切ないほど愛おしい....
夏休みだからか、映画館は凄い混みようだった。
僕は人込みの中からを連れて何とか抜け出すと思い切り溜息をついて、
腕の中でしっかり抱きとめていたの顔を覗き込んでみる。
「はぁ〜凄い人だね…?、大丈夫?」
「う、うん…。ありがとう」
はそう言って、すぐに腕から逃げ出そうとする。
僕は、寂しくなって逃げようとするを、ぎゅぅっと抱きしめた。
「オ、オーリー?!」
「何で、そんな離れたがるの?」
「だ、だって…人の目だってあるし…もしオーリーだってバレたら皆に勘違いされるわ…?」
「そんな事、気にしないって言ったろ?俺は別に…」
「わ、私が困るのっ」
「え?」
「マスコミとかに…追いかけられるのは困るもの…」
はそう言って僕の腕からするっと抜け出すとスタスタ歩いて行ってしまう。
僕は慌てて、それを追い掛けた。
「待ってよ…っ。どこ行くの?」
「どこって…帰るのよ?」
「えぇ?!もう?!だって今日はデートだって言ったろ?」
「だ、だから映画見たじゃない…」
「映画だけじゃん!これから、また、どっか行こうよ」
「どこに?私、人込みで疲れちゃったし…もう夕方だよ?」
は僕を見上げながら、そう呟いた。
僕は、むぅ…っと頬が脹れてしまった。
「デートって言ったら、これからはディナーだろ?一緒に食事していこう?」
「え?食事…?」
「うん。、何が食べたい?何でもいいよ?」
僕はの頭を撫でながら、そう聞くと、は困った顔で見上げてくる。
「特に…これと言っては…」
「えぇ?もぅ…っ。ってば、好きな食べ物もないの?」
「そ、それくらいはあるわよ…。でも普段から食事は家でしてるし…外食なんて泊りがけで取材に行った時くらいなんだもん」
「そうなの?もう〜母さんが言ってた通りだ…」
「え?ソニアおばさんが?」
「うん。は普段から仕事以外では、あまり外に出ないで家にいるってさ。だから今日も俺にデートでも誘えって言ってくれてさ」
「もぅ…。おばさんったら余計なこと…」
「え?何で余計なんだよ」
「私は…今のままでいいのっ」
「えぇ?良くないよ、若いのにさ!デートくらいしないと。って言っても相手は俺限定にして欲しいんだけどさ?」
僕がそう言っての顔を覗き込むと、は顔を赤くして視線を反らした。
「ま、また、そういうこと言う…」
「だって他の男となんてデートして欲しくないし?」
「し、しないわよ…。私は…好きな人もいないし…」
は、そう言うとマーケットの方に歩き出した。
「?どこ行くの?」
「え?あ…夕飯の買い物…」
「えぇ?ほんとに帰るのぉ?」
僕は口を尖らせて、そう言うと、は苦笑しながら振り返った。
「そう言ったでしょ?もう疲れちゃったもの…。人込みの中にいると酔っちゃうわ…」
そう言ってマーケットの中へ入るとカートを押して食材を見ていく。
僕はそれについて歩き出すと、いい事を思いついた。
「あ、そうだ!じゃぁさ、家で食べるのでいいから俺にの手料理食べさせて欲しいな?」
「えっ?!」
「それならいいだろ?俺、の手料理食べたのって凄い前だしさ?ほら、俺の誕生日の時に日本食を作ってくれただろ?
