あなたを想う...
『俺の気持ちから解放してあげる…』
オーランドの、あの言葉が頭から離れない―
「はぁ…今日はダメだ…」
私はそう呟いてパソコンのキーを打つのをやめた。
画面では途中まで書いた文章が残されたまま。
私は椅子から立ち上がって窓の方へと歩いて行った。
カーテンを少し開けて外を覗いてみる。
相変わらず向かいの部屋は真っ暗で、オーランドは、本当にいないんだという現実をつきつけてくるようだ。
あれから一週間…
私は何も手につかなかった。
仕事も何とか出来てる程度で取材に出かけてもインタビューの間、録音するのを忘れてしまったり、
誤字脱字があったりと失敗ばかり…
皆から大丈夫?と心配されてしまうなんて社会人失格だわ…
そんな事を思いながらテラスに出てみた。
冷んやりとした空気が気持ちいい。
空を見上げると、この間まで空を覆っていた雲が消え、今は奇麗な星が光っている。
「はぁ…」
気付けば、また溜息をついてる自分が嫌になる。
「オーリーは…今、何してるのかな…」
そんな事を呟いてみても、胸の奥の痛みは消えないままだ。
空港で…オーリーの背中を見送った時…死ぬほど悲しかった。
あの涙は、行かないで…っていう心の叫びで溢れてきたものだ。
オーリーは一度も振り向かないまま…私の前から消えた。
最後に言った彼の言葉が頭から離れない。
あの時、どうして私は何も言えなかったんだろう…
「傍にいて欲しいよ…オーリィ…」
そう呟いた瞬間に涙が溢れてくる。
ずっと…傍にいてくれると思ってた…
オーリーは…私の傍に…ずっと…いてくれるって…
どこかで…甘えてた。
それが彼を傷つけてるとも気付かないで…
…最低だ。
こんな風になって…よく解かった。
私は…怖かっただけ。
オーリーが、どれほど、"好きだよ"とか"愛してる"って言ってくれても…
今まで以上に、近くにいけば…オーリーは私を好きじゃなくなる日がくるかもしれないって……怖かっただけ…
片思いは…美化してる部分もあるから…本当の私に気づかないんじゃないかって…逃げてた。
私は自分に自信がなかったんだ…
オーリーに愛されるような…そんな子じゃないって…
「ごめん…ね…」
零れる涙を、そっと手で拭って空を見上げた。
素直じゃなくて…ごめんね…
「はぁ…苦し…」
喉の奥が苦しくて、胸が痛くて、人を好きになると、こんなに辛いんだ…
こんな思いをオーリーにもさせてたんだと思うと、罪悪感でいっぱいになる。
私…オーリーが好きなんだ…
そう気付いたのは、あの時…オーリーの後姿が見えなくなった瞬間だった。
捨てられた子猫のように、凄く怖くなった。
どんなに呼んでも振り向いてくれないオーリーに…私は怖くて…子供のように泣いた。
人の目なんか気にせず…大きな声でオーリーの名前を呼んだ。
でも…彼が振り向く事はなかった。
あの瞬間、オーリーは私から距離を置いたんだと思った。
あの時の気持ちは言葉に出せない…
ただ…自分自身を酷く嫌悪した。
今までオーリーを傷つけた罰だ…
私は…この想いをどうしたらいい…?
もう…遅いの…?
ねぇ…オーリィ…
思い切り息をつくと、かすかに白くなって空へと上がって消えた。
「おい、オーランド!久し振り!」
「あ、エリック!」
僕は後ろから歩いて来た懐かしい顔を見て笑顔になった。
「元気にしてたか?」
エリックは僕の頭をクシャクシャっと撫でながら人当たりのいい笑顔を見せる。
だけど僕は、その質問に一瞬、言葉が詰まった。
「ああ〜…うん、まぁ…」
「ん?何だ?元気ないじゃないか。お前らしくない」
「そりゃね…僕だって元気ない時くらいあるよ」
ちょっと肩を竦めて、そう言えばエリックは少し心配そうな顔をした。
「そっか。そうだよな…。じゃあ…今夜、久々に一緒に飲むかっ」
「え?」
「今夜は何もないだろう?」
「うん、まあね」
「じゃ、付き合え」
相変わらずのエリックに僕はちょっと苦笑すると、
「ほんとエリックには敵わないよ。OK。どこに行く?」
「まあ、明日は会見だしなぁ…。仕方ないから、このホテルの上のバーにでも行くか」
「ああ、いいよ。じゃあ何時にする?」
「そうだな。ちょっと軽く食べてからだから…夜の8時はどうだ?」
「OK!じゃ、夜に」
「ああ。後でな?」
「うん!」
僕はそう言って手を振ると、急いで自分のキーを確認して部屋へと向かった。
「ここか…」
番号を確めてカードキーでドアを開けると中へ入った。
「よいしょ、っと…」
僕はトランクを部屋の隅に置くと、窓を開けてテラスへ出た。
今はフランスに来ている。
