涙の色...
幸せに限りはないと信じて昨日より優しくいたい
唇が乾く前に
またキスをして不安なら抱きしめ合おう
本当の心は弱くて くだらないことで涙流す日もある
絡み合う指の運命で涙をふいて
ねぇ 約束はしないでいて
必要と思いあえたら
言葉より確かなモノを見つけたから…
部屋の中は静かだった。
僕の腕の中で眠る彼女の寝息だけが聞こえる。
疲れたのか、身動きさえしないで眠る彼女の、涙の跡が残る頬に僕は、そっと口付けた。
今でも信じられない…
今、腕に抱いているのは本当になんだろうか…とさえ疑ってしまう。
あんな思いをしてまで忘れようと決心したのに、が目の前に現れただけで一気に彼女への愛情が溢れ出て思い切り抱きしめた。
諦めたはずの…永遠に手の届かないと思っていた彼女が、僕に会う為だけに、こんな遠い国まで来てくれた。
それだけで一生分の幸せを使い果たした気分だ。
「…ん…」
彼女を抱く腕に力が入ってしまったからか、の顔が少しだけ動いた。
眠っている間中、掴んでいた僕の服をギュっと掴む仕草に笑みが零れる。
どこにも行かないで…と言われてるようで…
「……オーリ…」
「……………?」
目は瞑ったまま、小さな声で僕を呼んだの唇に、チュっとキスをすれば、ゆっくりと彼女の目が開いた。
「………?」
「…ん…?…」
寝ぼけてるのかゴシゴシと目を擦りながらは僕の胸から頭を起こした。
そして覗き込むように見ている僕を見上げて、大きく目を見開いている。
「オ、オーリィ…っ」
「何で、そんな驚いてるの?」
ちょっとスネたように聞けば、は僕の腕から逃れようと体を動かした。
そして部屋の中を見渡している。
「どうしたの?…」
「あ…ううん…。夢かと思って…」
「夢?」
「今…オーリーの夢見てたから…」
は少しホっとしたように僕の腕の中に戻って顔を胸に埋めてくる。
それさえ嬉しくて、愛しくて僕はギュっとを抱きしめた。
「どんな夢…?」
「………オーリーに…会えなくて一人で帰る夢……。凄く悲しくて泣いてる夢だった…」
そう言っては僕の胸に顔を押し付けるようにして、しがみ付いてくる。
「大丈夫だよ…?こうして会えただろ…?が…探してくれたから…」
「ん…。でも…会えなかったらどうしようって…ずっと不安だったから…夢も最近は、こんなのばっかりだったの…」
囁くように、そう言う彼女の声は、かすかに震えていて、かなり辛い思いをさせていたんだと思った。
「…ごめん…。俺が…を不安にさせてたんだね…?」
そう言いながらの頭を優しく撫でると、は顔を上げて首を振った。
「違う…そうじゃないわ?私が…素直になれなかったからなの…。自分のせいだもん…。
それに…私の方がオーリーに、そんな思いばかりさせてたって気付いたの…」
「俺は…男だからね?それに辛いことばかりじゃなかったよ?」
「…え?」
「の事を好きでいることは…俺にとっては、ごく普通の事で凄く幸せな事なんだ。
"この仕事が終ればに会える""今日、早く終ったらに電話しよう"って、
そんな風に自然に思える自分がいて、それだけで幸せだった。片想いだったけど、
いつかは俺の事を見てくれるって…そう信じていられたから…」
「オーリィ…」
「今夜…それが叶った…。って言っても、もう明け方だけどね?」
僕がそう言って笑うと、は涙を浮かべたが、「あ、明け方…?」と慌てて時計を見た。
「あ…私…かなり寝ちゃってた…。しかもソファーで…ごめん、オーリー寝る時間が…」
「いいよ。の寝顔見てたら、ちっとも眠くならなかったし」
そう言って微笑むとは頬を赤くした。
でも、それは本当のことだった。
が会いに来てくれて言葉を交わすのさえ忘れて何度もキスをしながら彼女の体温を確めるように抱きしめた。
その後、やっと余裕を持ててから事情を聞く事が出来たけど、ソファーに座りながら
彼女を抱きしめていると、いつの間にかは眠ってしまっていた。
きっとロスに来て早々、休む間もなく、僕を探し回ってくれたから疲れたんだろうと、ずっとを抱いたまま寝顔を見てた。
だから少しづつ、この嘘のような幸せを実感する事が出来たんだ。
明日の仕事なんて気にならなかった。
このまま寝ないでの事を抱きしめていたかったから。
眠ってしまえば…全てが夢で彼女がいなくなってしまうんじゃないかと怖かったのもあるんだけど…
「オ、オーリー少し寝て?もう…4時だけど…少しは寝れるでしょ?今日、映画のプレミアじゃ…」
「そうだけど…。まだ肝心なこと話してないし聞いてないよ?」
「え…?な、何…?」
が不思議そうな顔で僕を見上げてきた。
僕はちょっとだけニヤっと笑うと、の頬にチュっとキスをして彼女を少し抱き寄せる。
「が…俺のこと、どう思ってるのかってことと…これからのこと!」
「え…っ」
案の定、僕の言った事に対して、は顔を赤くして驚いている。
だけど、こんなに何年も待ったんだから、これくらいの意地悪はいいよね…?
