…?」
「…違う…。がオーエンと付き合ってなくても…同じなんだ、俺にとったら…」
「何が…同じなの?」
は少し顔を顰めて僕を見上げる。
僕は少し息をついてを見つめた。
「が…俺の事を男として…見られないってこと…」
「え…?」
「オーエンと付き合っていても…可能性があるなら俺は頑張れる。でも…が俺の事を男として見られないなら…
頑張ったって無駄だって気付いたんだ…」
「…オーリィ…」
僕の言葉にが悲しそうな顔をした。
そんな顔は見たくなくて、僕はちょっと微笑んでの頬を両手で包んだ。
「そんな顔しないでよ…。には…いつでも笑顔でいて欲しい…」
「だ…だってオーリィ…」
「いいんだ。…俺が諦めれば、いいことなんだ。もう…を困らせないから…安心していいよ…?」
「オーリー私は困ってなんかいない…っ。 どうして、そんなこと言うの?いつものオーリーらしくない…っ」
「いつもの俺って?」
「え?」
「いつもの俺って、どんなの?振られても振られても挫けない俺のこと?」
「そ…そんなつもりじゃ…」
「もう…前のように…頑張れないんだ…」
僕は目を伏せて、そう呟いた。
「だから…このまま行かせて…?」
「オーリーィ…っ」
「最後に会えて…嬉しかった…。来てくれて、ありがとう…」
「そんなこと…言わないで…。二度と会えなくなるみたいじゃない…」
の大きな瞳に涙が浮かんだ。
「泣かないで…」
僕はその涙を指で拭うと、ちょっと微笑んで、最後の最後に…
一つだけ彼女に我がままを言った。
「…お願いがあるんだ…」
「…ん?」
涙を手で拭きながらが僕を見上げた。
そんな彼女に、ニッコリ微笑んで、
「最初で最後のお願いだから…の方からキスしてくれる…?」
と言った。
「え…?」
は驚いたように目を丸くしたが、僕は、そっと頬に手を添えて彼女の頬にチュっとキスをした。
「…頬でいいからさ…?からもして欲しいんだ…ダメ?」
そう聞くと、は少し頬を赤くしたが小さく首を振った。
「ありがとう…。じゃ、お願いしようかな?」
少し、おどけた口調で、そう言うと、僕はの顔の辺りまで屈んであげた。
は少し照れくさそうにしていたが、ゆっくりと顔を近づけてくる。
そして僕の頬に唇が触れそうになった時、僕は彼女の顔を引き寄せ、唇を塞いだ。
「…ん…ッ!」
は驚いたように目を見開いたが、僕は今までの想いを返すように彼女に最後の口づけをした。
そして、そっと離すと、まだ驚いたままのを見つめた。
「好きだよ…。ほんとに…。でも…もう……解放してあげる…」
「オーリィ…?」
彼女の顔が歪むのが解かった。
大きな涙が零れ落ちたのも…。
だけど僕は、これ以上、を見ていられなくて彼女に背を向ける。
「の事…諦めてあげるよ。もう俺の気持ちから…解放してあげる。今度…会う時は…また幼なじみに戻ってる…から…」
「…オーリィ・・・」
声が震えた。
もう限界だった。
「バイバイ……。 またね…」
僕は、それだけ言ってに背を向けたまま、出発ゲートへと歩いて行く。
「…オーリィ…待って…!」
後ろからの声が聞こえた気がしたけど…僕はもう振り向かなかった―
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オーリーVer第8弾です^^
うぅ〜切ないオーリー…
これは、このお題で短めに書きました。
短いから続きも書きますよ〜(笑)
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