いわゆるカンヌというものに出るためで明日は記者会見、インタビューと忙しい予定になっていた。
凄く天気が良くて目を細める。
「向こうとは正反対だな…」
太陽が真上にあって目の前の海をキラキラと照らしているのが凄く奇麗だ。
「ここなら…元気になれそうだな…」
そんな事を呟き、テラスのあった椅子に腰をかける。
今まで毎日、僕の胸にあったものがなくなって、ここ最近の僕は放心状態だった。
いつも朝、起きて一番最初に思うことは…は何してるだろう?もう起きたかな…と彼女の事を考えることだった。
そんな事すら、当たり前になってて辛かった。
無意識に思い出してしまうからだ。
…凄く泣いてた…
泣きながら僕の名前を必死に呼んでくれてた…
何度…振り向いて、彼女のとこまで走って行って…抱きしめたいと思ったか知れない…
でも…あの涙は…僕のことを好きだから…とかじゃないんだ…
は優しいから…罪悪感からなのかもしれない。
「はぁ…」
一人になると、つい、あの空港での事を思い出してしまう。
の泣き顔が浮かんで胸が苦しくなる…
自分が…彼女に酷い事をした気になってくるから。
いや…あれで良かったんだ…
これ以上、を自分の勝手な想いで振り回しちゃいけない。
「………っ」
その事を考えると、ほんと…息苦しい…
全て…忘れてしまえれば、どんなにいいんだろう。
奇麗さっぱり…を想う心を取り出してしまえれば、どんなに楽か。
そう思っても…への気持ちが、ここに残ったまま…
それが日々追うごとにズキズキと痛みが増してくる。
そんな事を考えながら、ちょっと苦笑した。
何だよ…結局、どこにいたって辛いじゃないか…
への気持ちは置いてきたつもりでいたのに。
しっかり残ってるんだからさ…
天気がいい分だけ…周りの景色が滑稽に見えてくる。
「今日は…飲むかな…」
そう呟いて立ち上がると、僕は部屋の中へ戻ってベッドに寝転がった。
まだ夜まで時間はたっぷりある。
マイクが来るのも、多分夜だろう…
それまで少し寝とくか。
時差があるからか、頭が重い。
眠れば必ずの夢を見るから、本当は起きていた方がいいんだけど…
ゆっくり目を閉じると、すぐに浮かんでくる彼女の泣き顔…あの日の…僕を呼ぶ声…
脳裏にこびりついたまま。
僕は少し体を横にしてギュっと目を強く瞑った。
「何だ、あまり酔わないな?今日は」
エリックは笑いながら僕の肩をポンっと叩いて笑った。
「そんな事ないよ?エリックこそ強いじゃん」
「いやいや〜前に飲んだ時は、もっとこうテンションが高かっただろ?今日は何だか葬式帰りみたいだぞ?」
「そう…?」
エリックの言葉に僕はちょっと苦笑するとワインを一気に飲み干した。
「おぉ〜行ったね〜!はいはい、飲んで飲んで」
「あ、サンキュ」
エリックはワインボトルを掴んで僕のグラスへと注いでくれる。
エリックとは映画で兄弟の役として共演してから、普段でも僕のいい兄貴分だ。
「オフはどうだった?満喫してたか?」
「ん〜。そうでもないかな?どこにも出かけなかったし…実家に篭ってたかも」
「何だ、暗いな。って、お前が家に篭ってた?!天災がありそうだな…珍しすぎて」
「ちょっと酷いな…。そんなに僕が家に篭ってたら変?」
「変だろう!お前が率先して外に出てく方じゃないか。ロケ先でも休憩入れば、セットは息が詰まるとか行って馬に乗ってさ」
「あれはエリックも一緒に来ただろ?」
僕は思い出して、ちょっと笑ってしまった。
「そうそう!二人して、あのスカートの衣装でな?でも砂浜を馬で走った時は気持ち良かったな〜」
「うん。ほんと。最高だったね」
「ま、スカートは、もう勘弁だけどな?男がスネ毛全開で馬に乗ってるんだ。周りから見れば怪しかったかもな?」
「ハハハ…っ。確かにね。でも地元の人も撮影してるって解かってたし」
そう言いながらチーズを、口に放り込んだ。
その時、エリックが思い出したように僕を見る。
「そうだ。あの片思いしてるって言ってた子どうした?イギリス帰る時今度こそ自分の方に振り向かせるって張り切ってたろ?」
「あ…」
突然、の事を言われてドキっとして目を伏せた。
「どうだ?振り向かせる事は出来たか?」
エリックは何も知らず、笑いながら僕の背中をバンバン叩いている。
僕はちょっと息をつくと小さく首を振った。
「ん?ダメだったのか?今度ダメだったら通算95回目の玉砕だって言ってなかったか?」
「…99回…」
「え?」
「あっち戻ってから…4回くらい振られたから…」
「そ、そうか…。じゃあ…次、振られれば、ついに100回になるんだな!ある意味、凄い記録だぞ?