あれ凄く美味しかったんだ。だから、また食べたいなって思ってね? ――ダメ・・・?」
僕がそう言っての顔を覗き込むと、は少し考えてる風だった。
「前に…作ったのって…。ああ…肉じゃが…」
「そうそう!そんな名前だったな?がさ、初めてお母さんに教えてもらったとか言って…」
「そうね!確か、そうだった…。忙しいお母さんから初めて時間が出来た時に教えて貰ったんだっけ…
でも上手く出来なくて、ちょっとジャガイモが固かった気がするけど…オーリーったら、それでも美味しいって言って食べてくれたんだったわ?」
「そぉ?ほんとに美味しかったんだよ?」
僕がそう言うと、は恥ずかしそうに微笑んでくれて、ちょっと胸が熱くなった。
その笑顔で僕は、またパワー補給出来るんだ。
「それ…久し振りに食べたいんだけど…」
僕が、もう一度、頼んでみると、はちょっと息をついて笑顔を見せた。
「もう…仕方ないなぁ…。いいよ?」
「ほんと?!やった!」
僕が喜んでに抱きつくと、は驚いた顔をして慌てて僕から離れてしまう。
「じゃ、じゃあ材料を買わないと…」
と顔を赤くしてカートを押して歩き出した。
それに僕も隣に並んでついて行く。
「えっと…ジャガイモと…ニンジン…。あ、あと玉ねぎ…」
は順番に野菜をカートに入れていく。
そして僕の方を見ると、
「あとは?オーリー、他に何か食べたいものとかある?肉じゃがだけじゃ足りないし…」
と聞いてきた。
僕は、それには嬉しくなり思わず顔が綻んだ。
「いいの?じゃぁねぇ〜。ミソスープ!これも美味しかったしさ。あとねぇ〜炊き込み御飯がいいな」
「炊き込み御飯?」
「うん。ほら、前にのお母さんが作ったのを持って来てくれた事があってさ?美味しかったんだよね」
「ああ、そう言えば…ソニアおばさんも、うちのお母さんにレシピ聞いてたっけ…。オーリーが凄く気に入ったからって…」
「ああ、でもダメ。母さんが作ったら、具が寄っちゃって白いとこと茶色いとこが分かれちゃってハーフ&ハーフになっちゃうんだ」
「えぇ?そうなの?」
僕の話に、はクスクス笑い出した。
「わ、分かったわ?炊き込み御飯ね?じゃあ、中身は何がいい?チキンとゴボウ?それともキノコ類にする?」
「ん〜とね。じゃあ、チキンがいいな」
「OK。じゃ、お肉売り場に行きましょ?」
は笑顔で、そう言って歩き出した。
僕は、その後姿を見ながら、何だか新婚夫婦みたいだなぁと思って顔がニヤケてしまう。
思わず帽子を深くかぶってニヤケた顔を隠すと、そのままの後を追い掛けた。
今夜は、二人きりの夕食、しかもの手料理を食べられる。
僕はこの上なく幸せだった。
「はい。どうぞ」
は家の鍵を開けてくれた。
僕は買い物袋を両手に抱えて中へ入るとキッチンへ向かった。
「ここに置けばいい?」
「うん。ありがとう。重かったでしょ?私にも持たせてくれればいいのに…」
「ダメだよ。女の子に重たい物は持たせられないよ。特には、そんな細い腕なんだからさ。
ま、サマンサみたいなアイアンウーマンには全部持たせたっていいくらいだけどね?
いつも俺に持たせるんだよなぁ。あんな逞しい腕してるクセに」
「そ、そんな事言って…それに私だって普段は自分で運んでるんだから…」
「そんな…そういう時は俺を呼んでよね?」
僕が笑いながら買ってきた材料をテーブルの上に出しながら言うと、が苦笑した。
「何言ってるのよ…。オーリーは、いつもいるわけじゃないでしょ?」
と言って冷蔵庫の中に僕の出した野菜を入れていく。
僕は、それを聞いて手が止まった。
そうなんだ…。僕がの傍にいたいと願っても…僕には仕事があって…。
いつも傍にいて彼女の手助けを出来るとは限らない。
それが辛かったりするんだ…
僕がボーっと、そんな事を考えていると、が野菜を仕舞い終えて立ち上がった。
「オーリー。一度家に戻ってたら?」
「えっ?何で?」
「何でって…。ご飯できるまで暇でしょ?それにソニアおばさんに今夜は、ここで食べるって言ってくれないと…
おばさん、オーリーの分も作っちゃうわよ?」
「それは言いに行って来るけどさ。ご飯出きるまで俺、ここにいたい」
「でも…」
「全然、暇じゃないよ?の傍にいれるんだし。何なら俺も手伝うよ?」
僕が笑顔で、そう言っての隣に行くと、彼女はクスクス笑いながら見上げてきた。
「オーリー料理出来ないじゃない。いいわよ、危ないから」
「むぅ…。俺にだって料理くらい…って出来ないけどさ…。野菜切るくらいなら出来るよ…?」
「でも手切っちゃったらどうするのよ」
「そんなドジじゃないっ。ちょっと待ってて!今、母さんに夕飯いらないって言ってくるから。まだ作っちゃダメだよ?」
僕はそう言うと苦笑しているをキッチンへ残し、外に飛び出した。
すぐ隣の自分の家のドアをバーンと開け放ち、ドタドタとリビングへ顔を出した…瞬間…。
ゴイ―ンッ!
