届かない思い....
開け放した窓から、そよそよと気持ちのいい風が入ってくる。
天気もよく暖かな陽射しの中、ダイニングで朝食を食べながら
それでも私はプリプリしながらベーグルを頬張った。
すると目の前のカップに、サっと紅茶が注がれる。
私は、それを見て少しだけ息を吐くと顔を上げた。
「ちょっとオーリィ…」
「ん?何だい?ハニー」
「……そのハニーって呼ぶのやめてよっ」
「何で?俺にとっては、"ハニー"なんだから気にしないでよ」
「……っ」
もぅ!オーリーには何を言ったって無駄だわ…
でも…さっきの件は…
「オーリィ…」
「ん?」
オーランドはテーブルに肘をつき頬杖をつきながら、ニコニコと私を見ている。
そのオーリーには少し怯むも、ここで言わないとオーリーのペースのままだ。
私はちょっと溜息をつくと口を開いた。
「あのね…。ベランダから私の部屋に来るのやめてくれる?」
「えぇ…?だって…玄関から来ても開けてくれない時があるし…それに昨日みたくが寝てるとこ起こしちゃうだろ?」
「じゃ、来なきゃいいでしょ?目が覚めて、目の前にオーリーがいて凄く驚いたんだから!
だいたい女の子の寝室に勝手に入るなんて非常識じゃないの!もう子供じゃないのよ?お互い大人の…」
私は、そこで言葉を切った。
オーリーが私の手をギュっと握ってきたから…
「な、何よ…」
「うん。もうお互いに子供じゃない。大人の"男と女"だよね?だから、いつでも恋人同士になれるし結婚だって出来るよ?」
「は…はぁ?!わ、私はそういうつもりで言ったんじゃ…っ」
「まぁまぁ。早く食べちゃって!食べたら出かけるんだからね?」
「オーリー!人の話を聞いてるの?!」
「ん?何だっけ…。ああ、大人同士だから大人の恋愛も出来るって話だっけ?」
オーリーは、わざとなのか天然なのか、そう言いながらニコニコしたままだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・ ―もういい・・・」
私は力尽きて、最後のパンをとり一気に食べると紅茶を飲み干して立ち上がった。
するとオーリーも、ぴょこんと立ち上がり、
「ささ、じゃ次はシャワー浴びて着替えだね?手伝おうか?」
とニヤニヤしている。
私は顔が赤くなり、
「結構です!オーリー、家に帰っててよ!後で用意してから行くから…」
とスタスタとキッチンに行き、お皿やカップを下げた。
それにもオーリーはついて来る。
「やだよ〜。ここで大人しく待ってるからさ?ね?」
振向くと悲しげなオーリーと目が合い、私は溜息をついた。
「じゃあ…リビングで待っててくれる?用意しちゃうから…」
「OK!じゃ、俺、本でも読んでるね?」
オーリーは嬉しそうに、そう言うと大人しくリビングへと歩いて行った。
私はその後姿に苦笑しながら自分の部屋へと上がっていく。
(はぁ…今日は社に顔出して夏休みの手続きして、その後は一人で映画でも見ようと思ってたのにな…)
さっき頭に温もりを感じて目を覚ますと目の前にオーリーがいてニコニコしながら私の頭を撫でていたのには驚いてしまった。
ガバっと起き上がり思わずパジャマを着てるのか確認したほどだ。
オーリーは、そんな私を見て、
「まだ何もしてないから安心してね?」
なんて言うものだから思い切りグーで殴ってしまった。(頭だけど)
それでもオーリーは懲りずに、
「今日は天気がいいしデートしよう!」
と言い出す始末。
最初は会社に行く用事があると言って断ったのに、一緒についてくから、その後にデートしようとうるさいので、渋々OKしてしまった。
まあ、前も、よく二人で買い物に行ったり、映画を見に行ったりはした事もあったけど、
ここのとこ、オーリーが売れ出してからは忙しくなり帰って来るのも前ほどじゃなくなったから二人きりで出かけることも無くなっていた。
それに…ほんと最近のオーリーは男みたいな事を言うから戸惑ってしまう。(あ、いや…オーリーは男なんだけど…)
前のように友達感覚でいた私は口説いてくるようになったオーリーに、どう対応したらいいのか分からない。
何で、あんな風になっちゃったんだろう?
オーリーは、あんなにモテてるのに何で私の事を好きなの?