「さあ、聞かせてよ。俺のこと、どう思ってるの?好き?嫌い?普通?」
いつものように三段階で聞くと、は一瞬、呆気に取られた顔をしたが、すぐに吹き出した。
「オーリー、全然、そういうとこ変わらない…」
「そう?そんな、直ぐには変わらないよ。それを証拠にへの想いも変わらなかった」
「……………」
「ささ、答えて?俺のこと、どう思ってる?好きなら、今ここでキスしちゃう。普通なら、また頑張る。
嫌いなら凄〜〜く頑張る。さあ答えて?」
真っ赤になって俯いたに追い討ちをかけるように、そう聞くと、は上目遣いでチラっと僕を見た。
「私…」
「うん」
「オーリーのこと…す……」
「す?」
「や、やっぱり普通…!」
「えぇ〜?!だって今、"す…"って言ったよね?ほんとは"好き"って言おうとしたんじゃないの?もう一回、言い直していいよ?」
僕がスネたように口を尖らせて、そう言うとはクスクス笑い出した。
「あの暑い日…突然、ロケから帰って来て私の家にきたと思ったら、いつもの様に告白してきて…その時もそう言ってたね…?」
「え…?あ……」
「私…あの頃は自分の気持ちに自信もなくて…気付かないフリをしてたのかもしれないな…」
は、そう言ってちょっと微笑んだ。
そうだ…思い出した…
あの日…久し振りにに会えると思って、凄く嬉しくて…いつものように顔を見たら気持ちが溢れて来て
懲りもせずに、いつも通り告白したんだった。
そして、さっきのようにに気持ちを聞いた。
あの時、は今と同じように、"普通"と答えたけど、僕は、つい彼女にキスをしちゃって…
そんな事を思い出していると、と不意に目があった。
だから僕は、あの日と同じように、の唇に触れる程度のキスをした。
「嫌われてもいい…それでも俺、諦めないから…ここまで想って来たんだ。絶対を俺のものにしてみせるよ…?」
僕は、あの日、言った言葉をもう一度、彼女に言った。
あの日と違うのは…が僕を殴らずに、ギュっと抱きついて来たことだった。
僕を見上げるの瞳に涙が浮かんでいて、僕は指でそっと拭ってあげる。
するとはちょっとだけ微笑み、
「嫌いになんてならないもの…。私もオーリーのことが…好きだから…」
と言って頬に添えた僕の手に軽くキスをしてくれる。
それだけで胸がいっぱいになって僕はを強く抱きしめた。
「愛してる…」
そう呟いてがどこにも行かないように、きつくきつく抱きしめる。
あの夏の日の想いが…いや、と出逢った、あの遠い日からの想いが…やっと叶った…。
窓の外は奇麗な朝日が顔を出して、長く暗かった夜が明けた事を告げていた―――――
「おはよう、エリック、ブラッド!」
「「ぃてっっ」」
前を歩く二人の背中をバンっと叩いてから肩を組むと、二人同時に僕を睨んでくる。
「朝から元気だな…相変わらず…」
「ほんと…何か、いいことでも…。ああ、いい。聞かなくても分かってるから」
ブラッドは顔を顰めて歩いて行ってしまったが、エリックは周りを見渡してニヤっと笑った。
「何?エリック…聞かなくても分かるって…」
「ん?ああ…。当ててやろうか?」
「えぇ〜何?何?当ててみてよ」
僕は機嫌がいいのでニコニコしながらエリックを見ると、彼はニヤニヤしながら僕の耳元で、
「愛しい、愛しいちゃんが会いに来てくれたんだろ?」
と小声で言って背中をバシンっと殴ってきた。
「ぃ…っ。な…何で知って…っっ!!」
僕は殴られた背中の痛みに顔を顰めつつ、エリックが何故、その事を知ってるのかと驚いた。
エリックは、まだ僕の顔をニヤニヤしながら見ている。
「何で知ってるかって?そら〜夕べ、彼女に会ったからだよ」
「えぇ?!あ、会ったって…に?!いつ?!どこで?!何で?!」
僕は驚いてエリックの胸元を掴んで思い切り揺すると、彼は目を白黒させながら、
「バ、バカ!やめろ!昨日の酒が回るだろ?!」
とホールドアップした。
仕方なく手を離すと、エリックはゲホゲホ言いながら僕を睨んでくる。
「ったく…。ほんと彼女の事になると冷静じゃなくなるんだから…」
「いいから、と会ったって、どういうこと?」
「はいはい…。分かったよ…」
僕が詰め寄るとエリックは苦笑しながら肩を竦めた。
「実はさ、昨日のバーでお前が帰った直後にちゃんが来たんだ。で、俺と一緒のとこを見かけたらしくてさ?