「ったぁ!!!」
何かが僕の額を直撃し、その痛みに目の前に星がちらついた。
(うぅ…だ、誰だ?!)
僕は、あまりの痛みに涙目になりつつ額を抑えて顔を上げた。
すると、そこには憎たらしい顔で立っている我が家のアイアンウーマン・サマンサの姿があった。
「ぬ…サマンサ!いきなり物をぶつけるなんて危ないだろぅ?!」
「うるさい!あんたドアを蹴破る勢いで入って来ておいて何が危ないのよ!ドアが壊れたらどうするの?!」
「蹴破ってない!思い切り開け放っただけだよっ」
「思い切りじゃなくて普通に開けてよ、普通に!」
サマンサは、そう怒鳴ると、プイっと顔を背けてソファーに腰をかけ、さっきまで読んでいたのだろう、本を手にしている。
僕はジンジンと痛む額を擦りながら、一体何が僕のキュートな額にあったのかと足元を見てみて、そしてギョっと目を見開いた。
そこにはエアコンのリモコンが転がっている。
「サマンサ!リモコン投げつけるなんて危ないだろ?!それに壊れたらどうするんだよ!」
「あ〜ら。あんたの石頭じゃ屁でもないでしょ?それにリモコンが壊れたって代えてもらえばいいしね」
「く…っ。ほんとに凶暴なんだから…。嫁の貰い手がなくなるぞ?!」
「うるさいわね!これでもモテるのよ!」
「へぇ〜相手は動物園のゴリラかな?」
僕がケラケラ笑いながら、そう言うと今度は顔面にクッションが飛んできた。
ボフっという音と共に僕は頭がクラリとしたが、さっきのリモコンよりは痛くない。
何とか持ちこたえると、そのクッションをサマンサへ投げ返そうとした、その時、
ゴンっ!
「ぃだっ」
「うるさいわねぇ…」
「か、母さん?!」
僕の後頭部をグーで殴ったのは、母ソニアだった。
「何で帰って来た早々にケンカしてるのよ…」
母さんは呆れ顔で僕とサマンサを交互に見て、そう言うと僕の方に視線を戻し、
「それより…オーランド。あなた何してるの?」
と怖い顔で言ってきた。
「へ?何って・…」
「今日はちゃんとデートでしょう?まだ夕方の5時過ぎじゃないの…。ディナーくらい連れていかなきゃダメよ?」
「あ、ああ…その事…」
「その事って、あんたねぇ…。ちゃんとデート出来るなんて、あまりないんだから出来た時くらいビシっと決めないと。
惚れてもらえないわよ?ちゃんがブルーム家に嫁いでくれるにはオーランドの腕にかかってるんだから…分かってるの?」
僕は母さんの言葉に一瞬、絶句した。
母さんってば…を、この家の…いや僕のお嫁さんにしたくて、色々と協力してくれてたのか?!
そ、それは素晴らしい事だけど(!)