まだオーリーが隣に住んでた時は、そんな事はなかったのに…
ロンドンへ引越し、たまに帰って来るようになったと思えば、いきなり"デートしよう"とか、"好きだよ"とか言うようになって…
私も訳が分らず、つい恥ずかしさもあって誤魔化したり怒ってばかりいた。
それが今日まで続いてるって感じなんだけど…
その度にオーリーの取り巻きの女の子に睨まれるし、男の人には"オーランドのお手つき"として見られて、
ちょっといいなって思ってた男の人にだって、
"君、オーランドと付き合ってるんだろ?僕と一緒にいたらオーランドに怒られるよ?"
なんて言われて告白する前から失恋決定…
事情を説明したって、"彼から、そんなに想われてるなら幸せじゃないか"とか言われて結局ダメになる。
オーリーって実は確信犯で、わざと人前で抱きついてきたり口説いてきたりするんじゃないかしら?と疑ってしまう。
そんな事もあり、私は高校、大学と恋人も、なかなか出来なくて、どんどん男性が苦手になってきてしまった。
高校では大学生の恋人も出来たが、浮気性だった為、自分から別れてしまった。
それに私は未だに本気の恋愛というものを経験した事がない。
言ってみれば失恋ばかりしてたような気がする…。
その度にオーリーは慰めてくれるんだけど…(そういうとこは優しいのよね・・・)
だから社会人になって、たまにデートに誘われたりするようになっても、どうしてか"YES"と言えなくなった。
今の仕事柄、色々な人とも出会うようになったし、ほんとの事を言えばサッカー選手からだって誘われる事はある。
(オーリーには言えないけど)
でも…女馴れしてる彼等を警戒するのもあるし、やっぱり過去の失恋を思い出して怖くて断ってしまう事が大半だ。
そのうち私は仕事にばかり時間を取るようになって、休みの日は一人で出かけたり家でノンビリする事が多くなってしまった。
両親は忙しくて、殆ど家にいないから、そんな私を心配する事もなく…
まあ、たまに母さんには、"そろそろ恋人くらい紹介してよ"と言われる時もあるが、私が"そんなのつくる暇もないわ"と言うと、
"そう?でもお隣のオーランドくんがいるし他に恋人なんていらないか"と言って笑うのだ。
私が慌てて、"オーリーとは、そんなんじゃない"と言っても、
"あら、でも母さんはオーランドくんなら、貴方をお嫁に出してもいいわ?
あんなに、貴方の事を想ってくれてるんだし…。そんな男性は、なかなかいないわよ?
オーランドくんなんて十代の頃から、一筋じゃないの"
なんて言って、ケラケラと笑っている。
お隣のソニアママといい勝負だ。
ソニアママだって私と顔を合わせば、
"早く、お嫁に来てちょうだいね?"
とか、
"早くちゃんを娘にしたいわ"
なぁ〜んて言ってくる始末…
もう…この母にして、あの息子あり…!なんだもの…。
まともなのはサマンサだけって感じよね…。
そんな事を考えながら、私はシャワーを軽く浴びて、すぐに出ると、サッサと着替え始めた。
午前中に社の方に行かないといけない。
ここのとこ、ずっと仕事をしてたものだから夏休みを取るのを忘れていた。
昨夜、編集長から電話が来て数人の希望者がいるから、お前はどうする?と聞かれたので思わず休みたいですといったら、
じゃあ、休暇の手続きだけしに明日、編集部に来いと言われたのだ。
「これで、よし…と」
鏡で服装をチェックする。
今日も暑いのでノースリーブ型の淡いブルーのワンピースにした。
今日は仕事じゃないし…久々にデートだし…こんな感じでいいよね?