"どこにいますか"って言うからホテルに戻ったって教えたら、彼女、店を飛び出して行っちゃって…。
ま、その後はお前が一番よく知ってるだろ?」
エリックは、そこまで離すと僕の頭にポンっと手を乗せた。
「そうか…、あの店にまで行ってくれたんだ…」
「よっぽど会いたかったんだろうなぁ…。必死に走っていく彼女の姿見て、お前の気持ちが報われたんだなって思ったよ。そうなんだろ?」
「え?あ…うん、まあ…」
僕が照れつつもニヤケていると、エリックが呆れたように息をついた。
「何が、"うん、まあ…"だよ。その、しまりのない顔でファンやマスコミの前に顔を出すなよ?」
「はいはい!分かってますよ!」
僕がニコニコしながら歩き出すと、エリックも苦笑しながら追いかけてきた。―今は会場の控室に向かうところだ―
「で?彼女はどうした?」
「は今、俺の部屋で待ってるよ?もしかしたら寝てるかも。夕べも疲れてたみたいだったし朝方も暫く話してたから」
「へぇ〜。そうか、そうか。で…?お前の長年の思いは果たしたのか?」
「…?何のことさ?」
「だから〜…彼女と、ずっと部屋で二人きりで盛り上がったんだろ?」
ニヤニヤしながら、そう言ったエリックの顔を見て、僕は彼が何を言わんとしているのかが分かり顔が真っ赤になった。
「な…何、変な想像してるんだよっ。とは何もしてないよ!」
「何?!どうしてだ?彼女も、お前の事が好きなんだろう?!それで一晩、一緒にいたのに何してたんだ?!」
エリックは、どっかの飲み屋のオヤジみたいな事を言い出して僕は慌てて彼の口を塞いだ。
周りにいるスタッフが変な顔で僕らのほうを見ている。
「し、しぃ!声が大きいよ…!ちょ…ちょっと、こっち来て」
僕はエリックを連れて自分の控室へと入ってドアを閉めると思い切り息をついてソファーに座った。
「全く…そんな騒ぐほどの事じゃないだろ?」
「何でだ?いいじゃないか。散々、お前さんの恋の悩みを聞きつづけてたんだ。俺には聞く権利がある」
エリックは、もっともらしい事を言って僕の隣に座ると肩を組んできた。
「で?何で、手を出さなかったんだ?ん?」
「だ、だから夕べは、そんなこと考える前に…が会いに来てくれた事で胸がいっぱいだったんだよ…。
それに、直ぐに、そんな関係にならなくていいよ…」
「何でだよ?彼女とは、どういう話をしたんだ?ほら、彼女は例のサッカー選手とは別れて来たのか?」
「ああ、オーエンのこと?それなら付き合ってないってさ。マスコミが騒いでただけだって。俺と同じだよ」
「何だ、そうなのか…?つまらん…」
「む…っ。何がつまらないんだ!がオーエンと付き合ってた方が面白いとでも?!」
僕がムキになって、そう言うとエリックは驚いた顔で後ろに下がった。
「そ、そんなこと言ってないだろ?そんな怒るなよ…。いいじゃないか、上手くいったんだから…」
「人の恋愛事情で楽しむからだろ?」
「はいはい、悪かったよ。そう口を尖らせるな…。で…彼女とは今後、どうするんだ?」
「どうって…結婚するよ?もちろん」
「はあ?!結婚だぁ?!」
「何だよ…ダメ?」
僕は素直な気持ちを言っただけなのに、あまりに驚くエリックに首を傾げた。
エリックは何だか口を開けたまま、じぃっと僕の顔を見ていたが、思い切り息を吐き出すとソファーに凭れかかる。
「はぁ〜ほんと白黒ハッキリした奴だな…。いくら長年、想ってた彼女と両思いになったからって、いきなり結婚って…」
「え?何で?だって俺はずーっとの"お婿さん"が夢だったんだから別に、いきなりじゃないよ?」
「お、お婿さん?!」
エリックは、また僕の顔を見ながら唖然とした顔で、終いには目頭なんて抑えている。
「そのクリクリっとした目で普通〜に答えられると俺までそうだなって思えてくるから怖いよ…オーランドの天然パワーだな…」
「何だよ、それ?俺は天然じゃないよっ」
「と、とにかく…結婚するんだろ?分かったよ…」
「うん。やっと夢が叶うなあ〜。のウエディングドレス着てるとこ早く見たいよ」
僕はすでに、二人の結婚式に思いを馳せていた。(気が早い)
隣で大きな溜息が聞こえたけど、そんなもの、今の僕には気にもならない。
「で…?いつ結婚するんですか?」
「あ〜まだ、詳しいことは何も決めてないよ?今はだって仕事もしてるしさ?俺も忙しいから。でも、そのうちプロポーズはするつもり」
「そうですか…。また気の早い事で…。ま、せいぜい逃げられないように頑張れよ?」
「ぬ…。な〜んか棘のある言い方だな…」
「そんな事ないだろ?祝福してるよ?ただ、お前のラブラブパワーに驚いてるだけだ」
「ああ、こんなの序の口だよ?が傍にいたら、もぉーーーーーっと凄い…」
「あーーーーーっ!分かった、分かった!もう充分だよっ」
「何だよ、エリック。その、どうでもいいみたいな態度はさ…」
僕が口を尖らせると、エリックは苦笑しながら溜息をついた。
「ほんと彼女が好きなんだな…?」
「え?そんなの当たり前だろ?今だって、ほんとはホテルに戻りたいくらいだよ。を一人にしたくないしさ」
「はいはい。で?彼女は、いつまでロスにいられるんだ?」
「それがさ…明日には帰っちゃうらしいんだ…。休暇くれたのはいいけど今はチャンピオンズリーグの時期で忙しいらしくて…」