オーランド!同じ女に100回も振られてるんだから!」
エリックは呑気に、そんな事を言いながら僕の肩を抱いている。
これで慰めているつもりなんだろうか…
「そんな落ち込むなって!な?100回目は、まだ先だろ?」
「………もう…振られる事はないよ…?」
「え?どういう事だ?」
キョトンとしたエリックに、僕はちょっと息をつくと、
「もう…完全に諦めたから…さ」
と言った。
するとエリックも目を丸くしている。
「え…あ、諦めたって、お前…。あんなに好きだって話してたじゃないか。何回振られても頑張るって…。
今度は…何か酷いことでも言われたのか?」
「いや…もう…どれだけ頑張っても無理なんだって…気付いただけだよ…?」
僕はそう言ってワインを飲むと、エリックが黙ったまま、また注いでくれた。
「サンキュ…」
「本気か?お前…」
「え?」
「本気で…その子のこと諦めたのか?」
エリックは、いつになく真剣な顔で僕を見つめている。
そんな彼に、ちょっと肩を竦めて見せた。
「まぁね…。そんなすぐ忘れるっていうわけにはいかないけど…。とりあえず…もうを追いかけて困らせる事はしない」
「オーランド…そんな困らせるなんてことは…」
「いや…困らせてたんだ。今思えば俺が好きだって言う度に、は何て言っていいか解からないって顔して…困ってたよ…」
ちょっと苦笑しながら、ワイングラスを少しだけ揺らした。
「そっか…。ま…元気出せ…な…?」
「うん…。何とか…忘れないとね。今度、会う時は幼なじみに戻るって約束したからさ」
「そうか…」
「でも…」
「ん?」
優しく僕を見たエリックに、ちょっとだけ弱音を吐いてしまいたくなった。
「どうやったら…忘れられるのかな…」
「オーランド…」
「今までさ…他の女の子になんて目もくれないで…彼女の事だけ想ってきたから…諦めるなんて考えもしなかったから…
どうやって好きな子を忘れたらいのか…解からないんだ…」
そう言って少し苦笑するとエリックが僕の頭にポンっと手を置いた。
その温もりに喉の奥が熱くなってくる。
最近、ほんとに涙腺が弱くなった。
「どこかに…忘却草でもあればいいのに…」
そう呟いて無理やり笑顔を見せると、エリックは黙って僕の髪をクシャっと撫でてくれた。
「また…好きな子が出来るさ…。新しい恋をしろよ…」
「…出来るかなあ…。より、素敵な子なんて会った事ないんだけど」
「…こいつ!振られたのに、まだノロケる気か…?」
エリックは苦笑しながらワインをゆっくりと飲んだ。
「ほんとだ…。俺…のこと、そうやって話すのクセになってるんだ…。無意識なんだよ…」
そう言いながら、本当に彼女を愛してたんだ…と改めて実感した。
今さら…実感したくもないことなのに。
「ま、今夜は飲め!明日の記者会見は俺が代わりに話してやるから」
「えぇ〜?エリックはへクトルだろ?パリスの気持ちが解かるのかな〜」
僕がちょっと、おどけて、そう言うとエリックは笑いながら、
「じゃあ、ブラッドに語ってもらおうか。どうせ一番のメインはブラッドなんだから」
と言って僕の肩を抱いた。
「そうだね?ブラッドには、もっと忙しくなってもらおうか。アキレスじゃなく、へクトルやパリスの役柄について説明してもらおう」
「そうそう。明日、こっち来たら、コキ使ってやろう。遅刻だって言ってな?」
エリックと、そんな他愛もない話をしていても、相変わらず僕の心はに向いていたけど、少しだけ軽くなった気がした。
そこに突然、奇麗な女性が二人歩いて来て、僕とエリックは顔を上げた。
「こんばんわ。ご一緒してもいいかしら?」
「こんばんわ!」
「「どうも」」
僕とエリックは同時に挨拶をすると、彼女達が笑いながら、
「私はルイス。こっちはレナよ」
「ああ知ってるよ。二人ともモデルだろう?」
エリックが向かいに座った彼女達を見て、そう言うのを聞いて僕は驚いた。
「エリック知ってるの?」
「ああ、俺だってスーパーモデルくらい知ってるよ。お前が知らなさ過ぎるんだ」
苦笑しながら、そう言われて僕はちょっと頭をかくと、ルイスというモデルは、さりげなくエリックの隣へと移動した。
僕の隣にはレナという子が座る。
「さっきから見てたのよ?ミスターブルーム」
「え?ああ…俺のこと知ってるんだ…」
ちょっと笑って、そう聞くとレナはニコリと微笑んだ。
「もちろん。ロード・オブ・ザ・リングではレゴラス王子、パイレーツ・オブ・カリビアンでは愛する人を守るウィルをやってたわね?」
「ああ…見てくれたんだ」
「そりゃ、そうよ?大好きな映画よ、どっちも」
レナはそう言って魅力的な笑顔を見せる。
その笑顔にドキっとした。
彼女は日系人らしく、奇麗な黒髪と瞳…どこかを思い出させるのだ。
「そう…そりゃ光栄だな…」
ちょっと視線を外して、そう言うとレナは空いてたグラスを持って、
「私もワイン、いただける?」
と聞いてきた。
「ああ、いいよ」
僕はワインボトルを持って彼女のグラスへ注いで上げた。
「ありがとう。じゃ、乾杯」
「乾杯…」
そう言ってグラスをチン…っとあてる。
エリックを見れば、もうルイスと仲良く話していた。
はぁ…ま、予定外だけど…いっか。
僕もそろそろ新しい出会いでも探さないといけないし。
そう思いながら楽しそうに話し掛けてくるレナに相づちを打ってた。
前なら…こんな風に話し掛けられても、そうそう一緒に飲もうなんて思わなかった。
いや…飲むだけとかならいいけど、口説いてこられたら、さりげなく交わしてきた。
それは…に対する想いを汚したくなかったからで、を好きなのに他の子と…っとなれば、
どこかでとの関係が壊れてしまいそうな気がしてたからだ。
願懸け…というわけじゃないけど…僕は、そのスタイルを貫いてきた。
でも今は…そんな事をしても全く意味をなさない。
空しくなるだけだ。
これからは…もっと他の子を見ていこうと思った。
その方がだって安心するはずだ。
隣で微笑み、僕に寄り添ってくるレナと話しながら、そんな事を、ふと考えていた。
(あ〜何だか眩しい…)
薄っすらと意識が戻って来て、まず思った事だった。
だんだん頭の中がハッキリしてきて僕は寝返りを打った。
「ん〜…何時だ……?」
ゴロリと横になって重たい頭を少しだけ上げてベッドボードにある時計を確認した。
すると目覚ましでかけておいた時間の二分前で僕は手を伸ばし目覚ましをオフにする。
「ふぁぁあ…」
思い切り欠伸をしながら目を擦りつつベッドから足を出して腰をかけた。
「…だるい…シャワーでも浴びるか…」
まだ少しボーっとした頭のまま立ち上がると僕はバスルームへと入って行った。
少し熱めの湯を出して、そのままシャワーを浴びる。
僕は寝る時はいつも裸なので何も脱ぐ必要がない。
「ん〜…気持ちいい…」
顔にシャワーを思い切りかけて頭をスッキリさせる。
ああ…やっぱワイン二本は、さすがにきつかったかな…
頭がガンガンしてきた。
ってか、このボーっとしてるのは、まだ少し酔いが残ってると言う事だろう。
夕べはエリックと、あのモデル二人と何時まで飲んだのか覚えていない。
部屋に戻ってくる時、誰かに支えられてたってのは、かすかに覚えてるんだけど…多分エリックだろう。
今日、謝っておかないと…
の事を忘れたくて無理やり飲んだようなものだから…最後は泣き言なんか聞かせてしまったのかもしれないし。
一通り体が暖まり血液の流れも良くなると少し眠気も覚めてきた。
シャワーを止めて洗った髪をバスタオルでゴシゴシ拭きつつ、バスローブを羽織る。
今日は記者会見か…
こんな酒臭くしていったらブラッドに怒られそうだなぁ…
彼…昼にはこっちに到着するってことだけど、それまでにアルコール抜いちゃわないと。
そんな事を思いつつ、歯も磨き終わり、部屋に戻った。
「あ…エリックに電話しよう…」
彼も二日酔いでダウンしてるかな…?