私は濡れた長い髪を乾かさないままアップにして、くるくるとねじるとクリップで数箇所留めて髪を固定した。
トップでふわりと広がる髪を手でバランスよく整えると、簡単にメイクもして部屋を出る。
静かにリビングに行くと、オーリーはソファーに座り真剣な顔で何か本を読んでいる。
それを見て私はちょっと笑顔になると、オーリーに声をかけた。
「オーリー?支度済んだよ?」
「わ…っ」
急に声をかけたからか、オーリーは驚いて本から顔を上げた。
「あ、・・・早かった…」
オーリーは私の方に振向きながら、そう言って言葉を切った。
「オーリィ・・・?」
口を開けて私の方を見ているオーリーに私は首を傾げた。
するとオーリーは読んでた本を置いてソファーからガバっと立ち上がり、私の方へスタスタ歩いて来たかと思うと、
急に私を力いっぱい抱きしめた。
「キャ…っ」
「、可愛い!そのワンピース、凄くよく似合ってるよ!」
それには私も驚いて固まってしまった。
「ちょ…オーリィ…」
「もぉーほんとは俺の好みをよく分ってるね!」
「は、はい?」
私はギュウギュウ抱きしめられる腕から何とか逃れようと体を動かしつつオーリーの言葉に驚いた。
するとオーリーは、やっと少し腕の力を弱めて体を離すと、紅潮した顔で嬉しそうに微笑んでいる。
私はその笑顔にドキっとして視線を反らしながら、
「な、何が分ってるの…?」
と聞いた。
するとオーリーは、ニコニコしたまま私の顔を覗き込んでくる。
「だから、こういう女の子〜みたいな格好、俺好きなんだよね〜」
「え?あ、ああ…。そう…なの?そんなの初耳よ…?」
「そう?って言うか、俺、きっとが、こういう格好してるから、こんな感じが好きになったんだと思うけどさ?」
「へ?」
私は意味が分らず顔を上げると、オーリーは笑顔で、
「だからっ。前はもっとセクシーな格好とかに目がいってたんだけどさ。
を好きになってからは、みたいな格好の女の子に目がいくって言うか…
あ、で、でも、その子が好みとかじゃなくて…。みたいだなぁって思って目がいくってことだからね?」
オーリーは、そう説明すると、ますます顔を綻ばせて、私を見つめてくる。
私はいい加減、抱きしめられてる状況と、その熱い瞳に見つめられ恥ずかしくなってきた。
「あ、あの…分ったから…そろそろ離して…?」
「ん〜…じゃ、ホッペにキスしていい?」
「はあ?」
「ホッペにキスさせてくれたら離してあげる」
このオーリーの突拍子もない申し出に、さすがに私も顔が赤くなった。
「そ、そんなのずるい…っ。何言って…」
「じゃあ、ずーっと、このまま抱きしめてるからね?」
「・・・ぅっ」
ニコニコとしながらイタズラっ子のような顔で私を見つめてくるオーリーに私も困ってしまった。
「ほら、早くしないと午後に突入しちゃうよ?会社に行って手続きしないといけないんだろ?」
そのオーリーの言葉に私も渋々、頷いた。
「もう…オーリーの意地悪…っ」
「エヘへ…」
オーリーは嬉しそうに微笑んで、薄っすらと赤くなってる私の頬に、チュっとキスをした。
私は、その感触で更に頬が熱くなる。
「も…もぅ、いいでしょ…?離し…」
チュっ
「―――っ!」
「一回だけって言わなかったもんね!」
オーリーは、もう一度、今度は反対側の頬にキスをして、得意げに微笑んだ。
私は、この不意打ちに一気に顔が赤くなったのが分る。
「も、もう!オーリーのバカ!早く離して!」
「は〜い。あ〜あ〜こんな事なら唇にしとけば良かったかなぁ〜」
私を解放しながら、オーリーはとんでもない事を呟いている。
「バ、バカなこと言わないで!」
私はキスをされた頬を手で抑えながら、そう怒鳴るとバッグを取って玄関の方に歩いて行った。
「あ、ちょっと待ってよ、〜!」
オーリーは慌てて私の後からついてくる。
外に出て、シッカリ鍵をかけて歩いて行くと、オーリーは私の横に来て、キュっと手を繋いできた。
私はビクっとして顔を上げると、オーリーの笑顔と目が合う。
「今日はデートだろ?だったら手を繋がなきゃね?」
「か、勝手にして…」
私は恥ずかしいのを隠すように、ぷいっと顔を背けると、オーリーは嬉しそうに、
「うん。勝手にする」
と言って更にギュっと強く手を握ってくる。
私は手が汗ばんでこないかと心配になった。(こうして男の人と手を繋ぐなんて高校生の時以来だ)
ほんと…私って暗い青春を送ってきたのね…
と言うのも、実はこのオーリーのせいじゃないかって時々思うんだけど・・・
私はチラっとオーリーの顔を見上げた。
オーリーは嬉しそうな顔で、ニコニコしているが人通りが多い場所までくると、サっと胸にかけてたサングラスをして、
ジーンズにひっかけてた可愛いチューリップ型の帽子をかぶった。
そうか…オーリーも有名人なのよね…
ハリウッドでもそうだけど…もうイギリスでは、だいぶ前からテレビにだって出てるし、
ここ最近の映画のヒットで、顔だって売れてしまっている。