「ああ、サッカーか…。そりゃ仕方がないな?じゃあ…今夜、ゆっくり二人の時間を楽しめばいいさ」
「でも…パーティあるだろ…?このプレミアの後…」
「あ…そうか…。じゃあ…そのパーティに彼女も呼んだらどうだ?」
「えぇ…?を?」
「ああ、別に問題ないだろ?ブラッドだって奥さん呼んでるんだし。そうだ、試写会にも呼んでやれよ。な?」
「う、うん…。でも…来てくれるかな…」
エリックの言葉に僕は大賛成だったが、シャイなが、こんな公の場に来てくれるか少し不安だった。
だがエリックは、すでにノリノリでソファーから立ち上がると、
「大丈夫だろ?来てくれるよ。電話して早く来るように言え。俺はスタッフに席を用意させるから」
と言って控室を飛び出していってしまった。
「ちょ…エリック…って、行っちゃったよ…。何でエリックが張り切ってるんだろ…」
そう呟きながらも溜息をつくと、そのまま電話の方に歩いて行った。
「…起きてるかな…」
少し不安に思いながらもホテルの番号を押してみる。
すると、すぐにフロントが出た。
『ハイランドホテルです』
「あ…あの…2709号室、お願いします」
『少々、お待ちくださいませ』
フロント係りが、そう言うと何かのメロディが流れてくるのが聞こえた。
僕はそれを聞きながら、が自分の部屋に戻ってたら、どうしようと心配になる。
彼女の部屋番号を聞いていないからだ。
だが、その心配を、よそに受話器の向こうから少し寝ぼけたの声が聞こえて来てホっとする。
『…Hello…?』
「あ…?俺」
『あ、オーリー?どうしたの…?』
「うん、あの…寝てた?」
『ううん。少しウトウトしてただけよ?』
「そっか。良かった。あの…さ…」
『ん…?』
「今から一時間後に…プレミアなんだけど…」
『うん、どうしたの?』
「それに…も来ないかなって思ってさ」
『………………』
「Hello?…?」
『わ、私が…そこに…?』
「あ、うん…。嫌?」
『い、嫌って言うんじゃ…。だって…監督さんとか…共演者の人とか沢山いるんでしょ…?』
「うん。でも…皆、恋人とか招待してるしさ。、明日帰っちゃうだろ?だから少しでも一緒にいたいんだ…。ダメかな…?」
僕が、そう言うと少しの沈黙の後、彼女の声が聞こえてきた。
『分かったわ…?すぐ用意して…出る…』
「ほんと?!ほんとに来てくれるの?!」
『う、うん…。でも…着ていく服がないわ?何でもいいの?』
「あ、それなら俺が用意しておくよ!ここの近くにブティックもあるからさ?俺が選んで買ってくるよ」
『えぇ?で、でも…サイズとか…』
「ああ、のサイズは俺がバッチリ知ってるから心配しないでいいよ?ちゃんとが好きそうなドレス選ぶしさ」
『・・・・・・・・・』
「?どうしたの?」
『…オーリーのエッチ!』
「え?あ、あの…?!」
ガチャ…ッツツ…ツーツーツーツー…
「き、切れちゃった…!!な、何で怒ったんだろ…?!」
僕は突然、切れた電話に呆然としたが、また慌てて、かけなおすべくホテルの番号を押したのだった…。
「ワォ!すっごい可愛い!似合ってるよ、!」
「キャッ、オーリー!」
着替えて出て行くと突然オーランドに抱きつかれ私はジタバタと暴れて逃げようともがいた。
「サイズもバッチリだろ?俺って天才〜!」
「…………………ありがと…」
暴れても全然、離してくれないオーランドに私は困りつつも、素直に御礼を言った。
オーランドからの電話で急いでホテルから数分のコダックシアターに来たはいいけど、すぐにドレスを渡され、着替えさせられた。
確かに彼が選んでくれたドレスは私が好きな淡い色のワンピースドレスで、他にも靴やらアクセサリーまで一色揃えてくれていたのだ。
「で、でも…いいの?こんな高価なもの…」
「いいの、いいの!には何でも買ってあげたい気分だよ」
オーランドは、そう言って私の頬にチュっとキスをした。
昨日の今日で、まだそのノリに慣れない私はちょっと恥ずかしくて顔を伏せたがオーランドはニコニコしながら私を見つめている。
そして、しきりに、「可愛いなぁ〜」 と連呼しているオーランドに、ますます顔が赤くなってしまう。
その時、ドアがノックされ、男の人が入って来た。
「用意できたか?オーランド」
「あ、エリック!見て見て!可愛いだろ〜〜?!」
「ちょ、ちょっとオーリィ…っっ」
私は恥ずかしくてオーランドの服を引っ張ったが、そのエリックと呼ばれた男性はニコニコしながら目の前に歩いて来た。
「やあ、夕べはどうも」
「あ…ど、どうも…」
「凄い似合ってるよ。さすがオーランド。惚れた女が似合いそうな服は分かってるな?」
「まーね!」
エリックの言葉に得意げに返すオーランドに、私は耳まで赤くなってしまった。
「あれれ…?どうしたの?俯いちゃって。さ、会場に行って映画見よう?」
「う、うん…」
オーランドに手を引かれ、私と彼とエリックの3人は控室を出て会場へと向かう。
その時、私でも知っているブラッドが後ろから歩いて来て驚いた。
「オーランド、誰だ?その可愛らしい女性は」
「あ、ブラッド!ジェニファー。紹介するよ。俺の最愛の人で幼なじみのだよ?」
(げ…っな、何で、そんなサラリと、そういう台詞が言えるのよ…?)