いきなり、そんな事を言われたら驚くってもんだ。
「オーランド?まさか…あなたちゃんに無理やり迫って怒らせたとかじゃないでしょうね?」
僕が黙ったままだったからか、母さんは僕がを怒らせたのかと勘ぐっているようだ。
それには僕も慌てて首を振った。
「ち、違うよ!…ディナーはもちろん誘ったんだ。でもが人込みで疲れたって言うから食事は家でする事になって…」
「え?どういう事?」
「だから…が俺に手料理を作ってくれるって言うからさ…」
僕はちょっと頬を染めながら、そう言うと、母さんの顔が一気に笑顔になった。
「あら、そう!なら、早くそう言えばいいのに。変に心配しちゃったじゃないの。
でも、そう…ちゃんがオーランドに料理を…新婚夫婦みたいね?」
母さんが、そう言って僕を肘でつついてくるから何だか妙に照れくさくなって頭をかいた。
だが、ソファーに座りながら全てを聞いていたサマンサが呆れた顔で、
「ちょっと母さん…。をオーランドの嫁にするつもり?可愛そうよっ」
と失礼な事を言い出して僕はムっとした。
「サマンサは黙ってろよっ。俺はと結婚してみせる!」
「はあ?相手の迷惑を考えなさいよね?そりゃが妹になってくれるのは嬉しいけどオーランドのお嫁さんじゃ気の毒だわ…?」
「ムム…っ。何が気の毒なんだよ!俺はを幸せにする自信があるんだっ」
僕が胸を張って、そう言うと、母さんが笑顔で拍手をしてくれた。
「まあ、頼もしいわ?オーランド。その調子でちゃんを一気に口説いてきなさい。ほら、早く戻って手伝ってあげたら?」
「そ、そうしようかな?じゃ、そういう事だから俺の夕飯はいらないからね?」
「分かってるわよっ。ほら早く行きなさい」
母さんに背中を押されて僕は顔がニヤケながらも、そのまま玄関へと向かった。
そこへサマンサが追いかけてくる。
「私も行くわ」
「はあ?」
「私もの手料理、食べたいもの」
「い、嫌だよ!邪魔にも程がある!俺はと二人きりで食事したいんだよ!」
「ダメよ?二人きりなんて危なすぎるわ?あんたは極度のスキンシップ魔なんだから」
「な、何言ってんだよ!ちょっと母さん、何とか言ってよ」
僕は堪らず、助けを求めると、母さんはニコニコしながら、
「あら、でもいいんじゃない?サマンサだってオーランドとの仲の良さを見れば納得するかもしれないし。
一緒に仲良く食事してらっしゃいよ」
「そ、そんな…っ!」
「ほぅら、じゃ行くわよ?オーランド」
「げ…っ。は、離せよ…っ。俺は一人で…っ」
僕はそう言って暴れるもサマンサは僕の首根っこを掴んでズルズルと引っ張っていく。
(な、何で、こうなるんだぁ〜ッ!か、神さま…これは何かの罰ですか…?!)
「何、ブツブツ言ってるのよ?往生際の悪い!」
「NO〜〜〜〜〜っ!!!」
僕の空しい叫び声だけが夕方の住宅街に響き渡った・…。
「わぁ、いい匂い!」
サマンサは鍋の中を覗いて鼻をひくひく動かした。
私はちょっと笑いながらサラダを作るのに、材料を冷蔵庫から出して揃えていく。
「あら。このシュリンプは何に使うの?」
「あ…これはサラダに…オーリー、シュリンプ好きだし…」
私がそう言ってシュリンプを茹でようと小さな鍋を出してると、サマンサは変な顔をして私を見ている。
「どうしたの?」
「いえ…オーランドの好みなんて気にしなくていいのに。あいつ、が作ってくれるだけで喜んでるんだから」
「でも…。せっかく作るんだし、相手の好きなものを作ってあげたいから…」
私がちょっと笑いながら、そう答えるとサマンサが突然、抱きついてきた。
「キャ…っ。サマンサ?」
「もぉーーっ。可愛い…ってば!」
「…へ?」
「私が男だったら、絶対にを、お嫁さんにするわ?!」
「あ、あの…」
私は、その言葉にも驚いたが、やはりオーリーと姉弟だわ…と心の底から、そう思った…。
そこに…
「サマンサがをお嫁に貰うのは無理だろ?そこは俺に任せてよ」
ふいに後ろから声が聞こえて、そこでサマンサが私から離れると、
「うるさいわね、オーランド!あんたには、もったいないわっ」
