恋の病....
「うぅ〜ん!今日もいい朝だなぁー!」
僕はベッドから飛び出して思い切り伸びをした。
そしてテラスへと出てみる。
は、もう起きてるかな?
それとも休みだから寝ボスケさんかな?
僕はテラスの柵に寄りかかるようにして身を乗り出し、の部屋の様子を伺ってみた。
こんな事をするからサマンサから、"ストーカー"だの"痴漢、覗き魔"だの言われるんだけどさ?
だって仕方ないよ。
誰だって好きな人が隣に…それも自分の部屋の目の前にいれば同じ事をするんじゃないのかな?
まぁ、それが全く面識のない相手だったら危ないけど…
幸い、僕とは昔からの友達で幼なじみのようなものだから、多少は多めに見てもらったりしてるんだけど…
たまに大きな雷は落ちるかな…(サマンサからのが多いけど)
でも…この前、とデートをした夜…
が僕の映画を見ててくれたって解って、嬉しくて嬉しくて僕はサマンサからの虐待にだって耐えられたんだ。
もしかして…も少しは僕のこと、男として見ててくれてるのかな…好きでいてくれてるのかなって思ったから…
何だかんだ言ったっても僕のこと好きなんじゃないか…とまで思えてきた!(凄い思い込み)
あれから毎日、色々と理由をつけては家に行ったりしてるけど…前ほど邪険にはされなくなった気がするし…
まあ、ちょっと抱きついたりしたら、すぐ真っ赤になって怒るんだけど、あれは恥ずかしいから怒るだけのようにもとれる…。
そうだよ!きっとは恥ずかしいだけなんだ。
何て言ったってはシャイな人が多いと聞く大和撫子さんだからね。
こっちのノリに慣れてないだけなんだ。
まあ、こっちの人が皆、僕みたいなキャラかって言うと苦情が来そうだからやめておこう…(特にショーンとかさ)
「そろそろ最後の一押しかなぁ…」
なんて呟いて、また視線をの部屋に戻した時、風でカーテンが揺れて部屋の中が透けて見えてることに気付いた。
ああ、カーテンは開いてる…って事は起きてるのかな?
じゃあ一緒に少し遅いブレックファーストでもって誘いに言っちゃおうかな〜。
呑気に、そんな事を考えていると、レースのカーテンの向こうに人の影が見えてドキっとした。
そこはの部屋なんだし、彼女の両親は今、海外に仕事に行ってていないんだから、その影は紛れもなくなんだけど・・・
僕は、その影を見て声をかけようとしたが、固まってしまった。
何でかっていうと…
は着ていたバスローブを脱いで着替えを始めたから…
ハッキリ見えるわけじゃないけど、が下着一枚の姿だってのは解る。
はクローゼットを開けてこっちに背中を向けているわけだけど…。
(ヤバイ…こ、これは…見てはいけないって。俺!)
そう思いつつ視線が外せなくて、僕は、その場で固まっていた。
見付かったら、それこそ嫌われてしまうかも…という考えが頭の隅を掠めるけど、僕だって健康な成人男性なんだ。
目の前に脱いでる女の子…しかも、それが、ずっとずっと想い続けてきた子なら尚更、見たいって思うだろ?(同意を求める)
はテラスにいる僕には全く気付いてない様子で服を選んでるようだ。
そして何を着るか決まったのか、一着手に取って体に当てている。
その動いた拍子に体が横を向いて、僕はドキっとして思わず視線が泳いだ。
見たい気持ちも大いにあるクセに、心のどこかで、それはに対して失礼だという気持ちもあるからだろう。
その時、が、ふいに顔を上げ、窓の方を見たもんだから僕は咄嗟にテラスにしゃがみ込んで隠れてしまった。
はレースのカーテンだけじゃ不安だったのか窓に近づいてきた気配がする。
そしてシャっと小気味いい音が聞こえてきてカーテンを閉めたと解り、僕はこそっと顔を出してみた。
窓にはしっかりカーテンが引かれていて、もう部屋の中は見えなくなっている。
僕はちょっと息を吐き出すと、その場に座り込んだ。
「はぁ…。もったいなかったような…ホっとしたような…」
ほんとに、そんな気持ちだった。
でも…が出してた服、外出用っぽかった気がしたけど…どこかに出かけるのかな…。
って言ってもは出かける時も大抵はジーンズに上はカジュアルなトップスを合わせたりしてるけど、
さっき手に取ってたのは確かによそ行き用のワンピースだった気がする。
友達か誰かと一緒なんだろうか…にしたって、あんな女の子っぽい格好…デートに行くみたいじゃないか?
この前の俺とのデートだって可愛いワンピースを…
そんな事を考えてたら、どんどん不安になってきた。
は、この前、僕が他の男とデートして欲しくないと言った時だって、しないって言ってくれて、
それに好きな人もいないって言ってた…。
だけど…何だか胸騒ぎがする。
こういう嫌な予感は大抵当たると相場は決まっているものだ。
「確めよう…」
僕は、そう決めて、すぐに部屋を飛び出し、下へと下りて行った。
ダダダ…っと階段を下りて目の前の玄関に向かおうとした途端、リビングのドアが開き、サマンサが出てきたのが見え一瞬怯んだ。
だが俺は階段を駆け下りた勢いが止まらず、そのまま目を丸くしているサマンサと衝突してしまった。
ドシーンっ…!ゴツっっと派手な音がして僕とサマンサは、その場に尻餅をつく羽目になったのと同時に目の前に星がちらつきクラっとする。
「ったぁ…」
「ぃつつ…」
お互いに暫くぶつかったオデコを抑え、うめいていたが、すぐに回復したのはサマンサだった。(さすがアイアンウーマンだ)
「こ、このバカオーランド!!!朝っぱらから何、家の中で全力疾走してんのよ!!!危ないじゃないの!!」
「だ、だって仕方ないだろ?!緊急事態なんだっっ!」
「はあ?何がよ?!あんたの頭の方が緊急事態よ!救急車呼んであげましょうか?それも精神専門の!!」
「何だとぉ?!俺はまともだ!」
「どこがよっ。充分イカレてるわ?!」
「何お〜〜?!」
「うるっさい!!」
「「う…っ」」
そこに雷が落ちてきて僕とサマンサは慌てて口を抑えた。
目の前には怖い顔をした母さんが仁王立ちしていて僕は恐怖を感じたが、今はとにかくの事が気にかかった。
「ちょっと二人とも…。朝からギャ-ギャ-とケンカしないでちょうだい!動物園かと思ったわ?」
「ちょ、母さん、説教なら後で聞くからさ、今はのとこに行かせて!」
「え?のとこ?」
僕があまりに必死に言うものだから、母さんも驚いている。
「あ〜!あんた、に会いたいだけで走ってたのね?!」
「違うよ!が他の男とデートするかもしれないんだ!!」
「何ですって?どういう事なの?オーランド」
母さんもビックリして俺に聞いてきた。
俺は急いで事情を説明すると、母さんも難しい顔になって、
「それはマズイわね…。すぐにちゃんに聞いてきなさい」
と言ってくれた。
だが、それにはサマンサが黙っていない。
「ちょ、ちょっと待ってよ、母さん!マズイのはオーランドの行動でしょ?!覗いてたのよ?の部屋を!」
「ひ、人聞き悪いこと言うなよ!覗いてたわけじゃなくてテラスにいたら、たまたま見えただけだ!それに俺はの裸はみ、見てないよ!」
ちょっと顔が赤くなりつつ、僕は必死に訴えた。
だってサマンサが、もしに、それをチクったりしたら大変だからだ。
「ほんとに見てないの〜?普通、見るでしょ?男なんて所詮はスケベで、しょーもない生き物なんだから!