私はオーランドの紹介の仕方に穴があったら入りたい状態になった。
だがブラッドと奥さんのジェニファーはクスクス笑いながら私の方を見て、
「宜しく」
「ああ、君が噂の…宜しく」
などと言って来る。
「よ、宜しく…」
「、どうしたの?顔上げてよ。せっかく奇麗なのに」
「オーリィ…っ」
いきなり皆の目の前で頬にキスをしてきたオーランドを軽く睨むも、一向に利いてないみたいでニコニコしながらそのまま歩き出す。
それを苦笑しながら見ている皆の視線が今の私には痛かった…。
「はい、は俺の隣ね?」
会場に着くと関係者席に連れて行かれて私は緊張しながらも椅子に座らされた。
オーランドは慣れてるかもしれないけど、私には、こういう場所は初めてで、ついキョロキョロしてしまう。
すると奇麗な女性が二人、目の前に座った。
「あ、ダイアン、ローズ。おはよう」
「あら、オーランド。今日も男前ね?」 ダイアンという女性がクスクス笑いながら振り向いた。
「その可愛らしい女性は彼女?」 ローズもニコニコしながら、そう聞いて来る。
それにはオーランドも、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにの肩を抱いた。
「そうだよ?俺が10年以上も思いつづけた人なんだ。やっと振り向いてくれてね?」
「ちょ…オーリィ…っ。そんなこと、いちいち言わなくていいから…っ」
「何でぇ?ほんとの事だろ?」
顔を赤くして抗議する私にオーランドは、少しスネた口調で口を尖らせた。
それを見ながら二人の女性も笑いを噛み殺している。
だがオーランドは、そんな事は気にもしないように二人を招介しだした。
「えっと、こっちが今回、俺の相手役のダイアンで、こっちが従兄弟役のローズだよ?で、この子は」
「どうも。宜しく、」
「宜しくね?」
「よ、宜しく…」
奇麗な二人に挨拶をされて私は緊張しつつも笑顔を見せる。
その時、会場が暗くなり、歓声が上がった。
「映画、始まるよ?こうやって俺の映画を一緒に見るのなんて初めてだね?」
「う、うん…。そうね…」
「いっつも誘っても断られてたからなぁ…」
そう言いながらオーランドは少し横目で見て来て私は顔を伏せた。
「だ、だって…恥ずかしいじゃない…オーリーが演技してるとこ見るの…」
「そりゃ…ちょっとは俺も恥ずかしいけどさ…。には何でも知って欲しいから今度からは一緒に見に来ようね?」
「う、うん…」
そう言って頷きオーランドの方を見ると、彼は嬉しそうに微笑んで不意に私の唇に軽くキスをした。
「……ちょ…っ」
「しぃ…。映画、始まるよ?」
一瞬で真っ赤になった私に、オーランドはニッコリ微笑むとギュっと手を繋いでくる。
いくら会場が暗くなったとは言え、私は誰かに見られたんじゃないかとドキドキしながら暫く顔を上げられなかった。
も、もう…オーリーったら場所を弁えないんだから…っ
こういうスキンシップを直させないと私の身がもたないわ…!
そんな事を思いながら私はスクリーンの方に視線を移した。
「はぁ…面白かった…っ」
控室に戻ってくる途中から、しきりに感動していたは未だ興奮したように言ってスタッフの出してくれた紅茶を飲んでいる。
僕はちょっと笑いながら隣に座ると、彼女の頬にチュっとキスをした。
「そんなに喜んでくれたら俺も嬉しいな?」
「凄いのねぇ…。あんな展開だとは思ってなかった。アキレス、かっこ良かったね?」
「えぇ〜俺は?」
の言葉に、ちょっとムっとしつつ、そう聞くとはクスクス笑い出した。
「オーリーも最後は、かっこ良かったよ?弓打つシーンは、さすがに慣れてるね?」
「まあね。今回の役はアンチヒーローだからいいんだけどさ…」
そう言いつつも、ちょっと悲しくて軽く息をついた。
それにと一緒に映画を見れたのは嬉しいけど、今回はダイアンときわどいシーンがあって、
実際に僕も見ながらの様子が気になり照れたんだけど…
も少し照れてるようで、その事には触れてこない。
「あ…じゃ、俺、挨拶しに行ってくるから…。ちょっと、ここで待っててくれる?」
「うん。分かった。頑張ってね?」
「うん。すぐ戻ってくるからね?ハニー」
僕は、そう言ってを抱き寄せると、素早く彼女の唇を塞いだ。
「…んぅ…っ」
未だ慣れてくれないはジタバタ暴れたけど、そんな事で離す僕じゃない。
軽く唇を噛みながら最後にペロっと舐めると、そっと彼女を離した。
「オ、オーリィ…っ」
「じゃ、行ってくるね?ここから出ちゃダメだよ?」
真っ赤な顔で口をパクパクさせつつ怒りたそうにしているの頬にチュっとキスをすると僕は立ち上がって控室を出て行った。
後ろでは何やら文句を言っているの声に苦笑しながら通路を歩いていく。
「よぉ、色ボケ王子くん」
いきなり後ろから肩を組まれ、見ればエリックがニヤニヤしながら僕を見ている。
「何だよ。色ボケって」
「いやぁ〜。しまりのない顔って、こういう顔の事を言うんだね?」
「いいだろ?幸せなんだから…っ」
僕はそう言ってプイっと顔を反らすと、エリックは一人吹き出している。
「はいはい。そりゃ良かったな?けど皆も驚いてたぞ?いきなり女性を連れて来たから」
「あ〜。でもの事は撮影してる時から散々、話してたからね?」
「そうそう。だから興味津々で見てたってわけだ。お前のしつこさに彼女が根負けしたんじゃないかってブラッドが笑ってたよ」
「ぬ…!何て失礼なんだ…!自分だってジェニファーに一目惚れして口説き落としたくせに!」
「アハハハ、そりゃ言えてるな?」
「何が言えてるって…?」
「「……………っっっ?!」」
突然、ヒンヤリとした声が聞こえて僕とエリックは恐る恐る振り返ると、そこには仁王立ちしたアキレスばりの冷たい表情があってギョっとした。
「あ、ブ、ブラッド…!」
「す、すまない…。つい…」
僕とエリックは青ざめてブラッドから離れると、彼は急に笑い出した。
「別にいいけど?本当の事だしな?それより早く行かないと客が騒ぎ出すぞ?」
「う、うん…」
「そ、そうだな?」
スタスタ歩いて行くブラッドに慌ててついていきながら、僕とエリックは顔を見合わせ、ホっと息をついた。
そのパーティは凄い盛り上がりようだった。
関係者を含めて、総勢何百人以上もの人がホテルのパーティ会場に集まっている。
その中で僕も色々な関係者に挨拶をしながら、の事が心配で、何度も様子を見に行っていた。
「、大丈夫?疲れた?」
「あ、オーリー。大丈夫よ?ただ立ってるだけだもん」
はワインのグラスを持ちながら微笑むと、辺りを見渡した。
「そんな私のことは気にしないで挨拶まわりしてきたら?」
「いいよ。もう殆どの人には挨拶したしさ。それよりと一緒にいたい」