こんな風に女の子と手を繋いで歩ける人じゃなくなったんだ。
そう思うと少しだけ寂しい気がした。
「?どうしたの?俯いちゃって…」
ふいにオーリーが屈んで私の顔を覗き込んだ。
私はドキっとしたが、オーリーの方に視線を合わせないまま、
「オ、オーリィ・・・有名人なんだから、こうやって手を繋いで歩いてたらまずいんじゃない?」
と言った。
それにはキョトンとした顔で、
「どうして?」
と聞き返してくる。
私は、ちょっと苦笑すると、手を離そうと引っ張った。
だがオーリーは、ますます力を入れてギュゥっと握ってくる。
「何で離そうとするの?」
「だ、だから…オーリーは…」
「別に気にしないよ?俺…」
「じゃ、じゃあ何でサングラスなんてかけるの?見付かっちゃまずいからでしょ?」
私がそう言って、やっとオーリーの顔を見ると、オーリーは少し顔をしかめた。
「違うよ。別にとこうして歩いてるのを見付かってもいいけど二人でいる時に見付かって声をかけられるのが嫌なんだ。
邪魔されたくないだろ?せっかく久し振りにとデートなのに…」
私はオーリーの、その説明にドキっとして俯いてしまった。
「それより早く用事済ませちゃって、二人で、どこか行こう?」
オーリーは笑顔で、そう言うと私の手をぐいぐい引っ張って、タクシーを見つけると手を上げた。
タクシーが目の前に止まり、オーリーは最初に私を乗せると、自分も後から乗って、また手を繋いでくる。
私はそれにもドキっとしつつ運転手に行き先を告げた。
「の会社行くの初めてだし何だか緊張するな〜。そのセクハラ編集長も拝めるね?」
「ちょっとオーリィ…。余計なこと言わないでよ…?」
私は少し顔をしかめると、オーリーは口を尖らせ、
「そんなの分んないよ…。俺のにセクハラする男は誰だって許さないからね?」
「……俺の…って私は、オーリーの持ち物じゃないわよ…」
私は恥ずかしくて、わざとスネたように文句を言うと、オーリーは慌てて私の顔を覗き込んだ来た。
「わ、分かってるよ?持ち物だなんて思ってない。は、俺のハニーって意味だからさ?」
「ハニーでもない……」
「ぬ…っ。じゃあ、俺の"大切な人"!」
オーリーは少しスネた顔で、そう言うと私の肩をぐいっと抱き寄せた。
私はドキっとして慌てて離れると、
「そ、そういう事、簡単に言わないで…」
と言って窓の外を眺めた。
オーリーはそれ以上何も言わなかったが、隣で小さく息を吐き出してるのが聞こえて、またドキっとする。
でも気付かないフリをして黙って窓の流れる景色を見ていた。
そんな…急に大人にならないでよ…オーリィ…。
私は…あの頃のまま…心だけ成長してなくて…
ほんとは仕事で辛いときには、オーリーに甘えたくなる時だってある。
でも…オーリーが私の事を、女の子として見るから…前みたく素直に甘えられなくなってしまった。
オーリーは…女の子に慣れてるかもしれないけど…
私は、男の人に慣れる事もなく過ごしてきて…急にスキンシップをしてくるようになったオーリーに戸惑ってばかりだ。
私の心を…掻き乱さないでよね…
私は同じように反対側の窓を黙って眺めているオーリーをチラっと見て、少し悲しくなった。
「じゃ、ここで大人しく待っててね?」
「OK」
「絶対よ?歩き回ったらダメだからね?」
「分ったから早く手続きしてきてよ」
僕は心配そうな顔のの背中を押して、そう言った。
はまだ不安げに僕の方を振り返っていたが、渋々"編集部"と書かれた部屋に入って行った。
僕は廊下のソファーに座りながら、そっとの入って行った部屋の中を覗いてみると、
何だか煙草を吸いながら、せわしなくパソコンを打ち込んでる人が数人、目に入る。
へぇ…ここで色々な記事が書かれてるんだ…凄いなぁ。
僕のインタビューとかも、こんな感じで雑誌に載るのかな…
そんな事を考えつつ、そっと立ち上がって入り口の方まで行くと今度は顔をひょこっと覗かせて、その中を見渡した。
そんな僕に誰も気付かずに自分の仕事をしている。
は部屋の一番奥に行ったのかガラス張りの仕切りがあって、その中にらしき人影が立っているのが見える。
あそこににセクハラしてくる編集長とやらがいるのか…
確か40代後半で頭も少し後退したおっさんだとか言ってたけど。
そんなオヤジがの可愛いお尻や胸(!)に触ったりしてるかと思うと無性に腹が立ってくる。
僕はそう思うと足が勝手に部屋の中へと入っていた。
それでも誰も顔を上げずに手だけ動かしている。
僕がそのまま奥の仕切りがある方へと歩いて行くと仕切りの中から男の声が聞こえてくる。
「…じゃ15日間の休暇でいいのか?」
「はい。ずっと休んでなかったし…この頃少し疲れ気味だったので…いいですか?」
「まあ、いいけど…。くんと暫く会えないのは寂しい限りだね」
「何言ってるんですか?編集長」
は呑気に笑っている様子だ。
僕はその会話を聞いただけで、ムカっと来ていた。
僕なんか、お前よりに会えない日の方が多いんだぞ?!