特にあんたに理性ってものがあるのか疑わしいわ?」
「何だとぉ?俺にだって理性はあるさ!好きな子の裸を盗み見しようってほどスケベじゃないぞ!
そ、そりゃ見たい気持ちもあったけど…さ…」
そこは少し声が小さくなる。
「ほぅら、やっぱりスケベ心はあるんじゃないの!」
「ち、ちが…でも見ていない!それより俺はが今日、どこに行くのか知りたいんだよ!もう行くよ?!」
僕は、そう怒鳴ると母さんも頷いて、
「早く聞いてきなさい?答えによっちゃ大変な一日になるわよ?オーランドは」
「へ?」
玄関を出て行き掛けていたが、母さんの言葉に引っかかり、僕は思わず振向いた。
「何だって?」
「いいから早く聞いてきなさい!」
僕の問いには答えず、母さんは手をしっしとやって僕を家から追い出した。
僕はちょっと首を傾げながらも、の元へと急ぐ。
ピンポーン…ピンポーン…ピンポーン…
連続でチャイムを鳴らし、ソワソワしながらドアが開くのを待った。
すると少ししてカチャっと鍵が開く音が聞こえ、その瞬間に僕はドアを開けて中へと入った。
「…!」
「キャ…っ!」
僕が入った瞬間、目の前にいたは驚いた顔で俺を見た。
「な、何よ、オーリィ…!驚くじゃないの!」
「あ、ご、ごめん…!」
は胸を抑えて、僕を睨んでいるが、僕はの服装や髪型を見てドキっとした。
(やっぱり…どこかに出かけるんだ…)
は黒の少し肩の開いたワンピースを着ていて髪型も、服装に合わせてかアップにして巻いている。
凄く大人っぽくて僕は一瞬見惚れてしまった。
そして、ハっと我に返る。
いけない、いけない!見惚れてる場合じゃない!
これは絶対にデートに行く格好だ…
メイクだって、しっかりしてるし…間違いない。
僕はリビングへと戻って行くの後からくっついて行って、聞いてみた。
「ね、ねぇ、」
「何?また一緒にランチでもって言いに来たの?それなら今日は無理。もうすぐで出かけるから」
「ち、違うよ!って…そのつもりだったけどさ…。で、出かけるって…どこに行くの?そんな格好して…」
「どこでもいいでしょ?何でオーリーに言わないといけないの?」
「む…っ。そんな言い方しなくていいだろ?」
僕がそう言っての腕を掴むと、はちょっと困った顔で振向いた。
「ごめん…。だってオーリーに言ったら…」
「え?俺に言ったらって…?」
「ううん。何でもない」
はそう言ってキッチンに行くとアイスティーをグラスに入れて持ってきた。
「はい、オーリー」
「あ…ありがと…」
はソファーに座ってアイスティーを飲んでいる。
僕も隣に座って一口アイスティーを飲むと、もう一度だけ聞いてみた。
「ねぇ、…」
「ん?」
「……ほんとに…どこ行くの…?」
「どこって…」
「ひょっとして…デート…?」
僕がそう言うと、は明らかにドキっとした顔で僕を見た。
それには胸がズキンと痛むのを感じ、僕はちょっと息をついた。
「やっぱり…そうなんだ…」
「あ、あの…そうね…。デート…かな?」
は気まずそうな顔で視線を外した。
「誰?」
「え?」
「相手…」
「あ…ああ…あの…マイケル…」
「…ジャクソン?」
「オーリー?!ち、違う…っ」
「じゃあ…ジョーダン」
「ち、ちが…あのね、オーリィ…っ」
「じゃあ、誰さ?」
僕は聞きたくないけど聞きたくて、少しだけスネた顔でを見た。
はちょっと俯くと、
「…オーエン」
と一言呟き、僕は驚いた。
「え?!オーエン?!マイケルって…マイケル・オーエン?!あの?!」
「う、うん…」
「イングランド代表の?!」
「そ、そう…」
僕は本気で驚いた。
マイケル・オーエンだって?!
あのベッカムと人気を二分にしてる、若手の中でも実力、名声と共にナンバー1と言える男だ。
「な、何でオーエンと?!知り合いなの?」
「知り合いってほどじゃ…。この前取材に行った時に何度か話して…編集長とスタッフで一緒に食事したくらいかな…?」
「そ、それで?口説かれたの?!」
「く、口説かれたわけじゃ…。ただ電話番号聞かれて…」
「教えたの?!」
「わ、私は教えなかったわ?でも…編集長が一流選手に恥をかかせるんじゃないとか言って勝手に私の番号を教えたの…」
「はあ?あのセクハラ編集長?!くそぅ…やっぱり、この前一発殴っといたら良かった!!」
僕は、あの編集長のニヤケた顔を思い出し、ムカムカしてきた。
「それで?オーエンから電話来たとか…?」
「うん…。夕べ…。その後…計ったように編集長から電話が来て…。その事を話したら行って来なさいって…」
「何で?嫌なんだろ?なら無理に行く事はないじゃないか」
「そ、そんな事は…嫌ってほどじゃないの…」
「えぇ?!そうなの?」
「うん…まあ…オーエンは素敵な人だし…?」
はちょっと笑って言ったが、僕は、その一言で暗闇に真っ逆さまに落ちていった。
「ふぅん…。、ああいう男が好きなんだ…。まあね、彼、かっこいいしね」
「そんなんじゃ…。ただ…ちょっと聞いてみたいこともあったし…取材もかねて…」
「取材って!、今オフだろ?どうしてオフにまでデートまがいの事して仕事しなくちゃいけないんだよ?」
「だって…!この前は答えてくれなかったから…二人なら答えてくれるかと思ったのよ…。
いいでしょ?私の仕事にまで口出さないで…っ」
は、そう怒鳴ってソファーから立ち上がると、
「そろそろ迎えに来るし…。私、もう出かけるから…」
と一言言った。
僕は頭にきたけど、何を言っても今はケンカになりそうだと思い、素直に立ち上がると、
「あっそ。僕も帰るよ。アイスティーご馳走様!」
と言い捨ててバンっとの家を飛び出した。
何だか頭に血が上ってカッカッカッカしてくる。
くそ!何で、こうなるんだよ…っ!俺だって解ってるんだよ!