夕べ、僕がどうなったかも聞きたいし…
あのモデル達も…
あれ?そう言えば…彼女達って、どうしたんだっけ…?
その辺、よく覚えていない。
僕はずっと、あのレナって子と話してて…
話してみると、結構いい子で色々な話題で盛り上がったような気がする。
別に変にベタベタしてくるわけでもなかったし、少し安心して僕も最後は気を許した。
それに…彼女は、どこかを思い出させるような子で、最初はつらかったんだけど、
酔いも回ってくると、それも何だか嬉しくなってきて…
僕の方から頬にキスしたり…したような…
その辺、曖昧だが何となく思い出してきて少し血の気が引いた。
ヤバ…まさか、それ以上のことなんてしなかったよな?
変に勘違いされても困るぞ…?
彼女は僕の大ファンだったようで、こうして一緒に飲めるのが信じられないと何度も嬉しそうに話すもんだから、
僕も少しサービスしすぎたかもしれない…。
(はぁ…等分、アルコールは控えよう…。こんな気分のままで飲むから、あんな事になるんだ…)
ちょっと反省しつつ、そのまま着替えようかと寝室へ戻った。
ベッドは丁度ドアを開けた真向かいにあり、さっき僕が起きた時のまま、布団が捲れている。
それを何気なく視界に入れながら奥のクローゼットのドアに手をかけた、その時、頭の隅で何かが気になった。
(あれ…?今…何か…)
僕は今見たものが信じられなくて軽く頭を振った。
まさか…あんなの幻だよ…
そこに見えるハズもないものが…
そう思いつつも心臓がバクバクと早くなってくる。
恐る恐る、もう一度ベッドの方に振り返ってみた。
「―――ッ?!」
(あ、あれ…何だ…?僕のベッドに…誰か寝てる…っ)
カーテンの隙間から陽射しが入って来ていてベッドを照らしていた。
そのベッドの上に長い髪が布団から出ているのが、はっきりと解かる。
「だ、誰だよ…」
僕はそぉーっとベッドに近づいて、覗き込んでみた。
布団に潜っているらしく顔は見えないが女性…というのは解かった。
さっき起きた時、隣なんて見もせずにベッドから出て真っ直ぐバスルームに向かったから気付かなかったのかもしれない。
「ま、まさか…夕べの…」
そこに思い当たり、今度は本当に血の気が引いた。
う、嘘だろ…?
もしかして…酔いに任せて彼女を部屋に連れこんだとか?!
い、いや…僕はフラフラでエリックに支えられて戻って来たんだ…そんなはずは…
あれ?待てよ…?
僕はそこで少し冷静になって考えた。
僕を支えてくれてた誰かを勝手にエリックだと思い込んでたけど…もしかして違うのか?!
あれはエリックじゃなくて…
そう思いながら、もう一度ベッドの方に視線を向ける。
その時、布団の中で、
「う〜ん…」
という声がして寝ている誰かが動いた。
僕はドキっとして後ろに下がり、このまま逃げようかと思ったが、そんな事をしても何も解決しないと気付き、
思い切って夕べの事を聞いてみようかと思った。
ベッドで寝ている誰かはモゾモゾと動きながら、ゆっくりと顔を出してくる。
「…あ…オーランド…おはよ…」
「お、おはよう…」
目を擦りながら微笑んでくる女性は確かに夕べ一緒に飲んでいたレナというモデルだった。
「…早いのね…。夕べ、あんなに…」
「わーーっっ。い、いいよ、そんなこと言わなくてっ」
「え?」
聞こうと思ってはいたが、突然、夕べの事を切り出されると条件反射で慌ててしまった。
「オーランド…?どうしたの…?」
レナは首を傾げて上半身だけ起こした。
そして彼女の姿を見て、またしてもギョっとする。
「な…何で君、俺のシャツ着て…っ」
「え?あ、これ…?これは夕べあなた…」
「お、俺が何?!」
「……どうしたの?オーランド…何だか変よ?」
レナは僕が焦っているのを見てクスクス笑い出した。
お、落ち着け、オーランド…
まだ彼女に何かしたと決まったわけじゃない…
酔った僕を部屋まで送ってくれて、彼女も酔ってたから、ここで、つい寝ちゃっただけかもしれない。
僕だって何かしたなら少しでも、それを覚えてるはずだ。
そんな事を思いながら何とか冷静になろうと深呼吸をした。
「あ、あのさ…。とりあえず…ベッドから出て、あっちの部屋で話そう…?」
僕はそう言って寝室を出て行こうとして最後に、もう一度彼女の方へ振り向いた。
そこで僕は男の朝の体には凄く悪いものを見てしまいギョっとした(!)