自分は一緒に仕事してるクセに…ってかおっさんのクセに何を言ってるんだっ。
「じゃあ、私はこれで…友達を待たせているので…」
不意にの声が聞こえてきた。
「友達?何だ、今日はボーイフレンドでも連れてきたのかい?」
「いえ…お隣に住んでる…幼なじみみたいな人で・…」
ぬっ。何でそこで恋人だって言わないんだ!(恋人じゃないけどさ…)
僕はよっぽど出て行って、そのセクハラオヤジに"恋人宣言"してやろうかと思った。
「まあくんは恋人がいなかったな?じゃあ休んでもデートも出来ないだろう?どうだ?俺で良ければ休みの間に一度…」
「ちょ…編集長、やめて下さいっ」
(むむむ!こ、これはセクハラしてるのか?!が危ないっ)
僕は焦って思い切り、その中へと飛び込んだ。
「おい!俺のに何してる!!」
「オ、オーリー?!」
「ん?誰だ?」
僕が中へ入ると、その確かに額が後退したオヤジがの腰に…というか背中のあたりに腕を回し、
しかも、その手が後ろから回され何と胸の辺りにまで伸びている!
(こ、このオヤジ!ぼ、僕だって触れた事がないの胸にぃ〜!!!)(?!)
「その手を離せ!」
「ん?あ、ああ。悪い、悪い。いつものクセでね?」
その禿げた(!)オヤジは呑気に笑うと、やっとの体から手を離した。
「ちょっとオーリィ…!廊下で待っててって言ったじゃないの…っ」
「だってがセクハラされてるの見過ごすわけにはいかないだろ?!おい、お前の上司のクセに何してるんだ!」
「オーリーったら! ―すみません、編集長…あの…」
「ぬっ。、こんな奴に謝ることないだろ?いやらしい事されてっ」
「オーリーは黙ってて!」
は顔を真っ赤にして怒り出した。
僕は渋々口を閉じると、その編集長が愉快そうに笑い出し椅子から立ち上がった。
「アハハハっ。元気な幼なじみだな?くん」
「え?あ、はあ…」
「む…。幼なじみじゃないよっ」
「ん?じゃ、やっぱり恋人なのかい?」
その編集長は僕の方に、そのいやらしい(!)笑顔を向けると、そう聞いてきた。
僕もさすがに、それには言葉が詰まるも、
「これから恋人になる予定なんだ。だからの体に指一本触れるな」
とキッパリと言った。
「ちょっとオーリィ…っ」
「・・・・・。 も悪いよ?!嫌なものは嫌だって言わないとダメだよっ」
僕は思わず呑気なにも怒鳴ってしまった。
するとも驚いた顔で僕を見ている。
「オーリィ…」
「…君は女の子なんだ。好きでもない人に体を触られて我慢することないんだよ」
僕がそう言うと、は顔が真っ赤になった。―ちょっと自分の事は棚に上げたんだけど・・・―
それを見て、またオヤジが笑い出した。
「アッハッハ…っ。面白い幼なじみだね?くん」
「はあ…」
「む…。だから幼なじみじゃないって…」
「ああ、くんの恋人候補だったね」
「む…っ」
自分で言っておいてなんだが、このオヤジに、そう言われると何だか腹が立つ。
「、もう用事は済んだんだろ?じゃもう行こう?」
「え?あ…うん…。 ―あ、あの…じゃ編集長…休暇届、お願いします…」
「ああ、分ったよ。ゆっくり休んでくれ。彼と仲良くな?」
「余計なお世話だっ。このセクハラオヤジ!」
「ちょ。オーリー!」
「アッハッハ!思った事は何でも口にするんだな?いや実に気持ちがいい。くんも彼を大事にしろよ?」
「え?あ、あの…」
は何か返事をしようとしたが僕はそれを許さず、ぐいぐいと手を引っ張って部屋を出て行った。
それには今まで黙黙と仕事をしていたスタッフも驚いたように顔を上げている。
「す、すみません。お騒がせして…」
はスタッフに頭を下げて謝っているが、女性スタッフの中からはヒュ〜ヒュ〜と口笛が鳴り、