の仕事に口を出すべきじゃないって事くらい…っ
だけど…それがデートまでするとなると…凄く…
僕は自分の家の前で立ち止まった。
「辛いよ……」
そう呟いて大きく息を吐き出した。
そしてドアを開けようとノブに手を伸ばした瞬間…
バン!!
ゴンっ!!
「ぶ…っ!」
「あら、オーランド、もう戻ったの?」
僕がツーンとする鼻を抑えつつ睨んだ先にはサマンサが澄ました顔で立っている。
「サ、サマンサ!!何だよ、今のわざとだろう!」
「あ〜らそんなわけないじゃない。って言うか、そんなとこにボォ-っと立ってるアンタが悪いんでしょ?ウドの大木みたいに!」
「何おぉ?!人が傷心で戻って来たって言うのに、何だよ、この仕打ち!」
僕は頭に来て、ぷんぷん怒りながら、サマンサを押しやると玄関へと入った。
すると、いきなり頭にボスっと何かを被せられ、手には何かを握らされた。
「な、何?母さん」
目の前には嘘臭いくらいの笑顔で僕を見ている母さんがいた。
頭に被らされたのは僕の帽子、そして手に握らされたのは僕のサングラスだった。
「それ着けてちゃんを尾行しなさい?」
「…はっ?!」
僕は母さんの言葉に耳を疑った。
だが、母さんは至って真面目な顔で、
「は?じゃなくて!あんたが、そんな顔で戻って来たんだもの。ちゃん他の男とデートだったんでしょ?
だったら後をつけてちゃんが危なくないように見張ってこいと言ってるの!」
「ちょ、ちょっと待ってよ、母さん…!尾行なんて…無理だよ…俺に出来ると思う?落ち着きのなさは天下一品だよ?!」
自分の事をそんな風に認めるのは心外だったが僕は母さんの言葉に動揺していたからか、つい口から出てしまった。
それには母さんも目を丸くしていたが、またしてもサマンサが僕の神経を逆撫でした(!)
「アッハッハ!よく解ってるじゃない、オーランド!自己分析できるなんてたいしたもんよ?!あ〜おかしい!」
「むっ。うるさいよ、サマンサ!自分だって落ち着きないってロンドンの学校でも先生たちに言われてただろ?!」
「ぬ…っ。そ、そんな古い話を…っ!」
サマンサもムカっとしたのか顔を顰めて僕を睨んでいる。
だが、そこに母さんの声が響き渡った。
「ストーーーーーップ!!ケンカはそこまで!と・に・か・く!オーランドはサッサと用意しなさい!車使っていいから!」
「えぇ…?!ほんとに尾行させる気?」
「あら、やなの?」
母さんは氷の微笑のシャロンストーンばりな冷たい視線を僕に向けて一瞬背筋が寒くなった…。
「……行きます」
「宜しい。ま、ちゃんと結婚したくないなら行かなくてもいいのよ〜?オーランド」
これまた怖いほどの笑顔で僕に微笑みかける母さんを見て、僕はACTRESSになった方がいいんじゃないか?とまで思った。
しかし…と結婚したくないなら…なんて言われて僕が、はい、そうですかと引き下がるわけには行かない!
オーエンが何だ!イングランド代表が何だ!
俺は不屈の闘志で、オーエンに挑み、そしてにゴール(結婚)してみせる!(何のこっちゃ)
僕は目の中に炎が燃えるのを見た気がした(!)(ありえない)
「母さん、俺、行って来る!そしてオーエンに勝ってくるよ!」
僕がガッツポーズで、そう言うと母さんとサマンサが目を丸くして驚いた。
「「えぇぇ?!ちゃんのデートの相手って・…マ、マイケル・オーエンなの?!」」
「え?そうだけど…言わなかったっけ?」
僕がキョトンとして二人を見ると、二人は怖い顔で僕を睨んできた。
「「聞いてないわよ!」」
「ぬ…。な、何だよ…。二人して…。まさか…オーエンならいいって言い出すわけじゃ…」
「何言ってるの!手強い相手だけど負けちゃダメよ!」
「当たり前じゃない!!」
「「ん?」」
母さんとサマンサは同時に叫んで顔を見合わせている。
「あら、サマンサ…。あなたオーエンにちゃんを奪われてもいいって言うの?」
「何よ、私がフットボールの大ファンなの知ってるでしょ?もしちゃんとオーエンが上手くいけば他の代表選手を紹介して貰えるかもしれないじゃない?」
「あんたねぇ…」
母さんも、さすがに呆れたのか溜息をついている。
僕に至ってはサマンサの戯言なんて聞いてる時間すらもったいないので、すぐに出かける準備をした。
帽子を深く被ってサングラスをキッチリつけると、(余計に怪しいと思うが)車のキーを手にして玄関へ戻った。
「じゃ、母さん、行って来るよ」
「ええ、運転気をつけてね?」
「ありがとう、母さん!」
「車、買ったばかりなの。傷つけちゃ嫌よ?」
(…そっちかい!!)
僕は心の中で突っ込みつつ、ドアを開けようとした。
すると、
「ああ、ちょっと待って!オーランド!」
「…何?まだ何か…」
「いいえ、サマンサも一緒に連れてって」
「「はぁ?!」」
僕とサマンサが同時に抗議の声を上げた。
「な、何で私まで行かないといけないのよ、母さん!!」
「さっき聞いてたでしょう?オーランドは、本当に落ち着きないから…もしちゃんとオーエンが何かあったのを見た場合、
大騒ぎして見つかりかねないわ?だからサマンサも一緒に行ってオーランドをフォローしてあげてちょうだい」
「ちょっと母さん、フォローって何だよ?それにとオーエンが何かあったらって…何かって何?!不吉な事言うなよ!」
「うるさいわねー!目先の事だけじゃなく先々の事を考えて行動しないと勝負に勝てないのよ?何事もね!」
キッパリ、そう言う母さんが、一瞬、フットボール代表チームの監督に見えた…
「ほら、ぐだぐだ言ってないで、あんたも用意しなさい!地味な格好で行くのよ?いつもの派手な服装はダメだからね?」
「わ、分かったわよ…。もう…何で私まで…」
サマンサはブツブツ言いながら、部屋で着替えてくると、何だか色紙を持って下りてきた。
「サマンサ…。何だ、それ?」
「いいでしょ!万が一の時のために持ってくだけよ!ほら、サッサと行くわよ?!