とキッチンの入り口に寄りかかりながら立っているオーランドを、びしっと指さした。
「もったいないって何だよっ。それに人の目盗んでに抱きつくとはいい度胸だなぁ〜?」
「はぁ?私だって可愛いを抱きしめたくなる時があるのよ?」
「ぬっ。人にはスキンシップ魔だとか言っておいて自分だってそうじゃないか。やっぱ、これはブルーム家の血筋なんだね」
オーランドは、そう言いながらキッチンへ入ってくると私の前まで来て、ぐいっと抱き寄せた。
「オ、オーリー?」
「う〜ん。は小さくて抱き心地がいいなぁ」
「ちょっとオーランド!離しなさいよっ。、顔が真っ赤でしょ?!」
サマンサがそう言いながら、オーランドの足を蹴っている。
それにはオーランドも顔を顰めて渋々私を離すと、
「ほんと凶暴だろ?うちの姉…。こんなんでもにとっても未来のお姉さまになるんだからさ。仲良くしてやってね?」
と言って私の頬にチュっとキスをして微笑んだ。
「オーランド!勝手にキスするな!そ・れ・に!"こんなんでも"ってどういう意味よ?しかも凶暴って失礼ねっ」
「はいはい。ほんとサマンサがいると、うるさくて敵わないよ…」
オーランドは、そう言って真っ赤なまま頬を押さえてる私を見ると、
「じゃ、俺はリビングで大人しく待ってるからね?ハニー」
と投げキッスをしてキッチンから出て行ってしまった。
「何がハニーよ!ったく、うちの愚弟がごめんね?」
サマンサは私の頭を撫でながら、そう言ってくれたが私は軽く首を振った。
「いいです…。オーリーには何言っても無駄だし…」
「そ、そうなんだけど…。で、でもを想う気持ちだけは本物だから。信じてやってね?」
「え?」
サマンサの言葉に私は驚いて鍋をかき混ぜる手を止めた。
するとサマンサは照れくさそうな顔で、レタスを一枚一枚、ボールへ入れてくれている。
ああ…そっか…。
サマンサは、いつもオーリーにキツイ事をポンポン言ってるけど…本当は心配してるんだ…。
あんな事を言っていても愛してるのよね…
私は何だか胸が温かくなった。
ほんと素敵な家族だなぁ…
ブルーム家の隣に来れて良かった…。
私は、そんな事を思いながら、シュリンプを笊に開け冷たい水の中に漬け込んだ。
「んまいっ!」
僕は肉じゃがを一口食べて顔が綻んだ。
そう、これだ。この味!
が昔、僕に作ってくれた、あの味っ。
ちっとも変わってない。
ただ変わったといえば、も料理が上手くなったからジャガイモが、程よい柔らかさになっていた。
「ほんと?なら良かった」
も、ホっとした顔で自分の分を食べ始める。
その向かいではサマンサが、「美味しい〜っ。母さんのと全然違うわ?」 と絶賛しながら炊き込み御飯を食べている。
「う〜わ、サマンサ、母さんにチクるぞ?」
「何よ、あんただって、いつも泣く泣く食べてるクセに!」
「あれは美味しさのあまり嬉し泣きだよ?」
澄ました顔で、そう言えばサマンサも呆れた顔で、「よく言うわ?」と苦笑した。
僕もちょっと笑いながら炊き込み御飯を頬張ると、「ん〜!美味しいっ!ボォ〜ノ!」と叫びつつ、隣のに微笑みかけた。
は照れくさそうに微笑むと、僕にサラダを取り分けてくれる。
「あ、ありがとう。あ、これ俺の好きなシュリンプのサラダだ!覚えててくれたの?」
「え?う、うん…」
「嬉しいよ」
僕はそう言って、の頬に素早くキスをすると、が怖い顔で僕を見た。
「も、もぅ…。オーリーはすぐそうやって…」
「ごめん、ごめん!俺、嬉しいと体で表現しちゃうんだ」
「あ〜あ。オーランドは言葉で気持ちを伝えられない、おバカさんだものねぇ〜。ほんとゴリラみたい!オホホホ!」
「うるっさいな、サマンサは!自分だって同じだろ?」
「失礼ね!私はちゃんと言葉で伝えられるわよ!ほんと、美味しいわ?」
「あ、ありがとう」
は嬉しそうに微笑むと、小さな口で一生懸命に、ご飯を食べ始める。
僕はその姿を見て、小動物みたいで可愛いなぁ…と思わず見惚れてしまった。
って猫っぽかったり、こうして食事する時はリスみたいだったりで、ほんと可愛い。
小柄だし細いし思わず守ってあげたくなってしまう。