を会場の隅に連れて行きながら、そう言うとは照れくさそうに微笑んだ。
僕も微笑み返すと、彼女の手からグラスを奪って、壁際にあるテーブルに、それを置いた。
そしての細い腰を抱き寄せる。
「オ、オーリィ…っ?」
「あ〜逃げないでよ…。もう数時間、こうしてに触れてないんだからさ」
「で、でも、こんな大勢いるのに…」
彼女は頬を赤くして周りを気にしてるのかキョロキョロと見渡している。
そんなを見て僕はちょっと苦笑した。
「大丈夫だよ。大勢いるから誰も見てない」
「で、でも…」
「いいから。俺のことだけ見てて?」
僕がを見つめて、そう言うと彼女は、ますます頬を赤くしてしまって、かなり可愛い。
いっそ、このまま、この会場から連れ出してしまいたいとさえ思った。
「…明日…夕方の便で帰るんだろ…?」
「う、うん…編集長と三日だけって約束したから…。今、ほんと忙しくて…」
「そっか…。俺も、この後、すぐモロッコだし…また暫く会えないね…。やっとと両思いになれたのになぁ…」
「でも…仕事だから仕方ないでしょ?オーリーも頑張って?」
「うん…分かってるけど…ずっと一緒にいたいよ…」
心の底から思った事を呟くと、も少しだけ悲しそうに微笑んだ。
そんな表情を見てると、僕も悲しくなって、さらにを抱き寄せ腕の中に納める。
「オーリィ…?」
「ねぇ…このまま抜け出そっか…」
「え…?」
「大丈夫だよ。もう終わりに近いし…二人くらい抜け出しても分からないって。どうせブラッドが最後の挨拶で締めることになってるからさ」
の頭にも手を添えて抱き寄せると、そっと口付けながら呟いた。
「で、でも…オーリーがいないと目立つよ…?」
「大丈夫だよ。一通り仕事はしたし。後は飲み会みたいなもんなんだからさ」
そう言って体を離すとの頬に優しく口付けた。
「さ、行こう?」
「え…え?」
の手を繋いで、そのままドアの方に歩いて行くと、彼女は戸惑ったようについてきた。
後ろを見れば案の定、監督やスタッフ、共演者、そしてスポンサー連中は、皆、酒に酔い楽しそうに談笑している。
僕は、そっとドアを開けて、を連れて廊下に出た。
「ほらね?簡単に抜け出せただろ?」
「も、もうオーリーったら…」
ウインクしながら笑う僕には困ったように微笑んだ。
「ん〜疲れた!部屋に戻って、ゆっくりしよう?」
「うん…そう…だね?」
「あ、じゃあさ。の荷物、俺の部屋に持ってきなよ。どうせ明日はチェックアウトするんだし…。今日は一緒に寝よう?」
「え…?!で、でも…」
「何?嫌なの?」
困ったように見上げてくる彼女に僕は少し頬を膨らませた。
「い、嫌とかじゃないけど…」
「何?あ、もしかして襲われるとか警戒してる?」
「ち、ちが…そんなんじゃないわよっ」
ニヤニヤしながら顔を覗き込むと、が慌ててプイっと顔を背ける仕草が可愛くて、僕は少し意地悪をしたくなった。
「だって明日から会えなくなるんだから一緒に寝てくれてもいいんじゃない?もう恋人同士になったんだしさ?」
「オ、オーリ…」
僕は澄ました顔でエレベーターに乗り込むとドアが閉まった瞬間、を抱きしめた。
「今夜はずーっとを抱きしめて眠りたいな…」
「……………」
耳元で、そう囁けばも固まったように黙ってしまって、僕は仕方なく息をついた。
「嘘だよ?」
「え?」
「何もしないからさ?一緒にいてよ。ずっと一緒にいたいのは本当なんだ」
「オーリィ…」
「ダメ…?」
そう言っての顔を覗き込めば、少し照れたように目を伏せてしまう。
だが小さく頷いてくれて、僕はニッコリ微笑んだ。
「じゃあ、時間が許すまで二人で起きてようね?」
「うん…」
やっと顔を上げてくれたの唇に軽くキスをすると、丁度エレベーターが到着してドアが静かに開いた。
私は急いで自分の部屋に戻ると、バッグを取ってオーランドの部屋に向かおうとした。
昨日、ついてから、殆ど使ってない部屋を見渡して忘れ物がないかチェックするが、
だいたいがバッグを開けてさえいないのだから、あるはずもない。
「はぁ…ここ取らなくても良かったかも…」
そう呟きながら少し息をついてソファーに座る。
少し頭の中を整理したかったのだ。
昨日、ロスに来てから夢中でオーランドを探し回った。
そして、やっと会えた時、自分の気持ちを言えてオーランドも、それを受け入れてくれた。
今まで散々、オーランドの気持ちに曖昧な事をしてたのに、彼はそれを何も責めず黙って受け止めてくれて凄く嬉しかった。
「はぁ…昨日、ここで色々と悩んでたのが嘘みたい…」
昨日の今頃は…きっとダメかもしれない…と散々、考えて一人で帰ってしまおうかとさえ思っていた。
でも…逃げないで良かった。
そんな事を思いながら、ふと携帯を取り出した。
「ソニアおばさんに電話入れなくちゃ…きっと心配してる」
そう呟いて私はオーランドの実家の番号へと電話をかけた。
少し呼び出し音が鳴り、すぐに相手が出る。
『Hello?』
「あ、ソニアおばさん?」
『?!い、今どこなの?まだロス?』
「はい。あの…明日帰ります」
『そ、そう…。で…オーランドには会えたの?』
ソニアおばさんは動揺したように聞いてきて、私は笑顔になった。
「はい…あの…会えました」
『そう…!良かったわ?それで?上手く行った?!』
「は、はい…今まで…オーリーと、ずっと一緒で…」
『まぁ〜〜そうなの?!ほんとに?あの子、喜んでたでしょう?』
ソニアおばさんの興奮状態が伝わってきて、私はちょっと照れくさくなりつつ、
「あの…いつものテンションより酷かったです…」
とクスクス笑った。
それには受話器の向こうでソニアおばさんも苦笑いだ。
『やっぱりね。で…今後の事とか…話した?』
「あ、少しは…。今から、またオーリーの部屋に戻るんです。ちょっと自分の部屋に荷物を取りに来たんで」
『まあ、そうなの?え?じゃあ二人は…結ばれた…とか?』
「え…?!」
突然のソニアおばさんの過激な質問に私は一瞬で真っ赤になってしまった。
だいたい、そんな事を聞いてくる母親がいるだろうか?と首を傾げたくなる。
「あ、あの…そんなことしてません…っ」
『えぇ〜〜?!そうなの?何だ…ガッカリ………』
「……………お、おばさん…っ」
ソニアおばさんの呟きに私は思わず、そう怒ってしまった。
本当に変わった家族だと、今になって思う。
『だってちゃんが本当の娘になってくれれば私、凄く嬉しいんだもの〜〜っ』
ソニアおばさんは、まだ懲りずに、そんな事を言ってくる。
「そ、そういう問題じゃないですよ…っ。と、とにかく…報告しましたからね?私、そろそろ戻らないとオーリーが心配するので…」
『あ、そ、そうね?じゃあ今夜こそ頑張るのよ?!ちゃんさえその気になればオーランドなんてすぐ襲ってくるから(!)