もうそろそろ迎えに来るんじゃないの?オーエンが♪」
(何だか最後の"オーエンが"と言った時、語尾が上がったのは僕の気のせいだろうか…)
かくして探偵も真っ青、姉弟二人の尾行が始まろうとしていた―
僕とサマンサは母さんの愛車、ベンツの中で、じぃっとオーエンがを迎えに来るのを待っていた。
「はぁ…まだかなぁ…」
「迎えにくる時間とか何で聞いてこないのよ…っ」
「あの時は、こんな事するとは思ってなかったんだよ…っ」
僕はちょっと口を尖らせて文句を言ったが視線だけはの家に向けたままだ。
「何だかワクワクするわね?こういうの。本当に探偵の気分!」
「…呑気だな」
「あら、少しは楽しまないとね?」
サマンサはニヤニヤしながら僕を見ている。
僕は気付かないフリをして視線を動かさずにいると、うるさいエンジン音が聞こえてきて一台のポルシェがの家の前に止まった。
「あ…来た…」
「キャ!オーエン?!」
サマンサは僕の顔を押しのけ身を乗り出している。
「ぃたたっ。どけろよ、サマンサ!」
「何よ、少しくらい我慢してよね?!オーエンが間近で見れるチャンスなんだから!」
「そんなに好きならに頼んで誰か紹介してもらえよ!」
「嫌よ!そんなを利用するみたいじゃないの。それに紹介して貰うって事は、
だって選手と接触してプライベートな話をしなくちゃならないのよ?あんた、それでもいいわけ?」
サマンサに、そう言われて僕はぶるぶる首を振った。
「ダ、ダメだよ、そんなの…ぶ…っ」
「キャァ、オーエンだわ!」
サマンサは僕の顔を更に押しやり上に圧し掛かってきた。
「うぐぐ…どけろよ、サマンサ…っ。見えないだろぉ?」
「あ、あら。ごめんなさい?」
サマンサは舌を出して僕の上から避けたと同時に僕もオーエンの方に視線を向けた。
すると丁度が家の中から出てきて、オーエンが車のドアを開けてあげている。
「む…っ。紳士ぶっちゃってさ…っ。もだよ…。あんな奴に笑顔見せるなんて…」
「何言ってるの。彼は紳士なのよ、紳士!はぁ〜本物は素敵ねぇ…。見た?あの笑顔!ゴール決めた時と同じっ」
何だかウットリとしているサマンサを尻目に僕はオーエンが車に乗り込んだ瞬間、車のエンジンをかけた。
そしてポルシェが動き出した途端に、ベンツも家の駐車スペースから、ゆっくりと出して少し間を空けてからついていく。
「ちょっと見失わないでよ?ポルシェは早いんだから!」
「解ってるよ、うるさいなぁ…!だいたいサマンサの為の追っかけじゃないんだからな?!」
僕は文句を言いつつ運転に集中した。
(ったく…。探偵まがいのことして、もしにバレたら、それこそ本気で嫌われそうだ…)
そんな不安も一瞬、頭を掠めた。
だけど、やっぱり心配は心配だ。
フットボールの選手は女に手が早いと言うし…。
僕は離されないように思い切りアクセルを踏んだ。
暫く車を走らせていくと、ポルシェは、ある映画館の駐車場に入って行った。
「ここ…」
「あら、あんたの映画じゃないの。これ見る気かしら?って言ってもちゃんは、あんたの映画見たがらないものねぇ…」
僕はサマンサの言葉に心の中でニヤっとした。
ふんっ。は見てくれてるんだよ!でもサマンサには教えてやらないぞ…っ。
僕も駐車場に車を入れて、ポルシェより少し離れた場所に車を止めてから見えないように体を低くした。
「え…あ、あの…この映画見るんですか?」
「うん。凄く面白かったってチームメイトが話してたんだ。あ、嫌だった?」
「え?あ…いえ…」
「そう?じゃ、行こうか」
オーエンは先に車から降りて助手席側までくるとドアを開けてくれた。
「あ、ありがとう、ミスター・オーエン」
「ああ、それやめてよ」
「え?」
「その"ミスター・オーエン"ってのさ。マイケルでいいよ?」
「で、でも…」
「仕事みたいで嫌なんだ。今日はデートだろ?」
彼はイギリス中の女性ファンを魅了している笑顔を見せて、そう言った。
私はちょっと照れくさかったが、仕方なく頷き、車から降りた。
オーエンは嬉しそうに微笑むと、私の手を引いて歩きだし、私は、その手を振りほどく事も出来ないまま彼について行く。
はぁ…さりげなく手を繋ぐところなんて、さすが慣れてるって感じ…。
何も言う暇がなかったわ…
私は呆気にとられつつオーエンの横顔を見上げた。
彼は嬉しそうに、チームメイトから聞いた話をしていて、その顔は試合の時とは、全く違う。
そして私が取材してる時とも違う。
本当の素顔のような感じだった。
やっぱり会話も上手いし内容も豊富だし年下には見えないわねぇ…
オーリーよりも落ち着いてるんだもの…。
私はオーリーが聞いたら、きっと口を尖らせて怒り出しそうな事を思いながら映画館へと入り、オーエンが取ってくれた指定席へと座った。
「何か飲み物を買ってくるね?何がいい?」
「あ、じゃあ…アイスティーを…」
「OK!ちょっと待っててね?」
オーエンはニッコリ微笑むと、ロビーの方に歩いて行った。
(はぁ…。やっぱり、こうして二人で慣れてない人といるのは緊張して疲れちゃうなぁ…)
そんな事を考えながら、ちょっと息をついた。
ここのとこ、男の人と二人きりで出かけるなんてオーリー以外いなかったし。
オーリーは昔から知ってる仲だから凄く一緒にいて楽だし、この前のデートの時もそうだった。
オーリーも、かなり慣れてるように思えるけど、それは彼も業界人の仲間入りをしたんだから…当たり前なんだろうな。
それでも私に気を使わせないようにしてくれてたっけ。
そう言えば…今朝はケンカになっちゃったけど、オーリーはどうしてるかな。
まだ怒ってるんだろうか…。
オーリーに仕事の事を言われて、つい売り言葉に買い言葉で、あんな言い方しちゃった…。
オーリーなりに心配してくれてるんだって解ってるんだけど…。
今…何してるのかなぁ…帰ったら謝りに行こうかな…
まさかサマンサと尾行をしてきてるとは思いもよらなかった私は、こんな事を考えて軽く溜息をついていた―
「くそぅ…。オーエンの奴、の、て、手なんて握りやがって…っ。もだよ!振り払えばよかったのにっ」
「ちょっとオーランド!あまりジロジロ見たら見付かるわよ?!」
サマンサに頭をぐいっと押されて僕は、ぐぇっと蛙のような声を出した。
とオーエンは指定席へと行ったが、僕とサマンサは突然の事だった為、普通の席になってしまい、前から後ろを見る羽目になった。
だいたい、この映画に出てるのに何で僕が普通席で見なくちゃならないんだ!
と言うよりも何では他の男と僕の映画を見るんだっ。
これは僕がと一緒に見たかったのに…っ!!