「、恋人いたんじゃない!今度、紹介してよ!」
と言う声が次々に上がる。
それに比べ男性スタッフからは何だか溜息が洩れ、心なしか僕の方を睨んでいる男までがいた。
ふん…。どうせの事を狙ってた奴だろう。
今日、僕もここに来て良かった。
これでに変な虫がつかなくなるかもしれないし…
って言うかは呑気すぎるよ!
こんな中で今まで仕事してただなんて…っ
僕は何だか無償に頭に来てずんずんと歩いて行った。
そしてビルの外に出る頃、が苦しそうに僕の名を呼んだ。
「ま、待って…オーリィ…苦しい…」
「え?あ・…」
僕は気付けば早歩きをしていてが必死にそれについてきていた。
「ご、ごめん…」
僕は歩くのをとめると繋いでいた手を離した。
は、はぁはぁと息が荒くて深呼吸をしている。
「も、もう・…オーリーったら!」
「何だよ?が呑気だから、あんなオヤジにつけこまれるんだぞ?」
僕は怒ったままを見た。
は少し驚いた顔で僕を見上げると、ちょっと悲しげに俯き、
「だ、だって…仕事場でモメるの嫌だし…。別に変に誘ってくるわけじゃないから…」
と呟いた。
僕はちょっと息を吐き出すとの顔を覗き込む。
「誘われてただろ?さっき…。休みの間に会おうってさっ」
「あ、あれは・・・編集長なりのジョークでしょ?」
「ジョーク?嘘だよ。あいつ本気だっただろ?」
「オーリィ・・・」
「。日本とは違って、こっちではセクハラだって、すぐに訴えれば罪に問う事ができるんだよ?」
「そんな訴えるって…他の女のスタッフだって同じようにされてるけど皆は笑ってかわしてるし私だけ訴えるなんて出来ない…」
そう言って困ったように俯いてしまうに、僕はちょっと息を吐き出すと、そっと抱き寄せた。
「…は、そうやって何でも我慢するつもり?皆がしないから私も…って…そんなの自分の意志がないだろ?」
「オーリィ・・・・」
「嫌なら、キッパリそう言うか、それでもやめてくれないなら訴えるべきだと思うけど・・・」
「でも・・・・」
は何だか泣きそうな顔になってきて、さすがに僕も胸が痛んだ。
ちょっと溜息をついて、そのままギュとを抱きしめる。
「オ、オーリィ・・・?」
「ごめん・・・。言い過ぎた」
「・・・・・・・え?」
「さっき言った事も本当だけどさ・・・・。ほんとは・・・・」
「・・・・・・ほんとは・・・・・何?」
「・・・・・・・・・僕の・・・・焼きもちだよ・・・・」
「ぇ・・・・えっ?」
僕が少し体を離しての顔を覗き込むと、は顔が真っ赤になっていた。
「な、何言ってるのよ、オーリィ・・・っ」
「何ってほんとの気持ち。好きな子が他の男に体を触られてるのを見て妬かない男はいないだろ?」
「・・・・・・・・・っ」
僕の言葉には顔を赤くして俯くと、
「も、もう・・・・そういう事、言わないでよ・・・」
と言って僕の腕から逃げ出してしまった。
僕は慌てて、一人スタスタと歩いて行くを追いかけた。
「言わないでって・・・・どうして?」
「ど、どうしてって・・・・。わ、私は前のようにオーリーと付き合っていきたいの。だ、だから・・・・」
「前のようにって・・・・友達としてってこと?」
僕がの腕を掴んで歩いて行くのをとめると、は赤い顔のままで振向いた。
「う、うん・・・・友達っていうか・・・・」
僕は、そう言って俯くを見て胸が痛んだ。
掴んでたの腕をそっと離すと、
「ほんとに・・・・そう思ってるの?」
と聞いてみる。
は何だか困った顔で視線を彷徨わせる。
「ごめん・・・。よく・・・・分らない・・・。だって・・・・最近のオーリー、昔と違うし・・・・」