ね?分かった…?オーランドなんて本能の塊みたいなものだから、いちころよ?聞いてる?ちゃ…』
ガチャ…ツーツーツー
思わず受話器を置いてしまった。
「はぁ…もう〜おばさんったら何を言ってるのよ…。この母親にしてオーランドありって感じね…」
私は軽く目頭を抑えて溜息をついた。
そりゃ私だって、いつかは…って思ってるけど…昨日の今日でオーリーと、そんな関係になるなんて考えられない…
今まで、ずっと友達として見て来たんだし、少なからず照れもある。
自然の流れに任せて、私は、ゆっくり進んでいきたかった。
「はぁ…戻ろう…」
ソファーから立ち上がりバッグを掴むと、私はドアの方に歩いて行きかけた。
その時、部屋の電話が鳴り響き、ドキっとする。
「まさか…ソニアおばさん?」
ちょっと不安に思いつつ、受話器を取った。
「Hello…?」
『あ、?!何してるの?遅いから心配するだろ〜〜?!』
「・・・・・・・・・・・・・・・」
突然、受話器の向こうからオーランドの大きな声が聞こえて来て思わず私は受話器を耳から離した。
「ご、ごめん…。今、出ようと思ってたの。今行くから」
『ほんと?そのまま一人で帰らないでよ?!』
「わ、分かってるわよ…。それに今からじゃ飛行機なんて飛んでないわ?」
苦笑しながら、そう答えると、オーランドはホっとしたように息をついた。
『じゃ、早く戻って来てね?ハニー!』
「・・・・・・・・・・・・・・・」
私は、そのまま電話を切り、軽く息をつくと、自分の部屋を後にした…。
「あれ?何も聞こえないまま切れちゃった…。ってば急いで部屋を飛び出したのかな?」
僕は首を傾げつつ、濡れた頭をバスタオルで拭きながらソファーに座った。
を待ってる間、さっさとシャワーを浴びてしまったのだ。
「そうだ。ルームサービスでワインでも頼もうかな」
そう思い立ち、直ぐにフロントへ電話をして赤ワインを…と頼む。
そして切った瞬間、また電話が鳴り、直ぐに取った。
「Hello?」
『外線からお電話です。お繋ぎしましょうか?』
「え?外線…?はい…じゃあ繋いでください」
僕は誰だろう…と思いつつ、待っていると受話器の向こうで女性の声が聞こえた。
『Hello…?オーランド…?』
「……レ、レナ…?!」
『ええ。今、話してても大丈夫?』
「う、うん…」
突然の彼女からの電話で、僕はやっと思い出した。
夕べ、彼女はが来た事で、一人帰って行った事を…
「あ、あの…夕べは、ごめん…。から…聞いたよ…」
『いいのよ、そんなこと。それより、良かったわね?思いが叶って…』
「うん…」
『やだ。もっと喜びなさいよ。あんなに彼女のこと好きだったんだから』
「でも…君には悪いことをしただろ…?」
『そんなことないわ?そりゃ私は、あなたのこと好きだったけど…。一緒にいられて楽しかった』
「レナ…」
『でも、もう会わない方がいいわよね?今日はそれを言おうと思って電話したの』
「え?」
『私は、あなたの事が好きなのに友達としては会えないし…彼女に誤解されるような事はしない方がいいと思うの』
「それは…そうだけどさ…」
『だから、もう電話しないわ?オーランドもかけてこないでね?彼女とケンカしたとかでも』
レナはクスクスと笑いながら冗談混じりで、そんな事を言っているが、少し無理をしてる感じに取れた。
「ごめん…レナ…」
『謝らないでよ。あなたは何も悪いことしてないわ?一途に彼女を思いつづけただけじゃない』
「ありがとう…レナ…。ほんとに…ありがとう」
『私こそ…今まで、ありがとう。じゃ…彼女と仲良くね?さよなら…』
「さよなら…。元気で」
『ええ、オーランドも…』
そこで電話が切れた。
何だか少し悲しくなって僕は受話器を置くと軽く息をついた、その時、チャイム鳴り、ドキっとする。
「あ…かな…」
そう思って慌ててドアを開けると、目の前にはホテルのボーイが立っていた。
「ルームサービスで御座います」
「あ…そっか。ありがとう」
ボーイは笑顔でワゴンを押してきてワインとワイングラス、そして付け合せのチーズを置いて静かに出て行った。
「、遅いなぁ…」
僕は部屋に入らず廊下を見ていると、今のボーイと擦れ違ってが歩いて来るのが見えて笑顔になった。
「…っ」
「オーリィ…?な、何してるの?そんなとこで…しかも、その格好…」
は僕がバスローブ姿で部屋から顔を出してるのを見て驚いて走ってきた。
「今、ちょうどルームサービス頼んでさ」
「そ、そう…。遅くなって、ごめんね?」
「いいよ。ちょっと寂しかったけど」
の手を引いて部屋に入りながら、そう言うと、彼女はクスクス笑っている。
「何笑ってるの?はい、座って座って」