気は強いクセに、ほんとは弱くて泣き虫なんだよなぁ…
そこが維持らしくて抱きしめたくなるんだ。
知らず僕はじぃ〜っとを見ていたらしい。
「あ、あの…オーリィ…?」
「ん?」
僕は笑顔での顔を覗き込むと、が上目遣いで僕を見上げてくる。
「そんなじっと見られると…食べにくい…」
「え?あ…ごめんね?が可愛くて、つい…」
「な、何言ってるのよ…」
僕の言葉に頬を少し赤くして、は顔を背けてしまった。
その顔すら可愛くて見惚れてしまうが、あまりジロジロ見てたら、がご飯食べられないと思い、黙って食べるのに集中する事にした。
向かいでサマンサの目が据わっているのは、まあ軽く無視しよう…。
暫くするとサマンサとは楽しそうに女性特有のおしゃべりを始めた。
僕はご飯を食べながら、その光景を見てると、すでにと結婚しているような錯覚を起こしてしまう。
あぁ〜将来、ほんとに、こうなれば幸せなのになぁ…(サマンサは邪魔だけど)
そんな事を思いつつ、あまりに二人の話が盛り上がっている為、僕は仲間外れのような気がして寂しくなったきたので、
思い切りミソスープを飲み干すと、大きな声で、「おかわりぃ!」 と叫んで、サマンサに、ジロリと睨まれたのは言うまでもない…。
「うぅ〜ん…食べた、食べたっ。ご馳走様!」
僕はソファーに座りながらの淹れてくれた紅茶を飲んで、そう言った。
「ううん。オーリーも洗い物手伝ってくれて、ありがとう。サマンサもありがとう」
「あら、いいのよ?これくらい!すっかり、ご馳走になっちゃったんだし」
「ほんとだよ、。どんどん使ってやって。サマンサを」
「はあ?何ですって?」
「うぇ、怖い怖い…」
サマンサの一睨みで僕はサっと視線を反らすと、紅茶を飲みながら時計を見た。
「何だ…。まだ9時かぁ…。あ、じゃあこれから一緒にDVD見ようよ?」
僕はそう言っての方を見た。
「え?DVD?」
「うん。まだ時間も早いしいいだろ?サマンサは帰っていいけどね?僕らのデートは、まだ終ってないんだからさ」
「私を帰して、に何かするつもりじゃないでしょうね?」
サマンサが怖い顔で僕を見てきた。
それには僕も慌てて首を振る。
「そ、そんなわけないだろ?俺はと二人でデートを終えたいだけだよ!」
「ふぅん…ならいいわ。帰ってあげる。でも?もし、うちの愚弟が何かしようとしたら大きな声を出すのよ?飛んで来て上げるから」
「は、はい…」
「ちょっとサマンサ!何だよ、それ!何もしないって言ってるだろ?それにまで、"はい"なんて…っ」
「あ、ご、ごめん…」
は困ったような顔で僕を見たが、その顔も可愛いので、僕はすぐに顔が緩んでしまう。もうゆるゆるって感じだ。
そんな僕を呆れた顔で見ていたサマンサは紅茶を飲み干すと、ソファーから立ち上がった。
「さてと。じゃあ、私は帰るわ?うちの愚弟を宜しくね?」
「は、はぁ…」
「おい、愚弟って一言余計だろ?」
「うるさいわねぇ…。せっかくと二人きりにしてあげようって言ってるんじゃないの。感謝しなさい?」
サマンサは、そう言うと、「じゃね、ご馳走様」 と言って玄関へと歩いて行った。
それを見送りにも一緒にリビングを出て行く。
僕はちょっと肩を竦めて溜息をついた。
(何が感謝しろだよ…。元々、二人きりの夕飯に、無理やりくっついてきたクセにさ…)
僕は、そう思いながら立ち上がるとテレビの方に歩いて行った。
が何か面白そうなDVDを持ってないかな?と思ったからだ。
「え〜っと確かDVD類は、この辺に…」
テレビの横にあるDVDケースの中を一つ一つ覗いていく。
「何がいいかなぁ〜。やっぱと見るんだからラブロマンスとかかな?」
そんな事を呟きながらニヤケていると、一番下のケースだけDVDが詰まっているのか開きにくくなっている。
「あれ…何で、ここだけキツイんだ?」
僕は少しだけ力を入れて、ぐぐっと引っ張ってみる。
するとパカーンっと箱が抜けて、中に入ってたDVDが散らばってしまった。
「うわ、ヤバ…。片付けないと…」
僕は慌ててDVDをかき集めると箱の中へと戻していった。