あいつ…暗い映画館にを連れ込んで何かいやらしい事をする気じゃないだろうな…っ
僕はそう思えば思うほど気が気じゃなくなる。
僕だって、この前と映画を見に行った時、手を繋ごうとしただけで怒られて悲しい思いをしてるんだ。
どうせ、あいつだって同じだよっ。
僕は、そんな事を考えながら一人でオーエンを待つをチラチラと見ていた。
「ちょっとオーランド、何か飲み物買って来てよ」
「はあ?自分で行けよ!」
「嫌よ。こういう時は普通、男の仕事でしょ?それに、あんたの映画見てやるんだからね?
ほら、サッサと買って来て!私、アイスコーヒーとポップコーンねっ」
サマンサは手を僕に向けて、シッシとやりながら、を監視している。
僕はムっとしつつも仕方なく席を立ち、に見付からないようにコソコソとロビーに向かった。
ロビーは混雑していて何人もパンフレットを持った人達がロビーのソファーに腰をかけて何やら話している。
前のを見終わった人達なのだろう。
僕はやっぱり自分の出てる映画の評判が気になり、何気に聞き耳を立てていた。
「ジョニー、カッコ良かったわね〜!ジャック最高だわ?」
「ほんと!でもオーランドも、レゴラスとは違った雰囲気の役で可愛かったわ〜!」
「オーランド、今はロケ行ってるのかしら?」
「ああ、何だかブラッドと共演するって雑誌に書いてたわね?凄い大作ばかり決まって凄いわよね〜」
「案外、もうロケ終ってロンドンに帰ってたりしてね?」
「あら、でも実家がここなんだから、まずは実家に帰って来てるかもよ?」
「嘘。もしそうなら、その辺で会えないかしら〜っ。まさか自分の映画は観に来ないわよね?」
「どうする?実は来てたら!彼女なんかと一緒にいたら私、ショックで寝込んじゃうわ?」
「うわ、やめてよ。聞きたくないわ!」
彼女達はパンフレットを見ながら、そんな事を話していて僕はさすがに照れくさくなり、そっと、その場から離れた。
実はすぐ隣に僕がいるって解ったら、どうなるんだろうな…
まあ、でも彼女と…ではなく実の姉と来てるなんてバレたくもない。
しかも好きな子のデートを監視するために尾行で…なんてさ。
情けないにもほどがあるよ、まったく…。
そんな事を思いながら愚姉のアイスコーヒーとポップコーンを買うべく、僕はドリンク&フードと書かれたカウンターに並んだ。
すると僕の数人ほど前の辺りにオーエンが並んでるのが見える。
(あいつ…。の飲み物を買いに…くそう…こっちは姉貴の飲み物を買いに来てるというのにっ)
僕はギラギラした目でオーエンの後頭部を睨んでいた。
するとオーエンは買い終わったのか手に二つ飲み物を持ち、僕の真横を歩いて行く。
そこに女の子が数人、オーエンに近寄って行くのが見えた。
「あ、あの…オーエン選手ですよね?」
「え?ああ…そうだけど」
「キャ、やっぱり!あの私達、貴方の大ファンなんですっ。サインして頂けませんか?」
その女の子達はキャピキャピと騒ぎ出し、オーエンも困った顔をしている。
「いや…今日はプライベートなんだ。だからサインはちょっと…この状態だしね?」
オーエンはそう言って両手に持っている飲み物を少しだけ持ち上げてみせた。
女の子達は少しガッカリした顔で、
「そうですか。すみません…。あ、じゃ写真だけでも…」
と何故かカメラを出して頼み出した。
それには僕も驚いたが、オーエンも驚いている。
「カメラ持ち歩いてるんだ。ま、いいよ?写真だけなら」
「ありがとう御座います!」
「やったぁ〜!」
その子達は大喜びしながら、一人一人オーエンと、2ショットを撮り始めた。
それで気が済んだのか、彼にお礼を言って中へと入って行く。
オーエンも苦笑いしながら中へと戻って行った。
ふんっ。人の映画観に来て、フットボールの選手を見つけたら、ああだもんな。
ミーハ-は困るよ、まったくっ!
なんて、ほぼ八つ当たり気味な事を考えつつ飲み物とポップコーンを買って僕もすぐに中へと戻った。
「ほら、サマンサ」
「あ、サンキュ!」
僕はサマンサに飲み物を渡して、すぐに後ろを見てみた。
すると何だか仲良さそうに話してる二人が見えて、僕は胸がズキズキと痛んできた。
こんなの…見たくなんてなかったな…。
が他の男に微笑んでいる姿や、楽しそうに話してる姿なんて…
僕には拷問に等しいよ…。
そんな事を思いつつ、場内の照明が落ちて映画が始まっても僕は後ろばかり気にしていた。
「はぁ〜噂通り面白かったね?」
「え?あ…そうですね」
「あれ?は面白く無かった?」
「え?い、いえ…そんな事ないです。面白かったです」
私は何とか笑顔を見せて、そう言うとオーエンが開けてくれたドアから車に乗り込んだ。
オーエンも、すぐに運転席に乗り込み、エンジンをかける。
「でも、映画見てる間中、そわそわしてたけど…。もしかして映画見るの嫌だった?」
「え?い、いえ、そういうわけじゃなくて…」
まさか知り合いが出てるから何だか恥ずかしくて…とは言えない。
それに…私は少し胸が痛くて息苦しさを感じていた。
最後の…オーリーが若手のACTRESSとキスをするシーンを見て…何故だか胸がツキンと痛んだのだ。
それには自分で驚いてしまった。
オーリーのキスシーンを見るのなんて初めてだったのもある。
何で、こんなに胸が痛むのかな…。
それにオーリーが凄く男っぽくてドキドキした。
私の中では、いつまでも出会った頃のままのオーリーだったから…
最近のオーリーを見てても似たような感覚になる時がある。
私、最近少しおかしい…
「?どうしたの?」
「え?」
少しボーっとしてたからか、オーエンが心配そうな顔で私の顔を覗き込んでいる。
「あ、あの…何でもないです…」
「そう?なら…いいけどさ。さ、もう夜だし食事にでも行こう」
「はぁ…」
私は頷きながら、時計を確認した。
時刻は夜の6時になろうとしている。
この分だと…帰るの少し遅くなるかなぁ…
そんな事を思いつつ、窓の外を眺めていた。
「あれ…?」
「ん?どうしたの?」
「あ…いえ…何でも」
私は首を振ってそう言ったが、気になって、もう一度窓の外を眺めてみた。
今の…車に慌てて乗り込もうとしてた二人組…。オーリーとサマンサに凄く、よく似てたんだけどな・…気のせいかしら。
それに二人とも、帽子とサングラスなんてしてたし…あの姉弟が、そんな格好で二人で出かけるはずもないものね。
私は、そう思いながら今度は流れて行く景色を眺めていた。
「早く!車出してよ、オーランド!オーエンが行っちゃうじゃない!」
「解ってるよ!だいたいサマンサがパンフレットやら映画のグッズを呑気に買ってるからだろ?!」
「仕方ないでしょ?映画見て欲しくなったんだから!ジョニーがカッコ良かったのよ!」
「ったく…。人の演技にはボロクソ言ってたクセに…っ」
僕はエンジンをかけて急いで車を出しながら、そうボヤいた。
「当たり前でしょ?どうして弟の演技を誉めなくちゃならないのよっ。それに最後のキスシーンだって、いやらしい顔しちゃって!」
「どこが、いやらしいんだよ!普通だったろ?!」
「あれがぁ?鼻の下伸びてたんじゃない?あ〜嫌だ。それにだって、きっとそう思ったわね!」
「う、うるさいよ!」
僕は顔が真っ赤になりつつ、しっかりハンドルを握った。
そう…この映画には僕のキスシーンがあった…。
は…アレを見て、どう思ったんだろう…。
ちょっと気になってしまった。
「もうっ。見失っちゃったわ?!どこにもポルシェが見当たらない!」
サマンサは窓から顔を出して、そう叫んだ。
「はあ?!何で見失うんだよ!」
「仕方ないでしょ?今の時間、道が混んでくるんだから!!」
「もぉー役に立たないなぁ!」
「何よ、あんただって…っ」
「もういいよ!それより探してて。俺は運転に集中するから!どっか行きそうな場所とかないかな…っ」
僕はを見失った焦りで思い切り溜息をついた。
ああ…ここまで来て何してるんだ、俺!