僕はをソファーに座らせると、ワインのコルクを抜いてグラスに注いだ。
「はい」
「あ、ありがとう…。じゃ、オーリーも」
も僕のグラスにワインを注ぐと、二人でカチンっとグラスを合わせた。
「何だか眠くなっちゃいそう…。オーリーも今日、全然、寝てないじゃない」
「うん。でも…そんな眠くないんだ。がいなくなっちゃったら、ガクっと一気にきそうだけど」
「何言ってるのよ。今日こそ寝ないとダメだよ?」
「えぇ〜もったいないよ」
少し口を尖らせながら、僕を睨んでくるが可愛くて彼女の肩を抱き寄せた。
「少しでも、こうしてと話していたいな…」
「でも…オーリー、これから、ますます忙しくなるのよ?少しは体を休めないと…」
「分かってるけどさ…」
ちょっとスネながらの頭に口付け、頬にもチュっと口付ける。
「ねぇ、…」
「ん…?」
「帰ったら…また仕事でオーエンに会うんだろ…?大丈夫?」
「だ、大丈夫って…?別に私と彼は…」
「分かってるけどさ…。でも向こうはのこと好きなんだろ?」
「オーリィ…」
僕の言葉に、は困ったように顔を上げると、ちょっとだけ息をついた。
「あのね…今回、ロスに会いに行けって言ってくれたのは…オーエンなのよ?」
「え…?!な、何で、オーエンが、そんなこと…っ」
「私が悩んでるのを見かねたのかも。でも…オーエンは"彼に会いに行って自分の気持ちを伝えるべきだ"って言ってくれて…
だから私、こうしてロスに来ることが出来たの…」
その話を聞いて僕は驚いた。
何でライバルの為に、そんな事が出来るんだろうと…
年は僕より下だけど、凄い男だなと思った。
「そっか…。じゃあ…彼に感謝しないと…」
「帰ったら…オーエンに話しに行くわ?いいでしょ?」
「う〜ん……仕方ない…いいよ?」
僕はちょっと笑いながらの頬にキスをして抱きしめた。
きっと…オーエンものことを本気で好きなんだろうな…
だからこそ…の気持ちを考えて、そんな事を言ったんだ…
そうだ…レナだって同じだ。
彼女も僕の気持ちを考えて、ああ言ってくれたんだ。
僕とは…そんな人達に支えられて、今こうして気持ちを通わせる事が出来た。
感謝しないと…
「…」
「…何?」
腕の中で少しだけ動いたを僕は離すと、彼女の顔を覗き込んで、瞳を見つめた。
そして今までの数年間の思いを、ありったけ込めて言葉を繋ぐ。
「俺と…いつか結婚して欲しい」
「……え?」
は大きな瞳をさらに大きくして驚いた顔で僕を見つめてくる。
その表情が可愛くて、僕はちょっと微笑むと、そっと唇を重ねた。
そして、そのまま頬に両手を添えると、もう一度、の顔を見つめる。
「好きだよ?凄く愛してる…。この気持ちは、きっと一生変わらないから…これから先も俺の傍にいて欲しいんだ…」
「オーリィ…でも…結婚なんて…」
「まだ早いのは分かってる…。今すぐにじゃなくていい。でも…の相手はこの先もずっと俺であって欲しいから…
今、プロポーズするよ」
そう言っての手を握り、そっと口付けた。
「―――俺と…結婚して下さい」
真剣に、そう言うと、の瞳が大きく揺れた。
そう思った瞬間、透明な粒がの頬に零れ落ちて僕の手に流れる。
その奇麗な色の涙は、僕の胸にすーっと染み込んでくるように暖かかった。
「……返事は…?」
ちょっと笑顔を見せて、そう聞けば、の瞳から次々に涙が零れ落ちて、彼女は慌てて手で、それを拭っている。
僕がそっと唇を寄せて濡れた頬に口付ければ、の体温が伝わってくる。
そして彼女が小さく頷いた。
「それは…YES…ってとっても?」
「……ん…ぅん……」
泣きながら何度も頷くに、僕は笑顔になって思い切り彼女を抱きしめた。
「愛してる…。これからも、ずっと…愛してるよ?」
何度も、そう呟く僕にもギュっとしがみついてくる。
そのまま少し体を離しての額に額を合わせ、濡れた瞳を見つめた。
僕の濡れたままの髪がくすぐったいのか、はキュっと目を瞑り、笑顔を見せると、
「私も…」
とだけ呟いてくれた。
その後のことは、よく覚えていない。
でも何度も彼女の唇にキスをして、その温もりだけは朝になっても残っていた―――
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うひゃ。ついにプロポーズまで
いきました〜長かったね、片想い(笑)
何だか最初に考えてたのと変わってきて
しまった、このシリーズですが、とうとう次がラストです。
と言っても話はここで終了なのでラストはオマケって事で…短いかな?
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