「ちょ…!な、何で下はいてないんだよ?!」
「え?だって…下まで借りたら大きくて脱げちゃうでしょ?だからシャツだけ借りたの」
レナは、そう言って僕の前に歩いて来た。
彼女は僕のシャツだけ羽織り、下は何もはいていない。
長くて奇麗な足が少し大きめのシャツから伸びていて、僕は目のやり場に困った。
「と、とにかく!ま、まずは着替えてから来て?OK?」
「解かったわ?」
僕は目を反らしながら、そう言うとレナはクスクス笑ったまま、頷いた。
「じゃ、じゃあ…俺は向こうにいるから…っ、着替えたら来て」
それだけ言って急いで寝室を出る。
そしてソファーに倒れ込むと思い切り息を吐き出した。
「はぁぁぁあ…何で、こうなるんだ?!」
まだ濡れている髪をクシャクシャしながら、これから、どうしようと考える。
そろそろマイクが部屋に迎えに来る時間だ。
用意しないと…
夕べエリックと飲みに行く前に、マイクもこっちに到着して連絡してきた。
今日は昼過ぎから記者会見がある。
そんな事を思いながら一人焦っていると、寝室のドアが開いてレナが、ちゃんと自分の服を着て出てきた。
「お待たせ」
「そ、そこに座って…?」
僕も体を起こし、ソファーに座りなおすと、レナが隣に座ってきた。
「こ、ここじゃなくて、あっちっ」
「いいじゃない。隣に座ったら何か問題でも?」
レナはニコニコしながら、僕を見てくる。
な、何だろう、その意味深な微笑みは…
まさか…やっぱり夕べ僕が彼女を抱いたから…こんなにくっついてくるのか…?
不安が込み上げて来て僕は軽く首を降ると、ゴホンと咳払いをして彼女を見た。
「あ、あのさ…俺、夕べの事…全く覚えてないんだ…」
「え?ほんとに?」
「うん…。だから…もし何か君に失礼な事を…その…」
何と言おう言葉を選んでいると、レナが突然、笑いだして驚く。
「やっぱりね…!覚えてないんじゃないかな〜?って思った」
「え…え?」
「だってオーランド、さっき私の顔見て凄く驚いてたし…。きっと私が部屋まで運んだことすら覚えてないんじゃない?」
レナはちょっとスネた口調で僕を見つめた。
その視線から目を反らしつつ、僕は頭をかきながら小さく息をつく。
「うん、それが…全く…。ごめん…」
「はぁ〜。ま、いいわ?で?何が知りたいの?」
「え?」
「何か心配してるんでしょ?ああ、私と寝たかどうかってこと?」
アッサリと言われてドキっとしたが仕方なく頷く。
「うん…俺…もしかして押し倒したりとか…?」
「ぷ…っ。あはははっ」
「な、何がおかしいんだよっ」
彼女に大笑いされて僕はちょっとムっとした。
だがレナは首を振りながら、
「ごめんなさい…だって…そんなこと出来るほど夕べのあなたは元気じゃなかったわ?けど…」
「け…けど…何っ?」
「…もう歩くのもフラフラで私が支えてやっとベッドに寝かせたんだけど…。
あなたったら帰ろうとした私の手を掴んで、"、行かないで"って言って離してくれなくて…」
「え…っっ?!そ、そんなこと言った?!」
「ええ。それで、"私はじゃないわ?レナよ?"って言ったら、あなた、
"あ〜そっか。に似てるから間違えちゃった…"って悲しそうな顔して…」
「そ、それで…?」
「それで…ちょっと心配になったから大丈夫?って聞いたら、"俺が寝るまで、ここにいてくれる?"って。
その後は自分がどれだけって子を想って来たか、ずっと私に話してくれたの。
で、突然、暑いって言いながら服を脱いじゃって、そのまま寝ちゃったんだけど…
で、私も眠くて仕方なくなったから、ちょっとシャツ借りて隣で寝かせてもらったってわけ。
あ、それと最後に付け加えるけど…裸は見てないから安心してね?」
レナは、そこまで話すと楽しげにウインクした。
その話を聞いて僕は恥ずかしさのあまり顔が赤くなったが、何もなかったと解かり、心底ホっとした。
「そ、そう…。それは…悪かったね…?」
「別にいいわ?あなたの寝顔も見れたし…。それに、どんな人かってことも少しは解かったから」
「え?ど、どんな人だって…思ったの?」
僕が恐る恐る聞くと、レナはちょっと微笑んで僕を見た。
「そうねぇ…。会う前は…あなたってセクシーだし、きっと女性にも凄くモテてるだろうから
少し軽いとこもあるのかなって思ってたの。でも…」
「で、でも…?」
「夕べのあたなを見て…そんな事ないんだって驚いた。凄く凄くロマンティストで…
一途なんだなぁ…って、ちょっとそのって子が羨ましくなっちゃった」
レナはそう言って微笑むと、「忘れられないって…何度も言ってたわ…?」と言った。
僕はドキっとして少し目を伏せると、レナがそっと僕の肩に手を置いた。
「忘れられないなら…好きでいたら?無理に忘れる必要はないでしょ…」
「それは…ダメだよ…。俺が好きなままだと…彼女が…」