もしがオーエンに口説かれでもして迫られてたら…と思うと嫉妬で狂いそうだった。
他の男にはに指一本触れて欲しくない。
手を繋いでるのを見ただけで胸がキリキリと痛んだんだ。
それ以上は絶対に…耐えられないよ…っ
そう思いながら僕はアクセルを思い切り踏んだ―
「あ、あの…ご馳走様でした」
「いや、楽しかったよ」
家の前に車を止めてオーエンが私に微笑みながら、そう言った。
「色々と貴重な話も聞けて…これで少し納得しました」
「ああ、そんなのは別にいいけど…。でも本当に記事にはしないの?俺は別に君に書かれるならいいよ?」
「いえ…。プライベートな場所で聞いた事ですし、私が気になってただけですから」
「そう?でも、そこまで深く追求してきたのはくらいだよ?俺があの試合の後にあのパスの事を聞かれても一切答えなかったら
聞いても無駄だと思ったのか、その後は記者の人達も全く聞いてこなくなったからね」
「そうですか…。でも私は理由が気になったから…。ただ単にああいうパスを出したとは思えなかったし…」
私がそう言うとオーエンは嬉しそうに微笑んだ。
「はそういう選手の心理を理解しようとしてくれるから人気があるんだよな」
「え?に、人気なんてないですよ?」
私はちょっと恥ずかしくて顔を反らした。
それにはオーエンもクスクス笑っている。
「いや自分で気付いてないだけだろ?うちのチームの奴らもが取材に来るって聞いたら、いつも浮き足立っちゃってるしね」
「そ、そんな事は…」
「いやいや、そうなんだって。だから今日はデートOK貰ったって言ったら俺、皆に殴られそうだよ?」
オーエンはそう言って肩を竦めた。
「あ、あの…今日の事は…」
「ああ、誰にも言わないよ?それより・…こうして、また会って欲しいんだけど…ダメかな?」
「え?」
「また俺と…デートして欲しいんだ」
「―――っ」
オーエンに、そう言われて私は顔が真っ赤になった。
それだけ彼の顔が真剣で誤魔化せる雰囲気でもない。
「あ、あの私は…」
「何?恋人…いたりするの?前に聞いた時は確かいないって…」
「あ、い、いません…っ。恋人は…いないです。でも…」
「でも?」
「わ、私…ちょっと男の人って苦手で…」
「え?」
「恋人を作るのって…ちょっと怖くて…出来そうにないんです」
「怖いって…どういう事?何か過去に嫌な経験でも…?」
「まあ…そんなとこです」
私はちょっと笑って、そう言うとオーエンは軽く息をついた。
「そうか…。じゃ、無理強いはしないよ。でも…たまには会って欲しいな?俺、君といると安らぐんだ」
「え…?」
「って、そんな雰囲気があるんだよな?年上なのに年上っぽくなくて…守ってあげたくなる」
「・・・・・・・・・・っ」
(そんな事サラリと言えるのはオーリーと一緒だわ・・・っ)
私は一瞬で顔が赤くなり俯いてしまった。
するとオーエンは苦笑しながら、私の頭にポンと手を置いた。
「そういうとこ好きなんだよね?すぐに照れるだろ?だからチームの奴らも、ついからかってに過剰なスキンシップしたりするんだ」
「そ、それは私をからかって楽しんでるって事ですか?」
私はちょっと口を尖らせて、オーエンを睨むと、彼の顔が綻んだ。
「アハハ、そういう意味じゃない。皆、君が可愛いんだと思うよ?新鮮なんだよ、きっと」
「何だか…バカにされてる気がします…」
「バカになんてしてないよ?普通、選手が雑誌の記者に、あんな風に懐くなんてないんだしさ。にだと素直に心情が話せるって奴、多いしね」
「そういう事なら…嬉しいですけど」
私もちょっと笑ってオーエンを見ると、ふいに頬に口付けられて、私は驚いて思い切り後ろのシートに体をつけた。
「あ、あの…っ」
「あ…ごめん…。可愛いから、つい…。あの変な意味じゃ…おやすみのキスって事でさ?」
オーエンも少し照れたように微笑んで、
「じゃ…今日は本当に楽しかった。また…連絡するから。おやすみ」
「あ…はあ…。おやすみなさい…」
私はそう言って車を降りると最後にオーエンに頭を下げた。
オーエンはそれすらも楽しげに笑うと、窓を開けて、
「ほんと、ありがとう!おやすみ!」
と言ってエンジンをふかすと、手を振ってから走り去って行った。
「ふぅ…」
私はちょっと気疲れして溜息をつき、自分の家の方に歩きかけ、ふとオーリーの家へと視線を向けた。
リビングの電気はついてるが、オーリーの部屋は暗いままだ。
どこか…出かけたのかな…
もし寝る前に帰って来たら・…今朝の事、誤りに行こう…
私はそう思いつつ自分の家へと入って行った。
その頃、探偵二人組は…
あちこちとオーエンを探し回ったが結局見つけられず、疲れ果てて家へと向けて車を走らせていた。
「サマンサがモタモタしてるから見失ったんだぞ?!もしがいやらしい事されてたらサマンサのせいだからな!」
「何よ!あんただって焦りすぎなのよ!むやみやたらに車を飛ばすから!もし追い越してたらどうすんのよっ」
「うるさいよ…っ」
僕は言い合うのすら疲れて、そう言うと家
の前に車を止めた。
「はぁ…やっとついたぁ…」
僕は思い切り息を吐き出しハンドルに額をつけた。
するとバンバンとサマンサに背中を叩かれ、ムっとして少しだけ顔を上げる。
「痛いな!何で叩くんだよ!」
「ちょ、ちょっと帰ってる!」
「えぇ?!」
僕はその言葉に驚き、思い切り窓から顔を出そうとして、窓が閉まったままなのを忘れていた(!)