「昔って・・・・そりゃそうだよ・・・。もうお互いに大人なんだ・・・。いつまでも子供じゃいられないよ」
「そ・・れは・・・・分ってるんだけど・・・・・」
「ほんと?」
「え・・・?」
「ほんとに分ってる?俺の気持ちはに届いてるのか不安だよ・・・。俺だって男だよ・・・?にとって俺はそうじゃないの?」
「オーリィ・・・・」
僕は何だか切なくなっての顔を見つめた。
でもは僕を見てくれようとはしない。
「はぁ・・・・。もういいよ・・・。それより・・・出かけるんだろ?行こうよ」
そう言って僕が手を出すと、は少しだけ顔を上げた。
凄く悲しそうな顔をするもんだから僕は何とか笑顔を見せる。
するとやっとホっとした顔をしてくれた。
「はい、手かして・・・・。今日はデートなんだから手はつなぐからね?」
「う、うん・・・・」
僕がそう言っておどけた口調で、の手を繋ぐと、も恥ずかしそうにしながらも黙って僕の手を握ってくれた。
それには僕もちょっとホっとして笑顔になる。
「さ、どこ行こっか?行きたいとこある?」
「え?私は・・・・」
「今日はどこでも付き合うよ?」
「ほんと?」
「うん。だから行きたいとこ行って?」
「じゃあ・・・・映画・・・映画観たい!」
「え?映画?」
「うん。最近観に行ってなかったし・・・」
「そっか。あ!じゃ、今やってる俺の映画観に行こうよ。"パイレーツ・オブ・カリビアン!」
「え?そ、それは・・・・」
「む・・・・何?やっぱ俺の映画は観るの嫌なの?」
僕が少し頬を脹らませて、そう言うとも困った顔で首を振る。
「そ、そうじゃなくて・・・・だから知ってる人が出てるのは・・・。そ、それよりチャーリーズエンジェルが観たいな?今新しいのやってるでしょ?」
「えぇ〜?!何でそうなるのさ!」
「い、いいじゃない!ね?そうしよう!早く行こう?」
はそう言いながら俺の手を引っ張って、スタスタ歩いて行ってしまう。
それには僕も苦笑するしかなかった。
ほんと・・・・いつになったら君は僕の出てる映画を見てくれるんだろう・・・・
そして、こんな僕の切ない想いを・・・いつになったら君は受け入れてくれるのかな?
この想いが・・・・全てに届く日はいつなんだろう・・・?
僕はいつまでも待っていられるほど大人ではないんだけど・・・・
そんな事を思いながらの後姿を見つめていた。
まあ、でも・・・・今日のこの時間、と一緒にいれるんだ。
楽しまないとね?邪魔者(サマンサ)もいないことだし。
僕は気持ちを切り換えて、の手をギュっと握ると、が少しだけ恥ずかしそうに僕を見上げた。
頬を赤くしている、そのの顔が、また僕の胸をときめかせる。
ほんと・・・・に僕の気持ちが届く日には・・・・どのくらいの想いが僕の中で溢れてしまってるんだろうか・・・
溢れ出てしまう前に・・・・早く受け取って欲しいよ・・・。
僕は心の中で苦笑しながら、恥ずかしそうに僕を見上げているの額に、思わずチュっとキスをしてしまった。
それでまたに怒られたんだけど・・・・少しだけ、いつもより優しかったのは気のせいじゃないといいな。
僕はそう思いながら、またの手をギュっと強く握りしめた―
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片思いって何だか好きです(笑)
恋人同士とは、また違うトキメキがありますよね〜(笑)
でも、このオーリーには辛いんでしょうけど^^;
近すぎて戸惑う女心も分ってやりなさいって感じですかね(笑)
この片思い、まだまだ続くのかしら・・・?ハテ?
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