「でも…」
「もう、いいんだ。ほんとに、ごめんね?少し酒は控えるよ」
僕はそう言ってちょっと笑うと、レナも少し笑顔を見せた。
「じゃ…私、行くわね?今日は記者会見なんでしょ?」
「あ…うん」
レナはソファーから立ち上がって一度、僕の方を見ると、「今度…また会ってくれる…?」と聞いてきた。
「え?」
「別に一緒に食事するだけでいいの。ちょっと飲んだりしながら…」
「あ、ああ…うん。いいよ?」
「ほんと?」
「うん。俺も…ちょっと他の子と、そんな風に付き合ったりしたほうがいいって思ってたとこだし…友達でいいなら…」
「ええ、もちろん!友達から始まることだってあるでしょ?」
レナが嬉しそうに、そう言った。
だが僕はちょっと笑って見せただけで何も言えなかった。
友達から…始まる事もある…
僕もそう信じてきたけど…結局、僕とは友達でいた期間が長すぎたんだ。
だから彼女も僕の事を、友達…お隣さん…幼なじみ…
そんな風にしか見られなくなってたんだと思う。
「オーランド…?大丈夫?」
そう声をかけられて僕はハっとした。
「あ、ああ。大丈夫だよ?じゃあ…連絡先、教えてよ」
「あ、そうね」
僕が何とか笑顔を見せると、レナも微笑んでバッグからメモを取り出すと携帯番号を書いてくれた。
「はい、これ。私、住んでる場所はロスなの。今は雑誌の仕事でフランスに来てるとこ」
「ああ、そうなんだ。じゃあ…俺も、この後、またロスに行く予定だし…その時にでも」
「ええ。そうね。ロスに来たら一回くらい連絡して?」
「OK」
「じゃ…」
「うん、じゃ…。ほんと夕べはありがとう」
彼女をドアのとこまで送って行きながら、そう言うとレナは首を振って微笑んだ。
「記者会見、頑張って!」
レナはそう言ってエレベーターの方まで歩いて行った。
それを見送り、彼女が見えなくなると少し息をついて部屋へと戻る。
「はぁあ…良かった…何もなくて…」
そう呟いて、ハっと時計を見る。
「うわ、ヤベ!マイク来ちゃうよ…!」
僕は慌ててバスローブを脱ぎ捨て着替えに走ったのだった。
その二時間後、皆と記者会見を済ませて、ホテルのラウンジで明日以降のスケジュールの打ち合わせが始まった。
が、そんなものは、すぐ終り、雑談へと変わっていく。
「ぶははは…っ。そ、そっか〜…朝から大変だったな?お前…ぶはははっ」
「エリック!笑い事じゃないよ?どうして夕べ彼女に俺を任せたりしたのさっ。エリックが運んでくれたら何も問題なかったのに」
僕は小声でエリックに文句を言うと紅茶を飲んで息をついた。
エリックも笑いを堪えながら周りを確認すると小声で説明しだした。
「バカ…。別に、あの子とベッドインしたからって問題ないだろう?それで好きな子を吹っ切れるならいいと思ったんだよ。
だから俺が彼女に、お前を部屋まで運んでやってくれって頼んだんだ。
ま、でも、その子にまでって子の事を話しちまうんだから、困ったもんだな?」
「ちょ…じゃあエリックが俺を彼女に任せたの?もぅ…勘弁してくれよ…。で?自分は、あのモデルと?」
僕が横目でエリックを見れば、彼は苦笑しながら首を振った。
「まさか。俺は健全に一人で部屋に戻ったよ?」
「ふぅーん。あっそ」
「ま、でもロスで会う約束したんだろ?なら、いいじゃないか」
「それは…さ…。リハビリって言うか…」
「リハビリ?ああ、って子を諦めるためのか?」
「うん、まあ…。でもロスで会うって言っても友達ってことだよ?」
「はいはい。それでも何でもお前が少しは元気になるならいい事だ。元気がないオーランドなんてオーランドじゃないからな!」
僕は呑気にバカ笑いしているエリックを軽く睨んでいると、今まで話しこんでいた監督とブラッドが、こっちを見た。
「何だよ、二人で楽しそうだな?」
「え?あ、いや…」
「ま、ブラッドが遅れてきた間に色々とあったんだよ?」
僕が言葉を濁していると、エリックは、そんな事を言いながら紅茶を飲みだした。
「何だよ?面白い事って?」
ブラッドも興味をしめし、身を乗り出してくる。
「ん?まあ…オーランドの恋のリハビリってとこかな?ははははっ」
「何だ?それ…。恋のリハビリって…?」
「エリック!!話しすぎっ」
僕は夕べの事をブラッドにまで知られちゃ堪らないとばかりに隣のエリックを睨んだ。
だがエリックは楽しんでいるのか、笑いながら、
「こいつ、夕べ部屋に女を連れ込んだはいいけど、その子に自分の好きな子の話を延々と聞かせてたらしくてさ?とんだリハビリだよなぁ?」
「うわ、エリック!!もーーー信じられない!!Unbelievable !!」
僕は頭を抱えて、そう叫ぶとエリックとブラッドも大笑いしだして、ますますムカついてくる。
「ははははっ。お前、本気で怒るなよ〜!大げさだな?相変わらず!Unbelievable〜!」