ガンっ!
「ぶ…っっ!」
「キャ八ハハ!!あんたバカじゃないの!」
追い討ちをかけるようにサマンサの馬鹿笑いが聞こえて来て、僕はムカっとくるも、そこは我慢して今度はドアを開け外へ出る。
すぐにの家を見るとリビングに電気がついていた。
「ああ…帰ってる…っ。よ、良かったぁ…。どこかに連れ込まれたんじゃないかと思ったよ…」
そんな事を呟き、その場にしゃがみ込んだ。
そこへ母さんが出てきた。
「ちょっと二人とも何してたの?」
「あ…母さん…。何してたって尾行に決まってるだろ?」
僕は少し口を尖らせて、そう言えば、母さんは呆れたように肩を竦めた。
「何言ってるの…。どうせ見失ったんでしょ?さっきエンジン音がして窓から見てみれば
は無事に帰って来たのが見えたのよ。なのに待てど暮らせど二人は帰って来ないし…全く尾行させた意味がないじゃないの」
「だって…」
「いいから。早くちゃんの様子伺ってきたら?」
「え…?」
「何よ、今日のこと聞かなくていいの?」
「でも…今朝もケンカしたばかりだし…いいよ。が無事に戻って来てくれてるんだしさ…俺、疲れたからシャワー入って寝る」
僕は重い体を何とか立たせると、ゆっくりした足取りで家の中へと入って自分の部屋に向かった。
後ろで母さんの呼ぶ声が聞こえたが、今の僕にはに会いに行く元気はない。
どうせ会いに行って、今日の事を聞いたって、また怒られるだけだ。
「はぁ…何だか疲れた一日だった…」
そう呟きながら二階のバスルームへ入り、素早くシャワーを浴びた。
(もう、このまま寝ようかな…)
バスローブに着替えて、頭をガシガシ拭きながら部屋へ戻ると、電気をつけた。
窓が朝のまま開けっ放しになっていてカーテンが揺れている。
ああ…今朝は幸せな気分だったのに。
結局、とはケンカしたままで、オーエンとのデートも途中で見失ってしまった。
何だか凄く胸が痛いし…。
僕は思い切り溜息をついてバスタオルをポイっとソファーの上に放り投げた。
これが見付かると、母さんに、「濡れたタオルを、そのまま置かないのっ」 とか何とか怒られるんだけど…もういい。
洗濯物置き場に行くのも面倒くさい…。
僕は、そのままベッドへダイヴして目を瞑った。
その時、かすかに名前を呼ばれた気がして、パチっと目を開く。
ん?気のせいかな・…
何だかの声で、"オーリィ…"って聞こえた気がしたんだけど…
の事ばかり考えてるから幻聴かもしれない…
そう思って、また目を瞑ろうとした時―
「……オーリィ…?いるの?」
今度はハッキリ聞こえた。
僕はガバっとベッドに起き上がると、勢いよくテラスへと転がり出るように飛び出した。
「あ…オーリー」
「…」
テラスへ出ると、も向かいのテラスへと出ていて僕に微笑んでくれた。
僕は、その笑顔に胸が熱くなるのを感じ、同時にホっとした。
「あの…寝てた?」
「え?ああ…いや…シャワーから出て、ちょっと寝転がってただけ」
「そう…」
「うん…」
何だか会話が続かなくて、僕はちょっと頭をかきながら、チラっとの方を見てみた。
するとも何だか気まずそうな顔で視線を反らしている。
「「あの…っ」」
二人同時に声をかけてしまった。
「あ…何?」
「ううん…からでいいよ?」
「いいわよ…オーリーから言って?」
「いいから、が先に言ってよ。…何?」
僕がそう言うとはちょっと俯いてから、すぐに顔を上げた。
「あの…今朝の…事なんだけど…」
「え?今朝…?」
「うん…。あの…オーリーは心配してくれたのに…あんな言い方しちゃって…ごめんなさい…」
「え…?」
僕は、まさかの方から謝ってくるとは思ってなかったので驚いてしまった。
するとは恥ずかしそうに僕を上目遣いで見て、
「あの…怒ってるよね…?」
と聞いてきた。
その顔は僕の理性が吹き飛ぶほどに可愛くて、気付けばテラスの淵に足をかけていた。
「え?ちょ…オーリー?!」
は僕が何をするのか解ったのか慌てて少し後ろへと下がった。
僕は、いつもの様に身軽にポーンとの家のテラスへと飛び移り無事に着地すると、すぐにを抱きしめる。
「キャ…っ。オ、オーリ…っ」
「ごめん…」
「え?」
「…って俺も同じ事を言おうとしたんだ…さっき」
「ど、どうして…?」
「だって…の仕事の事にまで口を出しちゃったからさ…。俺だって自分の仕事の事を色々言われたりしたら嫌だし…。
なのにには、自分がされて嫌な事をしちゃったから…。ほんと、ごめん…」
僕は、そう言って更にギュっとを抱きしめた。
「あ、あの…も、もういいから…」
「ほんと…?」
「ほ、ほんと…。だから…あの…離してくれる…?」
「やだよ…。の体温、やっと感じる事が出来たのに…」
僕は少しだけ体を離し、の顔を覗き込むと、すでに彼女の顔は真っ赤になっている。
「今日…デートどうだった…?」
「え?あ…まあ…楽しかったわ…?」
「そう…。何か…されなかった?口説かれたりは…」
「だ、大丈夫…」
「ほんと?」
「ほ、ほんと」
「フットボールの選手って手が早いんだろ?ほんとに何もされてない?」
確めるように、そう聞くとは少しだけ視線を反らしたのを僕は見逃さなかった。
「な、何かされたの?!」
「え?さ、されてないってば…っ」
「だって今、視線反らしたよね?!まさか…キ、キスされた…とか?!」
「ち、ちが…頬に軽くされただけ…あ…」
思わず口を滑らしてしまったと言うような顔では慌てて俯いてしまった。
僕はの頬に、あの男がキスしたかと思うと嫉妬の炎が胸の奥から溢れてくる。
「ほ、他には何もされてない?!」
「さ、されてない…っ」
「ほんとだね?」
「う、うん…」
「良かった…」
僕は少しだけホっとしての頭に頬を寄せた。
「あ、あの…オーリー、だから…離して…?」
「えぇ…?やだよ…、もう少し、このままがいい」
「こ、このままって、だって…」
「今日は一度もに触れてないから禁断症状が出てきて困ってたんだ…。だから、もう少し…このままでいて…?」
僕がそう言うとは諦めたのか体の力を抜いたようだ。
暫く黙ったまま僕はを抱きしめていた。
周りは静かで二人の心臓の音だけ感じられる。
トクン…トクン…っとの心臓音が心地よく響いて来て、その音でさえ愛しいと思う。