だが、その箱の底に、まだDVDが入っていたので、僕はちゃんと並べて仕舞おうと、その数枚のDVDを取り出してみた。
そして―
「え?!こ、これ…」
僕は自分の手の中にあるDVDを信じられない気持ちで見つめていた。
そこへが戻って来る。
「オーリー、デザートあるんだけど…って何して…あ、ああっ!!」
は僕が持っているDVDを見て慌てた様子で走って来ると、そのDVDをバっと取り上げてしまう。
「…それ…」
僕がそう言ってを見上げると、は真っ赤な顔のまま、
「ち、違うの…。これは…。そ、そうオーリーがくれた奴なの。まだ見てないけど…」
と言って手に持ってるDVDを、またケースに仕舞おうとガタガタ音を立てている。
だが僕は、その手を掴むと、
「違うだろ?俺があげたDVDは…ちゃんと関係者用のシールがついている。それは…市販のDVDじゃないか」
と言っての顔を覗き込んだ。
するとは一気に顔を赤くして俯いてしまった。
「あ、あの…」
「もしかして…、俺の映画のDVD…買って見てくれてたの?」
僕が、そう問い掛けると、はドキっとしたように僕を見上げた。
その頬を僕は両手で包むと、は視線を伏せてしまうが、僕は構わず言葉を続ける。
「…いつも見たくないとか…見てないとか言ってたけど…ほんとは見てくれてたんだろ…?違う?」
「あ、あの…それは…」
「そうなんだろ?」
僕がの言葉を遮るように問い掛けると、は赤い顔のまま僕を見つめて、小さく頷いてくれた。
「恥ずかしかったんだけど・…オーリーが頑張ってる姿を見たくなって…買ってみたの…。
でも見たって言うのは本当に恥ずかしいから…ごめんね?嘘ついてて…」
は恥ずかしそうに視線を反らしながらも、そう言ってくれて僕は何だか熱いものが胸の奥から込みあげて来るのを感じて、
を思い切り抱きしめてしまった。
「オ、オーリィ…っ?」
「すっごく嬉しい…!」
「え…?」
「…本当に大好きだよ?」
僕は、そう言っての額にチュっとキスをして、の顔を見つめた。
は真っ赤な顔のまま驚いた顔をしているが途端に僕の腕の中で暴れ出す。
「は、離してよ…っ。オーリー、すぐキスするんだから…っ!」
「だって〜が愛しくて堪らないんだっ」
「そ、そんな事言われても困るの…っ。離して!」
あまりにが必死に、それも真っ赤な顔のまま言うから僕も仕方なくを腕から解放した。
は思い切り溜息をつくと、ジロリと僕を睨んで、
「も、もう急に抱きつかないでね?!今度、抱きついたら大声出してサマンサを呼ぶんだから!」
と怒っている。
でも僕にはそれが子猫が毛を逆立てて、ふぅーっと言っている姿にしか映らず、可愛いなぁ〜とデレデレしながら見ていた。
「も、もう聞いてるの?」
「うんうん。聞いてるよ?もう抱きつかなきゃいいんだろ?それより早くDVD見よう?ささ、俺の映画、どれを見る?」
「え?い、一緒に見るには本当に嫌!」
「えぇぇ〜?何で何で?一緒に見ようよ!あ、やっぱ旅の仲間、見よう。ね?」
「嫌ったら嫌ぁ〜〜っ」
僕が勝手にDVDをセットすると、はリビングから出て行ってしまった。
僕は慌てて追いかけると、はキッチンでデザートを出している。
その後姿を見ながら僕は、そぉっと忍び寄ると、の背中からガバっと抱きついた。
(…ん?そう言えば、もう抱きつかないって約束したような…。ま、いっか…)
そう思った瞬間、
がこれ以上ないって声で叫んだ。
「きゃああぁぁぁぁぁぁあーっ」
その悲鳴は夜の住宅街に響き渡り、速攻でサマンサが出動してきたのは言うまでもない…。
次の日の朝、僕の頬や、頭に出来たタンコブが大きく腫れていたのを見ても、どのくらいの虐待を受けたかは…
聞かないで、そっとしおいて欲しい…。
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ストーカーオーランド(笑)第4弾ですvv
へこたれるな、オーランドってなもんですね(笑)
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