エリックは僕の真似をしながら手を広げて、"Unbelievable!"を連呼している。
僕は共演者に恵まれていないかもしれない…と、この時、ふと思った…。
季節は10月…そろそろ秋の気配がして来る。
木々が揺れて枯葉がフワフワ落ちてくるのを見ながら、私はクラブハウスを出る。
冷たい空気に一瞬、私はジャケットの中へ首をすぼめながら、駐車場へと歩き出した。
「!」
そこへオーエンが走って来て私は振り返った。
「あ…マイケル…。お疲れ様」
「うん。もう取材終った?」
「ええ。今から帰るとこ」
今日はオーエンのチームメイトを取材しにきたのだ。
「そっか。じゃあ…夜まで仕事なんだね?」
「いえ…今日の特集は来月号のだから、そんな今日中にやることはないわ?」
「そうなの?じゃあ…久々に食事でも行かない?」
オーエンは少し心配そうな表情で、そう聞いて来た。
私はちょっと考えたが、すぐに笑顔で頷く。
「ほんと?じゃあ…何時にどこにする?」
オーエンはホっとした様子で嬉しそうな顔を見せた。
「じゃあ…今から社に戻って…他の仕事をしてからだから…。6時頃なら大丈夫かな?」
「そう。じゃ、6時半頃、迎えに行くよ」
「え?そんな、いいわ?店を言ってくれれば、自分でそこに…」
「いいから。迎えに行きたいんだ。いいだろ?マスコミも落ち着いてきたしさ」
オーエンは笑いながら私の頭にポンっと手を置くと、「じゃ、後でね?」と言ってクラブハウスの方へ戻って行った。
そして通りかかったチームメイトに冷やかされている。
そして私の方にも、
「ちゃーん!今度は俺とデートしてくれよな?!」
「あ、じゃ次は俺ね!」
なんて言いながら笑顔で手を振っている。
私はちょっと笑うと彼らに手を振って、車の方に歩いて行った。
後ろではオーエンが、「に変なこと言うなってっ」と怒る声が聞こえて来て、ちょっと噴出してしまう。
彼のチームメイトは、気さくでいい人達ばかりだから、私も今では、あんなことを言われても笑顔で交わせるようになったんだけど。
私が駐車場へ歩いて行くと先に戻っていたカメラマンのトニーがエンジンをかけて待っている。
「ごめんなさい。遅くなって」
私はそう言いながら車に乗り込むと、トニーは笑いながら、「いいさ。彼氏に呼び止められたんなら仕方ない」
なんて言っている。
「彼氏じゃないわ?」
私は苦笑しながらシートベルトをしていると、トニーは呆れたように私を見た。
「まだ、そんなこと言ってるのか?もう皆が付き合ってると思ってるぞ?
マスコミはもちろん、ファンっていうかサポーターも、もちろん編集長や皆だって」
「それは勝手に、そう思ってるだけでしょ?」
「いや、だってオーエンだって、そう思ってるんじゃないのか?時々デートだってしてるんだろ?」
「それは…そうだけど別に恋人同士のラブラブデートなんかじゃないわよ」
私は笑いながら、時計を見ると、「早く戻りましょ?私、お腹すいちゃったの」そう言ってトニーを見ると彼はちょっと息ついて肩を竦めた。
「はいはい。ったく…オーエンも可愛そうだなぁ…。付き合えないのにデートはOKされたりして。蛇の生殺しって言うんだぞ?そう言うの」
「そんな…私は…」
「まあ、いいさ。そのうちオーエンも他の女に走るだろ?待ちきれなくてさ?」
トニーはチラっと私の方を見ると車を発車させた。
流れる景色を見ながら私は今、トニーに言われた言葉が痛くて顔を顰める。
…オーリーにしてた事をオーエンにもしてるのかもしれない…と思ったのだ。
そう…そうなんだ。
付き合えないなら、二人で会ったりしない方がいい。
オーリーへの気持ちに気づいた時、私はオーエンに正直に、その事を話し、付き合えないと言った。
でも彼は、それでも構わないから時々会ってほしいと言って来たのだ。
私は何度かそれを断っていたが、オーエンの"友達としてなら会えるだろ?"の一言に、つい頷いてしまった。
また…同じ事をくり返しているのだろうか…
やっぱり会うのはやめた方がいいのかな。
マスコミにも今では否定するのも面倒なので、オーエンと一緒に、全てノーコメントで通してきた。
それをいい事にマスコミは私とオーエンが、交際は順調だと報じる。
少しすると世間の人も、それを信じきってしまっていた。
私は、どうでもいいと思ったが、それをオーリーが見ていたなら…どう思ってるんだろう…と少し気になった。
オーリーとは…あれ以来、まだ会っていないし電話で話してもいない。
前ならロケ先とかから電話がかかってきたりもしていたのだが、今回はそれが一度もなかった。
オーリーは今、どこで何をしているのか知る術はなく、ソニアおばさんやサマンサですら、よく知らないみたいだった。
このまま…会えないまま…オーリーと気まずくなってもいいの…?