そう思った瞬間、頭で考えるより先に体が動き、の細い腰を強く抱き寄せていた。
「ちょ…オーリィ…?」
「ん?」
「もう…いいでしょ?」
「ダメ…まだパワー不足…」
「で、でも…こんなとこ、ソニアおばさんとか、サマンサに見られたら…」
「別にいいよ。母さんは喜ぶだけだし…。サマンサには飛び蹴りくらいはくらうかもしれないけどさ」
僕がちょっと笑って、そう言うとも小さく噴出した。
「またオーリーの体にアザが出来ちゃうよ…?」
「いいんだ。と、こうしていられるなら…」
「オーリィ…」
「俺は病気だからね?がいないと寂しくて発病しちゃうんだ」
「何言って…」
「俺…本気だよ?」
を強く抱きしめ、そう呟くと、かすかにの体がピクっと動いた。
僕は、ゆっくり体を離すと、の顔を見つめて、もう一度、何度も言い続けてきた言葉を呟いた。
「…俺は…ずっと…の事が好きだ。その気持ちだけは変わらないんだ」
「オーリィ…」
「君が…好きだよ?」
僕はそう言って、の頬を優しく手で包むと、ゆっくりと顔を近づけていった。
は固まってしまったのか、抵抗することなく、そのまま大きな瞳を見開いて僕を見ている。
僕は、そっと瞳を閉じて、の唇に自分の唇を近づけ、もう少しで触れそうになった時…
「オーランドォーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
「「……………っ?!」」
そのゴジラのような叫び声に僕とはビクっとして体を慌てて離した。
すると僕の部屋のテラスからサマンサが鬼のような顔で、こっちを睨みつけている。
「な、何だよ、サマンサ!勝手に人の部屋に入ってくるなよ…っ!」
「うるさーい!あんた何してんのよ!落ち込んでるかと思って、あんたの好きなチョコレートケーキを持ってきてやったのに!
さっきまでの落ち込みは嘘だったの?!すぐテラスから忍び込んで、こ、事もあろうにに、い、いやらしい事…っ!」
「し、忍び込んでなんかいないって!それに、いやらしい事って、キスは愛の誓いの為だよ!」
「愛ですってぇ?それじゃあ、も、あんたの事が好きだっていいたいの?!」
「そ、それは…。ど、どうなの??」
「え…え?!」
突然、にふったからか、は驚いている。
「俺の事、好き?!」
「そ、それは…」
「今、俺とキスしてもいいって思ってくれたんだろ?!」
「オ、オーリィ…っ」
僕が、そう聞くとは顔を真っ赤にして、
「し、知らない!」
と呟くと、部屋の中へ入ってしまった。
「あ、ま、待ってよ、…!」
僕がを追って部屋に入ろうとした時、後ろで、「とぉ!」 と掛け声が聞こえて、突然背中に重たいものが降ってきた(!)
ドシーンっ!
「ぐぇ…っっ!!」
俺はその場に倒れ、またしても蛙が潰されたような声を上げた。
「行かせないわよ?オーランド!サッサと自分の部屋に戻りなさい!」
「ぐぁ…お、重いよ…サマンサ…っっ!!お、俺の…潰れちゃう…」
一箇所、凄く痛い場所があり(!)僕は切羽詰ってギブ〜っと叫んだ。
するとサマンサは僕の腰の辺りにまたがり(女のする事かね)ケラケラ笑いながら、
「あんたが素直に部屋に戻るって言うならよけてあげるけど?」
と偉そうな事を言ってきた。
だが僕のジュニアは限界で(!)仕方なくサマンサの言う事に頷いた。
「も、戻るから…は、早くよけろって…っ。じゃないと…俺との未来の子の命が…っ」
「はあ?まだ、そんなアホなこと言ってるの?!」
「う、嘘、嘘…!避けてください、お姉さまぁ〜〜!!」
僕がそう叫ぶと、サマンサは、やっと、その重たいアイアンバディーを僕の腰からよけてくれた。
僕は力尽きて暫く立ち上がれず、その場にうつ伏せのまま倒れていると、いきなり首根っこを捕まれた。
「うぐ…っ」
「ほら!帰るわよ!サッサと立って、自分の部屋に飛び移りなさい!」
「わ、解ってるよ…っ!」
僕は半ばヤケクソで立ち上がると、最後にの部屋の方を見てみた。
するとはカーテンの隙間から、こっちを見ていて僕が笑顔で手を振ると、何故か顔を赤くしてシャっとカーテンを閉めてしまった。
「アハハ!セクハラしようとしたから嫌われたんじゃない?!」
「むっ!セクハラじゃないって言ったろ?!それにはきっと照れてるだけだよ!」
「いいから早く飛べ!」
サマンサは僕のキュートなヒップに蹴りを入れてきた(!)(ほんと女のする事かよ)
「く…っ。ほんと凶暴なんだから!」
僕は最後の抵抗で、そう言い捨てると、すぐに自分の部屋のテラスへと飛び移った。
サマンサも、に、「騒がせてごめんね?」と声をかけ、すぐに飛び移ってくる。
僕は不貞腐れてベッドにダイヴすると、サマンサが部屋に入って来てニヤっと笑った。
「ま、恋は障害がある方が燃えるでしょ?せいぜい頑張ってね?」
と言って部屋を出て行った。
僕は頭に来て起き上がると、クッションを引っつかんで投げたが、空しく閉められたドアに直撃しただけだった。
「くっそぉーーっ!!もう少しでと熱い口付けを交わせたのにっっ!!」
僕はベッドの上で、ひとしきりジタバタと暴れて枕やクッションを放り投げた。
「はあ…。は…俺のこと、ほんとは、どう思ってるんだろ…」
そんな事を呟きながら、さっきのの顔を思い出す。
さっきは…僕とキスをしてもいいって…思ってくれたのかな…。
もし、そうなら…僕は死ぬほどに幸せなんだけど…
「…好きだよ…」
僕はそう呟いて、クッションに自分の顔を埋めた。
僕の恋の病は、まだまだ続く…
―――――――――――――――――――――――――――
はい、第五弾です(笑)
今回は何だかコメディ路線に走ってしまいました(苦笑)
しかもオーエン出しちゃったしぃvv
私はベッカムよりも、オーエン派なのだvv
さて彼は邪魔者になるのか、どうか…
そっちで愛が生まれたら、どうすぃよう〜(笑)(嘘です)
ほんとブルーム家(ソニアママ?)は怖いですねぇ(笑)
やっぱオーリーの突拍子もない行動は血筋なのかしら?^^;
でも、こんな家族だったら楽しかっただろうなぁ…v
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