あんな別れ方で…はい、そうですかって友達に戻れるはずはない。
それに私はオーリーの事を好きだと気付いてしまった。
だから尚更、あんな風にオーリーと会えなくなくなるのは嫌だと思った。
せめて、どこにいるかだけでも解かれば…
そう思いながら窓の外を眺める。
風で木々が大きく揺れていた。
「大丈夫?飲みすぎちゃった?」
「いえ…平気よ?今日は…どうも、ありがとう…」
私はオーエンの心配そうな顔を見ながら笑顔で答えた。
今夜、食事をして、いつも通り車で家の前まで送ってもらったところだ。
(言わなくちゃ…)
私は、その話をいつ言おうか迷っていた。
結局、食事中は楽しそうなオーエンの顔を見ていると言い出せなくて、ここまで来てしまったのだ。
「…?何だか…元気ないね…」
「え?そんな事は…」
「ううん。今日も…時々、ボーっとして上の空だった…。何か…悩み事でも…?」
オーエンは不安そうな顔を見せながら私の顔を覗き込む。
(今…言うしかない…)
そう思って私は息をつくと顔を上げてオーエンを見た。
「あの…マイケル…」
「ん…?」
「私達…もう、こんな風に会わない方がいいわ?」
思い切って、そう言うとオーエンは目を伏せてしまった。
きっと、そう言われるだろうと覚悟していたかのように…
「あの…やっぱり私…」
「彼のこと…忘れられないんだろ…?」
「え?」
「前に…好きだって言ってたACTORの彼のこと…」
「…ええ…。でも、その事だけじゃ…」
「俺は…それでもいいんだ…。友達としてでも…」
「マイケル…。そんな友達には…なれないじゃない…」
「…」
私は少し俯くと、
「私だって…それで、こんな思いしてるし…。オーリーのことも傷つけて…。あなたまで傷つけたくないの…」
「俺は平気だよ…?そんなこと言わないでくれないか?」
オーエンは悲しそうな顔で私の手をとった。
だが私は首を振ってちょっと息をつく。
「私は…平気じゃないの…。もう…こんな風に会うのはやめましょ…?」
「…。もう彼だって君のことは忘れてるよ…。だから、そんなに罪悪感を感じる事はないって」
「マイケル…」
その言葉に胸が痛み、顔をあげた。
するとマイケルはちょっと視線を反らし、
「俺…雑誌で彼の記事、読んだんだ…。が好きな奴のことが気になって…」
「え…?」
「彼…今、モデルと付き合ってるらしいよ?そう書いてあった…」
「…………っ」
その事を聞いて一瞬、目の前がふわっと揺れた気がした。
胸がズキンと痛みをまして、お腹の底から不安な気持ちが押し寄せてくる。
「彼…今、ロスにいるんだろ?明後日の映画のプロモーションで。ロスのバーで何度もデートしてるって書いてあったよ…?」
「そ、そう…。オーリィ…今ロスにいるの…。知らなかった」
私は何とか笑顔を見せると、オーエンは私の顔をじっと見つめた。
「無理に笑うなよ…。辛いんだろ…?彼に恋人が出来たって…知らなかった…。そうだろ?」
そう言われてドキっとした。
だが、もう一度オーエンを見ると、
「うん。でも…仕方ないわ?オーリーが決めた事だし…そのうち他に好きな人が出来るのも仕方がないことだもの…」
と微笑む。
それにはオーエンも溜息をついて私の手をグイっと引っ張った。
「あ、あの…っ」
急に抱きしめられて私は驚いた。
だがオーエンの力が強くて腕から抜け出せない。
「何で君は…そう強がるんだ?どうして素直に悲しいって言わない?」
「マイケル…」
「俺は…彼のこと、よく知らないけどさ…。彼がずっと好きだった君を諦めたって言うなら…
それは君が、こんな風に強がりばかり言うからだ。
もっと素直になっていれば…彼だって今でも君のことを諦めずにいたかもしれないのに…っ」
オーエンに、そう言われて私の瞳に涙が浮かんだ。
彼に言われたことは…ずっと私も思ってきたことだったから…
「一度くらい…素直になれよ…。彼の気持ちが今、君になくても…ちゃんと今の君の気持ちを伝えるべきなんじゃないか?
それでも、もう彼の気持ちが君に向かないなら…。そこで諦めればいい…。何もしないで…諦めるなよ…好きなんだろ?」
「私…は…」
「…君の事を想いつづけてくれてた彼に…一度くらいの本当の気持ちを話してやれよ。素直になって…?」
オーエンは、そう言うと私を離して、そっと額にキスをした。
「俺は待ってるからさ。が…どんな答えを持って帰って来ようと…俺が君の事を諦めるのは君が彼と上手くいった時だけだよ…」
「マイケル…でも…」
「いいから。会いに行って?今は他の人と付き合ってる…とか変な気は使わないほうがいい。ね?」
オーエンの言葉に思わず頷いていた。
すると彼は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう…マイケル…」
「いいよ…。俺は…素直なが好きなんだ…」
オーエンは、そう言って、もう一度私を優しく抱きしめた。
私は彼に背中を押して貰った気がする…
一人、悶々と悩んでいた私の弱い心が、奇麗に流されていくのを感じる。
オーリーに会いに行く…
もう遅いのかもしれないけど…今さら、私が会いに行っても困らせるだけかもしれないけど…
オーリーがくれた想いの分、私も素直にならなければ…と思った。
あなたがいればいい
本当は気付いてた 最初から…
何故 温もりは 今でも ここにあるの
触れ合える
心が 途切れても…
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オーリーVer第9弾です。
お待たせしまして…^^;
ほんとは昨日、すぐ続きをアップする予定でしたが
時間がなくなりました(苦笑)
今回エリック、ブラッドがゲストで登場(笑)
エリックがオーリーの「Unbelievable!」と叫んだ
モノマネネタを使わせて貰いました(笑)
これブラッドが「エリックのオーリーの真似」といって同じく、
「Unbelievable!」とモノマネやってたんですけど
マジで似てるんですよ(笑)
ブラッドも、エリックの…というよりは、
オーリーの真似になってるの(笑)
やはり、どこでも大げさなオーランドくんなのですねぇ(笑)
最高っす( ̄m ̄)
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